説明

コーティング層およびその形成方法

【課題】 シリコーンオイルなどを用いることなく、粘着物に対しても十分な非粘着性を確保しうるコーティング層およびその形成方法を提供する。
【解決手段】 基材1を被覆するコーティング層であって、架橋フッ素樹脂を10重量%〜50重量%含むフッ素樹脂層から形成される表層5を備え、表層の輪郭曲線の算術平均高さRaが1.5μm〜25μmである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティング層およびその形成方法に関し、とくに粘着物を取り扱う設備や装置、たとえば粘着テープの製造設備、粘着テープを利用する設備、ゴムを成型する金型などに好適な非粘着性のコーティング層およびその形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
粘着テープなどの粘着物を取り扱う設備においては、粘着物の付着をいかに防止するかが重要な課題である。たとえば、粘着テープ用ロールの場合、ロール面への粘着テープの粘着により、テープの蛇行、絡み付き、テープ切れなどが頻発して生産性の低下や品質の低下を生じる。
【0003】
この対策としては、これまでロールなどの基材表面にシリコーンオイルを塗布したり、シリコーンレジンやフッ素樹脂をコーティングする方法、ロールなどの基材表面を溶射やブラスト処理で梨地処理する方法、またはこれらを組み合わせた非粘着性コーティング方法が行なわれてきた(たとえば特許文献1〜2参照)。
【0004】
一方、フッ素樹脂の耐摩耗性向上、表面粗さ低減を目的として、フッ素樹脂に架橋反応処理を施して得られる架橋フッ素樹脂を、プリンターのローラにコートして研磨加工を施して用いる方法が提案されている(たとえば特許文献3参照)。
【特許文献1】特開平5−228423号公報
【特許文献2】特開平5−68935号公報
【特許文献3】特開2003−268296号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、シリコーンオイルを塗布する方法では、シリコーンオイルが粘着物に移行してしまう問題があり、本来粘着性を有するべき製品の粘着性が低下して不具合が生じるケースがあった。さらにシリコーンレジンをコーティングする方式でも、硬度などの耐久性が十分ではなかった。
【0006】
また、架橋フッ素樹脂を用いる方法では、たとえばトナー印刷された印刷紙に対するローラの離型性や耐摩耗性について、ある程度の向上は得られるもののその程度は十分ではなく、一層の向上を要望されていた。また、粘着テープなどの粘着物に対しては、どのような効果を有するか不明であった。
【0007】
一般に、粘着テープなどの粘着物については、上記問題があるシリコーンオイル以外は非粘着性が確保できないケースが数多く寄せられている。とくに粘着テープに関して、現状、メンテナンスフリーの有効な対処法はなく、放置されている状況にある。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、シリコーンオイルなどを用いることなく、粘着物に対して十分な非粘着性を確保しうるコーティング層およびその形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のコーティング層は、基材を被覆するコーティング層であって、架橋フッ素樹脂を10重量%〜50重量%含むフッ素樹脂層から形成される表層を備える。そして、表層の輪郭曲線の算術平均高さRaが1.5μm〜25μmである。
【0010】
上記の架橋フッ素樹脂とは、フッ素樹脂が架橋された「橋かけ重合体(化学大辞典:東京化学同人(1989)p.1774」をいう(特許文献3参照)。橋かけ重合体は3次元的な網目構造をとっており、高温下でも流動しないので、表層を形成するフッ素樹脂中の架橋フッ素樹脂は、通常のフッ素樹脂中に完全に融解することなく、架橋フッ素樹脂の領域単位(周囲のフッ素樹脂より融点が高く、硬い領域)で、通常のフッ素樹脂中に分散する。このため、本発明者らは架橋フッ素樹脂を含むフッ素樹脂層を、非粘着性コーティング層に用いることにより、分散している架橋フッ素樹脂の領域が周囲より安定で硬く異質であるため、粘着性テープとの接触の際に、実質的な粘着力の減少(化学的および機械的相互作用による減少)を得ることができるというアイデアに想到した。このアイデア段階では、架橋性フッ素樹脂を含んだフッ素樹脂層の表面が、実際に幾何学的に大きな凹凸を形成(粗面状態を形成)することは思いもしなかった。
【0011】
しかし、発明者らが上記アイデアの確認のために実験を行ったところ、架橋性フッ素樹脂を10重量%以上含むことにより、その膜厚が所定厚み以下であれば、フッ素樹脂層はその表面の輪郭曲線の算術平均高さRaが1.5以上になることが判明した。すなわち下地をとくに粗面化しなくても非粘着性に効果的な粗面化された表面が得られることを確認した。このために、上記化学的および機械的相互作用に加えて、幾何的な形状効果(純然たる接触面積の減少の効果)も加わり、粘着性テープに対して非粘着作用が向上することを確認した。また、あとで説明するが、架橋フッ素樹脂を含むフッ素樹脂特有の粗面化に加えて、下地を粗面化して表層の粗面化のレベルを高めることにより、架橋性フッ素樹脂を含むフッ素樹脂層(表層)の非粘着作用をさらに向上できることを確認した。
【0012】
表層の輪郭曲線の算術平均高さRaの下限1.5としたのは、Raが1.5未満では粗面化に起因する非粘着性の向上が期待できず、架橋フッ素樹脂をフッ素樹脂に混入して用いる意義が薄れるからである。また、上記Raが25μmを超える場合は、その大きな凹凸により粘着テープなどの粘着物を破損することがあるからである。なお、輪郭曲線の算術平均高さRaは、JISB0601:2001による。
【0013】
また、表層を形成するフッ素樹脂中の架橋フッ素樹脂の割合の下限を10重量%としたのは、10重量%未満では表層における非粘着性の向上がほとんど認められないためである。また、表層のフッ素樹脂中の架橋フッ素樹脂の割合が10重量%以上になると、表層が自ずと粗面化されるようになるが、表層の厚みが薄いほどその傾向は強くなることに注意が必要である。すなわち、表層のフッ素樹脂中の架橋フッ素樹脂の割合が高いほど、また表層の膜厚が薄いほど表層の輪郭曲線の算術平均高さRaは大きくなり、非粘着性が向上する。一方、上記割合の上限50重量%としたのは、50重量%超では皮膜化が困難で機械的に脆くなり、欠陥を生じやすいからである。
【0014】
表層を形成するフッ素樹脂中の架橋フッ素樹脂の割合のより望ましい範囲は、15重量%〜45重量%である。なお、表層を形成するフッ素樹脂中の架橋フッ素樹脂の割合を精度よく分析する方法(コーティング層状態での架橋フッ素樹脂の重量%測定方法)は、現状、ないので、上記割合は表層を形成する際の塗料原料中の重量割合であるが、塗料原料から表層へと変わる際のその重量割合の変動幅は小さい。たとえば上記変動幅は、あったとしても架橋フッ素樹脂は加熱に対して通常のフッ素樹脂よりは不安定であるが、焼き付け温度をコントロールすることにより大幅な低下はない。
【0015】
表層の厚みは5μm〜300μmの範囲内とすることが望ましい。表層は、下地を粗面化する場合、その下地の粗面(凹凸)のために、表層の形成方法によっては下地の凹凸の影になる場所でその厚みが著しく薄くなり、またある場所では逆にその厚みが厚くなり、大きくばらつく傾向がある。表層は、下地を粗面化した場合、下地における輪郭曲線の算術平均高さの凹凸に沿うように凹凸状に形成する必要があるため、その厚みをむやみに厚くすることができない。また表層中の架橋フッ素樹脂の含有率が小さいと、表層厚みを厚くした場合、表層の輪郭曲線の算術平均高さRaが低下しやすく、望ましい粗面レベルを得ることができない。表層の厚みが5μm未満の箇所があると、その箇所では架橋フッ素樹脂を含む表層の非粘着性能(化学的相互作用に起因)を得ることができない。また表層の厚みが300μmを超える箇所があるとその箇所では、架橋フッ素樹脂を含有することに起因する粗面レベルおよび下地の粗面状態を反映する粗面レベルの両方が低下することにより、表層の粗面レベルが低下し、ひいては非粘着性能が低下する。なお、下地上に表層を形成するとき、下地表面にフッ素樹脂用プライマーを施してもよい。
【0016】
上記の表層は基材上に形成してもよい。これにより、安価に非粘着性のコーティング層を形成することができる。この場合、基材に粗面化処理(ブラスト処理など)を施さずに表層中の架橋フッ素樹脂の割合を高め、かつ表層厚みを所定値(たとえば40μm)以下にすることにより、表層の粗面化レベルを高めてもよいし、また基材にブラスト処理等の粗面化処理を施し、その下地の粗面状態を反映した表層を形成してもよい。
【0017】
基材に粗面化処理をする場合は、基材表面の輪郭曲線の算術平均高さRaを25μm以下とすることが望ましい。基材表面にブラスト処理などの粗面化処理をすると安価に表層の粗面レベルを向上させ、さらにその粗面レベルを反映した表層を形成することができる。また、基材表面の下限は2μmであることが望ましい。基材表面の上記Raが2μm未満では、架橋フッ素樹脂含有率が低い場合または表層厚が所定値以上の場合、表層の粗面レベルを1.5μm以上にすることが困難であり、また粗面化処理された基材(下地)の輪郭曲線のRaが25μmを超える場合は、その上に形成される表層の凹凸(粗面)が大きくなりすぎ、その大きな凹凸により粘着テープなどの粘着物を破損することがある。
【0018】
また、基材と表層との間に位置し、表層側の表面の輪郭曲線の算術平均高さRaが25μm以下である無機材料層をさらに備えることができる。これにより、無機材料層の無機材料を選択することにより、その輪郭曲線のRaを25μm以下の範囲で容易に高くすることができる。また、基材が多用される金属の場合、それと同質の金属(無機材料)を用いて基材への固着を強固にすることができる。さらに、硬度を確保することにより本発明のコーティング層を堅固にすることができる。上記の無機材料層を、ロックウェル硬度HRC(JIS
Z 2245)30以上の無機材料で形成することができる。
【0019】
ここで「粗面化された下地(基材または無機材料層)の粗面を受け継いだ、または反映した表層」とは、下地表面の粗面に沿って表層が形成され、その結果、表層の粗面(凹凸)の形成が助長されることをさし、不一致などがあってもよい。また、たとえば無機材料層が多孔質の場合、多孔質の孔に対応して表層に凹部が形成される場合もあり、多孔質の孔の径が表面で小さい場合には凹部が形成されない場合もある。表層は下地の凹凸を埋没せずに、その凹凸を反映するように薄めの厚さで形成されることが望ましい。
【0020】
上記の無機材料層の層厚を10μm〜300μmとすることができる。無機材料層の層厚が10μm未満の場合、均一な層を形成しにくく、また300μm超えの場合、成形される無機材料層の残留内部応力により無機材料層が基材から剥離してしまう。
【0021】
また、無機材料層を構成する無機材料を自溶性合金とすることができる。これにより、自溶性合金を溶射することにより、フュージングしなくても、緻密な下地として、その下地表面の輪郭曲線のRaを容易に大きくすることができる。無機材料の種類および再溶融温度によるが、フュージングすると、表面の凹凸がなくなり輪郭曲線のRaを確保することが難しくなる。自溶性合金を無機材料層に用いると、たとえば溶射したあと再溶融しなくても緻密な層が得られるため、Raを確保しやすい。
【0022】
無機材料層中に粒径50μm以下のセラミックス粒子を含ませることができる。これにより、さらに容易に無機材料層の輪郭曲線のRaを確保しやすくなる。
【0023】
上記の表層がその底部に中間フッ素樹脂層をさらに有してもよい。これにより、コーティング層の厚みを所定値以上にすることができる。架橋フッ素樹脂は、通常のフッ素樹脂より高価であるため、厚みを確保するには通常のフッ素樹脂を用いるほうが有利であるが、上記中間フッ素樹脂層を架橋フッ素樹脂で形成してもよい。
【0024】
本発明のコーティング層の形成方法は、基材を被覆するコーティング層の形成方法である。この形成方法では、架橋フッ素樹脂を10重量%〜50重量%含むフッ素樹脂により、輪郭曲線の算術平均高さRaが1.5μm〜25μmの表層を形成する。この形成方法によれば、(1)フッ素樹脂中の架橋フッ素樹脂の重量%に応じて、膜厚を調整して、表層の粗面レベルを1.5μm〜25μmとするか、または(2)表層の粗面レベルをさらに向上させる場合、上記(1)に加えて、下地(基材または無機材料層)の粗面レベルを増大させることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明のコーティング層およびその形成方法によれば、粘着テープ等の粘着物に対する非粘着性が、粗面化された通常のフッ素樹脂コーティング層に比較して格段に優れ、従来、シリコーンオイル以外には有効な対処法がないとされてきた粘着物に対処可能な非粘着性コーティング層を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
つぎに図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
(実施の形態1)
【0027】
図1は、本発明の実施の形態1におけるコーティング層を示す断面図である。図1において、基材1の表面にフッ素樹脂用プライマー処理がなされ、フッ素樹脂プライマー層3が形成されている。フッ素樹脂用プライマー3は、フッ素樹脂用プライマー処理がなされた表面という意味であり、そこに連続する層として識別されるフッ素樹脂用プライマー層が存在する必要はなく、いわゆるプライマー処理がなされていればよい。表層5は、架橋フッ素樹脂を10重量%以上含むフッ素樹脂層により形成されている。表層5の形成方法は、実施の形態3で説明する方法により行うことができる。
【0028】
本実施の形態におけるポイントは、表層が形成される下地(基材)に粗面化処理がなされない場合であっても、表層5における架橋フッ素樹脂の割合が10重量%以上あれば、表層の膜厚が所定値以下、たとえば50μm以下の場合、表層が自然と粗面化され、その輪郭曲線の算術平均高さRaが高くなることにある。すなわち、基材1の表面が粗面化されていなくても表層5が粗面化される点に特徴がある。この表層の粗面状態および架橋フッ素樹脂により、満足すべき非粘着性能を得ることができる。たとえば、フラットな下地であっても、表層のフッ素樹脂層中の架橋フッ素樹脂の割合が17重量%であり、表層厚み40μmである場合、表層の輪郭曲線の算術平均高さRa2.5μmを得ることができる。また、表層のフッ素樹脂層中の架橋フッ素樹脂の割合が31重量%であり、表層厚み20μm〜90μmである場合、表層の輪郭曲線の算術平均高さRa4.9μmを得ることができる。
(実施の形態2)
【0029】
図2は、本発明の実施の形態2におけるコーティング層を示す図である。本実施の形態においては無機材料層を用いずに、基材1の表面に、下地の粗面層1aが形成される点に特徴がある。基材1の粗面層1aの輪郭曲線の算術平均高さRaは、基材に対するブラスト処理のブラスト材の種類、粒径、基材への衝突速度、衝突角度などを調節することにより、容易に2〜25μmの範囲内に調節することができる。本実施の形態では、無機材料層を用いないので、コーティング層の形成工程が簡略化され、また必要資材の点でも節減が可能である。
【0030】
基材1にブラスト処理を施して粗面化して、粗面層1aの輪郭曲線の算術平均高さRaを2〜25μmの範囲にしたあと、フッ素樹脂用プライマーをスプレー法などにより塗布して加熱焼付け処理を行う。このあと、架橋フッ素樹脂を10重量%〜50重量%含むフッ素樹脂により表層5を形成する。表層5の形成方法は、実施の形態3で説明する方法により行うことができる。
(実施の形態3)
【0031】
図3は、本発明の実施の形態3におけるコーティング層を示す断面図である。本実施の形態におけるコーティング層では、基材1上に下地を構成する無機材料層2が形成され、その無機材料層2上にフッ素樹脂皮膜5が、フッ素樹脂用プライマー3を介在させて形成されている。フッ素樹脂用プライマー3は、フッ素樹脂用プライマー処理がなされた表面という意味であり、そこに連続する層として識別されるフッ素樹脂用プライマー層が存在する必要はなく、いわゆるプライマー処理がなされていればよい。表層5は、架橋フッ素樹脂を10〜50重量%含むフッ素樹脂により形成されている。フッ素樹脂用プライマー3と表層5との間に、中間フッ素樹脂層を挿入する場合もある。
【0032】
表層の下地である無機材料層2は粗面化され、その輪郭曲線の算術平均高さRaは、25μm以下の範囲にある。この無機材料層2の粗面状態は、架橋フッ素樹脂を含む表層5に反映され、表層5において粗面が形成されている。
【0033】
無機材料層2を構成する無機材料は、たとえば(M1)軟鉄、鋼鉄などの鉄系金属、(M2)SUS304、SUS316などのステンレス鋼系金属、(M3)ニッケル系やコバルト系、モリブデン系の単体または合金、および(M4)Ni−Cr軽合金、などの少なくとも1種または複数が用いられる。これらの金属にタングステンカーバイド、酸化クロム、アルミナ、酸化チタン、ジルコニア、イットリアなどのセラミックを混合しても良い。本発明において無機材料層はフッ素樹脂皮膜の長期間保持の点から多孔質であるものが好ましい。多孔質の場合、表層のフッ素樹脂が多孔質中に含浸され、アンカー効果により結合が強固になる。
【0034】
溶射法で無機材料層2を形成する場合、無機材料は5μm〜120μmの粒径の粉末で溶射することが望ましい。粒径が5μmよりも小さいときは成形される無機材料層の輪郭曲線の算術平均高さRaが2μmよりも小さくなり、無機材料層を形成する意味が薄れ、また120μmよりも大きいと無機材料層の輪郭曲線の算術平均高さRaが25μmを超えるため好ましくない。また、セラミック粒子を混合使用する場合、セラミック粒子は溶射で溶融しないため、粒径は50μm以下であることが好ましい。50μmを超える粒子は輪郭曲線の算術平均高さRaを25μmよりも粗くするため、好ましくない。溶射法においては、Ni−Cr自溶性合金は粒子が硬く耐磨耗性の点で優れているので特に好ましい。また、タングステンカーバイドなどのセラミックス粉末を5〜50重量%含んでいるNi−Cr自溶性合金も好ましく使用できる。
【0035】
フッ素樹脂皮膜(表層)5を形成するフッ素樹脂としては架橋フッ素樹脂が含まれることが必要である。架橋フッ素樹脂に加えて、ヘキサフルオロプロピレン―テトラフルオロエチレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン―パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のいずれか1つもしくは複数を用いることができる。なお非粘着性に影響を及ぼす表層以外の層、たとえば中間フッ素樹脂層を配置する場合、中間フッ素樹脂層に、架橋フッ素樹脂は必ずしも必要ではない。
【0036】
架橋フッ素樹脂は、フッ素樹脂が架橋された橋かけ重合体をいい、橋かけ重合体は3次元的な網目構造をとっており、高温下でも流動しない。このため、表層を形成するフッ素樹脂中の架橋フッ素樹脂は、通常のフッ素樹脂中に完全に融解することなく、架橋フッ素樹脂の領域単位で、通常のフッ素樹脂中に分散する。分散する、周囲と異質で硬い架橋フッ素樹脂領域は、粗面状態(凹凸形状)の効果をより強化する。
【0037】
重要な1つのポイントは、フッ素樹脂中の架橋フッ素樹脂の割合が多くなるとフッ素樹脂表層の輪郭曲線の算術平均Raが、自ずと大きくなることである。これによってフラットな下地であっても、化学的および機械的相互作用に、幾何的な接触面積の減少が加わり、非粘着性が向上することである。
【0038】
他の重要なポイントは、下地を粗面にした場合に、より一層非粘着性が向上することである。すなわち、粗面レベルを下地によって大きく強調された、架橋フッ素樹脂を含むフッ素樹脂は、つぎのような状態を呈する。:非粘着性がある通常のフッ素樹脂中に、周囲と異質の硬い架橋フッ素樹脂(非粘着性あり)が分散した層が表層に配置され、その表層が下地の粗面(凹凸)に沿うように粗面表面を有するように形成される。これにより、単にセラミックスを分散したことによる効果と異なる効果をもたらす。このため、凹凸による接触面積の減少作用を、セラミックスと異なる作用により強化することができる。主に凸部に位置する異質の硬い架橋フッ素樹脂領域が、その凹凸の形状効果をより強調することができ、下地の凹凸の程度が小さくても、したがって表層の凹凸の程度が小さくても、粘着物に対する非粘着性を大きく向上させることができる。この結果、たとえば表層に荷重が大きくかかる部材の場合、凹凸の凹部に応力集中が生じてひび割れ起点となる副作用を抑制することが可能となる。また、表層の凹凸により破損のおそれのある取り扱いに注意を払う必要のある種類の粘着テープの破損を防止できる可能性もある。
【0039】
フッ素樹脂皮膜(表層)5における架橋フッ素樹脂は10重量%〜50重量%が好ましく、さらに15重量%〜40重量%が好適である。10重量%未満であると架橋フッ素樹脂の混合による非粘着性の向上が殆んど認めらず、また50重量%超では皮膜化が困難で機械的に脆くなり、欠陥を生じ易くなる。
【0040】
表層5または中間フッ素樹脂層を無機材料層2上に形成する際には、必要に応じて市販のフッ素樹脂用プライマーを用いることができる。
【0041】
<コーティング層の形成方法>:つぎに、図3に示す非粘着性のコーティング層の形成方法について説明する。
【0042】
まず、基材1の表面に前述の無機材料層2を形成する。基材1は、ロール、スリット刃、フローティングノズル、金型、トラフ、ホッパー、貯槽などの粘着物を取り扱う設備の部品や部材である。通常、軟鉄、鋳鉄などの鉄系、SUS304、SUS316などのステンレス鋼系、A5052などのアルミ系などの金属を用いる。しかし基材1の材料としては、無機材料層2やフッ素樹脂皮膜(表層)5の熱処理温度で溶融、劣化しないものであればとくに制限は無い。
【0043】
無機材料層の形成に先立ち、基材表面を高温空焼きや溶剤洗浄により脱脂し、サンドブラスト法などにより表面の酸化皮膜を除去するとともに接着力を高めるために輪郭曲線の最大高さRzが3μm〜100μmになるように粗面化するのが好ましい。
【0044】
無機材料層2の形成法は、前述の性質を持つ層が形成できる方法であれば特に制限はないが、溶射法が溶射材料の種類が広範囲に選定できる点、形成される皮膜が多孔質となる点、さらに基材の種類、形状、寸法に制限されない点から好ましい。溶射の方式は特に制限されず、アーク溶射、フレーム溶射、HVOF(超音速酸素燃焼)溶射、プラズマ溶射など適宣条件に合わせて選択できる。このうち、基材との密着性や溶射材料の観点から、粉末フレーム溶射が好ましい。
【0045】
形成された無機材料層2は、その層厚が10μm〜300μmであり、その輪郭曲線の算術平均高さRaが2μm〜25μmであり、そのロックウェル硬度HRC30以上であり、また表面に微細な孔を持つもの(多孔質)である。
【0046】
次にこの無機材料層2の上にフッ素樹脂皮膜(表層)5を形成する。フッ素樹脂皮膜5の形成法は樹脂のフッ素樹脂の種類、状態、粘度などによって種々の方法が採用されるが、分散液の場合はディップコーティング法、スプレー塗装法、刷毛塗り等、粉体塗料の場合は静電粉体塗装法、流動浸漬法などが適当である。
【0047】
フッ素樹脂皮膜5の膜厚は適宣選定すればよいが、できるだけ無機材料層2の輪郭曲線の算術平均高さRaを低下させないようにする。フッ素樹脂皮膜5の膜厚は、1〜50μmになる塗布量、含浸されるのが好ましい。
【実施例】
【0048】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。本発明の実施例においては、本発明例1〜10、比較例1〜11について、以下の(1)〜(2)の評価試験を行なった。
【0049】
(1)表層の輪郭曲線の算術平均高さRa:
JIS
B0601:2001に規定される輪郭曲線の算術平均高さRaを、表層について測定した。
【0050】
(2)テープ非粘着性試験:
25mm幅の日東テープ製ガムテープを用い、十分ガム―プを貼り付けた後、ガムテープをゆっくりと垂直に剥がすのに必要な力をSIMPO製 デジタルフォースゲージ FGC−10にて測定した。測定は50mmのテープを剥がす際の最大値を測定値とした。
【0051】
(本発明例1):
基材としてステンレス板(SUS304)(厚み2mm×幅50mm×長さ100mm)をアセトンにより脱脂した。その後、アルミナにてブラストを行い表面を粗面化した。
【0052】
このステンレス板にNi−Cr自溶性合金を粉体フレーム溶射機にて膜厚約100μmに溶射し、ロックウェル硬度HRC50を有し、輪郭曲線の算術平均高さRa14.6μmの無機材料層を得た。
【0053】
フッ素樹脂用プライマーをスプレー法により塗布し電気炉を使用して150℃にて30分乾燥した。この上に17重量%架橋フッ素樹脂を含有するテトラフルオロエチレン―パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)粉体塗料を静電粉体塗装法により30μm〜40μmの膜厚になるように塗装し、電気炉を使用して340℃にて60分間溶融焼付けを行なった。
【0054】
(本発明例2):
基材としてステンレス板(SUS304)(厚み2mm×幅50mm×長さ100mm)をアセトンにより脱脂した。その後、アルミナにてブラストを行い表面を粗面化した。
【0055】
このステンレス板にNi−Cr自溶性合金を粉体フレーム溶射機にて膜厚約100μmに溶射し、ロックウェル硬度HRC50を有し、輪郭曲線の算術平均高さRa14.6μmの無機材料層を得た。
【0056】
フッ素樹脂用プライマーをスプレー法により塗布し電気炉を使用して150℃にて30分乾燥した。この上に31重量%架橋フッ素樹脂を含有するテトラフルオロエチレン―パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)粉体塗料を静電粉体塗装法により30μm〜40μmの膜厚になるように塗装し、電気炉を使用して340℃にて60分間溶融焼付けを行なった。
【0057】
(本発明例3):
基材としてステンレス板(SUS304)(厚み2mm×幅50mm×長さ100mm)をアセトンにより脱脂した。その後、アルミナにてブラストを行い表面を粗面化した。
【0058】
このステンレス板にNi−Cr自溶性合金をHVOF溶射機にて膜厚約100μmに溶射し、ロックウェル硬度HRC50を有し、輪郭曲線の算術平均高さRa8.5μmの無機材料層を得た。
【0059】
フッ素樹脂用プライマーをスプレー法により塗布し電気炉を使用して150℃にて30分乾燥した。この上に17重量%架橋フッ素樹脂を含有するテトラフルオロエチレン―パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)粉体塗料を静電粉体塗装法により30μm〜40μmの膜厚になるように塗装し、電気炉を使用して340℃にて60分間溶融焼付けを行なった。
【0060】
(本発明例4):
基材としてステンレス板(SUS304)(厚み2mm×幅50mm×長さ100mm)をアセトンにより脱脂した。
【0061】
フッ素樹脂用プライマーをスプレー法により塗布し電気炉を使用して150℃にて30分乾燥した。この上に17重量%架橋フッ素樹脂を含有するテトラフルオロエチレン―パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)粉体塗料を静電粉体塗装法により10μm〜20μmの膜厚になるように塗装し、電気炉を使用して340℃にて60分間溶融焼付けを行なった。
【0062】
(本発明例5):
基材としてステンレス板(SUS304)(厚み2mm×幅50mm×長さ100mm)をアセトンにより脱脂した。
【0063】
フッ素樹脂用プライマーをスプレー法により塗布し電気炉を使用して150℃にて30分乾燥した。この上に17重量%架橋フッ素樹脂を含有するテトラフルオロエチレン―パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)粉体塗料を静電粉体塗装法により30μm〜40μmの膜厚になるように塗装し、電気炉を使用して340℃にて60分間溶融焼付けを行なった。
【0064】
(本発明例6):
基材としてステンレス板(SUS304)(厚み2mm×幅50mm×長さ100mm)をアセトンにより脱脂した。その後、アルミナにてブラストを行い表面を粗面化した。
【0065】
フッ素樹脂用プライマーをスプレー法により塗布し電気炉を使用して150℃にて30分乾燥した。この上に17重量%架橋フッ素樹脂を含有するテトラフルオロエチレン―パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)粉体塗料を静電粉体塗装法により30μm〜40μmの膜厚になるように塗装し、電気炉を使用して340℃にて60分間溶融焼付けを行なった。
【0066】
(本発明例7):
基材としてステンレス板(SUS304)(厚み2mm×幅50mm×長さ100mm)をアセトンにより脱脂した。その後、粒径の大きいアルミナにてブラストを行い表面を粗面化した。
【0067】
フッ素樹脂用プライマーをスプレー法により塗布し電気炉を使用して150℃にて30分乾燥した。この上に17重量%架橋フッ素樹脂を含有するテトラフルオロエチレン―パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)粉体塗料を静電粉体塗装法により30μm〜40μmの膜厚になるように塗装し、電気炉を使用して340℃にて60分間溶融焼付けを行なった。
【0068】
(本発明例8):
基材としてステンレス板(SUS304)(厚み2mm×幅50mm×長さ100mm)をアセトンにより脱脂した。
【0069】
フッ素樹脂用プライマーをスプレー法により塗布し電気炉を使用して150℃にて30分乾燥した。この上に31重量%架橋フッ素樹脂を含有するテトラフルオロエチレン―パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)粉体塗料を静電粉体塗装法により10μm〜20μmの膜厚になるように塗装し、電気炉を使用して340℃にて60分間溶融焼付けを行なった。
【0070】
(本発明例9):
基材としてステンレス板(SUS304)(厚み2mm×幅50mm×長さ100mm)をアセトンにより脱脂した。
【0071】
フッ素樹脂用プライマーをスプレー法により塗布し電気炉を使用して150℃にて30分乾燥した。この上に31重量%架橋フッ素樹脂を含有するテトラフルオロエチレン―パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)粉体塗料を静電粉体塗装法により30μm〜40μmの膜厚になるように塗装し、電気炉を使用して340℃にて60分間溶融焼付けを行なった。
【0072】
(本発明例10):
基材としてステンレス板(SUS304)(厚み2mm×幅50mm×長さ100mm)をアセトンにより脱脂した。
【0073】
フッ素樹脂用プライマーをスプレー法により塗布し電気炉を使用して150℃にて30分乾燥した。この上に31重量%架橋フッ素樹脂を含有するテトラフルオロエチレン―パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)粉体塗料を静電粉体塗装法により60μm〜90μmの膜厚になるように塗装し、電気炉を使用して340℃にて60分間溶融焼付けを行なった。
【0074】
(比較例1):
基材としてステンレス板(SUS304)(厚み2mm×幅50mm×長さ100mm)をアセトンにより脱脂した。その後、アルミナにてブラストを行い表面を粗面化した。
【0075】
このステンレス板にNi−Cr自溶性合金を粉体フレーム溶射機にて膜厚約100μmに溶射し、ロックウェル硬度HRC50を有し、輪郭曲線の算術平均高さRa14.6μmの無機材料層を得た。
【0076】
フッ素樹脂用プライマーをスプレー法により塗布し電気炉を使用して360℃にて60分間焼き付け。この上にテトラフルオロエチレン―パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)と/ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からなる水系分散塗料をスプレー塗装法により塗装し電気炉を使用して390℃にて60分間溶融焼付けを行なった。
【0077】
(比較例2):
基材としてステンレス板(SUS304)(厚み2mm×幅50mm×長さ100mm)をアセトンにより脱脂した。その後、アルミナにてブラストを行い表面を粗面化した。
【0078】
このステンレス板にNi−Cr自溶性合金を粉体フレーム溶射機にて膜厚約100μmに溶射し、ロックウェル硬度HRC50を有し、輪郭曲線の算術平均高さRa14.6μmの無機材料層を得た。
【0079】
フッ素樹脂用プライマーをスプレー法により塗布し電気炉を使用して360℃にて60分間焼き付け。この上にテトラフルオロエチレン―パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)からなる水系分散塗料をスプレー塗装法により塗装し電気炉を使用して400℃にて60分間溶融焼付けを行なった。さらにこの上にテトラフルオロエチレン―パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)からなる水系分散塗料をスプレー塗装法により塗装し電気炉を使用して360℃にて60分間溶融焼付けを行なった。
【0080】
(比較例3):
基材としてステンレス板(SUS304)(厚み2mm×幅50mm×長さ100mm)をアセトンにより脱脂した。その後、アルミナにてブラストを行い表面を粗面化した。
【0081】
このステンレス板にNi−Cr自溶性合金をHVOF溶射機にて膜厚約100μmに溶射し、ロックウェル硬度HRC50を有し、輪郭曲線の算術平均高さRa8.2μmの無機材料層を得た。
【0082】
フッ素樹脂用プライマーをスプレー法により塗布し電気炉を使用して360℃にて60分焼き付け。この上にテトラフルオロエチレン―パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)からなる水系分散塗料をスプレー塗装法により塗装し電気炉を使用して400℃にて60分間溶融焼付けを行なった。さらにこの上にテトラフルオロエチレン―パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)からなる水系分散塗料をスプレー塗装法により塗装し電気炉を使用して360℃にて60分間溶融焼付けを行なった。
【0083】
(比較例4):
基材としてステンレス板(SUS304)(厚み2mm×幅50mm×長さ100mm)をアセトンにより脱脂した。その後、アルミナにてブラストを行い表面を粗面化した。
【0084】
このステンレス板にNi−Cr自溶性合金をHVOF溶射機にて膜厚約100μmに溶射し、ロックウェル硬度HRC50を有し、輪郭曲線の算術平均高さRa8.5μmの無機材料層を得た。
【0085】
フッ素樹脂用プライマーをスプレー法により塗布し電気炉を使用して360℃にて60分焼き付け。この上にテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)と/ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からなる水系分散塗料をスプレー塗装法により塗装し電気炉を使用して390℃にて60分間溶融焼付けを行なった。
【0086】
(比較例5):
基材としてステンレス板(SUS304)(厚み2mm×幅50mm×長さ100mm)をアセトンにより脱脂した。その後、アルミナにてブラストを行い表面を粗面化した。
【0087】
フッ素樹脂用プライマーをスプレー法により塗布し電気炉を使用して360℃にて60分間焼き付け、この上にテトラフルオロエチレン―パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)からなる水系分散塗料をスプレー塗装法により塗装し、電気炉を使用して400℃にて60分間溶融焼付けを行なった。さらにこの上にテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルコキシエチレン重合体(PFA)からなる水系分散塗料をスプレー塗装法により塗装し、電気炉を使用して360℃にて60分間溶融焼付けを行った。
【0088】
(比較例6):
基材としてステンレス板(SUS304)(厚み2mm×幅50mm×長さ100mm)をアセトンにより脱脂した。その後、アルミナにてブラストを行い表面を粗面化した。
【0089】
フッ素樹脂用プライマーをスプレー法により塗布し電気炉を使用して360℃にて60分間焼き付け、この上にテトラフルオロエチレン―パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)とポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からなる水系分散塗料をスプレー塗装法により塗装し、電気炉を使用して390℃にて60分間溶融焼付けを行なった。
【0090】
(比較例7):
基材としてステンレス板(SUS304)(厚み2mm×幅50mm×長さ100mm)をアセトンにより脱脂した。
【0091】
フッ素樹脂用プライマーをスプレー法により塗布し電気炉を使用して150℃にて30分間乾燥した。この上に4.25重量%架橋フッ素樹脂を含有するテトラフルオロエチレン―パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)粉体塗料を静電粉体塗装法により30μm〜40μmの膜厚になるように塗装し、電気炉を使用して340℃にて60分間溶融焼付けを行なった。
【0092】
(比較例8):
基材としてステンレス板(SUS304)(厚み2mm×幅50mm×長さ100mm)をアセトンにより脱脂した。
【0093】
フッ素樹脂用プライマーをスプレー法により塗布し電気炉を使用して150℃にて30分間乾燥した。この上に8.5重量%架橋フッ素樹脂を含有するテトラフルオロエチレン―パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)粉体塗料を静電粉体塗装法により30μm〜40μmの膜厚になるように塗装し、電気炉を使用して340℃にて60分間溶融焼付けを行なった。
【0094】
(比較例9):
基材としてステンレス板(SUS304)(厚み2mm×幅50mm×長さ100mm)をアセトンにより脱脂した。
【0095】
フッ素樹脂用プライマーをスプレー法により塗布し電気炉を使用して150℃にて30分間乾燥した。この上に17重量%架橋フッ素樹脂を含有するテトラフルオロエチレン―パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)粉体塗料を静電粉体塗装法により30μm〜40μmの膜厚になるように塗装し、電気炉を使用して340℃にて60分間溶融焼付けを行なった。この焼付けの後、コーティング表面を#2000ヤスリにて研磨を行った。
【0096】
(比較例10):
基材としてステンレス板(SUS304)(厚み2mm×幅50mm×長さ100mm)をアセトンにより脱脂した。
【0097】
フッ素樹脂用プライマーをスプレー法により塗布し電気炉を使用して150℃にて30分間乾燥した。この上に17重量%架橋フッ素樹脂を含有するテトラフルオロエチレン―パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)粉体塗料を静電粉体塗装法により60μm〜90μmの膜厚になるように塗装し、電気炉を使用して340℃にて60分間溶融焼付けを行なった。
【0098】
(比較例11):
基材としてステンレス板(SUS304)(厚み2mm×幅50mm×長さ100mm)をアセトンにより脱脂した。
【0099】
フッ素樹脂用プライマーをスプレー法により塗布し電気炉を使用して150℃にて30分間乾燥した。この上に17重量%架橋フッ素樹脂を含有するテトラフルオロエチレン―パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)粉体塗料を静電粉体塗装法により30μm〜40μmの膜厚になるように塗装し、電気炉を使用して340℃にて60分間溶融焼付けを行なった。
【0100】
さらに、この上に17重量%架橋フッ素樹脂を含有するテトラフルオロエチレン―パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)粉体塗料を静電粉体塗装法により30μm〜50μmの膜厚になるように塗装し、電気炉を使用して340℃にて60分間溶融焼付けを行なった。以上の2回のコーティング形成により、合計60μm〜90μmの膜厚のコーティング層を得た。
【0101】
本発明例1〜10、比較例1〜11についての(1)表層のRaおよび(2)テープ非粘着試験の評価結果を表1(本発明例)および表2(比較例)に示す。
【0102】
【表1】

【0103】
【表2】

【0104】
以上のように、無機材料層に対して架橋フッ素樹脂を含むフッ素樹脂皮膜を施した本発明例1および2がテープ非粘着性において優れる。また、本発明例6、7のように無機材料層が無くとも基材のブラスト処理で表面粗さを確保すれば、架橋フッ素樹脂を含むフッ素樹脂皮膜で表層を形成することによりテープ非粘着性を向上させることができる。さらに特筆すべきことは、本発明例4、5、8、9、10のように、無機材料層がなく、かつ基材にブラスト処理を施さなくても表層中に架橋フッ素樹脂を10重量%以上含有させることにより、表層厚みが所定値以下であれば表層の輪郭曲線の算術平均高さを1.5μm以上とできることである。本発明例4、5、8、9、10では、その表層において架橋フッ素樹脂を上記の範囲含有することにより、安価にテープ非粘着性テストの粘着強度を低くすることができる。とくに表層中に架橋フッ素樹脂を31重量%含む本発明例8、9、10は、無機材料層もなく、また基材にブラスト処理を施さなくても、表層の輪郭曲線の算術平均高さを高くでき、表層厚み10μm〜90μmにおいて優れた非粘着性を示すことが分かる。
【0105】
一方、比較例9、10、11では、表層に架橋フッ素樹脂を17重量%含有しても、下地の凹凸が十分ではない場合、表層厚みが30μm〜90μmのように厚いと表層(上部層)の輪郭曲線の算術平均高さ1.5μm以上とすることができず、その結果、テープ非粘着性は不満足なものとなる。また、下地の凹凸の程度が十分でなく、かつ表層における架橋フッ素樹脂の重量割合が高くない比較例7、8では、テープ非粘着性は好ましくない。また、架橋フッ素樹脂を17重量%含むフッ素樹脂の表層をヤスリ研磨した比較例9では、本発明例5(研磨なし)に比較して、歴然と非粘着性能が劣化している。
【0106】
また、本発明例1〜3では、無機材料層によって積極的に表面粗さを確保し、かつ表層中に架橋フッ素樹脂を十分含む場合、強固に皮膜を保持しながら、これまでに例を見ないほど、テープ非粘着性に非常に優れたコーティング層を得ることができる。
【0107】
上記の本発明のコーティング層では、シリコーンオイルを用いていないため、接触する粘着物にシリコーンオイルが移行して粘着テープ自体(製品)の粘着性を低下させることもない。
【0108】
以上のことから、本発明のコーティング層を用いることで、従来のシリコーンオイルを塗布したり、シリコーンレジンやフッ素樹脂をコーティングする方法、あるいはロールなどの基材表面を溶射やブラスト処理で梨地処理する方法、またはこれらを組み合わせた非粘着性コーティング方法に比べてシリコーンの移行等のない耐久性の高い非粘着性のコーティング層が得られる。
【0109】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】本発明の実施の形態1におけるコーティング層を示す断面図である。
【図2】本発明の実施の形態2におけるコーティング層を示す断面図である。
【図3】本発明の実施の形態3におけるコーティング層を示す断面図である。
【符号の説明】
【0111】
1 基材、1a 基材の粗面層、2 無機材料層、3 フッ素樹脂用プライマー層、5 表層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材を被覆するコーティング層であって、
架橋フッ素樹脂を10重量%〜50重量%含むフッ素樹脂層から形成される表層を備え、
前記表層の輪郭曲線の算術平均高さRaが1.5μm〜25μmである、コーティング層。
【請求項2】
前記表層の厚みが5μm〜300μmの範囲内にある、請求項1に記載のコーティング層。
【請求項3】
前記基材上に前記表層が形成されている、請求項1または2に記載のコーティング層。
【請求項4】
前記基材表面の輪郭曲線の算術平均高さRaが25μm以下である、請求項3に記載のコーティング層。
【請求項5】
前記基材と前記表層との間に位置し、その表層側の表面の輪郭曲線の算術平均高さRaが25μm以下である無機材料層をさらに備える、請求項1または2に記載のコーティング層。
【請求項6】
前記無機材料層の層厚が10μm〜300μmである、請求項6に記載のコーティング層。
【請求項7】
前記無機材料層を構成する無機材料が自溶性合金である、請求項5または6に記載のコーティング層。
【請求項8】
前記無機材料層中に粒径50μm以下のセラミックス粒子が含まれている、請求項5〜7のいずれかに記載のコーティング層。
【請求項9】
前記表層がその底部に中間フッ素樹脂層をさらに有する、請求項1〜8のいずれかに記載のコーティング層。
【請求項10】
基材を被覆するコーティング層の形成方法であって、
架橋フッ素樹脂を10重量%〜50重量%含むフッ素樹脂により、輪郭曲線の算術平均高さRaが1.5μm〜25μmの表層を形成する、コーティング層の形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−54749(P2007−54749A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−243881(P2005−243881)
【出願日】平成17年8月25日(2005.8.25)
【出願人】(391065448)日本フッソ工業株式会社 (17)
【Fターム(参考)】