説明

ゴムモールド材料及びゴムモールド品

【課題】 本発明は、環境に優しい特性のゴムモールド材料、例えば電線端末部や接続部などのゴムモールド品に使用されるものを提供する。
【解決手段】 かゝる本発明は、ベースゴム材料がエチレン・プロピレンゴムで、これを有機過酸化物である架橋剤により架橋させるゴムモールド材料において、他の添加物の添加による材料中の全イオウ量が0.36wt%以下、又は、全オイル量が8.0wt%以下であるゴムモールド材料にあり、このような値の全イオウ量やオイル量とすることにより、酸性度がpH=4.3以上である環境優しい特性のゴムモールド品、例えば電線端末部や接続部などのゴムモールド品を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境に優しい特性のゴムモールド材料、及びこれを用いて成形される電線端末部や接続部などに使用されるゴムモールド品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境に優しい電線としてエコマテリアル電線(以下エコ電線と略記する)というものが提供されている。このエコ電線では、環境に対する負荷を低減させるため、例えば絶縁被覆材として、ハロゲン元素や有毒な重金属などを含まないこと、燃焼時の発煙量が少ないこと、耐食性ガスを発生させないこと、用途によっては耐熱性が高いこと、リサイクル性に優れていることなどを有する樹脂材料を用いている。さらに、必要により、この絶縁被覆材の特性として、高い難燃性や耐外傷性などを要求することもある(例えば特許文献1)。
【特許文献1】特開2002−231068号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記のような絶縁被覆材を用いることで、環境に優しいエコ電線が得られるものの、電線の布設(使用)状況を見ると、電線の端末部や接続部にあっては、通常ストレスコーンなどの部品(モールド成形品などの部品)が使用されており、これを含めた電線布設系全体のエコ化が行われていないと、環境対策としては、不十分なものと言える。
【0004】
そこで、本発明者は、電線布設系における電線の端末部や接続部に着目し、ここでの使用部品である、ストレスコーンなどは通常ゴムモールド材料からなるため、この材料について種々の検討を行った。
【0005】
先ず、絶縁被覆材と同様、ハロゲン元素や有毒な重金属などを含まないこと、燃焼時の発煙量が少ないこと、耐食性ガスを発生させないこと、用途によっては耐熱性が高いこと、リサイクル性に優れていることなどを配慮して、ベースゴム材料をエチレン・プロピレンゴム(特にエチレン・プロピレン・ジェン共重合体:EPDMの単独、又はこれを主成分としたゴム)に選定した。
【0006】
しかし、このエチレン・プロピレンゴムの加硫に際して、架橋剤(加硫剤)としてジクミルパーオキサイド(DCP)などの有機過酸化物を用い、例えば架橋助剤としてイオウを用いた場合、この架橋助剤の添加量によっては、酸性度が高くなることが懸念される。エコ電線では、JIS−C3666−2(電気ケーブルの燃焼時発生ガス測定試験方法)において酸性度が低いこと(pH=4.3以下であること)が要求されている。
さらに、ゴム材料では、雑多な他の添加物が種々添加されるため、これらが、酸性度に影響を与え、その値をを高くさせる要因となっていないかどうかの点も懸念される。
【0007】
そこで、本発明者が、試しに有機過酸化物の架橋剤と共に、架橋助剤としてイオウを用い、その添加量を適宜変えたところ、図1に示すように、ゴム材料中のイオウ量と得られるゴムモールド品の酸性度、即ち水素イオン濃度との間には一定の相関関係があることが分かった。さらに、具体的には、酸性度pH=4.3に対応する水素イオン濃度(5.0×10-5)から、ゴムモールド品のエコ化(エコ部品化)にあたっては、ゴム材料中のイオウ量が0.36wt%(=mass%)以下とする必要があることを突き止めた。なお、図1はゴムモールド品が絶縁ゴム(絶縁体品)の場合であるが、半導電ゴム(半導電性品)の場合も同様であった。
【0008】
また、他の添加物についても試験したところ、図2や図3に示すように、ゴム材料中のオイル系の軟化剤量と得られるゴムモールド品の酸性度、即ち水素イオン濃度との間には一定の相関関係があることが分かった。さらに、具体的には、酸性度pH=4.3に対応する水素イオン濃度(5.0×10-5)から、ゴムモールド品のエコ化(エコ部品化)にあたっては、オイル量が8.00wt%以下とする必要があることを突き止めた。なお、図2はゴムモールド品が絶縁ゴム(絶縁体品)の場合で、図3は半導電ゴム(半導電性品)の場合である。
【0009】
このことを踏まえて、本発明者は、後述する如く、架橋剤が有機過酸化物とする場合で、他の添加物の添加による材料中の全イオウ量が0.36wt%以下であること、また、オイル系の軟化剤の添加量が8.00wt%(=mass%)以下であることであれば、得られるゴムモールド品の酸性度がpH=4.3以上になることを突き止めた。
【0010】
本発明は、上記の観点に立ってなされたものであり、ベースゴム材料としてエチレン・プロピレンゴムを選定し、材料中のイオウ量やオイル系の軟化剤量を所定の値以下にして、環境に優しい特性としたゴムモールド材料及びこれを用いたゴムモールド品を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1記載の本発明は、ベースゴム材料がエチレン・プロピレンゴムで、架橋剤が有機過酸化物であるゴムモールド材料において、他の添加物の添加による材料中の全イオウ量が0.36wt%以下であることを特徴とするゴムモールド材料にある。
【0012】
請求項2記載の本発明は、前記他の添加物がイオウ又はイオウ含有系の架橋助剤であることを特徴とする請求項1記載のゴムモールド材料にある。
【0013】
請求項3記載の本発明は、ベースゴム材料がエチレン・プロピレンゴムで、架橋剤が有機過酸化物であるゴムモールド材料において、オイル系の軟化剤の添加量が8.00wt%以下であることを特徴とするゴムモールド材料にある。
【0014】
請求項4記載の本発明は、前記エチレン・プロピレンゴムがエチレン・プロピレン・ジェン共重合体(EPDM)単独、又はこれを主成分とするゴムであることを特徴とする請求項1、2又は3記載のゴムモールド材料にある。
【0015】
請求項5記載の本発明は、前記ベースゴム材料に、充填剤、カーボン、軟化剤、滑剤、老化防止剤、安定剤から選ばれる1又は2以上のものを適宜添加することを特徴とする請求項1、2又は4記載のゴムモールド材料にある。
【0016】
請求項6記載の本発明は、前記ベースゴム材料に、充填剤、カーボン、滑剤、老化防止剤、安定剤から選ばれる1又は2以上のものを適宜添加することを特徴とする請求項3又は4記載のゴムモールド材料にある。
【0017】
請求項7記載の本発明は、前記請求項1〜6記載のいずれかのゴムモールド材料により成形されることを特徴とするゴムモールド品にある。
【発明の効果】
【0018】
本発明のゴムモールド材料及びこれにより得られるゴムモールド品では、ベースゴム材料がエチレン・プロピレンゴムで、架橋剤が有機過酸化物であって、材料中の全イオウ量が0.36wt%以下であり、又は、オイル系の軟化剤の添加量が8.00wt%以下であるため、その酸性度をpH=4.3以上とすることができる。
つまり、酸性度について、エコ電線と同様の特性を得ることができる。他の特性、例えばハロゲン元素や有毒な重金属などを含まないこと、燃焼時の発煙量が少ないこと、耐食性ガスを発生させないこと、耐熱性が高いこと、リサイクル性に優れていることなどについても、ベースゴム材料の特性により得られる。
【0019】
これにより、ストレスコーンなどの電線端末部や接続部に使用されるゴムモールド品についても、エコ化が図れるため、結果として電線布設系全体のエコ化が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明で用いるベースゴム材料は、エチレン・プロピレン・ジェン共重合体(EPDM)単独、又はこれを主成分とするエチレン・プロピレンゴムである。EPDMを主成分とする場合は、他の成分として、例えばエチレン・プロピレン共重合体や天然ゴムなどを、諸特性が損なわれない範囲で配合して使用する。EPDMとしては、エチレン、プロピレンと、エチリデンノルボーネン、1,4ヘキサジェン、ジシクロペンタジェンなどのジェン系モノマーとの共重合体が挙げられる。また、EPDM中におけるプロピレン含有量が30〜55wt%程度のものが望ましい。この程度の含有量とすることにより、ゴムモールド品として必要とされる、適度な硬さと伸びが確保されるからである。
【0021】
勿論、このベースゴム材料は、ハロゲン元素や有毒な重金属などを含まない上に、主鎖が化学的に安定な飽和炭化水素からなるため、種々の優れた特性、例えば耐熱性、耐寒性、耐薬品性、耐候性、耐オゾン性、電気特性(耐コロナ性、耐トラキング性など)、加工性について優れた特性が得られる。本発明では、その市販品として、例えば三井EPT4021(商品名、三井化学社製)を使用した。
【0022】
このベースゴム材料に添加される架橋剤(加硫剤)は有機過酸化物である。これらのものとしては、特に限定されず、通常ゴムの過酸化物加硫に用いられるものであればよい。例えば、ジクミルパーオキサイド(DCP)、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、t−ブチルヒドロパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシン)ヘキシン−3、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−モノ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサンなどが挙げられる。特にDCPやジ−t−ブチルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンが好ましく使用される。これらの有機過酸化物は単独で、又は2種以上組み合わせて使用することもできる。
【0023】
そして、その添加量は、ベースゴム材料100部(質量部)に対して、適度な加硫度を得るには、通常1〜6部(質量部)が好ましい(以下添加量の部数はベースゴム材料100部(質量部)に対するものとする)。後述する実施例や比較例では、DCP(三井化学社製)を用いた。
【0024】
この架橋にあたっては、好ましくは架橋助剤としてイオウ又はイオウ含有系のものを添加するとよい。その添加量は、材料中の全イオウ量が0.36wt%以下となる範囲とする必要があるが、イオウでは0.2〜0.7部(イオウ含有系ではイオウ量に換算した数字)が好ましい。この添加量の範囲とすることで、酸性度の上昇を避けることができる。後述する実施例や比較例では、イオウ単独の市販品(軽井沢精錬所社製)を用いた。
【0025】
また、上記ベースゴム材料には、通常のゴム材料と同様その要求仕様などに応じて、上記加硫剤の他に以下のものを適宜添加することができる。例えば充填剤、カーボン、軟化剤、滑剤、老化防止剤、安定剤などである。なお、必要により難燃剤なども添加することができる。
【0026】
上記充填剤としては、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、これらをシランカップリング剤などにより表面処理したもの、タルク、微粉タルク、クレー、シリカなどが挙げられる。これらの添加により、ゴムの引張り強さ、引裂き強さ、耐磨耗性などの機械的特性や、耐トラキング性などの電気特性などの調整が可能となる。この添加量は、50〜150部が好ましい。後述する実施例や比較例では、バーゲスKE(白石カルシウム社製)を用いた。カーボンの添加では補強効果や耐候性の向上などを図ることができる。この添加量は、絶縁ゴムでは1〜2部が、半導電ゴムでは40〜80部が好ましい。後述する実施例や比較例の場合、絶縁ゴムではカーボン旭#35(旭カーボン社製)、半導電ゴムではアセチレンブラック(電気化学工業社製)を用いた。
【0027】
軟化剤はゴムの柔軟性を確保するためのもので、各種のオイル系のもの(鉱油類、合成油類など)が挙げられる。具体的なものとしては、プロセスオイルなどがある。この添加量は、材料中で8.00wt%以下となる範囲とする必要があるが、5〜15部が好ましい。この添加量の範囲とすることで、酸性度の上昇を避けることができる。後述する実施例や比較例では、プロセスオイルとして、サンパー2280(日本サン石油社製)、コーモレックスH22(新日本石油社製)を用いた。
【0028】
滑剤としてはパラフィン・ワックス、流動パラフィン、パラフィン系合成ワックス、ポリエチレン・ワックス、ステアリン酸亜鉛、ヒドロキシステアリン酸、脂肪酸アミド、脂肪酸エステルなどが挙げられる。この添加量は、4〜7部が好ましい。後述する実施例や比較例では、パラフィン(新日本石油社製)、ステアリン酸亜鉛(境化学工業社製)を用いた。
【0029】
老化防止剤としてしはナフチルアミン系、ジフェニルアミン系、p−フェニルジアミン系、キノリン系、ヒドロキノン誘導体、モノフェノール系、チオビスフェノール系、ヒンダート・フェノール系、亜リン酸エステル系などが挙げられる。この添加量は、0.5〜1.5部が好ましい。後述する実施例や比較例では、イルガノックス1010(チバスペシャルティ・ケミカルズ社製)を用いた。安定剤としては亜鉛華、活性亜鉛華、表面処理した亜鉛華、複合亜鉛華、炭酸亜鉛華、酸化マグネシウム、表面処理した酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、ステアリン酸、オレイン酸、アミン類などが挙げられる。この添加量は、3〜5部が好ましい。後述する実施例や比較例では、亜鉛華(三井金属鉱業社製)を用いた。
【0030】
表1〜表5では、上記した材料を用いて、サンプルのゴムモールド品(ゴムストレスコーン、実施例1〜13、比較例1〜13)を製造し、得られたものの酸性度(pH)、水素イオン濃度(mol/L)、イオウ量(wt%)、オイル量(wt%)を求めた。なお、各表における材料の添加量は、上述の如く部数(質量部)で示してある。また、配合比率はwt%(mass%)で示してある。さらに、比率の演算時少数点以下3桁部分は四捨五入してある。また、上記ゴムモールド品において、カーボン添加量の少ない実施例1〜10、比較例1〜10のものは絶縁ゴム性のゴムストレスコーンであり、実施例11〜13、比較例11〜13のものは半導電ゴム性のゴムストレスコーンである。
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
【表3】

【0034】
【表4】

【0035】
【表5】

【0036】
これらの表1〜5から、ベースゴム材料のエチレン・プロピレンゴムを用いて、有機過酸化物を架橋剤として架橋するゴムモールド材料において、他の添加物の添加による材料中の全イオウ量が0.36wt%以下で、かつ、全オイル量が0.80wt%以下の場合(実施例1〜13)、酸性度があまり高くない、pH=4.3以上のものが得られることが分かる。
これに対して、材料中の全イオウ量が0.36wt%を超えるの場合(比較例1〜4)、材料中の全オイル量が0.80wt%を超えるの場合(比較例5〜10)、及び材料中の全イオウ量が0.36wt%を超え、かつ、全オイル量が0.80wt%を超えるの場合(比較例11〜13)、酸性度がpH=4.3未満で、酸性度の高い(強い)ものしか得られないことが分かる。
【0037】
なお、上記説明では、材料中の全イオウ量が架橋助剤中の全イオウ量と同一の場合として、また、材料中の全オイル量が軟化剤の全オイル量と同一の場合として説明してあるが、本発明は、これに限定されず、何らかの理由により材料中に混入されるイオウ量やオイル量を含めるものとする。例えば、雑多に添加される他の添加物によりイオウやオイルが混入される場合があるからである。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】ゴム材料(絶縁材料)における架橋助剤のイオウ量と水素イオン濃度との関係を示したグラフである。
【図2】ゴム材料(絶縁材料)における軟化剤のオイル量と水素イオン濃度との関係を示したグラフである。
【図3】ゴム材料(半導電材料)における軟化剤のオイル量と水素イオン濃度との関係を示した他のグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースゴム材料がエチレン・プロピレンゴムで、架橋剤が有機過酸化物であるゴムモールド材料において、他の添加物の添加による材料中の全イオウ量が0.36wt%以下であることを特徴とするゴムモールド材料。
【請求項2】
前記他の添加物がイオウ又はイオウ含有系の架橋助剤であることを特徴とする請求項1記載のゴムモールド材料。
【請求項3】
ベースゴム材料がエチレン・プロピレンゴムで、架橋剤が有機過酸化物であるゴムモールド材料において、オイル系の軟化剤の添加量が8.00wt%以下であることを特徴とするゴムモールド材料。
【請求項4】
前記エチレン・プロピレンゴムがエチレン・プロピレン・ジェン共重合体(EPDM)単独、又はこれを主成分とするゴムであることを特徴とする請求項1、2又は3記載のゴムモールド材料。
【請求項5】
前記ベースゴム材料に、充填剤、カーボン、軟化剤、滑剤、老化防止剤、安定剤から選ばれる1又は2以上のものを適宜添加することを特徴とする請求項1、2又は4記載のゴムモールド材料。
【請求項6】
前記ベースゴム材料に、充填剤、カーボン、滑剤、老化防止剤、安定剤から選ばれる1又は2以上のものを適宜添加することを特徴とする請求項3又は4記載のゴムモールド材料。
【請求項7】
前記請求項1〜6記載のいずれかのゴムモールド材料により成形されることを特徴とするゴムモールド品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2008−94955(P2008−94955A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−278233(P2006−278233)
【出願日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】