説明

コンバイン

【課題】オペレータが要望するフィーリング(操作感覚)に細かく対応することができて、オペレータの旋回操作上の要求を十分に満足させ得るようにすること。
【解決手段】駆動源の動力によって走行する走行機体と、該走行機体を旋回操作するための操向手段と、該操向手段に設けられ前記走行機体の旋回量を微調節するための旋回量微調節手段と、を有するコンバインであって、前記旋回量微調節手段による前記走行機体の旋回量の調節量は、前記走行機体の速度に対応させて変更可能に構成した。したがって、操向手段による旋回操作性を良好に確保した上で、更に旋回量微調節手段による補足的な操作を付加することができる。この際、旋回量微調節手段による走行機体の旋回量の調節量を走行機体の速度に対応させて変更可能に構成しているため、かかる調節量を走行機体の速度に対応させて変更することで、種々の状況に即応させて走行機体の曲がり具合を変更することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行機体の旋回量を微調節するための旋回量微調節手段を有するコンバインに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンバインの一形態として、オペレータのフィーリング(操作感覚)に合致した走行機体の旋回角度を得ることを目的とした技術が特許文献1に開示されている。すなわち、特許文献1には、操向手段としての丸形操向ハンドル(ステアリングホイールともいう)の回動操作角度によって左右走行装置の速度比を変更すべく構成した技術が開示されている。そして、かかるコンバインでは、丸形操向ハンドルの旋回の為の回動角が大きくなると、左右の走行クローラの速度差が徐々に大きくなり、丸形操向ハンドルの操作角度に応じて旋回半径を小にすることができるようにしている。
【0003】
また、コンバインの一形態として特許文献2に開示されたものがある。すなわち、特許文献2には、操向手段としての丸形操向ハンドルのホイール部に旋回量微調節手段を設けて、丸形操向ハンドルによる走行機体の旋回量を旋回量微調節手段により微調節するようにした技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−95360号公報
【特許文献2】特許第3671602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献1に開示されたコンバインでは、多くのオペレータのフィーリング(操作感覚)に走行機体の旋回角度を合致させることができるとしても、オペレータの熟練度や運転状況や作業状況等の種々の状況に適応させることができるものではなかった。そのため、オペレータの要望に細かく対応することができるものではなく、オペレータの旋回操作上の要求を十分に満足させ得るものではなかった。
【0006】
また、特許文献2に開示されたコンバインでは、丸形操向ハンドルによる走行機体の旋回量を旋回量微調節手段により微調節することはできるが、旋回量微調節手段による調節量は一定量であるため、走行機体の曲がり具合は一定(一律)となっており、この場合も、オペレータの要望に細かく対応することができるものではなく、オペレータの旋回操作上の要求を十分に満足させ得るものではなかった。
【0007】
例えば、オペレータによっては、旋回量微調節手段による走行機体の旋回量の調節量を走行機体の速度に対応させて変更させることが望まれるが、それができないという不具合がある。
【0008】
本発明は、オペレータが要望するフィーリング(操作感覚)に細かく対応することができて、オペレータの旋回操作上の要求を十分に満足させ得るコンバインを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載の発明に係るコンバインは、駆動源の動力によって走行する走行機体と、該走行機体を旋回操作するための操向手段と、該操向手段に設けられ前記走行機体の旋回量を微調節するための旋回量微調節手段と、を有するコンバインであって、前記旋回量微調節手段による前記走行機体の旋回量の調節量は、前記走行機体の速度に対応させて変更可能に構成したことを特徴とする。
【0010】
かかるコンバインでは、操向手段による旋回操作性を良好に確保した上で、更に旋回量微調節手段による補足的な操作を付加することができる。この際、旋回量微調節手段による走行機体の旋回量の調節量を走行機体の速度に対応させて変更可能に構成しているため、かかる調節量を走行機体の速度に対応させて変更することで、種々の状況に即応させて走行機体の曲がり具合を変更することができる。その結果、オペレータの熟練度や運転状況や作業状況等の種々の状況に適応させることができる。また、旋回量微調節手段による走行機体の旋回量の調節量を多様に変更することができるため、オペレータの細かい要望に適応した旋回操作が可能となる。その結果、旋回操作をオペレータのフィーリング(操作感覚)に即応させることができて、オペレータの旋回操作上の満足度を高めることができる。
【0011】
請求項2記載の発明に係るコンバインは、請求項1記載の発明に係るコンバインであって、前記旋回量微調節手段による前記走行機体の旋回量の調節量は、前記走行機体の速度が増加することにともなって減少するように設定されることを特徴とする。
【0012】
かかるコンバインでは、条合わせ作業時等において走行機体の走行軌道を修正する必要性が生じた際に、旋回量微調節手段を操作することで旋回量を微調節して走行機体の走行軌道を修正することができる。この際、旋回量微調節手段による走行機体の旋回量の調節量は、走行機体の速度が増加することにともなって減少するように設定されている。そのため、高速走行となるにしたがって旋回量微調節手段による旋回操作を小刻みに行って、走行軌道の修正を堅実に行うことができる。また、換言すると、旋回量微調節手段による旋回操作の効き過ぎを抑制することができる。例えば、高速刈取走行時において、旋回量微調節手段が効き過ぎると、オペレータの熟練度等によっては条合わせ作業がし辛い(困難)といった不具合があるが、かかる不具合を解消することができる。その結果、旋回量微調節手段の操作性を向上させることができる。
【0013】
請求項3記載の発明に係るコンバインは、請求項1又は2記載の発明に係るコンバインであって、前記コンバインは、前記駆動源の動力によって駆動する刈取部を有するものであり、該刈取部が駆動状態にある場合にのみ、前記旋回量微調節手段による前記走行機体の旋回量の調節が行われるように構成したことを特徴とする。
【0014】
かかるコンバインでは、刈取部が駆動状態にある場合を作業状態と判断して、かかる作業状態においてのみ、旋回量微調節手段による走行機体の旋回量の調節が行われるようにしている。そのため、作業状態においては旋回量微調節手段による走行機体の旋回量の調節が行われるが、路上走行状態等の非作業状態にある場合は、旋回量微調節手段による走行機体の旋回量は調節されないようにすることができる。すなわち、旋回量微調節手段による走行機体の旋回量を一定として、非作業状態における旋回量微調節手段の操作を単純化することができる。
【0015】
請求項4記載の発明に係るコンバインは、請求項1〜3のいずれか1項記載の発明に係るコンバインであって、前記旋回量微調節手段による前記走行機体の旋回量の調節量は、前記走行機体の車高が増加することにともなって減少するように設定されることを特徴とする。
【0016】
かかるコンバインでは、旋回量微調節手段による走行機体の旋回量の調節量は、走行機体の車高が増加することにともなって減少するように設定されているため、旋回時の機体の安定性を良好に確保することができる。すなわち、走行車体の車高が高くなると、走行機体の重心の位置が高くなることから、走行機体が旋回動作する際は比較的不安定な状態となる。そのため、車高の増加に反比例させて旋回量を減少させることで旋回動作時の安全性を良好に確保することができる。車高が高く設定される場合の一例として圃場が湿田である場合があるが、旋回量微調節手段による旋回量の調節量を小さくすることで、旋回動作時の安全性を良好に確保することができるとともに、旋回時に走行機体が湿田を荒らすという不具合を減少させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、次のような効果を奏する。すなわち、本発明では、操向手段による旋回操作を旋回量微調節手段によって補足操作することができる。そして、旋回量微調節手段による走行機体の旋回量の調節量は走行機体の速度に対応させて変更可能に構成することで、オペレータの要望に細かく対応した変更操作をすることができる。その結果、オペレータが要望するフィーリング(操作感覚)に細かく対応することができて、オペレータの旋回操作上の要求を十分に満足させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係るコンバインの全体構成を示す左側面図。
【図2】走行機体の前部の一部切欠側面図。
【図3】運転部の右側面図。
【図4】運転部の平面説明図。
【図5】動力伝達全体を示す説明図。
【図6】システム全体を示す説明図。
【図7】ステアリングホイールの説明図。
【図8】旋回角度と車速の関数のグラフ。
【図9】走行機体の微旋回説明図。
【図10】旋回角度と車速の関数のグラフ。
【図11】走行機体の微旋回説明図。
【図12】旋回角度と車速の関数のグラフ。
【図13】旋回角度と車高の関数のグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の実施の形態について説明する。
【0020】
本発明に係るコンバインは、直進用HST(静油圧式無段変速機)により駆動制御される直進変速機構と、旋回用HSTにより駆動制御される旋回変速機構とを備えている。そして、直進変速機構から出力される動力と旋回変速機構から出力される動力とを合成して合成動力となしている。この合成動力は左右一対のクローラ式の走行部にそれぞれ出力することで、直進変速機構と旋回変速機構の動力が常時接続された状態(常時動力接続状態)にて、走行部による直進走行や旋回走行が滑らかな速度推移で行えるようにしている。
【0021】
そして、直進用HSTにはステアバイワイヤ方式の制御機構を介して変速手段を接続している。また、旋回用HSTにはステアバイワイヤ方式の制御機構を介して操向手段を接続している。
【0022】
このようにして、変速手段により制御機構を介して直進用HSTを変速操作して直進変速機構を駆動制御する。一方、操向手段により制御機構を介して旋回用HSTを変速操作して旋回変速機構を駆動制御する。そうすることで、最終的に走行部を前後に直進走行させることも、左右方向に旋回操向させることもできる。すなわち、操向手段の操作量(例えば、ハンドル切れ角度)が増大するにしたがって、左右の走行部の速度差が徐々に大きくなり、機体中心速度が自動的に減速される。その結果、機体は緩旋回される。この際、左右の走行部の速度は、それぞれ機体中心速度からプラスマイナスされた値になる。そして、操向手段が所定の操作量まで操作された時点(例えば、ハンドル切れ角度の4分の3あたり)で、機体は急旋回であるスピンターンに入り込む。スピンターンでは、それまで同一回転方向に駆動されていた左右の走行部が相互に反対回転方向に駆動される。
【0023】
このように、本発明に係るコンバインは、変速手段と操向手段を操作することで、直進及び旋回用HSTを電気的に制御して直進及び旋回調整を繊細かつ円滑に行うことができる。そのため、特に操向手段による旋回操作性を良好に確保することができる。
【0024】
しかも、本発明に係るコンバインは、上記のように旋回操作性を良好に確保した操向手段に旋回量微調節手段を設けている。そして、旋回量微調節手段の操作によっても制御機構を介して旋回HSTを電気的に制御して、旋回量を微調節(操向調整)することができるようにしている。つまり、操向手段と旋回量微調節手段の両方で共通する単一の旋回用HSTを操作することができるようにしている。この際、旋回用HSTを駆動制御するアクチュエータ(例えば、比例電磁弁)は、制御機構を介して、操向手段と旋回量微調節手段の両方で、同時にないしは連続的に操作されることになる。
【0025】
このように、旋回量を大きく操向操作可能とした操向手段と、旋回量を微小に操向操作可能とした旋回量微調節手段を設けることで、大雑把な旋回操作を操向手段で行い、それに加えて微妙な細かな操作を旋回量微調節手段で補足的に行うことができる。当然のこと、旋回操作を全域にわたって旋回量微調節手段だけで行うこともできる。
【0026】
さらに、本発明に係るコンバインは、旋回量微調節手段による前記走行機体の旋回量の調節量は、走行機体の速度に対応させて変更可能に構成したことを特徴とする。
【0027】
したがって、操向手段による旋回操作性を良好に確保した上で、更に旋回量微調節手段による補足的な操作を付加することができる。この際、旋回量微調節手段による走行機体の旋回量の調節量を走行機体の速度に対応させて変更可能に構成しているため、かかる調節量を走行機体の速度に対応させて変更することで、種々の状況に即応させて走行機体の曲がり具合を変更することができる。その結果、オペレータの熟練度や運転状況や作業状況等の種々の状況に適応させることができる。また、旋回量微調節手段による走行機体の旋回量の調節量を多様に変更することができるため、オペレータの細かい要望に適応した旋回操作が可能となる。その結果、旋回操作をオペレータのフィーリング(操作感覚)に即応させることができて、オペレータの旋回操作上の満足度を高めることができる。
【0028】
このように、本発明は、制御機構を介した旋回用HSTの操作を、操向手段のみならず旋回量微調節手段によっても可能となすとともに、旋回量微調節手段による走行機体の旋回量の調節量を走行機体の速度に対応させて変更可能に構成している。そうすることで、オペレータの好みに応じた旋回操作が可能となる。また、操向手段の旋回操作方向と旋回量微調節手段の旋回操作方向とが相互に反対となった場合には、両者の旋回量が相殺されて、その相殺された旋回量における旋回方向に走行機体が直進されるように設定している。
【実施例】
【0029】
[全体構成]
本発明の一実施例に係るコンバインAの全体構成について、図1を参照しながら説明する。すなわち、コンバインAは、左右一対のクローラ式の走行部1を備え、この走行部1上に、機体フレーム2を設けて走行機体aを形成している。機体フレーム2の左側前端部には、刈取フレーム3を介して刈取部4を昇降自在に取り付けている。刈取部4には搬送部5と穀稈移送部6を設けている。機体フレーム2上の左側部には、脱穀部7と選別部8を上下段に配設すると共に、機体フレーム2の後部には、排藁処理部9を配設している。一方、機体フレーム2上の右側前部には、キャビン10を配設すると共に、機体フレーム2の右側中途部には、穀粒貯留部11を配設している。穀粒貯留部11は、穀粒般出用のオーガ12を有する。また、コンバインAは、機体フレーム2上における前部に、駆動源としてのエンジン14を含む原動機部13を備える。原動機部13は、エンジン14の動力を各部の装置に供給する。
【0030】
また、機体フレーム2上における原動機部13の前方には、ミッション部15を設けている。ミッション部15は、原動機部13が有するエンジン14の動力を走行部1や刈取部4等に伝達する前に調整(変速)する。
【0031】
以上のような構成を備えるコンバインAは、刈取部4により穀稈を刈り取り、刈り取った穀稈を搬送部5により後上方の穀稈移送部6まで搬送して、穀稈移送部6に穀稈を受け渡す。穀稈移送部6に受け渡された穀稈は、穀稈移送部6により株元を挟扼されると共に穂先を脱穀部7内に挿入させた状態で後方へ移送される。
【0032】
これにより、穀稈は、脱穀部7によって脱穀される。脱穀により得られた穀粒は、選別部8により選別されて、精粒のみが穀粒貯留部11に搬送されて貯留され、必要に応じてオーガ12を介して搬出される。
【0033】
また、脱穀された穀稈は、排藁として排藁処理部9に搬送され、この排藁処理部9にて細断・排出処理される。
【0034】
そして、キャビン10は、図1〜図4に示すように、全体として略四角形箱型に形成している。キャビン10の内部には、運転部19を設けている。運転部19においては、キャビン10の前面下半部を形成する前壁18に、ステアリングケース21を取り付けている。ステアリングケース21の上端部には、操向手段としてのステアリングホイール22を取り付けている。ステアリングホイール22の後方位置には、運転席23を配置し、運転席23の前方から左側方にかけて、サイドコラム24を配設している。サイドコラム24の上部には、変速手段としての主変速レバー26及び副変速レバー27を含む各種操作具を取り付けている。また、図1に示すように、キャビン10においては、前側にキャビン10の前面上半部を形成するフロントガラス31を設け、左側には左側開閉窓32を設け、右側には乗降用開閉扉33を設けている。
【0035】
ステアリングホイール22は、ステアリングケース21の上端部から立ち上げて形成した棒状のスポーク体22aと、スポーク体22aの上端に取り付けたリング状のホイール体22bとから丸型ハンドルに形成している。ホイール体22bの左右側部には支持片22c,22dを内方に膨出させて形成している。左側の支持片22cには機体フレーム2に対して左右の走行部1をそれぞれ昇降操作するための走行部昇降スイッチ22eを設けている。右側の支持片22dには旋回量微調節手段としての旋回量微調節スイッチ22fを取り付けている。なお、操向手段としては、ステアリングホイール22に限らず、把持部に旋回量微調節スイッチ22fを設けた操作レバーであってもよい。
【0036】
旋回量微調節スイッチ22fは、図4に示すように、前後左右方向に傾倒操作可能としたトグルスイッチを採用している。すなわち、旋回量微調節スイッチ22fは、ステアリングホイール22のホイール体22bを把持した右手の指で操作可能としている。そして、旋回量微調節スイッチ22fは、指で操作可能な操作具としてレバー22gを有している。レバー22gは、直立した中立位置から走行機体aの左右各旋回方向に対応する方向に、右手の指で傾倒操作可能としている。このようにして、旋回量微調節スイッチ22fのレバー22gを直立した中立位置から左(右)側方に傾倒操作することでスイッチをONさせて、走行機体aを微少量だけ左(右)旋回方向に旋回操作することができるようにしている。傾倒操作したレバー22gから右手の指を離すと、レバー22gは中立位置に復帰されてスイッチがOFFされるように弾性付勢している。また、旋回量微調節スイッチ22fを前(後)方に傾倒操作することで刈取部4を下降(上昇)させることができるようにしている。
【0037】
ホイール体22bの中央部には、図4に示すように、センターパネル部119を配設している。センターパネル部119はステアリングケース21の上端部に支持片120を介してパネル本体121を取り付けている。パネル本体121には、種々の操作部122や、走行機体aの走行速度や旋回角度や旋回量や選択したモード等の運転状況を数値や図形で液晶表示する液晶表示部123を設けている。そして、オペレータは、種々の操作部122を楽に手元操作することができるとともに、液晶表示部123に表示された運転状況を容易に視認できるようにしている。パネル本体121には、操作部122の一つであるモード変更手段としてのモード変更スイッチ124を設けている。モード変更スイッチ124は旋回量微調節スイッチ22fによる走行機体aの旋回量の調節モードを変更するためのスイッチである。本実施例ではモード変更スイッチ124としてボリュームスイッチを採用している。また、モード変更スイッチ124は手元操作のし易い箇所であるサイドコラム24の上面部に設けたサイドパネル部125に設けることもできる。
【0038】
主変速レバー26は、サイドコラム24内に左右方向に軸線を向けて設けたレバー枢支軸(図示せず)に、上下方向に伸延させて形成したレバー本体26aの下端部を取り付けいる。そして、主変速レバー26の上端部は、サイドコラム24の上面部からレバーガイド孔24aを介して上方へ突出させて把持部26bとなしている。主変速レバー26は、レバー枢支軸を中心に前後方向に揺動自在となしている。そして、主変速レバー26は、直立した中立姿勢から前(後)傾姿勢に姿勢変更操作することで、前(後)進側に変速操作することができるようにしている。
【0039】
[ステアバイワイヤ方式の操作構造]
本実施形態に係るコンバインAにおけるステアリングホイール22と旋回量微調節スイッチ22fと主変速レバー26は、いわゆるステアバイワイヤ方式の操作構造により構成している。すなわち、本実施形態のコンバインAにおけるステアリングホイール22、旋回量微調節スイッチ22f及び主変速レバー26は、機械的な連動機構を採用せずにステアバイワイヤ方式を採用して電気的に制御して操向調整や操向微調整や走行調整を行うように構成している。以下にステアリングホイール22と旋回量微調節スイッチ22fを操向装置に、また、主変速レバー26を走行装置にそれぞれ電気的に接続したステアバイワイヤ方式について説明する。
【0040】
図6に示すように、ステアバイワイヤ方式においては、主変速レバー26の操作量は、第一変速ポテンショメータ100a及び第二変速ポテンショメータ100bにより検出されて、その検出結果が電気信号に変換される。また、ステアリングホイール22の操作量は、第一操向ポテンショメータ110a及び第二操向ポテンショメータ110bにより検出されて、その検出結果が電気信号に変換される。各ポテンショメータ100a,100b,110a,110bにより得られた電気信号は、専用の第一・第二I/Oドライバ28,29を介して専用のコントローラである第一コントローラ34及び第二コントローラ35に送信される。旋回量微調節スイッチ22fは、左右いずれかの方向に操作してスイッチON作動されると、電気信号が専用の第一I/Oドライバ28を介して専用のコントローラである第一コントローラ34に送信される。各コントローラ34,35に送信された電気信号は、各コントローラ34,35からの制御情報として出力され、直進用HST40及び旋回用HST50を駆動制御し、最終的に左右の走行部1による直進走行や旋回操向(急旋回操向であるスピンターンも含む)や旋回量微調節の操作を可能とする。
【0041】
ミッション部15の構成について説明する。図5に示すように、ミッション部15は、直進用HST40と、旋回用HST50と、トランスミッション60とを備える。これら直進用HST40、旋回用HST50、及びトランスミッション60は、ミッションケースに収容され、コンバインAの走行系の伝動機構を構成する。
【0042】
(直進用HST)
直進用HST40は、可変容積型の直進ポンプ40Pと、可変容積型の直進モータ40Mとを備える。直進ポンプ40Pと直進モータ40Mとは、互いに流体接続されている。
【0043】
直進ポンプ40Pは、容積量を変更するための機構として、可動斜板と制御軸とを有し、制御軸にて可動斜板を傾転させることにより、容積量を変更するように構成している。直進ポンプ40Pは、エンジン14の出力軸に連動連結される直進ポンプ軸41を有する。つまり、直進用HST40は、直進ポンプ40Pの直進ポンプ軸41がエンジン14の出力軸に連動連結されることで、エンジン14からの動力の伝達を受ける。なお、エンジン14の出力軸には、脱穀部7、選別部8、排藁処理部9、穀粒貯留部11等に対してエンジン14の動力を伝達するための回転軸を、クラッチ等を介して連動連結している。
【0044】
直進モータ40Mは、容積量を変更するための機構として、可動斜板と制御軸とを有し、制御軸にて可動斜板を傾転させることにより、容積量を変更するように構成している。直進モータ40Mは、副変速機構80の出力軸と連動連結される直進モータ軸42を有する。つまり、直進用HST40は、直進モータ40Mの直進モータ軸42が副変速機構80の入力軸に連動連結されることで、副変速機構80に対して動力を伝達する。
【0045】
直進用HST40は、変速操作装置によって操作可能としている。この変速操作装置には、主変速レバー26等の人為的な操作が可能な変速操作具と、直進ポンプ40P用の作動装置と、直進モータ40M用の作動装置とが含まれる。直進ポンプ40P用の作動装置及び直進モータ40M用の作動装置は、第一コントローラ34により作動制御される。
【0046】
図6に示すように、直進ポンプ40P用の作動装置には、直進ポンプ用電磁弁47と、油圧シリンダ等の変速アクチュエータとが含まれる。直進ポンプ用電磁弁47は、直進ポンプ40Pの可動斜板を傾転させ、直進ポンプ40Pの容積量を変化させる。直進ポンプ用電磁弁47は、変速操作を検出する第一変速ポテンショメータ100aからの検出情報に基づいて、第一コントローラ34により制御される。直進ポンプ40P用の作動装置に含まれる変速アクチュエータは、第一コントローラ34による直進ポンプ用電磁弁47の制御に応じて作動油の給排が切り替えられることで作動する。
【0047】
また、直進モータ40M用の作動装置には、直進モータ用電磁弁48と、油圧シリンダ等の変速アクチュエータとが含まれる。直進モータ用電磁弁48は、直進モータ40Mの可動斜板を傾転させ、直進モータ40Mの容積量を変化させる。直進モータ用電磁弁48は、副変速操作を検出する副変速位置センサ111からの検出情報に基づいて、第二コントローラ35を介して第一コントローラ34により制御される。直進モータ40M用の作動装置に含まれる変速アクチュエータは、第一コントローラ34による直進モータ用電磁弁48の制御に応じて作動油の給排が切り替えられることで作動する。
【0048】
そして、直進ポンプ40P用の作動装置は、変速アクチュエータの作動によって制御軸を介して可動斜板を傾転させることで、直進ポンプ40Pの容積量を変更させる。また、直進モータ40M用の作動装置は、変速アクチュエータの作動によって制御軸を介して可動斜板を傾転させることで、直進モータ40Mの容積量を変更させる。
【0049】
このように、直進用HST40においては、直進ポンプ40Pの駆動時に、可動斜板の傾転に応じて直進ポンプ40Pの容積量が変更される。それによって、直進ポンプ40Pから直進モータ40Mへ吐出される作動油の吐出量及び吐出方向が変更される。その結果、直進モータ軸42の回転方向が正転方向又は逆転方向に変更されると共に、直進モータ軸42の回転数が無段階に変更される。さらに、直進モータ40Mにおいて、可動斜板の傾転に応じて直進モータ40Mの容積量が変更されることによって、直進モータ軸42の回転数が変更される。直進変速機構はこのように構成している。
【0050】
(旋回用HST)
旋回用HST50は、可変容積型の旋回ポンプ50Pと、固定容積型の旋回モータ50Mとを備える。旋回ポンプ50Pと旋回モータ50Mとは、互いに流体接続されている。
【0051】
旋回ポンプ50Pは、容積量を変更するための機構として、可動斜板と制御軸とを有し、制御軸にて可動斜板を傾転させることにより、容積量を変更するように構成している。旋回ポンプ50Pは、エンジン14の出力軸に連動連結される旋回ポンプ軸51を有する。つまり、旋回用HST50は、旋回ポンプ50Pの旋回ポンプ軸51がエンジン14の出力軸に連動連結されることで、エンジン14からの動力の伝達を受ける。
【0052】
旋回モータ50Mは、容積量を固定するための機構として、固定斜板を有し、この固定斜板により、容積量が一定となるように構成している。
【0053】
旋回用HST50は、操向操作装置によって操作可能とされる。この操向操作装置には、ステアリングホイール22や旋回量微調節スイッチ22f等の人為的な操作が可能な操向操作具と、旋回ポンプ50P用の作動装置とが含まれる。旋回ポンプ50P用の作動装置は、第一コントローラ34により作動制御される。
【0054】
図6に示すように、旋回ポンプ50P用の作動装置には、旋回ポンプ用電磁弁57と、油圧シリンダ等の変速アクチュエータとが含まれる。旋回ポンプ用電磁弁57は、旋回ポンプ50Pの可動斜板を傾転させ、旋回ポンプ50Pの容積量を変化させる。旋回ポンプ用電磁弁57は、操向操作を検出する第一操向ポテンショメータ110aからの検出情報ないしは後述するモード変更スイッチ124により設定された設定情報に基づいて、第一コントローラ34により制御される。旋回ポンプ50P用の作動装置に含まれる変速アクチュエータは、第一コントローラ34による旋回ポンプ用電磁弁57の制御に応じて作動油の給排が切り替えられることで作動する。
【0055】
そして、旋回ポンプ50P用の作動装置は、変速アクチュエータの作動によって制御軸を介して可動斜板を傾転させることで、旋回ポンプ50Pの容積量を変更させる。
【0056】
このように、旋回用HST50においては、旋回ポンプ50Pの駆動時に、可動斜板の傾転に応じて旋回ポンプ50Pの容積量が変更される。それによって、旋回ポンプ50Pから旋回モータ50Mへ吐出される作動油の吐出量及び吐出方向が変更される。その結果、旋回モータ軸52の回転方向が正転方向又は逆転方向に変更されると共に、旋回モータ軸52の回転数が無段階に変更される。操向変速機構はこのように構成している。
【0057】
(トランスミッション)
図5に示すように、トランスミッション60は、遊星歯車機構部70と、副変速機構80と、クラッチ装置90とを備える。
【0058】
遊星歯車機構部70は、一対の遊星歯車機構を含む遊星歯車群として構成し、一対の遊星歯車機構として、第一遊星歯車機構71aと第二遊星歯車機構71bとを有する。遊星歯車機構部70においては、一対の遊星歯車機構71a,71bから、左右に出力軸を延出している。すなわち、第一遊星歯車機構71aから、第一出力軸72aを延出し、第二遊星歯車機構71bから、第二出力軸72bを延出している。各出力軸72a,72bは、それぞれ左右方向で対応する走行部1のクローラの駆動輪に回転動力を伝達する。これにより、左右の走行部1の走行駆動が行われる。
【0059】
副変速機構80は、直進モータ軸42に連結される回転軸を有し、この回転軸を介して直進モータ40Mの直進モータ軸42に連動連結している。副変速機構80は、直進モータ軸42の回転動力を多段変速させることができるように構成している。なお、直進モータ軸42には、刈取プーリ用電磁クラッチ91(図6)を介して刈取プーリを固定し、この刈取プーリから直進モータ40Mの回転動力を刈取部4の伝動機構に伝達する。
【0060】
クラッチ装置90は、旋回用HST50における旋回モータ50Mの旋回モータ軸52に対して連動連結している。クラッチ装置90は、旋回用HST50の旋回モータ50Mからの回転動力を、遊星歯車機構部70に対して伝達又は遮断することができるように構成している。
【0061】
以上のような構成を備えるトランスミッション60において、旋回用HST50の旋回モータ50Mが停止し、直進用HST40の直進モータ40Mが駆動する場合、直進モータ40Mの回転動力が、直進モータ軸42から、副変速機構80を介して遊星歯車機構部70に伝達され、第一出力軸72a及び第二出力軸72bから出力される。
【0062】
この直進モータ40Mから第一出力軸72a及び第二出力軸72bに対する回転動力の伝達によって、第一出力軸72a及び第二出力軸72bが正回転方向または逆回転方向の同一方向に回転させられる。これにより、左右のクローラ式の走行部1が有する駆動輪が、同一回転方向に同一回転数で回転する。その結果、左右の走行部1が駆動され、コンバインAの機体前後方向についての直進走行が行われる。
【0063】
また、直進用HST40の直進モータ40Mが停止し、旋回用HST50の旋回モータ50Mが駆動する場合、旋回モータ50Mの回転動力が、旋回モータ軸52から、クラッチ装置90を介して遊星歯車機構部70に伝達され、第一出力軸72a及び第二出力軸72bから出力される。
【0064】
この旋回モータ50Mから第一出力軸72a及び第二出力軸72bに対する回転動力の伝達によって、第一出力軸72a及び第二出力軸72bが互いに反対方向に回転させられる。これにより、左右のクローラ式の走行部1が有する駆動輪が、互いに反対方向に回転する。その結果、左右の走行部1が駆動され、コンバインAの機体の急旋回であるスピンターンが行われる。スピンターンによれば、例えば圃場や枕地での急速・小半径での方向転換が可能となる。また、いずれか一方の走行部1が有する駆動輪が停止状態となった場合には、停止状態の走行部1側を中心に旋回されるターンが行われる。
【0065】
また、直進用HST40の直進モータ40Mが駆動すると共に、旋回用HST50の旋回モータ50Mが駆動する場合、直進モータ40Mから副変速機構80を介して遊星歯車機構部70に伝達される回転動力と、旋回モータ50Mからクラッチ装置90を介して遊星歯車機構部70に伝達される回転動力とが、遊星歯車機構部70において合成されて合成動力が生成される。そして、その合成動力が第一出力軸72a及び第二出力軸72bから出力される。
【0066】
この直進モータ40M及び旋回モータ50Mから第一出力軸72a及び第二出力軸72bに対する回転動力(合成動力)の伝達によって、第一出力軸72a及び第二出力軸72bが互いに異なる回転数で回転される。その結果、左右の走行部1が相互に速度差をもって駆動され、コンバインAの走行機体aの直進走行と左方向又は右方向への旋回操向とが同時に行われて、緩旋回がなされる。なお、コンバインAの旋回方向及び旋回半径は、左右の走行部1の速度差に応じて決定される。そして、ステアリングホイール22が所定の操作量まで操作された時点(例えば、ハンドル切れ角度の4分の3あたり)では、旋回側の走行部1が停止される。さらに、ステアリングホイール22が旋回操作されると左右の走行部1が相互に反対方向に駆動されて、走行機体aは急旋回であるスピンターンに入り込む。
【0067】
続いて、図6を用いて、本実施形態に係るコンバインAの制御システムの構成について説明する。図6に示すように、コンバインAの制御システムは、第一変速ポテンショメータ100aと、第二変速ポテンショメータ100bと、第一操向ポテンショメータ110aと、第二操向ポテンショメータ110bと、第一コントローラ34と、第二コントローラ35と、エンジンコントローラ36とを備える。
【0068】
第一変速ポテンショメータ100a及び第二変速ポテンショメータ100bは、オペレータによる主変速レバー26の変速操作状態、つまり主変速レバー26の変速操作位置を検出する。第一操向ポテンショメータ110a及び第二操向ポテンショメータ110bは、オペレータによるステアリングホイール22の操向操作状態、つまりステアリングホイール22の操向操作位置を検出する。モード変更スイッチ124は、旋回量微調節スイッチ22fによる走行機体aの旋回量の調節量を、走行機体aの速度に対応させて変更する有段階のモードに切り替えるスイッチである。モードについては後述する。
【0069】
第一コントローラ34は、第一変速ポテンショメータ100a、第一操向ポテンショメータ110a及びモード変更スイッチ124からの入力情報(検出情報)に基づいて制御情報を生成し、直進ポンプ用電磁弁47、直進モータ用電磁弁48、及び旋回ポンプ用電磁弁57を制御する。第二コントローラ35は、第二変速ポテンショメータ100b及び第二操向ポテンショメータ110bからの入力情報(検出情報)に基づいて制御情報を生成する。エンジンコントローラ36は、エンジン回転数センサ175や温度センサや油温センサ(いずれも図示せず)等からの入力情報(検出情報)に基づいて、エンジン14の運転状態を制御する。
【0070】
第一コントローラ34には、比例弁ドライバ163を介して、直進ポンプ用電磁弁47、直進モータ用電磁弁48、及び旋回ポンプ用電磁弁57を電気的に接続している。また、第一コントローラ34には、コンバインAの走行状態を検出するための手段として、直進回転センサ113及び旋回回転センサ114を接続している。直進回転センサ113は、トランスミッション60におけるコンバインAの前後進(直進)に係る回転部分の回転を検出し、その検出信号を第一コントローラ34に送信する。旋回回転センサ114は、トランスミッション60におけるコンバインAの旋回に係る回転部分の回転を検出し、その検出信号を第一コントローラ34に送信する。
【0071】
また、第一コントローラ34には、副変速ソレノイド115を接続している。副変速ソレノイド115は、トランスミッション60が有する切換部を作動させて、低速出力と高速出力とを切り換える。また、第一コントローラ34には、第一I/Oドライバ28を介して、第一変速ポテンショメータ100a、第一操向ポテンショメータ110a及びモード変更スイッチ124を電気的に接続している。図3に示すように、第一コントローラ34は、ミッション部15の後方に位置する機体フレーム2上の刈取部支持台150上に立設した支持ケース153の内側面に設けている。
【0072】
第二コントローラ35には、第二I/Oドライバ29を介して、第二変速ポテンショメータ100b、第二操向ポテンショメータ110b、刈取スイッチ117及び脱穀スイッチ118を電気的に接続している。また、第二コントローラ35には、刈取プーリ用電磁クラッチ91及びPTOプーリ用電磁クラッチ93を電気的に接続している。刈取プーリ用電磁クラッチ91は、刈取スイッチ117がON・OFF操作されることで、刈取部4への回転動力を伝達又は遮断する。PTOプーリ用電磁クラッチ93は、脱穀スイッチ118がON・OFF操作されることで、脱穀部7への回転動力を伝達又は遮断する。
【0073】
また、第二コントローラ35には、第三I/Oドライバ30を介して、副変速位置センサ111及び副変速スイッチ112を電気的に接続している。副変速位置センサ111は、副変速レバー27の前後回動操作位置(操作量)を検出する。副変速スイッチ112は、副変速ソレノイド115を介して前記のとおりトランスミッション60が有する切換部を作動させて、トランスミッション60における低速出力と高速出力とを切り換えるための操作部である。図3に示すように、第二コントローラ35は、刈取部支持台150上に立設した支持柱(図示せず)の内側面に設けている。
【0074】
第一I/Oドライバ28と第一コントローラ34とエンジンコントローラ36と比例弁ドライバ163とは、CAN(Controller Area Network)130により電気的に接続している。同様に、第一コントローラ34と第二コントローラ35とは、CAN131により接続し、第二I/Oドライバ29と第三I/Oドライバ30と第二コントローラ35とは、CAN132により接続している。そして、第一コントローラ34、第二コントローラ35、及びエンジンコントローラ36は、第一変速ポテンショメータ100aや第一操向ポテンショメータ110a等を含む各種検出機器からの検出情報を共有するように構成している。図2及び図3に示すように、エンジンコントローラ36は、ミッション部15の前方の位置であって機体フレーム2の前端部に設けている。
【0075】
本実施形態では、第一変速ポテンショメータ100aと第二変速ポテンショメータ100bとは、互いに異なる検出方法によって主変速レバー26の変速操作位置を検出するように構成している。同様に、第一操向ポテンショメータ110aと第二操向ポテンショメータ110bとは、互いに異なる検出方法によってステアリングホイール22の操向操作位置を検出するように構成している。
【0076】
具体的には、第一変速ポテンショメータ100aは、主変速レバー26の変速操作位置の検出において、主変速レバー26の傾倒操作による傾倒角が大きくなるに従って検出信号としての電気信号を増幅させる。これに対し、第二変速ポテンショメータ100bは、主変速レバー26の変速操作位置の検出において、主変速レバー26の傾倒操作による傾倒角が大きくなるにしたがって検出信号としての電気信号を減少させる。
【0077】
また、第一操向ポテンショメータ110aは、ステアリングホイール22の操向操作位置の検出において、ステアリングホイール22の右旋回時の切れ角が大きくなるに従って検出信号としての電気信号を増幅させる(左旋回時の切れ角が大きくなるに従って電気信号を減少させる)。これに対し、第二操向ポテンショメータ110bは、ステアリングホイール22の操向操作位置の検出において、ステアリングホイール22の右旋回時の切れ角が大きくなるに従って検出信号としての電気信号を減少させる(左旋回時の切れ角が大きくなるにしたがって電気信号を増幅させる)。
【0078】
このような検出構成により、第一コントローラ34及び第二コントローラ35は、主変速レバー26やステアリングホイール22の操作にともない、異なる検出方法によって得られた複数の検出情報をそれぞれ入力情報として得る。そして、第一コントローラ34への入力情報と第二コントローラ35への入力情報を、第一コントローラ34及び第二コントローラ35のそれぞれにおいて比較することにより、入力情報が適切であるか否かを判別する。これにより、第一変速ポテンショメータ100aや第一操向ポテンショメータ110a等の検出機器の異常の発生が精度良く検知され、入力情報の信頼性が向上する。
【0079】
第一コントローラ34は、オペレータの変速操作や操向操作や操向微調節操作に応じてコンバインAの走行状態を制御するメインコントローラである。第一コントローラ34は、第一変速ポテンショメータ100a、第一操向ポテンショメータ110a及びモード変更スイッチ124からの入力情報に基づいて直進用HST40及び旋回用HST50を制御するための制御情報を生成し、かかる制御情報により、直進用HST40及び旋回用HST50を制御する。
【0080】
第二コントローラ35は、メインコントローラである第一コントローラ34に対するサブコントローラである。第二コントローラ35は、第一コントローラ34との間で随時通信を行なって、第一コントローラ34の作動状態(作動しているか否か)を監視する。これと同時に、第一コントローラ34は、第二コントローラ35の作動状態を監視する。つまり、第一コントローラ34と第二コントローラ35は、相互に作動状態を監視するように構成している。なお、第一コントローラ34と第二コントローラ35の電源ラインは別々にしている。
【0081】
また、第一コントローラ34及び第二コントローラ35では、主変速レバー26の操作に応じて第一変速ポテンショメータ100aから入力される入力情報またはステアリングホイール22の操作に応じて第一操向ポテンショメータ110aから入力される入力情報と、同様にして第二変速ポテンショメータ100bまたは第二操向ポテンショメータ110bから入力される入力情報を互いに比較する。
【0082】
さらに、第一コントローラ34及び第二コントローラ35では、第一コントローラ34において前記各ポテンショメータ100a,100b,110a,110bからの入力情報に基づいて生成される制御情報と、第二コントローラ35において前記各ポテンショメータ100a,100b,110a,110bからの入力情報に基づいて生成される制御情報を比較する。この比較の結果、前記各ポテンショメータ100a,100b,110a,110bの作動状態について、正常に作動しているか否かを判定する。
【0083】
第一コントローラ34に接続される直進回転センサ113は、コンバインAの走行状態について、コンバインAが走行中か否かを検出するものである。同じく第一コントローラ34に接続される旋回回転センサ114は、コンバインAが旋回中か否かを検出するものである。ここで、直進回転センサ113は、トランスミッション60における副変速機構80を含む直進用出力伝動機構に設けて、この伝動機構を構成する適宜の軸やギア等の回転を検出する。また、旋回回転センサ114は、トランスミッション60におけるクラッチ装置90を含む旋回用出力伝動機構に設けて、この伝動機構を構成する適宜の軸やギア等の回転を検出する。
【0084】
第一コントローラ34は、直進回転センサ113や旋回回転センサ114からの検出情報に基づいて、コンバインAが目標の走行状態となるようにフィードバック制御を行う。これとともに、第一コントローラ34は、第二コントローラ35からエンジン14の運転状態に係る情報を取得して常にオペレータの要求に応じた走向状態を実現するように制御情報を生成し、直進用HST40及び旋回用HST50の制御を行う。
【0085】
以上のような構成において、主変速レバー26が操作されることで、主変速レバー26の変速操作位置が第一変速ポテンショメータ100a及び第二変速ポテンショメータ100bにより検出され、かかる検出情報が用いられ、第一コントローラ34及び第二コントローラ35によって、直進用HST40が制御される。つまり、主変速レバー26の操作により、エンジン14からの回転動力を変速してトランスミッション60に伝達する直進用HST40が制御される。そして、第一出力軸72a及び第二出力軸72bが同一方向に正逆回転駆動して、左右の走行部1によるコンバインAの前後の直進走行が行われる。
【0086】
また、ステアリングホイール22が操作されることで、ステアリングホイール22の操向操作位置が第一操向ポテンショメータ110a及び第二操向ポテンショメータ110bにより検出され、かかる検出情報に基づいて、第一コントローラ34及び第二コントローラ35によって、旋回用HST50が制御される。つまり、ステアリングホイール22の操作により、エンジン14からの回転動力を変速してトランスミッション60に伝達する旋回用HST50が制御される。そして、第一出力軸72a及び第二出力軸72bが反対方向に回転駆動して、左右の走行部1によるコンバインAの緩・急旋回操向が行われる。
【0087】
図7に示すように、旋回量微調節スイッチ22fのレバー22gが左右側方のいずれかに傾倒操作されることでスイッチがONし、そのON情報が第一コントローラ34に送信されることで、第一コントローラ34によって旋回用HST50が制御される。つまり、旋回量微調節スイッチ22fのレバー22gの操作により、エンジン14からの回転動力を変速してトランスミッション60に伝達する旋回用HST50が制御される。その結果、旋回量微調節スイッチ22fが左右いずれか一方にON操作されている間は、走行機体aが微少量の調節量にて継続的に旋回操向される。そして、所望の旋回量が得られた時点で旋回量微調節スイッチ22fからそれを操作している指を離すことで、微調節旋回操作を終了させることができる。
【0088】
旋回量微調節スイッチ22fによる走行機体aの旋回量の調節量を、走行機体aの速度に対応させて変更する有段階のモードとしては、走行機体aの速度が増加することにともなって減少するように設定されるモード1〜3と、走行機体aの速度が増加することにともなって増加するように設定されるモード4,5がある。モードの変更は、図7に示すように、モード変更スイッチ124を回動操作することでモードを有段階に設定することができる。すなわち、調節量変更スイッチ124を時計廻りに回動操作すると、モード数は漸次増大する一方、調節量変更スイッチ124を反時計廻りに回動操作するとモード数は漸次減少する。126は調節量変更スイッチ124に設けた指標であり、調節量変更スイッチ124の回動操作位置を示すようにしている。127はモード表示片であり、指標126が指し示すモード表示片127の位置で設定したモード状態の目安とすることができる。かかる調節量変更スイッチ124により設定されたモードは電気信号に変換されて、入力情報として第一コントローラ34に送信される。そして、その入力情報に基づいて第一コントローラ34は制御情報を生成する。その制御情報は旋回ポンプ用電磁弁57に出力されて、旋回ポンプ用電磁弁57の操作量が変更される。
【0089】
その結果、旋回ポンプ用電磁弁57により駆動される旋回用HST50が制御される。したがって、旋回量微調節スイッチ22fのレバー22gが継続的に旋回微調節操作されることで、走行機体aに所望の旋回量が得られる。しかも、オペレータはモード変更スイッチ124により調節量を自由に設定することで、自分が要望するフィーリング(操作感覚)に適応させることができる。
【0090】
ここで、モード変更スイッチ124により設定されるモード1〜5は、それぞれ第一コントローラ34があらかじめ記憶している関数であり、選択されたいずれかの関数に基づいて第一コントローラ34が走行機体aの速度に対応する旋回量の値を演算する。その場合、関数はあらかじめ種々設定しておいて、オペレータが所望の関数をモードとして選択可能とすることで、走行機体aの旋回量の調節量にバリエーションをもたせることができる。その結果、オペレータが要望するフィーリング(操作感覚)に一層細かく適応可能となる。
【0091】
図8に示すように、旋回量微調節スイッチ22fによる走行機体aの旋回量の調節量が、走行機体aの速度が増加することにともなって減少する関数F1を設定した場合、図9に示すように、高速走行時には旋回角度(旋回量)θが小さくなり、低速走行時には旋回角度(旋回量)θが大きくなる。ここで、旋回量と旋回角度と旋回半径と操向ポンプ用電磁弁操作量は正比例関係にある。
【0092】
図10に示すように、旋回量微調節スイッチ22fによる走行機体aの旋回量の調節量が、走行機体aの速度が増加することにともなって増加する関数F2を設定した場合、図11に示すように、高速走行時には旋回角度(旋回量)θが大きくなり、低速走行時には旋回角度(旋回量)θが小さくなる。
【0093】
刈取部4が駆動状態にある場合にのみ、すなわち、刈取スイッチ117がON操作されて、プーリ用電磁クラッチ91が刈取部4への回転動力を伝達している場合にのみ、旋回量微調節スイッチ22fによる走行機体aの旋回量の調節が行われるように構成することができる。例えば、図12に示すように、刈取作業時の関数F3を設定し、走行時(非作業時)は旋回角度を一定値Cとすることができる。
【0094】
このように、刈取部が駆動状態にある場合を作業状態と判断して、かかる作業状態においてのみ、旋回量微調節手段による走行機体aの旋回量の調節が行われるようにすることができる。そのため、作業状態においては旋回量微調節スイッチ22fによる走行機体aの旋回量の調節が行われるが、路上走行状態等の非作業状態にある場合は、旋回量微調節スイッチ22fによる走行機体aの旋回量は調節されないようにすることができる。すなわち、旋回量微調節スイッチ22fによる走行機体aの旋回量を一定値Cとして、非作業状態における旋回量微調節スイッチ22fの操作を単純化することができる。
【0095】
旋回量微調節スイッチ22fによる走行機体aの旋回量の調節量は、走行機体aの車高が増加することにともなって減少するように設定することができる。ここで、車高とは、機体フレーム2の地上高をいう。そして、本実施形態に係るコンバインAは走行部1と機体フレーム2との間に機体昇降機構(図示せず)を介設している。そして、図7に示すステアリングホイール22のホイール体22bの左側部に設けた昇降スイッチ22hを、図6に示すように第一I/Oドライバ28を介して第一コントローラ34に電気的に接続している。昇降スイッチ22hは前後に傾倒操作することで、機体昇降機構に設けた昇降アクチュエータを作動させて、機体フレーム2を昇降作動させることができるようにしている。なお、機体昇降機構としては、例えば、特開2002−53083号公報に開示されているスイングアーム等からなる機体昇降機構を適用することができる。
【0096】
図13に示すように、旋回量微調節スイッチ22fによる走行機体aの旋回量の調節量は、走行機体aの車高が増加することにともなって減少するように関数F4を設定することができる。すなわち、昇降スイッチ22hを後傾操作(機体フレーム2の上昇操作)すると、その操作信号が第一コントローラ34に送信されて、第一コントローラ34があらかじめ記憶している関数F4に基づいて、送信情報である車高の値から走行機体aの速度に対応する旋回量の値を演算する。そして、第一コントローラ34が演算値を制御情報として走行ポンプ用電磁弁57に出力して、旋回用HST50を車高の増加に反比例させて旋回量を減少させるように駆動制御する。
【0097】
その結果、旋回時の走行機体aの安定性を良好に確保することができる。すなわち、走行機体aの車高が高くなると、走行機体aの重心の位置が高くなることから、走行機体aが旋回動作する際は比較的不安定な状態となる。しかしながら、車高の増加に反比例させて旋回量を減少させることで旋回動作時の安全性を良好に確保することができる。車高が高く設定される場合の一例として圃場が湿田である場合があるが、旋回量微調節スイッチ22fによる旋回量の調節量を小さくすることで、旋回動作時の安全性を良好に確保することができるとともに、旋回時に走行機体aが湿田を荒らすという不具合を減少させることができる。
【0098】
前記したように、旋回量微調節スイッチ22fによる走行機体aの旋回量の調節量と走行機体aの速度との対応関係は、選択可能な複数の関数等のパターンとしてあらかじめ第一コントローラ34に記憶させておき、選択された前記対応関係に基づいて、旋回量微調節スイッチ22fによる走行機体aの旋回量の調節が行われるように構成することができる。
【0099】
かかるコンバインでは、旋回量微調節スイッチ22fによる走行機体aの旋回量の調節量と走行機体aの速度との対応関係が、選択可能な複数の関数等のパターンとしてあらかじめ第一コントローラ34に記憶されている。そして、選択されたパターンである走行機体aの旋回量の調節量と走行機体aの速度との対応関係に基づいて、旋回量微調節スイッチ22fによる走行機体aの旋回量の調節が行われる。したがって、オペレータは選択可能な複数のパターンを圃場の状況や好み等に応じて自由に選択することができる。また、旋回量微調節スイッチ22fによる旋回量の微調節量と走行機体aの速度との関係について、圃場の状況や作業者の熟練度等に対応するモードを設定し、各モードの変換をモード変更スイッチ124によるスイッチ操作で行うことで、操作の簡易化を図ることができる。
【0100】
以上のように、ステアバイワイヤ方式を採用する本実施形態のコンバインAにおいては、主変速レバー26とステアリングホイール22及び旋回量微調節スイッチ22fの操作により、直進用HST40や旋回用HST50等の電気的な制御がなされる。そして、かかる制御の下、エンジン14の回転動力が歯車群等の機械的な伝動構成を介して走行部1に伝達され、コンバインAの前後直進走行、緩・急旋回操向が常時動力接続状態にて行われる。この際、旋回操作は、ステアリングホイール22で大雑把に、そして、旋回量微調節スイッチ22fで微細に行うことができる。そのため、条合わせ作業等のように、走行機体aの走行軌道を調整する際には、少なくとも旋回量微調節スイッチ22fで旋回操作して旋回微調節することで、走行軌道調整を堅実に実行することができる。しかも、オペレータは、自分が要望するフィーリング(操作感覚)が得られるように、回量微調節スイッチ22fによる走行機体aの旋回量の調節量を、走行機体aの速度に対応させて適宜変更することができる。そのため、オペレータは旋回操作上の満足度を十分に高めることができる。
【符号の説明】
【0101】
A コンバイン
1 走行部
2 機体フレーム
3 刈取フレーム
4 刈取部
5 搬送部
6 穀稈移送部
7 脱穀部
8 選別部
9 排藁処理部
10 キャビン
11 穀粒貯留部
12 オーガ
13 原動機部
14 エンジン
24 サイドコラム
28 第一I/Oドライバ
29 第二I/Oドライバ
30 第三I/Oドライバ
40 直進用HST
50 旋回用HST

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源の動力によって走行する走行機体と、該走行機体を旋回操作するための操向手段と、該操向手段に設けられ前記走行機体の旋回量を微調節するための旋回量微調節手段と、を有するコンバインであって、
前記旋回量微調節手段による前記走行機体の旋回量の調節量は、前記走行機体の速度に対応させて変更可能に構成したことを特徴とするコンバイン。
【請求項2】
前記旋回量微調節手段による前記走行機体の旋回量の調節量は、前記走行機体の速度が増加することにともなって減少するように設定されることを特徴とする請求項1記載のコンバイン。
【請求項3】
前記コンバインは、前記駆動源の動力によって駆動する刈取部を有するものであり、
該刈取部が駆動状態にある場合にのみ、前記旋回量微調節手段による前記走行機体の旋回量の調節が行われるように構成したことを特徴とする請求項1又は2記載のコンバイン。
【請求項4】
前記旋回量微調節手段による前記走行機体の旋回量の調節量は、前記走行機体の車高が増加することにともなって減少するように設定されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のコンバイン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−130303(P2012−130303A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−286043(P2010−286043)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】