説明

コリメートレンズおよび該コリメートレンズを有する投影型画像表示装置

【課題】波長の異なる複数のレーザー光源に対して共用可能な回折コリメートレンズを提供する。
【解決手段】2以上の波長λ(i=1,2,3,…)の異なるレーザー光源1を備える投影型画像表示装置10における、該レーザー光源1から発せられたレーザー光のコリメートを行う回折コリメートレンズ2であって、少なくとも一方の鏡面に回折構造を有し、該回折構造は、各波長λに対し回折効率が最大となり、温度変化により生じる焦点距離の補正量を、レーザー光源1のうち温度変化に対する波長変化量が最小となるレーザー光源Aに対する焦点距離の変化(変化量をΔfAとする)に対して補正不足、レーザー光源のうち温度変化に対する波長変化量が最大となるレーザー光源Bに対する焦点距離の変化(変化量をΔfBとする)に対して補正過剰となり、かつ、変化量ΔfAと変化量ΔfBとの絶対値が略同等とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コリメートレンズおよび該コリメートレンズを有する投影型画像表示装置に関する。さらに詳述すると、複数のレーザー光源に対しコリメートを行う回折構造を持つコリメートレンズおよび該コリメートレンズを有するレーザー走査型の投影型画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、小型軽量化を目的として、LEDやレーザーなどを用いた投影型画像表示装置(プロジェクタなど)の開発が盛んになされている。投影型画像表示装置は、小型軽量化を図ることにより、持ち運びを容易として携帯性の向上を図ることができる。また、重量を減らすことにより、従来、取り付けが困難であった壁などへ直接取り付けることが可能となる。
【0003】
レーザーを用いた投影型画像表示装置のうち、特に、3原色(R(赤)、G(緑)、B(青))のレーザーとMEMS(Micro Electro Mechanical Systems:微小電気機械システム)ミラーを組み合わせた走査型の小型プロジェクタは、その構成部品を少なくすることができ、超小型化を図ることができるため研究開発が進められている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この3原色のレーザーとMEMSミラーを組み合わせた走査型の小型プロジェクタの概略構成図を図7に示す。図7に示すプロジェクタ100は、それぞれR、G、Bのレーザー光を放射するレーザー光源101R,101G,101Bと、各レーザー光源101R,101G,101Bからのレーザー光をコリメートするレンズ102R,102G,102Bと、それぞれ赤色光、緑色光、青色光のみを反射し、その他の光を透過させるダイクロイックミラー103R,103G,103Bと、傾斜角が可変なミラーを備えたMEMSミラー装置104と、MEMSミラー装置104のミラーを水平方向及び垂直方向に回動させると共に、入力ビデオ信号に応じてレーザー光源101R,101G,101Bから光強度変調されたレーザー光を放射させる制御回路105とから構成される。また、制御回路105は、ミラー制御手段と変調手段を有しており、これに同期してレーザー光強度を変調させることによりスクリーン106上に画像を形成する。
【0005】
このようなプロジェクタに搭載されるコリメートレンズ等の光学素子は、光学曲面を多様な形状に形成する必要があり、また、低コストで大量生産できることが望ましいため、光学曲面を多様に形成することができ、かつコスト的に優れた樹脂材料を用いた射出成形法により製造されることが多い。
【0006】
しかしながら、樹脂材料により製造された光学素子は、光源などが発する熱による温度上昇により樹脂材料の屈折率や熱膨張により焦点距離といった光学特性が大きく変化してしまうという問題がある。
【0007】
このような問題に対し、電子写真方式の画像形成装置等における書込み装置に用いるコリメートレンズ、シリンドリカルレンズ、光ディスクの対物レンズ等の光学素子に、回折構造を付与させることにより光学特性の劣化を防ごうとする試みがなされてきた。
【0008】
しかしながら、従来より提案されてきた技術は、単一の波長に対し最適化された回折構造にて補正を行うものであった。よって、最適化された波長以外の波長に対しては、補正ができない、または補正をしても回折効率が大きく落ちるために使用に向かない場合が多いという問題があった。このため、各波長に対して個別に回折コリメートレンズ等を設計および製造しなければならず、コストの増大を招いていた。
【0009】
上記の問題に対して、特許文献2に記載の発明は、2つ以上の波長に対し最適化された回折光学素子の設計方法について開示している。特許文献2には、λ,λを光源の波長、λ,λにおける回折レンズを構成する材料の屈折率をn(λ),n(λ)とする場合に、回折溝の高さdを、λ/{n(λ)−1}及びλ/{n(λ)−1}の最小公倍数と略同等の値に設定することにより、2波長の光に対して同一の光学機能を果たすことができる発明が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、回折光学素子により補正する対象となるのは、特許文献2に記載のように、光学素子を構成する材料の屈折率や熱膨張に限られず、当該光学素子を固定する筐体の熱膨張、熱によるレーザー光源の波長変動も補正の対象とすることが望まれる。
【0011】
特に、熱によるレーザー光源の波長変動の影響は、小型のプロジェクタに用いられる半導体レーザーにおいては、回折レンズの設計の大きな影響を与える。また、レーザー光源の発光波長により波長変動の大きさには差が生じる。例えば、445nm付近で発振するInGaN半導体レーザーは、10℃あたり0.6nm程度の変動量なのに対し、640nm付近で発振するAlGaInP半導体レーザーの場合は、10℃あたり2.0nm程度の変動量となる。
【0012】
図8に、従来のコリメートレンズにおける焦点距離変動量を表したグラフを示す。この例では、445nmの波長に対して回折面を最適化した温度補正回折コリメートレンズの焦点距離の変化量を示している。なお、図8に示す例では、光学素子を固定する筐体の熱膨張を考慮に入れていない。
【0013】
図8(A)は、波長445nmの光源の温度に対する波長変動量を0.06nm/℃、波長640nmの光源の温度に対する波長変動量を0.2nm/℃としている。また、比較のため、同じ焦点距離、有効直径、レンズ厚、同じ樹脂材料にて設計された、回折構造を持たないコリメートレンズの焦点距離変動量も示している。
【0014】
図8(A)から明らかなように、波長445nmの光源、波長640nmの光源いずれに対しても、焦点距離変動量が回折構造を持たないコリメートレンズに比べ抑えられている。しかしながら、その効果には差があり、波長445nmの光源に対しては95%以上の補正効果があるのに対し、波長640nmの光源に対しては、30%程度の補正効果しか有しない。
【0015】
また、図8(B)は、仮に、波長640nmの光源の波長変動量を0.06nm/℃として、波長445nmの光源と同じ波長変動量とした場合の焦点距離変動量を示している。図8(B)に示す例では、最適化されている波長445nmとほぼ同等の補正効果が得られている。
【0016】
図9に、当該コリメートレンズ(以下、温度補正回折コリメートレンズとも呼ぶ)の面形状係数((a)は出射面、(b)は入射面を示す)、図10に、このコリメートレンズの温度補正回折面に付与されている回折構造を示す。ここで、面形状式は次式(1)で表わされる。
Z={R×C}/〔1+√{1−(1+K)(R×C)}〕+A4×R+A6×R+A8×R+・・・
ただし、
Z:光軸方向のレンズ高さ
R:光軸からの距離
K:コーニック係数
C:曲率
Ai:非球面係数(i=4,6,8・・・)である。 …(1)
なお、この温度補正回折コリメートレンズは、焦点距離は約3mm、有効直径1.4mm、レンズ厚2mmとして設計されている。
【0017】
以上のように、焦点距離補正量が適正でない波長帯域が発生してしまうため、コリメートレンズとして必要なコリメート性能が得られず、これを小型の投影型画像表示装置等に用いた場合、ある特定の波長のみ画質の劣化が発生してしまうおそれがあるとういう問題が残されていた。
【0018】
そこで本発明は、レーザー光源を構成する半導体材料が異なり、温度に対する波長変動量が異なる場合であっても、同じ回折構造及び球面あるいは非球面を持つ回折コリメートレンズにより、温度に対し変化するコリメートレンズの焦点距離変動を行うことを、波長の異なる複数のレーザー光源に対して可能にすることにより、波長の異なる複数のレーザー光源に対して共用することができるコリメートレンズおよび該コリメートレンズを有する投影型画像表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
かかる目的を達成するため、請求項1に記載のコリメートレンズは、2以上の波長λ(i=1,2,3,…)の異なるレーザー光源を備える光学装置における、該レーザー光源から発せられたレーザー光のコリメートを行うコリメートレンズであって、少なくとも一方の鏡面に回折構造を有し、該回折構造は、各波長λに対し回折効率が最大となり、温度変化により生じる焦点距離の補正量を、レーザー光源のうち温度変化に対する波長変化量が最小となるレーザー光源Aに対する焦点距離の変化(変化量をΔfAとする)に対して補正不足、レーザー光源のうち温度変化に対する波長変化量が最大となるレーザー光源Bに対する焦点距離の変化(変化量をΔfBとする)に対して補正過剰となり、かつ、変化量ΔfAと変化量ΔfBとの絶対値が略同等となるものである。
【0020】
したがって、レーザー光源を構成する半導体材料が異なり、温度に対する波長変動量が異なる場合であっても、同じ回折構造及び球面あるいは非球面を持つ回折コリメートレンズにより、温度に対し変化するコリメートレンズの焦点距離変動を行うことが、波長の異なる複数のレーザー光源に対して可能となる。
【0021】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のコリメートレンズにおいて、樹脂材料を用いた射出成形法により製造されたものである。
【0022】
また、請求項3に記載の投影型画像表示装置は、請求項1または2に記載のコリメートレンズを有し、レーザー光源から出射した光を、コリメートレンズによりコリメートし、該コリメートされた複数の波長の光束を同一光路上へと合成する光学系と、同一光路上へと合成された光束を2次元的に走査可能な走査手段と、走査手段の動きに同期して、レーザー光源の出力を制御する制御手段とを有するものである。
【0023】
また、請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の投影型画像表示装置において、レーザー光源AはGaN(窒化ガリウム)系半導体レーザーであり、レーザー光源BはGaInP(リン化インジウムガリウム)系半導体レーザーまたはGaAs(砒化ガリウム)系半導体レーザーであるものである。
【0024】
また、請求項5に記載の投影型画像表示装置は、請求項1または2に記載のコリメートレンズを有するものである。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、回折コリメートレンズの共用が可能となり、各波長のレーザーに対し個別に回折コリメートレンズを設計、製造することが不要となる。また、温度補正機能を保持したまま、金型の作成数の低下や開発期間の短縮等に繋がり、コリメートレンズおよびこれを用いた投影型画像表示装置の製造コストを下げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る投影型画像表示装置の一実施形態を示す概略構成図である。
【図2】本発明に係るコリメートレンズの一実施形態を示す模式図である。
【図3】回折コリメートレンズの回折面の断面構造の一例である。
【図4】回折コリメートレンズの各波長における焦点距離変動量を表したグラフの例である。
【図5】回折構造の位相関数の2次係数C2と回折コリメートレンズの各波長における25℃から80℃へ温度上昇した場合の焦点距離変動量の変化を示すグラフの例である。
【図6】回折コリメートレンズの面形状係数である。
【図7】従来の投影型画像表示装置の概略構成図の一例である。
【図8】従来のコリメートレンズにおける焦点距離変動量を表したグラフの例である。
【図9】従来の回折コリメートレンズの面形状係数である。
【図10】回折コリメートレンズの回折面の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係る構成を図1から図6に示す実施の形態に基づいて詳細に説明する。
【0028】
(投影型画像表示装置)
本発明に係る投影型画像表示装置は、以下に説明する本発明に係るコリメートレンズ(以下、回折コリメートレンズともいう)を有し、レーザー光源から出射した光を、コリメートレンズによりコリメートし、該コリメートされた複数の波長の光束を同一光路上へと合成する光学系と、同一光路上へと合成された光束を2次元的に走査可能な走査手段と、走査手段の動きに同期して、レーザー光源の出力を制御する制御手段とを有するものである。なお、本発明に係るコリメートレンズは、図1に示す構成の投影型画像表示装置に限られず、他の様々な構成の投影型画像表示装置に適用することも好適である。
【0029】
図1に、投影型画像表示装置の一実施形態を示す。本実施形態に係る投影型画像表示装置10は、それぞれR(赤)、G(緑)、B(青)のレーザー光を放射するレーザー光源1R、1G、1Bと、各レーザー光源1R、1G、1Bからのレーザー光をコリメートする回折コリメートレンズレンズ2R、2G、2Bを備えている。
【0030】
本実施形態では、赤のレーザー光源1Rとして、主にGaInP系の半導体で構成された、波長640nm付近で発光する半導体レーザーを用いている。また、青のレーザー光源1Bとして、主にInGaN系の半導体で構成された、波長445nm付近で発光する半導体レーザーを用いている。さらに、緑のレーザー光源1Gとして、近年開発された主にInGaN系の半導体で構成された、波長500〜545nm付近で発光する半導体レーザーを用いている。なお、緑のレーザー光源1Gとしては、第2次高調波発生(SHG)を用いて構成され、532nmの波長で発信するYAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)レーザーを使用することも好ましい。
【0031】
本実施形態に係る回折コリメートレンズ2R、2G、2Bは、以下に詳細を説明するように、同一回折構造、同一球面もしくは非球面で構成されており、各波長で個別設計されているわけではないため共用することが可能である。
【0032】
また、投影型画像表示装置10は、それぞれ赤色光、緑色光、青色光のみを反射し、その他の光を透過させるダイクロイックミラー(光学系)3R、3G、3Bと、傾斜角が可変なミラーを備えたMEMSミラー装置(走査手段)4と、当該MEMSミラー装置4のミラーを水平方向及び垂直方向に回動させると共に、入力ビデオ信号に応じてレーザー光源1R、1G、1Bから光強度変調されたレーザー光を放射させる制御回路(制御手段)5とから構成される。また、制御回路5は、ミラー制御手段と変調手段を有しており、これに同期してレーザー光強度を変調させることによりスクリーン6上に画像を形成する。
【0033】
(回折コリメートレンズ)
本発明に係るコリメートレンズは、2以上の波長λ(i=1,2,3,…)の異なるレーザー光源1を備える光学装置(投影型画像表示装置10)における、該レーザー光源1から発せられたレーザー光のコリメートを行うコリメートレンズ(回折コリメートレンズ2)であって、少なくとも一方の鏡面に回折構造を有し、該回折構造は、各波長λに対し回折効率が最大となり、温度変化により生じる焦点距離の補正量を、レーザー光源1のうち温度変化に対する波長変化量が最小となるレーザー光源Aに対する焦点距離の変化(変化量をΔfAとする)に対して補正不足、レーザー光源のうち温度変化に対する波長変化量が最大となるレーザー光源Bに対する焦点距離の変化(変化量をΔfBとする)に対して補正過剰となり、かつ、変化量ΔfAと変化量ΔfBとの絶対値が略同等となるものである。
【0034】
先ず、「補正不足」および「補正過剰」について説明する。ここで、本発明に係るコリメートレンズを構成する樹脂材料と同一の樹脂材料にて成形され、同一の有効径及び同一の焦点距離を有するが、回折構造は持たず球面あるいは非球面のみで構成されたコリメートレンズの温度変化に対する焦点距離変化量をΔfOとする。
【0035】
通常、レーザー光源から発する光は発散光であるため、コリメートレンズは凸レンズとして設計され、この場合、温度上昇に対して焦点距離は伸びる方向へ変化するものであるので、焦点距離変化量は、ΔfO>0で表わされる。
【0036】
したがって、「レーザー光源のうち温度変化に対する波長変化量が最小となるレーザー光源Aに対する焦点距離の変化(変化量をΔfAとする)に対して補正不足」、「レーザー光源のうち温度変化に対する波長変化量が最大となるレーザー光源Bに対する焦点距離の変化(変化量をΔfBとする)に対して補正過剰」となるとは、次式(2)が成り立つことを意味している。
ΔfB<0<ΔfA<ΔfO …(2)
【0037】
図2に本発明に係るコリメートレンズの一実施形態である回折コリメートレンズ2を示す。レーザー光源1から発せられた光束は、光源のカバーガラスを透過し、回折コリメートレンズ2の入射面2aから入射し、出射面2bから出射する。なお、本実施形態の回折コリメートレンズ2は、出射面2bに回折構造が付与されているが、入射面2a側に付与するようにしても良く、特に限られるものではない。
【0038】
図3は、図2に示す回折コリメートレンズ2の出射面2bに付与された回折構造の断面図を示している。なお、図3に示す回折構造は、上述のように、赤色の光源として波長640nmの半導体レーザー、緑色の光源として波長530nmの半導体レーザー、青色の光源として波長445nmの半導体レーザーを使用することを想定し設計されている。また、回折コリメートレンズ2はシクロオレフィン系樹脂材料にて射出成形されており、その屈折率は25℃下、波長530nmの光に対して1.512であるものとする。このように、回折コリメートレンズ2を樹脂材料を用いた射出成形法により製造することにより、製造コストを抑えて、量産することが可能となる。
【0039】
ここで、各波長λに対し回折効率が最大となるようにするには、段差により形成される回折構造の回折溝の深さdを、λ/{n(λ)−1}(λ=640nm、530nm、445nmのいずれか)の最小公倍数に設定すればよく、本実施形態では、d=5.12μmとなる(この点につき、特許文献2参照)。
【0040】
また、図3に示す回折構造は、その断面形状が鋸歯状のブレーズド回折格子となっているが、これに限られるものではなく、例えば、断面形状が一部曲面になるフレネルステップ型回折格子や、ブレーズド回折格子を近似した形状である階段形状のマルチステップ型の回折格子等であっても良い。なお、マルチステップ型の回折格子の場合において、そのステップ数をmとすると、1段目からm段目までの段差の高さhは、次式(3)で表わされる。
h=(m−1)d/m …(3)
【0041】
次に、図4に回折レンズおよびレーザー光源が、25℃から80℃まで加熱された場合の回折コリメートレンズ2の各波長における焦点距離変動量を表したグラフを示す。また、比較のため、同じ焦点距離、有効直径、レンズ厚、同じ樹脂材料にて設計された、回折構造を持たないコリメートレンズの焦点距離変動量も示している。
【0042】
図4に示す例では、波長445nm及び波長530nmの光源の温度に対する波長変動量を0.06nm/℃、波長640nmの光源の温度に対する波長変動量は0.2nm/℃となっている。
【0043】
ここで、本実施形態のように波長変動量が等しい波長が複数波長ある場合は、レーザー光源Aの候補としては、波長が最も長いものを選択すればよく、レーザー光源Bの候補としては、波長が最も短いものを選択すればよい。よって、レーザー光源Aとして波長530nmの光源が該当し、レーザー光源Bとして波長640nmの光源が該当する。
【0044】
図4に示すように、波長530nmの光源における25℃から80℃へ温度上昇した場合の焦点距離変動量は、0.012mmであり、波長640nmの光源における25℃から80℃へ温度上昇した場合の焦点距離変動量は、-0.012mmと、符号が異なる(変動方向が異なる)が、その大きさはほぼ一致している。
【0045】
また、比較対象となる回折構造を持たないコリメートレンズの焦点距離変動量と比較すると、いずれの波長でも70%以上の補正効果が現れていることがわかる。
【0046】
次に、図5に、回折構造の位相関数の2次係数C2と、回折コリメートレンズ2の各波長における25℃から80℃へ温度上昇した場合の焦点距離変動量の変化を示すグラフを示す。
【0047】
ここで、回折構造の位相関数φ(R)は、次式(4)で表わされる。但し、C2は回折構造のパワーの大きさである。
φ(R)=C2×R …(4)
【0048】
図5に示すように、光源の温度に対する波長変動量が等しい波長445nmの光源と、波長530nmの光源に対しては、位相関数の2次係数C2に対して、緩やかに焦点距離変動量が変化していくのに対し、波長640nmの光源の場合は、急激に焦点距離変動量が変化してしまっている。
【0049】
そこで、この場合、波長530nmの焦点距離変動量ΔfAと波長640nmの焦点距離変動量ΔfBが、次式(5)を満たす、換言すれば、ΔfAとΔfBとの絶対値を略同等となるように、C=−0.137程度にする(式(5)は略同等を含む)ことで、波長445nmの光源、波長530nmの光源、波長640nmの光源のいずれに対しても、焦点距離変動量に対し補正効果のある回折構造を作成することが可能となる。
ΔfA=−ΔfB …(5)
【0050】
図6に回折コリメートレンズ2の面形状係数を示す((a)は出射面、(b)は入射面を示す)。なお、回折コリメートレンズ2の回折面の断面図は、図10に示すものと同様である。また、面形状式は、次式(6)(上記式(1)と同式)であらわすことができる。
Z={R×C}/〔1+√{1−(1+K)(R×C)}〕+A4×R+A6×R+A8×R+・・・
ただし、
Z:光軸方向のレンズ高さ
R:光軸からの距離
K:コーニック係数
C:曲率
Ai:非球面係数(i=4,6,8・・・)である。 …(6)
【0051】
尚、上述の実施形態は本発明の好適な実施の例ではあるがこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【0052】
例えば、上記実施形態では、レーザー光源1から発せられる発散光束を平行光として出射させる機能を持つコリメートレンズを例に説明したが、出射する光束は平行光束に限らず、発散光束や収束光束を出射させる機能を持つコリメートレンズへも適用することも好ましい。
【0053】
また、上記実施形態では、コリメートレンズ面上に回折構造を付与したが、これに限らず、回折面をコリメートレンズから分離し、回折光学面を持たないコリメートレンズと組み合わせて搭載する回折光学素子としても利用することも好ましい。
【符号の説明】
【0054】
1R,1G,1B レーザー光源
2R,2G,2B 回折コリメートレンズ
3R,3G,3B ダイクロイックミラー
4 MEMSミラー装置
5 制御回路
6 スクリーン
10 投影型画像表示装置
【先行技術文献】
【特許文献】
【0055】
【特許文献1】特開2006−189573号公報
【特許文献2】特開2008− 70797号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2以上の波長λ(i=1,2,3,…)の異なるレーザー光源を備える光学装置における、該レーザー光源から発せられたレーザー光のコリメートを行うコリメートレンズであって、
少なくとも一方の鏡面に回折構造を有し、該回折構造は、
前記各波長λに対し回折効率が最大となり、
温度変化により生じる焦点距離の補正量を、前記レーザー光源のうち温度変化に対する波長変化量が最小となるレーザー光源Aに対する焦点距離の変化(変化量をΔfAとする)に対して補正不足、前記レーザー光源のうち温度変化に対する波長変化量が最大となるレーザー光源Bに対する焦点距離の変化(変化量をΔfBとする)に対して補正過剰となり、かつ、変化量ΔfAと変化量ΔfBとの絶対値が略同等となることを特徴とするコリメートレンズ。
【請求項2】
樹脂材料を用いた射出成形法により製造されたことを特徴とする請求項1に記載のコリメートレンズ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のコリメートレンズを有し、
前記レーザー光源から出射した光を、前記コリメートレンズによりコリメートし、該コリメートされた複数の波長の光束を同一光路上へと合成する光学系と、
同一光路上へと合成された光束を2次元的に走査可能な走査手段と、
前記走査手段の動きに同期して、前記レーザー光源の出力を制御する制御手段とを有することを特徴とする投影型画像表示装置。
【請求項4】
前記レーザー光源AはGaN系半導体レーザーであり、
前記レーザー光源BはGaInP系半導体レーザーまたはGaAs系半導体レーザーであることを特徴とする請求項3に記載の投影型画像表示装置。
【請求項5】
請求項1または2に記載のコリメートレンズを有することを特徴とする投影型画像表示装置。

【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図9】
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【図10】
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【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−141429(P2011−141429A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−2028(P2010−2028)
【出願日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】