シフト触媒、ガス精製方法及び設備
【課題】石炭ガス化プラントにおいて、エネルギーロスを抑制でき、イニシャルコストの低減とシステムの合理化を行うことが可能なシフト触媒、ガス精製方法及びガス精製設備を提供する。
【解決手段】H2Sを含むガス中のCOをH2Oと反応させてCO2とH2へ変換するシフト反応を促進させるシフト触媒であって、少なくともMo及びNiを含む。または、H2Sを含むガス中のCOをH2Oと反応させてCO2とH2へ変換するシフト反応を促進させるシフト触媒であって、少なくともMo及びポーリングの電気陰性度が1.8〜2.0の金属元素を含む。Al2O3、TiO2、及びZrO2の中から選ばれる1種以上の無機酸化物を含むのが好ましい。
【解決手段】H2Sを含むガス中のCOをH2Oと反応させてCO2とH2へ変換するシフト反応を促進させるシフト触媒であって、少なくともMo及びNiを含む。または、H2Sを含むガス中のCOをH2Oと反応させてCO2とH2へ変換するシフト反応を促進させるシフト触媒であって、少なくともMo及びポーリングの電気陰性度が1.8〜2.0の金属元素を含む。Al2O3、TiO2、及びZrO2の中から選ばれる1種以上の無機酸化物を含むのが好ましい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、H2S共存下でCOをCO2へ変換するシフト触媒と、この触媒を用いてH2S、CO及びCOSを含むガス中のCO及びCOSを効率的にCO2、H2及びH2Sに変換し、ガス中のCO2及びH2Sを除去する方法、及びその設備に関する。
【背景技術】
【0002】
石炭、石油及び天然ガス等の燃料を用いて発電する火力発電プラントは、従来から多数稼動している。その中でも、埋蔵量が多くて将来的にも安定供給が可能な石炭を燃料とし、ガス化炉で石炭を一旦ガス化した後に、この生成ガスを発電用の燃料として供給する石炭ガス化複合発電(Integrated Coal Gasification Combined Cycle、IGCC)という技術が、近年注目されている。また、原油や天然ガスの資源枯渇が懸念される中、従来は石油や天然ガスから生産されていた化学製品を石炭から生産するプラントのニーズも高まっている。石炭ガス化プラントは、発電用途のみでなく、化学製品の原料となるH2の製造にも利用されている。
【0003】
近年、地球温暖化防止の観点から、プラントからのCO2排出量を削減するためにCO2を回収する技術が開発されている。特許文献1や2では、ガス化炉からの生成ガスに含まれるH2SやCOSの硫黄分を脱硫設備により除去し、その後、シフト反応器により、この生成ガス中のCOを式(1)の反応によりCO2に変換し、その後、CO2回収設備により、ガス中のCO2を回収する石炭ガス化発電プラントが開示されている。また、化学製品製造向けの石炭ガス化プラントにおいても、原料となるH2の高純度化のため、ガス化ガス中のCOをシフト反応によりCO2とH2へ変換する、同様のプロセスが採用されている。
【0004】
【数1】
【0005】
シフト反応を促進させる触媒としては、例えば1960年代にGirdler社やDuPont社からCu−Zn系触媒が発表され、現在まで主として工場におけるプラント用などに幅広く利用されている。この触媒は、300℃以下の低温領域でシフト性能を有す。また、300℃以上の高温領域で使用可能な触媒として、Fe−Cr系触媒があり、上記の低温シフト触媒と共にプラントにて使用されている。これらの触媒は、いずれもS(硫黄)分により被毒されることが知られている。上述した石炭ガス化プラントでは、ガス化ガス中に微量のS分を有すため、上記の触媒を使用する際は、触媒前段にて脱硫操作が必要となる。
【0006】
一方、耐S性シフト触媒も開発されており、代表的なものに特許文献3、4に記載のCo−Mo系触媒がある。Co−Mo系触媒は、広い温度範囲でCOシフト活性を有すが、ガス中にH2Sが共存しないと活性を有しないことが特徴である。また、耐S性シフト触媒は、Cu−Zn系触媒に比べて反応起動温度が高いという特徴もある。シフト反応は、平衡上、高温領域ほど進行しにくい。また、シフト反応は発熱反応のため、反応起動温度が高いと触媒層が高温化し、シンタリング等により触媒の寿命を短命化させる。従って、現在は、特許文献1、2に記載のように、シフト反応器の前段に脱硫設備を配し、Cu−Zn系とFe−Cr系触媒を組合せて使用する方法が主流である。
【0007】
しかしながら、耐S性シフト触媒の反応起動温度を低減化できれば、シフト反応に要する供給エネルギーを低減できる。反応起動温度が低い耐S性シフト触媒をIGCCに適用すると、発電効率の低下を抑制できるだけでなく、低温(300℃以下)での運用により、生成H2の高純度化、触媒の長寿命化が見込まれる。
【0008】
また、特許文献1、2に記載のプロセスでは、COS転化器(約200℃)、脱硫設備(約40℃)、シフト反応器(約300℃)、及びCO2回収設備(約40℃)という設備を使用するため、プロセス中に昇降温が多く、放熱によるエネルギーロスが多いことが課題であった。
【0009】
近年では、特許文献5に示すように、脱硫装置を廃し、生成ガス中のCOSをCOS変換装置で式(2)の反応によりCO2及びH2Sに変換し、シフト反応器により生成ガス中のCOをCO2に変換した後、H2S/CO2回収装置によりH2SとCO2を同時に除去する設備の開発が進められている。
【0010】
【数2】
【0011】
シフト反応器の前段で使用されるCOS転化触媒としては、特許文献6に開示されているように、TiO2触媒を用いる事例が多い。
【0012】
COシフト反応及びCOS転化反応は、式(1)、(2)に示すように、いずれも加水分解反応で進行する。また、各反応のメカニズムは、特許文献6及び非特許文献1に示すように、COS転化反応では触媒上の水酸基のO原子に、COシフト反応ではMoSO上のO原子に、それぞれ吸着するとされている。従って、いずれの反応でも、CO及びCOSの吸着サイトは、触媒中及び触媒上のO原子である。従って、同一触媒にてCOとCOSを同時に転化できる可能性がある。COとCOSを同一触媒により同時に処理することができれば、イニシャルコストの低減、制御性の向上が見込まれる。しかしながら、COSを分解するとH2Sが生成するため、上記目的を達成しうる触媒は、耐S性を有する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特許第2870929号公報
【特許文献2】特許第3149561号公報
【特許文献3】特開平9−132784号公報
【特許文献4】国際公開第2010/116531号
【特許文献5】特開2004−331701号公報
【特許文献6】特開平11−276897号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Jin-Nam Park et al., Bull.Korean Chem. Soc., vol.21, No.12, p1233-1238(2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従来の技術では、上述したように、反応起動温度が高い耐S性シフト触媒を用いており、シフト反応に供給するエネルギーが多い。このため、エネルギーロスが多く、発電効率が低下することが課題である。また、従来の石炭ガス化プラントでは、生成ガスの脱硫とCO2回収を行う際に、温度の異なる設備を4つまたは3つ使用している。このため、プロセス中に昇降温が多く、放熱によるエネルギーロスが多いことが課題である。また、構成機器数が多いことで、イニシャルコストがかかるという課題もある。
【0016】
本発明は、石炭ガス化プラントにおいて、エネルギーロスと発電効率の低下を抑制でき、更に、イニシャルコストの低減とシステムの合理化を行うことが可能なシフト触媒、ガス精製方法及びガス精製設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明によるシフト触媒は、H2Sを含むガス中のCOをH2Oと反応させてCO2とH2へ変換するシフト反応を促進させるシフト触媒であって、少なくともMo及びNiを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によるシフト触媒は、低温(300℃以下)では平衡上シフト反応が進行しやすいため、低温で起動させると反応効率が高い。従って、反応起動温度が低く、シフト反応に要する供給エネルギーを低減できるので、エネルギーロスを抑制できる。更に、本発明によるシフト触媒は、1つの触媒でCO転化反応とCOS転化反応が可能であり、システムの合理化を図れる。また、本発明によるガス精製方法及びガス精製設備では、石炭ガス化プラントにおいて、エネルギーロスを抑制でき、更に、反応器などの構成機器の数を削減できるのでイニシャルコストの低減とシステムの合理化を図れる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実験例1で用いた試験装置を示す図である。
【図2】試験例1において、添加元素のポーリングの電気陰性度とCO転化率の相関を示す図である。
【図3】試験例2において、温度とCO転化率の関係について担体依存性を示す図である。
【図4】試験例3において、Mo/Ti比とCO転化率の相関を示す図である。
【図5】試験例4において、Ni/Mo比とCO転化率の相関を示す図である。
【図6】試験例4において、Ni/Mo比と比表面積及び平均細孔直径との関係を示す図である。
【図7】試験例5において、各触媒のCO転化率のH2O/CO比に対する依存性を示す図である。
【図8】試験例6において、Ni/Mo/TiO2触媒とCo/Mo/TiO2触媒のCOS転化率を示す図である。
【図9】従来のガス精製システムのフロー図である。
【図10】実施例2における、本発明によるガス精製システムのフロー図である。
【図11】本発明の実施例3によるガス精製システムの構成図である。
【図12】本発明の実施例4によるガス精製システムの構成図である。
【図13】実施例4における、CO/COS同時転化器が単段であり、リサイクル管を備えたガス精製システムの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【実施例1】
【0021】
以下、実施例1として、本発明によるシフト触媒の効果を示す試験例を説明する。
【0022】
図1は、本実施例で用いた触媒性能評価装置を示す図である。本試験装置は、ガス供給系(マスフローコントローラー100)、水蒸気供給系(水タンク101、マイクロチューブポンプ102、水気化器103)、反応管104、電気炉107、トラップ槽109、及び水分除去装置110を備える。電気炉107により、反応管104での反応温度を変化させた。トラップ槽109は、ガス中の水分を凝縮させてトラップし、水分除去装置110は、トラップ槽109でトラップしたガス中の水分を、吸収剤で吸収して除去する。
【0023】
生成ガスを模擬する反応ガスとして、CO、H2、CH4、CO2、N2、H2S、及びCOSを、所定流量となるようにマスフローコントローラー100によって調節して、反応管104に供給した。また、水蒸気は、水タンク101の水をマイクロチューブポンプ102によって流量を調節し、その後、水気化器103によって気化させて、反応管104に供給した。尚、反応管104に反応ガスと水蒸気を供給する配管には、断熱材108を巻いて保温し、気化した水蒸気が凝縮するのを抑制した。
【0024】
反応管104内の上部には、ラシヒリング105を充填した。これは、反応ガス及び水蒸気の混合を促進させるためである。反応管104には、ラシヒリング105の下部に、シフト触媒として供試触媒106を充填した。
【0025】
供試触媒106の性能評価試験条件は、以下のようにした。シフト触媒は、酸化物状態で反応管に充填されるため、使用に際しては、反応式(3)に示す硫化・還元操作によりMoを還元させることが必要となる。
【0026】
【数3】
【0027】
供試触媒106の硫化・還元処理について説明する。N2を本試験装置に流通させながら、触媒が180℃になるまで昇温した。その後、N2を7vol%のH2/N2ガスに切り換え、200℃まで昇温した。温度が安定した後、H2Sを3vol%になるように調節して供給した。触媒層出口でH2Sが検出されたことを確認したら、1℃/minで320℃まで昇温し、320℃にて45分間保持した後、硫化・還元処理を終了した。
【0028】
試験用ガスには、60vol%のCOと20vol%のH2と5vol%のCO2と1vol%のCH4と14vol%のN2を混合した五種混合ガス、1%のH2S/N2balanceガス、及び1%のCOS/N2balanceガスを用いた。五種混合ガスを215ml/minに調整して供給し、また、全ガス中のH2S濃度が600ppmになるように1%のH2S/N2balanceガスを調整して供給した。触媒充填量は、dryガス基準の空間速度(SV、Space velocity)にて1,400h−1になるように充填した。また、反応物質であるH2Oは、H2O/CO(モル比)が1.8になるように調整して供給した。触媒層出口ガスをサンプリングし、ガスクロマトグラフにてCO濃度を測定した。式(4)により、CO転化率を、式(5)によりCOS転化率をそれぞれ算出した。
【0029】
【数4】
【0030】
【数5】
【0031】
(試験例1)
【0032】
本試験例では、公知技術での利用が多いAl2O3担体ベースにMoと他金属成分を添加したシフト触媒に対して、低温域(250℃)と高温域(400℃)の性能について比較した。
【0033】
本試験例で用いた触媒の調製方法について示す。供試触媒は、いずれも混練法により調製した。まず、40gのCONDEA社製の擬ベーマイト(AlO(OH)1/2H2O、商品名PURAL SB1)と、5.17gの七モリブデン酸アンモニウム四水和物に、他金属成分(M)の硝酸塩をMo:M:Alの金属成分モル比が0.05:0.05:1の比率になるように添加した。これに、水和物込みでの水分量が40gとなるように蒸留水を加え、自動乳鉢にて30分間湿式混練した。次に、この混練物を120℃で2時間乾燥後、500℃で1時間焼成した。焼成後の触媒は、乳鉢にて破砕し、加圧プレス機にて500kgfで2分間加圧成型した。最後に、成型後の触媒を10−20meshに整粒して、供試触媒を得た。
【0034】
添加するM成分としては、Co、Ni、Fe、Zn、Ag、Mn、Mg、Ca、Ti、Zr、及びCeの11種とした。それぞれを添加した触媒を、順に、触媒No.1−1〜1−11で表す。尚、比較触媒として、M成分を添加しないMo/Al2O3触媒(比1−1で表す)も調製し、CO転化活性を比較した。
【0035】
表1に、供試触媒の組成、及び250℃と400℃におけるCO転化率を示す。
【0036】
【表1】
【0037】
比1−1の触媒に対してCO転化率が向上したのは、250℃では触媒No.1−1〜1−3の触媒(Co、Ni、またはFeを添加した触媒)、400℃では触媒No.1−1〜1−3、1−9の触媒(Co、Ni、Fe、またはTiを添加した触媒)であった。特に、Niを添加したNi/Mo/Al2O3触媒(No.1−2)は、250℃で約12ポイント、400℃で約30ポイントの性能向上効果が確認され、Niは、助触媒として最適な成分であることが示唆された。上記以外の成分を添加した触媒では、添加によりMo/Al2O3の性能を下回るものが多く、添加成分としては不適であると判断された。
【0038】
以上の結果から、シフト触媒について、特に本発明で課題とした低温活性の向上効果が期待できる成分としてはCo、Ni、またはFeが有効であることが判った。
【0039】
図2は、上記の各添加元素(M成分)のうち、Ca、Ce、Zr、Ag、Zn、Fe、Co、及びNiの8種類について、ポーリングの電気陰性度とCO転化率の相関を示す図である。これらの添加元素(M成分)について、ポーリングの電気陰性度とCO転化率の相関を調べたところ、電気陰性度が大きい成分を添加するほど、活性が向上し、CO転化率が向上することが判った。特に電気陰性度が1.8〜2.0となる元素(Fe、Co、及びNi)では、CO転化率が向上する。
【0040】
電気陰性度は、電子を引き付ける強さの尺度を示すものである。Mo系触媒は、式(3)に示した硫化・還元操作によりMoS2となることで、CO転化活性を示す。電気陰性度が大きな成分がMoO3に隣接することで、負に帯電したMoO3中のO原子を引き付け、Mo−O結合の乖離を促進させ、MoS2の生成に寄与していると考えられる。
【0041】
本試験例から、Mo系触媒に添加する元素としては、ポーリングの電気陰性度が1.8〜2.0となる元素、特に1.91であるNiを添加することで、低温活性が大幅に向上することが判った。
【0042】
(試験例2)
【0043】
試験例1では、Al2O3担体を用いて、種々の添加成分の影響を評価した。しかし、Al2O3担体は、特許文献4にも記載されているように、Clによる被毒により活性が低下することが報告されている。従って、担体をTiO2またはZrO2に変え、それぞれのCO転化率を比較した。尚、触媒には、Moと試験例1にて最も低温活性向上効果が認められたNiとを上記担体に添加したものを用いた。
【0044】
本試験例で用いた触媒の調製方法について示す。担体としてTiO2を用いてNi/Mo/TiO2触媒を調製し、担体としてZrO2を用いてNi/Mo/ZrO2触媒を調製した。これらの供試触媒は、いずれも混練法により調製した。
【0045】
Ni/Mo/TiO2触媒は、40gの石原産業株式会社製の酸化チタン(商品名:MCH2)に、4.47gの七モリブデン酸アンモニウム四水和物と、14.86gの硝酸ニッケル六水和物を添加した。また、Ni/Mo/ZrO2触媒は、40gの第一稀元素化学工業株式会社製の酸化ジルコニウム(商品名:RSC−100)に、4.34gの七モリブデン酸アンモニウム四水和物と、14.45gの硝酸ニッケル六水和物を添加した。湿式混練以降は、試験例1と同様の調製方法とし、それぞれの供試触媒を得た。TiO2を用いた供試触媒を触媒No.2−1で表し、ZrO2を用いた供試触媒を触媒No.2−2で表す。
【0046】
表2に、供試触媒の組成、及び250℃と400℃におけるCO転化率を示す。
【0047】
【表2】
【0048】
図3は、温度とCO転化率の関係を、触媒No.2−1、2−2、及び1−2の触媒について示した図である。尚、触媒No.1−2は、Al2O3を担体に用いた触媒(Ni/Mo/Al2O3触媒)である。図3より、担体としてAl2O3の代わりにTiO2またはZrO2を用いても、低温活性の向上効果が期待できることが判った。また、Al2O3、TiO2、またはZrO2を単独に用いるだけでなく、Al2O3、TiO2、及びZrO2から選ばれる1種以上を組合せて用いても、低温活性の向上効果が期待できる。
【0049】
また、Ni/Mo/Al2O3触媒に比べ、Ni/Mo/TiO2触媒とNi/Mo/ZrO2触媒では、いずれの温度域でも大幅に活性が向上した。特に、Ni/Mo/TiO2触媒は、250℃でCO転化率が91.3%となり、Ni/Mo/Al2O3触媒に比べ、約75ポイントも活性が向上した。
【0050】
以上の結果から、H2Sが共存する条件でのシフト反応を促進させる触媒として、Ni/Mo/TiO2で構成される触媒が最も低温で高い活性を示すことが判った。
【0051】
(試験例3)
【0052】
本試験例では、試験例2にて低温活性の大幅向上効果が見られたNi/Mo/TiO2触媒の組成比を最適化するために、まずは、Mo/TiO2触媒にて、Tiに対するMoの添加量を最適化した。
【0053】
Mo/TiO2触媒の調製方法について示す。供試触媒は、いずれも混練法により、6種類調製した。40gの石原産業株式会社製の酸化チタン(商品名:MCH2)に、七モリブデン酸アンモニウム四水和物を、MoとTiの金属成分モル比(Mo/Ti)が0.025、0.05、0.1、0.2、0.3、及び0.5となるように添加した。湿式混練以降は、試験例1と同様の調製方法とし、6種類の供試触媒を得た。この6種類の供試触媒を、順に、触媒No.3−1〜3−6で表す。
【0054】
表3に、供試触媒の組成、及び250℃と400℃におけるCO転化率を示す。
【0055】
【表3】
【0056】
図4に、250℃と400℃における、Mo/Ti比とCO転化率の相関を示す。400℃では、Mo/Ti比が0.1以上でCO転化率がほぼ安定化した。一方、250℃では、Mo/Ti比が0.2でCO転化率が極大となる傾向となった。従って、Mo/Ti比が0.2の組成は、本発明の目的である低温活性の向上効果が示されており、最適組成である。
【0057】
(試験例4)
【0058】
本試験例では、試験例3で最適化したMo/Ti比が0.2の組成をベースとして、Niの添加量を最適化し、Ni/Mo/TiO2触媒の組成比を最適化した。
【0059】
Mo/TiO2触媒の調製方法について示す。供試触媒は、いずれも混練法により、3種類調製した。40gの石原産業株式会社製の酸化チタン(商品名:MCH2)に、七モリブデン酸アンモニウム四水和物と硝酸ニッケル六水和物を、Mo:Ni:Tiの金属成分モル比が0.2:0.05:1、0.2:0.1:1、及び0.2:0.3:1の割合になるように添加した。湿式混練以降は、試験例1と同様の調製方法とし、3種類の供試触媒を得た。この3種類の供試触媒を、順に、触媒No.4−1〜4−3で表す。
【0060】
表4に、供試触媒の組成、及び250℃と400℃におけるCO転化率を示す。
【0061】
【表4】
【0062】
図5に、250℃と400℃における、Ni/Mo比とCO転化率の相関を示す。尚、図5には、Ni/Mo比が0の触媒(触媒No.3−3の触媒)の結果も併せて図記する。400℃では、CO転化率は、いずれの組成比でもあまり変わらなかった。一方、250℃では、Ni/Mo比が0.5でCO転化率が極大となる傾向となった。
【0063】
図6に、供試触媒のNi/Mo比と比表面積及び平均細孔直径との関係を示す。Ni/Mo比が大きくなるに従い、比表面積は減少し、平均細孔直径は増大した。これは、Ni添加量の増加に従い、触媒中の微細孔が閉塞したためと考えられる。触媒反応を円滑に進行させるためには、触媒の比表面積を大きく維持し、活性点とガスの接触確率を増加させることが必要である。従って、本試験例の結果から、触媒の比表面積は100m2/g以上であり、平均細孔直径は10nm以下となるように調製することが好ましい。触媒の比表面積が100m2/g以上であり、平均細孔直径が10nm以下であれば、触媒の比表面積を大きく維持して反応効率を高めると共に、Ni/Mo比を0.5または0.5以下にすることができる。
【0064】
試験例3、4の結果から、Ni:Mo:Ti=0.1:0.2:1の組成比で調製したNi/Mo/TiO2触媒が、最も高い活性を示すことが判った。
【0065】
(試験例5)
【0066】
本試験例では、試験例4で組成の最適化を実施したNi/Mo/TiO2触媒の、H2O供給量の依存性を評価した結果を示す。特に、発電用の石炭ガス化プラントにシフト触媒を適用する場合、シフト反応のために供給されるH2Oが発電効率の低下を導く。これは、シフト反応用の蒸気は一般的に蒸気タービンからの高圧蒸気の抽気によりまかなっているため、シフト蒸気量が多いほどタービン駆動用の蒸気が減少するためである。
【0067】
本試験例で用いた触媒は、試験例4で組成比を最適化したNi/Mo/TiO2触媒と、試験例1で用いたCo/Mo/Al2O3触媒(触媒No.1−1)、及び比較例として特許文献4に記載されているCo/Mo/TiO2触媒である。Co/Mo/TiO2触媒の調製方法は、触媒No.4−2の供試触媒と同様とし、Co原料として硝酸コバルト六水和物を用いた。尚、H2Oの供給量は、H2O/CO(mol/mol)比にて1.2、1.5、及び1.8の3条件とした。また、反応温度は、250℃の一定条件で評価した。
【0068】
図7に試験結果を示す。図7は、Ni/Mo/TiO2触媒、Co/Mo/TiO2触媒、及びCo/Mo/Al2O3触媒について、CO転化率のH2O/CO比に対する依存性を示す図である。Ni/Mo/TiO2触媒は、いずれのH2O/CO条件でも、Co−Mo系触媒よりCO転化率が高いことが判った。従って、本発明で見出したNi/Mo/TiO2触媒を発電プラント用の石炭ガス化プラントへ適用することにより、シフト反応のために供給する蒸気量の低減が見込まれ、発電効率の向上に寄与することができると考えられる。
【0069】
(試験例6)
【0070】
本試験例では、試験例4で組成を最適化したNi/Mo/TiO2触媒のCOS転化率を求め、COS転化性能を評価した結果を示す。試験例1〜5では、本実施例でのシフト触媒によるCO転化反応について述べてきた。本実施例でのシフト触媒は、COS転化反応を起こすこともでき、CO転化反応とCOS転化反応を同時に起こすことができる。
【0071】
本試験例では、触媒の充填量を空間速度(SV)が5,000h−1となるように調整した。また、供給COS量は、dryガス条件で300ppmとした。尚、比較例として、特許文献4に記載されているCo/Mo/TiO2触媒のCOS転化性能も評価した。
【0072】
Co/Mo/TiO2触媒の調製方法は、触媒No.4−2の供試触媒と同様とし、Co原料として硝酸コバルト六水和物を用いた。
【0073】
図8に、Ni/Mo/TiO2触媒とCo/Mo/TiO2触媒についての試験結果(COS転化率)を示す。Ni/Mo/TiO2触媒とCo/Mo/TiO2触媒と共に、250〜450℃の温度域で85%以上のCOS転化率が得られた。ただし、試験例1のCO転化率の傾向(表1)と同様に、Niを添加した触媒の方が300℃以下の低温域で高いCOS転化率が得られた。
【0074】
以上の結果から、本試験例で示したNi/Mo/TiO2触媒は、高いCOシフト性能を有するだけでなく、高いCOS転化性能も兼ね備えており、COとCOSを同時に転化できることが判った。従って、本触媒を適用することで、CO/COS同時転化プロセスが可能となる見通しを得た。
【実施例2】
【0075】
本発明によるガス精製方法及びガス精製設備の実施例を説明する。まず、従来のガス精製システムについて説明する。図9は、石炭ガス化プラントにおける、従来のガス精製システムのフロー図である。
【0076】
ガス化炉で石炭をガス化して得られた生成ガスは、COとH2SとCOSを含み、ダスト集塵工程、生成ガス水洗工程を経て、COS転化工程に供給される。COS転化工程では、生成ガス中のCOSを式(2)の反応によりCO2及びH2Sに変換する。その後、脱硫工程で、生成ガスに初めから含まれていたH2Sと、COS転化工程(COS分解)により生成したH2Sと、COS転化工程で未反応だった微量のCOSが除去される。その後、シフト工程で、式(1)の反応により生成ガス中のCOをCO2及びH2に変換する。最後に、CO2回収工程にて、生成ガス中のH2とCO2が分離され、H2は燃料ガスとしてガスタービン(GT)へ送られる。
【0077】
従来のガス精製システムの各工程における運転温度を示すと、COS転化工程では約200℃、脱硫工程では約40℃、シフト工程では約300℃、CO2回収工程では約40℃である。従って、各工程間で温度が異なるため、生成ガスの昇温及び冷却操作が必要となり、その際の放熱によりエネルギーロスが発生する。
【0078】
そこで、この問題を解決するために、本実施例によるガス精製方法及び設備では、図10に示すフローに従うガス精製システムを用いる。以下、図10に示したガス精製システムのフローを説明する。
【0079】
本実施例によるガス精製システムのフローは、水蒸気供給工程と、CO/COS同時転化工程と、H2S/CO2同時回収工程を備える。
【0080】
まず、ガス化炉で、石炭などの炭素を含む固体燃料がガス化され、生成ガスが得られる。この生成ガスは、少なくともCOとH2SとCOSを含む。
【0081】
ガス化炉からの生成ガスは、水蒸気供給工程で、水蒸気が供給される。この水蒸気は、COS転化反応とCOシフト反応に用いられる。
【0082】
その後、CO/COS同時転化工程で、生成ガスは、式(1)の反応(COシフト反応)によりCOがCO2及びH2に変換されると共に、式(2)の反応(COS転化反応)によりCOSがCO2及びH2Sに変換される。CO/COS同時転化工程では、COシフト反応とCOS転化反応を、1種類の触媒を用いて集約して行う。
【0083】
最後に、H2S/CO2同時回収工程で、生成ガス中のH2SとCO2が除去されて回収される。H2S/CO2同時回収工程では、1種類の吸収液を用いて生成ガス中のH2SとCO2を吸収し、H2SとCO2の除去と回収を集約して行う。生成ガス中のH2は、このようにして分離され、燃料ガスとしてガスタービン(GT)へ送られる。尚、生成ガス中にCO/COS同時転化工程で未反応だったCOSが残った場合、このCOSは微量であるので、特に除去しなくてもよい。
【0084】
本実施例によるガス精製システムでは、約40℃で運転する脱硫工程とCO2回収工程を1つの工程(H2S/CO2同時回収工程)に集約した。更に、触媒を用いた吸着という反応形態が同じであり、加水分解で処理するシフト工程とCOS転化工程も、1つの工程(CO/COS同時転化工程)に集約した。このような工程の集約により、本実施例によるガス精製システムでは、昇温、冷却工程を削減している。
【0085】
本実施例により、従来個別の工程で処理していたCOSとCOの変換、及びH2SとCO2の回収が、それぞれ同時に処理可能となる。従って、石炭ガス化プラントのガス精製設備のエネルギーロスを抑制できる。更に、構成機器数を削減することができ、システムの合理化、及びイニシャルコストの低減に貢献することができる。
【実施例3】
【0086】
本発明によるガス精製方法及びガス精製設備の別な実施例を、図11を用いて説明する。図11は、本発明の実施例3によるガス精製システムの構成図である。本実施例でのガス精製システムは、水洗塔1、CO/COS同時転化器2、H2S/CO2同時吸収塔3、及び再生塔4を、主要な構成機器として備える。
【0087】
CO/COS同時転化器2には、CO/COS転化触媒が充填され、実施例2で述べたCO/COS同時転化工程が行われる。CO/COS転化触媒は、実施例1で述べたものである。
【0088】
H2S/CO2同時吸収塔3では、実施例2で述べたH2S/CO2同時回収工程が行われ、吸収液によりH2SとCO2が吸収される。吸収液については、後述する。
【0089】
ガス化炉で生成した生成ガスは、熱交換器5を通って水洗塔1に送られ、洗浄される。具体的には、水洗塔1で、生成ガス中の重金属やハロゲン化水素等の不純物質が除去される。
【0090】
その後、水洗塔1で洗浄された生成ガスは、CO/COS同時転化器2に送られるが、この際、熱交換器5及びガス加熱器6により加熱され、CO/COS転化触媒の反応温度まで昇温させられる。この加熱により、生成ガスのCO/COS同時転化器2の入口での温度は、250℃から300℃となる。生成ガスをこの温度まで加熱する理由は、後述する。
【0091】
尚、定常運転時でのCO/COS同時転化器2の入口での生成ガスの主成分はCOとH2であり、COが乾燥状態で約60vol%、H2が約25vol%である。生成ガスは、CO/COS同時転化器2の入口で水蒸気が供給され、CO/COS同時転化器2のCO/COS転化触媒により、COシフト反応とCOS転化反応を起こす。
【0092】
CO/COS同時転化器2から排出されたガスは、熱交換器7によって冷却される。ガス中の水分は、ノックアウトドラム8により凝縮させられて除去される。
【0093】
その後、ガスは、H2S/CO2同時吸収塔3に送られ、ガス中のH2SとCO2が吸収液により除去される。その際、吸収液に吸収されなかったH2は、H2S/CO2同時吸収塔3から排出され、燃料としてガスタービンに送られる。
【0094】
H2SとCO2を吸収した吸収液(リッチ液)は、リッチ液流路9を通って再生塔4に送られ、加熱再生される。加熱再生後に排出されたH2Sは、カルシウム系吸収剤により石膏化され、CO2は、液化及び固化によって回収される。再生された吸収液(リーン液)は、リーン液流路10を通ってH2S/CO2同時吸収塔3に送られ、ガス中のH2SとCO2の吸収に用いられる。
【0095】
本実施例では、CO/COS同時転化器2の前段に水洗塔1を設置し、生成ガス中の重金属やハロゲン化水素を除去している。CO/COS同時転化器2に用いる触媒は、重金属やハロゲン化水素の流入により被毒し、活性が低下する可能性がある。従って、CO/COS同時転化器2の前段で、重金属やハロゲン化水素を除去する必要がある。
【0096】
尚、本実施例では、重金属やハロゲン化水素を除去する装置として、湿式除去装置である水洗塔を用いた例を示したが、吸着材や吸収材を用いた乾式除去装置を使用しても良い。吸着材や吸収材としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属の酸化物、炭酸塩、水酸化物の他、活性炭やゼオライト等の多孔性物質を使用することができる。乾式除去装置を用いることにより、生成ガスの冷却・昇温操作を省くことができるため、エネルギーロスを抑制することができる。しかしながら、水洗塔を用いると、水洗塔からの同伴水蒸気が生成ガスに混ざることが期待でき、CO/COS同時転化器2の入口で供給する水蒸気量を低減することができる利点もある。
【0097】
CO/COS同時転化器2に充填する触媒としては、実施例1で示したNi/Mo/TiO2触媒がCO/COS転化率の観点から好ましいが、これ以外にも耐硫黄性を有するシフト触媒及びCOS転化触媒であれば何でも良い。
【0098】
COS転化反応及びCOシフト反応は、式(1)、(2)に示すように加水分解反応であるので、CO/COS同時転化器2の前段に水蒸気供給管を設置して、所定量の水蒸気を生成ガスに定常的に供給できるようにする。
【0099】
H2S/CO2同時吸収塔3としては、物理吸収塔と化学吸収塔のいずれも適用できる。H2S/CO2同時吸収塔3の構成は、従来のCO2吸収塔と同様の構成でよく、1種類の吸収液を用いてH2SとCO2を吸収する。吸収液の例としては、物理吸収ではセレクソール、レクチゾール等が使用でき、化学吸収ではメチルジエタノールアミン(MDEA)やアンモニア等が使用できる。
【0100】
本実施例では、H2S/CO2同時吸収塔3でH2SとCO2を吸収した吸収液は、再生塔4で再生するシステムとしている。吸収液の再生には、再生塔を用いる方式以外にも、圧力スイングを利用したフラッシュ再生方式や、フラッシュ再生と再生塔による再生との組合せによる再生方式を採用しても良い。フラッシュ再生を利用することで、H2SとCO2の分離回収が可能となり、純度の高いCO2を回収することができる。
【実施例4】
【0101】
本発明によるガス精製方法及びガス精製設備の別な実施例を、図12を用いて説明する。図12は、本発明の実施例4によるガス精製システムの構成図である。図12において、図11と同一の符号は、図11と同一または共通する要素を示す。
【0102】
本実施例でのガス精製システムは、複数のCO/COS同時転化器を備える、すなわち、CO/COS同時転化器を複数段構成とするところに特徴がある。図12に示したガス精製システムは、3塔のCO/COS同時転化器2a〜2cを備える構成である。
【0103】
CO/COS同時転化器2a〜2cを複数段の構成にした理由は、式(1)、(2)の反応が発熱反応であるので、単段での構成だとCO/COS同時転化器内の温度上昇が著しいためである。CO/COS同時転化器内の温度上昇が著しいと、充填した触媒の劣化、例えばシンタリングによる比表面積の低下を引き起こし、触媒活性の低下を招く恐れがある。加えて、CO/COS同時転化器内の温度上昇により、CO/COS同時転化器自体の材料も劣化することが懸念される。以上のことから、CO/COS同時転化器を複数段の構成にすることが望ましい。複数段からなるCO/COS同時転化器2a〜2cにより、逐次的にCOシフト反応とCOS転化反応を進行させることで、触媒及びCO/COS同時転化器2a〜2cの過熱を抑制する。
【0104】
尚、CO/COS同時転化器2a〜2cは、図12には3塔からなる構成を示したが、3塔に限ることなく、複数段からなる構成であれば良い。
【0105】
本実施例では、図12に示したように、CO/COS同時転化器2b、2cの前段に熱交換器11を設置している。これは、前段のCO/COS同時転化器2a、2bで発生した熱量を回収し、CO/COS同時転化器2b、2cの入口温度を下げると同時に、効率的な熱回収により、発電効率の低下を抑制するためである。
【0106】
本実施例では、ノックアウトドラム8の出口側とCO/COS同時転化器2aとを接続するリサイクル管12を敷設し、ノックアウトドラム8の後流ガスの一部をCO/COS同時転化器2aにリサイクルさせる。すなわち、CO/COS同時転化器2cの下流側とCO/COS同時転化器2aの入口とを接続するリサイクル管12により、CO/COS同時転化器2cから出た生成ガスの一部を、CO/COS同時転化器2aに再度供給し、生成ガスをリサイクルする。リサイクルされるガスは、COシフト反応及びCOS転化反応後のガスであるため、ガス組成としてはCO2リッチなガスである。
【0107】
熱容量の大きいCO2リッチガスをリサイクルしてCO/COS同時転化器2aに供給することで、COシフト反応が最も進行しやすく温度上昇が著しいCO/COS同時転化器2aの温度上昇を抑制すると共に、COシフト反応の進行を緩和するので、CO/COS同時転化器2b、2cを効率的に利用することができる。
【0108】
本実施例により、COシフト反応及びCOS転化反応を同時に、且つ効率的に行えるだけでなく、CO/COS同時転化器に充填した触媒及びCO/COS同時転化器の材質の劣化を抑制できる。
【0109】
尚、上述のリサイクル管12は、本実施例で示したような、CO/COS同時転化器が複数段からなる構成のガス精製システムだけに適用できるものではない。実施例3に示したような、CO/COS同時転化器2が単段である構成のガス精製システム(図11参照)にも適用可能である。
【0110】
図13は、CO/COS同時転化器が単段であり、リサイクル管を備えたガス精製システムの構成図である。すなわち、図13は、図11に示した構成のガス精製システムにおいて、図12に示したリサイクル管12を敷設したガス精製システムを示している。図13において、図11と同一の符号は、図11と同一または共通する要素を示す。
【0111】
図13に示したガス精製システムでも、リサイクル管12は、ノックアウトドラム8の出口側とCO/COS同時転化器2とを接続し、ノックアウトドラム8の後流ガスの一部をCO/COS同時転化器2にリサイクルさせる。すなわち、CO/COS同時転化器2の下流側とCO/COS同時転化器2の入口とを接続するリサイクル管12により、CO/COS同時転化器2から出た生成ガスの一部を、CO/COS同時転化器2に再度供給し、生成ガスをリサイクルする。
【0112】
図11に示したようなCO/COS同時転化器2が単段の構成では、CO/COS同時転化器2内の温度上昇が著しい。しかし、図13に示したようにリサイクル管12を敷設することにより、熱容量の大きいCO2リッチガスをCO/COS同時転化器2に供給するので、CO/COS同時転化器2の温度上昇を抑制することができる。
【符号の説明】
【0113】
1…水洗塔、2,2a,2b,2c…CO/COS同時転化器、3…H2S/CO2同時吸収塔、4…再生塔、5,7,11…熱交換器、6…ガス加熱器、8…ノックアウトドラム、9…リッチ液流路、10…リーン液流路、12…リサイクル管、100…マスフローコントローラー、101…水タンク、102…マイクロチューブポンプ、103…水気化器、104…反応管、105…ラシヒリング、106…触媒、107…電気炉、108…断熱材、109…トラップ槽、110…水分除去装置。
【技術分野】
【0001】
本発明は、H2S共存下でCOをCO2へ変換するシフト触媒と、この触媒を用いてH2S、CO及びCOSを含むガス中のCO及びCOSを効率的にCO2、H2及びH2Sに変換し、ガス中のCO2及びH2Sを除去する方法、及びその設備に関する。
【背景技術】
【0002】
石炭、石油及び天然ガス等の燃料を用いて発電する火力発電プラントは、従来から多数稼動している。その中でも、埋蔵量が多くて将来的にも安定供給が可能な石炭を燃料とし、ガス化炉で石炭を一旦ガス化した後に、この生成ガスを発電用の燃料として供給する石炭ガス化複合発電(Integrated Coal Gasification Combined Cycle、IGCC)という技術が、近年注目されている。また、原油や天然ガスの資源枯渇が懸念される中、従来は石油や天然ガスから生産されていた化学製品を石炭から生産するプラントのニーズも高まっている。石炭ガス化プラントは、発電用途のみでなく、化学製品の原料となるH2の製造にも利用されている。
【0003】
近年、地球温暖化防止の観点から、プラントからのCO2排出量を削減するためにCO2を回収する技術が開発されている。特許文献1や2では、ガス化炉からの生成ガスに含まれるH2SやCOSの硫黄分を脱硫設備により除去し、その後、シフト反応器により、この生成ガス中のCOを式(1)の反応によりCO2に変換し、その後、CO2回収設備により、ガス中のCO2を回収する石炭ガス化発電プラントが開示されている。また、化学製品製造向けの石炭ガス化プラントにおいても、原料となるH2の高純度化のため、ガス化ガス中のCOをシフト反応によりCO2とH2へ変換する、同様のプロセスが採用されている。
【0004】
【数1】
【0005】
シフト反応を促進させる触媒としては、例えば1960年代にGirdler社やDuPont社からCu−Zn系触媒が発表され、現在まで主として工場におけるプラント用などに幅広く利用されている。この触媒は、300℃以下の低温領域でシフト性能を有す。また、300℃以上の高温領域で使用可能な触媒として、Fe−Cr系触媒があり、上記の低温シフト触媒と共にプラントにて使用されている。これらの触媒は、いずれもS(硫黄)分により被毒されることが知られている。上述した石炭ガス化プラントでは、ガス化ガス中に微量のS分を有すため、上記の触媒を使用する際は、触媒前段にて脱硫操作が必要となる。
【0006】
一方、耐S性シフト触媒も開発されており、代表的なものに特許文献3、4に記載のCo−Mo系触媒がある。Co−Mo系触媒は、広い温度範囲でCOシフト活性を有すが、ガス中にH2Sが共存しないと活性を有しないことが特徴である。また、耐S性シフト触媒は、Cu−Zn系触媒に比べて反応起動温度が高いという特徴もある。シフト反応は、平衡上、高温領域ほど進行しにくい。また、シフト反応は発熱反応のため、反応起動温度が高いと触媒層が高温化し、シンタリング等により触媒の寿命を短命化させる。従って、現在は、特許文献1、2に記載のように、シフト反応器の前段に脱硫設備を配し、Cu−Zn系とFe−Cr系触媒を組合せて使用する方法が主流である。
【0007】
しかしながら、耐S性シフト触媒の反応起動温度を低減化できれば、シフト反応に要する供給エネルギーを低減できる。反応起動温度が低い耐S性シフト触媒をIGCCに適用すると、発電効率の低下を抑制できるだけでなく、低温(300℃以下)での運用により、生成H2の高純度化、触媒の長寿命化が見込まれる。
【0008】
また、特許文献1、2に記載のプロセスでは、COS転化器(約200℃)、脱硫設備(約40℃)、シフト反応器(約300℃)、及びCO2回収設備(約40℃)という設備を使用するため、プロセス中に昇降温が多く、放熱によるエネルギーロスが多いことが課題であった。
【0009】
近年では、特許文献5に示すように、脱硫装置を廃し、生成ガス中のCOSをCOS変換装置で式(2)の反応によりCO2及びH2Sに変換し、シフト反応器により生成ガス中のCOをCO2に変換した後、H2S/CO2回収装置によりH2SとCO2を同時に除去する設備の開発が進められている。
【0010】
【数2】
【0011】
シフト反応器の前段で使用されるCOS転化触媒としては、特許文献6に開示されているように、TiO2触媒を用いる事例が多い。
【0012】
COシフト反応及びCOS転化反応は、式(1)、(2)に示すように、いずれも加水分解反応で進行する。また、各反応のメカニズムは、特許文献6及び非特許文献1に示すように、COS転化反応では触媒上の水酸基のO原子に、COシフト反応ではMoSO上のO原子に、それぞれ吸着するとされている。従って、いずれの反応でも、CO及びCOSの吸着サイトは、触媒中及び触媒上のO原子である。従って、同一触媒にてCOとCOSを同時に転化できる可能性がある。COとCOSを同一触媒により同時に処理することができれば、イニシャルコストの低減、制御性の向上が見込まれる。しかしながら、COSを分解するとH2Sが生成するため、上記目的を達成しうる触媒は、耐S性を有する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特許第2870929号公報
【特許文献2】特許第3149561号公報
【特許文献3】特開平9−132784号公報
【特許文献4】国際公開第2010/116531号
【特許文献5】特開2004−331701号公報
【特許文献6】特開平11−276897号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Jin-Nam Park et al., Bull.Korean Chem. Soc., vol.21, No.12, p1233-1238(2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従来の技術では、上述したように、反応起動温度が高い耐S性シフト触媒を用いており、シフト反応に供給するエネルギーが多い。このため、エネルギーロスが多く、発電効率が低下することが課題である。また、従来の石炭ガス化プラントでは、生成ガスの脱硫とCO2回収を行う際に、温度の異なる設備を4つまたは3つ使用している。このため、プロセス中に昇降温が多く、放熱によるエネルギーロスが多いことが課題である。また、構成機器数が多いことで、イニシャルコストがかかるという課題もある。
【0016】
本発明は、石炭ガス化プラントにおいて、エネルギーロスと発電効率の低下を抑制でき、更に、イニシャルコストの低減とシステムの合理化を行うことが可能なシフト触媒、ガス精製方法及びガス精製設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明によるシフト触媒は、H2Sを含むガス中のCOをH2Oと反応させてCO2とH2へ変換するシフト反応を促進させるシフト触媒であって、少なくともMo及びNiを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によるシフト触媒は、低温(300℃以下)では平衡上シフト反応が進行しやすいため、低温で起動させると反応効率が高い。従って、反応起動温度が低く、シフト反応に要する供給エネルギーを低減できるので、エネルギーロスを抑制できる。更に、本発明によるシフト触媒は、1つの触媒でCO転化反応とCOS転化反応が可能であり、システムの合理化を図れる。また、本発明によるガス精製方法及びガス精製設備では、石炭ガス化プラントにおいて、エネルギーロスを抑制でき、更に、反応器などの構成機器の数を削減できるのでイニシャルコストの低減とシステムの合理化を図れる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実験例1で用いた試験装置を示す図である。
【図2】試験例1において、添加元素のポーリングの電気陰性度とCO転化率の相関を示す図である。
【図3】試験例2において、温度とCO転化率の関係について担体依存性を示す図である。
【図4】試験例3において、Mo/Ti比とCO転化率の相関を示す図である。
【図5】試験例4において、Ni/Mo比とCO転化率の相関を示す図である。
【図6】試験例4において、Ni/Mo比と比表面積及び平均細孔直径との関係を示す図である。
【図7】試験例5において、各触媒のCO転化率のH2O/CO比に対する依存性を示す図である。
【図8】試験例6において、Ni/Mo/TiO2触媒とCo/Mo/TiO2触媒のCOS転化率を示す図である。
【図9】従来のガス精製システムのフロー図である。
【図10】実施例2における、本発明によるガス精製システムのフロー図である。
【図11】本発明の実施例3によるガス精製システムの構成図である。
【図12】本発明の実施例4によるガス精製システムの構成図である。
【図13】実施例4における、CO/COS同時転化器が単段であり、リサイクル管を備えたガス精製システムの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【実施例1】
【0021】
以下、実施例1として、本発明によるシフト触媒の効果を示す試験例を説明する。
【0022】
図1は、本実施例で用いた触媒性能評価装置を示す図である。本試験装置は、ガス供給系(マスフローコントローラー100)、水蒸気供給系(水タンク101、マイクロチューブポンプ102、水気化器103)、反応管104、電気炉107、トラップ槽109、及び水分除去装置110を備える。電気炉107により、反応管104での反応温度を変化させた。トラップ槽109は、ガス中の水分を凝縮させてトラップし、水分除去装置110は、トラップ槽109でトラップしたガス中の水分を、吸収剤で吸収して除去する。
【0023】
生成ガスを模擬する反応ガスとして、CO、H2、CH4、CO2、N2、H2S、及びCOSを、所定流量となるようにマスフローコントローラー100によって調節して、反応管104に供給した。また、水蒸気は、水タンク101の水をマイクロチューブポンプ102によって流量を調節し、その後、水気化器103によって気化させて、反応管104に供給した。尚、反応管104に反応ガスと水蒸気を供給する配管には、断熱材108を巻いて保温し、気化した水蒸気が凝縮するのを抑制した。
【0024】
反応管104内の上部には、ラシヒリング105を充填した。これは、反応ガス及び水蒸気の混合を促進させるためである。反応管104には、ラシヒリング105の下部に、シフト触媒として供試触媒106を充填した。
【0025】
供試触媒106の性能評価試験条件は、以下のようにした。シフト触媒は、酸化物状態で反応管に充填されるため、使用に際しては、反応式(3)に示す硫化・還元操作によりMoを還元させることが必要となる。
【0026】
【数3】
【0027】
供試触媒106の硫化・還元処理について説明する。N2を本試験装置に流通させながら、触媒が180℃になるまで昇温した。その後、N2を7vol%のH2/N2ガスに切り換え、200℃まで昇温した。温度が安定した後、H2Sを3vol%になるように調節して供給した。触媒層出口でH2Sが検出されたことを確認したら、1℃/minで320℃まで昇温し、320℃にて45分間保持した後、硫化・還元処理を終了した。
【0028】
試験用ガスには、60vol%のCOと20vol%のH2と5vol%のCO2と1vol%のCH4と14vol%のN2を混合した五種混合ガス、1%のH2S/N2balanceガス、及び1%のCOS/N2balanceガスを用いた。五種混合ガスを215ml/minに調整して供給し、また、全ガス中のH2S濃度が600ppmになるように1%のH2S/N2balanceガスを調整して供給した。触媒充填量は、dryガス基準の空間速度(SV、Space velocity)にて1,400h−1になるように充填した。また、反応物質であるH2Oは、H2O/CO(モル比)が1.8になるように調整して供給した。触媒層出口ガスをサンプリングし、ガスクロマトグラフにてCO濃度を測定した。式(4)により、CO転化率を、式(5)によりCOS転化率をそれぞれ算出した。
【0029】
【数4】
【0030】
【数5】
【0031】
(試験例1)
【0032】
本試験例では、公知技術での利用が多いAl2O3担体ベースにMoと他金属成分を添加したシフト触媒に対して、低温域(250℃)と高温域(400℃)の性能について比較した。
【0033】
本試験例で用いた触媒の調製方法について示す。供試触媒は、いずれも混練法により調製した。まず、40gのCONDEA社製の擬ベーマイト(AlO(OH)1/2H2O、商品名PURAL SB1)と、5.17gの七モリブデン酸アンモニウム四水和物に、他金属成分(M)の硝酸塩をMo:M:Alの金属成分モル比が0.05:0.05:1の比率になるように添加した。これに、水和物込みでの水分量が40gとなるように蒸留水を加え、自動乳鉢にて30分間湿式混練した。次に、この混練物を120℃で2時間乾燥後、500℃で1時間焼成した。焼成後の触媒は、乳鉢にて破砕し、加圧プレス機にて500kgfで2分間加圧成型した。最後に、成型後の触媒を10−20meshに整粒して、供試触媒を得た。
【0034】
添加するM成分としては、Co、Ni、Fe、Zn、Ag、Mn、Mg、Ca、Ti、Zr、及びCeの11種とした。それぞれを添加した触媒を、順に、触媒No.1−1〜1−11で表す。尚、比較触媒として、M成分を添加しないMo/Al2O3触媒(比1−1で表す)も調製し、CO転化活性を比較した。
【0035】
表1に、供試触媒の組成、及び250℃と400℃におけるCO転化率を示す。
【0036】
【表1】
【0037】
比1−1の触媒に対してCO転化率が向上したのは、250℃では触媒No.1−1〜1−3の触媒(Co、Ni、またはFeを添加した触媒)、400℃では触媒No.1−1〜1−3、1−9の触媒(Co、Ni、Fe、またはTiを添加した触媒)であった。特に、Niを添加したNi/Mo/Al2O3触媒(No.1−2)は、250℃で約12ポイント、400℃で約30ポイントの性能向上効果が確認され、Niは、助触媒として最適な成分であることが示唆された。上記以外の成分を添加した触媒では、添加によりMo/Al2O3の性能を下回るものが多く、添加成分としては不適であると判断された。
【0038】
以上の結果から、シフト触媒について、特に本発明で課題とした低温活性の向上効果が期待できる成分としてはCo、Ni、またはFeが有効であることが判った。
【0039】
図2は、上記の各添加元素(M成分)のうち、Ca、Ce、Zr、Ag、Zn、Fe、Co、及びNiの8種類について、ポーリングの電気陰性度とCO転化率の相関を示す図である。これらの添加元素(M成分)について、ポーリングの電気陰性度とCO転化率の相関を調べたところ、電気陰性度が大きい成分を添加するほど、活性が向上し、CO転化率が向上することが判った。特に電気陰性度が1.8〜2.0となる元素(Fe、Co、及びNi)では、CO転化率が向上する。
【0040】
電気陰性度は、電子を引き付ける強さの尺度を示すものである。Mo系触媒は、式(3)に示した硫化・還元操作によりMoS2となることで、CO転化活性を示す。電気陰性度が大きな成分がMoO3に隣接することで、負に帯電したMoO3中のO原子を引き付け、Mo−O結合の乖離を促進させ、MoS2の生成に寄与していると考えられる。
【0041】
本試験例から、Mo系触媒に添加する元素としては、ポーリングの電気陰性度が1.8〜2.0となる元素、特に1.91であるNiを添加することで、低温活性が大幅に向上することが判った。
【0042】
(試験例2)
【0043】
試験例1では、Al2O3担体を用いて、種々の添加成分の影響を評価した。しかし、Al2O3担体は、特許文献4にも記載されているように、Clによる被毒により活性が低下することが報告されている。従って、担体をTiO2またはZrO2に変え、それぞれのCO転化率を比較した。尚、触媒には、Moと試験例1にて最も低温活性向上効果が認められたNiとを上記担体に添加したものを用いた。
【0044】
本試験例で用いた触媒の調製方法について示す。担体としてTiO2を用いてNi/Mo/TiO2触媒を調製し、担体としてZrO2を用いてNi/Mo/ZrO2触媒を調製した。これらの供試触媒は、いずれも混練法により調製した。
【0045】
Ni/Mo/TiO2触媒は、40gの石原産業株式会社製の酸化チタン(商品名:MCH2)に、4.47gの七モリブデン酸アンモニウム四水和物と、14.86gの硝酸ニッケル六水和物を添加した。また、Ni/Mo/ZrO2触媒は、40gの第一稀元素化学工業株式会社製の酸化ジルコニウム(商品名:RSC−100)に、4.34gの七モリブデン酸アンモニウム四水和物と、14.45gの硝酸ニッケル六水和物を添加した。湿式混練以降は、試験例1と同様の調製方法とし、それぞれの供試触媒を得た。TiO2を用いた供試触媒を触媒No.2−1で表し、ZrO2を用いた供試触媒を触媒No.2−2で表す。
【0046】
表2に、供試触媒の組成、及び250℃と400℃におけるCO転化率を示す。
【0047】
【表2】
【0048】
図3は、温度とCO転化率の関係を、触媒No.2−1、2−2、及び1−2の触媒について示した図である。尚、触媒No.1−2は、Al2O3を担体に用いた触媒(Ni/Mo/Al2O3触媒)である。図3より、担体としてAl2O3の代わりにTiO2またはZrO2を用いても、低温活性の向上効果が期待できることが判った。また、Al2O3、TiO2、またはZrO2を単独に用いるだけでなく、Al2O3、TiO2、及びZrO2から選ばれる1種以上を組合せて用いても、低温活性の向上効果が期待できる。
【0049】
また、Ni/Mo/Al2O3触媒に比べ、Ni/Mo/TiO2触媒とNi/Mo/ZrO2触媒では、いずれの温度域でも大幅に活性が向上した。特に、Ni/Mo/TiO2触媒は、250℃でCO転化率が91.3%となり、Ni/Mo/Al2O3触媒に比べ、約75ポイントも活性が向上した。
【0050】
以上の結果から、H2Sが共存する条件でのシフト反応を促進させる触媒として、Ni/Mo/TiO2で構成される触媒が最も低温で高い活性を示すことが判った。
【0051】
(試験例3)
【0052】
本試験例では、試験例2にて低温活性の大幅向上効果が見られたNi/Mo/TiO2触媒の組成比を最適化するために、まずは、Mo/TiO2触媒にて、Tiに対するMoの添加量を最適化した。
【0053】
Mo/TiO2触媒の調製方法について示す。供試触媒は、いずれも混練法により、6種類調製した。40gの石原産業株式会社製の酸化チタン(商品名:MCH2)に、七モリブデン酸アンモニウム四水和物を、MoとTiの金属成分モル比(Mo/Ti)が0.025、0.05、0.1、0.2、0.3、及び0.5となるように添加した。湿式混練以降は、試験例1と同様の調製方法とし、6種類の供試触媒を得た。この6種類の供試触媒を、順に、触媒No.3−1〜3−6で表す。
【0054】
表3に、供試触媒の組成、及び250℃と400℃におけるCO転化率を示す。
【0055】
【表3】
【0056】
図4に、250℃と400℃における、Mo/Ti比とCO転化率の相関を示す。400℃では、Mo/Ti比が0.1以上でCO転化率がほぼ安定化した。一方、250℃では、Mo/Ti比が0.2でCO転化率が極大となる傾向となった。従って、Mo/Ti比が0.2の組成は、本発明の目的である低温活性の向上効果が示されており、最適組成である。
【0057】
(試験例4)
【0058】
本試験例では、試験例3で最適化したMo/Ti比が0.2の組成をベースとして、Niの添加量を最適化し、Ni/Mo/TiO2触媒の組成比を最適化した。
【0059】
Mo/TiO2触媒の調製方法について示す。供試触媒は、いずれも混練法により、3種類調製した。40gの石原産業株式会社製の酸化チタン(商品名:MCH2)に、七モリブデン酸アンモニウム四水和物と硝酸ニッケル六水和物を、Mo:Ni:Tiの金属成分モル比が0.2:0.05:1、0.2:0.1:1、及び0.2:0.3:1の割合になるように添加した。湿式混練以降は、試験例1と同様の調製方法とし、3種類の供試触媒を得た。この3種類の供試触媒を、順に、触媒No.4−1〜4−3で表す。
【0060】
表4に、供試触媒の組成、及び250℃と400℃におけるCO転化率を示す。
【0061】
【表4】
【0062】
図5に、250℃と400℃における、Ni/Mo比とCO転化率の相関を示す。尚、図5には、Ni/Mo比が0の触媒(触媒No.3−3の触媒)の結果も併せて図記する。400℃では、CO転化率は、いずれの組成比でもあまり変わらなかった。一方、250℃では、Ni/Mo比が0.5でCO転化率が極大となる傾向となった。
【0063】
図6に、供試触媒のNi/Mo比と比表面積及び平均細孔直径との関係を示す。Ni/Mo比が大きくなるに従い、比表面積は減少し、平均細孔直径は増大した。これは、Ni添加量の増加に従い、触媒中の微細孔が閉塞したためと考えられる。触媒反応を円滑に進行させるためには、触媒の比表面積を大きく維持し、活性点とガスの接触確率を増加させることが必要である。従って、本試験例の結果から、触媒の比表面積は100m2/g以上であり、平均細孔直径は10nm以下となるように調製することが好ましい。触媒の比表面積が100m2/g以上であり、平均細孔直径が10nm以下であれば、触媒の比表面積を大きく維持して反応効率を高めると共に、Ni/Mo比を0.5または0.5以下にすることができる。
【0064】
試験例3、4の結果から、Ni:Mo:Ti=0.1:0.2:1の組成比で調製したNi/Mo/TiO2触媒が、最も高い活性を示すことが判った。
【0065】
(試験例5)
【0066】
本試験例では、試験例4で組成の最適化を実施したNi/Mo/TiO2触媒の、H2O供給量の依存性を評価した結果を示す。特に、発電用の石炭ガス化プラントにシフト触媒を適用する場合、シフト反応のために供給されるH2Oが発電効率の低下を導く。これは、シフト反応用の蒸気は一般的に蒸気タービンからの高圧蒸気の抽気によりまかなっているため、シフト蒸気量が多いほどタービン駆動用の蒸気が減少するためである。
【0067】
本試験例で用いた触媒は、試験例4で組成比を最適化したNi/Mo/TiO2触媒と、試験例1で用いたCo/Mo/Al2O3触媒(触媒No.1−1)、及び比較例として特許文献4に記載されているCo/Mo/TiO2触媒である。Co/Mo/TiO2触媒の調製方法は、触媒No.4−2の供試触媒と同様とし、Co原料として硝酸コバルト六水和物を用いた。尚、H2Oの供給量は、H2O/CO(mol/mol)比にて1.2、1.5、及び1.8の3条件とした。また、反応温度は、250℃の一定条件で評価した。
【0068】
図7に試験結果を示す。図7は、Ni/Mo/TiO2触媒、Co/Mo/TiO2触媒、及びCo/Mo/Al2O3触媒について、CO転化率のH2O/CO比に対する依存性を示す図である。Ni/Mo/TiO2触媒は、いずれのH2O/CO条件でも、Co−Mo系触媒よりCO転化率が高いことが判った。従って、本発明で見出したNi/Mo/TiO2触媒を発電プラント用の石炭ガス化プラントへ適用することにより、シフト反応のために供給する蒸気量の低減が見込まれ、発電効率の向上に寄与することができると考えられる。
【0069】
(試験例6)
【0070】
本試験例では、試験例4で組成を最適化したNi/Mo/TiO2触媒のCOS転化率を求め、COS転化性能を評価した結果を示す。試験例1〜5では、本実施例でのシフト触媒によるCO転化反応について述べてきた。本実施例でのシフト触媒は、COS転化反応を起こすこともでき、CO転化反応とCOS転化反応を同時に起こすことができる。
【0071】
本試験例では、触媒の充填量を空間速度(SV)が5,000h−1となるように調整した。また、供給COS量は、dryガス条件で300ppmとした。尚、比較例として、特許文献4に記載されているCo/Mo/TiO2触媒のCOS転化性能も評価した。
【0072】
Co/Mo/TiO2触媒の調製方法は、触媒No.4−2の供試触媒と同様とし、Co原料として硝酸コバルト六水和物を用いた。
【0073】
図8に、Ni/Mo/TiO2触媒とCo/Mo/TiO2触媒についての試験結果(COS転化率)を示す。Ni/Mo/TiO2触媒とCo/Mo/TiO2触媒と共に、250〜450℃の温度域で85%以上のCOS転化率が得られた。ただし、試験例1のCO転化率の傾向(表1)と同様に、Niを添加した触媒の方が300℃以下の低温域で高いCOS転化率が得られた。
【0074】
以上の結果から、本試験例で示したNi/Mo/TiO2触媒は、高いCOシフト性能を有するだけでなく、高いCOS転化性能も兼ね備えており、COとCOSを同時に転化できることが判った。従って、本触媒を適用することで、CO/COS同時転化プロセスが可能となる見通しを得た。
【実施例2】
【0075】
本発明によるガス精製方法及びガス精製設備の実施例を説明する。まず、従来のガス精製システムについて説明する。図9は、石炭ガス化プラントにおける、従来のガス精製システムのフロー図である。
【0076】
ガス化炉で石炭をガス化して得られた生成ガスは、COとH2SとCOSを含み、ダスト集塵工程、生成ガス水洗工程を経て、COS転化工程に供給される。COS転化工程では、生成ガス中のCOSを式(2)の反応によりCO2及びH2Sに変換する。その後、脱硫工程で、生成ガスに初めから含まれていたH2Sと、COS転化工程(COS分解)により生成したH2Sと、COS転化工程で未反応だった微量のCOSが除去される。その後、シフト工程で、式(1)の反応により生成ガス中のCOをCO2及びH2に変換する。最後に、CO2回収工程にて、生成ガス中のH2とCO2が分離され、H2は燃料ガスとしてガスタービン(GT)へ送られる。
【0077】
従来のガス精製システムの各工程における運転温度を示すと、COS転化工程では約200℃、脱硫工程では約40℃、シフト工程では約300℃、CO2回収工程では約40℃である。従って、各工程間で温度が異なるため、生成ガスの昇温及び冷却操作が必要となり、その際の放熱によりエネルギーロスが発生する。
【0078】
そこで、この問題を解決するために、本実施例によるガス精製方法及び設備では、図10に示すフローに従うガス精製システムを用いる。以下、図10に示したガス精製システムのフローを説明する。
【0079】
本実施例によるガス精製システムのフローは、水蒸気供給工程と、CO/COS同時転化工程と、H2S/CO2同時回収工程を備える。
【0080】
まず、ガス化炉で、石炭などの炭素を含む固体燃料がガス化され、生成ガスが得られる。この生成ガスは、少なくともCOとH2SとCOSを含む。
【0081】
ガス化炉からの生成ガスは、水蒸気供給工程で、水蒸気が供給される。この水蒸気は、COS転化反応とCOシフト反応に用いられる。
【0082】
その後、CO/COS同時転化工程で、生成ガスは、式(1)の反応(COシフト反応)によりCOがCO2及びH2に変換されると共に、式(2)の反応(COS転化反応)によりCOSがCO2及びH2Sに変換される。CO/COS同時転化工程では、COシフト反応とCOS転化反応を、1種類の触媒を用いて集約して行う。
【0083】
最後に、H2S/CO2同時回収工程で、生成ガス中のH2SとCO2が除去されて回収される。H2S/CO2同時回収工程では、1種類の吸収液を用いて生成ガス中のH2SとCO2を吸収し、H2SとCO2の除去と回収を集約して行う。生成ガス中のH2は、このようにして分離され、燃料ガスとしてガスタービン(GT)へ送られる。尚、生成ガス中にCO/COS同時転化工程で未反応だったCOSが残った場合、このCOSは微量であるので、特に除去しなくてもよい。
【0084】
本実施例によるガス精製システムでは、約40℃で運転する脱硫工程とCO2回収工程を1つの工程(H2S/CO2同時回収工程)に集約した。更に、触媒を用いた吸着という反応形態が同じであり、加水分解で処理するシフト工程とCOS転化工程も、1つの工程(CO/COS同時転化工程)に集約した。このような工程の集約により、本実施例によるガス精製システムでは、昇温、冷却工程を削減している。
【0085】
本実施例により、従来個別の工程で処理していたCOSとCOの変換、及びH2SとCO2の回収が、それぞれ同時に処理可能となる。従って、石炭ガス化プラントのガス精製設備のエネルギーロスを抑制できる。更に、構成機器数を削減することができ、システムの合理化、及びイニシャルコストの低減に貢献することができる。
【実施例3】
【0086】
本発明によるガス精製方法及びガス精製設備の別な実施例を、図11を用いて説明する。図11は、本発明の実施例3によるガス精製システムの構成図である。本実施例でのガス精製システムは、水洗塔1、CO/COS同時転化器2、H2S/CO2同時吸収塔3、及び再生塔4を、主要な構成機器として備える。
【0087】
CO/COS同時転化器2には、CO/COS転化触媒が充填され、実施例2で述べたCO/COS同時転化工程が行われる。CO/COS転化触媒は、実施例1で述べたものである。
【0088】
H2S/CO2同時吸収塔3では、実施例2で述べたH2S/CO2同時回収工程が行われ、吸収液によりH2SとCO2が吸収される。吸収液については、後述する。
【0089】
ガス化炉で生成した生成ガスは、熱交換器5を通って水洗塔1に送られ、洗浄される。具体的には、水洗塔1で、生成ガス中の重金属やハロゲン化水素等の不純物質が除去される。
【0090】
その後、水洗塔1で洗浄された生成ガスは、CO/COS同時転化器2に送られるが、この際、熱交換器5及びガス加熱器6により加熱され、CO/COS転化触媒の反応温度まで昇温させられる。この加熱により、生成ガスのCO/COS同時転化器2の入口での温度は、250℃から300℃となる。生成ガスをこの温度まで加熱する理由は、後述する。
【0091】
尚、定常運転時でのCO/COS同時転化器2の入口での生成ガスの主成分はCOとH2であり、COが乾燥状態で約60vol%、H2が約25vol%である。生成ガスは、CO/COS同時転化器2の入口で水蒸気が供給され、CO/COS同時転化器2のCO/COS転化触媒により、COシフト反応とCOS転化反応を起こす。
【0092】
CO/COS同時転化器2から排出されたガスは、熱交換器7によって冷却される。ガス中の水分は、ノックアウトドラム8により凝縮させられて除去される。
【0093】
その後、ガスは、H2S/CO2同時吸収塔3に送られ、ガス中のH2SとCO2が吸収液により除去される。その際、吸収液に吸収されなかったH2は、H2S/CO2同時吸収塔3から排出され、燃料としてガスタービンに送られる。
【0094】
H2SとCO2を吸収した吸収液(リッチ液)は、リッチ液流路9を通って再生塔4に送られ、加熱再生される。加熱再生後に排出されたH2Sは、カルシウム系吸収剤により石膏化され、CO2は、液化及び固化によって回収される。再生された吸収液(リーン液)は、リーン液流路10を通ってH2S/CO2同時吸収塔3に送られ、ガス中のH2SとCO2の吸収に用いられる。
【0095】
本実施例では、CO/COS同時転化器2の前段に水洗塔1を設置し、生成ガス中の重金属やハロゲン化水素を除去している。CO/COS同時転化器2に用いる触媒は、重金属やハロゲン化水素の流入により被毒し、活性が低下する可能性がある。従って、CO/COS同時転化器2の前段で、重金属やハロゲン化水素を除去する必要がある。
【0096】
尚、本実施例では、重金属やハロゲン化水素を除去する装置として、湿式除去装置である水洗塔を用いた例を示したが、吸着材や吸収材を用いた乾式除去装置を使用しても良い。吸着材や吸収材としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属の酸化物、炭酸塩、水酸化物の他、活性炭やゼオライト等の多孔性物質を使用することができる。乾式除去装置を用いることにより、生成ガスの冷却・昇温操作を省くことができるため、エネルギーロスを抑制することができる。しかしながら、水洗塔を用いると、水洗塔からの同伴水蒸気が生成ガスに混ざることが期待でき、CO/COS同時転化器2の入口で供給する水蒸気量を低減することができる利点もある。
【0097】
CO/COS同時転化器2に充填する触媒としては、実施例1で示したNi/Mo/TiO2触媒がCO/COS転化率の観点から好ましいが、これ以外にも耐硫黄性を有するシフト触媒及びCOS転化触媒であれば何でも良い。
【0098】
COS転化反応及びCOシフト反応は、式(1)、(2)に示すように加水分解反応であるので、CO/COS同時転化器2の前段に水蒸気供給管を設置して、所定量の水蒸気を生成ガスに定常的に供給できるようにする。
【0099】
H2S/CO2同時吸収塔3としては、物理吸収塔と化学吸収塔のいずれも適用できる。H2S/CO2同時吸収塔3の構成は、従来のCO2吸収塔と同様の構成でよく、1種類の吸収液を用いてH2SとCO2を吸収する。吸収液の例としては、物理吸収ではセレクソール、レクチゾール等が使用でき、化学吸収ではメチルジエタノールアミン(MDEA)やアンモニア等が使用できる。
【0100】
本実施例では、H2S/CO2同時吸収塔3でH2SとCO2を吸収した吸収液は、再生塔4で再生するシステムとしている。吸収液の再生には、再生塔を用いる方式以外にも、圧力スイングを利用したフラッシュ再生方式や、フラッシュ再生と再生塔による再生との組合せによる再生方式を採用しても良い。フラッシュ再生を利用することで、H2SとCO2の分離回収が可能となり、純度の高いCO2を回収することができる。
【実施例4】
【0101】
本発明によるガス精製方法及びガス精製設備の別な実施例を、図12を用いて説明する。図12は、本発明の実施例4によるガス精製システムの構成図である。図12において、図11と同一の符号は、図11と同一または共通する要素を示す。
【0102】
本実施例でのガス精製システムは、複数のCO/COS同時転化器を備える、すなわち、CO/COS同時転化器を複数段構成とするところに特徴がある。図12に示したガス精製システムは、3塔のCO/COS同時転化器2a〜2cを備える構成である。
【0103】
CO/COS同時転化器2a〜2cを複数段の構成にした理由は、式(1)、(2)の反応が発熱反応であるので、単段での構成だとCO/COS同時転化器内の温度上昇が著しいためである。CO/COS同時転化器内の温度上昇が著しいと、充填した触媒の劣化、例えばシンタリングによる比表面積の低下を引き起こし、触媒活性の低下を招く恐れがある。加えて、CO/COS同時転化器内の温度上昇により、CO/COS同時転化器自体の材料も劣化することが懸念される。以上のことから、CO/COS同時転化器を複数段の構成にすることが望ましい。複数段からなるCO/COS同時転化器2a〜2cにより、逐次的にCOシフト反応とCOS転化反応を進行させることで、触媒及びCO/COS同時転化器2a〜2cの過熱を抑制する。
【0104】
尚、CO/COS同時転化器2a〜2cは、図12には3塔からなる構成を示したが、3塔に限ることなく、複数段からなる構成であれば良い。
【0105】
本実施例では、図12に示したように、CO/COS同時転化器2b、2cの前段に熱交換器11を設置している。これは、前段のCO/COS同時転化器2a、2bで発生した熱量を回収し、CO/COS同時転化器2b、2cの入口温度を下げると同時に、効率的な熱回収により、発電効率の低下を抑制するためである。
【0106】
本実施例では、ノックアウトドラム8の出口側とCO/COS同時転化器2aとを接続するリサイクル管12を敷設し、ノックアウトドラム8の後流ガスの一部をCO/COS同時転化器2aにリサイクルさせる。すなわち、CO/COS同時転化器2cの下流側とCO/COS同時転化器2aの入口とを接続するリサイクル管12により、CO/COS同時転化器2cから出た生成ガスの一部を、CO/COS同時転化器2aに再度供給し、生成ガスをリサイクルする。リサイクルされるガスは、COシフト反応及びCOS転化反応後のガスであるため、ガス組成としてはCO2リッチなガスである。
【0107】
熱容量の大きいCO2リッチガスをリサイクルしてCO/COS同時転化器2aに供給することで、COシフト反応が最も進行しやすく温度上昇が著しいCO/COS同時転化器2aの温度上昇を抑制すると共に、COシフト反応の進行を緩和するので、CO/COS同時転化器2b、2cを効率的に利用することができる。
【0108】
本実施例により、COシフト反応及びCOS転化反応を同時に、且つ効率的に行えるだけでなく、CO/COS同時転化器に充填した触媒及びCO/COS同時転化器の材質の劣化を抑制できる。
【0109】
尚、上述のリサイクル管12は、本実施例で示したような、CO/COS同時転化器が複数段からなる構成のガス精製システムだけに適用できるものではない。実施例3に示したような、CO/COS同時転化器2が単段である構成のガス精製システム(図11参照)にも適用可能である。
【0110】
図13は、CO/COS同時転化器が単段であり、リサイクル管を備えたガス精製システムの構成図である。すなわち、図13は、図11に示した構成のガス精製システムにおいて、図12に示したリサイクル管12を敷設したガス精製システムを示している。図13において、図11と同一の符号は、図11と同一または共通する要素を示す。
【0111】
図13に示したガス精製システムでも、リサイクル管12は、ノックアウトドラム8の出口側とCO/COS同時転化器2とを接続し、ノックアウトドラム8の後流ガスの一部をCO/COS同時転化器2にリサイクルさせる。すなわち、CO/COS同時転化器2の下流側とCO/COS同時転化器2の入口とを接続するリサイクル管12により、CO/COS同時転化器2から出た生成ガスの一部を、CO/COS同時転化器2に再度供給し、生成ガスをリサイクルする。
【0112】
図11に示したようなCO/COS同時転化器2が単段の構成では、CO/COS同時転化器2内の温度上昇が著しい。しかし、図13に示したようにリサイクル管12を敷設することにより、熱容量の大きいCO2リッチガスをCO/COS同時転化器2に供給するので、CO/COS同時転化器2の温度上昇を抑制することができる。
【符号の説明】
【0113】
1…水洗塔、2,2a,2b,2c…CO/COS同時転化器、3…H2S/CO2同時吸収塔、4…再生塔、5,7,11…熱交換器、6…ガス加熱器、8…ノックアウトドラム、9…リッチ液流路、10…リーン液流路、12…リサイクル管、100…マスフローコントローラー、101…水タンク、102…マイクロチューブポンプ、103…水気化器、104…反応管、105…ラシヒリング、106…触媒、107…電気炉、108…断熱材、109…トラップ槽、110…水分除去装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
H2Sを含むガス中のCOをH2Oと反応させてCO2とH2へ変換するシフト反応を促進させるシフト触媒であって、
少なくともMo及びNiを含むことを特徴とするシフト触媒。
【請求項2】
H2Sを含むガス中のCOをH2Oと反応させてCO2とH2へ変換するシフト反応を促進させるシフト触媒であって、
少なくともMo及びポーリングの電気陰性度が1.8〜2.0の金属元素を含むことを特徴とするシフト触媒。
【請求項3】
請求項1または2記載のシフト触媒において、Al2O3、TiO2、及びZrO2の中から選ばれる1種以上の無機酸化物を含むシフト触媒。
【請求項4】
請求項1または2記載のシフト触媒において、Ni、Mo、及びTiO2を構成要素とするシフト触媒。
【請求項5】
請求項4記載のシフト触媒において、
Moの金属モル数MaとTiO2中のTiの金属モル数Mcとのモル比Ma/Mcは、0.025〜0.5の範囲にあるシフト触媒。
【請求項6】
請求項4または5記載のシフト触媒において、
Moの金属モル数MaとNiの金属モル数Mbとのモル比Mb/Maは、0.25〜1.5の範囲にあるシフト触媒。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項記載のシフト触媒において、
比表面積が100m2/g以上、及び平均細孔直径が10nm以下であるシフト触媒。
【請求項8】
炭素を含む固体燃料をガス化して生成され、少なくともCOとH2SとCOSとを含む生成ガスに対し、前記生成ガスに含まれるCOSをCOS転化反応によりCO2及びH2Sへ転換し、吸収液を用いて前記生成ガスに含まれるCO2及びH2Sを除去し、前記生成ガスに含まれるCOをCOシフト反応によりCO2へ転換し、吸収液を用いて前記生成ガスに含まれるCO2を回収するガス精製方法において、
前記生成ガスに水蒸気を供給する水蒸気供給工程と、
1種類の触媒を用いて前記COシフト反応と前記COS転化反応とを集約して行い、前記生成ガスに含まれるCOとCOSを転換するCO/COS同時転化工程と、
1種類の吸収液を用いて前記生成ガスに含まれるH2SとCO2の除去と回収を集約して行うH2S/CO2同時回収工程を備える、
ことを特徴とするガス精製方法。
【請求項9】
請求項8記載のガス精製方法において、前記CO/COS同時転化工程に用いる前記触媒は、請求項1〜7のいずれか1項に記載のシフト触媒であるガス精製方法。
【請求項10】
請求項8記載のガス精製方法において、前記CO/COS同時転化工程では、前記生成ガスと前記触媒を200〜450℃で接触させるガス精製方法。
【請求項11】
請求項8記載のガス精製方法において、前記CO/COS同時転化工程では、前記生成ガスと前記触媒を、H2O/COのモル比として1.2〜1.8の範囲内でH2Oと接触させることを特徴とするガス精製方法。
【請求項12】
請求項8記載のガス精製方法において、前記CO/COS同時転化工程を複数備えるガス精製方法。
【請求項13】
炭素を含む固体燃料をガス化して生成され、少なくともCOとH2SとCOSとを含む生成ガスに対し、前記生成ガスに含まれるCOSをCOS転化反応によりCO2及びH2Sへ転換し、吸収液を用いて前記生成ガスに含まれるCO2及びH2Sを除去し、前記生成ガスに含まれるCOをCOシフト反応によりCO2へ転換し、吸収液を用いて前記生成ガスに含まれるCO2を回収するガス精製設備において、
1種類の触媒が充填され、この触媒により前記COシフト反応と前記COS転化反応とを集約して行い、前記生成ガスに含まれるCOとCOSを転換するCO/COS同時転化器と、
前記CO/COS同時転化器の前段に設置され、前記生成ガスに水蒸気を供給する水蒸気供給管と、
1種類の吸収液を用いて前記生成ガスに含まれるH2SとCO2の除去と回収を集約して行うH2S/CO2同時回収塔を備える、
ことを特徴とするガス精製設備。
【請求項14】
請求項13記載のガス精製設備において、前記CO/COS同時転化器に充填される前記触媒は、請求項1〜7のいずれか1項に記載のシフト触媒であるガス精製設備。
【請求項15】
請求項13記載のガス精製設備において、
前記CO/COS同時転化器の前段に加熱装置を備え、
前記生成ガスは、前記CO/COS同時転化器に充填された前記触媒と200〜450℃で接触するガス精製設備。
【請求項16】
請求項13記載のガス精製設備において、前記CO/COS同時転化器を複数備えるガス精製設備。
【請求項17】
請求項13記載のガス精製設備において、
前記CO/COS同時転化器の下流側と前記CO/COS同時転化器の入口とを接続するリサイクル管を備え、
前記CO/COS同時転化器から出た前記生成ガスの一部を前記CO/COS同時転化器に再度供給するガス精製設備。
【請求項18】
請求項16記載のガス精製設備において、
複数の前記CO/COS同時転化器のうち、最も下流側に位置するCO/COS同時転化器の下流側と、最も上流側に位置するCO/COS同時転化器の入口とを接続するリサイクル管を備え、
前記最も下流側に位置するCO/COS同時転化器から出た前記生成ガスの一部を、前記最も上流側に位置するCO/COS同時転化器に再度供給するガス精製設備。
【請求項1】
H2Sを含むガス中のCOをH2Oと反応させてCO2とH2へ変換するシフト反応を促進させるシフト触媒であって、
少なくともMo及びNiを含むことを特徴とするシフト触媒。
【請求項2】
H2Sを含むガス中のCOをH2Oと反応させてCO2とH2へ変換するシフト反応を促進させるシフト触媒であって、
少なくともMo及びポーリングの電気陰性度が1.8〜2.0の金属元素を含むことを特徴とするシフト触媒。
【請求項3】
請求項1または2記載のシフト触媒において、Al2O3、TiO2、及びZrO2の中から選ばれる1種以上の無機酸化物を含むシフト触媒。
【請求項4】
請求項1または2記載のシフト触媒において、Ni、Mo、及びTiO2を構成要素とするシフト触媒。
【請求項5】
請求項4記載のシフト触媒において、
Moの金属モル数MaとTiO2中のTiの金属モル数Mcとのモル比Ma/Mcは、0.025〜0.5の範囲にあるシフト触媒。
【請求項6】
請求項4または5記載のシフト触媒において、
Moの金属モル数MaとNiの金属モル数Mbとのモル比Mb/Maは、0.25〜1.5の範囲にあるシフト触媒。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項記載のシフト触媒において、
比表面積が100m2/g以上、及び平均細孔直径が10nm以下であるシフト触媒。
【請求項8】
炭素を含む固体燃料をガス化して生成され、少なくともCOとH2SとCOSとを含む生成ガスに対し、前記生成ガスに含まれるCOSをCOS転化反応によりCO2及びH2Sへ転換し、吸収液を用いて前記生成ガスに含まれるCO2及びH2Sを除去し、前記生成ガスに含まれるCOをCOシフト反応によりCO2へ転換し、吸収液を用いて前記生成ガスに含まれるCO2を回収するガス精製方法において、
前記生成ガスに水蒸気を供給する水蒸気供給工程と、
1種類の触媒を用いて前記COシフト反応と前記COS転化反応とを集約して行い、前記生成ガスに含まれるCOとCOSを転換するCO/COS同時転化工程と、
1種類の吸収液を用いて前記生成ガスに含まれるH2SとCO2の除去と回収を集約して行うH2S/CO2同時回収工程を備える、
ことを特徴とするガス精製方法。
【請求項9】
請求項8記載のガス精製方法において、前記CO/COS同時転化工程に用いる前記触媒は、請求項1〜7のいずれか1項に記載のシフト触媒であるガス精製方法。
【請求項10】
請求項8記載のガス精製方法において、前記CO/COS同時転化工程では、前記生成ガスと前記触媒を200〜450℃で接触させるガス精製方法。
【請求項11】
請求項8記載のガス精製方法において、前記CO/COS同時転化工程では、前記生成ガスと前記触媒を、H2O/COのモル比として1.2〜1.8の範囲内でH2Oと接触させることを特徴とするガス精製方法。
【請求項12】
請求項8記載のガス精製方法において、前記CO/COS同時転化工程を複数備えるガス精製方法。
【請求項13】
炭素を含む固体燃料をガス化して生成され、少なくともCOとH2SとCOSとを含む生成ガスに対し、前記生成ガスに含まれるCOSをCOS転化反応によりCO2及びH2Sへ転換し、吸収液を用いて前記生成ガスに含まれるCO2及びH2Sを除去し、前記生成ガスに含まれるCOをCOシフト反応によりCO2へ転換し、吸収液を用いて前記生成ガスに含まれるCO2を回収するガス精製設備において、
1種類の触媒が充填され、この触媒により前記COシフト反応と前記COS転化反応とを集約して行い、前記生成ガスに含まれるCOとCOSを転換するCO/COS同時転化器と、
前記CO/COS同時転化器の前段に設置され、前記生成ガスに水蒸気を供給する水蒸気供給管と、
1種類の吸収液を用いて前記生成ガスに含まれるH2SとCO2の除去と回収を集約して行うH2S/CO2同時回収塔を備える、
ことを特徴とするガス精製設備。
【請求項14】
請求項13記載のガス精製設備において、前記CO/COS同時転化器に充填される前記触媒は、請求項1〜7のいずれか1項に記載のシフト触媒であるガス精製設備。
【請求項15】
請求項13記載のガス精製設備において、
前記CO/COS同時転化器の前段に加熱装置を備え、
前記生成ガスは、前記CO/COS同時転化器に充填された前記触媒と200〜450℃で接触するガス精製設備。
【請求項16】
請求項13記載のガス精製設備において、前記CO/COS同時転化器を複数備えるガス精製設備。
【請求項17】
請求項13記載のガス精製設備において、
前記CO/COS同時転化器の下流側と前記CO/COS同時転化器の入口とを接続するリサイクル管を備え、
前記CO/COS同時転化器から出た前記生成ガスの一部を前記CO/COS同時転化器に再度供給するガス精製設備。
【請求項18】
請求項16記載のガス精製設備において、
複数の前記CO/COS同時転化器のうち、最も下流側に位置するCO/COS同時転化器の下流側と、最も上流側に位置するCO/COS同時転化器の入口とを接続するリサイクル管を備え、
前記最も下流側に位置するCO/COS同時転化器から出た前記生成ガスの一部を、前記最も上流側に位置するCO/COS同時転化器に再度供給するガス精製設備。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−66237(P2012−66237A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−143998(P2011−143998)
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]