説明

サファイア単結晶製造用αアルミナ

【課題】サファイア単結晶の生産効率に優れるαアルミナを提供する。
【解決手段】本発明は、1個あたりの体積が0.01cm3以上であり、形状が球状、円柱状および俵状のいずれかからなり、比表面積が1m2/g以下であり、相対密度が80%以上であり、集合体としてのかさ密度が1.5〜2.3g/cm3であり、純度が99.99質量%以上であり、Si、Na、Ca、Fe、CuおよびMgの含有量がそれぞれ10ppm以下であるサファイア単結晶製造用αアルミナを提供するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サファイア単結晶製造用αアルミナに関する。
【背景技術】
【0002】
αアルミナはサファイア単結晶を製造するための原料として有用であり、例えば金属モリブデン製のルツボ内に充填し、加熱溶融させたのち、溶融物を引き上げる方法により、サファイア単結晶を製造することができる〔特許文献1〕。
【0003】
αアルミナとしては、例えば定形エッジ薄膜成長法(以下、EFG法と称する)など高温雰囲気下に維持した装置に原料を連続供給して使用する場合には、流動性が良く、αアルミナからなる粒子同士が融着して装置内で目詰まりを起こすことなく結晶成長を行うことができ、不純物の混入が無い、サファイア単結晶を容易に製造しうるものが求められている。
【0004】
このような流動性が良く、不純物の混入が無いαアルミナからなる粒子として、例えば、AKQ−10(住友化学株式会社製)のような球状のαアルミナからなる粒子が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−97569号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、かかるαアルミナからなる粒子はかさ密度が低いため、サファイア単結晶の生産効率が十分でないという問題があった。
したがって、本発明は、サファイア単結晶の生産効率に優れるαアルミナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明者らは、サファイア単結晶を容易に製造しうるαアルミナからなる粒子を開発するべく鋭意検討した結果、本発明に至った。
【0008】
すなわち本発明のサファイア単結晶製造用αアルミナは、以下の構成からなる。
(1)1個あたりの体積が0.01cm3以上であり、相対密度が80%以上であり、集合体としてのかさ密度が1.5〜2.3g/cm3であることを特徴とするサファイア単結晶製造用αアルミナ。
(2)形状が球状、円柱状および俵状のいずれかからなる前記(1)に記載のサファイア単結晶製造用αアルミナ。
(3)比表面積が1m2/g以下である前記(1)または(2)に記載のサファイア単結晶製造用αアルミナ。
(4)純度が99.99質量%以上であり、Si、Na、Ca、Fe、CuおよびMgの含有量がそれぞれ10ppm以下である前記(1)〜(3)のいずれかに記載のサファイア単結晶製造用αアルミナ。
【発明の効果】
【0009】
本発明のサファイア単結晶製造用αアルミナは、1個あたりの体積が0.01cm3以上であり、相対密度が80%以上であり、集合体としてのかさ密度が1.5〜2.3g/cm3であるため、これをルツボ内で加熱溶融しつつ、引き上げる方法により、高い生産効率でサファイア単結晶を得ることができる。
したがって、本発明によれば、サファイア単結晶の生産効率に優れるαアルミナを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のサファイア単結晶製造用αアルミナは、1個あたりの体積が0.01cm3以上であり、相対密度が80%以上であり、集合体としてのかさ密度が1.5〜2.3g/cm3であることを特徴とする。
前記サファイア単結晶製造用αアルミナは、例えばαアルミナ前駆物質とαアルミナ種粒子との混合物を成形し焼成する方法により製造することができる。
【0011】
前記製造方法に用いられるαアルミナ前駆物質とは、焼成することによりαアルミナに転移し得る化合物であり、例えば水酸化アルミニウム;アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムエトキシド、アルミニウムs−ブトキシド、アルミニウムt−ブトキシド等のアルミニウムアルコキシド;γアルミナ、δアルミナ、θアルミナなどの遷移アルミナなどが挙げられ、通常は水酸化アルミニウムが用いられる。
【0012】
水酸化アルミニウムは、例えば加水分解性アルミニウム化合物を加水分解することにより得られるものが使用される。
加水分解性アルミニウム化合物としては、例えばアルミニウムアルコキシド、塩化アルミニウムなどが挙げられるが、純度の点でアルミニウムアルコキシドが好ましく用いられる。
【0013】
水酸化アルミニウムの結晶型は、不定形(アモルファス)、ギブサイト型、バイヤライト型、ノロソトランダイト型、ベーマイト型、擬ベーマイト型などであってもよく、特に限定されないが、なかでもベーマイト型が望ましい。
【0014】
以下、αアルミナ前駆物質として、水酸化アルミニウムを使用した場合を例として説明する。
【0015】
前記の製造方法に用いられるαアルミナ種粒子は、例えば純度99.99重量%以上の高純度αアルミナ粒子を粉砕して得られるものであり、中心粒子径が好ましくは0.1〜1.0μm、さらに好ましくは0.1〜0.4μmである。中心粒子径が1.0μmを越える大きさのαアルミナ種粒子では、本願発明で規定する範囲内である相対密度およびかさ密度であるサファイア単結晶製造用αアルミナが得られにくい。また、αアルミナ種粒子の中心粒子径を0.1μm未満になるまで粉砕しても、得られるサファイア単結晶製造用αアルミナの相対密度およびかさ密度は変わらず、粉砕に多大なエネルギーを要するだけであり好ましくない。
【0016】
高純度αアルミナ粒子を粉砕する方法としては、例えば乾燥状態で粉砕する乾式粉砕で得る方法や、溶媒を加えてスラリー状態で粉砕する湿式粉砕により得る方法などが挙げられるが、通常は湿式粉砕である。
【0017】
高純度αアルミナ粒子を湿式粉砕により粉砕するには、例えばボールミル、媒体撹拌ミルなどの粉砕装置が用いられる。
溶媒としては通常、水が用いられるが、分散性よく粉砕するために、分散剤を添加して粉砕してもよい。
添加する分散剤は、得られるサファイア単結晶製造用αアルミナに持ち込まれる不純物が少ない点で、例えばポリアクリル酸アンモニウム塩などの高分子系分散剤のように、焼成により分解され揮発するものが好ましい。
【0018】
粉砕装置は、得られるαアルミナ種粒子の汚染が少ない観点で、αアルミナと接する面が高純度のαアルミナで構成されているか、あるいは樹脂ライニングされていることが好ましい。
媒体撹拌ミルなどを用いて粉砕する場合、これに用いられる粉砕媒体も、高純度のαアルミナで構成されていることが好ましい。
【0019】
αアルミナ種粒子の使用量は、焼成後のαアルミナ粒子の重量を100重量部としたとき、通常0.1〜10重量部であり、好ましくは0.3〜7重量部である。使用量が0.1重量部未満では、本願発明で規定する相対密度およびかさ密度のαアルミナが得られないことがあり、使用量が10重量部を越えて使用しても、得られるサファイア単結晶製造用αアルミナの相対密度およびかさ密度が変わらず、使用量に応じた効果が得られないおそれがある。
【0020】
αアルミナ種粒子は通常、湿式粉砕後のスラリーの状態で水酸化アルミニウムと混合される。
スラリーの使用量は通常、該スラリー中の水分量として、水酸化アルミニウム100重量部に対して100〜200重量部であり、好ましくは120〜160重量部である。200重量部を超える水分量では、混合物がスラリー化し、乾燥に多大なエネルギーを要するため好ましくなく、100重量部未満では、混合物の流動性が極めて乏しく、αアルミナ種粒子と水酸化アルミニウムとの混合は不十分となる。
【0021】
混合するに際しては、ボールミルや混合ミキサーを用いたり、超音波を照射したりすることで、分散性よく水酸化アルミニウムとαアルミナ種粒子とを混合できるが、水酸化アルミニウムとαアルミナ種粒子とをより均一に混合できることから、せん断力をかけながら混合できるブレード型混合機を用いて混合する方法が好ましい。
【0022】
このようにして水酸化アルミニウムとαアルミナ種粒子とを混合したのちの混合物を成形する方法としては、例えば、プレス成形や打錠成形などの方法で行ってもよいし、押出成形法で行ってもよい。
得られた成形体は、通常、円柱状や俵状をしているが、例えばマルメライザーや皿型転動機を用いて、球状に加工してもよい。αアルミナの成形体の形状が、球状や円柱状、俵状であると、流動性が良く、高温雰囲気下に維持した装置に原料を連続供給して使用しても、装置内で目詰まりを起こすことなく容易に結晶成長を行うことができ、当該αアルミナから生成されるサファイア単結晶の生産効率が向上する。
【0023】
成形体の大きさは、1個あたりの焼成後体積が0.01cm3以上であり、好ましくは、0.01〜10cm3であり、より好ましくは0.01〜2cm3である。一方、1個あたりの焼成後体積が0.01cm3未満の大きさでは、乾燥や焼成の工程で成形体同士が固着する可能性があるため、好ましくない。
【0024】
成形体は、乾燥させて水分を除去してもよいし、乾燥させなくてもよい。
乾燥は、例えばオーブン中で乾燥させてもよいし、高周波乾燥機で乾燥させてもよい。
乾燥させる際の温度は通常60〜180℃である。
【0025】
水酸化アルミニウムとαアルミナ種粒子との混合成形体を焼成する。焼成温度は、本願発明で規定する純度、比表面積、相対密度およびかさ密度のαアルミナが容易に得られる点で、通常1200〜1450℃、好ましくは1250〜1400℃である。1450℃を越える場合では、焼成炉からの不純物汚染などが起こり易い。また、1200℃未満では、水酸化アルミニウムのα化が不十分であったり、相対密度が低くなることがある。
【0026】
混合物は、例えば30〜500℃/時間の昇温速度で焼成温度まで昇温する。
焼成時間は水酸化アルミニウムが十分にα化するに十分な時間であればよく、水酸化アルミニウムとαアルミナ種粒子との使用量比、焼成炉の形式、焼成温度、焼成雰囲気などにより異なるが、例えば30分以上24時間以下、好ましくは1〜10時間である。
【0027】
混合物は、大気中で焼成してもよいし、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガス中で焼成してもよい。また、水蒸気分圧が高い湿潤雰囲気中で焼成してもよい。
【0028】
混合物を焼成する際には、例えば管状電気炉、箱型電気炉、トンネル炉、遠赤外線炉、マイクロ波加熱炉、シャフト炉、反射炉、ロータリー炉、ローラーハース炉などの通常の焼成炉を用いることができる。混合物は回分式で焼成してもよいし、連続式で焼成してもよい。また静止式で焼成してもよいし、流動式で焼成してもよい。
【0029】
混合物の焼成により本発明のサファイア単結晶製造用αアルミナが得られる。
得られたサファイア単結晶製造用αアルミナにおいては、1個あたりの体積が0.01cm3以上であり、相対密度が80%以上、より好ましくは85%以上であり、集合体としてのかさ密度が1.5〜2.3g/cm3である。相対密度が80%以上であることにより、当該αアルミナを坩堝中で加熱溶融する際の伝熱効率が向上し、サファイア単結晶の生産効率が向上する。また、集合体としてのかさ密度が1.5〜2.3g/cm3であることにより、坩堝の容積効率が向上し、サファイア単結晶の生産効率が向上する。
【0030】
当該サファイア単結晶製造用αアルミナを加熱溶融したのち冷却することにより容易にこれを単結晶化させてサファイア単結晶を製造することができる。
【0031】
本発明のサファイア単結晶製造用αアルミナにおいては、比表面積が好ましくは1m2/g以下であり、より好ましくは0.1m2/g以下である。αアルミナの比表面積が1m2/g以下であることから、大気中からαアルミナ表面に付着する水分が少なく、αアルミナを加熱溶融させたときに、これらの水分によりルツボを酸化させるおそれがなく、さらにサファイア単結晶に形成されるボイドも少なくなる。
【0032】
本発明のサファイア単結晶製造用αアルミナにおいては、純度が99.99重量%以上であって、Si、Na、Ca、Fe、CuおよびMgの含有量がそれぞれ10ppm以下であることが好ましい。これをサファイア単結晶製造用アルミナ原料として用いることで、着色やクラック等の少ない良質なサファイア単結晶が得られる。
【0033】
本発明のサファイア単結晶製造用αアルミナは、EFG法、チョクラルスキー法、カイロポーラス法等のサファイア単結晶成長方法の原料として適用することができ、好ましくは、連続的に原料を供給する必要があるEFG法に用いられる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0035】
なお、実施例における評価方法は下記のとおりである。
(1)相対密度
アルキメデス法で焼結密度を測定し、それと下記式を用いることで算出した。
相対密度(%)=焼結密度〔g/cm3〕/3.98〔g/cm3;αアルミナ理論焼結密度〕×100
(2)体積
アルキメデス法で測定したサファイア単結晶製造用αアルミナの焼結密度とサファイア単結晶製造用αアルミナの1個あたりの重量から、下記式を用いることで算出した。
体積(cm3/個)=重量〔g/個〕/焼結密度〔g/cm3
(3)不純物濃度(純度)
Si、Na、Mg、Cu、Fe、Caの含有量は、固体発光分光法にて測定した。
純度としては、サファイア単結晶製造用αアルミナ中に含まれるSiO2,Na2O,MgO,CuO,Fe23,CaOの重量の総和(%)を上記測定結果から算出し、これを100から差し引いたものを用いた。算出式は以下のとおりである。
純度(%)=100(%)−不純物の重量の総和(%)
(4)かさ密度
試料を内径37mm、高さ185mmのシリンダーに充填した後、その試料重量を測定容器の容積で除して、かさ密度を算出した。
(5)比表面積
比表面積は、BET比表面積測定装置〔島津製作所社製「2300−PC−1A」〕を用いて窒素吸着法により測定した。
【0036】
(実施例1)
αアルミナ種粒子として、高純度αアルミナ(商品名AKP−53、住友化学株式会社製)を用いた。
このαアルミナ種粒子に水を加えて、湿式ボールミル粉砕し、該アルミナ種粒子が20重量%含まれたαアルミナ種粒子スラリーを作成した。該アルミナ種粒子の平均粒子径は0.25μmであった。
【0037】
αアルミナ前駆物質として、アルミニウムアルコキシドの加水分解法により得られた高純度水酸化アルミニウムを用いた。
このαアルミナ種粒子スラリーと高純度水酸化アルミニウムを、高速回転する多段十字型分解構造を有する撹拌羽を内面に有するブレンダー型混合機で混合した。
混合時のαアルミナ種粒子の使用量は、焼成後に得られるαアルミナを100重量部としたとき、2.3重量部であり、水量は、高純度水酸化アルミニウム100重量部に対して、149重量部であった。
その後、水量を、水酸化アルミニウム100重量部に対して、192重量部になるよう調整した後、径5mm、長さ5mmの円柱状に押出し成形した。得られた成形体を、オーブン中60℃で乾燥させて水分を揮発させた後に、昇温速度100℃/hr、焼成温度1350℃で4時間焼成して、サファイア単結晶製造用αアルミナを得た。
【0038】
αアルミナの相対密度は98%であり、体積は0.014cm3であり、かさ密度は2.3g/cm3であり、比表面積は0.1m2/g以下であり、含まれるSiは4ppm、Naは5ppm以下、Mgは1ppm以下、Cuは1ppm以下、Feは9ppm、Caは1ppm以下であり、アルミナ純度は99.99%であった。
【0039】
(実施例2)
水酸化アルミニウムとαアルミナ種粒子の混合物を径20mm、長さ40mmの円柱状に押出し成形した以外は、実施例1の方法と同様に操作することで、サファイア単結晶製造用αアルミナを得た。
【0040】
αアルミナの相対密度は94%であり、体積は1.1cm3であり、かさ密度は1.8g/cm3であり、比表面積は0.1m2/g以下であり、含まれるSiは4ppm、Naは5ppm以下、Mgは1ppm以下、Cuは1ppm以下、Feは5ppm、Caは1ppm以下であり、アルミナ純度は99.99%であった。
【0041】
(比較例1)
住友化学株式会社製AKQ−10において、相対密度は49%であり、体積は0.004cm3であり、かさ密度は1.2g/cm3であり、比表面積は2.8m2/gであり、含まれるSiは6ppm、Naは5ppm以下、Mgは1ppm、Cuは1ppm以下、Feは5ppm、Caは1ppm以下であり、アルミナ純度は99.99%であった。
【0042】
実施例1、2のαアルミナを使用することにより、比較例1のαアルミナに比較し、EFG法などにより坩堝中で加熱溶融する際の伝熱効率が向上し、また坩堝の容積効率が向上し、サファイア単結晶の生産効率が向上する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1個あたりの体積が0.01cm3以上であり、相対密度が80%以上であり、
集合体としてのかさ密度が1.5〜2.3g/cm3であることを特徴とするサファイア単結晶製造用αアルミナ。
【請求項2】
形状が球状、円柱状および俵状のいずれかからなる請求項1に記載のサファイア単結晶製造用αアルミナ。
【請求項3】
比表面積が1m2/g以下である請求項1または2に記載のサファイア単結晶製造用αアルミナ。
【請求項4】
純度が99.99質量%以上であり、Si、Na、Ca、Fe、CuおよびMgの含有量がそれぞれ10ppm以下である請求項1〜3のいずれかに記載のサファイア単結晶製造用αアルミナ。

【公開番号】特開2011−126773(P2011−126773A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−257430(P2010−257430)
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】