説明

サスペンション構造、ブッシュ構造、サスペンション特性調整方法

【課題】音振性能を向上させる。
【解決手段】ブッシュ23(24)は、内筒41(51)の外周面44(54)における軸方向の中央に、径方向外側に隆起させた隆起部46(56)を形成し、外筒42(52)の内周面45(55)には、隆起部46(56)に対向する凹面を形成する。また、内筒41(51)の外周面44(54)における軸方向の両端には、径方向外側に拡径させた拡径部47(57)を形成する。そして、ブッシュ24については、内筒51の外周面54のうち、軸方向における一端側の拡径部57を含む位置から他端側の拡径部57を含む位置までの範囲に、弾性体53を設けている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はサスペンション構造、ブッシュ構造、サスペンション特性調整方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載された従来技術では、車輪と車体とをサスペンションリンクで連結すると共に、車輪とサスペンションリンクとの間、及びサスペンションリンクと車体との間にブッシュを介装しており、ブッシュ軸は略車体前後方向に配置している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−247069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、サスペンションには、車体前後方向に15〜20Hz程度の一次共振周波数が存在するので、音振性能を向上させるためには、ブッシュにおける軸方向の変形モードにおいて共振点を高周波化することが考えられる。しかしながら、ブッシュの内筒及び外筒が、略車体前後方向に延びるストレート形状では、ブッシュにおける抉り方向の剛性を低め、且つ軸方向の剛性を高めることが難しいので、共振点の高周波化が難しかった。
本発明の課題は、音振性能を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するため、車輪及び車体の夫々を後側サスペンションリンクの連結先部材とし、各連結先部材と後側サスペンションリンクとの夫々の間にリンク用ブッシュを設ける。そして、前側サスペンションリンク及び後側サスペンションリンクの一方にリンク用ブッシュの内筒を連結すると共に、他方にリンク用外筒を連結する。そして、リンク用内筒の外周面における軸方向の中央に、径方向外側に隆起する隆起部を形成する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、リンク用内筒の外周面における軸方向の中央に隆起部を形成することで、リンク用内筒とリンク用外筒とが軸方向に相対変位するときに、リンク用弾性体には剪断方向の変形だけでなく、軸方向に沿った圧縮変形が加わる。これにより、リンク用ブッシュにおける抉り方向の剛性を低めつつも、軸方向の剛性を高めることができる。したがって、軸方向の変形モードにおいて共振点を高周波化し、音振性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】後輪サスペンションの概略構成を示す斜視図である。
【図2】後左輪サスペンションの概略構成を示す上面図である。
【図3】後左輪サスペンションの概略構成を示す正面図である。
【図4】後側ロアリンクの外観図である。
【図5】後側ロアリンクの分離図である。
【図6】フロントブラケットを介した前側ロアリンクと後側ロアリンクとの連結構造を示す断面図である。
【図7】車輪側連結点となるリンク用のブッシュの単品図である。
【図8】アクスルハウジングとブッシュとを連結した図である。
【図9】車体側連結点となるリンク用のブッシュの単品図である。
【図10】コネクトブッシュの単品図である。
【図11】前側ロアリンクに対するコネクトブッシュの取付け状態を示す正面図である。
【図12】前側ロアリンクに対するコネクトブッシュの取付け状態を示す断面図である。
【図13】前側ロアリンクに対するコネクトブッシュの取付け例を示す正面図である。
【図14】共振時及び前後力入力時のリンク状態を示す図である。
【図15】比較例のロアリンク構造を示す斜視図である。
【図16】比較例における前側ロアリンクと後側ロアリンクとの連結構造を示す断面図である。
【図17】ピロボールブッシュの概略構成図である。
【図18】コネクトブッシュに関する変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図を参照して本発明を適用した自動車の実施の形態を説明する。
《第一実施形態》
《構成》
図1は、後輪サスペンションの概略構成を示す斜視図である。
図2は、後左輪サスペンションの概略構成を示す上面図である。
図3は、後左輪サスペンションの概略構成を示す正面図である。
【0009】
本実施形態では、独立懸架した後左輪のサスペンションについて説明する。
サスペンション構造は、車輪1を車体側のサスペンションメンバ2に懸架し、アクスルハウジング11(ハブキャリア)と、前側ロアリンク12と、後側ロアリンク13と、アッパリンク14と、コイルスプリング15と、ストラット5(図1)と、を備える。
アクスルハウジング11は、車輪1を回転自在に支持する。
【0010】
前側ロアリンク12、及び後側ロアリンク13は、略同等の上下位置で、車体前後方向に並べてある。
前側ロアリンク12は、車幅方向外側の一端が、ブッシュ21を介して揺動可能にアクスルハウジング11の前側下部に連結してあり、車幅方向内側の他端が、ブッシュ22を介して揺動可能にサスペンションメンバ2の前側下部に連結してある。平面視で、各連結点の車体前後方向の位置は、車幅方向外側の連結点(ブッシュ21)が、車幅方向内側の連結点(ブッシュ22)よりもやや後側である。
【0011】
後側ロアリンク13は、車幅方向外側の一端が、ブッシュ23を介して揺動可能にアクスルハウジング11の後側下部に連結してあり、車幅方向内側の他端が、ブッシュ24を介して揺動可能にサスペンションメンバ2の後側下部に連結してある。平面視で、各連結点の車体前後方向の位置は、車幅方向外側の連結点(ブッシュ23)と、車幅方向内側の連結点(ブッシュ24)とは略同等である。
【0012】
アクスルハウジング11に対する、前側ロアリンク12の連結点(ブッシュ21)と、後側ロアリンク13の連結点(ブッシュ23)との距離は、サスペンションメンバ2に対する、前側ロアリンク12の連結点(ブッシュ22)と、後側ロアリンク13の連結点(ブッシュ24)との距離よりも短い。すなわち、ブッシュ21及び22を結ぶ直線L1(前側ロアリンク12の軸線)と、ブッシュ23及び24を結ぶ直線L2(後側ロアリンク13の軸線)とは、車幅方向外側で交差する。
【0013】
アッパリンク14は、車幅方向外側の一端が、ブッシュ25を介して揺動可能にアクスルハウジング11の上部に連結してあり、車幅方向内側の他端が、ブッシュ26を介して揺動可能にサスペンションメンバ2の上部に連結してある。
各ブッシュ21〜26は、入れ子状に形成された外筒と内筒との間にゴム体からなる弾性体を介装して構成してある。本実施形態では、前側ロアリンク12、後側ロアリンク13、アッパリンク14の夫々の両端を外筒に連結し、アクスルハウジング11、サスペンションメンバ2の夫々に内筒を連結する。
【0014】
後側ロアリンク13には、前側ロアリンク12に向かって張り出した板状の張出部16が一体形成してある。張出部16は、車体前後方向の前端が、コネクトブッシュ27及び28を介して一定の相対変位が可能な状態で前側ロアリンク12に連結してある。
コネクトブッシュ27及び28は、前側ロアリンク12に沿って並べてある。コネクトブッシュ27及び28は、入れ子状に形成された外筒と内筒との間にゴム体からなる弾性体を介装して構成してある。本実施形態では、ブッシュ軸を略前後方向とし、前側ロアリンク12を外筒に連結し、張出部16を内筒に連結する。
【0015】
これらコネクトブッシュ27及び28の可動範囲(撓み範囲)で、前側ロアリンク12に対して張出部16及び後側ロアリンク13が相対変位可能となる。なお、本実施形態では、コネクトブッシュ27及び28の剛性は、上下方向の剛性に対して車幅方向の剛性が低くなる異方性を有する。
なお、コネクトブッシュ27及び28について詳しくは後述する。
【0016】
ここで、制動時のトーコントロールについて説明する。
制動などによって車輪1に対し車体後側への入力があると、アクスルハウジング11が車体後側へ変位する。このとき、アクスルハウジング11に対する、前側ロアリンク12の連結点(ブッシュ21)と、後側ロアリンク13の連結点(ブッシュ23)とは、車体後方への変位量が略同等となる。しかしながら、直線L1及びL2を前述したように配置した場合、車幅方向内側への変位量については、前側ロアリンク12の連結点(ブッシュ21)の方が後側ロアリンク13の連結点(ブッシュ23)よりも大きくなる。つまり、アクスルハウジング11の前側の連結点(ブッシュ21)が、車幅方向内側へ引き込まれる。したがって、制動時に車輪1にトーイン方向のトー変化が生じるので、安定性が向上する。
【0017】
次に、コイルスプリング15について説明する。
コイルスプリング15は、コイル軸XAを略上下方向とし、後側ロアリンク13と車体との間に介装してある。平面視で、コイルスプリング15の位置は、直線L2に重なるように配置し、好ましくはコイル軸XAを直線L2上に配置する。
本実施形態では、車幅方向外側の連結点(ブッシュ23)と、車幅方向内側の連結点(ブッシュ24)と、の略中間位置にマウントしてある。コイルスプリング15の座面は、張出部16にも重なり、コイルスプリング15の外径に応じて、後側ロアリンク13における車体後側の外形を拡張させている。
【0018】
次に、コイルスプリング15の組み付け構造について説明する。
図4は、後側ロアリンクの外観図である。
図5は、後側ロアリンクの分離図である。
後側ロアリンク13とコイルスプリング15の下端との間には、ロアスプリングシート17を介装してある。すなわち、後側ロアリンク13に対して環状のロアスプリングシート17を組み付け、このロアスプリングシート17に対してコイルスプリング15の下端を組みつけてある。
【0019】
後側ロアリンク13は、薄平型で略凹状に形成した一対のロアブラケット31及びアッパブラケット32を、夫々の凹面を対向させて接合した中空構造にしてある。ロアブラケット31とアッパブラケット32とは、アーク溶接によって一体化させている。
後側ロアリンク13における前側ロアリンク12との連結面には、車幅方向に延在する略板状のフロントブラケット33を設けてあり、このフロントブラケット33によってロアブラケット31及びアッパブラケット32の車体前側を閉塞してある。フロントブラケット33には、コネクトブッシュ27及び28の夫々に連結するための連結ピン34を固定してある。
【0020】
後側ロアリンク13において、サスペンションメンバ2との連結点(ブッシュ24)から前側ロアリンク12との車幅方向内側の連結点(ブッシュ28)にかけて断面積が急変している湾曲部18がある。この湾曲部18には、ロアブラケット31及びアッパブラケット32に双方を挟持する補剛ブラケット19を連結してある。後側ロアリンク13と補剛ブラケット19とは、アーク溶接によって一体化させている。
なお、ロアブラケット31の凹面(内側の底面)にロアスプリングシート17を設置しており、このロアスプリングシート17に下端を組み付けたコイルスプリング15は、アッパブラケット32に形成した開口部を介して上方に突出している。
【0021】
次に、フロントブラケット33を介した前側ロアリンク12と後側ロアリンク13との連結構造について説明する。
図6は、フロントブラケットを介した前側ロアリンクと後側ロアリンクとの連結構造を示す断面図である。
フロントブラケット33は、車体前側のアウターブラケット35と、車体後側のインナーブラケット36と、これらアウターブラケット35及びインナーブラケット36の上端同士を一体化して連結する連結ブラケット37と、を備える。すなわち、フロントブラケット33は、断面が下開きの略C型となる二層式の板部材で構成してある。アウターブラケット35及びインナーブラケット36は、夫々、略車幅方向及び略車体上下方向に沿って形成してあり、略車幅方向に延在する。
【0022】
連結ブラケット37は、後側ロアリンク13のアッパブラケット32に連結してあり、アウターブラケット35の下端側、及びインナーブラケット36の下端側は、夫々、後側ロアリンク13のロアブラケット31に連結してある。後側ロアリンク13とフロントブラケット33とは、アーク溶接によって一体化させている。このように、躯体となるロアブラケット31及びアッパブラケット32により、アウターブラケット35及びインナーブラケット36における上端及び下端の双方を固定してある。
【0023】
アウターブラケット35及びインナーブラケット36には、車体前後方向に同軸となる貫通孔38を形成してあり、この貫通孔38に車体前側から連結ピン34を挿入した状態で溶接し固定する。すなわち、アウターブラケット35及びインナーブラケット36により、連結ピン34を車体前後方向の二箇所で固定してある。
連結ピン34における車体前側の頭部には、コネクトブッシュ27及び28の内筒を外嵌させ、ワッシャを介して締結ボルト39によって固定してあり、コネクトブッシュ27及び28の外筒は、前側ロアリンク12に圧入固定してある。こうして、フロントブラケット33を介して前側ロアリンク12と後側ロアリンク13とを連結してある。
【0024】
次に、アクスルハウジング11と後側ロアリンク13との間に介装したリンク用のブッシュ23について説明する。
図7は、車輪側連結点となるリンク用のブッシュの単品図である。
図中の(a)は、ブッシュ23の縦断面図であり、(b)は端面図である。
ブッシュ23は、略車体前後方向に沿った軸を有する内筒41と、この内筒41の径方向外側に配置した外筒42と、これら内筒41及び外筒42の間に介装した弾性体43と、を備える。内筒41及び外筒42は、例えばSTKM(機械構造用炭素鋼鋼管)で形成してある。内筒41は、後側ロアリンク13に連結し、外筒42は、アクスルハウジング11に連結する。
【0025】
内筒41と外筒42とは、略同軸に配置してあり、内筒41の外周面44に外筒42の内周面45を対向させている。内筒41の外周面44における軸方向Pの中央には、径方向外側に隆起させた隆起部46を形成してある。隆起部46の稜線は、軸方向Pに沿った縦断面において、薄型の台形に形成してある。内筒41の外周面44における軸方向Pの両端には、径方向外側に拡径させた拡径部47を形成してある。
【0026】
隆起部46及び拡径部47は、ブッシュ軸からの距離を同一とし、それは全周にわたって均一にしてある。拡径部47は、軸方向Pの長さが隆起部46よりも短い。
外筒42は、軸方向Pの長さが内筒41よりも短く、隆起部46よりも長くなるように形成してあり、隆起部46を覆うように設けている。外筒42における軸方向Pの両端には、隆起部46の稜線に沿って径方向内側に曲げた曲部48を形成することで、内周面45を隆起部46に対向する凹面に形成してある。こうして、外筒42の外形を、略樽型に形成してある。
【0027】
弾性体43は、内筒41の外周面44のうち、隆起部46と拡径部47の間を埋め、且つ隆起部46と外筒42との間に介在するように形成してある。弾性体43は、隆起部46と拡径部47の間では、外周面が拡径部47と面一になり、隆起部46の位置では、この隆起部46に沿って径方向外側に隆起するように形成してある。弾性体43は、外筒42との接触側では、軸方向Pにおける一端側の曲部48を含む位置から他端側の曲部48を含む位置までの範囲に設けてある。
【0028】
上記の構成により、内筒41と外筒42とが軸方向Pに相対変位すると、弾性体43には剪断方向の変形だけでなく、軸方向Pに沿った圧縮変形が加わる。すなわち、剪断方向に作用する力の一部を、隆起部46及び曲部48によって、軸方向Pに沿った圧縮変形に転換する。これにより、ブッシュ23における軸方向Pの剛性が高まる。
一方、内筒41と外筒42とが抉り方向Sに相対変位すると、弾性体43には、圧縮方向の変形よりも、主として剪断方向の変形が生じる。すなわち、剪断方向に作用する力の大部分を、抉り方向Sに沿った剪断変形に転換する。これにより、ブッシュ23における抉り方向Sの剛性が低まる。
したがって、隆起部46の高さや角度、弾性体43の長さや厚み、曲部48の長さや角度などの諸元により、ブッシュ23における軸直角方向Q、軸方向P、及び抉り方向Sの剛性が定まる。
【0029】
次に、アクスルハウジング11とリンク用のブッシュ23との連結について説明する。
図8は、アクスルハウジングとブッシュとを連結した図である。
図中の(a)は、アクスルハウジング11を車幅方向外側から見た図であり、(b)は(a)におけるA−A断面図である。
ブッシュ23は、外筒42をアクスルハウジング11に対して圧入固定してある。そして、後側ロアリンク13に固定された連結ピン(図示省略)を内筒41に挿通固定することで、ブッシュ23を介して後側ロアリンク13をアクスルハウジング11に揺動可能に連結する。
【0030】
次に、サスペンションメンバ2と後側ロアリンク13との間に介装したリンク用のブッシュ24について説明する。
図9は、車体側連結点となるリンク用のブッシュの単品図である。
図中の(a)は、ブッシュ24の縦断面図であり、(b)は端面図であり、(c)は部分拡大図である。
ブッシュ24は、略車体前後方向に沿った軸を有する内筒51と、この内筒51の径方向外側に配置した外筒52と、これら内筒51及び外筒52の間に介装した弾性体53と、を備える。内筒51及び外筒52は、例えばSTKM(機械構造用炭素鋼鋼管)で形成してある。内筒51は、サスペンションメンバ2に連結し、外筒52は、後側ロアリンク13に連結する。
【0031】
内筒51と外筒52とは、略同軸に配置してあり、内筒51の外周面54に外筒52の内周面55を対向させている。内筒51の外周面54における軸方向Pの中央には、径方向外側に隆起させた隆起部56を形成してある。隆起部56の稜線は、軸方向Pに沿った縦断面において、円弧状に形成してある。内筒51の外周面54における軸方向Pの両端には、径方向外側に拡径させた拡径部57を形成してある。
【0032】
隆起部56の頂点及び拡径部57は、ブッシュ軸からの距離を同一とし、それは全周にわたって均一にしてある。拡径部57は、軸方向Pの長さが隆起部56よりも短い。
外筒52は、軸方向Pの長さが内筒51よりも短く、隆起部56よりも長くなるように形成してあり、隆起部56を覆うように設けている。外筒52における軸方向Pの両端には、隆起部56の稜線に略沿って径方向内側に曲げた曲部58を形成することで、内周面55を隆起部56に対向する凹面に形成してある。こうして、外筒52の外形を、略樽型に形成してある。
【0033】
弾性体53は、内筒51の外周面54のうち、一端側の拡径部57を含む位置から他端側の拡径部57を含む位置までの範囲に設けてあり、且つ隆起部56と外筒52との間に介在するように形成してある。弾性体53は、拡径部57の位置では、この拡径部57に沿って径方向外側に隆起し、隆起部56の位置では、この隆起部56に沿って径方向外側に隆起するように形成してある。弾性体53は、外筒52との接触側では、軸方向Pにおける一端側の曲部58を含む位置から他端側の曲部58を含む位置までの範囲に設けてある。
【0034】
上記の構成により、内筒51と外筒52とが軸方向Pに相対変位すると、弾性体53には剪断方向の変形だけでなく、軸方向Pに沿った圧縮変形が加わる。すなわち、剪断方向に作用する力の一部を、隆起部56及び曲部58によって、軸方向Pに沿った圧縮変形に転換する。これにより、ブッシュ24における軸方向Pの剛性が高まる。
【0035】
一方、内筒51と外筒52とが抉り方向Sに相対変位すると、弾性体53には、圧縮方向の変形よりも、主として剪断方向の変形が生じる。すなわち、剪断方向に作用する力の大部分を、抉り方向Sに沿った剪断変形に転換する。これにより、ブッシュ24における抉り方向Sの剛性が低まる。
したがって、隆起部56の高さや角度、弾性体53の長さや厚み、曲部58の長さや角度などの諸元により、ブッシュ24における軸直角方向Q、軸方向P、及び抉り方向Sの剛性が定まる。
【0036】
次に、コネクトブッシュ27及び28について説明する。
なお、コネクトブッシュ27及び28は同一構造であるため、ここではコネクトブッシュ27について説明する。
図10は、コネクトブッシュの単品図である。
図中の(a)は、コネクトブッシュ27の上面図、縦断面図、及び軸直角断面図であり、(b)は内筒71及び外筒81の単品の斜視図である。
コネクトブッシュ27は、略車体前後方向に沿った軸を有する内筒71と、この内筒71の径方向外側に配置した外筒81と、これら内筒71及び外筒81の間に介装した弾性体91と、を備える。内筒71は、後側ロアリンク13の張出部16に連結し、外筒81は前側ロアリンク12に連結する。
【0037】
内筒71と外筒81とは、略同軸に配置してあり、内筒71の外周面72に外筒81の内周面82を対向させている。外筒81の内周面82のうち、軸方向(P方向)の略中央で、車体上下方向(R方向)における両側の二箇所には、内筒71の外周面72に向かって突出し、且つ略車幅方向(Q方向)に沿って筋状に延びる一対の凸部83を形成してある。
凸部83は、外筒81における外周面84を、車体上下方向(R方向)に沿って内筒71側に凹状に変形させて形成してある。すなわち、外筒81を径方向外側から車体上下方向(R方向)に挟圧することで、径方向内側に圧潰している。軸方向に見て、挟圧部85は、径方向外側に膨らむ略円弧状に形成してある。
【0038】
この凸部83の形成により、弾性体91には、車体上下方向(R方向)に沿った径方向の厚みが薄肉となる薄肉部92と、車幅方向(Q方向)に沿った径方向の厚みが厚肉となる厚肉部93と、を形成してある。これにより、軸直角方向の圧縮変形において、薄肉部92の剛性は、厚肉部93の剛性よりも高くなる。すなわち、コネクトブッシュ27は、車体上下方向(R方向)のバネが硬く(弾性力が高く)、車幅方向(Q方向)のバネが柔らかく(弾性力が低く)なる。
【0039】
なお、外筒81に対する凸部83の形成は、内筒71と外筒81との間に弾性体91を加硫成形した後に行う。このように、内筒71と外筒81との間に弾性体91を加硫成形してから外筒81の内周面82に凸部83を形成すると、弾性体91は、内筒71の外周面72と凸部83と間に位置する部位が、他の部位よりも高密度となり、車体上下方向(R方向)の剛性がより高まることになる。
【0040】
弾性体91における軸方向(P方向)両側の端面94のうち、車幅方向(Q方向)における両側の二箇所には、軸方向に凹む一対のスグリ95を周方向に沿って形成してある。このスグリ95は、軸方向に貫通しない比較的浅い溝からなる。このスグリ95の形成により、車幅方向(Q方向)における弾性体91の剛性が、スグリ95を形成しない場合よりも低くなる。
【0041】
内筒71における軸方向(P方向)一端側の外周面72のうち、車幅方向(Q方向)における両側の二箇所には、車体上下方向(R方向)と略平行な一対の切欠面73を形成してある。この切欠面73の形成により、内筒71における車体上下方向(R方向)に沿った径方向の厚みは、車幅方向(Q方向)における径方向の厚みよりも薄くなる。したがって、外筒81の内径を一定とすると、弾性体91における車幅方向(Q方向)に沿った径方向の厚みが厚くなり、その分、車幅方向(Q方向)における弾性体91の剛性が、切欠面73を形成しない場合よりも低くなる。
【0042】
上記の構成により、弾性体91における薄肉部92における径方向の厚みや密度、及び軸方向の幅や周方向の長さ等を調整することで、車体上下方向(R方向)の剛性を調整する。又は、凸部83における突出量、軸方向の幅や車幅方向の長さ等を調整することで、車体上下方向(R方向)の剛性を調整する。一方、スグリ95における軸方向の深さや径方向の幅、及び周方向の長さ等を調整することで、車幅方向(Q方向)の剛性を調整する。又は、切欠面73における軸方向の長さや車体上下方向の長さ、及び切欠高さ(=軸からの距離)等を調整することで、車幅方向(Q方向)の剛性を調整する。そして、これら全てを総合して、軸直角方向における角度毎の剛性を調整する。
【0043】
なお、前述したように内筒71と外筒81との間に弾性体91を加硫成形してから外筒81の内周面82に凸部83を形成する場合、一対のスグリ95に対して90°位相を変位させた位置に、一対の凸部83を形成する必要がある。一対のスグリ95と一対の切欠面73とは同一方向に配置してあるので、一対の切欠面73に対して90°位相を変位させた位置に、一対の凸部83を形成すればよい。
【0044】
したがって、コネクトブッシュ27の製造過程で、凸部83を形成する際には、一対の切欠面73を基準にしてコネクトブッシュ27を治具(図示省略)へとセットする。すなわち、一対の切欠面73は、コネクトブッシュ27の製造過程において、治具に対する位置決め機能をも兼ねる。
図11は、前側ロアリンクに対するコネクトブッシュの取付け状態を示す正面図である。
【0045】
図12は、前側ロアリンクに対するコネクトブッシュの取付け状態を示す断面図である。
図中の(a)はコネクトブッシュ27の従断面図であり、(b)は外筒81の圧入方向における先端86の拡大断面図である。
前側ロアリンク13に対してコネクトブッシュ27を車体後側から圧入してある。すなわち、前側ロアリンク13の嵌合孔29に対してコネクトブッシュ27の外筒81を車体後側から圧入してある。外筒81における圧入方向の先端86は、圧入時のガイドのために、前記ロアリンク13の嵌合孔に対して径方向内側に向けて折り曲げた形状にしている。
【0046】
図13は、前側ロアリンクに対するコネクトブッシュの取付け例を示す正面図である。
コネクトブッシュ27及び28において、前述したスグリ95を対向させている方向をQ方向とし、凸部83(挟圧部85)を対向させている方向をR方向とする。また、前側ロアリンク12における車幅方向外側の連結点(ブッシュ21)と車幅方向内側の連結点(ブッシュ22)とを結ぶ直線をL1とする。
【0047】
概ね、何れのコネクトブッシュ27及び28も、Q方向は略車幅方向で、R方向は略車体上下方向となるように配置してあるが、夫々のQ‐R方向を任意に設定する。例えば、操安性能においては、制動時の前後コンプライアンスステアやサスペンション前後剛性などを考慮し、音振性能においては、車両前後共振周波数などを考慮し、夫々のQ‐R方向を、任意の組み合わせに設定する。
【0048】
図中の(a)では、車幅方向外側のコネクトブッシュ27、及び車幅方向内側のコネクトブッシュ28を、夫々、R方向が車体上下方向に沿うように配置している。
図中の(b)では、車幅方向外側のコネクトブッシュ27を、R方向における上側が車幅方向内側に傾斜するように配置してあり、車幅方向内側のコネクトブッシュ28を、R方向が車体上下方向に沿うように配置してある。例えば、車体標準姿勢における車体正面視で、コネクトブッシュ27のR方向を、車幅方向に対して反時計回りに約30度回転させている。
【0049】
図中の(c)では、車幅方向外側のコネクトブッシュ27、及び車幅方向内側のコネクトブッシュ28を、夫々、R方向における上側が車幅方向内側に傾斜するように配置してある。例えば、車体標準姿勢における車体正面視で、コネクトブッシュ27及びコネクトブッシュ28のR方向を、車幅方向に対して反時計回りに約30度回転させている。
図中の(d)では、車幅方向外側のコネクトブッシュ27を、R方向が車体上下方向に沿うように配置してあり、車幅方向内側のコネクトブッシュ28を、R方向における上側が車幅方向内側に傾斜するように配置してある。例えば、車体標準姿勢における車体正面視で、コネクトブッシュ28のR方向を、車幅方向に対して反時計回りに約30度回転させている。
【0050】
図中の(e)では、車幅方向外側のコネクトブッシュ27を、R方向における上側が車幅方向内側に傾斜するように配置してあり、車幅方向内側のコネクトブッシュ28を、R方向における上側が車幅方向外側に傾斜するように配置してある。例えば、車体標準姿勢における車体正面視で、コネクトブッシュ27のR方向を、車幅方向に対して反時計回りに約30度回転させ、コネクトブッシュ28のR方向を、車幅方向に対して時計回りに約30度回転させている。
【0051】
《作用》
図14は、共振時及び前後力入力時のリンク状態を示す図である。
図中の(a)は、変形前のリンク状態を示す平面図であり、(b)は共振時のリンク状態を示す平面図であり、(c)は前後力入力時のリンク状態を示す平面図である。
一般に、サスペンションには、車体前後方向に15〜20Hz程度の一次共振周波数が存在する。そのときの変形モードは、(b)に示すように、後側ロアリンク13における車輪側の連結点(ブッシュ23)と車体側の連結点(ブッシュ24)の軸方向を主バネとし、後側ロアリンク13が車両前後方向に共振する。
【0052】
そのため、音振性能を向上させるには、前後一次共振において、ブッシュ23及び24の共振点を高い周波数帯にもっていくことで、車体への振動伝達を低減することが考えられる。しかしながら、従来のブッシュ構造では、ブッシュの内筒及び外筒が、ストレート形状であるため、軸方向に相対変位すると、弾性体には剪断方向の変形のみが生じることになり、軸方向の剛性を高めることが難しかった。結果として、ブッシュの高周波化が難しい。
【0053】
また、一般的なリアサスペンションでは、制動時の前後力がタイヤ接地点に入力されたときに、タイヤをトーイン方向に変化させて、旋回制動時の安定性を向上させている。このときの変形モードは、(c)に示すように、後側ロアリンク13における車体側の連結点(ブッシュ24)が抉り方向に変位し、コネクトブッシュ27及び28が軸方向及び軸直角方向に変位する。なお、コネクトブッシュ27及び28については、軸方向の変位よりも、軸直角方向の変位の方が大きい。
【0054】
タイヤ接地点への横力入力に対して、横剛性を高めるために、後側ロアリンク13における車幅方向内側の連結点(ブッシュ24)の静バネ定数は高めておきたい。一方、前述したように、制動時の前後力入力に対してスムーズなトーイン特性を確保するには、ブッシュ24における抉り方向の剛性を低く設定したい。すなわち、これらの剛性はトレードオフの関係になってしまう。
【0055】
そこで、本実施形態のブッシュ構造では、リンク用のブッシュ23(24)において、内筒41(51)の外周面44(54)における軸方向の中央には、径方向外側に隆起させた隆起部46(56)を形成してある。また、外筒42(52)における軸方向Pの両端には、隆起部46(56)の稜線に沿って径方向内側に曲げた曲部48(58)を形成してある。
【0056】
これにより、内筒41(51)と外筒42(52)とが軸方向に相対変位するときに、弾性体43(53)には剪断方向の変形だけでなく、軸方向に沿った圧縮変形が加わる。すなわち、剪断方向に作用する力の一部を、隆起部46(56)及び曲部48(58)によって、軸方向Pに沿った圧縮変形に転換する。これにより、リンク用のブッシュ23(24)における抉り方向Sの剛性を低めつつも、軸方向の剛性を高めることができる。したがって、軸方向の変形モードにおいて共振点を高周波化し、音振性能を向上させることができる。
【0057】
一方、内筒41(51)と外筒42(52)とが抉り方向Sに相対変位すると、弾性体43(53)には、圧縮方向の変形よりも、主として剪断方向の変形が生じる。すなわち、剪断方向に作用する力の大部分を、抉り方向Sに沿った剪断変形に転換する。これにより、ブッシュ23(24)における抉り方向Sの剛性が低まる。したがって、制動時の前後力入力に対してスムーズなトーイン特性を確保することができ、操安性能を向上させることができる。
【0058】
また、サスペンションの横剛性において、ブッシュ23(24)の弾性体43(53)には、軸直角方向Qに沿った圧縮方向の変形モードとなるので、剛性を高く設定することができる。したがって、軸直角方向Qの剛性を高めることと、抉り方向Sの剛性を低めることとの間に、トレードオフが生じることを抑制できる。したがって、音振性能と操安性能の両面を共に向上させることができる。
【0059】
内筒41(51)の外周面44(54)における軸方向Pの両端には、径方向外側に拡径させた拡径部47(57)を形成してある。このように、内筒41(51)における両端の外径を大きくすると、端面の面積が拡大するので、内筒41(51)を連結先の部材に締結したときに、その端面における面圧を低減することができる。
一方、拡径しているのは、軸方向Pにおける両端だけ、つまり外筒42(52)の内周面45(55)に対向する位置では、拡径させていない。これにより、外筒42(52)とのクリアランスを充分に確保することができる。したがって、充分なサスペンションストロークを確保することができる。
【0060】
また、車幅方向内側のブッシュ24において、弾性体53は、内筒51の外周面54のうち、一端側の拡径部57を含む位置から他端側の拡径部57を含む位置までの範囲に設けてある。これにより、内筒51及び外筒52が抉り方向Sに相対変位するときに、拡径部57に曲部58が直接干渉することを抑制できる。
また、コネクトブッシュ27及び28においては、車幅方向の剛性が車体上下方向の剛性よりも低くなるように、周方向の角度位置を設定している。これにより、制動時の前後力が入力されたときに、前側ロアリンク12が直線L1の軸方向に変位しやすくなり、トーイン特性を確保しやすくなる。
【0061】
なお、コネクトブッシュ27及び28における夫々の角度位置により、前側ロアリンク12と後側ロアリンク13との間の内力の釣り合いが変化する。したがって、制動時の前後コンプライアンスステアやサスペンション前後剛性や、車両前後共振周波数などを考慮し、夫々のQ‐R方向を調整することで、操安性能や音振性能をさらに向上させることができる。
【0062】
次に、フロントブラケット33を介した前側ロアリンク12と後側ロアリンク13との連結構造について説明する。
フロントブラケット33は、アウターブラケット35及びインナーブラケット36を有する二層式の板部材で構成してあり、夫々の上端及び下端を後側ロアリンク13に固定してある。すなわち、アウターブラケット35及びインナーブラケット36は、相対位置を維持するように、ロアブラケット31及びアッパブラケット32に連結してある。そして、コネクトブッシュ27及び28に締結する連結ピン34を、これらアウターブラケット35及びインナーブラケット36の双方に連結してある。
【0063】
これにより、コネクトブッシュ27及び28が受ける軸方向及び軸直角方向の荷重に対して、フロントブラケット33と後側ロアリンク13との連結構造における局部的な剛性を高めることができる。したがって、制動時の前後力入力に対して効果的にトーイン特性を確保し、操安性能を向上させることができると共に、前後共振周波数を高め、共振性能を向上させることができる。
【0064】
ここで、比較例について説明する。
図15は、比較例のロアリンク構造を示す斜視図である。
比較例の一つとして、後側ロアリンク13には車体前側にL型ブラケット61を連結してあり、このL型ブラケット61と後側ロアリンク13との間に、前側ブラケット12を装入する構造とする。この比較例では、L型ブラケット61における下側の先端だけを後側ロアリンク13に連結してある。
図16は、比較例における前側ロアリンクと後側ロアリンクとの連結構造を示す断面図である。
図中の(a)は、コネクトブッシュ27及び28に対して軸方向及び軸直角方向の荷重が入力される前の状態を示す断面図であり、(b)はコネクトブッシュ27及び28に対して軸方向及び軸直角方向の荷重が入力されたときの状態を示す断面図である。
【0065】
L型ブラケット61の車体前側から締結ボルト62を挿通し、L型ブラケット61、コネクトブッシュ27(28)、後側ロアリンク13を挟んだ状態で、締結ボルト62の先端側を締結ナット63に締結してある。このL型ブラケット61を介して、前側ロアリンク12と後側ロアリンク13とを連結している。
L型ブラケット61は、下側の先端だけを後側ロアリンク13に連結した構造なので、前後共振時にL型ブラケット61は面外方向(車体前側)への力の入力によって変形しやすい。したがって、局部的に剛性が低くなるため、前後共振点を高周波化するには、不利な構造である。
【0066】
また、L型ブラケット61では、上方が開放した構造なので、泥水等が溜まりやすい構造でもあるため、L型ブラケット61、前側ロアリンク12、後側ロアリンク13等、各部品の耐久性が低下する可能性もある。
本実施形態のフロントブラケット33では、インナーブラケット36を後側ロアリンク13の内部に配置させ、アウターブラケット35によって後側ロアリンク13を閉塞してある。したがって、泥水等が溜まるような構造ではないので、各部品の信頼性を向上させることができる。
なお、各部品の形状、配置、数量などは、本発明の主旨を逸脱しない範囲で任意に変更してもよい。
【0067】
以上より、前側ロアリンク12が「前側サスペンションリンク」に対応し、後側ロアリンク13が「後側サスペンションリンク」に対応し、車輪1及びサスペンションメンバ2が「連結先部材」に対応する。また、ブッシュ23及び24が「リンク用ブッシュ」に対応し、内筒41及び51が「リンク用内筒」に対応し、外筒42及び52が「リンク用外筒」に対応し、弾性体43及び53が「リンク用弾性体」に対応する。また、コネクトブッシュ27及び28において、内筒71が「コネクト用内筒」に対応し、外筒81が「コネクト用外筒」に対応し、弾性体91が「コネクト用弾性体」に対応する。また、ロアブラケット31及びアッパブラケット32が「躯体ブラケット」に対応し、アウターブラケット35が「前側ブラケット」に対応し、インナーブラケット36が「後側ブラケット」に対応する。
【0068】
《効果》
1.本実施形態のサスペンション構造によれば、ブッシュ23(24)は、内筒41(51)の外周面44(54)における軸方向の中央を径方向外側に隆起させた隆起部46(56)を備えている。
これにより、内筒41(51)と外筒42(52)とが軸方向に相対変位するときに、弾性体43(53)には剪断方向の変形だけでなく、軸方向に沿った圧縮変形が加わる。これにより、ブッシュ23(24)における抉り方向の剛性を低めつつも、軸方向の剛性を高めることができる。したがって、軸方向の変形モードにおいて共振点を高周波化し、音振性能を向上させることができる。
【0069】
2.本実施形態のサスペンション構造によれば、ブッシュ23(24)は、外筒42(52)の内周面45(55)に、隆起部46(56)に対向する凹面を有する。
これにより、内筒41(51)と外筒42(52)とが軸方向に相対変位するときに、弾性体43(53)には剪断方向の変形だけでなく、軸方向に沿った圧縮変形が加わる。これにより、ブッシュ23(24)における抉り方向の剛性を低めつつも、軸方向の剛性を高めることができる。したがって、軸方向の変形モードにおいて共振点を高周波化し、音振性能を向上させることができる。
【0070】
3.本実施形態のサスペンション構造によれば、ブッシュ23(24)は、内筒41(51)の外周面44(54)における軸方向の両端を径方向外側に拡径させた拡径部47(57)を有する。
これにより、内筒41(51)における端面の面積が拡大するので、内筒41(51)を連結先の部材に締結したときに、その端面における面圧を低減することができる。
【0071】
4.本実施形態のサスペンション構造によれば、ブッシュ24は、内筒51の外周面54のうち、軸方向における一端側の拡径部57を含む位置から他端側の拡径部57を含む位置までの範囲に、弾性体53を設けている。
これにより、内筒51及び外筒52が抉り方向Sに相対変位するときに、拡径部57に曲部58が直接干渉することを抑制できる。
5.本実施形態のサスペンション構造によれば、コネクトブッシュ27及び28は、弾性体91における車幅方向の剛性を、車体上下方向の剛性よりも低く設定している。
これにより、制動時の前後力が入力されたときに、前側ロアリンク12が直線L1の軸方向に変位しやすくなり、トーイン特性を確保しやすくなる。
【0072】
6.本実施形態のサスペンション構造によれば、後側ロアリンク13のフロントブラケット33は、アウターブラケット35及びインナーブラケット36の、少なくとも上端及び下端の双方を、ロアブラケット31及びアッパブラケット32に固定してある。そして、コネクトブッシュ27及び28における内筒71及び外筒81の一方を、連結ピン34を介してアウターブラケット35及びインナーブラケット36の双方に連結してある。
【0073】
これにより、コネクトブッシュ27及び28が受ける軸方向及び軸直角方向の荷重に対して、フロントブラケット33と後側ロアリンク13との連結構造における局部的な剛性を高めることができる。したがって、制動時の前後力入力に対して効果的にトーイン特性を確保し、操安性能を向上させることができると共に、前後共振周波数を高め、共振性能を向上させることができる。
【0074】
7.本実施形態のブッシュ構造によれば、内筒51の外周面54における軸方向の中央には隆起部56を形成し、外筒52の内周面55を隆起部56に対向する凹面に形成してある。また、内筒51の外周面54における軸方向の両端には拡径部57を形成し、内筒51の外周面55のうち、軸方向における一端側の拡径部57を含む位置から他端側の拡径部57を含む位置までの範囲に、弾性体53を設けている。
【0075】
これにより、内筒41(51)と外筒42(52)とが軸方向に相対変位するときに、弾性体43(53)には剪断方向の変形だけでなく、軸方向に沿った圧縮変形が加わる。これにより、ブッシュ23(24)における抉り方向の剛性を低めつつも、軸方向の剛性を高めることができる。したがって、軸方向の変形モードにおいて共振点を高周波化し、音振性能を向上させることができる。また、内筒41(51)における端面の面積が拡大するので、内筒41(51)を連結先の部材に締結したときに、その端面における面圧を低減することができる。さらに、内筒51及び外筒52が抉り方向Sに相対変位するときに、拡径部57に曲部58が直接干渉することを抑制できる。
【0076】
8.本実施形態のサスペンション特性調整方法によれば、ブッシュ23(24)は、内筒41(51)の外周面44(54)における軸方向の中央を径方向外側に隆起させた隆起部46(56)を備えている。
これにより、内筒41(51)と外筒42(52)とが軸方向に相対変位するときに、弾性体43(53)には剪断方向の変形だけでなく、軸方向に沿った圧縮変形が加わる。これにより、ブッシュ23(24)における抉り方向の剛性を低めつつも、軸方向の剛性を高めることができる。したがって、軸方向の変形モードにおいて共振点を高周波化し、音振性能を向上させることができる。
【0077】
《変形例》
先ず、本実施形態では、内筒71を後側ロアリンク13の張出部16に連結し、外筒81を前側ロアリンク12に連結しているが、勿論、外筒81を後側ロアリンク13の張出部16に連結し、内筒71を前側ロアリンク12に連結してもよい。
この変形例であっても、前述した本実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
また、本実施形態では、後側ロアリンク13において、アクスルハウジング11との連結にブッシュ23を用いているが、その隆起部46を球面状に形成してもよい。勿論、サスペンションメンバ2との連結点となるブッシュ24についても適用可能である。
【0078】
図17は、リンク用のブッシュに関する変形例を示す図である。
ブッシュ23は、ピロボールブッシュのように、内筒41の隆起部46を球状に形成してあり、外筒42の内周面45には、隆起部46に対向する球状凹面49を形成してある。
この変形例であっても、前述した本実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
また、本実施形態では、前側ロアリンク12と後側ロアリンク13とを二つのコネクトブッシュ27及び28で連結しているが、一つのコネクトブッシュ27で連結してもよい。
図18は、コネクトブッシュに関する変形例を示す図である。
この変形例であっても、前述した本実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0079】
1 車輪
2 サスペンションメンバ
11 アクスルハウジング
12 前側ロアリンク
13 後側ロアリンク
14 アッパリンク
15 コイルスプリング
16 張出部
17 ロアスプリングシート
18 湾曲部
19 補剛ブラケット
27 コネクトブッシュ
28 コネクトブッシュ
31 ロアブラケット
32 アッパブラケット
33 フロントブラケット
34 連結ピン
35 アウターブラケット
36 インナーブラケット
37 連結ブラケット
38 貫通孔
39 締結ボルト
41 内筒
42 外筒
43 弾性体
44 外周面
45 内周面
46 隆起部
47 拡径部
48 曲部
51 内筒
52 外筒
53 弾性体
54 外周面
55 内周面
56 隆起部
57 拡径部
58 曲部
61 L型ブラケット
62 締結ボルト
63 締結ナット
71 内筒
72 外周面
73 切欠面
81 外筒
82 内周面
83 凸部
84 外周面
85 挟圧部
86 先端
91 弾性体
92 薄肉部
93 厚肉部
94 端面
95 スグリ
XA コイル軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体前後方向に並び、夫々が車輪と車体とを揺動可能に連結する前側サスペンションリンク及び後側サスペンションリンクと、
前記車輪及び前記車体の夫々を前記後側サスペンションリンクの連結先部材とし、前記各連結先部材と前記後側サスペンションリンクとの夫々の間に設けたリンク用ブッシュと、を備え、
前記リンク用ブッシュは、
車体前後方向に沿った軸を有し、前記連結先部材及び前記後側サスペンションリンクの一方に連結したリンク用内筒と、
前記リンク用内筒の外周面に対向する内周面を有し、前記連結先部材及び前記後側サスペンションリンクの他方に連結したリンク用外筒と、
前記リンク用内筒及び前記リンク用外筒の間に設けたリンク用弾性体と、
前記リンク用内筒の外周面における軸方向の中央を径方向外側に隆起させた隆起部と、を備えたことを特徴とするサスペンション構造。
【請求項2】
前記リンク用ブッシュは、
前記リンク用外筒の内周面に、前記隆起部に対向する凹面を有することを特徴とする請求項1に記載のサスペンション構造。
【請求項3】
前記リンク用ブッシュは、
前記リンク用内筒の外周面における軸方向の両端を径方向外側に拡径させた拡径部を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のサスペンション構造。
【請求項4】
前記リンク用ブッシュは、
前記リンク用内筒の外周面のうち、軸方向における一端側の前記拡径部を含む位置から他端側の前記拡径部を含む位置までの範囲に、前記リンク用弾性体を設けたことを特徴とする請求項3に記載のサスペンション構造。
【請求項5】
前記前側サスペンションリンクと前記後側サスペンションリンクとを連結するコネクトブッシュを備え、
前記コネクトブッシュは、
車体前後方向に沿った軸を有し、前記前側サスペンションリンク及び後側サスペンションリンクの一方に連結したコネクト用内筒と、
前記コネクト用内筒の外周面に対向する内周面を有し、前記前側サスペンションリンク及び前記後側サスペンションリンクの他方に連結したコネクト用外筒と、
前記コネクト用内筒及び前記コネクト用外筒の間に設けたコネクト用弾性体と、を備え、
前記コネクト用弾性体における車幅方向の剛性を、車体上下方向の剛性よりも低く設定したことを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載のサスペンション構造。
【請求項6】
前記後側サスペンションリンクは、
躯体ブラケットと、
車体前後方向に並び、少なくとも上端及び下端の双方を前記躯体ブラケットに固定することで相対位置を維持した前側ブラケット及び後側ブラケットと、を備え、
前記コネクトブッシュにおける前記コネクト用内筒及び前記コネクト用外筒の一方を、前記前側ブラケット及び後側ブラケットの双方に連結したことを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載のサスペンション構造。
【請求項7】
車体前後方向に沿った軸を有する内筒と、
前記内筒の外周面に対向する内周面を有する外筒と、
前記内筒と前記外筒との間に設けた弾性体と、
前記内筒の外周面における軸方向の中央を径方向外側に隆起させた隆起部と、
前記外筒の内周面に位置し前記隆起部に対向する凹面と、
前記内筒の外周面における軸方向の両端を径方向外側に拡径させた拡径部と、を備え、
前記内筒の外周面のうち、軸方向における一端側の前記拡径部を含む位置から他端側の前記拡径部を含む位置までの範囲に、前記弾性体を設けたことを特徴とするブッシュ構造。
【請求項8】
車体前後方向に並ぶ前側サスペンションリンク及び後側サスペンションリンクによって車輪と車体とを揺動可能に連結し、
前記車輪及び前記車体の夫々を前記後側サスペンションリンクの連結先部材とし、前記各連結先部材と前記後側サスペンションリンクとの夫々の間にリンク用ブッシュを設け、
前記リンク用ブッシュを、車体前後方向に沿った軸を有するリンク用内筒と、前記リンク用内筒の外周面に対向する内周面を有するリンク用外筒と、前記リンク用内筒及び前記リンク用外筒の間に設けたリンク用弾性体と、で形成し、
前記前側サスペンションリンク及び前記後側サスペンションリンクの一方に前記リンク用内筒を連結すると共に、他方に前記リンク用外筒を連結し、
前記リンク用内筒の外周面における軸方向の中央に、径方向外側に隆起する隆起部を形成したことを特徴とするサスペンション特性調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−240461(P2012−240461A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−109668(P2011−109668)
【出願日】平成23年5月16日(2011.5.16)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】