説明

ゲルマニウムポリマー、その製造法およびゲルマニウム膜の形成方法

【課題】塗布法によりゲルマニウム膜を形成するための成膜法、そのためのゲルマニウムポリマーとその製造法を提供する。
【解決手段】テトラハロゲン化ゲルマニウムと、式RQX(ここで、Rは1価の有機基であり、Qはゲルマニウム原子またはマグネシウム原子を表し、Xはハロゲン原子を表し、nは1または3である)で表わされる有機金属ハライドと、リチウムおよび/またはマグネシウムを反応させる第1工程および第1工程で得られた反応生成物をLiAlHで処理する第2工程により、ゲルマニウムポリマーを製造する。また、このゲルマニウムポリマーの溶液を基体表面上に塗布し、加熱し次いで熱および/または光で処理してゲルマニウム膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LSI、薄膜トランジスタ、光電変換装置、及び感光体用途で使用されるゲルマニウム半導体膜の形成法、その前駆体である塗布可能なゲルマニウムポリマーおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体膜であるアモルファスシリコン膜やポリシリコン膜の形成方法としては、モノシランガスやジシランガスの熱CVD(Chemical Vapor Deposition)法やプラズマCVD、光CVD等が利用されている。一般的にはポリシリコンの製造には熱CVDが用いられ(非特許文献1参照)、またアモルファスシリコンの製造にはプラズマCVDが広く用いられており(非特許文献2参照)、薄膜トランジスタを有する液晶表示素子、太陽電池などの製造に利用されている。
しかし、これらのシリコン膜の形成法においては、原料のシラン系ガスは自然発火性を有するため取り扱う上の難点がある。一方、ゲルマン系ガスは自然発火性は無いもののCVD法でゲルマニウム膜を形成する場合は、(1)気相反応を用いるので気相でゲルマニウム粒子の発生を伴うため装置の汚染や異物の発生による生産歩留まりが低く、(2)原料がガス状であるため、表面に凹凸のある基板上には均一膜厚のものが得られにくく、(3)膜の形成速度が遅いため生産性が低く、さらに(4)プラズマCVD法においては複雑で高価な高周波発生装置や真空装置などが必要である、などの難点がある。
また、材料面ではガス状の水素化ゲルマニウムを用いるため取り扱いに難点があるのみでなく、ガス状であるため密閉状の真空装置が必要となる。一般にこれらの装置は大掛かりなもので装置自体が高価であるのみでなく、真空系やプラズマ系に多大のエネルギーを消費するため製品のコスト高に繋がっている。
【非特許文献1】J.Vac.Sci.Technology.,14巻1082頁(1977年)
【非特許文献2】Solid State Com.,17巻1193頁(1975年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、従来の真空系での成膜法と本質的に異なる新規な成膜法に用いられるゲルマニウムポリマーを提供することにある。
【0004】
本発明の他の目的は、上記ゲルマニウムポリマーの製造法を提供することにある。
【0005】
本発明のさらに他の目的は、上記ゲルマニウムポリマーを用いてゲルマニウム膜を成膜するゲルマニウム膜の形成法を提供することにある。
【0006】
本発明のさらに他の目的および利点は以下の説明から明らかになろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、本発明の上記目的および利点は、第1に、
組成式:GeH(ここで、xは0.01〜20、yは0.01〜20の数である)で表され、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算重量平均分子量が2,000以上であり、かつトルエンに可溶である、ことを特徴とするゲルマニウムポリマーによって達成される。
【0008】
本発明によれば、本発明の上記目的および利点は、第2に、
テトラハロゲン化ゲルマニウムと、式RQX(ここで、Rは1価の有機基であり、Qはゲルマニウム原子またはマグネシウム原子を表し、Xはハロゲン原子を表し、nは1または3である)で表わされる有機金属ハライドと、リチウムおよび/またはマグネシウムを反応させる第1工程および第1工程で得られた反応生成物をLiAlHで処理する第2工程からなることを特徴とする上記記載のゲルマニウムポリマーの製造方法によって達成される。
【0009】
本発明によれば、本発明の上記目的および利点は、第3に、
上記に記載のゲルマニウムポリマーの溶液を基体表面上に塗布し、第1の加熱の後、第2の加熱および/または光照射で処理することを特徴とするゲルマニウム膜の形成法
によって達成される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、従来の半導体シリコン膜と異なる半導体ゲルマニウム膜を新しいコーティングプロセスで形成するゲルマニウムポリマーの製造方法として優れたものである。また本発明では上記コーティング溶液が安定であるため一定品質の膜を得ることができる。さらに本発明では従来のCVD法と異なるため成膜時に粉末の発生を防止でき、大掛かりな真空プロセスを用いないので、高価な装置を必要としないのみならず大面積の基板上にも容易にゲルマニウム膜を形成できるので、シリコン膜に替わるLSI、薄膜トランジスタ、光電変換装置、及び感光体などの半導体デバイスを省エネルギープロセスで製造することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明のゲルマニウムポリマーは、組成式:GeHで表される。xは0.01〜20、そしてyは0.01〜20の数である。本発明のゲルマニウムポリマーはラマン散乱スペクトルにおいて、350cm−1〜550cm−1の散乱光を有する。上記組成式において、HおよびCは、ゲルマニウムと結合した水素原子および1価の有機基に由来しており、前記1価の有機基の具体例としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基などの炭素数が1〜10の脂肪族基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、ビシクロアルキル基などの炭素数が3〜20の脂環式基、炭素数が6〜20のアリール基、炭素数が6〜20のアラルキル基を挙げることができる。アルキル基の具体例としてはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、テキシル基などが挙げられる。アルケニル基としては、例えばプロペニル基、3−ブテニル基、3−ペンテニル基、3−ヘキセニル基が挙げられる。アルキニル基としては、例えばプロパギル基、3−メチルプロパギル基、3−エチルプロパギル基などが挙げられる。シクロアルキル基としては、例えばシクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ノルボルニル基などを挙げることができる。また、アリール基としては、例えばフェニル基、トリル基、キシリル基、α−ナフチル基、β−ナフチル基、α−チオフェン基、β−チオフェン基などが挙げられる。アラルキル基としては、例えばベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基などを挙げることができる。これらの置換基としては、生成するゲルマニウムポリマーの安定性、さらに熱および/または光で分解するときの易分解性の点でt−ブチル基、テキシル基、フェニチル基、ノルボルニル基が好ましい。
【0013】
本発明のゲルマニウムポリマーのゲルマニウム原子は部分的に1価の有機基Rと結合し、部分的に水素原子Hと結合し、部分的にゲルマニウム原子と結合したもので組成式としてGeHで表すことができる。xはゲルマニウム原子に結合した水素原子および1価の有機基に含まれる水素原子の数であり、ゲルマニウムの1原子あたりのxの範囲としては、好ましくは0.01〜20であり、より好ましくは0.05〜10であり、さらに好ましくは0.07〜5である。xが0.01より小さい場合には、得られたゲルマニウムポリマーの有機溶媒に対する溶解性が劣り、xが20を超える場合には、安定性が悪くなる傾向がある。yはゲルマニウム原子に結合した1価の有機基に含まれる炭素原子の数であり、ゲルマニウムの1原子あたりのyの範囲としては、好ましくは0.01〜20であり、より好ましくは0.05〜10であり、さらに好ましくは0.1〜7である。yが0.01より小さい場合には、得られたゲルマニウムポリマーの有機溶媒に対する溶解性が劣り、xが20を超える場合には、塗布性が悪くなるとともに分解して得られるゲルマニウム膜の膜質が低下する傾向がある。
【0014】
本発明のゲルマニウムポリマーは、ポリスチレン換算重量平均分子量が2,000以上のものである。ポリスチレン換算重量分子量が2,000未満の場合にはゲルマニウムポリマー溶液の塗布性が悪いのみならず、膜の強度が不十分でクラックなどの膜異常が発生し易くなる。本発明のゲルマニウムポリマーのポリスチレン換算重量平均分子量は2,000以上150,000未満である。ポリスチレン換算重量平均分子量が150,000を超えると溶解性が悪くなるとともに溶液の濾過性が急激に悪化する。ゲルマニウムポリマーの好ましい分子量は、5,000〜100,000である。
【0015】
本発明のゲルマニウムポリマーは、トルエンに可溶性であり、成膜する場合は通常溶媒に溶かして溶液とし、塗布法によりゲルマニウムポリマーの膜を形成することができる。なお、本発明においてトルエンに可溶とは、1g以上のゲルマニウムポリマーが100gのトルエンに溶解することをいう。本発明のゲルマニウムポリマーはトルエンの他、炭化水素溶媒、ケトン溶媒、エーテル溶媒、エステル溶媒を用いて溶液にすることができる。炭化水素溶媒の具体例としては、 n−ペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、デカン、ジシクロペンタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、デュレン、インデン、テトラヒドロナフタレン、デカヒドロナフタレン、スクワランなどを挙げることができる。また、ケトン溶媒としては、例えばアセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジプロピルケトン、ジブチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘプタノンを挙げることができる。エーテル溶媒としては、例えばジエチルエーテル、ジ−n−プロピルエーテル、ジ−イソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、エチルプロピルエーテル、アニソール、フェネトール、ジフェニルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールメチルエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどを挙げることができ、さらにエステル溶媒としては、例えば酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソアミル、酢酸メチルセロソルブ、酢酸エチルセロソルブ、酢酸ブチルセロソルブ、乳酸エチル、乳酸プロピル、乳酸ブチル、乳酸イソアミル、酢酸プロピレングリコールメチルエーテルを挙げることができる。本発明のゲルマニウムポリマーはこれらの有機溶媒を用いて溶液にすることができる。これらの有機溶媒は2種以上を混合して用いることもできる。本発明の溶媒可溶性のゲルマニウムポリマーは、前記溶媒に溶かして塗布することができる。目的に応じて適宜濃度を調節することができ、溶液の濃度は、例えば0.05%〜30重量%とすることができる。
【0016】
本発明のゲルマニウムポリマー溶液の塗布方法としては、例えばスピンコート法、ロールコート法、カーテンコート法、ディップコート法、スプレー法、インクジェット法等の方法を用いることができる。また塗布する場合の雰囲気は、窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス中で行なうことが好ましい。さらに必要に応じて水素などの還元性ガスを混入した雰囲気中で行うことができる。スピンコート法を用いる場合のスピナーの回転数は形成する薄膜の厚み、塗布溶液組成により決定される。好ましくは100〜5,000rpm、より好ましくは300〜3,000rpmが用いられる。塗布した後は溶媒を除去してゲルマニウムポリマー塗膜を形成するために加熱処理(以下、「第1の加熱」)を行う。第1の加熱の温度は使用する溶媒の種類、沸点により異なるが、例えば100℃〜200℃とすることができる。雰囲気は上記塗布工程と同じ窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス中で行うことが好ましい。
【0017】
本発明のゲルマニウムポリマーの塗膜は熱処理(以下、「第2の加熱」)及び/または光照射処理によってゲルマニウム膜に変換できる。かくして得られるゲルマニウム膜はアモルファス状あるいは多結晶状であるが、第2の加熱の場合には一般に到達温度が約550℃以下の温度ではアモルファス状、それ以上の温度では多結晶状のゲルマニウム膜が得られる。アモルファス状のゲルマニウム膜を得たい場合は、好ましくは300℃〜550℃、より好ましくは350℃〜500℃が用いられる。到達温度が300℃未満の場合は、ゲルマニウムポリマーの有機基の熱分解が十分に進行せず、十分な厚さのゲルマニウム膜を形成できない場合がある。上記第2の加熱を行う場合の雰囲気は窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス、もしくは水素などの還元性ガスを混入したものも使用できる。
上記のように本発明のゲルマニウムポリマーを第2の加熱及び/または光照射処理によってゲルマニウム膜に変換させるにあたり、ゲルマニウム原子は酸素と反応してゲルマニウム−酸素結合を形成しやすいため、変換前のゲルマニウムポリマーは不純物としての酸素原子を含有しないことが好ましい。酸素原子は多くともゲルマニウム1原子あたり0.01原子しか含有しないことが好ましい。ゲルマニウムポリマーが0.01原子より多く酸素原子を含む場合には、これをゲルマニウム膜に変換したときに良質のものが得られにくい。
【0018】
本発明の光処理に使用する光の光源としては、低圧あるいは高圧の水銀ランプ、重水素ランプあるいはアルゴン、クリプトン、キセノン等の希ガスの放電光の他、YAGレーザー、アルゴンレーザー、炭酸ガスレーザー、XeF、XeCl、XeBr、KrF、KrCl、ArF、ArClなどのエキシマレーザーなどを光源として使用することができる。これらの光源としては、好ましくは10〜5,000Wの出力のものが用いられる。このうち、通常100〜1,000Wで十分である。これらの光源の波長はゲルマニウムポリマーが多少でも吸収するものであれば特に限定されないが、好ましくは170nm〜600nmである。またゲルマニウム膜への変換効率の点でレーザー光の使用が特に好ましい。これらの光照射時の温度は通常室温〜500℃であり、得られるゲルマニウム膜の半導体特性に応じて適宜選ぶことができる。光照射を加熱状態で行う場合は、第1の加熱から継続して第2の加熱を行い、光照射を行ってもよい。特に多結晶状のゲルマニウム膜を得たい場合は、上記で得られたアモルファス状ゲルマニウム膜に上記光を照射して多結晶ゲルマニウム膜に変換することもできる。
【0019】
本発明のゲルマニウムポリマー溶液には、目的の機能を損なわない範囲で、必要に応じてフッ素系、シリコーン系、ノニオン系などの表面張力調節材を微量添加することができる。かくして調製したゲルマニウムポリマー溶液の粘度は通常1〜500mPa・sの範囲にあり、塗布装置や目的の塗布膜厚に応じて適宜選択することができる。
本発明で得られたゲルマニウムポリマー溶液を塗布する基板については特に限定されない。例えば通常の石英、ホウ珪酸ガラス、ソーダガラスの他、金、銀、銅、ニッケル、チタン、アルミニウム、タングステンなどの金属基板、さらにこれらの金属を表面に有するガラス、プラスチック基板などを使用することができる。
【0020】
本発明のゲルマニウムポリマーの製造は、テトラハロゲン化ゲルマニウムと、式RQX(式中、Qはゲルマニウム原子またはマグネシウム原子を表し、Xはハロゲン原子を表し、nは1または3である)で表わされる有機金属ハライドと、リチウムおよび/またはマグネシウムとを反応させて製造することができる。式RQXで表される有機金属ハライドの具体例としては、メチルトリクロルゲルマニウム、エチルトリクロルゲルマニウム、nプロピルトリクロルゲルマニウム、イソプロピルトリクロルゲルマニウム、n−ブチルトリクロルゲルマニウム、t−ブチルトリクロルゲルマニウム、シクロヘキシルトリクロルゲルマニウム、フェネチルトリクロルゲルマニウム、2−ノルボルニルトリクロルゲルマニウム、フェニルトリクロルゲルマニウム、メチルトリブロモゲルマニウム、エチルトリブロモゲルマニウム、nプロピルトリブロモゲルマニウム、イソプロピルトリブロモゲルマニウム、n―ブチルトリブロモゲルマニウム、t−ブチルトリブロモゲルマニウム、シクロヘキシルトリブロモゲルマニウム、フェネチルトリブロモゲルマニウム、2−ノルボルニルトリブロモゲルマニウム、フェニルトリブロモゲルマニウム、メチルトリヨードゲルマニウム、エチルトリヨードゲルマニウム、nプロピルトリヨードゲルマニウム、イソプロピルトリヨードゲルマニウム、n―ブチルトリヨードゲルマニウム、t−ブチルトリヨードゲルマニウム、シクロヘキシルトリヨードゲルマニウム、フェネチルトリヨードゲルマニウム、2−ノルボルニルトリヨードゲルマニウム、フェニルトリヨードゲルマニウムなどのゲルマニウム化合物、メチルマグネシウムクロリド、エチルマグネシウムクロリド、nプロピルマグネシウムクロリド、イソプロピルマグネシウムクロリド、n―ブチルマグネシウムクロリド、t−ブチルマグネシウムクロリド、テキシルマグネシウムクロリド、シクロヘキシルマグネシウムクロリド、フェネチルマグネシウムクロリド、2−ノルボルニルマグネシウムクロリド、フェニルマグネシウムクロリド、メチルマグネシウムブロミド、エチルマグネシウムブロミド、nプロピルマグネシウムブロミド、イソプロピルマグネシウムブロミド、n―ブチルマグネシウムブロミド、t−ブチルマグネシウムブロミド、テキシルマグネシウムブロミド、シクロヘキシルマグネシウムブロミド、フェネチルマグネシウムブロミド、2−ノルボルニルマグネシウムブロミド、フェニルマグネシウムブロミド、メチルマグネシウムアイオダイド、エチルマグネシウムアイオダイド、nプロピルマグネシウムアイオダイド、イソプロピルマグネシウムアイオダイド、n−ブチルマグネシウムアイオダイド、t−ブチルマグネシウムアイオダイド、テキシルマグネシウムアイオダイド、シクロヘキシルマグネシウムアイオダイド、フェネチルマグネシウムアイオダイド、2−ノルボルニルマグネシウムアイオダイド、フェニルマグネシウムアイオダイドなどの有機マグネシウム化合物を挙げることができる。これらのうち、得られるゲルマニウムポリマーの安定性および熱および/または光による有機基の脱離性の点でt−ブチル基、テキシル基、フェネチル基または2−ノルボルニル基を有する上記有機金属ハライドが好ましい。これらの有機金属ハライドは1種単独でも使用できるし2個以上を混合して使用することもできる。
また、前記テトラハロゲン化ゲルマニウムは少量のトリハロゲン化リンやトリハロゲン化ホウ素を混合して使用することもできる。これらのトリハロゲン化リンやトリハロゲン化ホウ素の使用量はテトラハロゲン化ゲルマニウムに対して0.1モル%以下である。これらの使用割合が0.1モル%より多い場合は、溶媒不溶部のゲルマニウムポリマーが多く生成するため目的の溶媒可溶性のゲルマニウムポリマーの収率が低下する。
【0021】
本発明の製造方法の第1工程では、テトラハロゲン化ゲルマニウムと前記式RQXnで表される有機金属ハライドとリチウムおよび/またはマグネシウム金属とを反応させることにより分子の末端にR基またはハロゲン基を有するゲルマニウムポリマーを得ることができる。テトラハロゲン化ゲルマニウムと有機金属ハライドRQXの使用割合は、好ましくはテトラハロゲン化ゲルマニウム/RQX=0.01〜100(モル/モル)であり、より好ましくは0.1〜10であり、さらに好ましくは0.5〜5である。この比が0.01より小さい場合は、得られるゲルマニウムポリマーの分子量が小さくなり成膜性が悪くなる。また、この比が100を超える場合には、溶媒可溶性のゲルマニウムポリマーの生成収率が低下する。また、これらと反応させるリチウムおよび/またはマグネシウムは、テトラハロゲン化ゲルマニウムと有機金属ハライドRQXnから還元的にハロゲン原子を脱離させハロゲン化リチウムおよび/またはハロゲン化マグネシウムにさせるために使用されるもので、その使用量はテトラハロゲン化ゲルマニウムと有機金属ハライドRQXnのハロゲン原子の総量とほぼ当量である。
また、本第1工程の反応では必要に応じて外部から超音波を照射することにより反応を促進することができる。ここで使用される超音波の振動数としては10〜70KHz程度のものが望ましい。
【0022】
本発明のゲルマニウムポリマーの製造において、その第1工程で使用する溶媒としてはエーテル溶媒を挙げることができる。通常のキッピング(Kipping)反応で使用する炭化水素溶媒では目的の可溶性ポリゲルマニウムオリゴマーの収率が低い。エーテル溶媒としては、例えばジエチルエーテル、ジ−n−プロピルエーテル、ジ−イソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、エチルプロピルエーテル、アニソール、フェネトール、ジフェニルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールメチルエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどを挙げることができる。上記有機金属ハライドの溶解性の点でジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテルなどが好ましい。
【0023】
これらのエーテル溶媒は、使用前に水分を予め除去しておくことが望ましい。水分の除去法としては、ナトリウム−ベンゾフェノンケチルの存在下での脱気蒸留法などが好ましい。これらの溶媒の使用量は特に限定されないが、好ましくは上記テトラハロゲン化ゲルマニウムに対して1〜20部であり、より好ましくは3〜10部である。
本発明の製造方法の第1工程の反応温度は、好ましくは−78℃〜100℃である。反応温度が−78℃以下では反応速度が遅く生産性が悪い。また、反応温度が100℃より大きい場合には、反応が複雑になり得られるゲルマニウムポリマーの溶解性が悪くなる。
【0024】
本発明のゲルマニウムポリマーの製造方法においては、上記第1工程で得られた分子の末端に未反応の加水分解性ハロゲン原子を有するゲルマニウムポリマーを、第2工程ではこの加水分解性ハロゲン原子をLiAlHで還元することにより安定な水素原子に置換処理する。LiAlHの使用量は残留するハロゲン原子に対して少なくとも当量が必要である。また、第2工程で使用する溶媒はLiAlHと反応しない溶媒であれば特に限定されない。通常エーテル溶媒が好ましく、第1工程で例示したエーテル溶媒使用することができる。これらは単独であるいは2種以上を混合して使用することができる。
第2工程の反応温度は、好ましくは−78℃〜30℃である。−78℃以下では反応が遅く生産性が悪い。また、30℃より高い場合には反応生成物の溶解性が下がり本発明のゲルマニウムポリマーの生成収率が下がる。第1工程および第2工程とも反応は、アルゴンや窒素などの不活性ガス中で行うことが好ましい。
【実施例】
【0025】
以下に、本発明を下記実施例により詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【0026】
実施例1
温度計、冷却コンデンサー、滴下ロートおよび攪拌装置を取り付けた内容量3Lの4つ口フラスコ内をアルゴンガスで置換した後、乾燥したテトラヒドロフラン1Lとマグネシウム金属60gを仕込み、アルゴンガスでバブリングした。これに第3ブチルマグネシウムクロリドのテトラヒドロフラン溶液1,000ml(1.0モル)を加え、20℃で攪拌しながらテトラクロルゲルマニウム214gを滴下ロートよりゆっくり添加した。はじめの20gの添加で反応系は還流が始まり、その後系は褐色に着色した。さらに外部から加熱することなく還流が持続するように残りのテトラクロルゲルマニウム混合物をゆっくり滴下した。滴下終了後、室温下でさらに3時間攪拌を続けた。この第1工程で得られた黒褐色の反応混合物を、LiAlH3gを乾燥したテトラヒドロフラン300mlに懸濁させた溶液に加え、室温下で5時間反応させた。この第2工程での反応混合物を15Lの氷水に注いだところ、生成ポリマーが沈殿した。生成ポリマーを水で良く洗浄し真空乾燥することにより褐色の固体のポリマー70gを得た。このポリマーのGPCによるポリスチレン換算重量平均分子量は23,000であり、分子量分布を示す分散度(重量平均分子量/数平均分子量)は3.5であった。また、IRスペクトルおよびNMRスペクトルより第3ブチル基の存在が示唆された。このゲルマニウムポリマーを元素分析したところ、GeH1.10.4であり酸素原子は検出されなかった。このゲルマニウムポリマーは上記スペクトルの解析結果から組成式としてはGet−Bu0.10.2であった。さらにこのポリマー10gをトルエン90gに溶解した溶液を石英基板上に2000rpmでスピンコートし、100℃のオーブン中10分間加熱し、膜厚1.5ミクロンのゲルマニウムポリマーの膜を形成した。この塗布基板をアルゴン雰囲気中で700℃に加熱すると第3ブチル基が熱により除去され、基板上にはゲルマニウムの膜が残留した。また、上記ゲルマニウムポリマーの熱分解において、熱分解挙動を熱分解GC/MSを測定したところ、分解物としてイソブチレンが検出された。
【0027】
実施例2
上記実施例1で使用したテトラクロルゲルマニウム214gに代え、テトラブロモゲルマニウム392gを使用し、他は実施例1と同様にして、ゲルマニウムポリマー135gを得た。このゲルマニウムポリマーのGPCによるポリスチレン換算重量平均分子量は33,000であった。分子量分布を示す分散度は4.0であった。このゲルマニウムポリマーのIRスペクトルおよびNMRスペクトルは、実施例1で得られたケイ素ポリマーと同一であった。このゲルマニウムポリマーを元素分析したところ、GeH0.60.2であり酸素原子は検出されなかった。このゲルマニウムポリマーは上記スペクトルの解析結果から組成式としてはGet−Bu0.050.1であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式:GeH(ここで、xは0.01〜20、yは0.01〜20の数である)で表され、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算重量平均分子量が2,000以上であることを特徴とするゲルマニウムポリマー。
【請求項2】
トルエンに可溶であることを特徴とする請求項1に記載のゲルマニウムポリマー。
【請求項3】
テトラハロゲン化ゲルマニウムと、式RQX(ここで、Rは1価の有機基であり、Qはゲルマニウム原子またはマグネシウム原子を表し、Xはハロゲン原子を表し、nは1または3である)で表わされる有機金属ハライドと、リチウムおよび/またはマグネシウムを反応させる第1工程および第1工程で得られた反応生成物をLiAlHで処理する第2工程からなることを特徴とする請求項1または2に記載のゲルマニウムポリマーの製造方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載のゲルマニウムポリマーの溶液を基体表面上に塗布し、第1の加熱の後、第2の加熱および/または光照射することを特徴とするゲルマニウム膜の形成法。

【公開番号】特開2007−254593(P2007−254593A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−80953(P2006−80953)
【出願日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】