説明

シランカップリング剤溶液の製造方法、シランカップリング剤溶液、表面処理方法、位相差板の製造方法、位相差板、光学フィルム、及び画像表示装置

【課題】 基材との密着性が非常に優れるシランカップリング剤溶液の製造方法、シランカップリング剤溶液を提供することを課題とする。
【解決手段】有機ケイ素化合物と水とアルコールとを少なくとも混合することによりシランカップリング剤溶液を製造する際 有機ケイ素化合物と水とアルコールとを混合した後、3時間以上経過させて有機ケイ素化合物をシラノール化することによりシランカップリング剤溶液の製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シランカップリング剤溶液の製造方法、シランカップリング剤溶液、それを用いた基材の表面処理方法、及び位相差板の製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
シランカップリング剤は、例えば、無機材料と有機材料のように、相互になじみの悪い材質から形成される層を積層する際に、両者の密着性を向上させる表面改質材として一般に使用されている。シランカップリング剤は、次に示すような化学結合によって、前記両者の密着性を向上させることができる。例えば、ガラス板上にポリマー層を形成する場合、まず、ガラス板表面に、一端にシラノール基を有するシランカップリング剤を接触させる。これによって、シラノール基と、ガラス板の反応官能基(例えば、水酸基)とが化学反応により結合し、ガラス板上にシランカップリング剤の一端が結合した表面改質層が形成される。そして、この上にポリマー層を形成すると、表面改質層の表面、すなわち、シランカップリング剤の他端の反応官能基と、ポリマーの反応官能基とが化学反応により結合する。このようにシランカップリング剤を用いれば、ガラス板とポリマー層とがカップリング剤を介して結合し、ガラス板とポリマー層との密着性が向上するのである。
【0003】
ところで、シランカップリング剤は、上記のように、一般にシラノール基を介して他の部材の反応官能基と化学結合する。このシラノール基は水溶液中で形成されることから、通常、シランカップリング剤は、有機ケイ素化合物を水に溶解することによって調製される。しかしながら、このようにして調製されたシランカップリング剤水溶液を、例えば、表面に水酸基を有する基材に塗布すると、シランカップリング剤がはじかれ、シランカップリング剤を基材表面に均一に塗布できない場合がある。
このため、従来は、有機ケイ素化合物を、水とアルコールが混合されたアルコール水溶液に溶解させることにより使用している。
しかしながら、有機ケイ素化合物をアルコール水溶液に混合した場合、有機ケイ素化合物を水に溶解させた場合に比べて、得られるシランカップリング剤溶液は、基材との密着性が低いという問題点がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記問題点に鑑みて、より密着性に優れるシランカップリング剤溶液の製造方法、及びシランカップリング剤溶液等を提供することを課題とするもである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、上記課題に鑑みて、鋭意研究した結果、下記の主たる手段により上記課題を解決できることを見出した。
すなわち、本発明は、有機ケイ素化合物と水とアルコールとを少なくとも混合した後、3時間以上経過させて前記有機ケイ素化合物をシラノール化するシランカップリング剤溶液の製造方法に係る。
かかる製法によって得られるシランカップリング剤溶液は、アルコールが添加されているので基材上に略均一な表面改質層を形成することができ、さらに、シラノール基の生成量の向上により、基材との密着性が非常に優れている。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係るシランカップリング剤溶液の製造方法によれば、より多くのシラノール基を有するシランカップリング剤を得ることができる。
かかる製法によって得られるシランカップリング剤溶液は、基材上に略均一な表面改質層を形成することができ、該表面改質層は、基材との密着性に優れている。従って、本発明によれば、層間を密着させるために好適なシランカップリング剤溶液を提供することができる。
特に、本発明の製造方法で得られたシランカップリング剤を、基材上に光学異方性層を積層した位相差板の製法に利用すれば、例えば、取り扱い時にその界面から剥がれることなく、極めて有用な位相差板を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明のシランカップリング剤溶液の製造方法について説明する。まず、水とアルコールと有機ケイ素化合物を混合して、有機ケイ素化合物溶液を調製する。これにより、有機ケイ素化合物の末端のシリル基が加水分解され、シラノール基が形成される。
【0008】
有機ケイ素化合物としては、例えば、下記一般式(I)で表される化合物を使用できる。
【0009】
【化5】

【0010】
一般式(I)において、Xは、例えば、ハロアルキル基、メルカプト基、アルキルスルファニル基、アミノ基、イソシアナト基、ウレイド基、下記一般式(a)で示される基又は下記一般式(b)で示される基を示す。
、R及びRは、例えば、水素原子、アルコキシ基又はアルキル基を示し、これらの少なくとも1つは、アルコキシ基である。これらR、R及びRは同一であっても異なっていてもよいが、全てがアルコキシ基であることが好ましい。nは、例えば、1から10の整数、好ましくは1から5の整数を示す。
【0011】
【化6】

【0012】
なお、一般式(a)において、Y、Y、Y及びZは任意の置換基であり、一般式(b)において、Y、Y、Y及びZは任意の置換基である。
【0013】
上記アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基等があげられ、好ましくはメトキシ基、エトキシ基である。なお、R、R及びRは、アルコキシ基の他に、例えば、加水分解反応によって水酸基となるものであってもよく、この場合、R、R及びRの少なくとも1つ、又は全部が加水分解反応によって水酸基となる基であってもよい。
【0014】
一般式(I)において、Xが一般式(a)である場合、Y、Y及びYは、例えば、水素原子、アルキル基及びアリール基からなる群から選択され、これらは同一であっても異なっていてもよい。また、Zは、例えば、結合手、下記化学式(1)、下記化学式(2)及び下記化学式(3)からなる群から選択される。
【0015】
【化7】

【0016】
一般式(I)において、Xが一般式(b)である場合、Y、Y及びYは、例えば、水素原子、アルキル基及びアリール基からなる群から選択され、これらは同一であっても異なっていてもよい。また、Zは、例えば、結合手、上記化学式(1)、前記化学式(2)及び前記化学式(3)からなる群から選択される。
【0017】
一般式(I)において、上記アルキル基、ハロアルキル基及びアルキルスルファニル基等の「アルキル」部分は、例えば、1から6個の炭素原子を有する直鎖又は分岐鎖アルキルを示し、具体例としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル等があげられる。中でも、1から4個の炭素原子を有するものが好ましく、メチルがより好ましい。
【0018】
上記ハロアルキル基における「ハロゲン」としては、例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等があげられ、例えば、クロロメチル基、フルオロメチル基、ヨウ化メチル基、トリフルオロメチル基、クロロエチル基、フルオロエチル基、ヨウ化エチル基、クロロプロピル基等があげられる。
【0019】
上記アリール基としては、例えば、6から20個の炭素原子を有する芳香族炭化水素基があげられ、中でもフェニル基、ナフチル基、アントラニル基等が好ましい。
【0020】
また、上記一般式(I)で表される有機ケイ素化合物の具体例としては、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等があげられ、中でもγ−アクリロキシプロピルトリメトキシシランが好ましい。これらは、1種類で使用しても、2種類以上を併用してもよい。
【0021】
また、上記有機ケイ素化合物は、不飽和炭化水素基を有することが好ましい。不飽和炭化水素基を有する有機ケイ素化合物としては、例えば、ビニル基を含む有機ケイ素化合物があげられ、具体例としては、例えば、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等があげられる。
【0022】
アルコールとしては、例えば、イソプロピルアルコール、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、イソブチルアルコール、n−ブチルアルコール、2−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)等が使用でき、好ましくはイソプロピルアルコール、エタノール、メタノール、1−プロパノール、2−プロパノールである。アルコールは、1種類でもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0023】
水とアルコールとの配合比は、適宜調整されるものであって特に限定されないが、例えば、重量比で1:1〜1:1000であり、好ましくは1:2〜1:500であり、より好ましくは1:5〜1:100である。
さらに、有機ケイ素化合物とアルコールとの配合比は、適宜調整されるものであって特に限定されないが、シラノール化の反応速度を調整する観点から、例えば、重量比で1:10〜1:1000であることが好ましく、より好ましくは1:20〜1:500であり、さらに好ましくは1:30〜1:200である。
また、有機ケイ素化合物と水との配合比は、適宜調整されるものであって特に限定されないが、例えば、重量比で1:50〜10:1であることが好ましく、より好ましくは1:20〜8:1であり、さらに好ましくは1:10〜5:1である。
【0024】
また、有機ケイ素化合物と水とアルコールを混合する際に、さらに、酸、アルカリ等の触媒等を混合してもよい。このような触媒を混合することによって、有機ケイ素化合物の加水分解をさらに促進し、また、加水分解によって形成されるシラノール基のシランカップリング剤溶液における安定性をさらに向上できる。かかる触媒としては、例えば、酢酸、ギ酸、塩酸、無水酢酸、硫酸、硝酸、シュウ酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、ピバリン酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、アンモニア等があげられ、好ましくは無水酢酸、酢酸、シュウ酸である。これらの触媒は、例えば、水とアルコールが混合されたアルコール水溶液に予め添加しておいてもよく、又は、該アルコール水溶液に有機ケイ素化合物を混合する際、若しくは該水溶液に有機ケイ素化合物を混合した直後など、適時に混合すればよい。
【0025】
上記触媒量は、例えば、有機ケイ素化合物と触媒との重量比で100:1〜1:10であることが好ましく、より好ましくは50:1〜1:8であり、さらに好ましくは20:1〜1:5である。この際、水と触媒との重量比は、例えば、1000:1〜1:2であり、好ましくは500:1〜1:1.5であり、より好ましくは100:1〜1:1である。
【0026】
有機ケイ素化合物と水とアルコールの混合手順は、特に限定されず、水とアルコールを混合してアルコール水溶液を作製し、これに有機ケイ素化合物を添加する方法、水にアルコールと有機ケイ素化合物を同時に又は前後して添加する方法、アルコールに水と有機ケイ素化合物を同時に又は前後して添加する方法などがあげられる。一般的には、例えば、アルコール水溶液を撹拌しながら、有機ケイ素化合物を滴下する方法が好ましい。
尚、全ての剤を混合した後、必要に応じて、有機ケイ素化合物が十分に混ざるまで数分程度攪拌してもよい。
【0027】
有機ケイ素化合物を混合して有機ケイ素化合物溶液を調製した後、これを3時間以上経過するまで置いておくことにより、有機ケイ素化合物の多くがシラノール化され、密着性に優れたシランカップリング剤溶液を得ることができる。これより短いと、有機ケイ素化合物が十分にシラノール化しないからである。一方、これらを混合した後、余りに長時間経過させると、シラノール化した有機ケイ素化合物が結合し合う結果、基材と化学結合しない分子が多くなる虞があるため、72時間を超えない程度経た後、シランカップリング剤溶液として使用することが好ましい。
この3時間以上経過するまでの間は、有機ケイ素化合物溶液を放置(静置)しておいても良いが、シラノール化を促進するために、攪拌(振動を加えること等を含む)することが好ましい。また、攪拌は、継続して行うことが好ましいが、攪拌と放置を断続的に繰り返すようにしてもよい。
また、有機ケイ素化合物溶液は、シラノール化の反応速度を安定させるため、10〜40℃下、好ましくは、20〜30℃下で、上記放置又は攪拌などを行うことが好ましい。
【0028】
上記のように有機ケイ素化合物と水とアルコールの全量を混合した後、所定時間の経過を待つことにより、本発明のシランカップリング剤溶液を得ることができる。
本発明のシランカップリング剤溶液の製造方法により、そのシラノール化率(%)が、例えば、40%〜100%、好ましくは60%〜100%、より好ましくは80%〜100%のシランカップリング剤溶液を得ることができる。従来の製造方法では、シラノール化率が、例えば、1%〜20%程度であるが、本発明によれば、このように高いシラノール化率を実現することができる。
【0029】
上記シラノール化率(%)は、例えば、有機ケイ素化合物の末端シリル基における加水分解反応によって生成した加水分解物の量から算出できる。具体的には、有機ケイ素化合物が、例えば、その末端にアルコキシシリル基を有する場合、加水分解によってアルコールが生成される。したがって、まず、シランカップリング剤溶液中のアルコール生成量(S)を、例えば、ガスクロマトグラフィーにより定量する。一方、シランカップリング
剤溶液中の有機ケイ素化合物量から、理論上のアルコール生成量(S)を算出する。そ
して、測定したアルコール生成量(S)と理論上のアルコール生成量(S)とを用いて、下記式より、アルコール生成率(%)を算出し、これをシラノール化率とする。例えば、有機ケイ素化合物の末端がメトキシ基の場合、生成されるアルコールはメタノールであり、エトキシ基の場合には、エタノールとなる。
シラノール化率(アルコール生成率)(%)=(S/S)×100
【0030】
なお、上記理論上のアルコール生成量(S)は、例えば、以下のようにして算出する
。まず、シランカップリング剤溶液に溶解させた有機ケイ素化合物の重量(x(g))を測定する。そして、有機ケイ素化合物の重量(x(g))、有機ケイ素化合物の分子量(MSi)、有機ケイ素化合物中のアルコキシ基の分子量(MR0)、及び有機ケイ素化合物中のアルコキシ基の数(y(1〜3))を用いて、下記式より理論上のアルコール生成量(S)を算出する。
理論上のアルコール生成量(S)=(x/MSi)×y×(MR0+1)
【0031】
本発明のシランカップリング剤溶液は、触媒として酸を加えた場合、そのpHは、例えば、pH1〜pH6であり、好ましくはpH2〜pH5.5であり、より好ましくはpH3〜pH5である。触媒としてアルカリを加えた場合、そのpHは、例えば、pH8〜pH14であり、好ましくはpH8.5〜pH13であり、より好ましくはpH9〜pH12である。この中でも、シラノール基の安定性の面から、弱酸性領域(例えば、pH3〜pH5)にすることが特に好ましい。
【0032】
本発明のシランカップリング剤溶液における有機ケイ素化合物濃度は、特に制限されないが、例えば、0.01重量%〜10重量%であり、好ましくは0.05量%〜7重量%であり、より好ましくは0.1重量%〜5重量%である。
【0033】
つぎに、本発明の基材表面処理方法は、上記製造方法によって得られたシランカップリング剤溶液を用いた基材の表面処理方法であって、基材にシランカップリング剤溶液を接触させ、その後シランカップリング剤溶液を乾燥させて、基材上に表面改質層を形成することを含む。本発明によれば、シランカップリング剤溶液を使用するため、形成された表面改質層上に他の層を形成すれば、従来よりも優れた密着性を実現できる。
また、シランカップリング剤溶液は、アルコールが含まれているため、基材に塗布した際に、基材上に略均一な表面改質層を形成することができる。例えば、ラビング処理された基材を、上記シランカップリング剤溶液で表面処理することにより、ラビング面の配向が表面改質層の表面に現れる。従って、該ラビング面の配向を利用し、液晶性化合物などを確実に配向させることができる。
【0034】
シランカップリング剤溶液の接触方法は、特に制限されないが、例えば、基材をシランカップリング剤溶液に浸漬する方法や、基材表面上にシランカップリング剤溶液を塗工する方法等があげられる。塗工方法も特に限定されず、例えば、ロールコート法、スピンコート法、ワイヤバーコート法、ディップコート法、エクストルージョン法、カーテンコート法、スプレコート法等の従来公知の方法が採用でき、この中でも、塗工効率の点からスピンコート法、エクストルージョンコート法が好ましい。
【0035】
乾燥方法は、特に限定されず、例えば、自然乾燥や加熱乾燥等の乾燥があげられる。乾燥温度は、例えば、20℃〜200℃であり、好ましくは50℃〜180℃であり、より好ましくは80℃〜150℃である。乾燥時間は、例えば、1分〜30分であり、好ましくは1分〜20分であり、より好ましくは1分〜10分である。また、基材と表面改質層との親和性がより高くなることから、乾燥後、さらに加熱することが特に好ましい。加熱温度は特に限定されず、例えば、50℃〜200℃であり、好ましくは80℃〜180℃であり、より好ましくは100℃〜150℃である。また、加熱温度を段階的に上昇させながら加熱してもよい。加熱時間も特に限定されず、例えば、1分〜30分であり、好ましくは1分〜20分であり、より好ましくは1分〜10分である。なお、乾燥と加熱とを、別々に行っても、同時に行ってもよい。
【0036】
基材の材質は、特に限定されず、例えば、種々の有機高分子化合物や、ガラス等の無機材料等が使用できる。また、表面改質層との密着性がより高くなることから、その表面に親水基(例えば、水酸基等)を含む基材を使用することが好ましい。一方、表面に親水基を含まない基材であっても、例えば、基材の表面にケン化処理等の親水化処理を施すことによって、表面上に親水基を付与できる。なお、使用できる基材の具体例については、後述する。
【0037】
シランカップリング剤溶液の塗工量は、特に制限されず、例えば、有機ケイ素化合物の濃度等によって適宜決定できる。
表面改質層の厚みは、例えば、1nm〜30nmであり、好ましくは3nm〜25nmであり、より好ましくは5nm〜20nmである。
【0038】
本発明において、表面改質層を介した、基材と前記基材の他の層との密着性は、例えば、JISK5400−1990に基づく碁盤目剥離試験に於ける評価値で、例えば4〜10であり、好ましくは6〜10であり、より好ましくは8〜10である。
【0039】
つぎに、本発明の表面処理方法を用いた位相差板の製造方法について説明する。
本発明は、基材上に光学異方性層が積層された位相差板の製造方法であって、基材の表面処理方法を含むことを特徴とし、例えば、表面処理方法により基材上に表面改質層を形成する工程と、表面改質層上に光学異方性層を形成する工程とを含む製造方法である。以下に、本発明の位相差板の製造方法の一例について説明する。
【0040】
まず、前述のような本発明の基材の表面処理方法により、基材上に表面改質層を形成する。基材の材質としては、特に限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート及びポリエチレンナフタレート等のポリエステル系ポリマー、ジアセチルセルロース及びトリアセチルセルロース等のセルロース系ポリマー、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系ポリマー、ポリスチレン及びアクリロニトリル・スチレン共重合体(AS樹脂)等のスチレン系ポリマー、ポリカーボネート系ポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレン、シクロ系及びノルボルネン等の構造を有するポリオレフィン、エチレン・プロピレン共重合体等のポリオレフィン系ポリマー、塩化ビニル系ポリマー、ナイロン及び芳香族ポリアミド等のアミド系ポリマー、イミド系ポリマー、スルホン系ポリマー、ポリエーテルスルホン系ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド系ポリマー、ビニルアルコール系ポリマー、塩化ビニリデン系ポリマー、ビニルブチラール系ポリマー、アリレート系ポリマー、ポリオキシメチレン系ポリマー及びエポキシ系ポリマー等やこれらの積層体等があげられる。また、アルミ、銅、鉄等の金属製基板、セラミック製基板、ガラス製基板等の表面に、前述のようなプラスチックフィルムを積層したり、前記表面にSiO斜方蒸着膜を形成したもの等も使用できる。中でも、セルロース系、ビニルアルコール系などの親水基を有するポリマーや親水化処理がなされたポリマーなどのように表面に親水基を有する基材を用いることが好ましい。これらは1種類で使用しても、2種類以上を併用してもよい。
【0041】
また、基材としては、特開2001−343529号公報(WO01/37007)に記載のポリマーフィルムもあげられる。このポリマー材料としては、例えば、側鎖に置換又は非置換のイミド基を有する熱可塑性樹脂と、側鎖に置換又は非置換のフェニル基及びシアノ基を有する熱可塑性樹脂とを含有する樹脂組成物が使用できる。具体例としては、イソブテンとN−メチルマレイミドからなる交互共重合体と、アクリロニトリル・スチレン共重合体とを有する樹脂組成物があげられる。なお、前記ポリマーフィルムは、例えば、樹脂組成物の押出成形物であってもよい。
【0042】
基材は、シランカップリング剤溶液の接触面が、配向規制力を有することが好ましい。配向規制力を付与する方法は特に限定されず、公知の方法を適宜用いることができ、例えば、ラビング処理や、基材の延伸等があげられる。
【0043】
表面改質層の厚みは、前記基材と後述する位相差フィルムとの密着性を保ち、かつ、基材の配向規制力が維持されていれば特に限定されず、例えば、1nm〜30nmであり、好ましくは3nm〜25nmであり、より好ましくは5nm〜20nmである。
【0044】
つぎに、表面改質層上に液晶性化合物を塗工して、液晶性化合物含有層を形成する。これは、例えば、以下に示す液晶性化合物を含む塗工液を調製し、それを表面改質層の表面に塗布すること等により行うことができる。
【0045】
液晶性化合物は、特に制限されず、例えば、基材の配向規制力に応じて配向し、かつ形成された層が複屈折を発現する材料が好ましく、従来公知の材料が使用できる。液晶性化合物としては、例えば、液晶性ポリマー、液晶性モノマー、液晶プレポリマー等が使用でき、例えば、棒状液晶化合物、平板状液晶化合物等があげられる。これらは1種類で使用しても、2種類以上を併用してもよい。具体例としては、例えば、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類、アルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類等や、それらのポリマーがあげられる。さらに、液晶性化合物が液晶性モノマーの場合、例えば、重合性モノマーや架橋性モノマーであることが好ましい。これは、後述するように液晶性化合物を配向させた後、これらを重合又は架橋させることによって、液晶性モノマー等の配向状態を固定できるためである。また、液晶性化合物は、液晶相がネマチック相である液晶材料(ネマチック液晶)が好ましく、例えば、下記一般式(II)で表される重合性ネマチック液晶モノマーを用いることが好ましい。
【0046】
【化8】


(一般式(II)中、A及びAは、それぞれ重合性基を表し、同一でも異なっていてもよい。また、A及びAのいずれか一方は水素であってもよい。Wは、それぞれ単結合、−O−、−S−、−C=N−、−O−CO−、−CO−O−、−O−CO−O−、−CO−NR−、−NR−CO−、−NR−、−O−CO−NR−、−NR−CO−O−、−CH−O−又は−NR−CO−NRを示し、前記Wに於けるRは、HまたはC〜Cアルキルを示し、Mはメソゲン基を示す)。
【0047】
一般式(II)において、Wは同一でも異なっていてもよいが、同一であるものが好ましく、又、Aは、それぞれAに対してオルト位に配置されているものが好ましい。
さらに、一般式(II)のA及びAは、それぞれ独立して、下記一般式(III)で表されるものが好ましい。
一般式(III):Z−W−(Sp)n
(一般式(III)中、Zは架橋性基を表し、Wは上記一般式(II)と同様であり、Spは、1〜30個のC原子を有する直鎖または分枝鎖のアルキル基からなるスペーサーを表し、nは、0または1を示す。上記Spにおける炭素鎖は、例えば、エーテル官能基中の酸素、チオエーテル官能基中の硫黄、非隣接イミノ基またはC〜Cのアルキルイミノ基等により割り込まれてもよい)。
【0048】
上記一般式(II)のA及びAは、同じ基であることが好ましい。また、一般式(III)のZは、下記式(IV)で表される原子団のうち何れかであることが好ましい。式(IV)において、Rとしては、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、t−ブチル等の基があげられる。
【0049】
【化9】

【0050】
また、前記一般式(III)において、Spは、下記一般式(V)で表される原子団のうち何れかであることが好ましく、下記一般式(V)において、mは1〜3、pは1〜12であることが好ましい。
【0051】
【化10】

【0052】
また、上記一般式(II)において、Mは、下記一般式(VI)で表されるものが好ましく、一般式(VI)において、Wは、上記一般式(II)におけるWと同様である。Qは、例えば、置換または未置換のアルキレンもしくは芳香族炭化水素原子団を表し、また、例えば、置換または未置換の直鎖もしくは分枝鎖C〜C12のアルキレン等であってもよい。
【0053】
【化11】

【0054】
上記Qが、芳香族炭化水素原子団の場合、例えば、下記一般式(VII)に表されるような原子団やそれらの置換類似体が好ましい。
【0055】
【化12】

【0056】
上記一般式(VII)に表される芳香族炭化水素原子団の置換類似体としては、例えば、芳香族環1個につき1〜4個の置換基を有してもよく、また、芳香族環または基1個につき、1または2個の置換基を有してもよい。この置換基は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。この置換基としては、例えば、C〜Cアルキル、ニトロ、F、Cl、Br、I等のハロゲン、フェニル、C〜Cアルコキシル等があげられる。
【0057】
以上詳述した液晶モノマーの具体例としては、例えば、下記構造式で表されるモノマーがあげられる。
【0058】
【化13】

【0059】
上記液晶性化合物が液晶性モノマーや液晶性プレポリマーを含む場合には、重合剤や架橋剤が添加される。重合剤および架橋剤としては、特に制限されないが、例えば、以下のようなものが使用できる。重合剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド(BPO)、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)等が使用でき、架橋剤としては、例えば、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、金属キレート架橋剤等が使用できる。これらはずれか一種類でもよいし、二種類以上を併用してもよい。また、光重合開始剤として、例えば、チバスペシャリティーケミカルズ社製Irgacure907、Irgacure369、Irgacure184(いずれも商品名)やこれらの混合物等を好ましく使用することもできる。重合剤や架橋剤の添加量も特に限定されず、液晶性化合物に対し、例えば、0.01〜15重量%の範囲であり、好ましくは0.03〜10重量%の範囲、より好ましくは1〜7重量%の範囲である。
【0060】
塗工液は、例えば、上記液晶モノマー等を、適当な溶媒に溶解・分散することによって調製できる。溶媒としては、特に制限されないが、例えば、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、塩化メチレン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、クロロベンゼン、オルソジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類、フェノール、p−クロロフェノール、o−クロロフェノール、m−クレゾール、o−クレゾール、p−クレゾールなどのフェノール類、ベンゼン、トルエン、キシレン、メトキシベンゼン、1,2−ジメトキシベンゼン等の芳香族炭化水素類、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン等のケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒、t−ブチルアルコール、グリセリン、エチレングリコール、トリエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、2−メチル−2,4−ペンタンジオールのようなアルコール系溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドのようなアミド系溶媒、アセトニトリル、ブチロニトリルのようなニトリル系溶媒、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンのようなエーテル系溶媒、あるいは二硫化炭素、エチルセルソルブ、ブチルセルソルブ等が使用できる。これらの中でも好ましくは、トルエン、キシレン、メシチレン、MEK、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、酢酸エチルセロソルブである。これらの溶剤は、例えば、一種類でもよいし、二種類以上を混合して使用してもよい。
【0061】
また、塗工液には、例えば、必要に応じて各種添加物を適宜配合してもよい。添加物としては、例えば、老化防止剤、変性剤、界面活性剤、染料、顔料、変色防止剤、紫外線吸収剤等があげられる。これらの添加剤は、例えば、いずれか一種を添加してもよいし、二種類以上を併用してもよい。具体的に、前記老化防止剤としては、例えば、フェノール系化合物、アミン系化合物、有機硫黄系化合物、ホスフィン系化合物等、前記変性剤としては、例えば、グリコール類、シリコーン類やアルコール類等、従来公知のものがそれぞれ使用できる。また、前記界面活性剤は、例えば、光学フィルムの表面を平滑にするために添加され、例えば、シリコーン系、アクリル系、フッ素系等の界面活性剤が使用でき、特にシリコーン系が好ましい。
【0062】
液晶モノマーを使用した場合、調製した塗工液は、例えば、塗工・展開等の作業性に優れた粘性を示す。塗工液の粘度は、通常、液晶モノマーの濃度や温度等に応じて異なるが、塗工液におけるモノマー濃度が例えば5〜70重量%の場合、その粘度は、例え0.2〜20mPa・sの範囲であり、好ましくは0.5〜15mPa・sであり、特に好ましくは1〜10mPa・sである。具体的には、前記塗工液におけるモノマー濃度が、30重量%の場合、例えば、2〜5mPa・sの範囲であり、好ましくは3〜4mPa・sである。前記塗工液の粘度が0.2mPa・s以上であれば、例えば、塗工液を走行することによる液流れの発生がより一層防止でき、また、20mPa・s以下であれば、例えば、表面平滑性がより一層優れ、厚みムラを一層防止でき、塗工性にも優れる。なお、前記粘度としては、温度20〜30℃における範囲を示したが、この温度には限定されない。
【0063】
上記塗工液を、上記基板上に塗布して液晶性化合物含有層を形成する方法は特に限定されない。
例えば、塗工液は、ロールコート法、スピンコート法、ワイヤバーコート法、ディップコート法、エクストルージョン法、カーテンコート法、スプレコート法等の従来公知の方法によって流動展開させればよく、この中でも、塗布効率の点からスピンコート、エクストルージョンコートが好ましい。
【0064】
次に、基材表面の配向規制力に応じて上記液晶性化合物含有層の液晶性化合物を配向させる。配向は、一般に、使用した液晶性化合物の種類に応じて、液晶相を示す温度(液晶温度)で加熱処理することによって行える。
これによって、液晶性化合物含有する層に複屈折が生じ、光学異方性層となるのである。例えば、上記一般式(II)で示す液晶モノマーを使用した場合には、液晶性化合物含有層は、光軸が面内方向に存在する一軸性の光学異方性を示し、nx>ny≒nzの関係式を満たす位相差フィルムが得られる。
但し、nx、ny、nzは、液晶性化合物含有層に於けるx軸方向、y軸方向、z軸方向の屈折率を示す。このx軸とy軸は面内で直交する方向であり、z軸は、x軸及びy軸の双方に垂直な方向(液晶性化合物含有層の厚み方向)である。また、x軸は、面内に於いて最大の屈折率を示す方向である。
【0065】
加熱処理の方法は、特に制限されず、例えば、上記液晶性化合物含有層をその液晶温度にまで加熱する方法や、一度液晶温度を超える温度に加熱した後、液晶温度にまで冷却する方法等があげられる。液晶温度は、含まれる液晶性化合物の種類等によって適宜決定されるが、例えば、20℃〜150℃であり、好ましくは40℃〜120℃であり、特に好ましくは50℃〜100℃である。また、処理時間としては、特に限定されず、例えば10秒〜120秒、好ましくは30秒〜60秒である。
【0066】
次に、液晶性化合物含有層に架橋処理または重合処理を施すことによって、液晶モノマーを重合または架橋させる。これによって、液晶モノマーは、ネマチック構造をとって配向した状態が固定される。
重合処理や架橋処理は、例えば、使用する重合剤や架橋剤の種類によって適宜決定できる。例えば、光重合剤や光架橋剤を使用した場合には、光照射を施し、紫外線重合剤や紫外線架橋剤を使用した場合には、紫外線照射を施せばよい。
【0067】
また、上記液晶性化合物に、例えば、液晶性化合物をコレステリック構造に配向させるカイラル剤を加えてもよい。例えば、上記液晶性化合物がネマチック相を示す場合、カイラル剤によって液晶材料にねじりが付与され、最終的にコレステリック構造にできるからである。
カイラル剤を添加することにより、nx≒ny>nzの関係式を満たす位相差フィルムを得ることができる。
カイラル剤としては、液晶モノマーにねじりを付与してコレステリック構造となるように配向させるものであれば特に制限されないが、例えば、重合性カイラル化剤を用いることが好ましい。該カイラル剤の具体例としては、特開2003−287623公報などに記載された各種のものなどが例示できる。
カイラル剤の添加割合は、例えば、所望のらせんピッチなどに応じて適宜決定されるが、液晶モノマーに対する添加割合は、5〜23重量%の範囲であり、好ましくは10〜20重量%の範囲である。
【0068】
一方、上記液晶性化合物として液晶性ポリマーを用いる場合には、一般に、液晶性ポリマーを配向させた後に、液晶性化合物含有層をその液晶温度未満に冷却することによって、その配向状態を固定化できる。冷却方法は、何ら制限されず、例えば、単に室温条件下で放置しても良いし、適切な冷却器を用いて急冷しても良い。
【0069】
このようにして、基材上に表面改質層を介して位相差フィルムが積層された積層位相差板が得られる。この積層位相差板は、前記表面改質層の介在により、基材と位相差フィルム(光学異方性層)との密着性に優れるため、各種光学フィルムや画像表示装置等に極めて有用である。また、この積層位相差板における、基材と位相差フィルムとの密着性は、JISK5400−1990に基づく碁盤目剥離試験によれば、例えば4〜10であり、好ましくは6〜10である。
【0070】
つぎに、本発明の光学フィルムは、本発明の積層位相差板を含むことを特徴とする。本発明の光学フィルムは、本発明の積層位相差板を含んでいればよく、その他の構成や構造は何ら制限されない。例えば、偏光子、他の屈折率構造を有する位相差フィルム、液晶フィルム、光拡散フィルム、回折フィルム等を他の光学層として、さらに含んでいてもよい。前記光学層として偏光子を含む場合には、さらに透明保護フィルムを含むことが好ましく、前記透明保護フィルムが、前記積層位相差板と前記偏光子との間に配置されていることがより好ましい。
【0071】
上記偏光子としては特に限定されず、従来公知の偏光フィルムが使用できる。具体的には、例えば、従来公知の方法により、各種フィルムに、ヨウ素や二色性染料等の二色性物質を吸着させて染色し、架橋、延伸、乾燥することによって調製したもの等が使用できる。この中でも、自然光を入射させると直線偏光を透過するフィルムが好ましく、光透過率や偏光度に優れるものが好ましい。二色性物質を吸着させる各種フィルムとしては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)系フィルム、部分ホルマール化PVA系フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化フィルム、セルロース系フィルム等の親水性高分子フィルム等があげられ、これらの他にも、例えば、PVAの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物等のポリエン配向フィルム等も使用できる。これらの中でも、好ましくはPVA系フィルムである。また、偏光フィルムの厚みは、通常、1μm〜80μmの範囲であるが、これには限定されない。
【0072】
透明保護フィルムとしては、特に限定されず、従来公知の透明フィルムを使用できるが、例えば、透明性、機械的強度、熱安定性、水分遮断性、等方性などに優れるものが好ましい。このような透明保護フィルムの材質の具体例としては、トリアセチルセルロース(TAC)等のセルロース系樹脂や、ポリエステル系、ポリカーボネート系、ポリアミド系、ポリイミド系、ポリエーテルスルホン系、ポリスルホン系、ポリスチレン系、ポリノルボルネン系、ポリオレフィン系、アクリル系、アセテート系等の透明樹脂等があげられる。また、前記アクリル系、ウレタン系、アクリルウレタン系、エポキシ系、シリコーン系等の熱硬化型樹脂又は紫外線硬化型樹脂等もあげられる。この中でも、偏光特性や耐久性の点から、表面をアルカリ等でケン化処理したTACフィルムが好ましい。
【0073】
また、特開2001−343529号公報(WO01/37007)に記載のポリマーフィルムがあげられる。このポリマー材料としては、例えば、側鎖に置換又は非置換のイミド基を有する熱可塑性樹脂と、側鎖に置換又は非置換のフェニル基ならびにニトリル基を有す熱可塑性樹脂を含有する樹脂組成物が使用できる。具体例としては、イソブテンとN−メチルマレイミドからなる交互共重合体と、アクリロニトリル・スチレン共重合体とを有する樹脂組成物があげられる。なお、前記ポリマーフィルムは、例えば、前記樹脂組成物の押出成形物であってもよい。
【0074】
透明保護フィルムの厚みは、特に限定されず、位相差や保護強度等に応じて適宜決定でき、例えば、5mm以下であり、好ましくは1mm以下、より好ましくは1μm〜500μm、特に好ましくは5μm〜150μmである。
【0075】
積層位相差板と他の光学層、前記偏光子と透明保護フィルム等の積層方法は特に限定されず、従来公知の方法によって行うことができ、一般には、粘着剤や接着剤等が使用できる。これらの種類は、前記偏光子や透明保護フィルムの材質等によって適宜決定でき、前記接着剤としては、例えば、アクリル系、ビニルアルコール系、シリコーン系、ポリエステル系、ポリウレタン系、ポリエーテル系等のポリマー製接着剤や、ゴム系接着剤等が使用できる。これらの中でも、例えば、吸湿性や耐熱性に優れる材料が好ましい。
【0076】
本発明の光学フィルムにおいて、各構成部材は、例えば、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物等の紫外線吸収剤による処理等によって紫外線吸収能を持たせたものなどでもよい。
【0077】
本発明の画像表示装置は、前記本発明の光学フィルムを含むことを特徴とし、その他の構成、構造は何ら制限されない。前記画像表示装置としては、例えば、液晶表示装置、有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイ、プラズマディスプレイ(PD)、FED(電界放出ディスプレイ:Field Emission Display)等があげられる。例えば、上記光学フィルムなどを液晶セルの片側または両側に配置してなる透過型や反射型、あるいは透過・反射両用型等の従来に準じた適宜な構造の液晶表示装置とすることができる。液晶表示装置を形成する液晶セルは任意であり、例えば薄膜トランジスタ型に代表される単純マトリクス駆動型のものなどの適宜なタイプの液晶セルを用いたものであっても良い。また、液晶セルの両側に本発明の光学フィルムを設ける場合、それらは同じ物であってもよいし、異なるものであってもよい。さらに、液晶表示装置の形成に際しては、例えばプリズムアレイシートやレンズアレイシート、拡散板やバックライトなどの適宜な部品を適宜な位置に1層または2層以上配置することができる。
【実施例】
【0078】
つぎに、本発明の実施例について説明する。但し、本発明は、下記具体的な実施例に限定されるものではない。
【0079】
<実施例1>
(シランカップリング剤溶液の調製)
3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(商品名:KBM5103、信越化学工業(株)製)、酢酸、純水、イソプロピルアルコールを、1:5:9.4:84.6(重量比)の割合で準備した。まず、この割合の酢酸、純水及びイソプロピルアルコールを撹拌速度300rpmで撹拌混合してアルコール水溶液を得た後、溶液を攪拌しながら滴下速度10ml/分で3−アクリロキシプロピルトリメトキシシランを添加して有機ケイ素化合物溶液を調製した。
この溶液を、25℃下、撹拌速度300rpmで4時間攪拌し続けることにより実施例1に係るシランカップリング剤溶液を得た。この4時間経過した直後の液を、後述する積層位相差板の作製で用いた。
(液晶性化合物含有塗工液の調製)
下記化学式で示される紫外線重合性ネマチック液晶性化合物1gと光重合開始剤(商品名Irgacure907;チバスペシャリティーケミカルズ社製)0.03gを加え、固形分が20重量%となるようにトルエンで希釈し、この液を10分間撹拌して塗工液を作製した。
【0080】
【化14】

【0081】
(積層位相差板の作製)
トリアセチルセルロース(TAC)フィルムをケン化して、さらにラビング処理を施した。このTACフィルムのラビング処理面に、上記シランカップリング剤溶液をバーコータ(#3)を用いて塗工し、120℃のオーブン中で2分間乾燥させて表面改質層を形成した。
つぎに、この表面改質層上に、上記液晶性化合物含有塗工液をバーコータ(#7)を用いて塗工し、90℃で2分間乾燥させた後、室温に冷却して液晶性化合物層を形成した。そして、液晶性化合物層に紫外線を照射して(積算光量で200mJ/cm)位相差フィルムを形成し、基材上に表面改質層を介して位相差フィルムが積層された積層位相差板を得た。
【0082】
<実施例2>
有機ケイ素化合物溶液を調製した後、24時間攪拌し続けたこと以外は、実施例1と同様にして積層位相差板を作製した。
<実施例3>
有機ケイ素化合物溶液を調製した後、48時間攪拌し続けたこと以外は、実施例1と同様にして積層位相差板を作製した。
<実施例4>
3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、酢酸、純水、イソプロピルアルコールの配合割合を、1:5:18.8:75.2(重量比)としたこと以外は、実施例1と同様にして積層位相差板を作製した。
<実施例5>
3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、酢酸、純水、イソプロピルアルコールの配合割合を、1:5:28.2:65.8(重量比)としたこと以外は、実施例1と同様にして積層位相差板を作製した。
<実施例6>
3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、酢酸、純水、イソプロピルアルコールの配合割合を、2:3:5:90(重量比)としたこと以外は、実施例1と同様にして積層位相差板を作製した。
【0083】
<比較例1>
有機ケイ素化合物溶液を調製した直後(所定時間攪拌せず)の溶液をTACフィルムのラビング処理面に塗工したこと以外は、実施例1と同様にして積層位相差板を作製した。
<比較例2>
有機ケイ素化合物溶液を調製した後、10分間攪拌し続けたこと以外は、実施例1と同様にして積層位相差板を作製した。
<比較例3>
有機ケイ素化合物溶液を調製した後、30分間攪拌し続けたこと以外は、実施例1と同様にして積層位相差板を作製した。
<比較例4>
有機ケイ素化合物溶液を調製した後、1時間攪拌し続けたこと以外は、実施例1と同様にして積層位相差板を作製した。
<比較例5>
有機ケイ素化合物溶液を調製した後、2時間攪拌し続けたこと以外は、実施例1と同様にして積層位相差板を作製した。
<比較例6>
有機ケイ素化合物溶液を調製した後、96時間攪拌し続けたこと以外は、実施例1と同様にして積層位相差板を作製した。
【0084】
(試験方法)
A.配向性
上記各積層位相差板について、配向性を評価した。まず、2枚の市販の偏光板(商品名NPF;日東電工社製)を直交になるようにクロスニコル配置し、その間に前記積層位相板を挿入した。そして、挿入した積層位相差板を、法線を中心にして回転させ、回転角90度ごとに暗転するか否かを目視観察してその配向性を評価した。
各実施例及び比較例の何れの位相差板も、良好な配向性を示していた。
【0085】
B.密着性
各積層位相差板における位相差フィルムとTACフィルムとの密着性の評価は、JISK5400−1990に基づく碁盤目剥離試験により行った。
ISK5400−1990に基づく碁盤目剥離試験は、剥離の仕方により、10、8、6、4、2、0の6段階の評価に分類されており、10であれば密着性が最もよく、0であれば最も悪い(剥離した)と判断できる。その結果を表1に示す。
【0086】
C.表面改質層の厚み
前記各積層位相差板における表面改質層の厚みは、断面透過型電子顕微鏡(TEM)により測定した。その結果を表1に示す。
【0087】
D.シラノール化率
シラノール化率(%)は、上記のように有機ケイ素化合物の末端シリル基における加水分解反応によって生成した加水分解物の量から算出できる。
本実施例で用いた3−アクリロキシプロピルトリメトキシシランは、末端にトリメトキシシランを有するため、加水分解反応が起こると、その反応によりシランカップリング剤溶液中にメタノールが発生する。従って、メタノールの生成量を測定してシラノール化率(%)を決定した。具体的には、溶液中に生成したメタノールの量をガスクロマトグラフィーにより定量し、それにより得られたメタノール生成量(S)と、理論上のメタノール生成量(S)とを用いて、下記式よりメタノール生成率を算出し、これをシラノール化率とした。
シラノール化率(メタノール生成率)(%)=(S/S)×100
【0088】
尚、理論上のメタノール生成量(S)は、用いた3−アクリロキシプロピルトリメトキシシランの重量(x(g))、この分子量(MSi)、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン中のアルコキシ基の分子量(MR0)及びアルコキシ基の数(y(3))を用いて、下記式より理論上のアルコール生成量(S)を算出した。
理論上のアルコール生成量(S)=(x/MSi)×y×(MR0+1)
【0089】
【表1】

【0090】
実施例1〜6におけるシラノール化率は、すべて40%以上と極めて高く、基材と位相差フィルムとの密着性の評価も10と極めて高かった。一方、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシランを混合した後、2時間以下の経過で使用した比較例1〜5では、シラノール化率が低く、密着性は非常に低かった。このことから、アルコール溶液に有機ケイ素化合物を混合した後、概ね3時間以上経過した後のシランカップリング剤溶液は、密着性に優れたものであることがわかる。
また、96時間経過した比較例6では、シラノール化率は高かったものの、密着性は極めて低かった。これは、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシランのメトキシ基の多くがシラノール化したが、相互に化学結合し合い、シラノール基が基材の表面と十分に結合しなかったためと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機ケイ素化合物と水とアルコールとを少なくとも混合した後、3時間以上経過させて前記有機ケイ素化合物をシラノール化することを特徴とするシランカップリング剤溶液の製造方法。
【請求項2】
有機ケイ素化合物と水とアルコールとを少なくとも混合した後、3時間〜72時間経過させて前記有機ケイ素化合物をシラノール化することを特徴とするシランカップリング剤溶液の製造方法。
【請求項3】
前記有機ケイ素化合物が、下記一般式(I)で表される化合物を含む請求項1又は2記載のシランカップリング剤の製造方法。
【化1】


前記一般式(I)において、Xは、ハロアルキル基、メルカプト基、アルキルスルファニル基、アミノ基、イソシアナト基、ウレイド基、下記一般式(a)で示される基及び下記一般式(b)で示される基からなる群から選択される基を示し、
、R及びRは、水素原子、アルコキシ基又はアルキル基を示し、これらは同一であっても異なっていてもよく、これらの少なくとも1つは、アルコキシ基を示し、nは、1から10の整数を示す。
【化2】


一般式(a)において、Y、Y、Y及びZは、任意の置換基を示し、一般式(b)において、Y、Y、Y及びZは、任意の置換基を示す。
【請求項4】
前記一般式(I)において、Xが、前記一般式(a)で示される基及び前記一般式(b)で示される基のいずれか一方を示す請求項3記載のシランカップリング剤の製造方法。
但し、前記一般式(a)において、Y、Y及びYは、水素原子、アルキル基及びアリール基からなる群から選択される原子又は基を示し、これらは同一であっても異なっていてもよく、Zは、結合手、下記化学式(1)、下記化学式(2)及び下記化学式(3)なる群から選択される基を示し、
前記一般式(b)において、Y、Y及びYは、水素原子、アルキル基及びアリール基からなる群から選択される原子又は基を示し、これらは同一であっても異なっていてもよく、前記一般式(b)において、Zは、結合手、下記化学式(1)、下記化学式(2)及び下記化学式(3)からなる群から選択される基を示す。
【化3】

【請求項5】
前記有機ケイ素化合物が、不飽和炭化水素基を有する請求項1〜4のいずれかに記載のシランカップリング剤の製造方法。
【請求項6】
前記アルコールが、イソプロピルアルコール、メタノール、エタノール、プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2-ブタノール、イソブタノール、tert−ブタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル及びエチレングリコールモノエチルエーテルからなる群から選択される少なくとも1つである請求項1〜5のいずれかに記載のシランカップリング剤の製造方法。
【請求項7】
前記水とアルコールとの重量比が、1:1〜1:1000である請求項1〜6のいずれかに記載のシランカップリング剤の製造方法。
【請求項8】
前記有機ケイ素化合物とアルコールとの重量比が、1:10〜1:1000である請求項1〜7のいずれかに記載のシランカップリング剤の製造方法。
【請求項9】
前記有機ケイ素化合物と水との重量比が、1:50〜10:1である請求項1〜8のいずれかに記載のシランカップリング剤の製造方法。
【請求項10】
さらに、無水酢酸、酢酸及びシュウ酸からなる群から選択される少なくとも1つを混合する請求項1〜9のいずれかに記載のシランカップリング剤の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の製造方法により得られるシランカップリング剤溶液。
【請求項12】
シランカップリング剤溶液を用いた基材の表面処理方法であって、請求項1〜10のいずれかに記載の製造方法により得られるシランカップリング剤溶液を、基材に接触させた後、前記シランカップリング剤溶液を乾燥させて、前記基材上に表面改質層を形成することを含むことを特徴とする表面処理方法。
【請求項13】
前記基材の材質が、有機高分子化合物又は無機高分子化合物である請求項12記載の表面処理方法。
【請求項14】
前記基材が、その表面に親水基を含む基材である請求項12又は13記載の表面処理方法。
【請求項15】
基材上に位相差フィルムが積層された位相差板の製造方法であって、
請求項12〜14のいずれかに記載の方法により基材上に表面改質層を形成する工程と、前記表面改質層上に光学異方性層を形成する工程とを含む位相差板の製造方法。
【請求項16】
前記基材の表面改質層を形成する面が、配向規制力を有する請求項15記載の位相差板の製造方法。
【請求項17】
前記表面改質層を形成する工程に先立って、前記基材の表面をラビング処理する工程を含む請求項15又は16記載の位相差板の製造方法。
【請求項18】
前記位相差フィルムを形成する工程が、前記表面改質層上に液晶性化合物を塗工して液晶性化合物含有層を形成する工程と、前記液晶性化合物含有層を前記液晶性化合物が液晶状態を示す温度で処理することにより、前記液晶性化合物を配向させる工程とを含む請求項15〜17のいずれかに記載の位相差板の製造方法。
【請求項19】
前記液晶性化合物が、重合性液晶性モノマー及び液晶性ポリマーの少なくとも一方を含む請求項18記載の位相差板の製造方法。
【請求項20】
前記液晶性化合物が、下記一般式(II)に示す重合性液晶性モノマーを含む請求項19記載の位相差板の製造方法。
【化4】


一般式(II)に於いて、A及びAは、それぞれ重合性基を表し、同一でも異なっていてもよい。また、A及びAのいずれか一方は水素であってもよい。Wは、それぞれ単結合、−O−、−S−、−C=N−、−O−CO−、−CO−O−、−O−CO−O−、−CO−NR−、−NR−CO−、−NR−、−O−CO−NR−、−NR−CO−O−、−CH−O−又は−NR−CO−NRを示し、前記Wに於けるRは、HまたはC〜Cアルキルを示し、Mはメソゲン基を示す。
【請求項21】
請求項15〜20のいずれかに記載の製造方法により得られる位相差板。
【請求項22】
前記表面改質層の厚みが、1nm〜30nmである請求項21記載の位相差板。
【請求項23】
請求項21又は22記載の位相差板を含む光学フィルム。
【請求項24】
さらに、偏光子を含む請求項23に記載の光学フィルム。
【請求項25】
請求項23又は24記載の光学フィルムを含む画像表示装置。

【公開番号】特開2006−137708(P2006−137708A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−329008(P2004−329008)
【出願日】平成16年11月12日(2004.11.12)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】