説明

シリンジポンプおよびこれの使用方法

【課題】シリンジ装着不良発生を未然に防止できる、より安全性に優れたシリンジポンプおよびこれの使用方法の提供。
【解決手段】 シリンジ筒部Sをシリンジポンプ1の置き台2aにセットし、スライダ組立体50にシリンジ押子SPをセットし、スライダ組立体の駆動にともないシリンジの内容物を正確に送り出すために、シリンジ筒部が置き台上において3次元方向(X-Y-Z方向)に沿う正しい姿勢でセットされ、かつシリンジ押子がスライダ組立体に正しくセットされたことを検出するための検出部21、22、23、46と、正しくセットされないときに警告表示を行うための表示部11とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種々の異なるシリンジを不動状態に保持し、スライダ手段に対してシリンジの押子を不動状態にセットし、スライダ手段を駆動することでシリンジの内容物を正確に送り出すシリンジポンプに係り、特に安全性をより改善したシリンジポンプおよびこれの使用方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリンジポンプは、集中治療室(ICU)などで患者への栄養補給や輸血、化学療法剤、麻酔剤などの薬液注入を高い精度で比較的長時間に渡り行うことを主目的としたものであり、その薬液流量制御等が他の形式のポンプに比較して優れていることから多用されている。その使用方法は、薬液を入れたシリンジを、シリンジポンプのクランプを用いて不動状態にセットし、スライダに対してシリンジ押子をセットし、スライダを初期位置となる輸液開始位置まで手動で駆動することで、シリンジ押子のピストン運動によりシリンジ中の内容物を正確に送り出すものであり、構造が単純の割には比較的輸液精度が良いことから多く実用化されている。
【0003】
また、特表平9−506288号公報において、スライダに対してシリンジ押子をセットしたことを検出し、スライダを初期位置となる輸液開始位置まで手動で駆動するように構成されたシリンジポンプが提案されている。(特許文献1)
さらに、特開2004−73373号公報において、シリンジ筒部が置き台上に正しくセットされていることを検出するように構成されたシリンジポンプが提案されている。(特許文献2)
【特許文献1】特表平9−506288号公報
【特許文献2】特開2004−73373号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、シリンジポンプにおいて、シリンジ装着不良があると、シリンジサイズ(外径・内径)を誤って認識してしまい、薬液の過少・過大注入のリスクが発生する。
【0005】
上記の特開2004−73373号公報に開示された技術によれば、シリンジ筒部がシリンジポンプの置き台上に正しくセットされたことを検出できるが、置き台の近傍の凹部内にセットされるべきシリンジフランジ部が正しくセットされたことは検出できない。
【0006】
このように凹部内にセットされるべきシリンジフランジ部が凹部から外れ、シリンジ押子がスライダにセットされ、シリンジ内が負圧状態になると、シリンジ筒部(外筒)がスライダ側に移動することで薬液の過大注入のリスクとなる。
【0007】
一方、横たわった患者より高い位置にシリンジポンプを置き、凹部内にセットされるべきシリンジフランジ部が凹部にセットされ、シリンジ押子がスライダから外れたままで放置しておくと、患者とシリンジポンプ間の落差によるサイフォニング現象が発生する事故も報告されており、この場合には薬液の過大注入のリスクとなる。
【0008】
したがって、本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、シリンジ装着不良発生を未然に防止するように警告することで、より安全性に優れたシリンジポンプおよびこれの使用方法の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決し、目的を達成するために、本発明のシリンジポンプによれば、シリンジ筒部をシリンジポンプの置き台にセットし、スライダ手段にシリンジ押子をセットし、前記スライダ手段の駆動にともないシリンジの内容物を正確に送り出すために、前記スライダ手段を前記駆動するスライダ送り手段と、前記シリンジ筒部を、前記置き台に対して着脱自在かつ固定位置で不動状態に維持するクランプ手段と、前記スライダ手段に設けられ、前記シリンジ押子を不動状態で把持する把持位置と開放する開放位置との間で開閉されるフック部材と、前記スライダ手段に設けられ、前記フック部材の前記開閉を手動で行うクラッチレバーと、前記クラッチレバーの操作により、前記フック部材が前記開放位置になったときに、前記スライダ手段を前記スライダ送り手段に対する非係合状態にする一方で、前記クラッチレバーの操作により、前記フック部材が前記把持位置になったときに、前記スライダ手段を前記スライダ送り手段に対する係合状態にするスライダ機構部と、を備えたシリンジポンプであって、前記シリンジ筒部が前記置き台上において3次元方向(X-Y-Z方向)に沿う正しい姿勢でセットされ、かつ前記シリンジ押子が前記スライダ手段において正しくセットされたことを検出するための検出手段と、前記シリンジ筒部および前記シリンジ押子のセット不良が前記検出手段で検出されたときに、前記セット不良を知らせて正しいセットを促すための警告手段とを備えることを特徴としている。
【0010】
また、前記検出手段は、前記シリンジ筒部が前記置き台に対する上下方向(Z方向)に正しく不動状態にセットされたことを検出するために、前記クランプ手段に設けられた第1検出部と、前記シリンジ筒部が前記置き台に対する前後方向(X方向)に正しく不動状態にセットされたことを検出するために、前記置き台の前後傾斜面の谷底面に設けられた第2検出部と、前記置き台の近傍の凹部にセットされるべきシリンジフランジ部が前記置き台に対する左右方向(Y方向)に正しく不動状態にセットされたことを検出するために、前記凹部に設けられた第3検出部と、前記フック部材が前記把持位置になったことを検出することで、前記シリンジ押子が前記スライダ手段に正しくセットされたことを検出する第4検出部とから構成されることを特徴としている。
【0011】
また、前記第1検出部は、前記シリンジ筒部への当接により異なる直径を検出する機能を兼ねるとともに、前記第2検出部と前記第3検出部はシリンジに対する当接により待機位置から検出位置に移動されるアクチエータと、前記アクチエータを覆う防水カバーとを備えることを特徴としている。
【0012】
また、前記警告手段は、表示部に前記セット不良を文字表示するとともに、動作インジケータの立体表示と同期してアラームを鳴動させて正しいセットを促すことを特徴としている。
【0013】
そして、本発明のシリンジポンプの使用方法によれば、シリンジ筒部をシリンジポンプの置き台にセットし、スライダ手段にシリンジ押子をセットし、前記スライダ手段の駆動にともないシリンジの内容物を正確に送り出すために、前記スライダ手段を前記駆動するスライダ送り手段と、前記シリンジ筒部を、前記置き台に対して着脱自在かつ固定位置で不動状態に維持するクランプ手段と、前記スライダ手段に設けられ、前記シリンジ押子を不動状態で把持する把持位置と開放する開放位置との間で開閉されるフック部材と、前記スライダ手段に設けられ、前記フック部材の前記開閉を手動で行うクラッチレバーと、前記クラッチレバーの操作により、前記フック部材が前記開放位置になったときに、前記スライダ手段を前記スライダ送り手段に対する非係合状態にする一方で、前記クラッチレバーの操作により、前記フック部材が前記把持位置になったときに、前記スライダ手段を前記スライダ送り手段に対する係合状態にするスライダ機構部と、を備えたシリンジポンプの使用方法であって、前記シリンジ筒部を前記置き台上にセットし、前記シリンジ押子を前記スライダ手段にセットし、シリンジが3次元方向(X-Y-Z方向)に沿う正しい姿勢でセットされ、かつ前記シリンジ押子が正しくセットされたことを検出手段により検出し、前記シリンジ筒部および前記シリンジ押子のセット不良が前記検出手段で検出されたときに、警告手段により前記セット不良を知らせて正しいセットを促すことを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、シリンジ筒部(外筒)が置き台上において3次元方向(X-Y-Z方向)に沿う正しい姿勢でセットされ、かつシリンジ押子がスライダにおいて正しくセットされたことを検出し、正しくセットされない場合には正しくセットするように警告を発生することで、サイフォニングや薬液の過大注入などの事故発生を未然に防止できるより安全なシリンジポンプおよびこれの使用方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態につき添付図面を参照して説明する。
【0016】
先ず、図1はシリンジポンプ1の外観斜視図であって、操作パネル部2fを前方にし、通常右手で操作されるべき設定ダイヤル6を破線で示した図である。
【0017】
本図において、このシリンジポンプ1は、ICU、CCU、NICUでの、栄養補給や輸血、化学療法剤、麻酔剤などの薬液注入を目的とした微量持続注入ポンプとも呼ばれる装置であり、流量表示等を行うための操作パネル部2fが図示のように上面において略集中するように設けることで操作性を良くしている。
【0018】
また、この操作パネル2fは基本的にエンボスシートカバーで覆われており、JISC0920の防まつ試験を満足する防滴設計が施されており、例えば不注意でこぼれた薬液等を簡単に拭きとることができるようにするとともに、薬液等が内部に侵入するのを防ぐための、高い防滴性を備えている。
【0019】
このためにシリンジポンプ1の本体をなす上カバー2と下カバー3は耐薬品性を備える成形樹脂材料から一体成形されるとともに、各カバー2、3の互いの接続面において例えばシリコーンエラストマー製のラバーシール4を介在させてからネジ止めする構成にすることで、内部に液体等の異物が入り込むことを防止するように構成されている。
【0020】
また、注入の高精度と操作性の向上を重視するためにマイクロコンピュータ制御による精密な注入動作制御を実現可能にするとともに、外部から見易い位置において上方に突出して設けられた動作インジケータ7を図示のように設け、この動作インジケータ7内部の発光ダイオードが赤色または緑色に多色に点灯、点滅したり、回転点灯表示するようにして、輸液動作状態や警告状態が遠方からでもモニターできるようにすることで、その安全性を万全にしている。さらにまた、ブザーも内蔵されており、安全性を考えた、各種警報機能が備わっている。
【0021】
また、小型・軽量でありさらにハンドル4を下カバー3の左側面から一体成形しているので、持ち運びも簡単であり、複数台数を同時使用する場合にも使用に便利となるように設計されている。さらに右側面の設定ダイヤル6を回すことで回転速度と回転方向に応じた数値設定が短時間でできるようにする一方で、表示パネルの表示部11に設定値を表示できるようにして、流量などの数値の設定変更時は、設定ダイヤル6の操作によりワンアクションで簡単に行えるようにしている。
【0022】
さらに、多連使用(多数併用)できる形状と、使い易くさらにビルドアップ可能なデザインとなっており、形状寸法は、例えば高さH:70mm×幅W:300mm×奥行きD:110mmと小型であり、また重量は1.2Kg程度とするとともに、電源はAC商用電源と、内蔵バッテリ、DC12VAの3系統としている。
【0023】
また内蔵バッテリは充電時間は16H(時間)程度であり、外部から簡単に交換可能にするために下カバー3の底部において蓋で被われて、コネクタ接続されて着脱可能に設けられている。また、交換寿命は2年以上とする一方で、定電流一定電圧充電コントロールで過充電とならないようにしている。さらに、内蔵バッテリの容量、充電時の電圧/電流、放電時の電圧/電流などを監視、制御することにより過放・充電防止を実現している。そして、耐熱用リチウムイオンバッテリを使用し、新品バッテリで警報発生まで12H(時間)以上,シャットダウンまで少なくとも約12.5H(時間)以上動作できるようにしている。
【0024】
また、積算量、ガンマ注入のための表示部10と、流量の表示部11他が操作パネル2f上に設けられる一方で、設定ダイヤル6は洗浄のために簡単に取り外すことができるように形成されており、この爪先を入れて回動しつつ外側に移動して外すことができるように構成されている。
【0025】
次に、図1に、シリンジとともに図示したシリンジポンプの外観斜視図である図2をさらに参照して、シリンジをセットするために、上カバー2には置き台置き台2aとシリンジ筒部Sと一体的に形成されているシリンジフランジ部SFがセットされるべき凹部8、9凹部8、9が一体射出成形される。また、クランプ5を回動自在に支持するクランプ支柱2b(図1にて破線図示)も同様に一体形成されている。
【0026】
そして、図1の破線図示の位置の間で矢印D方向に駆動されるスライダ組立体50は、下ケースの段差部2d上を往復移動する一方で、スライダー送り機構に対して後述するパイプシャフト、インナークラッチシャフトの端部において連結固定されており、スライダ組立体50のクラッチレバー52を手動で操作することでシリンジ押子SPを簡単に装着および取り外すことができるように構成されている。
【0027】
また、操作パネル部2fには、電源スイッチと、AC/DCランプとバッテリーランプが左端部において集中配設されている。これらランプの隣りには表示部10が配設されている。また、クランプ5を使用してシリンジをセットしたときに、クランプ5の上下方向の移動量を電気信号に変換してからシリンジ直径を自動計測してセットされたシリンジの容積5cc(ml)、10cc(ml),20cc(ml),30cc(ml)、50cc(ml)、100cc(ml)を表示するようにしたシリンジ表示ランプが設けられている。
【0028】
また、シリンジポンプに設けられている閉塞検出機構による設定検出圧力を3段切り換え表示する表示ランプ、残量アラームランプ、バッテリーアラームランプ他が集中的に配設されている。
【0029】
表示部11は流量、予定量、積算量などを表示する7セグメントのLEDを内蔵しており、機能スイッチと積算クリアスイッチと早送りスイッチと、開始スイッチと停止/消音スイッチなどをさらに設けている。
【0030】
また、凹部8の近くにはシリンジ筒部Sが置き台2aに対する前後方向(X方向)に正しく不動状態にセットされたことを検出するために、置き台2aの角度αで傾斜した前後傾斜面2a−1、2a−2の谷底面2hにおいて設けられたゴムカバー13で覆われた第2検出部となるセンサが設けられている。
【0031】
次に、図2を参照して、シリンジ押子SPはシリンジの押子SPをスライダー組立体50に当接させ形状部55aに置いてから、クラッチレバー52を離すと、左右フック53、54がシリンジSの押子SPを自動的に保持するようになる。即ち、クラッチレバー52を離すと、スライダーのフックがシリンジの押子を挟み込む状態になる。以上が基本のセット動作である。このスライダ組立体50はスライダ送り機構のインナークラッチシャフト43とパイプシャフト40の端部において固定されて種々の異なるシリンジを不動状態に着脱自在に保持し、かつこれを駆動することでシリンジ内容物を正確に送り出すための重要な機能を有する。また、防水のためのブーツ51がパイプシャフト40に被せられている。
【0032】
そして、シリンジ押子SPを把持するために、クラッチレバー52を矢印K1方向に押圧すると、左右フック部材53、54が夫々矢印K2方向に開き、クラッチレバー52を離すと左右フック部材が把持位置になり、このことをスライダ機構部と連動して検出することで、シリンジ押子SPがスライダ組立体50に正しくセットされたことを検出するように一端がトーションバネの作用により常時突出するように付勢されたストッパー部品57が設けられており、シリンジ押子SPを把持したときにこのストッパー部品57が引っ込むように構成された特許第3581695号に記載のクラッチ機構(詳細は省略する)を備えている。
【0033】
図3は、上カバー2に内蔵されるスライダ送り機構の外観斜視図である。本図において、アルミダイカスト製のように剛性と防振性に優れたベース34には左右壁面34a(但し、片方は不図示)が一体形成されており、ギアトレイン36のギアを一端に固定したリードネジ37と、インナークラッチシャフト43と、案内シャフト38の夫々を左右壁面34aで挟まれる空間部位において支持しており、リードネジ37は不図示の軸受により回動自在に支持されている。また、圧力センサ72を一方の軸受けに設けており、閉塞検出を可能にしている。
【0034】
インナークラッチシャフト43にはガイドブッシュ48により矢印A4方向に移動可能になるようにされたパイプシャフト40が同軸状に摺動自在に案内されている。また、案内シャフト38は不動状態でベース34に固定されている。このパイプシャフト40の端部には上記の案内シャフト38に挿通されて回り止めするためのポリアセタール樹脂製のブッシュ42を固定したブロック41が固定されている。また、インナークラッチシャフト43には図示の破線矢印A1方向に常時付勢されており歯部45aがリードネジ37の歯部に常時歯合するようにしたハーフナットブロック45を固定したナットホルダー44が固定されており、このインナークラッチシャフト43が実線の矢印A3方向に回動されたときのみ歯合状態が外れたフリー状態になるようにして、両矢印A5方向に自由に移動できるように構成されている。また、案内シャフト38にはクラッチセンサ板39が回動軸支されている。
【0035】
また、このスライダ送り機構33にはさらに上記の圧力センサ72による閉塞検出機構が設けられている。スライダ送り機構33の構成は、エンコーダをその出力軸に固定したモータ35の回転をギアトレイン36を介して送りネジであるリードネジ37に固定してある最終ギアに動力伝達することによりナットホルダー44が移動し、シリンジ押子SPを押すことによりシリンジ中の薬液の輸液ができるようにしている。この時に、ナットホルダー44は送り方向へ進もうとするが、シリンジS及びその他の輸液流路中の抵抗の作用によって、逆方向へ作用する力が生じる。
【0036】
このようにして、生じた力はナットホルダー44に固定されたハーフナット45とシードネジ37の噛合状態によって、送りネジ全体が送り方向とは逆方向の反力を受ける。この結果、送りネジ全体が逆方向に移動して、送りネジの先端部位が不図示のレバーを経由して圧力センサ72にその力が伝達される。
【0037】
このようにして、伝達された力は、圧力センサ72のたわみとなり、この機構的なたわみを電気的な出力に変換して、設定テーブルまで達すると異常状態を知らせるアラームとして動作インジケータ7に表示するとともに警報音(ブザー)を発生(鳴動)する。
【0038】
また、このようにシリンジ及びその他の輸液流路中の抵抗から生じる負荷設定は、上カバー2上の表示パネルに設けられた3個の表示ランプで3段切り換え表示されて、その負荷設定値がH(高);(800±200mmHg)、M(中);(500±100mmHg)、L(小);(300±100mmHg)として表示される。
【0039】
また、閉塞検出機構にはシリンジの摺動抵抗の考慮もなされており、各メーカー,シリンジ容積種類(100cc、50cc、30cc、20cc、10cc、5cc)を検知して、シリンジの摺動抵抗により自動補正するように構成されている。またCPU内部の交換式メモリには、40社分のシリンジの摺動抵抗データが予め記憶されており、任意のメーカーを設定することができるようになっている。
【0040】
一方、残量検出機構は動作途中で残量が少なくなった場合に重要な機能であって、ポンプが動作を継続してブロック41とナットホルダー44が移動されてシリンジの押子SPが移動されてある任意の位置に到達すると、パイプシャフト40に固定されているブロック41に固定されている不図示の金具が本体の上カバー2の内部に固定されているポテンショメータのレバーに接する状態になる。このように当接した状態から、さらに移動が継続されると、ポテンショメータの値が予め記憶された所定値に達する。この時に、異常状態を知らせるアラームとして動作インジケータ7に表示するとともに警報音を発生して残量アラームを表示する。
【0041】
以上のようにして、ポンプの薬液注入の動作が完了すると、送り方向とは逆方向へ移動して、初期の位置へスライダーは戻されて、ポテンショメータのレバーは、レバーに接続された引張りバネの力により、初期の位置に戻るように構成されている。また、クラッチはずれ検出機構は、ポンプの送り動作中に、誤ってクラッチレバー52が握られて、クラッチ組立体を構成するハーフナット45とリードネジ37の歯合状態が切られたか、或いは、何らかの負荷の作用等により、同様のことが起った場合に警報音を発生し、動作インジケータ7により異常を知らせるものである。
【0042】
このためにスライダ組立体50のクラッチレバー52を握ると、パイプシャフト40を介して、ハーフナット45が破線矢印A1とは逆方向に回転されることになる結果、リードネジ37のネジ山部37aとハーフナット45のネジ山部45aとの間の歯合状態が外れるように構成されている。また、このようにハーフナット45が回転されると、ハーフナット45の摺動面45cに対して常時摺動面39cが当接するように不図示の付勢手段により付勢力を受けているクラッチセンサー板39が同時に回転されて、クラッチセンサー板39の一端のレバー部39bが上カバーの内部に固定されている第4検出部であるフォトセンサ(透過型)46により検出される。このセンサ46は、通常は遮光しており、クラッチセンサー板39が回転することにより、光が透過する状態になるので、これを検出することによってシリンジ押子SPがフック部材で把持されていないことを検出するとともに、アラーム表示するように構成されている。
【0043】
図4は、以上の構成において、シリンジを正しくセットする様子を示した外観斜視図である。本図において、既に説明済みの構成または部品については同様の符号を附して説明を割愛すると、クランプ支柱2bの縦突起部に対してスプライン嵌合した状態に保持されたクランプ5が上方の矢印J1に引き上げられるとクランプ支柱の上端部において不図示の引っ張り力に抗して留まることができる状態になる。
【0044】
続いて、シリンジフランジSFを凹部8、9にセットし、シリンジ筒部Sを置き台2a上にセットしてから、シリンジ筒部Sを置き台2a上に正しくセットし、矢印J2方向に約90度回転する。すると、上記のロック状態が解除されて図中の矢印J1とは反対方向に引っ張られてシリンジのクランプが行われる。
【0045】
以上で置き台の近傍の凹部8、9内にセットされるべきシリンジフランジ部SFが置き台に対する左右方向(Y方向)に正しく不動状態にセットされ、またシリンジ筒部Sが前後方向(X方向)に正しくセットされる。ここで、以上の凹部8、9と置き台2aには小径の円弧溝部がさらに一体形成されており、小容量小径のシリンジを不動状態で保持することができるようにしている。続いてクラッチレバー52を解除してスライダーを移動させ、シリンジ押子SPをスライダ組立体50に正しく把持する状態にする。
【0046】
この後、再度図3において、モータ35が駆動されると、リードネジ37が回転駆動され、これに歯合するハーフナット45を固定しているナットホルダー44が移動されるのでパイプシャフト40も移動されることでスライダ組立体50の移動が行われる。このとき、クラッチセンサー板39の一端のレバー部39bはフォトセンサー(透過型)46を遮光している。
【0047】
以上の構成により、シリンジ筒部Sが置き台2a上においてX-Z方向に沿う正しい姿勢でセットされ、かつシリンジ押子SPがスライダ組立体50に正しくセットされたことを検出することができるが、シリンジフランジ部SFが凹部8,9内においてY方向に正しくセットされたことは検出できない。
【0048】
図で説明すると、図5(a)、(b)の模式図に図示されるような不良セット状態または図5(c)に図示のようにシリンジフランジ部SFをクランプ5で検出する不良セット状態については検出できなくなる。
【0049】
すなわち、図5(a)において、シリンジの装着姿勢を正しくせず置き台2a上に置くと、凹部8,9内にセットされるべきシリンジフランジ部SFが凹部から外れることになり、この状態からシリンジ押子がスライダにセットされて輸液が開始され、シリンジ内が負圧状態になると、シリンジ筒部(外筒)Sがスライダ側に破線図示の位置まで移動する結果、シリンジ内の薬液が吐出してしまう。また、図5(b)において、シリンジフランジ部SFが上記のゴムカバーを備えた第2検出部となるセンサ上に位置し、クランプ5で保持すると正しい直径計測ができなくなる。
【0050】
また、図5(c)において、シリンジフランジ部SFの大きな外形部分が上記のゴムカバーを備えた第2検出部となるセンサ上に位置し、クランプ5で保持すると正しい直径計測ができなくなる。
【0051】
また、図6(a)の模式図に図示されるような不良セット状態であって、シリンジ押子SPを破線図示のスライダ組立体50から外れた状態に放置し、シリンジフランジ部SFを凹部8,9にセットし、患者より高い位置にシリンジポンプを置いて放置しておくと、患者とシリンジポンプ間の落差によりサイフォニング現象が発生して、薬液の過大注入のリスクが発生する。
【0052】
以上のセット不良を防止するためには、上記の第4検出部であるセンサ46と第1検出部である第1センサ21に加えて、図6(a)に図示のようにクランプ5に連動する第2検出部である第2センサ22と、凹部8,9中に設けられることでシリンジフランジ部SFの有無を検出する第3検出部である第3センサ23をさらに設ければ全てのセット不良に対応できることとなる。
【0053】
具体的には、図6(a)のA−A線矢視断面図である図7において、既に説明済みの構成または部品については同様の符号を附して説明を割愛すると、置き台2a上には直径寸法d1、d3の異なる直径のシリンジ筒部Sがセットされる。このとき、上記の傾斜面に沿うように置かれるので前後方向(X方向)の位置決めが自動的に行われる。
【0054】
また、クランプ5にはアクチエータ15を固定した軸部5cが設けられており、この軸部5cに対してコイルバネ68を図示のように挿通後に蓋体5bを固定して上記のようにクランプを行えるように構成されている。このアクチエータ15は、シリンジ筒部Sの直径が小さくなると下方に移動され、光軸を遮ることで第1センサ21による高さ検出およびシリンジ筒部Sの有無検出を行う。
【0055】
次に、図6(a)のA−A線矢視断面図である図6(b)において、既に説明済みの構成または部品については同様の符号を附して説明を割愛すると、置き台2a上に直径寸法の異なる直径のシリンジ筒部Sが上記のようにセットされることで、ゴムカバー13を下方に押す状態となる。
【0056】
このゴムカバー13の下方にはシリンジ筒部Sに対する当接により実線図示の待機位置から破線図示の検出位置に移動されるように軸体16周りに回動軸支され、引張りバネ17で付勢されたアクチエータ15が設けられており、このアクチエータ15により第2センサ22の光軸を遮ることでシリンジ筒体Sが正しくセットされたことを検出するように構成されている。
【0057】
また、図6(c)において、凹部8,9の間の空間には不図示のゴムカバーが設けられており、その下方にはシリンジフランジ部SFに対する当接により実線図示の待機位置から破線図示の検出位置に移動されるように軸体16周りに回動軸支され、引張りバネ17で付勢されたアクチエータ15が設けられており、このアクチエータ15により第3センサ23の光軸を遮ることでシリンジフランジ部SFが凹部8,9内に正しくセットされたことを検出するように構成されている。
【0058】
図8はシリンジポンプのブロック図である。本図において、既に説明済みの構成または部品については同様の符号を附して説明を割愛すると、CPU100には、上記の第1センサ21、第2センサ22、第3センサ23、第4センサ46を接続したシリンジ装着検出手段120が接続されており、これら全てのセンサにより検出が行われたことを確認後に輸液を許可するように構成されている。
【0059】
また、CPU100には、クランプ5で検出されるシリンジ直径を判断するシリンジ径検出手段101と、シリンジメーカーの入力を行うメーカー入力手段102と、輸液に関する上記の設定を行う設定入力手段103と、シリンジ押子SPの駆動位置を検出する押子位置検出手段104と、上記の圧力センサ72に接続される閉塞圧レベル変更手段105と、比較手段106と、記憶手段107と、駆動モータ35に接続される駆動手段108と、動作インジケータ7とブザー307と表示部11に接続される警告手段109と、表示部10に接続されることで所定メッセージの表示制御を行う表示手段110と、予告位置演算手段111とが接続される。
【0060】
図9は、図8のブロック図に基づくシリンジセット不良警告のための動作説明フローチャートである。
【0061】
また、図10は表示部11の文字表示例を示した図である。図9、図10と図6(a)において、この処理が開始されると、ステップS1において、シリンジポンプ1が輸液途中の運転状態であるか否かが判断されて、運転途中であるとステップS2に進み処理を停止する。また、ステップS1で運転途中ではないことが判断されるとクランプ5によりシリンジがセットされたか否かを判断するためにステップS3に進み第1センサ21による検出が行われて次のステップS4でシリンジ筒部Sが正しく装着されたか否かを判断する。このステップS4において正しくセットされないことが判断された後に、ステップS5において輸液開始スイッチが押圧されるとステップS6に進み、シリンジの正しい装填を促す警告文字表示(図10を参照)を表示部11で点滅表示して行う。また動作インジケータ7、ブザー107への通電をさらに行う場合もある。このステップS6での処理はステップS4で正しくセットされるまで継続される。
【0062】
一方、ステップS4でシリンジがZ方向に正しくセットされたことが判断されるとステップS7において、シリンジ直径の測定が行われてその旨を表示するが、ここで、予め設定されたシリンジの直径寸法と異なる場合には上記のように表示して不図示の処理に進み終了する。ステップS7で正しい直径のシリンジ筒部がセットされていることが確認されると、ステップS8に進み、第2センサ22と第3センサ23によりシリンジがX,Y方向に正しくセットされたことを検出し、ステップS9に進む。このステップS9で、シリンジがX,Y方向に正しくセットされたことが検出されないと、ステップS6に戻り、シリンジの正しい装填を促す警告文字表示を表示部11で点滅表示する。または動作インジケータ7、ブザー107への通電をさらに行うことで正しいセットを促すようにしても良い。
【0063】
また、ステップS9でシリンジがX,Y方向に正しくセットされたことが検出されるとステップS10に進みスライダ移動機構に連動した第4センサ46によるシリンジ押子SPのセット状態が検出されてステップS11に進む。このステップS11において第4センサ46により押子装着が正しく行われたことが検出されるとステップS12に進み上記の警告表示、ブザーへの通電を停止して処理を終えて、輸液開始を待つ。また、ステップS11で第4センサ46により押子装着が正しく行われていないことが検出されるとステップS6に戻り、シリンジの正しい装填を促す警告文字表示を表示部11で点滅表示または動作インジケータ7、ブザー107への通電を行う。
【0064】
尚、上記の動作説明フローチャートはほんの一例であり、シリンジ筒部、シリンジ押子などの検出順序は上記のような順序に限定されないことは言うまでもない。
【0065】
また、第1から第4センサとして光軸を遮ることで動作する光学式センサを用いることで信頼性が向上することになるが、これに限定されず機械接点式、磁気式など種々のセンサが使用可能となる。
【0066】
以上説明したように、シリンジの正しいセットを執拗に促すことが可能となるので、特に未熟または不注意な看護師、場合によっては悪意の第三者が故意に悪用する場合であってもサイフォニングや薬液の過大注入などの事故発生を未然に防止できることになる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】シリンジポンプ1の外観斜視図であって、操作パネル部2fを前方にし、通常右手で操作されるべき設定ダイヤル6を破線で示した図である。
【図2】シリンジとともに図示したシリンジポンプの外観斜視図である。
【図3】上カバー2に内蔵されるスライダ送り機構の外観斜視図である。
【図4】シリンジを正しくセットした様子を図示したシリンジポンプの外観斜視図である。
【図5】(a)、(b)はシリンジを不良セット状態にセットした模式図、(c)はシリンジフランジ部SFをクランプ5で検出する不良セット状態の模式図である。
【図6】(a)はシリンジを不良セット状態にセットした模式図、(b)は(a)のA−A線矢視断面図、(c)は第3検出部の模式図である。
【図7】図6(a)のA−A線矢視断面図である。
【図8】シリンジポンプのブロック図である。
【図9】図8のブロック図に基づくシリンジセット不良警告のための動作説明フローチャートである。
【図10】表示部11の文字表示例を示した図である。
【符号の説明】
【0068】
1 シリンジポンプ
2 上カバー
2a 置き台
3 下カバー
4 ハンドル
5 クランプ
7 動作インジケータ
8、9 凹部
10 表示部
11 表示部
13 ゴムカバー(防水カバー)
14 アクチエータ
21 第1センサ(第1検出部)
22 第2センサ(第2検出部)
23 第3センサ(第3検出部)
46 第4センサ(第4検出部)
50 スライド組立体
52 クラッチレバー
53、54 フック部材
S シリンジ筒部
SF シリンジフランジ部
SP シリンジ押子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンジ筒部をシリンジポンプの置き台にセットし、スライダ手段にシリンジ押子をセットし、前記スライダ手段の駆動にともないシリンジの内容物を正確に送り出すために、
前記スライダ手段を前記駆動するスライダ送り手段と、
前記シリンジ筒部を、前記置き台に対して着脱自在かつ固定位置で不動状態に維持するクランプ手段と、
前記スライダ手段に設けられ、前記シリンジ押子を不動状態で把持する把持位置と開放する開放位置との間で開閉されるフック部材と、
前記スライダ手段に設けられ、前記フック部材の前記開閉を手動で行うクラッチレバーと、
前記クラッチレバーの操作により、前記フック部材が前記開放位置になったときに、前記スライダ手段を前記スライダ送り手段に対する非係合状態にする一方で、前記クラッチレバーの操作により、前記フック部材が前記把持位置になったときに、前記スライダ手段を前記スライダ送り手段に対する係合状態にするスライダ機構部と、を備えたシリンジポンプであって、
前記シリンジ筒部が前記置き台上において3次元方向(X-Y-Z方向)に沿う正しい姿勢でセットされ、かつ前記シリンジ押子が前記スライダ手段において正しくセットされたことを検出するための検出手段と、
前記シリンジ筒部および前記シリンジ押子のセット不良が前記検出手段で検出されたときに、前記セット不良を知らせて正しいセットを促すための警告手段と、を備えることを特徴とするシリンジポンプ。
【請求項2】
前記検出手段は、
前記シリンジ筒部が前記置き台に対する上下方向(Z方向)に正しく不動状態にセットされたことを検出するために、前記クランプ手段に設けられた第1検出部と、
前記シリンジ筒部が前記置き台に対する前後方向(X方向)に正しく不動状態にセットされたことを検出するために、前記置き台の前後傾斜面の谷底面に設けられた第2検出部と、
前記置き台の近傍の凹部にセットされるべきシリンジフランジ部が前記置き台に対する左右方向(Y方向)に正しく不動状態にセットされたことを検出するために、前記凹部に設けられた第3検出部と、
前記フック部材が前記把持位置になったことを検出することで、前記シリンジ押子が前記スライダ手段に正しくセットされたことを検出する第4検出部と、から構成されることを特徴とする請求項1に記載のシリンジポンプ。
【請求項3】
前記第1検出部は、前記シリンジ筒部への当接により異なる直径を検出する機能を兼ねるとともに、前記第2検出部と前記第3検出部はシリンジに対する当接により待機位置から検出位置に移動されるアクチエータと、前記アクチエータを覆う防水カバーとを備えることを特徴とする請求項2に記載のシリンジポンプ。
【請求項4】
前記警告手段は、表示部に前記セット不良を文字表示するとともに、動作インジケータの立体表示と同期してアラームを鳴動させて正しいセットを促すことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のシリンジポンプ。
【請求項5】
シリンジ筒部をシリンジポンプの置き台にセットし、スライダ手段にシリンジ押子をセットし、前記スライダ手段の駆動にともないシリンジの内容物を正確に送り出すために、 前記スライダ手段を前記駆動するスライダ送り手段と、
前記シリンジ筒部を、前記置き台に対して着脱自在かつ固定位置で不動状態に維持するクランプ手段と、
前記スライダ手段に設けられ、前記シリンジ押子を不動状態で把持する把持位置と開放する開放位置との間で開閉されるフック部材と、
前記スライダ手段に設けられ、前記フック部材の前記開閉を手動で行うクラッチレバーと、
前記クラッチレバーの操作により、前記フック部材が前記開放位置になったときに、前記スライダ手段を前記スライダ送り手段に対する非係合状態にする一方で、前記クラッチレバーの操作により、前記フック部材が前記把持位置になったときに、前記スライダ手段を前記スライダ送り手段に対する係合状態にするスライダ機構部と、を備えたシリンジポンプの使用方法であって、
前記シリンジ筒部を前記置き台上にセットし、前記シリンジ押子を前記スライダ手段にセットし、シリンジが3次元方向(X-Y-Z方向)に沿う正しい姿勢でセットされ、かつ前記シリンジ押子が正しくセットされたことを検出手段により検出し、
前記シリンジ筒部および前記シリンジ押子のセット不良が前記検出手段で検出されたときに、警告手段により前記セット不良を知らせて正しいセットを促すことを特徴とするシリンジポンプの使用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−306990(P2007−306990A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−136906(P2006−136906)
【出願日】平成18年5月16日(2006.5.16)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】