説明

コイルの非破壊検査方法およびその装置

【課題】従来よりも検査コストを低減でき、短時間で精度よく検査することができるコイルの非破壊検査方法およびその装置を提供すること。
【解決手段】モータコア8に装着されたコイル7と、コイル7に対面させる電極2とを検査容器10内に配置するコイル配置工程と、検査容器10内を所定圧力まで減圧する減圧工程と、減圧された所定圧力下において気化しうる導電性液体6を、検査容器10内に注入し、導電性液体6を気化させることにより、検査容器10内を導電性気体雰囲気とする雰囲気形成工程と、コイル7と電極2との間に電圧を付与して両者の間に流れる電流の値を測定することにより、コイル7の傷の状態を判定する検査する測定工程とを有する。減圧工程の前には、一旦予備的に上記検査容器内を減圧した後に不活性ガスを充満させる雰囲気置換工程を行うことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータコアに装着されたコイルの電気的な絶縁状態を非破壊状態で検査する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
モータのステータコアあるいはロータコア(これらをモータコアという)に装着されるコイルは、被覆導体を多数巻回して構成されている。これらの多数の被覆導体の電気的絶縁性は、モータの性能において非常に重要な特性である。
従来、このコイルの絶縁状態を検査する方法としては、様々な方法が提案されている。たとえば、下記特許文献1に記載された方法は、導電性を備えた検査液中に、コイルと電極を浸し、これらの間に電圧を印加してコイルからの漏れ電流を検出して判定する方法である。
【0003】
また、下記特許文献2の方法は、検査槽にコイルを配置しておいて、導電性の検査液を徐々に供給しながら電極とコイルに電圧を印加し、電極とコイルとの間で導電性が検出された時点における検査液の液面高さによってコイル傷の位置を特定する方法である。
また、その他にも、下記特許文献3、4に記載の方法等もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−317525号公報
【特許文献2】特開2004−347609号公報
【特許文献3】特開2008−96158号公報
【特許文献4】特開2008−266723号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の方法は、いずれの方法も、コイルを導電性の検査液の中に浸すことを条件とする方法である。導電性の検査液としては、主に、フッ素系不活性溶液よりなる溶媒に少量のアルコールを添加して導電性にしたものが用いられている。
しかしながら、検査液にコイルを浸漬する検査方法は、その検査時間が比較的長くかかり、また、検査後にコイルから検査液を除去する作業も比較的長時間となるという問題がある。
【0006】
また、上記フッ素系不活性溶液よりなる溶媒は、比較的高価な液体であり、かつ、揮発性が高く液量の減少が早いので、検査コストが高くなってしまうという問題がある。
また、上記溶媒の揮発性が高いことに起因して、検査液の導電性が変化し、検査精度が安定しないという問題もある。
【0007】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので、従来よりも検査コストを低減でき、短時間で精度よく検査することができるコイルの非破壊検査方法およびその装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、モータコアに装着されたコイルと、該コイルに対面させる電極とを検査容器内に配置するコイル配置工程と、
該検査容器内を所定圧力まで減圧する減圧工程と、
減圧された上記所定圧力下において気化しうる導電性液体を、上記検査容器内に注入し、該導電性液体を気化させることにより、上記検査容器内を導電性気体雰囲気とする雰囲気形成工程と、
上記コイルと上記電極との間に電圧を付与して両者の間に流れる電流の値を測定することにより、上記コイルの傷の状態を判定する測定工程とを有することを特徴とするコイルの非破壊検査方法にある(請求項1)。
【0009】
第2の発明は、モータコアに装着されたコイルに対面させる電極と、
該電極及び上記コイルを収容する検査容器と、
該検査容器内を所定圧力まで減圧する真空ポンプと、
上記検査容器内に導電性液体を注入するための注入部と、
上記電極と上記コイルとの間に電圧を付与する電源と、
上記コイルと上記電極との間に流れる電流の値を測定する電流計とを有することを特徴とするコイルの非破壊検査装置にある(請求項6)。
【発明の効果】
【0010】
第1の発明のコイルの非破壊検査方法においては、上記コイル配置工程及び減圧工程を行った後に、上記雰囲気形成工程を行う。この工程では、上記のごとく、減圧された上記所定圧力下において気化しうる導電性液体を、上記検査容器内に注入し、該導電性液体を気化させることにより、上記検査容器内を導電性気体雰囲気とする。すなわち、本発明では、従来のような導電性の液体の中にコイルを浸漬することは行わず、導電性の気体の雰囲気中に検査対象のコイルを配置する。
【0011】
そして、その後、上記測定工程では、上記導電性気体雰囲気内において、上記コイルと上記電極との間に電圧を付与する。このとき、コイルを被覆する絶縁被膜の傷状態に応じて、コイルと電極との間に流れる電流値が変化する。そのため、電流値を測定すれば、コイルの傷の状態を判定することができる。なお、判定方法としては、様々な方法を採用できるが、電流値とコイルの傷の状態との相関関係を予め実験により求めて所定の閾値を決定し、その閾値以下が合格、閾値を超えれば不合格とする方法をとることができる。
【0012】
このように、本発明では、従来の検査液を使うことなく、上記導電性気体雰囲気という気体の中においてコイルの検査を行うことができる。そのため、従来の検査雰囲気が液体であったことによる不具合を一気に解消することができる。
すなわち、上記導電性気体雰囲気は、上記減圧工程の後に、気化する導電性液体を検査容器内に注入するだけで瞬時に形成できるので、検査時間を短縮できる。また、検査後においても、たとえば、再び検査容器内を減圧すれば、簡単にコイルの表面を乾燥させることができ、従来のような検査液を除去するような作業時間はほとんど必要ない。
【0013】
また、導電性気体雰囲気は、少量の導電性液体を気化させることによって得ることができるので、検査コストも比較的安くすることができる。また、液体を大量に扱うための処理設備も必要ないため、設備コストも低減できる。
さらに、従来のような検査液が揮発して導電性が安定しないといったような問題が生じないため、安定した検査を行うことができる。
一方、導電性液体を使用せず真空状態で検査する事に比べて、より低い電圧で検査する事が可能であり、検査時にコイルへ与えるダメージを最小限とすることができる。
そして、上記のごとく短時間で実施でき、かつ、検査後のコイルも容易に乾燥できるので、たとえば、全数検査を採用することもでき、モータ品質の向上に大きく貢献することができる。
【0014】
以上のように、本発明によれば、従来よりも検査コストを低減でき、短時間で精度よく検査することができるコイルの非破壊検査方法を提供することができる。
【0015】
第2の発明のコイルの非破壊検査装置は、上記のごとく、上記電極、上記検査容器、上記真空ポンプ、上記注入部、上記電源、及び電流計とを有している。そのため、これらを用いることにより、上記の優れた非破壊検査方法を容易に実施することができ、従来よりも検査コストを低減でき、短時間で精度よく検査することができるコイルの非破壊検査装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1における、コイルの非破壊検査装置の構成を示す説明図。
【図2】実施例1における、実験結果を示す説明図。
【図3】実施例2における、電極の構成を示す説明図。
【図4】実施例3における、電極の構成を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
第1の発明において、上記減圧工程において実現すべき上記の所定圧力は、その後の雰囲気形成工程において導入する導電性液体の種類によって異なる。たとえば、上記導電性液体としてブタノールを用いる場合には、大気圧状態での沸点が118℃であるところを、1197Pa以下の減圧状態とすることによって、およそ沸点を25℃以下とすることができる。従って、検査を25℃を超える温度状態で行う場合には、上記の1197Paよりも低い圧力状態にすれば可能である。このように、減圧工程では、採用する導電性液体の種類に応じて減圧度合いを決定し、これを上記所定圧力とすればよい。
【0018】
なお、上記の導電性液体の気化を促す条件に加えて、さらに、上記減圧工程で実現する所定圧力条件としては、133〜1197Paの範囲とすることが好ましい。これにより、コイルの傷と電極の間に放電しやすい条件が容易に整う。一方、上記所定圧力が133Pa未満の場合には、圧力が低過ぎる為、容器の耐圧性能、真空ポンプの能力に高性能の仕様が必要となり設備コストがアップするおそれがあり、1197Paを超える場合には前述したように、例えば導電性液体としてブタノール系の導電性アルコールを用いる場合等にその沸点が高くなるので、新たに温度を上昇させる設備が必要となるおそれがある。
【0019】
また、上記減圧工程の前には、一旦予備的に上記検査容器内を減圧した後に不活性ガスを充満させる雰囲気置換工程を行うことが好ましい(請求項2)。この場合には、検査容器内の初期の空気雰囲気に含まれる酸素を非常に容易に低濃度化することができる。そのため、導電性気体雰囲気中の酸素濃度を安全範囲内に調整することが非常に容易である。もちろん、減圧工程で減圧度合いを高めることだけで導電性気体雰囲気中の酸素濃度を安全範囲内に調整することも可能であるが、上記雰囲気置換工程の実施によってより簡単かつ確実に調整可能となる。
この雰囲気置換工程の際に予備的に減圧する減圧条件は、検査容器内の圧力が1000Pa以下となるように行うことが好ましい。上記所定圧力を1000Pa以下とすることにより、空気の濃度が1%以下となり、より安全な節義環境が得られる。
【0020】
また、上記導電性液体としては、所定の減圧状態で容易に気化し、その雰囲気を導電性とすることができるものであれば、様々なものを用いることができる。その中でも、入手が容易で扱いやすいという点からも、上記導電性液体としては、導電性アルコールを用いることが好ましい(請求項3)。
【0021】
上記導電性アルコールとしては、たとえば、ブタノール、イソブタノール、ヘキサノール、ヘプタノール等が挙げられる。
この中でも、上記導電性アルコールは、ブタノール又はイソブタノールであることがより好ましい(請求項4)。これは、メタノール、エタノール、プロパノール等の分子量の小さいアルコールは、コイルの絶縁層の劣化を生じさせる可能性があり、飽和炭化水素の炭素数がブタノール以上の場合は、分子量が大きくなるのでコイルの絶縁層の劣化を生じさせにくくなる。一方、炭素数が多くなると沸点も高くなる事から、炭素数が少なすぎず大き過ぎないブタノール系が好ましい。
【0022】
また、上記電極は複数に分割されており、上記検査工程においては、電圧を印加する上記電極を順次変更することにより、コイルの検査位置を順次変更することが好ましい(請求項5)。この場合には、複数の電極を用いて異なる位置で順次検査を行うことにより、コイルの傷の位置を特定することが容易となる。印加する電圧は、コイルの形態によっても最適な範囲が左右されるが、0.5〜3.0kVの範囲内であることが好ましい。0.5kV未満の場合には、放電が起き難く検出できない可能性があり、一方、3.0kVを超える場合には、コイルの傷部の放電電流が大きくなり傷部を広げてしまうおそれがある。
【0023】
この方法を実現するために、上記非破壊検査装置においては、上記電極は複数に分割されており、電圧を印加する上記電極を順次変更することができるよう構成されていることが好ましい(請求項7)。これにより、コイル検査位置の変更が使用する電極の切り替えだけで行えるので非常に容易である。
【0024】
また、複数組の電極を用いることなく、一組の小さな電極を移動させて順次検査位置を変更しても同様の効果が得られる。ただし、この場合には、電極を移動させる移動手段を検査容器内に配置する必要があり、装置の構造が複雑になる。
なお、後述する実施例1に示すごとく、円環状の1つのコイルエンド部の全周に対応する1つの電極によって検査することももちろん可能である。
【実施例】
【0025】
(実施例1)
本発明の実施例にかかるコイルの非破壊検査方法及びその装置について、図1を用いて説明する。
本例のコイルの非破壊検査装置1は、図1に示すごとく、モータコア8に装着されたコイル7に対面させる電極2と、電極2及びコイル7を収容する検査容器10と、検査容器10内を所定圧力まで減圧する真空ポンプ11と、検査容器10内に導電性液体を注入するための注入部3と、電極2とコイル7との間に電圧を付与する電源15と、コイル7と電極2との間に流れる電流の値を測定する電流計17とを有する。さらに、電流計17には、測定した電流値によって、コイルの良否判定を行ってその結果を出力する良否判定回路19が接続されている。この良否判定回路19は、実際にはパソコンを用いてそのディスプレイに結果を表示するように構成した。良否判定の基準(閾値)等は、そのソフトウエアによって変更可能となっている。
【0026】
また、本例で検査するコイル7のコイルエンド部70は、モータコア8の上端及び下端の両方から、それぞれ円環状に突出した形状を有している。図1においては、モータコア8は、その軸方向を上下方向に向けて配置し、コイルエンド部70a、70bの全体の断面形状を示してある。
コイル7に対面する電極としては、図1に示すごとく、円環状のコイルエンド部70a及び70bに対して、それぞれその内周面、外周面及び軸方向端面に対抗するように略コ字状断面に凹んだ円環状の収容部25を有する電極2a、2bを用いた。
【0027】
また、同図に示すごとく、電源15は、電線121を介してコイル7に接続されており、また、電線122、切り替えスイッチ部125、電線123を介して上方の電極2aに接続されると共に、電線122、切り替えスイッチ部125、電線124を介して下方の電極2bに接続されるように構成されている。
さらに、電源15には、電線126、127を介して電流計17及び良否判定回路19が接続されている。
【0028】
また、検査容器10内に導電性液体6を注入するための注入部3は、吸気経路190の三方弁19に接続されている。注入部3は、導電性液体6を備蓄すると共にその底部の開口部が三方弁19を介して検査容器10内に連通するように構成されている。そのため、三方弁19の吸気導入路を閉じた状態で、注入部3を検査容器10内と連通させることにより、導電性液体6を検査容器10内に導入することができる。
【0029】
次に、上記非破壊検査装置1を用いてコイルの検査を行う手順について説明する。
本例では、図1に示すごとくモータコア8及びこれに装着したコイル7を、軸方向を上下方向に向けて容器10の中に固定すると共に、その両端のコイルエンド部70a、70bをそれぞれ挟むように電極2a、2bをセットする。
【0030】
次に、減圧工程を行う前に、真空ポンプ11を用いて、一旦予備的に検査容器10内を減圧した後に不活性ガスを充満させる雰囲気置換工程を行った。減圧後の検査容器10内の圧力はおよそ1000Paとなるように調整した。また、減圧後には、上記吸気経路190に窒素供給源を接続し、窒素を検査容器10内に充満させた。なお、不活性ガスとしては、窒素に限らず、アルゴン、ヘリウム等様々な不活性ガスを利用できる。
【0031】
次に、真空ポンプ11を用いて、コイル7の周囲が所定圧力の減圧雰囲気となるよう減圧する減圧工程を行う。本例では、減圧雰囲気の減圧度(所定圧力)は、133Pa〜1197Paの範囲とし、具体的には、1000Paを目標にして減圧した。
次に、注入部3には、導電性液体であるブタノールを十分に備蓄しておき、三方弁19を操作して、徐々にブタノールを検査容器10内に導入した。ブタノールは、検査容器10内に導入された時点で、減圧状態であるが故に瞬時に気化する。そして、ブタノール蒸気が検査容器10内に充満して大気圧となった時点でブタノールの導入を停止する。これにより、検査容器10内は、導電性気体雰囲気に満たされる。
【0032】
上記雰囲気形成工程が完了した後、測定工程を実施して実際に検査を行う。
本例では、まず、コイル7と電極2aとの間に電圧を付与して両者の間に流れる電流の値を測定することにより、上方に位置するコイルエンド部70aの傷の状態を判定する。本例では、印加電圧は2.0kVとした。その後、切り替えスイッチ部125を操作して、コイルエンド部70bと電極2bとの間に同様に電圧を付与して両者の間に流れる電流の値を測定することにより、下方に位置するコイルエンド部70aの傷の状態を判定する。
検査完了後には、真空ポンプ11によって検査容器10内を減圧し、その後大気と置換することにより、コイル7を容易に乾燥させてすぐに、後の工程に送ることが可能となる。
【0033】
以上のように、本例のコイルの非破壊検査方法においては、コイル配置工程及び減圧工程を行った後に、上記雰囲気形成工程を行う。この工程では、上記のごとく、減圧された検査容器10内の所定圧力条件において気化しうる導電性液体6を、検査容器10内に注入し、導電性液体6を気化させることにより、検査容器10内を導電性気体雰囲気とする。すなわち、従来のような導電性の液体の中にコイルを浸漬することは行わず、導電性の気体の雰囲気中に検査対象のコイルを配置する。そして、その後、上記測定工程を実施する。
【0034】
このように、本例では、従来の検査液を使うことなく、上記導電性気体雰囲気という気体の中においてコイル7の検査を行うことができる。そのため、検査の準備及び検査後の作業を軽減することができ、検査時間を短縮できる。特に、検査後においては、再び検査容器10内を減圧すれば、簡単にコイル7の表面を乾燥させることができ、従来のような検査液を除去するような作業時間はほとんど必要ない。
【0035】
また、導電性気体雰囲気は、少量の導電性液体6を気化させることによって得ることができるので、検査コストも比較的安くすることができる。また、液体を大量に扱うための処理設備も必要ないため、設備コストも低減できる。
さらに、従来のような検査液が揮発して導電性が安定しないといったような問題が生じないため、安定した検査を行うことができる。
【0036】
なお、検査結果の判定方法は、様々な方法を採用できるが、前述したごとく、電流値とコイルの傷の状態との相関関係を予め実験により求めて所定の閾値を決定し、その閾値以下が合格、閾値を超えれば不合格とする方法をとることができる。
【0037】
(実験例)
実施例1の非破壊検査装置1を用いてコイルの検査を行った実験例について説明する。
コイル7としては、検査で発見すべき傷が生じていることがわかっている不良コイルを準備した。
【0038】
そして、不良コイルについて、上記非破壊検査装置1を用い、本発明の検査方法に基づいて、コイル7と電極2との間に電圧を付与して両者の間に流れる電流の値を測定した。コイル7(コイルエンド部70)と電極2との間隔は10mmとした。減圧雰囲気の減圧度(所定圧力)は、133Pa〜1197Paの範囲とし、具体的には、1000Paを目標にして減圧した。検査容器1内の減圧条件(所定圧力)は、1000Paを目標としてこれに制御し、導電性液体としてはブタノールを用いた。いずれも実施例1と同様の条件である。
その結果を図2に符号E1として示す。同図は、横軸にコイル7と電極2間に印加した電圧(V)を、横軸に両者の間に流れた電流値(A)を取ったものである。
【0039】
比較のために、上記と同じ不良コイルを用い、減圧条件は上記と同様とし、一方、導電性液体を検査容器10内に注入して気化させる雰囲気形成工程は行わず、空気雰囲気のまま検査するという比較検査を行った。その結果を図2に符号C1として示す。
【0040】
図2から知られるように、E1とC1とを比較すると、導電性気体雰囲気で行った本発明例のE1は、空気雰囲気で行った比較検査1のC1に比べ、低い印加電圧で高い電流値が得られた。これにより、本発明によれば、低い電圧で精度よくコイル傷検査ができることがわかる。
【0041】
なお、問題となるコイル傷がない良品コイルの場合には、導電性気体雰囲気で上記と同様に通電しても上記E1の場合よりも十分に低い電流値しか得られない。そのため、従来の検査液に浸漬する方法と同等以上の精度で容易かつ短時間で検査が可能である。
【0042】
(実施例2)
本例は、実施例1における電極2の形態を変更した例である。
すなわち、図3に示すごとく、本例の電極22a、22bは、いずれも、周方向に8個の電極220a、220bに分割されており、電圧を印加する電極を順次変更することができるよう構成した。なお、同図に示すごとく、上方に配置する電極22aは、コイルエンド部70aの近傍から立設されているリード部75と干渉しないように切り欠き部229を設けた。その他は、実施例1と同様である。
この場合には、コイルエンド70a、70bについて、それぞれ周方向8箇所に分けて検査できるので、不良箇所を容易に特定することができる。
その他は、実施例1と同様の作用効果が得られる。
【0043】
(実施例3)
本例は、実施例1における電極2の形態を変更した例である。
すなわち、図4に示すごとく、本例の電極23は、コイルエンド部70a周方向一部のみに対峙するコ字状の小型の電極である。この場合には、この電極23をコイル70bに対して周方向に相対移動可能とすることにより、試験部位を変更することが可能である。もちろん、コイルエンド部70bに対しても電極23を対峙させて相対移動させることもできる。その他は、実施例1と同様の作用効果が得られる。
【符号の説明】
【0044】
1 コイルの非破壊検査装置
10 検査容器
11 真空ポンプ
15 電源
17 電流計
2(2a、2b)、22(22a、22b)、23 電極
6 導電性液体
7 コイル
70(70a、70b) コイルエンド部
8 モータコア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータコアに装着されたコイルと、該コイルに対面させる電極とを検査容器内に配置するコイル配置工程と、
該検査容器内を所定圧力まで減圧する減圧工程と、
減圧された上記所定圧力下において気化しうる導電性液体を、上記検査容器内に注入し、該導電性液体を気化させることにより、上記検査容器内を導電性気体雰囲気とする雰囲気形成工程と、
上記コイルと上記電極との間に電圧を付与して両者の間に流れる電流の値を測定することにより、上記コイルの傷の状態を判定する測定工程とを有することを特徴とするコイルの非破壊検査方法。
【請求項2】
請求項1において、上記減圧工程の前には、一旦予備的に上記検査容器内を減圧した後に不活性ガスを充満させる雰囲気置換工程を行うことを特徴とするコイルの非破壊検査方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、上記導電性液体としては、導電性アルコールを用いることを特徴とするコイルの非破壊検査方法。
【請求項4】
請求項3において、上記導電性アルコールは、ブタノール又はイソブタノールであることを特徴とするコイルの非破壊検査方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項において、上記電極は複数に分割されており、上記検査工程においては、電圧を印加する上記電極を順次変更することにより、コイルの検査位置を順次変更することを特徴とするコイルの非破壊検査方法。
【請求項6】
モータコアに装着されたコイルに対面させる電極と、
該電極及び上記コイルを収容する検査容器と、
該検査容器内を所定圧力まで減圧する真空ポンプと、
上記検査容器内に導電性液体を注入するための注入部と、
上記電極と上記コイルとの間に電圧を付与する電源と、
上記コイルと上記電極との間に流れる電流の値を測定する電流計とを有することを特徴とするコイルの非破壊検査装置。
【請求項7】
請求項6において、上記電極は複数に分割されており、電圧を印加する上記電極を順次変更することができるよう構成されていることを特徴とするコイルの非破壊検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−281653(P2010−281653A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−134593(P2009−134593)
【出願日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】