説明

コーストストップ車両及びコーストストップ車両の制御方法

【課題】コーストストップ解除時にダウンシフトを行うコーストストップ車両において、コーストストップ解除後、駆動力が伝達可能になるまでの時間を短縮する。
【解決手段】コントローラ12は、コーストストップ中にコーストストップ解除条件が成立するとエンジン1を自動始動させる。また、コントローラ12は、エンジン1が完爆する前にコーストストップ解除条件成立時の変速段(2速段)よりもLow側の変速段(1速段)を実現するLowブレーキ32の締結を開始し副変速機構30をダウンシフトさせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両走行中にエンジンを自動停止させるコーストストップ技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、燃料消費量低減を目的として、車両走行中にコーストストップ開始条件(例えば、アクセルOFF、ブレーキON、かつ、車速が低車速域)が成立したらエンジンを自動停止(コーストストップ)させて燃料消費量を抑制し、その後、コーストストップ解除条件が成立したらエンジンを自動始動させるコーストストップ技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−138426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
コーストストップ解除後の駆動力を確保し、運転者の加速要求に応えることを目的として、コーストストップ解除条件が成立してエンジンを再始動する時に変速機をダウンシフトさせるようにすることが考えられる。例えば、コーストストップ解除条件が成立した時に、エンジンの始動(燃料噴射)を開始し、エンジン完爆後にそれまでの変速段よりもLow側の変速段を実現する摩擦締結要素を締結するようにする。
【0005】
しかしながら、このような制御では、エンジンが完爆してLow側の変速段を実現する摩擦締結要素の締結が完了するまでの間は変速機が駆動力を伝達できないため、加速度が増大するまでにタイムラグがあり、運転者の加速要求に応えられない可能性がある。
【0006】
本発明は、このような技術的課題に鑑みてなされたもので、コーストストップ解除時にダウンシフトを行うコーストストップ車両において、コーストストップ解除後、駆動力が伝達可能になるまでの時間を短縮することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様によれば、コーストストップ車両であって、エンジンと、前記エンジンと駆動輪の間に配置されて複数の変速段を有する変速機と、走行中にコーストストップ開始条件が成立すると前記エンジンを自動停止させるコーストストップ開始手段と、コーストストップ中にコーストストップ解除条件が成立すると前記エンジンを自動始動させるコーストップ解除手段と、前記コーストストップ解除条件が成立すると、前記エンジンが完爆する前に前記コーストストップ解除条件成立時の変速段よりもLow側の変速段を実現する摩擦締結要素の締結を開始し前記変速機をダウンシフトさせるダウンシフト手段と、を備えたことを特徴とするコーストストップ車両が提供される。
【0008】
本発明の別の態様によれば、エンジンと、前記エンジンと駆動輪の間に配置されて複数の変速段を有する変速機とを有するコーストストップ車両の制御方法であって、走行中にコーストストップ開始条件が成立すると前記エンジンを自動停止させるコーストストップ開始手順と、コーストストップ中にコーストストップ解除条件が成立すると前記エンジンを自動始動させるコーストップ解除手順と、前記コーストストップ解除条件が成立すると、前記エンジンが完爆する前に前記コーストストップ解除条件成立時の変速段よりもLow側の変速段を実現する摩擦締結要素の締結を開始し前記変速機をダウンシフトさせるダウンシフト手順と、を含むことを特徴とするコーストストップ車両の制御方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
これらの態様によれば、コーストストップ解除後、Low側の変速段を実現する摩擦締結要素の締結が完了して駆動力が伝達可能になるまでの時間が短縮され、運転者の加速意図に応えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態に係るコーストストップ車両の概略構成図である。
【図2】コントローラの内部構成を示した図である。
【図3】変速マップの一例を示した図である。
【図4】コントローラによって実行されるコーストストップ開始制御の内容を示したフローチャートである。
【図5】コントローラによって実行されるコーストストップ解除制御の内容を示したフローチャートである。
【図6】コントローラによって実行されるオイルポンプ切換制御の内容を示したフローチャートである。
【図7】本実施形態の作用効果を説明するためのタイムチャートである。
【図8】本実施形態の変形例の作用効果を説明するためのタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。なお、以下の説明において、ある変速機構の「変速比」は、当該変速機構の入力回転速度を当該変速機構の出力回転速度で割って得られる値である。また、「最Low変速比」は当該変速機構の最大変速比、「最High変速比」は当該変速機構の最小変速比である。
【0012】
図1は本発明の実施形態に係るコーストストップ車両の概略構成図である。この車両は駆動源としてエンジン1を備え、エンジン1の出力回転は、ロックアップクラッチLCを有するトルクコンバータ2、第1ギヤ列3、無段変速機(以下、単に「変速機4」という。)、第2ギヤ列5、終減速装置6を介して駆動輪7へと伝達される。第2ギヤ列5には駐車時に変速機4の出力軸を機械的に回転不能にロックするパーキング機構8が設けられている。
【0013】
変速機4には、エンジン1の回転が入力されエンジン1の動力の一部を利用して駆動されるメカオイルポンプ10mと、バッテリ13から電力供給を受けて駆動される電動オイルポンプ10eとが設けられている。電動オイルポンプ10eは、オイルポンプ本体と、これを回転駆動する電気モータ及びモータドライバとで構成され、運転負荷を任意の負荷に、あるいは、多段階に制御することができる。また、変速機4には、メカオイルポンプ10mあるいは電動オイルポンプ10eからの油圧(以下、「ライン圧PL」という。)を調圧して変速機4の各部位に供給する油圧制御回路11が設けられている。
【0014】
ロックアップクラッチLCは、車速がロックアップ開始車速を超えた時に締結され、車速がロックアップ解除車速を下回った時に解放される。例えば、ロックアップ開始車速は6km/h、ロックアップ解除車速は12km/hに設定される。
【0015】
変速機4は、ベルト式無段変速機構(以下、「バリエータ20」という。)と、バリエータ20に直列に設けられる副変速機構30とを備える。「直列に設けられる」とはエンジン1から駆動輪7に至るまでの動力伝達経路においてバリエータ20と副変速機構30が直列に設けられるという意味である。副変速機構30は、この例のようにバリエータ20の出力軸に直接接続されていてもよいし、その他の変速ないし動力伝達機構(例えば、ギヤ列)を介して接続されていてもよい。あるいは、副変速機構30はバリエータ20の前段(入力軸側)に接続されていてもよい。
【0016】
バリエータ20は、プライマリプーリ21と、セカンダリプーリ22と、プーリ21、22の間に掛け回されるVベルト23とを備える。プーリ21、22は、それぞれ固定円錐板と、この固定円錐板に対してシーブ面を対向させた状態で配置され固定円錐板との間にV溝を形成する可動円錐板と、この可動円錐板の背面に設けられて可動円錐板を軸方向に変位させる油圧シリンダ23a、23bとを備える。油圧シリンダ23a、23bに供給される油圧を調整すると、V溝の幅が変化してVベルト23と各プーリ21、22との接触半径が変化し、バリエータ20の変速比が無段階に変化する。
【0017】
副変速機構30は前進2段・後進1段の変速機構である。副変速機構30は、2つの遊星歯車のキャリアを連結したラビニョウ型遊星歯車機構31と、ラビニョウ型遊星歯車機構31を構成する複数の回転要素に接続され、それらの連係状態を変更する複数の摩擦締結要素(Lowブレーキ32、Highクラッチ33、Revブレーキ34)とを備える。各摩擦締結要素32〜34への供給油圧を調整し、各摩擦締結要素32〜34の締結・解放状態を変更すると、副変速機構30の変速段が変更される。
【0018】
例えば、Lowブレーキ32を締結し、Highクラッチ33とRevブレーキ34を解放すれば副変速機構30の変速段は1速となる。Highクラッチ33を締結し、Lowブレーキ32とRevブレーキ34を解放すれば副変速機構30の変速段は1速よりも変速比が小さな2速となる。また、Revブレーキ34を締結し、Lowブレーキ32とHighクラッチ33を解放すれば副変速機構30の変速段は後進となる。以下の説明では、副変速機構30の変速段が1速である場合に「変速機4が低速モードである」と表現し、2速である場合に「変速機4が高速モードである」と表現する。
【0019】
各摩擦締結要素は、動力伝達経路上、バリエータ20の前段又は後段に設けられ、いずれも締結されると変速機4の動力伝達を可能にし、解放されると変速機4の動力伝達を不能にする。
【0020】
また、Lowブレーキ32に油圧を供給する油路の途中にはアキュムレータ(蓄圧器)35が接続されている。アキュムレータ35は、Lowブレーキ32への油圧の供給、排出に遅れを持たせるもので、N−Dセレクト時に油圧を蓄えることによってLowブレーキ32への供給油圧が急上昇するのを抑え、Lowブレーキ32が急締結してショックが発生するのを防止する。
【0021】
コントローラ12は、エンジン1及び変速機4を統合的に制御するコントローラであり、図2に示すように、CPU121と、RAM・ROMからなる記憶装置122と、入力インターフェース123と、出力インターフェース124と、これらを相互に接続するバス125とから構成される。
【0022】
入力インターフェース123には、アクセルペダルの操作量であるアクセル開度APOを検出するアクセル開度センサ41の出力信号、変速機4の入力回転速度(=プライマリプーリ21の回転速度、以下、「プライマリ回転速度Npri」という。)を検出する回転速度センサ42の出力信号、車速VSPを検出する車速センサ43の出力信号、ライン圧PLを検出するライン圧センサ44の出力信号、セレクトレバーの位置を検出するインヒビタスイッチ45の出力信号、ブレーキ液圧を検出するブレーキ液圧センサ46の出力信号等が入力される。
【0023】
記憶装置122には、エンジン1の制御プログラム、変速機4の変速制御プログラム、これらプログラムで用いられる各種マップ・テーブルが格納されている。CPU121は、記憶装置122に格納されているプログラムを読み出して実行し、入力インターフェース123を介して入力される各種信号に対して各種演算処理を施して、燃料噴射量信号、点火時期信号、スロットル開度信号、変速制御信号、電動オイルポンプ10eの駆動信号を生成し、生成した信号を出力インターフェース124を介してエンジン1、油圧制御回路11、電動オイルポンプ10eのモータドライバに出力する。CPU121が演算処理で使用する各種値、その演算結果は記憶装置122に適宜格納される。
【0024】
油圧制御回路11は複数の流路、複数の油圧制御弁で構成される。油圧制御回路11は、コントローラ12からの変速制御信号に基づき、複数の油圧制御弁を制御して油圧の供給経路を切り換えるとともにメカオイルポンプ10m又は電動オイルポンプ10eで発生した油圧から必要な油圧を調製し、これを変速機4の各部位に供給する。これにより、バリエータ20の変速比、副変速機構30の変速段が変更され、変速機4の変速が行われる。
【0025】
図3は記憶装置122に格納される変速マップの一例を示している。コントローラ12は、この変速マップに基づき、車両の運転状態(この実施形態では車速VSP、プライマリ回転速度Npri、アクセル開度APO)に応じて、バリエータ20、副変速機構30を制御する。
【0026】
この変速マップでは、変速機4の動作点が車速VSPとプライマリ回転速度Npriとにより定義される。変速機4の動作点と変速マップ左下隅の零点を結ぶ線の傾きが変速機4の変速比(バリエータ20の変速比に副変速機構30の変速比を掛けて得られる全体の変速比、以下、「スルー変速比」という。)に対応する。この変速マップには、従来のベルト式無段変速機の変速マップと同様に、アクセル開度APO毎に変速線が設定されており、変速機4の変速はアクセル開度APOに応じて選択される変速線に従って行われる。なお、図3には簡単のため、全負荷線(アクセル開度APO=8/8の場合の変速線)、パーシャル線(アクセル開度APO=4/8の場合の変速線)、コースト線(アクセル開度APO=0/8の場合の変速線)のみが示されている。
【0027】
変速機4が低速モードの場合は、変速機4はバリエータ20の変速比を最Low変速比にして得られる低速モード最Low線とバリエータ20の変速比を最High変速比にして得られる低速モード最High線の間で変速することができる。この場合、変速機4の動作点はA領域とB領域内を移動する。一方、変速機4が高速モードの場合は、変速機4はバリエータ20の変速比を最Low変速比にして得られる高速モード最Low線とバリエータ20の変速比を最High変速比にして得られる高速モード最High線の間で変速することができる。この場合、変速機4の動作点はB領域とC領域内を移動する。
【0028】
副変速機構30の各変速段の変速比は、低速モード最High線に対応する変速比(低速モード最High変速比)が高速モード最Low線に対応する変速比(高速モード最Low変速比)よりも小さくなるように設定される。これにより、低速モードでとりうる変速機4のスルー変速比の範囲(図中、「低速モードレシオ範囲」)と高速モードでとりうる変速機4のスルー変速比の範囲(図中、「高速モードレシオ範囲」)とが部分的に重複し、変速機4の動作点が高速モード最Low線と低速モード最High線で挟まれるB領域にある場合は、変速機4は低速モード、高速モードのいずれのモードも選択可能になっている。
【0029】
また、この変速マップ上には副変速機構30の変速を行うモード切換変速線が低速モード最High線上に重なるように設定されている。モード切換変速線に対応するスルー変速比(以下、「モード切換変速比mRatio」という。)は低速モード最High変速比と等しい値に設定される。モード切換変速線をこのように設定するのは、バリエータ20の変速比が小さいほど副変速機構30への入力トルクが小さくなり、副変速機構30を変速させる際の変速ショックを抑えられるからである。
【0030】
そして、変速機4の動作点がモード切換変速線を横切った場合、すなわち、スルー変速比の実際値(以下、「実スルー変速比Ratio」という。)がモード切換変速比mRatioを跨いで変化した場合は、コントローラ12は以下に説明する協調変速を行い、高速モード−低速モード間の切換えを行う。
【0031】
協調変速では、コントローラ12は、副変速機構30の変速を行うとともに、バリエータ20の変速比を副変速機構30の変速比が変化する方向と逆の方向に変更する。この時、副変速機構30の変速比が実際に変化するイナーシャフェーズとバリエータ20の変速比が変化する期間を同期させる。バリエータ20の変速比を副変速機構30の変速比変化と逆の方向に変化させるのは、実スルー変速比Ratioに段差が生じることによる入力回転の変化が運転者に違和感を与えないようにするためである。
【0032】
具体的には、変速機4の実スルー変速比Ratioがモード切換変速比mRatioをLow側からHigh側に跨いで変化した場合は、コントローラ12は、副変速機構30の変速段を1速から2速に変更(1−2変速、アップシフト)するとともに、バリエータ20の変速比をLow側に変更する。
【0033】
逆に、変速機4の実スルー変速比Ratioがモード切換変速比mRatioをHigh側からLow側に跨いで変化した場合は、コントローラ12は、副変速機構30の変速段を2速から1速に変更(2−1変速、ダウンシフト)するとともに、バリエータ20の変速比をHigh側に変更する。
【0034】
ただし、このようなダウンシフトを行うのは、アクセルペダルが踏み込まれた場合、又は、アクセル開度APOが所定の低開度(例えば、アクセル開度APO=1/8)よりも大きい状態で車両が減速した場合である。
【0035】
アクセル開度APOが所定の低開度よりも小さい状態で車両が減速し、変速機4の実スルー変速比Ratioがモード切換変速比mRatioをHigh側からLow側に跨いで変化した場合は、副変速機構30のダウンシフトは行わず、副変速機構30の変速段は2速段のままでバリエータ20の変速比をLow側に変化させる。
【0036】
そして、副変速機構30のダウンシフトは、アクセルペダルが踏み込まれた時(アクセル開度APOが所定の低開度よりも大きくなった時)、セレクトレバーがDレンジからLレンジに操作された等の加速要求があった時、又は、車両が停車した後に行うようにし、これによってイナーシャ変化による変速ショックを抑制する。
【0037】
また、エンジン1の燃料消費量を抑制して燃費を向上させるために、コントローラ12は、以下に説明するコーストストップを行う。
【0038】
コーストストップは、低車速域で車両が走行している間、エンジン1を自動的に停止(コーストストップ)させて燃料消費量を抑制する技術である。アクセルオフ時に実行される燃料カットとは、エンジン1への燃料供給が停止される点で共通するが、ロックアップクラッチLCが解放されている(∵ロックアップ解除車速≧後述するコーストストップ許可車速)のでエンジン1と駆動輪7との間の動力伝達経路が遮断され、エンジン1の回転が完全に停止する点において相違する。
【0039】
コーストストップを実行するにあたっては、コントローラ12は、まず、以下に示す条件a1〜a4:
a1:アクセルペダルから足が離されている(アクセル開度APO=0)
a2:ブレーキペダルが踏み込まれている(ブレーキ液圧が所定値以上)
a3:車速がコーストストップ許可車速(例えば、9km/h)以下
a4:ロックアップクラッチLCが解放されている
を判断する。これらの条件は、言い換えれば、運転者に停車意図があるかを判断するための条件である。
【0040】
コントローラ12は、これらの条件a1〜a4が全て成立した場合にコーストストップ開始条件成立と判断する。
【0041】
そして、コントローラ12は、コーストストップ開始条件成立と判断したら、エンジン1への燃料供給を停止してエンジン1を停止させ、電動オイルポンプ10eの駆動を開始する。
【0042】
また、コントローラ12は、コーストストップ中も上記条件a1〜a4がそれぞれ継続して成立しているか、及び、セレクトレバー位置を判定する。そして、上記条件a1〜a4のうち一つでも成立しなくなる、セレクトレバーがDレンジからLレンジに操作される、又は、セレクトレバーによってマニュアルモードが選択されダウンシフト操作が行われると、コントローラ12は、コーストストップ解除条件成立と判定し、コーストストップを終了、すなわち、エンジン1への燃料供給を再開してエンジン1を始動する。そして、コントローラ12は、メカオイルポンプ10mが十分な油圧を発生するようになった時点で電動オイルポンプ10eを停止させる。
【0043】
特に、アクセルペダルが踏み込まれたこと(条件a1)、所定のセレクトレバー操作があったことでコーストストップ解除条件が成立した場合は、運転者からの加速要求があるので、コントローラ12は、エンジン1を始動するだけでなく、駆動力を増大させて加速性能を確保するために、副変速機構30をダウンシフトさせる。
【0044】
図4〜図6のフローチャートを参照しながら、コントローラ12が実行する制御内容についてさらに説明する。
【0045】
図4は、コントローラ12が実行するコーストストップ開始制御のフローチャートである。本制御はコーストストップ非実行中に実行される。
【0046】
S11では、コントローラ12は、コーストストップ開始条件が成立しているかを判断する。コーストストップ開始条件は上記条件a1〜a4が全て成立した時に成立したと判断される。コーストストップ開始条件が成立していると判断された場合は処理がS12に進み、そうでない場合はS11が繰り返される。
【0047】
S12では、コントローラ12は、エンジン1への燃料供給を停止し、エンジン1を停止させる。コーストストップ開始条件成立時はロックアップクラッチLCが解放されているので、エンジン1はその後完全に停止する。
【0048】
S13では、コントローラ12は、電動オイルポンプ10eの駆動を開始し、コーストストップ開始時の変速段を実現する摩擦締結要素、すなわち、2速段を実現するHighクラッチ33が締結状態に維持されるようにする。
【0049】
図5は、コントローラ12が実行するコーストストップ解除制御のフローチャートである。本制御はコーストストップ実行中に実行される。
【0050】
S21では、コントローラ12は、コーストストップ解除条件が成立しているかを判断する。コーストストップ解除条件は上記条件a1〜a4のいずれかが不成立になった時、または、所定のセレクトレバー操作(DレンジからLレンジへの切換操作、Dレンジからマニュアルモードへの切換及びダウンシフト操作)があった時に成立したと判断される。コーストストップ解除条件が成立していると判断された場合は処理がS22に進み、そうでない場合はS21が繰り返される。
【0051】
S22では、コントローラ12は、エンジン1をクランキングすると共に、エンジン1への燃料供給を再開し、エンジン1の始動を開始する。また、コントローラ12は、図6に示すオイルポンプ切換制御を実行する。オイルポンプ切換制御については後述する。
【0052】
S23では、コントローラ12は、運転者の加速要求の有無を判断する。コーストストップ解除条件の成立がアクセルペダルの踏込み、所定のセレクトレバー操作の場合は、加速要求有りと判断され、処理がS24に進む。
【0053】
加速要求がない場合は処理が終了する。すなわち、エンジン1の始動のみが行われ、変速段はコーストストップ解除時の変速段、すなわち2速段に維持される。
【0054】
S24では、コントローラ12は、Highクラッチ33の指示圧を下げ、Highクラッチ33を解放する。なお、ここでいう「解放」には、Highクラッチ33の伝達容量(伝達可能なトルク)を入力トルク未満にすることが含まれる。Highクラッチ33が解放されると、副変速機構30の入力回転速度が上昇する。これは、トルクコンバータ2のタービンがエンジン1の回転上昇を受けて連れ周り、これがバリエータ20を介して副変速機構30に伝達されることによるものである。
【0055】
S25では、Lowブレーキ32への指示圧がステップ状に高められてLowブレーキ32への供給圧が高められ(プリチャージ)、Lowブレーキ32を構成するクラッチ板間の隙間が詰められる。これにより、Lowブレーキ32は、締結容量を発生する直前の状態に制御される。
【0056】
S26では、コントローラ12は、Lowブレーキ32の締結開始時期か判断する。Lowブレーキ32の締結開始時期は、Lowブレーキ32が締結容量を発生する直前の状態から後述のLowブレーキ32の急締結を開始し、Lowブレーキ32の締結容量を発生・増大させたとすれば、副変速機構30の入力回転速度が副変速機構30をダウンシフトさせた後に実現される入力回転速度(以下、「ダウンシフト後の入力回転速度」という。)に一致する時期にLowブレーキ32の締結が完了する時期である。ここで、Lowブレーキ32の「締結開始」、「締結完了」とは、それぞれLowブレーキ32が締結容量を発生し始めること、Lowブレーキ32の伝達容量が入力トルク以上となることを指す。
【0057】
このように設定されるLowブレーキ32の締結開始時期は、副変速機構30の入力回転速度が上昇を始めた時期よりも後、かつ、エンジン1が完爆する前(アイドル回転に落ち着く前、好ましくは、始動直後の吹け上がり中)の時期である。エンジン1がクランキング中か自力で回転上昇中かは車速VSPにより、車速VSPが低ければエンジン1のクランキング中にLowブレーキ32の締結が開始される。
【0058】
より具体的には、副変速機構30の入力回転速度が副変速機構30のダウンシフト後の入力回転速度に一致する時刻をtx、Lowブレーキ32の締結を開始してからLowブレーキ32の締結が完了するまでに要する時間をΔtとすれば、Lowブレーキ32の締結開始時期は時刻tx−Δtである。
【0059】
時刻txは、例えば、エンジン1の始動時の回転上昇(吹け上がり)速度、副変速機構30の入力回転速度とダウンシフト後の入力回転速度との偏差、及び、後のS27で予定されているLowブレーキ32への供給油圧の上昇速度に基づき推定される。エンジン1の始動時の回転速度上昇態様は運転状態(例えば、副変速機構30の変速段、アクセルペダルの踏込みの有無、アクセルペダルの踏込み量、車速VSP等)によらず概ね同じであるので、時刻txを複雑な制御を用いることなく高い精度で推定することが可能である。
【0060】
Lowブレーキ32の締結開始時期であると判断された場合は処理がS27に進み、そうでない場合はS26の処理が繰り返される。
【0061】
S27では、コントローラ12は、Lowブレーキ32の指示圧を上げ、Lowブレーキ32の急締結を開始する。「急締結」とは、通常のダウンシフト時の油圧上昇速度よりも速い速度で油圧を上昇させることである。また、Lowブレーキ32に供給される油圧は、副変速機構30の入力回転速度がダウンシフト後の入力回転速度を超えないように制御される。
【0062】
Lowブレーキ32の締結がS26で判断された締結開始時期に開始されるので、副変速機構30の入力回転速度が副変速機構30のダウンシフト後の入力回転速度に一致する時にLowブレーキ32の締結が完了し、かつ、副変速機構30の入力回転速度がダウンシフト後の入力回転速度を超えないので、Lowブレーキ32を締結した時のイナーシャ変化に伴う変速ショックはほぼ抑制される。
【0063】
S28では、コントローラ12は、Lowブレーキ32の締結が完了したか判断する。Lowブレーキ32の締結が完了したと判断された場合は処理が終了し、そうでない場合はS27に戻り、S27、S28の処理が繰り返される。
【0064】
図6は、コントローラ12が実行するオイルポンプ切換制御のフローチャートである。図5のS22でエンジンの始動が開始された時に同時に実行される。
【0065】
S31では、コントローラ12は、メカオイルポンプ10mによって十分な油圧が発生しているか、具体的には、メカオイルポンプ10mによる油圧が電動オイルポンプ10eによる油圧を超えたか判断する。メカオイルポンプ10mによる油圧が電動オイルポンプ10eによる油圧を超えているとの判断がなされた場合は処理がS32に進み、そうでない場合はS32が繰り返される。
【0066】
S32では、コントローラ12は、電動オイルポンプ10eを停止させる。これにより、変速機4の摩擦締結要素に油圧を供給するポンプが、電動オイルポンプ10eからメカオイルポンプ10mに切り換えられる。
【0067】
続いて上記制御を実行することによる作用効果について説明する。
【0068】
図7は、コーストストップ中にアクセルペダルが踏み込まれた時の様子を示したタイムチャートである。
【0069】
時刻t1では、アクセルペダルが踏み込まれたことでコーストストップ解除条件が成立し、エンジン1のクランキング及び燃料噴射が開始される。Highクラッチ33の解放もほぼ同時に行われる。
【0070】
時刻t2では、エンジン1の回転がトルクコンバータ2及びバリエータ20を介して副変速機構30に伝達され、副変速機構30の入力回転速度が上昇し始める。
【0071】
時刻t3では、Lowブレーキ32の指示圧がステップ的に高められてLowブレーキ32への油圧のプリチャージが行われ、Lowブレーキ32が締結容量を発生する直前の状態に制御される。なお、Lowブレーキ32への油圧のプリチャージはHighクラッチ33の解放後に行われるが、燃費抑制の観点からはこの後に続くLowブレーキ32の急締結の直前に行うのが好ましい。
【0072】
時刻t4は、副変速機構30の入力回転速度がダウンシフト後の入力回転速度に一致する時期(この例では、時刻t5)よりもLowブレーキ32の急締結に要する時間Δtだけ前の時刻である。この時刻t4では、Lowブレーキ32の指示圧が通常のダウンシフト時よりも速い速度で高められてLowブレーキ32の締結が開始され、Lowブレーキ32の締結容量が発生・増大する。
【0073】
時刻t5では、Lowブレーキ32の締結が完了する。副変速機構30の入力回転速度がダウンシフト後の入力回転速度に一致したタイミングでLowブレーキ32の締結が完了するので、イナーシャトルクによるショックは殆ど無く、ダウンシフト後の加速度が速やかに実現される。また、エンジン1が吹け上がる途中でLowブレーキ32の締結が完了するので、エンジン1の吹け上がりを抑制する効果もある。
【0074】
したがって、上記制御によれば、エンジン1が完爆してからLowブレーキ32の締結を開始するものに比べ、Lowブレーキ32の締結が完了して駆動力が伝達可能になるまでの時間が短縮されるので、運転者の加速意図に応えることができる(請求項1、8に対応する効果)。
【0075】
そして、上記制御によれば、Lowブレーキ32の締結は、副変速機構30の入力回転速度が上昇してから開始される。すなわち、副変速機構30の入力回転速度とダウンシフト後の入力回転速度との偏差が縮小してからLowブレーキ32の締結が開始されるので、Lowブレーキ32の締結時のイナーシャ変化に伴う変速ショックが抑制され、また、Lowブレーキ32の摩耗を少なくすることができる(請求項2に対応する効果)。
【0076】
特に、上記制御では、副変速機構30の入力回転速度がダウンシフト後の入力回転速度に一致する時期よりも、Lowブレーキ32の締結を開始してからLowブレーキ32の締結が完了するまでに要する時間だけ早い時期にLowブレーキ32の締結を開始するようにした。これによれば、回転速度差ゼロの状態でLowブレーキ32の締結が完了するので、イナーシャ変化に伴う変速ショックがほぼ抑制され、また、Lowブレーキ32の摩耗をより一層少なくすることができる(請求項3に対応する効果)。
【0077】
また、Lowブレーキ32への供給油圧、すなわち伝達容量は、副変速機構30の入力回転速度がダウンシフト後の入力回転速度を超えないように制御される。これによっても、Lowブレーキ32の締結完了時の回転速度差をさらに縮小し、Lowブレーキ32を締結した時のイナーシャ変化に伴う変速ショックが抑制される(請求項5に対応する効果)。
【0078】
なお、上記ダウンシフトは、上記制御のように、運転者からの加速要求を受けてコーストストップが解除される時のみに行うようにするのが、運転者の加速要求に応え、また、運転者の意図しない加減速を発生させないという点において好適である(請求項7に対応する効果)。
【0079】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一つを示したものに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0080】
例えば、上記制御では、副変速機構30の入力回転速度がダウンシフト後の入力回転速度に一致する時期よりも所定時間だけ早い時期にLowブレーキ32の締結を開始しているが、副変速機構30の入力回転速度とダウンシフト後の入力回転速度との偏差を判断し、当該偏差が所定値(締結開始時の偏差よりも小さな値で、Lowブレーキ32の締結に要する時間が短いほど小さな値に設定される)よりも小さくなった時にLowブレーキ32の締結を開始するようにしてもよい。このような制御であってもLowブレーキ32の締結時のイナーシャ変化に伴う変速ショックを抑制し、Lowブレーキ32の摩耗を抑制することができる(請求項4に対応する効果)。
【0081】
また、上記制御では、コーストストップ解除条件が成立した後にLowブレーキ32のプリチャージを行ってLowブレーキ32を締結直前の状態に制御しているが、コーストストップ解除条件が成立する以前から、Lowブレーキ32の指令値を上げてLowブレーキ32に油圧を供給し、Lowブレーキ32を締結直前の状態に制御するようにしてもよい。
【0082】
図8はこの場合のタイムチャートであり、コーストストップ中、Lowブレーキ32は締結直前の状態に制御される。そして、コーストストップ解除条件成立を受けてエンジン1の始動が開始され、副変速機構30の入力回転速度がダウンシフト後の入力回転速度に一致する時刻t5よりもLowブレーキ32の急締結に要する時間Δtだけ前の時刻t4になったら、Lowブレーキ32の締結が開始される。
【0083】
この構成によれば、Lowブレーキ32の指示圧を上昇させればLowブレーキ32の締結を直ちに開始することができる、すなわち、プリチャージの時間が必要ないので、エンジン1の再始動が開始されてから副変速機構30の入力回転速度がダウンシフト後の入力回転速度に一致するまでの時間が短い場合であっても、それまでにLowブレーキ32の締結を完了させることが可能である(請求項6に対応する効果)。
【0084】
また、上記コーストストップ解除時のダウンシフトは、コーストストップ解除時に加速要求と関係なく行うようにしてもよい。この構成によれば、加速要求が遅れて出される場合(例えば、ブレーキOFFでコーストストップ解除、その後、アクセルONで加速する場合)であっても良好な加速性能を実現することができる。
【0085】
また、副変速機構30は3段以上の変速段を有していてもよく、その場合、コーストストップ中は、車速が低下するにつれダウンシフト後の変速段を車速に応じてLow側の変速段に順次切り換えるようにする。これによって加速時には最適な変速段にダウンシフトさせて、良好な加速性能を実現することができる。
【0086】
また、上記コーストップ制御は本実施形態のように副変速機構30を有する無段変速機4だけでなく、有段変速機構のみを備えた変速機であっても適用可能である。
【符号の説明】
【0087】
1 エンジン
12 コントローラ(コーストストップ開始手段、コーストストップ解除手段、ダウンシフト手段)
30 副変速機構(変速機)
32 Lowブレーキ(摩擦締結要素)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーストストップ車両であって、
エンジンと、
前記エンジンと駆動輪の間に配置されて複数の変速段を有する変速機と、
走行中にコーストストップ開始条件が成立すると前記エンジンを自動停止させるコーストストップ開始手段と、
コーストストップ中にコーストストップ解除条件が成立すると前記エンジンを自動始動させるコーストップ解除手段と、
前記コーストストップ解除条件が成立すると、前記エンジンが完爆する前に前記コーストストップ解除条件成立時の変速段よりもLow側の変速段を実現する摩擦締結要素の締結を開始し前記変速機をダウンシフトさせるダウンシフト手段と、
を備えたことを特徴とするコーストストップ車両。
【請求項2】
請求項1に記載のコーストストップ車両であって、
前記ダウンシフト手段は、前記変速機の入力回転速度が上昇し始めた後に前記摩擦締結要素の締結を開始する、
ことを特徴とするコーストストップ車両。
【請求項3】
請求項1または2に記載のコーストストップ車両であって、
前記ダウンシフト手段は、前記変速機の入力回転速度がダウンシフト後の入力回転速度に一致する時期よりも、前記摩擦締結要素の締結を開始してから前記摩擦締結要素の締結が完了するまでに要する時間だけ早い時期に前記摩擦締結要素の締結を開始する、
ことを特徴とするコーストストップ車両。
【請求項4】
請求項1に記載のコーストストップ車両であって、
前記ダウンシフト手段は、前記変速機の入力回転速度と前記変速機のダウンシフト後の入力回転速度との偏差が所定値以下になった時に前記摩擦締結要素の締結を開始する、
ことを特徴とするコーストストップ車両。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載のコーストストップ車両であって、
前記ダウンシフト手段は、前記変速機の入力回転速度が前記ダウンシフト後の入力回転速度を超えないように前記摩擦締結要素の伝達容量を制御する、
ことを特徴とするコーストストップ車両。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載のコーストストップ車両であって、
前記ダウンシフト手段は、前記コーストストップ解除条件成立前から前記摩擦締結要素を締結直前の状態に制御する、
ことを特徴とするコーストストップ車両。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載のコーストストップ車両であって、
前記ダウンシフト手段は、前記コーストストップ解除条件が成立し、かつ、加速要求があった時のみに前記ダウンシフトを実行する、
ことを特徴とするコーストストップ車両。
【請求項8】
エンジンと、前記エンジンと駆動輪の間に配置されて複数の変速段を有する変速機とを有するコーストストップ車両の制御方法であって、
走行中にコーストストップ開始条件が成立すると前記エンジンを自動停止させるコーストストップ開始手順と、
コーストストップ中にコーストストップ解除条件が成立すると前記エンジンを自動始動させるコーストップ解除手順と、
前記コーストストップ解除条件が成立すると、前記エンジンが完爆する前に前記コーストストップ解除条件成立時の変速段よりもLow側の変速段を実現する摩擦締結要素の締結を開始し前記変速機をダウンシフトさせるダウンシフト手順と、
を含むことを特徴とするコーストストップ車両の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−112461(P2012−112461A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−262423(P2010−262423)
【出願日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(000231350)ジヤトコ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】