説明

シミュレータ、加工装置、ダメージ評価方法、及び、ダメージ評価プログラム

【課題】 イオン入射等の所定処理により発生する被加工体のダメージをより短時間で算出可能にする。
【解決手段】 シミュレータ10は、入力部11と、ダメージ演算部12とを備える構成とする。ダメージ演算部12は、被加工体の所定の評価点で、所定のガスから被加工体に入射される第1物質の量と、第1物質の入射により被加工体から放出される第2物質の量との関係をフラックス法で計算することにより得られる被加工体のダメージを取得する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工体に対して所定の加工処理を行った際に生じる被加工体のダメージを評価するためのシミュレータ、それを備える加工装置、ダメージ評価方法、及び、ダメージ評価プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
デバイスの製造プロセスにおいて、被加工膜に対して例えばエッチング、PVD(Physical Vapor Deposition)、イオン注入等の処理を行った場合、イオン入射により被加工膜にダメージ(例えば、被加工膜の結晶欠陥など)が発生する。そして、このダメージは、デバイスの電気特性に大きな影響を与えることが従来示唆されており、この問題を早急に解決することが、デバイスメーカー各社に共通した重要な課題となっている。
【0003】
しかしながら、現在の測定器で実パターンのダメージ分布を直接測定することは困難である。それゆえ、プロセス中のイオン入射の状況とデバイスの電気特性との関連性、上記問題への対策等を詳細に考察してデバイスの電気特性を向上させるためには、シミュレーションによるダメージ分布の予測技術(評価技術)の開発が必要になる。
【0004】
そこで、従来、被加工膜にイオン入射が行われた際の状態を評価可能なシミュレーション技術が種々提案されている(例えば、特許文献1及び2、並びに、非特許文献1及び2参照)。
【0005】
特許文献1には、イオンインプランテーションのシミュレーション技術が提案されており、非特許文献1には、SRIM(Stopping and Range of Ions in Matter)シミュレーション技術が提案されている。これらのシミュレーション技術では、例えば、アモルファス構造のターゲット膜におけるイオン侵入深さを予測することができる。しかしながら、これらのシミュレーション技術では、ターゲット膜の結晶構造を考慮して、イオン侵入により発生するターゲット膜の結晶欠陥(例えばポリシリコンや酸化シリコンなどの格子結晶の乱れ等)を定量的に表現することができない。
【0006】
非特許文献2には、分子動力学シミュレータを用いたシミュレーション技術が提案されている。このシミュレーション技術では、入射イオンとターゲット膜の構成原子との相互作用を考慮し、例えば、入射イオンのエネルギーや入射角度、及び、ターゲット膜の種類等に応じて、結晶格子の乱れ等を原子/分子レベルで予測することができる。
【0007】
しかしながら、非特許文献2で提案されているシミュレーション技術では、その計算量が膨大であり、計算時間が非常に長くなる。例えば、このシミュレーション技術を実パターンに適用してダメージ分布を計算すると、現実的な計算時間(例えば数週間以内程度)では、数nm×数nm程度の非常に限られた領域のダメージ分布しか計算できない。さらに、このシミュレーション技術では、入射イオンの質量が軽い場合(例えば水素イオン等の場合)には、膜中の入射イオンの飛程距離が長くなるので、さらに計算時間が増大する。それゆえ、このような計算時間の制約から、実際に分子動力学シミュレータを用いてターゲット膜のダメージ分布を計算する場合には、加工パターンを無視して、平面状のターゲット膜を想定したダメージ分布の計算が行われる。
【0008】
また、特許文献2には、上記非特許文献2のシミュレーション技術を発展させた技術が提案されている。具体的には、予め、様々な状況において、入射粒子(イオン粒子)の膜中の挙動を分子動力学で計算して被加工体のダメージ分布を算出し、該算出したダメージ分布のデータを記憶したデータベースを作成する。そして、実際に実パターンのダメージ分布をシミュレーションで予測する際には、まず、モンテカルロ法により入射粒子の実パターン内の輸送経路を考慮して、入射粒子の被加工体への衝突位置と入射角度を計算する。次いで、算出した入射粒子の衝突位置及び入射角度に基づいて、データベースを検索して対応するダメージ分布を求める。この手法を用いれば、シミュレーション毎に分子動力学計算を行う必要がないので、計算時間を短縮することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平7−115071号公報
【特許文献2】特開2010−232594号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】J.F. Ziegler, J.P. Biersack and U. Littmark著:「The Stopping and Range of Ions in Solids」,Pergamon Press,New York,1985年
【非特許文献2】Kawase and Hamaguchi:Dry Process Symposium 2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述のように、上記特許文献2で提案されているシミュレーション技術を用いると、例えば上記非特許文献2等で提案されている分子動力学シミュレータを直接用いた技術に比べて、より高速にダメージ分布を計算することができる。
【0012】
ただし、上記特許文献2のシミュレーション技術では、計算に必要なデータベースを分子動力学計算により作成するので、データベースの作成時間に時間がかかる。特に、入射粒子が例えば水素等の軽量の粒子であり、かつ、そのエネルギーが高い場合には、入射粒子の膜中での飛程距離が長くなるので、データベースの作成時間もより長くなる。
【0013】
また、上記特許文献2の技術では、モンテカルロ法により入射粒子の実パターン内での輸送計算を行うので、入射粒子のパターン間口への入射角度分布及びパターン側壁・底部における衝突位置分布を高精度で算出するためには、多数の粒子が必要になる。この場合、時間進展計算における1計算ステップ当たりの実計算時間が長くなる。
【0014】
上述のように、従来の各種シミュレーション技術では、その計算時間に大きな制約があり、イオン入射により発生する被加工体のダメージを短時間で計算することは困難である。それゆえ、現在、このような問題を解決するための新しいダメージ計算技術の開発が望まれている。
【0015】
本発明は、上記状況を鑑みなされたものである。本発明の目的は、例えばイオン入射等の所定処理により発生する被加工体のダメージをより短時間で算出することができる新しい計算手法を採用したシミュレータ、加工装置、ダメージ評価方法、及び、ダメージ評価プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、本発明のシミュレータは、入力部と、ダメージ演算部とを備える構成とし、各部の機能を次のようにする。入力部は、被加工体に対して所定の加工処理を行う際の処理条件を取得する。ダメージ演算部は、処理条件に基づいて被加工体のダメージを取得する。なお、この際に取得される被加工体のダメージは、所定の加工処理時に外部から被加工体の所定の評価点に入射される第1物質の量と第1物質の入射により被加工体の所定の評価点から放出される第2物質の量との関係をフラックス法で計算することにより得られる。
【0017】
また、本発明の加工装置は、被加工体に対して所定の加工処理を行う加工部と、上記本発明のシミュレータと、シミュレータで得られた被加工体のダメージに基づいて、加工部における所定の加工処理の処理条件を補正する制御部とを備える構成とする。
【0018】
さらに、本発明のダメージ評価方法及びダメージ評価プログラムでは、まず、被加工体に対して所定の加工処理を行う際の処理条件を取得する。次いで、取得した処理条件に基づいて被加工体のダメージを取得する。なお、この際、所定の加工処理時に外部から被加工体の所定の評価点に入射される第1物質の量と、第1物質の入射により被加工体の所定の評価点から放出される第2物質の量との関係をフラックス法で計算することにより得られる被加工体のダメージを取得する。
【発明の効果】
【0019】
上述のように、本発明では、被加工体に対して所定の加工処理を施した際のダメージ分布を、フラックス法により算出されるダメージを用いて評価(予測)する。フラックス法は、従来の例えば分子動力学計算法等の粒子法に比べて、その計算量を格段に少なくすることができる。それゆえ、本発明によれば、例えばイオン入射等の所定処理により発生する被加工体のダメージをより短時間で算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るシミュレータの概略ブロック構成図である。
【図2】第1の実施形態で用いる被加工体の反応モデルの概要図である。
【図3】反応層のモデル構成図である。
【図4】反応層の再分割手法を説明するための図である。
【図5】再分割後の反応層のモデル構成図である。
【図6】第1の実施形態における被加工体のダメージ分布の計算処理手順を示すフローチャートである。
【図7】評価例1の結果を示す図である。
【図8】評価例1の結果を示す図である。
【図9】評価例2の結果を示す図である。
【図10】評価例3の結果を示す図である。
【図11】評価例4の結果を示す図である。
【図12】本発明の第2の実施形態に係るシミュレータで考慮する立体角効果を説明するための図である。
【図13】第2の実施形態に係るシミュレータで考慮する立体角効果を説明するための図である。
【図14】立体角効果の特性例を示す図である。
【図15】評価例5の結果を示す図である。
【図16】評価例5の結果を示す図である。
【図17】評価例5の結果を示す図である。
【図18】評価例5の結果を示す図である。
【図19】評価例6の結果を示す図である。
【図20】評価例6の結果を示す図である。
【図21】評価例6の結果を示す図である。
【図22】評価例6の結果を示す図である。
【図23】本発明の第3の実施形態に係るシミュレーションシステムで用いるダメージ計算モデルと形状進展モデルとの結合モデルの概要を示す図である。
【図24】第3の実施形態に係るシミュレーションシステムの概略ブロック構成図である。
【図25】第3の実施形態における被加工体のダメージ分布の計算処理手順を示すフローチャートである。
【図26】本発明の第4の実施形態に係るマスクのレイアウトパターン予測ツールにおけるマスクパターンの設定処理の手順を示すフローチャートである。
【図27】本発明の第5の実施形態に係るドライエッチング装置の概略ブロック構成図である。
【図28】第5の実施形態のドライエッチング装置におけるエッチング処理時の制御手法を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の各種実施形態に係るシミュレータ、それを備える各種装置(ツール)、及び、ダメージ評価手法を、図面を参照しながら下記の順で説明する。ただし、本発明は下記の例に限定されない。
1.第1の実施形態:シミュレータの基本構成例
2.第2の実施形態:立体角効果を考慮したシミュレータの構成例
3.第3の実施形態:ダメージ計算モデルと形状進展モデルとを接続したシミュレーションシステムの構成例
4.第4の実施形態:マスクのパターンレイアウト予測ツールの構成例
5.第5の実施形態:ドライエッチング装置の構成例
6.第6の実施形態:予めフラックス法により算出したダメージデータをデータベース化したシミュレータの構成例
【0022】
<1.第1の実施形態>
[シミュレータの構成]
図1に、第1の実施形態に係るシミュレータの概略ブロック構成を示す。シミュレータ10は、入力部11と、ダメージ演算部12と、データベース部13(データベース)と、出力部14とを備える。
【0023】
入力部11は、外部から入力される各種加工処理条件(処理条件)を取得する。また、入力部11は、ダメージ演算部12に接続され、該取得した各種加工処理条件をダメージ演算部12に出力する。なお、入力部11は、上記機能を果たす手段であれば、任意の手段で構成することができる。
【0024】
ダメージ演算部12は、被加工体に対して例えばエッチング等の所定の加工処理を所定時間行った際に、被加工体に発生するダメージを算出する。
【0025】
具体的には、ダメージ演算部12は、まず、外部から入力部11を介して各種加工処理条件を取得し、該加工処理条件に基づいて、データベース部13を検索し、計算に必要な各種パラメータを取得する。そして、ダメージ演算部12は、取得した加工処理条件及び各種パラメータを用いてフラックス法により、所定の加工処理を所定時間行った後の被加工体のダメージを算出する。なお、ダメージ計算時に用いる加工処理条件及びパラメータ、並びに、フラックス法によるダメージの算出手法については、後で詳述する。また、ダメージ演算部12は、出力部14に接続され、算出したダメージの予測(評価)結果を出力部14に出力する。
【0026】
なお、本実施形態では、ダメージ演算部12をハードウェアで構成して後述する被加工体のダメージ分布の各種計算処理を実現してもよいが、所定のプログラム(ソフトウェア)を用いて後述の各種計算処理を実行してもよい。この場合、ダメージ演算部12を、例えばCPU(Central Processing Unit)等の演算装置で構成し、ダメージ分布の計算処理のプログラム(ダメージ評価プログラム)を外部から読み込み、そのプログラムを実行することにより被加工体のダメージ分布を算出する。
【0027】
また、ダメージ評価プログラムは、例えば、データベース部13や、別途設けられる例えばROM(Read Only Memory)等の記憶部などに格納することができる。この際、ダメージ評価プログラムを、例えばデータベース部13や別途設けられた記憶部等に予め実装した構成にしてもよいし、外部から例えばデータベース部13や別途設けられた記憶部等に実装する構成にしてもよい。なお、外部からダメージ評価プログラムを取得する場合には、ダメージ評価プログラムを、光ディスクや半導体メモリなどの媒体から配布するようにしてもよいし、インターネットなどの伝送手段を介してダウンロードするようにしてもよい。
【0028】
データベース部13は、被加工体のダメージ計算時に必要となる各種パラメータを記憶する。なお、本実施形態では、シミュレータ10がデータベース部13を備える例を説明するが、本発明はこれに限定されず、データベース部13がシミュレータ10の外部に設けられていてもよい。また、シミュレーション毎に、被加工体のダメージ計算に必要となる各種パラメータを外部から入力する場合には、データベース部13を設けなくてもよい。
【0029】
出力部14は、ダメージ演算部12から出力されたダメージの算出結果を出力する。なお、この際、出力部14は、ダメージの算出結果とともに、例えば、演算に用いた加工処理条件及びパラメータ等の情報も出力してもよい。出力部14は、例えば、ダメージの算出結果を表示する表示装置、算出結果を印刷して出力する印刷装置、算出結果を記録する記録装置等の装置のいずれか、又は、これらの装置を適宜組み合わせて構成される。なお、本実施形態では、シミュレータ10が出力部14を備える例を説明するが、本発明はこれに限定されず、出力部14がシミュレータ10の外部に設けられていてもよい。
【0030】
[シミュレーションモデル]
本実施形態のシミュレータ10では、被加工体に対して所定の加工処理を行った際に発生する被加工体のダメージ分布を、フラックス法を用いて求める。具体的には、外部から被加工体に入射される各種粒子(第1物質)の量と、各種粒子の入射により被加工体から放出される各種粒子(第2物質)の量との関係を計算して、被加工体のダメージを算出する。
【0031】
(1)被加工体の反応モデル
被加工体の表面(被加工面)において、周囲のガス(外部)から被加工体に入射される各種粒子の量と、被加工体から放出される各種粒子の量との関係式をフラックス法により求める際、まず、被加工体及びガス間の反応モデルを設定する。本実施形態では、CF系ガス及び酸素(O)を含むガスにより、SiO膜(被加工体)をドライエッチングする際の反応モデルを例に挙げ説明する。
【0032】
図2に、SiO膜とその周囲のガス(プラズマ)との界面付近における反応モデルの概要を示す。CF系ガスのプラズマ20の雰囲気中でSiO膜21をドライエッチングすると、SiO膜21の表面付近にはエッチング反応層21a(以下、単に反応層21aという)が形成される。また、エッチングガスとしてCF系ガスを用いた場合には、エッチング時に、SiO膜21の表面に炭素(C)を含むポリマー層22が形成される(堆積する)。すなわち、この例では、反応モデルとして、ポリマー層22と、反応層21aとからなる2層モデルを考える。
【0033】
図2に示す反応モデルにおいて、反応層21aで考慮する反応は、次の通りである。
【0034】
プラズマ20(ガス)からSiO膜21にイオン粒子23が入射され(図2中の矢印A1)、SiO膜21がエッチングされると、反応層21aでは、シリコン(Si)と酸素(O)との結合が切れる(図2中の破線で囲んだ領域参照)。この際のシリコン(Si)と酸素(O)との結合が切れる割合(ダングリングボンドの割合)を、ここでは、反応面積率θ(0<θ<1)で表す。それゆえ、反応層21a内において、シリコン(Si)と酸素(O)とが結合した状態で保たれる割合は1−θとなる。
【0035】
反応層21a中で酸素(O)と結合が切れたシリコン(Si)は、プラズマ20からポリマー層22を介して入射されるCF系ガス(図2中の矢印A2)中のフッ素(F)と反応(結合)してSiF及び/又はSiFになる。そして、生成されたSiF及び/又はSiFは、SiO膜21から外部に放出される(図2中の矢印A3)。
【0036】
一方、反応層21a中でシリコン(Si)と結合が切れた酸素(O)は、ポリマー層22中の炭素(C)と反応して(図2中の矢印A4)COになる。そして、生成されたCOは、外部に放出される(図2中の矢印A5)。
【0037】
また、図2に示す反応モデルにおいて、ポリマー層22で考慮する反応は、次の通りである。
【0038】
ポリマー層22中の炭素(C)は、プラズマ20から入射されるCF系ガス(図2中の矢印A2)中のフッ素(F)のうち、SiO膜21で消費されず(反応せず)に残っているフッ素(F)と反応してCFになる。そして、生成されたCFは外部に放出される(図2中の矢印A6)。
【0039】
さらに、ポリマー層22中の炭素(C)は、プラズマ20から入射される酸素(O)(図2中の矢印A7)と反応してCOになる。そして、生成されたCOは外部に放出される(図2中の矢印A8)。
【0040】
本実施形態では、上記各種反応における各種入射粒子の量と、各種放出(生成物)粒子の量(以下では、これらを総称して反応粒子のフラックス量という)との関係をフラックス法で解き、SiO膜21のダメージを予測及び評価する。
【0041】
(2)反応層のモデル
本実施形態では、SiO膜21の深さ方向のダメージを評価するために、反応層21aを、その深さ方向(厚さ方向)において、複数の薄膜スラブ(以下、単にスラブという)に分割する。そして、各スラブにおいて、上述した反応モデルから得られる各種反応粒子間のフラックス量の関係式をフラックス法により求め、各スラブのエッチングの寄与レート及び反応面積率θを算出する。
【0042】
図3(a)及び(b)に、反応層21aのモデル構成を示す。なお、図3(a)は、図2に示した反応モデルの全体構成を示す図であり、図3(b)は、反応層21a及びポリマー層22の部分を拡大した図である。
【0043】
図3(a)及び(b)には、反応層21aをその厚さ方向にn個のスラブ21bで分割する構成例を示す。なお、ここでは、各スラブ21bの厚さLは同じとする。すなわち、この例では、反応層21aを厚さLのスラブ21bでn個に等分割する。また、この例では、計算領域(反応層21a及びポリマー層22を含む厚さ)をイオン粒子23の最大侵入深さDpとし、ポリマー層22の厚さ(以下、ポリマー膜厚という)をTとし、そして、反応層21aの厚さをDp−Tとする。
【0044】
本実施形態では、隣接するスラブ21b間の界面における各種反応粒子間のフラックス量の関係式を用いて、各スラブ21bのエッチングの寄与レートER及び反応面積率θ(kはスラブ21bのインデックス:k=1,2,…,n)を求める。各スラブ21bの寄与レートER及び反応面積率θの具体的な算出手法(算出式)については後で詳述する。なお、各スラブ21bのエッチングの寄与レートERを総和したものが反応層21aのエッチングレート(以下、単にエッチレートERという)となる。
【0045】
また、本実施形態では、各スラブ21bで算出したエッチングの寄与レートER及び反応面積率θに基づいて各スラブ21bのダメージ量を算出し、これにより、反応層21a内のダメージ分布を求める。この際、本実施形態では、エッチングによる深さ方向のダメージ分布を求めるために、各スラブ21bの厚さLを寄与レートERの線形割合で重み付けした厚さLに変換する。すなわち、本実施形態では、ダメージを算出する際には、各スラブ21bのエッチングに対する寄与レートERを考慮し、反応層21aを厚さLのスラブ21bで再分割する。
【0046】
反応層21aの再分割時の様子を図4(a)及び(b)に示す。なお、図4(a)は、再分割前の反応層21aの分割状態を示す図であり、図4(b)は、再分割後の反応層21aの分割状態を示す図である。
【0047】
各スラブ21bの厚さLは、対応するスラブ21bのエッチングの寄与レートERにより変化するので、図4(b)に示すように、一定でなくなり、反応層21aの深さ方向に変化する。具体的には、スラブ21bの寄与レートERは、反応層21aの深さ方向において、スラブ21bの位置が反応層21aの表面から遠ざかるほど小さくなる。それゆえ、再分割後の各スラブ21bの厚さLも、スラブ21bの位置が反応層21aの表面から遠ざかるほど薄くなる。
【0048】
また、図5(a)及び(b)に、上述のようにして再分割した後の反応層21aのモデル構成を示す。なお、図5(a)は、図2に示した反応モデルの全体構成を示す図であり、図5(b)は、再分割後の反応層21a及びポリマー層22の部分を拡大した図である。また、図5(a)及び(b)に示す反応層21aのモデルにおいて、図3(a)及び(b)に示す反応層21aのモデルと同様の構成には同じ符号を付して示す。
【0049】
図5(a)及び(b)と、図3(a)及び(b)との比較から明らかなように、再分割後の反応層21a及びポリマー層22のモデルでは、反応層21a内の各スラブ21bの厚さが変わるだけであり、それ以外の構成は再分割前の構成と同様になる。なお、再分割後の各スラブ21bの厚さLの算出手法については、後で詳述する。
【0050】
[ダメージ分布の算出原理]
次に、SiO膜21に対してドライエッチング処理を行った際にSiO膜21に発生するダメージを、フラックス法により算出する手法の原理を説明する。
【0051】
本実施形態のシミュレータ10では、ダメージ演算部12が、外部から入力部11を介して入力される各種加工処理条件に基づいて、SiO膜21のダメージ分布を算出する。この際の計算過程を簡単に説明すると、まず、ダメージ演算部12は、計算ステップΔt毎(Δt<エッチング時間t0)に、各スラブ21bの反応面積率θ(t)、エッチレートER(t)及びポリマー膜厚T(t)をこの順で計算する。次いで、ダメージ演算部12は、所定のエッチング時間t0まで、この計算処理を繰り返す。そして、ダメージ演算部12は、所定のエッチング時間t0における各スラブ21bの反応面積率θ(t)及びエッチレートER(t)に基づいて、反応層21aを再分割し、ダメージ分布を算出する。
【0052】
以下に、ダメージ計算時に求める各種評価パラメータ(反応面積率θ(t)、エッチレートER(t)、ポリマー膜厚T(t)、再分割後の各スラブ21bの厚さL、及び、ダメージ量)の計算原理を詳細に説明する。
【0053】
(1)反応面積率θ(t)の計算原理
エッチング処理中の所定の時間t(≦エッチング時間t0)における各スラブ21bの反応面積率θ(t)は、下記式(1)に示す反応面積率θ(t)の時間tに対する常微分方程式を解いて求める。
【0054】
【数1】

【0055】
上記式(1)の右辺第1項は、各スラブ21b内でSiOと反応し得るイオン粒子23のフラックス量を表し、右辺第2項は、各スラブ21b内の酸素(O)とポリマー層22内の炭素(C)とが反応して放出されるCOのフラックス量を表す。また、上記式(1)中の「σSiO2」は、SiO膜21の面密度である。さらに、上記式(1)中の「Γ」は、プラズマ20からSiO膜21に入射されるイオン粒子23の総フラックス量である。
【0056】
上記式(1)中の「YiSiO2(T′)」は、インデックスkのスラブ21b内におけるCF系イオンとSiO膜21との反応確率である。この反応確率YiSiO2(T′)は、ポリマー層22の表面からインデックスkのスラブ21bまでの深さ「T′」の関数である。すなわち、反応確率YiSiO2(T′)は、ポリマー膜厚T(t)及びスラブ21bの位置に依存して変化するパラメータである。
【0057】
なお、ポリマー膜厚T(t)は時間tの関数であるので、反応確率YiSiO2(T′)も時間tの関数となる。それゆえ、上記式(1)中の反応確率YiSiO2(T′)には、現在の時間tより1計算ステップ前の時間t−Δtでの値、又は、所定の初期値を用いる。なお、反応確率YiSiO2(T′)は、下記式(2)で算出する。
【0058】
【数2】

【0059】
上記式(2)中の「E」は、イオンの入射エネルギーであり、「ΔE」は、イオン入射エネルギーEのエネルギー減衰量である。また、上記式(2)中の「K」、及び、「α1」〜「α4」は所定の定数である。これらのパラメータの値は、例えばプロセス条件、被加工体の形成材料、ガス種等の加工処理条件に応じて適宜設定される。
【0060】
また、上記式(1)中の「ΓER(k,t)」は、SiO膜21のエッチング時にインデックスkのスラブ21b内で発生する酸素(O)の総フラックス量と、ポリマー層22での炭素(C)及び酸素(O)間の反応確率YOC2との積で表される。具体的には、「ΓER(k,t)」は、下記式(3)で算出する。
【0061】
【数3】

【0062】
上記式(3)中の「ER(t−1)」は、1計算ステップ前の時間t−Δt(又は初期状態)におけるインデックスkのスラブ21bのエッチングの寄与レートである。また、上記式3中の「ρSiO2」は、SiO膜21の個数密度である。
【0063】
通常、1計算ステップΔtに比べて、エッチング時の表面反応速度(反応面積率θ(t)の時間変化量)は十分に速い(小さい)と考えられる。それゆえ、上記式(1)〜(3)を用いて反応面積率θ(t)を算出する際には、上記式(1)中のdθ(t)/dt=0として、所定の時間tにおける各スラブ21bの反応面積率θ(t)を算出する。具体的には、各スラブ21bの反応面積率θ(t)を、下記式(4)で算出する。
【0064】
【数4】

【0065】
(2)エッチレートER(t)の計算原理
反応層21aの所定の時間tにおけるエッチレートER(t)は、上記(1)の計算原理で算出した各スラブ21bの反応面積率θ(t)を用いて計算する。具体的には、次のようにして、エッチレートER(t)を算出する。
【0066】
まず、各スラブ21bの反応面積率θ(t)を用いて、下記式(5)により、所定の時間tにおける各スラブ21bのエッチングの寄与レートER(t)を算出する。
【0067】
【数5】

【0068】
上記式(5)中の「β1」は、SiO膜21のエッチング時に生成される脱離物(図2に示す反応モデルの例では、SiF及び/又はSiF)に関するパラメータである。また、上記式(5)中の「YFSiO2(T′)」は、スラブ21b内におけるSiO膜21とフッ素(F)との反応確率である。なお、ポリマー膜厚T(t)は時間tの関数であるので、反応確率YFSiO2(T′)も時間tの関数となる。それゆえ、上記式(5)中の反応確率YFSiO2(T′)には、現在の時間tより1計算ステップ前の時間t−Δtで算出された値、又は、初期値を用いる。なお、反応確率YFSiO2(T′)は、下記式(6)で算出する。
【0069】
【数6】

【0070】
また、上記式(5)中の「Γ」は、プラズマ20からSiO膜21に入射されるフッ素(F)の総フラックス量と、CF系ガス及びポリマー層22間の反応確率との積である。具体的には、「Γ」は、下記式(7)により表される。
【0071】
【数7】

【0072】
なお、上記式(7)中の「ΓCFm」は、プラズマ20から入射されるCF系ガスの総フラックス量である。上記式(7)中の「YCFm」は、CF系ガス及びポリマー層22間の反応確率である。上記式(7)中の「RFm」は、CF系ガス中のフッ素(F)の割合である。また、上記式(7)中のインデックスmは、反応ガスCFの種類を表すインデックスである。
【0073】
そして、上記式(5)で算出された各スラブ21bのエッチングの寄与レートER(t)を総和して、所定の時間tにおける反応層21aのエッチレートER(t)を算出する。具体的には、下記式(8)により、所定の時間tにおけるエッチレートER(t)を算出する。
【0074】
【数8】

【0075】
(3)ポリマー膜厚T(t)の計算原理
所定の時間tにおけるポリマー膜厚T(t)は、上記(1)及び(2)の計算原理でそれぞれ算出した各スラブ21bの反応面積率θ(t)及びエッチレートER(t)を用いて計算する。
【0076】
具体的には、下記式(9)に示すポリマー膜厚T(t)の時間tに対する常微分方程式を解いて、ポリマー膜厚T(t)を求める。この際、下記式(9)中のdT(t)/dtを例えば、[T(t)−T(t−Δt)]/Δt等の差分式に置き換えて、ポリマー膜厚T(t)を算出する。
【0077】
【数9】

【0078】
上記式(9)の右辺第1項は、プラズマ20からSiO膜21上に入射される炭素(C)のフラックス量を表す。上記式(9)の右辺第2項は、プラズマ20中の酸素(O)とポリマー層22内の炭素(C)とが反応して放出されるCOのフラックス量を表す。また、上記式(9)の右辺第3項は、プラズマ20からSiO膜21に入射されるフッ素(F)のうち、SiO膜21で消費されずに残っているフッ素(F)と、ポリマー層22内の炭素(C)とが反応して放出されるCFのフラックス量を表す。さらに、上記式(9)の右辺第4項は、各スラブ21b内の酸素(O)とポリマー層22内の炭素(C)とが反応して放出されるCOのフラックス量の総量を表す。
【0079】
上記式(9)中の「ρ」は、ポリマー層22の個数密度である。また、上記式(9)中の「Γ」は、プラズマ20から入射される炭素(C)の総フラックス量と、CF系ガス及びポリマー層22間の反応確率との積である。具体的には、「Γ」は、下記式(10)により表される。なお、下記式(10)中の「RCm」は、CF系ガス中の炭素(C)の割合である。
【0080】
【数10】

【0081】
また、上記式(9)中の「Γ」は、プラズマ20から入射される酸素(O)の総フラックス量と、酸素(O)及びポリマー層22間の反応確率との積である。具体的には、「Γ」は、下記式(11)により表される。
【0082】
【数11】

【0083】
なお、上記式(11)中の「YOC1」は、ポリマー層22での酸素(O)と炭素(C)との反応確率である。また、上記式(11)中の「Γ」は、プラズマ20から入射される酸素(O)の総フラックス量である。
【0084】
また、上記式(9)中の「Γ」は、プラズマ20からSiO膜21に入射されるフッ素(F)のうち、SiO膜21で消費されず(反応せず)に残っているフッ素(F)のフラックス量と、フッ素(F)及びポリマー層22間の反応確率との積である。具体的には、「Γ」は、下記式(12)により表される。
【0085】
【数12】

【0086】
なお、上記式(12)中の「β2」は、ポリマー層22でエッチング時に生成される脱離物(図2に示す反応モデルの例では、CF)に関するパラメータである。また、上記式(12)中の「R」は、ポリマー層22内でのフッ素(F)と炭素(C)との反応確率である。
【0087】
(4)スラブの厚さの再計算原理
本実施形態では、上述のように、ダメージ分布を計算する際、エッチレートERに対する各スラブ21bの寄与レートERの割合(重み)を考慮して、各スラブ21bの厚さを再設定(再計算)する。そして、再設定された厚みを有する複数のスラブ21bで反応層21aを再分割する。
【0088】
この例では、エッチレートERに対する各スラブ21bの寄与レートERの重みを線形割合とし、下記式(13)により、各スラブ21bの厚さLに再設定する。なお、下記式(13)中のエッチレートER、寄与レートER、及び、ポリマー膜厚Tは、エッチング終了時(t=t0)の値である。
【0089】
【数13】

【0090】
上記式(13)で、各スラブ21bの厚さを再設定すると、再分割後の反応層21aの全体の厚さ(Dp−T)は変化しないが、各スラブ21bの厚さLは、スラブ21bの位置が反応層21aの表面から遠ざかると薄くなる(図4(b)参照)。その結果、寄与レートERがより大きくなる反応層21aの表面付近のスラブ21bの厚さLは、再分割前より厚くなる。一方、寄与レートERが小さくなる反応層21a底部付近のスラブ21bの厚さLは、再分割前より薄くなる。
【0091】
上述のようにして各スラブ21bの厚さを再設定することにより、再設定後のスラブ21bの厚さLに、エッチレートERに対する各スラブ21bの寄与レートERの影響を反映させることができる。すなわち、各スラブ21bの厚さを対応する寄与レートERで重み付けした値に再設定することにより、再分割後の各スラブ21bの厚さLに、深さ方向のダメージに関する情報を反映させることができる。
【0092】
(5)ダメージ量の計算原理
本実施形態では、エッチングによるダメージの指標を、エッチング時に生じるシリコン(Si)のダングリングボンドの数とする。そこで、本実施形態では、各スラブ21bのエッチングによるダメージ量damage(k)を、再分割後の各スラブ21bの厚さLと、エッチング終了時の反応面積率θとの積で定義する。すなわち、下記式(14)により、各スラブ21bのダメージ量damage(k)を定義する。
【0093】
【数14】

【0094】
スラブ21bのダメージ量damage(k)を上記式(14)で定義することにより、エッチレートERを加味した深さ方向のダメージ量を表現することが可能になる。
【0095】
また、上記式(14)中の「L」は、上述のように、各スラブ21bのエッチングの寄与レートERで重み付けした(エッチングレートを加味した)パラメータであるので、反応層21aの深さ方向のダメージ分布に関するパラメータである。一方、「θ(t)」は、エッチング面の面内方向におけるダメージ分布に関するパラメータである。それゆえ、スラブ21bのダメージdamage(k)を上記式(14)で定義することにより、3次元的なダメージ分布の評価が可能になる。
【0096】
[ダメージ分布の算出処理]
次に、本実施形態のシミュレータ10における被加工体(SiO膜)のダメージ算出処理を、図6を参照しながら具体的に説明する。なお、図6は、本実施形態におけるダメージ分布の計算処理の手順を示すフローチャートである。
【0097】
まず、ダメージ演算部12は、シミュレータ10に対して外部から入力されるシミュレーションの各種加工処理条件を、入力部11を介して取得する(ステップS1)。
【0098】
ステップS1で取得する加工処理条件の項目には、例えば、ガスの種類、ガス流量、ガス圧力、被加工体の温度(例えばウエハ温度等)、被加工体の形成材料(例えば膜種等)、エッチング時間、イオン入射エネルギー等のプロセス条件が含まれる。さらに、加工処理条件の項目には、例えば、スラブ21bの初期厚さL(再分割前の厚さ)、ポリマー膜厚Tの初期値、イオン粒子23の最大侵入深さDp(計算領域の深さ)等の計算パラメータも含まれる。
【0099】
次いで、ダメージ演算部12は、取得した加工処理条件(特に、ガスの種類、ガス流量、ガス圧力、被加工体の形成材料等)に基づいて、データベース部13を検索し、シミュレーションに必要な各種パラメータを取得する(ステップS2)。
【0100】
ステップS2で取得する各種パラメータの項目には、例えば、加工処理条件に対応する各種反応粒子のフラックス量Γ(例えばΓ、ΓCF、Γ等)、各種反応確率、反応生成物パラメータ等の被加工体及びガス間の各種反応に関するパラメータが含まれる。また、ステップS2で取得する各種パラメータの項目には、SiO膜21の個数密度及び面密度等の被加工体の材料パラメータも含まれる。
【0101】
ただし、ステップS2において、加工処理条件に対応する各種反応粒子のフラックス量Γがデータベース部13に存在しない場合には、例えば、次のようにして、加工処理条件に対応する各種反応粒子のフラックス量Γを算出してもよい。まず、ダメージ演算部12は、加工処理条件に近い条件に対応する各種反応粒子のフラックス量Γのデータを取得する。次いで、ダメージ演算部12は、取得したデータを補間して、加工処理条件に対応する各種反応粒子のフラックス量Γを算出する。
【0102】
なお、ステップS2における各種反応粒子のフラックス量Γの取得手法は、上述したデータベース部13から取得する手法に限定されない。例えば、ダメージ演算部12が、取得した加工処理条件(特に、ガスの種類、ガス流量、ガス圧力、被加工体の形成材料等)に基づいて、各種反応粒子のフラックス量Γを算出してもよい。
【0103】
また、例えば、各種反応粒子のフラックス量Γの実測値が外部から取得可能である場合には、ダメージ演算部12は、ステップS2において、各種反応粒子のフラックス量Γを、入力部11を介して外部から取得してもよい。なお、各種反応粒子のフラックス量Γに限らずステップS2で取得する各種パラメータを外部から直接入力してもよい。この場合には、ステップS2の処理を省略し、これらのダメージ計算に必要な各種パラメータをステップS1で取得してもよい。
【0104】
次いで、ダメージ演算部12は、ステップS1で取得したスラブ21bの初期厚さL、ポリマー層22の初期厚さT、及び、イオン粒子23の最大侵入深さDpに基づいて、反応層21aを複数のスラブ21bで分割する(ステップS3)。具体的には、深さDp−T(初期値)の反応層21aを初期厚さLの複数のスラブ21bで等分割する。
【0105】
次いで、ダメージ演算部12は、取得した加工処理条件及びそれに対応する各種パラメータを用いて、所定の時間t(≦エッチング時間t0)における各スラブ21bの反応面積率θ(t)を算出する(ステップS4)。具体的には、上記式(1)〜(4)を用いて、各スラブ21bの反応面積率θ(t)を算出する。
【0106】
次いで、ダメージ演算部12は、ステップS4で算出した各スラブ21bの反応面積率θ(t)を用いて、所定の時間tにおけるエッチレートER(t)を算出する(ステップS5)。具体的には、上記式(5)〜(8)を用いて、エッチレートER(t)を算出する。
【0107】
次いで、ダメージ演算部12は、上記ステップS4及びS5でそれぞれ算出した各スラブ21bの反応面積率θ(t)及びエッチレートER(t)を用いて、所定の時間tにおけるポリマー膜厚T(t)を算出する(ステップS6)。具体的には、上記式(9)〜(12)式を用いて、ポリマー膜厚T(t)を算出する。
【0108】
次いで、ダメージ演算部12は、現在の時間tがエッチング終了時間であるか否かを判定する(ステップS7)。具体的には、ダメージ演算部12は、計算開始からの経過時間が予め設定したエッチング時間t0であるか否かを判定する。
【0109】
ステップS7において、現在の時間tがエッチング終了時間でない場合には、ステップS7はNO判定となる。この場合、ダメージ演算部12は、時間進展処理を行い、すなわち、計算時間を更新(t=t+Δt)し(ステップS8)、ステップS4の処理に戻る。その後は、時間tがエッチング時間t0になるまで、ステップS4〜S8の処理を繰り返す。
【0110】
一方、ステップS7において、時刻tがエッチング終了時間である場合には、ステップS7はYES判定となる。この場合、ダメージ演算部12は、エッチング終了時間(t=t0)におけるエッチレートERに対する各スラブ21bの寄与レートERの割合(重み)を考慮して、反応層21aを複数のスラブ21bで再分割する(ステップS9)。具体的には、上記式(13)を用いて各スラブ21bの厚さLを再設定し、厚みが再設定された複数のスラブ21bにより反応層21aを再分割する。
【0111】
そして、反応層21aを複数のスラブ21bで再分割した後、ダメージ演算部12は、各スラブ21bにおけるエッチングによるダメージ量damage(k)を算出する(ステップS10)。具体的には、上記式(14)を用いて、各スラブ21bのダメージ量damage(k)を算出する。
【0112】
本実施形態では、上述のようにして、エッチング時の各スラブ21bのダメージ量damage(k)を算出し、被加工体のダメージ分布を予測(評価)する。
【0113】
本実施形態では、上述のように、フラックス法を用いた手法であるので従来の分子動力学法を用いた手法(粒子法)に比べて計算量が非常に少なくなる。それゆえ、本実施形態のシミュレータ10では、より高速に被加工体のダメージ分布を算出することができる。
【0114】
具体的には、後述の第6の実施形態のように、種々の加工処理条件において計算されたダメージ分布をデータベース化する場合、例えば、粒子法では約1ヶ月程度かかっていたデータベースの生成時間を、フラックス法では、数分程度に短縮することが可能になる。すなわち、本実施形態では、従来の粒子法に比べて格段に短い時間でダメージ分布を算出することができる。それゆえ、本実施形態では、例えば、チップ面内やウエハ面内等の広範囲の領域におけるダメージ分布も予測することが可能になる。
【0115】
なお、本実施形態では、反応モデルとして、CF系ガスによりSiO膜21をドライエッチングする例を挙げて説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、被加工体が、Si膜、SiN膜、有機膜等の膜であっても同様のアルゴリズムで、ダメージ分布を予測(評価)することができる。また、ガス種を変更しても、同様のアルゴリズムで、ダメージ分布を予測(評価)することができる。
【0116】
ただし、被加工体の形成材料及び/又はガス種を変更した場合には、反応モデルも変わるので、考慮する反応モデルに応じて、各種反応粒子のフラックス量Γ間の関係式を適宜設定する。また、この場合には、考慮する反応モデルに応じて、ダメージ計算に必要な各種パラメータも適宜変更する。なお、ガス種を変更した場合には、反応層21a上に堆積する膜もガス種に応じて適宜変更する(例えば、酸化膜等の膜に適宜変更する)。
【0117】
[各種評価例]
次に、上述した本実施形態のシミュレータ10を用いて行った各種評価について説明する。
【0118】
(1)評価例1
評価例1では、本実施形態のシミュレータ10によるエッチレートER及びポリマー膜厚Tの再現精度の評価を行った。具体的には、CF系ガスのプラズマ20によりSiO膜21をドライエッチングした際のエッチングレートER及びポリマー膜厚Tの実測値と、上記シミュレーションで算出した予測値とを比較した。
【0119】
評価例1におけるプロセス条件は、次の通りである。CF系ガスとしてCガスを用い、エッチング装置のチャンバー内にはCとアルゴン(Ar)と酸素(O)との混合ガスを流通させた。アルゴン(Ar)及び酸素(O)の流量は、それぞれ400sccm及び8sccmとし、一定とした。また、Cの流量は種々変化させ、各流量において、エッチレートER及びポリマー膜厚Tの実測値と、それらの予測値とを比較評価した。また、チャンバー内のガス圧は30mTとし、イオン粒子23の入射エネルギーEは1450Vとした。
【0120】
シミュレーション計算に用いる各種反応粒子のフラックス量Γは、エッチング装置のチャンバー内でモニタされる実測値を用いた。また、シミュレーション計算に用いる各種計算パラメータの初期値は、プロセス条件等に応じて適宜設定した。さらに、各種評価パラメータ(ポリマー膜厚T、エッチングレートER及び各スラブ21bの寄与レートER)の初期値は、零とした。
【0121】
図7及び8に、評価例1の結果を示す。図7は、Cの流量に対するエッチレートERの変化特性であり、横軸はCの流量であり、縦軸はエッチレートERである。また、図8は、Cの流量に対するポリマー膜厚Tの変化特性であり、横軸はCの流量であり、縦軸はポリマー膜厚Tである。なお、図7及び8中の実線で示す特性31,33がシミュレーションで得られる予測値の特性であり、破線で示す特性32,34が実測値の特性である。
【0122】
図7及び8に示す評価結果から明らかなように、実測値の特性32及び34の特徴的な変化やエッチレートER及びポリマー膜厚Tの絶対値が、それぞれシミュレーション結果の特性31及び33で精度良く再現されていることが分かる。すなわち、この結果から、本実施形態のシミュレーション手法により、被加工膜のエッチレートERやポリマー膜厚Tを精度良く予測することが可能であることが分かった。
【0123】
(2)評価例2
評価例2では、上記評価例1と同様のプロセス条件でSi膜をドライエッチングし、評価例1と同様にして、Cの種々の流量におけるSi膜のエッチレートERの実測値と、シミュレーションによる予測値とを求めた。そして、評価例2では、評価例1の評価結果と合わせて、SiO膜とSi膜とのエッチレート選択比(=SiO膜のエッチレート/Si膜のエッチレート)の実測値及び予測値をそれぞれ算出し、その両者を比較した。なお、SiO膜とSi膜とのエッチレート選択比は、Si膜上にSiO膜を形成した積層膜においてSiO膜を所定パターンにエッチング加工する際に重要なパラメータとなる。
【0124】
図9に、評価例2の結果を示す。なお、図9は、Cの流量に対するエッチレート選択比の変化特性であり、横軸はCの流量であり、縦軸はエッチレート選択比である。また、図9中の実線で示す特性35がシミュレーションで得られる予測値の特性であり、破線で示す特性36が実測値の特性である。
【0125】
図9に示す評価結果から明らかなように、SiO膜とSi膜とのエッチレート選択比の特性においても、実測値の特性36の特徴的な変化や絶対値が、シミュレーション結果の特性35で精度良く再現されていることが分かった。
【0126】
(3)評価例3
評価例3では、本実施形態のシミュレータ10による被加工体のダメージ分布の再現精度の評価を行った。
【0127】
なお、後述するように、被加工体のダメージ分布の実測値を求める際、本実施形態では、被加工体のTEM(Transmission Electron Microscope)画像を用いた。しかしながら、被加工体としてSiO膜を用いた場合には、被加工体が酸化されているので、TEM画像においてダメージを受けている層(以下、エッチングダメージ層という)の厚さを明確に特定することが困難である。
【0128】
そこで、評価例3では、エッチングダメージ層の厚さを明確に特定できるSi膜において、ダメージ分布の実測値と、シミュレーションにより得られるダメージ分布の予測値とを比較評価した。
【0129】
なお、評価例3では、被加工体をSi膜としたので、反応モデルもSi膜のドライエッチング処理に対応する反応モデルに変更し、ダメージ計算に用いる各種パラメータ(例えば、被加工体の面密度及び個数密度、反応確率等)も適宜変更した。それゆえ、各種反応粒子のフラックス量Γ間の関係式も反応モデルの変更に伴い適宜変更した。例えば、Si膜のドライエッチング処理では、上記式(1)及び(9)中の「θΓER」の項は削除される。
【0130】
評価例3では、CCP(Capacitive Coupled Plasma)型のエッチング装置を用いてSi膜をCF系ガスでドライエッチングし、Si膜のダメージ分布を実測した。なお、評価例3では、Cの流量を11sccmで一定とし、それ以外のプロセス条件は上記評価例2と同様にした。また、評価例3では、エッチングダメージ層の厚さをTEM画像だけでなく、XPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)でも測定した。
【0131】
また、評価例3のシミュレーション計算では、各スラブ21bの初期厚さL=0.5nmとし、イオン粒子23の最大侵入深さDp=7nmとした。なお、評価例3では、各種反応粒子のフラックス量Γ及びイオン入射エネルギーEをモニタする各種機器をチャンバー内に搭載したエッチング装置を用いたので、シミュレーション計算に用いるこれらのパラメータは、モニタ値(実測値)を用いた。
【0132】
図10(a)及び(b)に、評価例3の結果を示す。なお、図10(a)は、Si膜の表面付近の断面構造を示すTEM画像であり、図10(b)は、シミュレータ10で算出した、反応層21aの深さ方向におけるダメージ分布の特性図である。
【0133】
TEM画像では、エッチングダメージ層の厚さは約1.4nmとなった。また、XPSにおいても同様の結果が得られた。
【0134】
一方、シミュレーション結果では、Si膜の表面から約1.5nmの深さ位置の領域においてダメージ量が0.2〜0.4の値となり、1.5nmよりさらに深い位置の領域ではダメージ量が0.0〜0.2の値となった。すなわち、シミュレーション結果(予測値)では、エッチングダメージ層の厚さが約1.5nmとなり、実測値とほぼ同じ結果が得られた。
【0135】
上述した評価例3の評価結果から、本実施形態のシミュレータ10により、被加工体の深さ方向のダメージ分布を精度良く再現できることが分かった。
【0136】
(4)評価例4
評価例4では、CF系ガスの流量に対するSiO膜のダメージ分布の変化を、本実施形態のシミュレータ10で算出し評価した。
【0137】
具体的には、CF系ガスとしてCを用い、Cの流量が11sccm又は33sccmである場合のSiO膜の深さ方向のダメージ分布をシミュレータ10で算出(予測)した。すなわち、エッチレートERが大きく、かつ、ポリマー膜厚Tが薄くなる条件(11sccm)、又は、エッチレートERが小さく、かつ、ポリマー膜厚Tが厚くなる条件(33sccm)において、SiO膜の深さ方向のダメージ分布を算出した。
【0138】
なお、評価例4のシミュレーション計算では、被加工体としてSiO膜を用いたこと、及び、Cの流量を変えたこと以外の計算条件(各種計算パラメータの初期値及びプロセス条件)は、上記評価例3と同様とした。
【0139】
図11に、評価例4の結果を示す。図11から明らかなように、ガス流量に関係なく、SiO膜の表面付近の領域でダメージ量が最大となり、深さ方向の位置が表面から離れるほど、ダメージ量が減少する結果が得られた。
【0140】
また、図11に示す結果から明らかなように、ガス流量が11sccmの場合、SiO膜の表面から約7nmの深さ位置までの領域で、ダメージ量が0.2〜0.4以上の値となった。一方、ガス流量が33sccmの場合には、SiO膜の表面から約3.5nmの深さ位置までの領域で、ダメージ量が0.2〜0.4以上の値となった。さらに、表面付近の領域でのダメージ量を比較すると、ガス流量が11sccmの場合の方が、ガス流量が33sccmの場合よりも大きくなることが分かった。
【0141】
上述した評価例4の評価結果から、エッチレートERが大きく、かつ、ポリマー膜厚Tが薄くなる条件(11sccm)において、被加工体のダメージ量がより大きくなり、かつ、より深い位置までダメージが発生することが分かる。すなわち、この評価結果から、本実施形態のシミュレータ10では、CF系ガスによるSiO膜のエッチング処理において、Cの流量を変えた際に想定されるダメージ分布の変化の特徴を定量的に評価できることが分かった。
【0142】
上述した評価例1〜4の結果から、本実施形態のシミュレータ10では、イオン入射により発生する被加工体のダメージ分布を精度良く予測及び評価できることが分かった。
【0143】
<2.第2の実施形態>
上記第1の実施形態では、ダメージの評価点の周囲に、プラズマ(ガス)から被加工体への各種反応粒子の入射を妨げるような構造体(例えば側壁等)が形成されていない例を説明した。しかしながら、デバイスの実パターンでは、評価領域の被加工面は凹凸形状(立体形状)であることが多い。この場合、プラズマから被加工体に入射される各種反応粒子のうち、被加工面の凹部の底面に到達する各種反応粒子のフラックス量は、凹部の形状(例えば幅、深さ及び両者のアスペクト比等)に依存して変化する。
【0144】
そこで、第2の実施形態では、ダメージの評価点の周囲にプラズマから被加工体への各種反応粒子の入射を妨げるような構造体が存在する場合にも、ダメージ分布が算出可能なシミュレータの構成例を説明する。
【0145】
凹部の底面内の評価点に入射される各種反応粒子のフラックス量が、評価点の周囲に形成された例えば側壁等の構造体の影響により変化(減少)する場合、その変化量は、評価点からプラズマ側に向かって見通すことのできる視野領域に依存する。本実施形態では、その評価点からプラズマ側に向かって見通すことのできる視野領域を3次元的角度(以下、立体角という)で表し、評価点のダメージ分布に与える周囲の構造体の影響を、その立体角に反映させる。
【0146】
[立体角効果の算出原理]
まず、評価点のダメージ分布に与える周囲の構造体の影響を評価点における立体角に反映させる手法(以下、立体角効果の算出手法という)を、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、ここでは、表面に溝部が形成された被加工体(トレンチ構造の被加工体)を例に挙げ、評価点における立体角効果の算出手法を説明する。
【0147】
図12(a)及び(b)に、表面に溝部が形成された被加工体の概略構成を示す。なお、図12(a)は、被加工体40の概略斜視図であり、図12(b)は、溝部41の延在方向から見た被加工体40の側面図である。
【0148】
いま、図12(a)及び(b)において、被加工体40の溝部41の底面41a(被加工面)における所定の評価点を「P」とする。さらに、評価点Pを通過し、かつ、溝部41の延在方向と直交する方向に延在した底面41a内の線分と、溝部41の一方の側壁面41b及び他方の側壁面41cとの交差点をそれぞれ「S」及び「Q」とする。そして、点S及びQ間の線分を「XP」とする。
【0149】
本実施形態では、溝部41の底面41a内の所定の評価点Pにおける立体角を次のようして算出する。なお、本実施形態では、評価点Pにおける立体角を、評価点Pにおいて全立体角(2π)から周囲の構造体により遮られる視野範囲(立体角)を引いた値とする。すなわち、評価点Pにおける立体角dΩ0を、全立体角(2π)から、一方の側壁面41bにより遮られる視野範囲の立体角dΩ1と他方の側壁面41cにより遮られる視野範囲の立体角dΩ2とを差し引いた値とする。
【0150】
ただし、評価点Pにおいて側壁面41b及び側壁面41cにより遮られる視野領域は矩形となるが、本実施形態では、簡易的に矩形状の視野領域を同一面積の円に変換して、側壁面41b及び側壁面41cにより遮られる立体角(dΩ1′及びdΩ2′)を算出する。
【0151】
図13(a)及び(b)に、立体角の変換手法の概要を示す。図13(a)は、視野領域の面45が矩形状のとき(変換前)の評価点Pにおける立体角dΩを示す図である。また、図13(b)は、矩形状の視野領域の面45を同一面積の円状の面46に変換した際(変換後)の評価点Pにおける立体角dΩ′を示す図である。
【0152】
ここで、図13(a)において、評価点Pから矩形状の面45の中心までの距離をh1、評価点Pから面45の中心に向かう方向と面45の法線方向(放線ベクトルN)との間の角度をδとする。また、図13(b)において、評価点Pから円状の面46の中心までの距離をh1′とし、評価点Pから面46の外周までの距離をh2とする。さらに、図13(b)において、円状の面46の半径をrとする。
【0153】
視野領域となる矩形状の面45及び円状の面46と、評価点Pとの間に図13(a)及び(b)に示す幾何条件が成立する場合、評価点Pにおける変換後の立体角dΩ′は、下記式(15)で表される。
【0154】
【数15】

【0155】
本実施形態では、上記式(15)を用いて、評価点Pから見て、一方の側壁面41bにより遮られる矩形状の視野領域の立体角dΩ1を、矩形状の視野領域と同一面積となる円状の視野領域での立体角dΩ1′に変換する。また、同様にして、評価点Pから見て、他方の側壁面41cにより遮られる矩形状の視野領域の立体角dΩ2を、矩形状の視野領域と同一面積となる円状の視野領域での立体角dΩ2′に変換する。
【0156】
次いで、上記式(15)により算出した立体角dΩ1′及びdΩ2′を用いて、シミュレーションに用いる評価点Pにおける立体角dΩ0′を下記式(16)で算出する。
【0157】
【数16】

【0158】
そして、本実施形態では、上記式(16)により算出した評価点Pの立体角dΩ0′を用いて、プラズマから評価点Pに到達する各反応粒子のフラックス量Γ′を、下記式(17)で算出する。
【0159】
【数17】

【0160】
上記式(17)中の「Γ」は、プラズマから被加工体40に入射される各反応粒子の総フラックス量である。すなわち、本実施形態では、評価点Pにおける全立体角(2π)に対する立体角dΩ0′の割合をプラズマから被加工体40に入射される反応粒子の総フラックス量Γに掛け合わせることにより、評価点Pに到達する反応粒子のフラックス量Γ′を算出する。本実施形態では、このようにして、評価点Pにおける立体角効果を算出する。
【0161】
ここで、溝部41の底面41a内の評価点Pの位置と、評価点Pにおける全立体角(2π)に対する立体角dΩ0′の割合(dΩ0′/2π:以下、立体角効果の値という)との関係を、図14に示す。図14に示す特性は、図12(a)中の線分XP上(点S及び点Q間)の立体角効果の値の変化特性であり、横軸が線分XP上の位置であり、縦軸が立体角効果の値である。
【0162】
また、図14に示す特性は、溝部41の幅(線分XPの長さ)を200nmとし、溝部41の延在長さを1000nmとした場合(図12(a)参照)の特性である。さらに、図14には、溝部41の深さを種々変化させた場合、すなわち、溝部41のアスペクト比(深さ/幅)を種々変化させた場合の特性を示す。
【0163】
図14から明らかなように、溝部41の深さ(アスペクト比)が大きくなると、立体角効果の値(dΩ0′/2π)は小さくなる。すなわち、溝部41の深さ(アスペクト比)が大きくなると、プラズマから評価点Pに到達する各反応粒子のフラックス量Γ′が減少する。
【0164】
なお、本実施形態では、被加工体として、溝部41が表面に形成された被加工体40を例に挙げ説明したが、本発明はこれに限定されず、本実施形態は、表面に任意の凹凸パターンが形成された被加工体に適用可能である。この場合には、評価領域のパターン毎に評価点における立体角効果を上記原理と同様にして適宜算出すればよい。
【0165】
[シミュレータの構成及びダメージ算出手法]
本実施形態のシミュレータの構成は、図1に示す上記第1の実施形態のシミュレータ10と同様に構成することができる。ただし、上述した立体角効果を考慮した各種反応粒子のフラックス量Γ′の算出処理は、ダメージ演算部12で行う。また、評価点の周囲の構造体の情報、すなわち、評価領域の表面形状の情報は、加工処理条件と同様に外部から入力される。
【0166】
なお、立体角効果の値(dΩ0′/2π)は、入力された評価領域の表面形状の情報に基づいて、ダメージ演算部12でシミュレーション毎に算出してもよい。また、予め、様々な評価領域の表面形状に対応する立体角効果の値の特性データ(図14に示す特性)を算出し、その特性データをデータベース部13に記憶しておいてもよい。この場合には、ダメージ演算部12は、シミュレーション毎に、データベース部13を検索して、入力された評価領域の表面形状の情報に対応する立体角効果のデータを取得する。
【0167】
また、本実施形態では、ダメージ分布を算出する際に立体角効果を反映させた各種反応粒子のフラックス量Γ′を用いること以外は、上記第1の実施形態で説明した算出手法(算出原理)と同様にして任意の評価点におけるダメージ分布を算出することができる。なお、立体角効果の算出工程は、例えば、図6に示す上記第1の実施形態のダメージ計算処理のフローチャート中のステップS3(反応層を複数のスラブに分割する処理ステップ)の前に行うことができる。
【0168】
[各種評価例]
次に、本実施形態のシミュレータにより行った各種評価例を説明する。なお、ここでは、図12(a)及び(b)に示す被加工体40、すなわち、幅(線分XPの長さ)が200nmであり、かつ、延在長さが1000nmである溝部41が表面に形成された被加工体40に対して行った評価例を説明する。
【0169】
以下に説明する各種評価例では、CF系ガスを用いて被加工体40の溝部41をドライエッチングした際のエッチレートER、ポリマー膜厚T、及び、ダメージ分布を上記シミュレーション手法により算出した。この際、溝部41のアスペクト比を、0.0、0.1、0.5及び1.0に変化させて各種評価パラメータ(エッチレートER、ポリマー膜厚T、及び、ダメージ分布)を算出した。また、下記各種評価例では、溝部41の底面41aの線分XP上の種々の位置の評価点において各種評価パラメータを算出し、これらの評価パラメータの線分XP上での変化特性を求めた。
【0170】
(1)評価例5
評価例5では、溝部41の底面41aにSi膜が形成されており、そのSi膜をC(CF系ガス)、アルゴン(Ar)及び酸素(O)の混合ガス中でドライエッチングした場合の評価例を説明する。
【0171】
なお、評価例5におけるプロセス条件は、次の通りである。アルゴン(Ar)及び酸素(O)の流量を、それぞれ400sccm及び8sccmとし、一定とした。チャンバーのガス圧は30mTとし、イオン粒子23の入射エネルギーEは1450Vとした。また、エッチング時間t0は30秒とした。
【0172】
また、評価例5における底面41aの反応層の各スラブの初期厚さLは0.5nmとし、イオン粒子の最大侵入深さDp=7nmとした。なお、シミュレーション計算に用いる各種反応粒子の総フラックス量Γは、例えば、上記評価例1と同様にして取得した実測値を用いた。
【0173】
まず、評価例5では、上記シミュレーション条件に加え、さらに、Cの流量を11sccmとして、溝部41の各種評価パラメータ、及び、これらの評価パラメータの線分XP上での変化特性を算出した。すなわち、高エッチレートで、かつ、ポリマー膜厚Tが薄くなる条件(低デポジション加工条件)において、溝部41の各種評価パラメータ、及び、これらの評価パラメータの線分XP上で変化特性を算出した。その算出結果を、図15(a)〜(d)、及び、図16(a)〜(d)に示す。
【0174】
図15(a)〜(d)は、溝部41の底面41a内(線分XP上)のエッチレートER及びポリマー膜厚Tの変化特性であり、各図の横軸は線分XP上の位置であり、縦軸はエッチレートER又はポリマー膜厚Tである。なお、図15(a)、(b)、(c)及び(d)は、溝部41のアスペクト比をそれぞれ0.0、0.1、0.5及び1.0としたときの特性である。また、各図中の実線で示す特性はエッチレートERの特性であり、破線で示す特性はポリマー膜厚Tの特性である。さらに、各図の特性の横軸において、1(×20nm)の位置が線分XPの一方の端部の点Sであり、11(×20nm)の位置が他方の端部の点Qである。
【0175】
図15(a)〜(d)から明らかなように、溝部41のアスペクト比が大きくなると、底面41aの中央付近のエッチレートER及びポリマー膜厚Tはともに減少した。さらに、図15(b)及び(c)に示す結果では、底面41aの壁面付近のエッチレートER及びポリマー膜厚Tが、底面41aの中央付近のそれらより小さくなった。
【0176】
また、図16(a)〜(d)は、溝部41の底面41a内(線分XP上)のダメージ分布図である。なお、図16(a)、(b)、(c)及び(d)は、溝部41のアスペクト比をそれぞれ0.0、0.1、0.5及び1.0としたときの特性である。
【0177】
図16(a)〜(d)から明らかなように、底面41aの反応層42内のダメージ分布は、エッチレートER及びポリマー膜厚Tの溝部41のアスペクト比に対する変化に対応して変化することが分かった。
【0178】
次に、評価例5では、上記シミュレーション条件に加え、さらに、Cの流量を33sccmとして、溝部41の各種評価パラメータ、及び、これらの評価パラメータの線分XP上での変化特性を算出した。すなわち、低エッチレートで、かつ、ポリマー膜厚Tが厚くなる条件(高デポジション加工条件)において、溝部41の各種評価パラメータ、及び、これらの評価パラメータの線分XP上で変化特性を算出した。その算出結果を、図17(a)〜(d)、及び、図18(a)〜(d)に示す。
【0179】
図17(a)〜(d)は、溝部41の底面41a内(線分XP上)のエッチレートER及びポリマー膜厚Tの変化特性であり、各図の横軸は線分XP上の位置であり、縦軸はエッチレートER又はポリマー膜厚Tである。なお、図17(a)、(b)、(c)及び(d)は、溝部41のアスペクト比をそれぞれ0.0、0.1、0.5及び1.0としたときの特性である。また、各図中の実線で示す特性はエッチレートERの特性であり、破線で示す特性はポリマー膜厚Tの特性である。さらに、各図の特性の横軸において、1(×20nm)の位置が線分XPの一方の端部の点Sであり、11(×20nm)の位置が他方の端部の点Qである。
【0180】
図17(a)〜(d)から明らかなように、図15(a)〜(d)の結果と同様に、高デポジション加工条件においても、溝部41のアスペクト比が大きくなると、底面41aの中央付近のエッチレートER及びポリマー膜厚Tはともに減少した。さらに、図17(b)〜(d)に示す結果では、底面41aの壁面付近のエッチレートER及びポリマー膜厚Tが、底面41aの中央付近のそれらより小さくなった。
【0181】
また、図18(a)〜(d)は、溝部41の底面41a内(線分XP上)のダメージ分布図である。なお、図18(a)、(b)、(c)及び(d)は、溝部41のアスペクト比をそれぞれ0.0、0.1、0.5及び1.0としたときの特性である。
【0182】
図18(a)〜(d)から明らかなように、高デポジション加工条件においても、底面41aの反応層42内のダメージ分布が、エッチレートER及びポリマー膜厚Tの溝部41のアスペクト比に対する変化に対応して変化することが分かった。
【0183】
上記評価例5の結果から、底面41aにSi膜が形成された溝部41のエッチング処理において、溝部41のアスペクト比が大きくなることにより想定されるダメージ分布の変化を、本実施形態のシミュレータにより定量的に予測可能であることが分かった。
【0184】
(2)評価例6
評価例6では、溝部41の底面41aにSiO膜が形成されており、そのSiO膜をC(CF系ガス)、アルゴン(Ar)及び酸素(O)の混合ガス中でドライエッチングした場合の評価例を説明する。
【0185】
なお、溝部41の底面41aの形成膜を変えたこと以外の各種シミュレーション条件(プロセス条件及び計算パラメータの初期条件)は、上記評価例5と同様とした。また、ミュレーション計算に用いる各種反応粒子の総フラックス量Γもまた、評価例5と同様に実測値を用いた。
【0186】
まず、評価例6では、上記シミュレーション条件に加え、さらに、Cの流量を11sccm(低デポジション加工条件)として、溝部41の各種評価パラメータ、及び、これらの評価パラメータの線分XP上での変化特性を算出した。その算出結果を、図19(a)〜(d)、及び、図20(a)〜(d)に示す。
【0187】
図19(a)〜(d)は、溝部41の底面41a内(線分XP上)のエッチレートER及びポリマー膜厚Tの変化特性であり、各図の横軸は線分XP上の位置であり、縦軸はエッチレートER又はポリマー膜厚Tである。なお、図19(a)、(b)、(c)及び(d)は、溝部41のアスペクト比をそれぞれ0.0、0.1、0.5及び1.0としたときの特性である。また、各図中の実線で示す特性はエッチレートERの特性であり、破線で示す特性はポリマー膜厚Tの特性である。さらに、各図の特性の横軸において、1(×20nm)の位置が線分XPの一方の端部の点Sであり、11(×20nm)の位置が他方の端部の点Qである。
【0188】
図19(a)〜(d)から明らかなように、溝部41のアスペクト比が大きくなると、底面41aの中央付近のエッチレートER及びポリマー膜厚Tはともに減少した。さらに、図19(b)〜(d)に示す結果では、底面41aの壁面付近のエッチレートER及びポリマー膜厚Tが、底面41aの中央付近のそれらより小さくなった。
【0189】
また、図20(a)〜(d)は、溝部41の底面41a内(線分XP上)のダメージ分布図である。なお、図20(a)、(b)、(c)及び(d)は、溝部41のアスペクト比をそれぞれ0.0、0.1、0.5及び1.0としたときの特性である。
【0190】
図20(a)〜(d)から明らかなように、底面41aの反応層42内のダメージ分布は、エッチレートER及びポリマー膜厚Tの溝部41のアスペクト比に対する変化に対応して変化することが分かった。
【0191】
次に、評価例6では、上記シミュレーション条件に加え、さらに、Cの流量を33sccm(高デポジション加工条件)として、溝部41の各種評価パラメータ、及び、これらの評価パラメータの線分XP上での変化特性を算出した。その算出結果を、図21(a)〜(d)、及び、図22(a)〜(d)に示す。
【0192】
図21(a)〜(d)は、溝部41の底面41a内(線分XP上)のエッチレートER及びポリマー膜厚Tの変化特性であり、各図の横軸は線分XP上の位置であり、縦軸はエッチレートER又はポリマー膜厚Tである。なお、図21(a)、(b)、(c)及び(d)は、溝部41のアスペクト比をそれぞれ0.0、0.1、0.5及び1.0としたときの特性である。また、各図中の実線で示す特性はエッチレートERの特性であり、破線で示す特性はポリマー膜厚Tの特性である。さらに、各図の特性の横軸において、1(×20nm)の位置が線分XPの一方の端部の点Sであり、11(×20nm)の位置が他方の端部の点Qである。
【0193】
図21(a)〜(d)から明らかなように、図19(a)〜(d)の結果と同様に、高デポジション加工条件においても、溝部41のアスペクト比が大きくなると、底面41aの中央付近のエッチレートER及びポリマー膜厚Tはともに減少した。さらに、図21(b)〜(d)に示す結果では、底面41aの壁面付近のエッチレートER及びポリマー膜厚Tが、底面41aの中央付近のそれらより小さくなった。
【0194】
また、図22(a)〜(d)は、溝部41の底面41a内(線分XP上)のダメージ分布図である。なお、図22(a)、(b)、(c)及び(d)は、溝部41のアスペクト比をそれぞれ0.0、0.1、0.5及び1.0としたときの特性である。
【0195】
図22(a)〜(d)から明らかなように、高デポジション加工条件においても、底面41aの反応層42内のダメージ分布が、エッチレートER及びポリマー膜厚Tの溝部41のアスペクト比に対する変化に対応して変化することが分かった。
【0196】
上記評価例6の結果から、底面41aにSiO膜が形成された溝部41のエッチング処理において、溝部41のアスペクト比が大きくなることにより想定されるダメージ分布の変化を、本実施形態のシミュレータにより定量的に予測可能であることが分かった。
【0197】
また、上記評価例5及び評価例6で示したダメージ分布の評価結果から、CF系ガスでSiO膜をエッチングした場合、Si膜をエッチングした場合に比べて、ダメージが数倍程度大きくなることが分かる。この結果もCF系ガスでSiO膜をエッチングした際に想定される特徴であり、その特徴もまた、本実施形態のシミュレータで定量的に表現できることが分かった。
【0198】
上述のように、本実施形態のシミュレータ及びそれによるダメージ評価手法では、被加工体のダメージ評価領域が凹凸パターンであっても、パターン毎にダメージ分布を予測(評価)することができる。それゆえ、本実施形態では、通常の断面SEM(Scanning Electron Microscope)やTEMを用いる手法では観察困難となるような微細パターン領域のダメージ分布も、より短時間で精度よく机上予測することが可能になる。
【0199】
また、本実施形態では、ダメージのパターン依存性を予測(評価)することができるので、デバイス特性のばらつきを低減して信頼性を向上させることができる。さらに、本実施形態のシミュレータ及びそれによるダメージ評価手法を用いた場合には、開発TAT(Turn-around Time)の短縮や、試作ウエハの削減等も可能になり、コストを低減することが可能になる。
【0200】
また、本実施形態のシミュレータ及びそれによるダメージ評価手法では、上記第1の実施形態と同様に、フラックス法により、被加工体のダメージ分布を算出するので、上記第1の実施形態と同様の効果も得られる。
【0201】
以上のことから、本実施形態のシミュレータは、今後、さらに微細化するデバイスの設計において、ダメージのプロセス依存性やパターン依存性をより正確に予測するためのツールとして非常に有効である。
【0202】
<3.第3の実施形態>
通常、被加工体の表面に対して例えばエッチング等の加工処理を行うと、被加工体の表面形状が処理時間とともに変化する。その被加工体の表面形状の変化を算出するために、従来、例えばストリング法、レベルセット法、セルリムーバブル法等の手法を用いた形状進展モデルが提案されている。それゆえ、被加工体に対して例えばエッチング等の加工処理を行った際のダメージ評価をより詳細に行うためには、ダメージ分布の計算モデルと形状進展モデルとを結合(接続)させた評価システムを構築することが好ましい。
【0203】
しかしながら、従来の粒子法(例えば分子動力学計算法等)を用いたダメージ分布の計算モデルは、その計算量が膨大になるため、形状進展モデルとの結合は困難である。それに対して、上述した各種実施形態のダメージ分布の計算モデルでは、フラックス法を用いるので、その計算量を、粒子法を用いたものに比べて格段に小さくすることができる。それゆえ、上述した各種実施形態のダメージ分布の計算モデルは、形状進展モデルとの結合が容易になる。
【0204】
第3の実施形態では、上述した各種実施形態のダメージ分布の計算モデルと、形状進展モデルとを接続したシミュレーションシステム(シミュレータ)及びそれによるダメージ評価手法の一例を説明する。
【0205】
[結合モデルの概要]
図23に、上記各種実施形態のダメージ分布の計算モデルと形状進展モデルとの結合モデルの概略構成を示す。本実施形態では、形状進展モデルとして、ストリング法の形状進展モデルを用いた例を説明する。なお、本発明はこれに限定されず、例えばレベルセット法、セルリムーバブル法等の手法を用いた任意の形状進展モデルを用いることができる。
【0206】
ストリングス法を用いた形状進展モデルは、被加工体50の被加工面51の初期形状に対して、例えば1nm等の所定間隔で格子点を配置する、又は、例えば1nm等の所定の空間分解能を有するセルで区分する。図23に示す例では、被加工体50の被加工面51に所定間隔で格子点52を配置(設定)した例を示す。そして、本実施形態の結合モデルでは、各格子点52(各評価点)において、上記各種実施形態のダメージ分布の計算モデルを適用する。すなわち、図23に示すように、各格子点52にポリマー層22と、複数のスラブ21bで分割された反応層21aとを設定する。
【0207】
なお、ストリングス法を用いた形状進展モデルでは、例えばエッチング等の処理により時間とともに移動する被加工面51の各格子点52(又はセル)の座標を計算して、被加工面51の形状変化を算出する。例えば、図23中のインデックスjの格子点52の座標(x,y)の移動を下記式(18)で算出する。
【0208】
【数18】

【0209】
上記式(18)中のERjy(t)は、格子点jにおけるエッチレートER(t)の、被加工体50の深さ方向(図23中のy方向)のエッチレート成分である。一方、ERjx(t)は、格子点jにおけるエッチレートER(t)の、深さ方向と直交する方向(図23中のx方向:以下、水平方向という)のエッチレート成分である。
【0210】
インデックスjの格子点52におけるエッチレートER(t)は、上記各種実施形態で説明したダメージ分布の計算モデルで算出する。また、インデックスjの格子点52におけるエッチング方向(図23中の太実線矢印)は、上記式(18)から算出される格子点52の座標の時間変化(移動量)により算出することができる。それゆえ、上記式(18)中のERjy(t)及びERjx(t)は、ダメージ分布の計算モデルで算出されるエッチレートER(t)と、各格子点52の座標の移動量とから算出することができる。
【0211】
[シミュレーションシステムの構成]
次に、上記結合モデルを実現するためのシミュレーションシステムの構成例を説明する。図24に、本実施形態に係るシミュレーションシステム(シミュレータ)の概略ブロック構成を示す。なお、図24では、説明を簡略化するため、第2シミュレータ62内の入力部11の図示は省略する。
【0212】
シミュレーションシステム60は、被加工面51の形状の時間変化(以下、形状進展という)を計算する第1シミュレータ61と、被加工面51に設定された各格子点52(又はセル)におけるダメージ分布を計算する第2シミュレータ62とを備える。
【0213】
第1シミュレータ61は、形状進展演算部63と、形状進展演算部63に接続されたデータベース部64とを有する。
【0214】
形状進展演算部63は、上記式(18)に基づいて、被加工面51の形状進展を計算する。また、形状進展演算部63は、第2シミュレータ62で算出した各格子点52のエッチレートER(t)を取得する。そして、形状進展演算部63は、エッチレートER(t)及び形状進展の算出結果(座標移動量)に基づいて、各格子点52における被加工体50の深さ方向のエッチレート成分ERjy(t)、及び、水平方向のエッチレート成分ERjx(t)を算出する。
【0215】
また、形状進展演算部63は、被加工面51の形状進展の算出結果、及び、各格子点52の各種エッチレート成分をデータベース部64に出力する。これらの各種データは、次回の形状進展計算時に使用される。なお、この際、形状進展演算部63は、被加工面51の形状進展の計算結果を第2シミュレータ62に出力して、被加工面51の形状変化の様子を第2シミュレータ62の出力部14で表示するようにしてもよい。
【0216】
被加工面51の形状進展を計算する際、形状進展演算部63は、例えば、被加工面51の初期形状、格子点52(又はセル)の配置間隔、計算ステップΔT等の初期条件を、第2シミュレータ62を介して、又は、直接、外部から取得する。また、この際、形状進展演算部63は、例えば、各格子点52の座標、エッチレート等の過去の計算結果をデータベース部64から取得する。
【0217】
なお、本実施形態では、形状進展演算部63をハードウェアで構成して被加工面51の形状進展の各種計算処理を実現することも可能であるが、所定のプログラム(ソフトウェア)を用いて形状進展の各種計算処理を実行してもよい。この場合、形状進展演算部63を、例えばCPU等の演算装置で構成し、形状進展の計算処理のプログラム(形状進展プログラム)を外部から読み込み、そのプログラムを形状進展演算部63で実行することにより形状進展の各種計算処理を行う。
【0218】
また、形状進展プログラムは、例えば、データベース部64や、別途設けられる例えばROM等の記憶部などに格納することができる。この際、形状進展プログラムを、例えば、データベース部64や別途設けられた記憶部等に予め実装した構成にしてもよいし、外部から例えばデータベース部64や別途設けられた記憶部等に実装する構成にしてもよい。なお、外部から形状進展プログラムを取得する場合には、形状進展プログラムを、光ディスクや半導体メモリなどの媒体から配布するようにしてもよいし、インターネットなどの伝送手段を介してダウンロードするようにしてもよい。
【0219】
データベース部64は、形状進展計算に必要な各種パラメータ等のデータを格納する。例えば、データベース部64は、形状進展演算部63で計算された被加工面51の形状進展データや、各格子点52のエッチレート及び各種エッチレート成分などを格納する。
【0220】
第2シミュレータ62は、入力部11(図24では不図示)と、ダメージ演算部12と、データベース部13と、出力部14とを備える。本実施形態の第2シミュレータ62は、上記第1の実施形態(図1)で説明したシミュレータ10と同様の構成である。それゆえ、ここでは、第2シミュレータ62を構成する各部の説明を省略する。
【0221】
[ダメージ分布の算出処理]
次に、本実施形態のシミュレーションシステム60における被加工体50のダメージ分布の評価(算出)手法を、図25を参照しながら説明する。なお、図25は、本実施形態におけるダメージ分布の計算処理の手順を示すフローチャートである。
【0222】
まず、シミュレーションシステム60は、外部から入力されるシミュレーションの各種加工処理条件(各種プロセス条件及び各種計算パラメータの初期条件)を取得する(ステップS11)。この際、第1シミュレータ61及び第2シミュレータ62はともに直接、外部から加工処理条件を取得してもよい。また、この際、第1シミュレータ61及び第2シミュレータ62のうち、一方のシミュレータが直接、外部から加工処理条件を取得し、他方のシミュレータが一方のシミュレータを介して加工処理条件を取得してもよい。
【0223】
なお、ステップS11で取得する加工処理条件のうち、プロセス条件の項目は、例えば、ガスの種類、ガス流量、ガス圧力、被加工体50の温度、被加工面51の膜種、エッチング時間t0、イオン粒子23の入射エネルギーE等である。また、ステップS11で取得する計算パラメータの項目は、例えば、スラブ21bの初期厚さL、ポリマー膜厚Tの初期値、反応層21a及びイオン粒子23の最大侵入深さDp等である。
【0224】
次いで、第2シミュレータ62のダメージ演算部12は、取得した加工処理条件(特に、ガスの種類、ガス流量、ガス圧力)に基づいて、データベース部13を検索し、ダメージ計算に必要な各種パラメータを取得する(ステップS12)。ステップS12で取得する各種パラメータは、例えば、加工処理条件に対応する各種反応粒子のフラックス量Γ、各種反応確率、ガス中の各成分(例えば炭素(C)等)の割合等である。また、エッチング時の反応生成物パラメータ、被加工面51の形成膜の個数密度及び面密度等の各種パラメータもステップS12で取得する。
【0225】
なお、例えば、各種反応粒子のフラックス量Γの実測値が外部から取得可能である場合には、ダメージ演算部12は、ステップS12において、各種反応粒子のフラックス量Γを外部から取得してもよい。また、各種反応粒子のフラックス量Γに限らずステップS12で取得する各種パラメータを外部から直接入力してもよい。この場合には、ステップS12の処理を省略し、これらのダメージ計算に必要な各種パラメータをステップS11で取得してもよい。
【0226】
次いで、シミュレーションシステム60は、被加工体50の被加工面51の初期形状を設定する(ステップS13)。具体的には、シミュレーションシステム60は、格子点52(又はセル)の配置間隔、及び、各格子点52の初期座標等のパラメータを設定する。
【0227】
次いで、シミュレーションシステム60は、所定の格子点52を選択する。そして、ダメージ演算部12は、選択した格子点52において、ステップS11で取得したスラブ21bの初期厚さL、ポリマー膜厚Tの初期値及びイオン粒子23の最大侵入深さDpに基づいて、反応層21aを複数のスラブ21bで分割する(ステップS14)。具体的には、選択した格子点52において、上記第1の実施形態と同様に、初期厚さLの複数のスラブ21bで深さDp−Tの反応層21aを等分割する。
【0228】
次いで、ダメージ演算部12は、選択した格子点52において、加工処理条件及びそれに対応する各種パラメータを用いて、所定の時間tにおける各スラブ21bの反応面積率θ(t)を算出する(ステップS15)。具体的には、上記第1の実施形態で説明した上記式(1)〜(4)を用いて、選択した格子点52における各スラブ21bの反応面積率θ(t)を算出する。
【0229】
次いで、ダメージ演算部12は、選択した格子点52において、ステップS15で算出した各スラブ21bの反応面積率θ(t)を用いて、時間tにおけるエッチレートER(t)を算出する(ステップS16)。具体的には、上記第1の実施形態で説明した上記式(5)〜(8)を用いて、選択した格子点52におけるエッチレートER(t)を算出する。
【0230】
次いで、ダメージ演算部12は、選択した格子点52における時間tのポリマー膜厚T(t)を算出する(ステップS17)。具体的には、ステップS15及びS16でそれぞれ算出した各スラブ21bの反応面積率θ(t)及びエッチレートER(t)を用いて、上記第1の実施形態で説明した上記式(9)〜(12)によりポリマー膜厚T(t)を算出する。
【0231】
次いで、ダメージ演算部12は、現在の時間tがエッチング終了時間であるか否かを判定する(ステップS18)。具体的には、ダメージ演算部12は、計算開始からの経過時間が予め設定したエッチング時間t0であるか否かを判定する。
【0232】
ステップS18において、時間tがエッチング終了時間でない場合には、ステップS18はNO判定となる。
【0233】
この場合、第1シミュレータ61の形状進展演算部63は、選択した格子点52の時間tにおける座標(格子点52の形状進展)を算出する(ステップS19)。
【0234】
具体的には、ステップS19において、まず、形状進展演算部63は、選択した格子点52における1計算ステップ前の形状進展の計算結果(座標[x(t−1),y(t−1)])をデータベース部64から取得する。さらに、形状進展演算部63は、格子点52における1計算ステップ前の深さ方向のエッチレート成分ERjy(t−1)、及び、水平方向のエッチレート成分ERjx(t−1)のデータをデータベース部64から取得する。次いで、形状進展演算部63は、取得したこれらのデータを用いて上記式(18)により、選択した格子点52の時間tにおける座標[x(t),y(t)]を算出する。
【0235】
そして、選択した格子点52の時間tにおける座標を算出した後、ダメージ演算部12は、時間進展処理、すなわち、計算時間を更新(t=t+Δt)し(ステップS20)、ステップS15の処理に戻る。その後は、時間tがエッチング終了時間になるまで、ステップS15〜S20の処理を繰り返す。
【0236】
一方、ステップS18において、時間tがエッチング終了時間である場合には、ステップS18はYES判定となる。
【0237】
この場合、ダメージ演算部12は、選択した格子点52において、エッチング終了時のエッチレートERに対する各スラブ21bの寄与レートERの割合(重み)を考慮して、反応層21aを複数のスラブで再分割する(ステップS21)。この際、再分割後の各スラブ21bの厚さLは、上記第1の実施形態で説明した上記式(13)により算出する。
【0238】
次いで、ダメージ演算部12は、選択した格子点52における各スラブ21bのダメージ量を算出する(ステップS22)。具体的には、ダメージ演算部12は、上記第1の実施形態で説明した上記式(14)を用いて、各スラブ21bのダメージ量damage(k)を算出する。
【0239】
次いで、ダメージ演算部12は、全ての格子点52(又はセル)でダメージ計算が終了したか否かを判定する(ステップS23)。
【0240】
ステップS23において、全ての格子点52(又はセル)でダメージ計算が終了していない場合には、ステップS23はNO判定となる。この場合、シミュレーションシステム60は、選択する格子点52を変更する(ステップS24)。具体的には、上記一連のダメージ計算に用いる格子点52のインデックスjを更新する(j=j+1)。その後、ステップS14に戻り、全ての格子点52(又はセル)においてダメージ計算が終了するまで、ステップS14〜24の処理を繰り返す。
【0241】
一方、ステップS23において、全ての格子点52(又はセル)でダメージ計算が終了している場合には、ステップS23はYES判定となる。この場合、シミュレーションシステム60は、ダメージ分布の計算処理を終了する。本実施形態では、このようにして、被加工面51の形状変化を計算しつつ、被加工面51のダメージ分布を計算する。
【0242】
上述のように、本実施形態のシミュレーションシステム60及びダメージ評価手法では、被加工体の形状及びその形状変化を考慮して被加工体のダメージ分布を予測(評価)することができる。それゆえ、上記第2の実施形態と同様の効果が得られる。
【0243】
また、本実施形態では、上記第1の実施形態と同様に、フラックス法により、被加工体のダメージ分布を算出するので、上記第1の実施形態と同様の効果も得られる。
【0244】
なお、本実施形態のダメージ評価手法に、上記第2の実施形態で説明した立体角効果の算出処理を追加してもよい。この場合、被加工体のダメージのパターン依存性をより詳細に算出することができる。ただし、この場合、立体角効果の算出処理は、例えば、図25に示す本実施形態のダメージ計算処理のフローチャート中のステップS14(反応層を複数のスラブに分割する処理ステップ)の前に行えばよい。
【0245】
<4.第4の実施形態>
上記第2及び第3の実施形態で説明したシミュレータ(又はシミュレーションシステム)及びダメージ評価手法では、パターン毎に被加工体のダメージ分布を予測することができる。それゆえ、上記第2及び第3の実施形態のシミュレータは、パターン内のダメージを所定レベル以下にし、かつ、パターン内のダメージ均一性を最適化するためのマスク(レジストマスク)のパターンレイアウト設定(予測)ツールとして用いることができる。
【0246】
第4の実施形態では、上記第2又は第3の実施形態で説明したシミュレータ(又はシミュレーションシステム)をマスクのパターンレイアウト設定ツールとして用いた際の処理例を説明する。なお、本実施形態のシミュレータの構成は、図1又は図24に示す構成と同様であるので、ここでは、構成の説明を省略し、マスクのパターンレイアウトの最適化処理についてのみ説明する。
【0247】
本実施形態におけるマスクのパターンレイアウトの最適化処理を、図26を参照しながら説明する。なお、図26は、マスクのパターンレイアウトの最適化処理の手順を示すフローチャートである。
【0248】
まず、シミュレータは、マスクのGDS(Graphic Design System)ファイル(マスク情報)及び膜厚情報(初期値)、並びに、被加工体の加工処理条件を取得する(ステップS31)。
【0249】
次いで、シミュレータは、所望の評価パターン領域(注目パターン領域)を決定する(ステップS32)。なお、この注目パターン領域は、例えば、用途、ユーザーの希望等に応じて適宜決定される。また、この際、シミュレータは、注目パターン領域内に少なくとの一つの評価点(格子点又はセル)を設定する。
【0250】
次いで、シミュレータは、被加工体の注目パターン領域内に設定された各評価点における各スラブの反応面積率θ、並びに、反応層のエッチレートER及びポリマー膜厚Tを算出する(ステップS33)。
【0251】
この際、シミュレータとして上記第2の実施形態のシミュレータを用いた場合には、まず、注目パターン領域における簡易的な加工後のマスク形状(加工深さ、側壁面のテーパー角)を仮定する。そして、ダメージ演算部は、その仮定条件に基づいて、注目パターン領域内の各評価点における立体角分布(立体角効果の分布特性)を算出する。次いで、ダメージ演算部は、上記第2の実施形態と同様にして、算出した立体角効果を加味した各種反応粒子のフラックス量Γ′を用いて、各評価点における反応面積率θ、エッチレートER及びポリマー膜厚Tを算出する。
【0252】
一方、シミュレータとして上記第3の実施形態のシミュレーションシステムを用いた場合には、上記第3の実施形態と同様にして、注目パターン領域の形状進展を計算しつつ、各評価点における反応面積率θ、エッチレートER及びポリマー膜厚Tを算出する。
【0253】
また、シミュレータとして、上記第3の実施形態のシミュレータに上記第2の実施形態で説明した立体角効果の算出処理を追加したシミュレータを用いた場合には、次のようにして、評価点における上記各種評価パラメータを算出する。まず、シミュレータは、上記第2の実施形態と同様にして、注目パターン領域内の各評価点(格子点又はセル)における立体角分布(立体角効果の分布特性)を算出する。次いで、シミュレータは、上記第3の実施形態と同様にして、注目パターン領域の形状進展を計算しつつ、注目パターン領域内の各評価点における上記各種評価パラメータを、立体角効果を加味した各種反応粒子のフラックス量Γ′を用いて算出する。
【0254】
上述のようにして、注目パターン領域内の各評価点における上記各種評価パラメータを算出した後、ダメージ演算部は、各評価点において、上記第1の実施形態と同様にして、反応層を複数のスラブで再分割する(ステップS34)。この際、再分割後の各スラブの厚さLは、上記第1の実施形態で説明した上記式(13)により算出する。
【0255】
次いで、ダメージ演算部は、注目パターン領域内の各評価点における各スラブのダメージ量を算出し、各評価点のダメージ分布を求める(ステップS35)。この際、ダメージ演算部は、上記第1の実施形態で説明した上記式(14)を用いて、各スラブのダメージ量(damage(k))を算出する。
【0256】
次いで、ダメージ演算部は、ステップS35で算出した注目パターン領域のダメージ量が所望のダメージレベル以下であるか否かを判定する(ステップS36)。なお、このステップS36で閾値とする所望のダメージレベルは、例えば用途等に応じて適宜設定される。また、この所望のダメージレベルの情報は、予め設定され、シミュレータ内のデータベース部等に記憶される。
【0257】
ステップS36において、ステップS35で算出した注目パターン領域のダメージ量が所望のダメージレベルより大きい場合には、ステップS36はNO判定となる。この場合、シミュレータは、マスクのレイアウトパターンの形状(例えば膜厚、テーパー角、パターン間スペース等)を変動させる(補正する)(ステップS37)。
【0258】
なお、この際、例えば、1回のレイアウト変動処理当たりのパターン変動範囲を予め決めておき(例えば膜厚を±50%、テーパー角を±5%、パターン間スペースを±100%)、その変動範囲にしたがってマスクのレイアウトパターンを段階的に変動させてもよい。また、レイアウト変動処理毎に任意の変動量でマスクのレイアウトパターンを変動させてもよい。
【0259】
そして、ステップS37でマスクのレイアウトパターンを変動した後、ステップS33に戻る。その後、シミュレータは、再度、ステップS33〜S35の処理を行い、変動後のレイアウトパターンで、注目パターン領域のダメージ量を算出する。このステップS33〜S37の処理は、注目パターン領域のダメージ量が所望のダメージレベル以下になるまで繰り返される。
【0260】
一方、ステップS36において、ステップS35で算出した注目パターン領域のダメージ量が所望のダメージレベル以下である場合には、ステップS36はYES判定となる。この場合、シミュレータ内の出力部は、算出した注目パターン領域のダメージ分布を可視化する(ステップS38)。この際、出力部は、例えば、評価結果を表示装置等に表示してもよいし、表示結果を印刷して出力してよい。そして、注目パターン領域のダメージ分布を可視化が完了した後、シミュレータは、マスクのパターンレイアウトの最適化処理を終了する。
【0261】
このようにしてマスクのパターンレイアウトを設定することにより、評価パターン内のダメージ量を所定レベル以下にし、かつ、ダメージ量の空間ばらつきを抑制(ダメージ均一性を向上)することのできるパターンレイアウトを自動的に抽出することができる。
【0262】
また、本実施形態では、被加工体の評価点の周囲に形成されるレジストの形状を変動させながら、ダメージ分布の評価(予測)を行う。それゆえ、本実施形態では、レジスト形状及びダメージ低減の両方を考慮したOPC(Optical Proximity Correction)の最適化を実現することができる。
【0263】
さらに、本実施形態では、上記第1の実施形態と同様に、フラックス法により被加工体のダメージ分布を算出するので、マスクのパターンレイアウトの設定処理をより高速に行うことができる。
【0264】
<5.第5の実施形態>
上記第1〜第3の実施形態のシミュレータ(シミュレーションシステム)では、フラックス法により、被加工体のダメージ分布を算出するので、より高速に被加工体のダメージ分布を算出することができる。それゆえ、上記第1〜第3の実施形態のシミュレータ(シミュレーションシステム)を例えばエッチング装置等の加工装置に搭載した場合には、プロセス中に被加工体のダメージ分布を随時、評価(予測)及び制御することが可能になる。
【0265】
そこで、第5の実施形態では、加工装置の一例としてドライエッチング装置を挙げ、そのドライエッチング装置に上記第3の実施形態で説明したシミュレーションシステムを搭載した例を説明する。
【0266】
[エッチング装置の構成]
図27に、本実施形態に係るドライエッチング装置の概略ブロック構成を示す。ドライエッチング装置100(加工装置)は、エッチングチャンバー101(加工部)と、制御システム102(制御部)と、シミュレーションシステム60(シミュレータ)とを備える。なお、図27では、説明を簡略化するため、第2シミュレータ62内の入力部11の図示は省略する。
【0267】
エッチングチャンバー101は、例えば、CCP型、ICP(Inductive Coupled Plasma)型、ECR(Electron Cyclotron Resonance)型等のチャンバーで構成することができる。また、エッチングチャンバー101の内部には、発光分光分析装置OES、質量分析装置QMS、及び、エネルギースペクトルアナライザーが実装される。
【0268】
なお、発光分光分析装置OES及び質量分析装置QMSでは、エッチングチャンバー101内の状態により変動する各種反応粒子(反応ガス)のフラックス量Γをモニタする。また、エネルギースペクトルアナライザーでは、入射イオンのエネルギーEを測定する。
【0269】
また、エッチングチャンバー101は、被加工体の加工中に、発光分光分析装置OES、質量分析装置QMS、及び、エネルギースペクトルアナライザーにより、所定間隔(例えば1秒毎)で、チャンバー内部の状態をモニタする。なお、このモニタリング間隔は、シミュレーションシステム60でダメージ分布を計算する際の計算ステップΔtと同じ、又は、それ以下とすることが好ましい。
【0270】
さらに、エッチングチャンバー101は、シミュレーションシステム60に電気的に接続されており、モニタしたチャンバー内部の状態を示す各種情報(フラックス量や入射イオンエネルギーなど)をシミュレーションシステム60に出力する。
【0271】
制御システム102は、シミュレーションシステム60から入力されるダメージ分布の計算結果に基づいて、エッチングチャンバー101の各種プロセスパラメータ(例えば、ガス流量、ガス圧力、ウエハ温度、エッチング時間等)を補正する。また、制御システム102は、エッチングチャンバー101と電気的に接続されており、補正した各種プロセスパラメータをエッチングチャンバー101に出力し、エッチング条件を制御する。
【0272】
シミュレーションシステム60は、上記第3の実施形態(図24)で説明したシミュレーションシステムと同様の構成である。それゆえ、ここでは、シミュレーションシステム60を構成する各部の説明は省略する。
【0273】
シミュレーションシステム60は、エッチングチャンバー101から入力される各種モニタ情報を用い、上記第3の実施形態と同様にして、被加工体の形状進展及びダメージ分布を計算する。また、シミュレーションシステム60は、制御システム102に電気的に接続されており、算出したダメージ分布を制御システム102に出力する。
【0274】
なお、本実施形態において、各種反応粒子のフラックス量Γの取得手法は、上記手法(モニタ値を取得する)に限定されない。例えば、エッチングチャンバー101からは各種プロセス条件(例えば、ガス流量、ガス圧力、ウエハ温度、エッチング時間等)のみを取得し、ダメージ演算部12が、それらの情報に基づいて、各種反応粒子のフラックス量Γを算出してもよい。
【0275】
また、様々なプロセス条件に対応する各種反応粒子のフラックス量Γを予めデータベース部13に記憶しておき、ダメージ演算部12が入力されたプロセス条件に基づいてデータベース部13を検索し、対応するフラックス量Γを取得するようにしてもよい。ただし、入力される各種プロセス条件に対応するフラックス量Γがデータベース部13に存在しない場合には、ダメージ演算部12が入力されたプロセス条件に近い条件でのデータを補間処理して、対応する各種反応粒子のフラックス量Γを算出してもよい。
【0276】
このような手法で各種反応粒子のフラックス量Γを取得した場合には、エッチングチャンバー101に各種反応粒子のフラックス量Γをモニタする機器を設けなくてもよい。
【0277】
[エッチング処理の制御手法]
次に、本実施形態のドライエッチング装置100におけるエッチング処理の制御手法を、図28を参照しながら説明する。なお、図28は、本実施形態におけるエッチング処理の制御手法の手順を示すフローチャートである。
【0278】
まず、ドライエッチング装置100は、外部から入力される各種加工処理条件(各種プロセス条件及び各種計算パラメータの初期条件)を取得する(ステップS41)。この際、例えば、ガスの種類、ガス流量、ガス圧力、ウエハ温度、エッチング時間等のプロセス条件はエッチングチャンバー101に入力される。また、この際、ダメージ計算に必要な、例えば、被加工体の形成材料、被加工面の初期形状、スラブの初期厚さL、ポリマー膜厚Tの初期値、イオン粒子の最大侵入深さDp等の計算パラメータは、シミュレーションシステム60に入力される。
【0279】
次いで、エッチングチャンバー101は、ステップS41で取得したプロセス条件、又は、制御システム102で補正されたプロセスパラメータに基づいて、エッチング処理を行う(ステップS42)。この際、エッチングチャンバー101は、チャンバー内部の状態を示す例えば各種反応粒子(反応ガス)のフラックス量や入射イオンエネルギーなどの情報を所定間隔(例えば1秒毎)でモニタし、その各種モニタ情報をシミュレーションシステム60に出力する。
【0280】
次いで、ドライエッチング装置100は、エッチング処理を終了するか否かを判定する(ステップS43)。具体的には、ドライエッチング装置100は、エッチング処理開始からの経過時間がエッチング時間に到達したか否かを判定する。
【0281】
ステップS43において、エッチング処理開始からの経過時間がエッチング時間に到達していない場合には、ステップS43はNO判定となる。この場合、ドライエッチング装置100は、ステップS42のエッチング処理を継続する。一方、ステップS43において、エッチング処理開始からの経過時間がエッチング時間に到達している場合には、ステップS43はYES判定となる。この場合、ドライエッチング装置100は、エッチング処理を終了する。
【0282】
ここで、ステップS42の処理中に行うエッチングプロセスの制御処理(図28中の一点鎖線で囲まれた領域のフローチャート)を説明する。
【0283】
まず、シミュレーションシステム60は、ステップS41で取得した各種計算パラメータ、及び、エッチングチャンバー101から入力される各種モニタ情報に基づいて、被加工体の形状進展及びダメージ分布を算出する(ステップS44)。
【0284】
この際、シミュレーションシステム60は、上記第3の実施形態と同様にして、被加工体の形状進展(被加工面の形状変化)及びダメージ分布を算出する。そして、シミュレーションシステム60は、シミュレーション結果を制御システム102に出力する。
【0285】
次いで、制御システム102は、シミュレーションシステム60で算出された被加工体のダメージ量が所望のダメージレベル以下であるか否かを判定する(ステップS45)。
【0286】
ステップS45において、シミュレーションシステム60で算出された被加工体のダメージ量が所望のダメージレベル以下である場合には、ステップS45はYES判定となる。この場合、制御システム102は、各種プロセスパラメータを補正しない旨の信号をエッチングチャンバー101に出力する。
【0287】
一方、ステップS45において、シミュレーションシステム60で算出された被加工体のダメージ量が所望のダメージレベル以下でない場合には、ステップS45はNO判定となる。この場合、制御システム102は、被加工体のダメージ量が小さくなるように、各種プロセスパラメータの補正計算を行う(ステップS46)。
【0288】
次いで、制御システム102は、補正した各種プロセスパラメータをエッチングチャンバー101に出力し、エッチング条件を制御する(ステップS47)。本実施形態では、このようにして、シミュレーションシステム60の計算結果に基づいて、エッチング処理を制御する。
【0289】
上述のように、本実施形態では、フラックス法により被加工体のダメージ分布を算出するシミュレーションシステム60をドライエッチング装置100に搭載しているので、プロセス中に被加工体のダメージ分布を随時、評価(予測)及び制御することができる。それゆえ、本実施形態では、生産ラインにおける被加工体の歩留まりを向上させることができる。
【0290】
なお、本実施形態では、ドライエッチング装置100が、例えばFDC(Fault Detection and Classification)/EES(Equipment Engineering System)システム等の警報装置を備えていてもよい。この場合、エッチング処理中に所定間隔(例えば1秒毎)でシミュレーションシステム60により計算されるダメージ量が例えばFDCで設定される仕様値を越えた際に、アラームを発して、ドライエッチング装置100を停止させることができる。
【0291】
また、本実施形態では、ドライエッチング装置100に上記第3の実施形態で説明したシミュレーションシステム60を搭載した例を説明したが、本発明はこの例に限定されない。例えば、上記第1又は第2の実施形態で説明したシミュレータもドライエッチング装置100に同様に搭載可能であり、その場合も同様の効果が得られる。
【0292】
<6.第6の実施形態>
上記各種実施形態では、入力される加工処理条件に基づいて、被加工体のダメージ分布をダメージ演算部12で直接、算出する例を説明したが、本発明はこれに限定されない。予め、様々な加工処理条件の下で、上記各種実施形態のシミュレータにより計算されたダメージデータをデータベース部13に記憶し、該記憶したダメージデータを用いてダメージ評価を行う構成にしてもよい。
【0293】
すなわち、様々な加工処理条件の下で、フラックス法により算出されたダメージデータをデータベース化し、そのデータベースのデータを用いて被加工体のダメージを予測(評価)してもよい。第6の実施形態では、その一構成例を説明する。
【0294】
第6の実施形態のシミュレータ(又はシミュレーションシステム)の構成は、上記各種実施形態と同様(例えば、図1、図24等参照)となる。ただし、本実施形態では、ダメージ演算部12の処理内容は、上記各種実施形態と異なり、次のようにして、ダメージを取得(算出)する。
【0295】
まず、ダメージ演算部12は、入力部11を介して入力された各種加工処理条件(例えば、被加工体の形成材料、ガス種、ガス圧力、ガス流量、被加工体の温度、処理時間等の条件)を取得する。次いで、ダメージ演算部12は、取得した加工処理条件に基づいて、データベース部13を検索し、加工処理条件に対応するダメージデータを取得する。そして、ダメージ演算部12は、取得したダメージデータを出力部14に出力する。
【0296】
なお、データベース部13に取得した加工処理条件に対応するダメージデータが無い場合には、例えば、次のようにして加工処理条件に対応するダメージデータを算出することができる。この場合、まず、ダメージ演算部12は、入力された加工処理条件に近い条件のダメージデータをデータベース部13から取得する。そして、ダメージ演算部12は、取得したそれらのダメージデータから補間処理により、入力された加工処理条件に対応するダメージデータを算出する。
【0297】
上述のように本実施形態のシミュレータでは、予め作成されたダメージのデータベースを用いて被加工体のダメージを予測(評価)するので、より一層高速に被加工体のダメージを予測(評価)することができる。なお、本実施形態のシミュレータは、上記第1〜4の実施形態で説明したシミュレータと同様に、シミュレータ単体として用いることもできるが、上記第5の実施形態のように、例えばエッチング装置等の加工装置に搭載することもできる。
【0298】
上述した各種実施形態では、被加工体に対してドライエッチング処理を行った際のダメージを評価するためのシミュレータ(シミュレーションシステム)及びダメージ評価手法について説明したが、本発明は、これに限定されない。
【0299】
上記各種実施形態のシミュレータ及びダメージ評価手法は、例えばイオン粒子等の反応粒子の入射により所定の加工処理を行う処理(例えば、PVD、イオン注入等のプロセス)であれば任意の処理に適用可能であり、同様の効果が得られる。また、上記各種実施形態のシミュレータを搭載する加工装置もドライエッチング装置に限定されず、反応粒子の入射により所定の加工処理を行う任意の加工装置に搭載可能であり、同様の効果が得られる。
【0300】
なお、上記各種実施形態のシミュレータ及びダメージ評価手法を適用する加工処理(加工装置)の種類が変わると、その加工処理に応じて被加工体表面での反応モデルも変化する。それゆえ、このような場合には、加工処理に応じて適宜反応モデルを変更する必要がある。しかしながら、このような場合であっても、ダメージの算出アルゴリズムは上記各種実施形態で説明したアルゴリズムをそのまま適用することができる。
【符号の説明】
【0301】
10…シミュレータ、11…入力部、12…ダメージ演算部、13,64…データベース部、14…出力部、20…プラズマ、21…SiO膜(被加工体)、21a,42…反応層、21b…スラブ、22…ポリマー層、23…イオン、40,50…被加工体、41…溝部、51…被加工面、52…格子点、60…シミュレーションシステム、61…第1シミュレータ、62…第2シミュレータ、63…形状進展演算部、100…ドライエッチング装置、101…エッチングチャンバー、102…制御システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工体に対して所定の加工処理を行う際の処理条件を取得する入力部と、
前記所定の加工処理時に外部から前記被加工体の所定の評価点に入射される第1物質の量と該第1物質の入射により前記被加工体の該所定の評価点から放出される第2物質の量との関係をフラックス法で計算することにより得られる前記被加工体のダメージを、前記処理条件に基づいて取得するダメージ演算部と
を備えるシミュレータ。
【請求項2】
前記ダメージ演算部が、前記処理条件に基づいて、前記フラックス法により前記被加工体のダメージを算出する
請求項1に記載のシミュレータ。
【請求項3】
前記ダメージ演算部は、前記被加工体の前記所定の評価点に所定厚さの複数のスラブで分割された所定深さの反応層を設定し、各スラブで、前記第1物質の量と前記第2物質の量との関係を前記フラックス法で計算する
請求項2に記載のシミュレータ。
【請求項4】
前記ダメージ演算部は、前記所定の加工処理に対する各スラブの寄与レートを算出し、該算出した寄与レートに基づいて対応する前記スラブの厚さを再計算し、該再計算された各スラブの厚さと、対応する各スラブの反応面積率とをそれぞれ積算して各スラブの前記ダメージを算出する
請求項3に記載のシミュレータ。
【請求項5】
さらに、前記算出された前記被加工体のダメージの分布を表示する出力部を備える
請求項4に記載のシミュレータ。
【請求項6】
前記所定の加工処理が、エッチング処理である
請求項5に記載のシミュレータ。
【請求項7】
前記ダメージ演算部が、前記所定の評価点から前記第1物質の入射側に向かって見通すことのできる視野領域に対応する立体角を算出し、該算出した立体角に基づいて、前記所定の評価点に入射される前記第1物質の量を補正する
請求項2に記載のシミュレータ。
【請求項8】
さらに、前記所定の加工処理により変化する前記被加工体の被加工面の形状を計算する形状進展演算部を備える
請求項1に記載のシミュレータ。
【請求項9】
さらに、予め、前記所定の加工処理の各種処理条件で、前記第1物質の量と前記第2物質の量との関係を前記フラックス法で計算することにより得られた前記被加工体のダメージのデータを記憶したデータベースを備え、
前記ダメージ演算部は、前記入力部を介して取得した処理条件に基づいて、前記データベースを検索し、該処理条件に対応するダメージを取得する
請求項1に記載のシミュレータ。
【請求項10】
前記入力部が、前記被加工体上に形成するマスクのレイアウトパターンの形状データの初期値を取得し、
前記ダメージ演算部が、前記加工体上に前記マスクを形成した状態での前記被加工体のダメージを取得し、該取得したダメージに基づいて、前記マスクのレイアウトパターンの前記形状データを補正する
請求項1に記載のシミュレータ。
【請求項11】
被加工体に対して所定の加工処理を行う加工部と、
前記加工部で前記所定の加工処理を行う際の処理条件を取得する入力部、並びに、前記所定の加工処理時に外部から前記被加工体の所定の評価点に入射される第1物質の量と該第1物質の入射により前記被加工体の該所定の評価点から放出される第2物質の量との関係をフラックス法で計算することにより得られる前記被加工体のダメージを、前記処理条件に基づいて取得するダメージ演算部を有するシミュレータと、
前記シミュレータで得られた前記被加工体のダメージに基づいて、前記加工部における前記所定の加工処理の前記処理条件を補正する制御部と
を備える加工装置。
【請求項12】
被加工体に対して所定の加工処理を行う際の処理条件を取得するステップと、
前記所定の加工処理時に外部から前記被加工体の所定の評価点に入射される第1物質の量と、該第1物質の入射により前記被加工体の該所定の評価点から放出される第2物質の量との関係をフラックス法で計算することにより得られる前記被加工体のダメージを前記処理条件に基づいて取得するステップと
を含むダメージ評価方法。
【請求項13】
被加工体に対して所定の加工処理を行う際の処理条件を取得する処理と、
前記所定の加工処理時に外部から前記被加工体の所定の評価点に入射される第1物質の量と、該第1物質の入射により前記被加工体の該所定の評価点から放出される第2物質の量との関係をフラックス法で計算することにより得られる前記被加工体のダメージを前記処理条件に基づいて取得する処理と
を情報処理装置に実装して実行させるダメージ評価プログラム。


【図1】
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【図4】
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【図6】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図17】
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【図19】
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【図21】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図16】
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【図18】
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【図20】
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【図22】
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【公開番号】特開2012−134271(P2012−134271A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−284130(P2010−284130)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】