説明

シート押出成形機の洗浄方法

【課題】 押出機の運転を停止することなく、樹脂シートの押出成形機用の洗浄と樹脂シートの成形を連続的に行うことができるシート押出成形機の洗浄方法の提供。
【解決手段】 熱可塑性樹脂をTダイからシート又はフイルム状に加工する樹脂押出成形に用いる押出成形機内を洗浄する方法であり、熱可塑性樹脂と界面活性剤を含有する樹脂シート押出成形機用パージ剤を用い、Tダイから出てきた前記パージ剤をロールに巻き取ることにより、押出機の洗浄と、押出機による樹脂シート押出成形を連続的に行うシート押出成形機の洗浄方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート押出成形機の洗浄方法、及び各種樹脂シートの押出成形に使用する加工成形機を洗浄するために用いるパージ剤に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂は、射出成形品、押出成形品、シート、フィルム等に幅広く利用されている。これらのプラスチック成形品は多品種少量生産の傾向にあり、品種の切替頻度が多くなっているため、品種切替時の成形機内の洗浄が品質管理上重要となってきている。熱可塑性樹脂の成形加工において、品種切替えの際における成形機の洗浄法としては、下記の方法が知られている。
【0003】
まず、後続に使用する樹脂で洗浄する、即ち、スクリューを抜かずに置換用樹脂を用いて先行品種を置換する方法である。しかし、この方法では洗浄に多量の樹脂を流す必要があり、ロス分が多くなるという問題がある。
【0004】
次に、加工成形機を分解掃除する方法があるが、この方法はあまりに時間がかかり過ぎるという問題がある。例えば押出成形における色替えの場合を例にとると、押出機を停止し、スクリューを抜いた後、スクリュー及びシリンダー内部をブラッシング等の方法で洗浄した後、再びスクリューを組込む等の煩雑な作業が必要となる。
【0005】
これらの方法に替えて、置換用樹脂量が少なくて済み、洗浄操作も簡便であることから様々な洗浄剤で洗浄する方法が試みられている。しかし、この洗浄剤による洗浄法の場合も、洗浄後に前剤が残留して焼けや成形不良の原因になったり、また完全に前剤を排出できても洗浄剤が残留し、次の樹脂への置換に多量の樹脂と長い時間を必要とするという問題がある。
【0006】
また洗浄剤には、熱可塑性樹脂に界面活性剤を添加し洗浄性を高めているものがあるが、界面活性剤を添加すると成形機や押出機のスクリューとの摩擦が小さくなるため、前方に洗浄剤を送り出すことが困難になり、洗浄に時間がかかったり場合によっては洗浄できないという問題がある。
【特許文献1】特開平9−208992号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
樹脂の加工成形機用の洗浄剤には、実用上、次の要件(i)及び(ii)、必要に応じて更に要件(iii)を満たすことが望まれている。
【0008】
(i)品種替え時における洗浄性:加工成形機内に残留する樹脂を押し出すためのもの;
(ii)洗浄剤の自己排出性:洗浄剤自体が加工成形機内に残留することを防止するためのもの;
(iii)異物除去性:焦げ(加工成形時に加えられた熱により、シリンダー内壁やスクリューに樹脂が変質してこびり付いたもの)等の異物を加工成形機から押し出すためのもの。
【0009】
要件(i)を満たすようにするためには、樹脂により洗浄剤の粘性を高めればよく、要件(ii)を満たすようにするためには、界面活性剤を配合して流動性を高めればよいが、樹脂と界面活性剤を配合しただけでは、要件(i)及び(ii)の両方を十分に満足させることはできず、改善の余地がある。
【0010】
また、樹脂シートを製造する際には、押出機内で樹脂原料を溶融混練した後、押出機出口に装着したT−ダイから連続的にシート状に押出成形した後、冷却しながらロールに巻き取る工程が設けられる。
【0011】
しかし、従来の洗浄剤樹脂は、押出機の洗浄はできるものの、シート状に成形することができないか、シート状に成形できても多くの穴が開いた状態になるため、容易に破断して、ロールに巻き取ることができなかった。このため、樹脂シート成形用の押出機を洗浄する場合、洗浄から樹脂シートの成形を連続的に行うことができず、洗浄終了後に一旦押出機の運転を停止し、押出機出口にT−ダイを取り付けた後、運転を再開する必要があり、作業性の低下が問題であった。
【0012】
本発明は、上記した2つ又は3つの要件を満たし、加工成形機に適用したときの洗浄力が高く、後剤への置換も容易であり、押出機の運転を停止することなく、樹脂シートの押出成形機用の洗浄と樹脂シートの成形を連続的に行うことができる、樹脂シート押出成形機用パージ剤、及びシート押出成形機の洗浄方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、課題の解決手段として、
熱可塑性樹脂をTダイからシート又はフイルム状に加工する樹脂押出成形に用いる押出成形機内を洗浄する方法であり、
熱可塑性樹脂と界面活性剤を含有する樹脂シート押出成形機用パージ剤を用い、Tダイから出てきた前記パージ剤をロールに巻き取ることにより、押出機の洗浄と、押出機による樹脂シート押出成形を連続的に行うシート押出成形機の洗浄方法を提供する。
【0014】
本発明は、他の課題の解決手段として、
(A)オレフィン系樹脂、ゴム変性スチレン系樹脂、熱可塑性エラストマーから選ばれる1種又は2種以上から選ばれるベース樹脂
(B)アルカンスルホン酸又はその塩を含む陰イオン界面活性剤、並びに
(C)アルキレングリコール脂肪酸エステルを含む非イオン界面活性剤
を含有する樹脂シート押出成形機用パージ剤を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の洗浄方法及びパージ剤によれば、洗浄性が良く、押出機の運転を停止することなく、樹脂シートの押出成形機用の洗浄と樹脂シートの成形を連続的に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
〔シート押出成形機の洗浄方法〕
本発明のシート押出成形機の洗浄方法は、熱可塑性樹脂をTダイからシート又はフイルム状に加工する樹脂押出成形に用いる押出成形機内を洗浄する方法である。
【0017】
従来のパージ剤を用いた押出成形機の洗浄では、パージ材自体として融点の高い硬いもの、即ち樹脂シートの押し出し条件では溶融しないもの(シート状に成形できないもの)を用い、溶融せずに硬い状態のパージ材(例えば、円柱状)により、スクリューに付着した残さ成分をこそぎとることで洗浄していたものである。
【0018】
よって、従来は、パージ剤自体をシート状に成形するとの技術的思想が全くなかったもので、本発明のシート押出成形機の洗浄方法では、全く新規な技術的思想を基礎とするものであり、熱可塑性樹脂と界面活性剤を含有する樹脂シート押出成形機用パージ剤を用い、Tダイから出てきた前記パージ剤をロールに巻き取ることにより、押出機の洗浄と、押出機による樹脂シート押出成形を連続的に行うものである。
【0019】
このようにパージ剤自体をシート状に成形し、ロールに巻き取る方法としては、
(I)パージ剤からなるシート厚みを調整することで、シート強度を調整する方法、
(II)パージ剤の組成を調整することで、シート強度を調整する方法、及び
(III)上記(I)の方法と(II)の方法を組み合わせる方法
のいずれかを適用する。
【0020】
(I)の方法を適用する場合には、パージ剤からなるシートシートの厚みを、0.01〜5mm、好ましくは0.05〜3mm、より好ましくは0.1〜1mmに調整する。パージ剤からなるシートが脆くて破れ易い場合は、パージ剤からなるシートの厚みを厚くしたり、剛性が高く巻き取りにくい場合は、薄くしたりすればよい。なお、パージ剤からなるシートと製品シートの厚みは、同一でもよいし、異なっていてもよい。
【0021】
(II)の方法を適用する場合には、熱可塑性樹脂と界面活性剤を含有する樹脂シート押出成形機用パージ剤を用いることができ、好ましくは下記の樹脂シート押出成形機用パージ剤を用いる。
【0022】
〔樹脂シート押出成形機用パージ剤〕
<(A)成分>
(A)成分は、(A-1)オレフィン系樹脂、(A-2)ゴム変性スチレン系樹脂、(A-3)熱可塑性エラストマーから選ばれる1種又は2種以上から選ばれるベース樹脂であり、これらの樹脂成分と共に、更に(A-4)熱可塑性樹脂(ゴム変性スチレン系樹脂は除く)を組み合わせることができる。
【0023】
(A-1)成分のオレフィン系樹脂としては、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレンランダム共重合体、エチレン−プロピレンブロック共重合体、ポリメチルペンテン、ポリブテン−1、これらの変性物等から選ばれる1種以上を挙げることができる。
【0024】
(A-2)成分のゴム変性スチレン系樹脂としては、ブタジエンゴム等のジエン系ゴム、エチレン/プロピレン系ゴム、アクリル系ゴム等に上記のスチレン系モノマー及びビニル系モノマーをグラフト重合させたものを挙げることができ、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、ABS樹脂、MBS樹脂等を挙げることができる。
【0025】
(A-3)熱可塑性エラストマーとしては、スチレン−ブタジエン−スチレン(SBS)樹脂、スチレン−エチレン−ブタジエン−スチレン(SEBS)樹脂等を挙げることができる。
【0026】
(A-4)成分のゴム変性スチレン系樹脂を除く熱可塑性樹脂としては、スチレン系樹脂(ゴム変性スチレン系樹脂は含まれない)、ポリメタクリレート、ポリアミド系繊維、ポリエステル系樹脂等を挙げることができるが、これらの中でもスチレン系樹脂が好ましい。
【0027】
スチレン系樹脂としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等のスチレン系モノマーの単独又は共重合体のほか、これらのスチレン系モノマーと共重合可能なモノマー、例えばアクリロニトリル、メチルメタクリレート等のビニル系モノマーとの共重合体を挙げることができ、ポリスチレン、AS樹脂、AAS樹脂、AES樹脂、MS樹脂等が好ましい。
【0028】
スチレン系樹脂は、重量平均分子量が100,000〜450,000の範囲のものが好ましく、100,000〜300,000の範囲のものがより好ましく、150,000〜250,000の範囲のものがより好ましい。
【0029】
(A)成分は、(A-1)成分、(A-2)成分及び(A-3)成分をそれぞれ単独で用いることができるほか、(A-1)成分と(A-2)成分の組み合わせ、(A-1)成分と(A-3)成分の組み合わせ、(A-2)成分と(A-3)成分の組み合わせ、(A-1)成分、(A-2)成分及び(A-3)成分Bの組み合わせにすることができ、更に(A-4)成分を組み合わせることができる。
【0030】
(A-2)成分と(A-3)成分を併用する場合の(A-2)/(A-3)(質量比)は、1/10〜10/1が好ましく、より好ましくは1/5〜5/1、更に好ましくは1/3〜5/1である。
【0031】
パージ剤中の(A)成分の含有割合は、5〜95質量%が好ましく、より好ましくは10〜90質量%、更に好ましくは15〜85質量%である。
【0032】
<(B)成分>
(B)成分は、アルカンスルホン酸又はその塩を含む陰イオン界面活性剤であり、アルカンスルホン酸又はその塩としては、下記一般式(1)で表されるアルカンスルホン酸又はその塩が好ましい。
【0033】
一般式(1)中のnは平均値であるから、一般式(1)で表されるものは炭素数の異なるものの混合物となる。(B)成分は、自己排出性の発現に寄与すると共に、(C)成分との間でなんらかの相互作用があり、パージ剤(洗浄使用時における溶融状態のパージ剤)が加工機内でシリンダー内壁を押圧する力が大きくなり洗浄効果が大きくなると推定している。
【0034】
【化1】

【0035】
〔式中、mは平均で5〜30の数、nは0〜30、n≦m、Mは、好ましくはH、Na、K、Mg、Caを示す。〕
アルカンスルホン酸又はその塩以外の陰イオン界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル又はアルケニルエーテル硫酸塩、アルキル又はアルケニル硫酸塩、炭素数8〜20のα−オレフィンスルホン酸塩、アルキル又はアルケニルエーテルカルボン酸塩、α−スルフォ脂肪酸塩、α−スルフォ脂肪酸エステル、炭素数が12〜20の飽和又は不飽和脂肪酸のアルカリ金属塩等から選ばれる1又は2以上を挙げることができる。
【0036】
(B)成分中のアルカンスルホン酸又はその塩の含有量は50質量%以上、好ましくは90〜100質量%、より好ましくは99〜100質量%である。
【0037】
(B)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対して0.5〜20質量部、好ましくは1〜10質量部、より好ましくは2〜5質量部である。含有量が0.5質量部以上であると十分な洗浄効果を付与でき、特に自己排出性が向上され、20質量部以下であると自己排出性が良好であると共に、押出機内や成形機内に残留して汚染することが抑制される。
【0038】
<(C)成分>
(C)成分は、アルキレングリコール脂肪酸エステルを含む非イオン界面活性剤であり、アルキレングリコール脂肪酸エステルは、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール等のアルキレングリコールと炭素数12〜22の脂肪酸のエステル化合物を用いることができる。(C)成分は、(B)成分との間でなんらかの相互作用があり、パージ剤(洗浄使用時における溶融状態のパージ剤)が加工機内でシリンダー内壁を押圧する力が大きくなり洗浄効果が大きくなると推定している。
【0039】
アルキレングリコール脂肪酸エステルとしては、エチレングリコールモノラウレート、エチレングリコールジラウレート、プロピレングリコールモノラウレート、プロピレングリコールジラウレート、テトラメチレングリコールモノラウレート、テトラメチレングリコールジラウレート、ヘキサメチレングリコールモノラウレート、ヘキサメチレングリコールジラウレート、エチレングリコールモノミリステート、エチレングリコールジミリステート、プロピレングリコールモノミリステート、プロピレングリコールジミリステート、テトラメチレングリコールモノミリステート、テトラメチレングリコールジミリステート、ヘキサメチレングリコールモノミリステート、ヘキサメチレングリコールジミリステート、エチレングリコールモノパルミテート、エチレングリコールジパルミテート、プロピレングリコールモノパルミテート、プロピレングリコールジパルミテート、テトラメチレングリコールモノパルミテート、テトラメチレングリコールジパルミテート、ヘキサメチレングリコールモノパルミテート、ヘキサメチレングリコールジパルミテート、エチレングリコールモノステアレート、エチレングリコールジステアレート、プロピレングリコールモノステアレート、プロピレングリコールジステアレート、テトラメチレングリコールモノステアレート、テトラメチレングリコールジステアレート、ヘキサメチレングリコールモノステアレート、ヘキサメチレングリコールジステアレート、エチレングリコールモノオレート、エチレングリコールジオレート、プロピレングリコールモノオレート、プロピレングリコールジオレート、テトラメチレングリコールモノオレート、テトラメチレングリコールジオレート、ヘキサメチレングリコールモノオレート、ヘキサメチレングリコールジオレート、エチレングリコールモノベヘネート、エチレングリコールジベヘネート、プロピレングリコールモノベヘネート、プロピレングリコールジベヘネート、テトラメチレングリコールモノベヘネート、テトラメチレングリコールジベヘネート、ヘキサメチレングリコールモノベヘネート、ヘキサメチレングリコールジベヘネート等から選ばれる1又は2以上を挙げることができる。
【0040】
(C)成分のアルキレングリコール脂肪酸エステルとしては、プロピレングリコールモノベヘネートが好ましく、更に下記式(2)及び(3)で示されるプロピレングリコールモノベヘネートの混合物がより好ましい。
【0041】
【化2】

【0042】
式(2)と式(3)のプロピレングリコールモノベヘネートの質量比〔(2)/(3)〕は、好ましくは4/1〜1/1であり、より好ましくは3/1〜1/1である。
【0043】
(C)成分中のアルキレングリコール脂肪酸エステルの含有量は50質量%以上、好ましくは90〜100質量%、より好ましくは99〜100質量%である。本発明の課題を解決できる範囲で他の非イオン界面活性剤を含有していてもよい。
【0044】
(C)成分の含有量は、(A)100質量部に対して0.1〜10質量部、好ましくは1〜5質量部、より好ましくは1〜3質量部である。含有量が0.1質量部以上であると十分な洗浄効果を付与でき、特に品種替え時の洗浄性が向上され、20質量部以下であると品種替え時の洗浄性が良好であると共に、押出機内や成形機内に残留して汚染することが抑制される。
【0045】
<(D)成分>
(D)成分の有機燐化合物は、必要に応じて配合されるもので、燐原子に結合するエステル性酸素原子を1つ以上有するものが好ましい。(D)成分は、焦げに対して高い溶解力を有しているため、特に異物除去性の発現に寄与する成分である。
【0046】
(D)成分は、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリ(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリオレイルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリス(イソプロピルフェニル)ホスフェート、トリス(o−フェニルフェニル)ホスフェート、トリス(p−フェニルフェニル)ホスフェート、トリナフチルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート、ジフェニル(2−エチルヘキシル)ホスフェート、ジ(イソプロピルフェニル)ホスフェート、o−フェニルフェニルジクレジルホスフェート、ジブチルホスフェート、モノブチルホスフェート、ジ(2−エチルヘキシル)ホスフェート、モノイソデシルホスフェート、2−アクリロイルオキシエチルアッシドホスフェート、2−メタクリロイルオキシエチルアッシドホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイルオキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイルオキシメチルホスフェート等から選ばれる1又は2以上を挙げることができ、これらの中でもトリフェニルホスフェートが好ましい。
【0047】
また(D)成分は、トリフェニルホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、トリストリデシルホスファイト、ジブチルハイドロジエンホスファイト等の亜燐酸エステル及びこれらの縮合物、トリフェニルホスフィンオキシド、トリクレジルホスフィンオキシド、メタンホスホン酸ジフェニル、フェニルホスホン酸ジエチル等から選ばれる1又は2以上を用いることもできる。
【0048】
(D)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対して0.1〜20質量部、好ましくは1〜10質量部、より好ましくは2〜5質量部である。含有量が0.1質量部以上であると十分な洗浄効果が付与でき、特に異物除去性が向上され、20質量部以下であると異物除去性が良好であると共に、押出機内や成形機内に残留して汚染することが抑制される。
【0049】
本発明のパージ剤では、本発明の課題を解決する上で、(B)成分と(C)成分の含有量を関連づけることが好ましい。(B)成分と(C)成分の合計量中の含有割合は、(B)成分は55〜99質量%が好ましく、60〜90質量%がより好ましく、70〜80質量%が更に好ましく、(C)成分は1〜45質量%が好ましく、10〜40質量%がより好ましく、20〜30質量%が更に好ましい。
【0050】
また、(A)成分100質量部に対する(B)及び(C)成分の合計含有量は、0.5〜20質量部が好ましく、1〜10質量部がより好ましく、2〜7質量部が更に好ましい。
【0051】
本発明のパージ剤では、本発明の課題を解決する上で、(B)、(C)、(D)成分の含有量を関連づけることが好ましい。(B)、(C)、(D)成分の合計量中の含有割合は、次のとおりである。
【0052】
(B)成分は20〜90質量%が好ましく、20〜70質量%がより好ましく、30〜60質量%が更に好ましい。
【0053】
(C)成分は5〜30質量%が好ましく、5〜20質量%がより好ましく、10〜20質量%が更に好ましい。
【0054】
(D)成分は5〜75質量%が好ましく、25〜70質量%がより好ましく、30〜60質量%が更に好ましい。
【0055】
また、(A)成分100質量部に対する(B)、(C)、(D)成分の合計含有量は、1〜20質量部が好ましく、1〜10質量部がより好ましく、5〜10質量部が更に好ましい。
【0056】
<その他の成分>
本発明のパージ剤には、本発明の課題を解決できる範囲内で他の成分を含有させることができ、特に(E)、(F)成分が好ましい。
【0057】
(E)成分である多価アルコールは、複数個のヒドロキシル基が結合している非環式及び環式化合物である。(F)成分としては、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、ペンチトール類(アドニトール、アラビトール等)、ヘキシトール類(ズルシトール、イノシトール等)、サッカリド類(アミロース、キシラン等)及びこれらの誘導体(N−メチルグルカミン等)等から選ばれる1又は2以上を挙げることができる。
【0058】
(E)成分の含有量は、(A)成分の合計100質量部に対して0.5〜20質量部、好ましくは5〜10質量部である。含有量が0.5質量部以上であると十分な洗浄効果を付与でき、20質量部以下であると押出機内や成形機内に残留して汚染することが抑制される。
【0059】
(F)成分である金属石鹸は、炭素数6〜22の脂肪酸と金属(Mg,Li,Zn,Ca,Al,Sn等)の塩である。
【0060】
(F)成分としては、カプロン酸マグネシウム、カプロン酸リチウム、カプロン酸亜鉛、カプロン酸カルシウム、カプロン酸アルミニウム、カプロン酸錫、カプリル酸マグネシウム、カプリル酸リチウム、カプリル酸亜鉛、カプリル酸カルシウム、カプリル酸アルミニウム、カプリル酸錫、カプリン酸マグネシウム、カプリン酸リチウム、カプリン酸亜鉛、カプリン酸カルシウム、カプリン酸アルミニウム、カプリン酸錫、ラウリン酸マグネシウム、ラウリン酸リチウム、ラウリン酸亜鉛、ラウリン酸カルシウム、ラウリン酸アルミニウム、ラウリン酸錫、ミリスチン酸マグネシウム、ミリスチン酸リチウム、ミリスチン酸亜鉛、ミリスチン酸カルシウム、ミリスチン酸アルミニウム、ミリスチン酸錫、パルミチン酸マグネシウム、パルミチン酸リチウム、パルミチン酸亜鉛、パルミチン酸カルシウム、パルミチン酸アルミニウム、パルミチン酸錫、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸錫、オレイン酸マグネシウム、オレイン酸リチウム、オレイン酸亜鉛、オレイン酸カルシウム、オレイン酸アルミニウム、オレイン酸錫、ベヘニン酸マグネシウム、ベヘニン酸リチウム、ベヘニン酸亜鉛、ベヘニン酸カルシウム、ベヘニン酸アルミニウム、ベヘニン酸錫等から選ばれる1又は2以上を挙げることができる。
【0061】
(F)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対して0.05〜5質量部、好ましくは0.5〜5質量部である。含有量が0.05質量部以上であると十分な洗浄効果を付与でき、5質量部以下であると200℃以上の高温雰囲気においても低融点の金属塩(リチウム、錫)が融け出し、押出機内や成形機内に残留して汚染することが抑制される。
【0062】
本発明のパージ剤及びそれを用いた洗浄方法は、以下の作用機構により、要件(i)及び(ii)が満たされ、シート状に押し出すことができるものと考えられる。
【0063】
(A)成分は、パージ剤の粘性を高めることで、主として要件(i)の品種替え時における洗浄性を発現させる成分であり、(B)成分は、界面活性剤として作用し、(i)の品種替え時における洗浄性及び(ii)のパージ剤の自己排出性を発現させる成分である。しかし、(B)成分を加えることで、パージ剤がシリンダー内壁を押す力が低下し、洗浄能力が低下するため、(A)及び(B)成分のみでは、要件(i)及び(ii)を満たすことはできない。
【0064】
そこで本発明のとおり、(A)成分、(B)成分の組み合わせに、更に(C)成分を含有させた場合、使用時において(パージ剤は溶融状態である)、(B)成分のアルカンスルホン酸又はその塩と、(C)成分のアルキレングリコール脂肪酸エステルとの組み合わせにより生じる作用により、パージ剤がシリンダー内壁を押す力が向上する。
【0065】
このような変化が生じる結果、パージ剤は洗浄剤の持つべき要素として重要な界面活性力と力学的性質(ここではパージ剤がシリンダー内壁を押す力)を両立することができ、要件(i)及び(ii)が満たされる。
【0066】
更に(A)成分として、(A-2)及び(A-3)成分を用いることにより、シートに成形体したときの強度を高めることができるため、パージ剤自体をシート状に連続的に押し出すことができ、破断されることがない。なお、(A-1)成分のオレフィン系樹脂を用いた場合には、(A-2)〜(A-4)成分を併用しない場合でも、破断しない状態でパージ剤自体をシート状に連続的に押し出すことができる。更に、(A)〜(C)成分と共に(D)成分を含有させることにより、要件(i)及び(ii)と共に、要件(iii)も満たされる。
【実施例】
【0067】
(A)成分
(A-1)HDPE:オレフィン系樹脂,三井化学(株)製のハイゼックス5000SR
(A-2)HIPS:東洋スチレン(株)製のE640
(A-3)SBS−1:旭化成ケミカルズ(株)製のアサフレックス830(St/Bd=70/30)
(A-3)SBS−2:旭化成ケミカルズ(株)製のタフプレン126(St/Bd=40/60)
(A-3)SEBS:旭化成ケミカルズ(株)製のタフテック1043(St/EB=67/33)
(A-4)GPPS:スチレン系樹脂,東洋スチレン(株)のHRM−48
(B)成分
アルカンスルホン酸ナトリウム:商品名 Hostapur SAS93、クラリアント社製
(C)成分
アルキレングリコール脂肪酸エステル:プロピレングリコールモノベヘネート,商品名リケマール PB-100,理研ビタミン(株)製
(D)成分
有機燐化合物:アデカスタブFP500,旭電化(株)製
比較例2のパージ剤:旭化成ケミカルズ(株)のアサクリンUE
実施例1〜6、比較例1〜2
表1に示す組成の各成分を用い、二軸押出機〔池貝(株)製,PCM30/2-28,5-2V〕により溶融混練した後、ストランド状に押し出したものを切断して、ペレット状のパージ剤を得た。
【0068】
次に、各パージ剤をシート押出機〔(株)プラ技研製,直径50mm,L/D=32の一軸押出機)に仕込み、シリンダー温度210℃で、シートの押出成形を行った。押し出したシートは、ロール温度60℃で冷却後に巻き取り、シート厚みが0.20mmになるように成形した。
【0069】
【表1】

【0070】
実施例1〜5のパージ剤では、ダイスから出てきたシートには、直径が数mm程度の小さな気泡が含まれていたが、シート自体は破断することなく、ロールで巻き取ることができた。
【0071】
実施例6のパージ剤では、ダイスから出てきたシートには穴が開いていたが、シート自体は破断することなく、ロールで巻き取ることができた。
【0072】
比較例1のパージ剤は(A-1)〜(A-3)成分を含んでいないため、ダイスから出てきたシートが脆く、容易に破断したため、ロールで巻き取ることができなかった。
【0073】
市販品である比較例2のパージ剤では、ダイスから出てきたシートには大きな穴が開いており、容易に破断したため、ロールで巻き取ることができなかった。このように従来は、市販品にはシート状に押し出すことができるものはなかった。なお、実施例1〜6のパージ剤の洗浄性は、市販品と同等か、それ以上であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂をTダイからシート又はフイルム状に加工する樹脂押出成形に用いる押出成形機内を洗浄する方法であり、
熱可塑性樹脂と界面活性剤を含有する樹脂シート押出成形機用パージ剤を用い、Tダイから出てきた前記パージ剤をロールに巻き取ることにより、押出機の洗浄と、押出機による樹脂シート押出成形を連続的に行うシート押出成形機の洗浄方法。
【請求項2】
(A)オレフィン系樹脂、ゴム変性スチレン系樹脂、熱可塑性エラストマーから選ばれる1種又は2種以上から選ばれるベース樹脂、
(B)アルカンスルホン酸又はその塩を含む陰イオン界面活性剤、並びに
(C)アルキレングリコール脂肪酸エステルを含む非イオン界面活性剤
を含有する樹脂シート押出成形機用パージ剤。
【請求項3】
(A)成分として、更に熱可塑性樹脂(ゴム変性スチレン系樹脂は除く)を含む請求項2記載の樹脂シート押出成形機用パージ剤。
【請求項4】
更に(D)有機燐化合物を含有する、請求項2又は3記載の樹脂シート押出成形機用パージ剤。
【請求項5】
(B)成分の含有量が、(A)成分100質量部に対して0.5〜20質量部である、請求項2〜4のいずれかに記載の樹脂シート押出成形機用パージ剤。
【請求項6】
(C)成分の含有量が、(A)成分100質量部に対して0.1〜20質量部である、請求項2〜5のいずれかに記載の樹脂シート押出成形機用パージ剤。
【請求項7】
(D)成分の含有量が、(A)成分100質量部に対して0.1〜5質量部である、請求項2〜6のいずれかに記載の樹脂シート押出成形機用パージ剤。





【公開番号】特開2006−123364(P2006−123364A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−315118(P2004−315118)
【出願日】平成16年10月29日(2004.10.29)
【出願人】(501041528)ダイセルポリマー株式会社 (144)
【Fターム(参考)】