説明

ケーブル式ステアリング装置

【課題】ハンドルの位相のずれが無く、しかも簡単な構成で衝撃を吸収することのできるステアリング装置を提供する。
【解決手段】アウターケーシング5aは、内部にインナーケーブル5bを摺動自在に収容して、両端部がハウジング接続部41に接続され、基端部13aと先端部13bとを有する皿バネ13を有し、皿バネ13は、基端部13aが駆動側ハウジング2及び/又は従動側ハウジング4に設けられたバネ受け部43に接続し、先端部13bが前記アウターケーシング5aと直接又は間接に圧接し、ステアリングロッドより従動プーリ10を介して前記インナーケーブル5bに伝達された衝撃を、衝撃が伝達された前記アウターケーシング5aを介して吸収する弾性力を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリングハンドルとステアリングギヤボックスとをコントロールケーブルで接続するケーブル式ステアリング装置に関する。さらに詳しくは、車輪などからインナーケーブルに伝達される衝撃を、アウターケーシングを介して吸収する弾性力を有する皿バネを備えたケーブル式ステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のケーブル式ステアリング装置として、ステアリングハンドルに連結されて回転する駆動プーリと車輪を転舵するステアリングギヤボックスに連結されて回転する従動プーリとを操作ケーブルで接続したケーブル式ステアリング装置において、ステアリングハンドルと駆動プーリとの間及び従動プーリとステアリングギヤボックスとの間の少なくとも一方に、摩擦材を用いて所定値以上のトルクの伝達を阻止する伝達トルク制限機構を設けたケーブル式ステアリング装置が開示されている(たとえば特許文献1参照)。すなわち、このステアリング装置では、図6に示されるように、車輪に受ける衝撃を吸収するために、従動プーリ100とステアリングギヤボックス101との間に伝達トルク制限機構であるトルクリミッタ102が設けられている。このトルクリミッタ102には、従動プーリ100からステアリングギヤボックス101の方向へと延びるプーリシャフト103と、プーリシャフト103と同軸状に設けられるアウトプットシャフト106との間に摩擦材107、108が設けられている。このアウトプットシャフト106には、ステアリングロッド111に設けられているラック104と噛合うピニオンギヤ105が形成されており、縁石にタイヤが衝突することなどによる路面からの反力トルクが所定以上になると、摩擦材107、108により、プーリシャフト103がアウトプットシャフト106に対してスリップすることにより、車輪から伝達する衝撃を吸収して、衝撃によるインナーケーブル109、110の永久伸びが発生することを防止している。また、駆動プーリ側(図示せず)において、駆動プーリのプーリシャフトとステアリングハンドルとの間にも、従動プーリ100側と同様の摩擦材が設けられ、摩擦材により、インナーケーブル109、110の永久伸びが発生することを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−217161号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述のように、ステアリング装置としてケーブル式ステアリング装置を用いた車両を運転中に、縁石とタイヤとの衝突などが起きてステアリング装置に衝撃が与えられた場合には、ステアリング装置に用いられているケーブルに衝撃が加わり、ケーブルを損傷する可能性がある。このようなケーブルの損傷を抑制するために、特許文献1では、プーリシャフト103とアウトプットシャフト106との間に、摩擦材107、108を設け、車輪に衝撃が加わったときに、摩擦材107、108の部位でプーリシャフト103をアウトプットシャフト106に対して滑らせることにより、プーリシャフト103とアウトプットシャフト106の回転角が相対的に変り、車輪からの衝撃が緩衝され、車輪からの衝撃がそのままインナーケーブルには伝わらなくなるため、インナーケーブル109、110の損傷を抑制することができる。
【0005】
しかしながら、前述の摩擦材を用いる構成では、衝撃が加わった場合に、摩擦材107、108を挟んだプーリシャフト103とアウトプットシャフト106の回転角が変るため、ハンドルとタイヤ操舵の位相がずれてしまい、すなわちタイヤが車両の直進方向に位置するときのハンドルの位置が、摩擦前のハンドルの位置から左又は右に回転した状態にずれて保持されてしまうことになり、車両の運転者の操作感覚に影響を与えてしまう。また、装置構成としても複雑である。このことは、駆動プーリ側のプーリシャフトとステアリングハンドルとの間に摩擦材を設ける場合でも同様の問題が生じる。
【0006】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたもので、ハンドルの位相のずれが無く、しかも簡単な構成で衝撃を吸収することのできるステアリング装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のケーブル式ステアリング装置は、
ハンドル側に取り付けられる駆動側ハウジングと、
前記駆動側ハウジング内に回転自在に収納され、ハンドルからのトルク伝達をする駆動プーリと、
ギヤボックス側に取り付けられる従動側ハウジングと、
前記従動側ハウジング内に回転自在に収納され、ステアリングロッドを摺動移動させるピニオンギヤにトルクを伝達する従動プーリと、
前記駆動プーリ及び前記従動プーリと接続してトルクを伝達する一対のコントロールケーブルとを備え、
前記コントロールケーブルはそれぞれアウターケーシング及びインナーケーブルを有し、
前記インナーケーブルは、前記駆動プーリ及び前記従動プーリに互いに逆方向に巻き付けられて、前記駆動側ハウジングと前記従動側ハウジングとのハウジング接続部においてそれぞれ設けられたインナーケーブル挿通孔に挿通されてハウジング外側に延在され、前記駆動プーリと前記従動プーリとを連結しトルクの伝達をする
ケーブル式ステアリング装置であって、
前記アウターケーシングは、内部に前記インナーケーブルを摺動自在に収容して、両端部が前記ハウジング接続部に接続され、
基端部と先端部とを有する皿バネを有し、
前記皿バネは、前記基端部が前記駆動側ハウジング及び/又は前記従動側ハウジングに設けられたバネ受け部に接続し、前記先端部が前記アウターケーシングと直接又は間接に圧接し、前記ステアリングロッドより従動プーリを介して前記インナーケーブルに伝達された衝撃を、前記衝撃が伝達された前記アウターケーシングを介して吸収する弾性力を有する
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明のステアリング装置を用いることにより、インナーケーブルに入力された衝撃がアウターケーシングを介して皿バネに伝達されるので、インナーケーブルの損傷を抑制するためにハンドルの位相にズレが生じることを防止できる。また、皿バネに替えて衝撃を吸収するためにコイルスプリングを用いた場合には、衝撃を吸収するためにコイルバネの弾性力が必要であるので、コイルスプリングの長さが必要であるために伸縮量も長くなるために、衝撃時にコイルスプリングと圧接するアウターケーシングが大きく移動することになる。そのため、衝撃吸収にスプリングコイルを用いたケーブル式ステアリング装置は、車内に配索されてクランプにより固定されたアウターケーシングが、クランプ固定部分でアウターケーシングの移動に伴って生じる小曲げができるように車内で配索されなければならず、レイアウトの自由度が制限されるが、本発明ではこのような自由度の制限が抑制される。
【0009】
前記アウターケーシングは、端部にケーシングキャップを備え、前記ケーシングキャップには、前記皿バネと圧接する圧接部を設けることにより、圧接部による皿バネとの係合を確実にできるので、インナーケーブルに入力された衝撃をアウターケーシングで吸収することができる。
【0010】
また、前記圧接部が螺進退可能なナットであることにより、簡単に皿バネに圧接することができ、しかも圧接の程度を変えて弾性変形に必要な初期応力を調整して車種等に応じた衝撃吸収の調整を行なうこともできる。
【0011】
前記ケーシングキャップの先端に、前記ケーシングキャップとの軸方向に進退可能に固定され、前記駆動側ハウジング及び/又は前記従動側ハウジングとの位置を調節する位置調節部材を備えることにより、ケーシングキャップとアジャストナットの距離を調整しケーブル長のバラツキ、初期張力を調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のケーブル式ステアリング装置を説明するための全体斜視図である。
【図2】本発明のケーブル式ステアリング装置の、従動プーリとステアリングロッドのトルク伝達機構の一例を示す図である。
【図3】本発明のケーブル式ステアリング装置の一実施の形態を示す図である。
【図4】図3における従動プーリとアウターケーシングの接続部位の一部拡大図である。
【図5】本発明のケーブル式ステアリング装置の作用を説明するための皿バネ近傍の概念図である。
【図6】従来のステアリング装置を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照し、本発明のケーブル式ステアリング装置を詳細に説明する。
【0014】
図1に車両の運転者が操作するハンドル1、車両の左右の前輪タイヤWL、WRを含めた本発明のケーブル式ステアリング装置の全体斜視図を示す。図1に示されるように、車両のハンドル1よりも後方側に設けられた駆動側ハウジング2と、ステアリングギヤボックス(以下、単にギヤボックスともいう)3側に設けられた従動側ハウジング4とが、一対のコントロールケーブル5、6によって接続されている。ギヤボックス3からタイヤWL、WRに向かって車体左右方向に延びるステアリングロッド7L、7Rが、左右のタイヤWL、WRを支持するナックル(図示せず)に接続される。なお、図示していないが、運転者のハンドル操作を楽にするための電動式パワーステアリングシステムなどのハンドル操作のアシスト機構を設けてもよく、アシスト機構を設けたものも当然に本発明の範囲に含まれる。
【0015】
駆動側ハウジング2内には、駆動プーリ8(図3参照)が回転自在に収納され、ハンドル1から延びる駆動側回転軸9と駆動プーリ8とが固定され(図3参照)、ハンドル1の操舵トルクが駆動プーリ8に伝達される。また、従動側ハウジング4内には、図2及び図3に示されるように、従動プーリ10が回転自在に収納され、従動プーリ10は従動側回転軸11と固定されている。前述の一対のコントロールケーブル5、6は、アウターケーシング5a、6aと、そのアウターケーシング5a、6a内に摺動自在に収容されるインナーケーブル5b、6bとから構成されており、駆動プーリ8と従動プーリ10とは、一対のコントロールケーブル5、6により接続されている。コントロールケーブル5、6は、駆動側ハウジング2から従動側ハウジング4に向かって車内で湾曲して配索され(図1参照)、クランプなどの固定部材により、車内に固定される。
【0016】
インナーケーブル5b、6bは、駆動プーリ8及び従動プーリ10の外周に形成された螺旋状のプーリ溝(図示せず)に複数回巻きつけられており、一方のインナーケーブル5bが、時計回りに駆動プーリ8に巻きつけられたときは、他方のインナーケーブル6bは反時計回りに駆動プーリ8に巻きつけられるように、互いに逆方向に巻き付けられている。それぞれのインナーケーブル5b、6bの両端部は、駆動プーリ8及び従動プーリ10の両端面にそれぞれ形成されたケーブルエンド固定部12においてそれぞれ固定されている(図3では各プーリの片側面のケーブルエンド固定部12のみが示されているが、各インナーケーブルのもう一方のケーブルエンドが固定されるケーブルエンド固定部12については、プーリの反対側面での回転軸を中心とした対称な位置に同様に形成されている)。駆動側ハウジング2、従動側ハウジング4においてアウターケーシング5a、6aと接続されるハウジング接続部21、41に形成されたインナーケーブル5b、6bを挿通するためのインナーケーブル挿通孔22、42に、両端部が固定されたインナーケーブル5b、6bが挿通され、駆動側ハウジング2の外側及び従動側ハウジング4の外側にインナーケーブル5b、6bが延在され、駆動プーリ8及び従動プーリ10がインナーケーブル5b、6bを介して連結されトルクの伝達を行なう。後述するが、アウターケーシング5a、6aの両端は、駆動側ハウジング2及び従動側ハウジング4に取り付けられる。
【0017】
また、図1〜3に示されるように、ハンドル1から、駆動プーリ8、コントロールケーブル5、6、従動プーリ10を介して伝わった操舵トルクは、図2に示されるように、従動プーリ10とともに回転する従動側回転軸11に形成されたピニオンギヤPが、ステアリングロッド7に形成されたラックRと噛合うことによりステアリングロッド7に伝達され、ステアリングロッド7がギヤボックス3内を摺動移動し、タイヤWL、WRが操舵される。
【0018】
つぎに、図3及び図4を用いて、タイヤWL、WRからの衝撃を吸収するためのアウターケーシング5a、6aの従動側ハウジング4への接続機構を説明する。
【0019】
図3及び図4に示されるように、車内に配索されるアウターケーシング5a、6aは従動側ハウジング4のハウジング接続部41に、衝撃を吸収するための皿バネ13を介して接続される。ここで、「皿バネ」とは、本明細書においては、略円錐台状の部材の中心にインナーケーブル5b、6bが挿通される孔が形成されたものであるが、円錐台の高さを低くする方向に弾性変形が可能なものや、円板状の部材の中央にインナーケーブルを挿通する孔を形成したものや、弾性変形可能な板バネ状のものを含む概念である。円錐台の高さ、円錐台の側面の形状、孔の形状等は、特に限定されるものではなく、所望の弾性力に応じて適宜変更が可能である。たとえば、外形が皿状に湾曲したものでもよく、また孔の形状は皿バネ13の外形に沿った形状など、種々の形状に形成することができる。皿バネ13は、図3及び図4では、別部材として記載しているが、たとえば従動側ハウジング4のハウジング接続部41と一体に形成することもできるし、アウターケーシング5a、6aや、後述するケーシングキャップ14、位置調節部材15のいずれかの部材と一体に形成してバネ作用を得るものであってもよい。なお、皿バネ13の弾性力は、適宜変更が可能であるが、通常の運転者の操舵操作によって加わるアウターケーシング5a、6aからの押圧力によっては、皿バネ13が撓まず、タイヤWL、WRが縁石等に衝突した場合を想定し、運転者の操舵操作により加わるアウターケーシング5a、6aからの押圧力よりも所定量多い力が加わった場合に弾性変形するように構成されればよく、特に所定のバネ定数、材質等に限られるものではない。このような皿バネ13を用いることにより、わずかな操舵操作により皿バネ13が撓むことがなく、運転者の操舵操作のフィーリングを良くすることができる。なお、皿バネは、複数重ねた集合体として用いることも可能であり、複数の皿バネを累積させ、直列的に重ねることで、コンパクトであって、しかも所望の荷重設定を容易に得ることもできる。
【0020】
皿バネ13は、基端部13a及び先端部13bを有し(図4参照)、基端部13aとは、皿バネ13においてハウジング接続部41と接続される側の部位をいい、先端部13bとは、皿バネ13においてアウターケーシング5a、6aと接続される側の部位をいうものである。図4においては、皿バネ13は円錐台状の形状を呈し、基端部13aは、円錐台状の皿バネ13の底面側、すなわち円錐台の径が大きい側を示し、先端部13bは、基端部13aの反対側の皿バネ13の頂部側、すなわち円錐台の径が小さい側を示しているが、皿バネ13を逆に配置したもの、すなわち円錐台の径が大きい側をアウターケーシング5a、6a側にし、円錐台の径が小さい側をハウジング接続部41側とすることも当然可能である。この場合は、径の小さい側が基端部13a、径の大きい側を先端部13bとする。
【0021】
皿バネ13の基端部13aは、ハウジング接続部41のバネ受け部43に接続される。ここで、皿バネ13の基端部13aが、バネ受け部43に接続するとは、皿バネ13の基端部13aが、直接にバネ受け部43と当接して接続される場合だけでなく、皿バネ13の基端部13aと、バネ受け部43の間に別部材を設け、当該別部材を介して間接に接続されることを含むものである。なお、バネ受け部43は、皿バネ13と当接するハウジング接続部41の部位、又は、皿バネ13からの圧力が加わるハウジング接続部41の部位をいうものであり、図4においては、ハウジング接続部41のアウターケーシング5a側の外側表面を示しているが、たとえば、皿バネ13を、ハウジング接続部41のインナーケーブル挿通孔42が形成されている内周壁44から内側に向かう方向に、取り付け又は一体的に形成した場合には、バネ受け部43は、内周壁44の位置となる。
【0022】
皿バネ13の先端部13bは、アウターケーシング5a、6aに直接又は間接に圧接される。ここで、「直接又は間接」とは、皿バネ13の先端部13bが、アウターケーシング5a、6aの端部により直接圧接される場合であっても、後述するように、アウターケーシング5a、6aの端部に取り付けられる別部材を介して圧接する場合であってもよいという意味である。また、「圧接」とは、アウターケーシング5a、6aの端部と、皿バネ13の先端部13bとが、衝撃が加わったときにタイムラグが無く衝撃を吸収するために、力が皿バネ13に加わった状態で接続されるということである。
【0023】
以上の構成、すなわち、アウターケーシング5a、6aとハウジング接続部41のバネ受け部43の間に、皿バネ13を設け、タイヤWL、WRから衝撃が加わった場合に、インナーケーブル5b、6bへ伝わった衝撃を、アウターケーシング5a、6aを介して皿バネ13で吸収することにより、皿バネ13という簡単な構成で衝撃を吸収できるだけでなく、インナーケーブル5b、6bの損傷を抑制するためにハンドル1の位相ずれを引き起こす摩擦材を用いる必要がなくなる。また、図5に示すように、タイヤWL、WRから衝撃を受けた時の、皿バネ13の最大の変形量Dは、皿バネ13の高さよりも小さく、皿バネ13により、タイヤWL、WRからの衝撃を吸収できるだけでなく、アウターケーシング5a、6aの軸方向の移動量を少なくすることができる。
【0024】
一方、たとえば、衝撃を吸収するためにコイルスプリングを用いた場合には、衝撃を吸収するために、コイルスプリングの弾性力が必要であるので、コイルスプリングの長さが必要であり、伸縮量も長くなるために、衝撃時にコイルスプリングと圧接するアウターケーシング5a、6aが大きく移動することになる。そのため、衝撃吸収にコイルスプリングを用いた場合、車内に配索されてクランプにより固定されたアウターケーシング5a、6aが、クランプ固定部分でアウターケーシング5a、6aの移動に伴って生じるアウターケーシング5a、6aの小曲げ(曲率半径が小さいアウターケーシング5a、6aの湾曲した部分)ができるように車内で配索されなければならず、レイアウトの自由度が制限されるとともに、小曲げができるアウターケーシング5a、6aを用いる必要もある。本発明のように、皿バネ13を衝撃吸収に用いた場合には、アウターケーシング5a、6aの移動を、皿バネ13の高さよりも小さい範囲に抑えることができるので、アウターケーシング5a、6aの移動に伴って生じる小曲げを計算に入れてアウターケーシング5a、6aを配索する必要がなくなり、アウターケーシング5a、6aの車内での配索の自由度が高まる。さらに、アウターケーシング5a、6aの移動量が大きい場合には、アウターケーシング5a、6aのクランプ部分近傍で、アウターケーシング5a、6aが大きく移動することにより電子機器などと接触するという危険性があるが、本発明の場合は、アウターケーシング5a、6aの移動量が少ないので、クランプ部分近傍にも、電子機器などを配設することも可能となる。さらにまた、アウターケーシング5a、6aの移動に伴う、クランプのがたつきや振動を減らすことができ、クランプなどのアウターケーシング5a、6aの固定手段の寿命を長くすることもできる。一方、コイルスプリングの弾性力を強くし、ターン数を少なくして短くしようとしても、コイルスプリングの端部を平坦面にするには限界があり、平坦面になっていないと圧接力が均一にならなくなる。
【0025】
以下、図3及び図4を用いて、本発明の一実施の形態を説明する。なお、本発明は、図4に示された構成に限定されるものではない。図4に示されるように、アウターケーシング5aの端部は、アウターケーシング5aの端部を覆う略円筒状のケーシングキャップ14により覆われ、ケーシングキャップ14の外周側からかしめることによりアウターケーシング5aに固定されるが、アウターケーシング5aとケーシングキャップ14との固定手段は、特に限定されるものではない。ケーシングキャップ14は、当該ケーシングキャップ14内に挿通されるインナーケーブル5bとの接触を防止し、インナーケーブル5bの破損を防止するために、図4に示されるように、アウターケーシング5aが取り付けられる側とは反対側の端部に向かって、ケーシングキャップ14の内径が漸次大きくなるようにテーパ状に形成されたテーパ部14aが形成されていることが好ましい。
【0026】
図4においては、ケーシングキャップ14の外周は、ケーシングキャップ14と従動側ハウジング4との間の軸方向の位置を調節するための略円筒状の位置調節部材15により部分的に覆われている。位置調節部材15の従動側ハウジング4側の端部には、ハウジング接続部41のインナーケーブル挿通孔42が形成される位置に係止される係止部45が形成され、位置調節部材15が従動側ハウジング4から抜け落ちるのを防止している。位置調節部材15をケーシングキャップ14に対して軸方向に進退可能に固定することにより、ケーシングキャップ14と従動側ハウジング4との間の軸方向の距離を調整し、ケーブル長のバラツキ、初期張力を調整することができる。
【0027】
ケーシングキャップ14と位置調節部材15の間の連結は、ケーシングキャップ14の軸方向に移動可能で固定できるものであれば、特に限定されるものではないが、たとえば、ケーシングキャップ14の外周に雄ネジを形成し、位置調節部材15の内周面に雌ネジを形成し、ボルトナットの関係で連結してもよいし、ケーシングキャップ14の外周に軸方向にガイド溝を形成し、位置調節部材15をスライド可能、かつ、ケーシングキャップ14に対して固定可能にしてもよい。また、位置調節部材15が保持されるケーシングキャップ14の軸方向の位置がずれることを防止するために、図4に示されるように、ロックナット16を設けてもよい。
【0028】
また、図4においては、皿バネ13は、位置調節部材15の外周に設けられた皿バネ13の先端部13bと圧接する圧接部17と、ケーシングキャップ14のハウジング接続部41の皿バネ13と接触するバネ受け部43との間に挟持されており、圧接部17をケーシングキャップ14に対して螺進退可能なナットとすることにより、圧接部17をケーシングキャップ14の軸方向に移動させるだけで簡単に皿バネ13に圧接することができ、しかも皿バネ13への圧接部17の圧接の程度を変えて、皿バネ13の弾性変形に必要な初期張力を調整して車種等に応じた衝撃吸収力の調整を行なうこともできる。なお、図3において、駆動側ハウジング2側には、皿バネ13が設けられておらず、アウターケーシング5a、6aと駆動側ハウジング2とは、公知の接続部材により接続されているが、公知の接続部材に代えて、インナーケーブル5b、6bが伸びてしまった際に、その伸びを吸収するための、たとえば、ベローズ状の伸び取り部材(図示せず)により、アウターケーシング5a、6aと駆動側ハウジング2とを接続してもよい。
【0029】
なお、車輪からの衝撃は、まず従動プーリ10の側に伝わり、従動プーリ10から引き操作を受けるインナーケーブル5b、6bからアウターケーシング5a、6aを介して従動側ハウジング4に衝撃が伝わるので、皿バネ13を含む衝撃を吸収する機構は、図3及び図4に示すように、従動側ハウジング4側に設けることが好ましいが、当然、駆動側ハウジング2側だけに同様の構成の皿バネ13を含む衝撃を吸収する機構を設けることもできるし、駆動側ハウジング2側及び従動側ハウジング4側の両方に設けることも可能である。
【0030】
以下、本発明のケーブル式ステアリング装置の作用を説明する。
【0031】
タイヤWL、WRのいずれかが、縁石と衝突した場合、タイヤWL、WRからの衝撃力は、タイヤWL、WRから、ステアリングロッド7に伝わり、図2に示されるように、ギヤボックス3内のステアリングロッド7のラックR、ピニオンギヤP、従動側回転軸11を介して、従動側ハウジング4内の従動プーリ10に伝わり、従動プーリ10が回転する。
【0032】
従動プーリ10がたとえば、図3における矢印X方向に回転した場合、インナーケーブル5bに対して、縁石等との衝突により、運転者のハンドル操作時の引張力よりも遥かに大きな引張力が発生する。このインナーケーブル5bへの引張力により、インナーケーブル5bが直線状になろうとし、そのインナーケーブル5bが直線状になろうとする動きに伴い、車内のエンジンルーム内などに曲線状に配索されたアウターケーシング5aも直線状になろうとして、インナーケーブル5bとアウターケーシング5aとが強く摩擦され、アウターケーシング5aに衝撃力が伝わるとともに、従動側ハウジング4に向かってアウターケーシング5aが移動しようとする。
【0033】
アウターケーシング5aの従動側ハウジング4側へ移動しようとする押圧力は、アウターケーシング5aにより直接又は間接に圧接された皿バネ13の先端部13bに伝わる。この押圧力は、皿バネ13を押し潰して平らにするように(皿バネ13の高さを低くするように)作用し、図5の概念図に2点鎖線で示すように、皿バネ13が、長さDの分だけ押し潰される方向に弾性変形する。この皿バネ13の弾性変形により、インナーケーブル5bからアウターケーシング5aに伝わったタイヤWL、WRからの衝撃を吸収することができる。また、このとき、図5に2点鎖線で示すように、アウターケーシング5aも、皿バネ13の変形量と同じ長さDの分だけ移動するに過ぎず、衝撃を吸収できるうえに、アウターケーシング5aの移動量は小さく、車内に配索されたアウターケーシング5aは、クランプにより固定された部位においてもほとんど暴れることはない。さらに、皿バネ13により、アウターケーシング5aの押圧力を、アウターケーシング5aの軸方向に沿って吸収するので、摩擦部材を用いた場合のように、ハンドルの位相ずれが生じない。
【符号の説明】
【0034】
1 ハンドル
2 駆動側ハウジング
3 ギヤボックス
4 従動側ハウジング
5、6 コントロールケーブル
5a、6a アウターケーシング
5b、6b インナーケーブル
7、7L、7R ステアリングロッド
8 駆動プーリ
9 駆動側回転軸
10 従動プーリ
11 従動側回転軸
12 ケーブルエンド固定部
13 皿バネ
13a 基端部
13b 先端部
14 ケーシングキャップ
14a テーパ部
15 位置調節部材
16 ロックナット
17 圧接部
21、41 ハウジング接続部
22、42 インナーケーブル挿通孔
43 バネ受け部
44 内周壁
45 係止部
R ラック
P ピニオンギヤ
WL、WR タイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハンドル側に取り付けられる駆動側ハウジングと、
前記駆動側ハウジング内に回転自在に収納され、ハンドルからのトルク伝達をする駆動プーリと、
ギヤボックス側に取り付けられる従動側ハウジングと、
前記従動側ハウジング内に回転自在に収納され、ステアリングロッドを摺動移動させるピニオンギヤにトルクを伝達する従動プーリと、
前記駆動プーリ及び前記従動プーリと接続してトルクを伝達する一対のコントロールケーブルとを備え、
前記コントロールケーブルはそれぞれアウターケーシング及びインナーケーブルを有し、
前記インナーケーブルは、前記駆動プーリ及び前記従動プーリに互いに逆方向に巻き付けられて、前記駆動側ハウジングと前記従動側ハウジングとのハウジング接続部においてそれぞれ設けられたインナーケーブル挿通孔に挿通されてハウジング外側に延在され、前記駆動プーリと前記従動プーリとを連結しトルクの伝達をする
ケーブル式ステアリング装置であって、
前記アウターケーシングは、内部に前記インナーケーブルを摺動自在に収容して、両端部が前記ハウジング接続部に接続され、
基端部と先端部とを有する皿バネを有し、
前記皿バネは、
前記基端部が前記駆動側ハウジング及び/又は前記従動側ハウジングに設けられたバネ受け部に接続し、
前記先端部が前記アウターケーシングと直接又は間接に圧接し、
前記ステアリングロッドより従動プーリを介して前記インナーケーブルに伝達された衝撃を、前記衝撃が伝達された前記アウターケーシングを介して吸収する弾性力を有する
ことを特徴とするケーブル式ステアリング装置。
【請求項2】
前記アウターケーシングは、端部にケーシングキャップを備え、
前記ケーシングキャップには、前記皿バネと圧接する圧接部を有する
請求項1記載のケーブル式ステアリング装置。
【請求項3】
前記圧接部が螺進退可能なナットである請求項2記載のケーブル式ステアリング装置。
【請求項4】
前記ケーシングキャップの先端に、前記ケーシングキャップとの軸方向に進退可能に固定され、前記駆動側ハウジング及び/又は前記従動側ハウジングとの位置を調節する位置調節部材を備えた請求項1〜3のいずれかに記載のケーブル式ステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−210889(P2012−210889A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−78237(P2011−78237)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(390000996)株式会社ハイレックスコーポレーション (362)
【Fターム(参考)】