説明

シリコンウェーハの分析方法

【課題】シリコンウェーハの外周部の膜を確実に除去し、シリコンウェーハの外周部に含まれる金属不純物を高感度に分析可能なシリコンウェーハの分析方法を提供する。
【解決手段】溶出装置30を用いて、外周部Eまで酸化膜を除去したシリコンウェーハの外周部Eに含まれる金属不純物を溶媒36に溶出(回収)させる際には、まず、溶出用容器33に所定量の溶媒36を注入する。溶媒36は、シリコンウェーハ10の特性劣化の原因となるCuを確実に溶出させることが可能な、フッ化水素酸、過酸化水素水、および塩酸を含む溶媒を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンウェーハの外周部を分析するためのシリコンウェーハの分析方法であり、詳しくは、シリコンウェーハの外周部に含まれる金属不純物を、高精度に、かつ迅速に分析する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンウェーハを用いた半導体デバイスの高集積化、微細化に伴い、半導体デバイスの性能を著しく劣化させる原因となる、シリコンウェーハ上に存在する不純物の低減は重要な課題である。従って、こうした不純物、特に金属不純物を高精度に分析し、管理していくことが、シリコンウェーハの品質を維持する上で重要となっている。
【0003】
特に、ある一定濃度以上の重金属の存在はシリコンウェーハの清浄度を低下させ、デバイス特性、例えば酸化膜耐圧、ライフタイム等の劣化を招く虞があった。こうしたデバイスの特性劣化を招く重金属として、Fe、Ni、Cuが知られている。特に、Cuに関しては、シリコンウェーハに付着してしまうと、溶媒によって溶出させることが困難であり、分析が難しい元素として知られている。
【0004】
これら重金属の汚染源としては、例えば、シリコンウェーハの研磨時に使用する研磨スラリーが挙げられる。また、研磨後のシリコンウェーハを洗浄する薬液、例えばSC−1(NHOH/H/HO)や、SC−2(HCl/H/HO)に不純物として含まれている。
【0005】
また、シリコンウェーハの加工工程や測定工程においては、シリコンウェーハの外周部を支持しながら加工や測定を行う形態が増加しつつある。このためシリコンウェーハの外周部は支持部材などに当接して重金属が付着しやすく、シリコンウェーハの外周部の定量、定性分析が特に重要である。近年、こうしたシリコンウェーハの外周部に存在する重金属を、短時間で簡素化された手法によって、高精度かつ高感度に分析する方法が望まれている。
【0006】
従来、シリコンウェーハの外周部を分析する方法の一例として、まず、フッ化水素酸と過酸化水素とを含むガス、またはフッ化水素酸とオゾン水とを含むガスを用いて、シリコンウェーハの表面を覆う膜、例えば酸化膜をエッチングによって除去する(例えば、特許文献1参照)。
そして、膜を除去したシリコンウェーハ外周部分から金属不純物を溶出する際のシリコンウェーハの保持方法として、シリコンウェーハの一面が鉛直方向に沿うように保持する方法と、水平方向に沿うように保持する方法が挙げられる。
【0007】
シリコンウェーハを鉛直方向に保持する方法では、シリコンウェーハを裏面側から吸着保持し、このシリコンウェーハの外周部を薬液の入った容器に浸漬させた状態でシリコンウェーハを回転させることによって、シリコンウェーハの外周部に含まれる微量の金属不純物を薬液中に溶出させる(例えば、特許文献2参照)。
また、シリコンウェーハを水平方向に保持する方法では、シリコンウェーハを水平方向または若干傾斜させた方向に保持し、シリコンウェーハの下方から薬液の入った容器を接近させ、シリコンウェーハの周縁、裏面外周部に薬液を接触させつつシリコンウェーハを回転させることによって、シリコンウェーハの外周部に含まれる微量の金属不純物を薬液中に溶出させる(例えば、特許文献3参照)。
【0008】
これらの方法によって、シリコンウェーハの外周部に含まれる微量の金属不純物を溶出させた薬液は、例えば、原子吸光分光光度計(Atomic Absorption Spectrophotometer:AAS )、誘導結合プラズマ質量分析装置(Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry:ICP−MS)などを用いて、金属不純物が分析される。
【特許文献1】特開2005−265718号公報
【特許文献2】特開平11−204604号公報
【特許文献3】特開2004−347543号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述した分析方法は、各段階で課題があった。即ち、シリコンウェーハの表面を覆う膜を除去する工程では、シリコンウェーハの裏面側が、シリコンウェーハを載置するステージと接触しているため、このステージからシリコンウェーハの裏面側へ重金属汚染が生じる虞がある。また、シリコンウェーハの裏面側がステージと接触しているため、シリコンウェーハの裏面側外周部には膜を除去するガスが接触せず、この部分の膜を除去できないという課題があった。更に、従来から用いられているシリコンウェーハの膜を除去するためのフッ化水素酸と過酸化水素とを含むガスでは、酸化膜などの親水性の膜を除去することが困難であるという課題があった。
【0010】
一方、シリコンウェーハの外周部から不純物を溶出する際に、シリコンウェーハを鉛直方向に保持する方法では、シリコンウェーハの外周部を浸漬するために必要な薬液の液量が多くなり、分析感度が低下する虞があった。また、シリコンウェーハの表面に酸化膜などの親水性成分が残っていると、薬液の一部が付着して容器中の薬液が減少するために、シリコンウェーハの外周部が薬液に充分浸らない虞もある。さらに、容器が回転体など可動部分の下にあるため、こうした可動部分から生じた金属屑などが容器に落下し、正確に分析ができなくなる懸念もある。
【0011】
シリコンウェーハを水平方向に保持する方法では、シリコンウェーハの表面に酸化膜などの親水性成分が残っていると、薬液の一部が付着して容器中の薬液が減少するために、シリコンウェーハの外周部が薬液に充分浸らない虞がある。またシリコンウェーハの下方から薬液の入った容器を接近させるため、シリコンウェーハの面取り部分の形状や加工の違いなどによって、シリコンウェーハの外周部と薬液との接触領域の範囲が不安定となり、正確に分析ができなくなる懸念もある。さらに、ウェーハを傾斜させたとしても、シリコンウェーハの外周部における表面側と裏面側の両方の金属不純物を確実に溶出することはできないという課題があった。
【0012】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、シリコンウェーハの外周部の膜を確実に除去し、シリコンウェーハの外周部に含まれる金属不純物を高感度に分析可能なシリコンウェーハの分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明は次のようなシリコンウェーハの分析方法を提供する。
すなわち、本発明のシリコンウェーハの分析方法は、内部に溶媒が注入され、側壁の一部に前記溶媒を露呈させるための切込みが形成された溶出用容器と、シリコンウェーハを載置し回転させる回転テーブルとを少なくとも備えた溶出装置を用い、シリコンウェーハの外周部に含まれる金属不純物を溶出するシリコンウェーハの分析方法であって、
前記溶媒は、フッ化水素酸、過酸化水素水、および塩酸からなり、前記シリコンウェーハの外周部を前記切込みに挿入する工程と、前記回転テーブルを回転させ、前記シリコンウェーハの外周部を連続して前記溶媒に接触させ、前記シリコンウェーハの外周部に含まれる金属不純物を前記溶媒に溶出させる工程と、前記溶媒に含まれる前記金属不純物を分析する工程と、を少なくとも備えたことを特徴とする。
【0014】
前記外周部を覆う酸化膜を除去するための前処理工程を更に備え、該前処理工程は、前記シリコンウェーハを載置するステージを有するチャンバーと、前記チャンバー内にフッ化水素酸を含むガスを供給するガス発生器と、前記シリコンウェーハを冷却する冷却器とを少なくとも備えたエッチング装置を用い、前記冷却器で前記シリコンウェーハを冷却して前記外周部に前記ガスを結露させ、前記外周部を覆う酸化膜をエッチングすることが好ましい。
【0015】
前記溶出用容器の切込みの開口サイズは、前記溶媒の表面張力によって、前記溶媒が漏出せずに保持可能なサイズ以下に形成されることが好ましい。
前記ガス発生器は、フッ化水素酸を含む水溶液に窒素ガスを通じてバブリングし、フッ化水素酸を含むガスを発生させることが好ましい。
前記ステージの載置面は、前記シリコンウェーハよりも小さい直径の円形であることが好ましい。
【0016】
前記前処理工程で除去する酸化膜の厚みは1〜5000Åの範囲であることが好ましい。前記溶媒は、フッ化水素酸が0.1〜10.0質量%、過酸化水素水が0.1〜20.0質量%、塩酸が0.1〜10.0質量%の範囲で含まれることが好ましい。
前記回転テーブルは、1〜50mm/秒の範囲の回転速度で回転させることが好ましい。
前記回転テーブルは、1枚のシリコンウェーハから前記金属不純物を前記溶媒に溶出させる際に、1〜10回の範囲で回転させることが好ましい。
【0017】
前記外周部は、前記シリコンウェーハの外縁から中心に向かって3mm以下のリング状の領域であり、前記切込みは、前記外周部が前記溶出用容器の内部に進入可能なサイズに形成されていることが好ましい。
前記溶出用容器に注入される溶媒の液量は、100〜250マイクロリットルの範囲であることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明のシリコンウェーハの分析方法によれば、金属不純物を溶出させる際に、フッ化水素酸と過酸化水素水と塩酸とを混合した溶媒を用いることにより、シリコンウェーハの外周部に含まれる金属不純物を、正確、かつ確実に分析することが可能になる。
また、シリコンウェーハの外周部を覆う酸化膜を両面に渡って完全に除去することができるため、シリコンウェーハの外周部に含まれる金属不純物を、正確、かつ確実に分析することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明に係るシリコンウェーハの分析方法の最良の実施形態について、図面に基づき説明する。本実施形態は発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0020】
図1は、本発明のシリコンウェーハの分析方法によって不純物の分析を行うシリコンウェーハの一例を示す外観斜視図である。シリコンウェーハ10は、例えば、CZ(Czochralski)法によって引上げられたシリコン単結晶インゴットをスライスし、所定の研削、研磨を施したものであればよい。こうしたシリコンウェーハ10は、加工工程や測定工程において、シリコンウェーハ10の外周部Eを支持しながら加工や測定を行う形態があるため、この外周部Eの不純物による汚染状況を把握するための定量、定性分析を行う。
【0021】
なお、ここでいうシリコンウェーハ10の外周部Eとは、シリコンウェーハ10の面取された周縁Uからシリコンウェーハ10の中心Pに向かって0μm〜3000μm程度の幅Wで広がるリング状の領域である。こうした外周部Eを成す周縁を含む表面から裏面に渡って、以下に示す方法により分析を行う。
【0022】
図2は、本発明のシリコンウェーハの分析方法の手順(工程)を段階的に示したフローチャートである。まず、外周部を分析するシリコンウェーハについて、外周部を覆っているシリコン酸化膜を除去する酸化膜除去工程(前処理工程)を行う(S1)。この工程で除去する膜は、アニールなどによって酸化膜を形成した酸化膜付きウェーハにあっては、形成した酸化膜である。また、酸化膜を形成する工程を経ないウェーハであっても、空気中の酸素によって表面に自然酸化膜が形成されており、こうした自然酸化膜を除去する。
【0023】
シリコンウェーハの表面に酸化膜などの親水性の層が存在すると、後工程である不純物を溶出(回収)させる際に、この酸化膜に溶媒(薬液)の一部が吸着されてしまい、不純物が正確に溶出されない虞がある。このため、シリコンウェーハの表面を覆う酸化膜は、分析前に確実に除去する必要がある。
【0024】
図3は、シリコンウェーハの外周部を含む領域を覆う酸化膜を除去するエッチング装置の構成を示す概略図である。エッチング装置20は、気密性のチャンバー21と、このチャンバー21内に設けられ、シリコンウェーハ10を載置するステージ22とを備えている。チャンバー21は、内部にシリコンウェーハ10を出し入れするための蓋部21a、ガスの流入口21b、流出口21cが形成されている。
【0025】
チャンバー21の流入口21bには、ガス発生器24が接続される。このガス発生器24は、内部にフッ化水素酸を含む溶液26を収容する気化容器25を備えている。そして、この気化容器25の一方の管25aから、例えば窒素ガスを供給し、気化容器25内の溶液26で気泡を発生(バブリング)させる。これにより気化容器25内に生じたフッ化水素酸を含むミスト状のガスを、他方の管25bから流出させる。
【0026】
ステージ22は、その表面22aが円形を成している。そして、ステージ22の内部には、少なくとも表面22aを冷却する冷却器23が形成されている。この冷却器23は、ステージ22に載置されるシリコンウェーハ10を、例えば20℃以下に冷却するものであればよい。
【0027】
また、ステージ22の表面22aの半径r1は、シリコンウェーハ10の半径r2よりも小さくなるように形成されている。これによって、ステージ22の表面22aに載置したシリコンウェーハ10は、その外周部Eが一面(表面)10aと他面10bの両面でステージ22の外縁からはみ出して露呈される。なお、こうしたステージ22の外縁からはみ出させるシリコンウェーハ10の外周部Eの幅Wは、後述する不純物溶出工程で不純物を分析しようとする領域が、ステージ22に重ならずに露呈されるように設定されればよい。
【0028】
以上のような構成のエッチング装置20を用い、まず、ステージ22の中心がシリコンウェーハ10の中心に合致するように、シリコンウェーハ10をステージ22に載置する(Sa1)。次に、気化容器25の一方の管25aから、窒素ガスを供給し、気化容器25内の溶液26で気泡を発生(バブリング)させる。これにより気化容器25内にフッ化水素酸を含むミスト状のガス生じさせる(Sa2)。
【0029】
そして、フッ化水素酸を含むミスト状のガスを他方の管25bから流出させ、流入口10bを介してチャンバー21内にフッ化水素酸を含むミスト状のガスを充満させる。一方、冷却器23を起動して、ステージ22に載置したシリコンウェーハ10を、例えば15℃程度まで冷却する。これによって、チャンバー21内に充満したフッ化水素酸を含むミスト状のガスは、冷却されたシリコンウェーハ10の表面に結露し、薄いフッ化水素酸の溶液層Lとしてシリコンウェーハ10の露呈部分を覆う(Sa3)。
【0030】
シリコンウェーハ10は、外周部Eが一面(表面)10aと他面10bの両面でステージ22の外縁からはみ出して露呈されているため、フッ化水素酸を含むガスが結露する際に、薄いフッ化水素酸の溶液層Lとして外周部Eの一面10aから他面10bまでを覆う。これにより、外周部Eの一面10aから他面10bまでを覆っている酸化膜は、フッ化水素酸の溶液(結露したもの)によって溶解され、除去される(Sa4)。
【0031】
こうした酸化膜の溶解、除去時には、エッチングにより下記の反応が起こる。
SiO + 6HF → HSiF + 2HO (1)
SiF → SiF↑ + 2HF (2)
この時、フッ化水素酸を含むミスト状のガスを供給するとともに、SiFの排気をおこなうことにより、エッチング反応を速やかに起こすことができる。
【0032】
また、エッチングレートを増加させるために、気化容器25内の溶液26に硫酸を入れるのも好ましい。この場合、硫酸の脱水作用により水分がチャンバー21内に供給されることを防止し、フッ化水素ガスだけをチャンバー21内に供給して、反応性を高めることができる。こうした、硫酸を入れた溶液中では下記の脱水反応が起こる。
SO + 4HO → HSO・4(HO) (3)
酸化膜の膜厚が特に厚いシリコンウェーハの場合、このように硫酸を添加することにより、酸化膜を短時間に取り除くことが可能になる。
【0033】
こうした表面膜除去工程(前処理工程:S1)を経て、外周部Eの一面10aから他面10bまでを覆う酸化膜を除去したシリコンウェーハ10は、次に、外周部Eの表面に含まれる不純物を溶出(回収)する不純物溶出工程を行う(S2)。
【0034】
図4は、不純物溶出工程で使用する溶出装置を示す断面図である。溶出装置30は、基台31に設置された回転テーブル32と、この回転テーブル32に接近して形成された溶出用容器33とを備えている。回転テーブル32は、シリコンウェーハ10を載置するテーブル面32aを回転させるための回転機構32bを備える。
【0035】
テーブル面32aは、例えば円形に形成されていればよく、その半径r3は、載置するシリコンウェーハ10の半径r2よりも小さくなるように形成されている。これによって、テーブル面32aに載置したシリコンウェーハ10は、金属不純物の分析対象である外周部Eを含む領域が一面(表面)10aと他面10bの両面でテーブル面32aの外縁からはみ出して露呈される。
【0036】
溶出用容器33は、例えば全体が石英ガラス、プラスチック(PP、PE、PCなど)、テフロン(登録商標:PFA、PTFE、PVDFなど)などから形成され、側面の一部に切込み35が形成されている。この切込み35は、シリコンウェーハ10の厚みtよりも大きい高さhで形成されたスリット状の開口である。こうした切込み35は、溶出用容器33に注入される溶媒36の表面張力によって、この溶媒36が切込み35から漏出せずに保持可能なサイズ以下で、かつシリコンウェーハ10の外周部Eが溶出用容器33内に挿脱可能なサイズに形成される。
【0037】
このような溶出用容器33は、基台31上で、シリコンウェーハ10に接近した挿入位置F1と、シリコンウェーハ10から離れた退避位置F2との間で移動可能にされる。溶出用容器33が挿入位置F1にあるときは、シリコンウェーハ10は、外周部Eが切込み35から溶出用容器33の内部に挿入された状態となり、外周部Eの一面10a及び他面10bは溶媒36に接する。一方、溶出用容器33が退避位置F2にあるときは、シリコンウェーハ10の外周部Eは溶出用容器33の切込み35から完全に引き出された状態とされる。こうした挿入位置F1と退避位置F2のいずれにおいても、溶媒36は表面張力によって切込み35から漏出することがない。
【0038】
また、挿入位置F1においてテーブル面32aを回転させることにより、シリコンウェーハ10の外周部Eは順次、切込み35から溶出用容器33の内部に挿入され、外周部Eの一面10a及び他面10bの全体が溶媒36に浸される。
【0039】
溶出用容器33に注入される溶媒36は、フッ化水素酸、過酸化水素水、および塩酸を含む溶媒が用いられる。こうした溶媒36は、分析対象となる金属不純物を溶解(溶解)が可能な液体であればよい。特に、溶媒36としてフッ化水素酸、過酸化水素水、および塩酸を含む液体を用いることによって、従来は溶出が困難であった、イオン化傾向が低い金属、例えばCu、Agを含む金属不純物を確実に溶出させることが可能となる。
【0040】
このような構成の溶出装置30を用いて、外周部Eまで酸化膜を除去したシリコンウェーハの外周部Eに含まれる金属不純物を溶媒36に溶出(回収)させる際には、まず、溶出用容器33に所定量の溶媒36を注入する(Sb1)。溶媒36は、シリコンウェーハ10の特性劣化の原因となるCuを確実に溶出させることが可能な、フッ化水素酸、過酸化水素水、および塩酸を含む溶媒を用いる。また、溶出用容器33は退避位置F2にしておく。
【0041】
次に、酸化膜を除去したシリコンウェーハ10を、テーブル面32aの中心がシリコンウェーハ10の中心に合致するように、シリコンウェーハ10をテーブル面32aに載置する(Sb2)。そして、溶媒36が入った溶出用容器33を、退避位置F2から挿入位置F1に移動させ、シリコンウェーハ10の外周部Eを溶出用容器33の切込み35から溶出用容器33の内部に挿入する。これにより、シリコンウェーハ10の外周部Eの一面10a及び他面10bは溶媒36に接する。
【0042】
次に、回転テーブル32の回転機構32bを起動させ、テーブル面32aを所定の回転速度で所定の回数だけ回転させる(Sb3)。なお、テーブル面32aの回転速度、即ち載置されたシリコンウェーハ10の回転速度としては、例えば、0.3rpm〜3rpm程度が好ましい。また、回転させる回数としては、1回〜3回程度であればよい。
【0043】
シリコンウェーハ10の外周部Eと溶媒36とが接触することにより、例えば、シリコンウェーハ10に含まれるCuは以下の反応により溶媒36に溶出(回収)される。
HCl → H + Cl (4)
Cu → Cu2+ + 2e (5)
+ 2H + 2e → 2HO (6)
また、上記反応と同時に下記の反応が生じる。
Si + 2H → SiO + 2HO (7)
SiO + 4HF → SiF↑ + 2HO (8)
すなわち、シリコンウェーハの外周部を溶媒36により溶解する際に、上述した溶解反応(4),(5),(6)と、エッチング反応(7),(8)とが同時に発生することにより、シリコンウェーハの外周部に含まれるCuやAgなどのイオン化傾向の低い金属、およびその他の元素を約100%回収することが可能になる。
【0044】
このように、シリコンウェーハ10の外周部Eを切込み35から挿入して、溶媒36に接触させた状態で回転させることによって、外周部Eにおける一面10a及び他面10bの全周に渡って溶媒36に順次接触することになる。これにより、シリコンウェーハ10の外周部Eの一面10a及び他面10bに存在する金属不純物を溶媒36に確実に溶出させることができる。そして、溶媒36は、フッ化水素酸、過酸化水素水、および塩酸を含んでいるため、シリコンウェーハ10の特性劣化の原因となるCuを確実に溶出させることができ、後述する分析工程において、イオン化傾向が低い金属、例えばCu、Agの含有量を正確に把握することが可能となる。
【0045】
シリコンウェーハ10を所定の回転速度で所定の回数だけ回転させた後、溶出用容器33を退避位置F2に移動させ、溶出用容器33に入っている溶媒36を全量回収する(Sb4)。
【0046】
次に、シリコンウェーハ10の外周部Eから金属不純物を溶出させた溶媒36を用いて、この溶媒36に含まれている金属不純物の定性分析、定量分析を行う(S3)。溶媒36に含まれる金属不純物の定性分析、定量分析は、例えば、ICP/MS(誘導結合プラズマ質量分析装置)を用いれば良い。このICP/MSは、ICPによってイオン化された原子を質量分析計に導入することで、pptレベルの超高感度分析が可能である。
【0047】
これによって、シリコンウェーハ10の外周部Eの一面10a及び他面10bに存在する金属不純物を確実に分析し、その含有量を正確に把握することができる。これによって、シリコンウェーハ10の加工工程や測定工程において、外周部Eを保持することにより生じる金属汚染を確実に把握して、適切な汚染対策を行うことが可能になる。
【0048】
次に、シリコンウェーハの外周部を定量汚染させたのち、定量評価する方法について説明する。図5は、シリコンウェーハの外周部を定量汚染させる方法を示した説明図である。
シリコンウェーハ40の外周部を定量汚染させる際には、まず、テフロン(登録商標)などの樹脂プレート41上に、金属不純物を所定量溶解させた汚染溶液(標準溶液)42を滴下する。そして、シリコンウェーハ40を樹脂ピンセット43などで挟んで略垂直に保持し、シリコンウェーハ40を回転させながらシリコンウェーハ40の外周部に汚染溶液42を接触させる。
【0049】
汚染溶液(標準溶液)42としては、金属不純物の濃度が0.1〜1000ppb、金属不純物としてLi,Na,Mg,Al,K,Ca,Cr,Fe,Ni,Cu,Zn,Agのいずれか1つ、ないし2種以上複数種含まれていれば良い。
【0050】
このように、樹脂プレート上に滴下する汚染溶液(標準溶液)の液量を調整することで、外周部の汚染幅を調整でき、定量汚染が可能になった。また、シリコンウェーハの外周部のみを金属汚染させることにより、繰り返し回収による回収率を求める方法が高精度な定量評価方法として適用可能となる。
【0051】
こうして得られたシリコンウェーハ40を、図4に示す溶出装置を用いて、外周部に含まれる金属不純物を回収する。この時、所定の回収率まで金属不純物を回収するが、回収率は以下の式(9)で示される。
CR=MCL(n)/[MCL(n)+MCL(n+1〜5)×100 (9)
但し、CR(Collection Rate)=回収率
MCL(n)(Metal contamination level)=シリコンウェーハの外周部をn回転(n<5)させた時の溶媒中に含まれる金属不純物の濃度
MCL(n+1〜5)=シリコンウェーハをn+1〜5回転以上回転させた際に、溶媒に含まれる金属不純物の濃度
【0052】
こうした回収率に基づき、シリコンウェーハ40を溶出装置30(図4参照)を用いてn回転(n<5)させ、その後n+1〜5回転以上回転させて、外周部に含まれる金属不純物を連続回収する。このように、シリコンウェーハの外周部のみを金属汚染させ、繰り返し回収による回収率を求める方法が高精度な定量評価方法として適用可能となる。
【実施例】
【0053】
以下、本発明の実施例を説明する。
まず、樹脂プレート上に10ppbの濃度の標準溶液(Li,Na,Mg,Al,K,Ca,Cr,Fe,Ni,Cu,Zn,Ag)を300μl滴下した。そして、シリコンウェーハを樹脂製ピンセットで回転させつつ、シリコンウェーハの外周部を標準溶液に接触させ、金属汚染させた。
【0054】
この金属汚染させたシリコンウェーハを用い、図3に示すエッチング装置のステージ上で15℃に冷却させた。また、50%フッ化水素酸溶液300mlを気化容器に入れ、窒素ガスを1リットル/minの流量で流し、排気を100hPaで行った。その状態で5分保持して、シリコンウェーハの外周部を含む部分を覆う酸化膜をエッチングにより除去した(酸化膜のエッチング量は約20Å)。その後、窒素ガスのみをチャンバー内に5分間流し、窒素ガス置換を行い、酸化膜を除去したシリコンウェーハを得た。
【0055】
続いて、酸化膜を除去したシリコンウェーハを図4に示す溶出装置の回転テーブルに載置した。そして、表面に混合溶液(溶媒)をマイクロピペットで溶出用容器内へ200μl注入した。その後、シリコンウェーハの外周部を溶出用容器の切込みに挿入し、外周部を混合溶液に接触させる。そして、回転テーブルを10mm/secの回転速度で3回転させ、シリコンウェーハの外周部に含まれる金属不純物を混合溶液に溶出させる。
【0056】
このようにして得た、金属不純物を溶出させた混合溶液(溶媒)を1mlまで希釈し、ICP/MSを用いて、金属不純物を分析した。
【0057】
図6は、上述した金属不純物の溶出(回収)工程で、混合溶液(溶媒)としてフッ化水素酸と過酸化水素水とを混合した場合と、フッ化水素酸と過酸化水素水と塩酸とを混合した場合で、各元素の回収率を示したグラフである。
【0058】
図6に示すグラフによれば、混合溶液(溶媒)として塩酸を加えることによって、各元素が100%近い回収率で回収可能なことが確認された。特に、イオン化傾向の低いCuなどの金属も確実に回収でき、シリコンウェーハの外周部に含まれる金属不純物を正確に分析できることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明に用いるシリコンウェーハの一例を示す外観斜視図である。
【図2】本発明のシリコンウェーハの分析方法を示すフローチャートである。
【図3】本発明に用いるエッチング装置の一例を示す概略図である。
【図4】本発明に用いる溶出装置の一例を示す断面図である。
【図5】標準溶液による汚染の手順を示す説明図である。
【図6】本発明の検証結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0060】
10 シリコンウェーハ、20 エッチング装置、22 ステージ、24 ガス発生器、30 溶出装置、32 回転テーブル、33 溶出用容器、35 切込み、36 溶媒、E 外周部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に溶媒が注入され、側壁の一部に前記溶媒を露呈させるための切込みが形成された溶出用容器と、シリコンウェーハを載置し回転させる回転テーブルとを少なくとも備えた溶出装置を用い、シリコンウェーハの外周部に含まれる金属不純物を溶出させるシリコンウェーハの分析方法であって、
前記溶媒は、フッ化水素酸、過酸化水素水、および塩酸からなり、
前記シリコンウェーハの外周部を前記切込みに挿入する工程と、
前記回転テーブルを回転させ、前記シリコンウェーハの外周部を連続して前記溶媒に接触させ、前記シリコンウェーハの外周部に含まれる金属不純物を前記溶媒に溶出させる工程と、
前記溶媒に含まれる前記金属不純物を分析する工程と、
を少なくともを備えたことを特徴とするシリコンウェーハの分析方法。
【請求項2】
前記外周部を覆う酸化膜を除去するための前処理工程を更に備え、
該前処理工程は、前記シリコンウェーハを載置するステージを有するチャンバーと、前記チャンバー内にフッ化水素酸を含むガスを供給するガス発生器と、前記シリコンウェーハを冷却する冷却器とを少なくとも備えたエッチング装置を用い、
前記冷却器で前記シリコンウェーハを冷却して前記外周部に前記ガスを結露させ、前記外周部を覆う酸化膜をエッチングすることを特徴とする請求項1記載のシリコンウェーハの分析方法。
【請求項3】
前記溶出用容器の切込みの開口サイズは、前記溶媒の表面張力によって、前記溶媒が漏出せずに保持可能なサイズ以下に形成されることを特徴とする請求項1または2記載のシリコンウェーハの分析方法。
【請求項4】
前記ガス発生器は、フッ化水素酸を含む水溶液に窒素ガスを通じてバブリングし、フッ化水素酸を含むガスを発生させることを特徴とする請求項2または3記載のシリコンウェーハの分析方法。
【請求項5】
前記ステージの載置面は、前記シリコンウェーハよりも小さい直径の円形であることを特徴とする請求項2ないし4いずれか1項記載のシリコンウェーハの分析方法。
【請求項6】
前記前処理工程で除去する酸化膜の厚みは1〜5000Åの範囲であることを特徴とする請求項2ないし5いずれか1項記載のシリコンウェーハの分析方法。
【請求項7】
前記溶媒は、フッ化水素酸が0.1〜10.0質量%、過酸化水素水が0.1〜20.0質量%、塩酸が0.1〜10.0質量%の範囲で含まれることを特徴とする請求項1ないし6いずれか1項記載のシリコンウェーハの分析方法。
【請求項8】
前記回転テーブルは、1〜50mm/秒の範囲の回転速度で回転させることを特徴とする請求項1ないし7いずれか1項記載のシリコンウェーハの分析方法。
【請求項9】
前記回転テーブルは、1枚のシリコンウェーハから前記金属不純物を前記溶媒に溶出させる際に、1〜10回の範囲で回転させることを特徴とする請求項1ないし8いずれか1項記載のシリコンウェーハの分析方法。
【請求項10】
前記外周部は、前記シリコンウェーハの外縁から中心に向かって3mm以下のリング状の領域であり、前記切込みは、前記外周部が前記溶出用容器の内部に進入可能なサイズに形成されていることを特徴とする請求項1ないし9いずれか1項記載のシリコンウェーハの分析方法。
【請求項11】
前記溶出用容器に注入される溶媒の液量は、100〜250マイクロリットルの範囲であることを特徴とする請求項1ないし10いずれか1項記載のシリコンウェーハの分析方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−145170(P2010−145170A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−321100(P2008−321100)
【出願日】平成20年12月17日(2008.12.17)
【出願人】(302006854)株式会社SUMCO (1,197)
【Fターム(参考)】