説明

グラスラン

【課題】ドアサッシュに対する接着面積を小さくするとともに周波数特性も変化させることにより、ドアガラス閉め切り時の突き上げ音を十分に低減するグラスランを提供する。
【解決手段】車両のドアサッシュ2に嵌装され、昇降するドアガラス3を溝部4に案内する、車外側側壁部6と車内側側壁部7とそれらを結ぶ連結壁部8からなる断面略コ字状で、両側壁部6,7の内面に、連結壁部8側に延び、ドアガラス3に摺接するアウタリップ部9とインナリップ部10が一体的に押出成形されてなるグラスラン5で、連結壁部8の外面に、複数の凸条13と複数の凹溝14を交互に設け、少なくとも凹溝14を埋めるように緩衝部材30を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のドアサッシュ又はドアフレームに嵌装され、昇降するドアガラスを案内するグラスランに関するものである。
【背景技術】
【0002】
図6及び図7に示すように、車両のドア1のドアサッシュ2には昇降するドアガラス3を溝部4に案内するグラスラン5が嵌装されている。なお、図7は図6のA−A線拡大断面図である。
グラスラン5は、内側に溝部4を形成する断面略コ字状であり、2つの側壁部、すなわち車外側側壁部6と車内側側壁部7と、そして車外側側壁部6と車内側側壁部7とを結ぶ連結壁部8によって形成されている。そして、車外側側壁部6の内面、すなわち、車外側側壁部6の車内側には連結壁部8側に延びるアウタリップ部9が形成されている。また、車内側側壁部7の内面、すなわち、車内側側壁部7の車外側には同じく連結壁部8側に延びるインナリップ部10が形成されている。アウタリップ部9とインナリップ部10は、ドアガラス3を挟持するように設けられ、ドアガラス3の表面に摺接する。
【0003】
このようなグラスラン5において、ドアガラス3が上昇すると、ドアガラス3の端部3aは、連結壁部8の内面に当接し、その応力によって連結壁部8の外面がドアサッシュ2に突き当たる状態となって停止する。
このときに発生する「ドスン」という衝撃音が耳ざわりであるので、ドアガラス3閉め切り時の突き上げ音の軽減が求められている。
【0004】
そこで、このドアガラス3閉め切り時の突き上げ音を軽減するため、グラスラン5の連結壁部8の外面に、複数の凸条13と凹溝14とからなる弾性変形部を設けて、ドアガラス3閉め切り時にドアサッシュ2に当接させるようにしている。
これによれば、複数の凸条13と凹溝14を設けることにより衝撃を吸収しやすくすることができるのに加えて、接触面積が小さくなるのでその分、抑えることができる。
一方、ドアガラス3閉め切り時に、グラスラン5の連結壁部8の外面に設けられた複数の凸条13が押し潰されて凹溝14が埋められるようにしたものも知られている(例えば、特許文献1)。
【0005】
また、図8及び図9に示すように、グラスラン5の連結壁部8の外面側に設けた2つの突部11,12間にソフトスポンジ20やクッション材を設けたり、シーラントを充填したものも知られている(例えば、特許文献2)。
これによれば、ソフトスポンジ20やクッション材をドアサッシュ2との間に設けることによって高い周波数の音を抑えることができるので衝撃音が抑えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開平4−84026号公報
【特許文献2】特許第4261287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来の技術では、ドアガラス3の突き上げ時の衝撃を吸収して、発生する衝撃音をある程度軽減することができるが十分ではない。
特に、図7に示したようなグラスラン5の場合、ドアガラス3の突き上げ時には、ドアガラス3の端部3aが連結壁部8の車内側内面に当接すると、その応力によって連結壁部8の外面に設けられた凸条13は弾性変形するが、ドアサッシュ2に対する接触面積を小さくすることができるので音量的に衝撃音の発生を小さく抑えることができるものの、その衝撃音の周波数は高くなる傾向にある。
一方、ドアガラス3閉め切り時に、グラスラン5の連結壁部8の外面に設けられた複数の凸条13が押し潰されて凹溝14が埋められるようにしたものは、ドアサッシュ2に対しては接触面積を大きくして突き当たるため衝撃音は依然として残る。
さらに、ソフトスポンジ20やクッション材をドアサッシュ2との間に設けたものでは、周波数特性を変えることにより高い周波数の音を抑えることができるが、接着面積が大きいとその分、衝撃音は発生してしまう。
【0008】
そこで、本発明の目的とするところは、ドアサッシュに対する接着面積を小さくするとともに周波数特性も変化させることにより、ドアガラス閉め切り時の突き上げ音を十分に低減しうるグラスランを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明の請求項1に係るグラスランは、車両のドアサッシュ(2)又はドアフレームに嵌装され、昇降するドアガラス(3)を溝部(4)に案内する、車外側側壁部(6)と車内側側壁部(7)とそれらを結ぶ連結壁部(8)からなる断面略コ字状で、両側壁部(6,7)の内面に、前記連結壁部(8)側に延び、前記ドアガラス(3)に摺接するアウタリップ部(9)とインナリップ部(10)が一体的に押出成形されてなるグラスラン(5)であって、
前記連結壁部(8)の外面に、複数の凸条(13)と複数の凹溝(14)を交互に設け、少なくとも前記凹溝(14)を埋めるように緩衝部材(30)を設けたことを特徴とする。
【0010】
また、請求項2に係る発明は、前記緩衝部材(30)は、前記複数の凸条(13)及び複数の凹溝(14)を覆うように設けられてなることを特徴とする。
【0011】
また、請求項3に係る発明は、前記緩衝部材(30)は、前記凹溝(14)に対して、前記ドアガラス(3)が前記連結壁部(8)に突き当たる前の取付状態では、前記ドアサッシュ(2)又はドアフレームに接触しないか、接触する程度で圧縮された状態ではない非圧縮状態で設けられてなることを特徴とする
【0012】
また、請求項4に係る発明は、前記複数の凸条(13)及び複数の凹溝(14)と、前記緩衝部材(30)は、前記グラスラン(5)の成形時に一体的に押出成形されてなることを特徴とする。
【0013】
また、請求項5に係る発明は、前記緩衝部材(30)は、高発泡スポンジ材であることを特徴とする。
【0014】
なお、括弧内の記号は、図面および後述する発明を実施するための形態に記載された対応要素または対応事項を示す。
【発明の効果】
【0015】
以上のとおり、本発明によれば、一体的に押出成形されてなるグラスランにおいて、連結壁部の外面に、複数の凸条と複数の凹溝を交互に設けたので、ドアサッシュやドアフレームに対する接触面積が小さくなり音量的に衝撃音の発生を小さく抑えることができる。
それに加えて、凹溝には、高発泡スポンジ材などの緩衝部材が埋められているので、衝撃音の周波数は低くなるように変えられその結果、衝撃音が抑えられる。
このように、ドアガラスの閉め切り時の、ドアガラスの突き上げによる衝撃音は、音量的にも周波数的にも低減されるのでユーザーにとって快適である。
【0016】
また、請求項2に係る発明によれば、緩衝部材は、複数の凸条及び複数の凹溝を覆うように設けられているので、ドアサッシュやドアフレームに緩衝部材の摩擦力が作用することによりドアサッシュやドアフレームに対するグラスランの長手方向及び幅方向の位置ずれが防止される。よって、ドアガラスの閉め切り時にグラスランがドアサッシュやドアフレームから位置ずれすることは抑制される。
【0017】
また、請求項3に係る発明によれば、緩衝部材は、凹溝に対して、ドアガラスが連結壁部に突き当たる前の取付状態では、ドアサッシュ又はドアフレームに接触しないか、接触する程度で圧縮された状態ではない非圧縮状態で設けられてなるので、ドアガラスが連結壁部に突き当たった場合、緩衝部材は最大の圧縮量で衝撃を和らげることができる。また、緩衝部材の量を減らすことができる。
【0018】
また、請求項4に係る発明によれば、複数の凸条及び複数の凹溝と、緩衝部材は、グラスランの成形時に一体的に押出成形されてなるので、製造が容易でしかも緩衝部材を安定して取付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係るグラスランを示す図6のA−A線拡大断面図である。
【図2】図1に示すグラスランでドアサッシュに取付前の状態を示す断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る別のグラスランを示す図6のA−A線拡大断面図である。
【図4】図3に示すグラスランでドアサッシュに取付前の状態を示す断面図である。
【図5】本発明の実施形態に係るさらに別のグラスランでドアサッシュに取付前の状態を示す断面図である。
【図6】ドアの外観側面図である。
【図7】従来例に係るグラスランを示す図6のA−A線拡大断面図である。
【図8】従来例に係る別のグラスランを示す図6のA−A線拡大断面図である。
【図9】図8に示すグラスランでドアサッシュに取付前の状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、従来例と同一の部分には同一符号を付す。
図1は、本発明の実施形態に係るグラスランを示す拡大断面図であり、図6のA−A線拡大断面図に対応している。また、図2は図1に示すグラスランにおいてドアサッシュに取付ける前の状態を示す断面図である。
【0021】
本発明の実施形態に係るグラスラン5は、従来例と同様に車両のドア1のドアサッシュ2(ドアフレームでもよい)に嵌装され、昇降するドアガラス3を溝部4に案内するものである。
グラスラン5は、2つの側壁部である車外側側壁部6と車内側側壁部7と、それら車外側側壁部6と車内側側壁部7とを結ぶ連結壁部8からなる断面略コ字状で、車外側側壁部6の内面となる車内側には連結壁部8側に延び、ドアガラス3に摺接するアウタリップ部9が形成され、車内側側壁部7の内面となる車外側には同じく連結壁部8側に延び、ドアガラス3に摺接するインナリップ部10が形成されている。
【0022】
そして、連結壁部8の外面(ドアサッシュ2又はドアフレームと接触する側)に、複数の凸条13と複数の凹溝14を交互に設け、複数の凸条13及び複数の凹溝14を覆うように緩衝部材30を設けている。より詳細には、車外側側壁部6の連結壁部8側の付け根部6aと車内側側壁部7の連結壁部8側の付け根部7aの間に複数の凸条13と複数の凹溝14を交互に並べて設けている。複数の凸条13のそれぞれの形状は略同一であり、複数の凹溝14のそれぞれの形状も略同一である。
凸条13の幅mと凹溝14の幅nはドアガラス3の厚みTよりも小さくしてあり、ここでは、凸条13を2つと凹溝14を3つ設けている。
凸条13の形状は、図2に示すように、ドアサッシュ2にグラスラン5が取付けられる前の状態では断面略山形であり、図1に示すように、グラスラン5が取付けられた状態で凸条13はドアサッシュ2に弾接するようにしている。また、ドアガラス3の閉め切り時には、ドアガラス3が連結壁部8に内面に当接し、その応力を受けて凸条13の頂部がつぶれるようになっている。
【0023】
緩衝部材30は、グラスラン5の連結壁部8よりも比重の小さいものが好ましい。緩衝部材30として、例えば、比重0.1〜0.7のソフトスポンジ材、あるいは、比重0.05〜0.4の高発泡スポンジ材や制振性スポンジを使用することができる。
【0024】
グラスラン5は全体が押出成形によって一体的に形成されるものであり、複数の凸条13及び複数の凹溝14と、緩衝部材30も、グラスラン5の成形時に一体的に押出成形されてなる。
【0025】
グラスラン5の材質としては、EPDMゴム,オレフィン系熱可塑性エラストマー,スチレン系熱可塑性エラストマーや、これらを2種類以上混合したエラストマーなどが、ドアガラス3の突き上げ音を低減する上において有効である。
【0026】
以上のように構成された本発明の実施形態に係るグラスラン5によれば、連結壁部8の外面に、複数の凸条13と複数の凹溝14を交互に設けたので、ドアサッシュ2に対する接触面積が小さくなり音量的に衝撃音の発生を小さく抑えることができる。
それに加えて、凹溝14には、緩衝部材30が埋められているので、衝撃音の周波数は低くなるように変えられその結果、衝撃音が抑えられる。
また、緩衝部材30は、複数の凸条13及び複数の凹溝14を覆うように設けられているので、ドアサッシュ2に緩衝部材30の摩擦力が作用することによりドアサッシュ2に対するグラスラン5の長手方向及び幅方向の位置ずれが防止される。
【0027】
なお、本実施形態では、複数の凸条13及び複数の凹溝14を覆うように、すなわち、図2に示したように、グラスラン5をドアサッシュ2に取付ける前には連結壁部8の外面からさらに外方に突出するように緩衝部材30を設けるようにしたが、図4に示すように、グラスラン5をドアサッシュ2に取付ける前には連結壁部8の外面から外方に突出させないようにすることもできる。
そして、緩衝部材30は、凹溝14に対して、図3に示すように、ドアガラス3が連結壁部8に突き当たる前の取付状態では、ドアサッシュ2に接触しないか、接触する程度で圧縮された状態ではない非圧縮状態で設けられてなる。
【0028】
これによれば、ドアガラス3が連結壁部18に突き当たった場合、緩衝部材30は最大の圧縮量で衝撃を和らげることができる。
ここでは、図4に示すように、緩衝部材30が凸条13の頂部を越えるが、車外側側壁部6の連結壁部8側の付け根部6aと車内側側壁部7の連結壁部8側の付け根部7aの最も外方の部位を結ぶ線を越えないように緩衝部材30を設けたが、凸条13の頂部を越えることなく、凹溝14内だけを埋めるように設けることもできる。
また、図3に示すように、ドアガラス3が連結壁部8に突き当たる前の取付状態では、凸条13についてもドアサッシュ2に接触しないようにすることもできる。
【0029】
また、本実施形態では、複数の凸条13及び複数の凹溝14のそれぞれの形状を略同一にしたが、図5に示すように、凸条13の形状を変化させることもできる。ここでは、2つの凸条13のうち、車外側の凸条13をさらに車外側に向けて傾けるとともに車内側の凸条13をさらに車内側に傾けるようにしたものである。これに対応して、凹溝14の形状も真中のものと、車外側と車内側のものとは形状が異なる。
これによれば、複数の凸条13及び複数の凹溝14に対する緩衝部材30の密着性が高まる。
【0030】
また、本実施形態では、複数の凸条13及び複数の凹溝14と、緩衝部材30は、グラスラン5の成形時に一体的に押出成形して製造するようにしたが、複数の凸条13及び複数の凹溝14が形成されるように押出成形されたグラスラン5に対して、緩衝部材30を後工程で貼着させることもできる。
【符号の説明】
【0031】
1 ドア
2 ドアサッシュ
3 ドアガラス
3a 端部
4 溝部
5 グラスラン
6 車外側側壁部
6a 車外側側壁部の付け根部
7 車内側側壁部
7a 車内側側壁部の付け根部
8 連結壁部
9 アウタリップ部
10 インナリップ部
11 突部
12 突部
13 凸条
14 凹溝
20 ソフトスポンジ
30 緩衝部材
m 凸条の幅
n 凹溝の幅
T 厚み幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のドアサッシュ又はドアフレームに嵌装され、昇降するドアガラスを溝部に案内する、車外側側壁部と車内側側壁部とそれらを結ぶ連結壁部からなる断面略コ字状で、両側壁部の内面に、前記連結壁部側に延び、前記ドアガラスに摺接するアウタリップ部とインナリップ部が一体的に押出成形されてなるグラスランであって、
前記連結壁部の外面に、複数の凸条と複数の凹溝を交互に設け、少なくとも前記凹溝を埋めるように緩衝部材を設けたことを特徴とするグラスラン。
【請求項2】
前記緩衝部材は、前記複数の凸条及び複数の凹溝を覆うように設けられてなることを特徴とする請求項1に記載のグラスラン。
【請求項3】
前記緩衝部材は、前記凹溝に対して、前記ドアガラスが前記連結壁部に突き当たる前の取付状態では、前記ドアサッシュ又はドアフレームに接触しないか、接触する程度で圧縮された状態ではない非圧縮状態で設けられてなることを特徴とする請求項1又は2に記載のグラスラン。
【請求項4】
前記複数の凸条及び複数の凹溝と、前記緩衝部材は、前記グラスランの成形時に一体的に押出成形されてなることを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか一つに記載のグラスラン。
【請求項5】
前記緩衝部材は、高発泡スポンジ材であることを特徴とする請求項1乃至4のうちいずれか一つに記載のグラスラン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−121407(P2011−121407A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−278829(P2009−278829)
【出願日】平成21年12月8日(2009.12.8)
【出願人】(000196107)西川ゴム工業株式会社 (454)
【Fターム(参考)】