説明

シリカエアロゲル膜及びその製造方法

【課題】 低屈折率であると共に、優れた靭性及び撥水性を有し、反射防止膜に好適なシリカエアロゲル膜及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 不飽和置換基を有するアルコキシシランの加水分解重合により生成した湿潤ゲルを有機修飾し、得られた有機修飾シリカからなる層を形成し、乾燥及び焼成した後、前記有機修飾シリカからなる層に紫外線照射するシリカエアロゲル膜の製造方法、及び重合した有機基からなる修飾部を有するシリカエアロゲル膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノサイズの微細孔を有するシリカエアロゲル膜に関し、特に低屈折率である上に、優れた靭性及び撥水性を有し、反射防止膜に好適なシリカエアロゲル膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、反射防止膜は真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等の物理蒸着法によって成膜されてきた。単層の反射防止膜は、基材より小さい屈折率を有するように設計されるので、小さな屈折率の基材に成膜する反射防止膜には小さな屈折率を有する成膜材料が求められる。物理蒸着法で成膜できるもののうち、最小の屈折率を示すのは、屈折率1.38のMgF2である。しかし、MgF2の屈折率は屈折率1.5程度のレンズ用の反射防止膜にとって理想とされる屈折率1.2〜1.25を満たさない。1.2〜1.25の屈折率を有する反射防止膜は、可視光領域すなわち波長400〜700 nmにおいて1%未満の反射率を示すのに対し、屈折率1.38のMgF2からなる反射防止膜の反射率は2%未満ではあるものの、1%より高い。
【0003】
近年、ゾルゲル法、SOG法等の液相法も反射防止膜の成膜に用いられている。液相法には、物理蒸着法のような大掛かりな装置を要することなく、また基材を高温に曝すことなく反射防止膜を成膜できるという特長がある。しかし、液相法によって得られる反射防止膜の最小屈折率は1.37付近と、物理蒸着法と同程度であり、反射防止特性も大差ない。したがって、いずれの方法による場合も、可視光の波長領域における反射率を1%未満に抑えるためには、低屈折率材料と高屈折率材料とを積層して多層膜を形成する必要がある。
【0004】
フッ化マグネシウムより小さな屈折率を示す材料として、シリカエアロゲルが知られている。アルコキシシランの加水分解反応によってシリカ湿潤ゲルを調製し、これを二酸化炭素、水、有機溶媒等の超臨界流体で乾燥すると、0.01 g/cc以下の密度を有し、屈折率1.1未満のシリカエアロゲルを作製できる。しかしこの製造方法は、超臨界乾燥装置を要する上に手間が掛かり、高コストであるという問題がある。また得られるシリカエアロゲルの靭性が非常に小さく脆いために、使用に耐えないという問題もある。
【0005】
米国特許5,948,482号(特許文献1)は、(a) SiO2を含むゾルを調整し、(b) これを熟成してゲルにした後、(c) 表面を有機基で修飾し、(d) 超音波処理したものによって薄膜形成するシリカエアロゲル膜の製造方法を記載している。この製造方法によると、99%以上の気孔率を有し、低い屈折率を示すシリカエアロゲル膜を得ることができる。しかし、この製造方法により得られるシリカエアロゲル膜は、機械的強度が小さく、耐擦傷性に欠けるという問題がある。
【0006】
【特許文献1】米国特許5,948,482号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、低屈折率であると共に、優れた靭性及び撥水性を有し、反射防止膜に好適なシリカエアロゲル膜及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者らは、不飽和置換基を有するシリカの分散物からなる薄膜を形成した後、不飽和置換基を重合させることにより、優れた靭性と低屈折率を兼ね備えたシリカエアロゲル膜を得られることを発見し、本発明に想到した。
【0009】
すなわち、本発明の第一のシリカエアロゲル膜の製造方法は、紫外線重合性の不飽和置換基を有するアルコキシシランの加水分解重合により生成した湿潤ゲルを有機修飾し、得られた有機修飾シリカからなる層を形成し、前記有機修飾シリカからなる層に紫外線照射し、焼成することを特徴とする。
【0010】
第一の製造方法において、アルコキシシランとして不飽和置換基及びアルコキシル基を有するモノシランを用い、酸触媒を用いてモノシランを重合させることによってオリゴマーとし、塩基触媒を用いて前記オリゴマーを重合させ、前記湿潤ゲルを得るのが好ましい。前記湿潤ゲルを有機修飾するには(a) シランカップリング剤を用いても良いし、(b) 紫外線重合性の不飽和置換基を有する有機修飾剤を用いても良い。
【0011】
本発明の第二のシリカエアロゲル膜の製造方法は、アルコキシシランの加水分解重合により生成した湿潤ゲルと、紫外線重合性の不飽和置換基を有する有機修飾剤とを反応させ、得られた有機修飾シリカからなる層を形成し、前記有機修飾シリカからなる層に紫外線照射し、焼成することを特徴とする。
【0012】
第二の製造方法において、酸触媒を用いてアルコキシシランを重合させることによってオリゴマーとし、塩基触媒を用いて前記オリゴマーを重合させることによって前記湿潤ゲルを得るのが好ましい。
【0013】
いずれの製造方法においても、前記湿潤ゲルの溶媒は炭素数1〜3のアルコールとするのが好ましい。前記有機修飾シリカを超音波処理によって分散させ、前記有機修飾シリカの分散物を基材に塗工することによって前記層を形成するのが好ましい。分散物には重合開始剤を添加するのが好ましい。好ましい分散媒はカルボン酸エステル、ケトン及びアルコールからなる群より選ばれた少なくとも一種である。前記焼成の温度は50〜150℃とするのが好ましい。
【0014】
本発明のシリカエアロゲル膜は、重合した有機修飾鎖を有することを特徴とする。
【0015】
シリカエアロゲル膜の有機修飾鎖は、炭素数2〜10の炭素鎖を有するのが好ましい。前記有機修飾鎖は、基材に塗工された状態で紫外線照射されることによって形成されたものであるのが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の第一のシリカエアロゲル膜の製造方法においては、不飽和置換基を有するアルコキシシランを原料としてゾルゲル反応をさせ、これを成膜した上で、その不飽和置換基を紫外線重合させる。第二のシリカエアロゲル膜の製造方法においては、アルコキシシランを加水分解重合させ、不飽和置換基を有する有機修飾剤と反応させ、得られた有機修飾シリカからなる膜を形成した後、その不飽和置換基を紫外線重合させる。いずれの製造方法においても、アルコキシシランの加水分解重合によってSi-O-Si結合を形成させるのみならず、置換基の紫外線重合反応によってC-C結合も形成させる。したがって、得られるシリカエアロゲル膜は、ナノサイズの空隙を有するシリカからなる骨格と、重合した有機基からなる有機修飾鎖とを有する。
【0017】
重合した有機基は、シリカエアロゲル膜の疎水性及び靭性に寄与する。シリカからなる骨格と有機修飾鎖とを有する本発明のシリカエアロゲル膜は、シリカエアロゲルの特長である低屈折率と、重合した有機置換基による優れた靭性及び撥水性を兼ね備えたものであり、反射防止膜に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
[1] 第一の製造方法
(1) 原料
(a-1) 不飽和置換基を有するアルコキシシランモノマー
アルコキシシランモノマーは、少なくとも一つの二重結合又は三重結合を有する有機基(以下、「不飽和置換基」という)と、アルコキシル基とを有する。不飽和置換基の炭素数は2〜10であり、2〜4であるのが好ましい。
【0019】
好ましいアルコキシシランのモノマーは、下記一般式(1)
R1nSi(OR2)4-n ・・・(1)
(ただし、R1は紫外線重合性の不飽和結合を有し、かつ炭素数2〜10の有機基を示し、R2Oは炭素数1〜4のアルコキシル基を示し、nは1〜3の整数を示す。)により表される。アルコキシシランモノマーは不飽和置換基を1つ有し、アルコキシル基を3つ有する(n=1)のが好ましい。すなわち、より好ましいアルコキシシランモノマーは、下記一般式(2)
R1Si(OR2)3 ・・・(2)
により表される。このようなアルコキシシランを出発原料とすることにより、アルコキシル基の加水分解反応及び不飽和置換基の重合反応が十分に起こり、優れた均一性及び靭性を有する反射防止膜が得られる。
【0020】
不飽和置換基R1は、紫外線重合性の不飽和結合を少なくとも一つ有する有機基であり、メチル基、エチル基等の置換基を有してもよい。不飽和置換基R1の例としてビニル基、アリル基、メタクリロキシ基、アミノプロピル基、グリシドキシ基、アルケニル基及びプロパルギル基が挙げられる。R2はR1と同じ有機基であってもよいし、異なる有機基であってもよい。アルコキシル基R2Oの例として、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、イソプロポキシ基及びs-ブトキシ基が挙げられる。
【0021】
アルコキシシランモノマーの具体例としてトリメトキシビニルシラン、トリエトキシビニルシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、トリブトキシビニルシラン、トリプロポキシビニルシラン、アリルトリブトキシシラン、アリルトリプロポキシシラン、ジメトキシジビニルシラン、ジアリルジメトキシシラン、ジエトキシジビニルシラン、ジアリルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、トリメトキシ(3-ブテニル)シラン、トリエトキシ(3-ブテニル)シラン、ジ(3-ブテニル)ジメトキシシラン及びジ(3-ブテニル)ジエトキシシランが挙げられる。
【0022】
(a-2) 不飽和置換基を有するアルコキシシランオリゴマー
不飽和置換基を有するアルコキシシランのオリゴマーを出発原料としても良い。アルコキシシランオリゴマーも少なくとも一つの不飽和置換基と、アルコキシル基とを有する。
不飽和置換基を有するアルコキシシランオリゴマーは、下記一般式(3)
SimOm-1Ra2m+2-xORbx ・・・(3)
(ただし、Raは不飽和結合を有しかつ炭素数2〜10の有機基を示し、RbOは炭素数1〜4のアルコキシル基を示し、mは2〜5の整数を示し、xは3〜7の整数を示す。)により表されるものが好ましい。不飽和置換基Ra及びアルコキシル基RbOの好ましい例は、上述のモノマーのもの(R1、R2O)と同じである。
【0023】
縮合数mは2〜5であり、2〜3であるのが好ましい。5以下の縮合数mを有するオリゴマーは、後述するように、酸触媒を用いたモノマーの重合により容易に得られる。アルコキシル基の数xは3〜7であり、3〜5であるのが好ましい。またx=m+2であるのが好ましい。アルコキシル基の数xが3未満であると、アルコキシシランの加水分解重縮合反応が十分に進行し難いために、3次元架橋が起こり難く、湿潤ゲルが形成し難過ぎる。7超であると、不飽和置換基の割合が少なすぎて、重合反応による機械的強度の向上が小さ過ぎる。不飽和置換基を有するアルコキシシランオリゴマーの具体例として、上述のアルコキシシランモノマーの縮合により得られるジシラン、トリシラン、テトラシランが挙げられる。
【0024】
(a-3) 不飽和置換基を有しないアルコキシシラン
不飽和置換基を有するアルコキシシランモノマー及び/又はオリゴマーに加えて、不飽和置換基を有しないアルコキシシランのモノマー又はオリゴマーを併用しても良い。不飽和置換基を有しないものの割合は、不飽和置換基を有するものに対して50%以下とするのが好ましい。50%超とすると、不飽和置換基の量が少なすぎて、重合によるシリカエアロゲル膜の靭性向上が小さ過ぎる。不飽和置換基を有しないアルコキシシランの具体例は、後述する第二の製造方法で用いるものと同じである。
【0025】
(a-4) 溶媒
溶媒は水とアルコールからなるのが好ましい。アルコールとしてはメタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコールが好ましく、メタノールが特に好ましい。溶媒の水/アルコールのモル比は0.1〜2とするのが好ましい。水/アルコールのモル比が2超であると、加水分解反応が速く進行し過ぎる。水/アルコールのモル比が0.1未満であると、アルコキシシランモノマー及び/又はオリゴマー(以下、単に「アルコキシシラン」という)の加水分解が十分に起こらない。
【0026】
(a-5) 触媒
アルコキシシランの水溶液に触媒を添加するのが好ましい。適当な触媒を添加することによりアルコキシシランの加水分解反応を促進することができる。触媒は酸性であっても塩基性であっても良い。例えば酸性の触媒を含有する水溶液中でアルコキシシランモノマーを縮合させることによってオリゴマーを得、これを塩基性触媒を含有する溶液中で重合させると、効率良く加水分解反応を進行させることができる。
【0027】
酸性の触媒の具体例として塩酸、硝酸及び酢酸が挙げられる。塩基性の触媒の具体例としてアンモニア、アミン、NaOH及びKOHが挙げられる。好ましいアミンの具体例としてアルコールアミン、アルキルアミン(例えばメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、n-ブチルアミン、n-プロピルアミン)が挙げられる。
【0028】
(b) 湿潤ゲルの作製
水とアルコールからなる溶媒に、アルコキシシランを溶解する。溶媒/アルコキシシランのモル比は3〜100にするのが好ましい。モル比を3未満とすると、アルコキシシランの重合度が高くなり過ぎる。モル比を100超とすると、アルコキシシランの重合度が低くなり過ぎる。触媒/アルコキシシランのモル比は1×10-7〜1×10-1にするのが好ましく、1×10-2〜1×10-1にするのがより好ましい。モル比が1×10-7未満であると、アルコキシシランの加水分解反応が十分に起こらない。モル比を1×10-1超としても、触媒効果は増大しない。水/アルコキシシランのモル比は0.5〜20にするのが好ましく、5〜10にするのがより好ましい。
【0029】
アルコキシシランを含む溶液を20〜60時間程度エージングする。具体的には、25〜90℃で溶液を静置するか、ゆっくり撹拌する。エージングによりゲル化が進行し、酸化ケイ素を含有する湿潤ゲルが生成する。本明細書中、「酸化ケイ素を含有する湿潤ゲル」は、酸化ケイ素からなる粒子と溶媒とを含有し、湿潤状態のゲルを意味する。
【0030】
(c) 有機修飾
湿潤ゲルに有機修飾剤の溶液を加え、湿潤ゲルと有機修飾剤溶液とが十分接触した状態にすることにより、湿潤ゲルを構成する酸化ケイ素の末端にある水酸基等の親水性基を疎水性の有機基に置換する。5〜30 mm角程度に切断する等して湿潤ゲルの表面積を大きくしたものに、有機修飾剤溶液を加えるのが好ましい。予め湿潤ゲルの表面積を大きくしておくことで、有機修飾剤との反応を効率的に進行させることができる。
【0031】
好ましい有機修飾剤はシランカップリング剤であり、不飽和置換基を有するものでも有しないものでも良い。不飽和置換基を有しないシランカップリング剤としては、下記式(4)〜(9)
RcpSiClq ・・・(4)
Rc3SiNHSiRc3 ・・・(5)
RcpSi(OH)q ・・・(6)
Rc3SiOSiRc3 ・・・(7)
RcpSi(OM)q ・・・(8)
RcpSi(OCOCH3)q ・・・(9)
(ただしpは1〜3の整数であり、qはq = 4−p を満たす1〜3の整数であり、Rcは水素、アルキル基又はアリール基であり、アルキル基は置換又は無置換であって炭素数1〜18であり、アリール基は置換又は無置換であって炭素数5〜18である。)のいずれかにより表される化合物及びそれらの混合物がより好ましい。
【0032】
不飽和置換基を有しない有機修飾剤の具体例としてトリエチルクロロシラン、トリメチルクロロシラン、ジエチルジクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、アセトキシトリメチルシラン、アセトキシシラン、ジアセトキシジメチルシラン、メチルトリアセトキシシラン、フェニルトリアセトキシシラン、ジフェニルジアセトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、2-トリメチルシロキシペント-2-エン-4-オン、n-(トリメチルシリル)アセトアミド、2-(トリメチルシリル)酢酸、n-(トリメチルシリル)イミダゾール、トリメチルシリルプロピオレート、ノナメチルトリシラザン、ヘキサメチルジシラザン、ヘキサメチルジシロキサン、トリメチルシラノール、トリエチルシラノール、トリフェニルシラノール、t-ブチルジメチルシラノール及びジフェニルシランジオールが挙げられる。
【0033】
有機修飾剤は不飽和置換基を有していても良い。不飽和置換基を有する有機修飾剤を使用することにより、重合度の高いシリカエアロゲル膜を得ることができる。不飽和置換基の好ましい例は、第二の製造方法で用いるものと同じである。
【0034】
有機修飾剤の種類や濃度にもよるが、有機修飾反応は10〜40℃で進行させるのが好ましい。10℃未満であると、有機修飾剤が酸化ケイ素と反応し難過ぎる。40℃超であると、有機修飾剤が酸化ケイ素以外の物質と反応し易過ぎる。反応中、溶液の温度及び濃度に分布が生じないように、溶液を撹拌するのが好ましい。例えば有機修飾剤溶液がトリエチルクロロシランのヘキサン溶液の場合、10〜40℃で20〜40時間(例えば30時間)程度保持すると、シラノール基が十分にシリル修飾される。修飾率は10〜30%であるのが好ましい。得られる有機修飾酸化ケイ素は湿潤ゲル状物質である。
【0035】
(d) 分散媒の置換
湿潤ゲルの分散媒は、前述のエージング工程においてエージングを促進したり遅らせたりする表面張力及び/又は固相−液相の接触角や、有機修飾工程における表面修飾の範囲に影響する他、後述するコーティング工程における分散媒の蒸発率にも関係する。ゲルに取り込まれている分散媒は、ゲルの入った容器に置換すべき分散媒を注ぎ、振とうした後でデカンテーションする操作を繰り返すことによって置換することができる。
【0036】
置換する分散媒の具体例としてエタノール、メタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサン、ヘプタン、ペンタン、シクロヘキサン、トルエン、アセトニトリル、アセトン、ジオキサン、メチルイソブチルケトン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、酢酸エチルメチルイソブチルケトン、エチレングリコールモノメチルエーテル、酢酸エチル及びこれらの混合物が挙げられる。
【0037】
置換する分散媒としてより好ましいのは、ケトン系溶媒である。後述する超音波処理工程までにケトン系溶媒に置換しておくと、良好な分散性の有機修飾シリカ含有ゾルを得ることができる。ケトン系溶媒はシリカ(酸化ケイ素)及び有機修飾シリカに対して優れた親和性を有する。そのためケトン系溶媒中で、シリカ及び/又は有機修飾シリカは良好な分散状態になる。(a) 有機修飾反応の前にケトン系溶媒に置換してもよいし、(b) ヘキサン等を溶媒として酸化ケイ素を有機修飾した後で、ケトン系溶媒に置換してもよいが、工程数を少なくする観点から、(a) 有機修飾反応の前に置換しておくのが好ましい。
【0038】
ケトン系溶媒としてより好ましいのは、60℃以上の沸点を有するものである。60℃未満の沸点を有するケトンは、後述する超音波照射の工程で揮発しすぎる。例えばアセトンを分散媒として用いると、超音波照射中にアセトンが大量に揮発してしまうため、分散液の濃度を調節し難過ぎる。また成膜工程においても素早く揮発し過ぎるため、十分な成膜時間が得られないという問題もある。さらにアセトンは人体に有害であることが知られており、作業者の健康の面からも好ましくない。
【0039】
ケトン系溶媒のうち、特に好ましいのはカルボニル基の両側に異なる置換基を有する非対称なケトンである。非対称ケトンは大きな極性を有するために、シリカ及び有機修飾シリカに対して特に優れた親和性を有する。分散液中で、有機修飾シリカは200 nm以下の粒径を有するのが好ましい。有機修飾シリカの粒径が200 nmより大きいと、実質的に平滑な表面を有するシリカエアロゲル膜を形成し難過ぎる。
【0040】
ケトンの有する置換基はアルキル基でもよいし、アリール基でもよい。好ましいアルキル基は炭素数1〜5程度のものである。ケトン系溶媒の具体例としてメチルイソブチルケトン、エチルイソブチルケトン、メチルエチルケトンが挙げられる。
【0041】
(e) 超音波処理
超音波処理により、ゲル状及び/又はゾル状の有機修飾酸化ケイ素をコーティングに好適な状態にすることができる。ゲル状の有機修飾酸化ケイ素の場合、超音波処理により、電気的な力若しくはファンデルワールス力によって凝集していたゲルが解離するか、ケイ素と酸素との共有結合が壊れて、分散状態になると考えられる。ゾル状の場合も、超音波処理によってコロイド粒子の凝集を少なくすることができる。超音波処理には、超音波振動子を利用した分散装置を使用することができる。照射する超音波の周波数は10〜30 kHzとするのが好ましい。出力は300〜900 Wとするのが好ましい。
【0042】
超音波処理時間は5〜120分間とするのが好ましい。超音波を長く照射するほど、ゲル及び/又はゾルのクラスターが細かく粉砕され、凝集の少ない状態になる。このため超音波処理によって得られるシリカ含有ゾル中で、有機修飾酸化ケイ素のコロイド粒子が単分散に近い状態になる。5分未満とすると、コロイド粒子が十分に解離しない。超音波処理時間を120分超としても、有機修飾酸化ケイ素のコロイド粒子の解離状態はほとんど変わらない。
【0043】
空隙率79〜57%であって、1.1〜1.2の屈折率を有するシリカエアロゲル膜を形成するためには、超音波の周波数を10〜30 kHzとし、出力を300〜900 Wとし、超音波処理時間を5〜120分間とするのが好ましい。
【0044】
シリカ含有ゾルの濃度や流動性が適切な範囲になるように、分散媒を加えても良い。超音波処理に先立って分散媒を添加しても良いし、ある程度超音波処理した後で分散媒を添加しても良い。分散媒に対する有機修飾酸化ケイ素の質量比は0.1〜20%とするのが好ましい。分散媒に対する有機修飾酸化ケイ素の質量比が0.1〜20%の範囲でないと、均一な薄層を形成し難いので好ましくない。
【0045】
単分散に近い状態の酸化ケイ素コロイド粒子を含有するゾルを用いると、小さな空隙率を有する有機修飾シリカエアロゲル膜を形成することができる。大きく凝集した状態のコロイド粒子を含有するゾルを用いると、大きな空隙率を有するシリカエアロゲル膜を形成することができる。すなわち、超音波処理時間はシリカエアロゲル膜及びそれを加熱処理することによって得られるシリカエアロゲル膜の空隙率に影響すると言うことができる。5〜120分間超音波処理したゾルをコーティングすることにより、空隙率25〜90%の有機修飾シリカエアロゲル膜を得ることができる。
【0046】
(f) 光重合開始剤の添加
超音波処理後の分散液に光重合開始剤を添加する。光重合開始剤は、後述する紫外線照射工程で不飽和置換基が重合可能な程度に添加しておけば良い。具体的には、分散液中の固形分濃度で5〜15質量%になるように、添加するのが好ましい。光重合開始剤の具体例としてベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾイン及びその誘導体、ベンジル、ベンジルジメチルケタール等のベンジル及びその誘導体、アセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、2,2-ジエトキシ-2-フェニルアセトフェノン、1,1-ジクロルアセトフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-メチル-1-(4-メチルチオフィル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン等のアセトフェノン及びその誘導体、2-メチルアントラキノン,2-クロロアントラキノン、2-エチルアントラキノン、2-t-ブチルアントラキノン等のアントラキノン及びその誘導体、チオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2-クロロチオキサントン等のチオキサントン及びその誘導体、ベンゾフェノン、N,N-ジメチルアミノベンゾフェノン等のベンゾフェノン及びその誘導体が挙げられる。
【0047】
(g) コーティング
シリカを含有するゾルをコーティングすると、ゾルの構成要素である分散媒が揮発して、シリカゲルからなる膜が形成する。コーティング方法の例としてスプレーコート法、スピンコート法、ディップコート法、フローコート法及びバーコート法が挙げられる。好ましいコーティング方法は、スプレーコート法である。スプレーコート法に拠ると、凹凸のある面にも、均一な厚さで有機修飾シリカ含有ゾルからなる層を形成できる。
【0048】
(h) 乾燥
有機修飾シリカ含有ゾル中の溶媒は揮発性であるので、自然乾燥することができるが、50〜100℃に加熱することにより乾燥を促進しても良い。有機修飾シリカの空隙率は、分散媒が揮発している間は、毛管圧によって生じるゲルの収縮のために小さくなるが、揮発し終わると、スプリングバック現象によって回復する。このため乾燥によって得られる有機修飾シリカエアロゲル膜の空隙率は、ゲルネットワークの元々の空隙率とほぼ同じであり、大きな値を示す。シリカゲルネットワークの収縮及びスプリングバック現象については、米国特許5,948,482号に詳細に記載されている。
【0049】
(i) 重合
有機修飾シリカ含有ゾル層に紫外線照射し、不飽和置換基を重合させる。不飽和置換基を重合反応させることにより、シリカエアロゲル膜の疎水性及び靭性を高くすることができる。紫外線照射装置を用いて、有機修飾シリカ含有ゾル層に50〜10000 mJ/cm2程度で紫外線照射するのが好ましい。膜の厚さにも拠るが、10〜2000 nm程度のシリカエアロゲル膜の場合、照射時間は1〜30秒程度とするのが好ましい。原料の種類や重合条件にも依るが、紫外線照射によって炭素数100〜10000程度の炭素鎖を形成させることができる。
【0050】
(j) 焼成
シリカエアロゲル膜は、50〜150℃で焼成するのが好ましい。焼成によって層中の溶媒や表面の水酸基等を除去し、膜の強度を大きくすることができる。また焼成温度が50〜150℃程度であれば、置換基はほとんど分解しないので、焼成後のシリカエアロゲル膜は不飽和置換基の重合によって形成した有機修飾鎖を有する状態である。
【0051】
[2] 第二の製造方法
シリカエアロゲル膜の第二の製造方法は、アルコキシシランの加水分解重合により生成した湿潤ゲルに不飽和置換基を有する有機修飾剤を作用させ、得られた有機修飾シリカからなる薄膜を形成した後、膜中にある不飽和置換基を重合させるものである。第二の製造方法は、出発原料であるアルコキシシラン及び有機修飾剤以外、第一の製造方法とほぼ同じであるので、相違点のみ以下に説明する。
【0052】
(a) アルコキシシラン及びシルセスキオキサン
アルコキシシランモノマーはアルコキシル基を3つ以上有するのが好ましい。アルコキシ基を3つ以上有するアルコキシシランを出発原料として使用すると、加水分解重合を十分に進行させ易く、優れた均一性を有する反射防止膜を得易い。アルコキシシランモノマーの具体例としてはメチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラプロポキシシラン、ジエトキシジメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシランが挙げられる。アルコキシシランオリゴマーとしては、これらのアルコキシシランモノマーの縮重合物が好ましい。アルコキシシランオリゴマーはモノマーの加水分解重合により得られる。
【0053】
出発原料としてシルセスキオキサンを加えた場合も、優れた均一性を有する反射防止膜が得られる。シルセスキオキサンは一般式RSiO1.5(ただしRは有機官能基を示す。)により表され、ネットワーク状ポリシロキサンの総称である。Rとしては、例えばアルキル基(直鎖でも分岐鎖でも良く、炭素数1〜6である)、フェニル基、アルコキシ基(例えばメトキシ基、エトキシ基等)が挙げられる。シルセスキオキサンはラダー型、籠型等種々の構造を有することが知られている。また優れた耐候性、透明性及び硬度を有しており、シリカエアロゲルの出発原料として好適である。
【0054】
(b) 不飽和置換基を有する有機修飾剤
湿潤ゲルに紫外線重合性の不飽和置換基を有する有機修飾剤の溶液を加え、湿潤ゲルと有機修飾剤溶液とが十分接触した状態にすることにより、湿潤ゲルを構成する酸化ケイ素の末端にある水酸基等の親水性基を疎水性の有機基に置換する。有機修飾剤は不飽和置換基の他に、水酸基等の親水性基と反応する官能基を有する。不飽和置換基及び親水性基を少なくとも一つずつ有するものであれば有機修飾剤として使用可能であり、これらの基に加えてメチル基、エチル基等のアルキル基、フェニル基、アリール基等を有するものでもよい。
【0055】
不飽和置換基を有する有機修飾剤の好ましい例は下記式(10)〜(15)
RdpSiClq ・・・(10)
Rd3SiNHSiRd3 ・・・(11)
RdpSi(OH)q ・・・(12)
Rd3SiOSiRd3 ・・・(13)
RdpSi(ORd)q ・・・(14)
RdpSi(OCOCH3)q ・・・(15)
(ただしpは1〜3の整数であり、qはq = 4−p を満たす1〜3の整数を示し、Rdは紫外線重合性の不飽和結合を有し、かつ炭素数2〜10の有機基を示す。)により表される。不飽和置換基Rdはメチル基、エチル基等の置換基を有してもよい。不飽和置換基Rdの例としてビニル基、アリル基、メタクリロキシ基、アミノプロピル基、グリシドキシ基、アルケニル基及びプロパルギル基が挙げられる。不飽和置換基を有する有機修飾剤は一種のみを用いても良いし、二種以上を用いても良い。また不飽和置換基を有しない有機修飾剤を併用しても良い。
【0056】
有機修飾剤のうち好ましいのはクロロシランであり、より好ましいのは3つの不飽和置換基を有するモノクロロシランである。不飽和置換基を有する有機修飾剤の具体例としてトリアリルクロロシラン、ジアリルジクロロシラン、トリアセトキシアリルシラン、ジアセトキシジアリルシラン、トリクロロビニルシラン、ジクロロジビニルシラン、トリアセトキシビニルシラン、ジアセトキジアリルシシラン、トリメトキシ(3-ブテニル)シラン、トリエトキシ(3-ブテニル)シラン、ジ(3-ブテニル)ジメトキシシラン及びジ(3-ブテニル)ジエトキシシランが挙げられる。
【0057】
[3] シリカエアロゲル膜
シリカエアロゲル膜は、ナノメートルサイズの微細孔を有する多孔質膜であり、Si-O結合を有する骨格と、不飽和置換基の重合によって形成した有機修飾鎖とからなる。有機修飾鎖の両端は、シリカ骨格に結合しているのが好ましい。有機修飾されたシリカエアロゲル膜は疎水性であり、優れた耐久性を示す。これは、表面に水酸基をあまり有しておらず、微細孔に水が入り込み難いためであると考えられる。また重合によって形成した有機修飾鎖を有するシリカエアロゲル膜は、優れた靭性を示す。
【0058】
シリカエアロゲル膜の屈折率は空隙率に依存し、空隙率が大きいほど屈折率が小さく、空隙率が小さいほど屈折率は大きい。シリカエアロゲル膜の屈折率は、1.05〜1.30であるのが好ましい。屈折率1.05未満にするには、反射防止膜2の空隙率を90%超にする必要があるため、屈折率1.05未満のものは機械的強度が小さすぎる。屈折率1.30超であると、反射防止膜の低屈折率層としては屈折率が大き過ぎて、優れた反射防止効果を得られない。シリカエアロゲル膜の屈折率は1.1〜1.2であるのがより好ましく、1.13であるのが特に好ましい。屈折率1.13のシリカエアロゲル膜の空隙率は、約72%である。
【0059】
シリカエアロゲル膜の厚さは、焼成や紫外線照射に支障がない範囲であれば良い。反射防止膜として用いる場合は、70〜170 nm程度である。シリカエアロゲル膜の厚さは有機修飾シリカ含有ゾルの濃度や、スプレーコートの回数等によって適宜調製しうる。
【実施例】
【0060】
本発明を以下の実施例によってさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0061】
実施例1
[不飽和アルコキシシラン(出発原料)+ 飽和クロロシラン(表面修飾剤)]
(1-i) 不飽和結合を有するシリカ湿潤ゲルの作製
3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン6.21 gとメタノール3.04 gとを混合した後、塩酸(0.01 N)0.4 gを加えて60℃で3時間撹拌した。メタノール30.8 gとアンモニア水溶液(0.02 N)0.5 gとを添加して48時間撹拌した後、この混合液を60℃に昇温して72時間エージングしたところシリカ湿潤ゲルが生成した。
【0062】
(1-ii) 溶媒置換と表面修飾剤
シリカ湿潤ゲルにエタノールを加えて10時間振とうした後デカンテーションすることにより、未反応物等を除去するとともにシリカ湿潤ゲルの分散媒をエタノールに置換した。さらにメチルi-ブチルケトンを加えて10時間振とうしデカンテーションすることにより、エタノール分散媒をメチルi-ブチルケトンに置換した。シリカ湿潤ゲルにメチルi-ブチルケトンを溶媒とするトリメチルクロロシラン溶液(濃度5体積%)を加え、30時間撹拌して酸化ケイ素末端を有機修飾した。得られた有機修飾シリカ湿潤ゲルにメチルi-ブチルケトンを加えて24時間振とうし、デカンテーションした。
【0063】
(1-iii) 超音波分散とUV重合開始剤の添加
有機修飾されたシリカ湿潤ゲルにメチルi-ブチルケトンを加えて濃度1質量%にし、超音波照射(20 Hz、500 W)することによってゾル状にした。超音波照射時間は20分間とした。このゾル状の分散物に、2-メチル-1-(4-メチルチオフィル)-2-モルフォリノプロパン-1-オンをシリカの固形分濃度に対して3質量%添加し、有機修飾シリカを含有する塗工液とした。
【0064】
(1-iv) ディップコート
(1-iii)で得た有機修飾シリカ含有塗工液をガラス基板上にディップコートし、UV照射装置(フュージョンシステムズ社製)を用いて1500 mJ/cm2で紫外線照射することにより重合させた後、150℃で1時間焼成したところ、加水分解重縮合反応が起こって有機修飾鎖を有するシリカエアロゲル膜が形成した。
【0065】
実施例2
[飽和アルコキシシラン(出発原料)+ 不飽和クロロシラン(表面修飾剤)]
(2-i) シリカ湿潤ゲルの作製
オリゴマー(コルコート社製、メチルシリケート51、平均構造がテトラメトキシシラン3量体)5.90 gと、メタノール50.55 gとを混合した後、アンモニア水(0.05 N)3.20 gを加えて30分間撹拌した。この混合液を室温で72時間エージングしたところシリカ湿潤ゲルが生成した。
【0066】
(2-ii) 溶媒置換と不飽和結合を有する表面修飾剤
シリカ湿潤ゲルにエタノールを加えて10時間振とうした後デカンテーションすることにより、未反応物等を除去するとともにシリカ湿潤ゲルの分散媒をエタノールに置換した。さらにメチルi-ブチルケトンを加えて10時間振とうした後デカンテーションすることにより、エタノール分散媒をメチルi-ブチルケトンに置換した。シリカ湿潤ゲルにメチルi-ブチルケトンを溶媒とするアリルジメチルクロロシラン溶液(濃度5体積%)を加えて30時間撹拌し、酸化ケイ素末端を有機修飾した。得られた有機修飾シリカ湿潤ゲルにメチルi-ブチルケトンを加えて24時間振とうし、デカンテーションした。
【0067】
(2-iii) 超音波分散とUV重合開始剤の添加
有機修飾シリカにメチルi-ブチルケトンを加えて濃度1質量%にし、超音波照射(20 Hz、500 W)することによってゾル状にした。超音波照射時間は20分間とした。この液に、2-メチル-1-(4-メチルチオフィル)-2-モルフォリノプロパン-1-オンをシリカの固形分濃度に対して3質量%添加し、塗工液とした。
【0068】
(2-iv) ディップコート
(2-iii)で得た有機修飾シリカ含有塗工液をガラス基板上にディップコートし、UV照射装置(フュージョンシステムズ社製)を用いて1500 mJ/cm2で紫外線照射することにより重合させた後、150℃で1時間焼成したところ、加水分解重縮合反応が起こって有機修飾鎖を有するシリカエアロゲル膜が形成した。
【0069】
実施例3
[不飽和アルコシキシラン(出発原料)+ 不飽和クロロシラン(表面修飾剤)]
(3-i) 不飽和結合を有するシリカ湿潤ゲルの作製
3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン6.21 gと、メタノール3.04 gとを混合した後、塩酸(0.01 N)0.4 gを加えて60℃で3時間撹拌した。メタノール30.8 gとアンモニア水溶液(0.02 N)0.5 gとを添加して48時間撹拌した後、この混合液を60℃に昇温して72時間エージングしたところシリカ湿潤ゲルが生成した。
【0070】
(3-ii) 溶媒置換と不飽和結合を有する表面修飾剤
シリカ湿潤ゲルにエタノールを加えて10時間振とうし、デカンテーションすることにより、未反応物等を除去するとともにシリカ湿潤ゲルの分散媒をエタノールに置換した。次いでメチルi-ブチルケトンを加えて10時間振とうしデカンテーションすることにより、エタノール分散媒をメチルi-ブチルケトンに置換した。シリカ湿潤ゲルにメチルi-ブチルケトンを溶媒とするアリルジメチルクロロシラン溶液(濃度5体積%)を加え、30時間撹拌して酸化ケイ素末端を有機修飾した。得られた有機修飾シリカ湿潤ゲルにメチルi-ブチルケトンを加えて24時間振とうし、デカンテーションした。
【0071】
(3-iii) 超音波分散とUV重合開始剤の添加
有機修飾されたシリカ湿潤ゲルにメチルi-ブチルケトンを加えて濃度1質量%にし、超音波照射(20 Hz、500 W)することによってゾル状にした。超音波照射時間は20分間とした。このゾル状分散物に、2-メチル-1-(4-メチルチオフィル)-2-モルフォリノプロパン-1-オンをシリカの固形分濃度に対して3質量%添加し、塗工液とした。
【0072】
(3-iv) ディップコート
(3-iii)で得た有機修飾シリカ含有塗工液をガラス基板上にディップコートし、UV照射装置(フュージョンシステムズ社製)を用いて1500 mJ/cm2で紫外線照射することにより重合させた後、150℃で1時間焼成したところ、加水分解重縮合反応が起こり、有機修飾鎖を有するシリカエアロゲル膜が形成した。
【0073】
実施例4
[飽和アルコキシシラン:不飽和アルコシキシラン(1:2)(出発原料)+ 飽和クロロシラン(表面修飾剤)]
(4-i) 不飽和結合を有するシリカ湿潤ゲルの作製
オリゴマー(コルコート社製、メチルシリケート51、平均構造がテトラメトキシシラン3量体)2.37 gと、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン3.22 gと、メタノール40.44 gとを混合した後、アンモニア水(0.05 N)2.56 gを加えて30分間撹拌した。この混合液を室温で72時間エージングしたところ、シリカ湿潤ゲルが生成した。
【0074】
(4-ii) 溶媒置換と表面修飾剤
シリカ湿潤ゲルにエタノールを加えて10時間振とうした後デカンテーションすることにより、未反応物等を除去するとともにシリカ湿潤ゲルの分散媒をエタノールに置換した。次いでメチルi-ブチルケトンを加えて10時間振とうし、デカンテーションすることによりエタノール分散媒をメチルi-ブチルケトンに置換した。シリカ湿潤ゲルにメチルi-ブチルケトンを溶媒とするトリメチルクロロシラン溶液(濃度5体積%)を加え、30時間撹拌して酸化ケイ素末端を有機修飾した。得られた有機修飾シリカ湿潤ゲルにメチルi-ブチルケトンを加えて24時間振とうし、デカンテーションした。
【0075】
(4-iii) 超音波分散とUV重合開始剤の添加
有機修飾シリカにメチルi-ブチルケトンを加えて濃度1質量%にし、超音波照射(20 Hz、500 W)することによってゾル状にした。超音波照射時間は20分間とした。このゾル状分散物に、2-メチル-1-(4-メチルチオフィル)-2-モルフォリノプロパン-1-オンをシリカの固形分濃度に対して3質量%添加し、塗工液とした。
【0076】
(4-iv) ディップコート
(4-iii)で得た有機修飾シリカ含有塗工液をガラス基板上にディップコートし、UV照射装置(フュージョンシステムズ社製)を用いて1500 mJ/cm2で紫外線照射することにより重合させた後、150℃で1時間焼成したところ、加水分解重縮合反応が起こり、有機修飾鎖を有するシリカエアロゲル膜が形成した。
【0077】
実施例5
[飽和アルコキシシラン:不飽和アルコシキシラン(1:2)(出発原料)+不飽和クロロシラン(表面修飾剤)]
(5-i) 不飽和結合を有するシリカ湿潤ゲルの作製
オリゴマー(コルコート社製、メチルシリケート51、平均構造がテトラメトキシシラン3量体)2.37 gと、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン3.22 gと、メタノール40.44 gとを混合した後、アンモニア水(0.05 N)2.56 gを加えて30分間撹拌した。この混合液を室温で72時間エージングしたところ、シリカ湿潤ゲルが生成した。
【0078】
(5-ii) 溶媒置換と不飽和結合を有する表面修飾剤
シリカ湿潤ゲルにエタノールを加えて10時間振とうした後デカンテーションすることにより、未反応物等を除去するとともにシリカ湿潤ゲルの分散媒をエタノールに置換した。さらにメチルi-ブチルケトンを加えて10時間振とうした後デカンテーションすることにより、エタノール分散媒をメチルi-ブチルケトンに置換した。シリカ湿潤ゲルにメチルi-ブチルケトンを溶媒とするアリルジメチルクロロシラン溶液(濃度5体積%)を加え、30時間撹拌して酸化ケイ素末端を有機修飾した。得られた有機修飾シリカ湿潤ゲルにメチルi-ブチルケトンを加えて24時間振とうし、デカンテーションした。
【0079】
(5-iii) 超音波分散とUV重合開始剤の添加
有機修飾シリカにメチルi-ブチルケトンを加えて濃度1質量%にし、超音波照射(20 Hz、500 W)することによってゾル状にした。超音波照射時間は20分間とした。このゾル状分散物に2-メチル-1-(4-メチルチオフィル)-2-モルフォリノプロパン-1-オンをシリカ固形分濃度にして3質量%添加し、塗工液とした。
【0080】
(5-iv) ディップコート
(5-iii)で得た有機修飾シリカ含有塗工液をガラス基板上にディップコートし、UV照射装置(フュージョンシステムズ社製)を用いて1500 mJ/cm2で紫外線照射することにより重合させた後、150℃で1時間焼成したところ、加水分解重縮合反応が起こり、有機修飾鎖を有するシリカエアロゲル膜が形成した。
【0081】
実施例6
[飽和アルコシキシラン(出発原料)+飽和クロロシラン:不飽和クロロシラン(1:1)(表面修飾剤)]
(6-i) シリカ湿潤ゲルの作製
オリゴマー(コルコート社製、メチルシリケート51、平均構造がテトラメトキシシラン3量体)5.90 gと、メタノール50.55 gとを混合した後、アンモニア水(0.05 N)3.20 gを加えて30分間撹拌した。この混合液を室温で72時間エージングしたところ、シリカ湿潤ゲルが生成した。
【0082】
(6-ii) 溶媒置換と不飽和結合を有する表面修飾剤
シリカ湿潤ゲルにエタノールを加えて10時間振とうし、デカンテーションすることにより、未反応物等を除去するとともにシリカ湿潤ゲルの分散媒をエタノールに置換した。さらにメチルi-ブチルケトンを加えて10時間振とうし、デカンテーションすることによりエタノール分散媒をメチルi-ブチルケトンに置換した。シリカ湿潤ゲルにメチルi-ブチルケトンを溶媒とするトリメチルクロロシランとアリルジメチルクロロシランの混合溶液(体積比;メチルイソブチルケトン:トリメチルクロロシラン:アリルジメチルクロロシラン=90:5:5)を加え、30時間撹拌して酸化ケイ素末端を有機修飾した。得られた有機修飾シリカ湿潤ゲルにメチルi-ブチルケトンを加えて24時間振とうし、デカンテーションした。
【0083】
(6-iii) 超音波分散とUV重合開始剤の添加
有機修飾されたシリカ湿潤ゲルにメチルi-ブチルケトンを加えて濃度1質量%にした後、超音波照射(20 Hz、500 W)することによってゾル状にした。超音波照射時間は20分間とした。この溶液に2-メチル-1-(4-メチルチオフィル)-2-モルフォリノプロパン-1-オンの固形分濃度に対して3質量%添加し、塗工液とした。
【0084】
(6-iv) ディップコート
(6-iii)で得た有機修飾シリカ含有塗工液をガラス基板上にディップコートし、UV照射装置(フュージョンシステムズ社製)を用いて1500 mJ/cm2で紫外線照射することにより重合させた後、150℃で1時間焼成したところ、加水分解重縮合反応が起こり、有機修飾鎖を有するシリカエアロゲル膜が形成した。
【0085】
実施例7
[不飽和アルコシキシラン(出発原料)+飽和クロロシラン:不飽和クロロシラン(1:1)(表面修飾剤)]
(7-i) 不飽和結合を有するシリカ湿潤ゲルの作製
3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン6.21 gと、メタノール3.04 gとを混合した後、塩酸(0.01 N)0.4 gを加えて60℃で3時間撹拌した。メタノール30.8 gとアンモニア水溶液(0.02 N)0.5 gとを添加して48時間撹拌した後、この混合液を60℃に昇温して72時間エージングしたところシリカ湿潤ゲルが生成した。
【0086】
(7-ii) 溶媒置換と不飽和結合を有する表面修飾剤
シリカ湿潤ゲルにエタノールを加えて10時間振とうし、デカンテーションすることにより未反応物等を除去するとともにシリカ湿潤ゲルの分散媒をエタノールに置換した。さらにメチルi-ブチルケトンを加えて10時間振とうした後デカンテーションすることにより、エタノール分散媒をメチルi-ブチルケトンに置換した。シリカ湿潤ゲルにメチルi-ブチルケトンを溶媒とするトリメチルクロロシランとアリルジメチルクロロシランの混合溶液(体積比;メチルイソブチルケトン:トリメチルクロロシラン:アリルジメチルクロロシラン=90:5:5)を加え、30時間撹拌して酸化ケイ素末端を有機修飾した。得られた有機修飾シリカ湿潤ゲルにメチルi-ブチルケトンを加えて24時間振とうし、デカンテーションした。
【0087】
(7-iii) 超音波分散とUV重合開始剤の添加
有機修飾されたシリカ湿潤ゲルにメチルi-ブチルケトンを加えて濃度1質量%にした後、超音波照射(20 Hz、500 W)することによってゾル状にした。超音波照射時間は20分間とした。このゾル状分散物に、2-メチル-1-(4-メチルチオフィル)-2-モルフォリノプロパン-1-オンをシリカの固形分濃度に対して3質量%添加し、塗工液とした。
【0088】
(7-iv) ディップコート
(7-iii)で得た有機修飾シリカ含有塗工液をガラス基板上にディップコートし、UV照射装置(フュージョンシステムズ社製)を用いて1500 mJ/cm2で紫外線照射することにより重合させた後、150℃で1時間焼成したところ、加水分解重縮合反応が起こり、有機修飾鎖を有するシリカエアロゲル膜が形成した。
【0089】
実施例8
[飽和アルコキシシラン:不飽和アルコシキシラン(1:2)(出発原料)+ 飽和クロロシラン:不飽和クロロシラン(1:1)(表面修飾剤)]
(8-i) 不飽和結合を有するシリカ湿潤ゲルの作製
オリゴマー(コルコート社製、メチルシリケート51、平均構造がテトラメトキシシラン3量体)2.37 gと、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン3.22 gと、メタノール40.44 gとを混合した後、アンモニア水(0.05 N)2.56 gを加えて30分間撹拌した。この混合液を室温で72時間エージングしたところ、シリカ湿潤ゲルが生成した。
【0090】
(8-ii) 溶媒置換と不飽和結合を有する表面修飾剤
シリカ湿潤ゲルにエタノールを加えて10時間振とうしデカンテーションすることにより、未反応物等を除去するとともにシリカ湿潤ゲルの分散媒をエタノールに置換した。さらにメチルi-ブチルケトンを加えて10時間振とうしデカンテーションすることにより、エタノール分散媒をメチルi-ブチルケトンに置換した。シリカ湿潤ゲルにメチルi-ブチルケトンを溶媒とするトリメチルクロロシランとアリルジメチルクロロシランの混合溶液(体積比;メチルイソブチルケトン:トリメチルクロロシラン:アリルジメチルクロロシラン=90:5:5)を加え、30時間撹拌して酸化ケイ素末端を有機修飾した。得られた有機修飾シリカ湿潤ゲルにメチルi-ブチルケトンを加えて24時間振とうし、デカンテーションした。
【0091】
(8-iii) 超音波分散とUV重合開始剤の添加
有機修飾シリカにメチルi-ブチルケトンを加えて濃度1質量%にした後、超音波照射(20 Hz、500 W)することによってゾル状にした。超音波照射時間は20分間とした。このゾル状分散物に、2-メチル-1-(4-メチルチオフィル)-2-モルフォリノプロパン-1-オンをシリカの固形分濃度に対して3質量%添加し、塗工液とした。
【0092】
(8-iv) ディップコート
(8-iii)で得た有機修飾シリカ含有塗工液をガラス基板上にディップコートし、UV照射装置(フュージョンシステムズ社製)を用いて1500 mJ/cm2で紫外線照射することにより重合させた後、150℃で1時間焼成したところ、加水分解重縮合反応が起こり、有機修飾鎖を有するシリカエアロゲル膜が形成した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線重合性の不飽和置換基を有するアルコキシシランの加水分解重合により生成した湿潤ゲルを有機修飾し、得られた有機修飾シリカからなる層を形成し、前記有機修飾シリカからなる層に紫外線照射し、焼成することを特徴とするシリカエアロゲル膜の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のシリカエアロゲル膜の製造方法において、前記アルコキシシランとして不飽和置換基及びアルコキシル基を有するモノシランを用い、酸触媒を用いて前記モノシランを重合させることによってオリゴマーを生成させ、塩基触媒を用いて前記オリゴマーを重合させることによって前記湿潤ゲルを得ることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のシリカエアロゲル膜の製造方法において、前記湿潤ゲルをシランカップリング剤によって有機修飾することを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のシリカエアロゲル膜の製造方法において、紫外線重合性の不飽和置換基を有する有機修飾剤によって前記湿潤ゲルを有機修飾することを特徴とする方法。
【請求項5】
アルコキシシランの加水分解重合により生成した湿潤ゲルと、紫外線重合性の不飽和置換基を有する有機修飾剤とを反応させ、得られた有機修飾シリカからなる層を形成し、前記有機修飾シリカからなる層に紫外線照射し、焼成することを特徴とするシリカエアロゲル膜の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載のシリカエアロゲル膜の製造方法において、酸触媒を用いて前記アルコキシシランを重合させることによってオリゴマーを生成させ、塩基触媒を用いて前記オリゴマーを重合させることによって前記湿潤ゲルを得ることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれかに記載のシリカエアロゲル膜の製造方法において、前記有機修飾剤として不飽和置換基を有するモノクロロシランを使用することを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のシリカエアロゲル膜の製造方法において、前記有機修飾シリカを超音波処理によって分散させ、前記有機修飾シリカの分散物を基材に塗工することによって前記層を形成することを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項8に記載のシリカエアロゲル膜の製造方法において、前記分散物の分散媒をカルボン酸エステル、ケトン及びアルコールからなる群より選ばれた少なくとも一種とすることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項8又は9に記載のシリカエアロゲル膜の製造方法において、前記分散物に重合開始剤を添加することを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載のシリカエアロゲル膜の製造方法において、前記湿潤ゲルの溶媒を炭素数1〜3のアルコールとすることを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載のシリカエアロゲル膜の製造方法において、前記焼成の温度を50〜150℃とすることを特徴とする方法。
【請求項13】
重合した有機修飾鎖を有することを特徴とするシリカエアロゲル膜。
【請求項14】
請求項13に記載のシリカエアロゲル膜において、前記有機修飾鎖が炭素数2〜10の炭素鎖を有することを特徴とするシリカエアロゲル膜。
【請求項15】
請求項13又は14に記載のシリカエアロゲル膜において、前記有機修飾鎖が基材に塗工された状態で紫外線照射されることによって形成されたものであることを特徴とするシリカエアロゲル膜。

【公開番号】特開2006−297329(P2006−297329A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−125593(P2005−125593)
【出願日】平成17年4月22日(2005.4.22)
【出願人】(000000527)ペンタックス株式会社 (1,878)
【Fターム(参考)】