説明

ゲート駆動回路の設計支援装置および設計支援方法

【課題】ゲート駆動回路の設計を、短TAT化する設計支援装置を提供する。
【解決手段】半導体素子のスイッチングを制御するゲート駆動回路に含まれる回路素子のパラメーを用いて前記半導体素子のスイッチング電圧を計算する回路解析部と、前記スイッチング電圧によって前記ゲート駆動回路を搭載するシステムに発生する電磁放射ノイズを計算する電磁界解析部と、前記電磁放射ノイズが目標値に収まっているか否か判定する第1の判定部と、前記電磁放射ノイズが目標値に収まっていない場合に、前記電磁放射ノイズを抑制するように前記回路素子のパラメータを改良する第1の回路改良部と、前記改良したパラメータを用いて前記回路解析部が計算したスイッチング電圧に基づいて電磁放射ノイズを推定するノイズ推定部と、を備え、中央処理装置が、前記回路素子のパラメータを最適化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲート駆動回路の設計支援装置および設計支援方法に関し、例えば電力変換器に搭載される半導体素子のゲート駆動回路の設計支援装置および設計支援方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インバータやコンバータなどの電力変換器は、家電機器、情報・映像機器、OA・FA機器から、鉄道、自動車などの輸送機器に至るまで、幅広く用いられている。この電力変換器が、入力電力の周波数、相数、電圧、電流を変換して所望の出力電力を生成することで、モータなどの負荷を制御可能となる。
【0003】
電力変換は、電力変換器に搭載される半導体素子をスイッチングすることで行う。この半導体素子のスイッチングを制御する回路を、ゲート駆動回路とよぶ。このゲート駆動回路が半導体素子をスイッチングする際に、スイッチング電圧・電流が急激に変化するため、電磁放射ノイズが発生する。この電磁放射ノイズは、電力変換器、負荷、入力電源を含めた電力変換システム全体に伝搬し、電子機器に干渉することで、電子機器の動作不良を引き起こすおそれがある。このため、信頼性確保の観点から他の機器の動作不良を引き起さない値まで電磁放射ノイズを抑制しなければならない。電磁放射ノイズを抑制するには、スイッチング電圧・電流の時間変化率を下げる必要がある。
【0004】
他方、スイッチング電圧・電流の時間変化率を下げると、半導体素子のON、OFFが切り替わる期間が長くなるため、スイッチング損失が増大する。スイッチング損失とは、スイッチング電流・電圧の積の時間積分によって定義される電力消費である。このスイッチング損失は、電力変換器のエネルギー変換効率を低下させるため、省エネルギー化の観点からできるだけ低減することが望ましい。また、スイッチング損失として消費された電力は、熱となって半導体素子の温度を上昇させるため、信頼性確保の観点からもスイッチング損失を低減する必要がある。さらに、半導体素子は、温度が高くなりすぎると熱暴走が起こるため、一般に電力変換器には冷却装置が取り付けられている。スイッチング損失が増大すれば、それだけ強力な冷却装置が必要となる。よって、電力変換器の小型化、高コスト化の観点からもスイッチング損失を低減する必要がある。
【0005】
このように、電磁放射ノイズの抑制とスイッチング損失の低減は、一般にトレードオフの関係にある。一般に、ゲート駆動回路の設計では、このバランスを考慮しながら、回路素子の最適化を行う。
【0006】
特許文献1〜3では、このようなトレードオフを考慮し、電磁放射ノイズの抑制とスイッチング損失の低減を両立させるようなゲート駆動回路を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−253699号公報
【特許文献2】特開2009―71956号公報
【特許文献3】特開2006−230166号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1〜3に開示のゲート駆動回路を設計するには、回路素子のパラメータを選択し、このゲート駆動回路が半導体素子をスイッチングさせることで発生する電磁放射ノイズについて電磁界解析を行い、所望の結果が得られなければ再び回路素子のパラメータを変更して電磁界解析を行う、という設計工程を経る必要がある。すなわち、所望の結果が得られるまで、回路素子のパラメータを変更するたびに電磁界解析を繰り返さなければならない。電磁界解析は複雑なシミュレーションであり、非常に多くの時間がかかるため、電磁界解析の繰り返しは設計全体のTAT(Turn Around Time)を長引かせ、設計コストの増大を招く。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、ゲート駆動回路の設計を、短TAT化する設計支援装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明は、ある回路素子のパラメータからスイッチング電圧を回路解析で計算した後、一度だけ電磁界解析を行うことで電磁放射ノイズを求めておく。その後は回路素子のパラメータを更新するたびに、更新したゲート抵抗値に対応するスイッチング電圧を回路解析で計算するだけで、更新したゲート抵抗に対応する電磁放射ノイズを推定する。言い換えると、設計工程において時間のかかる電磁界解析を計算時間の少ない回路解析で代用することで、電磁界解析を一回に抑えている。
【0011】
すなわち、本発明のゲート駆動回路の設計支援装置は、半導体素子のスイッチングを制御するゲート駆動回路に含まれる回路素子のパラメータを用いて前記半導体素子のスイッチング電圧を計算する回路解析部と、前記スイッチング電圧によって前記ゲート駆動回路を搭載するシステムに発生する電磁放射ノイズを計算する電磁界解析部と、前記電磁放射ノイズが目標値に収まっているか否か判定する第1の判定部と、前記電磁放射ノイズが目標値に収まっていない場合に、前記電磁放射ノイズを抑制するように前記回路素子のパラメータを改良する第1の回路改良部と、前記改良したパラメータを用いて前記回路解析部が計算したスイッチング電圧に基づいて電磁放射ノイズを推定するノイズ推定部と、を備え、中央処理装置が、前記回路素子のパラメータを最適化する。
【0012】
また、本発明のゲート駆動回路の設計支援方法は、回路解析部が、半導体素子のスイッチングを制御するゲート駆動回路に含まれる回路素子のパラメータを用いて前記半導体素子のスイッチング電圧を計算する回路解析工程と、電磁界解析部が、前記スイッチング電圧によって前記ゲート駆動回路を搭載するシステムに発生する電磁放射ノイズを計算する電磁界解析工程と、第1の判定部が、前記電磁放射ノイズが目標値に収まっているか否か判定する第1の判定工程と、第1の回路改良部が、前記電磁放射ノイズが目標値に収まっていない場合に、前記電磁放射ノイズを抑制するように前記回路素子のパラメータを改良する第1の回路改良工程と、ノイズ推定部が、前記改良したパラメータを用いて前記回路解析部が計算したスイッチング電圧に基づいて電磁放射ノイズを推定するノイズ推定工程と、を備え、中央処理装置が、前記回路素子のパラメータを最適化する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ゲート駆動回路の設計を、短TAT化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態における電力変換システムの概略構成を表す図である。
【図2】本発明の実施形態における半導体素子を制御するゲート駆動回路である。
【図3】電磁放射ノイズとスイッチング損失とのトレードオフ関係を表す図である。
【図4】本発明の実施形態におけるゲート駆動回路の設計支援装置の構成図である。
【図5】本発明の実施形態におけるゲート抵抗値の設計フローを表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、ゲート駆動回路の設計支援装置および設計支援方法に関するものである。以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。ただし、本実施形態は本発明を実現するための一例にすぎず、本発明の技術的範囲を限定するものではないことに注意すべきである。また、各図において共通の構成については同一の参照番号が付されている。
【0016】
<電力変換システムにおける電磁放射ノイズとスイッチング損失>
はじめに、本発明の背景となる電磁放射ノイズおよびスイッチング損失が発生する仕組み、およびこれらの関係について説明する。
【0017】
図1は、本発明の実施形態における電力変換システムの概略構成を表す図である。電力変換システムは、入力電力を与える電源101、入力電力を変換して所望の出力電力を生成する電力変換器102、電力変換器102によって制御される負荷103、を備える。電力変換器102は、負荷103に電流を流す複数の半導体素子104、半導体素子104をONまたはOFFさせるゲート駆動回路105、を備える。ゲート駆動回路105は、半導体素子104のゲート電圧を変化させて、半導体素子104をスイッチングする。半導体素子104としては、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)、ゲートターンオフサイリスタなどが多く用いられている。
【0018】
スイッチング電圧・電流の急激な変化によって、電磁放射ノイズが発生する。この電磁放射ノイズを減らすために、ゲート駆動回路105で半導体素子104のスイッチングを制御し、スイッチング電圧・電流の時間変化率を下げる必要がある。しかし、スイッチング電圧・電流の時間変化率が下がると、スイッチングにかかる時間が長くなるため、スイッチング損失は大きくなる。
【0019】
図2は、本発明の実施形態における半導体素子を制御するゲート駆動回路である。ゲート駆動回路は、ゲート電圧を与える電源201および202、ゲート電圧を切り替えるスイッチング素子203および204、スイッチング電圧の時間変化率を下げるゲート抵抗205、およびモータ等の負荷に電流を流す半導体素子104を備える。半導体素子104のスイッチングに伴い、スイッチング電圧が変動する。この電圧変動は、電力変換器102、負荷103の寄生容量、ケーブル等を経路として、筺体や配線にノイズ電流を発生させる。ゲート抵抗205の値を大きくするほど、スイッチング電圧の時間変化率が下がり、電磁放射ノイズが小さくなる。
【0020】
図3は、ゲート抵抗値と、任意の周波数帯における電磁放射ノイズ、およびスイッチング損失との関係を表す図である。ゲート抵抗値を大きくするほど、スイッチング電圧の時間変化率が下がり、電磁放射ノイズが小さくなるメリットはあるが、スイッチング損失が増加するデメリットがある。逆に、ゲート抵抗値を小さくすれば、スイッチング電圧の時間変化率が上がり、スイッチング損失が小さくなるメリットはあるが、電磁放射ノイズが増加するデメリットがある。
【0021】
<電磁放射ノイズの推定原理>
次に、本発明の回路設計を短TAT化するために用いる、電磁放射ノイズの推定原理について説明する。
【0022】
一般に、ノイズ源(S)、伝播経路(P)、およびアンテナ(A)が、電磁放射ノイズ(E)を変化させる因子であることが知られている。これを本発明のゲート駆動回路に置き換えると、PおよびAは、電力変換器の筐体、負荷、および電力変換器と負荷を結ぶケーブル等によって定まり、本発明のゲート駆動回路以外の要因で決定されるため、ここでは理想状態にあるか、または変更できないものとする。一方、Sは、ノイズ電流を誘起する原因となる、半導体素子のスイッチングによって急激に変化するスイッチング電圧に該当し、ゲート駆動回路によって制御可能である。
【0023】
以下では、電磁放射ノイズEを抑制するにあたり、PおよびAは不変であるため、Sのスイッチング電圧をゲート抵抗によって調整することを前提とし、電磁放射ノイズを推定する原理について説明する。
【0024】
スイッチング電圧の周波数スペクトルをV(V)、Vが誘起するノイズ電流の周波数スペクトルをI(A)、ノイズ電流の経路におけるインピーダンスをZ(Ω)とすると、次の関係が成立する。
【0025】
【数1】

【0026】
ここで、ノイズ電流の経路におけるZは、電力変換器の筐体、負荷、および電力変換器と負荷を結ぶケーブル等のゲート駆動回路以外の要因で決定される定数である。従って、VとIは、線形の関係であることがわかる。
【0027】
次に、ノイズ電流が流れるアンテナAを微小ダイポールの集合として近似すれば、本発明の電力変換システムから発生する電磁放射ノイズは、各微小ダイポールから発生する電磁波ノイズを重ね合わせたものに等しい。このことから、微小ダイポールdlに周波数スペクトルI(A)のノイズ電流が流れたときに発生する電磁放射ノイズの周波数スペクトルをE(V/m)とすると、マクスウェル方程式から、次の関係が導かれる。
【0028】
【数2】

【0029】
ここで、η0は空間の特性インピーダンス、cは光速、fはノイズ電流の周波数、rは微小空間から観測点までの距離、θは微小ダイポールと観測点とのなす角である。これらは全て定数である。従って、EとIとは、線形の関係であることがわかる。
【0030】
(1)式および(2)式から、電磁放射ノイズの周波数スペクトルEとスイッチング電圧の周波数スペクトルVとは、線形の関係であることがわかる。従って、あるゲート抵抗値のときのスイッチング電圧の周波数スペクトルV、Vにより発生する電磁放射ノイズの周波数スペクトルをE、ゲート抵抗値を更新したときのスイッチング電圧の周波数スペクトルをV’、V’により発生する電磁放射ノイズの周波数スペクトルをE’とすると、(1)式および(2)式は、次のように書き換えることができる。
【0031】
【数3】

【0032】
すなわち、あるゲート抵抗値からスイッチング電圧の周波数スペクトルVを回路解析で計算した後、一度だけ電磁界解析を行うことで電磁放射ノイズの周波数スペクトルEを求めておけば、その後はゲート抵抗値を更新するたびに、更新したゲート抵抗値からスイッチング電圧の周波数スペクトルV’を回路解析で計算するだけで、電磁放射ノイズの周波数スペクトルE’を(3)式から推定できることがわかる。すなわち、ゲート抵抗値を更新するたびに電磁界解析を繰り返す必要がなくなり、ゲート抵抗値を決定するまでの設計時間を著しく減少させることができる。
【0033】
なお、ノイズ電流の経路におけるインピーダンスZは、ノイズ電流の経路によって定まる定数であるため、ゲート抵抗値を変更しても、(3)式は成立する。つまり、Zは、ゲート抵抗の変更に対して不変である。これは、支配的なノイズ電流は、電力変換器の筐体、負荷、および電力変換器と負荷を結ぶケーブル等に分布し、ゲート駆動回路に分布するノイズ電流は無視できることによる。
【0034】
<ゲート駆動回路の設計支援装置>
図4は、本発明の実施形態におけるゲート駆動回路の設計支援装置の構成図である。
【0035】
設計支援装置は、中央処理装置400、記憶装置401、入出力装置402を備える。中央処理装置400は、等価回路を作成するための回路パラメータ等の情報を受け付ける情報受付部403、等価回路を用いて回路解析を実行する回路解析部404、回路解析部が計算したスイッチング電圧波形をノイズ源として電磁界解析を実行する電磁界解析部405、(3)式から電磁放射ノイズを推定するノイズ推定部406、電磁放射ノイズが目標値に収まっているか否かを判定する第1の判定部407、第1の判定部の結果を受けてノイズを抑制するように回路パラメータを調整する第1の回路改良部408、電磁波放射ノイズが目標値に近似できるか否かを判定する第2の判定部409、第2の判定部の結果を受けてノイズを最大化するように回路パラメータを調整する第2の回路改良部410、最適化したゲート駆動回路を表示するための表示部411、を備える。
【0036】
なお、情報受付部403〜表示部411は、モジュール化しても良いし、ゲート駆動回路設計手法のアルゴリズムを記述したプログラムを記憶装置401に格納し、それに基づいて中央処理装置400が動作することによって実現しても良い。
【0037】
<ゲート駆動回路設計手法>
図4の構成により、記憶装置に記憶されたゲート駆動回路設計手法のアルゴリズムを記述したプログラムを中央処理装置400上で実行することで、ゲート駆動回路の設計が行われる。以下、電磁放射ノイズの推定原理を用いて、電磁放射ノイズを目標値以下で最大化することで、スイッチング損失を最小限に抑えるような、ゲート駆動回路の設計手法を説明する。ここでは、ゲート抵抗値の場合を例として説明する。
【0038】
図5は、本発明の実施形態におけるゲート抵抗値の設計フローを表す図である。
本発明の実施形態におけるゲート抵抗値の設計では、あるゲート抵抗値からスイッチング電圧を回路解析で計算した後、一度だけ電磁界解析を行うことで電磁放射ノイズを求めておき、その後はゲート抵抗値を更新するたびに、更新したゲート抵抗値に対応するスイッチング電圧を回路解析で計算するだけで、電磁放射ノイズを推定することを特徴とする。言い換えると、設計工程において時間のかかる電磁界解析を計算時間の少ない回路解析で代用することで、電磁界解析を一回に抑えている。
【0039】
工程500では、情報受付部403が、ユーザが入出力装置402から入力した半導体素子の外形情報、個数、電気的特性、等価回路等の半導体素子情報を受け付ける。
【0040】
工程501では、情報受付部403が、ユーザが入出力装置402から入力した半導体素子を搭載する電力変換器の構造・形状情報、等価回路等の電力変換器情報を受け付ける。
【0041】
工程502では、情報受付部403が、ユーザが入出力装置402から入力したゲート駆動回路のひな型回路方式、回路定数などの設計初期パラメータ等のゲート駆動回路情報を受け付ける。ゲート駆動回路情報には、ゲート抵抗値も含まれる。
【0042】
工程503では、情報受付部403が、ユーザが入出力装置402から入力した負荷の構造・形状情報、等価回路等の負荷情報を受け付ける。
【0043】
工程504では、情報受付部403が、ユーザが入出力装置402から入力した周波数帯域別の電磁放射ノイズの目標値を受け付ける。この値は、EN規格・国際規格によって定められた規制値などからユーザが決定する値であり、一般に、電磁放射ノイズが目標値以下であれば、ノイズによる電磁機器の誤動作は発生しない。
【0044】
工程505では、回路解析部404が、工程501〜504の入力情報に基づき、装置全体の等価回路を作成し、回路解析により半導体素子のスイッチング電圧波形の計算を行う。この回路解析には、OrCAD(R)などの回路解析シミュレータを用いる。
【0045】
工程506では、電磁界解析部405が、工程505で計算したスイッチング電圧波形をノイズ源として電磁界解析を行い、電磁放射ノイズを求める。この電磁界解析には、HFSS(R)やMicroStrips(R)などの電磁界解析シミュレータを用いるが、電磁界解析の計算時間・精度に問題がある場合は、少なくとも一組の電磁放射ノイズと、スイッチング電圧波形の実測値を入力して、電磁放射ノイズを求めてもよい。
【0046】
工程507では、回路解析部404が、工程505と同様に、ゲート駆動回路の回路方式と回路定数に対応する半導体素子のスイッチング電圧波形を計算する。
【0047】
工程508では、ノイズ推定部406が、(3)式を用いて、電磁放射ノイズの推定値E’を計算する。ここで、工程505で計算したスイッチング電圧の周波数スペクトルをV、工程506で求めた放射ノイズスペクトルをE、工程507で計算したスイッチング電圧の周波数スペクトルをV’、V’をノイズ源としたときの電磁放射ノイズスペクトルをE’とおく。
【0048】
工程509では、第1の判定部407が、電磁放射ノイズが目標値以下であるか否か判定する。電磁放射ノイズが目標値以下であれば工程510に進み、目標値以下でなければ工程511に進む。判定は、現在のゲート抵抗値で発生する電磁放射ノイズと、電磁放射ノイズの目標値とを比較することで行う。比較は、次式を用いて、目標差分値Eminが負であるか否かにより行う。Eminが非負であれば目標以下であり、負であれば目標値以下ではない。
【0049】
【数4】

【0050】
ここで、fは周波数、ELIMIT(f)は周波数fにおける、電磁放射ノイズ目標値の周波数スペクトル、E(f)は周波数fにおける、ゲート駆動回路に対応する電磁放射ノイズの周波数スペクトルである。この工程により、電磁放射ノイズを目標値以下に抑えることができる。
【0051】
工程510では、第2の判定部409が、現在のゲート抵抗値で発生する電磁放射ノイズが、目標値に近似されるか否かを判定する。目標値に近似されると判定された場合は、現在のゲート抵抗値が最適であるとして、フローを終了する。目標値に近似されると判定されなかった場合は、工程512に進む。判定は、(4)式のEminが、例えば、目標値の−5%以内に収まっているか否かで行う。工程509で電磁放射ノイズを目標値以下に抑えた上で、この工程で電磁放射ノイズを目標値の限界まで最大化することで、スイッチング損失を最小限に抑えることができる。よって、スイッチング損失の計算を設計工程から省略することができる。
【0052】
工程511では、第1の回路改良部408が、工程509で電磁放射ノイズが目標値以下であると判定されなかった場合は、ゲート抵抗値を増加させるようにゲート抵抗値を改良する。ゲート抵抗値を増加させることで、スイッチング電圧の時間変化率を緩やかにし、電磁放射ノイズの発生を抑制する。ただし、半導体素子のON、OFFが切り替わる期間が長くなるので、スイッチング損失は増加する。現在のゲート抵抗値をR、ユーザが指定する任意の正数をα、工程509で計算した目標差分値をEminとすると、改良後のゲート抵抗値R’は、次式により計算できる。
【0053】
【数5】

【0054】
工程512では、第2の回路改良部410が、工程510で電磁放射ノイズが目標値に近似されると判定されなかった場合は、ゲート抵抗値を減少させるようにゲート抵抗値を改良する。ゲート抵抗値を減少させることで、スイッチング電圧の時間変化率を急峻にし、スイッチング損失を減少させる。ただし、半導体素子のON、OFFが切り替わる期間が短くなるので、電磁放射ノイズは増加する。改良後のゲート抵抗値は、工程511と同様に、(5)式を用いて計算する。
【0055】
工程511および512で、ゲート抵抗値を更新した場合は、スイッチング電圧の時間変化率が変わるため、再度半導体素子のスイッチング電圧を求めなければならない。したがって、工程507へ戻る。このように、電磁放射ノイズが目標値以下かつ目標値に近似できるまで、工程507〜512を繰り返す必要があるが、繰り返される計算はすべて回路解析である。
【0056】
なお、ここでは、図2のゲート抵抗値を決定するまでのフローについて説明した。しかし、他の回路方式をとるゲート駆動回路においても、電磁放射ノイズのノイズ源である、スイッチング電圧時間変化率を変動させる因子となりうる回路素子であれば同様に最適パラメータを決定することができる。例えば、コイル、コンデンサ、フィルタなどでもよい。
【0057】
<まとめ>
本発明の実施形態におけるゲート駆動回路の設計支援方法およびその装置は、あるゲート抵抗値からスイッチング電圧を回路解析で計算した後、一度だけ電磁界解析を行うことで電磁放射ノイズを求めておき、その後はゲート抵抗値を更新するたびに、更新したゲート抵抗値に対応するスイッチング電圧を回路解析で計算するだけで、更新したゲート抵抗値に対応する電磁放射ノイズを推定する。
【0058】
これにより、ゲート抵抗値を更新するたびに電磁界解析を繰り返す必要がなくなり、ゲート抵抗値を決定するまでの設計時間を著しく減少させることができる。
【0059】
この場合において、電磁界解析の時間・精度に問題がある場合は、少なくとも一組のスイッチング電圧および電磁放射ノイズの実測値に基づき、電磁放射ノイズを推定すれば、さらに電磁界解析の時間分だけ設計時間の時間を削減できる。
【0060】
また、電磁界解析により求めた電磁放射ノイズまたは(3)式により推定した電磁放射ノイズを、目標値と比較し、目標値以下でない場合はゲート抵抗値を増加する。これにより、電磁放射ノイズを目標値以下に抑制することができる。この場合において、電磁界解析により求めた電磁放射ノイズまたは(3)式により推定した電磁放射ノイズを、目標値に近似できるか否か判定し、近似できない場合はゲート抵抗値を減少させてもよい。以上により、電磁放射ノイズを目標値以下で最大化できるので、スイッチング損失を最小限に抑えることができる。つまり、電磁放射ノイズの最適化を行うことで、同時にスイッチング損失も最適化されるので、スイッチング損失の計算を設計工程から省略することができ、さらに設計時間を減少させることができる。すなわち、電磁放射ノイズの抑制とスイッチング損失の低減を両立するゲート駆動回路の設計を短TAT化することができる。
【符号の説明】
【0061】
400 中央処理装置
401 記憶装置
402 入出力装置
403 情報受付部
404 回路解析部
405 電磁界解析部
406 ノイズ推定部
407 第1の判定部
408 第1の回路改良部
409 第2の判定部
410 第2の回路改良部
411 表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体素子のスイッチングを制御するゲート駆動回路に含まれる回路素子のパラメータを用いて前記半導体素子のスイッチング電圧を計算する回路解析部と、
前記スイッチング電圧によって前記ゲート駆動回路を搭載するシステムに発生する電磁放射ノイズを計算する電磁界解析部と、
前記電磁放射ノイズが目標値に収まっているか否か判定する第1の判定部と、
前記電磁放射ノイズが目標値に収まっていない場合に、前記電磁放射ノイズを抑制するように前記回路素子のパラメータを改良する第1の回路改良部と、
前記改良したパラメータを用いて前記回路解析部が計算したスイッチング電圧に基づいて電磁放射ノイズを推定するノイズ推定部と、
を備え、
中央処理装置が、前記回路素子のパラメータを最適化することを特徴とする設計支援装置。
【請求項2】
さらに、
前記電磁放射ノイズが前記目標値に収まっている場合に、前記電磁放射ノイズが前記目標値に近似できるか否かを判定する第2の判定部と、
前記電磁放射ノイズが目標値に近似できない場合に、前記電磁放射ノイズを増加するように前記回路素子のパラメータを改良し、前記電磁放射ノイズを前記目標値に近づける第2の回路改良部と、
を備えることを特徴とする請求項1記載のゲート駆動回路の設計支援装置。
【請求項3】
前記電磁界解析部は、少なくとも一組の電磁放射ノイズおよびスイッチング電圧の実測値を有し、
前記ノイズ推定部は、前記実測値に基づいて電磁放射ノイズを推定することを特徴とする請求項1記載のゲート駆動回路の設計支援装置。
【請求項4】
前記回路素子は、抵抗、コイル、およびコンデンサのうち、少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1または2記載のゲート駆動回路の設計支援装置。
【請求項5】
回路解析部が、半導体素子のスイッチングを制御するゲート駆動回路に含まれる回路素子のパラメータを用いて前記半導体素子のスイッチング電圧を計算する回路解析工程と、
電磁界解析部が、前記スイッチング電圧によって前記ゲート駆動回路を搭載するシステムに発生する電磁放射ノイズを計算する電磁界解析工程と、
第1の判定部が、前記電磁放射ノイズが目標値に収まっているか否か判定する第1の判定工程と、
第1の回路改良部が、前記電磁放射ノイズが目標値に収まっていない場合に、前記電磁放射ノイズを抑制するように前記回路素子のパラメータを改良する第1の回路改良工程と、
ノイズ推定部が、前記改良したパラメータを用いて前記回路解析部が計算したスイッチング電圧に基づいて電磁放射ノイズを推定するノイズ推定工程と、
を含み、
中央処理装置が、前記回路素子のパラメータを最適化することを特徴とする設計支援方法。
【請求項6】
さらに、
第2の判定部が、前記電磁放射ノイズが前記目標値に収まっている場合に、前記電磁放射ノイズが前記目標値に近似できるか否かを判定する第2の判定工程と、
第2の回路改良部が、前記電磁放射ノイズが目標値に近似できない場合に、前記電磁放射ノイズを増加するように前記回路素子のパラメータを改良し、前記電磁放射ノイズを前記目標値に近づける第2の回路改良工程と、
を備えることを特徴とする請求項5記載の設計支援方法。
【請求項7】
前記ノイズ推定工程において、少なくとも一組の電磁放射ノイズおよびスイッチング電圧の実測値に基づいて電磁放射ノイズを推定することを特徴とする請求項5記載の設計支援方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−253434(P2011−253434A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−128030(P2010−128030)
【出願日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】