説明

シンチレータパネル

【課題】反射膜としての金属薄膜の安定性をより向上させたシンチレータパネルを提供すること。
【解決手段】本発明に係るシンチレータパネルは、金属反射膜を備えた支持基板にシンチレータを形成したものであって、支持基板は、放射線透過性の導電性基板と、金属反射膜と導電性基板との間に設けられ、金属反射膜および導電性基板に密着してこれらの接触を防止する無機膜からなる中間膜と、金属反射膜上に設けられ、無機膜を少なくとも有する保護膜と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、医療用のX線撮影等に用いられるシンチレータパネルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、医療、工業用のX線撮影では、X線感光フィルムが用いられてきたが、利便性や撮影結果の保存性の面から放射線検出器を用いた放射線イメージングシステムが普及してきている。このような放射線イメージングシステムにおいては、放射線検出器により2次元の放射線による画素データを電気信号として取得し、この信号を処理装置により処理してモニタ上に表示している。
【0003】
代表的な放射線検出器としては、アルミニウム、ガラス、溶融石英等の基板上にシンチレータを形成してシンチレータパネルを形成し、これと撮像素子とを貼り合わせた構造を有する放射線検出器が存在する。この放射線検出器においては、基板側から入射する放射線をシンチレータで光に変換して撮像素子で検出している(特公平7−21560号公報参照)。
【発明の開示】
【0004】
ところで放射線検出器において鮮明な画像を得るためには、シンチレータパネルの光出力を十分に大きくすることが必用になるが、上述の放射線検出器においては光出力が十分でなかった。そこで、本願発明者らは、特開2000−356679号公報に開示されているように基板上に設けた反射性の金属薄膜をさらに保護膜で覆うことでシンチレータに僅かながら含まれる水分に基づく変質等を防止してこの金属薄膜の反射膜としての機能の減退を防止する技術を開発した。
【0005】
本発明は、この技術をさらに改良したものであり、反射膜としての金属薄膜の安定性をより向上させたシンチレータパネルを提供することを課題としている。
【0006】
上記課題を解決するため、本発明に係るシンチレータパネルは、金属反射膜を備えた支持基板にシンチレータを形成したものであって、支持基板は、放射線透過性の導電性基板と、金属反射膜と導電性基板との間に設けられ、金属反射膜および導電性基板に密着してこれらの接触を防止する無機膜からなる中間膜と、金属反射膜上に設けられ、無機膜を少なくとも有する保護膜と、を備えることを特徴とする。ここで、金属反射膜は、放射線透過性を有し所定波長の光を反射する金属薄膜である。シンチレータは、放射線を金属反射膜で反射し得る波長を含む光に変換する多数の柱状結晶からなるものである。
【0007】
また、本発明に係るシンチレータパネルは、金属反射膜を備えた支持基板にシンチレータを形成したものであって、支持基板は、放射線透過性のアルミニウム基板と、金属反射膜とアルミニウム基板との間に設けられ、金属反射膜およびアルミニウム基板に密着してこれらの接触を防止すると共に、金属反射膜の腐食を抑制する無機膜からなる中間膜と、金属反射膜上に設けられ、無機膜を少なくとも有する保護膜と、を備えるものであってもよい。
【0008】
基板と金属薄膜との組み合わせによっては、金属薄膜の基板への密着性が良好でなく、その後の製作工程や使用時に薄膜の基板からの剥がれが発生する場合がありうる。金属薄膜と基板との間に両者に密着する中間膜を配置することで、金属薄膜の剥がれが防止され、反射膜の安定性が高められる。
【0009】
また、導電性基板と金属薄膜とが接触していると、電気化学的腐食(電食=galvanic corrosion)により金属薄膜が腐食する場合がある。本発明によれば、中間膜が金属薄膜と導電性基板との接触を防止しているので、こうした電食による腐食を抑制して、金属薄膜の安定性を向上させることができる。
【0010】
本発明のシンチレータパネルにおいて、保護膜は無機膜および有機膜により形成してもよい。また、保護膜が有する無機膜は、LiF、MgF、SiO、Al、TiO、MgO及びSiNからなる群の中の物質を含む材料からなる透明膜で形成することができる。
【0011】
上記シンチレータパネルと、シンチレータパネルの基板とは反対の面から出力される放射線を変換した光画像を撮像する撮像素子と、を組み合わせて放射線イメージセンサを構成してもよい。この撮像素子は、シンチレータパネルのシンチレータ側に対向して配置されていることが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の参照番号を附し、重複する説明は省略する。なお、各図の寸法は説明のために誇張している部分があり、必ずしも実際の寸法比とは一致しない。
【0013】
まず、図1及び図2を参照して、本発明の第1の実施形態の説明を行う。図1はシンチレータパネル1の断面図であり、図2はこのシンチレータパネル1を利用した放射線イメージセンサ2の断面図である。
【0014】
図1に示すように、シンチレータパネル1のアモルファスカーボン(a−C)(グラッシーカーボン又はガラス状カーボン)製の基板10の一方の表面には、ポリイミドからなる中間膜11が密着して配置されており、この中間膜11の表面上に光反射膜として機能する金属薄膜12が密着形成されている。この金属薄膜は例えばAl製である。この金属薄膜12の表面は、金属薄膜12を保護するためのポリイミドからなる保護膜14により覆われている。この結果、金属薄膜12は、密着する中間膜11、保護膜14により挟まれて封止されている。この保護膜14の表面には、入射した放射線を可視光に変換する柱状構造のシンチレータ16が形成されている。すなわち、シンチレータ16は多数の柱状結晶が保護膜14状に林立している構成をとる。なお、シンチレータ16には、TlドープのCsIが用いられている。このシンチレータ16は、基板10と共にポリパラキシリレンからなる耐湿保護膜18で覆われている。
【0015】
また、放射線イメージセンサ2は、図2に示すように、シンチレータパネル1のシンチレータ16が形成された側に撮像素子20の受光面を貼り付けた構造を有している。
【0016】
次に、シンチレータパネル1の製造工程について説明する。まず、矩形又は円形のa−C製の基板10(厚さ1mm)の一方の表面にポリイミド樹脂を一定の厚さ(10μm)で塗り、硬化させることで、基板10に密着し、かつ、表面が平坦な中間膜11が形成される。
【0017】
この中間膜11の表面に光反射膜としての金属薄膜12を真空蒸着法により150nmの厚さで形成する。中間膜11を構成するポリイミドはAl製の金属薄膜12との親和性が良好なため、金属薄膜12は中間膜11上に密着する。また、中間膜11自体も基板10に密着しているので、金属薄膜12の基板10からの剥がれを効果的に防止することができる。
【0018】
次に、金属薄膜12上にスピンコート処理を施すことによりポリイミド製の保護膜14を1000nmの厚さで形成して金属薄膜12の全体を覆う。この結果、金属薄膜12は、中間膜11と保護膜14とに挟まれて両者に密着し、封止されるので、その後の製造工程において剥がれや損傷から効果的に保護することができる。
【0019】
次に、保護膜14の表面にTlをドープしたCsIの柱状結晶を多数、蒸着法によって成長(堆積)させて林立させることにより、シンチレータ16を250μmの厚さで形成する。このシンチレータ16を形成するCsIは、吸湿性が高く露出したままにしておくと空気中の水蒸気を吸湿して潮解してしまうため、これを防止するためにCVD法によりポリパラキシリレンからなる耐湿保護膜18を形成する。即ち、シンチレータ16が形成された基板10をCVD装置に入れ、耐湿保護膜18を10μmの厚さで成膜する。この耐湿保護膜18の製造方法についてはWO99/66351号国際公開公報に詳述されている。これによりシンチレータ16及び基板10の表面の実質的に全体、つまり、シンチレータ等が形成されず露出している基板表面の略全体にポリパラキシリレン製の耐湿保護膜18が形成される。
【0020】
また、放射線イメージセンサ2は、完成したシンチレータパネル1のシンチレータ16の先端部側に撮像素子(CCD)20の受光部を対向させて貼り付けることにより製造される(図2参照)。
【0021】
この実施の形態にかかる放射線イメージセンサ2によれば、基板10側から入射した放射線をシンチレータ16で光に変換して撮像素子20により検出する。この放射線イメージセンサ2を構成するシンチレータパネル1には、光反射性の金属薄膜12が設けられていることから撮像素子20の受光部に入射する光を増加させることができ、放射線イメージセンサ2により検出された画像を鮮明なものとすることができる。また、この金属薄膜12は、ポリイミドからなる中間膜11、保護膜14に密着することにより両者に挟まれて全体が封止されていることから、金属薄膜12の腐食等の変質や剥がれ、傷つき等により反射膜としての機能が損なわれるのを防止することができ、反射膜としての安定性が向上する。
【0022】
図3は、本発明に係るシンチレータパネルの第2の実施形態の断面図である。このシンチレータパネル3においては、保護膜14aが金属薄膜12の表面全面を覆うのではなく、金属薄膜12の中央部分のみを覆っている点が第1の実施形態と相違する。この実施形態においてもシンチレータ16は、保護膜14aの表面上にのみ形成されているため、金属薄膜12は保護膜14aによりシンチレータ16との接触が完全に防止されている。
【0023】
本実施形態においても金属薄膜12は、少なくともそのシンチレータ16形成部分が中間膜11、保護膜14aによって挟まれて、封止されているため、その損傷や剥がれ、変質等を効果的に防止することができ、反射膜としての安定性が向上する。
【0024】
図4は、本発明に係るシンチレータパネルの第3の実施形態の断面図である。このシンチレータパネル4においては、中間膜11b、保護膜14bとして耐湿保護膜18と同じポリパラキシリレン膜を用いている点が図1、図3に示される第1、第2の実施形態と相違する。そして、中間膜11bが基板10の全体を覆っており、保護膜14bが金属薄膜12およびその周囲に露出していた中間膜11bを覆っている点を特徴とする。
【0025】
中間膜11b、保護膜14bを前述した耐湿保護膜18の場合と同様に、CVD法で形成することにより、均一でピンホール等のない良好な薄膜が形成される。その結果、金属薄膜12を封止して外気および保護膜14b上に形成されるシンチレータ16との接触を完全に防止することができるので、シンチレータ成分、水分と金属との反応を抑制できる。特に、シンチレータ16形成時には、保護膜14bが基板10および金属薄膜12を完全に覆っているため、シンチレータ成分が他の場所に付着したような場合でもその影響を抑制することができる。また、不導体である中間膜11bが、導電性の基板10と金属薄膜12の間に介在することで、基板19と金属薄膜12との電気的な接触を防止し、金属薄膜12の電食を効果的に抑制することができる。
【0026】
本実施形態のように中間膜11b、保護膜14bが基板10全体を覆う構成とすれば、封止性が向上するほか、CVD法による膜の形成が容易であり、好ましい。
【0027】
ここでは、ポリパラキシリレン膜を用いたが、このほかにポリモノクロロパラキシリレン、ポリジクロロパラキシリレン、ポリテトラクロロパラキシリレン、ポリフルオロパラキシリレン、ポリジメチルパラキシリレン、ポリジエチルパラキシリレン等のキシリレン系の有機膜を用いることが可能である。
【0028】
なお、上述の各実施形態においては、a−C製の基板を用いているが放射線を透過する基板であればよいことから、グラファイト製の基板、Al製の基板、Be製の基板、ガラス製の基板等を用いてもよい。
【0029】
また、保護膜としては、ポリイミド膜、キシリレン系の有機膜を用いたが、これに限らずLiF、MgF、SiO、Al、TiO、MgO、SiNの群中の物質を含む材料からなる透明無機膜を用いてもよい。さらに、無機膜及び有機膜を組み合わせて形成される保護膜を用いてもよい。
【0030】
また、金属薄膜には、AlのほかAg、Cr、Cu、Ni、Ti、Mg、Rh、Pt及びAuからなる群の中の物質を含む材料からなる膜を用いてもよい。さらに、Cr膜上にAu膜を形成する等、金属薄膜を2層以上形成するようにしても良い。
【0031】
また、金属薄膜上にその酸化膜を形成してこれを保護膜として用いることも可能である。
【0032】
さらに、耐湿保護膜18によりシンチレータ16及び基板の表面全体(シンチレータが形成されている面と反対側の面、即ち放射線入射面)を実質的に覆うことによりシンチレータの耐湿性をより完全なものとしているが、耐湿保護膜18によりシンチレータ16の全面及び基板10の表面の少なくとも一部を覆えば、シンチレータのみを覆う場合に比較してシンチレータの耐湿性を高くすることができる。
【0033】
また、シンチレータ16としては、CsI(Tl)に代えてCsI(Na)、NaI(Tl)、LiI(Eu)、KI(Tl)等を用いてもよい。
【0034】
さらにシンチレータを覆う有機膜についても、キシリレン系の透明有機膜を用いることが可能である。
【0035】
また、中間膜11としては、基板10と金属薄膜12の両方に親和性のある材質である必要があり、ポリイミド、キシリレン系の透明有機膜のほかにエポキシ系樹脂やアクリル系樹脂等の有機膜のほか、SiOやSiN等の無機膜を用いることができる。無機膜については、CVDや無機材料を有機溶剤中に分散させて塗布した後焼成することで形成すればよい。炭素を主成分とする基板、例えば、アモルファスカーボンやグラファイト系の基板の場合は基板への金属薄膜の密着性が悪いが、中間膜が介在することによりその密着性が向上する。基板がアルミやアモルファスカーボンのような導電性である場合には、不導体の中間膜を用いることが電気的な遮蔽により電食を防止することができるので好ましい。
【0036】
また、本発明に係る放射線イメージセンサは、以上説明したシンチレータパネルと撮像素子を組み合わせたものであり、上述したように撮像素子をシンチレータパネルのシンチレータ側に対向させて接合してもよいし、間隔をおいて配置してもよい。あるいは、シンチレータパネルから出力される光画像を光学系によって適切な位置に配置した撮像素子へと導いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、医療用、工業用の大画面、高感度のX線撮影システムに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】シンチレータパネルの第1の実施形態の断面図である。
【図2】第1の実施形態に係るシンチレータパネルを用いた放射線イメージセンサの第1の実施形態の断面図である。
【図3】シンチレータパネルの第2の実施形態の断面図である。
【図4】本発明に係るシンチレータパネルの第3の実施形態の断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属反射膜を備えた支持基板にシンチレータを形成したシンチレータパネルにおいて、
前記支持基板は、
放射線透過性の導電性基板と、
前記金属反射膜と前記導電性基板との間に設けられ、前記金属反射膜および前記導電性基板に密着してこれらの接触を防止する無機膜からなる中間膜と、
前記金属反射膜上に設けられ、無機膜を少なくとも有する保護膜と、
を備えることを特徴とするシンチレータパネル。
【請求項2】
前記保護膜は、無機膜および有機膜により形成されていることを特徴とする請求項1に記載のシンチレータパネル。
【請求項3】
前記導電性基板は、アルミニウム基板であることを特徴とする請求項1又は2に記載のシンチレータパネル。
【請求項4】
前記保護膜が有する前記無機膜は、LiF、MgF、SiO、Al、TiO、MgO及びSiNからなる群の中の物質を含む材料からなる透明膜であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のシンチレータパネル。
【請求項5】
金属反射膜を備えた支持基板にシンチレータを形成したシンチレータパネルにおいて、
前記支持基板は、
放射線透過性のアルミニウム基板と、
前記金属反射膜と前記アルミニウム基板との間に設けられ、前記金属反射膜および前記アルミニウム基板に密着してこれらの接触を防止すると共に、前記金属反射膜の腐食を抑制する無機膜からなる中間膜と、
前記金属反射膜上に設けられ、無機膜を少なくとも有する保護膜と、
を備えることを特徴とするシンチレータパネル。
【請求項6】
前記保護膜は、無機膜および有機膜により形成されていることを特徴とする請求項5に記載のシンチレータパネル。
【請求項7】
前記保護膜が有する前記無機膜は、LiF、MgF、SiO、Al、TiO、MgO及びSiNからなる群の中の物質を含む材料からなる透明膜であることを特徴とする請求項5又は6に記載のシンチレータパネル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−64763(P2008−64763A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−238206(P2007−238206)
【出願日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【分割の表示】特願2007−121068(P2007−121068)の分割
【原出願日】平成14年1月30日(2002.1.30)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】