説明

グルタチオン産生促進剤、グルタチオンの欠乏に起因する疾患の予防・治療剤及び飲食品

【課題】安全性の高い天然物の中からグルタチオン産生促進作用を有するものを見出し、それを有効成分とするグルタチオン産生促進剤及びグルタチオンの欠乏に起因する疾患の予防・治療剤を提供する。
【解決手段】グルタチオン産生促進剤又はグルタチオンの欠乏に起因する疾患の予防・治療剤に、リクイリチン、リクイリチゲニン、イソリクイリチン、イソリクイリチゲニン及びリコカルコンAからなる群より選ばれる1種又は2種以上を有効成分として含有せしめる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グルタチオン産生促進剤、グルタチオンの欠乏に起因する疾患の予防・治療剤及び飲食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
グルタチオンは、グルタミン酸、システイン、グリシンの3つのアミノ酸からなるトリペプチドであり、細胞内の主要なシステイン残基を有する化合物である。このグルタチオンは、細胞内においてラジカルの捕捉、酸化還元による細胞機能の調節、解毒機構への関与及び各種酵素のSH供与体等としての役割を果たすことが知られている。
【0003】
このような役割を果たすグルタチオンの細胞内濃度が低下すると、紫外線曝露による細胞傷害、炎症、黒色化、シミ又はソバカスの生成、急性又は慢性アルコール肝障害、肝臓病、慢性腎不全、喫煙等が要因の肺疾患、特発性肺線維症、白内障、虚血性心疾患、パーキンソン病、アルツハイマー病、胃潰瘍、成人呼吸器障害症候群、免疫不全、骨髄形成不全、後天性免疫不全症候群、潜伏性ウイルス感染症、生理学的な加齢に伴う老化現象、及び癌化等の病状が引き起こされることが知られている。このようなグルタチオンの細胞内濃度の低下によって引き起こされる病状の治療には、従来、細胞内グルタチオン濃度の低下した細胞にグルタチオンを取り込ませることを目的として、グルタチオンを含有するグルタチオン製剤が用いられていた(特許文献1参照)。しかしながら、グルタチオン製剤の経口摂取による治療は、治療対象部位によっては思うような効果が期待できず、また、グルタチオン製剤の静脈注射による治療は、経口摂取による治療より効果は期待できるものの、痛みを伴うこと、通院が必要なこと等の問題を抱えていた。
【0004】
したがって、生体内細胞におけるグルタチオンの産生を促進することにより細胞内グルタチオン濃度を上昇させることができれば、加齢により衰える酸化ストレスに対する防御能を高めるとともに、紫外線の照射による酸化ストレスに対する傷害を抑制することにつながり、皮膚の老化、シミ等の色素沈着症の予防、治療又は改善が期待できるとともに、グルタチオンの欠乏によって起こる各種臓器の機能低下や種々の疾患の予防又は治療が期待できると考えられる。このような考えに基づき、グルタチオン産生促進作用を有するものとして、ビルベリー抽出物及びウォルナット抽出物(特許文献2参照)、クチナシ属植物の抽出物(特許文献3参照)等が知られている。
【0005】
また、生体内において、グルタチオンは、活性酸素種を除去する作用を有する還元型グルタチオン、及び還元型グルタチオンと活性酸素種との反応により生産される酸化型グルタチオンとして存在する。近年、この酸化型グルタチオンが、神経細胞の興奮を抑制し、睡眠を促進する睡眠促進物質であることが確認されている。そのため、グルタチオンの産生を促進し、還元型グルタチオンのみならず、酸化型グルタチオンの細胞内濃度をも上昇させることができれば、不眠症等の睡眠障害の予防、治療又は改善に有効であると考えられている。このような考えに基づき、従来、酸化型グルタチオンを有効成分とする催眠剤が知られている(特許文献4参照)。
【0006】
生体細胞においては、γ−グルタミルシステインシンテターゼの作用により、システインとグルタミン酸とが反応してγ−グルタミルシステインが生合成され、グルタチオンシンテターゼの作用により、γ−グルタミルシステインとグリシンとが反応してグルタチオンが生合成されることが知られている。そのため、グルタチオンの前駆体であるγ−グルタミルシステインを生合成するための触媒的役割を果たすγ−グルタミルシステインシンテターゼの発現を促進することで、生体細胞内グルタチオン濃度を上昇させることができると考えられる。
【特許文献1】国際公開2003/032966号パンフレット
【特許文献2】特開2006−241062号公報
【特許文献3】特開2006−347934号公報
【特許文献4】特開平4−9336号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、安全性の高い天然物の中からグルタチオン産生促進作用及びγ−グルタミルシステインシンテターゼmRNA発現促進作用を有するものを見出し、それを有効成分とするグルタチオン産生促進剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のグルタチオン産生促進剤及びグルタチオンの欠乏に起因する疾患の予防・治療剤は、リクイリチン、リクイリチゲニン、イソリクイリチン、イソリクイリチゲニン及びリコカルコンAからなる群より選ばれる1種又は2種以上を有効成分として含有することを特徴とする。
【0009】
また、本発明の飲食品は、リクイリチン、リクイリチゲニン、イソリクイリチン、イソリクイリチゲニン及びリコカルコンAからなる群より選ばれる1種又は2種以上を配合したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、リクイリチン、リクイリチゲニン、イソリクイリチン、イソリクイリチゲニン及びリコカルコンAからなる群より選ばれる1種又は2種以上を有効成分として含有し、安全性に優れたグルタチオン産生促進剤、グルタチオンの欠乏に起因する疾患の予防・治療剤及び飲食品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について説明する。
〔グルタチオン産生促進剤,グルタチオンの欠乏に起因する疾患の予防・治療剤〕
本発明のグルタチオン産生促進剤及びグルタチオンの欠乏に起因する疾患の予防・治療剤は、リクイリチン、リクイリチゲニン、イソリクイリチン、イソリクイリチゲニン及びリコカルコンAからなる群より選ばれる1種又は2種以上を有効成分として含有する。
【0012】
リクイリチン(liquiritin)、リクイリチゲニン(liquiritigenin)、イソリクイリチン(isoliquiritin)、イソリクイリチゲニン(isoliquiritigenin)及びリコカルコンA(licochalcone A)は、フラボノイド類の一種であり、これらの化合物を含有する植物抽出物から単離・精製することにより製造することができる。
【0013】
リクイリチン、リクイリチゲニン、イソリクイリチン、イソリクイリチゲニン又はリコカルコンAを含有する植物抽出物は、植物の抽出に一般に用いられている方法によって得ることができる。リクイリチン、リクイリチゲニン、イソリクイリチン、イソリクイリチゲニン又はリコカルコンAを含有する植物としては、例えば、甘草等が挙げられる。
【0014】
甘草には、Glychyrrhiza glabra、Glychyrrhiza inflata、Glychyrrhiza uralensis、Glychyrrhiza aspera、Glychyrrhiza eurycarpa、Glychyrrhiza pallidiflora、Glychyrrhiza yunnanensis、Glychyrrhiza lepidota、Glychyrrhiza echinata、Glychyrrhiza acanthocarpa等、様々な種類のものがあり、これらのうち、いずれの種類の甘草を抽出原料として使用してもよいが、特にGlychyrrhiza glabraを抽出原料として使用することが好ましい。
【0015】
抽出原料として使用し得る甘草の構成部位としては、例えば、葉部、枝部、樹皮部、幹部、茎部、果実部、花部等の地上部、根部又はこれらの部位の混合物等が挙げられるが、好ましくは根部である。
【0016】
リクイリチン、リクイリチゲニン、イソリクイリチン、イソリクイリチゲニン又はリコカルコンAを含有する植物抽出物は、抽出原料を乾燥した後、そのまま又は粗砕機を用いて粉砕し、抽出溶媒による抽出に供することにより得ることができる。乾燥は天日で行ってもよいし、通常使用される乾燥機を用いて行ってもよい。また、ヘキサン等の非極性溶媒によって脱脂等の前処理を施してから抽出原料として使用してもよい。脱脂等の前処理を行うことにより、植物の極性溶媒による抽出処理を効率よく行うことができる。
【0017】
抽出溶媒としては、極性溶媒を用いるのが好ましく、例えば、水、親水性有機溶媒等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて、室温又は溶媒の沸点以下の温度で使用することが好ましい。
【0018】
抽出溶媒として使用し得る水としては、純水、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水等のほか、これらに各種処理を施したものが含まれる。水に施す処理としては、例えば、精製、加熱、殺菌、濾過、イオン交換、浸透圧調整、酸性化、アルカリ化、緩衝化等が含まれる。したがって、本発明において抽出溶媒として使用し得る水には、精製水、熱水、イオン交換水、生理食塩水、有機酸酸性水、アンモニアアルカリ水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水等も含まれる。
【0019】
抽出溶媒として使用し得る親水性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の炭素数1〜5の低級脂肪族アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等の低級脂肪族ケトン;1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の炭素数2〜5の多価アルコール等が挙げられる。
【0020】
2種以上の極性溶媒の混合液を抽出溶媒として使用する場合、その混合比は適宜調整することができる。例えば、水と低級脂肪族アルコールとの混合液を使用する場合には、水10容量部に対して低級脂肪族アルコール1〜90容量部を混合するのが好ましく、水と低級脂肪族ケトンとの混合液を使用する場合には、水10容量部に対して低級脂肪族ケトン1〜40容量部を混合するのが好ましく、水と多価アルコールとの混合液を使用する場合には、水10容量部に対して多価アルコール10〜90容量部を混合するのが好ましい。
【0021】
抽出処理は、抽出原料に含まれる可溶性成分を抽出溶媒に溶出させ得る限り特に限定はされず、常法に従って行うことができる。例えば、抽出原料の5〜15倍量(質量比)の抽出溶媒に、抽出原料を浸漬し、常温又は還流加熱下で可溶性成分を抽出させた後、濾過して抽出残渣を除去することにより抽出液を得ることができる。得られた抽出液から溶媒を留去するとペースト状の濃縮物が得られ、この濃縮物をさらに乾燥すると乾燥物が得られる。
【0022】
以上のようにして得られた抽出液、当該抽出液の濃縮物又は当該抽出液の乾燥物からリクイリチン、リクイリチゲニン、イソリクイリチン、イソリクイリチゲニン又はリコカルコンAを単離・精製する方法は、特に限定されるものではなく、常法により行うことができる。
【0023】
例えば、植物抽出物を、シリカゲルやアルミナ等の多孔質物質、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体やポリメタクリレート等の多孔性樹脂等を用いたカラムクロマトグラフィーに付して、水、アルコールの順で溶出させ、アルコールで溶出される画分として得ることができる。
【0024】
カラムクロマトグラフィーにて溶出液として用いられるアルコールは、特に限定されるものではなく、例えば、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の炭素数1〜5の低級脂肪族アルコール又はそれらの水溶液等が挙げられる。
【0025】
さらに、カラムクロマトグラフィーにより得られたアルコール画分を、ODSを用いた逆相シリカゲルクロマトグラフィー、再結晶、液−液向流抽出、イオン交換樹脂を用いたカラムクロマトグラフィー等の任意の有機化合物精製手段を用いて精製してもよい。
【0026】
以上のようにして得られるリクイリチン、リクイリチゲニン、イソリクイリチン、イソリクイリチゲニン又はリコカルコンAは、グルタチオン産生促進作用を有しているため、その作用を利用してグルタチオン産生促進剤の有効成分として使用することができる。なお、上記化合物は、γ−グルタミルシステインシンテターゼmRNA発現促進作用も有しているため、その作用を利用してγ−グルタミルシステインシンテターゼmRNA発現促進剤の有効成分としても使用することができる。
【0027】
また、上記化合物は、そのグルタチオン産生促進作用を通じて、グルタチオンの産生を促進することができるため、グルタチオンの欠乏に起因する疾患(例えば、活性酸素種等の酸化ストレスによって起こる疾患;肝炎、肝機能障害等の肝臓疾患;慢性腎不全;特発性肺線維症、成人呼吸器障害症候群等の呼吸器系疾患;白内障;虚血性心疾患;パーキンソン病;アルツハイマー病:胃潰瘍等の消化器系疾患;癌;骨髄形成不全;後天性免疫不全症候群;潜伏性ウイルス感染症等)の予防・治療剤の有効成分としても使用することができる。
【0028】
さらに、上記化合物は、グルタチオン産生促進作用を有しており、その作用を利用して酸化型グルタチオンの細胞内濃度を上昇させることができるため、不眠症等の睡眠障害の予防、治療又は改善剤の有効成分としても使用することができる。
【0029】
なお、本発明のグルタチオン産生促進剤又はグルタチオンの欠乏に起因する疾患の予防・治療剤においては、上記化合物のうちのいずれか1種を上記有効成分として使用してもよいし、上記化合物より選ばれる2種以上の化合物を混合して上記有効成分として使用してもよい。上記化合物より選ばれる2種以上の化合物を混合して上記有効成分として使用する場合、それらの配合比は、それらの作用の程度に応じて適宜決定すればよい。
【0030】
本発明のグルタチオン産生促進剤又はグルタチオンの欠乏に起因する疾患の予防・治療剤は、リクイリチン、リクイリチゲニン、イソリクイリチン、イソリクイリチゲニン及びリコカルコンAからなる群より選ばれる1種又は2種以上のみからなるものであってもよいし、リクイリチン、リクイリチゲニン、イソリクイリチン、イソリクイリチゲニン及びリコカルコンAからなる群より選ばれる1種又は2種以上を製剤化したものであってもよい。
【0031】
リクイリチン、リクイリチゲニン、イソリクイリチン、イソリクイリチゲニン及びリコカルコンAからなる群より選ばれる1種又は2種以上の化合物は、デキストリン、シクロデキストリン等の薬学的に許容し得るキャリアーその他任意の助剤を使用して、常法に従い、粉末状、顆粒状、錠剤状、液状等の任意の剤形に製剤化することができる。この際、助剤としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯味・矯臭剤等を使用することができる。また、上記化合物は、他の組成物(例えば、飲食品等)に配合して使用することができるほか、軟膏剤、外用液剤、貼付剤等として使用することができる。
【0032】
なお、本発明のグルタチオン産生促進剤又はグルタチオンの欠乏に起因する疾患の予防・治療剤は、必要に応じて、グルタチオン産生促進作用を有する他の天然抽出物等を配合して有効成分として使用することができる。
【0033】
本発明のグルタチオン産生促進剤又はグルタチオンの欠乏に起因する疾患の予防・治療剤の投与方法としては、一般に経皮投与、経口投与、静脈投与等が挙げられるが、疾患の種類に応じて、その予防・治療等に好適な方法を適宜選択すればよい。
【0034】
また、本発明のグルタチオン産生促進剤又はグルタチオンの欠乏に起因する疾患の予防・治療剤の投与量も、疾患の種類、重症度、患者の個人差、投与方法、投与期間等によって適宜増減すればよい。
【0035】
本発明のグルタチオン産生促進剤は、リクイリチン、リクイリチゲニン、イソリクイリチン、イソリクイリチゲニン及びリコカルコンAからなる群より選ばれる1種又は2種以上の化合物が有するグルタチオン産生促進作用を通じて、加齢により衰える酸化ストレスに対する防御能を高めるとともに、紫外線の照射による酸化ストレスに対する傷害を抑制することができ、皮膚の老化、シミ等の色素沈着症や、グルタチオンの欠乏によって起こる各種臓器の機能低下等による種々の疾患を予防、治療又は改善することができる。ただし、本発明のグルタチオン産生促進剤は、これらの用途以外にもグルタチオン産生促進作用を発揮することに意義のあるすべての用途に使用することができる。
【0036】
後述する実施例において示されるように、リクイリチン、リクイリチゲニン、イソリクイリチン、イソリクイリチゲニン及びリコカルコンAは、皮膚線維芽細胞及び表皮角化細胞におけるグルタチオンの産生を効果的に促進することができるため、これらの化合物を含有するグルタチオン産生促進剤によれば、皮膚線維芽細胞及び表皮角化細胞内で活性酸素種を消去することができ、皮膚線維芽細胞及び表皮角化細胞を酸化的ストレスによる傷害等から保護することができ、結果として、皮膚の老化等を効果的に防止することができる。
【0037】
また、グルタチオンがチロシナーゼの成熟化を抑制する作用を有していることから、グルタチオンの産生を促進することによってチロシナーゼの成熟化をより抑制することができ、メラノサイトにおけるメラニンの生成を抑制することができる。そのため、リクイリチン、リクイリチゲニン、イソリクイリチン、イソリクイリチゲニン及びリコカルコンAからなる群より選ばれる1種又は2種以上を含有するグルタチオン産生促進剤によれば、メラノサイトにおけるグルタチオンの産生を効果的に促進し、チロシナーゼの成熟化をより抑制することができるため、結果として、皮膚色素沈着症、皮膚の黒化、シミ、ソバカス等を予防することができる。
【0038】
さらに、リクイリチン、リクイリチゲニン、イソリクイリチン、イソリクイリチゲニン及びリコカルコンAは、肝細胞におけるグルタチオンの産生を効果的に促進することができるため、これらの化合物を含有するグルタチオン産生促進剤は、グルタチオンの欠乏に起因する肝臓疾患を効果的に予防・治療することができる。
【0039】
なお、リクイリチン、リクイリチゲニン、イソリクイリチン、イソリクイリチゲニン及びリコカルコンAからなる群より選ばれる1種又は2種以上の化合物をγ−グルタミルシステインシンテターゼmRNA発現促進剤に含有せしめることで、これらの化合物が有するγ−グルタミルシステインシンテターゼmRNA発現促進作用を通じて、グルタチオンの前駆体であるγ−グルタミルシステインの生合成を促進することができる。
【0040】
本発明のグルタチオンの欠乏に起因する疾患の予防・治療剤は、リクイリチン、リクイリチゲニン、イソリクイリチン、イソリクイリチゲニン及びリコカルコンAからなる群より選ばれる1種又は2種以上の化合物が有するグルタチオン産生促進作用を通じて、グルタチオンの欠乏に起因する疾患(例えば、活性酸素種等の酸化ストレスによって起こる疾患;肝炎、肝機能障害等の肝臓疾患;慢性腎不全;特発性肺線維症、成人呼吸器障害症候群等の呼吸器系疾患;白内障;虚血性心疾患;パーキンソン病;アルツハイマー病:胃潰瘍等の消化器系疾患;癌;骨髄形成不全;後天性免疫不全症候群;潜伏性ウイルス感染症等)を予防・治療することができるとともに、酸化型グルタチオンの細胞内濃度を上昇させることができるため、不眠症等の睡眠障害を予防、治療又は改善することができる。
【0041】
〔飲食品〕
本発明の飲食品は、リクイリチン、リクイリチゲニン、イソリクイリチン、イソリクイリチゲニン及びリコカルコンAからなる群より選ばれる1種又は2種以上を配合したものである。
【0042】
リクイリチン、リクイリチゲニン、イソリクイリチン、イソリクイリチゲニン及びリコカルコンAは、グルタチオン産生促進作用を有しており、消化管で消化されるようなものではないことが確認されており、また安全性に優れているため、一般食品、健康食品、保健機能食品又は栄養補助食品等、任意の飲食品に配合するのに好適である。この場合、リクイリチン、リクイリチゲニン、イソリクイリチン、イソリクイリチゲニン及びリコカルコンAからなる群より選ばれる1種又は2種以上の化合物をそのまま配合してもよいし、リクイリチン、リクイリチゲニン、イソリクイリチン、イソリクイリチゲニン及びリコカルコンAからなる群より選ばれる1種又は2種以上の化合物により製剤化したグルタチオン産生促進剤又はグルタチオンの欠乏に起因する疾患の予防・治療剤を配合してもよい。
【0043】
上記リクイリチン、リクイリチゲニン、イソリクイリチン、イソリクイリチゲニン及びリコカルコンAからなる群より選ばれる1種又は2種以上の化合物、グルタチオン産生促進剤又はグルタチオンの欠乏に起因する疾患の予防・治療剤を飲食品に配合する場合、それらにおける有効成分の配合量は、使用目的、性別、症状等を考慮して適宜調整することができるが、添加対象飲食品の一般的な摂取量を考慮して成人1日あたりの化合物摂取量が約0.1〜1000mgになるようにするのが好ましい。
【0044】
上記リクイリチン、リクイリチゲニン、イソリクイリチン、イソリクイリチゲニン及びリコカルコンAからなる群より選ばれる1種又は2種以上の化合物、グルタチオン産生促進剤又はグルタチオンの欠乏に起因する疾患の予防・治療剤を配合し得る飲食品は、リクイリチン、リクイリチゲニン、イソリクイリチン、イソリクイリチゲニン及びリコカルコンAの有するグルタチオン産生促進作用を妨げない限り、特に限定されるものではない。
【0045】
具体例としては、清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果実飲料、乳酸飲料等の飲料(これらの飲料の濃縮原液及び調整用粉末を含む);アイスクリーム、アイスシャーベット、かき氷等の冷菓;そば、うどん、はるさめ、ぎょうざの皮、しゅうまいの皮、中華麺、即席麺等の麺類;飴、チューインガム、キャンディー、ガム、チョコレート、錠菓、スナック菓子、ビスケット、ゼリー、ジャム、クリーム、焼き菓子等の菓子類;かまぼこ、ハム、ソーセージ等の水産・畜産加工食品;加工乳、発酵乳等の乳製品;サラダ油、てんぷら油、マーガリン、マヨネーズ、ショートニング、ホイップクリーム、ドレッシング等の油脂及び油脂加工食品;ソース、たれ等の調味料;スープ、シチュー、サラダ、惣菜、漬物;その他種々の形態の健康・栄養補助食品;錠剤、カプセル剤、ドリンク剤などに上記リクイリチン、リクイリチゲニン、イソリクイリチン、イソリクイリチゲニン及びリコカルコンAからなる群より選ばれる1種又は2種以上の化合物、グルタチオン産生促進剤又はグルタチオンの欠乏に起因する疾患の予防・治療剤を配合することができ、このとき、通常用いられる補助的な原料や添加物を併用することができる。
【0046】
なお、本発明のグルタチオン産生促進剤、グルタチオンの欠乏に起因する疾患の予防・治療剤又は飲食品は、ヒトに対して好適に適用されるものであるが、それぞれの作用効果が奏される限り、ヒト以外の動物に対して適用することもできる。
【実施例】
【0047】
以下、製造例、試験例及び配合例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の各例に何ら制限されるものではない。
【0048】
〔製造例1〕リクイリチン、リクイリチゲニン、イソリクイリチン、イソリクイリチゲニン及びリコカルコンAの製造
甘草(Glycyrrhiza inflata)の根部500gに50容量%エタノール(水とエタノールとの容量比=1:1)5000mLを加え、穏やかに撹拌しながら80℃にて2時間保ち、熱時濾過した。得られた抽出液を40℃で減圧下にて濃縮し、減圧乾燥機で乾燥して甘草根部50容量%エタノール抽出物(124g)を得た。
【0049】
このようにして得られた甘草根部50容量%エタノール抽出物100gに水1Lを加えて懸濁させ、多孔性樹脂(商品名:DIAION HP−20,和光純薬社製)1L上に付し、水2000mL、30容量%エタノール2000mL、70容量%エタノール2000mL及び99容量%エタノール2000mLの順で溶出させた。
【0050】
このようにして得られた99容量%エタノール画分(固形分:2.8g)を60容量%メタノール(水とメタノールの容量比=4:6)に溶解し、ODSカラム(商品名:クロマトレックスODS DM1020T,富士シリシア化学社製)に付し、移動相として60容量%メタノール(水とメタノールとの容量比=4:6)を用いて溶出させ分離し、画分1、画分2及び画分3を得た。得られた画分1、2及び3をそれぞれ減圧下で濃縮し、画分1の濃縮物(200mg)、画分2の濃縮物(300mg)及び画分3の濃縮物(100mg)を得た。
【0051】
得られた画分1の濃縮物、画分2の濃縮物及び画分3の濃縮物のそれぞれにメタノール10mLと水10mLとを加えて一晩放置し、再結晶させることで、それぞれの精製物(125mg(試料2),185mg(試料4),67mg(試料5))を得た。
【0052】
上記70容量%エタノール画分(固形分:10.0g)を40容量%メタノール(水とメタノールの容量比=6:4)に溶解し、ODSカラム(商品名:クロマトレックスODS DM1020T,富士シリシア化学社製)に付し、移動相として40容量%メタノール(水とメタノールとの容量比=6:4)を用いて溶出させ分離し、画分4及び画分5を得た。得られた画分4及び5をそれぞれ減圧下で濃縮し、画分4の濃縮物(6.7g)及び画分5の濃縮物(3.2g)を得た。得られた画分4の濃縮物及び画分5の濃縮物をそれぞれクロロホルム:メタノール=5:1(容量比)の混合液に溶解し、SiOカラム(商品名:シリカゲル60,富士シリシア化学社製)に付し、移動相としてクロロホルム:メタノール=5:1(容量比)の混合液を用いて溶出させ分離した後、減圧下濃縮した。得られたそれぞれの濃縮物を下記の液体クロマトグラフィーを用いて分画した。
【0053】
<液体クロマトグラフィー条件>
固定相:JAIGEL GS−310(日本分析工業社製)
カラム径:20mm
カラム長:500mm
移動相流量:5mL/min
検出:RI
【0054】
上記液体クロマトグラフィーにて保持時間60分〜70分に流出する画分を、リサイクルHPLCにより精製することで、精製物(350mg,270mg,試料1,3)をそれぞれ得た。上述のようにして得られた各精製物(試料1〜5)を13C−NMRにより分析した結果を下記に示す。
【0055】
<試料1の13C−NMRケミカルシフトδ(帰属炭素,DMSO−d6):>
43.1(3-C),60.7(6''-C),69.7(4''-C),73.1(2''-C),76.5(3''-C),76.9(5''-C),78.5(2-C),100.3(1''-C),102.4(8-C),110.4(6-C),113.4(10-C),116.1(3',5'-C),127.7(2',6'-C),128.1(5-C),132.2(1'-C),157.2(4'-C),162.8(9-C),164.4(7-C),189.5(4-C)
【0056】
<試料2の13C−NMRケミカルシフトδ(帰属炭素,DMSO−d6):>
43.1(3-C),78.8(2-C),102.4(8-C),110.3(6-C),113.4(10-C),114.9(3',5'-C),127.9(2',6'-C),127.9(5-C),129.1(1'-C),157.3(4'-C),162.9(9-C),164.3(7-C),189.7(4-C)
【0057】
<試料3の13C−NMRケミカルシフトδ(帰属炭素,DMSO−d6):>
60.6(6''-C),69.6(4''-C),73.1(2''-C),76.5(3''-C),77.0(5''-C),99.9(1''-C),102.4(3'-C),108.0(5'-C),112.8(1'-C),116.3(3',5'-C),119.0(α-C),128.2(1-C),130.4(2',6'-C),132.7(6'-C),143.2(β-C),159.2(4'-C),164.9(2'-C),165.5(4'-C),191.2(C=O)
【0058】
<試料4の13C−NMRケミカルシフトδ(帰属炭素,DMSO−d6):>
102.4(3'-C),107.9(5'-C),112.8(1'-C),115.6(3',5'-C),117.3(α-C),125.6(1-C),130.9(2',6'-C),132.5(6'-C),143.9(β-C),156.0(4'-C),164.6(2'-C),165.4(4'-C),191.2(C=O)
【0059】
<試料5の13C−NMRケミカルシフトδ(帰属炭素,CDCl3):>
27.1(4''',5'''-C),39.8(1'''-C),55.6(OMe),101.1(3-C),113.8(3'''-C),115.6(3',5'-C),116.3(1-C),120.0(α-C),124.6(5-C),128.8(6-C),130.8(1'-C),131.2(2',6'-C),141.4(β-C),147.6(2'''-C),158.3(2-C),159.5(4-C),160.9(4'-C),190.8(C=O)
【0060】
以上の結果から、得られた各精製物のそれぞれが、リクイリチン(試料1)、リクイリチゲニン(試料2)、イソリクイリチン(試料3)、イソリクイリチゲニン(試料4)及びリコカルコンA(試料5)であることが確認された。
【0061】
〔試験例1〕表皮角化細胞におけるグルタチオン産生促進作用試験
上記のようにして得られたリクイリチン、リクイリチゲニン、イソリクイリチン、イソリクイリチゲニン及びリコカルコンA(試料1〜5)について、以下のようにして表皮角化細胞におけるグルタチオン産生促進作用を試験した。
【0062】
正常ヒト新生児包皮表皮角化細胞(Normal Human Epidermal Keratinocyte:NHEK)を、正常ヒト表皮角化細胞長期培養用増殖培地(EpiLife-KG2)を用いて培養した後、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を1.0×10cells/mLの細胞密度になるようにEpiLife-KG2で希釈した後、48ウェルプレートに1ウェル当たり200μLずつ播種し、一晩培養した。
【0063】
培養後、EpiLife-KG2で溶解した試料溶液(試料1〜5,試料濃度は下記表1を参照)を各ウェルに200μL添加し、24時間培養した。培養終了後、各ウェルから培地を抜き、400μLのPBS(−)にて洗浄後、150μLのM−PER(PIERCE社製)を使用して細胞を溶解した。
【0064】
このうちの100μLを使用して総グルタチオンの定量を行った。すなわち、96ウェルプレートに溶解した細胞抽出液100μL、0.1Mのリン酸緩衝液50μL、2mMのNADPH25μL及びグルタチオンレダクターゼ25μL(終濃度17.5unit/mL)を加え37℃で10分間加温した後、10mMの5,5'-dithiobis(2-nitrobenzoic acid)25μLを加え、5分後までの波長412nmにおける吸光度を測定し、ΔOD/minを求めた。総グルタチオン濃度は、酸化型グルタチオン(和光純薬社製)を使用して作成した検量線をもとに算出した。得られた値を総タンパク量当たりのグルタチオン量に補正した後、下記式に基づいてグルタチオン産生促進率(%)を算出した。
【0065】
グルタチオン産生促進率(%)=B/A×100
式中、Aは「試料無添加時の細胞中における総タンパク量当たりのグルタチオン量(対照)」を表し、Bは「試料添加時の細胞中における総タンパク量当たりのグルタチオン量」を表す。
結果を表1に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
表1に示すように、リクイリチン、リクイリチゲニン、イソリクイリチン、イソリクイリチゲニン及びリコカルコンAは、いずれも表皮角化細胞においてグルタチオンの産生を効果的に促進し得ることが確認された。
【0068】
〔試験例2〕皮膚線維芽細胞におけるグルタチオン産生促進作用試験
上記のようにして得られたリクイリチン、リクイリチゲニン、イソリクイリチン、イソリクイリチゲニン及びリコカルコンA(試料1〜5)について、以下のようにして皮膚線維芽細胞におけるグルタチオン産生促進作用を試験した。
【0069】
ヒト正常皮膚線維芽細胞(NB1RGB)を、10%FBS含有α−MEMを用いて培養した後、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を2.0×10cells/mLの細胞密度になるように10%FBS含有α−MEMで希釈した後、48ウェルプレートに1ウェルあたり200μLずつ播種し、一晩培養した。
【0070】
培養後、1%FBS含有D−MEMで溶解した試料溶液(試料1〜5,試料濃度は下記表2を参照)を各ウェルに200μL添加し、24時間培養した。培養終了後、各ウェルから培地を抜き、400μLのPBS(−)にて洗浄後、150μLのM−PER(PIERCE社製)を用いて細胞を溶解した。
【0071】
このうちの100μLを使用して総グルタチオンの定量を行った。すなわち、96ウェルプレートに溶解した細胞抽出液100μL、0.1Mのリン酸緩衝液50μL、2mMのNADPH25μL及びグルタチオンレダクターゼ25μL(終濃度17.5unit/mL)を加え37℃で10分間加温した後、10mMの5,5'-dithiobis(2-nitrobenzoic acid)25μLを加え、5分後までの波長412nmにおける吸光度を測定し、ΔOD/minを求めた。総グルタチオン濃度は、酸化型グルタチオン(和光純薬社製)を使用して作成した検量線をもとに算出した。得られた値を総タンパク量当たりのグルタチオン量に補正した後、下記式に基づいてグルタチオン産生促進率(%)を算出した。
【0072】
グルタチオン産生促進率(%)=B/A×100
式中、Aは「試料無添加時の細胞中における総タンパク量当たりのグルタチオン量(対照)」を表し、Bは「試料添加時の細胞中における総タンパク量当たりのグルタチオン量」を表す。
結果を表2に示す。
【0073】
【表2】

【0074】
表2に示すように、リクイリチン、リクイリチゲニン、イソリクイリチン、イソリクイリチゲニン及びリコカルコンAは、いずれも皮膚線維芽細胞においてグルタチオンの産生を効果的に促進し得ることが確認された。
【0075】
〔試験例3〕B16メラノーマ細胞におけるグルタチオン産生促進作用試験
上記のようにして得られたリクイリチン、リクイリチゲニン、イソリクイリチン、イソリクイリチゲニン及びリコカルコンA(試料1〜5)について、以下のようにしてB16メラノーマ細胞におけるグルタチオン産生促進作用を試験した。
【0076】
B16メラノーマ細胞を、10%FBS含有D−MEM培地を用いて培養した後、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を1.0×10cells/mLの細胞密度になるように10%FBS含有D−MEM培地で希釈した後、48ウェルプレートに1ウェル当たり200μLずつ播種し、一晩培養した。
【0077】
培養後、1%FBS含有D−MEM培地で溶解した試料溶液(試料1〜5,試料濃度は下記表3を参照)を各ウェルに200μL添加し、24時間培養した。培養終了後、各ウェルから培地を抜き、400μLのPBS(−)にて洗浄後、150μLのM−PER(PIERCE社製)を使用して細胞を溶解した。
【0078】
このうちの100μLを使用して総グルタチオンの定量を行った。すなわち、96ウェルプレートに溶解した細胞抽出液100μL、0.1Mのリン酸緩衝液50μL、2mMのNADPH25μL及びグルタチオンレダクターゼ25μL(終濃度17.5unit/mL)を加え37℃で10分間加温した後、10mMの5,5'-dithiobis(2-nitrobenzoic acid)25μLを加え、5分後までの波長412nmにおける吸光度を測定し、ΔOD/minを求めた。総グルタチオン濃度は、酸化型グルタチオン(和光純薬社製)を使用して作成した検量線をもとに算出した。得られた値を総タンパク量当たりのグルタチオン量に補正した後、下記式に基づいてグルタチオン産生促進率(%)を算出した。
【0079】
グルタチオン産生促進率(%)=B/A×100
式中、Aは「試料無添加時の細胞中における総タンパク量当たりのグルタチオン量(対照)」を表し、Bは「試料添加時の細胞中における総タンパク量当たりのグルタチオン量」を表す。
結果を表3に示す。
【0080】
【表3】

【0081】
表3に示すように、リクイリチン、リクイリチゲニン、イソリクイリチン、イソリクイリチゲニン及びリコカルコンAは、いずれもB16メラノーマ細胞においてグルタチオンの産生を効果的に促進し得ることが確認された。
【0082】
〔試験例4〕肝細胞におけるグルタチオン産生促進作用試験
上記のようにして得られたリクイリチン、リクイリチゲニン、イソリクイリチン、イソリクイリチゲニン及びリコカルコンA(試料1〜5)について、以下のようにして肝細胞におけるグルタチオン産生促進作用を試験した。
【0083】
正常ヒト肝細胞(Cell System-Hc Cells,セルシステムズ社)を、CS−C無血清培地(セルシステムズ社製)を用いて培養した後、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を1.0×10cells/mLの細胞密度になるようにCS−C無血清培地で希釈した後、24ウェルプレートに1ウェルあたり400μLずつ播種し、一晩培養した。
【0084】
培養後、CS−C無血清培地で溶解した試料溶液(試料1〜5,試料濃度は下記表4を参照)を各ウェルに400μL添加し、24時間培養した。培養終了後、各ウェルから培地を抜き、400μLのPBS(−)にて洗浄後、250μLのM−PER(PIERCE社製)を用いて細胞を溶解した。
【0085】
このうちの100μLを用いて総グルタチオンの定量を行った。すなわち、96ウェルプレートに溶解した細胞抽出液100μL、0.1Mのリン酸緩衝液50μL、2mMのNADPH25μL及びグルタチオンレダクターゼ25μL(終濃度17.5unit/mL)を加え37℃で10分間加温した後、10mMの5,5'-dithiobis(2-nitrobenzoic acid)25μLを加え、5分後までの波長412nmにおける吸光度を測定し、ΔOD/minを求めた。総グルタチオン濃度は、酸化型グルタチオン(和光純薬社製)を使用して作成した検量線をもとに算出した。得られた値を総タンパク量当たりのグルタチオン量に補正した後、下記式に基づいてグルタチオン産生促進率(%)を算出した。
【0086】
グルタチオン産生促進率(%)=B/A×100
式中、Aは「試料無添加時の細胞中における総タンパク量当たりのグルタチオン量(対照)」を表し、Bは「試料添加時の細胞中における総タンパク量当たりのグルタチオン量」を表す。
結果を表4に示す。
【0087】
【表4】

【0088】
表4に示すように、リクイリチン、リクイリチゲニン、イソリクイリチン、イソリクイリチゲニン及びリコカルコンAは、いずれも肝細胞においてグルタチオンの産生を促進し得ることが確認された。
【0089】
〔試験例5〕表皮角化細胞におけるγ−グルタミルシステインシンテターゼmRNA発現促進作用試験
上記のようにして得られたリクイリチン、リクイリチゲニン、イソリクイリチン、イソリクイリチゲニン及びリコカルコンA(試料1〜5)について、以下のようにして表皮角化細胞におけるγ−グルタミルシステインシンテターゼmRNA発現促進作用を試験した。
【0090】
正常ヒト新生児表皮角化細胞(Normal Human Epidermal Keratinocyte:NHEK)を、正常ヒト表皮角化細胞長期培養増殖培地(EpiLife-KG2)を用いた培養した後、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を1.0×10cells/mLの細胞密度になるようにEpiLife-KG2で希釈した後、35mmシャーレに2.5mLずつ播種し、一晩培養した。
【0091】
培養後、EpiLife-KG2で溶解した試料溶液(試料1〜5,試料濃度は下記表5を参照)を2.5mL添加し、さらに16時間培養した。培養終了後、培養液を捨て、ISOGEN(ニッポンジーン社製,Cat.No.311-02501)にて総RNAを抽出し、それぞれのRNA量を分光光度計にて測定し、200μg/mLになるように総RNAを調整した。
【0092】
この総RNAを鋳型とし、γ−グルタミルシステインシンテターゼ及び内部標準であるGAPDHのmRNAの発現量を測定した。検出はリアルタイムPCR装置Smart Cycler(Cepheid社製)を用いて、TaKaRa SYBR PrimeScriptTM RT-PCR Kit(Perfect Real Time,code No. RR063A)によるリアルタイム2StepRT−PCR反応により行った。γ−グルタミルシステインシンテターゼのmRNAの発現量は、同一サンプルにおけるGAPDHのmRNAの発現量の値で補正を行った後、さらに「試料無添加時」の補正値を100としたときの「試料添加時」の補正値を算出した後に、下記式に基づいてγ−グルタミルシステインシンテターゼのmRNAの発現促進率(%)を算出した。
【0093】
mRNA発現促進率(%)=B/A×100
式中、Aは「試料無添加時のmRNA発現量(対照)」を表し、Bは「試料添加時のmRNA発現量」を表す。
結果を表5に示す。
【0094】
【表5】

【0095】
表5に示すように、リクイリチン、リクイリチゲニン、イソリクイリチン、イソリクイリチゲニン及びリコカルコンAは、いずれも表皮角化細胞においてγ−グルタミルシステインシンテターゼmRNAの発現を効果的に促進し得ることが確認された。
【0096】
〔試験例6〕皮膚線維芽細胞におけるγ−グルタミルシステインシンテターゼmRNA発現促進作用試験
上記のようにして得られたリクイリチン、リクイリチゲニン、イソリクイリチン、イソリクイリチゲニン及びリコカルコンA(試料1〜5)について、以下のようにして皮膚線維芽細胞におけるγ−グルタミルシステインシンテターゼmRNA発現促進作用を試験した。
【0097】
ヒト正常皮膚線維芽細胞(NB1RGB)を、10%FBS含有α−MEMを用いた培養した後、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を2.0×10cells/mLの細胞密度になるように10%FBS含有アルファ−MEMで希釈した後、35mmシャーレに2.5mLずつ播種し、一晩培養した。
【0098】
培養後、1%FBS含有D−MEMで溶解した試料溶液(試料1〜5,試料濃度は下記表6を参照)を2.5mL添加し、さらに16時間培養した。培養終了後、培養液を捨て、ISOGEN(ニッポンジーン社製,Cat.No.311-02501)にて総RNAを抽出し、それぞれのRNA量を分光光度計にて測定し、200μg/mLになるように総RNAを調整した。
【0099】
この総RNAを鋳型とし、γ−グルタミルシステインシンテターゼ及び内部標準であるGAPDHのmRNAの発現量を測定した。検出はリアルタイムPCR装置Smart Cycler(Cepheid社製)を用いて、TaKaRa SYBR PrimeScriptTM RT-PCR Kit(Perfect Real Time,code No. RR063A)によるリアルタイム2StepRT−PCR反応により行った。γ−グルタミルシステインシンテターゼのmRNAの発現量は、同一サンプルにおけるGAPDHのmRNAの発現量の値で補正を行った後、さらに「試料無添加時」の補正値を100としたときの「試料添加時」の補正値を算出した後に、下記式に基づいてγ−グルタミルシステインシンテターゼのmRNAの発現促進率(%)を算出した。
【0100】
mRNA発現促進率(%)=B/A×100
式中、Aは「試料無添加時のmRNA発現量(対照)」を表し、Bは「試料添加時のmRNA発現量」を表す。
結果を表6に示す。
【0101】
【表6】

【0102】
表6に示すように、リクイリチン、リクイリチゲニン、イソリクイリチン、イソリクイリチゲニン及びリコカルコンAは、いずれも皮膚線維芽細胞においてγ−グルタミルシステインシンテターゼmRNAの発現を効果的に促進し得ることが確認された。
【0103】
〔試験例7〕肝細胞におけるγ−グルタミルシステインシンテターゼmRNA発現促進作用試験
上記のようにして得られたリクイリチン、リクイリチゲニン、イソリクイリチン、イソリクイリチゲニン及びリコカルコンA(試料1〜5)について、以下のようにして肝細胞におけるγ−グルタミルシステインシンテターゼmRNA発現促進作用を試験した。
【0104】
正常ヒト肝細胞(Cell System-Hc Cells,セルシステムズ社)を、CS−C無血清培地(セルシステムズ社製)を用いて培養した後、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を1.0×10cells/mLの細胞密度になるようにCS−C無血清培地で希釈した後、35mmシャーレに2.5mLずつ播種し、一晩培養した。
【0105】
培養後、CS−C無血清培地で溶解した試料溶液(試料1〜5,試料濃度は下記表7を参照)を2.5mL添加し、さらに16時間培養した。培養終了後、培養液を捨て、ISOGEN(ニッポンジーン社製,Cat.No.311-02501)にて総RNAを抽出し、それぞれのRNA量を分光光度計にて測定し、200μg/mLになるように総RNAを調整した。
【0106】
この総RNAを鋳型とし、γ−グルタミルシステインシンテターゼ及び内部標準であるGAPDHのmRNAの発現量を測定した。検出はリアルタイムPCR装置Smart Cycler(Cepheid社製)を用いて、TaKaRa SYBR PrimeScript RT-PCR Kit(Perfect Real Time,code No. RR063A)によるリアルタイム2StepRT−PCR反応により行った。γ−グルタミルシステインシンテターゼのmRNAの発現量は、同一サンプルにおけるGAPDHのmRNAの発現量の値で補正を行った後、さらに「試料無添加時」の補正値を100としたときの「試料添加時」の補正値を算出した後に、下記式に基づいてγ−グルタミルシステインシンテターゼのmRNAの発現促進率(%)を算出した。
【0107】
mRNA発現促進率(%)=B/A×100
式中、Aは「試料無添加時のmRNA発現量(対照)」を表し、Bは「試料添加時のmRNA発現量」を表す。
結果を表7に示す。
【0108】
【表7】

【0109】
表7に示すように、リクイリチン、リクイリチゲニン、イソリクイリチン、イソリクイリチゲニン及びリコカルコンAは、いずれも肝細胞においてγ−グルタミルシステインシンテターゼmRNAの発現を効果的に促進し得ることが確認された。
【0110】
上述した試験例1〜4から明らかなように、リクイリチン、リクイリチゲニン、イソリクイリチン、イソリクイリチゲニン及びリコカルコンAは、いずれも優れたグルタチオン産生促進作用を有している。また、試験例5〜7から明らかなように、リクイリチン、リクイリチゲニン、イソリクイリチン、イソリクイリチゲニン及びリコカルコンAは、いずれも優れたγ−グルタミルシステインシンテターゼmRNA発現促進作用を有している。このことから、リクイリチン、リクイリチゲニン、イソリクイリチン、イソリクイリチゲニン及びリコカルコンAは、γ−グルタミルシステインシンテターゼmRNA発現促進作用を通じて、グルタチオンの前駆体であるγ−グルタミルシステインの生合成を促進し、それにより生体内でのグルタチオンの産生を促進しているものと推察される。
【0111】
〔配合例1〕
常法により、以下の組成を有する錠剤を製造した。
リクイリチン(試料1) 7.5mg
イソリクイリチゲニン(試料4) 3.5mg
リコカルコンA(試料5) 4.0mg
乳精ミネラル(カルシウム25〜30%含有) 100.0mg
ビタミンK(1%含有粉末) 1.5mg
マルチトール 171.0mg
グリセリン脂肪酸エステル 12.5mg
【0112】
〔配合例2〕
常法により、以下の組成を有する錠剤を製造した。
リクイリチゲニン(試料2) 3.0mg
イソリクイリチゲニン(試料4) 2.0mg
ドロマイト(カルシウム20%、マグネシウム10%含有) 83.4mg
カゼインホスホペプチド 16.7mg
ビタミンC 33.4mg
マルチトール 136.8mg
コラーゲン 12.7mg
ショ糖脂肪酸エステル 12.0mg
【0113】
〔配合例3〕
常法により、以下の組成を有するカプセル剤を製造した。なお、カプセルとしては、1号ハードゼラチンカプセルを使用した。
<1カプセル(1錠200mg)中の組成>
イソリクイリチン(試料3) 4.0mg
イソリクイリチゲニン(試料4) 4.0mg
リコカルコンA(試料5) 2.0mg
コーンスターチ 70.0mg
乳糖 100.0mg
乳酸カルシウム 10.0mg
ヒドロキシプロピルセルロース(HPC−L) 10.0mg
【0114】
〔配合例4〕
常法により、以下の組成を有する経口液状製剤を製造した。
<1アンプル(1本100mL)中の組成>
リクイリチン(試料1) 0.2質量%
イソリクイリチゲニン(試料4) 0.1質量%
ソルビット 12.0質量%
安息香酸ナトリウム 0.1質量%
香料 1.0質量%
硫酸カルシウム 0.5質量%
精製水 残部(100質量%)
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明のグルタチオン産生促進剤は、皮膚の老化、シミ、紫外線の照射による酸化ストレスに対する傷害、グルタチオンの欠乏に起因する疾患(例えば、活性酸素種等の酸化ストレスによって起こる疾患;肝炎、肝機能障害等の肝臓疾患;慢性腎不全;特発性肺線維症、成人呼吸器障害症候群等の呼吸器系疾患;白内障;虚血性心疾患;パーキンソン病;アルツハイマー病:胃潰瘍等の消化器系疾患;癌;骨髄形成不全;後天性免疫不全症候群;潜伏性ウイルス感染症等)、酸化型グルタチオンの欠乏に起因する不眠症等の睡眠障害等の予防、治療又は改善に大きく貢献できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リクイリチン、リクイリチゲニン、イソリクイリチン、イソリクイリチゲニン及びリコカルコンAからなる群より選ばれる1種又は2種以上を有効成分として含有することを特徴とするグルタチオン産生促進剤。
【請求項2】
リクイリチン、リクイリチゲニン、イソリクイリチン、イソリクイリチゲニン及びリコカルコンAからなる群より選ばれる1種又は2種以上を有効成分として含有することを特徴とするグルタチオンの欠乏に起因する疾患の予防・治療剤。
【請求項3】
リクイリチン、リクイリチゲニン、イソリクイリチン、イソリクイリチゲニン及びリコカルコンAからなる群より選ばれる1種又は2種以上を配合したことを特徴とする飲食品。

【公開番号】特開2009−269889(P2009−269889A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−123940(P2008−123940)
【出願日】平成20年5月9日(2008.5.9)
【出願人】(591082421)丸善製薬株式会社 (239)
【Fターム(参考)】