説明

シリコン系太陽電池用原料の製造方法

【課題】各種のシリコン加工プロセスで発生し、かつ高濃度に金属汚染されたシリコンスラッジおよびシリコン塊を再利用し、シリコン系太陽電池を得る溶融原料を製造可能なシリコン系太陽電池用原料の製造方法を提供する。
【解決手段】シリコン加工プロセスからの1×1015atoms/cm以上の金属不純物を含むシリコンスラッジを原料としたスラッジ成形物と、同レベルの金属不純物を含むシリコン塊とをルツボに投入して溶融し、チョクラルスキー法でシリコンインゴットを引き上げる。その際、不純物の偏析現象によりシリコンが精製される。これにより、高濃度に金属汚染されたシリコンスラッジおよびシリコン塊を再利用し、シリコン系太陽電池を得る溶融原料を製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、シリコン系太陽電池用原料の製造方法、詳しくは各種のシリコン加工プロセスで発生して高濃度に金属汚染されたシリコンスラッジと、このシリコンスラッジと同レベルに金属汚染されたシリコン塊(シリコン端材など)とを再利用し、シリコン系太陽電池を得るための溶融原料を製造可能なシリコン系太陽電池用原料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン系太陽電池を製造する際には、シリコンからなるブロック形状の原料(溶融原料)をルツボに投入し、これを溶融してシリコンインゴットを鋳造する。その後、このシリコンインゴットをスライスすることで太陽電池用のシリコン基板を得ている。
近年、シリコン系太陽電池の普及率を高めるため、溶融原料用のシリコンとして、光電変換率は高いが高価な単結晶シリコンに代えて、光電変換率は劣るものの廉価な多結晶シリコンが汎用されている。
【0003】
従来、多結晶シリコンからなる太陽電池用原料の製造方法としては、例えばシーメンス法(Siemens Method)が知られている(特許文献1)。これは、中間化合物であるトリクロロシラン(SiHCl)を水素により還元することで、多結晶シリコンを得る方法である。具体的には、多結晶シリコン心棒が収納された反応炉内に、高純度のトリクロロシランと高純度の水素とを供給し、トリクロロシランをシリコンと塩化水素とに分解する。その後、1100℃に加熱された多結晶シリコン心棒に所定の電圧を印加し、多結晶シリコン心棒の表面に多結晶シリコンを気相成長させる。それから、多結晶シリコンのインゴットは所定サイズのブロックに破砕され、太陽電池用の多結晶シリコンインゴットを鋳造する溶融原料となる。
【0004】
ところで、ULSIなどの超高集積デバイスの形成基板であるシリコンウェーハは、チョクラルスキー(CZ)法によって引き上げられた単結晶シリコンインゴットに対して、ウェーハ加工を施すことにより作製される。具体的には、単結晶シリコンインゴットをブロック切断し、その後、シリコンブロックに研削砥石による外周研削、ワイヤソーによるスライスを順に行い、多数枚のシリコンウェーハを得る。それから、各シリコンウェーハに対して面取り、ラッピング、エッチング、研磨を順次施し、デバイス形成用の製品ウェーハを製造する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−111519号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ウェーハ加工プロセスのうち、外周研削工程およびスライス工程などでは、加工屑(シリコン廃棄物)であるシリコンスラッジが多量に発生する。また、デバイスメーカのバックグラインド工程でも、多量のシリコンスラッジが発生する。これらは、1×1015atoms/cm以上の金属不純物(Fe、Niなど)により汚染され、かつ性状がスラッジであることから、取り扱いが難しく、従来、そのほとんどが再利用されることなく廃棄処分されていた。
また、チョクラルスキー方式のシリコン単結晶成長装置によってシリコンインゴットを引き上げた後、ルツボの底部に残ったシリコン残部、キャスト(鋳込み)法によって鋳造された多結晶シリコン系太陽電池のトップ部(最終固化部)や鋳肌部などの不要なシリコン塊も、同レベルの金属不純物により汚染されていた。これらのシリコン塊は、シリコンスラッジに比べて発生量が少ない。そのため、このように1×1015atoms/cm以上に金属汚染されたシリコン塊だけを精製しようとすれば、コスト高を招くおそれがあった。
【0007】
そこで、これを解消する一策として、例えば、特開2007−91563号公報のシリコンインゴットの製造方法には、金属汚染された半導体屑(シリコン粉)を塩酸などで酸性洗浄し、金属不純物による汚染度を低下させる方法が記載されている。しかしながら、この方法では、半導体屑(シリコン粉)のみを原料とするため、原料化する際に取り扱いが困難になるという課題があった。しかも、特開2007−91563号公報には、洗浄後の半導体屑をインゴット原料として再利用するという記載があるものの、どのような手段により半導体屑を溶融し、インゴットを製造するかまでは開示されていなかった。
【0008】
そのため、発明者は鋭意研究の結果、シリコンの精製方法として、チョクラルスキー法によるシリコンインゴットの引き上げ時に発生する不純物の偏析現象に着目した。この偏析現象とは、結晶に取り込まれる金属不純物の濃度は、金属不純物の種類によって、ある一定の割合となるという現象である。これにより、融液中の金属不純物が結晶に全て取り込まれないことから、シリコンインゴットの結晶成長の初期はインゴット中の金属不純物は低濃度であるものの、引き上げの進行に伴い、シリコンインゴット中に取り込まれる金属不純物が徐々に増加(高濃度化)する。これを利用すれば、シリコンインゴット、特にインゴットの上側部分は金属不純物の濃度が低下し、高純度のシリコン系太陽電池用の溶融原料が得られる。
また、ルツボに投入される再利用の原料として、高濃度に金属汚染されたシリコン塊だけではなく、これと同レベルに金属汚染されたシリコンスラッジ(シリコン粉)も合わせて使用すればよいことに想到した。これにより、ウェーハ加工プロセスからの発生量が少ないシリコン塊を見かけ上増量し、従来は廃棄処分されていた高濃度に金属汚染されたシリコンを有効利用できることを知見し、この発明を完成させた。
【0009】
この発明は、各種のシリコン加工プロセスで発生し、かつ高濃度に金属汚染されたシリコンスラッジおよびシリコン塊を再利用し、シリコン系太陽電池を得る溶融原料を製造することができるシリコン系太陽電池用原料の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の発明は、シリコン加工プロセスで発生し、かつ金属不純物の濃度が1×1015atoms/cm以上のシリコン粉を含むシリコンスラッジに対して、沈降容器内で前記シリコンスラッジを純水中に分散させ、その後、これを静置する沈降分離工程および該沈降分離工程で前記沈降容器の底部に沈降したシリコンスラッジの乾燥工程を順次行うことで得られたスラッジ成形物と、シリコン加工プロセスで発生し、かつ1×1015atoms/cm以上の金属不純物を含むシリコン塊とを、チョクラルスキー方式のシリコン結晶成長装置のルツボに投入し、その後、該ルツボ内で前記スラッジ成形物および前記シリコン塊を同時に溶融して融液とし、次に、チョクラルスキー法により該融液からシリコンインゴットを引き上げ、この引き上げられたシリコンインゴットを破砕することでシリコン系太陽電池原料とするシリコン系太陽電池用原料の製造方法である。
【0011】
請求項1に記載の発明によれば、シリコン加工プロセスで発生した1×1015atoms/cm以上の金属不純物を含むシリコンスラッジを沈降容器内で純水中に分散後、これを所定時間だけ静置することにより、シリコンスラッジに含まれた比重の軽い塵などの不純物が上澄み液に浮遊し、かつ水溶性の金属イオンが溶融する。一方、沈降容器の底部には、不純物が減量されたシリコンスラッジが沈降する。
その後、スラッジ成形物と、シリコン加工プロセスで発生した1×1015atoms/cm以上の金属不純物を含むシリコン塊とをチョクラルスキー方式のシリコン結晶成長装置のルツボに投入し、これらを同時に加熱溶融する。
次に、インゴット引き上げ時に発生する金属不純物の偏析現象を利用し、シリコンを精製しながら、融液からシリコンインゴットを引き上げる。これにより、各種のシリコン加工プロセスで発生し、かつ高濃度に金属汚染されたシリコンスラッジ、および、発生量が少なくて単独での処理が難しいシリコン塊をそれぞれ再利用し、シリコン系太陽電池用の溶融原料を製造することができる。
【0012】
ここで、「チョクラルスキー方式のシリコン結晶の引き上げに伴う偏析現象」を詳細に説明する。すなわち、ここでの偏析現象とは、結晶に取り込まれる金属不純物濃度が、不純物の種類によってある一定の割合に決められるという原理により発生する結晶中の金属不純物濃度を不均一にする現象である。
【0013】
また、「シリコン系太陽電池用原料」とは、単結晶シリコン系太陽電池の原料、多結晶シリコン系太陽電池の原料、アモルファスシリコン系太陽電池の原料の何れかである。
シリコン系太陽電池用原料となるシリコン塊とは、シリコン加工プロセスで発生した1×1015atoms/cm以上の金属不純物を含んだシリコンの塊である。例えば、チョクラルスキー方式のシリコン結晶成長装置を用いてシリコンインゴットを引き上げた後、ルツボの底部に残ったシリコン残部、インゴット鋳造装置(鋳型、電磁鋳造装置など)によって鋳造された多結晶シリコン系太陽電池のトップ部(最終固化部)や端板(鋳肌部)などが挙げられる。
【0014】
ルツボに投入されたスラッジ成形物とシリコン塊との混合物(100重量部)のうち、シリコン塊が占める割合は、30〜70重量%である。30重量%未満では、スラッジ起因の熱伝導性が悪化するため、ルツボへ投入されたスラッジ成形物とシリコン塊との溶融時間が長くなる。70重量%を超えれば、シリコン塊の使用によりシリコン系太陽電池原料がコスト高となるため、ルツボへ投入されたスラッジ成形物とシリコン塊との溶融コストが高まる。シリコン塊が占める好ましい割合は、40〜60重量%である。この範囲であれば、シリコン系太陽電池原料が低コストとなる。
また、シリコン系太陽電池用原料となるシリコン塊として、チョクラルスキー法によるシリコンインゴットの引き上げ後、ルツボの底部に残ったシリコン残部を含む場合には、ルツボに投入されたスラッジ成形物とシリコン塊との混合物のうち、シリコン残部の占める割合は7重量%以下である。7重量%を超えれば、引上ロスが増大する。このシリコン残部が占める好ましい割合は、1〜7重量%である。この範囲であれば、金属不純物濃度が良好で、しかも引上ロスが低減される。
【0015】
シリコンスラッジとは、シリコン粉と、不純物と、水とが泥状に混ざり合った滓である。不純物とは、例えば、研削砥石などの摩耗により発生するアルミナ、シリカ、コランダム、Cu、Fe、Ni、C、酸化バリウム、酸化マグネシウム、塵などである。ただし、ここでいうシリコンスラッジは、このシリコン粉を含むスラッジのみでなく、乾燥した(もしくは水分を含んだ)シリコンの粉末を含む。
【0016】
シリコンスラッジの発生を伴うシリコン加工プロセスとしては、例えば、単結晶シリコンインゴットまたは多結晶シリコンインゴットのブロック切断、研削砥石によるシリコンブロックの外周研削、研削砥石によるシリコンブロックのオリエンテーションフラット加工またはノッチ加工、ワイヤソーなどによるシリコンブロックのスライス、シリコンウェーハの面取り、シリコンウェーハのラッピングなどの各工程が挙げられる。また、デバイス形成後のウェーハに施されるバックグラインド工程も含まれる。
【0017】
シリコンスラッジに含まれ、再利用されるシリコン粉の粒径(粒度分布)は、0.1mm未満である。0.1mmを超えれば、沈降したシリコンスラッジの成形、固化が困難になる。シリコン粉の好ましい粒径の平均値は、1〜4μmである。この範囲であれば、シリコンスラッジの成形も容易で、シリコンスラッジの成型物を溶融用のルツボに装填し易いサイズとすることができる。
シリコン塊およびシリコン粉に含まれる金属不純物としては、例えば、Cu、Fe、Ni、C、アルミナ、酸化バリウム、酸化マグネシウムなどが挙げられる。
シリコン塊に含まれる金属不純物の濃度およびシリコン粉に含まれる金属不純物の濃度が1×1015atoms/cm未満では、そのまま原料として使用できるため、CZ法によるシリコンの精製を行う必要がない。シリコン塊に含まれる金属不純物の濃度およびシリコン粉に含まれる金属不純物の好ましい濃度は、1×1015atoms/cm〜1×1019atoms/cmである。この範囲であれば、精製時の偏析現象によって金属不純物の濃度が10atoms/cm〜10atoms/cm程度まで低減され、結果として1×1015atoms/cm以下となる。
【0018】
シリコンスラッジの沈降分離法では、例えば、シリコンスラッジと純水とを沈降容器に投入してこれを分散させ、分散後の純水を静置し、その後、上澄み液を沈降容器から除去する。このとき、シリコンスラッジが沈降容器の内部形状に成形(付形)される。なお、脱水後のシリコンスラッジを改めて成形する場合には、脱水されたシリコンスラッジを沈降容器から取り出し、それを別に準備した成形容器または型に投入し、これを乾燥させる。
【0019】
シリコンスラッジが投入される沈降容器の形状および大きさは任意である。
純水とは、物理的または化学的な処理によって不純物を除去した純度の高い水をいう。具体的には、1〜10MΩ・cmまたは1.0〜0.1μS/cmの水を採用することができる。なお、純水に代えて超純水を採用してもよい。超純水とは、水に含まれる不純物の量が、例えば0.01μg/リットル以下のものである。
【0020】
シリコン加工プロセスから発生したシリコンスラッジの純水への投入量は、この投入後、純水に分散されたシリコンスラッジの含水量が、35%以上となる量が好ましい。35%未満では、分散後の超純水を静置した際、上澄み液が発生せず、投入後の液面に多数の空孔が現出し、ルツボの体積を大きくしなければならない。
ここでいう「純水に分散されたシリコンスラッジ」とは、シリコン加工プロセスから発生したシリコン粉を含むシリコンスラッジが純水に分散されたことで、シリコン粉を含む新たなスラッジとなったものを含む。「分散」とは、シリコンスラッジが、純水中に均一な濃度で浮遊または懸濁している状態をいう。
【0021】
シリコンスラッジの純水への分散方法としては、例えば振動または攪拌を採用することができる。振動による分散を採用した場合、シリコンスラッジが投入された純水の振動条件としては、20〜100Hzでの数分間という条件が好ましい。
攪拌による分散を採用した場合には、例えば市販の攪拌装置を用いることができる。
なお、この振動時または攪拌時に純水中でバブリングし、気泡によってシリコン粉の分離を促進させてもよい。その他、純水へのpH調整剤の添加、捕収剤の添加などを行ってこの分離を促進してもよい。また、シリコンスラッジが投入された純水に対して、振動と攪拌とを同時または経時的に行ってもよい。
シリコンスラッジの静置(沈降分離)時間は、72〜168時間である。72時間未満では、沈降容器を傾けて上澄み液を捨てる際、シリコンも流出してしまう。また、168時間を超えれば、シリコン系太陽電池用原料の生産性が低下する。
沈降したシリコンスラッジの新たな成形には、例えば容器、型などを用いることができる。
【0022】
シリコンスラッジの乾燥方法としては、例えば自然乾燥、強制乾燥(加熱乾燥など)を採用することができる。
シリコン系太陽電池用原料となるスラッジ成形物とは、シリコン加工プロセスで発生し、かつ金属不純物の濃度が1×1015atoms/cm以上のシリコン粉を含むシリコンスラッジを沈降分離してその不純物(金属不純物を含む)を減量し、その後、これを成形して乾燥したものである。
スラッジ成形物の形状は任意である。例えば直方体、立方体、球体などを採用することができる。
【0023】
チョクラルスキー方式のシリコン結晶成長装置としては、例えば、一般的な引き上げ装置の他、単結晶または多結晶のシリコンインゴットを引き上げた後、ルツボ内の残留融液を固化させることなく、原料のシリコンをルツボに再充填するリチャージ引き上げ装置、シリコンインゴットの引き上げ分だけ融液を補充する連続チャージ引き上げ装置、磁界の作用により融液の対流を抑制する磁界下引き上げ(MCZ)装置などを採用することができる。
ルツボとしては、例えば、石英ルツボ、黒鉛ルツボなどを採用することができる。
シリコンインゴットとしては、チョクラルスキー法によって引き上げられた単結晶シリコンインゴット、チョクラルスキー法によって引き上げられた単結晶シリコンインゴットを採用することができる。
【0024】
ルツボから引き上げられたシリコンインゴットは、破砕後、シリコン系太陽電池の溶融原料となる。その後、この溶融原料は、例えば、多結晶シリコン系太陽電池用のインゴット鋳造装置に投入して溶融され、多結晶シリコンインゴットが鋳造される。その後、多結晶シリコンインゴットをウェーハ加工し、所定の方法によりPN接合が形成されることで、シリコン系太陽電池となる。
【0025】
請求項2に記載の発明は、前記ルツボへのスラッジ成形物の投入量は、前記ルツボに投入される前記スラッジ成形物と前記シリコン塊との総投入量の30〜70重量%である請求項1に記載のシリコン系太陽電池用原料の製造方法である。
【0026】
請求項2に記載の発明によれば、スラッジ成形物のルツボへの投入量を、スラッジ成形物とシリコン塊とのルツボ総投入量の30〜70重量%としたので、スラッジ成形物とシリコン塊との溶融時間を短縮することができ、かつ材料費および加熱費を含む溶融コストも低下させることができる。
【0027】
スラッジ成形物のルツボへの投入量が、スラッジ成形物とシリコン塊との総投入量の30重量%未満では、スラッジ起因の熱伝導性の悪化によりルツボへ投入されたスラッジ成形物とシリコン塊との溶融コストが高まる。また、70重量%を超えれば、シリコン塊の使用により投入コストが高くなり、しかもルツボへ投入されたスラッジ成形物とシリコン塊との溶融時間が長くなる。スラッジ成形物のルツボへの好ましい投入量は、前記総投入量の40〜60重量%である。この範囲であれば、溶解時間が短縮し、低コスト化が図れる。
【発明の効果】
【0028】
請求項1に記載の発明によれば、シリコン加工プロセスにより発生した1×1015atoms/cm以上の金属不純物を含むシリコンスラッジを原料としたスラッジ成形物と、同レベルの金属不純物を含むシリコン塊とを1つのルツボに投入して同時に溶融し、その後、チョクラルスキー法によりシリコンインゴットを引き上げる。その際、チョクラルスキー法の結晶引き上げに伴う不純物の偏析現象を利用し、シリコンを精製しながらシリコンインゴットを引き上げることができる。その結果、各種のシリコン加工プロセスで発生し、かつ高濃度に金属汚染されたシリコンスラッジ、および、発生量が少なくて単独での処理が難しいシリコン塊をそれぞれ再利用し、シリコン系太陽電池を得る溶融原料を製造することができる。
【0029】
請求項2に記載の発明によれば、スラッジ成形物のルツボへの投入量を、スラッジ成形物とシリコン塊とのルツボ総投入量の30〜70重量%としたので、スラッジ成形物とシリコン塊との溶融時間を短縮することができ、かつ材料費および加熱費を含む溶融コストも低下させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】この発明の実施例1に係るシリコン系太陽電池用原料の製造方法を示すフローシートである。
【図2】この発明の実施例1に係るシリコン系太陽電池用原料の製造方法において、ルツボに投入されたスラッジ成形物とシリコン塊との投入状態を示す縦断面図である。
【図3】この発明の実施例1に係るシリコン系太陽電池用原料の製造方法で用いられるチョクラルスキー方式のシリコン結晶成長装置の縦断面図である。
【図4】この発明の実施例1に係るシリコン系太陽電池用原料の製造方法において、シリコン結晶成長装置のルツボに投入されたシリコン廃棄物の溶融時間と、シリコン廃棄物中のスラッジ成形物の含有率との関係を示すグラフである。
【図5】この発明の実施例1に係るシリコン系太陽電池用原料の製造方法において、シリコン結晶成長装置のルツボに投入されたシリコン廃棄物のコストと、このシリコン廃棄物中のスラッジ成形物の含有率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、この発明の実施例を具体的に説明する。
【実施例】
【0032】
図1のフローシートを参照して、この発明の実施例1に係るシリコン系太陽電池用原料の製造方法を説明する。
まず、電磁キャスト炉からなる鋳型(インゴット鋳造装置)を用いて、比抵抗が1〜2Ω・cmの多結晶シリコンインゴットを鋳造する。すなわち、電磁誘導またはプラズマにより溶融したシリコン融液を凝固させて脱型する。これにより、高さ7000mmの横長な直方体の多結晶シリコンインゴットが鋳造される。
【0033】
次に、多結晶シリコンインゴットに対して、純水からなる切削液(水温22℃)を30リットル/分で供給しながら、最終固化部分である多結晶シリコンインゴットのトップ部(上端板)を必要な大きさに切断する。最終固化部分であるため、端板片の金属不純物(Fe、Niなど)の濃度は、1×1015atoms/cm以上存在する場合がある。その後、端板片は、フッ酸、硝酸からなる洗浄液により洗浄される。これにより、端板片の表面に付着した塵などが除去される。
【0034】
なお、端板片に代えて、例えば、チョクラルスキー方式のシリコン結晶成長装置によるシリコンインゴットの引き上げ後、ルツボの底部に残ったシリコン残部を破砕し、これを洗浄した残部破砕片を、シリコン塊としてもよい。
【0035】
端板除去時およびブロック切断時には、多量のシリコンスラッジが発生する。ここでいうシリコンスラッジとは、粒径(粒度分布)が主として10〜50μmのシリコン粉と、不純物と、純水とが泥状になった滓である。不純物とは、例えば、研削砥石などの摩耗により発生するアルミナ、シリカ、コランダム、Cu、Fe、Ni、C、酸化バリウム、酸化マグネシウム、塵などである。このうち、Fe、Niなどの金属不純物によるシリコンスラッジ(シリコン粉)の汚染濃度は、端板片と同レベルの1×1015atoms/cm〜1×1019atoms/cmである。
次いで、シリコンスラッジを、純水(水温22℃)が貯液された平面視して矩形状の沈降容器に投入する。純水の投入量は、投入後のシリコンスラッジの含水率が50%となる量である。含水率を50%としたので、沈降分離時に上澄み液が発生し、シリコンスラッジの投入後の液面に多数の空気抜け孔が現出しない。
【0036】
その後、純水を投入したシリコンスラッジをプロペラ付き攪拌装置により攪拌し、シリコンスラッジを純水中に完全に分散させてシリコン分散水を得る。
次に、容器内でシリコン分散水を72時間静置し、シリコンスラッジを、上澄み液と沈降したシリコンスラッジとに沈降分離する。
次に、沈降容器中の上澄み液を除去する。上澄み液には、純水に分散されたシリコンスラッジ中の比重の軽い不純物(塵など)が浮遊し、かつ水溶性の金属イオン(金属不純物)が溶融しているので、これが除去される。その結果、沈降容器の底部には、不純物が減量されたシリコンスラッジが残存する。
【0037】
次いで、沈降容器に沈降したシリコンスラッジ(含水率25%)を角形の成形容器に回収する。その後、この成形容器を1週間静置し、シリコンスラッジを自然乾燥させ、厚肉な板状体(スラッジ成形物)とする。自然乾燥後の板状体の含水率は0.5%である。
その後、板状体は、ハンドリングが容易な縦200mm、横200mm、厚さ70mmのブロックに分割する。
【0038】
次に、チョクラルスキー方式のシリコン結晶成長装置のルツボ14の中央部に、複数の板状体aを積層し、これらの板状体aの全体を覆うように、ルツボ14に多数個の前記端板片bを投入する(図2)。このように、ルツボ14の底部に端板片aを敷き詰めるので、板状体aへの熱伝達の効率が高まり、板状体aに含まれるシリコン粉の溶融が容易となる。このとき、板状体aと端板片bとのルツボ14への投入量は、板状体aと端板片bとを合わせたシリコン廃棄物Wのルツボ14への総投入量の各50重量%(端板片:板状体=1:1)である。
【0039】
ここで、図3を参照して、チョクラルスキー方式のシリコン結晶成長装置(結晶成長装置)10を詳細に説明する。この結晶成長装置10により製造される多結晶シリコンインゴットの直胴部の直径は、160mmである。
結晶成長装置10は、中空円筒形状のチャンバ11を備えている。チャンバ11は、メインチャンバ12と、メインチャンバ12上に連設固定され、メインチャンバ12より小径なプルチャンバ13とからなる。メインチャンバ12内の中心部には、ルツボ14が、回転および昇降が可能な支持軸(ペディスタル)15の上に固定されている。ルツボ14は、内側の石英ルツボ16と外側の黒鉛ルツボ17とを組み合わせた二重構造である。
【0040】
ルツボ14の外側には、加熱抵抗式のヒータ21がルツボ14の壁部と同心円状に配置されている。ヒータ21の外側には、円筒状の保温筒22がメインチャンバ12の周側壁内面に沿って配置されている。メインチャンバ12の底面上には、円形の保温板23が配置されている。
ルツボ14の中心線上には、支持軸15と同一軸心で回転および昇降が可能な引き上げ軸(ワイヤでも可能)25がプルチャンバ13を通って吊設されている。引き上げ軸25の下端には、多結晶シリコンからなる種結晶Cが装着されている。
【0041】
次に、この結晶成長装置10を用いたシリコン多結晶成長方法を具体的に説明する。
チャンバ11内を25Torrに減圧し、100L/minのアルゴンガスを導入する。次に、ルツボ14内の投入物をヒータ21により溶解し、ルツボ14内に融液26を形成する。
次に、引き上げ軸25の下端に装着された種結晶Cを融液26に浸漬し、ルツボ14および引き上げ軸25を互いに逆方向へ回転させつつ、引き上げ軸25を軸方向に引き上げ、種結晶Cの下方に多結晶シリコンインゴットSを成長させる。
【0042】
このとき、チョクラルスキー法の結晶引き上げに伴う融液26に含まれる不純物の偏析現象により、シリコンの精製を行いながら多結晶シリコンインゴットSを引き上げることができる。すなわち、多結晶シリコンインゴットSの引き上げに伴い、金属不純物濃度が10atoms/cm〜10atoms/cm程度減少する。その結果、シリコン加工プロセスで発生し、かつ高濃度に金属汚染されたシリコンスラッジ(板状体a)およびシリコン塊(端板片b)を利用して、最も高濃度化するボトム部分でも金属不純物(Fe、Niなど)の汚染濃度が1010atoms/cm〜1014atoms/cmまで低下した多結晶シリコンインゴットSを引き上げることができる。
【0043】
実際に、実施例1の結晶成長装置10を用いて、出発原料の金属汚染濃度別で、引き上げ中の多結晶シリコンインゴットが、金属汚染の許容限界レベル(1.00×1014atoms/cm)に達した時の融液の固化率(ルツボ内の融液の残率)の違いを求める試験を実施例1の工程にしたがって行った。その結果を表1に示す。
【0044】
【表1】

(凡例)多結晶シリコンインゴットのFe,Ni汚染の許容限界レベル;1.00×1014atoms/cm
【0045】
表1に示すように、チョクラルスキー方式のインゴット引き上げに伴う不純物の偏析現象を利用すれば、インゴット原料である板状体aと端板片bとの金属不純物(Fe、Ni)の濃度(原料濃度)が、1.00×1015atoms/cm〜1.00×1017atoms/cmのとき、全融液の99重量%を引き上げるまで、Fe、Niともに金属汚染の許容限界レベル(1.00×1014atoms/cm)に到達することなく、多結晶シリコンインゴットSを引き上げることができた。
特に、Feについては、出発原料の金属汚染濃度が1.00×1018atoms/cmの場合であっても、融液のシリコン残部が8重量%に達するまで、多結晶シリコンインゴット(ボトム部を含む)Sを金属汚染の許容限界レベル未満で引き上げることができた(全融液中のインゴット引き上げ率;92重量%)。
【0046】
このように、実施例1では、多結晶シリコンインゴットSのウェーハ加工プロセスから発生した1×1015atoms/cm以上の金属不純物を含む板状体aと、同レベルに金属汚染された端板片bとを出発原料とし、これらを1つのルツボ14内で同時に溶融後、チョクラルスキー法により多結晶シリコンインゴットSを引き上げる構成とした。これにより、発生量が少ない端板片bを見かけ上増量し、従来は廃棄処分されるのみであった高濃度に金属汚染されたシリコンを有効利用し、シリコン系太陽電池を得るための溶融原料を、低コストで製造することができる。
こうして得られた多結晶シリコンインゴットSは、その後、破砕されて、単結晶シリコン系太陽電池または多結晶シリコン系太陽電池の溶融原料として利用される。
【0047】
ここで、図4のグラフを参照して、チョクラルスキー方式のシリコン結晶成長装置のルツボに投入されたシリコン廃棄物(板状体と端板片との混在物)の溶融時間と、このシリコン廃棄物中のスラッジ成形物(板状体)の含有率との関係を示す。図4のグラフから明らかなように、シリコン廃棄物の溶融時間は、そのスラッジ成形物の含有率が70重量%を超えてから、著しく長くなった。
また、材料費および加熱費を含むシリコン廃棄物の溶融コストと、シリコン廃棄物に含まれるスラッジ成形物の含有率との関係を示す図5のグラフから明らかなように、スラッジ成形物の溶解コストは、このスラッジ成形物の含有比率が30重量%未満のときに著しく高まった。
その結果、図4のグラフおよび図5のグラフに記載された各試験データに基づき、ルツボに投入されたシリコン廃棄物中のスラッジ成形物の含有率を30〜70重量%とすれば、シリコン廃棄物の溶融時間が短く、かつ溶融時のコストも安価になることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0048】
この発明は、シリコン廃棄物を、安価なシリコン原料として再生する技術である。
これにより、大量の産業廃棄物の削減、資源の枯渇を防ぐことができる。
【符号の説明】
【0049】
10 シリコン結晶成長装置、
14 ルツボ、
26 融液、
S 多結晶シリコンインゴット(シリコンインゴット)、
a 板状体(スラッジ成形物)、
b 端板片(シリコン塊)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン加工プロセスで発生し、かつ金属不純物の濃度が1×1015atoms/cm以上のシリコン粉を含むシリコンスラッジに対して、沈降容器内で前記シリコンスラッジを純水中に分散させ、その後、これを静置する沈降分離工程および該沈降分離工程で前記沈降容器の底部に沈降したシリコンスラッジの乾燥工程を順次行うことで得られたスラッジ成形物と、シリコン加工プロセスで発生し、かつ1×1015atoms/cm以上の金属不純物を含むシリコン塊とを、チョクラルスキー方式のシリコン結晶成長装置のルツボに投入し、
その後、該ルツボ内で前記スラッジ成形物および前記シリコン塊を加熱溶融して融液とし、
次に、チョクラルスキー法により該融液からシリコンインゴットを引き上げ、
この引き上げられたシリコンインゴットを破砕することでシリコン系太陽電池原料とするシリコン系太陽電池用原料の製造方法。
【請求項2】
前記ルツボへのスラッジ成形物の投入量は、前記ルツボに投入される前記スラッジ成形物と前記シリコン塊との総投入量の30〜70重量%である請求項1に記載のシリコン系太陽電池用原料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−219317(P2011−219317A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−90869(P2010−90869)
【出願日】平成22年4月9日(2010.4.9)
【出願人】(302006854)株式会社SUMCO (1,197)
【Fターム(参考)】