説明

シリコン基板の製造方法及びシリコン基板

【課題】表層にRIE欠陥がなく、かつライフタイムが十分長いシリコン基板の製造方法及びシリコン基板を提供することを目的とする。
【解決手段】チョクラルスキー法により育成したシリコン単結晶インゴットから切り出されたシリコン基板に、急速加熱・急速冷却装置を用いて、1300℃より高くかつシリコン融点以下の温度で1〜60秒保持して急速熱処理を施した後、600〜800℃の範囲の温度まで降温速度5〜150℃/secで一段目の降温工程を行い、その後、冷却時間X秒と降温速度Y℃/secが、X<100の場合はY≦0.15X−4.5を、X≧100の場合はY≦10を満たすように二段目の降温工程を行うシリコン基板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板表面から一定の深さまでグローイン酸素析出物やグローイン欠陥およびRIE欠陥(RIEで検出できる欠陥)がない無欠陥領域(Denuded Zone、以下DZ層という)を形成したシリコン基板を製造する方法及び、当該方法により製造されたシリコン基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年は、半導体回路の高集積化による素子の微細化に伴い、その基板となるチョクラルスキー法(以下、CZ法という)で作製されたシリコン単結晶に対する品質要求が高まってきている。
【0003】
CZ法によりシリコン単結晶を育成する際、通常10−20ppma(JEIDA:日本電子工業振興協会による換算係数を使用)程度の酸素が石英ルツボから融液中に溶け出し、シリコン融液界面にてシリコン単結晶中に取り込まれる。
その後、シリコン単結晶が冷却される過程で、取り込まれた酸素が過飽和状態になり、結晶温度が700℃以下になると凝集して酸素析出物(以下、グローイン酸素析出物ともいう)を形成する。しかしながら、そのサイズは極めて小さく、出荷段階では酸化膜耐圧特性のひとつであるTZDB(Time Zero Dielectric Breakdown)特性やデバイス特性を低下させることはない。
【0004】
酸化膜耐圧特性やデバイス特性を低下させる単結晶成長起因の欠陥は、シリコン融液からシリコン単結晶に取り込まれたベーカンシー(Vacancy、以下Vaと略記することがある)と呼ばれる空孔型の点欠陥と、インタースティシャルシリコン(Interstitial−Si、以下Iと略記することがある)と呼ばれる格子間型シリコン点欠陥が、結晶冷却中に過飽和になり、酸素とともに凝集した複合欠陥であり、FPD、LSTD、COP、OSF等のグローイン(Grown in)欠陥であることが判明している。
これらの欠陥を説明するにあたって、先ず、シリコン単結晶に取り込まれるVaとIのそれぞれの取り込まれる濃度を決定する因子について、一般的に知られていることを説明する。
【0005】
図5は、単結晶育成時の引き上げ速度V(mm/min)を変化させることによって、シリコン融点から1300℃までの温度範囲における引き上げ軸方向の結晶内温度勾配の平均値G(℃/mm)との比であるV/Gを変化させた場合のシリコン単結晶の欠陥領域を示す図である。
一般に、単結晶内の温度分布はCZ炉内構造(以下、ホットゾーン(HZ)という)に依存しており、引き上げ速度を変えてもその分布は殆ど変わらない。このため、同一構造のCZ炉の場合は、V/Gは引き上げ速度の変化のみに対応することになる。即ち、引き上げ速度VとV/Gは近似的には正比例の関係がある。したがって、図5の縦軸には引き上げ速度Vを用いている。
【0006】
引き上げ速度Vが比較的高速な領域では、ベーカンシーと呼ばれる点欠陥である空孔が凝集したボイドと考えられるFPD、LSTD、COP等のグローイン欠陥が、結晶径方向のほぼ全域に高密度に存在し、これらの欠陥が存在する領域はV−rich領域と呼ばれている。
成長速度を遅くしていくと、結晶周辺部に発生していたOSFリングが結晶内部に向かって収縮していき、ついには消滅する。更に成長速度を遅くすると、ベーカンシーやインタースティシャルシリコンの過不足が少ないニュートラル(Neutral、以下Nという)領域が出現する。このN領域はVaやIの偏りはあるが飽和濃度以下であるため、凝集してグローイン欠陥とはならない。このN領域は、Vaが優勢なNv領域とIが優勢なNi領域に分別される。
【0007】
Nv領域では、熱酸化処理した際に酸素析出物(Bulk Micro Defect、以下BMDという)が多く発生し、Ni領域では酸素析出が殆ど発生しないことがわかっている。更に成長速度の遅い領域ではIが過飽和となり、その結果Iが集合した転位ループと考えられるL/D(Large Dislocation:格子間転位ループの略語、LSEPD、LEPD等)の欠陥が低密度に存在し、I−Rich領域と呼ばれている。
以上から、例えば、結晶の中心から径方向全域に渡ってN領域となるような範囲に成長速度を制御しながら引き上げた単結晶を切断、研磨することにより、全面がN領域の極めて欠陥の少ないシリコン基板を得ることができる。
【0008】
また、上記のようなBMDがデバイス活性領域であるシリコン基板表面に発生すると、接合リーク等のデバイス特性に悪影響を及ぼすが、一方でデバイス活性領域以外のバルクに存在すると、デバイスプロセス中に混入した金属不純物を捕獲するゲッタリングサイトとして機能するため有効である。
【0009】
近年、BMDが発生しにくいNi領域の基板内部にBMDを形成する方法として、RTP(Rapid Thermal Process)処理する方法(急速加熱・急速冷却熱処理)が提案されている。このRTP処理とは、シリコン基板に例えば50℃/secといった昇温速度で室温より急速昇温し、1200℃前後の温度で数十秒程度加熱保持した後、急速に冷却する熱処理方法である。
RTP処理後に酸素析出熱処理を行うことによって、BMDが形成されるメカニズムについては、特許文献1や特許文献2に詳細に記述されている。ここで、BMD形成メカニズムについて簡単に説明する。
【0010】
まず、RTP処理では、例えばN雰囲気中で1200℃という高温保持中にシリコン基板表面よりVaの注入が起こり、その後降温する間にVaの拡散による再分布とIとの消滅が起きる。その結果、バルク中にはVaが不均一に分布した状態になる。このような状態のシリコン基板を例えば800℃で熱処理すると、高いVa濃度の領域では酸素が急速にクラスター化するが、低いVa濃度の領域では酸素のクラスター化が発生しない。次いで、例えば1000℃で一定時間熱処理すると、クラスター化した酸素が成長してBMDが形成される。
【0011】
このように、RTP処理後のシリコン基板に酸素析出熱処理が施されると、RTP処理で形成されたVaの濃度プロファイルに従って、シリコン基板の厚さ方向に分布を有するBMDを形成することになる。したがって、RTP処理の雰囲気や最高温度、保持時間等の条件を制御して行うことにより、シリコン基板に所望のVa濃度プロファイルを形成し、その後シリコン基板に酸素析出熱処理を行うことによって、所望のDZ幅及び厚さ方向のBMDプロファイルを有するシリコン基板を製造することができる。
【0012】
また、特許文献3には、酸素ガス雰囲気中でRTP処理すると表面に酸化膜が形成され、酸化膜界面からIが注入されるためBMD形成が抑制されることが開示されている。このように、RTP処理は雰囲気ガス、最高保持温度等の条件により、BMD形成を促進することも、逆に抑制することも可能である。
このようなRTP処理は極めて短時間アニールであるため、酸素の外方拡散が殆ど発生せず、表層での酸素濃度の低下は無視できるほどである。
【0013】
また、デバイス工程でMOSトランジスターを作製し、その動作のためにゲート電極に逆バイアスを印加すると空乏層が拡がるが、この空乏層領域にBMDが存在すると接合リークの原因となることが知られている。これらのことから、多くのデバイスの動作領域である表層には、COPに代表されるグローイン欠陥やBMDやグローイン酸素析出物が存在しないことが求められている。
COPやOSF核、酸素析出物のような酸素関連の欠陥を消滅させるためには、酸素濃度を固溶限以下にする方法がある。例えば1100℃以上で熱処理し、酸素の外方拡散を利用して表層の酸素濃度を低下させることにより固溶限以下にすることで、上記欠陥の消滅が可能である。しかし、酸素の外方拡散により表層の酸素濃度が著しく低下してしまうため、表層の機械的強度も低下してしまうといった問題点がある。
【0014】
さらに、半導体素子が適正に機能するためには、少数キャリアが十分なライフタイムを有していることが必要である。少数キャリアのライフタイム(以下、ライフタイムという)は、金属不純物、酸素析出、空孔などに起因する欠陥準位の形成によって低下することが知られている。従って、半導体素子の機能を安定に確保するためには、十分なライフタイムとなる方法でシリコン基板を製造することが必要である。
【0015】
これらから、最近のデバイスにおいては、デバイス動作領域には酸素関連のグローイン欠陥やグローイン酸素析出物がなく、十分なライフタイムを有し、しかもデバイス熱処理によりゲッタリングサイトとなるBMDがデバイス動作領域外のバルク中に十分に析出するウェーハが有効である。
【0016】
特許文献1には、VaやIの凝集体が存在しないN領域の単結晶から切り出して、全面N領域からなるシリコン基板をRTP処理する方法が記載されている。この方法の場合は、材料となるSi中にグローイン欠陥が存在しないため、RTP処理しても問題ないように考えられるが、全面がN領域のシリコン基板を準備しRTP処理を行った後、酸化膜の長期信頼性を示す経時破壊特性であるTDDB(Time Dependent Dielectric Breakdown)特性を測定すると、シリコン基板のNv領域においてTZDB特性は殆ど低下しないが、TDDB特性が低下する場合がある。さらに、特許文献4に記載されているように、TDDB特性が低下する領域はNv領域でかつRIE法で検出される欠陥(RIE欠陥)が存在する領域であることから、表層にRIE欠陥が存在しないシリコン基板およびその製造方法の開発は極めて重要である。
【0017】
ここで、RIE法について解説する。
RIE法とは、シリコン基板中の酸化珪素(以下SiOxという)を含有する微小な結晶欠陥を、深さ方向の分解能を付与しつつ評価する方法として、特許文献5に開示された方法が知られている。この方法は、基板の主表面に対して、反応性イオンエッチング(Reactive Ion Etching、以下RIEという)などの高選択性の異方性エッチングを一定厚さまで施し、残ったエッチング残渣を検出することにより結晶欠陥の評価を行うものである。SiOxを含有する結晶欠陥の形成領域と含有しない非形成領域とではエッチング速度が相違するので(前者の方がエッチング速度が小さい)、上記エッチングを施すと、基板の主表面にはSiOxを含有する結晶欠陥を頂点とした円錐状の突起が残留する。結晶欠陥が異方性エッチングにより突起部の形で強調されるため、微小な欠陥であっても容易に検出することができる。
【0018】
以下、特許文献5で開示された結晶欠陥の評価方法について説明する。
熱処理によって、シリコン基板中に過飽和に溶存していた酸素がSiOxとして析出した酸素析出物が形成される。そして、市販のRIE装置を用いて、ハロゲン系混合ガス(例えばHBr/Cl/He+O)雰囲気中で、シリコン基板内に含まれるBMDに対して高選択比の異方性エッチングを行うと、BMDに起因した円錐状突起物がエッチング残渣(ヒロック)として形成される。したがって、このヒロックに基づいて結晶欠陥を評価することができる。例えば、得られたヒロックの数を数えれば、エッチングした範囲のシリコン基板中のBMDの密度を求めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開2001−203210号公報
【特許文献2】特表2001−503009号公報
【特許文献3】特開2003−297839号公報
【特許文献4】特開2009−249205号公報
【特許文献5】特開2000−58509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明者は、鋭意研究した結果、1300℃より高い温度でRTP処理することにより、基板表層のRIE欠陥を消滅できることを見出した。しかし同時に、1300℃より高い温度でRTP処理した基板では、熱処理後のライフタイムが大きく低下するという新規な課題を見出した。その原因は明らかではないが、1300℃より高い温度で熱処理することにより、基板内部に高濃度の空孔が過剰に発生し、冷却の過程で空孔が凝集する、もしくは、空孔と基板内部に存在するその他の元素が結合することにより、欠陥準位を形成するためであると推察される。
ライフタイムの低下は、デバイス工程での歩留り低下やデバイス機能を不安定にさせる要因となり、特に、ライフタイムが500μsec未満の場合は、デバイス不良となる可能性が高いため、問題となる。
【0021】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、表層にRIE欠陥がなく、かつライフタイムが十分長いシリコン基板の製造方法及びシリコン基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記目的を達成するために、本発明は、シリコン基板を製造する方法であって、少なくとも、チョクラルスキー法により育成したシリコン単結晶インゴットから切り出されたシリコン基板に、急速加熱・急速冷却装置を用いて、1300℃より高くかつシリコン融点以下の温度で1〜60秒保持して急速熱処理を施した後、600〜800℃の範囲の温度まで降温速度5〜150℃/secで一段目の降温工程を行い、その後、冷却時間X秒と降温速度Y℃/secが、X<100の場合はY≦0.15X−4.5を、X≧100の場合はY≦10を満たすように二段目の降温工程を行うことを特徴とするシリコン基板の製造方法を提供する。
【0023】
このように、1300℃より高くかつシリコン融点以下の温度で1〜60秒保持して急速熱処理を施すことで、基板表層のRIE欠陥等を効果的に消滅させることができ、かつ、基板内部に空孔を効率的に注入することができる。そして、上記のように降温、冷却することで、ライフタイム低下の原因となる欠陥の形成を抑制することができる。以上より、BMDが良好に形成され、デバイス作製領域となる表層に欠陥が存在せず、ライフタイムが500μsec以上である高品質のシリコン基板を製造することができる。
【0024】
このとき、前記急速熱処理を、窒化膜形成雰囲気ガス、希ガス又はこれらの混合ガスを含む雰囲気で行うことが好ましい。
このような雰囲気で急速熱処理を行えば、スリップ転位の発生を防止しながら、十分なBMDを析出させることができる程度の空孔を注入できる。
【0025】
このとき、前記急速熱処理を施すシリコン基板を、チョクラルスキー法により育成した全面がOSF領域、全面がN領域、又はOSF領域とN領域が混合した領域であるシリコン単結晶インゴットから切り出されたシリコン単結晶ウェーハとすることが好ましい。
本発明の急速熱処理を施すシリコン基板を、このようなシリコン単結晶ウェーハとすることで、基板内部まで欠陥を消滅でき、より確実にデバイス作製領域に欠陥が存在しないシリコン基板を製造できる。
【0026】
また、本発明のシリコン基板の製造方法によって製造されたシリコン基板であって、該シリコン基板のデバイス作製領域となる表面から少なくとも1μmの深さにRIE法により検出される欠陥が存在せず、かつ、前記シリコン基板のライフタイムが500μsec以上であることを特徴とするシリコン基板を提供する。
本発明の製造方法によれば、上記のようなシリコン基板を製造することができ、デバイス作製の歩留まりを向上できる高品質のシリコン基板となる。
【発明の効果】
【0027】
以上のように、本発明によれば、デバイス作製領域となる表層に欠陥が存在せず、ライフタイムが500μsec以上である高品質のシリコン基板を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】単結晶引き上げ装置の一例を示す概略図である。
【図2】枚葉式の急速加熱・急速冷却装置の一例を示す概略図である。
【図3】実施例、比較例1における降温速度と冷却時間及びライフタイム評価結果を示すグラフである。
【図4】実施例、比較例1におけるBMD密度と熱処理温度の関係を示すグラフである。
【図5】引き上げ速度と欠陥領域の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明について、実施態様の一例として、図を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0030】
本発明の製造方法では、まず、チョクラルスキー法によりシリコン単結晶インゴットを育成して、当該シリコン単結晶インゴットからシリコン基板を切り出す。
育成するシリコン単結晶インゴットの直径等は特に限定されず、例えば150mm〜300mm、あるいはそれ以上とすることができ、用途に合わせて所望の大きさに育成することができる。
【0031】
ここで、本発明の製造方法に用いることができる単結晶引き上げ装置について説明する。
図1に単結晶引き上げ装置10を示す。この単結晶引き上げ装置10は、引き上げ室11と、引き上げ室11中のルツボ12と、ルツボ12の周囲に配置されたヒータ14と、ルツボ12を回転させるルツボ保持軸13及びその回転機構(図示せず)と、シリコンの種結晶を保持するシードチャック21と、シードチャック21を引き上げるワイヤ19と、ワイヤ19を回転または巻き取る巻き取り機構(図示せず)とを備えて構成されている。ルツボ12は、その内側のシリコン融液(湯)18を収容する側には石英ルツボが設けられ、その外側には黒鉛ルツボが設けられている。また、ヒータ14の外側周囲には断熱材15が配置されている。
【0032】
また製造条件に合わせて、図1のように環状の黒鉛筒(整流筒)16を設けたり、結晶の固液界面17の外周に、環状の外側断熱材(図示せず)を設けることもできる。さらに、冷却ガスを吹き付けたり、輻射熱を遮って単結晶を冷却する筒状の冷却装置を設けることも可能である。
また、引き上げ室11の外側に磁石(図示せず)を設置し、シリコン融液18に水平方向あるいは垂直方向の磁場を印加することによって、融液の対流を抑制し、単結晶の安定成長を図る、いわゆるMCZ法の装置を用いることもできる。
本発明では、これらの装置の各部は、例えば従来と同様のものを用いることができる。
【0033】
以下に、上記のような単結晶引き上げ装置10による単結晶育成方法の一例について説明する。
まず、ルツボ12内で、シリコンの高純度多結晶原料を融点(約1420℃)以上に加熱して融解する。次に、ワイヤ19を巻き出すことにより、シリコン融液18の表面略中心部に種結晶の先端を接触または浸漬させる。その後、ルツボ保持軸13を適宜の方向に回転させるとともに、ワイヤ19を回転させながら巻き取り、種結晶を引き上げることにより、シリコン単結晶インゴット20の育成を開始する。
以後、引き上げ速度と温度を所望の欠陥領域となるように適切に調整し、略円柱形状のシリコン単結晶インゴット20を得る。
【0034】
この所望の引き上げ速度(成長速度)を効率よく制御するにあたっては、例えば、予め、引き上げ速度を変化させながらインゴットを育成し、引き上げ速度と欠陥領域の関係を調査する予備試験を行い、例えば図5のような関係を求め、その後、その関係に基づいて、改めて、本試験で引き上げ速度を制御して、所望の欠陥領域が得られるようにシリコン単結晶インゴットを製造することができる。
【0035】
また、育成するシリコン単結晶インゴットの欠陥領域については、例えば、全面がV−rich領域、OSF領域、N領域、又はこれらの領域が混合した領域からなるものを育成することができるが、好ましくは、全面がN領域、全面がOSF領域、OSF領域及びN領域が混合した領域のいずれかであるシリコン単結晶インゴットを育成する。
上記の欠陥領域のシリコン基板であれば、最も消滅しにくいCOPをほとんど含まないため、本発明の急速熱処理によって確実に欠陥を消滅させることができ、また、より深い位置のRIE欠陥も消滅させることが容易であるため、特に有効である。
【0036】
そして、このように製造したシリコン単結晶インゴットに、例えば、スライス、研磨等を行うことにより、シリコン基板を得ることができる。
【0037】
また、シリコン基板内部の空孔は、シリコン基板に含有される不純物元素と結合することが知られており、本発明の急速熱処理で生じる空孔の挙動には、シリコン基板の酸素濃度が大きく影響すると考えられる。空孔とライフタイムの直接的な因果関係は定かではないが、例えば、急速熱処理前の酸素濃度が5×1017atoms/cm(JEIDA)以上のシリコン基板であれば、急速熱処理後の降温の際、空孔−酸素ペアが高濃度に発生し、ライフタイムに影響を与える深い準位を形成する欠陥の形成を抑制しやすくなるため好ましい。このような酸素濃度は、上記のインゴット育成時等に調節することができる。
【0038】
このように作製されたシリコン基板に、例えば枚葉式の急速加熱・急速冷却装置を用いて、急速加熱・急速冷却熱処理を施す。本発明の製造方法で用いることができる枚葉式の急速加熱・急速冷却装置の一例の概略図を図2に示す。
図2に示す急速加熱・急速冷却装置52は、石英からなるチャンバー53を有し、このチャンバー53内でシリコン基板Wを急速熱処理できるようになっている。加熱は、チャンバー53を上下左右から囲繞するように配置される加熱ランプ54(例えばハロゲンランプ)によって行う。この加熱ランプ54は、それぞれ独立に供給される電力を制御できるようになっている。
【0039】
ガスの排気側は、オートシャッター55が装備され、外気を封鎖している。オートシャッター55は、ゲートバルブによって開閉可能に構成される不図示のウェーハ挿入口が設けられている。また、オートシャッター55にはガス排気口51が設けられており、炉内雰囲気を調整できるようになっている。
そして、シリコン基板Wは、石英トレイ56に形成された3点支持部57上に配置される。石英トレイ56のガス導入口側には、石英製のバッファ58が設けられており、酸化性ガスや窒化性ガス、Arガス等の導入ガスが、シリコン基板Wに直接当たるのを防ぐことができる。
【0040】
また、チャンバー53には不図示の温度測定用特殊窓が設けられており、チャンバー53の外部に設置されたパイロメータ59により、その特殊窓を通してシリコン基板Wの温度を測定することができる。
【0041】
そして、本発明の製造方法では、上記のような急速加熱・急速冷却装置を用いて、シリコン基板に、例えば50℃/sec以上の昇温速度で1300℃より高くかつシリコン融点以下の温度まで昇温して1〜60秒保持することで急速熱処理を施した後、600〜800℃の範囲の温度まで降温速度5〜150℃/secで一段目の降温工程を行い、その後、冷却時間X秒と降温速度Y℃/secが、X<100の場合はY≦0.15X−4.5を、X≧100の場合はY≦10を満たすように二段目の降温工程を行って冷却する。
【0042】
このように、シリコン基板に、1300℃より高くかつシリコン融点以下の温度で急速熱処理を施すことで、シリコン基板表面から少なくとも1μmの深さにわたってRIE法により検出される欠陥を消滅させることができる。この急速熱処理時間が1〜60秒の範囲であれば欠陥消滅には十分であり、60秒を超える時間では、生産性低下、コスト上昇、スリップ転位発生等の可能性がある。また、60秒以下の急速熱処理であれば、急速熱処理中に酸素の過剰な外方拡散により表層で酸素濃度が大きく低下するのを防ぎ、機械的強度の低下を防止できる。
また、1300℃より高い温度から600〜800℃の範囲の温度まで降温する際の降温速度が5℃/secよりも遅い場合は、生産性の低下を招き、また、150℃/secよりも早い場合には、急速冷却によりスリップが発生する場合がある。
【0043】
一段目の降温を600〜800℃の範囲の温度まで降温すれば、冷却時間を過剰に長くする必要がなく、また、二段目の降温の際に、空孔の制御を十分に行うことができる。800℃より高い温度から二段目の降温を開始すると、冷却に必要な時間が長くなり、生産性の低下を招く。600℃より低い温度から二段目の降温を開始すると基板内部の空孔の制御が不十分となる。
【0044】
そして、二段目の降温において、冷却時間X秒と降温速度Y℃/secが、X<100の場合はY≦0.15X−4.5を、X≧100の場合はY≦10を満たすように設定することにより、空孔の制御を効果的に行い、ライフタイムの低下を抑制できる。これは、1300℃より高い温度の急速熱処理で高濃度に発生した空孔の拡散が促進されて濃度が減少し、また、空孔とその他の不純物元素が結合して、ライフタイムを低下させない欠陥を形成することにより、空孔起因のライフタイムを低下させる欠陥の形成を抑制することが可能となるためと推察される。
基板表層のRIE欠陥を消滅させるために1300℃より高い温度で急速熱処理を施すと、空孔が過剰に発生して、この空孔起因の欠陥により基板のライフタイムが低下するという新規な課題を、本発明の上記のような降温工程により解決できる。
【0045】
このような二段の降温工程は、例えば常温以下の温度になるまで降温することができる。また、上記のような二段目の降温速度は比較的遅いので、1300℃より高い温度から600〜800℃の範囲の温度までの一段目の降温速度を速くすることが、生産性の観点から好ましく、この場合、当該一段目の降温速度よりも遅い降温速度で二段目の降温工程を行うこととなる。
【0046】
上記のような急速熱処理の雰囲気としては、特に限定されないが、窒化膜形成雰囲気ガス、希ガス又はこれらの混合ガスを含む雰囲気で行うことが好ましい。
上記のような雰囲気であれば、例えば水素雰囲気で行う場合に比べてスリップ転位を抑制でき、スリップ転位が原因の接合リーク等の問題を防止できるため、デバイスの歩留まりを向上できる。また、空孔注入も効率的に行うことができる。
【0047】
上記のような本発明の製造方法であれば、デバイス作製領域となる表面から少なくとも1μmの深さにRIE法により検出される欠陥が存在せず、かつ、ライフタイムが500μsec以上である高品質のシリコン基板を製造することができる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例、比較例1)
図1のシリコン単結晶引き上げ装置により、横磁場を印加して、MCZ法によりN領域のシリコン単結晶インゴット(直径12インチ(300mm)、方位<100>、導電型p型)を育成し、それから切り出したシリコン単結晶ウェーハに、図2の急速加熱・急速冷却装置(ここでは、Mattson社製Helios)を用いて、第1の温度1250℃,1290℃,1320℃,1350℃の各温度で、10秒間の熱処理(急速熱処理)を施した。この急速熱処理における雰囲気は、Ar,N,NH/Arの各雰囲気とした。
【0049】
続いて、第1の温度から第2の温度までの一段目の降温工程を降温速度30℃/secで降温した。このとき、第2の温度は、900℃、800℃、700℃、600℃、500℃の各温度に設定した。その後、第2の温度からの二段目の降温工程で、所定の降温速度と冷却時間を設定して、ウェーハを冷却した。その後、ウェーハ表面を5μm程度研磨した。
【0050】
上記のように作製したウェーハの内、Ar雰囲気、第2の温度が800℃で、二段目の降温工程を降温速度9℃/sec、冷却時間120秒で行ったウェーハの表層のRIE欠陥を測定した。
この測定では、マグネトロンRIE装置(Applied Materials社製 Centura)を用いてエッチングを行った。その後、レーザー散乱方式の異物検査装置(KLA―Tencor社製 SP1)でエッチング後の残渣突起を計測し、欠陥密度を算出した。測定結果を表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
表1から、1300℃より高い温度での急速熱処理により、いずれの雰囲気でも、RIE欠陥を完全に消滅させていることがわかる。また、5μm研磨後の表面の欠陥の測定結果であるため、本実施例では表面から少なくとも5μmの深さまでの欠陥が、1300℃より高い温度での急速熱処理により消滅していることがわかる。一方、急速熱処理の温度が1290℃、1250℃の場合には、表層のRIE欠陥が多数確認され、消滅には不十分な温度であることがわかる。
【0053】
また、作製したウェーハの内、第1の温度が1350℃、Ar雰囲気で10秒間の熱処理(急速熱処理)を行い、一段目の降温工程を、第2の温度800℃まで30℃/secで降温し、二段目の降温工程を種々の冷却時間及び降温速度で行い、ウェーハのライフタイムを測定した。
測定方法としては、エタノールにヨウ素を2g滴下した溶液をウェーハに塗布する処理(Chemical Passivation処理 以下CP処理)を行い、ライフタイム測定装置(SEMILAB社製 WT−2000)でライフタイムを測定した。上記測定したライフタイムとの関係を図3に示す。
【0054】
図3に示すように、急速熱処理後のライフタイムは、冷却時間が100秒よりも短い場合には、降温速度がより小さい場合に良好となることがわかる。また、冷却時間が100秒以上の場合には、降温速度を10℃/sec以下に設定することで、良好なライフタイムが得られている。これらの関係から、二段目の降温の際、冷却時間をX秒、降温速度をY℃/secとした場合、X<100の場合はY≦0.15X−4.5、X≧100の場合はY≦10で示される範囲(グラフ中に示される斜線部の範囲)になるようにXとYを設定することにより、良好なライフタイムを有するウェーハが製造可能となる。
【0055】
また、第2の温度を700℃、600℃に設定した実施例のウェーハのライフタイムを測定した場合にも、図3と同様の傾向が再現した。
しかし、第2の温度を900℃もしくは500℃に設定した比較例の場合は、上記の関係は得られず、この場合、1300℃より高い温度の急速熱処理を施したウェーハではライフタイムが低下していた。
【0056】
また、Ar、N、NH/Arの各雰囲気下、1250℃、1300℃、1325℃、1350℃の各温度で10秒間の熱処理(急速熱処理)を施し、第一の降温工程で、第2の温度800℃まで降温速度30℃/secで降温し、その後二段目の降温工程を降温速度9℃/sec、冷却時間120秒で行ったウェーハのBMD密度を測定した。
測定方法としては、フラッシュメモリ作製プロセスのシミュレーション熱処理を施し、ウェーハ内にBMDを析出させた。その後、5%HFに浸漬させ、表面に形成された酸化膜を除去した。その後、RIE装置でエッチングを行い、残渣突起の個数を電子顕微鏡を用いて計測し、欠陥密度を算出してBMD密度を測定した。測定結果を図4に示す。なお、参照例(図4のRef.)として、急速加熱・急速冷却熱処理を行わなかった以外は上記と同様に作製されたウェーハの上記と同様に測定されたBMD密度も図4に示す。
【0057】
図4に示すように、雰囲気によりデバイス作製熱処理の際のBMD形成を容易に制御することができることがわかる。また、急速加熱・急速冷却熱処理を施さなかった場合に比べて、いずれもBMD密度が高い。また、いずれの雰囲気でも急速熱処理を1300℃より高い温度で行うことにより、高いBMD密度が確保されている。
【0058】
(比較例2)
図1のシリコン単結晶引上げ装置により、横磁場を印加して、MCZ法によりN領域のシリコン単結晶インゴット(直径12インチ(300mm)、方位<100>、導電型p型)を育成し、それから切り出したシリコン単結晶ウェーハに図2の急速加熱・急速冷却装置(ここでは、Mattson社製Helios)を用いて、1250℃,1290℃,1320℃,1350℃で、10秒間の熱処理(急速熱処理)を施した。この急速熱処理における雰囲気は、Ar雰囲気とした。
【0059】
続いて、二段階降温は行わずに、それぞれの熱処理温度から常温まで降温速度30℃/secで降温した。その後、ウェーハ表面を5μm程度研磨した。
上記のように作製したウェーハを、実施例、比較例1と同様にウェーハの表層のRIE欠陥を測定した。その結果、表1と同様の傾向が得られた。さらに、作製されたウェーハのライフタイムを実施例と同様に測定した結果を表2に示す。
【0060】
【表2】

【0061】
表2からわかるように、急速熱処理の温度が高いほどライフタイムが低下し、特に1300℃を超える温度で急速熱処理を行うと、ライフタイムが大きく低下し、100μsec未満となっていることがわかる。
【0062】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0063】
10…単結晶引き上げ装置、 11…引き上げ室、 12…ルツボ、
13…ルツボ保持軸、 14…ヒータ、 15…断熱材、 16…整流筒、
17…固液界面、 18…シリコン融液、 19…ワイヤ、
20…シリコン単結晶インゴット、 21…シードチャック、
51…ガス排気口、 52…急速加熱・急速冷却装置、 53…チャンバー、
54…加熱ランプ、 55…オートシャッター、 56…石英トレイ、
57…支持部、 58…バッファ、 59…パイロメーター、 W…シリコン基板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン基板を製造する方法であって、少なくとも、
チョクラルスキー法により育成したシリコン単結晶インゴットから切り出されたシリコン基板に、急速加熱・急速冷却装置を用いて、1300℃より高くかつシリコン融点以下の温度で1〜60秒保持して急速熱処理を施した後、600〜800℃の範囲の温度まで降温速度5〜150℃/secで一段目の降温工程を行い、その後、冷却時間X秒と降温速度Y℃/secが、X<100の場合はY≦0.15X−4.5を、X≧100の場合はY≦10を満たすように二段目の降温工程を行うことを特徴とするシリコン基板の製造方法。
【請求項2】
前記急速熱処理を、窒化膜形成雰囲気ガス、希ガス又はこれらの混合ガスを含む雰囲気で行うことを特徴とする請求項1に記載のシリコン基板の製造方法。
【請求項3】
前記急速熱処理を施すシリコン基板を、チョクラルスキー法により育成した全面がOSF領域、全面がN領域、又はOSF領域とN領域が混合した領域であるシリコン単結晶インゴットから切り出されたシリコン単結晶ウェーハとすることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のシリコン基板の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のシリコン基板の製造方法によって製造されたシリコン基板であって、該シリコン基板のデバイス作製領域となる表面から少なくとも1μmの深さにRIE法により検出される欠陥が存在せず、かつ、前記シリコン基板のライフタイムが500μsec以上であることを特徴とするシリコン基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−175023(P2012−175023A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−37954(P2011−37954)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(000190149)信越半導体株式会社 (867)
【出願人】(390004581)三益半導体工業株式会社 (19)
【Fターム(参考)】