説明

コモンモードノイズフィルタ

【課題】コモンモードノイズだけでなく特定の周波数帯域におけるディファレンシャルモードノイズを減衰することが可能なコモンモードノイズフィルタを提供する。
【解決手段】磁性基板11上にスパイラル導体31〜34からなるコモンモードフィルタF1と、スパイラル導体35,36からなるディファレンシャルモードフィルタF2が積層されている。スパイラル導体31〜34の平面位置は互いに等しく、スパイラル導体35,36の平面位置も互いに等しい。スパイラル導体35,36はそれぞれスパイラル導体31,32と同じ導体層に設けられており、これら導体層は磁性基板11に近い下層の導体層である。スパイラル導体35,36がより磁性基板11に近い導体層に設けられていることから、除去されるディファレンシャルモードノイズの周波数帯域を設計通りとすることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコモンモードノイズフィルタに関し、特に、コモンモードノイズだけでなく特定の周波数帯域におけるディファレンシャルモードノイズを減衰することが可能なコモンモードノイズフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高速な信号伝送インターフェースとしてUSB2.0規格やIEEE1394規格が広く普及し、パーソナルコンピュータやデジタルカメラなど数多くのデジタル機器に用いられている。これらのインターフェースでは一対の信号線を用いて差動信号(ディファレンシャル信号)を伝送する差動伝送方式が採用されており、従来のシングルエンド伝送方式よりも高速な信号伝送が実現されている。
【0003】
高速差動伝送路上のノイズを除去するためのフィルタにはコモンモードフィルタが広く使用されている(特許文献1参照)。コモンモードフィルタは、一対の信号線を伝わる信号の差動成分(ディファレンシャル成分)に対するインピーダンスが低く、同相成分(コモンモード成分)に対するインピーダンスが高いという特性を有している。そのため、一対の信号線上にコモンモードフィルタを挿入することにより、ディファレンシャルモード信号を実質的に減衰させることなくコモンモードノイズを遮断することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−203737号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の通り、コモンモードフィルタはディファレンシャル成分に対するインピーダンスが低いため、必要な信号成分をほとんど減衰させない。しかしながら、ディファレンシャル成分の中には、必要な信号成分以外に不要なディファレンシャルモードノイズが含まれることがある。このような不要なディファレンシャルモードノイズは、従来のコモンモードフィルタではほとんど除去されないため、一対の信号線にコモンモードフィルタを挿入するだけでは、ノイズ対策が不十分となることがあった。特に、携帯電話機内の信号線路がディファレンシャルモードノイズの発生源になると、通信感度が低下することがあった。
【0006】
このような観点から、本発明者らはコモンモードノイズだけでなく特定の周波数帯域(例えば携帯電話の通信周波数帯域)におけるディファレンシャルモードノイズを減衰することが可能なコモンモードノイズフィルタについて鋭意研究を行った。その結果、互いに磁気結合する一対のコイルの一端をコモンモードフィルタに接続し、これらコイルの他端を開放することにより、コモンモードノイズのみならず所望の周波数帯域のディファレンシャルモードノイズが除去できることを見いだした。
【0007】
ここで、除去されるディファレンシャルモードノイズの周波数帯域は、他端が開放された一対のコイルのインダクタンス成分(L成分)とキャパシタンス成分(C成分)からなるLC共振特性によって決まる。したがって、除去されるディファレンシャルモードノイズの周波数帯域を所望の周波数帯域に合わせるためには、他端が開放された一対のコイルを設計通りに正確に作製する必要がある。
【0008】
しかしながら、該コイルを基板上のスパイラル導体によって構成する場合、スパイラル導体の作製精度は下地となる絶縁層の平坦性に依存する。このため、除去されるディファレンシャルモードノイズの周波数帯域を所望の周波数帯域に正確に合わせるためには、スパイラル導体の下地の平坦性を十分に確保する必要がある。
【0009】
したがって、本発明の目的は、コモンモードノイズだけでなく特定の周波数帯域におけるディファレンシャルモードノイズを減衰することが可能なコモンモードノイズフィルタであって、除去されるディファレンシャルモードノイズの周波数帯域を設計通りとすることが可能なコモンモードノイズフィルタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によるコモンモードノイズフィルタは、基板と、前記基板上にこの順に設けられた第1乃至第4の導体層とを備え、前記第1の導体層には、互いに異なる平面位置に第1及び第5のスパイラル導体が形成され、前記第2の導体層には、互いに異なる平面位置に第2及び第6のスパイラル導体が形成され、前記第3及び第4の導体層には、それぞれ第3及び第4のスパイラル導体が形成され、前記第1乃至第4のスパイラル導体の平面位置は互いに重なっており、前記第5及び第6のスパイラル導体の平面位置は互いに重なっており、前記第1乃至第4のスパイラル導体のうち2つのスパイラル導体は、直列接続されることにより第1のコイルを構成し、前記第1乃至第4のスパイラル導体のうち残りの2つのスパイラル導体は、直列接続されることにより第2のコイルを構成し、前記第5のスパイラル導体は、一端が前記第1のコイルの一端に接続され、他端が開放されており、前記第6のスパイラル導体は、一端が前記第1のコイルの前記一端と対を成す前記第2のコイルの一端に接続され、他端が開放されていることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、第1乃至第4のスパイラル導体によってコモンモードノイズが除去されるだけでなく、第5及び第6のスパイラル導体によって所望の周波数帯域のディファレンシャルモードノイズを除去することが可能となる。しかも、単一の部品によって構成され、且つ、各スパイラル導体が基板上に設けられたタイプであることから、表面実装に適したコモンモードノイズフィルタを提供することが可能となる。
【0012】
さらに、第5及び第6のスパイラル導体がより基板に近い導体層に設けられていることから、作製時において下地の平坦性が十分に確保される。これにより、第5及び第6のスパイラル導体を高い精度で作製できることから、除去されるディファレンシャルモードノイズの周波数帯域を設計通りとすることが可能となる。しかも、これら第5及び第6のスパイラル導体は、コモンモードフィルタを構成する第1乃至第4のスパイラル導体とは異なる平面位置に配置されていることから、コモンモードフィルタとディファレンシャルモードフィルタとの磁気的干渉が生じにくく、磁気的干渉によるフィルタ特性の変化が抑制される。このようにコモンモードフィルタとディファレンシャルモードフィルタを基板上の異なる平面位置に配置すると基板の必要面積が増大するが、本発明ではコモンモードフィルタを構成する各コイルをそれぞれ2層の導体層に形成していることから、コモンモードフィルタに必要とされる平面面積を低減しつつ、所望のインダクタンスを確保することが可能となる。
【0013】
本発明において、前記第1のコイルは前記第1及び第3のスパイラル導体によって構成され、前記第2のコイルは前記第2及び第4のスパイラル導体によって構成されることが好ましい。これによれば、第1のコイルを構成するスパイラル導体と第2のコイルを構成するスパイラル導体が交互に配置されることから、両者の磁気結合及び対称性が高められ、コモンモードフィルタの特性を向上させることが可能となる。
【0014】
この場合、前記第1のスパイラル導体の外周端と前記第5のスパイラル導体の外周端が前記第1の導体層において接続され、前記第2のスパイラル導体の外周端と前記第6のスパイラル導体の外周端が前記第2の導体層において接続され、前記第1のスパイラル導体の内周端と前記第3のスパイラル導体の内周端が第1のスルーホール導体を介して接続され、前記第2のスパイラル導体の内周端と前記第4のスパイラル導体の内周端が第2のスルーホール導体を介して接続されていることがより好ましい。これによれば、スルーホール導体を介さずにコモンモードフィルタとディファレンシャルモードフィルタを接続できることから、導体パターンのレイアウトがシンプルとなる。これにより、除去されるディファレンシャルモードノイズの周波数帯域を設計値により正確に近づけることが可能となる。
【0015】
本発明において、前記第5及び第6のスパイラル導体の上方には、前記第3及び第4の導体層を貫通して設けられた磁性部材が配置されていることが好ましい。これによれば、ディファレンシャルモードフィルタのインダクタンスを高めることが可能となる。
【0016】
この場合、前記磁性部材は、少なくとも前記第4のスパイラル導体の内周部にも配置されていることがより好ましい。これによれば、コモンモードフィルタのインダクタンスを高めることが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
このように、本発明のコモンモードノイズフィルタによれば、コモンモードノイズが除去されるだけでなく、所望の周波数帯域のディファレンシャルモードノイズを除去することが可能となる。しかも、除去されるディファレンシャルモードノイズの周波数帯域を設計通りとすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の好ましい実施の形態によるコモンモードノイズフィルタ100の概観構造を示す略斜視図である。
【図2】コモンモードノイズフィルタ100の層構造を詳細に示す略分解斜視図である。
【図3】絶縁層15a〜15e及び導体層16a〜16dの平面構造を示す図である。
【図4】スパイラル導体31〜36の積層方向から見た平面位置を説明するための図である。
【図5】コモンモードノイズフィルタ100の等価回路図である。
【図6】スパイラル導体35,36の磁気結合方向と接続方向のバリエーションを示す図である。
【図7】ディファレンシャル成分の通過特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0020】
図1は、本発明の好ましい実施の形態によるコモンモードノイズフィルタ100の外観構造を示す略斜視図であり、実装面が上向きの状態を示している。
【0021】
図1に示すように、本実施形態によるコモンモードノイズフィルタ100は、磁性基板11と、磁性基板11の一方の主面(上面)に設けられた薄膜コイル層12と、薄膜コイル層12の主面(上面)に設けられたバンプ電極13a〜13dと、バンプ電極13a〜13dの形成位置を除いた薄膜コイル層12の主面に設けられた磁性樹脂層14とを備えている。図示のように、コモンモードノイズフィルタ100は略直方体状の表面実装型チップ部品であり、バンプ電極13a〜13dは、磁性基板11、薄膜コイル層12及び磁性樹脂層14からなる積層体の外周面に露出するように形成されている。このうち、バンプ電極13a,13cは積層体の長手方向に沿った第1の側面10aから露出しており、バンプ電極13b,13dは第1の側面10aと対向する第2の側面10bから露出している。なお、実装時には上下反転し、バンプ電極13a〜13d側を下向きにして使用することは言うまでもない。本明細書においては説明の便宜上、図1に示す実装面が上向きの状態を基準にして上下方向を定義し、磁性樹脂層14の露出面をコモンモードノイズフィルタ100の上面とする。これは、コモンモードノイズフィルタ100の作製時における上下方向と一致する。
【0022】
磁性基板11は、コモンモードノイズフィルタ100の機械的強度を確保すると共に、磁路としての役割を果たすものである。磁性基板11の材料としては例えば焼結フェライト等の磁性セラミック材料を用いることができる。特に限定されるものではないが、チップサイズが0.65×0.85×0.56(mm)であるとき、磁性基板11の厚さは0.3mm程度とすることができる。但し、本発明において磁性基板11を使用することは必須でなく、磁路としての役割が必要でない場合には、磁性を持たない材料によって基板を構成しても構わない。
【0023】
薄膜コイル層12は、磁性基板11と磁性樹脂層14との間に設けられており、コモンモードフィルタとディファレンシャルモードフィルタを含む層である。詳細については後述するが、薄膜コイル層12は絶縁層と導体層が交互に積層された多層構造を有している。このように、本実施形態によるコモンモードノイズフィルタ100はいわゆる薄膜タイプであって、磁性コアに導線を巻回した構造を有する巻線タイプの電子部品とは区別されるものである。
【0024】
バンプ電極13a〜13dは、めっき処理により形成された厚膜めっき電極であり、フリップチップボンダーを用いてCu,Au等の金属ボールを熱圧着することにより形成されるものとは区別される。バンプ電極13a〜13dの厚さは、磁性樹脂層14の厚さと同等かそれ以上である。すなわち、バンプ電極13a〜13dの厚さは薄膜コイル層12内の導体パターンよりも厚く、薄膜コイル層12内の導体パターンの5倍以上の厚さを有していることが好ましい。
【0025】
磁性樹脂層14は、コモンモードノイズフィルタ100の実装面(底面)を構成する層であり、バンプ電極13a〜13dの周囲を埋めるように設けられている。磁性樹脂層14は、磁性基板11と同様に薄膜コイル層12を保護すると共に、コモンモードノイズフィルタ100の磁路としての役割を果たすものである。ただし、磁性樹脂層14の機械的強度は磁性基板11よりも小さいため、強度面では補助的な役割を果たす程度である。磁性樹脂層14としては、フェライト粉を含有するエポキシ樹脂(複合フェライト)を用いることができる。特に限定されるものではないが、チップサイズが0.65×0.85×0.56(mm)であるとき、磁性樹脂層14の厚さは0.06〜0.1mm程度とすることができる。但し、本発明において磁性樹脂層14を使用することは必須でなく、磁路としての役割が必要でない場合には、磁性を持たない樹脂によって当該層を構成しても構わない。
【0026】
図2は、コモンモードノイズフィルタ100の層構造を詳細に示す略分解斜視図である。
【0027】
図2に示すように、薄膜コイル層12は、磁性基板11側から磁性樹脂層14側に向かって順に積層された絶縁層15a〜15eと、それぞれ絶縁層15a〜15d上に設けられた第1〜第4の導体層16a〜16dとを備えている。図3には、絶縁層15a〜15e及び導体層16a〜16dの平面構造が示されている。
【0028】
絶縁層15a〜15eは、異なる導体層に設けられた導体パターン間を絶縁すると共に、導体パターンが形成される下地の平坦性を確保する役割を果たす。特に、最下層に位置する絶縁層15aは、磁性基板11の表面の凹凸を吸収し、導体パターンの加工精度を高める役割を果たす。絶縁層15a〜15eの材料としては、電気的及び磁気的な絶縁性に優れ、加工の容易な樹脂を用いることが好ましく、特に限定されるものではないが、ポリイミド樹脂やエポキシ樹脂を用いることができる。
【0029】
導体層16a〜16dは導体パターンが設けられる層である。導体パターンとしては、導電性及び加工性に優れたCu、Al等を用いることが好ましい。導体パターンの形成は、全面に導体を形成した後フォトリソグラフィーを用いてエッチングするサブトラクティブ法や、メッキによって導体パターンを選択的に形成するアディティブ法などにより行うことができる。
【0030】
図3に示すように、最下層の絶縁層15aは磁性基板11の上面の全体を覆っており、開口部などは設けられていない。これに対し、絶縁層15b〜15eにはそれぞれ所定の位置に開口部又はスルーホールが設けられている。具体的に説明すると、絶縁層15b〜15eにはいずれもバンプ電極13a〜13dに対応する位置に開口部20a〜20dが設けられている。また、絶縁層15bにはスルーホール21が設けられ、絶縁層15cにはスルーホール22,23が設けられ、絶縁層15dにはスルーホール24が設けられている。さらに、絶縁層15dには開口部25が設けられ、絶縁層15eには開口部26,27が設けられている。スルーホール21〜24は後述するスルーホール導体が埋め込まれる部分であり、開口部25〜27は磁性樹脂層14が埋め込まれる部分である。
【0031】
導体層16aには、バンプ電極13a〜13dと、互いに異なる平面位置に配置された第1及び第5のスパイラル導体31,35が設けられている。図3に示すように、スパイラル導体31,35の外周端31a,35aはいずれもバンプ電極13aに接続されている。また、スパイラル導体31の内周端31bは、絶縁層15bに設けられたスルーホール21の平面位置と一致しており、これにより導体層16aが絶縁層15bによって覆われた後もスルーホール21を介して露出する。一方、スパイラル導体35の内周端35bは開放されている。本実施形態では、上方から見た場合、スパイラル導体31の外周端31aから内周端31bへ向かう巻回方向は右回り(時計回り)であり、スパイラル導体35の外周端35aから内周端35bへ向かう巻回方向は左回り(反時計回り)である。また、導体層16aには、バンプ電極13b,13dの近傍に方向性マーク50が形成されている。
【0032】
導体層16bには、バンプ電極13a〜13dと、互いに異なる平面位置に配置された第2及び第6のスパイラル導体32,36が設けられている。図3に示すように、スパイラル導体32,36の外周端32a,36aはいずれもバンプ電極13cに接続されている。また、スパイラル導体32の内周端32bは、絶縁層15cに設けられたスルーホール23の平面位置と一致しており、これにより導体層16bが絶縁層15cによって覆われた後もスルーホール23を介して露出する。一方、スパイラル導体35の内周端35bは開放されている。さらに、導体層16bには、スルーホール21,22と同じ平面位置にスルーホール導体41が配置されている。本実施形態では、上方から見た場合、スパイラル導体32の外周端32aから内周端32bへ向かう巻回方向は右回り(時計回り)であり、スパイラル導体36の外周端36aから内周端36bへ向かう巻回方向は右回り(時計回り)である。導体層16bにも、バンプ電極13b,13dの近傍に方向性マーク50が形成されている。
【0033】
導体層16cには、バンプ電極13a〜13dと、第3のスパイラル導体33が設けられている。図3に示すように、スパイラル導体33の外周端33aはバンプ電極13bに接続されている。また、スパイラル導体33の内周端33bは、絶縁層15cに設けられたスルーホール22の平面位置と一致しており、これによりスルーホール導体41を介してスパイラル導体31の内周端31bに接続される。さらに、導体層16cには、スルーホール23,24と同じ平面位置にスルーホール導体42が配置されている。本実施形態では、上方から見た場合、スパイラル導体33の外周端33aから内周端33bへ向かう巻回方向は左回り(反時計回り)である。
【0034】
導体層16dには、バンプ電極13a〜13dと、第4のスパイラル導体34が設けられている。図3に示すように、スパイラル導体34の外周端34aはバンプ電極13dに接続されている。また、スパイラル導体34の内周端34bは、絶縁層15dに設けられたスルーホール24の平面位置と一致しており、これによりスルーホール導体42を介してスパイラル導体32の内周端32bに接続される。本実施形態では、上方から見た場合、スパイラル導体34の外周端34aから内周端34bへ向かう巻回方向は左回り(反時計回り)である。
【0035】
図4に示すように、スパイラル導体31〜34の積層方向から見た平面位置は互いに重なっており、スパイラル導体35,36の積層方向から見た平面位置も互いに重なっている。
【0036】
また、スパイラル導体31,33は、それぞれの内周端31b,33bがスルーホール導体41を介して直列接続されることにより、第1のコイル(C1)を構成する。第1のコイルの一端はバンプ電極13aに接続され、他端はバンプ電極13bに接続されることになる。同様に、スパイラル導体32,34は、それぞれの内周端32b,34bがスルーホール導体42を介して直列接続されることにより、第2のコイル(C2)を構成する。第2のコイルの一端はバンプ電極13cに接続され、他端はバンプ電極13dに接続されることになる。第1のコイルの一端(又は他端)と第2のコイルの一端(又は他端)は互いに対を成し、一対の信号線を伝わる差動信号の入力側又は出力側に接続される。一対の信号線は、コモンモードノイズフィルタ100が実装される図示しないプリント基板上に形成される。
【0037】
図2に示すように、開口部25,26には磁性樹脂層14が埋め込まれるため、スパイラル導体35,36の上方には導体層16c,16dを貫通して磁性樹脂層14が配置されることになる。この部分に磁性樹脂層14を配置することができるのは、スパイラル導体35,36の上方が空きスペースとなっているからであり、ここに磁性樹脂層14を配置することによってスパイラル導体35,36のインダクタンス成分(L成分)を高めることができる。
【0038】
さらに、開口部27にも磁性樹脂層14が埋め込まれるため、スパイラル導体34の内周部を貫通して磁性樹脂層14が配置されることになる。これにより、スパイラル導体31〜34によって構成されるコモンモードフィルタのインダクタンスが高められている。このような開口部27を絶縁層15b〜15dにも設ければ、コモンモードフィルタのインダクタンスはより一層高められるが、これを実現するためにはより高い作製精度が要求される。本実施形態において開口部27を絶縁層15eにのみ設けているのは、量産性を確保しつつ、コモンモードフィルタのインダクタンスをできるだけ高めるためである。
【0039】
図5は、本実施形態によるコモンモードノイズフィルタ100の等価回路図である。
【0040】
図5に示すように、本実施形態によるコモンモードノイズフィルタ100は、対を成すバンプ電極13a,13cと対を成すバンプ電極13b,13dとの間に挿入されたコモンモードフィルタF1と、バンプ電極13a,13cに接続されたディファレンシャルモードフィルタF2を含む。バンプ電極13a〜13dは、コモンモードノイズフィルタ100が実装されるべきプリント基板上の配線パターンに接続される。
【0041】
コモンモードフィルタF1は、2つのコイルC1,C2が同方向に磁気結合した回路である。つまり、コイルC1の一端C1a(31a)から他端C1b(33a)への巻回方向と、コイルC2の一端C2a(32a)から他端C2b(34a)への巻回方向とが同一であり、且つ、その平面位置が重なっていることにより、コイルC1,C2は互いに同方向に磁気結合することになる。より具体的には、コイルC1はスパイラル導体31,33によって構成され、一端C1aから他端C1bへの巻回方向は右回り(時計回り)である。同様に、コイルC2はスパイラル導体32,34によって構成され、一端C2aから他端C2bへの巻回方向は右回り(時計回り)である。
【0042】
ここで、「互いに同方向に磁気結合」とは、同相成分に対しては互いに磁束を強め合い、差動成分に対しては互いに磁束を打ち消し合うように磁気結合していることを言う。一方、「互いに逆方向に磁気結合」とは、差動成分に対しては互いに磁束を強め合い、同相成分に対しては互いに磁束を打ち消し合うように磁気結合していることを言う。コモンモードフィルタF1の一端側(C1a,C2a側)を信号入力側とするか、コモンモードフィルタF1の他端側(C1b,C2b側)を信号入力側とするかは任意である。その選択は、方向性マーク50によって確認することが可能である。
【0043】
一方、ディファレンシャルモードフィルタF2は、スパイラル導体35,36によって構成される。スパイラル導体35,36はその平面位置の重なりによって互いに容量結合しており、それぞれの外周端35a,36aはバンプ電極13a,13cに接続され、内周端35b,36bはいずれも開放されている。
【0044】
かかる構成により、コモンモードフィルタF1に流れる差動信号のうち、必要なディファレンシャル信号成分については、実質的にコモンモードフィルタF1及びディファレンシャルモードフィルタF2の影響を受けることなく伝送される。これに対し、コモンモードフィルタF1に流れる差動信号のうち、コモンモードノイズ成分についてはコモンモードフィルタF1によって減衰される。さらに、コモンモードフィルタF1に流れる差動信号のうち、所望の周波数帯域におけるディファレンシャルモードノイズについてはディファレンシャルモードフィルタF2によって減衰される。
【0045】
スパイラル導体35,36によってディファレンシャルモードノイズが減衰される理由は、スパイラル導体35,36のインダクタンス成分(L成分)とスパイラル導体35,36間のキャパシタンス成分(C成分)とがLC共振を起こすからである。したがって、スパイラル導体35,36によって減衰すべき周波数帯域は、これらL成分及びC成分によって調整することが可能である。
【0046】
ここで、コモンモードフィルタF1は、広帯域に亘ってディファレンシャル信号成分を通過させ、コモンモードノイズを減衰させれば良いことから、コモンモードフィルタF1を構成するスパイラル導体31〜34については、設計値に対するL成分及びC成分のずれはある程度許容される。これに対し、ディファレンシャルモードフィルタF2は、必要なディファレンシャル信号成分を減衰させることなく、且つ、所望の周波数帯域におけるディファレンシャル信号成分を減衰させる必要があるため、スパイラル導体35,36のL成分及びC成分については、非常に精度良く設計通りの値とする必要がある。
【0047】
この点を考慮し、本実施形態によるコモンモードノイズフィルタ100では、図2及び図3に示したように、ディファレンシャルモードフィルタF2を構成するスパイラル導体35,36をより下層の導体層16a,16bに配置している。これは、下層の導体層ほど平坦性が高く、高精度に作製することができるからである。本実施形態では最下層の導体層16aにスパイラル導体35を形成し、最下層から2番目の導体層16bにスパイラル導体35を形成していることから、これらスパイラル導体35,36の形状及び両者の平面的な重なりを精度良く制御することができ、その結果、設計通りのL成分及びC成分を実現することが可能となる。
【0048】
図6(a)〜(d)はスパイラル導体35,36の磁気結合方向と接続方向のバリエーションを示す図である。
【0049】
図6(a)に示す例は、スパイラル導体35,36の一端35a,36a(外周端)をバンプ電極13a,13cにそれぞれ接続し、且つ、スパイラル導体35,36を同方向に磁気結合させた例を示している。本例では、一端35a,36aから他端35b,36bに向かう巻回方向が互いに同じであるとともに接続方向も同じであることから、互いに同方向の磁気結合となる。
【0050】
図6(b)に示す例は、スパイラル導体35,36の一端35a,36a(外周端)をバンプ電極13a,13cにそれぞれ接続し、且つ、スパイラル導体35,36を逆方向に磁気結合させた例を示している。本例では、一端35a,36aから他端35b,36bに向かう巻回方向が互いに逆であるとともに接続方向が同じであることから、互いに逆方向の磁気結合となる。本例は、図2及び図3に示したコモンモードノイズフィルタ100の等価回路に相当する。
【0051】
図6(c)に示す例は、スパイラル導体35の一端35a(外周端)及びスパイラル導体36の他端36b(内周端)をバンプ電極13a,13cにそれぞれ接続し、且つ、スパイラル導体35,36を一端35a及び他端36bから見て逆方向に磁気結合(一端35a,36aから見れば同方向に磁気結合)させた例を示している。本例では、一端35a,36aから他端35b,36bに向かう巻回方向が互いに同じあるとともに接続方向が逆であることから、互いに逆方向の磁気結合となる。
【0052】
図6(d)に示す例は、スパイラル導体35の一端35a(外周端)及びスパイラル導体36の他端36b(内周端)をバンプ電極13a,13cにそれぞれ接続し、且つ、スパイラル導体35,36を一端35a及び他端36bから見て同方向に磁気結合(一端35a,36aから見れば逆方向に磁気結合)させた例を示している。本例では、一端35a,36aから他端35b,36bに向かう巻回方向が互いに逆であるとともに接続方向も逆であることから、互いに同方向の磁気結合となる。
【0053】
図6(a)に示すパターンと図6(d)に示すパターンは、いずれもスパイラル導体35,36が同方向に磁気結合しており、したがってこれらのパターンはほぼ同じ特性が得られる。具体的には、相対的に低い周波数帯域のディファレンシャルモードノイズが除去される。これに対し、図6(b)に示すパターンと図6(c)に示すパターンは、いずれもスパイラル導体35,36が逆方向に磁気結合しており、したがってこれらのパターンはほぼ同じ特性が得られる。具体的には、相対的に高い周波数帯域のディファレンシャルモードノイズが除去される。
【0054】
図7は、ディファレンシャル成分の通過特性を示すグラフである。
【0055】
図7に示す特性Aは、図6(a)又は(d)に示すパターンを有するコモンモードノイズフィルタの通過特性である。また、図7に示す特性Bは、図6(b)又は(c)に示すパターンを有するコモンモードノイズフィルタの通過特性である。さらに、図7に示す特性Cは、図6(a)〜(d)に示すパターンからスパイラル導体35,36を除去したコモンモードノイズフィルタの通過特性である。いずれのコモンモードノイズフィルタもコモンモードフィルタF1については同じ形状及びサイズである。また、特性A,Bを有するコモンモードノイズフィルタについては、スパイラル導体35,36の形状及びサイズは実質的に同一である。
【0056】
図7に示すように、スパイラル導体35,36が設けられていない通常のコモンモードフィルタは、特性Cに示すように高域に亘ってディファレンシャル成分の減衰が少ない。これに対し、同方向に磁気結合するスパイラル導体35,36を接続した場合、特性Aに示すように周波数f1において減衰のピークが現れている。また、逆方向に磁気結合するスパイラル導体35,36を接続した場合、特性Bに示すように周波数f2(>f1)において減衰のピークが現れている。このように、スパイラル導体35,36を付加することにより、特定の周波数帯域におけるディファレンシャル成分を減衰させることができ、且つ、その周波数帯域は磁気結合の方向によって調整することが可能である。
【0057】
以上説明したように、本実施形態によるコモンモードノイズフィルタ100は、コモンモードノイズが除去されるだけでなく、所望の周波数帯域のディファレンシャルモードノイズを除去することができる。しかも、単一の部品によって構成され、且つ、各スパイラル導体が基板上に設けられたタイプであることから、プリント基板上に表面実装を行うことが可能である。
【0058】
さらに、スパイラル導体35,36がより磁性基板11に近い導体層16a,16bに設けられていることから、作製時において下地の平坦性が十分に確保される。これは、作製時における成膜が磁性基板11に近い側から順次行われるため、磁性基板11に近い絶縁層ほど平坦性が高いからである。これにより、高い精度でスパイラル導体35,36を作製することができることから、ディファレンシャルモードフィルタF2の共振周波数を設計通りとすることが可能となる。しかも、これらスパイラル導体35,36は、コモンモードフィルタF1を構成するスパイラル導体31〜34とは異なる平面位置に配置されていることから、コモンモードフィルタF1とディファレンシャルモードフィルタF2との磁気的干渉を抑制することも可能となる。また、これによって生じる磁性基板11の平面面積の増大は、コモンモードフィルタF1を構成するスパイラル導体を4層に亘って形成することにより抑制されている。
【0059】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0060】
例えば、上記実施形態では、コモンモードフィルタF1を構成するコイルC1,C2がそれぞれ2つのスパイラル導体によって構成されているが、各コイルC1,C2をそれぞれ3つ以上のスパイラル導体によって構成しても構わない。
【0061】
また、上記実施形態では、最下層から数えて1層目及び3層目に形成されたスパイラル導体31,33によってコイルC1を形成し、2層目及び4層目に形成されたスパイラル導体32,34によってコイルC2を形成しているが、本発明においてこの点は必須でない。しかしながら、上記実施形態のように各層に形成されたスパイラル導体を交互に接続すれば、コイルC1,C2の磁気結合及び対称性が高められ、コモンモードフィルタF1の特性を向上させることが可能となる。
【0062】
また、各スパイラル導体31〜36の平面形状については特に限定されず、図3などに示したように略矩形状であっても構わないし、円形又は楕円形であっても構わない。
【符号の説明】
【0063】
11 磁性基板
12 薄膜コイル層
13a〜13d バンプ電極
14 磁性樹脂層
15a〜15e 絶縁層
16a〜16d 導体層
20a〜20d 開口部
21〜24 スルーホール
25〜27 開口部
31〜36 スパイラル導体
41,42 スルーホール導体
50 方向性マーク
100 コモンモードノイズフィルタ
C1,C2 コイル
F1 コモンモードフィルタ
F2 ディファレンシャルモードフィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板上にこの順に設けられた第1乃至第4の導体層とを備え、
前記第1の導体層には、互いに異なる平面位置に第1及び第5のスパイラル導体が形成され、
前記第2の導体層には、互いに異なる平面位置に第2及び第6のスパイラル導体が形成され、
前記第3及び第4の導体層には、それぞれ第3及び第4のスパイラル導体が形成され、
前記第1乃至第4のスパイラル導体の平面位置は互いに重なっており、
前記第5及び第6のスパイラル導体の平面位置は互いに重なっており、
前記第1乃至第4のスパイラル導体のうち2つのスパイラル導体は、直列接続されることにより第1のコイルを構成し、
前記第1乃至第4のスパイラル導体のうち残りの2つのスパイラル導体は、直列接続されることにより第2のコイルを構成し、
前記第5のスパイラル導体は、一端が前記第1のコイルの一端に接続され、他端が開放されており、
前記第6のスパイラル導体は、一端が前記第1のコイルの前記一端と対を成す前記第2のコイルの一端に接続され、他端が開放されている、ことを特徴とするコモンモードノイズフィルタ。
【請求項2】
前記第1のコイルは前記第1及び第3のスパイラル導体によって構成され、前記第2のコイルは前記第2及び第4のスパイラル導体によって構成されることを特徴とする請求項1に記載のコモンモードノイズフィルタ。
【請求項3】
前記第1のスパイラル導体の外周端と前記第5のスパイラル導体の外周端が前記第1の導体層において接続され、
前記第2のスパイラル導体の外周端と前記第6のスパイラル導体の外周端が前記第2の導体層において接続され、
前記第1のスパイラル導体の内周端と前記第3のスパイラル導体の内周端が第1のスルーホール導体を介して接続され、
前記第2のスパイラル導体の内周端と前記第4のスパイラル導体の内周端が第2のスルーホール導体を介して接続されている、ことを特徴とする請求項2に記載のコモンモードノイズフィルタ。
【請求項4】
前記第5及び第6のスパイラル導体の上方には、前記第3及び第4の導体層を貫通して設けられた磁性部材が配置されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のコモンモードノイズフィルタ。
【請求項5】
前記磁性部材は、少なくとも前記第4のスパイラル導体の内周部にも配置されていることを特徴とする請求項4に記載のコモンモードノイズフィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−238780(P2012−238780A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−107857(P2011−107857)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】