説明

クロック情報トラックを有するパターン媒体及び該媒体とクロック再生ヘッドを搭載した磁気ディスク装置

【課題】パターン媒体におけるビットパターン配列への記録タイミング同期を高精度に行う。
【解決手段】パターン媒体34上にクロック信号を発生するためのクロック情報トラック13を配置し、これをクロック再生ヘッドで再生した信号を記録電流反転タイミングの基準として用いる。クロック信号トラックから再生されるクロック信号は、ディスク装置におけるスピンドルモータの回転ムラを反映しており、これをトリガーとして用いることによりパターン媒体の有効領域の配列と記録磁界極性反転のタイミングを高精度にリアルタイムで同期をとる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超高密度磁気記録技術におけるビット領域画定型の記録媒体即ちパターン媒体及びこれを用いた磁気記録再生装置に関わる。
【背景技術】
【0002】
情報処理技術の発達に促され、様々な分野でディジタル化が急速に進行しつつある。従来からハードウェアの代表格であったパーソナルコンピュータやサーバに加え、家電・オーディオ・医療機器などでも大量のディジタルデータを貯える必要性が高まってきた。これら膨大なデータを蓄えるため、不揮発性ファイルシステムの中核である磁気ディスク装置(HDD)はこれまでにも増して急速な大容量化を求められている。磁気ディスク装置の大容量化とは、面記録密度すなわち媒体上に記録するビット密度をより高めることを意味する。
【0003】
現在実用化されているHDDでは、面内記録・垂直記録いずれの記録方式においても強磁性多結晶薄膜からなる記録媒体が用いられている。図1は、従来の磁気記録媒体における記録状態の模式図である。従来の多結晶薄膜は高い一軸磁気異方性をもつ磁性粒子101と、それを取り囲む非磁性体102からなるのが一般的である。情報を記録するための基本操作は、記録媒体上の任意の位置に局所的な磁界を印加し、磁化極性を適当なタイミングで反転させることで磁化がほぼ180°変化する境界(磁化遷移103)を形成することであり、この磁化遷移103をディジタル情報の1に対応させている。また、この磁化遷移103付近における漏洩磁界分布の空間変化を適当な磁界センサで検出することがデータ再生に相当する。実際には、この記録再生動作の前後に符号化・復号化などの処理も含めてHDDにおける情報の入出力が行われている。さて、記録密度とはすなわち磁化遷移103を単位面積内にいくつ書き込めるかであり、これを高めるには磁化遷移103の一つひとつをいかに急峻かつスムースに形成できるかが最も重要となる。この磁化遷移103は通常、図1に示したように、結晶粒界に沿ったジグザグのミクロ構造を有している。そしてこのジグザグの平均的な幅(遷移幅)が、いわば磁化遷移の急峻性を表しているということができる。この幅が広すぎる場合、ビットの間隔を詰められないために記録密度が増えないというだけでなく、再生信号に大きなノイズが加わるので、低いビット誤り率(BER)での安定した読み取りができないという問題がある。それゆえ現行の磁気記録システムにおいては、遷移幅が記録密度を制限する最も大きな要因のひとつとなっている。
【0004】
磁化遷移103の幅を狭くするには様々な手段が考えられる。特に媒体材料からのアプローチとしては、磁性粒子101を小さくすることでジグザグを縮小することが第一に重要である。しかしながら磁性粒子101を過度に微細化すると、磁気異方性エネルギー(磁化を一方向に向けておこうとするエネルギー)に対する熱エネルギー(磁化を不安定化させるエネルギー)の大きさが無視できなくなり、記録したビットを長期間(通常約10年)保存しておくことが困難となる。また、これを防ぐために磁性粒子101の磁気異方性エネルギーを大きくしすぎると、磁気ヘッドからの記録磁界による磁化反転が困難になり、情報を書き込むことが出来なくなってしまう。
【0005】
この問題を解決するため、いわば究極の磁気記録媒体として考えられているのがパターン媒体(Patterned Media)である。これは図2のように、ディスク面上にデータを記録しうる領域(以下、有効領域21と呼ぶ)と記録不可能な領域(以下、無効領域22と呼ぶ)を、装置へ組み込む前にあらかじめ画定した記録媒体である。パターン媒体の製法としては、何らかのリソグラフィ技術を用いることになるが、図2のように凹凸をつけることで凹部分を無効領域22にする方法以外にも、媒体記録層の一部分の磁性を変化させる(例えば組成・ないし膜構造を変化させて保磁力を小さくする)ことで実質的に無効領域22とするような作製法も可能である。このパターン媒体を用いた場合、磁気的に孤立したひとつの有効領域21そのもの、または隣り合う二つの有効領域21間の無効領域22が1ビットに対応しており、この有効領域内の磁化は磁界印加によってほぼ一斉スイッチするように材料・構造・寸法が設計されている。従ってパターン媒体における磁化遷移は自動的にこの有効領域21間に生成されることとなり、パターン形成過程の精度内で磁化遷移をいくらでも急峻にすることが可能となる。このような媒体の概念は1970年代から提案されており、多結晶薄膜媒体に対する優位性は既に明らかとなっている。
【特許文献1】特開2004−164692号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
媒体面に、データを記録しうる領域(有効領域)と記録不可能な領域(無効領域)を装置組立て前にあらかじめ画定したパターン媒体を実際に磁気ディスク装置へ適用するに当たっては大きな問題が存在し、実用化は困難と考えられてきた。その問題とは、有効領域のパターン配列への書き込みのタイミングを媒体上の有効領域の配列と同期させることである。上に述べたように、パターン媒体における磁化遷移は一つひとつの有効領域の間に生成されなければならない。このため記録磁界極性ないし記録電流極性を反転させるタイミングを適当に選ばないと、後続する有効領域の磁化をうまく反転させることができず、ビットの書き込みに失敗してしまう。一方、磁気ディスク装置において記録媒体であるディスクは、スピンドルモータの駆動により高速で回転している。このスピンドルモータの回転には常にある程度のムラ(ランナウト)があるため、外部クロックに同期した記録磁界極性反転のタイミングは有効領域の周期に対して大きく変動してしまう。このため充分小さいビット誤り率を確保することができず、パターン媒体の実用化は困難と考えられていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、パターン媒体にクロック信号を発生するためのトラック(クロック情報トラック)を設け、このトラックをクロック再生ヘッドで再生した信号を記録電流反転タイミングの基準として用いる。本発明のパターン媒体は、ユーザデータ領域とサーボ領域に加えて、ユーザデータ領域へのデータ書き込み時のクロックを与えるクロック情報トラックを備える。クロック情報トラックは、全周にわたって一定のビット長を有する。また、本発明の磁気ディスク装置は、上記クロック情報トラックを有するパターン媒体を搭載するとともに、クロック情報トラックを参照するための専用のクロック再生ヘッドを有し、クロック再生ヘッドによって再生されたクロック信号に同期して、ユーザデータ領域にデータの書き込みを行う。
【発明の効果】
【0008】
クロック信号トラックから再生されるクロック信号の波形はディスク装置におけるスピンドルモータの回転ムラに対応した位相変調を受けており、これに記録電流の反転タイミングを同期させることにより、パターン媒体の有効領域の配列と記録磁界極性反転のタイミングを高精度かつリアルタイムで自動的に同期させることが可能となった。このことにより、500Gb/inを超える超高記録密度のパターン媒体を用いた小型かつ大容量の磁気ディスク装置を低コストで実現することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を適用した具体的な磁気記録媒体及び磁気ディスク装置について、図面を参照して詳細に説明する。
【実施例1】
【0010】
図3は、本発明による磁気記録媒体の平面模式図である。記録媒体34の表面に形成された有効領域と無効領域からなるパターン群は大きく3つに分けられる。即ち、ユーザデータを記録再生するユーザデータ領域11、位置決め信号・トラック番号・セクタ番号などからなるサーボ領域12、及びクロック情報トラック33である。このうちクロック情報トラック13の基本構成は、図中右側に拡大して示すように、同一の形状即ち単一のビット長からなる島状の有効領域21とそれを取り囲む無効領域22からなる。
【0011】
図4は、これらのパターン群を有するパターン媒体の作製方法の一例を示す工程断面図である。まず、図4(a)に示すように、基板50にレジストないしSOG(Spin on glass)など、光や熱で硬化するマスク材料51を塗布する。このときの基板50は、化学強化ガラス基板でもよいし、NiPめっきを施したアルミ基板でもよい。次に、図4(b)に示すように、レーザ露光、電子線描画、または適当なモールドを用いたインプリント技術を用いたリソグラフィ工程及び現像工程を経て、このマスク材料51をパターニングする。このとき重要なのは、少なくともユーザデータを記録再生するユーザデータ領域11のパターンとクロック情報トラック13のパターンを同時に形成することである。このことにより、記録媒体の回転ムラによるユーザデータ領域11への記録タイミングのゆらぎとクロック情報トラック13から生成したクロック信号のゆらぎを正確に一致させることができ、パターン媒体への高精度な記録動作が保証される。
【0012】
次に、図4(c)に示すように、イオンミリング、反応性イオンエッチング(RIE)または湿式エッチング法を用いて基板50表面のうち上記マスクパターン開口部を適量エッチングし、図4(d)に示すように、剥離・洗浄によりマスクパターン及びその他の残存物を除去する。最後に、図4(e)に示すように、下地材料(密着性向上層及び結晶配向高上層等)を含む磁気記録材料層52及び保護膜53をスパッタリング等により成膜する。磁気記録材料層の表面には基板50表面に形成した凹凸が転写されているため、磁気ヘッドとの距離が近い凸部が実質的な有効領域21、磁気ヘッドとの距離が遠い凹部が実質的な無効領域22となる。必要であれば、凹部に非磁性体54を充填するなどの適当な平坦化工程を経ることで、図4(f)のような平滑表面を有する断面形状を形成した後に保護膜53を付着することも可能である。この場合も上記した有効領域21と無効領域22は同様である。
【0013】
図5は、こうして作製したパターン媒体を組み込んだ磁気ディスク装置の概略平面図である。磁気ヘッド31は、アクチュエータ33により、回転するディスク状の磁気記録媒体34上の任意の位置に位置決めされることでユーザデータの記録再生を行う。この磁気記録媒体34は図4に示した工程で作製されたパターン媒体であり、最外周部分にはクロック情報トラック13を有している。また本磁気ディスク装置は、クロック情報トラック13を参照するためのクロック再生ヘッド15を備えている。このクロック再生ヘッド15の役割は、図7及び図8を参照して以下に説明する。
【0014】
図6は、従来技術による通常の磁気記録媒体ないし従来のパターン媒体を用いた磁気ディスク装置の各コンポーネント間の関係を示す概念図である。磁気ヘッド31を搭載したスライダはサスペンションアーム32により支持され、アクチュエータ33によりディスク状磁気記録媒体34上で位置決めされて所望の場所で情報の読み書きを行う。磁気記録媒体34はスピンドルモータ35により回転が制御され、その上にあるサーボ領域にはあらかじめ位置を示す信号(サーボ信号)が記録されており、ヘッドが読み取ったサーボ信号を機構制御系45で処理したうえで位置決め機構36にフィードバックすることで閉ループ制御が行われている。
【0015】
外部インターフェイス44を通して入力されたユーザデータは、コントローラ43及びデータ符号・復号系42で磁気記録系に好適な方法で符号化・整形されて記録再生アンプ41において記録電流波形に変換され、この電流が磁気ヘッド31の記録素子を励磁することで磁気記録媒体34のユーザデータ領域にビットが書き込まれる。逆に書き込まれたビットから出る漏洩磁界は、磁気ヘッド31の再生素子がセンスすることで電気的信号に変換され、記録再生アンプ41及びデータ符号・復号系42で磁気記録系に好適な方法で波形整形・復号化処理を経てユーザデータが再現される。このシステムにおいて重要なことは、記録電流における極性反転のタイミングを与えるクロック信号は、コントローラ43ないしその周辺回路において独立に発生され、これが記録再生アンプに送り込まれている事である。そのため、もし磁気記録媒体34としてパターン媒体を用いた場合、有効領域のパターン配列と記録電流の極性を反転するタイミングを同期することは非常に困難である。
【0016】
そこで本実施例では、図7に示すように、クロック情報トラックを参照するためのクロック再生ヘッド15を新たに搭載し、ここからの再生信号を波形整形器49経由で記録再生アンプ41のクロック信号として供給するように構成を変更した。記録再生アンプ41では、波形整形器49から出力されるクロック再生ヘッド15からの再生信号をクロック信号とし、そのクロック信号に同期してユーザデータの書き込みを行う。但し、実際の装置組み立てにおいては、媒体上の有効領域と記録素子が最も記録に適した相対位置関係になったタイミングで記録電流を反転させられるよう、クロック信号の平均的な位相を学習機能によって最適化する工程を設けた。
【0017】
この学習機能による最適化プロセスの例を図14に示す。最初にトラック番号を指定し(S11)、記録再生ヘッドをそのトラックへセトリングする(S12)。次に、そのトラックのサーボセクタを読み込み(S13)、サーボセクタのポストアンブルに記録電流の位相を合わせる(S14)。その後、記録を行い(S15)、記録した信号を再生してエラーレートを測定する(S16)。エラーレートが基準値を超えていれば(S17の判定がNo)、記録電流の位相を変化させて(S18)、記録再生を繰り返し、エラーレートが基準値以下になるような記録電流の位相を求める。ステップ17の判定でエラーレートが基準値以下であれば、トラック番号を変えて(S19)、同様の動作を繰り返す。原則的には全てのトラックについてサーボセクタのポストアンブル信号と記録電流の位相差を最適化する作業である。但し、隣接する複数のトラックごと即ちゾーンごとに設定すればよいように有効領域パターンを作製すれば、装置組立てコストが抑制できるため、より安価な磁気ディスク装置を提供することができるようになる。
【0018】
また、磁気ディスク装置の信頼性を向上させるため、装置の電源が切れた場合、ないしは装置に別途設けられた加速度センサ等のモニタにより大きな衝撃が予想される場合などに、クロック再生ヘッド15を媒体表面から退避させる手段を設けた。具体的には、図15(a)に示すように、クロック再生ヘッド15のサスペンション・アーム16に近接してロード/アンロードピン17が配置されている。このロード/アンロードピン17は、磁気ディスク装置が通常の動作をしている時、クロック再生ヘッド15のサスペンション・アーム16から離れた位置にあり、クロック再生ヘッド15は磁気記録媒体34上にロードされている。一方、磁気ディスク装置の電源がシャットダウンされた場合や磁気ディスク装置内に設置された加速度センサが落下を検知した場合などには、図15(b)のようにロード/アンロードピン17がサスペンション・アーム16を押し上げ、クロック再生ヘッド15は磁気記録媒体34上からアンロードされる。この構成・機能により記録再生用ヘッドのみならずクロック再生ヘッド15の信頼性も確保され、本発明を適用した磁気ディスク装置はモバイル機器を初めとした様々なディジタル機器に適用する事が可能となった。
【0019】
本実施例により、ディスク34の回転ムラによる記録タイミングのずれを記録電流の極性反転タイミングへ高精度に反省させることが可能となり、パターン媒体34上の有効領域21へユーザデータのビットを高精度に書き込む事ができるようになった。図8は、こうして実現した磁気ディスク装置におけるビット誤り率の線記録密度依存性を示した図である。比較のため、クロック情報トラックを参照しない図6の装置におけるデータも示した。図8から分かるように、クロック情報トラックを参照する事でビット誤り率は2桁以上も改善し、2MBPI(MBPI:ビット数が1インチあたり10の6乗)という非常に高い線記録密度においても約10−4という実用的な特性が得られた。結果として、線記録密度2MBPI、トラック密度250kTPI(kTPI:トラック数が1インチあたり10の3乗)すなわち面記録密度として1平方インチあたり500ギガビットを実現する事ができた。これにより小型大容量の磁気ディスク装置を安価に提供することができるようになった。
【0020】
以上の実施例においては一台のHDDに複数の記録媒体を搭載しているため、各媒体面にそれぞれクロック情報トラックが形成されており、それを再生するクロック再生ヘッドも媒体面の数と同数必要であった。ここで、そのうちひとつのクロック情報トラックをひとつのクロック再生ヘッドで再生し、これを他の媒体面への記録に際しても用いることは可能である。ただしその場合は、スピンドル回転軸へ記録媒体を固定する際の精度に応じてある程度の同期誤差が生じることは避けられない。本実施例の装置においてこれを試行したところ、ビット誤り率が2倍程度悪化したが、装置の性能に大きな影響は見られなかった。
【実施例2】
【0021】
図9は、本発明のパターン媒体作製方法の他の例を示す工程断面図である。あらかじめ洗浄された清浄基板60上にまず磁気記録材料層61を成膜し、その後、実施例1と同様にマスク材料62のリソグラフィ及び現像(図9(a))、エッチング(図9(b))、剥離洗浄(図9(c))からなる工程を経て磁気記録材料層61自体をパターニングし、その後、図9(d)のように保護膜63を形成する。この場合、記録材料61がエッチングされた部分は無効領域22に、マスク材料により遮蔽されてエッチングされなかった部分が有効領域21となる。本実施例においても、実施例1と同様に、適当な平坦化工程による非磁性材64の充填を経て平滑な表面を形成した後で、保護膜63を付着しても良い(図9(e))。なお、記録材料のような磁性金属をエッチングする場合、そのマスク材料62としては、実施例1に述べたレジストやSOGなどの熱・光硬化材料に加え、Ta、Ti、TiN、アルミナ、酸化シリコンといったいわゆるハードマスクを併用することで加工精度の大幅な向上が可能になる。またこれらのハードマスク材料の一部がエッチングを施した側壁に付着することで、記録材料の腐食が防止され、長期信頼性に優れた磁気記録媒体及びHDDを製造することが可能になる。
【0022】
本実施例においても、ユーザデータを記録再生するユーザデータ領域11のパターンとクロック情報トラック13のパターンを同時に形成する。このことにより、記録媒体の回転ムラによるユーザデータ領域11への記録タイミングのゆらぎとクロック情報トラック13から生成したクロック信号のゆらぎを正確に一致させることができ、パターン媒体への高精度な記録動作が保証される。
【0023】
これまでの実施形態は、記録材料の磁気異方性の向きが基板面とほぼ平行である面内記録方式でも、磁気異方性の向きが基板面にほぼ垂直である垂直記録方式でもまったく同様である。ところで、垂直記録方式では、記録材料が高い保磁力を有するいわゆる垂直磁気記録層65と、高い透磁率を有する軟磁性裏打ち層66(SUL)及びそれらを隔てる中間層67からなる構造が知られている。この二層垂直磁気記録媒体の場合、図9(b)に相当するエッチングは、図9(f)のように、記録層65のみもしくは記録層65と中間層67のみに対して施されていることがより望ましい。
【0024】
このようにして作製したパターン媒体を用い、実施例1と同様の磁気ディスク装置を構成したところ、実施例1と比較してトラック密度を20%増大させる事ができ、1平方インチあたり約600ギガビットという高い記録密度を実現する事が出来た。
【実施例3】
【0025】
図10は、クロック情報トラックのパターン配列改良例を示した概念図である。クロック情報トラックにおける有効領域21と無効領域22の境界位置85は、製造工程の精度内でヘッド走行方向に揺らいでいる。このためクロック信号も通常のユーザデータの再生信号と同様にジッタを含んでいる。このジッタは、当然記録再生アンプ41に供給されるクロック信号に含まれてしまうため、ライト電流の同期精度を劣化させる。そこで高精度の同期を実現するためには何らかの工夫が必要となる。
【0026】
本実施例では、図10のように、クロック情報トラックを半径方向に3分割した。これを単一のクロック再生ヘッドで再生すれば、クロック信号の実質的な信号波長は変わらない。このときクロック再生ヘッドの実効的な再生トラック幅は、図10中38のようにクロック信号トラック全体の幅より小さくても、また38’のように大きくても得られる効果は同等である。すると、各々の分割された有効領域−無効領域境界(たとえば86a、86b、86c)の位置は夫々独立に揺らいでいるため、これを一つのクロック再生ヘッドで同時に参照すると、平均化の効果により結果としてクロック信号のジッタが減少する事が期待できる。図11を見ると、まずクロック情報トラックを2分割することでクロック信号のジッタ量は約半分に減少し、分割数を増やすにつれてジッタ量は単調に減少している事がわかった。またこれに対応して、ユーザデータにおけるビット誤り率も図12のように分割数に応じて改善することが分かった。
【0027】
本実施例の検討から、クロック情報トラックを2分割以上とすることでビット誤り率が改善され、実施例1に対して線記録密度を40%増大する事ができた。その結果、1平方インチあたり約700ギガビットという高い記録密度を実現する事が出来た。
【実施例4】
【0028】
図13(a)は、上記実施例におけるクロック情報トラックの各有効領域の磁化状態を模式的に表した断面図である。有効領域間には常に磁化遷移をおく必要があり、磁化は交互に上下を向く配置となっている。このような磁化状態はパターン媒体の製造工程において、記録素子を備えた適当な初期化装置により実現する事が可能である。しかしながら全ての記録媒体に対してこのような磁化を書き込むことは、製造コストの抑制が大きな課題となる。
【0029】
そこで本実施例では図13(b)のように、有効領域を本来必要なクロック信号の倍の周期で配列した。このとき、図13(a)のパターンを再生したクロック信号を図13(c)に、図13(b)のパターンを再生したクロック信号を図13(d)に示す。図13(d)をみると、図13(b)のパターンを再生したクロック信号の最大電圧振幅自体は図13(a)のパターンを再生したクロック信号の半分になるものの、信号周波数及び信号波形は全く同等の結果が得られる。図13(b)のクロック情報トラックは、パターンの密度が小さいため製造歩留まりも高くできる。また磁化の初期化も外部からの磁界印加で一括して極く短時間に行うことが可能であるため、性能を犠牲にすることなく記録媒体の製造コストを大幅に下げることが可能になる。結果として大容量かつ信頼性の高い磁気ディスク装置を低コストで製造することができた。
【0030】
本発明はガラス基板やアルミ基板を用いた3.5インチ以下のフォームファクタを有する小型磁気ディスク装置のほか、記録媒体と記録再生機構を分離できるいわゆるリム−バブルタイプの外部記憶装置に適用することも可能である。記録方式は面内記録方式、垂直記録方式、いわゆる2層媒体を用いた垂直記録方式のいずれの場合でも有効である。また熱アシスト記録方式との組み合わせも容易であるため、更に高い1Tb/In2級の記録密度を有する磁気ディスク装置に対しても適用することが出来る。記録媒体1面に対して複数の記録再生用ヘッドを有する磁気ディスク装置に用いても良い。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】従来の磁気記録媒体における記録状態の模式図。
【図2】パターン媒体における記録状態の模式図。
【図3】本発明による磁気記録媒体の平面模式図。
【図4】パターン媒体の作製方法の一例を示す工程断面図。
【図5】パターン媒体を組み込んだ磁気ディスク装置の概略平面図。
【図6】従来の磁気ディスク装置における各要素の接続図。
【図7】本発明の磁気ディスク装置における各要素の接続図。
【図8】クロック情報トラックを参照した場合としない場合のビット誤り率を比較した図。
【図9】パターン媒体の作製方法の他の例を示す工程断面図。
【図10】クロック情報トラックのパターン配列例を示した概念図。
【図11】クロック信号ジッタ量とクロック情報トラック分割数の関係を示す図。
【図12】ビット誤り率とクロック情報トラック分割数の関係を示す図。
【図13】クロック情報トラックの構成を表す断面図とこれらを再生したクロック信号波形を示す図。
【図14】記録タイミング最適化のための学習過程を現すフローチャート
【図15】クロック再生ヘッドのロード/アンロード動作を示す概略断面図。
【符号の説明】
【0032】
11…ユーザデータ領域、12…サーボ領域、13…クロック情報トラック、15…クロック再生ヘッド、21…有効領域、22…無効領域、31…磁気ヘッド、33…アクチュエータ、34…磁気記録媒体、35…スピンドルモータ、36…位置決め機構、41…記録再生アンプ、42…データ符号・復号系、43…コントローラ、44…外部インターフェイス、45…機構制御系

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と前記基板上に形成された記録膜とを備え、
データを保持しない無効領域と前記無効領域の中に予め定められたパターンに従ってそれぞれ孤立して配置され1記録ビット単位でデータを保持する多数の有効領域とを有し、
前記有効領域を複数含むユーザデータ領域とサーボ領域とが設けられ、
前記基板の最外周側に、複数の前記有効領域を含んで構成され前記ユーザデータ領域へのデータ書き込み時のクロックを与えるクロック情報トラックを有することを特徴とするパターン媒体。
【請求項2】
請求項1記載のパターン媒体において、前記クロック情報トラックは一定の線記録密度を有する実質的に一本の円周状トラックであることを特徴とするパターン媒体。
【請求項3】
請求項2記載のパターン媒体において、前記クロック情報トラックに含まれる各々の前記有効領域は前記基板の半径方向に複数に分割されていることを特徴とするパターン媒体。
【請求項4】
請求項1記載のパターン媒体において、前記クロック情報トラックに含まれる前記有効領域は、前記ユーザデータ領域に含まれる前記有効領域と同一の工程で形成されたものであることを特徴とするパターン媒体。
【請求項5】
請求項1記載のパターン媒体において、前記クロック情報トラックに含まれる前記有効領域の磁化は全て同一方向を向いていることを特徴とするパターン媒体。
【請求項6】
請求項1記載のパターン媒体において、前記記録膜は垂直磁気記録膜であり、前記基板と前記記録膜との間に面内方向に連続して設けられた軟磁性裏打ち層を有することを特徴とするパターン媒体。
【請求項7】
基板と前記基板上に形成された記録膜とを備え、データを保持しない無効領域と前記無効領域の中に予め定められたパターンに従ってそれぞれ孤立して配置され1記録ビット単位でデータを保持する多数の有効領域とを有し、前記有効領域を複数含むユーザデータ領域とサーボ領域とが設けられ、前記基板の最外周側に、複数の前記有効領域を含んで構成され前記ユーザデータ領域へのデータ書き込み時のクロックを与えるクロック情報トラックを有するパターン媒体と、
前記パターン媒体を駆動する媒体駆動部と、
前記パターン媒体の前記ユーザデータ領域にユーザデータを記録・再生するための磁気ヘッドと、
前記磁気ヘッドを前記パターン媒体の所望位置に位置決めするための磁気ヘッド駆動部と、
前記ユーザデータを処理する信号処理部と、
前記パターン媒体の前記クロック情報トラックを参照するためのクロック再生ヘッドとを有し、
前記信号処理部は前記クロック再生ヘッドによって再生されたクロック信号に同期して前記ユーザデータの書き込みを行うことを特徴とする磁気ディスク装置。
【請求項8】
請求項7記載の磁気ディスク装置において、前記クロック情報トラックは一定の線記録密度を有する実質的に一本の円周状トラックであることを特徴とする磁気ディスク装置。
【請求項9】
請求項7記載の磁気ディスク装置において、前記クロック情報トラックに含まれる各々の前記有効領域は前記パターン媒体の半径方向に分割されていることを特徴とする磁気ディスク装置。
【請求項10】
請求項7記載の磁気ディスク装置において、前記クロック情報トラックに含まれる前記有効領域は前記ユーザデータ領域に含まれる前記有効領域と同一の工程で形成されたものであることを特徴とする磁気ディスク装置。
【請求項11】
請求項7記載の磁気ディスク装置において、前記クロック情報トラックに含まれる前記有効領域の磁化は全て同一方向を向いていることを特徴とする磁気ディスク装置。
【請求項12】
請求項7記載の磁気ディスク装置において、前記クロック情報トラックを前記クロック再生ヘッドにより再生した信号の平均的な位相を、記録電流反転時に前記磁気ヘッドの記録素子と前記有効領域の相対位置関係が最適となるよう学習する機能を有することを特徴とする磁気ディスク装置。
【請求項13】
請求項7記載の磁気ディスク装置において、前記クロック再生ヘッドは、当該ディスク装置に外部から衝撃が加わった場合や装置の電源が切られた場合に浮上状態から退避する手段を有することを特徴とする磁気ディスク装置。
【請求項14】
基板上にマスク材料層を形成する工程と、
前記マスク材料層にユーザデータ領域のパターンと、前記ユーザデータ領域へのデータ書き込み時のクロックを与えるクロック情報トラックのパターンとを同時にパターニングしてマスクを形成する工程と、
前記マスクを用いて前記基板をエッチングする工程と、
前記マスクを除去する工程と、
前記エッチング処理後の基板上に記録層を形成する工程と
を有することを特徴とするパターン媒体の製造方法。
【請求項15】
請求項14記載のパターン媒体の製造方法において、前記クロック情報トラックは前記基板の最外周側に形成される一定の線記録密度を有する実質的に一本の円周状トラックであることを特徴とするパターン媒体の製造方法。
【請求項16】
基板上に磁気記録材料層を形成する工程と、
前記磁気記録材料層の上にマスク材料層を形成する工程と、
前記マスク材料層にユーザデータ領域のパターンと、前記ユーザデータ領域へのデータ書き込み時のクロックを与えるクロック情報トラックのパターンとを同時にパターニングしてマスクを形成する工程と、
前記マスクを用いて前記磁気記録材層をエッチングする工程と、
前記マスクを除去する工程と
を有することを特徴とするパターン媒体の製造方法。
【請求項17】
請求項16記載のパターン媒体の製造方法において、前記クロック情報トラックは前記基板の最外周側に形成される一定の線記録密度を有する実質的に一本の円周状トラックであることを特徴とするパターン媒体の製造方法。
【請求項18】
請求項16記載のパターン媒体の製造方法において、前記磁気記録材料は垂直磁気記録材料であり、前記磁気記録材料層を形成する前に軟磁性裏打ち層を形成することを特徴とするパターン媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2007−207385(P2007−207385A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−27539(P2006−27539)
【出願日】平成18年2月3日(2006.2.3)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成15年度、文部科学省、科学技術振興調整費による委託研究、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】