説明

シリコン単結晶インゴット

【課題】 結晶軸方向で結晶品質の変化を抑制する。
【解決手段】窒素がドープされたシリコン融液12から引上げられ、横断面の少なくとも中央に空孔型点欠陥が発生する領域を有し、ボトム側インゴットの外径がトップ側インゴットの外径より大きいシリコン単結晶インゴット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョクラルスキー法(以下、CZ法という。)により作られたシリコン単結晶インゴットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、シリコンウェーハ上にエピタキシャル層を堆積させたエピタキシャルシリコンウェーハ(以下、「エピウェーハ」という。)は、その優れた特性から広く個別半導体やバイポーラIC等を製造するウェーハとして、古くから用いられてきており、その需要はますます拡大している。しかし、このような半導体デバイスに使用されるエピウェーハに重金属不純物が存在すると、半導体デバイスの特性不良を起こす原因となるので、エピウェーハ中に存在する重金属不純物を極力減少させなければならない。この重金属不純物を低減させる技術の一つとしてゲッタリング技術があり、このゲッタリング技術の一つとして、シリコンウェーハに酸素析出物(BMD:Bulk micro defect)を形成し、そこに重金属不純物を捕らえさせるイントリンシックゲッタリング(IG)と呼ばれる方法が知られている。
【0003】
しかし、一般にエピウェーハでは、シリコンウェーハ上にエピタキシャル層(以降単に「エピ層」と言うことがある)を堆積させるために高温の熱処理を行うので、結晶育成時の熱環境においてある程度成長した酸素析出核は、このエピタキシャル工程における高温熱処理によって消滅してしまい、BMDが形成されにくいという問題がある。
【0004】
そこで、このような問題を解決するために、エピタキシャル層を形成する基板として窒素をドープしたシリコン単結晶を用いることが提案されている。これは窒素をドープすることにより、エピ工程により消滅しない酸素析出核が形成されるため、高いゲッタリング能力を有したエピウェーハを作製できるとしている。
【0005】
一方、エピタキシャルシリコンウェーハを形成するためのシリコンウェーハはシリコン単結晶インゴットをスライスすることにより作られ、このシリコン単結晶インゴットを製造する方法としてチョクラルスキー法(以下、CZ法という。)が知られている。このCZ法により育成されたシリコン単結晶インゴットには、結晶成長時にすでにグローンイン欠陥が発生していることが知られている。このグローンイン欠陥には、格子間型(Interstitialタイプ)の欠陥と空孔型(Vacancyタイプ)の欠陥(いわゆる、ボイド型欠陥)が存在している。これらの欠陥の発生は、CZ法によりシリコン単結晶インゴットを引上げる際の引上げ速度V(mm/min)と固液界面近傍での引上げ軸方向の結晶温度勾配G(℃/mm)との関係V/Gから決まることが知られており、図9に示すように、このV/Gが大きければ、空孔型点欠陥が凝集して発生する領域(V領域)となり、逆にV/Gが小さければ格子間シリコン型点欠陥が凝集して発生する領域(I領域)となることが知られている。
【0006】
また、図9に詳しく示すように、このV領域とI領域の間には、原子の過不足が少ないため凝集欠陥ができないP領域が存在するとともに、V領域とP領域の境界付近には熱酸化を行うことによりOSF(Oxidation Induced Stacking Fault:酸化誘起積層欠陥)と呼ばれる欠陥が結晶の成長軸に垂直な断面内においてリング状に発生することが確認されている。そして、エピタキシャル成長用シリコンウェーハにOSF領域が含まれたシリコンウェーハを用いると、エピ層に転位欠陥が多く発生することから、OSFの元になる酸素析出物からエピ成長中に転位が発生していると考えられている。そのため、このような欠陥の発生を防止する観点から、OSF領域を含まないV領域で作製されたシリコンウェーハをエピタキシャル成長用基板として用いることが好ましいとされている。そして、窒素がドープされたシリコン融液からシリコン単結晶インゴットを引上げるに際して、そのV/Gを具体的に特定することがなされている(例えば、特許文献1参照。)。
【0007】
ここで、単結晶インゴットの径方向のV/Gを一定にすることは、引上げ速度を著しく遅くする必要があり、単結晶インゴットの生産性を向上することができない欠点がある。そこで、一般的には、結晶の冷却を優先させ、引上げ速度を上げている。この場合は、結晶の外周部でGが大きいため、結晶の中心部より外周部のV/Gが小さくなり、結果としてOSF領域は結晶外周部に形成されやすい。特に、OSF領域が形成されやすい窒素ドープ結晶においては、単結晶インゴットの外周部に発生したOSF領域をその後に研削することが一般的に行なわれている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−43256号公報(特許請求の範囲、請求項6)
【特許文献2】WO01/027362(特許請求の範囲、請求項9)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、窒素をドープしたシリコン融液からシリコン単結晶インゴットを引上げると、偏析の影響でボトム側のインゴットにおける窒素が急激に濃くなり、そのボトム側のインゴットにOSFが発生しやすくなる不具合があった。即ち、窒素をドープしたシリコン融液からシリコン単結晶インゴットを引上げると、そのインゴットにおける窒素濃度は図8に示すようにその固化率の上昇とともに上昇する。図5に結晶中に発生する欠陥とV/Gの関係を示す。(Electrochemical Society Meeting Abstract, MA99-1 No. 357.)結晶中に発生する欠陥は、窒素濃度とV/Gに依存することが知られている。
窒素濃度が上昇すると、図5に示すように、V領域で引上げられるV/Gもその窒素濃度の上昇とともに上昇する。従って、引上げ当初はV領域のシリコン単結晶インゴットも、引上げとともに窒素濃度が上昇し、同じV/Gであってもそのボトム側にあってはV領域からOSFが発生する領域に移行し、トップ側で十分な品質が得られても、ボトム側で欠陥が発生しやすくなり、結晶軸方向で均一な品質のインゴットを得ることができない不具合があった。
【0010】
本発明の目的は、結晶軸方向で結晶品質の変化が抑制されたシリコン単結晶インゴットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に係る発明は、図1及び図2に示すように、窒素がドープされたシリコン融液12から引上げられ、横断面の少なくとも中央に空孔型点欠陥が凝集して発生する領域を有するシリコン単結晶インゴットの改良である。
【0012】
その特徴ある点は、直胴部のトップ側インゴットの外径をD1とし、直胴部のボトム側インゴットの外径をD2とするとき、次の(1)式を満たすところにある。
【0013】
1mm<D2−D1≦D1/2 ………(1)
【0014】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明であって、直胴部のトップ側インゴットの外径D1が固化率50%未満の領域におけるいずれかの部位のインゴット長100mmの平均直径であり、直胴部のボトム側インゴットの外形D2が固化率50%以上の領域におけるいずれかの部位のインゴット長100mmの平均直径であることを特徴とする。
【0015】
この請求項1及び請求項2に記載されたシリコン単結晶インゴットでは、窒素をドープしたシリコン融液12から引上げるため、ボトム側インゴット25bの外周部にOSFが発生するけれども、ボトム側インゴット25bの外径をトップ側インゴット25aの外径よりも大きくするので、外周部に発生するOSFをボトム側インゴット25bの研削後外径より外側に納めることができる。この結果、ボトム側インゴット25bの外周を研削することにより、トップ側インゴット25aで得られたと同様な品質を得ることができ、軸方向で均一な品質のインゴットを得ることができる。また、シリコン単結晶インゴット25の外周をそのOSFとともに研削した後スライスすることにより、リング状の転位欠陥を含まないエピタキシャル成長用シリコンウェーハを得ることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のシリコン単結晶インゴットで、ボトム側インゴットの外径をトップ側インゴットの外径より大きくしたので、その外周部に発生するOSFをボトム側インゴットの切削後の外径より外側に納めることができる。従って、ボトム側インゴットの外周を研削することにより、トップ側インゴットで得られたと同様な品質を得ることができ、軸方向で均一な品質のインゴットを得ることができる。そして、このシリコン単結晶インゴットを外周研削した後スライスすることにより、外周部にリング状の転位欠陥を含まないエピタキシャル成長用シリコンウェーハを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に使用する引上げ装置の断面構成図である。
【図2】その装置により引上げられたインゴットを示す図である。
【図3】図2のA−A線断面図である。
【図4】その装置により引上げられた別のインゴットを示す図である。
【図5】窒素濃度とV/Gとの関係を示す図である。
【図6】図5のCA−EA線におけるV/Gで引上げられたインゴットの断面を示す図である。
【図7】図5のCB−EB線におけるV/Gで引上げられたインゴットの断面を示す図である。
【図8】インゴットの固化率と窒素濃度との関係を示す図である。
【図9】V/Gとインゴットの断面の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。
図1にシリコン単結晶の引上げ装置10示す。このシリコン単結晶の引上げ装置10のチャンバ11内には、シリコン融液12を貯留する石英るつぼ13が設けられ、この石英るつぼ13の外周面は黒鉛サセプタ14により被覆される。石英るつぼ13の下面は上記黒鉛サセプタ14を介して支軸16の上端に固定され、この支軸16の下部はるつぼ駆動手段17に接続される。るつぼ駆動手段17は、図示しないが石英るつぼ13を回転させる第1回転用モータと、石英るつぼ13を昇降させる昇降用モータとを有し、これらのモータにより石英るつぼ13が所定の方向に回転し得るとともに、上下方向に移動可能となっている。石英るつぼ13の外周面は石英るつぼ13から所定の間隔をあけてヒータ18により包囲され、このヒータ18は保温筒19により包囲される。ヒータ18は石英るつぼ13に投入された高純度のシリコン多結晶体を加熱・融解してシリコン融液12にする。
【0019】
またチャンバ11の上端には円筒状のケーシング21が接続される。このケーシング21には引上げ手段22が設けられる。引上げ手段22は、ケーシング21の上端部に水平状態で旋回可能に設けられた引上げヘッド(図示せず)と、このヘッドを回転させる第2回転用モータ(図示せず)と、ヘッドから石英るつぼ13の回転中心に向って垂下されたワイヤケーブル23と、上記ヘッド内に設けられワイヤケーブル23を巻取り又は繰出す引上げ用モータ(図示せず)とを有する。ワイヤケーブル23の下端にはシリコン融液12に浸してシリコン単結晶のインゴット25を引上げるための種結晶24が取付けられる。
【0020】
更にチャンバ11にはこのチャンバ11のインゴット側に不活性ガスを供給しかつ上記不活性ガスをチャンバ11のるつぼ内周面側から排出するガス給排手段28が接続される。ガス給排手段28は一端がケーシング21の周壁に接続され他端が上記不活性ガスを貯留するタンク(図示せず)に接続された供給パイプ29と、一端がチャンバ11の下壁に接続され他端が真空ポンプ(図示せず)に接続された排出パイプ30とを有する。供給パイプ29及び排出パイプ30にはこれらのパイプ29,30を流れる不活性ガスの流量を調整する第1及び第2流量調整弁31,32がそれぞれ設けられる。
【0021】
一方、引上げ用モータの出力軸(図示せず)にはエンコーダ(図示せず)が設けられ、るつぼ駆動手段17には支軸16の昇降位置を検出するエンコーダ(図示せず)が設けられる。2つのエンコーダの各検出出力はコントローラ(図示せず)の制御入力に接続され、コントローラの制御出力は引上げ手段22の引上げ用モータ及びるつぼ駆動手段17の昇降用モータにそれぞれ接続される。またコントローラにはメモリ(図示せず)が設けられ、このメモリにはエンコーダの検出出力に対するワイヤケーブル23の巻取り長さ、即ちインゴット25の引上げ長さが第1マップとして記憶される。また、メモリには、インゴット25の引上げ長さに対する石英るつぼ13内のシリコン融液12の液面レベルが第2マップとして記憶される。コントローラは、引上げ用モータにおけるエンコーダの検出出力に基づいて石英るつぼ13内のシリコン融液12の液面を常に一定のレベルに保つように、るつぼ駆動手段17の昇降用モータを制御するように構成される。
【0022】
インゴット25の外周面と石英るつぼ13の内周面との間にはインゴット25の外周面を包囲する熱遮蔽部材36が設けられる。この熱遮蔽部材36は円筒状に形成されヒータ18からの輻射熱を遮る筒部37と、この筒部37の上縁に連設され外方に略水平方向に張り出すフランジ部38とを有する。上記フランジ部38を保温筒19上に載置することにより、筒部37の下縁がシリコン融液12表面から所定の距離だけ上方に位置するように熱遮蔽部材36はチャンバ11内に固定される。この実施の形態における筒部37は筒状体であり、この筒部37の下部には筒内の方向に膨出する膨出部41が設けられる。この膨出部41の内部にはカーボン繊維からなるフェルト材が蓄熱部材47として充填され、インゴット25の固液界面付近におけるインゴット25の外周部における急激な温度低下を阻止するように構成される。
【0023】
このように構成された引上げ装置を用いてインゴットを製造する第1の方法を説明する。
窒素がドープされたシリコン融液からシリコン単結晶を引上げる工程において、シリコン単結晶インゴット25の引上げ速度をV、シリコン融液12との界面近傍におけるシリコン単結晶インゴット25の鉛直方向の温度勾配をGとしたとき、シリコン単結晶インゴット25の横断面の少なくとも中央に空孔型点欠陥が凝集して発生する領域が形成されるV/Gで引上げられる。
【0024】
図2に示すように、インゴット25は、種結晶24に連続し直径が徐々に増加する肩部と、その肩部に連続して形成され直径が略均一の直胴部と、直胴部の最後に連続し直径が徐々に低下してゼロになるテール部とを備える。また、このインゴット25は肩部と直胴部の中間までのトップ側インゴット25aと、このトップ側インゴットに連続して引上げられ直胴部の残部とテール部を有するボトム側インゴット25bとを備える。そして、直胴部のボトム側インゴット25bを引上げている途中で石英るつぼ13の周囲の温度を低下させ、ボトム側インゴット25bをトップ側インゴット25aより太らせるようにして引上げ、直胴部のトップ側インゴットの外径をD1とし、直胴部のボトム側インゴットの外径をD2とするとき、次の(1)式を満たすように引き上げられる。
【0025】
1mm<D2−D1≦D1/2 ………(1)
このように引上げられたシリコン単結晶インゴットは、ボトム側インゴット25bの外径がトップ側インゴット25aの外径より大きくなる。ここで、トップ側インゴット25a及びボトム側インゴット25bの範囲は、引上げられるインゴット25の固化率により決定される。固化率とは、最初に石英るつぼ13に貯留されたシリコン融液12の初期チャージ重量に対するインゴット25の引上げ重量の割合をいう。直胴部のトップ側インゴットの外径D1とは、固化率50%未満の領域におけるいずれかの部位のインゴット長100mmの平均直径であり、直胴部のボトム側インゴットの外形D2とは、固化率50%以上の領域におけるいずれかの部位のインゴット長100mmの平均直径である。
【0026】
このシリコン単結晶インゴット25は、窒素をドープしたシリコン融液12から引上げるため、図8に示すように、ボトム側のインゴット25bにおいて窒素濃度が急激に上昇する。結晶中に発生する欠陥は、窒素濃度とV/Gに依存することが知られている。図5に結晶中に発生する欠陥と窒素濃度・V/Gの関係を模式的に示す。そして、窒素濃度が上昇すると、図5に示すように、V領域で引上げられるV/Gもその窒素濃度の上昇とともに上昇する。結晶のトップ側窒素濃度NAにおける結晶中心と外周のV/GをそれぞれCA,EAとし、結晶のボトム側窒素濃度NBにおける結晶中心と外周のV/GをそれぞれCB,EBとする。また、CA=CB,EA=EBとし、結晶のトップとボトムでV/Gが等しいときを考える。この場合、結晶トップ側では結晶断面の欠陥分布は図6に示すように全面V−richとなるが、結晶ボトム側では結晶断面の欠陥分布は図7に示すように結晶外周部にOSF−ringが発生する。
【0027】
この実施の形態ではV/Gを変化させないでインゴット25を引上げており、トップ側インゴット25aの断面の全てV/GがV領域に存在する図5のCA−EA線であったとしても、窒素濃度が上昇するボトム側インゴット25bを引上げるときには、その断面におけるV/Gは図5のCB−EB線に達する。従って、ボトム側インゴット25bでは、図2の破線及び図3に示すように、その外周部にOSFが発生することになる。そして、この実施の形態では、ボトム側インゴット25bの外径をトップ側インゴット25aの外径よりも大きくすることにより、外周部に発生するOSFをボトム側インゴット25bの拡大した外周部の範囲内に発生させるものである。
【0028】
ここで、直胴部のトップ側インゴットの外径D1が、固化率50%未満の領域におけるいずれかの部位のインゴット長100mmの平均直径であり、直胴部のボトム側インゴットの外形D2が、固化率50%以上の領域におけるいずれかの部位のインゴット長100mmの平均直径としたのは、直径変動と区別するためである。また、ボトム側インゴット25bの外径をトップ側インゴット25aの外径より1mm〜D1/2の範囲で大きくするのは、ボトム側インゴット25bを1mm未満の直径変動は通常の生産で偶然起こったこと特別できないためであり、D1/2を越えてボトム側インゴット25bを太らせても、後に切除する部分が増大する不具合があるからである。なお、この差の更に好ましい範囲は2〜10mmの範囲である。
【0029】
そして、このシリコン単結晶インゴット25を外周研削した後スライスして得られたウェーハは、その外周研削の時にOSFが発生する外周部の全てが研削されることになり、トップ側インゴット25aで十分な品質が得られたならば、ボトム側インゴット25bの外周を研削することにより、軸方向で均一な品質のインゴットを得ることができる。よって、このシリコン単結晶インゴット25を外周研削した後スライスして得られたウェーハは、エピ層上にリング状の転位欠陥を含まないシリコンウェーハとなり得る。
【0030】
次に、上記引上げ装置を用いてインゴットを製造する第2の方法を説明する。
先ず、第1の方法と同様に、窒素がドープされたシリコン融液からシリコン単結晶を引上げる工程において、シリコン単結晶インゴット25の引上げ速度をV、シリコン融液12との界面近傍におけるシリコン単結晶インゴット25の鉛直方向の温度勾配をGとしたとき、シリコン単結晶インゴット25の横断面の少なくとも中央に空孔型点欠陥が凝集して発生する領域が形成されるV/Gで図3に示すインゴット25を引上げる。
【0031】
そして、シリコン単結晶インゴット25のトップ側インゴット25aの温度勾配に対する引き上げ速度の比を(V/G)1とし、ボトム側インゴット25bの温度勾配に対する引き上げ速度の比を(V/G)2とするとき、次の(2)式を満たすようにトップ側インゴット25a及びボトム側インゴット25bを引上げる。ここで、直胴部のトップ側インゴットの温度勾配に対する引き上げ速度の比(V/G)1とは、固化率50%未満の領域におけるいずれかの部位のインゴット長100mmの温度勾配に対する引き上げ速度の比の平均値であり、直胴部のボトム側インゴットの温度勾配に対する引き上げ速度の比(V/G)2とは、固化率50%以上の領域におけるいずれかの部位のインゴット長100mmの温度勾配に対する引き上げ速度の比の平均値である。
【0032】
1<(V/G)2/(V/G)1≦2 ………(2)
この(2)式によると、シリコン単結晶インゴット25のボトム側インゴット25bを引上げる(V/G)2は、シリコン単結晶インゴット25のトップ側インゴット25aを引上げる(V/G)1よりも大きくなる。ここで、この実施の形態では、シリコン単結晶インゴット25のボトム側インゴット25bを引上げる引上げ速度をシリコン単結晶インゴット25のトップ側インゴット25aを引上げる引上げ速度と同じかより大きくして、ボトム側インゴット25bを引上げる(V/G)2をトップ側インゴット25aを引上げる(V/G)1よりも大きくする場合を示す。ボトム部では、トップ側よりもGが小さくなることが多いため、ボトム部において引上げ速度をトップ部と同じかそれ以上にすることにより、(V/G)2を(V/G)1よりも大きくすることができる。
【0033】
(2)を満たすと、窒素濃度が大きくなることによる外周部からのOSFの発生を抑制することができる。即ち、シリコン単結晶インゴット25は、窒素をドープしたシリコン融液12から引上げるため、図8に示すように、ボトム側のインゴット25bにおいて窒素濃度が急激に上昇する。そして、窒素濃度が上昇すると、図5に示すように、V領域で引上げられるV/Gもその窒素濃度の上昇とともに上昇する。従って、この実施の形態ではボトム側インゴット25b一部又は全部を引上げる(V/G)2をトップ側インゴット25aを引上げる(V/G)1よりも大きくするように変化させるので、窒素濃度がボトム側インゴット25bで増加しても、その窒素濃度が増加するボトム側インゴット25bをより大きなV/Gで引上げるので、その外周部にOSFが発生するようなことを回避することができる。ここで、(V/G)2/(V/G)1が2を越えるV/Gでボトム側インゴット25bを引上げることは技術的に困難である。
【0034】
また、引上げられるシリコン単結晶インゴット25の直径が300mm以上である場合には、ボトム側インゴット25bの引上げ時の単結晶インゴット25の平均回転速度CRBをトップ側インゴット25aの引上げ時の単結晶インゴット25の平均回転速度CRTより遅くすることが好ましい。具体的に説明すると、トップ側インゴット25aの引上げ時における単結晶インゴット25の平均回転速度をCRTとし、ボトム側インゴット25bの引上げ時における単結晶インゴット25の平均回転速度をCRBとする。上記平均回転速度CRTを5〜10rpm、好ましくは7〜8rpmの範囲内に設定し、上記平均回転速度CRBを3〜8rpm、好ましくは5〜7rpmの範囲内に設定し、かつ平均回転速度CRTと平均回転速度CRBとの差を0.1〜7rpm、好ましくは1〜3rpmの範囲に設定する。
【0035】
平均回転速度CRTを5〜10rpmの範囲にしたのは、5rpm未満では、酸素の面内分布が不均一になり、10rpmを越えると結晶が変形しやすくなるからである。また平均回転速度CRBを3〜8rpmの範囲にしたのは、3rpm未満では酸素の面内分布が不均一になり、8rpmを越えると結晶が変形しやすくなるからである。更に平均回転速度CRTと平均回転速度CRBとの差を0.1〜7rpmの範囲にしたのは、0.1rpm未満では平均回転速度CRTと平均回転速度CRBとがほぼ同じになってしまい、7rpmを越えるとボトム側での酸素の面内分布が不均一になるおそれがあるためである。
【0036】
上記条件で図3に示すインゴット25を引上げると、トップ側インゴット25aの引上げ時における単結晶インゴット25の回転速度CRTに比較して、ボトム側インゴット25bの引上げ時における単結晶インゴット25の回転速度CRBを遅くした。この結果、ボトム側インゴット25bの結晶が変形することを抑制できた。
【実施例】
【0037】
次の本発明の実施例を比較例とともに説明する。
【0038】
<実施例1>
トップ窒素濃度は、2×1013atoms/cm3を狙った。直径32インチの石英ルツボに原料シリコンをチャージし、直径300mm用の単結晶を引上げた。固化率48%以下の直径を314mmとし、固化率52%以上の直径を318mmφとした。固化率40%以上の引上げ速度を0.9mm/minで一定とした。変形を防止するため、結晶回転数を固化率48%から固化率52%にて結晶回転を2回転下げた。引上げ後、スライス、ポリッシュ、1130℃で4μmのエピ成長を行なった。
【0039】
実施
トップ窒素濃度は、2×1013atoms/cm3を狙った。直径32インチの石英ルツボに原料シリコンをチャージし、直径300mm用の単結晶を引上げた。固化率48%以下の直径を314mmとし、固化率52%以上の直径を318mmφとした。固化率40%以上の引上げ速度を0.87mm/minに下げた。引上げ後、スライス、ポリッシュ、1130℃で4μmのエピ成長を行なった。
【0040】
実施
トップ窒素濃度は、2×1013atoms/cm3を狙った。直径32インチの石英ルツボに原料シリコンをチャージし、直径300mm用の単結晶を引上げた。結晶直径を314mmφ、固化率40%以上の引上げ速度を0.9mm/minで一定とした。変形を防止するため、結晶回転数を固化率48%から固化率52%にて結晶回転を2回転下げた。引上げ後、スライス、ポリッシュ、1130℃で4μmのエピ成長を行なった。
【0041】
<比較例1>
結晶直径を314mmφ、結晶回転を一定、固化率48%から固化率52%にて引上げ速度を、0.9mm/minから0.87mm/minにさげた以外は、実施例1と同じである。
【0042】
<比較試験及び評価>
実施例1〜3並びに比較例1におけるエピタキシャルシリコンウェーハにおける欠陥の有無をパーティクルカウンターにより測定した。比較例1では、固化率80%以降(窒素濃度:1.0×1014atoms/cm3)で、外周にリング状エピ欠陥が見られた。実施例1では、固化率85%(窒素濃度1.3×1014atoms/cm3)までリング状のエピ欠陥は認められなかった。実施では、固化率80%(窒素濃度1.0×1014atoms/cm3)までリング状のエピ欠陥は認められなかった。実施では、固化率80%(窒素濃度1.0×1014atoms/cm3)までリング状のエピ欠陥は認められなかった。
【0043】
以上のことから、本発明によれば結晶軸方向で結晶品質の変化が抑制できることが判る。
【符号の説明】
【0044】
12 シリコン融液
13 石英るつぼ
25 シリコン単結晶インゴット
25b ボトム側インゴット
25a トップ側インゴット
V インゴットの引上げ速度
G インゴットの鉛直方向の温度勾配

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素がドープされたシリコン融液から引上げられ、横断面の少なくとも中央に空孔型点欠陥が凝集して発生する領域を有するシリコン単結晶インゴットにおいて、
直胴部のトップ側インゴットの外径をD1とし、直胴部のボトム側インゴットの外径をD2とするとき、次の(1)式を満たすことを特徴とするシリコン単結晶インゴット。
1mm<D2−D1≦D1/2 ………(1)
【請求項2】
直胴部のトップ側インゴットの外径D1が固化率50%未満の領域におけるいずれかの部位のインゴット長100mmの平均直径であり、直胴部のボトム側インゴットの外形D2が固化率50%以上の領域におけるいずれかの部位のインゴット長100mmの平均直径である請求項1記載のシリコン単結晶インゴット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2013−32282(P2013−32282A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−239687(P2012−239687)
【出願日】平成24年10月31日(2012.10.31)
【分割の表示】特願2008−118473(P2008−118473)の分割
【原出願日】平成20年4月30日(2008.4.30)
【出願人】(302006854)株式会社SUMCO (1,197)
【Fターム(参考)】