シミュレーション装置、及びシミュレーション方法
【課題】トラップ準位を取り込んだ物理モデルに基づき、比較的短時間で高精度な回路解析を行うことができるシミュレーション装置を提供する。
【解決手段】シミュレーション装置は、入力装置11、記憶装置12、演算装置16、制御装置15及び出力装置17を備える。入力装置から入力されたTFTにおけるゲート電極端に対応する多結晶シリコン薄膜のゲート電極側表面のソース領域端とドレイン領域端における第1、第2イオン化トラップ密度NtS0,NtSL、上記ソース領域端の第1電位φS0、上記ゲート電極が形成された表面に対向する裏面側のソース領域端の第2電位φb0、上記ゲート電極側表面のドレイン領域端の第3電位φSL、及び上記裏面側の前記ドレイン領域端の第4電位φbLに基づいて演算を行ってドレイン電流Idsを算出する。
【解決手段】シミュレーション装置は、入力装置11、記憶装置12、演算装置16、制御装置15及び出力装置17を備える。入力装置から入力されたTFTにおけるゲート電極端に対応する多結晶シリコン薄膜のゲート電極側表面のソース領域端とドレイン領域端における第1、第2イオン化トラップ密度NtS0,NtSL、上記ソース領域端の第1電位φS0、上記ゲート電極が形成された表面に対向する裏面側のソース領域端の第2電位φb0、上記ゲート電極側表面のドレイン領域端の第3電位φSL、及び上記裏面側の前記ドレイン領域端の第4電位φbLに基づいて演算を行ってドレイン電流Idsを算出する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体デバイスの特性や回路設計に用いるシミュレーション装置、及びシミュレーション方法に関するもので、特に、絶縁基板上の多結晶シリコン薄膜などのシリコン薄膜中にソース領域及びドレイン領域を離隔して形成し、これらソース、ドレイン領域間のチャネル領域上にゲート絶縁膜を介在してゲート電極を形成した薄膜トランジスタ(TFT:Thin Film Transistor)などのように、欠陥準位を含んだシリコン薄膜を用いて形成されるトランジスタのシミュレーション技術に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの回路設計の際には、一般に回路解析シミュレータを用いて回路特性の予測が行われている。回路シミュレーションに使用されるソフトウエアツールとして最も多く利用されるのがSPICE(Simulation Program with Integrated Circuit Emphasis)であり、UCB(University of California, Berkeley)によって作られた。このシミュレータに用いられるデバイスモデルは、通称コンパクト(Compact)モデルと言われるもので、比較的短時間で計算結果が得られるように簡略化したモデルが使われている。
【0003】
このような事情から、ゲート電圧によりシリコン層の表面の電位を変化させて、その表面電荷密度を制御することでソース、ドレイン領域間のインピーダンスを変える所謂MOS(Metal Oxide Semiconductor)トランジスタでは、ゲート電圧が比較的低くドレイン電流が流れ始める弱反転領域(Subthreshold〜Weak Inversion領域)と、ゲート電圧が十分高くなってドレイン電流が大きくなった強反転領域(Strong Inversion領域)とで異なる電圧−電流関係式を用いるのが一般的であった。
【0004】
このような技術アプローチから導かれたトランジスタモデルとして代表的なものがBSIM(Berkeley Short-Channel IGFET Model)と言われる一群のモデルである(非特許文献1参照)。これらのモデルでは拡散電流とドリフト電流の和であるドレイン電流のうち、弱反転領域では拡散電流成分が支配的であるため拡散電流のみを扱い、ドリフト電流が支配的な強反転領域ではドリフト電流のみを扱う。
【0005】
即ち、弱反転領域では下式のように拡散電流近似を行い、
【数13】
【0006】
強反転領域では下式のようにドリフト電流近似を行う。
【数14】
【0007】
ここで、IDはドレイン電流、Ionは拡散電流指数関数係数、VGSはゲート・ソース間電圧、Vonは拡散電流オフセット電圧、ζは拡散電流熱電圧係数、VTは熱電圧、μはキャリアの移動度、Coxはゲート酸化膜容量、Wはチャネル幅、Lはチャネル長、VTH0は閾値電圧、VDSはドレイン・ソース間電圧、γは基板バイアス効果の係数、VBSは基板(バルク)・ソース間電圧、φFはフェルミ準位である。
【0008】
このように動作領域で電流を求める式を変えると式が簡単になるため解析が容易となり、計算時間が短縮できるという利点がある。
【0009】
しかしながら、動作領域により電圧−電流関係式を変える所謂ピースワイズ(Piece-wise)モデル(Level 2 Spice model、以下ドリフトモデルと呼ぶ)では、図16(a)に示すように弱反転領域と強反転領域の境界(トランジスタの閾値電圧VTH近傍のハッチングを付けた領域)で電流の微分値が不連続になる。この結果、境界で図16(b)に示すような大きなエラー(Large error)を生ずる恐れがあり、図16(c)に示すように定性的な修正カーブ(A qualitatively correct curve)で近似している。
【0010】
このため、ピースワイズモデルは、弱反転領域から強反転領域に跨って動作するアナログ回路動作などの解析には不都合があった。また、近年のようにチャネル長が100nm程度にまで短チャネル化してくると、ドリフトモデルではモデルの信憑性が低くなるという問題も生じている。
【0011】
そこで、電流の基本式であるドリフト拡散モデル式を動作領域により分離せずに解く試みがなされている。その代表的なものがHiSIM(Hiroshima-Univ. STARC IGFET Model)と呼ばれるモデルである。本モデルは、トランジスタ(MOSFET)の弱反転から強反転までの動作を単一式(拡散―ドリフト式)により表面電位を導いて表面電荷を算出し、電流を求める手法を採用している。非特許文献2には、この手法より得られたMOSFETの電圧−電流特性が実測値を極めて良く再現できることが記載されている。
【0012】
ところで、近年はガラス基板などの絶縁基板上にアモルファスシリコン(Amorphous-Si)薄膜を形成した後、レーザ結晶化技術を用いて単結晶シリコンに近い多結晶シリコン薄膜を形成する技術が発達してきた。そして、この絶縁基板上の多結晶シリコン薄膜やアモルファスシリコン薄膜を用いてトランジスタを形成し、機能回路を集積化する試みが盛んに行われている。絶縁基板上の多結晶シリコン薄膜やアモルファスシリコン薄膜を用いて回路を形成することより、回路接続点での断線などがなくなって信頼性が高まり、製造コストも削減できるなどの利点がある。
【0013】
しかし、現時点では、レーザ結晶化技術を用いても完全な単結晶シリコンを得ることはまだ困難である。多結晶シリコンには、図17(a)に示すように様々な面方位の多数の単結晶シリコン粒(Grain)が混在し、結晶粒界(Grain boundary)にはキャリアを捕獲するトラップ準位(欠陥準位ないしは局在準位)が存在する。また、アモルファスシリコンには多くの局在準位がある。そして、シリコン薄膜とこれに接する酸化膜の界面にはシリコン結晶のダングリングボンドに起因する界面準位が存在する。しかも、ガラス基板上の多結晶シリコンやアモルファスシリコンに形成する酸化膜の形成温度は、500°C程度と低いため通常のMOSFETに比べて界面準位の数は桁違いに多い。
【0014】
本明細書では、このような欠陥準位、局在準位、界面準位を、トラップ準位と総称する。また、トランジスタを形成するシリコン薄膜の、ゲート電極に対向する面を表面、絶縁基板に対向する面を裏面と称する。
【0015】
このようなトラップ準位があると、デバイス動作の物理機構が複雑となる。そして、現状の多結晶シリコンやアモルファスシリコンを用いた絶縁ゲート形トランジスタの回路解析モデルは、これらの物理機構をモデル化したものではなく、デバイスの物性を単にフィッティングするためのフィッティングパラメータを導入しただけのモデルが多く、モデルの精度が低く必ずしも満足できるものではなかった。
【0016】
その背景には、トラップ準位を含んだ絶縁ゲート形トランジスタの動作モデルが必ずしも物理モデルに基づいたものではなく、実測したデバイス特性を模擬するための単純なフィッティングパラメータを当て嵌めていたという事情がある。
【0017】
物理モデルに基づかないため、例えばチャネル長が変わった場合などはその都度同じチャネル長を持つデバイスを試作し、そのデバイスパラメータを抽出していた。このような手順を踏むため、精度の良い回路解析デバイスモデルを得るには多くの時間を費やしている。また、単結晶シリコンに比べて複雑な物理機構を持つ多結晶シリコンやアモルファスシリコンを利用した絶縁ゲート形トランジスタではデバイスモデルのパラメータの数が多くなる傾向があり、使い勝手の良いデバイスモデルがなかった。
【0018】
また、上記のようなトラップ準位を取り込んだ物理モデルに基づいたシミュレーション装置及びシミュレーション方法を開発する試みも近年なされている(例えば特許文献1参照)。このようにトラップ準位を取り込むことでシミュレーションの精度を高めることができる。しかしながら、更なる高精度化が求められており、そのためにトラップ準位のモデル精度を向上することが望まれている。
【非特許文献1】BSIM 4.0.0 MOSFET Model, User’s Manual, Department of Electrical Engineering and Computer Science, University of California, Berkeley, CA (2000)
【非特許文献2】M. Miura-Mattausch et al., "Unified complete MOSFET model for analysis of digital and analog circuit," IEEE Trans. CAD/ICAS vol.15, pp.1-7 (1966)
【非特許文献3】M. Shur and M. Hack, "Physics of amorphous silicon based alloy field-effect transistors, "J. Appl. Phys., vol.55, p.3831 (1984)
【特許文献1】特開2008−028328号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
上述したように、絶縁基板上のシリコン薄膜中に形成したTFTや、SOI基板に形成したトランジスタなどでは、トラップ準位についての精度の良い物理モデルに基づいた回路モデルがなかった。また、多くのフィッティングパラメータが必要であった。このため、精度の良い回路解析デバイスモデルを得るには多くの時間を費やし、多結晶シリコンやアモルファスシリコン中に形成したトランジスタではデバイスモデルのパラメータ数が多くなって使い勝手も良くない。
【0020】
本発明は上記のような事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、トラップ準位を正確に模擬する物理モデルに基づき、比較的短時間で高精度な回路解析を行うことができるシミュレーション装置、及びシミュレーション方法を提供することにある。
【0021】
また、比較的少ないフィッティングパラメータで実測のトランジスタ特性を模擬でき、使い勝手を向上できるシミュレーション装置、及びシミュレーション方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明の一態様に係るシミュレーション装置は、絶縁基板上のシリコン薄膜中にソース領域及びドレイン領域を離隔して形成し、これらソース、ドレイン領域間のチャネル領域上にゲート絶縁膜を介在してゲート電極を形成したトランジスタのデバイス特性をシミュレートするシミュレーション装置において、
前記トランジスタのデバイスモデル式とデバイスパラメータの初期値を入力する入力装置と、
前記入力装置から入力した前記デバイスモデル式とデバイスパラメータの初期値を記憶する記憶装置と、
前記記憶装置に記憶したデバイスパラメータの初期値に基づいて演算を行って、前記トランジスタのチャネル領域として働くシリコン薄膜の表面における前記ソース領域側端部の第1イオン化トラップ密度NtS0、及び前記トランジスタのチャネル領域として働くシリコン薄膜の表面における前記ドレイン領域側端部の第2イオン化トラップ密度NtSLと、前記トランジスタのチャネル領域として働くシリコン薄膜の表面における前記ソース領域側端部の第1電位φS0、前記チャネル領域として働くシリコン薄膜の裏面における前記ソース領域側端部の第2電位φb0、前記トランジスタのチャネル領域として働くシリコン薄膜の表面における前記ドレイン領域側端部の第3電位φSL、及び前記チャネル領域として働くシリコン薄膜の裏面における前記ドレイン領域側端部の第4電位φbLをそれぞれ算出し、これら第1イオン化トラップ密度NtS0、第2イオン化トラップ密度NtSL、第1電位φS0、第2電位φb0、第3電位φSL及び第4電位φbLを前記記憶装置に記憶したデバイスモデル式に代入してドレイン電流Idsを算出する演算装置とを具備し、
前記第1イオン化トラップ密度NtS0、及び第2イオン化トラップ密度NtSLは、それぞれ前記チャネル領域として働くシリコン薄膜のソース領域側端部の表面における電界強度、及び前記チャネル領域として働くシリコン薄膜のドレイン領域側端部の表面における電界強度の関数として算出する。
【0023】
そして、前記第2電位φb0は、前記第1電位φS0を用いて次の式で表され、
【数15】
【0024】
前記第4電位φbLは、前記第3電位φSLを用いて次の式で表される。
【数16】
【0025】
ここで、εsiはシリコンの誘電率、NSUBは基板不純物濃度、tSiはシリコン薄膜の厚さ、qは電気素量、KtS0及びKtSLは前記デバイスパラメータから算出される係数である。
【0026】
また、前記第1イオン化トラップ密度NtS0及び第2イオン化トラップ密度NtSLは、それぞれチャネル領域のソース領域側端部の表面における電界強度、及び前記チャネル領域のドレイン領域側端部の表面における電界強度の関数として表され、好ましい関数の例としては、前記チャネル領域のソース領域側端部の表面におけるイオン化したトラップ密度NtS0は下式で表され、
【数17】
【0027】
前記チャネル領域のドレイン領域側端部表面におけるイオン化したトラップ密度NtSLは下式で表される。
【数18】
【0028】
ここで、ES0、ESLはそれぞれチャネル領域のソース領域側端部表面及びドレイン領域端部表面における電界強度、KES0、KESLは前記デバイスパラメータから算出される係数、qは電気素量、gC1はトラップ濃度分布ピーク値、E1はトラップ濃度分布傾きである。
【0029】
更に、前記ドレイン電流Idsは下式で表される。
【数19】
【0030】
【数20】
【0031】
ここで、Wはトランジスタのチャネル幅、Lはトランジスタのチャネル長、μはキャリアの移動度、Iddは表面電荷総量、βは熱電圧の逆数、Coxはゲート酸化膜容量、Vg’はゲート・ソース間電圧からフラットバンド電圧を引いた電圧、qは電気素量、εsiはシリコンの誘電率、NSUBは基板不純物濃度である。
【0032】
本発明の他の一態様に係るシミュレーション方法は、絶縁基板上の多結晶シリコン薄膜中にソース領域及びドレイン領域を離隔して形成し、これらソース、ドレイン領域間のチャネル領域上にゲート絶縁膜を介在してゲート電極を形成したトランジスタのデバイス特性をシミュレートするシミュレーション方法において、
前記トランジスタのデバイスモデル式を入力装置から入力して記憶装置に記憶させるステップと、
前記トランジスタのデバイスパラメータの初期値を前記入力装置から入力して前記記憶装置に記憶させるステップと、
前記記憶装置に記憶したデバイスパラメータの初期値に基づいて演算を行って、前記トランジスタのチャネル領域として働くシリコン薄膜の表面におけるソース領域側端部の第1イオン化トラップ密度NtS0、及び前記トランジスタのチャネル領域として働くシリコン薄膜の表面におけるドレイン領域側端部の第2イオン化トラップ密度NtSLをそれぞれ算出するステップと、
前記記憶装置に記憶したデバイスパラメータの初期値に基づいて演算装置で演算を行って、前記トランジスタのチャネル領域として働くシリコン薄膜の表面における前記ソース領域側端部の第1電位φS0、前記チャネル領域として働くシリコン薄膜の裏面における前記ソース領域側端部の第2電位φb0、前記トランジスタのチャネル領域として働くシリコン薄膜の表面における前記ドレイン領域側端部の第3電位φSL、及び前記チャネル領域として働くシリコン薄膜の裏面における前記ドレイン領域側端部の第4電位φbLをそれぞれ算出するステップと、
これらの算出した第1イオン化トラップ密度NtS0、第2イオン化トラップ密度NtSL、第1電位φS0、第2電位φb0、第3電位φSL及び第4電位φbLを前記記憶装置に記憶したデバイスモデル式に代入して前記演算装置で演算を行い、ドレイン電流Idsを算出するステップとを具備し、
前記第1イオン化トラップ密度NtS0、及び第2イオン化トラップ密度NtSLは、それぞれ前記チャネル領域のソース領域側端部の表面における電界強度、及び前記チャネル領域のドレイン領域側端部表面における電界強度の関数として算出する。
【0033】
また、前記第2電位φb0は、前記第1電位φS0を用いて上式で表され、前記第4電位φbLは、前記第3電位φSLを用いて上式で表される。
【0034】
更に、前記第1イオン化トラップ密度NtS0は上式で表され、前記第2イオン化トラップ密度NtSLは上式で表される。
【0035】
更にまた、前記ドレイン電流Idsは上式で表される。
【0036】
上記シミュレーション方法において、前記トランジスタの所望する電圧−電流特性を前記入力装置から入力して前記記憶装置に記憶させるステップと、
前記トランジスタの所望する電圧−電流特性と、演算によって求めた前記ドレイン電流Idsに基づく電圧−電流特性とを比較するステップと、
制御装置で前記入力装置、前記記憶装置及び前記演算装置を制御し、前記電圧−電流特性の比較結果が許容誤差以下になるまでデバイスパラメータを変更して前記演算装置で演算を行ってモデルパラメータを得るステップと
を更に具備しても良い。
【0037】
また、前記記憶装置に、前記制御装置を制御するための命令を記述したプログラムを記憶させるステップと、
前記入力装置からデバイスパラメータ、回路図及び回路駆動条件を入力して前記記憶装置に記憶させるステップとを更に具備し、
前記制御装置の制御により、前記記憶装置に記憶したプログラムに従って、前記演算装置で算出したモデルパラメータ、回路図及び回路駆動条件に基づいて、前記演算装置で演算し、回路特性をシミュレートすることができる。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、トラップ準位についての精度の良い物理モデルに基づき、比較的短時間で高精度な回路解析を行うことができるシミュレーション装置、及びシミュレーション方法が提供できる。
【0039】
また、比較的少ないフィッティングパラメータ(キャリアの移動度、フラットバンド電圧、トラップ濃度分布を与えるピーク濃度、及びトラップ濃度分布傾き)で絶縁基板上の多結晶シリコン薄膜中に形成したTFTやSOI基板に形成したトランジスタを含む半導体デバイスや回路特性を模擬でき、使い勝手を向上できるシミュレーション装置及びシミュレーション方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
先ず、本発明の実施形態に係るシミュレーション装置及びシミュレーション方法で用いるデバイスモデルに至る考察課程について説明し、その後このデバイスモデルを用いた種々の実施形態を説明する。
【0041】
本発明の実施形態に係るシミュレーション装置及びシミュレーション方法は、絶縁基板上の半導体薄膜、例えば多結晶シリコン薄膜中に形成したTFT(以後、単にTFTと称する)、或いはSOI基板に形成したトランジスタ(SOIトランジスタと称する)を備えた回路設計のシミュレーションに好適なものである。例えば、多結晶シリコンには、図17(a)を参照して説明したように、様々な面方位の微小な単結晶シリコン粒が多数集まっている。この多結晶シリコンには隣接する単結晶の境界、即ち結晶粒界に結晶欠陥に基づくトラップ準位が多く存在する。このように多結晶シリコンには内部に材料の不均一があるが、回路モデルの作成に当たってはこの不均一を無視して均一な材料として扱っていた。この仮定は、デバイスの寸法に対して結晶粒が十分小さいときには有効と考えられる。
【0042】
本発明によるシミュレーションの対象となる薄膜半導体デバイスは、Nチャネル素子で電子が、Pチャネル素子では正孔が電流の支配的な担い手である所謂ユニポーラ素子であると仮定する。また、表面のみに電流が流れると仮定すると、デバイスの電圧−電流特性はゲート下のシリコン薄膜表面の電荷分布により決まる。そして、表面電荷はシリコン薄膜の表面電位によって決まる。これよりトランジスタの電圧−電流特性を求めることは、シリコン薄膜表面の電位分布を求めることに帰着される。
【0043】
本発明で用いるデバイスモデルを導く手法は、上記の表面電位を求めることに基本を置くものである。デバイスの電位分布を与えるのはポアソン方程式である。デバイスは本来3次元構造であるが、チャネル幅方向では電流が一様に流れると仮定すると2次元構造に還元できる。また、電流がチャネル領域の長さに比べて極めて薄い表面層のみに流れると仮定した所謂チャージシートモデルが成り立つとすると1次元構造に還元できる。
【0044】
本デバイスモデルは、これらの仮定に基づいて1次元のポアソン方程式を解くことが基本となる。以下に本デバイスモデルによりデバイス表面の電荷を求める手順の要点を述べる。
【0045】
図2及び図3(a),(b)はそれぞれ、本シミュレーション装置と解法する方程式との関係について説明するための図である。図2はデバイス(トランジスタ)の動作時の模式図であり、図3(a),(b)はシミュレーションモデルと解法方程式の関係を示した模式図である。表面電荷は表面電位分布から求まる。この場合、ソース電極からドレイン電極までの電位の変化は緩やかであると仮定する所謂グラヂュアルチャネル(Gradual channel)近似を用いる(図2参照)。この近似を用いることでチャネル領域の電位分布はソース領域端の表面電位φS0とドレイン領域端の表面電位φSLの2点の電位から推定できる。そして、ソース領域端とドレイン領域端の表面電位φS0、φSLはそれぞれソース領域端とドレイン領域端の深さ方向の1次元ポアソン式及びガウスの法則を解くことで求められる(図3(a)参照)。
【0046】
一方、シミュレーションモデルの対象としているデバイスは、絶縁基板上の多結晶シリコン薄膜中に形成したTFT、或いはSOI基板に形成したトランジスタである。これらのデバイスは、厚さが数十〜数百nmと薄いことが特徴である。シリコン薄膜が薄いために、動作時にデバイス全体が空乏化している完全空乏化(Fully Depleted)、或いは部分空乏化(Partially Depleted)状態となっている。
【0047】
即ち、シリコン薄膜の裏面の電位は零電位ではなく、ある値を持つ。この裏面電位はシリコン層の厚さ、不純物濃度、ゲート酸化膜の厚さなどのデバイス構造、及びゲート電圧によって決まる。これらにより表面電位と裏面電位は独立ではなく一定の関係を持ち、図3(b)に示すようにゲート電極に誘起される電荷QGは、半導体表面に誘起される反転層電荷QI、シリコン薄膜の空乏層電荷QB、及びトラップ準位に捕獲された電荷(トラップ電荷)Qtrapの和で表される(下式参照)。
【数21】
【0048】
また、ゲート電圧VGSと半導体表面電位φSは下式の電荷平衡条件で関係付けられる。
【数22】
【0049】
ここで、Coxはゲート酸化膜容量、Vfbはフラットバンド電圧である。
【0050】
上記のような関係式を用いてチャネル領域のソース領域側端部及での表面電位φS0と裏面電位φb0、チャネルのドレイン領域側端部での表面電位φSLと裏面電位φbLが求められる。
【0051】
以上の手順で求められたソース領域側端部、ドレイン領域側端部での表面電位φS0,φSL、裏面電位φb0,φbLの4点の電位からドレイン電流Idsが求まる。
【0052】
本発明は、図17(a)に示したような、シリコン薄膜中に存在するトラップ準位を、図17(b)に示すようにトランジスタが形成されるシリコン薄膜中で平均化しデバイスモデルに組み込むものである。
【0053】
即ち、回路モデルの基本式となるポアソン式にトラップ準位の効果を導入する。Nチャネル形のデバイスを例に取ると、
ポアソン式は
【数23】
【0054】
である。
【0055】
ここで、NTD+、NTA−は、それぞれイオン化したドナー型トラップ密度、イオン化したアクセプタ型トラップ密度、xはシリコン薄膜の表面から深さ方向の位置を表す変数である。
【0056】
ポアソン式(1)を解くためには、(NTD+−NTA−)をどのようにモデル化するかが課題となるが、本発明者等は、2次元デバイスシミュレーションを用いた解析の結果から、(NTD+−NTA−)を、ポテンシャルの関数及びxの関数として、次のように近似して表すことができることを見出した。
【数24】
【0057】
図7(a)及び図7(b)は、チャネル長0.5μmの薄膜トランジスタについて、ドレイン・ソース電圧1V、ゲート・ソース電圧0.4Vから5Vの範囲で、ポテンシャル及びx位置とシリコン薄膜中のイオン化したトラップ密度との関係を、2次元デバイスシミュレーションにより解析した結果を示す。
【0058】
ここで、φSはシリコン薄膜の表面電位、φbはシリコン薄膜の裏面電位、tSiはシリコン薄膜の厚さ、Kはデバイスパラメータから算出される係数、NtSはシリコン薄膜表面でのイオン化したトラップ密度である。
【0059】
図7(a)及び図7(b)に示された結果は、上記の式(2)、(3)による近似が妥当であることを示している。
【0060】
そうすると、シリコン薄膜表面でのイオン化したトラップ密度NtSをどのようにモデル化するかが次の課題となる。
【0061】
多結晶シリコン中の欠陥分布の例としては、図5(a)に示すような2つの指数関数の和で表されるDOS(Density Of State)分布がよく知られており、次式で表すことができる。
【数25】
【0062】
図5(b)に示すドナー(Donor)型トラップは正に帯電し、図5(c)に示すアクセプタ(Acceptor)型トラップは負に帯電する。これらドナー型トラップ準位とアクセプタ型トラップ準位の2つの指数関数の和で多結晶シリコン中の欠陥分布を表すことができる。
【0063】
しかし、このようなDOS分布を解析式としてモデル化すると処理時間の増大を招く。そこで2つの指数関数分布を1つの指数関数で表した図6に示したような簡略化モデルにより解析式が得られることが例えば非特許文献3などにより知られている。
【0064】
本シミュレーションモデルでは、この簡略化したDOS分布モデルを利用し、且つトランジスタが形成される基板(シリコン薄膜)のトラップ準位を含めてモデル化している。
【0065】
図4(a)に示す簡略化したモデルによるアクセプタ型トラップ準位のDOS分布について、トラップ準位に捕獲されるキャリア密度は、図4(b)に示すようにトラップ準位密度NTA(E)と分布関数(フェルミ・デイラック分布)f(E)の積として求めることができる。
【0066】
上記分布関数f(E)は、次式で示される。
【数26】
【0067】
ここで、Efはフェルミエネルギー、VTは熱電圧である。
【0068】
これらの式から、NTD+−NTA−は次の式で表される。
【数27】
【0069】
ここで、EV、ECはそれぞれ価電子帯準位の最上位ポテンシャル、伝導帯準位の最下位ポテンシャルであり、EFp、EFnはそれぞれ、ホールと電子の擬フェルミポテンシャル、gC1はトラップ濃度分布ピーク値、E1はトラップ濃度分布傾きである。
【0070】
シミュレーションモデルにおいては、ホールと電子の擬フェルミポテンシャルを、表面電位、デバイスパラメータなどモデル内で使用される変数を用いて表す必要がある。本発明者等は、2次元デバイスシミュレーションによる解析結果から、シリコン薄膜表面においてEV−EFp、EFn−ECが電界強度の関数として表されることを見出した。
【0071】
図8は、チャネル長0.5μmのシリコン薄膜トランジスタについて、ゲート・ソース電圧を−1Vから5V、ゲート・ドレイン電圧を0.1Vから1Vの範囲で変化させたときの、ソース領域端表面及びドレイン領域端表面でのEFn−ECと電界強度の関係について、2次元デバイスシミュレーションで解析した結果である。図8の結果は、シリコン薄膜表面におけるEFn−ECを電界強度の関数で近似できることを示しており、従ってシリコン層表面のイオン化トラップ密度を、シリコン層表面の電界強度の関数として算出できる。
【0072】
シリコン薄膜表面の電界強度ESは、次の式で表される。
【数28】
【0073】
ここで、Vg’はゲート・ソース間電圧からフラットバンド電圧を引いた電圧、φSはシリコン薄膜表面電位、tOXはゲート酸化膜厚である。
【0074】
従って、シリコン薄膜表面におけるEV−EFp、EFn−ECがシリコン薄膜表面電位φSから求められることになる。
【0075】
実際にシリコン薄膜表面におけるEV−EFp、EFn−ECを算出するための近似式としては各種考えられるが、ここでは一例として次式を示す。
【数29】
【0076】
ここで、Esは、シリコン薄膜表面における電界強度である。
【0077】
よって、上式(4)、(6)、(7)によりシリコン薄膜表面におけるイオン化したトラップ密度NtSが求められ、ポアソン式(1)を解くことができる。
【0078】
これにより、シリコン薄膜の表面電位と裏面電位の関係をトラップされたキャリアの影響を考慮し求めることができ、チャネルのソース領域側端部での表面電位φS0と裏面電位φb0の関係、及びチャネルのドレイン領域側端部での表面電位φSLとφbLの関係は、それぞれ次の式で表される。
【数30】
【0079】
【数31】
【0080】
ここで、εsiはシリコンの誘電率、NSUBは基板不純物濃度、tSiはシリコン薄膜の厚さ、qは電気素量、NtS0はチャネルのソース領域側端部表面におけるイオン化したトラップ電荷密度、NtSLはチャネルのドレイン領域側端部表面におけるイオン化したトラップ電荷密度、KtS0、及びKtSLは前記デバイスパラメータから算出される係数である。
【0081】
次に、上式(4)、(6)、(7)を用いて求められるシリコン層表面のイオン化トラップ密度を利用して、本発明のシミュレーションモデルにおいて、表面電位、裏面電位を求める手順について詳しく説明する。
【0082】
(1) ソース領域端での計算(表面電位φS0[V]、裏面ポテンシャルφb0[V])
下式(10)において、表面電位φS0と裏面ポテンシャルφb0の関係式として、上式(8)を用いて繰り返し計算を行い、表面電位φS0[V]を決定する。
【数32】
【0083】
但し
【数33】
【0084】
であり、Coxはゲート酸化膜容量、Vg’はゲート・ソース間電圧からフラットバンド電圧を引いた電圧、qは電気素量、εSiはシリコンの誘電率、NSUBは基板不純物濃度、βは熱電圧の逆数でありq/kT、NtS0はチャネルのソース側領域端表面でのイオン化したトラップ密度、Vgsはゲート・ソース間電圧、niは真性キャリア密度、toxはゲート酸化膜厚、εoxはゲート酸化膜の誘電率である。
【0085】
次に、求められた表面電位φS0と式(8)により、裏面ポテンシャルφb0を決定する。
【0086】
(2)ドレイン領域端での計算(表面電位φSL[V]、裏面ポテンシャルφbL[V])
下式(11)において、表面電位φSLと裏面ポテンシャルφbLの関係式として、上式(9)を用いて繰り返し計算を行い、表面電位φSL[V]、裏面ポテンシャルφbL[V]を決定する。
【数34】
【0087】
但し
【数35】
【0088】
であり、Coxはゲート酸化膜容量、Vg’はゲート・ソース間電圧からフラットバンド電圧を引いた電圧、qは電気素量、εSiはシリコンの誘電率、NSUBは基板不純物濃度、βは熱電圧の逆数であり、q/kT、NtSLはチャネルのドレイン側領域端でのイオン化したトラップ密度、Vgsはゲート・ソース間電圧、niは真性キャリア密度、toxは酸化膜厚、εoxはゲート酸化膜の誘電率である。
【0089】
次に、求められた表面電位φSLと式(9)により、裏面ポテンシャルφbLを決定する。
【0090】
(3)ドレイン電流式
ドレイン電流をIds[A]とすると、(1),(2)節で計算した4つの電位(φS0[V],φb0[V],φSL[V],φbL[V])を用いて次式のように算出できる。
【数36】
【0091】
【数37】
【0092】
ここで、Wはトランジスタのチャネル幅、Lはトランジスタのチャネル長、μはキャリアの移動度、Iddは表面電荷総量、βは熱電圧の逆数、Coxはゲート酸化膜容量、Vg’はゲート・ソース間電圧からフラットバンド電圧を引いた電圧、qは電気素量、εsiはシリコンの誘電率、NSUBは基板不純物濃度である。
【0093】
図9及び図10はそれぞれ、上述したデバイスモデルによるシリコン薄膜中のNチャネル型TFTのフィッティング結果を示している。図9はVg−Id特性であり、ゲート電圧に対するドレイン電流を実験値(○印)とシミュレーションで求めた値(実線)とを対比させて示している。ここで、多結晶シリコンTFTのチャネル幅Wは2μm、チャネル長Lは1μm、ドレイン電圧Vdは0.1[V]と3.1[V]、キャリアの移動度μは190(cm2/Vs)、フラットバンド電圧Vfbは−1.8[V]、トラップ濃度分布ピーク値gC1は4×1019、トラップ濃度分布傾きE1は0.13、基板不純物濃度NSUBは1×1016の条件である。
【0094】
図10はVd−Id特性であり、ドレイン電圧に対するドレイン電流を実験値(○印)とシミュレーションで求めた値(実線)とを対比させて示している。ここで、多結晶シリコンTFTのチャネル幅Wは2μm、チャネル長Lは1μmであり、ゲート電圧Vgを1[V]、2[V]、3[V]、4[V]、5[V]の条件で変化させている。
【0095】
図9の伝達特性を見ると、弱反転領域から強反転領域まで実測結果をよく模擬できていることが分かる。また、図10の出力特性の結果も実測値と計算値(シミュレーション値)がほぼ一致していることが分かる。フィッティングの際に調整したデバイスパラメータはキャリアの移動度μ、フラットバンド電圧Vfb、トラップ分布に係わるパラメータgC1(トラップ濃度分布を与えるピーク濃度)、トラップ濃度分布傾きE1の合計4個のみであり、従来モデルが数十個程度あるのに比べて格段に少ない。この他のデバイス構造に係わるチャネル幅W、チャネル長L、基板不純物濃度NSUBには既知の値を用いる。
【0096】
図11(a),(b)はそれぞれ、Nチャネル型TFTの欠陥濃度分布を変えた場合のゲート電圧とソース領域端での表面電位の関係を示している。この図11(a),(b)は基板不純物濃度を1×1016(cm−3)と3×1016(cm−3)の2水準に、ピーク濃度gC1を0,1×1018(cm−3),2×1018(cm−3)の3水準に変化させた場合を示している。基板不純物濃度NSUBは、3×1016(cm−3)と1×1016(cm−3)である。
【0097】
ピーク濃度gC1の値が大きくなるほどゲート電圧の増加による表面電位の立ち上がりが緩やかになって行くことが分かる。また、基板不純物濃度NSUBが大きな3×1016(cm−3)の方が1×1016(cm−3)の場合に比べて同じゲート電圧に対する表面電位は小さい。これは基板不純物濃度が大きいほど半導体表面に反転層が形成される電圧が高くなることに対応している。
【0098】
このように、本シミュレーションモデルは、トランジスタの直流特性を弱反転領域から強反転領域まで高い精度で表すことができ、特に多結晶シリコン(Polysilicon)TFTに固有な結晶欠陥に起因する弱反転領域での電圧−電流特性を正確に模擬することができる。また、本デバイスモデルは物理モデルに基づくため、チャネル幅やチャネル長が変わった場合でも利用でき、汎用性が高い設計用ツールとして使用できる。更に、上記デバイスモデルは、実デバイスの特性とのフィッティングに用いられるパラメータの数が従来モデルに比べて少ないため、短時間でのデバイスパラメータ抽出が可能となる。
【0099】
以下、上記デバイスモデルを用いたシミュレーション装置、シミュレーション方法、及び半導体装置の製造方法について第1乃至第4の実施形態により詳しく説明する。
【0100】
[第1の実施形態]
次に、TFTやSOIトランジスタのデバイス特性をシミュレートするシミュレーション装置の実施形態を図1を参照して説明する。このシミュレーション装置1は、シミュレーション専用に構成しても良いが、例えばコンピュータの各装置を対応させて実現することもでき、本実施形態ではパーソナルコンピュータを用いる場合を例にとって説明する。
【0101】
シミュレーション装置1は、入力装置11、記憶装置(メモリ)12、中央処理装置14及び出力装置17を備えており、これらの装置をバスライン13などの信号伝送路で共通接続している。
【0102】
入力装置11は、例えばキーボード、操作パネル、音声入力装置、或いは種々のデータ読み取り装置からなるものである。
【0103】
記憶装置12は、例えば半導体メモリやハードディスクなどからなり、第1、第2、第3ファイル121〜124を記憶している。第1ファイル121には、上述したデバイスモデル式、デバイスパラメータの初期値、実測V−I特性などのデータが記録されている。第2ファイル122には、TFTやSOIトランジスタなどのデバイスのチャネル表面、裏面におけるモデル変数(第1イオン化トラップ密度NtS0、第2イオン化トラップ密度NtSL、第1電位φS0、第2電位φb0、第3電位φSL及び第4電位φbL)などのデータが記録されている。
【0104】
第3のファイル123には、TFTやSOIトランジスタなどのデバイスのドレイン電圧Vd−ドレイン電流Id特性のデータが記録されている。第4のファイル124には、多種のTFTやSOIトランジスタなどデバイスのゲート電圧Vg−ドレイン電流Id特性のデータが記録されている。
【0105】
中央処理装置(CPU)14は、制御装置15及び演算装置16などを備え、これらが相互に接続されて構成されている。
【0106】
出力装置17は、モニタ、プリンタ及び記録装置などにより構成される。
【0107】
次に、上記図1に示したシミュレーション装置におけるデバイスパラメータの抽出方法を説明する。
【0108】
キーボードや種々のデータ読み取り装置などの入力装置11から、例えばデバイスモデル式、デバイスパラメータの初期値及び実測したデバイスの特性、例えばV−I特性のデータを入力し、中央処理装置14の制御によりバスライン13を介して記憶装置12、例えばパーソナルコンピュータ内の半導体メモリやハードディスクに記憶する。
【0109】
これら入力されたデータ群は、中央処理装置14によりV−I特性を計算するためにバスライン13を介して中央処理装置14中の制御装置15と演算装置16へ送られる。
【0110】
そして、中央処理装置14中の制御装置15は、ドレイン電圧、ゲート電圧を変化させたときのソース領域、ドレイン領域端の表面のイオン化トラップ密度(第1イオン化トラップ密度NtS0、第2イオン化トラップ密度NtSL)、表面電位、裏面電位(第1電位φS0、第2電位φb0、第3電位φSL及び第4電位φbL)などを演算装置16を制御して計算させる。その後、中央処理装置14は、得られた計算結果を第2ファイル122のテーブル(表面電位、裏面電位テーブル)に保存制御する。
【0111】
次に、中央処理装置14は、第2のファイル122に記録されたテーブルを読み出し、第1ファイル121からデバイスモデル式を読み出して演算装置16により演算し、出力特性のVd−Id特性、並びに伝達特性のVg−Id特性を求め出力する。中央処理装置14は、得られた結果を入力データに関連付けて第3、第4のファイル123,124のテーブルに保存制御する。
【0112】
中央処理装置14は、最後に、得られたV−I特性をモニタやプリンタなどの出力装置17に出力制御する。また、中央処理装置14は、抽出されたデバイスパラメータを出力装置17から導出する制御をする。この際、中央処理装置14は、必要に応じて実測したV−I特性と共に同一表示面内にシミュレーション結果を対比させ、モニタに図9に示したようなグラフをカラー表示させる制御をすることもできる。
【0113】
このようなデバイスパラメータの抽出方法を用いるシミュレーション装置によれば、回路モデルの基本式となるポアソン式にトラップ準位の効果を導入したデバイスモデル式を用いて、トラップ準位を取り込んだ物理モデルに基づきシミュレーションを行うので、高精度な回路解析を行うことができる。
【0114】
しかも、物理モデルに基づいたシミュレーションを行うので、例えばチャネル長が変わった場合などにも容易にデバイスパラメータを抽出でき、精度の良い回路解析デバイスモデルを短時間で得られる。
【0115】
更に、単結晶シリコンに比べて複雑な物理機構を持つ多結晶シリコンを利用したトランジスタであっても、キャリアの移動度、フラットバンド電圧、欠陥濃度分布を与えるピーク濃度、及びアクセプタ形欠陥濃度分布傾きの4つのフィッティングパラメータで実測のトランジスタ特性を模擬できるので使い勝手を向上できる。
【0116】
なお、上記第1の実施形態では、入力装置11から実測したV−I特性を入力する場合を例にとって説明した。しかし、上記V−I特性は、半導体メモリやハードディスクなどの記憶装置12に予め所望の目標値を記憶させておいても良く、予め複数の目標値を記憶させておき、これらの特性の中から上記入力装置11から入力したデバイスパラメータの初期値に基づいて中央処理装置14で所望の目標値を選択しても良い。
【0117】
[第2の実施形態]
図12は、本発明の第2の実施形態に係るシミュレーション方法について説明するためのフローチャートである。この図12では、デバイスパラメータの抽出に着目して手順を示しており、図1に示したような構成のシミュレーション装置の動作を例にとっている。
【0118】
先ず、入力装置11から入力データとしてデバイスモデル式、デバイスパラメータの初期値、実測したV−I特性を入力し、バスライン13を介して記憶装置12に記憶する(STEP1)。上記デバイスパラメータの初期値には、デバイス構造によって決まっているチャネル幅W、チャネル長L、酸化膜厚tox及びシリコン薄膜厚tsiと、実測したV−I特性のフィッティングパラメータであるキャリアの移動度μや、トラップ濃度パラメータ(トラップ濃度分布を与えるピーク濃度)gC1などがある。また、実測したV−I特性は、Vg−Id特性とVd−Id特性である。これらのデータは、例えば半導体メモリやハードディスクなどからなる記憶装置12に第1、第2、第3ファイルとして記憶する。
【0119】
次に、入力装置11からデバイス(トランジスタ)の各電極(ソース、ドレイン、ゲート)に与える電圧Vd,Vgを入力して電圧条件を設定する(STEP2)。この電圧条件も記憶装置12に記憶する。
【0120】
この電圧条件のもとで、中央処理装置14中の演算装置16によりトランジスタのチャネル領域として働くシリコン薄膜の表面におけるソース領域側端部のイオン化トラップ密度(第1イオン化トラップ密度NtS0)、及びトランジスタのチャネル領域として働くシリコン薄膜の表面におけるドレイン領域側端部のイオン化トラップ密度(第2イオン化トラップ密度NtSL)を算出し(STEP3)、引き続きソース領域端、ドレイン領域端の表面電位と裏面電位(第1電位φS0、第2電位φb0、第3電位φSL及び第4電位φbL)を算出する(STEP4)。
【0121】
これら第1イオン化トラップ密度NtS0、第2イオン化トラップ密度NtSL、第1電位φS0、第2電位φb0、第3電位φSL及び第4電位φbLを用い、前述したデバイスモデル式に従って演算装置16で演算し、ドレイン電流Idsを求める(STEP5)。
【0122】
次に、トランジスタに与える電圧条件をΔVだけ変更し、V=V+ΔVにした場合について同様な手順でドレイン電流Idsを求める(STEP6)。
【0123】
このようにして、目標電圧範囲(V=Vmax)のV−I特性が得られるまで計算を繰り返す(STEP7)。
【0124】
続いて、本シミュレーションにより得られたV−I特性を、実測したV−I特性と比較する(STEP8)。
【0125】
この比較で実測値とシミュレーション値の誤差が目標範囲に入っているか否かを判定し、目標誤差を上回った場合にはキャリアの移動度μ、フラットバンド電圧Vfb、トラップ分布パラメータ(トラップ濃度ピーク値)gC1、及びトラップ濃度分布傾きE1などのパラメータを変更して再度、電圧−電流特性を求める(STEP9)。
【0126】
この手順を誤差が目標範囲に入るまで繰り返す。
【0127】
そして、目標範囲に入ったとき、そのとき使用したデバイスパラメータが抽出するパラメータとなり、このパラメータμ1,Vfb1,gC1,E1,…を出力する(STEP10)。
【0128】
このようなデバイスパラメータの抽出方法を用いるシミュレーション方法によれば、回路モデルの基本式となるポアソン式にトラップ準位の効果を導入したデバイスモデル式を用いて、トラップ準位を取り込んだ物理モデルに基づきシミュレーションを行うので、高精度な回路解析を行うことができる。
【0129】
しかも、物理モデルに基づいたシミュレーションを行うので、例えばチャネル長が変わった場合などにも容易にデバイスパラメータを抽出でき、精度の良い回路解析デバイスモデルを短時間で得られる。
【0130】
更に、単結晶シリコンに比べて複雑な物理機構を持つ多結晶シリコンを利用したトランジスタであっても、キャリアの移動度、フラットバンド電圧、トラップ濃度分布を与えるピーク濃度、及びトラップ濃度分布傾きの4つのフィッティングパラメータで実測のトランジスタ特性を模擬できるので使い勝手を向上できる。
【0131】
なお、本第2の実施形態では、入力装置11から実測したV−I特性を入力する場合を例にとって説明したが、上記第1の実施形態と同様に記憶装置12に予め記憶させた複数のV−I特性の中から、上記入力装置11から入力したデバイスパラメータの初期値に基づいて中央処理装置14で選択しても良い。
【0132】
[第3の実施形態]
図13は、本発明の第3の実施形態について説明するためのもので、上述したシミュレーション装置及びシミュレーション方法を回路解析シミュレータに適用する場合の概略構成を模式的に示している。
【0133】
回路解析シミュレータ31は、例えばコンピュータの各装置を対応させて実現しており、ここではパーソナルコンピュータを用いた例について説明する。即ち、図1に示した装置と同様に、回路解析シミュレータ31は入力装置11、記憶装置(メモリ)12、中央処理装置14(制御装置15、演算装置16)及び出力装置17などを備え、これらの装置をバスライン13で共通接続した構成になっている。
【0134】
上記入力装置11から、トランジスタのデバイスモデル式とデバイスパラメータの初期値に加えて、デバイスパラメータ、回路図及び回路駆動条件を入力する。上記記憶装置12には、上記入力装置11から入力したデバイスモデル式とデバイスパラメータの初期値、トランジスタの所望するV−I特性に加えて、制御装置15を制御するための命令を記述したプログラムも予め記憶する。
【0135】
上記記憶装置12に記憶したプログラムに従って制御装置15で上記演算装置16を制御し、上記入力装置13から入力したデバイスパラメータ、回路図及び回路駆動条件に基づいて演算を行う。上記出力装置17は、上記演算装置16で演算した結果をモニタやプリンタなどから出力する。
【0136】
上記のような構成の回路解析シミュレータ31には、回路解析用デバイスモデル32の他に回路図33をネットリスト又は図形の形で入力する。上記デバイスモデル32には、第2,第3の実施形態で説明したようにして抽出されたデバイスパラメータ34を入力し、デバイスモデルを回路解析シミュレータ31に入力するようになっている。
【0137】
この他に、回路解析シミュレータ31には、回路の駆動条件35を決めるデータが必要である。これらの入力条件を与えた後、所定の回路シミュレーションを行い、回路動作波形36を得る。この回路動作波形36は、目的によりグラフィック出力や時間対電流或いは電圧の出力データの形で与える。
【0138】
上記のような構成並びに方法によれば、回路モデルの基本式となるポアソン式にトラップ準位の効果を導入したデバイスモデル式を用いて、トラップ準位を取り込んだ物理モデルに基づきシミュレーションを行うので、高精度な回路解析を行うことができる。
【0139】
しかも、トランジスタの物理モデルに基づいたシミュレーションを行うので、例えばチャネル長が変わった場合などにも容易にデバイスパラメータを抽出でき、精度の良い回路解析デバイスモデルを短時間で得られる。
【0140】
更に、単結晶シリコンに比べて複雑な物理機構を持つシリコン薄膜中にソース、ドレイン領域を形成したトランジスタであっても、キャリアの移動度、フラットバンド電圧、トラップ濃度分布を与えるピーク濃度、及びトラップ濃度分布傾きの4つのフィッティングパラメータで実測のトランジスタ特性を模擬できるので使い勝手を向上できる。
【0141】
[第4の実施形態]
図14及び図15(a),(b)はそれぞれ、本発明の第4の実施形態について説明するためのもので、図14は上述した回路解析シミュレータを回路設計に適用する場合の概略的な手順を示すフローチャート、図15(a),(b)は概略構成を示すブロック図及び出力波形図である。図14では、画素表示パネルの設計からパネル製作までの流れを例にとって示している。この例では、駆動回路を設計する段階で図15(a)に示すようなシミュレーション装置を用いて回路性能予測を行う。
【0142】
駆動回路を、ガラス基板上に形成した多結晶シリコン又はアモルファスシリコン上に形成するシステムオンガラス或いはシステムオンパネルの技術においては、ガラス基板上に形成したシリコン薄膜にはトラップ準位の存在が避けられない。このため、トラップ準位を考慮したシミュレーションモデルによる回路性能予測が重要となる。レーザ結晶化技術の進展と共に、駆動回路のみならず入力シリアル信号をパラレル信号に変換し、更に画像アナログ信号へと変換する各種変換回路も取り込んで入力信号から画像表示までの全ての回路を基板上のシリコン薄膜上に内蔵することが最終的な目標である。
【0143】
先ず、製造する半導体装置であるパネルの目標性能を決め(STEP1)、この目標性能を実現するためのパネル全体の概略設計を行う(STEP2)。パネル全体の概略設計が終わると、パネルの個々の要素設計を行う(STEP3)。要素設計にはパネル内のレイアウト設計(STEP3−1)、画素設計(STEP3−2)及び駆動回路設計(STEP3−3)などがある。駆動回路設計においては、上述したデバイスモデル式を使用して回路設計シミュレーションを行う(STEP4)。
【0144】
そして、この予測結果に基づいて駆動回路の種々のパラメータを変更し、目標性能、換言すれば最適な性能を得るようにしてパネル製作を行う(STEP5)。
【0145】
次に、駆動回路の設計を行うためのシミュレーション装置について図15(a)により詳しく説明する。シミュレーション装置は、キーボード、操作パネル、音声入力装置、或いは種々のデータ読み取り装置などの入力装置41、制御装置43と演算装置44を含む中央処理装置(CPU)45、半導体メモリ或いはハードディスクなどの記憶装置46、及びモニタ、プリンタ及び記録装置などの出力装置47を備えている。これらの装置を、バスライン48などの信号伝送路で共通接続している。このシミュレーション装置は、例えばコンピュータの各装置を対応させて実現でき、パーソナルコンピュータを用いることもできる。
【0146】
上記制御装置43と演算装置44は種々の処理を行う中央処理装置45を構成している。上記制御装置43で入力装置41、演算装置44、記憶装置46及び出力装置47などの動作を制御する。また、上記記憶装置46には、表面電位や閾値電圧の演算式、デバイス特性の演算式、MOSFETの演算式などに加えて、制御装置43を制御するための命令を記述したプログラムを記憶している。このプログラムに従って、デバイスパラメータ、回路図及び回路駆動条件に基づいて演算装置44で演算し、回路特性をシミュレートする。
【0147】
先ず、デバイスモデル式、デバイスパラメータの初期値、回路図、駆動回路条件などの入力データを入力装置41から入力し、中央処理装置45の制御に基づいて記憶装置46にそれぞれファイル461,462,463,464,465として記憶する。例えばファイル461はデバイスモデル式、ファイル462はデバイスパラメータとその初期値、ファイル463は実測V−I特性、ファイル464は回路図、ファイル465は回路駆動条件に対応する。これらの入力データはバスライン48を介して制御装置43及び演算装置44に供給し、演算装置44で目的とする回路の出力特性を計算する。この出力特性は、例えば各ノード(ノードA、ノードB、…)の電圧、電流の時間変化で表したファイル466として記憶装置46に記憶する。
【0148】
そして、図15(b)に示すように、出力装置47から上記記憶装置46に記憶したファイル466で表した電源電圧や各ノードの電圧、電流の時間変化などのシミュレーション結果を出力する。
【0149】
そして、上記計算によって得た入力データと出力特性の関係を駆動回路設計のデータとして利用し、目標性能(最適な性能)を得るようにパネル製作を行う。
【0150】
上記のような製造方法並びにシミュレーション装置によれば、回路設計シミュレーションにより試作段階での回路性能の検証を効率的に行うことができる。これによって、絶縁基板上のシリコン薄膜中に形成したトランジスタ及びこのトランジスタを含む回路の特性を最適化できる。
【0151】
なお、上記第4の実施形態では、入力装置41から実測したV−I特性を入力する場合を例にとって説明したが、記憶装置46に予め記憶させた複数のV−I特性の中から、上記入力装置41から入力したデバイスパラメータの初期値に基づいて中央処理装置45で選択しても良いのは勿論である。
【0152】
以上第1乃至第4の実施形態を用いて本発明の説明を行ったが、本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、上記各実施形態には種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件の適宜な組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば各実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、発明が解決しようとする課題の欄で述べた課題の少なくとも1つが解決でき、発明の効果の欄で述べられている効果の少なくとも1つが得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【産業上の利用可能性】
【0153】
本発明は、ガラス基板上の擬似単結晶中に形成された駆動回路を持つ液晶表示装置や有機EL表示装置などに適用が可能である。また、入力デイジタル信号を画像表示信号に変換する変換回路や種々の信号変換回路をガラス基板上に形成した所謂システムオンパネルにも適用できる。更に、SOI基板に形成された半導体集積回路装置にも適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0154】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るシミュレーション装置の概略構成を示す模式図。
【図2】本発明で用いるシミュレーションモデルと解法する方程式との関係について説明するためのもので、デバイス(トランジスタ)の動作時の模式図。
【図3】本発明で用いるシミュレーションモデルと解法する方程式との関係について説明するためのもので、デバイスモデルと解法方程式の関係を示した模式図。
【図4】デバイスモデルに用いるトラップ欠陥濃度分布と、トラップ準位と捕獲されたキャリアとの関係を示す図。
【図5】多結晶シリコン中の欠陥分布の例を示す図。
【図6】2つの指数関数分布を1つの指数関数で表した簡略化モデルを示す図。
【図7】シリコン薄膜内のイオン化したトラップ電荷密度について、2次元デバイスシミュレーションによる解析結果を示す図。
【図8】シリコン薄膜表面における、EC−EFnと表面の電界強度の関係についての、2次元デバイスシミュレーションによる解析結果を示す図。
【図9】本発明で用いるデバイスモデルによる多結晶シリコンTFTのフィッティング結果を示しておりVg−Id特性図。
【図10】本発明のデバイスモデルによる多結晶シリコンTFTのフィッティング結果を示しておりVd−Id特性図。
【図11】欠陥濃度分布を変えた場合のゲート電圧とソース領域端での表面電位の関係を示す図。
【図12】本発明の第2の実施形態に係るシミュレーション方法について説明するためのフローチャート。
【図13】本発明の第3の実施形態について説明するためのもので、シミュレーションモデルを回路解析シミュレータに適用する場合の概略構成を示すブロック図。
【図14】本発明の第4の実施形態に係る半導体装置の製造方法について説明するためのもので、回路設計シミュレーションを利用した画像表示パネルの設計から製作までの流れを示す図。
【図15】図12における駆動回路の設計シミュレーションを実現するシミュレーション方法とその装置について説明するための模式図。
【図16】ピースワイズモデルの問題点について説明するための図。
【図17】多結晶シリコンの実体図(粒/粒界)とモデル化した構造を比較して示す図。
【符号の説明】
【0155】
11,41…入力装置、12,46…記憶装置、13,48…バスライン(信号伝送路)、14,45…中央処理装置、15,43…制御装置、16,44…演算装置、17,47…出力装置、NtS0…トランジスタのチャネル領域として働くシリコン薄膜の表面におけるソース領域側端部のイオン化したトラップ密度(第1イオン化トラップ密度)、NtSL…トランジスタのチャネル領域として働くシリコン薄膜の表面におけるドレイン領域側端部のイオン化したトラップ密度(第2イオン化トラップ密度)、φS0…ソース領域端の表面電位(第1電位)、φb0…ソース領域端の裏面電位(第2電位)、φSL…ドレイン領域端の表面電位(第3電位)、φbL…ドレイン領域端の裏面電位(第4電位)、W…トランジスタのチャネル幅、L…トランジスタのチャネル長、μ…キャリアの移動度、IDD…表面電荷総量、β…熱電圧の逆数、Cox…ゲート酸化膜容量、q…電気素量、εsi…シリコンの誘電率、NSUB…基板不純物濃度、Vg’…ゲート・ソース間電圧からフラットバンド電圧を引いた電圧、γ…基板バイアス効果の係数、εox…酸化膜の誘電率、ni…真性キャリア密度、tsi…シリコン薄膜厚、tox…ゲート酸化膜厚、Vfb…フラットバンド電圧、NTA(E)…アクセプタ型トラップ準位、NTD(E)…ドナー型トラップ準位、Eg…バンドギャップ、gC1…トラップ濃度分布ピーク値、E…エネルギー、EC…伝導体エネルギー、E1…トラップ濃度分布傾き、EV…価電子帯エネルギー、ES0…ソース領域端表面の電界強度、ESL…ドレイン領域端表面の電界強度。
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体デバイスの特性や回路設計に用いるシミュレーション装置、及びシミュレーション方法に関するもので、特に、絶縁基板上の多結晶シリコン薄膜などのシリコン薄膜中にソース領域及びドレイン領域を離隔して形成し、これらソース、ドレイン領域間のチャネル領域上にゲート絶縁膜を介在してゲート電極を形成した薄膜トランジスタ(TFT:Thin Film Transistor)などのように、欠陥準位を含んだシリコン薄膜を用いて形成されるトランジスタのシミュレーション技術に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの回路設計の際には、一般に回路解析シミュレータを用いて回路特性の予測が行われている。回路シミュレーションに使用されるソフトウエアツールとして最も多く利用されるのがSPICE(Simulation Program with Integrated Circuit Emphasis)であり、UCB(University of California, Berkeley)によって作られた。このシミュレータに用いられるデバイスモデルは、通称コンパクト(Compact)モデルと言われるもので、比較的短時間で計算結果が得られるように簡略化したモデルが使われている。
【0003】
このような事情から、ゲート電圧によりシリコン層の表面の電位を変化させて、その表面電荷密度を制御することでソース、ドレイン領域間のインピーダンスを変える所謂MOS(Metal Oxide Semiconductor)トランジスタでは、ゲート電圧が比較的低くドレイン電流が流れ始める弱反転領域(Subthreshold〜Weak Inversion領域)と、ゲート電圧が十分高くなってドレイン電流が大きくなった強反転領域(Strong Inversion領域)とで異なる電圧−電流関係式を用いるのが一般的であった。
【0004】
このような技術アプローチから導かれたトランジスタモデルとして代表的なものがBSIM(Berkeley Short-Channel IGFET Model)と言われる一群のモデルである(非特許文献1参照)。これらのモデルでは拡散電流とドリフト電流の和であるドレイン電流のうち、弱反転領域では拡散電流成分が支配的であるため拡散電流のみを扱い、ドリフト電流が支配的な強反転領域ではドリフト電流のみを扱う。
【0005】
即ち、弱反転領域では下式のように拡散電流近似を行い、
【数13】
【0006】
強反転領域では下式のようにドリフト電流近似を行う。
【数14】
【0007】
ここで、IDはドレイン電流、Ionは拡散電流指数関数係数、VGSはゲート・ソース間電圧、Vonは拡散電流オフセット電圧、ζは拡散電流熱電圧係数、VTは熱電圧、μはキャリアの移動度、Coxはゲート酸化膜容量、Wはチャネル幅、Lはチャネル長、VTH0は閾値電圧、VDSはドレイン・ソース間電圧、γは基板バイアス効果の係数、VBSは基板(バルク)・ソース間電圧、φFはフェルミ準位である。
【0008】
このように動作領域で電流を求める式を変えると式が簡単になるため解析が容易となり、計算時間が短縮できるという利点がある。
【0009】
しかしながら、動作領域により電圧−電流関係式を変える所謂ピースワイズ(Piece-wise)モデル(Level 2 Spice model、以下ドリフトモデルと呼ぶ)では、図16(a)に示すように弱反転領域と強反転領域の境界(トランジスタの閾値電圧VTH近傍のハッチングを付けた領域)で電流の微分値が不連続になる。この結果、境界で図16(b)に示すような大きなエラー(Large error)を生ずる恐れがあり、図16(c)に示すように定性的な修正カーブ(A qualitatively correct curve)で近似している。
【0010】
このため、ピースワイズモデルは、弱反転領域から強反転領域に跨って動作するアナログ回路動作などの解析には不都合があった。また、近年のようにチャネル長が100nm程度にまで短チャネル化してくると、ドリフトモデルではモデルの信憑性が低くなるという問題も生じている。
【0011】
そこで、電流の基本式であるドリフト拡散モデル式を動作領域により分離せずに解く試みがなされている。その代表的なものがHiSIM(Hiroshima-Univ. STARC IGFET Model)と呼ばれるモデルである。本モデルは、トランジスタ(MOSFET)の弱反転から強反転までの動作を単一式(拡散―ドリフト式)により表面電位を導いて表面電荷を算出し、電流を求める手法を採用している。非特許文献2には、この手法より得られたMOSFETの電圧−電流特性が実測値を極めて良く再現できることが記載されている。
【0012】
ところで、近年はガラス基板などの絶縁基板上にアモルファスシリコン(Amorphous-Si)薄膜を形成した後、レーザ結晶化技術を用いて単結晶シリコンに近い多結晶シリコン薄膜を形成する技術が発達してきた。そして、この絶縁基板上の多結晶シリコン薄膜やアモルファスシリコン薄膜を用いてトランジスタを形成し、機能回路を集積化する試みが盛んに行われている。絶縁基板上の多結晶シリコン薄膜やアモルファスシリコン薄膜を用いて回路を形成することより、回路接続点での断線などがなくなって信頼性が高まり、製造コストも削減できるなどの利点がある。
【0013】
しかし、現時点では、レーザ結晶化技術を用いても完全な単結晶シリコンを得ることはまだ困難である。多結晶シリコンには、図17(a)に示すように様々な面方位の多数の単結晶シリコン粒(Grain)が混在し、結晶粒界(Grain boundary)にはキャリアを捕獲するトラップ準位(欠陥準位ないしは局在準位)が存在する。また、アモルファスシリコンには多くの局在準位がある。そして、シリコン薄膜とこれに接する酸化膜の界面にはシリコン結晶のダングリングボンドに起因する界面準位が存在する。しかも、ガラス基板上の多結晶シリコンやアモルファスシリコンに形成する酸化膜の形成温度は、500°C程度と低いため通常のMOSFETに比べて界面準位の数は桁違いに多い。
【0014】
本明細書では、このような欠陥準位、局在準位、界面準位を、トラップ準位と総称する。また、トランジスタを形成するシリコン薄膜の、ゲート電極に対向する面を表面、絶縁基板に対向する面を裏面と称する。
【0015】
このようなトラップ準位があると、デバイス動作の物理機構が複雑となる。そして、現状の多結晶シリコンやアモルファスシリコンを用いた絶縁ゲート形トランジスタの回路解析モデルは、これらの物理機構をモデル化したものではなく、デバイスの物性を単にフィッティングするためのフィッティングパラメータを導入しただけのモデルが多く、モデルの精度が低く必ずしも満足できるものではなかった。
【0016】
その背景には、トラップ準位を含んだ絶縁ゲート形トランジスタの動作モデルが必ずしも物理モデルに基づいたものではなく、実測したデバイス特性を模擬するための単純なフィッティングパラメータを当て嵌めていたという事情がある。
【0017】
物理モデルに基づかないため、例えばチャネル長が変わった場合などはその都度同じチャネル長を持つデバイスを試作し、そのデバイスパラメータを抽出していた。このような手順を踏むため、精度の良い回路解析デバイスモデルを得るには多くの時間を費やしている。また、単結晶シリコンに比べて複雑な物理機構を持つ多結晶シリコンやアモルファスシリコンを利用した絶縁ゲート形トランジスタではデバイスモデルのパラメータの数が多くなる傾向があり、使い勝手の良いデバイスモデルがなかった。
【0018】
また、上記のようなトラップ準位を取り込んだ物理モデルに基づいたシミュレーション装置及びシミュレーション方法を開発する試みも近年なされている(例えば特許文献1参照)。このようにトラップ準位を取り込むことでシミュレーションの精度を高めることができる。しかしながら、更なる高精度化が求められており、そのためにトラップ準位のモデル精度を向上することが望まれている。
【非特許文献1】BSIM 4.0.0 MOSFET Model, User’s Manual, Department of Electrical Engineering and Computer Science, University of California, Berkeley, CA (2000)
【非特許文献2】M. Miura-Mattausch et al., "Unified complete MOSFET model for analysis of digital and analog circuit," IEEE Trans. CAD/ICAS vol.15, pp.1-7 (1966)
【非特許文献3】M. Shur and M. Hack, "Physics of amorphous silicon based alloy field-effect transistors, "J. Appl. Phys., vol.55, p.3831 (1984)
【特許文献1】特開2008−028328号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
上述したように、絶縁基板上のシリコン薄膜中に形成したTFTや、SOI基板に形成したトランジスタなどでは、トラップ準位についての精度の良い物理モデルに基づいた回路モデルがなかった。また、多くのフィッティングパラメータが必要であった。このため、精度の良い回路解析デバイスモデルを得るには多くの時間を費やし、多結晶シリコンやアモルファスシリコン中に形成したトランジスタではデバイスモデルのパラメータ数が多くなって使い勝手も良くない。
【0020】
本発明は上記のような事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、トラップ準位を正確に模擬する物理モデルに基づき、比較的短時間で高精度な回路解析を行うことができるシミュレーション装置、及びシミュレーション方法を提供することにある。
【0021】
また、比較的少ないフィッティングパラメータで実測のトランジスタ特性を模擬でき、使い勝手を向上できるシミュレーション装置、及びシミュレーション方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明の一態様に係るシミュレーション装置は、絶縁基板上のシリコン薄膜中にソース領域及びドレイン領域を離隔して形成し、これらソース、ドレイン領域間のチャネル領域上にゲート絶縁膜を介在してゲート電極を形成したトランジスタのデバイス特性をシミュレートするシミュレーション装置において、
前記トランジスタのデバイスモデル式とデバイスパラメータの初期値を入力する入力装置と、
前記入力装置から入力した前記デバイスモデル式とデバイスパラメータの初期値を記憶する記憶装置と、
前記記憶装置に記憶したデバイスパラメータの初期値に基づいて演算を行って、前記トランジスタのチャネル領域として働くシリコン薄膜の表面における前記ソース領域側端部の第1イオン化トラップ密度NtS0、及び前記トランジスタのチャネル領域として働くシリコン薄膜の表面における前記ドレイン領域側端部の第2イオン化トラップ密度NtSLと、前記トランジスタのチャネル領域として働くシリコン薄膜の表面における前記ソース領域側端部の第1電位φS0、前記チャネル領域として働くシリコン薄膜の裏面における前記ソース領域側端部の第2電位φb0、前記トランジスタのチャネル領域として働くシリコン薄膜の表面における前記ドレイン領域側端部の第3電位φSL、及び前記チャネル領域として働くシリコン薄膜の裏面における前記ドレイン領域側端部の第4電位φbLをそれぞれ算出し、これら第1イオン化トラップ密度NtS0、第2イオン化トラップ密度NtSL、第1電位φS0、第2電位φb0、第3電位φSL及び第4電位φbLを前記記憶装置に記憶したデバイスモデル式に代入してドレイン電流Idsを算出する演算装置とを具備し、
前記第1イオン化トラップ密度NtS0、及び第2イオン化トラップ密度NtSLは、それぞれ前記チャネル領域として働くシリコン薄膜のソース領域側端部の表面における電界強度、及び前記チャネル領域として働くシリコン薄膜のドレイン領域側端部の表面における電界強度の関数として算出する。
【0023】
そして、前記第2電位φb0は、前記第1電位φS0を用いて次の式で表され、
【数15】
【0024】
前記第4電位φbLは、前記第3電位φSLを用いて次の式で表される。
【数16】
【0025】
ここで、εsiはシリコンの誘電率、NSUBは基板不純物濃度、tSiはシリコン薄膜の厚さ、qは電気素量、KtS0及びKtSLは前記デバイスパラメータから算出される係数である。
【0026】
また、前記第1イオン化トラップ密度NtS0及び第2イオン化トラップ密度NtSLは、それぞれチャネル領域のソース領域側端部の表面における電界強度、及び前記チャネル領域のドレイン領域側端部の表面における電界強度の関数として表され、好ましい関数の例としては、前記チャネル領域のソース領域側端部の表面におけるイオン化したトラップ密度NtS0は下式で表され、
【数17】
【0027】
前記チャネル領域のドレイン領域側端部表面におけるイオン化したトラップ密度NtSLは下式で表される。
【数18】
【0028】
ここで、ES0、ESLはそれぞれチャネル領域のソース領域側端部表面及びドレイン領域端部表面における電界強度、KES0、KESLは前記デバイスパラメータから算出される係数、qは電気素量、gC1はトラップ濃度分布ピーク値、E1はトラップ濃度分布傾きである。
【0029】
更に、前記ドレイン電流Idsは下式で表される。
【数19】
【0030】
【数20】
【0031】
ここで、Wはトランジスタのチャネル幅、Lはトランジスタのチャネル長、μはキャリアの移動度、Iddは表面電荷総量、βは熱電圧の逆数、Coxはゲート酸化膜容量、Vg’はゲート・ソース間電圧からフラットバンド電圧を引いた電圧、qは電気素量、εsiはシリコンの誘電率、NSUBは基板不純物濃度である。
【0032】
本発明の他の一態様に係るシミュレーション方法は、絶縁基板上の多結晶シリコン薄膜中にソース領域及びドレイン領域を離隔して形成し、これらソース、ドレイン領域間のチャネル領域上にゲート絶縁膜を介在してゲート電極を形成したトランジスタのデバイス特性をシミュレートするシミュレーション方法において、
前記トランジスタのデバイスモデル式を入力装置から入力して記憶装置に記憶させるステップと、
前記トランジスタのデバイスパラメータの初期値を前記入力装置から入力して前記記憶装置に記憶させるステップと、
前記記憶装置に記憶したデバイスパラメータの初期値に基づいて演算を行って、前記トランジスタのチャネル領域として働くシリコン薄膜の表面におけるソース領域側端部の第1イオン化トラップ密度NtS0、及び前記トランジスタのチャネル領域として働くシリコン薄膜の表面におけるドレイン領域側端部の第2イオン化トラップ密度NtSLをそれぞれ算出するステップと、
前記記憶装置に記憶したデバイスパラメータの初期値に基づいて演算装置で演算を行って、前記トランジスタのチャネル領域として働くシリコン薄膜の表面における前記ソース領域側端部の第1電位φS0、前記チャネル領域として働くシリコン薄膜の裏面における前記ソース領域側端部の第2電位φb0、前記トランジスタのチャネル領域として働くシリコン薄膜の表面における前記ドレイン領域側端部の第3電位φSL、及び前記チャネル領域として働くシリコン薄膜の裏面における前記ドレイン領域側端部の第4電位φbLをそれぞれ算出するステップと、
これらの算出した第1イオン化トラップ密度NtS0、第2イオン化トラップ密度NtSL、第1電位φS0、第2電位φb0、第3電位φSL及び第4電位φbLを前記記憶装置に記憶したデバイスモデル式に代入して前記演算装置で演算を行い、ドレイン電流Idsを算出するステップとを具備し、
前記第1イオン化トラップ密度NtS0、及び第2イオン化トラップ密度NtSLは、それぞれ前記チャネル領域のソース領域側端部の表面における電界強度、及び前記チャネル領域のドレイン領域側端部表面における電界強度の関数として算出する。
【0033】
また、前記第2電位φb0は、前記第1電位φS0を用いて上式で表され、前記第4電位φbLは、前記第3電位φSLを用いて上式で表される。
【0034】
更に、前記第1イオン化トラップ密度NtS0は上式で表され、前記第2イオン化トラップ密度NtSLは上式で表される。
【0035】
更にまた、前記ドレイン電流Idsは上式で表される。
【0036】
上記シミュレーション方法において、前記トランジスタの所望する電圧−電流特性を前記入力装置から入力して前記記憶装置に記憶させるステップと、
前記トランジスタの所望する電圧−電流特性と、演算によって求めた前記ドレイン電流Idsに基づく電圧−電流特性とを比較するステップと、
制御装置で前記入力装置、前記記憶装置及び前記演算装置を制御し、前記電圧−電流特性の比較結果が許容誤差以下になるまでデバイスパラメータを変更して前記演算装置で演算を行ってモデルパラメータを得るステップと
を更に具備しても良い。
【0037】
また、前記記憶装置に、前記制御装置を制御するための命令を記述したプログラムを記憶させるステップと、
前記入力装置からデバイスパラメータ、回路図及び回路駆動条件を入力して前記記憶装置に記憶させるステップとを更に具備し、
前記制御装置の制御により、前記記憶装置に記憶したプログラムに従って、前記演算装置で算出したモデルパラメータ、回路図及び回路駆動条件に基づいて、前記演算装置で演算し、回路特性をシミュレートすることができる。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、トラップ準位についての精度の良い物理モデルに基づき、比較的短時間で高精度な回路解析を行うことができるシミュレーション装置、及びシミュレーション方法が提供できる。
【0039】
また、比較的少ないフィッティングパラメータ(キャリアの移動度、フラットバンド電圧、トラップ濃度分布を与えるピーク濃度、及びトラップ濃度分布傾き)で絶縁基板上の多結晶シリコン薄膜中に形成したTFTやSOI基板に形成したトランジスタを含む半導体デバイスや回路特性を模擬でき、使い勝手を向上できるシミュレーション装置及びシミュレーション方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
先ず、本発明の実施形態に係るシミュレーション装置及びシミュレーション方法で用いるデバイスモデルに至る考察課程について説明し、その後このデバイスモデルを用いた種々の実施形態を説明する。
【0041】
本発明の実施形態に係るシミュレーション装置及びシミュレーション方法は、絶縁基板上の半導体薄膜、例えば多結晶シリコン薄膜中に形成したTFT(以後、単にTFTと称する)、或いはSOI基板に形成したトランジスタ(SOIトランジスタと称する)を備えた回路設計のシミュレーションに好適なものである。例えば、多結晶シリコンには、図17(a)を参照して説明したように、様々な面方位の微小な単結晶シリコン粒が多数集まっている。この多結晶シリコンには隣接する単結晶の境界、即ち結晶粒界に結晶欠陥に基づくトラップ準位が多く存在する。このように多結晶シリコンには内部に材料の不均一があるが、回路モデルの作成に当たってはこの不均一を無視して均一な材料として扱っていた。この仮定は、デバイスの寸法に対して結晶粒が十分小さいときには有効と考えられる。
【0042】
本発明によるシミュレーションの対象となる薄膜半導体デバイスは、Nチャネル素子で電子が、Pチャネル素子では正孔が電流の支配的な担い手である所謂ユニポーラ素子であると仮定する。また、表面のみに電流が流れると仮定すると、デバイスの電圧−電流特性はゲート下のシリコン薄膜表面の電荷分布により決まる。そして、表面電荷はシリコン薄膜の表面電位によって決まる。これよりトランジスタの電圧−電流特性を求めることは、シリコン薄膜表面の電位分布を求めることに帰着される。
【0043】
本発明で用いるデバイスモデルを導く手法は、上記の表面電位を求めることに基本を置くものである。デバイスの電位分布を与えるのはポアソン方程式である。デバイスは本来3次元構造であるが、チャネル幅方向では電流が一様に流れると仮定すると2次元構造に還元できる。また、電流がチャネル領域の長さに比べて極めて薄い表面層のみに流れると仮定した所謂チャージシートモデルが成り立つとすると1次元構造に還元できる。
【0044】
本デバイスモデルは、これらの仮定に基づいて1次元のポアソン方程式を解くことが基本となる。以下に本デバイスモデルによりデバイス表面の電荷を求める手順の要点を述べる。
【0045】
図2及び図3(a),(b)はそれぞれ、本シミュレーション装置と解法する方程式との関係について説明するための図である。図2はデバイス(トランジスタ)の動作時の模式図であり、図3(a),(b)はシミュレーションモデルと解法方程式の関係を示した模式図である。表面電荷は表面電位分布から求まる。この場合、ソース電極からドレイン電極までの電位の変化は緩やかであると仮定する所謂グラヂュアルチャネル(Gradual channel)近似を用いる(図2参照)。この近似を用いることでチャネル領域の電位分布はソース領域端の表面電位φS0とドレイン領域端の表面電位φSLの2点の電位から推定できる。そして、ソース領域端とドレイン領域端の表面電位φS0、φSLはそれぞれソース領域端とドレイン領域端の深さ方向の1次元ポアソン式及びガウスの法則を解くことで求められる(図3(a)参照)。
【0046】
一方、シミュレーションモデルの対象としているデバイスは、絶縁基板上の多結晶シリコン薄膜中に形成したTFT、或いはSOI基板に形成したトランジスタである。これらのデバイスは、厚さが数十〜数百nmと薄いことが特徴である。シリコン薄膜が薄いために、動作時にデバイス全体が空乏化している完全空乏化(Fully Depleted)、或いは部分空乏化(Partially Depleted)状態となっている。
【0047】
即ち、シリコン薄膜の裏面の電位は零電位ではなく、ある値を持つ。この裏面電位はシリコン層の厚さ、不純物濃度、ゲート酸化膜の厚さなどのデバイス構造、及びゲート電圧によって決まる。これらにより表面電位と裏面電位は独立ではなく一定の関係を持ち、図3(b)に示すようにゲート電極に誘起される電荷QGは、半導体表面に誘起される反転層電荷QI、シリコン薄膜の空乏層電荷QB、及びトラップ準位に捕獲された電荷(トラップ電荷)Qtrapの和で表される(下式参照)。
【数21】
【0048】
また、ゲート電圧VGSと半導体表面電位φSは下式の電荷平衡条件で関係付けられる。
【数22】
【0049】
ここで、Coxはゲート酸化膜容量、Vfbはフラットバンド電圧である。
【0050】
上記のような関係式を用いてチャネル領域のソース領域側端部及での表面電位φS0と裏面電位φb0、チャネルのドレイン領域側端部での表面電位φSLと裏面電位φbLが求められる。
【0051】
以上の手順で求められたソース領域側端部、ドレイン領域側端部での表面電位φS0,φSL、裏面電位φb0,φbLの4点の電位からドレイン電流Idsが求まる。
【0052】
本発明は、図17(a)に示したような、シリコン薄膜中に存在するトラップ準位を、図17(b)に示すようにトランジスタが形成されるシリコン薄膜中で平均化しデバイスモデルに組み込むものである。
【0053】
即ち、回路モデルの基本式となるポアソン式にトラップ準位の効果を導入する。Nチャネル形のデバイスを例に取ると、
ポアソン式は
【数23】
【0054】
である。
【0055】
ここで、NTD+、NTA−は、それぞれイオン化したドナー型トラップ密度、イオン化したアクセプタ型トラップ密度、xはシリコン薄膜の表面から深さ方向の位置を表す変数である。
【0056】
ポアソン式(1)を解くためには、(NTD+−NTA−)をどのようにモデル化するかが課題となるが、本発明者等は、2次元デバイスシミュレーションを用いた解析の結果から、(NTD+−NTA−)を、ポテンシャルの関数及びxの関数として、次のように近似して表すことができることを見出した。
【数24】
【0057】
図7(a)及び図7(b)は、チャネル長0.5μmの薄膜トランジスタについて、ドレイン・ソース電圧1V、ゲート・ソース電圧0.4Vから5Vの範囲で、ポテンシャル及びx位置とシリコン薄膜中のイオン化したトラップ密度との関係を、2次元デバイスシミュレーションにより解析した結果を示す。
【0058】
ここで、φSはシリコン薄膜の表面電位、φbはシリコン薄膜の裏面電位、tSiはシリコン薄膜の厚さ、Kはデバイスパラメータから算出される係数、NtSはシリコン薄膜表面でのイオン化したトラップ密度である。
【0059】
図7(a)及び図7(b)に示された結果は、上記の式(2)、(3)による近似が妥当であることを示している。
【0060】
そうすると、シリコン薄膜表面でのイオン化したトラップ密度NtSをどのようにモデル化するかが次の課題となる。
【0061】
多結晶シリコン中の欠陥分布の例としては、図5(a)に示すような2つの指数関数の和で表されるDOS(Density Of State)分布がよく知られており、次式で表すことができる。
【数25】
【0062】
図5(b)に示すドナー(Donor)型トラップは正に帯電し、図5(c)に示すアクセプタ(Acceptor)型トラップは負に帯電する。これらドナー型トラップ準位とアクセプタ型トラップ準位の2つの指数関数の和で多結晶シリコン中の欠陥分布を表すことができる。
【0063】
しかし、このようなDOS分布を解析式としてモデル化すると処理時間の増大を招く。そこで2つの指数関数分布を1つの指数関数で表した図6に示したような簡略化モデルにより解析式が得られることが例えば非特許文献3などにより知られている。
【0064】
本シミュレーションモデルでは、この簡略化したDOS分布モデルを利用し、且つトランジスタが形成される基板(シリコン薄膜)のトラップ準位を含めてモデル化している。
【0065】
図4(a)に示す簡略化したモデルによるアクセプタ型トラップ準位のDOS分布について、トラップ準位に捕獲されるキャリア密度は、図4(b)に示すようにトラップ準位密度NTA(E)と分布関数(フェルミ・デイラック分布)f(E)の積として求めることができる。
【0066】
上記分布関数f(E)は、次式で示される。
【数26】
【0067】
ここで、Efはフェルミエネルギー、VTは熱電圧である。
【0068】
これらの式から、NTD+−NTA−は次の式で表される。
【数27】
【0069】
ここで、EV、ECはそれぞれ価電子帯準位の最上位ポテンシャル、伝導帯準位の最下位ポテンシャルであり、EFp、EFnはそれぞれ、ホールと電子の擬フェルミポテンシャル、gC1はトラップ濃度分布ピーク値、E1はトラップ濃度分布傾きである。
【0070】
シミュレーションモデルにおいては、ホールと電子の擬フェルミポテンシャルを、表面電位、デバイスパラメータなどモデル内で使用される変数を用いて表す必要がある。本発明者等は、2次元デバイスシミュレーションによる解析結果から、シリコン薄膜表面においてEV−EFp、EFn−ECが電界強度の関数として表されることを見出した。
【0071】
図8は、チャネル長0.5μmのシリコン薄膜トランジスタについて、ゲート・ソース電圧を−1Vから5V、ゲート・ドレイン電圧を0.1Vから1Vの範囲で変化させたときの、ソース領域端表面及びドレイン領域端表面でのEFn−ECと電界強度の関係について、2次元デバイスシミュレーションで解析した結果である。図8の結果は、シリコン薄膜表面におけるEFn−ECを電界強度の関数で近似できることを示しており、従ってシリコン層表面のイオン化トラップ密度を、シリコン層表面の電界強度の関数として算出できる。
【0072】
シリコン薄膜表面の電界強度ESは、次の式で表される。
【数28】
【0073】
ここで、Vg’はゲート・ソース間電圧からフラットバンド電圧を引いた電圧、φSはシリコン薄膜表面電位、tOXはゲート酸化膜厚である。
【0074】
従って、シリコン薄膜表面におけるEV−EFp、EFn−ECがシリコン薄膜表面電位φSから求められることになる。
【0075】
実際にシリコン薄膜表面におけるEV−EFp、EFn−ECを算出するための近似式としては各種考えられるが、ここでは一例として次式を示す。
【数29】
【0076】
ここで、Esは、シリコン薄膜表面における電界強度である。
【0077】
よって、上式(4)、(6)、(7)によりシリコン薄膜表面におけるイオン化したトラップ密度NtSが求められ、ポアソン式(1)を解くことができる。
【0078】
これにより、シリコン薄膜の表面電位と裏面電位の関係をトラップされたキャリアの影響を考慮し求めることができ、チャネルのソース領域側端部での表面電位φS0と裏面電位φb0の関係、及びチャネルのドレイン領域側端部での表面電位φSLとφbLの関係は、それぞれ次の式で表される。
【数30】
【0079】
【数31】
【0080】
ここで、εsiはシリコンの誘電率、NSUBは基板不純物濃度、tSiはシリコン薄膜の厚さ、qは電気素量、NtS0はチャネルのソース領域側端部表面におけるイオン化したトラップ電荷密度、NtSLはチャネルのドレイン領域側端部表面におけるイオン化したトラップ電荷密度、KtS0、及びKtSLは前記デバイスパラメータから算出される係数である。
【0081】
次に、上式(4)、(6)、(7)を用いて求められるシリコン層表面のイオン化トラップ密度を利用して、本発明のシミュレーションモデルにおいて、表面電位、裏面電位を求める手順について詳しく説明する。
【0082】
(1) ソース領域端での計算(表面電位φS0[V]、裏面ポテンシャルφb0[V])
下式(10)において、表面電位φS0と裏面ポテンシャルφb0の関係式として、上式(8)を用いて繰り返し計算を行い、表面電位φS0[V]を決定する。
【数32】
【0083】
但し
【数33】
【0084】
であり、Coxはゲート酸化膜容量、Vg’はゲート・ソース間電圧からフラットバンド電圧を引いた電圧、qは電気素量、εSiはシリコンの誘電率、NSUBは基板不純物濃度、βは熱電圧の逆数でありq/kT、NtS0はチャネルのソース側領域端表面でのイオン化したトラップ密度、Vgsはゲート・ソース間電圧、niは真性キャリア密度、toxはゲート酸化膜厚、εoxはゲート酸化膜の誘電率である。
【0085】
次に、求められた表面電位φS0と式(8)により、裏面ポテンシャルφb0を決定する。
【0086】
(2)ドレイン領域端での計算(表面電位φSL[V]、裏面ポテンシャルφbL[V])
下式(11)において、表面電位φSLと裏面ポテンシャルφbLの関係式として、上式(9)を用いて繰り返し計算を行い、表面電位φSL[V]、裏面ポテンシャルφbL[V]を決定する。
【数34】
【0087】
但し
【数35】
【0088】
であり、Coxはゲート酸化膜容量、Vg’はゲート・ソース間電圧からフラットバンド電圧を引いた電圧、qは電気素量、εSiはシリコンの誘電率、NSUBは基板不純物濃度、βは熱電圧の逆数であり、q/kT、NtSLはチャネルのドレイン側領域端でのイオン化したトラップ密度、Vgsはゲート・ソース間電圧、niは真性キャリア密度、toxは酸化膜厚、εoxはゲート酸化膜の誘電率である。
【0089】
次に、求められた表面電位φSLと式(9)により、裏面ポテンシャルφbLを決定する。
【0090】
(3)ドレイン電流式
ドレイン電流をIds[A]とすると、(1),(2)節で計算した4つの電位(φS0[V],φb0[V],φSL[V],φbL[V])を用いて次式のように算出できる。
【数36】
【0091】
【数37】
【0092】
ここで、Wはトランジスタのチャネル幅、Lはトランジスタのチャネル長、μはキャリアの移動度、Iddは表面電荷総量、βは熱電圧の逆数、Coxはゲート酸化膜容量、Vg’はゲート・ソース間電圧からフラットバンド電圧を引いた電圧、qは電気素量、εsiはシリコンの誘電率、NSUBは基板不純物濃度である。
【0093】
図9及び図10はそれぞれ、上述したデバイスモデルによるシリコン薄膜中のNチャネル型TFTのフィッティング結果を示している。図9はVg−Id特性であり、ゲート電圧に対するドレイン電流を実験値(○印)とシミュレーションで求めた値(実線)とを対比させて示している。ここで、多結晶シリコンTFTのチャネル幅Wは2μm、チャネル長Lは1μm、ドレイン電圧Vdは0.1[V]と3.1[V]、キャリアの移動度μは190(cm2/Vs)、フラットバンド電圧Vfbは−1.8[V]、トラップ濃度分布ピーク値gC1は4×1019、トラップ濃度分布傾きE1は0.13、基板不純物濃度NSUBは1×1016の条件である。
【0094】
図10はVd−Id特性であり、ドレイン電圧に対するドレイン電流を実験値(○印)とシミュレーションで求めた値(実線)とを対比させて示している。ここで、多結晶シリコンTFTのチャネル幅Wは2μm、チャネル長Lは1μmであり、ゲート電圧Vgを1[V]、2[V]、3[V]、4[V]、5[V]の条件で変化させている。
【0095】
図9の伝達特性を見ると、弱反転領域から強反転領域まで実測結果をよく模擬できていることが分かる。また、図10の出力特性の結果も実測値と計算値(シミュレーション値)がほぼ一致していることが分かる。フィッティングの際に調整したデバイスパラメータはキャリアの移動度μ、フラットバンド電圧Vfb、トラップ分布に係わるパラメータgC1(トラップ濃度分布を与えるピーク濃度)、トラップ濃度分布傾きE1の合計4個のみであり、従来モデルが数十個程度あるのに比べて格段に少ない。この他のデバイス構造に係わるチャネル幅W、チャネル長L、基板不純物濃度NSUBには既知の値を用いる。
【0096】
図11(a),(b)はそれぞれ、Nチャネル型TFTの欠陥濃度分布を変えた場合のゲート電圧とソース領域端での表面電位の関係を示している。この図11(a),(b)は基板不純物濃度を1×1016(cm−3)と3×1016(cm−3)の2水準に、ピーク濃度gC1を0,1×1018(cm−3),2×1018(cm−3)の3水準に変化させた場合を示している。基板不純物濃度NSUBは、3×1016(cm−3)と1×1016(cm−3)である。
【0097】
ピーク濃度gC1の値が大きくなるほどゲート電圧の増加による表面電位の立ち上がりが緩やかになって行くことが分かる。また、基板不純物濃度NSUBが大きな3×1016(cm−3)の方が1×1016(cm−3)の場合に比べて同じゲート電圧に対する表面電位は小さい。これは基板不純物濃度が大きいほど半導体表面に反転層が形成される電圧が高くなることに対応している。
【0098】
このように、本シミュレーションモデルは、トランジスタの直流特性を弱反転領域から強反転領域まで高い精度で表すことができ、特に多結晶シリコン(Polysilicon)TFTに固有な結晶欠陥に起因する弱反転領域での電圧−電流特性を正確に模擬することができる。また、本デバイスモデルは物理モデルに基づくため、チャネル幅やチャネル長が変わった場合でも利用でき、汎用性が高い設計用ツールとして使用できる。更に、上記デバイスモデルは、実デバイスの特性とのフィッティングに用いられるパラメータの数が従来モデルに比べて少ないため、短時間でのデバイスパラメータ抽出が可能となる。
【0099】
以下、上記デバイスモデルを用いたシミュレーション装置、シミュレーション方法、及び半導体装置の製造方法について第1乃至第4の実施形態により詳しく説明する。
【0100】
[第1の実施形態]
次に、TFTやSOIトランジスタのデバイス特性をシミュレートするシミュレーション装置の実施形態を図1を参照して説明する。このシミュレーション装置1は、シミュレーション専用に構成しても良いが、例えばコンピュータの各装置を対応させて実現することもでき、本実施形態ではパーソナルコンピュータを用いる場合を例にとって説明する。
【0101】
シミュレーション装置1は、入力装置11、記憶装置(メモリ)12、中央処理装置14及び出力装置17を備えており、これらの装置をバスライン13などの信号伝送路で共通接続している。
【0102】
入力装置11は、例えばキーボード、操作パネル、音声入力装置、或いは種々のデータ読み取り装置からなるものである。
【0103】
記憶装置12は、例えば半導体メモリやハードディスクなどからなり、第1、第2、第3ファイル121〜124を記憶している。第1ファイル121には、上述したデバイスモデル式、デバイスパラメータの初期値、実測V−I特性などのデータが記録されている。第2ファイル122には、TFTやSOIトランジスタなどのデバイスのチャネル表面、裏面におけるモデル変数(第1イオン化トラップ密度NtS0、第2イオン化トラップ密度NtSL、第1電位φS0、第2電位φb0、第3電位φSL及び第4電位φbL)などのデータが記録されている。
【0104】
第3のファイル123には、TFTやSOIトランジスタなどのデバイスのドレイン電圧Vd−ドレイン電流Id特性のデータが記録されている。第4のファイル124には、多種のTFTやSOIトランジスタなどデバイスのゲート電圧Vg−ドレイン電流Id特性のデータが記録されている。
【0105】
中央処理装置(CPU)14は、制御装置15及び演算装置16などを備え、これらが相互に接続されて構成されている。
【0106】
出力装置17は、モニタ、プリンタ及び記録装置などにより構成される。
【0107】
次に、上記図1に示したシミュレーション装置におけるデバイスパラメータの抽出方法を説明する。
【0108】
キーボードや種々のデータ読み取り装置などの入力装置11から、例えばデバイスモデル式、デバイスパラメータの初期値及び実測したデバイスの特性、例えばV−I特性のデータを入力し、中央処理装置14の制御によりバスライン13を介して記憶装置12、例えばパーソナルコンピュータ内の半導体メモリやハードディスクに記憶する。
【0109】
これら入力されたデータ群は、中央処理装置14によりV−I特性を計算するためにバスライン13を介して中央処理装置14中の制御装置15と演算装置16へ送られる。
【0110】
そして、中央処理装置14中の制御装置15は、ドレイン電圧、ゲート電圧を変化させたときのソース領域、ドレイン領域端の表面のイオン化トラップ密度(第1イオン化トラップ密度NtS0、第2イオン化トラップ密度NtSL)、表面電位、裏面電位(第1電位φS0、第2電位φb0、第3電位φSL及び第4電位φbL)などを演算装置16を制御して計算させる。その後、中央処理装置14は、得られた計算結果を第2ファイル122のテーブル(表面電位、裏面電位テーブル)に保存制御する。
【0111】
次に、中央処理装置14は、第2のファイル122に記録されたテーブルを読み出し、第1ファイル121からデバイスモデル式を読み出して演算装置16により演算し、出力特性のVd−Id特性、並びに伝達特性のVg−Id特性を求め出力する。中央処理装置14は、得られた結果を入力データに関連付けて第3、第4のファイル123,124のテーブルに保存制御する。
【0112】
中央処理装置14は、最後に、得られたV−I特性をモニタやプリンタなどの出力装置17に出力制御する。また、中央処理装置14は、抽出されたデバイスパラメータを出力装置17から導出する制御をする。この際、中央処理装置14は、必要に応じて実測したV−I特性と共に同一表示面内にシミュレーション結果を対比させ、モニタに図9に示したようなグラフをカラー表示させる制御をすることもできる。
【0113】
このようなデバイスパラメータの抽出方法を用いるシミュレーション装置によれば、回路モデルの基本式となるポアソン式にトラップ準位の効果を導入したデバイスモデル式を用いて、トラップ準位を取り込んだ物理モデルに基づきシミュレーションを行うので、高精度な回路解析を行うことができる。
【0114】
しかも、物理モデルに基づいたシミュレーションを行うので、例えばチャネル長が変わった場合などにも容易にデバイスパラメータを抽出でき、精度の良い回路解析デバイスモデルを短時間で得られる。
【0115】
更に、単結晶シリコンに比べて複雑な物理機構を持つ多結晶シリコンを利用したトランジスタであっても、キャリアの移動度、フラットバンド電圧、欠陥濃度分布を与えるピーク濃度、及びアクセプタ形欠陥濃度分布傾きの4つのフィッティングパラメータで実測のトランジスタ特性を模擬できるので使い勝手を向上できる。
【0116】
なお、上記第1の実施形態では、入力装置11から実測したV−I特性を入力する場合を例にとって説明した。しかし、上記V−I特性は、半導体メモリやハードディスクなどの記憶装置12に予め所望の目標値を記憶させておいても良く、予め複数の目標値を記憶させておき、これらの特性の中から上記入力装置11から入力したデバイスパラメータの初期値に基づいて中央処理装置14で所望の目標値を選択しても良い。
【0117】
[第2の実施形態]
図12は、本発明の第2の実施形態に係るシミュレーション方法について説明するためのフローチャートである。この図12では、デバイスパラメータの抽出に着目して手順を示しており、図1に示したような構成のシミュレーション装置の動作を例にとっている。
【0118】
先ず、入力装置11から入力データとしてデバイスモデル式、デバイスパラメータの初期値、実測したV−I特性を入力し、バスライン13を介して記憶装置12に記憶する(STEP1)。上記デバイスパラメータの初期値には、デバイス構造によって決まっているチャネル幅W、チャネル長L、酸化膜厚tox及びシリコン薄膜厚tsiと、実測したV−I特性のフィッティングパラメータであるキャリアの移動度μや、トラップ濃度パラメータ(トラップ濃度分布を与えるピーク濃度)gC1などがある。また、実測したV−I特性は、Vg−Id特性とVd−Id特性である。これらのデータは、例えば半導体メモリやハードディスクなどからなる記憶装置12に第1、第2、第3ファイルとして記憶する。
【0119】
次に、入力装置11からデバイス(トランジスタ)の各電極(ソース、ドレイン、ゲート)に与える電圧Vd,Vgを入力して電圧条件を設定する(STEP2)。この電圧条件も記憶装置12に記憶する。
【0120】
この電圧条件のもとで、中央処理装置14中の演算装置16によりトランジスタのチャネル領域として働くシリコン薄膜の表面におけるソース領域側端部のイオン化トラップ密度(第1イオン化トラップ密度NtS0)、及びトランジスタのチャネル領域として働くシリコン薄膜の表面におけるドレイン領域側端部のイオン化トラップ密度(第2イオン化トラップ密度NtSL)を算出し(STEP3)、引き続きソース領域端、ドレイン領域端の表面電位と裏面電位(第1電位φS0、第2電位φb0、第3電位φSL及び第4電位φbL)を算出する(STEP4)。
【0121】
これら第1イオン化トラップ密度NtS0、第2イオン化トラップ密度NtSL、第1電位φS0、第2電位φb0、第3電位φSL及び第4電位φbLを用い、前述したデバイスモデル式に従って演算装置16で演算し、ドレイン電流Idsを求める(STEP5)。
【0122】
次に、トランジスタに与える電圧条件をΔVだけ変更し、V=V+ΔVにした場合について同様な手順でドレイン電流Idsを求める(STEP6)。
【0123】
このようにして、目標電圧範囲(V=Vmax)のV−I特性が得られるまで計算を繰り返す(STEP7)。
【0124】
続いて、本シミュレーションにより得られたV−I特性を、実測したV−I特性と比較する(STEP8)。
【0125】
この比較で実測値とシミュレーション値の誤差が目標範囲に入っているか否かを判定し、目標誤差を上回った場合にはキャリアの移動度μ、フラットバンド電圧Vfb、トラップ分布パラメータ(トラップ濃度ピーク値)gC1、及びトラップ濃度分布傾きE1などのパラメータを変更して再度、電圧−電流特性を求める(STEP9)。
【0126】
この手順を誤差が目標範囲に入るまで繰り返す。
【0127】
そして、目標範囲に入ったとき、そのとき使用したデバイスパラメータが抽出するパラメータとなり、このパラメータμ1,Vfb1,gC1,E1,…を出力する(STEP10)。
【0128】
このようなデバイスパラメータの抽出方法を用いるシミュレーション方法によれば、回路モデルの基本式となるポアソン式にトラップ準位の効果を導入したデバイスモデル式を用いて、トラップ準位を取り込んだ物理モデルに基づきシミュレーションを行うので、高精度な回路解析を行うことができる。
【0129】
しかも、物理モデルに基づいたシミュレーションを行うので、例えばチャネル長が変わった場合などにも容易にデバイスパラメータを抽出でき、精度の良い回路解析デバイスモデルを短時間で得られる。
【0130】
更に、単結晶シリコンに比べて複雑な物理機構を持つ多結晶シリコンを利用したトランジスタであっても、キャリアの移動度、フラットバンド電圧、トラップ濃度分布を与えるピーク濃度、及びトラップ濃度分布傾きの4つのフィッティングパラメータで実測のトランジスタ特性を模擬できるので使い勝手を向上できる。
【0131】
なお、本第2の実施形態では、入力装置11から実測したV−I特性を入力する場合を例にとって説明したが、上記第1の実施形態と同様に記憶装置12に予め記憶させた複数のV−I特性の中から、上記入力装置11から入力したデバイスパラメータの初期値に基づいて中央処理装置14で選択しても良い。
【0132】
[第3の実施形態]
図13は、本発明の第3の実施形態について説明するためのもので、上述したシミュレーション装置及びシミュレーション方法を回路解析シミュレータに適用する場合の概略構成を模式的に示している。
【0133】
回路解析シミュレータ31は、例えばコンピュータの各装置を対応させて実現しており、ここではパーソナルコンピュータを用いた例について説明する。即ち、図1に示した装置と同様に、回路解析シミュレータ31は入力装置11、記憶装置(メモリ)12、中央処理装置14(制御装置15、演算装置16)及び出力装置17などを備え、これらの装置をバスライン13で共通接続した構成になっている。
【0134】
上記入力装置11から、トランジスタのデバイスモデル式とデバイスパラメータの初期値に加えて、デバイスパラメータ、回路図及び回路駆動条件を入力する。上記記憶装置12には、上記入力装置11から入力したデバイスモデル式とデバイスパラメータの初期値、トランジスタの所望するV−I特性に加えて、制御装置15を制御するための命令を記述したプログラムも予め記憶する。
【0135】
上記記憶装置12に記憶したプログラムに従って制御装置15で上記演算装置16を制御し、上記入力装置13から入力したデバイスパラメータ、回路図及び回路駆動条件に基づいて演算を行う。上記出力装置17は、上記演算装置16で演算した結果をモニタやプリンタなどから出力する。
【0136】
上記のような構成の回路解析シミュレータ31には、回路解析用デバイスモデル32の他に回路図33をネットリスト又は図形の形で入力する。上記デバイスモデル32には、第2,第3の実施形態で説明したようにして抽出されたデバイスパラメータ34を入力し、デバイスモデルを回路解析シミュレータ31に入力するようになっている。
【0137】
この他に、回路解析シミュレータ31には、回路の駆動条件35を決めるデータが必要である。これらの入力条件を与えた後、所定の回路シミュレーションを行い、回路動作波形36を得る。この回路動作波形36は、目的によりグラフィック出力や時間対電流或いは電圧の出力データの形で与える。
【0138】
上記のような構成並びに方法によれば、回路モデルの基本式となるポアソン式にトラップ準位の効果を導入したデバイスモデル式を用いて、トラップ準位を取り込んだ物理モデルに基づきシミュレーションを行うので、高精度な回路解析を行うことができる。
【0139】
しかも、トランジスタの物理モデルに基づいたシミュレーションを行うので、例えばチャネル長が変わった場合などにも容易にデバイスパラメータを抽出でき、精度の良い回路解析デバイスモデルを短時間で得られる。
【0140】
更に、単結晶シリコンに比べて複雑な物理機構を持つシリコン薄膜中にソース、ドレイン領域を形成したトランジスタであっても、キャリアの移動度、フラットバンド電圧、トラップ濃度分布を与えるピーク濃度、及びトラップ濃度分布傾きの4つのフィッティングパラメータで実測のトランジスタ特性を模擬できるので使い勝手を向上できる。
【0141】
[第4の実施形態]
図14及び図15(a),(b)はそれぞれ、本発明の第4の実施形態について説明するためのもので、図14は上述した回路解析シミュレータを回路設計に適用する場合の概略的な手順を示すフローチャート、図15(a),(b)は概略構成を示すブロック図及び出力波形図である。図14では、画素表示パネルの設計からパネル製作までの流れを例にとって示している。この例では、駆動回路を設計する段階で図15(a)に示すようなシミュレーション装置を用いて回路性能予測を行う。
【0142】
駆動回路を、ガラス基板上に形成した多結晶シリコン又はアモルファスシリコン上に形成するシステムオンガラス或いはシステムオンパネルの技術においては、ガラス基板上に形成したシリコン薄膜にはトラップ準位の存在が避けられない。このため、トラップ準位を考慮したシミュレーションモデルによる回路性能予測が重要となる。レーザ結晶化技術の進展と共に、駆動回路のみならず入力シリアル信号をパラレル信号に変換し、更に画像アナログ信号へと変換する各種変換回路も取り込んで入力信号から画像表示までの全ての回路を基板上のシリコン薄膜上に内蔵することが最終的な目標である。
【0143】
先ず、製造する半導体装置であるパネルの目標性能を決め(STEP1)、この目標性能を実現するためのパネル全体の概略設計を行う(STEP2)。パネル全体の概略設計が終わると、パネルの個々の要素設計を行う(STEP3)。要素設計にはパネル内のレイアウト設計(STEP3−1)、画素設計(STEP3−2)及び駆動回路設計(STEP3−3)などがある。駆動回路設計においては、上述したデバイスモデル式を使用して回路設計シミュレーションを行う(STEP4)。
【0144】
そして、この予測結果に基づいて駆動回路の種々のパラメータを変更し、目標性能、換言すれば最適な性能を得るようにしてパネル製作を行う(STEP5)。
【0145】
次に、駆動回路の設計を行うためのシミュレーション装置について図15(a)により詳しく説明する。シミュレーション装置は、キーボード、操作パネル、音声入力装置、或いは種々のデータ読み取り装置などの入力装置41、制御装置43と演算装置44を含む中央処理装置(CPU)45、半導体メモリ或いはハードディスクなどの記憶装置46、及びモニタ、プリンタ及び記録装置などの出力装置47を備えている。これらの装置を、バスライン48などの信号伝送路で共通接続している。このシミュレーション装置は、例えばコンピュータの各装置を対応させて実現でき、パーソナルコンピュータを用いることもできる。
【0146】
上記制御装置43と演算装置44は種々の処理を行う中央処理装置45を構成している。上記制御装置43で入力装置41、演算装置44、記憶装置46及び出力装置47などの動作を制御する。また、上記記憶装置46には、表面電位や閾値電圧の演算式、デバイス特性の演算式、MOSFETの演算式などに加えて、制御装置43を制御するための命令を記述したプログラムを記憶している。このプログラムに従って、デバイスパラメータ、回路図及び回路駆動条件に基づいて演算装置44で演算し、回路特性をシミュレートする。
【0147】
先ず、デバイスモデル式、デバイスパラメータの初期値、回路図、駆動回路条件などの入力データを入力装置41から入力し、中央処理装置45の制御に基づいて記憶装置46にそれぞれファイル461,462,463,464,465として記憶する。例えばファイル461はデバイスモデル式、ファイル462はデバイスパラメータとその初期値、ファイル463は実測V−I特性、ファイル464は回路図、ファイル465は回路駆動条件に対応する。これらの入力データはバスライン48を介して制御装置43及び演算装置44に供給し、演算装置44で目的とする回路の出力特性を計算する。この出力特性は、例えば各ノード(ノードA、ノードB、…)の電圧、電流の時間変化で表したファイル466として記憶装置46に記憶する。
【0148】
そして、図15(b)に示すように、出力装置47から上記記憶装置46に記憶したファイル466で表した電源電圧や各ノードの電圧、電流の時間変化などのシミュレーション結果を出力する。
【0149】
そして、上記計算によって得た入力データと出力特性の関係を駆動回路設計のデータとして利用し、目標性能(最適な性能)を得るようにパネル製作を行う。
【0150】
上記のような製造方法並びにシミュレーション装置によれば、回路設計シミュレーションにより試作段階での回路性能の検証を効率的に行うことができる。これによって、絶縁基板上のシリコン薄膜中に形成したトランジスタ及びこのトランジスタを含む回路の特性を最適化できる。
【0151】
なお、上記第4の実施形態では、入力装置41から実測したV−I特性を入力する場合を例にとって説明したが、記憶装置46に予め記憶させた複数のV−I特性の中から、上記入力装置41から入力したデバイスパラメータの初期値に基づいて中央処理装置45で選択しても良いのは勿論である。
【0152】
以上第1乃至第4の実施形態を用いて本発明の説明を行ったが、本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、上記各実施形態には種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件の適宜な組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば各実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、発明が解決しようとする課題の欄で述べた課題の少なくとも1つが解決でき、発明の効果の欄で述べられている効果の少なくとも1つが得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【産業上の利用可能性】
【0153】
本発明は、ガラス基板上の擬似単結晶中に形成された駆動回路を持つ液晶表示装置や有機EL表示装置などに適用が可能である。また、入力デイジタル信号を画像表示信号に変換する変換回路や種々の信号変換回路をガラス基板上に形成した所謂システムオンパネルにも適用できる。更に、SOI基板に形成された半導体集積回路装置にも適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0154】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るシミュレーション装置の概略構成を示す模式図。
【図2】本発明で用いるシミュレーションモデルと解法する方程式との関係について説明するためのもので、デバイス(トランジスタ)の動作時の模式図。
【図3】本発明で用いるシミュレーションモデルと解法する方程式との関係について説明するためのもので、デバイスモデルと解法方程式の関係を示した模式図。
【図4】デバイスモデルに用いるトラップ欠陥濃度分布と、トラップ準位と捕獲されたキャリアとの関係を示す図。
【図5】多結晶シリコン中の欠陥分布の例を示す図。
【図6】2つの指数関数分布を1つの指数関数で表した簡略化モデルを示す図。
【図7】シリコン薄膜内のイオン化したトラップ電荷密度について、2次元デバイスシミュレーションによる解析結果を示す図。
【図8】シリコン薄膜表面における、EC−EFnと表面の電界強度の関係についての、2次元デバイスシミュレーションによる解析結果を示す図。
【図9】本発明で用いるデバイスモデルによる多結晶シリコンTFTのフィッティング結果を示しておりVg−Id特性図。
【図10】本発明のデバイスモデルによる多結晶シリコンTFTのフィッティング結果を示しておりVd−Id特性図。
【図11】欠陥濃度分布を変えた場合のゲート電圧とソース領域端での表面電位の関係を示す図。
【図12】本発明の第2の実施形態に係るシミュレーション方法について説明するためのフローチャート。
【図13】本発明の第3の実施形態について説明するためのもので、シミュレーションモデルを回路解析シミュレータに適用する場合の概略構成を示すブロック図。
【図14】本発明の第4の実施形態に係る半導体装置の製造方法について説明するためのもので、回路設計シミュレーションを利用した画像表示パネルの設計から製作までの流れを示す図。
【図15】図12における駆動回路の設計シミュレーションを実現するシミュレーション方法とその装置について説明するための模式図。
【図16】ピースワイズモデルの問題点について説明するための図。
【図17】多結晶シリコンの実体図(粒/粒界)とモデル化した構造を比較して示す図。
【符号の説明】
【0155】
11,41…入力装置、12,46…記憶装置、13,48…バスライン(信号伝送路)、14,45…中央処理装置、15,43…制御装置、16,44…演算装置、17,47…出力装置、NtS0…トランジスタのチャネル領域として働くシリコン薄膜の表面におけるソース領域側端部のイオン化したトラップ密度(第1イオン化トラップ密度)、NtSL…トランジスタのチャネル領域として働くシリコン薄膜の表面におけるドレイン領域側端部のイオン化したトラップ密度(第2イオン化トラップ密度)、φS0…ソース領域端の表面電位(第1電位)、φb0…ソース領域端の裏面電位(第2電位)、φSL…ドレイン領域端の表面電位(第3電位)、φbL…ドレイン領域端の裏面電位(第4電位)、W…トランジスタのチャネル幅、L…トランジスタのチャネル長、μ…キャリアの移動度、IDD…表面電荷総量、β…熱電圧の逆数、Cox…ゲート酸化膜容量、q…電気素量、εsi…シリコンの誘電率、NSUB…基板不純物濃度、Vg’…ゲート・ソース間電圧からフラットバンド電圧を引いた電圧、γ…基板バイアス効果の係数、εox…酸化膜の誘電率、ni…真性キャリア密度、tsi…シリコン薄膜厚、tox…ゲート酸化膜厚、Vfb…フラットバンド電圧、NTA(E)…アクセプタ型トラップ準位、NTD(E)…ドナー型トラップ準位、Eg…バンドギャップ、gC1…トラップ濃度分布ピーク値、E…エネルギー、EC…伝導体エネルギー、E1…トラップ濃度分布傾き、EV…価電子帯エネルギー、ES0…ソース領域端表面の電界強度、ESL…ドレイン領域端表面の電界強度。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁基板上のシリコン薄膜中にソース領域及びドレイン領域を離隔して形成し、これらソース、ドレイン領域間のチャネル領域上にゲート絶縁膜を介在してゲート電極を形成したトランジスタのデバイス特性をシミュレートするシミュレーション装置において、
前記トランジスタのデバイスモデル式とデバイスパラメータの初期値を入力する入力装置と、
前記入力装置から入力した前記デバイスモデル式とデバイスパラメータの初期値を記憶する記憶装置と、
前記記憶装置に記憶したデバイスパラメータの初期値に基づいて演算を行って、前記トランジスタのチャネル領域として働くシリコン薄膜の表面におけるソース領域側端部の第1イオン化トラップ密度NtS0、及び前記トランジスタのチャネル領域として働くシリコン薄膜の表面におけるドレイン領域側端部の第2イオン化トラップ密度NtSLと、前記トランジスタのチャネル領域として働くシリコン薄膜の表面における前記ソース領域側端部の第1電位φS0、前記チャネル領域として働くシリコン薄膜の裏面における前記ソース領域側端部の第2電位φb0、前記トランジスタのチャネル領域として働くシリコン薄膜の表面における前記ドレイン領域側端部の第3電位φSL、及び前記チャネル領域として働くシリコン薄膜の裏面における前記ドレイン領域側端部の第4電位φbLをそれぞれ算出し、これら第1イオン化トラップ密度NtS0、第2イオン化トラップ密度NtSL、第1電位φS0、第2電位φb0、第3電位φSL及び第4電位φbLを前記記憶装置に記憶したデバイスモデル式に代入してドレイン電流Idsを算出する演算装置とを具備し、
前記第1イオン化トラップ密度NtS0、及び第2イオン化トラップ密度NtSLは、それぞれ前記チャネル領域として働くシリコン薄膜のソース領域側端部の表面における電界強度、及び前記チャネル領域として働くシリコン薄膜のドレイン領域側端部の表面における電界強度の関数として算出する
ことを特徴とするシミュレーション装置。
【請求項2】
前記第2電位φb0は、第1電位φS0を用いて次の式で表され、
【数1】
前記第4電位φbLは、前記第3電位φSLを用いて次の式で表される
【数2】
ここで、εsiはシリコンの誘電率、NSUBは基板不純物濃度、tSiはシリコン薄膜の厚さ、qは電気素量、KtS0及びKtSLは前記デバイスパラメータから算出される係数、
ことを特徴とする請求項1に記載のシミュレーション装置。
【請求項3】
前記第1イオン化トラップ密度NtS0は下式で表され、
【数3】
更に、前記第2イオン化トラップ密度NtSLは下式で表される
【数4】
ここで、ES0、ESLはそれぞれチャネル領域として働くシリコン薄膜のソース領域端部表面及びドレイン領域端部表面における電界強度、KES0、KESLは前記デバイスパラメータから算出される係数、qは電気素量、gC1は前記シリコン薄膜中のトラップ濃度分布ピーク値、E1は前記シリコン薄膜中のトラップ濃度分布傾き、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のシミュレーション装置。
【請求項4】
前記ドレイン電流式は下式で表される
【数5】
【数6】
ここで、Wはトランジスタのチャネル幅、Lはトランジスタのチャネル長、μはキャリアの移動度、Iddは表面電荷総量、βは熱電圧の逆数、Coxはゲート酸化膜容量、Vg’はゲート・ソース間電圧からフラットバンド電圧を引いた電圧、qは電気素量、εsiはシリコンの誘電率、NSUBは基板不純物濃度、
ことを特徴とする請求項1乃至3いずれか1つの項に記載のシミュレーション装置。
【請求項5】
前記記憶装置は、前記入力装置から入力した前記トランジスタの所望する電圧−電流特性を更に記憶し、
前記入力装置、前記記憶装置及び前記演算装置を制御し、前記トランジスタの前記記憶装置に記憶した所望の電圧−電流特性と、前記演算装置による演算の結果得たドレイン電流Idsに基づく電圧−電流特性とを比較し、許容誤差以下になるまでデバイスパラメータを変更してモデルパラメータを得るための制御を行う制御装置と、
前記制御装置で制御され、前記演算装置による演算で得られたモデルパラメータを出力する出力装置と
を更に具備することを特徴とする請求項1乃至4いずれか1つの項に記載のシミュレーション装置。
【請求項6】
前記所望の電圧−電流特性は、試作したトランジスタを実測した電圧−電流特性を前記入力装置から入力し、前記記憶装置に記憶させたものであることを特徴とする請求項5に記載のシミュレーション装置。
【請求項7】
前記記憶装置は、前記制御装置を制御するための命令を記述したプログラムと、前記入力装置から入力したデバイスパラメータ、回路図及び回路駆動条件を更に記憶し、
前記制御装置の制御により、前記プログラムに従って、前記デバイスパラメータ、回路図及び回路駆動条件に基づいて前記演算装置で演算し、回路特性をシミュレートすることを特徴とする請求項5又は6に記載のシミュレーション装置。
【請求項8】
絶縁基板上の多結晶シリコン薄膜中にソース領域及びドレイン領域を離隔して形成し、これらソース、ドレイン領域間のチャネル領域上にゲート絶縁膜を介在してゲート電極を形成したトランジスタのデバイス特性をシミュレートするシミュレーション方法において、
前記トランジスタのデバイスモデル式を入力装置から入力して記憶装置に記憶させるステップと、
前記トランジスタのデバイスパラメータの初期値を前記入力装置から入力して前記記憶装置に記憶させるステップと、
前記記憶装置に記憶したデバイスパラメータの初期値に基づいて演算を行って、前記トランジスタのチャネル領域として働くシリコン薄膜の表面におけるソース領域側端部の第1イオン化トラップ密度NtS0、及び前記トランジスタのチャネル領域として働くシリコン薄膜の表面におけるドレイン領域側端部の第2イオン化トラップ密度NtSLをそれぞれ算出するステップと、
前記記憶装置に記憶したデバイスパラメータの初期値に基づいて演算装置で演算を行って、前記トランジスタのチャネル領域として働くシリコン薄膜の表面における前記ソース領域側端部の第1電位φS0、前記チャネル領域として働くシリコン薄膜の裏面における前記ソース領域側端部の第2電位φb0、前記トランジスタのチャネル領域として働くシリコン薄膜の表面における前記ドレイン領域側端部の第3電位φSL、及び前記チャネル領域として働くシリコン薄膜の裏面における前記ドレイン領域側端部の第4電位φbLをそれぞれ算出するステップと、
これらの算出した第1イオン化トラップ密度NtS0、第2イオン化トラップ密度NtSL、第1電位φS0、第2電位φb0、第3電位φSL及び第4電位φbLを前記記憶装置に記憶したデバイスモデル式に代入して前記演算装置で演算を行い、ドレイン電流Idsを算出するステップとを具備し、
前記第1イオン化トラップ密度NtS0、及び第2イオン化トラップ密度NtSLは、それぞれ前記チャネル領域のソース領域側端部の表面における電界強度、及び前記チャネル領域のドレイン領域側端部表面における電界強度の関数として算出することを特徴とするシミュレーション方法。
【請求項9】
前記第2電位φb0は、前記第1電位φS0を用いて次の式で表され、
【数7】
前記第4電位φbLは、前記第3電位φSLを用いて次の式で表される
【数8】
ここで、εsiはシリコンの誘電率、NSUBは基板不純物濃度、tSiはシリコン薄膜の厚さ、qは電気素量、KtS0及びKtSLは前記デバイスパラメータから算出される係数、
ことを特徴とする請求項8に記載のシミュレーション方法。
【請求項10】
前記第1イオン化トラップ密度NtS0は下式で表され、
【数9】
更に、前記第2イオン化トラップ密度NtSLは下式で表される
【数10】
ここで、ES0、ESLはそれぞれチャネルのソース端部表面及びドレイン端部表面における電界強度、KES0、KESLは前記デバイスパラメータから算出される係数、qは電気素量、gC1は前記シリコン薄膜中のトラップ濃度分布ピーク値、E1は前記シリコン薄膜中のトラップ濃度分布傾き、
ことを特徴とする請求項8又は9に記載のシミュレーション方法。
【請求項11】
前記ドレイン電流Idsは下式で表される
【数11】
【数12】
ここで、Wはトランジスタのチャネル幅、Lはトランジスタのチャネル長、μはキャリアの移動度、Iddは表面電荷総量、βは熱電圧の逆数、Coxはゲート酸化膜容量、Vg’はゲート・ソース間電圧からフラットバンド電圧を引いた電圧、qは電気素量、εsiはシリコンの誘電率、NSUBは基板不純物濃度、
ことを特徴とする請求項8乃至10いずれか1つの項に記載のシミュレーション方法。
【請求項12】
前記トランジスタの所望する電圧−電流特性を前記入力装置から入力して前記記憶装置に記憶させるステップと、
前記トランジスタの所望する電圧−電流特性と、演算によって求めた前記ドレイン電流Idsに基づく電圧−電流特性とを比較するステップと、
制御装置で前記入力装置、前記記憶装置及び前記演算装置を制御し、前記電圧−電流特性の比較結果が許容誤差以下になるまでデバイスパラメータを変更して前記演算装置で演算を行ってモデルパラメータを得るステップと
を更に具備することを特徴とする請求項8乃至11いずれか1つの項に記載のシミュレーション方法。
【請求項13】
前記記憶装置に、前記制御装置を制御するための命令を記述したプログラムを記憶させるステップと、
前記入力装置からデバイスパラメータ、回路図及び回路駆動条件を入力して前記記憶装置に記憶させるステップとを更に具備し、
前記制御装置の制御により、前記記憶装置に記憶したプログラムに従って、前記演算装置で算出したモデルパラメータ、回路図及び回路駆動条件に基づいて、前記演算装置で演算し、回路特性をシミュレートすることを特徴とする請求項12に記載のシミュレーション方法。
【請求項1】
絶縁基板上のシリコン薄膜中にソース領域及びドレイン領域を離隔して形成し、これらソース、ドレイン領域間のチャネル領域上にゲート絶縁膜を介在してゲート電極を形成したトランジスタのデバイス特性をシミュレートするシミュレーション装置において、
前記トランジスタのデバイスモデル式とデバイスパラメータの初期値を入力する入力装置と、
前記入力装置から入力した前記デバイスモデル式とデバイスパラメータの初期値を記憶する記憶装置と、
前記記憶装置に記憶したデバイスパラメータの初期値に基づいて演算を行って、前記トランジスタのチャネル領域として働くシリコン薄膜の表面におけるソース領域側端部の第1イオン化トラップ密度NtS0、及び前記トランジスタのチャネル領域として働くシリコン薄膜の表面におけるドレイン領域側端部の第2イオン化トラップ密度NtSLと、前記トランジスタのチャネル領域として働くシリコン薄膜の表面における前記ソース領域側端部の第1電位φS0、前記チャネル領域として働くシリコン薄膜の裏面における前記ソース領域側端部の第2電位φb0、前記トランジスタのチャネル領域として働くシリコン薄膜の表面における前記ドレイン領域側端部の第3電位φSL、及び前記チャネル領域として働くシリコン薄膜の裏面における前記ドレイン領域側端部の第4電位φbLをそれぞれ算出し、これら第1イオン化トラップ密度NtS0、第2イオン化トラップ密度NtSL、第1電位φS0、第2電位φb0、第3電位φSL及び第4電位φbLを前記記憶装置に記憶したデバイスモデル式に代入してドレイン電流Idsを算出する演算装置とを具備し、
前記第1イオン化トラップ密度NtS0、及び第2イオン化トラップ密度NtSLは、それぞれ前記チャネル領域として働くシリコン薄膜のソース領域側端部の表面における電界強度、及び前記チャネル領域として働くシリコン薄膜のドレイン領域側端部の表面における電界強度の関数として算出する
ことを特徴とするシミュレーション装置。
【請求項2】
前記第2電位φb0は、第1電位φS0を用いて次の式で表され、
【数1】
前記第4電位φbLは、前記第3電位φSLを用いて次の式で表される
【数2】
ここで、εsiはシリコンの誘電率、NSUBは基板不純物濃度、tSiはシリコン薄膜の厚さ、qは電気素量、KtS0及びKtSLは前記デバイスパラメータから算出される係数、
ことを特徴とする請求項1に記載のシミュレーション装置。
【請求項3】
前記第1イオン化トラップ密度NtS0は下式で表され、
【数3】
更に、前記第2イオン化トラップ密度NtSLは下式で表される
【数4】
ここで、ES0、ESLはそれぞれチャネル領域として働くシリコン薄膜のソース領域端部表面及びドレイン領域端部表面における電界強度、KES0、KESLは前記デバイスパラメータから算出される係数、qは電気素量、gC1は前記シリコン薄膜中のトラップ濃度分布ピーク値、E1は前記シリコン薄膜中のトラップ濃度分布傾き、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のシミュレーション装置。
【請求項4】
前記ドレイン電流式は下式で表される
【数5】
【数6】
ここで、Wはトランジスタのチャネル幅、Lはトランジスタのチャネル長、μはキャリアの移動度、Iddは表面電荷総量、βは熱電圧の逆数、Coxはゲート酸化膜容量、Vg’はゲート・ソース間電圧からフラットバンド電圧を引いた電圧、qは電気素量、εsiはシリコンの誘電率、NSUBは基板不純物濃度、
ことを特徴とする請求項1乃至3いずれか1つの項に記載のシミュレーション装置。
【請求項5】
前記記憶装置は、前記入力装置から入力した前記トランジスタの所望する電圧−電流特性を更に記憶し、
前記入力装置、前記記憶装置及び前記演算装置を制御し、前記トランジスタの前記記憶装置に記憶した所望の電圧−電流特性と、前記演算装置による演算の結果得たドレイン電流Idsに基づく電圧−電流特性とを比較し、許容誤差以下になるまでデバイスパラメータを変更してモデルパラメータを得るための制御を行う制御装置と、
前記制御装置で制御され、前記演算装置による演算で得られたモデルパラメータを出力する出力装置と
を更に具備することを特徴とする請求項1乃至4いずれか1つの項に記載のシミュレーション装置。
【請求項6】
前記所望の電圧−電流特性は、試作したトランジスタを実測した電圧−電流特性を前記入力装置から入力し、前記記憶装置に記憶させたものであることを特徴とする請求項5に記載のシミュレーション装置。
【請求項7】
前記記憶装置は、前記制御装置を制御するための命令を記述したプログラムと、前記入力装置から入力したデバイスパラメータ、回路図及び回路駆動条件を更に記憶し、
前記制御装置の制御により、前記プログラムに従って、前記デバイスパラメータ、回路図及び回路駆動条件に基づいて前記演算装置で演算し、回路特性をシミュレートすることを特徴とする請求項5又は6に記載のシミュレーション装置。
【請求項8】
絶縁基板上の多結晶シリコン薄膜中にソース領域及びドレイン領域を離隔して形成し、これらソース、ドレイン領域間のチャネル領域上にゲート絶縁膜を介在してゲート電極を形成したトランジスタのデバイス特性をシミュレートするシミュレーション方法において、
前記トランジスタのデバイスモデル式を入力装置から入力して記憶装置に記憶させるステップと、
前記トランジスタのデバイスパラメータの初期値を前記入力装置から入力して前記記憶装置に記憶させるステップと、
前記記憶装置に記憶したデバイスパラメータの初期値に基づいて演算を行って、前記トランジスタのチャネル領域として働くシリコン薄膜の表面におけるソース領域側端部の第1イオン化トラップ密度NtS0、及び前記トランジスタのチャネル領域として働くシリコン薄膜の表面におけるドレイン領域側端部の第2イオン化トラップ密度NtSLをそれぞれ算出するステップと、
前記記憶装置に記憶したデバイスパラメータの初期値に基づいて演算装置で演算を行って、前記トランジスタのチャネル領域として働くシリコン薄膜の表面における前記ソース領域側端部の第1電位φS0、前記チャネル領域として働くシリコン薄膜の裏面における前記ソース領域側端部の第2電位φb0、前記トランジスタのチャネル領域として働くシリコン薄膜の表面における前記ドレイン領域側端部の第3電位φSL、及び前記チャネル領域として働くシリコン薄膜の裏面における前記ドレイン領域側端部の第4電位φbLをそれぞれ算出するステップと、
これらの算出した第1イオン化トラップ密度NtS0、第2イオン化トラップ密度NtSL、第1電位φS0、第2電位φb0、第3電位φSL及び第4電位φbLを前記記憶装置に記憶したデバイスモデル式に代入して前記演算装置で演算を行い、ドレイン電流Idsを算出するステップとを具備し、
前記第1イオン化トラップ密度NtS0、及び第2イオン化トラップ密度NtSLは、それぞれ前記チャネル領域のソース領域側端部の表面における電界強度、及び前記チャネル領域のドレイン領域側端部表面における電界強度の関数として算出することを特徴とするシミュレーション方法。
【請求項9】
前記第2電位φb0は、前記第1電位φS0を用いて次の式で表され、
【数7】
前記第4電位φbLは、前記第3電位φSLを用いて次の式で表される
【数8】
ここで、εsiはシリコンの誘電率、NSUBは基板不純物濃度、tSiはシリコン薄膜の厚さ、qは電気素量、KtS0及びKtSLは前記デバイスパラメータから算出される係数、
ことを特徴とする請求項8に記載のシミュレーション方法。
【請求項10】
前記第1イオン化トラップ密度NtS0は下式で表され、
【数9】
更に、前記第2イオン化トラップ密度NtSLは下式で表される
【数10】
ここで、ES0、ESLはそれぞれチャネルのソース端部表面及びドレイン端部表面における電界強度、KES0、KESLは前記デバイスパラメータから算出される係数、qは電気素量、gC1は前記シリコン薄膜中のトラップ濃度分布ピーク値、E1は前記シリコン薄膜中のトラップ濃度分布傾き、
ことを特徴とする請求項8又は9に記載のシミュレーション方法。
【請求項11】
前記ドレイン電流Idsは下式で表される
【数11】
【数12】
ここで、Wはトランジスタのチャネル幅、Lはトランジスタのチャネル長、μはキャリアの移動度、Iddは表面電荷総量、βは熱電圧の逆数、Coxはゲート酸化膜容量、Vg’はゲート・ソース間電圧からフラットバンド電圧を引いた電圧、qは電気素量、εsiはシリコンの誘電率、NSUBは基板不純物濃度、
ことを特徴とする請求項8乃至10いずれか1つの項に記載のシミュレーション方法。
【請求項12】
前記トランジスタの所望する電圧−電流特性を前記入力装置から入力して前記記憶装置に記憶させるステップと、
前記トランジスタの所望する電圧−電流特性と、演算によって求めた前記ドレイン電流Idsに基づく電圧−電流特性とを比較するステップと、
制御装置で前記入力装置、前記記憶装置及び前記演算装置を制御し、前記電圧−電流特性の比較結果が許容誤差以下になるまでデバイスパラメータを変更して前記演算装置で演算を行ってモデルパラメータを得るステップと
を更に具備することを特徴とする請求項8乃至11いずれか1つの項に記載のシミュレーション方法。
【請求項13】
前記記憶装置に、前記制御装置を制御するための命令を記述したプログラムを記憶させるステップと、
前記入力装置からデバイスパラメータ、回路図及び回路駆動条件を入力して前記記憶装置に記憶させるステップとを更に具備し、
前記制御装置の制御により、前記記憶装置に記憶したプログラムに従って、前記演算装置で算出したモデルパラメータ、回路図及び回路駆動条件に基づいて、前記演算装置で演算し、回路特性をシミュレートすることを特徴とする請求項12に記載のシミュレーション方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2010−62441(P2010−62441A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−228409(P2008−228409)
【出願日】平成20年9月5日(2008.9.5)
【出願人】(501286657)株式会社 液晶先端技術開発センター (161)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月5日(2008.9.5)
【出願人】(501286657)株式会社 液晶先端技術開発センター (161)
【Fターム(参考)】
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