説明

サスペンション組み付け構造、スプリングシート、サスペンション組み付け方法

【課題】コイルスプリングの組み付け性を向上させる。
【解決手段】後側ロアリンク13を構成するロアブラケット31には、ロアスプリングシート17の組み付け面34に、係合孔35を形成する。また、ロアスプリングシート17におけるシート本体41の下面44には、係合孔35に挿入されることで後側ロアリンク13によって係合保持される突起部45を形成する。また、ロアスプリングシート17における円筒部51の外周面52には、径方向に突出し、コイルスプリング15の線間隙間を介してコイルスプリング15における下端一巻き目の線材を上面から係止するフランジ53を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はサスペンション組み付け構造、スプリングシート、及びサスペンション組み付け方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載された従来技術では、ロアリンクの上面に弾性部材からなるスプリングシートを設け、このスプリングシートの上面に形成された凹部に、コイルスプリングの下端を当接させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−149280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、スプリングシートに単にコイルスプリングを当接させているだけの構造なので、組み付けの際に、コイルスプリングの保持が難しかった。
本発明の課題は、コイルスプリングの組み付け性を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するため、サスペンションリンクに係合孔を形成すると共に、スプリングシートにおけるシート本体の下面には、係合孔に挿入されることでサスペンションリンクに係合保持される突起部を形成する。また、スプリングシートにおける円筒部の外周面には、径方向に突出し、コイルスプリングの線間隙間を介してコイルスプリングにおける下端一巻き目の線材を上面から係止するフランジを形成する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、スプリングシートは、突起部を介してサスペンションリンクに係合保持されており、且つコイルスプリングは、下端一巻き目の線材が上面からフランジによって係止されているので、コイルスプリングを保持しやすくなる。すなわち、コイルスプリングの組み付け性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】後輪サスペンションの概略構成を示す斜視図である。
【図2】後左輪サスペンションの概略構成を示す上面図である。
【図3】後左輪サスペンションの概略構成を示す正面図である。
【図4】後側ロアリンクの外観図である。
【図5】後側ロアリンクの詳細図である。
【図6】ロアスプリングシートの詳細図である。
【図7】左右輪のサスペンションにおける突起部の理想配置図である。
【図8】左右輪のサスペンションにおけるフランジの理想配置図である。
【図9】フランジの変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図を参照して本発明を適用した自動車の実施の形態を説明する。
《第一実施形態》
《構成》
図1は、後輪サスペンションの概略構成を示す斜視図である。
図2は、後左輪サスペンションの概略構成を示す上面図である。
図3は、後左輪サスペンションの概略構成を示す正面図である。
本実施形態では、独立懸架した後左輪のサスペンションについて説明する。
サスペンション構造は、車輪1を車体側のサスペンションメンバ2に懸架し、アクスルハウジング11(ハブキャリア)と、前側ロアリンク12と、後側ロアリンク13と、アッパリンク14と、コイルスプリング15と、ストラット5(図1)と、を備える。
【0009】
アクスルハウジング11は、車輪1を回転自在に支持する。
前側ロアリンク12、及び後側ロアリンク13は、略同等の上下位置で、車体前後方向に並べてある。
前側ロアリンク12は、車幅方向外側の一端が、ブッシュ21を介して揺動可能にアクスルハウジング11の前側下部に連結してあり、車幅方向内側の他端が、ブッシュ22を介して揺動可能にサスペンションメンバ2の前側下部に連結してある。平面視で、各連結点の車体前後方向の位置は、車幅方向外側の連結点(ブッシュ21)が、車幅方向内側の連結点(ブッシュ22)よりもやや後側である。
【0010】
後側ロアリンク13は、車幅方向外側の一端が、ブッシュ23を介して揺動可能にアクスルハウジング11の後側下部に連結してあり、車幅方向内側の他端が、ブッシュ24を介して揺動可能にサスペンションメンバ2の後側下部に連結してある。平面視で、各連結点の車体前後方向の位置は、車幅方向外側の連結点(ブッシュ23)と、車幅方向内側の連結点(ブッシュ24)とは略同等である。
【0011】
アクスルハウジング11に対する、前側ロアリンク12の連結点(ブッシュ21)と、後側ロアリンク13の連結点(ブッシュ23)との距離は、サスペンションメンバ2に対する、前側ロアリンク12の連結点(ブッシュ22)と、後側ロアリンク13の連結点(ブッシュ24)との距離よりも短い。すなわち、ブッシュ21及び22を結ぶ直線L1(前側ロアリンク12の軸線)と、ブッシュ23及び24を結ぶ直線L2(後側ロアリンク13の軸線)とは、車幅方向外側で交差する。
【0012】
アッパリンク14は、車幅方向外側の一端が、ブッシュ25を介して揺動可能にアクスルハウジング11の上部に連結してあり、車幅方向内側の他端が、ブッシュ26を介して揺動可能にサスペンションメンバ2の上部に連結してある。
各ブッシュ21〜26は、入れ子状に形成された外筒と内筒との間にゴム体からなる弾性体を介装して構成してある。本実施形態では、前側ロアリンク12、後側ロアリンク13、アッパリンク14の夫々の両端を外筒に連結し、アクスルハウジング11、サスペンションメンバ2の夫々に内筒を連結する。
【0013】
後側ロアリンク13には、前側ロアリンク12に向かって張り出した板状の張出部16が一体形成してある。張出部16は、車体前後方向の前端が、ブッシュ27及び28を介して一定の相対変位が可能な状態で前側ロアリンク12に連結してある。
ブッシュ27及び28は、前側ロアリンク12に沿って並べてある。ブッシュ27及び28は、入れ子状に形成された外筒と内筒との間にゴム体からなる弾性体を介装して構成してある。本実施形態では、ブッシュ軸を略前後方向とし、前側ロアリンク12を外筒に連結し、張出部16を内筒に連結する。
これらブッシュ27及び28の可動範囲(撓み範囲)で、前側ロアリンク12に対して張出部16及び後側ロアリンク13が相対変位可能となる。なお、本実施形態では、ブッシュ27及び28の剛性は、上下方向の剛性に対して車幅方向の剛性が低くなる異方性を有する。
【0014】
ここで、制動時のトーコントロールについて説明する。
制動などによって車輪1に対し車体後側への入力があると、アクスルハウジング11が車体後側へ変位する。このとき、アクスルハウジング11に対する、前側ロアリンク12の連結点(ブッシュ21)と、後側ロアリンク13の連結点(ブッシュ23)とは、車体後方への変位量が略同等となる。しかしながら、直線L1及びL2を前述したように配置した場合、車幅方向内側への変位量については、前側ロアリンク12の連結点(ブッシュ21)の方が後側ロアリンク13の連結点(ブッシュ23)よりも大きくなる。つまり、アクスルハウジング11の前側の連結点(ブッシュ21)が、車幅方向内側へ引き込まれる。したがって、制動時に車輪1にトーイン方向のトー変化が生じるので、安定性が向上する。
【0015】
次に、コイルスプリング15について説明する。
コイルスプリング15は、コイル軸XAを略上下方向とし、後側ロアリンク13と車体との間に介装してある。平面視で、コイルスプリング15の位置は、直線L2に重なるように配置し、好ましくはコイル軸XAを直線L2上に配置する。
本実施形態では、車幅方向外側の連結点(ブッシュ23)と、車幅方向内側の連結点(ブッシュ24)と、の略中間位置にマウントしてある。コイルスプリング15の座面は、張出部16にも重なり、コイルスプリング15の外径に応じて、後側ロアリンク13における車体後側の外形を拡張させている。
【0016】
次に、コイルスプリング15の組み付け構造について説明する。
図4は、後側ロアリンクの外観図である。
後側ロアリンク13とコイルスプリング15の下端との間には、ロアスプリングシート17を介装してある。すなわち、後側ロアリンク13に対して環状のロアスプリングシート17を組み付け、このロアスプリングシート17に対してコイルスプリング15の下端を組みつけてある。
【0017】
図5は、後側ロアリンクの詳細図である。
図中の(a)は、後側ロアリンク13の上面図であり、(b)は(a)におけるA−A断面図である。
後側ロアリンク13は、薄平型で略凹状に形成した一対のロアブラケット31及びアッパブラケット32を、夫々の凹面を対向させて嵌め合わせた最中(もなか)状の中空構造にしてある。ロアブラケット31とアッパブラケット32とは、例えば溶接によって一体化させている。
【0018】
後側ロアリンク13において、サスペンションメンバ2との連結点(ブッシュ24)から前側ロアリンク12との車幅方向内側の連結点(ブッシュ28)にかけて断面積が急変している湾曲部18がある。この湾曲部18には、ロアブラケット31及びアッパブラケット32に双方を挟持する補剛ブラケット19を連結してある。後側ロアリンク13と補剛ブラケット19とは、アーク溶接によって一体化させている。
【0019】
なお、ロアブラケット31の凹面(内側の底面)にロアスプリングシート17を設置しており、このロアスプリングシート17に下端を組み付けたコイルスプリング15は、アッパブラケット32に形成した開口部を介して上方に突出している
ロアブラケット31の凹面(内側の底面)には、上方のアッパブラケット32に向かって略円筒状に隆起させた隆起部33を形成してある。隆起部33は、コイルスプリング15のコイル軸XAを中心に形成してあり、その外径寸法をコイルスプリング15の内径よりも小さくしてある。
【0020】
ロアブラケット31には、ロアスプリングシート17の組み付け面34に、ロアブラケット31を貫通し、断面が略円形の係合孔35を形成してある。組み付け面34は、隆起部33の径方向外側で、ロアスプリングシート17に対応した円環状の領域を指す。係合孔35は、組み付け面34のうち、径方向の略中央に形成してある。
アッパブラケット32には、コイル軸XAを中心に円形の開口部36を形成してあり、その直径は、コイルスプリング15の外径よりも大きくしてある。
【0021】
図6は、ロアスプリングシートの詳細図である。
図中の(a)は、ロアスプリングシート17の上面図であり、(b)は(a)におけるB−B断面図であり、(c)は(a)におけるC−C断面図であり、(d)は(a)におけるD矢視図である。
ロアスプリングシート17は、耐侯性と耐熱性とを備えた例えばポリエチレン(PE)等の樹脂材料で形成され、円環状のシート本体41と、このシート本体41における内周側の端部から連続して上方に立ち上がる円筒部51と、を備える。
【0022】
シート本体41は、内周側の直径を隆起部33の外径よりも僅かに大きくしてあり、外周側の直径をコイルスプリング15の外径よりも大きくしてある。すなわち、シート本体41は、隆起部33に外嵌可能となるように構成してある。
シート本体41の上面は、コイルスプリング15の下端に当接し、コイルスプリング15における下端一巻き目のピッチ角αに沿って形成された螺旋状の傾斜面42で構成する。この傾斜面42の傾斜方向に沿った両端に位置する最下位と最上位との間には、コイルスプリング15の径方向に沿って立ち上がる段差面43を形成してある。なお、コイルスプリング15の下端は、線材の端末を無研削のオープンエンドにしてある。つまり、下端一巻き目のピッチ角αと二巻き目のピッチ角αとを略同一にすることで、下端一巻き目の端末と二巻き目の線材との間に隙間を形成してある。
【0023】
したがって、コイルスプリング15における下端一巻き目の下面が略全周に亘って傾斜面42に摺接し、且つコイルスプリング15における線材の端末が段差面43に当接することで、シート本体41に対してコイルスプリング15が着座可能となるように構成してある。
シート本体41の下面44には、径方向の略中央に、係合孔35に挿入可能な突起部45を形成してある。突起部45は、係合孔35よりも小径となる基端部46と、基端側が係合孔35よりも大径で先端側が係合孔35よりも小径となるテーパ状の先端部47と、を備える。基端部46の軸方向の長さは、ロアブラケット31の厚みに対応している。
【0024】
突起部45には、先端部47から基端部46に至るまで、中心線に沿ったすり割り48を形成してあり、このすり割り48により、対向する分割面同士の接近方向への撓みを許容する。先端部47において、分割面同士を最接近させたときの、基端側のテーパ最大径を、係合孔35と同等にしてある。
したがって、対向する分割面同士の接近方向への撓みによって、係合孔35に対する先端部47の挿入方向(前進方向)の通過を許容し、通過後は、対向する分割面同士の離間方向への復元によって、係合孔35に対する先端部47の抜去方向(後退方向)の通過を阻止する。
【0025】
円筒部51は、内径を隆起部33の外径よりも僅かに大きくしてあり、外径をコイルスプリング15の内径よりも僅かに小さくしてあり、高さを隆起部33と同等にしてある。すなわち、円筒部51は、隆起部33に外嵌可能で、且つコイルスプリング15に内嵌可能となるように構成してある。
円筒部51の外周面52には、径方向に突出するフランジ53を形成してある。フランジ53は、傾斜面42に沿って、つまりコイルスプリング15における下端一巻き目のピッチ角αに沿って、周方向の二箇所に形成してある。何れのフランジ53も、傾斜面42からの離隔距離、及び外周面52からの突出長さは、コイルスプリング15の線径(線材の直径)に対応している。
【0026】
したがって、コイルスプリング15における線材の端末を、傾斜面42とフランジ53との間に挿入する際、コイルスプリング15における下端一巻き目の上面がフランジ53の下面に摺接する。すなわち、フランジ53がコイルスプリング15の線間隙間を介してコイルスプリング15における下端一巻き目の線材を上面から係止するように構成してある。
フランジ53の下面は、基端側がコイルスプリング15の線径に応じた逆R形状に形成されている。つまり、フランジ53の断面は、下面における基端側が、シート本体に向けて末広がりとなる。したがって、フランジ53の下面は、コイルスプリング15における下端一巻き目の線材に対して面接触するように構成してある。
【0027】
次に、突起部45の配置について説明する。
図7は、左右輪のサスペンションにおける突起部の理想配置図である。
図中の(a)は、後側ロアリンク13の上面図であり、(b)はロアスプリングシート17の上面図である。
コイルスプリング15のコイル軸に直交する平面は、傾き回転軸XBにより、後側ロアリンク13のロアブラケット31の凹面(内側の底面)に対して傾いている。
【0028】
この傾き回転軸XBに対するモーメントアームを最小とするためには、図中、傾き回転軸XBに対する垂直線上における傾き上位側(傾斜の山側)に突起部45を設けることが望ましいので、左輪側の理想位置P1と、右輪側の理想位置P2とが定まる。これらの理想位置P1及びP2は、左右輪で左右対称の位置関係となるため、ロアスプリングシート17を左右輪で共通にするために、シート本体41における下面44の周方向において、理想位置P1及びP2の略中間地点に、突起部45を形成してある。
【0029】
次に、フランジ53の配置について説明する。
図8は、左右輪のサスペンションにおけるフランジの理想配置図である。
図中の(a)は、後側ロアリンク13の上面図であり、(b)はロアスプリングシート17の上面図である。
前側ロアリンク12における車幅方向内側の連結点(ブッシュ22)と、後側ロアリンク13における車幅方向内側の連結点(ブッシュ24)とを結ぶ直線は、前側ロアリンク12及び後側ロアリンク13の揺動軸XCである。
【0030】
組み付け工程の際、前側ロアリンク12及び後側ロアリンク13において、車幅方向内側の連結点(ブッシュ22及び24)だけを組み付けた状態では、揺動軸XCで支持された前側ロアリンク12及び後側ロアリンク13は、車幅方向外側が下方に垂れ下がる。つまり、リバウンド方向にストロークした格好となる。
この状態では、図中、コイル軸XAを通り、且つ揺動軸XCに対して直交する直線上における揺動軸XCに近い側にフランジ53を設けることが望ましいので、左輪側の理想位置P3と、右輪側の理想位置P4とが定まる。これらの理想位置P3及びP4は、左右輪で左右対称の位置関係となるため、ロアスプリングシート17を左右輪で共通にするために、円筒部51における外周面52の周方向において、理想位置P3及びP4の双方に、フランジ53を形成してある。
【0031】
《作用》
コイルスプリング15の組み付け工程について説明する。
先ず、後側ロアリンク13に対してロアスプリングシート17の組み付けを行う。すなわち、シート本体41及び円筒部51をロアブラケット31の隆起部33に外嵌させ、且つ突起部45をロアブラケット31の係合孔35に挿入する。このとき、先端部47が係合孔35に引っ掛かるが、さらに挿入方向に押圧すると、すり割り48による突起部45の撓みにより、先端部47が係合孔35を通過する。通過後は、突起部45の撓みが復元し、先端部47が係合孔35に引っ掛かるので、抜け止めとなる。
【0032】
このように、突起部45を係合孔35によって係合保持することで、後側ロアリンク13に対してロアスプリングシート17が周方向へ変位することを抑制できる。また、抜け止め構造により、ロアスプリングシート17が後側ロアリンク13から外れることも防止できる。
次に、ロアスプリングシート17に対してコイルスプリング15の組み付けを行う。すなわち、コイルスプリング15における線材の端末をシート本体41とフランジ53との間に挿入させながら、コイルスプリング15を巻き方向に回転させることで、コイルスプリング15の下部を円筒部51に対して雌螺子のように外嵌させる。
【0033】
シート本体41の傾斜面42は、コイルスプリング15における下端一巻き目のピッチ角αに沿って形成してあるので、コイルスプリング15における下端一巻き目の下面が略全周に亘って傾斜面42に摺接する。したがって、コイルスプリング15を回転させるときに、コイルスプリング15のコイル軸XAが変動する(ぶれる)ことを抑制でき、円筒部51に対してコイルスプリング15を外嵌させやすい。
【0034】
傾斜面42の傾斜方向に沿った両端に位置する最下位と最上位との間には、コイルスプリング15の径方向に沿って立ち上がる段差面43を形成してあるので、コイルスプリング15における線材の端末が段差面43に当接する。したがって、円筒部51に対してコイルスプリング15を外嵌するときに、コイルスプリング15における回転方向の位置決めを行いやすい。
【0035】
傾斜面42に沿ってフランジ53を形成し、傾斜面42からの離隔距離、及び外周面5252からの突出長さをコイルスプリング15の線径に対応させているので、フランジ53がコイルスプリング15における下端一巻き目の線材を上面から係止する。したがって、ロアスプリングシート17が水平面に対して多少傾いた状態にあっても、コイルスプリング15を支持し、その転倒を抑制することができる。
【0036】
すなわち、組み付け工程の際、前側ロアリンク12及び後側ロアリンク13において、車幅方向内側の連結点(ブッシュ22及び24)だけを組み付けた状態では、前述したように、前側ロアリンク12及び後側ロアリンク13の車幅方向外側が下方に垂れ下がる。しかしながら、フランジ53によってコイルスプリング15の自立を補助しているので、ロアスプリングシート17に対するコイルスプリング15の転倒や脱落を抑制することができる。すなわち、コイルスプリング15を保持しやすくなるので、このコイルスプリング15の組み付け性を向上させることができる。
【0037】
ロアスプリングシート17に対して、例えばコイルスプリング15が転倒しそうになると、コイルスプリング15における下端一巻き目の線材からフランジ53の下面に抉りが入力される。しかしながら、フランジ53の下面を、基端側がコイルスプリング15の線径に応じた逆R形状に形成してあり、フランジ53の下面は、コイルスプリング15における下端一巻き目の線材に対して面接触する。これにより、フランジ53の下面に抉りが入力されても、フランジ53における応力を分散でき、フランジ53の耐久性を向上させることができる。
【0038】
ロアスプリングシート17を樹脂材料で形成しているので、耐候性と耐熱性に優れる。また、ゴムのような弾性体と比べると摩擦係数が低い。したがって、ロアスプリングシート17をロアブラケット31の隆起部33へ外嵌するときや、ロアスプリングシート17の円筒部51にコイルスプリング15を外嵌するときに、摺動抵抗が小さいため組み付けやすい。
【0039】
シート本体41の突起部45と、円筒部51のフランジ53とを、夫々の理想配置を考慮しつつ、左右輪のサスペンションにおいて、ロアスプリングシート17を同一形状にしている。すなわち、突起部45については、シート本体41における下面44の周方向において、理想位置P1及びP2の略中間位置に形成しているので、回転軸XBに対するモーメントアームの増大を抑制しつつ、ロアスプリングシート17を左右輪で共通にすることができる。また、フランジ53については、円筒部51における外周面5252の周方向において、理想位置P3及びP4の双方に形成しているので、コイルスプリング15を効果的に支持しつつ、ロアスプリングシート17を左右輪で共通にすることができる。したがって、コイルスプリング15の組み付け性を向上させつつ、部品点数の増大を防ぐことができる。
【0040】
フランジ53は、円筒部51の全周にではなく、周方向の一部となる二箇所に形成している。これにより、コイルスプリング15をバランスよく支持することができる。また、フランジ53の下面にコイルスプリング15から抉りが入力されても、二つのフランジ53の間が逃げ代となり、二つのフランジ53によって抉りを吸収することができる。したがって、連続した一つのフランジ53を形成する場合よりも、フランジ53の耐久性を向上させることができる。
【0041】
また、二つのフランジ53のうち、少なくとも一方を、コイル軸XAを通り、且つ前側ロアリンク12及び後側ロアリンク13の揺動軸XCに対して直交する直線上に配置している。したがって、サスペンションの組み付けの際に、ロアスプリングシート17に対するコイルスプリング15の転倒や脱落をさらに抑制することができる。すなわち、コイルスプリング15をさらに保持しやすくなるので、このコイルスプリング15の組み付け性をさらに向上させることができる。
なお、各部品の形状、配置、数量などは、本発明の主旨を逸脱しない範囲で任意に変更してもよい。
【0042】
例えば、ロアブラケット31の凹面にロアスプリングシート17を組み付けているが、上下方向において、アッパブラケット32と車体との間に十分なスペースを確保できるなら、アッパブラケット32の上面にロアスプリングシート17を組み付けてもよい。
また、コイルスプリング15の下端は、線材の端末を無研削のオープンエンドにしてあるが、研削したり、テーパにしたりしてもよい。また、タンジェントテールエンドや、ピッグテールエンドにしてもよい。
以上より、後側ロアリンク13が「サスペンションリンク」に対応し、ロアスプリングシート17が「スプリングシート」に対応する。
【0043】
《効果》
(1)本実施形態のサスペンション組み付け構造によれば、後側ロアリンク13を構成するロアブラケット31には、ロアスプリングシート17の組み付け面34に、係合孔35を形成する。また、ロアスプリングシート17におけるシート本体41の下面44には、係合孔35に挿入されることで後側ロアリンク13によって係合保持される突起部45を形成する。また、ロアスプリングシート17における円筒部51の外周面52には、径方向に突出し、コイルスプリング15の線間隙間を介してコイルスプリング15における下端一巻き目の線材を上面から係止するフランジ53を形成する。
【0044】
このように、ロアスプリングシート17は、突起部45を介して後側ロアリンク13に係合保持されており、且つコイルスプリング15は、下端一巻き目の線材が上面からフランジ53によって係止されているので、コイルスプリング15を保持しやすくなる。すなわち、コイルスプリング15の組み付け性を向上させることができる。
【0045】
(2)本実施形態のサスペンション組み付け構造によれば、コイルスプリング15における下端一巻き目のピッチ角αに沿ってフランジ53を形成する。
これにより、コイルスプリング15における下端一巻き目の上面をフランジ53の下面に摺接させることができる。したがって、コイルスプリング15の保持性能を向上させることができる。
【0046】
(3)本実施形態のサスペンション組み付け構造によれば、フランジ53における下面の基端側を、コイルスプリング15の線径に応じた逆R形状に形成する。
これにより、フランジ53の下面を、コイルスプリング15における下端一巻き目の線材に対して面接触させることができる。したがって、フランジ53の下面に抉りが入力されても、フランジ53における応力を分散でき、フランジ53の耐久性を向上させることができる。
【0047】
(4)本実施形態のサスペンション組み付け構造によれば、ロアスプリングシート17を樹脂材料で形成する。
これにより、耐候性と耐熱性に優れたロアスプリングシート17を形成することができる。また、ゴムのような弾性体と比べると摩擦係数が低いので、摺動抵抗が小さく、組み付けやすい。
【0048】
(5)本実施形態のサスペンション組み付け構造によれば、シート本体41の傾斜面42を、コイルスプリング15における下端一巻き目のピッチ角αに沿って形成する。また、傾斜面42の傾斜方向に沿った両端に位置する最下位と最上位との間には、コイルスプリング15の径方向に沿って立ち上がる段差面43を形成する。
これにより、コイルスプリング15における線材の端末が段差面43に当接する。したがって、円筒部51に対してコイルスプリング15を外嵌するときに、コイルスプリング15における回転方向の位置決めを行いやすい。
【0049】
(6)本実施形態のサスペンション組み付け構造によれば、可撓性を有し、係合孔35よりも大径となる先端形状となるように突起部45を形成する。
これにより、突起部45を係合孔35に挿入すると、先端側が係合孔35に引っ掛かるので、抜け止めとなる。このように、突起部45を係合孔35によって係合保持することで、後側ロアリンク13に対してロアスプリングシート17が周方向へ変位することを抑制できる。特に、ロアスプリングシート17に対してコイルスプリング15を組み付ける際に、ロアスプリングシート17が周方向へ変位することを抑制できる。また、抜け止め構造により、ロアスプリングシート17が後側ロアリンク13から外れることも防止できる。
【0050】
(7)本実施形態のサスペンション組み付け構造によれば、フランジ53を、外周面52における周方向の二箇所に形成している。
これにより、コイルスプリング15をバランスよく支持することができる。また、コイルスプリング15からの抉りが入力されても、二つのフランジ53の間が逃げ代となる。したがって、周方向に連続した一つのフランジ53を形成する場合と比較して、フランジ53の耐久性を向上させることができる。
【0051】
(8)本実施形態のサスペンション組み付け構造によれば、フランジ53の少なくとも一方を、コイル軸XAを通り、且つ揺動軸XCに対して直交する直線上に配置している。
これにより、サスペンションの組み付けの際に、ロアスプリングシート17に対するコイルスプリング15の転倒や脱落をさらに抑制することができる。すなわち、コイルスプリング15をさらに保持しやすくなるので、このコイルスプリング15の組み付け性をさらに向上させることができる。
【0052】
(9)本実施形態のスプリングシートによれば、シート本体41の下面44には、後側ロアリンク13によって係合保持される突起部45を形成する。また、円筒部51の外周面52には、径方向に突出し、コイルスプリング15の線間隙間を介してコイルスプリング15における下端一巻き目の線材を上面から係止するフランジ53を形成する。
このように、シート本体41は、突起部45を介して後側ロアリンク13に係合保持されており、且つコイルスプリング15は、下端一巻き目の線材が上面からフランジ53によって係止されているので、コイルスプリング15を保持しやすくなる。すなわち、コイルスプリング15の組み付け性を向上させることができる。
【0053】
(10)本実施形態のサスペンション組み付け方法によれば、突起部45を係合孔35に挿入することで、ロアスプリングシート17を後側ロアリンク13に係合保持させる。そして、コイルスプリング15における線材の端末をシート本体41とフランジ53との間に挿入させながらコイルスプリング15を回転させることで、コイルスプリング15の下部を円筒部51に外嵌させる。
このように、ロアスプリングシート17は、突起部45を介して後側ロアリンク13に係合保持されており、且つコイルスプリング15は、下端一巻き目の線材が上面からフランジ53によって係止されているので、コイルスプリング15を保持しやすくなる。すなわち、コイルスプリング15の組み付け性を向上させることができる。
【0054】
《変形例》
本実施形態では、フランジ53を、外周面52における周方向の二箇所に形成しているが、勿論、連続した一つのフランジ53を形成してもよい。
図9は、フランジの変形例を示す図である。
この変形例であっても、前述した本実施形態のように、コイルスプリング15を保持しやすいので、その組み付け性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0055】
1 車輪
2 サスペンションメンバ
11 アクスルハウジング
12 前側ロアリンク
13 後側ロアリンク
14 アッパリンク
15 コイルスプリング
16 張出部
17 ロアスプリングシート
18 湾曲部
19 補剛ブラケット
31 ロアブラケット
32 アッパブラケット
33 隆起部
34 組み付け面
35 係合孔
36 開口部
41 シート本体
42 傾斜面
43 段差面
44 下面
45 突起部
46 基端部
47 先端部
51 円筒部
52 外周面
53 フランジ
XA コイル軸
XB 回転軸
XC 揺動軸
α ピッチ角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪と車体とを揺動可能に連結したサスペンションリンクと、
前記サスペンションリンクと前記車体との間に上下方向に沿って設置したコイルスプリングと、
前記サスペンションリンクと前記コイルスプリングの下端との間に設置したスプリングシートと、を備え、
前記サスペンションリンクにおける前記スプリングシートの組み付け面に、係合孔を形成し、
前記スプリングシートは、
シート本体と、
前記シート本体の下面側に位置し、前記係合孔に挿入されることで前記サスペンションリンクによって係合保持される突起部と、
前記シート本体の上面側に位置し、前記コイルスプリングの下端側に内嵌する円筒部と、
前記円筒部の外周面から径方向に突出し、前記コイルスプリングの線間隙間を介して前記コイルスプリングにおける下端一巻き目の線材を上面から係止するフランジと、を備えたことを特徴とするサスペンション組み付け構造。
【請求項2】
前記フランジを、前記コイルスプリングにおける下端一巻き目のピッチ角に沿って形成したことを特徴とする請求項1に記載のサスペンション組み付け構造。
【請求項3】
前記フランジを、下面における基端側が、前記コイルスプリングの線径に応じた逆R形状に形成してあることを特徴とする請求項1又は2に記載のサスペンション組み付け構造。
【請求項4】
前記スプリングシートは、樹脂材料からなることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載のサスペンション組み付け構造。
【請求項5】
前記シート本体は、
前記コイルスプリングの下端に当接し、前記コイルスプリングにおける下端一巻き目のピッチ角に沿って形成した傾斜面と、
前記傾斜面の傾斜方向に沿った両端に位置する最下位と最上位との間に形成し、前記コイルスプリングの径方向に沿って立ち上がり、前記コイルスプリングにおける線材の端末に当接する段差面と、を備えたことを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載のサスペンション組み付け構造。
【請求項6】
前記突起部は、可撓性を有し、前記係合孔よりも大径となる先端形状に形成してあることを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載のサスペンション組み付け構造。
【請求項7】
前記フランジを、前記外周面における周方向の二箇所に形成したことを特徴とする請求項1〜6の何れか一項に記載のサスペンション組み付け構造。
【請求項8】
前記フランジの少なくとも一方を、前記コイルスプリングのコイル軸を通り、且つ前記サスペンションリンクにおける前記車体側の揺動軸に対して直交する直線上に配置したことを特徴とする請求項7に記載のサスペンション組み付け構造。
【請求項9】
サスペンションリンクとコイルスプリングの下端との間に設置したシート本体と、
前記シート本体の下面側に位置し、前記サスペンションリンクによって係合保持される突起部と、
前記シート本体の上面側に位置し、前記コイルスプリングの下端側に内嵌する円筒部と、
前記円筒部の円筒面から径方向に突出し、前記コイルスプリングの線間隙間を介して前記コイルスプリングにおける下端一巻き目の線材を上面から係止するフランジと、を備えることを特徴とするスプリングシート。
【請求項10】
請求項1〜8の何れか一項に記載のサスペンション組み付け構造を備え、
前記突起部を前記係合孔に挿入することで、前記スプリングシートを前記サスペンションリンクに係合保持させ、
前記コイルスプリングにおける線材の端末を前記シート本体と前記フランジとの間に挿入させながら前記コイルスプリングを回転させることで、前記コイルスプリングの下部を前記円筒部に外嵌させることを特徴とするサスペンション組み付け方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−240458(P2012−240458A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−109665(P2011−109665)
【出願日】平成23年5月16日(2011.5.16)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】