説明

サーメットおよび被覆サーメット

【課題】耐摩耗性および耐欠損性に優れたサーメットを提供する。
【解決手段】硬質相と結合相とからなるサーメットであって、硬質相は、第1硬質相、第2硬質相、第3硬質相の2種または3種と、WC相とから構成され、第1硬質相はTiを含み金属元素に対するW量が10原子%未満であり、第2硬質相はTiを含み金属元素に対するW量が10原子%以上であり、第3硬質相はコアとリムからなり、第3硬質相のコアはTiを含み金属元素に対するW量が10原子%未満であり、第3硬質相のリムはTiを含み金属元素に対するW量が10原子%以上であり、サーメットの断面組織における、第2硬質相の面積率V2と、第3硬質相のリムの面積率V3Rと、第1硬質相と第2硬質相と第3硬質相の面積率の総合計V123は、((V2+V3R)/V123)<0.4を満足するサーメット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削工具など用いられるサーメットおよび被覆サーメットに関する。
【背景技術】
【0002】
サーメットは優れた耐摩耗性を有し、サーメットを用いて切削加工すると平滑で美しい仕上げ面が得られることから、仕上げ切削などに広く用いられている。サーメットに関する従来技術としては、サーメットの炭窒化物相の分布を制御して靱性を向上させたサーメットがある(例えば、特許文献1参照。)。また、炭窒化物の構造を制御して性能を向上させたサーメットがある(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3359481号
【特許文献2】特許第2697553号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、切削加工では、さらなる高能率加工が求められている。例えば、切削工具の交換回数を減らすことで高能率加工が可能となるため、従来よりも長寿命の切削工具が求められている。従来のサーメットおよび被覆サーメットは耐摩耗性に優れるが、欠損しやすく、寿命が短いという問題があった。本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、耐摩耗性および耐欠損性に優れたサーメットおよび被覆サーメットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、サーメットの耐摩耗性を低下させずに耐欠損性を向上させる方法を検討してきた。その結果、サーメットの欠損が主に熱衝撃によって生じること、熱衝撃によるサーメットの欠損を減少させるためにはサーメットの熱伝導率を向上させることが非常に有効であることが分かった。サーメットの熱伝導率を向上させるためには、熱伝導率の高いWC相を含有させるとよいが、WC相が多いと耐摩耗性が低下するため必要以上の増加させることはできない。このため、WC相以外の硬質相であるTi含有物の熱伝導率を向上させる必要性が出てきた。さらに研究を重ねたところ、Ti含有物に含まれるW量を減少させるとTi含有物の熱伝導率が向上することを見出した。
【0006】
すなわち、本発明のサーメットは、周期表4a、5a、6a族元素の炭化物、窒化物、炭窒化物およびこれらの相互固溶体の中の少なくとも1種からなる硬質相と、鉄族金属を主成分とする結合相とから構成されたサーメットであって、硬質相は、第1硬質相、第2硬質相および第3硬質相の中の2種または3種と、WC相とから構成され、第1硬質相はTiを含み第1硬質相に含まれる金属元素に対するW量が10原子%未満であり、第2硬質相はTiを含み第2硬質相に含まれる金属元素に対するW量が10原子%以上であり、第3硬質相はコアとリムからなり、第3硬質相のコアはTiを含み第3硬質相のコアに含まれる金属元素に対するW量が10原子%未満であり、第3硬質相のリムはTiを含み第3硬質相のリムに含まれる金属元素に対するW量が10原子%以上であり、サーメットの断面組織における第2硬質相の面積率V2と、サーメットの断面組織における第3硬質相のリムの面積率V3Rと、サーメットの断面組織における第1硬質相と第2硬質相と第3硬質相の面積率の総合計V123は、((V2+V3R)/V123)<0.4を満足するサーメットである。
【0007】
これまでの研究の結果、TiCNなどのTi含有物の熱伝導率は、Ti含有物へのWの固溶により低下することがわかった。特にTi含有物に含まれる金属元素に対するW量が10原子%以上になると熱伝導率は急激に低下することがわかった。そのため、優れた熱伝導性を示すサーメットを得るためには、W量が10原子%以上のTi含有物を減少させるとともに、W量が10原子%未満のTi化合物を増加させるとよいことが明らかとなってきた。本発明のサーメットの硬質相を、(1)金属元素に対するW量が10原子%未満のもの、(2)金属元素に対するW量が10原子%以上100原子%未満のもの、(3)金属元素に対するW量が100原子%のものに分類すると、(1)Tiを含み金属元素に対するW量が10原子%未満である第1硬質相と第3硬質相のコア、(2)Tiを含み金属元素に対するW量が10原子%以上である第2硬質相と第3硬質相のリム、(3)WC相に分類することができる。本発明のサーメットの断面組織における、第2硬質相の面積率V2と、第3硬質相中のリムの面積率V3Rと、第1硬質相と第2硬質相と第3硬質相の面積率の総合計V123が、((V2+V3R)/V123)<0.4であると熱衝撃による欠損が減少し工具寿命が増加する。逆に((V2+V3R)/V123)≧0.4であると欠損が生じやすく十分な性能を示さない。
【0008】
第2硬質相と第3硬質相のリムにはTiとWが含まれるが、強靭化のためにTi、W以外の周期表4a、5a、6a族元素を含ませても好ましい。また、第1硬質相と第3硬質相のコアにはTiが含まれるが、強靭化のためにTi以外の周期表4a、5a、6a族元素を含ませても好ましい。
【0009】
第1硬質相に含まれる金属元素に対するW量は5原子%未満であると熱伝導率はさらに高まり耐熱性が向上し、W量は1原子%未満であるとさらに耐熱性を高めることができるので好ましい。また、第2硬質相に含まれる金属元素に対するW量および第3硬質相のリムに含まれる金属元素に対するW量をそれぞれ30原子%以下、すなわち、10〜30原子%とすると、耐熱性の低下を抑えることができるので、さらに好ましい。
【0010】
本発明のサーメットの断面組織におけるWC相の面積率が1面積%以上になると靱性が向上し、WC相の面積率が55面積%を超えると十分な耐摩耗性を得ることができないので、WC相の面積率は1〜55面積%であると好ましい。
【0011】
本発明の結合相は硬質相と硬質相を強固に結合させてサーメットの強度を高める作用がある。本発明における鉄族金属を主成分とする結合相とは、鉄族金属または鉄族金属に周期表4a、5a、6a族元素、Si、Al、Zn、Cu、Ru、Rh、Reの少なくとも1種を50重量%未満固溶させたものである。本発明において鉄族金属とはCo、Ni、Feを示す。その中でも、結合相がCo、Niの1種または2種からなると、機械的強度が向上するのでさらに好ましく、その中でも結合相がCoからなるとサーメットと硬質膜との密着性が向上するのでさらに好ましい。なお、硬質相成分の結合相への固溶または結合相の特性向上のため、結合相の鉄族金属に周期表4a、5a、6a族元素を50重量%未満固溶させると好ましい。結合相の鉄族金属にSi、Al、Zn、Cuが50重量%未満含まれると焼結性が向上するので好ましい。また、結合相の鉄族金属にRu、Rh、Reを30重量%以下含有させると耐摩耗性が向上するので好ましい。
【0012】
本発明のサーメットの断面組織における、結合相の面積率が3面積%未満、硬質相の面積率が97面積%を超えると、本発明のサーメットに十分な靱性を付与することができず、結合相の面積率が20面積%を超え、硬質相の面積率が80面積%未満になると、十分な耐摩耗性が得られない。そのため、結合相の面積率は3〜20面積%、硬質相の面積率は80〜97面積%であると好ましい。
【0013】
本発明のサーメットの表面に、CVD法またはPVD法により周期表4a、5a、6a族元素、Al,Siの酸化物、炭化物、窒化物およびこれらの相互固溶体、硬質炭素膜などの硬質膜を被覆した被覆サーメットはさらに耐摩耗性に優れる。硬質膜の具体例としては、TiN、TiC、TiCN、TiAlN、TiSiN、AlCrN、Al23、ダイヤモンド、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)などを挙げることができる。硬質膜の総膜厚は0.1μm以上になると耐摩耗性が向上し、30μmを超えて厚くなると耐欠損性が低下するので、0.1〜30μmが好ましい。
【0014】
本発明のサーメットは、例えばTiCやTiCN粉と、WC粉と、周期表4a、5a、6a族元素の炭化物、窒化物、炭窒化物およびこれらの相互固溶体の粉末と、鉄族金属の粉末とを所定の配合組成となるように混合した混合物を、
(A)非酸化雰囲気で常温から1200〜1300℃の第1加熱温度まで昇温させる工程と、
(B)1200〜1300℃の第1加熱温度で20Torr以上の窒素およびアルゴン混合雰囲気で30分間以上保持する工程と、
(C)1200〜1300℃の第1加熱温度から1420〜1600℃の第2加熱温度まで昇温時に5Torr以下の非酸化性雰囲気に5分間以上保持したのち圧力10Torr以上の窒素雰囲気で昇温させる工程と、
(D)1420〜1600℃の第2加熱温度にて圧力10Torr以上の窒素雰囲気で保持する工程と
(E)冷却する工程と
を含むサーメットの製造方法により得ることができる。
【0015】
工程(A)において、混合物を非酸化雰囲気で昇温させることにより混合物の酸化を防いでいる。非酸化雰囲気として、具体的には、真空中、窒素雰囲気、不活性ガス雰囲気、水素雰囲気などを挙げることができる。工程(B)の雰囲気の圧力は20Torr以上が好ましく、これにより焼結体の内部と表面部の窒素量を等しくすることができる。また、工程(C)では、5Torr以下の非酸化性雰囲気で5分間以上保持することで焼結性を高めることができる。工程(C)(D)での窒素雰囲気の圧力は10Torr以上が好ましく、これにより第2硬質相を少なくすることができる。なお、窒素雰囲気の圧力が300Torrを超えて高くなるとサーメットの焼結性が低下するので、窒素雰囲気の圧力は10〜300Torrであると好ましい。
【0016】
本発明のサーメットの具体的な製造方法としては、以下の方法が挙げられる。TiCN粉と、WC粉と、周期表4a、5a、6a族元素の炭化物、窒化物、炭窒化物およびこれらの相互固溶体の粉末と、鉄族金属の粉末を用意する。これらの粉末を所定の重量比率に秤量し、溶媒とともに湿式ボールミルにて混合し、混合後に溶媒を蒸発させて混合物を乾燥させる。得られた混合物にパラフィン等の成形用のワックスを添加して所定の形状に成形する。なお、成形する方法としては、プレス成形、押出成形、射出成形などを挙げることができる。成形した混合物を焼結炉に入れて、真空中で350〜450℃まで昇温してワックスを除去させた後、真空中または窒素雰囲気で450℃から1200〜1300℃の第1加熱温度まで昇温させたのち、50Torrの窒素およびアルゴン混合雰囲気で60分間保持したのち、混合物を1200〜1300℃の第1加熱温度から1420〜1600℃の第2加熱温度まで1Torrの非酸化性雰囲気で20分間保持して、その後、圧力10Torr以上の窒素雰囲気で昇温させ、窒素雰囲気で1420〜1600℃の第2加熱温度にて10〜60分間保持する。その後、1420〜1600℃の第2加熱温度から常温まで冷却する。
【0017】
本発明のサーメットの表面に、従来のCVD法やPVD法により硬質膜を被覆することにより本発明の被覆サーメットを得ることができる。
【0018】
本発明のサーメットおよび被覆サーメットは、耐摩耗性および耐欠損性に優れるため、切削工具として用いると優れた切削性能を発揮する。そのため、本発明のサーメットおよび被覆サーメットを切削工具として用いると、従来よりも工具寿命を向上させることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明のサーメットおよび被覆サーメットは耐摩耗性および耐欠損性に優れ、工具に使用すると工具寿命を長くする効果が得られる。
【実施例1】
【0020】
サーメットの原料粉末として、平均粒径1.4μmのTiC、平均粒径1.5μmのTi(C0.50.5)粉、平均粒径1.5μmのTi(C0.30.7)粉、平均粒径1.7μmの(Ti0.92Nb0.05Zr0.010.02)(C0.50.5)粉、平均粒径1.7μmの(Ti0.91Ta0.050.04)(C0.50.5)粉、平均粒径1.6μmの(Ti0.82Nb0.090.09)(C0.50.5)粉、平均粒径1.5μmの(W0.5Ti0.2Ta0.3)C粉、平均粒径1.5μmのWC粉、 平均粒径1.5μmのTaC粉、平均粒径1.5μmのNbC粉、 平均粒径1.5μmのMo2C粉、平均粒径1.6μmのCr32粉、平均粒径1.1μmのVC粉、平均粒径1.0μmのZrC粉、平均粒径1.2μmのHfC粉、平均粒径1.3μmのCo粉、平均粒径1.6μmのNi粉を用意した。これらを用いて、表1に示す配合組成に秤量した。
【0021】
【表1】

【0022】
秤量した混合粉末を湿式ボールミルにて混合・粉砕した後、溶媒を蒸発させて、混合物を乾燥させた。乾燥させた混合物にパラフィンを添加して、プレス成形した。ここで、発明品1〜8については、プレス成形した混合物を焼結炉に入れて、真空中で常温から450℃まで徐々に昇温してパラフィンを蒸発させた後、真空中で450℃から1250℃の第1加熱温度まで昇温させ、50Torrの窒素およびアルゴン混合雰囲気で60分間保持したのち、さらに、混合物を1250℃の第1加熱温度から1500℃の第2加熱温度までの昇温工程において1Torrの非酸化性雰囲気で20分間保持したのち150Torrの窒素雰囲気で昇温させ、同じ圧力の窒素雰囲気で1500℃の第2加熱温度にて60分間保持して、室温まで冷却した。一方、比較品1〜4については、プレス成形した混合物を焼結炉に入れて、真空中で常温から450℃まで徐々に昇温してパラフィンを蒸発させた後、真空中で450℃から1280℃まで昇温させた。さらに、真空中で1280℃から1480℃まで昇温させ、1480℃にて真空中で50分間保持した。その後、真空中で1480℃から常温まで冷却した。
【0023】
得られたサーメットの内部の断面組織を走査電子顕微鏡にて観察し、走査電子顕微鏡付属のEDSを用いながら、第1硬質相、第2硬質相、第3硬質相のコアおよびリムのW量を分析した。さらにWC相、結合相も含めた各相の面積%を測定した。これらの結果は表2、3に示した。VWCはWC相の面積%、V1は第1硬質相の面積%、V2は第2硬質相の面積%、V3Cは第3硬質相のコアの面積%、V3Rは第3硬質相のリムの面積%、V123は第1硬質相と第2硬質相と第3硬質相の面積%の総合計(V123=V1+V2+V3C+V3R)、Vbは結合相の面積%、C1Wは第1硬質相に含まれる金属元素に対するW量の原子%、C2Wは第2硬質相に含まれる金属元素に対するW量の原子%、C3CWは第3硬質相のコアに含まれる金属元素に対するW量の原子%、C3RWは第3硬質相のリムに含まれる金属元素に対するW量の原子%を示す。また、V2、V3R、V123から求めた(V2+V3R)/V123の値も表2に示した。
【0024】
【表2】

【0025】
【表3】

【0026】
また、サーメットの各相に含まれる成分を、走査電子顕微鏡付属のEDSを用いて分析した。その結果を表4に示した。なお、結合相に含まれる成分については、結合相全体に対して50重量%以上の元素を主成分とし、結合相全体に対して50重量%未満の元素を微量成分とした。また、結合相に鉄族元素が2種以上含まれている場合、鉄族元素の合計が結合相全体に対して50重量%以上であれば、その鉄族元素を主成分とした。
【0027】
【表4】

【0028】
作製したサーメットに研削とホーニングを施し、ISO規格SNGN120408形状に加工した。さらにPVD法により厚さ2.5μmのTiAlNを被覆して発明品1〜8、比較品1〜4の被覆サーメットを得た。また、発明品7のサーメット基材に、膜構成が(基材側)平均膜厚0.2μmTiN−平均膜厚2.0μmTi(C,N)−平均膜厚0.6μmAl23−平均膜厚0.2μmTiN(最表面側)(平均総膜厚3μm)である硬質膜をCVD法により被覆したものを発明品9とした。得られた被覆サーメットを用いて切削試験1、2を行った。
【0029】
[切削試験1]
耐欠損性評価試験
試料形状:SNGN120408
被削材:S40C(形状:円柱に4本の溝を入れた略円柱状)
切削速度:160m/min
切り込み:2.0mm
送り量:0.25mm/rev
雰囲気:湿式切削
試験回数:3回
寿命の判定基準:欠損するまでの衝撃回数を寿命とする。なお、衝撃回数が25000回になるまでに欠損しない場合は、その時点で試験を終了する。
【0030】
表5に切削試験1の結果を示した。
【0031】
【表5】

【0032】
[切削試験2]
耐摩耗性評価試験
試料形状:SNGN120408
被削材:S40C(形状:円柱)
切削速度:200m/min
切り込み:2.0mm
送り量:0.25mm/rev
雰囲気:湿式切削
寿命の判定基準:欠損したとき、または、最大逃げ面摩耗量VBmaxが0.3mm以上になったときを寿命とする。
【0033】
表6に切削試験2の結果を示した。
【0034】
【表6】

【0035】
表6に示されるように、発明品の加工時間が24分以上であり、比較品の加工時間は、20分20秒以下であった。発明品は、比較品よりも切削性能が優れることが分かる。
【0036】
切削試験1と切削試験2の結果を点数化した。すなわち、切削試験1の衝撃回数について、25000回以上を3点、20000回以上を2点、15000回以上を1点、15000回未満を0点とし、1回目から3回目までの結果を平均した。また、切削試験2の加工時間について、30分以上を3点、20分以上30分未満を2点、10分以上20分未満を1点とした。切削試験1の点数の平均値と切削試験2の点数を合計し、その値を総合評価の結果とした。点数が大きいほど切削性能に優れる。得られた総合評価の結果は表7に示した。
【0037】
【表7】

【0038】
表7に示されるように発明品の切削試験1の平均値は2〜3点であり耐欠損性に優れることが分かる。発明品の切削試験2の結果は2〜3点であり耐摩耗性に優れることが分かる。耐欠損性と耐摩耗性がバランスよく優れる発明品は総合評価において4.0〜5.0点と高い点数になった。比較品は発明品よりも総合評価の点数が低い。このことは総合的な切削性能が発明品よりも劣ることを示している。例えば、比較品1については、切削試験2において2点であり優れた耐摩耗性を示すが、切削試験1の平均値は1.3点であり、総合評価は3.3点になった。比較品4については、切削試験1および切削試験2がいずれも1.0点であり、総合評価では2.0点になった。
【実施例2】
【0039】
実施例1における被覆前の発明品4、5のサーメット基材、比較品1、4のサーメット基材と同一のサーメットを作製し、研削とホーニングを施してISO規格TNGN160408形状に加工した。これらに被覆処理をせずに、それぞれを発明品10、11、比較品5、6のサーメットとして切削試験3を行った。試料内容は表8に示す。
【0040】
【表8】

【0041】
[切削試験3]
耐摩耗性評価試験
試料形状:TNGN160408
被削材:S40C(形状:円柱状)
切削速度:100m/min
切り込み:2.0mm
送り量:0.25mm/rev
雰囲気:乾式切削
寿命の判定基準:10コーナを最大15分間切削して、欠損したとき、または、最大逃げ面摩耗量VBmaxが0.3mm以上になったときを寿命とする。
【0042】
表9に切削試験3の結果を示した。
【0043】
【表9】

【0044】
表9から発明品10、11のサーメットは比較品5、6のサーメットよりも耐欠損性および耐摩耗性に優れることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期表4a、5a、6a族元素の炭化物、窒化物、炭窒化物およびこれらの相互固溶体の中の少なくとも1種からなる硬質相と、鉄族金属を主成分とする結合相とから構成されたサーメットであって、硬質相は、第1硬質相、第2硬質相および第3硬質相の中の2種または3種と、WC相とから構成され、第1硬質相はTiを含み第1硬質相に含まれる金属元素に対するW量が10原子%未満であり、第2硬質相はTiを含み第2硬質相に含まれる金属元素に対するW量が10原子%以上であり、第3硬質相はコアとリムからなり、第3硬質相のコアはTiを含み第3硬質相のコアに含まれる金属元素に対するW量が10原子%未満であり、第3硬質相のリムはTiを含み第3硬質相のリムに含まれる金属元素に対するW量が10原子%以上であり、サーメットの断面組織における第2硬質相の面積率V2と、サーメットの断面組織における第3硬質相のリムの面積率V3Rと、サーメットの断面組織における第1硬質相と第2硬質相と第3硬質相の面積率の総合計V123は、((V2+V3R)/V123)<0.4を満足するサーメット。
【請求項2】
第1硬質相に含まれる金属元素に対するW量が5原子%未満である請求項1に記載のサーメット。
【請求項3】
第1硬質相に含まれる金属元素に対するW量が1原子%未満である請求項1または請求項2に記載のサーメット。
【請求項4】
第2硬質相に含まれる金属元素に対するW量の合計が10〜30原子%であり、第3硬質相のリムに含まれる金属元素に対するW量の合計が10〜30原子%である請求項1〜3のいずれか1項に記載のサーメット。
【請求項5】
サーメットの断面組織におけるWC相の面積率が1〜55面積%である請求項1〜4のいずれか1項に記載のサーメット。
【請求項6】
請求項1〜5いずれか1項に記載のサーメットの表面に硬質膜を被覆した被覆サーメット。

【公開番号】特開2011−93006(P2011−93006A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−246193(P2009−246193)
【出願日】平成21年10月27日(2009.10.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成21年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「希少金属代替材料開発プロジェクト/超硬工具向けタングステン代替材料開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000221144)株式会社タンガロイ (185)
【Fターム(参考)】