説明

シリカ質膜製造方法およびそれに用いるポリシラザン塗膜処理液

【課題】ポリシラザン化合物を用いて、低温で表面が親水性のシリカ質膜を得る方法の提供。
【解決手段】基板の表面上に、ポリシラザン化合物およびシリカ転化反応促進化合物を含んでなる組成物を塗布し、得られた塗膜に、ポリシラザン塗膜処理液を塗布し、300℃以下でポリシラザン化合物をシリカ質膜に転化させるシリカ質膜製造方法。このポリシラザン塗膜処理液は、過酸化水素とアルコールと溶媒とを含むものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子デバイス等の製造の一部となる、シリカ質膜製造方法およびそれに用いられるポリシラザン塗膜処理液に関するものである。より詳しくは、本発明は電子デバイス等の製造において形成される絶縁膜、平坦化膜、パッシベーション膜、または保護膜等として用いられるシリカ質膜を、ペルヒドロポリシラザン化合物を用いて低温で形成させるシリカ質膜製造方法と、そのような低温でのシリカ質膜形成を可能とするポリシラザン塗膜処理液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体装置の様な電子デバイスにおいては、半導体素子、例えばトランジスタ、抵抗、およびその他、が基板上に配置されているが、これらは電気的に絶縁されている必要がある。このような半導体素子は、基板上に離間して2次元方向に配列されていたが、昨今では高密度化の要請から3次元に配列されるようになってきている。すなわち、電子デバイスの製造過程においては、基板上に2次元に素子を配置した後、その上に絶縁層などを積層し、さらにその上に素子を配置して、積層構造とすることが一般的となってきている。
【0003】
このような絶縁膜を形成させるための方法として、ポリシラザンを含むコーティング組成物を塗布し、その後に焼成してポリシラザンをシリカ質膜に転化させてシリカ質膜を形成させる方法が知られている。(例えば、特許文献1〜3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−31333号公報
【特許文献2】特開平9−275135公報
【特許文献3】特開2005−45230号公報
【特許文献4】特開平6−299118号公報
【特許文献5】特開平11−116815号公報
【特許文献6】特開2009−111029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、本発明者らの検討によれば、このようなポリシラザンを含む組成物を塗布した後に高温焼成が必要であるのが一般的である。しかし、高温処理は製造効率が下がる原因となるうえ、積層される層の数が多ければ、それだけ高温処理が必要となって製造効率が下がってしまう。一方、高温処理を避けるために、ポリシラザンからシリカ質膜への転化反応に寄与するシリカ転化反応促進化合物を用いることも検討されている(例えば、特許文献4〜6)。しかし、このようなシリカ転化反応促進化合物を用いると、形成されるシリカ質膜の表面が撥水性となることがわかった。この結果、形成されたシリカ質膜の表面に素子を形成させるために必要なコーティング組成物を塗布する際にそのコーティング組成物がはじかれてしまい、塗布ムラが起きやすいという改良すべき点があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によるシリカ質膜製造方法は、
基板の表面上に、ポリシラザン化合物およびシリカ転化反応促進化合物を含んでなる組成物を塗布して、ポリシラザン塗膜を形成させるポリシラザン塗膜形成工程、
前記ポリシラザン塗膜に、ポリシラザン塗膜処理液を塗布する促進剤塗布工程、および
300℃以下でポリシラザン化合物をシリカ質膜に転化させる硬化工程
を含んでなるものであって、
前記ポリシラザン塗膜処理液が、ポリシラザン塗膜処理液の全重量を基準として0.5〜10重量%の過酸化水素と、10〜98重量%のアルコールと、溶媒とを含むものであること
を特徴とするものである。
【0007】
また、本発明によるポリシラザン塗膜処理液は、ポリシラザン化合物およびシリカ転化反応促進化合物を含んでなる組成物を塗布することにより形成されたポリシラザン塗膜の表面に塗布して、ポリシラザン化合物がシリカに転化するのを促進させるためのものであって、
前記ポリシラザン塗膜処理液が、ポリシラザン塗膜処理液の全重量を基準として0.5〜10重量%の過酸化水素と、10〜98重量%のアルコールと、溶媒とを含むものであること
を特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、従来のシリカ質膜製造方法に比べて低温で、例えば室温で、容易に緻密なシリカ質膜を形成させることができる。特に室温の様な低温でシリカ質膜を形成させることができるため、耐熱性が十分ではない半導体素子などを有する電子デバイスの製造などにも適用することができる。さらに、本発明の方法により得られるシリカ質膜は親水性であるため、従来の低温焼成法などで得られるペルヒドロポリシラザン由来のシリカ質膜の表面にほかのコーティング組成物を塗布する時に生じやすかったハジキを抑制することができる。このため、本発明により形成されたシリカ質膜は、電子デバイス等における層間絶縁膜、上面保護膜、保護膜用プライマー等に用いることができる。さらには、電気デバイスに限定されず、金属、ガラスまたはプラスチック等の基材表面の保護膜として使用することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0010】
ポリシラザン塗膜処理液
本発明におけるポリシラザン塗膜処理液は、後述するシリカ質膜製造過程において、ポリシラザン塗膜を硬化させる前に塗布するものである。本発明によるシリカ質膜製造方法において、ポリシラザン塗膜の硬化前に本発明によるポリシラザン塗膜処理液を塗布することにより、従来よりも低温でシリカ質膜を得ることができる。
【0011】
本発明によるポリシラザン塗膜処理液は、過酸化水素と、アルコールと、溶媒とを含んでなる。それぞれの成分について説明すると以下の通りである。
【0012】
(a)過酸化水素
過酸化水素は、一般的な酸化剤としてよく知られているものである。本発明においては、シリカ質膜の形成は、この過酸化水素と、ポリシラザン塗膜に含まれるシリカ転化反応促進化合物とによって達成されるものと考えられる。
【0013】
過酸化水素は、単体では不安定な液体であるため、一般に水溶液として取り扱われる。このため、本発明においてもポリシラザン塗膜処理液の調製には過酸化水素水溶液が用いられるのが一般的である。所望の過酸化水素濃度となるようにポリシラザン塗膜処理液に水溶液で配合することが好ましい。例えば硫酸水素アンモニウム水溶液の電気分解や、ペルオキソ酸の加水分解などにより得られた過酸化水素を直接ポリシラザン塗膜処理液に配合することもできるが、水溶液を用いる方が簡便である。
【0014】
ポリシラザン塗膜処理液中における過酸化水素の含有量は、均一な焼成膜を得るという観点からは多い方が好ましい一方で、ポリシラザン塗膜処理液を取り扱う作業者の安全性に配慮すると一定以下であることが好ましい。このような観点から、組成物全体に対する過酸化水素の含有量は0.5〜10重量%であることが必要であり、1〜8重量%であることが好ましく、3〜5重量%であることがより好ましい。
【0015】
(b)アルコール
本発明によるポリシラザン塗膜処理液はアルコールを含んでなることを必須とする。本発明においてアルコールは、形成されたシリカ質膜の表面を親水性とする作用がある。このため、本発明の方法により形成されたシリカ質膜は、従来の方法により形成されたシリカ質膜に比較して親水性が高く、撥水性が低くなり、シリカ質膜の表面に別の組成物を塗布する場合により均一な塗膜を得ることができる。
【0016】
本発明において、アルコールとは炭化水素に含まれる水素の少なくとも一つが水酸基で置換されたものをいう。しかしながら、本発明において好ましいアルコールは、取扱い性およびシリカ質膜表面の親水性向上の観点から、炭素数1〜8の、モノオール、ジオール、およびオキシエーテルからなる群から選ばれるものであることが好ましい。アルコールには、炭化水素鎖の種類や水酸基の位置などにより非常に多く種類がある。しかしながら、形成されるシリカ質膜表面の親水性向上効果が大きいこと、形成されるシリカ質膜への残留を防ぐために低沸点であること、過酸化水素などの他の成分と反応性が低いことが望ましい。このような観点から、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ヘキサノール、オクタノールなどの脂肪族アルコール、エチレングリコール、プロピレングリコールなどの脂肪族ジオール、および1−メトキシ−2−プロパノール、2−エトキシエタノールなどの、オキシエーテル、ならびにそれらの混合物からなる群から選択されるものであることが好ましい。
【0017】
本発明によるポリシラザン塗膜処理液中におけるアルコールの含有量は、シリカ質膜の親水性向上の観点からは多い方が好ましい。一方、本発明において過酸化水素は一般的に水溶液として配合されるので、そこに含まれる水のためにアルコールの含有量には上限がある。このような観点から、アルコールの含有量は10〜98重量%であることが必要であり、20〜98重量%であることが好ましく、25〜98重量%であることがより好ましい。
【0018】
(c)溶媒
本発明によるポリシラザン塗膜処理液は、溶媒を含んでなる。この溶媒は、前記の過酸化水素およびアルコールを均一に溶解させるものである。なお、前記気泡付着防止剤として用いられるアルコールは液体であり、一般的に溶媒としても作用し得るものであるが、本発明においてアルコールは溶媒に含めないものとする。すなわち、本発明における「溶媒」は前記アルコール以外のものから選択されるものである。
【0019】
溶媒には、前記の各成分を均一に溶解し得るものであれば任意に選択することができるが、好ましくは水が用いられる。基板への不純物付着を防ぐために、純度が高いもの、例えば蒸留水や脱イオン水を用いることが好ましい。なお、例えば過酸化水素または界面活性剤を水溶液として配合する場合の溶媒(すなわち水)も、本発明におけるポリシラザン塗膜処理液の溶媒である。
【0020】
(d)その他の成分
本発明によるポリシラザン塗膜処理液は、上記の必須成分のほかに、必要に応じてその他の成分を含んでなることもできる。例えば、塗布性や気泡付着性を改良するための界面活性剤、組成物の相溶性を改良するためのエーテル、ケトン、アルデヒド、カルボン酸等、を含んでいてもよい。
【0021】
本発明によるポリシラザン塗膜処理液は、上記の各成分を混合し、均一に溶解させることにより調製される。このとき、混合の順番は特に限定されない。また、調製後のポリシラザン塗膜処理液は、比較的安定性の劣る過酸化水素を含むため、保存する場合には冷暗所に保存すべきである。
【0022】
シリカ質膜の製造法
本発明によるシリカ質膜の製造法は、(a)基板の表面上に、ポリシラザン化合物およびシリカ転化反応促進化合物(以下、簡単のために促進化合物ということがある)を含んでなる組成物を塗布し、(b)前記ポリシラザン塗膜に、ポリシラザン塗膜処理液(以下、簡単のための処理液ということがある)を塗布し、さらに(c)300℃以下でポリシラザン化合物をシリカ質膜に転化させることを含んでなる。
【0023】
(a)ポリシラザン塗膜形成工程
用いられる基板の表面材質は特に限定されないが、例えばベアシリコン、必要に応じて熱酸化膜や窒化珪素膜を成膜したシリコンウェハー、などが挙げられる。本発明においては、このような基板に対して、溝や孔が設けられていたり、半導体素子が形成されていたりしてもよい。これらの溝や孔、あるいは半導体素子の形成方法は特に限定されず、従来知られている任意の方法を用いることができる。
【0024】
次いで、この基板上にシリカ質膜の材料となるポリシラザン組成物を塗布して、塗膜を形成させる。このポリシラザン組成物は、ポリシラザン化合物とシリカ転化反応促進化合物とを溶媒に溶解させたものを用いることができる。
【0025】
本発明に用いられるポリシラザン化合物は特に限定されず、本発明の効果を損なわない限り任意に選択することができる。これらは、無機化合物あるいは有機化合物のいずれのものであってもよい。これらポリシラザンのうち、無機ポリシラザンとしては、例えば一般式(I):
【化1】

で示される構造単位を有する直鎖状構造を包含し、690〜2000の分子量を持ち、一分子中に3〜10個のSiH基を有し、化学分析による元素比率がSi:59〜61、N:31〜34およびH:6.5〜7.5の各重量%であるペルヒドロポリシラザン、およびポリスチレン換算平均分子量が3,000〜20,000の範囲にあるペルヒドロポリシラザンが挙げられる。
【0026】
また、他のポリシラザンの例として、例えば、主として一般式(II):
【化2】

(式中、R、RおよびRは、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、もしくはこれらの基以外でフルオロアルキル基等のケイ素に直結する基が炭素である基、アルキルシリル基、アルキルアミノ基またはアルコキシ基を表す。但し、R、RおよびRの少なくとも1つは水素原子である。)で表される構造単位からなる骨格を有する数平均分子量が約100〜50,000のポリシラザンまたはその変性物が挙げられる。これらのポリシラザン化合物は2種類以上を組み合わせて用いることもできる。
【0027】
本発明においてポリシラザン組成物中のポリシラザン化合物の含有率は、組成物の全重量を基準として0.1〜40重量%であることが好ましく、0.5〜20重量%とすることがより好ましい。通常、ポリシラザン化合物の含有量を0.5〜20重量%とすることで、一般的に好ましい膜厚、例えば500〜8000Å、を得ることができる。
【0028】
本発明に用いられるポリシラザン組成物は、前記のポリシラザン化合物を溶解し得る溶媒を含んでなる。ここで用いられる溶媒は、前記のポリシラザン塗膜処理液に用いられる溶媒とは同一である必要はない。このような溶媒としては、前記の各成分を溶解し得るものであれば特に限定されるものではないが、好ましい溶媒の具体例としては、次のものが挙げられる:
(a)芳香族化合物、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、トリメチルベンゼン、トリエチルベンゼン等、(b)飽和炭化水素化合物、例えばn−ペンタン、i−ペンタン、n−ヘキサン、i−ヘキサン、n−ヘプタン、i−ヘプタン、n−オクタン、i−オクタン、n−ノナン、i−ノナン、n−デカン、i−デカン等、(c)脂環式炭化水素化合物、例えばエチルシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロヘキサン、シクロヘキセン、p−メンタン、デカヒドロナフタレン、ジペンテン、リモネン等、(d)エーテル類、例えばジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルターシャリーブチルエーテル(以下、MTBEという)、アニソール等、および(e)ケトン類、例えばメチルイソブチルケトン(以下、MIBKという)等。これらのうち、(b)飽和炭化水素化合物、(c)脂環式炭化水素化合物(d)エーテル類、および(e)ケトン類がより好ましい。
【0029】
これらの溶媒は、溶剤の蒸発速度の調整のため、人体への有害性を低くするため、または各成分の溶解性の調製のために、適宜2種以上混合したものも使用できる。
【0030】
本発明においてポリシラザン組成物は、さらにシリカ転化反応促進化合物を含んでなる。ここで、促進化合物とは、ポリシラザン化合物との相互反応によりポリシラザンがシリカ質物質に転化する反応を促進する化合物である。このような促進化合物としては、種々のものが知られているが、例えば特許文献4〜6に記載されているものを用いることができる。より具体的には、下記の(i)〜(iii)の化合物をあげることができる。
(i)促進化合物のひとつめとして金属カルボン酸が挙げられる。特にニッケル、チタン、白金、ロジウム、コバルト、鉄、ルテニウム、オスミウム、パラジウム、イリジウム、またはアルミニウムを含む金属カルボン酸が好ましい。このような金属カルボン酸塩を促進化合物として用いる場合には、ポリシラザン化合物の重量に対して、一般に0.01〜20重量%以下、好ましくは0.1〜10重量%、より好ましくは0.5〜5重量%とされる。金属カルボン酸塩の添加量がこの範囲を超えるとゲル化することがあり、少ないと本発明の効果が得られないことがあるので注意が必要である。
【0031】
(ii)2番目の促進化合物として、N−ヘテロ環状化合物が挙げられる。芳香族性を示さないN−ヘテロ環状化合物が好ましく、より具体的には、1,3−ジ−4−ピペリジルプロパン、4,4’−トリメチレンビス(1−メチルピペリジン)、ジアザビシクロ−[2.2.2]オクタン、またはシス−2,6−ジメチルピペラジンが挙げられる。このようなN−ヘテロ環状化合物を促進化合物として用いる場合には、ポリシラザン化合物の重量に対して、一般に0.01〜50重量%以下、好ましくは0.1〜10重量%とされる。N−ヘテロ環状化合物の含有量が増加するとシリカ転化促進効果は増大するので好ましいが、添加後のシリカ質膜の密度が低下したり、ポリシラザンの安定性が低下して組成物の取り扱い性が悪くなることがあるので注意が必要である。
【0032】
(iii)3番目の促進化合物はアミン化合物、特に下記一般式(A)または(B)で示されるアミン化合物が挙げられる。
【化3】

(式中、
はそれぞれ独立に水素またはC〜Cの炭化水素基を示し、ここで、一つの窒素に結合する二つのRは同時に水素ではなく、
およびLはそれぞれ独立に、−CH−、−NRA1−(ここで、RA1は水素またはC〜Cの炭化水素基であり)、または−O−であり、
p1およびp3はそれぞれ独立に0〜4の整数であり、
p2は1〜4の整数である)、
【化4】

(式中、
はそれぞれ独立に水素またはC〜Cの炭化水素基を示し、
q1およびq2はそれぞれ独立に1〜4の整数である)
【0033】
アミン化合物の配合量は、ポリシラザン化合物の重量に対して、一般に50重量%以下、好ましくは10重量%以下とされる。特に、ケイ素にアルキル基などが結合していないペルヒドロポリシラザン化合物を用いる場合には、電子的または立体的に有利に作用するため、アミン化合物の添加量が相対的に少なくても本発明の効果を得ることができる。具体的には、一般に1〜20%、好ましくは3〜10%、より好ましくは4〜8%、さらに好ましくは4〜6%とされる。アミン化合物の配合量は、その反応促進作用や膜の緻密さを改善する効果を最大限得るために、一定量以上であることが好ましい一方で、組成物の相溶性を維持し、製膜したときの膜ムラを防ぐために一定量以下であることが好ましい。
【0034】
本発明に用いられるポリシラザン組成物は、必要に応じてその他の添加剤成分を含有することもできる。そのような成分として、例えば粘度調整剤、架橋促進剤等が挙げられる。また、半導体装置に用いられたときにナトリウムのゲッタリング効果などを目的に、リン化合物、例えばトリス(トリメチルシリル)フォスフェート等、を含有することもできる。
【0035】
このようなポリシラザン組成物は、例えば特許文献4〜6に開示されているものを用いることもできる。
【0036】
前記のポリシラザン組成物を基板表面に対する組成物の塗布方法としては、従来公知の方法、例えば、スピンコート法、ディップ法、スプレー法、転写法等が挙げられる。これらのうち、特に好ましいのはスピンコート法である。
【0037】
(b)ポリシラザン塗膜処理液塗布工程
必要に応じて基板表面に形成されたポリシラザン塗膜から過剰の有機溶媒を除去(乾燥)するために予備加熱(プリベーク)したあと、前記したポリシラザン塗膜処理液が塗布される。予備加熱はポリシラザンを硬化させることが目的ではないため、一般に低温で短時間加熱することにより行われる。具体的には70〜150℃、好ましくは100〜150℃で、1〜10分、好ましくは3〜5分加熱することにより行われる。
【0038】
処理液の塗布方法は特に限定されず、任意の方法で塗布することができる。例えば、スプレーコーティング、スピンコーティング、流し塗り、手塗り、バーコーティングなどにより塗布することができる。
【0039】
(c)硬化工程
塗布工程のあと、塗膜は硬化工程に付される。ここで、本発明によるシリカ質膜製造方法においては、硬化工程は300℃以下で行われる。本発明においては、ポリシラザン組成物に含まれる促進化合物と、処理液に含まれる過酸化水素の効果により、極めて低い温度でポリシラザン化合物からシリカへの転化、すなわち硬化が進行する。このため、従来必要であった焼成は特に必要が無く、焼成を行うとしても例えば300℃以下の低い温度で行われる。特に、常温で硬化させることは焼成のための設備やエネルギーを必要としないので好ましい。この結果、製造工程が簡略になり、また焼成を行う場合であっても昇温および冷却に必要な時間およびエネルギーが省略できるため、生産効率が改善される。
【0040】
硬化は好ましくは水蒸気、酸素、またはその混合ガスを含む雰囲気中、すなわち酸化雰囲気中で行われる。本発明においては、特に酸素を含む雰囲気下で硬化させることが好ましい。ここで、酸素の含有率は体積を基準として1%以上であることが好ましく、10%以上であることがより好ましい。ここで、本発明の効果を損なわない範囲で、雰囲気中に窒素やヘリウムなどの不活性ガスが混在していてもよい。
【0041】
また、本発明の方法において、水蒸気を含む雰囲気下で硬化を行う場合には、体積を基準として0.1%以上であることが好ましく、1%以上であることがより好ましい。本発明においては、特に酸素と水蒸気とを含む混合ガス雰囲気下で硬化を行うことが好ましい。
【0042】
本発明を諸例を用いて説明すると以下の通りである。
【0043】
ポリシラザン組成物の調製
下記の3種類のポリシラザン組成物を調製した。
(X)テトラメチルヘキサンジアミンをペルヒドロポリシラザンに対して5重量%の割合で加え、ジブチルエーテルで希釈して、ペルヒドロポリシラザン濃度が10重量%の組成物とした。
(Y)4,4’−トリメチレンビス(1−メチルピペリジン)をペルヒドロポリシラザンに対して5重量%の割合で加え、ジブチルエーテルで希釈して、ペルヒドロポリシラザン濃度が10重量%の組成物とした。
(Z)プロピオン酸パラジウムをペルヒドロポリシラザンに対して1重量%の割合で加え、ペルヒドロポリシラザン濃度が10重量%の組成物とした。
【0044】
ポリシラザン塗膜処理液の調製
次に、30%濃度の過酸化水素水、アルコール、および水を用いて、表1に示す通りのポリシラザン塗膜処理液を調製した。なお、比較例4には過酸化水素を用いず、比較例5にはアルコールを用いなかった。また比較例6〜8には、アルコールの代わりに有機溶媒を用いた。
【0045】
シリカ質膜の製造
ポリシラザン組成物1ccを4インチシリコンウェハーに滴下し、スピンコート法により塗布してポリシラザン膜を形成させた。塗布条件は、500rpmで5秒間スピンさせた後、1000rpmで20秒間スピンさせた。
得られたポリシラザン膜に、不織布にしみこませたポリシラザン塗膜処理液を手塗りによって塗布した。塗布時の周囲条件は、室温、相対湿度40〜55%であった。
実施例1〜19および比較例1〜10においては、さらに周囲条件下で5分間保持してポリシラザン膜を硬化させた。また、実施例20および比較例11においては、ポリシラザン塗膜処理液の塗布前にポリシラザン膜を80℃で30分間焼成し、またポリシラザン塗膜処理液の塗布後にも80℃で30分間焼成してポリシラザン膜を硬化させた。
【0046】
シリカ質膜のシリカ転化度合いの評価
シリカ転化度合いは、FT−IR測定装置により評価した。転化の前後で、IRスペクトルを測定して組成物がシリカ質物質に転化した度合いを評価した。転化により得られるシリカ質膜のIRスペクトルは、一般に1030cm−1、および450cm−1付近にあるSi−O結合に基づく吸収が認められ、転化前に存在している3350cm−1および1200cm−1付近にあるN−H結合に基づく吸収、および2200cm−1にあるSi−H結合に基づく吸収が消失するので、これによりシリカ質膜に転化されたことが確認できる。このようなIRスペクトルの特徴をもとにして、下記の通りの基準でシリカ転化度合いを評価した。
A:Si−H結合およびSi−N結合に相当する吸収がほとんど認められず、十分にシリカへ転化されたもの。
B:Si−O結合に対応する吸収が認められるが、Si−H結合に対応する吸収が認められ、シリカへの転化が不十分なもの。
C: IRスペクトルがペルヒドロポリシラザンとほぼ同等であり、シリカへの転化がほとんど認められないもの。
【0047】
得られた結果は表1に示した通りであった。なお、比較例5だけは、得られたシリカ質膜表面に水滴状の斑点があることが確認された。
【0048】
シリカ質膜の対水接触角の評価
得られたシリカ質膜の表面に水滴をたらし、接触角を測定した。得られた結果は表1に示した通りであった。
【0049】
【表1】

Et: エタノール
Me: メタノール
Bu: ブタノール
Hx: ヘキサノール
Oc: オクタノール
PG: プロピレングリコール
EG: エチレングリコール
MPr: 1−メトキシ−2−プロパノール
EEt: 2−エトキシエタノール
DBE: ジブチルエーテル
Xy: キシレン
D40: エクソールD40(商品名、エクソンモービル有限会社製) 炭素数9〜11の飽和炭化水素を主成分とする石油系溶剤
【0050】
シリカ質膜のウェットエッチングレートの評価
実施例3および20、比較例9および11について、ウェットエッチングレートを評価した。得られたシリカ質膜を、0.5%フッ化水素水溶液に浸漬し、膜厚減少速度を測定した。得られた結果は表2に示す通りであった。
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面上に、ポリシラザン化合物およびシリカ転化反応促進化合物を含んでなる組成物を塗布して、ポリシラザン塗膜を形成させるポリシラザン塗膜形成工程、
前記ポリシラザン塗膜に、ポリシラザン塗膜処理液を塗布する促進剤塗布工程、および
300℃以下でポリシラザン化合物をシリカ質膜に転化させる硬化工程
を含んでなるシリカ質膜製造方法であって、
前記ポリシラザン塗膜処理液が、ポリシラザン塗膜処理液の全重量を基準として0.5〜10重量%の過酸化水素と、10〜98重量%のアルコールと、溶媒とを含むものであること
を特徴とする、シリカ質膜製造方法。
【請求項2】
前記ポリシラザン化合物が、ペルヒドロポリシラザン化合物である、請求項1に記載のシリカ質膜製造方法。
【請求項3】
前記シリカ転化反応促進化合物が、金属カルボン酸、N−ヘテロ環状化合物、またはアミン化合物である、請求項1または2に記載のシリカ質膜製造方法。
【請求項4】
前記アルコールが、炭素数1〜8の、モノオール、ジオール、およびオキシエーテルからなる群から選ばれるものである、請求項1〜3のいずれか1項に記載のシリカ質膜製造方法。
【請求項5】
前記溶媒が水である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のシリカ質膜製造方法。
【請求項6】
硬化工程が、常温で行われる、請求項1〜5のいずれか1項に記載のシリカ質膜製造方法。
【請求項7】
ポリシラザン化合物およびシリカ転化反応促進化合物を含んでなる組成物を塗布することにより形成されたポリシラザン塗膜の表面に塗布して、ポリシラザン化合物がシリカに転化するのを促進させるためのポリシラザン塗膜処理液であって、
前記ポリシラザン塗膜処理液が、ポリシラザン塗膜処理液の全重量を基準として0.5〜10重量%の過酸化水素と、10〜98重量%のアルコールと、溶媒とを含むものであること
を特徴とする、ポリシラザン塗膜処理液。

【公開番号】特開2011−54898(P2011−54898A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−204952(P2009−204952)
【出願日】平成21年9月4日(2009.9.4)
【出願人】(504435829)AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社 (79)
【Fターム(参考)】