説明

シリコンからなる半導体ウェハを製造するための方法

【課題】単結晶におけるピンホール欠陥の形成を妨げ、単結晶を引き上げる工程の際に有効である少なくとも1つの手段を含む方法を提供する。
【解決手段】シリコンからなる半導体ウェハを製造するための方法であって、るつぼ4内で加熱された溶融物から種結晶で単結晶8を引き上げるステップと、ある加熱パワーでるつぼ底部の中央に熱を与えるステップとを備え、単結晶8の円筒部分が引き上げられる過程において、加熱パワーは少なくとも1回2kW以上に上げられ、次に再び下げられ、さらに引き上げられた単結晶8から半導体ウェハを切断するステップを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンからなる半導体ウェハを製造するための方法に関し、るつぼ内で加熱された溶融物から種結晶で単結晶を引き上げ、るつぼの底部の中央に熱を与え、引き上げた単結晶から半導体ウェハを切断することを含む。
【背景技術】
【0002】
るつぼは石英のような、二酸化シリコンを含む材料からなる。るつぼは多結晶シリコンからなる塊および/または粒状体で満たされ、後者はるつぼの周りに配置される側部ヒータの助けによって溶融される。溶融物の熱的安定化のフェーズの後、単結晶種結晶が溶融物内に浸漬され、引き上げられる。この場合、溶融物によって濡らされた種結晶の端部においてシリコンが結晶化する。結晶化速度は、種結晶が上げられる速度(結晶引き上げ速度)、および溶融シリコンが結晶化する界面での温度によって実質的に影響される。これらのパラメータを適切に制御することにより、転位をなくすために、細い頚部と呼ばれる部分が引き上げられ、次に単結晶の円錐形の部分があり、最後に単結晶の円筒部分があり、そこから後で半導体ウェハが切断される。
【0003】
るつぼ材にある遊離ガス状含有物、塊および/または粒状体の周りの気体、溶融物に出てくる一酸化シリコン、および溶融物に拡散される気体は、単結晶においてピンホール欠陥と呼ばれる、ボイドを引き起こす原因であると考えられる。ピンホール欠陥は、小さな気泡が成長単結晶と溶融物との間の界面に運ばれると、および単結晶がその周りに結晶化すると、引き起こされる。半導体ウェハを切断する工程の際に、切り離される面がピンホール欠陥を横切ることになれば、もたらされる半導体ウェハは、直径が典型的には数マイクロメートルから数ミリメートルである円形の凹所または穴を有することになる。このようなピンホール欠陥を有する半導体ウェハは、電子コンポーネントを製造するための基板ウェハとしては使用できない。
【0004】
このようなピンホール欠陥の形成をどのように抑制するかという一連の提案については既に公開されている。これらの技術の多くは、るつぼ材の特性を向上させることに焦点が合わせられている。しかし、この点で改良されたるつぼはより高価であるか、または他の不利点を含む。たとえば、改良の結果物質が遊離して、単結晶で転位を発生させる原因となる。
【0005】
他の提案は、塊および/または粒状体の溶融期間の際に、小さな気泡を抑制またはなくすことに集中している。一例として、US 2008/0011222 A1は、側部ヒータの加熱パワーを最初にるつぼの側面にもたらし、後でるつぼのベース面に集中させることを提案している。このような手法で不利なのは、単結晶成長が始まれば、小さな気泡の発生および界面への移動に影響しなくなることである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】US 2008/0011222 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、単結晶におけるピンホール欠陥の形成を妨げ、単結晶を引き上げる工程の際に有効である少なくとも1つの手段を含む方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的は、シリコンからなる半導体ウェハを製造するための方法によって達成され、この方法は、るつぼ内で加熱された溶融物から種結晶で単結晶を引き上げるステップと、
ある加熱パワーでるつぼ底部の中央に熱を与えるステップとを含み、単結晶の円筒部分が引き上げられる過程において、加熱パワーは少なくとも1回2kW以上に上げられ、次に再び下げられ、さらに
引き上げられた単結晶から半導体ウェハを切断するステップを備える。
【0009】
発明者等は、シリコンからなる半導体ウェハでのピンホール欠陥の頻度は、単結晶の円筒部分を引き上げる過程において、るつぼ底部での最も高い温度がるつぼ底部の端縁での位置からるつぼ底部の中央まで移動するような態様で、るつぼ底部の領域における温度場が少なくとも1回変更されると、著しく減少することを突き止めた。この過程において、るつぼ底部の内側壁に付着する小さな気泡は、対流によって流される溶融フローによって切り離されて、溶融物の自由表面まで運ばれる。前記自由表面はるつぼおよび成長単結晶によって覆われていない。このような態様で、小さな気泡は、成長単結晶と溶融物との間の界面に移動することなく、溶融物から離れる。
【0010】
温度場の変化は、好ましくは加熱装置(るつぼ底部ヒータ)を用いて行なわれる。この加熱装置はるつぼ底部に隣接し、るつぼと共に上下できる。このため、るつぼ底部ヒータの加熱パワーは、少なくとも1回2kW以上、好ましくは2〜5kWに上げられて、次に再度下げられる。加熱パワーは好ましくは少なくとも1回0kWから2〜5kWに上げられて、次に再度0kWに下げられる。加熱パワーの増加が2kWよりも低ければ、ピンホール欠陥を回避する影響は小さく、増加が5kWを超えるとるつぼを不適切に熱ストレスにさらすことになり、単結晶における転位の形成を引き起こし得る。
【0011】
るつぼ底部ヒータの加熱パワーは、好ましくは90分以上かつ900分以下の時間内で以下の勾配に従う態様で増加させられる。この場合、単結晶が溶融物から引き上げられる速度は、好ましくは0.3から0.8mm/分、特に好ましくは0.45〜0.65mm/分である。この勾配は、るつぼ底部ヒータの加熱パワーが好ましくは線形で上昇する部分と、適するのならるつぼ底部ヒータの加熱パワーが一定である部分と、るつぼ底部ヒータの加熱パワーが下がる部分とを含む。加熱パワーが一定である部分は、好ましくは0から90分の時間を超える。このような勾配を1〜10含む加熱パワープロファイルが特に好ましい。
【0012】
さらに、小さい気泡の溶融物自由表面への移動は、一連のさらなる手段によって行なわれるのが好ましい。この好ましい手段は、溶融物を水平磁場またはCUSP磁場の影響を受けるようにすることを含み、その磁束密度はるつぼ底部の端縁において50mT以上である。るつぼ底部での端縁とは、るつぼの円筒側壁がるつぼの底面につながる場所である。特に、溶融物の自由表面の面から90mm以上の距離において、中立面が単結晶の中央長手方向軸と交差するCUSP磁場の影響を受けるように、溶融物をさらすことが好ましい。
【0013】
好ましい手段は、るつぼの1分当りの回転数を3回転以下、好ましくは1から2回転の速度でるつぼを回転させ、さらに単結晶の1分当りの回転数を6回転以上、好ましくは6から12回転の速度で単結晶を回転させることを含む。るつぼおよび単結晶は同じ方向、または反対方向に回転させられる。回転は反対方向が好ましい。回転速度は絶対値として指定される。
【0014】
最後に、好ましい手段は、溶融物から出てくる気体がその領域に溶融物からおよび単結晶から取り除かれるよう、不活性ガスたとえばアルゴンを、溶融物の自由表面に送ることを含む。不活性ガスの体積流量は、好ましくは11から80mbar(1100〜8000Pa)の圧力において、好ましくは600〜12000リットル/時間、特に好ましくは1500〜3000リットル/時間である。
【0015】
本発明は図面を参照して以下でより詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】方法を実施するのに特に適する配置を示す図である。
【図2】方法を実施するのに特に適するるつぼ底部ヒータの構成を示す図である。
【図3】好ましい実施例によるるつぼ底部ヒータの加熱パワーの経時プロファイルを示す図である。
【図4】るつぼ底部ヒータの加熱パワーの経時変化に依存する態様で、るつぼの内側壁での最も高い温度の空間的運動を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1の配置は、るつぼ4を含み、るつぼ4は支持るつぼ5に取付けられ、シリコンからなる溶融物を含む。るつぼは好ましくは石英からなり、その直径は好ましくは単結晶8の直径の2から4倍である。るつぼ4および支持るつぼ5は、上下できるるつぼシャフト上にあり、抵抗ヒータで実現される側部ヒータ6によって取囲まれる。側部ヒータにより、熱は実質的に側部から溶融物に伝達される。磁気装置は側部ヒータ6に隣接する外側にあり、磁気装置により、溶融物は水平磁場またはCUSP磁場の影響を受けるようになる。図面では、CUSP磁場を溶融物に与えるのに適するコイルが示される。
【0018】
抵抗ヒータで実現される静止底部ヒータ7は、支持るつぼの下で、るつぼシャフトの周りに配置される。この静止底部ヒータにより、熱は実質的に下側から溶融物に伝達される。
【0019】
単結晶8は溶融物から種結晶において引き上げられ、熱シールド2によって外側からの熱放射が遮断され、さらにクーラー1によって冷却される。クーラー1には冷却剤が流れる。シリコンからなる単結晶の公称直径は好ましくは300mmまたは450mmである。溶融物の自由表面と熱シールド2の下部境界3との間の距離は好ましくは20から30mmである。溶融物の自由表面とクーラー1の下部境界との間の距離は好ましくは160〜200mmである。
【0020】
抵抗ヒータで実現されるるつぼ底部ヒータ13は、るつぼシャフトの頭部で統合され、前記るつぼ底部ヒータの加熱パワーは本発明に従い変更され、るつぼ4の内側壁に付着する小さい気泡11は、対応して方向付けられる溶融物フロー10および12によって引き離されて、溶融物の自由表面に運ばれる。そこから、小さな気泡は、溶融物から放出される酸化シリコンとともに、溶融物の自由表面に向かっている不活性ガスフロー9によって持ち上げられて、溶融物および成長単結晶の領域から取り除かれる。
【0021】
本発明を実施するのに特に適するるつぼ底部ヒータの構成の詳細は図2に示される。前記るつぼ底部ヒータは、グラファイトからなる加熱スパイラル14を含み、るつぼシャフトを通る内側電流供給部15および外側電流供給部16を介してAC電流がスパイラル14に供給される。加熱スパイラルの底部は、プレート17によって、また側面は、炭素繊維強化炭素(CFC)からなるリング18によって、熱的に絶縁される。リングの内側壁には金属リフレクタ19が裏打ちされている。図示される特徴に加えて、加熱スパイラルは、溶融物に与えられる磁場との相互作用から保護するために、曲がりくねった態様で、または磁気的に遮蔽されて、実施されてもよい。
【0022】
図3は、本発明の好ましい実施例において、時間経過においてるつぼ底部ヒータ13の加熱パワーがどのように変化しているかを示す。前記加熱パワーは、線形部および一定部を含む以下の勾配に従う態様で変化する。時間軸は、成長単結晶の長さLの単位で指定される。300mmの公称直径を有する単結晶に対して0.55mm/分の典型的結晶引き上げ速度が与えられると、長さL=5cmは約90分という時間に対応する。るつぼ底部ヒータの線形的に上昇する加熱パワーの部分は、100mmの長さの単結晶を引き上げるのに要する時間より幾分短い時間に対応する。るつぼ底部ヒータの一定の加熱パワーの部分は、長さが50mmの単結晶を引き上げるのに要する時間より幾分長い時間に対応する。
【0023】
この勾配に従う態様のるつぼ底部ヒータの加熱パワーの変化により、るつぼ底部での最も高い温度(Tmax)は、るつぼ底部の端縁での位置P1から、間の位置P2を通ってるつぼ底部の中心P3まで移動する、図4に示される効果を有する。この過程において、るつぼ底部の内側壁に付着する小さい気泡は、対流的に流れる溶融物のフローによって引き離されて、溶融物の自由表面に運ばれる。前記自由表面はるつぼおよび成長単結晶によって覆われていない。
【0024】
実施例
公称直径300mmを有するシリコンからなる一連の単結晶は、本発明の方法に従い、図1に示される配置の手段により、直径28インチ(711.2mm)のるつぼから引き上げられた。平均結晶引き上げ速度は、単結晶の円筒部分を引き上げる過程では、0.55mm/分であった。単結晶の円筒部分を引き上げる工程の最初に、るつぼ底部ヒータの加熱パワーは、図3に示される勾配に従い1回変えられた。比較のため、別の単結晶は同じ条件下で引き上げられたが、るつぼ底部ヒータの加熱パワーの変更は行なわれなかった。ピンホール欠陥の発生頻度の統計的評価が行なわれ、比較のために引き上げられた単結晶から切断された半導体ウェハの場合でのこのような欠陥のために、平均で約30倍高い不良を示す数値となった。
【符号の説明】
【0025】
4 るつぼ
5 支持るつぼ
8 単結晶
6 側部ヒータ
7 底部ヒータ
2 熱シールド
1 クーラー
3 下部境界
13 るつぼ底部ヒータ
10,12 溶融物フロー
9 不活性ガスフロー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンからなる半導体ウェハを製造するための方法であって、
るつぼ内で加熱された溶融物から種結晶で単結晶を引き上げるステップと、
ある加熱パワーでるつぼ底部の中央に熱を与えるステップとを備え、単結晶の円筒部分が引き上げられる過程において、加熱パワーは少なくとも1回2kW以上に上げられ、次に再び下げられ、
引き上げられた単結晶から半導体ウェハを切断するステップを備える、方法。
【請求項2】
加熱パワーは、90分以上でありかつ900分以下の時間で勾配に従う態様で増加させられる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
るつぼ底部の端縁において50mT以上の磁束密度を有する、水平磁場またはCUSP磁場の影響を溶融物に及ぼすステップを備える、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
溶融物の自由表面から90mm以上の距離において、中立面が単結晶の中央長手方向軸と交差するCUSP磁場の影響を溶融物に及ぼすステップを備える、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
るつぼを1分当り2回転以下の速度で回転させ、かつ単結晶を1分当り6回転以上の速度で回転させるステップを備える、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
不活性ガスを、1100から8000Paの圧力で、600から12000リットル/時間の体積流量で、溶融物の自由表面に流すステップを備える、請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−256103(P2011−256103A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−128250(P2011−128250)
【出願日】平成23年6月8日(2011.6.8)
【出願人】(599119503)ジルトロニック アクチエンゲゼルシャフト (223)
【氏名又は名称原語表記】Siltronic AG
【住所又は居所原語表記】Hanns−Seidel−Platz 4, D−81737 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】