説明

コンクリート構造物の補修・補強用繊維強化樹脂シート及びその製造方法

【課題】コンクリート構造物の表面に貼り付ける工法により良好な作業性でコンクリート構造物を補修・補強することが可能であり、コンクリート構造物の表面状態を十分に視認可能な繊維強化樹脂シートを提供すること。
【解決手段】海部5及び海部5内に配されている繊維状の複数の島部3を有する海島型の複合有機繊維のモノフィラメント1a,1b,1cを複数含み該複数のモノフィラメント1a,1b,1cが間隔を空けて網状に配されているメッシュ体10と、メッシュ体10を内包するシート状の透明樹脂層20とを備える、コンクリート構造物の補修・補強用繊維強化樹脂シート100。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物の補修・補強用繊維強化樹脂シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物の補修・補強は、一般に、コンクリート表面に下塗り材を塗付し、補強用の繊維基材を貼り付け、更に樹脂を上塗りするという現場施工により行われている。
【0003】
より少ない工数で施工可能な工法として、補修・補強用FRPシートをコンクリート表面に貼り付ける工法が提案されている(特許文献1)。
【特許文献1】特開2005−307564号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献1のFRPシートのような従来の補修・補強用のシート基材は、施工の作業性は良好であるものの、透明性を備えるという発想はなく、仮に透明性を具備するマトリックス樹脂を用いたとしても透明性が十分でなく、施工後にコンクリート構造物の表面を十分に視認できなくなるという問題があった。補修・補強されたコンクリート構造物におけるひび割れの発生状況の確認などのために、コンクリートの表面状態が十分に視認できることは非常に重要であることから、補修・補強用のシート基材の透明性の改善が強く望まれていた。
【0005】
そこで、本発明の目的は、コンクリート構造物の表面に貼り付ける工法により良好な作業性でコンクリート構造物を補修・補強することが可能であり、コンクリート構造物の表面状態を十分に視認可能な繊維強化樹脂シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るコンクリート構造物の補修・補強用繊維強化樹脂シートは、海部及び該海部内に配されている繊維状の複数の島部を有する海島型の複合有機繊維のモノフィラメントを複数含み該複数のモノフィラメントが間隔を空けて網状に配されているメッシュ体と、該メッシュ体を内包するシート状の透明樹脂層とを備える。
【0007】
上記本発明に係る繊維強化樹脂シートにおいては、補強用の繊維基材としてのメッシュ体を構成するモノフィラメントが間隔を空けて網状に配されていることから、モノフィラメント同士の隙間が透明樹脂層によって塞がれた状態となる。そして、海島型の複合有機繊維のモノフィラメントによって形成されたメッシュ体を用いることにより、補修・補強に必要な強度を繊維強化樹脂シートに付与しつつ、モノフィラメント同士の間における透明樹脂層の透明性が高められる。本発明者らの知見によれば、複数のフィラメントが集束した繊維束によって形成されたメッシュ体を用いた場合、繊維束内に含まれていた空気に起因すると考えられる気泡が透明樹脂層内に発生することが避けられず、繊維束が間隔を空けて配されていたとしても、その隙間における十分な透明性が得られにくい。
【0008】
コンクリートの表面状態をより正確に確認するために、隣り合うモノフィラメント同士の隙間における透明樹脂層の全光線透過率は80%以上であることが好ましい。同様の観点から、隣り合うモノフィラメント同士の隙間における透明樹脂層のヘーズは20%以下であることが好ましい。海島型の複合有機繊維のモノフィラメントによって形成されたメッシュ体を用いることにより、このような特定の全光線透過率及びヘーズを有する透明樹脂層を備える繊維強化樹脂シートが容易に得られる。
【0009】
交差するモノフィラメント同士は海部の熱融着によって互いに結合していることが好ましい。これにより、繊維強化樹脂シートの柔軟性を良好なレベルに維持しながら、その強度を更に高めることが可能になる。
【0010】
海部がポリエチレンから形成され、島部がポリプロピレン繊維であることが好ましい。係る組み合わせを採用することにより、メッシュ体の強度及び剛性が特に優れるものとなり、低温雰囲気中でも適度の伸度が保たれ、また、繊維強化樹脂シートの耐アルカリ性及び柔軟性もより良好なものとなる。
【0011】
耐候性、透明性及び柔軟性を更に向上させる観点から、透明樹脂層はアクリル樹脂から形成されていることが好ましい。
【0012】
別の側面において、本発明は上記のようなメッシュ体及び透明樹脂層を備える繊維強化樹脂シートの製造方法に関する。本発明に係る製造方法は、海部及び該海部内に配されている繊維状の複数の島部を有する海島型の複合有機繊維のモノフィラメントを複数含み該複数のモノフィラメントが網状に配されているメッシュ体を、重合性モノマーを含む液状組成物とともに第1のキャリアフィルムと第2のキャリアフィルムとの間に挟み込んで、メッシュ体に液状組成物を含浸する工程と、重合性モノマーの重合により、メッシュ体を内包するシート状の透明樹脂層を形成する工程とを備える。
【0013】
上記本発明に係る製造方法によれば、本発明に係る繊維強化樹脂シートを連続的に高い生産効率で製造することが可能である。また、海島型の複合有機繊維のモノフィラメントによって形成されたメッシュ体を用いることから、含浸不良が発生し難く、気泡に起因する透明樹脂層の透明性の低下が十分に防止される。
【0014】
メッシュ体は親水化処理されていることが好ましい。これにより、重合性モノマーの重合により形成される透明樹脂層とメッシュ体との接着性が高められて、より良好な強度を有する繊維強化樹脂シートが得られる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、コンクリート構造物の表面に貼り付ける工法により良好な作業性でコンクリート構造物を補修・補強することが可能であり、コンクリート構造物の表面状態を十分に視認可能な繊維強化樹脂シートが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0017】
図1は繊維強化樹脂シートを含む積層シートの一実施形態を示す平面図であり、図2は図1のII−II線に沿う端面の一部を示す端面図である。図1、2に示す繊維強化樹脂シート100は、シート状の透明樹脂層20と、透明樹脂層20内に埋設されているメッシュ体10とから構成される。繊維強化樹脂シート100は、透明樹脂層20の両面にそれぞれ貼り付けられた保護フィルム21,22とともに、積層シート200を構成している。
【0018】
繊維強化樹脂シート100は、コンクリート構造物の表面に繊維強化樹脂シートを貼り付けてコンクリート構造物を補修・補強する方法のために好適に用いられる。繊維強化樹脂シート100は、通常、保護フィルム21,22を引き剥がしてからコンクリート構造物の表面に貼り付けられる。より具体的には、例えば、積層シート200から保護フィルム21及び22を剥がし、露出した透明樹脂層20に接着剤を塗布してコンクリート表面に貼り付ける方法により、コンクリート構造物が補修・補強される。
【0019】
透明樹脂層20を構成する樹脂は、アクリル樹脂又はビニルエステル樹脂が好ましい。なかでも、耐候性、透明性及び柔軟性の向上の観点からアクリル樹脂が好ましい。なお、当業者には理解されるように、アクリル樹脂は、アクリル基又はメタクリル基を有する重合性モノマーの重合により形成される重合体を主成分とする樹脂である。透明樹脂層20は粘着性を有していてもよい。
【0020】
繊維強化樹脂シート100をコンクリート構造物の表面に貼り付けたとき、隣り合うモノフィラメント同士の隙間から透明樹脂層20を通してコンクリート表面を視認することができる。コンクリート表面の状態を正確且つ効率に確認するために、透明樹脂層20は高い透明性を有することが求められる。具体的には、隣り合うモノフィラメント同士の隙間における透明樹脂層20の全光線透過率は80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、90%以上であることが更に好ましい。全光線透過率は高いほど好ましいが、その上限は通常98%程度である。また、隣り合うモノフィラメント同士の隙間における透明樹脂層20のヘーズは20%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましい。
【0021】
透明樹脂層20の厚さは、モノフィラメント同士の隙間の部分において、最も厚さが薄い箇所で100〜500μmであることが好ましい。この厚さが100μm未満であると耐候性が低下する傾向があり、500μmを超えると透明性や柔軟性が低下する傾向がある。同様の観点から、透明樹脂層20の単位面積当りの質量は100〜2000g/mであることが好ましく、200〜1000g/mであることがさらに好ましい。
【0022】
保護フィルム21,22としては、例えばポリエチレンテレフタレートフィルムが好適に用いられる。
【0023】
メッシュ体10は、経方向に沿って引き揃えられた複数の経糸1aと、経糸1aと斜交する方向に沿って引き揃えられた複数の斜交糸1bと、経糸1a及び斜交糸1bに斜交する方向に沿って引き揃えられた逆斜交糸1cとから構成されている。経糸1a、斜交糸1b及び逆斜交糸1cはいずれも、所定の間隔で配列されたモノフィラメントである。また、経糸1a、斜交糸1b及び逆斜交糸1cは織物を形成することなく重ねられている。言い換えると、メッシュ体10は3軸方向にそれぞれ直線状に引き揃えられることにより網状に配されたモノフィラメントから構成される連続繊維糸からなる不織布(以下、この不織布を「3軸」という。)である。
【0024】
メッシュ体10の単位面積当たりの質量は、10〜200g/mであることが好ましい。また、メッシュ体10のように、直線状に引き揃えられることによりモノフィラメントが複数方向に網状に配された連続繊維糸からなる不織布、又は織物であるメッシュ体の場合、メッシュ体10の主面における直径10cmの円形の範囲において、各方向に配されたモノフィラメントの本数(糸密度本数)はそれぞれ3〜15本であることが好ましい。例えば図1、2中のメッシュ体10の場合、経糸1a、斜交糸1b及び逆斜交糸1cの糸密度本数はそれぞれ3〜15本であることが好ましい。これら単位面積当たりの質量及び糸密度本数が上記の範囲未満の場合は、強度不足の問題が発生することがあり、上記範囲を超過する場合は、モノフィラメント同士の間隔が小さく、コンクリート表面の視認性向上の効果が小さくなる傾向がある。
【0025】
経糸1a、斜交糸1b又は逆斜交糸1cとしてのモノフィラメントは、海部5と、海部5内に配されている繊維状の島部3とを有する海島型の複合有機繊維である。海部5及び島部3は、それぞれポリオレフィン等の熱可塑性樹脂から形成されている。通常、海部5の融点は島部3の融点よりも低く、その差は好ましくは20℃以上である。
【0026】
各モノフィラメントは楕円状の断面を有している。各モノフィラメントが楕円状の断面を有していることから、表面平滑性に優れる繊維強化樹脂シート100が得られ易い。複数のフィラメントが集束している繊維束から構成されるメッシュ体10を用いた場合、経糸1a、斜交糸1b及び逆斜交糸1cが交差している部分において繊維強化樹脂シートの表面平滑性が損なわれ易いが、楕円状の断面を有するモノフィラメントを用いることにより、そのような交差する部分においても十分な平滑性を維持し易い。
【0027】
図3は、経糸1a、斜交糸1b及び逆斜交糸1cが交差する部分(図1におけるPの領域)を拡大した斜視図である。経糸1aは斜交糸1bと接面Hにおいて接着されており、逆斜交糸1cは接面Hと反対の面で斜交糸1bと接着されている。各モノフィラメント同士は、海部5の熱融着によって互いに結合している。
【0028】
島部3はモノフィラメントの長手方向に沿って延在する有機繊維である。島部3は実質的にポリプロピレンからなるポリプロピレン繊維であることが好ましい。ポリプロピレン繊維を用いることにより、メッシュ体10による大きな補強効果とともに、コンクリートのひび割れへの優れた追従性も得られる。
【0029】
島部3としての有機繊維の繊度は、1〜70dtexであることが好ましく、2〜50dtexであることがより好ましい。特に高い柔軟性を求められるときは30dtex以下が好ましい。繊度が1dtex未満であると、島部3が細くなりすぎるため、その形態を維持することが困難となり、熱接着後の物性が低下しやすい。一方、繊度が70dtexを超えると、島部3自体が太くなりすぎるため、柔軟性や屈曲性が損なわれ易くなる傾向がある。
【0030】
島部3は、1本のモノフィラメント中に10〜500本程度含まれることが好ましい。複数の島部3が存在することにより、メッシュ体10の柔軟性を著しく損なうことなしに高い強度が得られる。同様の観点から、島部3の本数はより好ましくは100〜300本である。
【0031】
海部5は実質的にポリエチレンからなることが好ましい。ポリエチレンは比較的低い融点を有するため、熱融着により効率よくモノフィラメント同士を結合することが可能になる。海部5に用いられるポリエチレンは低密度ポリエチレンであることが好ましい。また、120℃以下の融点を有するポリエチレン(典型的には低密度ポリエチレン)が好ましい。
【0032】
島部3を構成するポリプロピレン繊維と、海部5を構成するポリエチレンとの組み合わせを採用することにより、隣り合うモノフィラメント同士の間隔を狭くしたり、メッシュ体10を構成するモノフィラメントの密度を大きくしたりしてメッシュ体10の強度を高めた場合であっても、メッシュ体10は特異的に柔軟性に優れ、折れ曲がりやすいものとなる。また、このような海島型の複合有機繊維を用いた繊維強化樹脂シートは、例えばガラス繊維、炭素繊維又はアラミド繊維を用いた繊維基材の場合と比較して、柔軟性やひび割れへの追従性の点で大きな優位性を有する。更に、ビニロン繊維の繊維基材と比較して、例えば−30℃のような低温での追従性も優れる。
【0033】
各モノフィラメントにおいて、島部3と海部5との質量比は20:80〜80:20であることが好ましい。島部3及び海部5の合計質量に対する島部3の質量比が20質量%未満であると、メッシュ体10による補強効果が小さくなる傾向があり、80質量%を超えると熱接着強度が低下する傾向がある。同様の観点から、島部3と海部5との質量比は40:60〜70:30であることがより好ましい。
【0034】
各モノフィラメントの繊度は100〜5000dtexが好ましい。100dtex未満であると、目的とする物性が得られ難くなる傾向があり、5000dtexを超えると柔軟性や追随性が損なわれ易くなる傾向がある。500〜3000dtexの繊度がより好ましい。
【0035】
経糸1a、斜交糸1b又は逆斜交糸1cとして用いられるモノフィラメントは、例えば、芯鞘構造を有する複数の樹脂単繊維から得ることができる。図4は、モノフィラメントを製造する方法の一実施形態を示す斜視図である。図4の実施形態は、単一の芯部(島部)3及びこれの外周面を覆う鞘部5aから構成される芯鞘構造を有する樹脂単繊維11を複数本集束して樹脂単繊維束15を準備する工程(図4の(a))と、樹脂単繊維束15を延伸しつつ鞘部5aを溶融し、鞘部5a同士を融合して複数の島部3を内包する海部5を形成させる工程(図4の(b))とを備える。なお、この工程は、後述するメッシュ体10の製造工程に先立って行ってもよく、メッシュ体10の製造工程における加熱処理によって行ってもよい。
【0036】
モノフィラメント1を経糸1a、斜交糸1b又は逆斜交糸1cとして用いてメッシュ体10(3軸)が得られる。図5は、メッシュ体10(3軸)の製造方法の一実施形態を示す模式図である。図5において、(a)はメッシュ体10を製造するための製造装置を示す平面図であり、(b)はその正面図である。
【0037】
図5に示す製造装置30は、円形のドラム31と、トラバーサ34と、緯糸送り出し機構35とを備えている。ドラム31は、y方向に平行な回転軸32を中心として図中の反時計回りに回転する。トラバーサ34は、ドラム31の外周面に沿ってy方向に往復し、ドラム31に供給されている経糸群T1上に斜交糸群T3を形成する。緯糸送り出し機構35は、斜交糸群T3を形成するための緯糸群T2をトラバーサ34へ送り出している。
【0038】
製造装置30を用いてメッシュ体10を製造する場合、まず、経方向(図中のX方向)に経糸1aが複数並列した経糸群T1が、円柱形をなすドラム31の外周面に沿って、円周方向に巻き付くように供給される。ドラム31は、軸32を中心として回転可能に基台(図示せず)に支持され、基台に対して一定の速度で回転している。ドラム31の外周面の一方の縁部には糸掛具33aが、もう一方の縁部には糸掛具33bがそれぞれ外周面から垂直に突出するように設けられ、等間隔に配置されている。トラバーサ34は、ドラム31の外周面に沿って円弧状に設けられ、ドラム31の外周面に沿ってY方向に往復動可能に支持されている。トラバーサ34には、緯糸送り出し機構35から送り出される緯糸群T2の各々を貫通させる貫通孔36が形成されている。緯糸群T2は、緯糸送り出し機構35から貫通孔36を介してドラム31に送られ、糸掛具33aと糸掛具33bとの間を交互に引っ掛けられながらドラム31の両縁部を往復し、ドラム31の外周面上に送られる経糸群T1の上に、斜交糸1b及び逆斜交糸1cが複数並列した斜交糸群T3として張られていく。
【0039】
このようにして、経糸群T1上に斜交して張られた斜交糸群T3によってメッシュ体10が形成される。トラバーサ34の往復動ピッチはドラム31回転ピッチに対して所定の比になるように制御されている。トラバーサ34の往復動ピッチとドラム31の回転ピッチとの比は機械的に連動させて直接制御されてもよく、サーボモータで間接的に制御されてもよい。メッシュ体10に対しては更に加熱処理が施されて、海部を構成する熱可塑性樹脂の熱融着によりモノフィラメント同士が結合される。この際の加熱温度は、海部の融点より高く、島部の融点よりは低い温度に設定される。
【0040】
モノフィラメントからメッシュ体10を形成した後、さらに加熱加圧してメッシュ体10全体を薄肉化してもよい。これによりメッシュ体10の柔軟性や可撓性を更に向上させることができる。その際の加熱温度は、海部を構成する熱可塑性樹脂の融点近傍がよい。加圧はローラ押圧などの方法で行うことができる。
【0041】
図6は、キャリアフイルムとともに積層シートを構成する繊維強化樹脂シートの製造方法の一実施形態を示す模式図である。図6の実施形態に係る製造方法は、メッシュ体10を重合性モノマーを含む液状組成物20とともに第1のキャリアフィルム41と第2のキャリアフィルム42との間に挟み込んで、メッシュ体10に液状組成物20を含浸する工程と、重合性モノマーの重合により、メッシュ体10を内包するシート状の透明樹脂層20を形成する工程とを備える。
【0042】
本実施形態の場合、まず、ロール51を介して繰り出される第1のキャリアフィルム41上に、樹脂タンク60から液状組成物20が供給される。続いてメッシュ体10が導入され、メッシュ体10及び液状組成物20が第1のキャリアフィルム41と第2のキャリアフィルム42の間に挟まれるように第2のキャリアフィルム42が供給される。その後、対向配置された1対の含浸ロール52a,52bを用いて加圧することにより、メッシュ体10に液状組成物20を含浸させる。
【0043】
続いて、スクイズロール53a,53bの間を経て、加熱炉70内で全体を加熱する。この加熱により液状組成物20において重合性モノマーの重合が進行する。透明樹脂層20が形成された繊維強化樹脂シート100は、加熱炉70から出てきた後、ロール54a,54bの間を通過してから巻き取られる。
【0044】
第1のキャリアフィルム41及び第2のキャリアフィルム42としては、例えばポリエチレンテレフタレートを用いることができる。これらのキャリアフィルムを保護フィルム21及び22としてそのまま用いてもよい。
【0045】
透明樹脂層20がアクリル樹脂からなる場合、アクリル基又はメタクリル基を有する重合性モノマーを含有する液状組成物が用いられる。重合性モノマーとしては、例えば、ウレタン(メタ)アクリレート及び(メタ)アクリル酸エステルがある。液状組成物は、所望の透明性が得られる範囲内で、紫外線吸収剤、酸化防止剤などを更に含有していてもよい。液状組成物の粘度は100〜50000cPであることが好ましく、800〜1000cPであることがより好ましい。液状組成物の粘度が低いと液垂れが発生し易くなる傾向があり、液状組成物の粘度が高いと含浸不良となって、形成される透明樹脂層内に気泡が発生し易くなる傾向がある。
【0046】
メッシュ体10は、予め親水化処理されていることが好ましい。特に、メッシュ体10を構成するモノフィラメントの海部3がポリオレフィンからなる場合、表面活性が低いためにモノフィラメントと透明樹脂層20との接着性が低下して、繊維強化樹脂シート100による補強効果が小さくなる傾向や、保護フィルム21若しくは22を剥がした際に透明樹脂層20の一部が保護フィルム側に剥離してしまい易くなる傾向があることから、親水化処理されたメッシュ体10を用いることが効果的である。親水化処理としては、コロナ放電処理、プラズマ処理などが挙げられる。
【0047】
本発明は以上説明したような実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変形が可能である。例えば、メッシュ体は3軸に限られるものではなく、経糸方向、緯糸方向の2方向に直線状に引き揃えられたモノフィラメントからなる連続繊維不織布(2軸)、縦糸方向及び緯糸方向とこれらに斜交する斜交糸方向及び逆斜交する逆斜交糸方向の4方向に直線状に引き揃えられたモノフィラメントからなる連続繊維不織布(4軸)など、任意の多軸方向にそれぞれ引き揃えられたモノフィラメントから構成される連続繊維不織布であってもよい。また、メッシュ体は、絡み織りなどにより形成される織物や、編物であってもよい。モノフィラメントは等間隔で配列していることは必ずしも必要でなく、適宜間隔を変えながら配列していてもよい。
【0048】
また、コンクリート表面の観察を更に容易にしたり、耐候性を向上させたりするなどの目的で、メッシュ体10を構成するモノフィラメントに着色剤を添加したり、モノフィラメントや透明樹脂層20を構成する樹脂に紫外線吸収剤、防カビ剤、抗菌剤、難燃剤などを添加することもできる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例を挙げて本発明についてより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0050】
繊維強化樹脂シートの作製
ウレタンアクリレートとメタクリル酸エステルとの混合液100重量部(粘度1000cP、25℃)に有機過酸化物を2重量部添加して、透明樹脂層を形成するための液状組成物を調製した。この液状組成物を、第1のキャリアフィルムとしてのポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ25μm)上に塗付し、これをメッシュ体とともに第1のキャリアフィルム及び第2のキャリアフィルム(ポリエチレンテレフタレートフィルム)の間に挟みこみ、加圧ローラを用いて加圧して、メッシュ体に液状組成物を含浸させた。その後、加熱炉内にて70℃で10分間加熱し、次いで110℃で10分間加熱によりモノマーを重合させて、実施例及び比較例の繊維強化樹脂シートを得た。
【0051】
メッシュ体としては、表1、表2に示したものをそれぞれ用いた。実施例1〜5、7のメッシュ体は、海島型の複合有機繊維のモノフィラメント同士を、織物を形成することなく海部のポリエチレンの熱融着により結合した3軸の不織布であり、3軸を形成した後、硬質ゴムローラとスチールローラを使用して温度90℃、圧力100kg/cmで押圧して加熱加圧処理されたものである。実施例6のメッシュ体はモノフィラメントを絡み織り組織に製織した織物である。比較例1、2では、繊維束数750本からなる2000dtexのビニロン繊維の繊維束を3軸の形態とし、その状態でアクリル樹脂エマルジョンを塗布し、加熱加圧して各糸を接着させて得た3軸の不織布をメッシュ体として用いた。
【0052】
また、比較例2及び実施例7においては、それぞれ比較例1及び実施例2のメッシュ体の両面にポリエステル繊維製の不織布(20g/m)を積層し、メッシュ体及びポリエステル繊維製の不織布に液状組成物を含浸させて繊維強化樹脂シートを作製した。
【0053】
実施例1〜3、5〜7において用いたメッシュ体は、コロナ放電処理装置(春日電機社製、機種名:発振器AG1−023、電極アルミニウム製6山)によってコロナ放電処理を施したものであり、その濡れ性は45mN/mであった。また、実施例4において用いたメッシュ体はコロナ放電処理はされておらず、その濡れ性は30mN/mであった。
【0054】
繊維強化樹脂シートの評価
得られた繊維強化樹脂シートについて、表面状態、透明樹脂層(モノフィラメント同士の間の部分)の全光線透過率、ヘーズ、剛軟性(柔軟性・追従性)、強力及び伸び率を以下の方法で評価した。評価結果を表1、2にまとめて示す。
・全光線透過率、ヘーズ
全光線透過率と拡散透過率をJIS K 7105に規定される方法に従って測定し、ヘーズを拡散透過率/全光線透過率×100(%)により算出した。
・剛軟性
測定寸法が幅5cm×長さ25cmである試料を用いて、JIS L 1096に規定される、8.19.1のA法(45°カンチレバー法)に準じて測定した。
・強力、伸び率
測定寸法が幅50mm×長さ250mmの試料を用い、つかみ間隔を約150mmとして、JIS R 3420 7.2の引張強さの測定法に準じて引張り試験を行い、破断時の荷重及び伸び率を測定した。破断時の荷重から強力を算出した。引張り試験は、縦方向(経糸方向)と横方向(経糸方向と直交する方向)の2方向について行った。なお、縦方向の引張り試験は、経方向のモノフィラメントが6本含まれる試料を用いて行った。
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】

【0057】
海島型の複合有機繊維のモノフィラメントから構成されるメッシュ体を用いた実施例1〜6の繊維強化樹脂シートでは、透明樹脂層の気泡発生は認められず、良好な透明性が達成され、コンクリート構造物の表面状態を十分に視認可能であった。これに対して、比較例1の繊維強化樹脂シートにおいては気泡が発生して、コンクリート構造物の表面状態の視認性の点で十分なものではなかった。また、実施例1〜6の繊維強化樹脂シートは、優れた強力及び伸び率を具備しており、コンクリート補強・補修材として優れた性能を有していた。
【0058】
また、実施例7では、ポリエステル繊維製不織布を用いていない実施例5と比較して強力及び伸び率が更に向上した。これは、ポリエステル繊維不織布により応力が分散したためと考えられる。実施例7ではポリエステル繊維製不織布に起因した曇りはあったものの、実施例7と同様にポリエステル繊維製不織布を積層した比較例2と比較すると、透明樹脂層が十分な透明性を維持していることから高い全光線透過率を維持しており、視認性は比較例2よりも良好なものであった。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】繊維強化樹脂シートを含む積層シートの一実施形態を示す平面図である。
【図2】図1のII−II線に沿う端面の一部を示す端面図である。
【図3】図1のP部を拡大した斜視図である。
【図4】モノフィラメントの製造方法の一実施形態を示す斜視図である。
【図5】メッシュ体の製造方法の一実施形態を示す模式図である。
【図6】繊維強化樹脂シートの製造方法の一実施形態を示す模式図である。
【符号の説明】
【0060】
1…モノフィラメント、1a…経糸(モノフィラメント)、1b…斜交糸(モノフィラメント)、1c…逆斜交糸(モノフィラメント)、3…島部、5…海部、10…メッシュ体、20…透明樹脂層、21,22…保護フィルム、100…繊維強化樹脂シート、200…積層シート。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海部及び該海部内に配されている繊維状の複数の島部を有する海島型の複合有機繊維のモノフィラメントを複数含み該複数のモノフィラメントが間隔を空けて網状に配されているメッシュ体と、
該メッシュ体を内包するシート状の透明樹脂層と、
を備える、コンクリート構造物の補修・補強用繊維強化樹脂シート。
【請求項2】
隣り合う前記モノフィラメント同士の隙間における前記透明樹脂層の全光線透過率が80%以上である、請求項1記載の繊維強化樹脂シート。
【請求項3】
隣り合う前記モノフィラメント同士の隙間における前記透明樹脂層のヘーズが20%以下である、請求項1又は2記載の繊維強化樹脂シート。
【請求項4】
交差する前記モノフィラメント同士が前記海部の熱融着によって互いに結合している、請求項1〜3のいずれか一項に記載の繊維強化樹脂シート。
【請求項5】
前記海部がポリエチレンから形成され、前記島部がポリプロピレン繊維である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の繊維強化樹脂シート。
【請求項6】
前記透明樹脂層がアクリル樹脂から形成されている、請求項1〜5のいずれか一項に記載の繊維強化樹脂シート。
【請求項7】
海部及び該海部内に配されている繊維状の複数の島部を有する海島型の複合有機繊維のモノフィラメントを複数含み該複数のモノフィラメントが間隔を空けて網状に配されているメッシュ体を、重合性モノマーを含む液状組成物とともに第1のキャリアフィルムと第2のキャリアフィルムとの間に挟み込んで、前記メッシュ体に前記液状組成物を含浸する工程と、
前記重合性モノマーの重合により、前記メッシュ体を内包するシート状の透明樹脂層を形成する工程と、
を備える、前記メッシュ体及び前記透明樹脂層を備える繊維強化樹脂シートの製造方法。
【請求項8】
前記メッシュ体が親水化処理されている、請求項7記載の繊維強化樹脂シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−61718(P2009−61718A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−232896(P2007−232896)
【出願日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【出願人】(000003975)日東紡績株式会社 (251)
【出願人】(000120010)宇部日東化成株式会社 (203)
【Fターム(参考)】