説明

サスペンションのスプリングシート及びサスペンション

【課題】サスペンションに用いられるスプリングの伸縮時の撓みの問題を解消し、車両の快適な運転及び乗り心地を実現するとともに、支持ロッドに発生する横方向へのフリクションの低減から長寿命化を実現する。
【解決手段】サスペンションに用いられるスプリング(10)を支持するスプリングシート(11)において、略円板状のスプリングシート(11)の中心部に内蔵され、かつ、互いに平行な2つの平坦面(11d1,11d2)と、該2つの平坦面(11d1,11d2)間を各平坦面に対して垂直方向に貫通するボール孔(11d3)と、2つの平坦面(11d1,11d2)の各々の周縁間に延在する球体側面(11d4)とを具備するピロボール(11d)と、ピロボール(11d)の球体側面(11d4)を転動自在に受容するべく前記スプリングシート(11)の内部に形成された球面内壁(11e1)と、を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のサスペンションに用いられるコイルスプリングの端部を支持するスプリングシート、及び、これを用いたサスペンションに関する。
【背景技術】
【0002】
図4は、車両のサスペンションの従来技術の一例を示す図である。図示のサスペンションの形態は、オイルダンパーであるショックアブソーバとコイルスプリングとが、一体化されたコイルオーバー式と称されるものである。以下、本明細書では、コイルスプリングを単に「スプリング」と称することとする。
【0003】
図4(a)は、サスペンションの全体側面図である。ショックアブソーバは、下方から装着部20、シリンダ21、ピストンロッド22及びアッパーマウント24を有し、装着部20により車輪側部品に取り付けられ、アッパーマウント24により車体側部品に取り付けられる。ピストンロッド22の上端には螺子部22aが形成され、ワッシャ25a及びナット25bによりピストンロッド22とアッパーマウント24が連結される。アッパーマウント24は、固定ボルト26により車体側部品に固定される。
【0004】
スプリング10の上下両端は、それぞれスプリングシートにより支持されており、上側のスプリングシートがアッパーシート111であり、下側のスプリングシートがロアシート12である。環状のロアシート12は、ショックアブソーバのシリンダ21の外面に設けられた雄螺子に装着され、ロアシート12の上下方向の位置により車高・プリロードの調整が可能である。
【0005】
図4(b)は、アッパーマウント24及びその上下に配置する各部品の展開側面図であり、図4(c)は、アッパーマウント24の縦断面図である。アッパーマウント24は、板状のマウント本体24aとその中央から上方に突出するリング部24cを有する。アッパーマウント24の下側に装着されるカラー23のヘッド部23aは、アッパーマウント24とアッパーシート111との衝突を避けるためのスペーサとしての役割と、これらの部品の径の相違を調整する役割を果たす。
【0006】
図4の従来例においては、アッパーマウント24の内部にピロボール24bが設けられている。ピロボール24bは、上下の平坦面と、これら上下の平坦面の間を貫通するボール孔24b1と、球体側面とを具備し、球体側面は、ピロボール受け部24dの球面内壁により転動自在に支持されている。ボール孔24b1に対して下方からカラー23のスリーブ部23bが挿入される。さらに、カラー23の貫通孔であるカラー孔23cには、ピストンロッド22が嵌合し、これを貫通する。よって、ピストンロッド22とピロボール24bとは同軸である。ワッシャ25aは、ピロボール24bの上側の平坦面上に載置される。このピロボール24bにより、アッパーマウント24のマウント本体24aは、ピストンロッド22に対して揺動自在である。この構成により、車体の傾きによるサスペンション全体の傾きが緩和される、すなわち吸収される。アッパーマウント24にピロボール24bを設けたタイプのサスペンションは広く用いられており、例えば、特許文献1〜5に記載されている。
【0007】
図4(d)は、従来のアッパーシート111の側面図であり、(e)はその断面図である。アッパーシート111は、略円板状のシート本体111aと、シート本体111aの下面周縁部の平坦なスプリング受け面111cと、スプリング受け面111cの内側にて下方に突出する所定の厚さのシート壁111bとを具備する。シート本体111aの中心の貫通孔であるシート孔111dには、ピストンロッド22が嵌合し、これを貫通する。よって、この従来のアッパーシート111においては、アッパーシート11の軸とピストンロッド22の軸とは、常に一致している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−48933号公報(0006、図11)
【特許文献2】特開2004−314883号公報(図4)
【特許文献3】特開2004−324816号公報(図3)
【特許文献4】特開2001−132789号公報(0051、図7)
【特許文献5】特開2001−39137号公報(0006、図5)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述の従来技術は、スプリング10の支持構造において以下のような問題がある。
図5は、図4に示したサスペンションにおける、スプリング10と、その上下端を支持するアッパーシート111及びロアシート12とを抽出した側面図である。
なお、図5では、スプリングの支持構造のみに着目するために、図4のピストンロッド22を支持ロッド15に替え、アッパーマウント24を固定用部品18に替えて示しており、また、固定用部品18は鉛直方向にのみ移動可能と想定する。アッパーシート111を貫通する支持ロッド15の上端は、適宜の直径のカラー23を介して固定用部品18に固定されている。支持ロッド15の下端は、スプリング10の圧縮に支障の無い程度の位置まで延びている。
【0010】
図5(a)は、スプリング10の無負荷の状態を示す。ここでは、スプリング10の軸が鉛直方向に取り付けられる場合を例として説明する(サスペンション及びそのスプリングは、傾斜して取り付けられる場合もある)。アッパーシート111を貫通する支持ロッド15の軸X2は鉛直方向であり、スプリング受け面111cは水平方向である。
【0011】
図5(b)は、鉛直上方から支持ロッド15に対して所定の圧縮荷重Wを負荷し、スプリング10を圧縮させた状態を示す。圧縮状態においても、アッパーシート111を貫通する支持ロッド15の軸X2は鉛直方向であり、スプリング受け面111cは水平方向である。従来のアッパーシート111では、アッパーシート111の軸X1と、支持ロッド15の軸X2が常に同軸である。
【0012】
ここで、スプリング10には、製造誤差による避けられない歪みが存在する。例えば、スプリング10の上下端におけるクローズドエンドの研削面が正確な水平面からずれたり、スプリング10の各巻きのピッチがずれたりすることによる歪みである。このような歪みが存在すると、鉛直上方から圧縮荷重Wを負荷した場合、スプリング10に対して横方向の応力が生じるため、図5(b)に示すようにスプリング10は真っ直ぐに圧縮されず横方向に撓んでしまう。図5(b)には、この横方向への最大撓みをΔdで示している(図では分かり易いようにやや誇張している)。さらに、圧縮されたスプリングは、次のステップとして当然に伸長するが、伸長時にも真っ直ぐに伸長されず、同様に横方向に撓むこととなる。
【0013】
図5(b)のようなスプリング10の撓みは、低負荷域での走行においてはさほど支障がないが、高負荷域では、運転操作や乗り心地において体感される程度の影響がある。特に、ハンドルを切ったときの応答の遅れとして感じることが多い。
【0014】
上記の問題点に鑑み、本発明は、サスペンションに用いられるスプリングの圧縮時及び伸縮時(これらをまとめて以下「伸縮時」と称する)の撓みの問題を解消し、車両の快適な運転及び乗り心地を実現することを目的とする。さらにコイルオーバー式の場合は、支持ロッドに発生する横方向へのフリクションの低減により、長寿命化を実現する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の問題を解消するべく、本発明は、サスペンションのスプリングを支持するスプリングシートの軸を、圧縮荷重の方向に対して揺動自在とした。ここでの圧縮荷重の方向とは、スプリングシートを貫通する支持ロッドの軸方向である。なお、本発明は、スプリングの両端をそれぞれ支持するスプリングシートのうち、少なくとも1つのスプリングシートに適用される。具体的には、以下の構成を有する。なお、括弧内の数字は後述する図面の符号であり、参考のために付する。
【0016】
本発明による、サスペンションのスプリングシートは、サスペンションに用いられるスプリング(10)を支持するスプリングシート(11)において、略円板状の前記スプリングシート(11)の中心部に内蔵され、かつ、互いに平行な2つの平坦面(11d1,11d2)と、該2つの平坦面(11d1,11d2)間を各平坦面に対して垂直方向に貫通するボール孔(11d3)と、該2つの平坦面(11d1,11d2)の各々の周縁間に延在する球体側面(11d4)とを具備するピロボール(11d)と、前記ピロボール(11d)の球体側面(11d4)を転動自在に受容するべく前記スプリングシート(11)の内部に形成された球面内壁(11e1)と、を具備することを特徴とする。
【0017】
本発明によるサスペンションの第1の態様は、一体化されたスプリング(10)とショックアブソーバとを備え、前記ショックアブソーバは、車輪側部品に取り付けられる装着部(20)と、シリンダ(21)と、ピストンロッド(22)と、該ピストンロッドの上端に装着され車体側部品に取り付けられるアッパーマウント(24)と、を有し、前記スプリング(10)は、該アッパーマウント(24)より下方にて該ピストンロッド(22)を貫通させた第1のスプリングシート(11)と、該シリンダ(21)の外面に取り付けられた第2のスプリングシート(12)との間に支持されている、サスペンションにおいて、前記第1のスプリングシート(11)が、略円板状の前記第1のスプリングシート(11)の中心部に内蔵され、かつ、互いに平行な2つの平坦面(11d1,11d2)と、該2つの平坦面(11d1,11d2)間を各平坦面に対して垂直方向に貫通するボール孔(11d3)と、該2つの平坦面(11d1,11d2)の各々の周縁間に延在する球体側面(11d4)とを具備するピロボール(11d)と、前記ピロボール(11d)の球体側面(11d4)を転動自在に受容するべく前記第1のスプリングシート(11)の内部に形成された球面内壁(11e1)と、を具備することを特徴とする。
【0018】
本発明によるサスペンションの第2の態様は、車輪と車体の間に互いに分離してそれぞれ取り付けられるスプリング(10)とショックアブソーバとを備え、前記スプリング(10)は、車体側部品又は車輪側部品のうち一方に端部が取り付けられる支持ロッド(15)を貫通させた第1のスプリングシート(11)と、車体側部品又は車輪側部品のうち他方に取り付けられる第2のスプリングシート(12)との間に支持されている、サスペンションにおいて、前記第1のスプリングシート(11)が、略円板状の前記第1のスプリングシート(11)の中心部に内蔵され、かつ、互いに平行な2つの平坦面(11d1,11d2)と、該2つの平坦面(11d1,11d2)間を各平坦面に対して垂直方向に貫通するボール孔(11d3)と、該2つの平坦面(11d1,11d2)の各々の周縁間に延在する球体側面(11d4)とを具備するピロボール(11d)と、前記ピロボール(11d)の球体側面(11d4)を転動自在に受容するべく前記第1のスプリングシート(11)の内部に形成された球面内壁(11e1)と、を具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、サスペンションに用いられるスプリングの両端を支持するスプリングシート(アッパーシート及びロアシート)のうち、少なくとも一方のスプリングシートの内部にピロボールを設け、スプリングシートの支持ロッドをピロボールに貫通させることにより、スプリングシートの軸と支持ロッドの軸とを相対的に揺動自在とした。コイルオーバー式サスペンションでは、支持ロッドは、ショックアブソーバのピストンロッドに相当する。
【0020】
これにより、支持ロッドの軸方向に圧縮荷重が負荷されてスプリングが圧縮される場合に、スプリングシートの軸が支持ロッドの軸に対して揺動可能となり、スプリングシートのスプリング受け面が支持ロッドの軸に垂直な面に対して傾斜可能となる。このスプリングシートの傾斜により、スプリングの本来的な歪みにより生じる横方向への応力が相殺され、横方向への撓みが吸収される。この結果、従来のスプリングシートを用いる場合に比べて、スプリングの伸縮時の横方向への撓みが格段に低減され、支持ロッドに発生する横方向へのフリクションも低減される。
これにより、走行時の運転操作感及び乗り心地が改善され、特に高負荷域走行において大きな効果がある。また、コイルオーバー式の場合は、支持ロッドに発生する横方向へのフリクションの低減により、長寿命化も実現される。
【0021】
なお、従来のサスペンションにおいても、ショックアブソーバを車体側部品に取り付けるアッパーマウントにはピロボールが用いられていた(図4の符号24参照)。しかしながら、このアッパーマウントのピロボールの機能は、スプリングとショックアブソーバからなるサスペンション全体を一体的に、車体に対して揺動させるものであり、本発明とは目的も作用効果も異なっている。例えば、図4(a)において、ピストンロッド22の軸がアッパーマウント24に対して傾斜すると、アッパーシート111の軸もピストンロッド22の軸と共に傾斜する。このように、従来のアッパーシート111は、これを貫通するロッドと常に同軸の関係を維持して動く。
【0022】
また、本発明によるスプリングシートは、従来のスプリングシートにピロボールを組み込んだ簡易な構造であるので、製造コストが安価である。さらに、ピロボールは、鋼材等の剛性材料から形成されるため、長期に亘って使用する場合にも劣化や変形を生じない。ピロボールに替えてゴム弾性材でも同様の効果は期待できるが、ゴム弾性材では長期使用により劣化変形してしまう。またゴム弾性材自体が、スプリングと同様の機能をもつため、スプリングの効果も低減されてしまう。よって、ピロボールが最適である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1A】本発明による、サスペンションに用いるスプリングと、その上端と下端を支持するアッパーシート及びロアシートとを示した側面図である。
【図1B】図1Aのアッパーシートを詳細に示す図であり、(a)は側面図、(b)(c)は縦断面図である。
【図2】本発明のアッパーシートの効果を示す図であり、(a)は無負荷の状態を、(b)は負荷時の状態を示す。
【図3A】本発明による、サスペンションのスプリングシートの一実施例を示す図である。
【図3B】本発明による、サスペンションのスプリングシートの別の実施例を示す図である。
【図4】車両のサスペンションの従来技術の一例を示す図である。
【図5】図4に示したサスペンションにおける、スプリングとその上下端を支持するアッパーシート及びロアシートとを抽出した側面図であり、(a)は無負荷の状態を、(b)は負荷時の状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態を説明する。
本発明による、サスペンションのスプリングシートは、スプリングの両端を支持するスプリングシートのうち、少なくとも一方に適用される。もちろん、両端のスプリングシートに適用してもよい。以下の図1A、図1B、図2及び図3Aでは、スプリングの上端を支持するスプリングシートに適用した例、すなわちアッパーシートとして適用した例により説明する。
【0025】
図1Aは、本発明による、サスペンションに用いるスプリング10と、その上端と下端をそれぞれ支持するアッパーシート11及びロアシート12とを示した側面図である。図1Bは、図1Aに示したアッパーシート11を詳細に示す図であり、(a)は側面図、(b)及び(c)は縦断面図である。本発明は、特にアッパーシート11の構成に特徴がある。
【0026】
本発明によるアッパーシート11は、ピロボール11dを内蔵している。図1Aの側面図では、内蔵されたピロボール11aの上端近傍の一部のみが現れている。図1B(a)に示すように、アッパーシート11は、略円板状のシート本体11aと、シート本体11aの下面周縁部の平坦なスプリング受け面11bと、スプリング受け面11bの内側にて下方に突出する所定の厚さのシート壁11cとを具備する。スプリング受け面11bには、図1Aのスプリング10の上端が当接し、スプリング10の巻き始め端が、円筒状のシート壁11cの外側を周回する。
【0027】
図1B(b)に示すように、シート本体11a及びシート壁11cの中心部には、球面内壁11e1をもつボール受け部11eと、ピロボール11dとが内蔵されている。ピロボール11dは、互いに平行な同一面積の上側の平坦面11d1と下側の平坦面11d2とを具備する。これら2つの平坦面11d1、11d2間を、各平坦面に対して垂直方向にボール孔11d3が貫通している。2つの平坦面11d1、11d2の周縁の間には球体側面11d4が延在している。
【0028】
ピロボール11dの球体側面11d4は、ピロボール受け部11eの球面内壁11e1に嵌合しており、転動自在に支持されている。ボール孔11d3には、図示しない支持ロッドが嵌合し、これを貫通する。支持ロッドについては後述する。この構成により、図1B(c)に示すように、アッパーシート11に対してピロボール11dが転動自在である。すなわち、アッパーシート11のシート軸X1とピロボール11dのボール軸X2が、相対的に揺動自在である。
【0029】
図2は、本発明のアッパーシート11の効果を示す図である。図2の構成は、前述の図5に示した構成における従来のアッパーシート111を本発明のアッパーシート11に替えたものである。ここでは、スプリング10の軸が鉛直方向に取り付けられる場合を例として説明する(サスペンション及びそのスプリングは傾斜して取り付けられる場合もある)。
【0030】
図2(a)は、スプリング10の無負荷の状態を示す。アッパーシート11のピロボール11dを貫通する支持ロッド15の軸は、ピロボール11dのボール軸X2である。無負荷の状態では、ボール軸X2は鉛直方向(すなわちスプリング10の軸方向)である。無負荷のとき、アッパーシート11のスプリング受け面11bは水平方向(すなわち、支持ロッド15の軸に対し垂直な方向)である。無負荷の状態では、アッパーシート11のシート軸X1とボール軸X2(支持ロッド15の軸)とは一致している。支持ロッド15は、例えば、図4に示したコイルオーバー式サスペンションでは、ショックアブソーバのピストンロッド22に相当するが、これに限られない(図3Bで後述)。
【0031】
図2(b)は、鉛直上方から支持ロッド15に対して所定の圧縮荷重Wを負荷し、スプリング10を圧縮させた状態を示す。圧縮させたとき、スプリング10のもつ歪みにより横方向の応力が生じると、この横方向の応力がアッパーシート11にかかる。この横方向の応力により、アッパーシート11とピロボール11dは、相対的に転動する。支持ロッド15の軸であるボール軸X2は、鉛直方向に維持されるため、アッパーシート11のシート軸X1は、ボール軸X2すなわち支持ロッド15の軸に対して揺動し、アッパーシート11のスプリング受け面11bは、水平方向から傾斜する(黒矢印参照)。このアッパーシート11の傾斜により、横方向の応力が相殺され、スプリング10の横方向の撓みが緩和される、すなわち撓みが吸収される。従って、スプリング10は、本来のスプリングの軸に沿ってほぼ真っ直ぐに伸縮されることとなる。
【0032】
図3Aは、本発明による、サスペンションのスプリングシートを、コイルオーバー式サスペンションへ適用した実施例である。図3Aのサスペンションは、図4の従来のサスペンションにおける一般的なアッパーシート111を、本発明によるスプリングシートであるアッパーシート11に交換した以外は、図4のサスペンションと同じ構成である。同じ構成要素については、同じ符号で示している。
【0033】
図3Aのサスペンションは、アッパーマウント24にもピロボールが設けられているため、サスペンション全体が車体に対して揺動可能である。前述した図2の説明では、このアッパーマウント24のピロボールによるサスペンション全体の動きについては無視し、サスペンション内部での部品間の相対的な動きを説明したものである。車体側から見た実際のサスペンションの動きは、アッパーマウント24のピロボールによるサスペンション全体の車体に対する動きと、アッパーシート11のピロボール11dによるサスペンション内部での相対的な動きとが、組み合わされたものとなる。
【0034】
図3Bは、車体と車輪の間に、ショックアブソーバとスプリングとを互いに分離してそれぞれ取り付けるタイプのサスペンションへ適用した別の実施例である。
この場合、スプリング10は、車体側部品と車輪側部品の間に単独で取り付けられる。また、この適用例では、本発明によるスプリングシートを、スプリング10の下端側に配置している。図3Bのスプリングシート11は、図3Aのアッパーシート11と全く同じ構造であるが、上下逆に設置されている。(なお、同じ機能の構成要素に対しては、図3Bでも、図3Aと同じ符号を付している。)
【0035】
また、図3Bでは、図3Aのピストンロッド22の替わりに、支持ロッド15がスプリングシート11のピロボール11dを貫通している。ピロボール11dの下面に載置されたカラー23を介して下側のマウント24が支持ロッド15に装着され、下側のマウント24が車輪側部品に取り付けられる。支持ロッド15の下端は、下側のマウント24を貫通してボルトで固定される。この実施例の場合、スプリング10の上端を支持するスプリングシート12は、従来のスプリングシートであり、装着部品16により車体側部品に取り付けられる。
【0036】
図3Bに例示するように、本発明によるスプリングシートは、スプリングの上端又は下端のいずれに配置しても、同じ効果を得ることができる。図示しないが、本発明によるスプリングシートをスプリングの両端にそれぞれ配置すると、さらに大きな効果が得られる。
【0037】
図3Bにおいて、スプリング10の近傍に配置されるショックアブソーバもまた、車体側部品と車輪側部品の間に単独で取り付けられる。このショックアブソーバは、スプリング及びスプリングシートが無い点を除いて、図3Aのショックアブソーバと基本的に同じ構成を有する。
【実施例】
【0038】
本発明のスプリングシートの効果を、従来のスプリングシートと比較するために試験を行った。試験に用いたショックアブソーバ用スプリングの寸法は、以下の通りである。
・スプリング長180mm、スプリング内径60mm
【0039】
実施例として、図1Bに示した本発明によるスプリングシート(アッパーシート)を用い、比較例として、図4に示した従来のアッパーシートを用いた。
図2及び図5に示した形態にて試験装置にスプリングを設置し、鉛直上方から支持ロッドに対して所定の圧縮荷重を印加してスプリングを圧縮させた。
横方向への最大撓みは、スプリングの上下端面の周縁同士を結ぶ鉛直線から水平方向へのスプリングの最大突出長さ(図5のΔd)を計測した。スプリングが無負荷時よりも3cm圧縮されたとき、横方向への最大撓みは、以下の通りとなった。
実施例:0.5mm
比較例:5mm
この試験結果によれば、実施例のアッパーシートにおける圧縮時の横方向への撓みは、比較例のアッパーシートの10分の1であった。
【符号の説明】
【0040】
10 スプリング
11 スプリングシート(ピロボール内蔵)
11a シート本体
11b スプリング受け面
11c シート壁
11d ピロボール
11d1、11d2 上下平坦面
11d3 ボール孔
11d4 球体側面
11e ボール受け部
11e1 球面内壁
12 スプリングシート(ピロボールなし)
15 支持ロッド
20 装着部
21 シリンダ
22 ピストンロッド
22a 螺子部
23 カラー
24 アッパーマウント
24b ピロボール
25a ワッシャ
25b ナット
111 スプリングシート(従来)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サスペンションに用いられるスプリング(10)を支持するスプリングシート(11)において、
略円板状の前記スプリングシート(11)の中心部に内蔵され、かつ、互いに平行な2つの平坦面(11d1,11d2)と、該2つの平坦面(11d1,11d2)間を各平坦面に対して垂直方向に貫通するボール孔(11d3)と、該2つの平坦面(11d1,11d2)の各々の周縁間に延在する球体側面(11d4)とを具備するピロボール(11d)と、
前記ピロボール(11d)の球体側面(11d4)を転動自在に受容するべく前記スプリングシート(11)の内部に形成された球面内壁(11e1)と、を具備することを特徴とする、サスペンションのスプリングシート。
【請求項2】
一体化されたスプリング(10)とショックアブソーバとを備え、前記ショックアブソーバは、車輪側部品に取り付けられる装着部(20)と、シリンダ(21)と、ピストンロッド(22)と、該ピストンロッドの上端に装着され車体側部品に取り付けられるアッパーマウント(24)と、を有し、前記スプリング(10)は、該アッパーマウント(24)より下方にて該ピストンロッド(22)を貫通させた第1のスプリングシート(11)と、該シリンダ(21)の外面に取り付けられた第2のスプリングシート(12)との間に支持されている、サスペンションにおいて、
前記第1のスプリングシート(11)が、
略円板状の前記第1のスプリングシート(11)の中心部に内蔵され、かつ、互いに平行な2つの平坦面(11d1,11d2)と、該2つの平坦面(11d1,11d2)間を各平坦面に対して垂直方向に貫通するボール孔(11d3)と、該2つの平坦面(11d1,11d2)の各々の周縁間に延在する球体側面(11d4)とを具備するピロボール(11d)と、
前記ピロボール(11d)の球体側面(11d4)を転動自在に受容するべく前記第1のスプリングシート(11)の内部に形成された球面内壁(11e1)と、を具備することを特徴とするサスペンション。
【請求項3】
車輪と車体の間に互いに分離してそれぞれ取り付けられるスプリング(10)とショックアブソーバとを備え、前記スプリング(10)は、車体側部品又は車輪側部品のうち一方に端部が取り付けられる支持ロッド(15)を貫通させた第1のスプリングシート(11)と、車体側部品又は車輪側部品のうち他方に取り付けられる第2のスプリングシート(12)との間に支持されている、サスペンションにおいて、
前記第1のスプリングシート(11)が、
略円板状の前記第1のスプリングシート(11)の中心部に内蔵され、かつ、互いに平行な2つの平坦面(11d1,11d2)と、該2つの平坦面(11d1,11d2)間を各平坦面に対して垂直方向に貫通するボール孔(11d3)と、該2つの平坦面(11d1,11d2)の各々の周縁間に延在する球体側面(11d4)とを具備するピロボール(11d)と、
前記ピロボール(11d)の球体側面(11d4)を転動自在に受容するべく前記第1のスプリングシート(11)の内部に形成された球面内壁(11e1)と、を具備することを特徴とするサスペンション。

【図1A】
image rotate

【図1B】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3A】
image rotate

【図3B】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−7627(P2012−7627A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−141221(P2010−141221)
【出願日】平成22年6月22日(2010.6.22)
【出願人】(391005189)株式会社エンドレスプロジェクト (3)
【Fターム(参考)】