説明

シリンダブロックのめっき処理装置及び方法

【課題】シリンダボアを形成するシリンダ内周面の全体に亘ってめっき皮膜を良好に形成できること。
【解決手段】シリンダヘッド104一体型のシリンダブロック100におけるシリンダボア103内に筒状電極12が配置可能に設けられ、シリンダボアを形成するシリンダ内周面106と筒状電極の外周面23との隙間(外側処理液流路22)、及び筒状電極の内部(内側処理液流路21)に処理液を導き、筒状電極及びシリンダブロックに通電することで、シリンダ内周面にめっき前処理またはめっき処理を施すシリンダブロックのめっき処理装置10において、シリンダヘッドには、シリンダボアに連通して燃焼室105が形成され、この燃焼室をシールする第1シール部材11が筒状電極12に取り付けられて、燃焼室内に配置可能に構成されたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダヘッド一体型のシリンダブロックにおけるシリンダ内周面をめっき前処理またはめっき処理するシリンダブロックのめっき処理装置及び方法に係り、特に、シリンダヘッドの燃焼室を好適にシールするシリンダブロックのめっき処理装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、シリンダヘッド一体型のシリンダブロックにおけるシリンダ内周面に処理液を流動させてめっき処理を行うめっき処理装置が開示され、その非処理面であるシリンダヘッドの燃焼室に対するシール方法が示されている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載のめっき処理装置は、シリンダ内周面が形成するシリンダボアの上端部に設置された遮蔽板でシリンダヘッドの燃焼室を覆い、この遮蔽板とそれに近接するシリンダ内周面との間に処理液導入隙間を形成させて、めっき前処理またはめっき処理を行っている。
【0004】
また、特許文献2に記載のめっき処理装置は、シリンダヘッドの燃焼室を、電極の上端部に設けられたシール材(Oリング)で覆い、この状態で処理液を流動させながらシリンダブロックと電極に電圧を印加して、めっき前処理またはめっき処理を行っている。
【0005】
更に、特許文献3には、めっき前処理またはめっき処理の後に実施する洗浄処理について記載されている。つまり、めっき前処理時等にシリンダボア内で発生する有害な反応ガス(例えばNO)を除去・回収するために、点火プラグ取付用穴に洗浄シャワーノズル装置を設置し、この洗浄シャワーノズル装置からの霧状の水と有害ガス(例えばNO)とを反応させて、有害ガスを処理液(例えば希硝酸)として回収している。
【特許文献1】特開2006−2204号公報
【特許文献2】特開平9−112339号公報
【特許文献3】特開平3−47909号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のめっき処理装置では、遮蔽板とこれに近接するシリンダ内周面との間に処理液導入隙間を形成して、めっき前処理またはめっき処理を行なっている。この場合、遮蔽板(図3の符号X参照)は、シリンダヘッドの燃焼室に対して隙間を設けた不完全なシールであるため、処理液が処理液導入隙間を通じて、シリンダヘッドの吸排気バルブにおけるバルブシートのバルブシート面へ流出してしまう。これにより、バルブシートが圧入等されたシリンダヘッドにおいては、バルブシート自体が処理液により腐食したり、シリンダブロック(アルミニウム材)とバルブシート(鉄材)の界面が腐食して、バルブシートが脱落し易くなり、また熱伝導性が損なわれる等の不具合が生ずる。
【0007】
また、特許文献2に記載のめっき処理装置では、電極の上端に設けられたシール材(図3の符号Y参照)を用いて、シリンダヘッドの燃焼室を覆った状態でめっき前処理またはめっき処理を行なっている。この場合には、上記シール材がシリンダヘッドの燃焼室を完全なシール方法で覆っているため、バルブシートが圧入等されたシリンダヘッドであっても、バルブシートの腐食を防止することができる。
【0008】
しかし一方で、シール材によるシール位置をシリンダボアの上端で行っているので、処理中に発生したガスがシリンダボアの上端部に溜まり易く、処理液が充填されていないことによる反応不足や通電不足が発生する。これにより、シリンダボアを形成するシリンダ内周面の上端部ではめっき皮膜が形成されなかったり、めっき皮膜と素材の密着性が損なわれる等の不具合が生じ、例えばエンジン運転時においてピストンの往復摺動等により、前記不具合箇所を起点として焼付きやめっき皮膜剥離が起こり易くなる。特に、陽極電解エッチングによるめっき前処理を行った場合には、通常の化学エッチングと比較して多量の反応ガスが発生するため、上述の不具合が顕著に現れる。
【0009】
更に、特許文献3に記載の洗浄処理においては、シリンダボアにオイル通路が連通するシリンダブロックの場合に、シリンダボアに連通するオイル通路にまで洗浄水が達しにくいので、めっき前処理時の処理液がオイル通路に残存してめっき密着性が低下したり、めっき前処理またはめっき処理の後の処理液がオイル通路内に残存して、オイル通路が腐食する恐れがある。また、予め点火プラグ取付用穴が加工されたシリンダブロックに対してのみ適用が可能であるため、加工状態に制約が生ずる。
【0010】
本発明の目的は、上述の事情を考慮してなされたものであり、シリンダボアを形成するシリンダ内周面の全体に亘ってめっき皮膜を良好に形成できるシリンダブロックのめっき処理装置及び方法を提供することにある。
【0011】
また、本発明の他の目的は、シリンダヘッドに設置されたバルブシートにおける腐食等の不具合の発生を防止できるシリンダブロックのめっき処理装置及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るシリンダブロックのめっき処理装置は、シリンダヘッド一体型のシリンダブロックにおけるシリンダボア内に筒状電極が配置可能に設けられ、前記シリンダボアを形成するシリンダ内周面と前記筒状電極の外周面との隙間、及び前記筒状電極の内部に処理液を導き、前記筒状電極及び前記シリンダブロックに通電することで、前記シリンダ内周面にめっき前処理またはめっき処理を施すシリンダブロックのめっき処理装置において、前記シリンダヘッドには、前記シリンダボアに連通して燃焼室が形成され、この燃焼室をシールするシール部材が筒状電極に取り付けられて、前記燃焼室内に配設可能に構成されたことを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明に係るシリンダブロックのめっき処理方法は、シリンダヘッド一体型のシリンダブロックにおけるシリンダボア内に、前記シリンダブロックのクランクケース側から筒状電極を挿入して配置し、前記シリンダボアを形成するシリンダ内周面と前記筒状電極の外周面との隙間、及び前記筒状電極の内部に処理液を導いて流動させ、前記筒状電極及び前記シリンダブロックに通電することで、前記シリンダ内周面にめっき前処理またはめっき処理を施すシリンダブロックのめっき処理方法において、前記シリンダボアに連通する前記シリンダヘッドの燃焼室を、この燃焼室内に配設されたシール部材によりシールすることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、シリンダボアに連通する燃焼室をシールするシール部材が燃焼室内に配設されるので、シリンダ内周面のめっき前処理時またはめっき処理時に発生する反応ガスを燃焼室に滞留させることができ、シリンダボア内への滞留を防止できる。このため、シリンダボアを形成するシリンダ内周面に、その全体に亘ってめっき皮膜を良好に形成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面に基づき説明する。但し、本発明は、これらの実施の形態に限定されるものではない。
【0016】
[A]第1の実施の形態(図1〜図4)
図1は、本発明に係るシリンダブロックのめっき処理装置における第1の実施の形態を、装着されたシリンダブロックと共に示す側断面図である。図2は、図1のシリンダブロックを示す側断面図である。
【0017】
図1に示すめっき処理装置10は、エンジンのシリンダブロック100におけるシリンダ内周面106に処理液(めっき前処理液またはめっき処理液)を強制的に導いて流動させ、筒状電極12及びシリンダブロック100に通電することで、シリンダ内周面106を高速でめっき前処理またはめっき処理するものである。このめっき処理装置10は、筒状電極12及び第1シール部材11を備えた電極ユニット13と、位置決めピン14、接続部材としてのコネクタピン15、及び第2シール部材16を備えたワーク載置台17と、ワーク押え治具18と、第3シール部材19を備えた閉塞機構20とを有して構成される。
【0018】
前記シリンダブロック100は、図2に示すように、シリンダヘッド104が一体化されたアルミニウム合金鋳物製である。このシリンダブロック100は、シリンダ101、クランクケース102及びシリンダヘッド104を備え、シリンダ101に中空形状のシリンダボア103が形成される。シリンダヘッド104は、内側に燃焼室105が形成されると共に、シリンダボア103の一端部(上端部)を閉塞する。従って、シリンダ101のシリンダボア103とシリンダヘッド104の燃焼室105とが連通する。シリンダボア103を形成するシリンダ101のシリンダ内周面106が、めっき処理装置10によりめっき前処理またはめっき処理される。
【0019】
シリンダヘッド104には、吸排気バルブ口107が形成され、この吸排気バルブ口107に、バルブシート108と呼称される吸排気バルブの弁座が設置される。このバルブシート108は、例えば鉄材にて構成され、シリンダブロック100及びシリンダヘッド104の鋳造時に一体化され(鋳ぐるみ)、またはシリンダブロック100及びシリンダヘッド104の鋳造後に圧入される。このバルブシート108は、バルブシート面109が燃焼室105に臨んで設置される。
【0020】
シリンダブロック100には、一端がシリンダ内周面106に連通し、他端がクランクケース面110に連通し、外部開放部111を備えたオイル通路112が形成されている。エンジン運転時にオイル通路112からシリンダボア103内へ供給されるオイルが、シリンダ内周面106を摺動するピストン(不図示)とシリンダ内周面106とを潤滑する。
【0021】
さて、図1に示すように、筒状電極12は、内部に処理液を導いて流動させる内側処理液流路21が形成されると共に、図示しない電源装置に接続される。この筒状電極12は、ワーク載置台17にシリンダブロック100が載置されたときに、このシリンダブロック100のシリンダボア103内に、シリンダブロック100のクランクケース面110側から挿入されて配置可能に設けられる。この状態で、筒状電極12の外周面23とシリンダブロック100のシリンダ内周面106との間に外側処理液流路22が形成される。内側処理液流路21と外側処理液流路22は、筒状電極12のシリンダヘッド104側端部である上端部24側において連通すると共に、ポンプを介して処理液タンク(共に図示せず)に接続されて、処理液が強制的に循環して導かれる。
【0022】
図3に示すように、筒状電極12は、シリンダブロック100のシリンダボア103内に配置されたとき、上端部24が、シリンダ内周面106のシリンダヘッド104側端部である上端部116と同一位置に、またはこの上端部116よりもシリンダヘッド104側の燃焼室105内に位置づけられる。本実施の形態では、筒状電極12の上端部24は、シリンダヘッド104の燃焼室105内に位置づけられる。
【0023】
この筒状電極12の上部に座ぐり部26が形成され、この座ぐり部26に螺合された取付ボルト27を介して、第1シール部材11が筒状電極12の上部に取り付けられる。この第1シール部材11は、筒状電極12がシリンダブロック100のシリンダボア103内に配置された状態でシリンダヘッド104の燃焼室105内に配設されて、シリンダヘッド104に設置されたバルブシート108のバルブシート面109をシール可能とする。更に、筒状電極12がシリンダブロック100のシリンダボア103内に配置された状態で、前記取付ボルト27の頭部28は、シリンダヘッド104の給排気バルブ口107内に位置づけられる。
【0024】
図4に示すように、ワーク載置台17は、シリンダブロック100のクランクケース面110に接触してこのシリンダブロック100を載置する。この際、ワーク載置台17に植設された位置決めピン14が、シリンダブロック100のクランクケース面110に形成されたノックピン穴115に係合することで、シリンダブロック100がワーク載置台17に位置決めされる。またこのとき、ワーク載置台17に立設された、例えば円筒形状樹脂製の第2シール部材16が、シリンダブロック100のシリンダ内周面106の下端部に当接して、この下端部をシールする。
【0025】
更に、シリンダブロック100がワーク載置台17に載置されたとき、ワーク載置台17に設置されたコネクタピン15が、シリンダブロック100におけるオイル通路112のクランクケース面110側の他端部内に嵌合される。このコネクタピン15は、中空構造であり、外周にOリング等のシール部材が装着されて、オイル通路112の前記他端部に液密に嵌合する。そして、このコネクタピン15は、洗浄水または空気が供給可能なホース機構(不図示)に接続され、オイル通路12内と、外側処理液流路22及び内側処理液流路21内へ洗浄水または空気を供給する。
【0026】
図1に示すように、ワーク押え治具18は、図示しないエアシリンダなどの作用で昇降し、シリンダヘッド104のシリンダヘッド頂面113をワーク載置台17側へ押圧して、シリンダヘッド104一体型のシリンダブロック100をワーク載置台17との間で挟持する。先端部に第3シール部材19を備えた閉塞機構20は、ワーク押え治具18にスライド可能に配設され、ワーク押え治具18とワーク載置台17との間に挟持されたシリンダヘッド104一体型のシリンダブロック100のオイル通路112における外部開放部111を閉塞する。
【0027】
次に、作用を説明する。
【0028】
シリンダヘッド104一体型のシリンダブロック100を、クランクケース面110を鉛直下向きにしてワーク載置台17に載置する。このとき、シリンダブロック100は、ワーク載置台17の位置決めピン14がシリンダブロック100のノックピン穴115に嵌合することで位置決めされ、ワーク載置台17のコネクタピン15が、シリンダブロック100におけるオイル通路112のクランクケース面110側端部に液密に嵌合された状態で、クランクケース面110がワーク載置台17に接触する。更にこのとき、筒状電極12がシリンダブロック100のシリンダボア103内に配置されると共に、第1シール部材11が、シリンダヘッド104に設置されたバルブシート108のバルブシート面109に接触し、第2シール部材16がシリンダ内周面106の下端部に接触する。
【0029】
次に、ワーク押え治具18をエアシリンダの動作で下降させ、このワーク押え治具18によりシリンダヘッド104一体型のシリンダブロック100におけるシリンダヘッド頂面113を押圧する。これにより、シリンダブロック100がワーク押え治具18とワーク載置台17との間に挟持される。このとき、筒状電極12の上端部24に設置された第1シール部材11が、シリンダヘッド104に設置されたバルブシート108のバルブシート面109に圧接して、このバルブシート面109をシールする。と同時に、ワーク載置台17に立設された第2シール部材16が、シリンダ内周面106の下端部に圧接して、この下端部をシールする。
【0030】
その後、閉塞機構20がワーク押え治具18に対してスライドして、閉塞機構20に取り付けられた第3シール部材19が、シリンダブロック100のオイル通路112における外部開放部111を閉塞する。上述の一連の動作によって、シリンダヘッド104一体型のシリンダブロック100がめっき処理装置10にセットされる。
【0031】
このめっき処理装置10にシリンダブロック100をセットした状態で、シリンダブロック100のシリンダ内周面106に対してめっき前処理、洗浄処理を順次実施し、他のめっき処理装置10にシリンダブロック100をセットした状態で、シリンダブロック100のシリンダ内周面106に対してめっき処理、洗浄処理を順次実施する。
【0032】
めっき前処理では、例えば特開2005−206948号公報に記載の陽極電解エッチングが実施される。この陽極電解エッチングでは、処理液としてリン酸、硫酸、スルファミン酸などの電解液が用いられ、この処理液がポンプの作用で、外側処理液流路22から内側処理液流路21へ向かって流動する。この状態で、筒状電極12がマイナス極、シリンダブロック100がプラス極となるように、電源装置(不図示)から筒状電極12及びシリンダブロック100へ給電する。すると、シリンダブロック100のシリンダ内周面106がエッチング(浸食)作用で凹凸加工され、そのアンカー効果によってシリンダ内周面106におけるめっき皮膜との密着性が向上する。
【0033】
めっき処理は、所定の処理液と通電条件を選定することにより、めっき前処理の場合と同様なめっき処理装置10を用いて、シリンダブロック100のシリンダ内周面106にめっき皮膜を形成する。但し、このめっき処理では、処理液経路と電極のプラス、マイナスがめっき前処理の場合と逆である。つまり、処理液を内側処理液流路21から外側処理液流路22へ向かって流動させると共に、筒状電極12がプラス極、シリンダブロック100がマイナス極となるように通電する。
【0034】
めっき前処理(陽極電解エッチング)とめっき処理とで処理液の経路が異なる理由は次の通りである。即ち、めっき前処理では、シリンダブロック100のシリンダ内周面106の反応温度を上げてエッチングを促進させるために、処理液の流動速度を可能な限り遅くする必要があり、このため、処理液をシリンダ内周面106に確実に接触させる方法として、外側処理液流路22から内側処理液流路21へ向けて処理液を流動させるのである。これに対し、めっき処理では、めっき皮膜の成膜速度を促進させるために、シリンダ内周面106に対して処理液の流動速度を可能な限り速くする必要があり、このため、内側処理液流路21から外側処理液流路22向かって処理液を流動させるのである。
【0035】
洗浄処理は、めっき前処理とめっき処理のそれぞれの後において、処理液供給及び電気供給を停止し、シリンダブロック100をめっき処理装置10にセットしたままの状態で実施する。シリンダブロック100にオイル通路112が形成されていない場合には、内側処理液流路21及び外側処理液流路22へ給水ポンプの作用で給水タンク(共に図示せず)から直接洗浄水を供給して、シリンダブロック100のシリンダ内周面106を洗浄するが、シリンダブロック100にオイル通路112が形成されている場合には、このオイル通路112を利用して洗浄水を供給する。
【0036】
つまり、めっき前処理またはめっき処理後に給水ポンプ(不図示)を起動して、給水タンクからホース機構(共に図示せず)を介してコネクタピン15及びオイル通路112へ洗浄水を供給し、この洗浄水をオイル通路112から外側処理液流路22、内側処理液流路21へ順次流して、オイル通路112及びシリンダ内周面106を同時に洗浄する。洗浄後の洗浄水は、外側処理液流路22及び内側処理液流動21を経て処理液タンク(不図示)へ導かれる。このとき供給される洗浄水の水量は、加温による処理液の蒸発分の水量に等しくなるように調整される。このため、処理液タンクの液濃度は一定に保持される。また、洗浄終了後には、バルブ(不図示)が切り換えられてオイル通路112内へ空気が供給され、このオイル通路112内に溜まった洗浄水が吐き出される。
【0037】
尚、めっき前処理時及びめっき処理時においては、ホース機構からコネクタピン15まで洗浄水が満たされているため、処理液がオイル通路112へ侵入してきても、コネクタピン15までに至った洗浄水の水圧の作用で、処理液がコネクタピン15及びホース機構へ侵入することがない。
【0038】
以上のように構成されたことから、本実施の形態によれば、次の効果(1)〜(4)を奏する。
【0039】
(1)シリンダブロック100のシリンダボア103に連通する燃焼室105をシールする第1シール部材12が、筒状電極12の上部に取り付けられて燃焼室105内に配設されたので、シリンダ内周面106のめっき前処理またはめっき処理時に発生する反応ガスを燃焼室105に滞留させることができ、シリンダボア103の上部エリア117内への滞留を防止できる。このため、処理液がシリンダボア103内に隈なく充填されるので、シリンダボア103を形成するシリンダ内周面106に、その全体にわたってめっき皮膜を良好に形成できる。
【0040】
特に、反応ガスが著しく大量に発生する陽極電解エッチングによるめっき前処理の場合にも、この反応ガスを燃焼室105に滞留させることができるので、シリンダ内周面106の上端部116近傍を含めたシリンダ内周面106の全体に良好なめっき皮膜を形成できる。
【0041】
尚、燃焼室105の内面114は、ピストンの非摺動箇所であり、めっきを施す必要がない箇所であるため、この燃焼室105内に反応ガスが滞留して、その内面114にめっき皮膜が形成されなくても問題は生じない。
【0042】
(2)シリンダヘッド104の燃焼室105をシールする第1シール部材11が、シリンダヘッド104に設置されたバルブシート108のバルブシート面109に圧接して、このバルブシート面109を直接シールしている。このため、めっき前処理時及びめっき処理時の処理液がバルブシート面109に接触して、バルブシート108を腐食させたり、シリンダヘッド104(アルミニウム材)とバルブシート108(鉄材)との界面を腐食させることを防止できる。この結果、バルブシート108の脱落や熱伝導性の低下などの不具合の発生を未然に防止できる。
【0043】
(3)筒状電極12の上端部24が、シリンダブロック100におけるシリンダ内周面106の上端部116と同一位置、またはこの上端部116よりもシリンダヘッド104側の燃焼室105内に位置づけられている。このことから、めっき前処理においては、シリンダ内周面106の上端部116近傍を含めたシリンダ内周面106の全体に亘ってめっきの密着性を向上させることができる。また、めっき処理においては、シリンダ内周面106の上端部116近傍を含めたシリンダ内周面106全面に良好なめっき皮膜を形成することができる。
【0044】
(4)洗浄処理時における洗浄水が、ワーク載置台17に設置されたコネクタピン15からシリンダブロック100のオイル通路112を経て外側処理液流路22及び内側処理液流路21へ供給されるので、シリンダ内周面106ばかりか、オイル通路112の洗浄も確実に実施できる。このため、めっき前処理後にオイル通路112内に処理液が残存することによるめっき密着性の低下や、めっき前処理及びめっき処理の後にオイル通路112内に処理液が残存することによるオイル通路112の腐食を未然に防止できる。
【0045】
[B]第2の実施の形態(図5)
図5は、本発明に係るシリンダブロックのめっき処理装置における第2の実施の形態を、装着されたシリンダブロックと共に示す部分側断面図である。この第2の実施の形態において、前記第1の実施の形態と同様な部分については、同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
【0046】
本実施の形態のめっき処理装置30が前記実施の形態のめっき処理装置10と異なる点は、シリンダブロック100に一体化されたシリンダヘッド104の燃焼室105をシールする第1シール部材31が、シリンダヘッド104に設置されたバルブシート108のバルブシート面109を含めた燃焼室105の内面114の形状に倣いながら、この内面114の略全面をシールするよう構成された点である。尚、図5中の符号32は、筒状電極12の上部に設置されて第1シール部材31を保持するシール押えを示す。
【0047】
従って、本実施の形態によれば、前記第1の実施の形態の効果(1)〜(4)と同様な効果を奏するほか、次の効果(5)及び(6)を奏する。
【0048】
(5)第1シール部材31が、シリンダヘッド104における燃焼室105の内面114の略全面をシールすることから、この燃焼室105の内面114がめっき前処理によりエッチングされ、または燃焼室105の内面114にめっき皮膜が形成されることによる燃焼室105の容積変動を抑制できる。
【0049】
(6)第1シール部材31が、シリンダヘッド104における燃焼室105の内面114の略全面をシールすることから、めっき前処理時及びめっき処理時に、燃焼室105の内面114へ電流が流れることを低減できる。この結果、めっき前処理時及びめっき処理時において、シリンダ内周面106の特に上端部116近傍へ流れる電流の低下を抑制できるので、このシリンダ内周面106の上端部116近傍におけるめっき前処理によるエッチング量の減少、及びめっき処理によるめっき皮膜の膜厚の減少を共に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明に係るシリンダブロックのめっき処理装置における第1の実施の形態を、装着されたシリンダブロックと共に示す側断面図。
【図2】図1のシリンダブロックを示す側断面図。
【図3】図1の筒状電極の上端部周囲を拡大して示す拡大断面図。
【図4】図1のワーク載置台周囲を示す側断面図。
【図5】本発明に係るシリンダブロックのめっき処理装置における第2の実施の形態を、装着されたシリンダブロックと共に示す部分側断面図。
【符号の説明】
【0051】
10 めっき処理装置
11 第1シール部材
12 筒状電極
15 コネクタピン(接続部材)
21 内側処理液流路(筒状電極の内部)
22 外側処理液流路(隙間)
24 筒状電極の上端部
30 めっき処理装置
31 第1シール部材
100 シリンダブロック
103 シリンダボア
104 シリンダヘッド
105 燃焼室
106 シリンダ内周面
108 バルブシート
109 バルブシート面
112 オイル通路
114 燃焼室の内面
116 シリンダ内周面の上端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダヘッド一体型のシリンダブロックにおけるシリンダボア内に筒状電極が配置可能に設けられ、前記シリンダボアを形成するシリンダ内周面と前記筒状電極の外周面との隙間、及び前記筒状電極の内部に処理液を導き、前記筒状電極及び前記シリンダブロックに通電することで、前記シリンダ内周面にめっき前処理またはめっき処理を施すシリンダブロックのめっき処理装置において、
前記シリンダヘッドには、前記シリンダボアに連通して燃焼室が形成され、この燃焼室をシールするシール部材が筒状電極に取り付けられて、前記燃焼室内に配設可能に構成されたことを特徴とするシリンダブロックのめっき処理装置。
【請求項2】
前記シリンダヘッドの燃焼室をシールするシール部材が、シリンダヘッドに設けられたバルブシートにおける、前記燃焼室に臨むバルブシート面をシール可能に構成されたことを特徴とする請求項1に記載のシリンダブロックのめっき処理装置。
【請求項3】
前記シリンダヘッドの燃焼室をシールするシール部材が、シリンダヘッドに設けられたバルブシートにおける、前記燃焼室に臨むバルブシート面を含めた前記燃焼室の内面の略全面をシール可能に構成されたことを特徴とする請求項1に記載のシリンダブロックのめっき処理装置。
【請求項4】
前記筒状電極のシリンダヘッド側端部が、シリンダブロックにおけるシリンダ内周面のシリンダヘッド側端部と同一位置、またはこの端部よりもシリンダヘッド側に位置付け可能に構成されたことを特徴とする請求項1に記載のシリンダブロックのめっき処理装置。
【請求項5】
シリンダ内周面に一端が開口するオイル通路を備えたシリンダブロックに対しては、前記オイル通路の他端側に液密に嵌合する中空構造の接続部材を備え、この接続部材及び前記オイル通路を介して前記シリンダ内周面側へ洗浄水が供給可能に構成されたことを特徴とする請求項1に記載のシリンダブロックのめっき処理装置。
【請求項6】
シリンダヘッド一体型のシリンダブロックにおけるシリンダボア内に、前記シリンダブロックのクランクケース側から筒状電極を挿入して配置し、前記シリンダボアを形成するシリンダ内周面と前記筒状電極の外周面との隙間、及び前記筒状電極の内部に処理液を導いて流動させ、前記筒状電極及び前記シリンダブロックに通電することで、前記シリンダ内周面にめっき前処理またはめっき処理を施すシリンダブロックのめっき処理方法において、
前記シリンダボアに連通する前記シリンダヘッドの燃焼室を、この燃焼室内に配設されたシール部材によりシールすることを特徴とするシリンダブロックのめっき処理方法。
【請求項7】
前記燃焼室をシールするシール部材が、シリンダヘッドに設けられたバルブシートにおける、前記燃焼室に臨むバルブシート面をシールすることを特徴とする請求項6に記載のシリンダブロックのめっき処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−7115(P2010−7115A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−165984(P2008−165984)
【出願日】平成20年6月25日(2008.6.25)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】