説明

ゴム物品補強用スチールワイヤの製造方法とゴム物品補強用スチールコードおよびタイヤ

【課題】従来、スチールコードの被覆ゴム組成物に添加されていた、接着促進剤を減少もしくは無添加とした場合にあっても、スチールコードと被覆ゴムとの間に優れた接着性を付与するための方途を、スチールコードを構成するワイヤに施すブラスめっきにおいて確立する。
【解決手段】ブラスめっきを施した線材に、燐酸がベースの潤滑剤を用いて伸線加工を施して周面にブラスめっきを有するスチールワイヤを製造するに当って、該スチールワイヤ周面のブラスめっきの表面からワイヤ半径方向内側に5nmの深さまでの表層領域における、酸化物として含まれる燐の量を1.5 アトミック%以下に抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、空気入りタイヤや工業用ベルト等のゴム物品の補強材として使用されるスチールワイヤ及びスチールコード、特にゴムとの接着性に優れたスチールワイヤ及びスチールコードに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゴム物品の典型例である空気入りラジアルタイヤでは、そのベルトやカーカスに、ブラスめっきが施されたスチールフィラメントの複数本を撚り合わせて成る、又はスチールフィラメントの単線から成る、スチールコードをゴムで被覆したものを適用し、主にスチールコードによる補強をはかっている。そして、スチールコードをタイヤの補強材として活用するには、該スチールコードをその被覆ゴムと確実に接着する必要があり、そのためにスチールコードを構成するフィラメントの周面にはブラスめっきが施されている。
【0003】
このブラスめっきに関しては、ゴムとの接着性を確保するために、ブラスにおける銅と亜鉛の割合やめっき厚を適正化すること等が検討され、これらに関する一定の知見が確立している。
【0004】
かような知見に基づいて適正化されたブラスめっきを、スチールコードを構成するフィラメントに施すことによって、ゴムとの接着性は改善されるが、それでもなお、接着相手であるゴムに対して種々の条件が要求されている。例えば、タイヤを一定の時間内に加硫成形するには、コードとゴムとの接着速さやそれらの完全な結合により充分な接着力を確保することが求められる。すなわち、いわゆる初期接着性が要求されるため、ゴム中に接着促進剤としてCo塩やNi塩を相当の割合で添加したり、硫黄を高い比率で配合すること等が必要となる。
【0005】
ところが、このように添加された硫黄を含む接着促進剤は、接着反応を促進するのに有効であるが、未加硫ゴムから接着促進剤の滲み出し、いわゆる薬品ブルームが生じるために、例えばタイヤの成形工程において未加硫ゴムシートを貼り合わせる際の作業性が低下する共に、未加硫ゴムシートとその周辺ゴムとの密着性や接着性が阻害され、さらに加硫ゴムにおいては接着促進剤の残渣がゴム分子の切断反応、すなわち加硫戻りを引き起こし、タイヤの耐久性を低下させる原因にもなっている。
【0006】
このような問題の発生を防止する観点から、スチールコードと接着する被覆ゴム中の接着促進剤を減少させることを所期して、接着促進剤の種類、特にCo塩やNi塩の酸の種類を変更することや、被覆ゴムとコードとの間に接着促進剤(コバルト金属塩)を薄膜として存在させることによって、接着促進剤を含まないゴム組成物とコードとの接着性を改善する、試みがなされている。後者の技術は、例えば特許文献1に開示されている。
【0007】
ちなみに、この接着促進剤、中でもコバルト金属塩などの接着促進剤が高価であるため、被覆ゴム中の接着促進剤を減少させることは、上記のタイヤ性能の向上に加えて、ゴムの配合コストを低減するのにも有効であり、省資源の観点からも重要なことである。
【0008】
しかしながら、上記の接着促進剤の種類を変更することは、部分的な最適化を施すことにすぎなく、Co含有量は基本的に同一にせざるを得ないため、結果として、初期接着性を改良すれば耐久接着性が低下したりブルーム性が低下したりする、二律背反をまぬがれない。
【0009】
一方、特許文献1に開示の被覆ゴムとコードとの間に接着促進剤を薄膜として存在させる手法は、確かに被覆ゴムにおけるCoの配合を省略することが可能であるが、接着反応以前に逆に被覆ゴム中に拡散するCoの割合が多くなるため、数十μm程度の厚さの接着促進剤を含む薄膜を設ける必要があり、Coの削減効果が十分であるとはいえないことから、さらなる改善が望まれていた。
【0010】
すなわち、ブラスめっきを施したフィラメントによるスチールコードと被覆ゴムとの接着に関しては、その初期接着性に優れることが要求されるのは勿論、タイヤが使用中に劣化環境に置かれた際に、コード及びゴム接着界面を含むゴム材の劣化を起因とする故障が発生しないこと、さらにタイヤ製造工程での作業性や配合コストの抑制など、様々な要求を考慮しなくてはならない。
【0011】
上記のように、ブラスめっきを施したフィラメントによるスチールコードと、それを被覆するゴムとの接着性に関しては、特に初期接着性に優れることが第一義的な要求である。そこで、フィラメント表面のブラスめっきの特性を制御することが検討され、めっき組成、中でも最表面のめっき組成やめっき厚さ、さらには銅および亜鉛の酸化度合いの影響などに関して、種々の検討結果が報告されている。また、伸線加工時に生成して最表面に存在することによって、伸線性の確保に寄与する、燐酸被膜層の低減についても提案されている。
【0012】
しかしながら、スチールワイヤは、例えば径が5mm程度の線材に繰り返し伸線加工を施して加工強化を図る必要があるため、伸線加工に影響を与える、めっきに関する変更は、自ずと制限を受けることになる。事実、ゴムとの接着を司るワイヤに施されたブラスめっきの表層は、該めっきの地部分の組成、つまり線材の成分組成とは大きく異なり、例えばCuとZnとの含有比が逆であったり、めっき表面が燐酸被膜や酸化亜鉛で覆われてめっき自体の活性が抑制されている場合が多い。
【0013】
また、タイヤが使用中に劣化環境に置かれた際に、コード及びゴム接着界面を含むゴム材の劣化を起因とする故障が発生しないことも重要であるのは上記したとおりであり、この点、従来の硫黄を含む接着促進剤は、接着反応を促進するのに有効であるが、タイヤ等のゴムおよびコード複合体が熱環境下において水や酸素(または空気中の活性ガス)に長期間晒された際に、接着の劣化を抑制するのに寄与することはなく、場合によっては接着劣化を促進することもある。従って、比較的多量の水と空気が共存しかつ熱的に過酷な環境、例えば東南アジアの亜熱帯地方のような高温多湿の地域でタイヤ等を使用する場合には、初期接着性の改良に加えて、耐湿熱接着性などの、いわゆる劣化後接着性の改善も重要であるが、初期接着性と劣化後接着性との両立は困難であった。
【0014】
この接着性の問題を解決するために、特開平6−49783 号公報には、スチールコードを構成するワイヤ表面の燐酸量に着目した技術が提案されている。
【0015】
しかしながら、同公報には、ワイヤ表面に残存する燐酸が多いと、高温湿潤環境下での劣化後接着性には優れるが初期接着性の確保が難しくなること、逆に残存する燐酸が少ないほど初期接着性は改善されるが劣化後接着性が不十分になることが示されていて、従来は両特性を両立することが難しいとの認識が一般的であった。
【特許文献1】特開平10−324753号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
そこで、この発明は、従来、スチールコードの被覆ゴム組成物に添加されていた、接着促進剤を減少もしくは無添加とした場合にあっても、スチールコードと被覆ゴムとの間に優れた接着性を付与するための方途を、スチールコードを構成するワイヤに施すブラスめっきにおいて確立することを、第1の目的とする。
【0017】
この第1の目的に併せて、この発明では、従来、スチールコードの製造プロセスによって制限されている、めっき最表面における制限を取り払うことによって、ゴムとの接着性を強固に確保する方途を、スチールコードを構成するワイヤに施すブラスめっきにおいて確立することを、第2の目的とする。
【0018】
また、この発明は、接着性として初期接着性に加えて劣化後接着性をも改善し得る方途を、スチールコードを構成するワイヤに施すブラスめっきにおいて確立することを、第3の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
発明者らは、まず上記の第1の目的を遂げるために、ブラスめっきとゴムとの接着反応を支配する因子について鋭意究明したところ、ブラスめっきの表層領域における燐酸化合物を極力低減すれば、ブラスが本来有する著しく速い接着反応の下に、極めて短時間に接着が完了されること、そしてブラスめっきの成分組成が同じ場合は、ゴムとの接着性がめっき表層の燐酸化合物にほぼ一義的に支配されること、を見出した。また、このようにめっき表層領域の燐酸化合物を低減したワイヤは、接着相手のゴムの接着促進剤であるコバルト塩を減量もしくは無添加としても短時間に接着を確保出来ることも確認するに到った。
【0020】
なお、ワイヤ表面の燐酸化合物または燐の付着量を、ゴムとの接着性に関して所定範囲に規制することは、例えば特公平7−8971号公報および国際公開97/23311 公報等に記載されているが、かような燐の付着量調整では、接着促進剤を減少もしくは無添加とした場合においてもなお、ゴムとの接着性を良好に維持することは難しいものであった。
【0021】
また、上記燐酸化合物は、ワイヤに伸線する際に用いる液体潤滑剤のうち、極圧添加剤成分とブラスとの反応生成物であり、ダイスとワイヤとの間の摩擦を低減させてワイヤ表面の温度上昇を抑制する作用を有するため、ワイヤの伸線処理においては必須の成分であり、該成分なしでは伸線加工がほとんど不可能と言っても過言ではない。従って、燐酸化合物が伸線後のワイヤ表面のめっき層中に含まれるのは必然であり、特に量産ワイヤにおいて、そのめっき層中に燐酸化合物が含まれることは不可避であった。
【0022】
次に、発明者らは、上記の第2の目的を遂げるために、ブラスめっきとゴムとの接着反応を支配する因子について更なる検討を加えたところ、ブラスめっきの成分組成が同じ場合は、めっき層の最表面における銅含有率とめっき層本来の銅含有率との差の有無に、ゴムとの接着性がほぼ一義的に支配されることを見出した。
【0023】
さらに、伸線前にめっきを施してワイヤの製造を行う場合は、得られたワイヤのめっき層最表面における成分組成がめっき層本来の成分組成と異なるものとなることが不可避であり、具体的には、めっき層最表面における銅含有率が必ず低くなることも見出した。
【0024】
また、発明者らは、上記の第3の目的を遂げるために、ブラスめっきとゴムとの接着反応を支配する因子に関して、従前にない精密な機器分析手法と、コード製造プロセスの変更手法とを駆使して、めっき表層を厳密に造り込み、接着性を様々な角度から検討したところ、初期接着性に併せて劣化後接着性の同時改良が可能であることを究明するに到った。
【0025】
すなわち、劣化後接着性については、ワイヤに施しためっき層の表面から内部に向かう銅の濃度分布を制御することが、極めて重要であることが新たに判明した。同時に、めっき層の表面から内部に向かう銅の濃度分布は、伸線時の潤滑剤成分や温度、パススケジュールやダイス材質、そして伸線速度などの種々の要因によって変動するため、これら一連の製造プロセスを厳密に制御する必要があることも判明した。
【0026】
この発明は、以上の知見に基づいて成されたものであり、その要旨構成は、次のとおりである。
(1)ブラスめっきを施した線材に、燐酸がベースの潤滑剤を用いて伸線加工を施して周面にブラスめっきを有するスチールワイヤを製造するに当って、該スチールワイヤ周面のブラスめっきの表面からワイヤ半径方向内側に5nmの深さまでの表層領域における、酸化物として含まれる燐の量を1.5 アトミック%以下に抑制することを特徴とするゴム物品補強用スチールワイヤの製造方法。
【0027】
(2)前記(1)に記載の方法にて製造したワイヤの複数本を撚り合わせて成ることを特徴とするゴム物品補強用スチールコード。
【0028】
(3)1対のビード部間でトロイド状に延びるカーカスを骨格とし、このカーカスの径方向外側にベルトをそなえるタイヤにおいて、該カーカスおよびベルトのいずれか一方または両方に、前記(1)に記載のスチールワイヤまたは前記(2)に記載のスチールコードを適用したことを特徴とするタイヤ。
【発明の効果】
【0029】
この発明によれば、スチールコードを構成するワイヤに施すブラスめっきの表層領域における酸化物として含まれる燐量の抑制によって、接着促進剤を減少もしくは無添加とした被覆ゴムとの間に優れた接着性が確保されるから、被覆ゴム材における接着促進材の削減または省略を、コード及びゴム複合体の性能を犠牲にすることなしに、実現することができる。
【0030】
さらに、めっき組成が同じであるにも係わらずゴム接着性が低下することの要因を排除すれば、ゴム接着性により優れたワイヤを安定して提供することが可能になる。
【0031】
また、銅のめっき深さ方向の濃度分布を規制することによって、初期接着性に併せて劣化後接着性をも確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
さて、スチールワイヤは、例えば径が5mm程度の線材に伸線加工を施して製造されるのが、一般的である。この製造プロセスにおいては、当然潤滑剤を使用することになるが、中でも最終伸線工程は、液体潤滑剤中に配置した20パス程度のダイスを用いて細線化を行っている。この最終伸線工程ではコードとダイスとの間に極圧が発生し、温度も非常に高くなることから、極圧かつ高温状態での潤滑性を確保するために、燐酸をベースとする潤滑剤を用いることが通例である。
【0033】
この潤滑剤は、伸線加工中にワイヤ表面と反応して潤滑皮膜層、すなわち燐酸化合物層を生成し、極圧高温条件の下での入力を緩和し、ワイヤの量産を実現している。従って、製造プロセス上、ワイヤのめっき中に燐酸が取り込まれることは避けられないものである。
【0034】
そこで、発明者は、燐酸が含まれたブラスめっき中の銅がゴム側に拡散し CuxSを形成して接着が行われる接着反応について、とりわけめっき側の燐酸がゴムとの接着を阻害する機構について鋭意究明した。そして、ゴムとの接着を妨害するのはめっき全体に取り込まれた燐酸ではなく、ゴムと接触するめっきの極く表層、具体的にはめっきの表面からワイヤ半径方向内側に5nmの深さまでの表層領域に存在する燐酸化合物に限定されることを、新たに見出した。すなわち、最終伸線後のワイヤの上記表層領域に燐酸化合物が残存していないことこそがゴム接着性を改善する上での本質であり、従来のようにめっき層全体の燐酸または燐の量、例えば希塩酸で溶解して測定されるような燐酸や燐の量を規制することでは解決し得ないことが解明されたのである。
【0035】
以下に、上記の知見を得るに到った経緯を説明する。
まず、該ワイヤを得るための伸線工程において、そのパススケジュールやダイスの材質、そして潤滑剤の成分組成、熟成条件または液温度などを種々に変更して作製したワイヤのゴム接着性を評価したところ、ワイヤによってゴム接着性が異なることが明らかになった。次に、ゴム接着性の良好なワイヤに共通の条件を調査した結果、ゴム接着性に関する従来の一般的指標である、めっき層における銅や燐の含有量では包括しきれないことが判明した。そこで、ゴム接着性に影響を与える要因について鋭意究明したところ、めっき層の極く表層の領域、具体的にはめっきの表面からワイヤ半径方向内側に5nmの深さまでの表層領域における、酸化物として含まれる燐の量が、ゴム接着性と相関していることを見出したのである。
【0036】
ここで、上記表層領域における酸化物として含まれる燐の量は、X線光電子分光法に従って計測することができる。すなわち、X線光電子分光法に従って計測される光電子の脱出深さ領域において、全元素の原子数と酸化物中の燐の原子数とを検出し、全元素の原子数を100 としたときの酸化物中の燐の原子数を指数で表示したものを、当該領域における酸化物に含まれる燐のアトミック%とした。なお、酸化物としての燐と他の燐との判別は、燐原子のX線光電子スペクトルで測定されるP=p光電子の結合エネルギーの化学シフトに基づいて行うことができる。また、この5nmの深さまでの表層領域は、固体の光電子分光に関する一般的な文献にて示される、電子の運動エネルギーと脱出深度とによって認識することができる。
【0037】
そして、上記表層領域において、酸化物として含まれる燐の量を1.5 アトミック%以下に抑制することが肝要である。なぜなら、燐の量が1.5 アトミック%をこえて増加するにつれて、ゴムとの接着速度は遅くなり、所望のゴム接着性を確保するにはゴム配合を厳密に規制する等の難しい操作が必要となり、またゴム中の水分率の影響が大きくなり、該水分の低下する冬期の製造ではゴム接着性が確保できなくなるからである。そして、燐の量を1.5 アトミック%以下にすることによって、ゴム中の水分率に関わらずに優れたゴム接着性を安定して得ることが可能になる。
【0038】
また、めっき層における銅の量について、ゴムとの接着性に関与するめっき最表面の銅含有率がめっき内部域に比較して低いことは既に述べたとおりであるが、この銅含有率の低い領域を測定したところ、めっきの表面からワイヤ半径方向内側に5〜10nmの深さまでの、燐に関する領域とほぼ同じ領域であり、この領域において銅含有率が表面に向かって少なくなる、濃度勾配を有することも見出した。
【0039】
このめっき層の表層領域における銅含有率の低下が、めっき組成が同じ場合にも係わらず、ゴム接着性が低下することの要因となっていた。この銅含有率の低下の影響を回避するには、該表層領域における銅および亜鉛の総量に対する銅の比率を50アトミック%以上とすることが肝要である。より好ましくは、めっき層において銅の含有率をワイヤの径方向に均一にすること、つまり銅に関して濃度勾配がないことが推奨される。
【0040】
一方、表層領域における銅および亜鉛の総量に対する銅の比率が80アトミック%をこえると、耐熱接着性や耐水分接着性が低下する不利をまねくことになる。
【0041】
さらに、発明者らは、ゴム接着性のうち、特に劣化後接着性について、以下の検討を行った。
まず、劣化後接着性、例えばゴム物品を高温湿潤環境下で使用する場合に、コードとゴムとの接着性が劣化するのは、初期接着に関与した CuxSが、水分および酸素によって分解されること、さらにめっき中の亜鉛が水分および酸素と反応して脱亜鉛が進行すること、に起因している。従って、劣化後接着性を改善するには、初期接着層が均一かつ緻密であること、そして脱亜鉛が進行し難いめっき組成を有すること、が有効であり、具体的には、以下に示すように、めっき層の表面から深さ方向への銅の濃度分布を制御することが有効である。
【0042】
すなわち、めっきの表面からワイヤ半径方向内側に6nmの深さまでの領域における銅の濃度分布を規制する。ここで、銅の濃度分布を規制する範囲を、めき表面から6nmの深さまでの領域としたのは、該領域が、接着層の均一性や緻密性を支配するめっき中の銅、すなわち CuxSを形成するのに必要な、Cuの拡散可能領域であるからである。
【0043】
そして、上記の6nm深さまでの領域において、銅、亜鉛、炭素および酸素の総原子数に対する銅の原子数比のワイヤ半径方向分布を、二次関数に近似させたとき、該二次関数の二次の変数項における係数を−0.2〔アトミック%/(nm)2〕以下とすることが肝要である。
【0044】
ここに、銅、亜鉛、炭素および酸素の総原子数に対する銅の原子数比のワイヤ半径方向分布の一例を、図1に示すように、めっきの表面からワイヤ半径方向内側に6nmの深さまでの領域における、例えば深さ1nm毎の銅濃度の測定値を結ぶ線分Lを二次関数として捉え、該線分Lを二次式
y=a(x−b)2−{(b2−4ac)/4a}
にて表した際、その二次の変数項における係数aが−0.2〔アトミック%/(nm)2〕以下となるように、銅の濃度分布を規制する。
【0045】
さて、図1に比較例として示すように、従来のめっき層では、銅の濃度分布はめっき表面から内部へ直線的(二次の変数項の係数が0近くなる)に増加するのが通例であるが、この発明に従って銅の濃度分布を規制した、めっき層においては、二次関数の二次の変数項における係数がマイナス、つまり下に開く傾きで銅濃度がめっき内部に向かって急激に増加するところに特徴がある。なお、図1に示した濃度分布は、めっき表面から内部へイオンエッチングを繰り返しながら、各深さ毎に銅原子の定量を行った結果について示したものである。
【0046】
かような銅の濃度分布をめっきの表層に与えることによって、劣化後接着性が向上する理由は、CuxS形成に際し、めっき内部の銅濃度が同表層のそれに対して高いことによって、ゴム側の銅が拡散し易い状況が生じるからであると推察される。劣化後接着性は、銅の絶対値が高い程、良くなるとは限らない。とりわけ、二次の変数項における係数を−0.2〔アトミック%/(nm)2〕以下とすることは、急激に耐湿熱接着性を改良する効果がある。
【0047】
また、めっき層の平均厚みは0.13〜0.35μmであることが好ましい。すなわち、めっき層の平均厚みが0.13μm未満では、鉄地が露出する部分が増加し初期接着性が阻害され、一方0.35μmをこえると、ゴム物品使用中の熱によって過剰に接着反応が進行し脆弱な接着しか得られなくなるからである。
【0048】
さらに、ブラスめっき層における銅および亜鉛の総量に対する銅の比率が60〜70重量%、かつ表層領域における銅および亜鉛の総量に対する銅の比率が15〜45アトミック%であることが好ましい。まず、めっき層全体における銅および亜鉛の総量に対する銅の比率が60重量%未満になると、伸線性が悪化して断線による生産性が阻害されて量産することが難しくなる上、表層領域における後述の銅含有率を15アトミック%以上に制御することが難しくなる。一方、同70重量%をこえると、耐熱接着性や耐水分接着性が低下し、タイヤが曝される環境に対して十分な耐久性を維持できなくなる上、表層領域における後述の銅含有率を45アトミック%以下に制御することが難しくなる。
【0049】
さらにまた、表層領域における銅および亜鉛の総量に対する銅の比率が15アトミック%未満になると、表層領域における燐の量を上記した1.5 アトミック%以下に制限した場合にあっても、ゴムとの接着反応に乏しくなる結果、より優れたゴム接着性の確保が難しくなる。一方、同45アトミック%をこえると、耐熱接着性や耐水分接着性が低下する不利をまねく。
【0050】
ワイヤの直径は0.40mm以下であることが有利である。なぜなら、0.40mmをこえると、使用したゴム物品が曲げ変形下でくり返し歪みを受けたときに、表面歪が大きくなり、座屈を引き起し易くなるからである。
【0051】
上記したワイヤは、その複数本を撚り合わせることによって、ゴム物品、中でもタイヤのカーカスやベルトの補強材に適した、スチールコードとすることができる。特に、乗用車用タイヤ、中でも乗用車用ラジアルタイヤのベルトに適用する場合は、ゴムとの接着速度が速くなることによって、タイヤの加硫時間を大幅に短縮可能となる。一方、トラックおよびバス用タイヤ、中でもトラックおよびバス用ラジアルタイヤのカーカスに適用する場合は、ビード部においてゴムとの接着速度が速くなるため、加硫時間の短縮に併せて、ビード部耐久性の向上をもはかることが可能である。
【0052】
なお、上記表層領域における酸化物に含まれる燐の量を1.5 アトミック%以下とするには、伸線加工のパススケジュール、ダイスのエントランスやアプローチの形状並びに角度、ダイスの材質および潤滑剤組成などの調整を、単独または適宜組み合わせて行うことによって、上記表層領域における酸化物に含まれる燐の量を抑制することができる。とりわけ、最終伸線工程において、極圧添加剤を含む潤滑剤を通常と同様に用いて、最終伸線工程の概略20パスのダイスのうち最終パスまたは最終パスを含む後段数パス程度に、優れた自己潤滑性に併せて優れた切削性を有する材質から成るダイス、例えば焼結ダイヤモンドダイスを適用して伸線加工を行うことが、極めて有効である。
【0053】
この手法は、ブラスめっきの表面からワイヤ半径方向内側に6nmの深さまでの領域における、銅、亜鉛、炭素および酸素の総原子数に対する銅の原子数比のワイヤ半径方向分布を、二次関数に近似させたとき、該二次関数の二次の変数項における係数を−0.2〔アトミック%/(nm)2〕以下とする場合にも有効である。
【0054】
一方、表層領域における銅および亜鉛の総量に対する銅の比率を50アトミック%以上に、かつ銅に関して濃度勾配のないめっき層とするには、さらに以下の手法を採用することが望ましい。すなわち、有機溶剤を含浸させた綿布など、ワイヤに施したブラスめっき層の表面から数nmのオーダーでの除去が可能である、機械研磨が適合する。この機械研磨工程を、上記したワイヤの製造プロセスを適宜に変更して組み込むことによって、工業的規模の生産が可能になる。
【0055】
ところで、トラック、バス用タイヤや産業車両用タイヤなどの重荷重用タイヤでは、コードによる補強度合いが高いために、コードとしての役割を十分に発揮させるために、コードを所定の形状に保持するために、撚り合わせた複数本のフィラメントの束にラッピングワイヤを螺旋状に巻き付けて、束ねを強化している。このラッピングワイヤについても、当然スチールコードを被覆するゴムと確実に接着する必要があり、そのためにラッピングワイヤの周面にもブラスめっきが施されている。
【0056】
すなわち、上記した使途の、高圧充填下で使用される重荷重用タイヤにおいて、補強を司るコードには、例えば図2に示す、いわゆる多層撚りまたは複撚り構造のものが用いられてきた。かように、この種のコードでは、多数本のフィラメント1からなる束の周面にラッピングワイヤ2が螺旋状に巻き付けられているため、例えばタイヤの負荷転動中に大きな曲げ入力があった場合にも、ラッピングワイヤ2の作用によってフィラメントがばらけることがなく、耐座屈疲労性に優れた耐久力を有する。
【0057】
ここで、図3に示すように、ラッピングワイヤ2は、フィラメント束3の周面に螺旋状に巻き付けられているために、例えばタイヤの負荷転動中にラッピングワイヤ2が軸方向に動き易く、従って長期走行に伴ってラッピングワイヤ2と被覆ゴム4とが相対的にずれる結果、図3(a)に示すように、両者間での接着破壊5を生じる、おそれがある。そして、極端な場合は、この接着破壊5が図2(b)から同図(c)に示すように進行し、最終的に被覆ゴムとの摩擦によりラッピングワイヤが切断し、さらにコードのフィラメント自体が摩耗、磨滅すると、コード強力の低下をまねくことになる。
【0058】
この問題は、ラッピングワイヤを省略することにより解決することが可能であるが、タイヤを重荷重下で使用する場合に、負荷転動時のコード座屈を抑制する等、タイヤに対する様々な要求を満足するためには、ラッピングワイヤを省略することが難しいのが実際である。
【0059】
逆に、ラッピングワイヤとゴムとの接着性が改善されれば、ラッピングワイヤの省略を議論する必要はなく、ラッピングワイヤとゴムとの接着破壊に起因したコード強力の低下は回避され、大きな曲げ入力時の耐久性にも優れるタイヤ等のゴム物品の提供が可能になる。
【0060】
そこで、ラッピングワイヤによる優れた耐座屈疲労性を維持したまま、ラッピングワイヤとゴムとの接着性を改善するために、ラッピングワイヤについても、その周面に施したブラスめっきの表面からワイヤ半径方向内側に5nmの深さまでの表層領域における、酸化物として含まれる燐の量を1.5 アトミック%以下に抑制することが、上記したコード本体での場合と同様に有利である。
【0061】
さらに、上記表層領域における銅および亜鉛の総量に対する銅の比率を50〜80アトミック%とすること、そして、劣化後接着性の向上を所期して、ブラスめっきの表面からワイヤ半径方向内側に6nmの深さまでの領域における、銅、亜鉛、炭素および酸素の総原子数に対する銅の原子数比のワイヤ半径方向分布を、二次関数に近似させたとき、該二次関数の二次の変数項における係数が−0.2〔アトミック%/(nm)2〕以下とすることは、ラッピングワイヤにおいても、それぞれ有効である。
【実施例1】
【0062】
表1−1〜1−4に示す仕様に従って製造されたスチールコードについて、JIS G3510(1992)の参考に規定されたゴム接着試験方法に準拠して、ゴム接着性の試験を行った。その結果を、表1−5〜1−8に示す。この接着試験で使用したゴムの配合は、表1−9に示すとおりである。なお、表1−5および1−6には被覆ゴムに一般に用いる量のコバルト金属塩を添加した場合の接着性能を示し、表1−7および1−8にはコバルト塩を無添加の場合の被覆ゴムとの接着性能を示した。さらに、表1−1に示すスチールコードは、主に乗用車用タイヤや小型トラック用タイヤなどのベルトコードに用いられ、表1−2に示すスチールコードは、主にトラックおよびバス用タイヤのベルトコード並びにカーカスプライコードに用いられている。
【0063】
また、めっき層の表層領域における燐の定量は、X線光電子分光法を用いて、ワイヤの曲率の影響を受けないように20〜30μmφの分析面積にて、ワイヤのめっき表層領域に存在する原子、つまりC,Cu,Zn,O,PおよびNの原子数を計測し、C,Cu,Zn,O,PおよびNの合計原子数を100 としたときの、Pの原子数の比率を求めた。各原子の原子数は、C:C1S、O:O1S、P:P2P、Cu:Cu2p3/2、Zn:Zn2p3/2およびN:N1Sの光電子のカウント数を用いて、それぞれの感度係数で補正して求めた。
【0064】
例えば、燐の検出原子数〔P〕は下式にて求めることができる。
[P] =F(P2pの感度係数)×(一定時間当たりのP2p光電子のカウント) そして、他の原子についても同様に検出原子数を求めれば、それらの結果から燐の相対原子%を次式
P%={[P] /([Cu] +[Zn]+[C] +[O] +[N] +[P] )}×100
に従って求めることができる。
【0065】
なお、分析前のワイヤの表面がオイル等で覆われていたり有機物で汚染されている場合には、適切な溶媒で洗浄し、さらに必要に応じて表面を改質しない程度の軽度の乾式クリーニングを施した。
【0066】
【表1−1】

【0067】
【表1−2】

【0068】
【表1−3】

【0069】
【表1−4】

【0070】
【表1−5】

【0071】
【表1−6】

【0072】
【表1−7】

【0073】
【表1−8】

【0074】
【表1−9】

【0075】
表1−5における比較例1−1には、在来のワイヤを用いた1×3×0.30(mm)構造のスチールコードと通常使用される被覆ゴムとの接着剥離試験の結果を示し、同比較例1−2には、在来のワイヤを用いた1×5×0.225(mm)構造のスチールコードと通常使用される被覆ゴムとの接着剥離試験の結果を示してある。
【0076】
一方、発明例1−1は、比較例1−1の場合と全く同様の熱処理下において、伸線潤滑条件を適宜変更するとともに最終伸線の後段の適宜のダイスに焼結ダイヤダイスを用いて、最終ワイヤのめっき表層領域におけるPを1.50アトミック%まで低減させた例である。同様に、発明例1−2は、最終ワイヤのめっき表層領域におけるPを1.00アトミック%まで低減させた例である。
【0077】
比較例1−1においては160℃×18分、比較例1−2では同13分程度の加硫時間を確保しなければ、100%のゴム付着率が確保されないのに比し、発明例1−1では160℃×9分の加硫でゴム付着率が100%に、発明例1−2に至ってはゴムの加硫が完全でない5分程度でも100%のゴム付着率が確保されている。同様に、発明例1−3および1−4では、ワイヤの径が細いことと引張強さの低さとが関連しているものと推測されるが、より容易に表層領域でのPの低減が可能であり、いずれも160℃×5分で100 %のゴム付着率が得られた。このようにゴム組成物に一般に添加される量の接着促進剤が使われる場合、ワイヤのめっき表層領域のP量を1.5アトミック%以下にすれば、大幅に接着速度を改善でき、タイヤの加硫時間の短縮など生産性の大幅改善が可能となる。
【0078】
次に、表1−2には主に大型タイヤで使われる層撚りコードの事例を示してあり、発明例1−5および1−6は特にベルトコードに適した、径が0.34mmと太く引張強さの高い事例である。これら発明例1−5および1−6と、伸線までは同一の製造プロセスで作られた比較例1−3とを対比すると、発明例1−5および1−6はめっき表層領域のPの減量に成功したため、表1−6に示すように、接着速度の大幅向上を達成できた。
【0079】
また、発明例1−7および1−8は、カーカスプライコードに適した、径が0.21mmと細く引張強さも最高クラスの事例である。これら発明例1−7および1−8と、伸線までは同一の製造プロセスで作られた比較例1−4とを対比すると、発明例1−7および1−8はめっき表層領域のPの減量に成功したため、接着速度の大幅向上を達成できた。すなわち、めっき表層領域のP量を通常レベルの半分以下(1.00アトミック%以下)まで低減すれば、145℃で7.5分程度で100%のゴム付着率を確保できる。大型タイヤの場合には、タイヤ耐久性の面から小型タイヤと対比して低温での加硫が行われるのが一般的であるから、当然加硫時間も長くなる結果、この加硫時間をゴム接着速度が制限してしまうことが多く、接着速度の大幅向上は即タイヤの生産本数の増大に繋げる事が可能となる。さらに、加硫時間の短縮は、過加硫になる材料の物性劣化の抑制にも繋がり、タイヤ性能の向上にも貢献できる。
【0080】
表1−7に示された比較例1−5には、在来のフィラメントを用いた1×5×0.225(mm)構造のスチールコードと通常使用される被覆ゴムから接着促進剤を除去したゴムとの接着剥離試験の結果を示してある。一方、発明例1−9、1−10および1−11は、比較例1−5と全く同様の熱処理下において、伸線潤滑条件を適宜変更するとともに最終伸線の後段の適宜のダイスに焼結ダイヤダイスを用いて最終ワイヤのめっき表層領域のP量を1.2〜0.8アトミック%まで低減した事例である。比較例1−5では、160 ℃×15分に至っても100 %のゴム付着率を確保できないにも関わらず、発明例1−9、1−10および1−11の順に、めっき表層領域のP量を低減するに従って、比較例1−2に示した接着促進剤添加ゴムとの接着性をこえるレベルまでゴム接着性を改良することができた。
【0081】
表1−8の比較例1−6には、在来のフィラメントを用いた(3+8)×0.21(mm)構造のスチールコードと通常使用される被覆ゴムから接着促進剤を除去したゴムとの接着剥離試験の結果を示してある。一方、発明例1−12、1−13および1−14は、比較例1−6と全く同様の熱処理下において、伸線潤滑条件を適宜変更するとともに最終伸線の後段の適宜のダイスに焼結ダイヤダイスを用いて最終ワイヤのめっき表層領域のP量を1.31〜0.75アトミック%まで低減した事例である。比較例1−6では、145℃×30分に至っても100%のゴム付着率を確保できないだけでなく、接着を完結させることもできないにも関わらず、発明例1−12、1−13および1−14の順に、めっき表層領域のP量を低減するに従って、比較例1−4に示した接着促進剤添加ゴムとの接着性をこえるレベルまでゴム接着性を改良することができた。とりわけ、発明例1−14に至っては、コバルト無添加ゴムとのゴム付着率を145 ℃×10分でもほぼ100 %を確保できるから、加硫時間短縮のみならず、接着促進剤の持つ様々の弊害をも取り除くことが可能になる。
【0082】
以上の各表における比較から、この発明のワイヤは、先に従来技術として提示した特公平7−8971号公報および国際公開97/23311 公報等に記載された技術とは、その内容においてもその効果においても全く異なる範疇に属することが明らかである。
【実施例2】
【0083】
表2−1および2−2に示す仕様に従って製造されたスチールコードについて、JIS G3510(1992)の参考に規定されたゴム接着試験方法に準拠して、ゴム接着性の試験を、室温(RT)およびより過酷な−60℃の低温(LT)の下で、それぞれ行った。その結果を、表2−3および2−4に示す。この接着試験で使用したゴムの配合は、上記の表1−9に示したとおりである。なお、表2−1に示すスチールコードは、主に乗用車用タイヤや小型トラック用タイヤなどのベルトコードに用いられ、表2−2に示すスチールコードは、主にトラックおよびバス用タイヤのベルトコード並びにカーカスプライコードに用いられている。
【0084】
また、表2−1および2−2に示した、いくつかの例について、めっき層のワイヤ径方向の銅濃度(アトミック%)分布を図4に示すとともに、表2−5に、これらの例におけるめっき表面の燐濃度(mass%)を示す。
【0085】
ここで、めっき層の表層領域における燐の定量は、上記実施例1の場合と同様に行った。また、銅の濃度についても、上記と同じ手順での定量が可能である。さらに、めっき表面から内部への銅濃度分布は、イオンエッチングを組み合わせることによって可能であり、既知の厚さのブラス箔に対するエッチング速度から実際の深さを換算することもできる。
【0086】
なお、分析前のワイヤの表面がオイル等で覆われていたり有機物で汚染されている場合には、適切な溶媒で洗浄し、さらに必要に応じて表面を改質しない程度の軽度の乾式クリーニングを施した。
【0087】
【表2−1】

【0088】
【表2−2】

【0089】
【表2−3】

【0090】
【表2−4】

【0091】
【表2−5】

【実施例3】
【0092】
表3−1および3−2に示す仕様に従って製造されたスチールコードについて、JIS G3510(1992)の参考に規定されたゴム接着試験方法に準拠して、ゴム接着性の試験を行った。また、劣化後接着性は、空気(酸素)存在下で湿度:100 %および温度:75℃の雰囲気中に2〜6日間放置し、その後上記のゴム接着性試験を行って評価した。その結果を、表3−3および3−4に示す。この接着試験で使用したゴムの配合は、上記の表1−9に示したとおりである。なお、表3−3には被覆ゴムに一般に用いる量のコバルト金属塩を添加した場合の接着性能を示し、表3−4にはコバルト塩を無添加の場合の被覆ゴムとの接着性能を示した。さらに、表3−1および3−2に示すスチールコードは、主に乗用車用タイヤや小型トラック用タイヤなどのベルトコードに用いられ、その使途では外部からの活性成分による影響を受け易い。
【0093】
また、めっき層の表層領域における燐の定量は、上記の実施例1の場合と同様に行った。なお、分析前のワイヤの表面がオイル等で覆われていたり有機物で汚染されている場合には、適切な溶媒で洗浄し、さらに必要に応じて表面を改質しない程度の軽度の乾式クリーニングを施した。
【0094】
【表3−1】

【0095】
【表3−2】

【0096】
【表3−3】

【0097】
【表3−4】

【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】めっき層の深さ方向における銅の濃度分布を示すグラフである。
【図2】コードの構造を示す断面図である。
【図3】ラッピングワイヤと被覆ゴムとの接着破壊とその進展を示す模式図である。
【図4】めっき層の深さ方向のCu濃度分布を示すグラフである。
【符号の説明】
【0099】
1 フィラメント
2 ラッピングワイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブラスめっきを施した線材に、燐酸がベースの潤滑剤を用いて伸線加工を施して周面にブラスめっきを有するスチールワイヤを製造するに当って、該スチールワイヤ周面のブラスめっきの表面からワイヤ半径方向内側に5nmの深さまでの表層領域における、酸化物として含まれる燐の量を1.5 アトミック%以下に抑制することを特徴とするゴム物品補強用スチールワイヤの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法にて製造したワイヤの複数本を撚り合わせて成ることを特徴とするゴム物品補強用スチールコード。
【請求項3】
1対のビード部間でトロイド状に延びるカーカスを骨格とし、このカーカスの径方向外側にベルトをそなえるタイヤにおいて、該カーカスおよびベルトのいずれか一方または両方に、請求項1に記載のスチールワイヤまたは請求項2に記載のスチールコードを適用したことを特徴とするタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−217858(P2007−217858A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−31059(P2007−31059)
【出願日】平成19年2月9日(2007.2.9)
【分割の表示】特願2002−566028(P2002−566028)の分割
【原出願日】平成14年2月21日(2002.2.21)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】