説明

サスペンションのアッパーマウント装置

【課題】少ないプレート枚数および少ない取り付けボルト本数で、キャンバーおよびキャスタ角の調整を可能とするアッパーマウント装置を提供する。
【解決手段】アッパープレート2に対し、ショックアブソーバの上端部が接続されるピロボールが取り付けられたピロボディ6をキャンバ角調整可能としてメインプレート4にキャンバ角調整用ボルト(14a〜14d)を介して固定し、アッパープレート2に対しメインプレート4をキャスタ角調整可能として取り付けボルト(8a〜8c)にスライド可能に支持させ、アッパープレート2を取り付けボルト(8a〜8c)に固定させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用サスペンションのアッパーマウント装置に関し、特に、キャンバとキャスタを調整する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用のサスペンション(懸架装置)は、ショックアブソーバと、このショックアブソーバの上端部と車体との間に設けられるアッパーマウント装置とにより構成されている。
【0003】
このようなアッパーマウント装置において、ショックアブソーバの下端部に取り付けられる車輪のキャンバ角やキャスタ角を調整する機構を備えた構成が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0004】
特許文献1に記載のアッパーマウント装置は、上下3枚のプレートを重ね合わせ、最上位のアッパーシートに複数本(図面では3本)の取り付けボルトを固定し、これら取り付けボルトを車体にナット止めするようにしている。最下位の第2可動プレートには、ショックアブソーバの例えばピストンロッドの先端部が取り付けられるピロボールが取り付けられ、この第2可動プレートをその上の第1可動プレートに対して車体前後方向(キャスタ調整方向)に移動可能にキャスタ調整用の取付ボルトによりボルト止めしている。また、この第1可動プレートは前記アッパーシートに対し、車体左右方向(キャンバ調整方向)に移動可能にキャンバ調整用の取付ボルトによりボルト止めしている。
【0005】
一方、特許文献2に記載のアッパーマウント装置は、上下4枚のプレートを重ね合わせ、これら4枚のプレートに対して3本の取り付けボルトを下から上方に向けて挿通させ、この3本の取付ボルトを車体に対して貫通させてナットにより固定する。最下位のプレートは、3本の取付ボルトが装着される下取付プレートであり、その上の第1プレートにショックアブソーバの例えばピストンロッドの先端部が取り付けられるピロボールを固定している。また、その上の第2プレートには、車体前後方向(キャスタ調整方向)に延びる長孔が形成され、この長孔を通して前記第1プレートにキャスタ調整用の固定ボルトを螺着している。さらに、最上位の上取付プレートには、車体左右方向(キャンバ調整方向)に延びる長孔が形成され、この長孔を通して前記第2プレートにキャンバ調整用の固定ボルトを螺着している。また、前記第1プレートには、前記第1プレートが車体左右方向および前後方向に移動しても、前記取り付けボルトと干渉しない四角孔を形成し、前記第2プレートには、前記第2プレートを車体の左右方向に沿った移動をガイドする長孔を形成している。
【0006】
上記した特許文献1に記載のアッパーマウント装置は、キャンバ調整用の取付ボルトを緩め、第2可動プレートと一体の第1可動プレートを車両の左右方向にスライドさせることにより、ショックアブソーバの上端部の左右方向位置を変更し、タイヤのキャンバ角を調整する。また、キャスタ調整用のボルトの2種類のボルトのうち一方を取り外し、他方を緩めることにより、ショックアブソーバの上端部の前後方向位置を変更し、タイヤのキャスタ角を調整する。
【0007】
また、上記した特許文献2に記載のアッパーマウント装置は、取付ボルトを全て緩めて第1プレートおよび第2プレートをスライド可能な状態とし、キャンバ角調整ではキャンバ調整用の固定ボルトを緩めて第1プレートと一体に第2プレートを車両の左右方向に移動させてタイヤのキャンバ角を調整し、キャスタ角調整では、キャスタ調整用の固定ボルトを緩めて第1プレートを第2プレートに対して車両の前後方向に移動させてタイヤのキャスタ角を調整する。
【0008】
なお、上記した特許文献1、2に記載のアッパーマウント装置において、キャスタ角およびキャンバ角の調整の際は、車体をジャッキアップして行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−224829号公報
【特許文献2】特許第3960846号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記の特許文献1に記載のアッパーマウント装置では、第1可動プレートとアッパーシートとを固定するボルトや、第2可動プレートと第1可動プレートとを固定するボルトなどの数が多く、構成が複雑であった。
【0011】
また、特許文献1に記載のアッパーマウント装置では、キャスタ角を調整する場合には、第2可動プレートを第1可動プレートに対して固定するボルトのうち一部のボルトを取り外さなければならず、キャスタ角調整のための操作が煩雑であった。
【0012】
上記の特許文献2に記載のアッパーマウント装置では、キャスタ角やキャンバ角の調整に用いる固定ボルトを取り外さなくても、キャスタ角やキャンバ角を調整することができるが、プレートの数が多く、構成が複雑であった。
【0013】
そこで、本発明は、部品数が少なく単純な構成であって、かつ、キャンバー角やキャスター角の調整が容易であるアッパーマウント装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願発明に係るアッパーマウント装置は、車両用サスペンションを構成するショックアブソーバを車体に取り付けるためのアッパーマウント装置において、中央部が開口した中央開口部を有する第1のプレートと、第2のプレートと、前記ショックアブソーバの上端部が軸受を介して接続される第3のプレートとを上方から下方へ順に重ね合わせた本体部と、前記第2のプレートから前記第1のプレートを通して上方に延び、前記第1のプレートに対して軸周り方向の回転が規制されて係合し、上端部側が前記車体に取り付けられる複数の取り付けボルトと、前記第2のプレートを前記第1のプレートに対してキャスタ角調整方向またはキャンバ角調整方向のいずれか一方の第1の方向に前記取り付けボルトにガイドされてスライド可能に案内する、前記第2のプレートに形成した長孔状の第1のガイド孔と、前記第1のプレートに前記第1の方向に沿って形成した長孔状の第1の調整孔と、前記第1の調整孔を通して前記第2のプレートに螺着され、前記第2のプレートを、前記第1の方向における任意の位置で前記第1のプレートに固定する第1の方向調整用ボルトと、前記キャスタ角調整方向またはキャンバ角調整方向のいずれか他方の第2の方向に沿って前記第2のプレートに形成した長孔状の第2のガイド孔と、前記第2のガイド孔を通して前記第3のプレートに螺着され、前記第2の方向における任意の位置で前記第3のプレートを前記第2のプレートに固定する第2の方向調整用ボルトと、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、アッパーマウント装置を車両に取り付けるための取り付けボルトに、第2のプレートを移動させる際のガイドとしての機能も持たせることで、従来に比べアッパーマウント装置を構成する部品数を少なくすることができる。
【0016】
また、アッパーマウント装置を構成する部品数を少なくし、よりシンプルな構成とすることで、アッパーマウント装置を構成する各プレートを固定するボルトの数を必要最小限とし、キャンバ角調整やキャスタ角調整を容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施形態のアッパーマウント装置の分解斜視図である。
【図2】図1のアッパーマウント装置の平面図である。
【図3】図2に示したアッパーマウント装置のピロボディ側からの斜視図である。
【図4】キャスタ角の調整を説明するためのアッパーマウント装置の斜視図である。
【図5】キャスタ角の調整を説明するためのアッパーマウント装置の斜視図である。
【図6】キャンバ角の調整を説明するためのアッパーマウント装置の斜視図である。
【図7】キャンバ角の調整を説明するためのアッパーマウント装置の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0019】
図1は、本実施形態のアッパーマウント装置1の分解斜視図、図2は図1のアッパーマウント装置1の平面図、図3は図2に示したアッパーマウント装置1のピロボディ6側からの斜視図である。
【0020】
本実施形態のアッパーマウント装置1は、自動車用のサスペンション(懸架装置)を構成するショックアブソーバと車体との間に配置されて両者を接続する装置であり、前記ショックアブソーバの例えばピストンロッドの先端部がピロボール6aを介して接続される。このアッパーマウント装置1は、図2に示す面が車体側に取り付けられる面である。なお、本実施形態では、図2に示すX軸方向が車両の車幅(左右)方向、Y軸方向が車両の前後方向となるように、アッパーマウント装置1を車体に固定した場合について説明する。
【0021】
本実施形態のアッパーマウント装置1は、車体に取り付ける場合に車体側から順に、第1のプレートとしてのアッパープレート2と、第2のプレートとしてのメインプレート4と、ピロボール6aが固定される第3のプレートとしてのピロボディ6とを上下方向に配置した構成からなる本体部を有し、車体の構造上規定されるアッパーマウント装着スペースにより、アッパープレート2とメインプレート4とを図示の如く平面視五角形形状に形成している。なお、アッパープレート2やメインプレート4の形状は、図示する形状に限られない。矩形形状や円形状などでもよく、アッパーマウント装置1を取り付ける車体側の構造に応じて、適した形状としてもよい。
【0022】
アッパープレート2は、中央部に大きく開口した中央開口部21を有した環状に形成され、Y軸方向の頂部とX軸方向に沿った長辺22の両端角部に、矩形形状を有する係合孔23a,23b,23cを形成している。これら係合孔23a,23b,23cには、アッパープレート2の厚みより薄い矩形平板状の、規制部材としてのボルト固定部材2a,2b,2cが、アッパープレート2の厚み方向にスライド可能に嵌め込まれる。
【0023】
ボルト固定部材2a、2b、2cには、後述するスタッドボルト8a、8b、8cのセレーション部が圧入される圧入孔部2a1、2b1、2c1が形成されている。圧入孔部2a1、2b1、2c1は、圧入されるスタッドボルト8a、8b、8cのセレーション部82とかみ合って、スタッドボルト8a、8b、8cがZ軸まわりに回転しないように規制する。
【0024】
なお、本実施形態においては、アッパープレート2のY軸方向頂部と長辺22の両端角部に係合穴23a、23b、23cを形成し、スタッドボルト8a、8b、8cを挿通するとしたが、これに限られるものではなく、車両にアッパープレートを確実に固定できれば、中央開口部21の周囲の3つの頂点付近以外の位置に係合孔23a、23b、23cを形成して、スタッドボルト8a、8b、8cを挿通してもよい。また、上述のように、アッパープレート2やメインプレート4の形状を矩形形状などとした場合にも、中央開口部21の周囲の適切な位置にボルト固定部材2a、2b、2cを嵌め込む係合孔23a、23b、23cを形成してもよい。
【0025】
また、中央開口部21の内周部には、X軸方向片側にY軸方向に沿って延びる張出部24を形成し、この張出部24にY軸方向に延びる長孔のキャスタ角調整用のキャスタ角調整孔2dを形成している。
【0026】
メインプレート4は、アッパープレート2と略同サイズの平面視五角形形状に形成され、中央部にX軸方向に沿って延びる長孔の中央長孔43を形成し、この中央長孔43のY軸方向における両側に、X軸方向に延びる長孔のキャンバ角調整用のキャンバ角調整用ガイド孔42a,42bを平行に形成している。
【0027】
メインプレート4の下面には中央部分に円筒部6bを有する円盤形状のピロボディ6が配置され、このピロボディ6の円筒部6b内に球面滑り軸受であるピロボール6aを備えている。そして、ピロボール6aが固定された円筒部6bをメインプレート4の中央長孔43内にはめ込むようにして、メインプレート4にピロボディ6を、キャンバ角調整用ボルト14a,14b,14c,14dにより固定している。
【0028】
ピロボディ6には、メインプレート4に形成したキャンバ角調整用ガイド孔42a,42bの真下に複数のボルト孔61(本実施形態では片側5か所)がそれぞれ形成され、各キャンバ角調整用ガイド孔42a,42bにそれぞれ2本ずつ用意したキャンバ角調整用ボルト14a,14b,14c,14dをキャンバ角調整用ガイド孔42a,42bを通して適宜のボルト孔61にねじ込むことで、ピロボディ6をメインプレート4に固定している(本実施形態では、キャンバ角調整用ボルト14aと14bをキャンバ角調整用ガイド孔42aに、キャンバ角調整用ボルト14cと14dをキャンバ角調整用ガイド孔42bにそれぞれ通す。)。
【0029】
なお、キャンバ角調整用ボルト14a,14b,14c,14dを緩めてピロボディ6をX軸方向にスライド可能とするために、メインプレート4の中央長孔43の短手方向(Y軸方向)における開口幅をピロボール6aが固定された円筒部6bの外径よりも少しだけ大きくし、ガタなくピロボディ6のスライドを行えるようにしている。
【0030】
また、メインプレート4の3つの角部分には、上方に配置されるアッパープレート2の係合孔23a,23b,23cのそれぞれの真下の位置に、Y軸方向に沿って延びる長孔のガイド孔41a,41b,41cが形成され、これらのガイド孔41a,41b,41cにスタッドボルト8a,8b,8cが挿通され、メインプレート4のY軸方向に沿った移動を案内している。
【0031】
本実施形態において、3本のスタッドボルト8a,8b,8cは、座面を構成する頭部81に続いて、外周面に、スタッドボルトの軸方向に沿った溝を周方向に複数形成するセレーション加工が施されたセレーション部82が形成され、さらに、このセレーション部82に続いてねじ部83が形成されている(図1においては、頭部81、セレーション部82及びねじ部83の符号は、スタッドボルト8cにのみ示している)。
【0032】
スタッドボルト8a,8b,8cは、車体に取り付けられる状態では、頭部81を下向きにした状態で、メインプレート4のガイド孔41a,41b,41cに挿通され、さらにメインプレート4に対してZ軸回りに回転不能に保持されているボルト固定部材2a,2b,2cの圧入孔部2a1,2b1,2c1にスタッドボルトのセレーション部82が圧入される。そして、スタッドボルト8a、8b、8cのセレーション部82がボルト固定部材2a、2b、2cの圧入孔部2a1,2b1,2c1に圧入されると、スタッドボルト8a、8b、8cは、ボルト固定部材2a、2b、2cがアッパープレート2の対応する係合孔23a、23b、23cにはめ込まれている状態において、Z軸周りの回転が規制される。
【0033】
また、ガイド孔41a,41b,41cの短手方向(X軸方向)の溝幅は、スタッドボルト8a,8b,8cのセレーション部82の外径よりも少しだけ大きく形成しているため、メインプレート4はスタッドボルト8a,8b,8cにより、Y軸方向にガタなくスライド可能にガイドされる。
【0034】
なお、本実施形態では、ガイド孔41a、41b、41cの形状が長孔であり、スタッドボルトの頭部81の座面がガイド孔41a,41b,41cの周囲と接触する面積が小さいので、十分な接触面積を確保する座面確保ワッシャ10a,10b,10cを用いており、これらの座面確保ワッシャ10a,10b,10cを予めスタッドボルト8a,8b,8cに装着した状態で上記した圧入工程を行う。
【0035】
本実施形態において、座面確保ワッシャ10a,10b,10cを、一対の平行な側面と一対の曲面状の側面を備える板形状に形成し、その長手方向をガイド孔41a,41b,41cの短手方向に跨って配置することでスタッドボルト8a,8b,8cの頭部の座面がメインプレート4と接触する面積を大きくしている。そして、メインプレート4の裏面側には、図3などに示すように、メインプレート4をキャスタ角調整のためにY軸方向にスライドさせる際、座面確保ワッシャ10a,10b,10cが嵌合し、座面確保ワッシャ10a,10b,10cがスタッドボルトの軸周りに回転することを規制する、凹溝部43a,43b,43cが形成される。
【0036】
なお、メインプレート4とアッパープレート2にスタッドボルト8a,8b,8cを挿入し、アッパーマウント装置1として一体化した状態では、スタッドボルトの頭部81は凹溝部43a,43b,43cに内に収まり、メインプレート4の下面から飛び出ない構成となっている。これにより、メインプレート4の下方の部材とスタッドボルトの頭部81などが接触することを防止することができる。
【0037】
なお、座面確保ワッシャは、上述した形状に限られず、円形や矩形でもよいが、座面を確実に確保するという観点からは、上述した座面確保ワッシャ10a、10b、10cの形状が好ましい。
【0038】
これらスタッドボルト8a,8b,8cをアッパープレート2の係合孔23a、23b、23cに嵌め込まれているボルト固定部材2a、2b、2cの圧入孔部2a1、2b1、2c1に対して圧入することで、アッパープレート2とピロボディ6が固定されたメインプレート4とが一体化される。また、メインプレート4には、アッパープレート2のキャスタ角調整孔2dに対応してねじ孔45が形成され、キャスタ角調整孔2dを通してねじ孔45にキャスタ角調整用ボルト12がねじ込まれる。
【0039】
すなわち、本実施形態によるユニット化されたアッパーマウント装置1は、不図示のショックアブソーバの例えばピストンロッドの先端部に取り付けられる。そして、このアッパーマウント装置1を備えたサスペンションを不図示の車体に取り付ける。車体側のアッパーマウント取付部分には、中央開口部21に対応した開口(不図示)が形成され、この開口周りに形成した通し孔(不図示)にスタッドボルト8a,8b,8cのねじ部83を挿通し、ナット(不図示)をねじ部83に螺合することでサスペンションを車体に固定する。その際、ボルト固定部材2a,2b,2cがアッパープレート2の係合孔23a,23b,23cにはめ込まれてZ軸周りに回転不能に保持されているので、ナット締めの際にスタッドボルト8a,8b,8cが不用意に回転することがない。
【0040】
ここで、本実施形態のアッパーマウント装置1を車体に固定する際に、スタッドボルト8a、8b、8cに螺合されるナット(不図示)を締め付けると、セレーション部82にボルト固定部材2a、2b、2cが押し上げられ、ボルト固定部材2a、2b、2cがセレーション部82と車体側と挟持される。そして、さらにナットを締め付けると、スタッドボルト8a、8b、8cの座面によってメインプレート4がアッパープレート2に押し付けられるとともに、スタッドボルト8a、8b、8cのセレーション部82がボルト固定部材2a、2b、2cの圧入孔部2a1、2b1、2c1に圧入される。この状態では、スタッドボルト8a、8b、8cと車体側のナットの締付力により、メインプレート4がスライドしないように固定される。
【0041】
一方、スタッドボルト8a、8b、8cが車体側のナットにより締め付けられた状態から、ナットを緩めると、スタッドボルト8a、8b、8cの座面の位置が下がり、それに伴って、メインプレート4とアッパープレート2も、ピロボディ6以下の荷重と自重により下方に移動する。この際、スタッドボルト8a、8b、8cは、ボルト固定部材2a、2b、2cに対して圧入しているが、ボルト固定部材2a、2b、2cとアッパープレート2は、互いに厚み方向にスライド可能な別部材であるため、キャスタ角調整用ボルト12を緩めた状態であれば、アッパープレート2とメインプレート4とが互いにX軸方向に押し付けられて固定される力は働かない。
【0042】
また、セレーション部82や圧入孔部2a1、2b1、2c1の径、そして、ボルト固定部材2a、2b、2cの厚みなどを、スタッドボルト8a、8b、8cのセレーション部82を、ボルト固定部材2a、2b、2cの圧入孔部2a1、2b1、2c1に圧入した状態において、スタッドボルトの座面とボルト固定部材の下面との間隔が、メインプレート4の凹溝部43a,43b,43cにおける厚みよりも大きくなるように設定している。これにより、ボルト固定部材2a、2b、2cにスタッドボルト8a、8b、8cが圧入されており、スタッドボルト8a,8b,8cの座面とボルト固定部材2a、2b、2cの下面との間隔は変わらないが、ボルト固定部材2a、2b、2cはメインプレート4に圧接せず間隔が空いた状態とすることができる。
【0043】
以上の構成により、スタッドボルト8a、8b、8cに螺合されるナットと、キャスタ角調整用ボルト12を緩めれば、メインプレート4をY軸方向にスライドして、キャスタ角の調整を行うことができる。これに対して、圧入孔部2a1、2b1、2c1がアッパープレート2に直接形成されている場合には、スタッドボルト8a、8b、8cやキャスタ角調整用ボルト12による締付を緩めても、スタッドボルト8a、8b、8cがアッパープレート2に圧入されているため、メインプレート4は、スタッドボルトの座面とアッパープレート2の下面に挟持された状態が維持され、スライドできない。また、同様に、スタッドボルト8a、8b、8cをボルト固定部材2a、2b、2cに圧入した状態で、ボルト固定部材2a、2b、2cがメインプレート4に圧接してしまうような構成の場合、ナットを緩めてもボルト固定部材2a、2b、2cとスタッドボルトの座面によってメインプレート4が挟持され、メインプレート4をスライドすることが難しい。
【0044】
また、ボルト固定部材2a、2b、2cを、アッパープレート2とは別部材とすることで、圧入孔部2a1、2b1、2c1とスタッドボルト8a、8b、8cのセレーション部82との接触で、圧入孔部2a1、2b1、2c1が磨耗してZ軸方向の回転を規制できなくなった場合にも、ボルト固定部材2a〜2cのみを交換すればよく、メインテナンス性に優れたものとなっている。
【0045】
次に、本実施形態のアッパーマウント装置1におけるキャスタ角の調整及びキャンバ角の調整について説明する。なお、以下の説明では、アッパーマウント装置1がショックアブソーバ等とともに車体に取り付けられた状態で、キャスタ角およびキャンバ角を調整する場合について説明する。
【0046】
本実施形態のアッパーマウント装置1を備えたサスペンションにおいて、車体をジャッキアップした状態で、ショックアブソーバ以下の荷重は、ピロボディ6からメインプレート4を経てスタッドボルト8a,8b,8cに伝達されて車体で支持する。この場合、スタッドボルト8a,8b,8cのセレーション部83とセレーション結合しているアッパープレート2にはキャスタ角調整用ボルト12を介した締付け力が加わる。
【0047】
そして、図4および図5に示すキャスタ角調整の際には、まず、車体をジャッキアップしてスタッドボルト8a、8b、8cを緩め、スタッドボルト8a、8b、8cによってメインプレート4をアッパープレート2に押し付けて固定していた力を弱める。そして、キャスタ角調整用ボルト12を少し緩めると、メインプレート4をアッパープレート2に対して固定する全てのボルトが緩められた状態となる。そうすると、メインプレート4は、ガイド孔41a,41b,41cがスタッドボルト8a、8b、8cによってガイドされながら、アッパープレート2に対して車体の前後方向(Y軸方向)であるキャスタ角調整方向に移動させることができる。つまり、メインプレート4をキャスタ角調整方向にスライドさせることで、ピロボディ6に接続されるショックアブソーバを車体の前後に傾けてキャスタ角を調整することができる。そして、キャスタ角の調整が終了した場合には、キャスタ角調整用ボルト12を締め付けてメインプレート4のY軸方向の位置を固定し、さらに、スタッドボルト8a、8b、8cをナットで締め付けて車体側に固定することにより、アッパープレート2に対するメインプレート4の前後方向位置が固定される。なお、スタッドボルト8a、8b、8cとキャスタ角調整用ボルト12を緩める順番及び締め付ける順番は、上述した順番に限られず、どのような順番でもよい。
【0048】
一方、図6および図7に示すキャンバ角調整に際しては、スタッドボルト8a,8b,8cを緩める必要はない。キャンバ角調整の場合には、ショックアブソーバ以下の荷重がキャンバ角調整用ボルト14a,14b,14c,14dに加わるが、メインプレート4を介して3本のスタッドボルト8a,8b,8cにも加わっているため、車体のジャッキアップ量を調整し、緩めたキャンバ角調整用ボルト14a,14b,14c,14dの座面にできるだけ荷重が加わらない状態で、ピロボディ6を、メインプレート4に対して車体の左右方向(X軸方向)であるキャンバ角調整方向に移動させる。そして、キャンバ角の調整が終了した場合には、キャンバ角調整用ボルト14a,14b,14c,14dを締め付けることにより、メインプレート4に対するピロボディ6の左右方向位置が固定される。
【0049】
以上の本実施形態のアッパーマウント装置1によれば、部品数を少なくし、構成をシンプルなものにすることができる。また、スタッドボルト8a、8b、8cの回転を規制するプレートと、スタッドボルトの座面が接するプレートを別のプレートとし、スタッドボルト8a、8b、8cをプレートの移動のガイドとして利用することで、従来に比べボルト等の締付部材の数が少なくても、キャンバ角とキャスタ角の両方が調整可能なアッパーマウント装置を提供することができる。また、本実施形態のアッパーマウント装置1によれば、締付部材の数も少なく構造もシンプルであるため、キャンバ角やキャスタ角の調整も容易である。
【0050】
なお、図3などにおいて、ピロボディ6は円形の部材として示したが、これに限られるものではなく、ピロボール6aを保持可能であり、サスペンションを取り付けることが可能であれば、どのような形状でもよい。
【0051】
なお、本実施形態のアッパーマウント装置1におけるキャスタ角及びキャンバ角の調整では、メインプレート4やピロボディ6を、可動範囲内の任意の位置にスライドさせて固定することができるとしたが、調整を行いやすくするために、アッパープレート2やメインプレート4に目盛を設けることもできる。例えば、キャンバ角の調整のために、メインプレート4の表面に、キャンバ角調整用ガイド孔42a(42b)に沿って目盛を設け、その目盛とピロボディ6との位置関係を見ることで、メインプレート4に対するピロボディ6のスライド量を正確に調整することができる。
【0052】
また、本実施形態においては、図1等において、Y軸方向を車両の前後方向、つまりキャスタ角調整方向とし、X軸方向を車幅方向、つまりキャンバ角調整方向として説明したが、これに限られるものではなく、Y軸方向をキャンバ角調整方向とし、X軸方向をキャスタ角調整方向として利用してもよい。すなわち、例えば、アッパーマウント装置1を、X軸方向が車体の前後方向、Y軸方向が車幅方向となるように取り付け、メインプレート4をスライドさせてキャンバ角を調整し、ピロボディ6をスライドさせてキャスタ角を調整するものとしてもよい。
【0053】
また、本実施形態においては、スタッドボルト8a、8b、8cと、座面確保ワッシャ10a、10b、10cを別部材として説明したがこれに限られるものではない。例えば、スタットボルト8a、8b、8cの座面の形状を、座面確保ワッシャ10a、10b、10cと同様の形状として、スタッドボルトと座面確保ワッシャとを一体としてもよい。これにより、アッパーマウント装置1の部品点数をより減らすことができる。
【0054】
また、本実施形態においては、スタッドボルト8a、8b、8cとボルト固定部材2a、2b、2cとは、スタッドボルトのセレーション部82と圧入孔部2a1、2b1、2c1との係合により、スタッドボルト8a、8b、8cのZ軸周りでの回転が規制され、圧入によって、ボルト固定部材2a、2b、2cとメインプレート4とが、互いに一定の間隔が空くように組み合わせられる構成として説明したが、これに限られるものではない。スタッドボルト8a、8b、8cとボルト固定部材2a、2b、2cとは、少なくとも、Z軸周りでの回転が規制されるように係合していてもよい。つまり、スタッドボルトのセレーション部82とボルト固定部材2a、2b、2cとの係合は、両者が噛み合ってスタッドボルトのZ軸周りの回転は規制されるが、圧入状態ではなく、ボルト固定部材2a、2b、2cがスタッドボルトの軸方向にスライド可能な状態で係合するものでもよい。この場合であっても、スタッドボルトに螺合するナットとキャスタ角調整用ボルト12を緩めれば、メインプレート4を固定する力が解除され、Y軸方向にスライドさせてキャスタ角の調整が可能になる。
【符号の説明】
【0055】
1 アッパーマウント装置
2 アッパープレート
2a,2b,2c ボルト固定部材 2d キャスタ角調整孔
21 中央開口部
4 メインプレート
41a,41b,41c (キャスタ角調整用)ガイド孔
42a、42b キャンバ角調整用ガイド孔
43 中央長孔
43a〜43c 凹溝部
6 ピロボディ
6a ピロボール
8(8a〜8c) スタッドボルト
10a,10b,10c 座面確保ワッシャ
12 キャスタ角調整用ボルト
14a,14b,14c,14d キャンバ角調整用ボルト


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用サスペンションを構成するショックアブソーバを車体に取り付けるためのアッパーマウント装置において、
中央部が開口した中央開口部を有する第1のプレートと、第2のプレートと、前記ショックアブソーバの上端部が軸受を介して接続される第3のプレートとを上方から下方へ順に重ね合わせた本体部と、
前記第2のプレートから前記第1のプレートを通して上方に延び、前記第1のプレートに対して軸周り方向の回転が規制されて係合し、上端部側が前記車体に取り付けられる複数の取り付けボルトと、
前記第2のプレートを前記第1のプレートに対してキャスタ角調整方向またはキャンバ角調整方向のいずれか一方の第1の方向に前記取り付けボルトにガイドされてスライド可能に案内する、前記第2のプレートに形成した長孔状の第1のガイド孔と、
前記第1のプレートに前記第1の方向に沿って形成した長孔状の第1の調整孔と、
前記第1の調整孔を通して前記第2のプレートに螺着され、前記第2のプレートを、前記第1の方向における任意の位置で前記第1のプレートに固定する第1の方向調整用ボルトと、
前記キャスタ角調整方向またはキャンバ角調整方向のいずれか他方の第2の方向に沿って前記第2のプレートに形成した長孔状の第2のガイド孔と、
前記第2のガイド孔を通して前記第3のプレートに螺着され、前記第2の方向における任意の位置で前記第3のプレートを前記第2のプレートに固定する第2の方向調整用ボルトと、
を備えることを特徴とするアッパーマウント装置。
【請求項2】
前記第1のプレートは、前記取り付けボルトの軸周り方向の回転を規制する規制部材をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のアッパーマウント装置。
【請求項3】
前記規制部材は、前記取り付けボルトが圧入されて前記取付ボルトに対して固定される圧入孔部を有することを特徴とする請求項2に記載のアッパーマウント装置。
【請求項4】
前記取り付けボルトの頭部の座面と、前記第2のプレートの前記座面と対向する面との間に、前記第1のガイド孔の短手方向に跨るワッシャを介在させたことを特徴とする請求項1または2に記載のアッパーマウント装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−255832(P2011−255832A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−133558(P2010−133558)
【出願日】平成22年6月11日(2010.6.11)
【出願人】(394016106)株式会社キャロッセ (18)
【Fターム(参考)】