説明

コイルばね

【課題】低コストで、温度変化への応答性が良いコイルばねおよびその製造方法の提供。
【解決手段】Ti−Ni系形状記憶合金からなる合金線で構成されたクローズドエンドのコイルばねであって、コイルエンドの一方または両方において、合金線の先端部のばね軸方向の厚みd(mm)と合金線の線径d(mm)との比(d/d)が0.50〜0.75であり、コイルの平均径D(mm)と合金線の線径d(mm)の比(D/d)が10以下であることを特徴とするコイルばね。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイルばねに関し、特に、湯水混合水栓などにおいて、流体温度の制御を目的として使用されるコイルばねに関する。
【背景技術】
【0002】
形状記憶合金は、所定の形状に成形した後、所定の熱処理を実施することによって形状を記憶させることができる合金であり、力を加えて変形しても、一定温度(動作温度)以上に加熱すると元の形状に戻る性質を有している。これは、形状記憶合金の弾性率が温度によって大きく変化することによる。
【0003】
特に、Ti−Ni系形状記憶合金は、様々な技術分野で適用されている合金である。Ti−Ni系形状記憶合金の弾性率が高温で高く、低温で低くなる性質を利用したものとして、湯水混合水栓などの流体温度の制御がある。
【0004】
図1は、湯水混合水栓の混合原理を示す図である。図1に示すように、湯水混合水栓100は、高温水用孔102と、室温水用孔101と、高温水用孔102および室温水用孔101と接続された混合室108と、混合室108に接続された吐出孔105とを有し、混合室108内には、形状記憶合金コイルばね103、ステンレス製等のバイアスばね104およびスプール弁106が配置されている。
【0005】
温度設定つまみ107を回して、所定の温度に設定すると、スプール弁が移動し、室温水用孔101および高温水用孔102のそれぞれが所定量開口し、予め決められた配分で混合室108内に導入される。このとき、混合室108内の混合水の温度が高くなりすぎると、形状記憶合金コイルばね103がバイアスばね104を押し込むため、スプール弁の位置が移動し、室温水用孔101の流路を広げるため、混合水の温度を下げる。一方、混合室108内の混合水の温度が低くなりすぎると、形状記憶合金コイルばね103がバイアスばね104に押し込まれるため、スプール弁の位置が移動し、高温水用孔102の流路を広げるため、混合水の温度を上げる。このようにして、混合水の温度制御が行われる。
【0006】
例えば、特許文献1には、Ti−Ni系またはCu−Zn−Al系の形状記憶合金からなるコイルばねを用いた「自動温度調節式温水混合栓」に関する発明が開示されている。
【0007】
形状記憶合金からなるコイルばねは、通常、冷間加工によって所望のコイル形状に成型した後に,400〜500℃程度の温度域での熱処理(以下、「形状記憶熱処理」と呼ぶ。)によって、その形状を記憶させる。このとき、ばねの座りを安定させることを目的として、コイルエンドの一方または両方が研削されるが、合金線の先端部のばね軸方向の厚みd(mm)は、合金線の線径d(mm)の1/4以下、即ち、比(d/d)が0.25以下となる厚みにされるのが一般的である。
【0008】
ただし、研削処理時にはコイルエンドに摩擦熱が発生するため、これを形状記憶熱処理後に行うと形状記憶合金特性に悪影響を与え、また、形状記憶熱処理前に行ったとしても、ばね径の増大、座巻部の開きなどの形状不良を生じさせるため、仮熱処理後に、研削処理を行い、その後に形状記憶熱処理を行うことが必要とされている。また、研削処理後には、研削時に生じたバリを除去する作業を要する。
【0009】
一方、研削処理を行わず、ばねの座りを安定させる方法として、特許文献2には、ばねの中心線に直行する最終座巻き部をコイルの2分の1巻以上有するコイルばねが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】実開昭57−35567号公報
【特許文献2】特開2002−364691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1には、形状記憶合金からなるコイルばねを使用することが記載されているものの、その具体的な形状については触れられていない。また、特許文献2に記載の発明は、コイルの平均径D(mm)に対して、合金線の線径d(mm)が十分に細い場合には有効であるものの、混合水栓用ばねとして一般的に用いられる、比(D/d)が10以下のコイルばねではほとんど意味をなさない。
【0012】
一方、形状記憶合金からなるコイルばねは、周辺温度の変化に対する反応が早いため、オーバーシュート(水温が設定水温をオーバーしてから設定水温になる現象)の少ない温度制御が可能となりつつあるが、依然として、オーバーシュートの発生は完全に無くなっておらず、より温度変化への応答性の良いコイルばねが求められている。
【0013】
従って、本発明は、コイルエンドの研削処理を前提とし、低コストで製造可能であり、しかも、温度変化への応答性の良いコイルばねおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、形状記憶合金からなるコイルばねのコイルエンドの研削時に発生する加工熱と形状崩れの関係に着目し、従来、合金線の先端部のばね軸方向の厚みd(mm)を、合金線の線径d(mm)の1/4以下、即ち、比(d/d)が0.25以下となるまで行われてきたコイルエンドの研削の検討を行った。その結果、コイルエンドの研削処理後の合金線の先端部形状を従来のものよりある程度厚くしても、安定したばねの座りを確保でき、しかも、そうすることにより研削処理前の加熱処理工程の省略、更には研削処理後のバリ取り工程をも省略することが可能であり、製造工程を大幅に簡略化することができることを知見した。
【0015】
本発明者らは、更に、上記のような先端部形状を有するコイルばねであれば、上記の従来の形状よりも流体との接触面積を大きくすることができ、しかも、熱容量の大きいハウジング(混合水栓の場合、混合室のハウジング)との接触面積を小さくすることができるため、温度変化への応答性を向上させることができることを知見した。
【0016】
本発明は、上記の知見に基づいてなされたものであり、下記の(1)に示すコイルばねおよび下記の(2)に示すコイルばねの製造方法を要旨とする。
【0017】
(1)Ti−Ni系形状記憶合金からなる合金線で構成されたクローズドエンドのコイルばねであって、コイルエンドの一方または両方において、合金線の先端部のばね軸方向の厚みd(mm)と合金線の線径d(mm)との比(d/d)が0.50〜0.75であり、コイルの平均径D(mm)と合金線の線径d(mm)の比(D/d)が10以下であることを特徴とするコイルばね。
【0018】
(2)下記の工程1〜3を含むことを特徴とするコイルばねの製造方法。
工程1:Ti−Ni系形状記憶合金からなる合金線に冷間加工を実施して、コイルの平均径D(mm)と合金線の線径d(mm)の比(D/d)が10以下であるクローズドエンドのコイルばね形状のコイル成形体を得る工程、
工程2:工程1に連続して、得られたコイル成形体を研削して、コイルエンドの一方または両方において、合金線の先端部のばね軸方向の厚みd(mm)と合金線の線径d(mm)との比(d/d)が0.50〜0.75であるコイル研削体を得る工程、および、
工程3:コイル研削体に形状記憶熱処理を施してコイルばねを得る工程。
【0019】
なお、上記のTi−Ni系形状記憶合金は、原子百分率で、50.0〜51.2%のNiを含み、残部がTiおよび不純物からなる組成を有することが好ましい。上記のTi−Ni系形状記憶合金は、原子百分率で、更に、Cr、FeおよびCoから選択される一種以上の元素を合計3%以下含有することがより好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明のコイルばねは、その製造工程において、仮熱処理を施すことなく、研削することができる上、研削後のバリ取り作業も行う必要がないため、低コストで製造可能なものであり、しかも、温度変化への応答性が良いため、特に、湯水混合水栓その他、流体温度の制御装置に用いるのに適している。本発明のコイルばねは、従来のコイルばねと比較して、ばね成型コストを約25%削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】湯水混合水栓の混合原理を示す図
【図2】クローズドエンドのコイルばねの構成を示す図 (a)研削ありのもの (b)研削なしのもの
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明のコイルばねは、Ti−Ni系形状記憶合金からなる合金線で構成されたクローズドエンドのコイルばねである。
【0023】
図2は、クローズドエンドのコイルばねの構成を示す図であり、(a)は研削ありのもの、(b)は研削なしのものを示す。図2(a)および(b)の符号3に示すように、クローズドエンドのコイルばねとは、端末がコイル軸方向に隣のコイルと接している形状のコイルばねを意味する(JIS B 0103)。
【0024】
本発明では、図2(b)に示すように、先端部4を研削して、その厚みを合金線2の線径より小さくしたクローズドエンドのコイルばねを対象とする。なお、図2(b)に示す「d」、「d」および「D」は、以下に説明される、合金線の先端部のばね軸方向の厚みd(mm)、合金線の線径d(mm)およびコイルの平均径D(mm)をそれぞれ意味する。
【0025】
<比(d/d):0.50〜0.75>
合金線の先端部のばね軸方向の厚みd(mm)と合金線の線径d(mm)との比(d/d)が0.50未満の場合、仮熱処理を行わず研削すれば、型崩れおよびバリ発生が生じる。また、比(d/d)が0.75を超える場合、ばねの座りが不安定になる。ばねの座りが不安定になると、製品として使いづらく、また、形状記憶処理時に傾いた場合には、設計の自由長より長い製品が発生してしまう。従って、比(d/d)は0.50〜0.75の範囲とした。比(d/d)が0.50〜0.75の範囲にあるコイルばねであれば、仮熱処理をすることなく、コイルエンドの研削処理を実施しても、研削時に生じる型崩れおよびバリの発生を抑えることができる上、ばねとしての座りも安定している。従って、仮熱処理工程も、バリ取り工程も省略できるため、製造コストを大幅に削減できる。また、比(d/d)が0.50以上であれば、従来のものより研削量が少ないため、流体との接触面積が大きくなり、しかも、熱容量が大きいばね受け治具との接触面積が小さくなるため、流体の温度変化の応答性が改善される。
【0026】
<比(D/d):10以下>
10を超える場合は、端面にばね軸に直行する座巻を設けることで座りが安定するため、コイルエンドの研削処理そのものが不要である。従って、本発明では、ばねの座りを安定にするためのコイルエンドの研削処理が必須である、コイルの平均径D(mm)と合金線の線径d(mm)の比(D/d)が10以下のコイルばねを対象とした。比(D/d)の下限には特に制約はないが、比(D/d)が小さすぎると、比(d/d)が0.75付近で座りが若干不安定になる恐れがあるので、比(D/d)は4以上とするのが好ましい。
【0027】
<Ti−Ni系形状記憶合金の化学組成>
本発明のコイルばねに用いられる形状記憶合金は、Ti−Ni系合金であれば、特に制約はないが、特に、原子百分率(以下、形状記憶合金の各元素の含有量についての「%」は、「原子百分率」を意味する。)で、50.0〜51.2%のNiを含み、残部がTiおよび不純物からなる組成を有することが好ましい。Ni含有量が、原子百分率で、50%未満の場合も51.2%を超える場合も、加工性が悪化して、コイリング中に折れが生じてしまうおそれがあるからである。なお、不純物とは、鉱石、スクラップ等の原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
【0028】
上記のTi−Ni系形状記憶合金は、更に、Cr、FeおよびCoから選択される一種以上の元素を合計3%以下含有することができる。これらの元素を適量含有させることで、形状記憶合金の作動温度および温度に対する弾性率の変化率を調整することができるからである。これらの元素は、その合計含有量が3%を超えると、加工性に悪影響を与える場合がある。従って、これらの元素から選択される一種以上を含有させる場合には、その合計含有量を3%以下とする。
<製造方法>
【0029】
コイルばねの製造方法については、特に制約はないが、少なくとも、下記の工程1〜3を含むことが好ましい。
【0030】
工程1:Ti−Ni系形状記憶合金からなる合金線に冷間加工を実施して、コイルの平均径D(mm)と合金線の線径d(mm)の比(D/d)が10以下であるクローズドエンドのコイルばね形状のコイル成形体を得る工程、
工程2:工程1に連続して、得られたコイル成形体を研削して、コイルエンドの一方または両方において、合金線の先端部のばね軸方向の厚みd(mm)と合金線の線径d(mm)との比(d/d)が0.50〜0.75であるコイル研削体を得る工程、および、
工程3:コイル研削体に形状記憶熱処理を施してコイルばねを得る工程。
【0031】
上記の工程1、即ち、コイリング工程において、コイルの平均径D(mm)と合金線の線径d(mm)の比(D/d)を10以下とすること、および、クローズドエンドのコイルばね形状にすることの理由は、前述の通りである。上記の形状を有するコイル成形体を得るための冷間加工方法については、特に制約はない。例えば、自動コイリングマシンを用いることもできるし、旋盤の主軸に芯金(金属棒)を取付けて回転させて,そこにワイヤーを巻きつけてコイリングする旋盤式コイリングマシンを用いることもできる。
【0032】
上記の工程2、即ち、コイル研削体を得る工程において、得られたコイル成形体を研削して、コイルエンドの一方または両方において、合金線の先端部のばね軸方向の厚みd(mm)と合金線の線径d(mm)との比(d/d)が0.50〜0.75であるコイル研削体を得る理由は、前述の通りである。研削の方法には限定はない。例えば、自動端面研削機を使用することもできるし、研削盤を用いて手作業にて研削することもできる。このとき、ばねの軸方向と砥石が直交するように治具を用いて行うことが望ましい。
【0033】
ここで、このコイル研削体を得る工程は、工程1に連続して行う、即ち、仮熱処理を行うことなく、そのまま研削することによって行う。比(d/d)が0.50〜0.75の範囲に収まるような研削処理であれば、仮熱処理をすることなく、コイルエンドの研削処理を実施しても、研削時に型崩れおよびバリの発生がない上、ばねとしての座りも安定している。
【0034】
上記の工程3、即ち、形状記憶熱処理工程において、所定の形状を記憶したコイルばねを得ることができる。形状記憶熱処理は、所定の形状に拘束して行う。形状記憶熱処理条件は要求される相変態温度に合わせて設定すればよい。例えば、形状記憶熱処理の温度は、400℃〜500℃で行うことが好ましい。400℃未満では、成型性が悪くなる恐れがある(スプリングバックによってばね平均径や拘束長が目標値より大きくなる)。一方、500℃を超えると、形状記憶効果の繰返し特性が悪化する可能性がある。ただし、温度の高低は、目標とする相変態温度によって調整する。形状記憶熱処理の時間は、数分〜2時間で行うのがよい。時間の長短は、主に使用する拘束治具の熱容量に依存する。この場合も時間が短過ぎると成型性が悪く、長すぎると繰返し特性が悪化する恐れがある。
【0035】
上記の工程1〜3以外の製造条件については、限定はないが、例えば、下記の製造方法を採用することができる。
【0036】
伸線
本発明のコイルばねの出発材料である合金線は、通常の製造方法で製造することができる。例えば、所定の化学組成を有する合金材を熱間加工した後に、ダイス引きその他の冷間加工により、減径、伸線し、必要に応じて焼鈍することによって合金線を得ることができる。ここで、冷間加工率(ワイヤーの断面積減少)が30%を超えると、加工歪によって変形抵抗が著しく大きくなるため、このようなダイス引きを行う場合には、焼鈍によって加工歪を除去する必要がある。その他の冷間加工方法として、冷間圧延またはスウェージング(鍛造)を用いることもできる。
【0037】
バリ取り
本発明の製造方法によれば、特にバリ取りを行う必要はないが、特に、研削面により高い性状が求められる場合には、バリ取りを行っても良い。バリ取り方法としては、グラインダーを用いて研磨する方法、ショットピーニングで処理する方法、酸によって除去する方法などがある。
【実施例1】
【0038】
スポンジTiおよび電解Ni板(一部の例では、更にCr)を所定量秤量し、高周波誘導加熱炉を用いてアルゴン雰囲気中にて溶解・鋳造して、表1に示す化学組成を有するインゴットを作製した。それぞれのインゴットの表面をグラインダーで平滑化した後、950℃に加熱し熱間鍛造を加え、さらに950℃に再加熱して熱間圧延加工を施して線径4mmの熱延ワイヤーを作製した。
【0039】
次に、それぞれの熱延ワイヤーをダイス引きと焼鈍の繰返しによって、線径2mmの冷間伸線ワイヤーを得た。それぞれの冷間伸線ワイヤーを自動コイリングマシンによってコイル形状に加工し、コイル平均径10mmまたは16mm、有効巻数5巻のクローズドエンド(両端各1巻が密着した形状)のコイルばね成形体を作製した。
【0040】
続いて、それぞれのコイルばね成形体について、仮熱処理は行わず、コイルエンドに研削処理を行い、表1に示す「d/d」を有するコイルばね研削体を作製した。研削処理は、自動端面研削機によっておこなった。なお、自動端面研削機は、コイルばねを納める円盤と、その上下に設けられたエンドグラインダーとによって構成されており、一度にコイルばね両端を研削する装置である。
【0041】
さらに、それぞれのコイルばね研削体を、拘束治具により全長24mmに拘束して450℃×1時間の形状記憶熱処理を実施して、コイルばねを得た。得られたコイルばねについて、型崩れの有無、バリ発生の有無および座り安定性について評価した。それぞれの評価結果を表1に併記する。座り安定性については、計測治具を用いてばね外側の傾き角度が3°未満である場合を良好と評価した。ばねの外側の傾き角度が3°以上になると、例えば長さ25mmのばねでは傾きが1mm以上となり、ばねを装置に組み込む際に支障が生じる可能性が高い。































【0042】
【表1】











【0043】
表1に示すように、本発明例1〜5は、コイルの平均径D(mm)と合金線の線径d(mm)の比(D/d)が10以下であるコイルばねであって、合金線の先端部のばね軸方向の厚みd(mm)と合金線の線径d(mm)との比(d/d)が0.50〜0.75の範囲にある。型崩れおよびバリの発生がなく、また、座り安定性も良好であった。これに対し、比(d/d)が本発明で規定される範囲を下回る比較例1および2では、バリまたは更に型崩れが発生した。比(d/d)が本発明で規定される範囲を上回る比較例3では、型崩れおよびバリは発生しなかったが、コイルの座りが不安定になった。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明のコイルばねは、その製造工程において、仮熱処理を施すことなく、研削することができる上、研削後のバリ取り作業も行う必要がないため、低コストで製造可能なものであり、しかも、温度変化への応答性が良いため、特に、湯水混合水栓その他、流体温度の制御装置に用いるのに適している。本発明のコイルばねは、従来のコイルばねと比較して、ばね成型コストを約25%削減することができる。
【符号の説明】
【0045】
1 クローズドエンドのコイルばね
2 合金線
3 端末
4 先端部
100 湯水混合水栓
101 室温水用孔
102 高温水用孔
103 形状記憶合金コイルばね
104 バイアスばね
105 吐出孔
106 スプール弁
108 混合室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ti−Ni系形状記憶合金からなる合金線で構成されたクローズドエンドのコイルばねであって、
コイルエンドの一方または両方において、合金線の先端部のばね軸方向の厚みd(mm)と合金線の線径d(mm)との比(d/d)が0.50〜0.75であり、
コイルの平均径D(mm)と合金線の線径d(mm)の比(D/d)が10以下であることを特徴とするコイルばね。
【請求項2】
上記Ti−Ni系形状記憶合金が、原子百分率で、50.0〜51.2%のNiを含み、残部がTiおよび不純物からなる組成を有することを特徴とする請求項1に記載のコイルばね。
【請求項3】
上記Ti−Ni系形状記憶合金が、原子百分率で、更に、Cr、FeおよびCoから選択される一種以上の元素を合計で3%以下含有することを特徴とする請求項2に記載のコイルばね。
【請求項4】
下記の工程1〜3を含むことを特徴とするコイルばねの製造方法。
工程1:Ti−Ni系形状記憶合金からなる合金線に冷間加工を実施して、コイルの平均径D(mm)と合金線の線径d(mm)の比(D/d)が10以下であるクローズドエンドのコイルばね形状のコイル成形体を得る工程、
工程2:工程1に連続して、得られたコイル成形体を研削して、コイルエンドの一方または両方において、合金線の先端部のばね軸方向の厚みd(mm)と合金線の線径d(mm)との比(d/d)が0.50〜0.75であるコイル研削体を得る工程、および、
工程3:コイル研削体に形状記憶熱処理を施してコイルばねを得る工程。
【請求項5】
上記Ti−Ni系形状記憶合金が、原子百分率で、50.0〜51.2%のNiを含み、残部がTiおよび不純物からなる組成を有することを特徴とする請求項4に記載のコイルばねの製造方法。
【請求項6】
上記Ti−Ni系形状記憶合金が、原子百分率で、更に、Cr、FeおよびCoから選択される一種以上の元素を合計で3%以下含有することを特徴とする請求項5に記載のコイルばねの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−174515(P2011−174515A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−38180(P2010−38180)
【出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【出願人】(000228741)日本サーモスタット株式会社 (52)
【Fターム(参考)】