説明

シート状物の枚数検査装置

【課題】海苔のように表面が粗く湿気を含むようなシート状物の枚数を精度よく測定するに適したシート状物の枚数検査装置の提供。
【解決手段】マイクロ波発振器2からの電磁波を方向性結合器3で照射波と参照波に分配し、中間周波数発振器8からの局部波をパワーデバイダ9で第1局部波、第2局部波に分配し、アップコンバータ4で照射波と第1局部波とを合波し変調照射波を生成し、これをシート状物Sの一側面に入射する。シート状物Sを通過した透過波をミクサ10で参照波を合波し2次合成波を生成する。2次合成波と第2局部波をミクサ14,15で合波し、差周波数の3次合成波を生成する。位相遅延検出手段(16,17)は3次合成波の電圧値/電流値をAD変換し位相遅延量を検出する。重畳枚数判定手段17が、位相遅延量に基づきシート状物の重畳枚数を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数枚が重ねられた状態にあるシート状の物体(以下「シート状物」という。)の枚数を検査する枚数検査装置に関し、特に、海苔のように表面が粗く水分も含むようなシート状物の枚数検査に適した枚数検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
積層された海苔の枚数検査装置としては、特許文献1に記載のものが公知である。特許文献1記載の検査装置では、包装された海苔束をコンベヤ上に載置し、当該コンベヤの下方に配設されたLEDの下部照明から当該海苔束の包装体に対して赤外光を照射する。この下部照明から包装体を透過した赤外光をコンベヤの上方に配置したCCDカメラによって検出し、検査画像を作成する。当該検査画像に基づいて、海苔束の包装体を透過した光の透過輝度を算出する。そして、算出された透過輝度と予め設定した基準値とを比較し、海苔束の積層枚数の適否を検査する。
【0003】
また、積層されたシート状物の枚数を計数する技術としては、特許文献2に記載のものが公知である。図15は、特許文献2に記載の積層状物体計数装置の構成図である。この積層状物体計数装置では、電磁波として、紙の厚さ(数十mm〜数百μm)程度の波長を持つテラヘルツ波を使用するのが好ましいとされている。発振器101から放射された電磁波は、分配器102により入射波(I)と参照波(S)とに分波される。入射波(I)は、少なくとも2層以上積層された状態にある積層状物体103の上下面の一方に入射される。参照波(S)は、積層状物体103には入射されず、第2受信器104に直接伝搬される。
【0004】
入射波(I)の一部は、積層状物体103の各層と各層間に存在する中間層との界面で反射され、図16(a)のような反射波(R)となる。反射波(R)は第1受信器105で受信される。第1受信器105で受信された反射波(R)による受信電圧信号は、処理装置106に入力される。
【0005】
一方、入射波(I)の一部は、積層状物体103を透過し、図16(b)のような透過波(T)となり、第2受信器104で受信される。第2受信器104では、透過波(T)と参照波(S)との位相差が検出され、そのデータは処理装置106に入力される。
【0006】
処理装置106では、透過波(T)と参照波(S)との位相差から積層状物体103の積層数の算出を行う。すなわち、透過波(T)は、積層状物体103の1層を透過するごとに、位相が一定量変化するため、処理装置106は、参照波(S)に対する透過波(T)の位相の変化量を検出することで、記録媒体の積層数を算出する。さらに、処理装置106は、反射波(R)に基づいて計数された積層状物体103の積層数を、透過波(T)から算出された積層数と比較し、両者が同じか否かを判定する。もし同じ場合には測定合致回数として計上し、算出された積層数を記憶する。同じでない場合には、測定合致回数としては計上しない。
【0007】
以上の測定を反復して行い、測定合致回数が所定回数に達したときに、その積層数を測定結果として出力する。
【0008】
また、特許文献3には、反射法を用いた誘電材料の厚み測定方法が記載されている。特許文献3に記載の方法は、厚みを測定する板状誘電体を平面反射板の手前に平行に配置して、板状誘電体に電磁波(ミリメートル波)を照射する。板状誘電体を透過して平面反射板に達する電磁波(照射波)は、平面反射板で反射されて反射波となり、再び板状誘電体を透過して受信器(定在波センサ)で受信される。このとき、照射波と反射波により定在波が発生する。そこで、発振アンテナと受信器の位置を移動して、平面反射板との距離を変化させて、この定在波の腹又は節の位置を測定する。そして、腹又は節の位置を、板状誘電体がない場合の位置と比較することによって、両者のずれ量ΔZから板状誘電体の厚みを測定する。板状誘電体の比誘電率をεとすれば、板状誘電体の厚みはΔZ/εとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−170941号公報
【特許文献2】特開2005−157601号公報
【特許文献3】特開平5−172556号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記特許文献1に記載の海苔の枚数検査装置では、透過光の透過輝度は、海苔の厚さや品質によって変化するため、正確な積層枚数の測定を行うことは期待できないという問題があった。
【0011】
また、上記特許文献3に記載の方法の場合、位相を導出する際に振幅の腹の情報を使用するため、振幅揺らぎに対して弱いという欠点がある。具体的には、振幅の腹が1%揺らいだ場合、位相差として約8°変化する。一般的に、振幅揺らぎを1%以下に抑えることは難しいため、この揺らぎによる誤差のため測定精度が悪く、海苔の枚数測定のように微小な厚みの差を検出することが必要な場合には適用が困難である。
【0012】
一方、特許文献2に記載の積層状物体計数装置は、パルスを用いて時間波形で検査を行えば、通常、高い精度で積層状物体の積層枚数を測定することが可能である。つまり、上記特許文献2に記載の積層状物体計数装置は、測定対象物として紙、コンパクトディスク、皿のように、物体の表面形状がなめらかであり物体内部に空間のない密な物体を対象としている。このような物体では、精度のよい測定が期待できる。しかしながら、海苔のように物体表面の凹凸が大きく、内部に空間を多く含むような物体の場合、反射波は図16(a)に示されたような明確なものではなくなるため、ピークの計数が困難となり、測定精度が低下するという問題がある。
【0013】
さらに、海苔のように水分を含むようなシート状物の束の枚数検査を行う場合、特許文献2で記述されているようなテラヘルツ電磁波を使用すると、発信器・受信器及びその周辺回路のコストが高くなるのみならず、電磁波がシート状物の束を通過する際に水分のために大きく減衰することでS/N比が低下し、検出精度が低下するという問題が生じる。一方、水分による減衰を避けるために照射する電磁波の周波数を低く(波長を長く)すると、今度は透過波形がブロードとなることにより干渉の影響が大きくなり、干渉によるピークシフトなどによって検出精度が低下するという問題が生じる。従って、海苔のような水分を含む積層状物体に適用するには、何れの周波数の場合にも、積層枚数の検出精度の低下の問題があり、この問題に対する解決手段が示されていない。
【0014】
また、特許文献2に記載の積層状物体計数装置では、「位相差検出器では発振側の電磁波を参照波として受信信号とのミキシングを行って中間周波数にした後に、フーリエ解析によって位相差解析を行い、参照波に対する受信信号の位相のずれを検出することにより枚数を計測できる。前記位相差解析として干渉計測などの手段を用いてもよい。」(特許文献2・段落〔0014〕参照)との記載があるが、その具体的な方法が示されていない。海苔のように表面が粗く多孔の繊維質の物体の場合、透過波の波形も図16(b)に示されたような明確なピークのある波形とはならないため、どのようにして位相差を検出するかということが技術上の大きな課題となる。
【0015】
そこで、本発明の目的は、積層されたシート状物、特に、海苔のように表面が粗く湿気(水分)を含むようなシート状物の枚数を精度よく測定するのに適したシート状物の枚数検査装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係るシート状物の枚数検査装置の第1の構成は、複数枚積層された状態にあるシート状物の枚数を検査するシート状物の枚数検査装置であって、
電磁波を発振するマイクロ波発振器と、
前記マイクロ波発振器が発振する電磁波Wを、照射波WS1と参照波WS2の二方向に分配する方向性結合器と、
前記マイクロ波発振器が出力する電磁波Wよりも低い周波数ωifの電磁波である局部波WLOを発振する中間周波数発振器と、
前記中間周波数発振器が発振する局部波WLOを、同相の第1の局部波WLO1及び第2の局部波WLO2の二方向に分配するパワーデバイダと、
前記照射波WS1と、前記第1の局部波WLO1とを合波し、両者の周波数の和の周波数(ω+ωif)の変調照射波WSMを生成するアップコンバータと、
前記変調照射波WSMを、前記シート状物の束の一側面に対して入射する入射手段と、
前記入射手段に対向して配設され、前記変調照射波WSMが前記シート状物の束を透過して生成された透過波Wを受信する受信手段と、
前記透過波Wと前記参照波WS2とを合波し、両者の周波数の差の周波数の2次合成波WTCを生成する第1のミクサと、
前記2次合成波WTCと、前記第2の局部波WLO2とを合波し、両者の周波数の差の周波数の3次合成波Wを生成する第2のミクサと、
前記3次合成波Wの電圧値又は電流値をAD変換し位相遅延量又は位相遅延量に対応する値を算出する位相遅延検出手段と、
前記位相遅延検出手段により算出される位相遅延量又は位相遅延量に対応する値に基づいて前記検査対象のシート状物の束の重畳枚数を判定する重畳枚数判定手段と、を備えたことを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、シート状物の束を通過した透過波Wは、誘電体であるシート状物の束を透過する際に位相遅延ΔΦを生じる。この位相遅延ΔΦは、シート状物の束の厚み、すなわち、シート状物の束に含まれるシート状物の枚数nに比例する。そして、透過波Wは、第1のミクサ及び第2のミクサによって、マイクロ波発振器が発振する電磁波Wの周波数成分ω及び中間周波数発振器が発振する局部波WLOの周波数成分ωifが除去されて、位相遅延ΔΦのみを位相成分とする3次合成波Wが得られる。この3次合成波Wの電圧値又は電流値が海苔の枚数nと一対一対応するので、これを位相遅延検出手段によってAD変換して閾値判定することにより、シート状物の枚数nを検出することができる。
【0018】
ここで、本発明のシート状物の枚数検査装置を、特許文献2の方法と比較すると、本発明のシート状物の枚数検査装置は、位相遅延の検出を、時間波形のピーク検出で行うのではなく、透過波の周波数変調によって取り出している点で異なる。このように周波数領域の変調によって位相遅延量を3次合成波Wの電圧値又は電流値として取り出し、これから海苔の枚数nを検出することによって、表面が粗く多孔の繊維質の海苔のようなシート状物であっても、精度よく枚数を検出することが可能となる。また、時間波形のピーク検出で行う場合、短時間パルスを出力するための高精度で高価な発信器と極短時間の波形をサンプリングできる高価な受信機が必要とされるため、装置のコストが高くなるという問題もある。
【0019】
また、一般にマイクロ波発振器や局部発振器では、出力される電磁波の位相に数%程度の揺らぎが生じる。特許文献2の方法では、時間波形のピーク検出で測定を行うため、この電磁波W及び局部波WLOの位相の揺らぎによってピークシフトが生じ、このピークシフトが検出される厚みに直接影響を及ぼすため、海苔のように極めて薄いシート状物の枚数を1枚単位で測定するための十分な精度を得ることが難しい。また、マイクロ波の通過する場所によって透過波形がずれることで、これらの波形の干渉によってもピークシフトが生じ、検出精度が低下する。それに対し、本発明のシート状物の枚数検査装置では、第1のミクサと第2のミクサによって、透過波Wに含まれる電磁波W及び局部波WLOの位相の揺らぎ成分δ,δがキャンセルされるため、3次合成波Wの電圧値又は電流値は当該位相の揺らぎ成分δ,δの影響を受けない。従って、海苔のように極めて薄いシート状物の枚数を1枚単位で測定することが可能となる。
【0020】
また、ミリ波の領域で連続波による干渉法を用いることで、サンプルに含まれる水分による減衰を、テラヘルツ領域の場合よりも抑えることができる。尚、実験によれば、テラヘルツの周波数領域を使用すると、湿気を含む海苔の場合には、1枚の海苔を通過する前に電波が3dB以上減衰し、海苔1枚でさえ十分に透過することができないことが試験により明らかとなっている。
【0021】
また、位相遅延検出手段は必ずしも「位相遅延量」を直接算出する必要はなく、「位相遅延量に対応する値」、例えば、位相遅延量の正接値や正弦値、余弦値等を算出するものであってもよい。また、重畳枚数判定手段による枚数判定は、予め用意した閾値テーブルを用いて行うことで、容易に実現できる。
【0022】
本発明に係るシート状物の枚数検査装置の第2の構成は、前記第1の構成において、前記第2の局部波WLO2を、位相遅延のない第3の局部波WLO3と、π/2radだけ位相が遅延した第4の局部波WLO4とに分離する第2のパワーデバイダと、
前記第1のミクサが出力する2次合成波WTCを、同相の第1の2次合成波WTC1及び第2の2次合成波WTC2の二方向に分配する第3のパワーデバイダと、
前記第1の2次合成波WTC1と前記第2のパワーデバイダが出力する位相遅延のない第3の局部波WLO3とを合波し、両者の周波数の差の周波数の3次合成波WC1を生成する前記第2のミクサと、
前記第2の2次合成波WTC2と、前記第2のパワーデバイダが出力するπ/2radだけ位相が遅延した第4の局部波WLO4とを合波し、両者の周波数の差の周波数の3次合成波WC2を生成する前記第3のミクサとを備え、
前記位相遅延検出手段は、前記3次合成波WC2の電圧値又は電流値を前記3次合成波WC1の電圧値又は電流値で除した値に基づいて、前記検査対象のシート状物の束を透過した際の電磁波の位相遅延量を検出することを特徴とする。
【0023】
このように、位相がπ/2radだけずれた2つの局部波WLO3,WLO4を用いて2次合成波WTCに含まれる局部波WLOの周波数成分ωifをキャンセルし、位相がπ/2radだけずれた3次合成波WC1,WC2を生成し、3次合成波WC2の電圧値又は電流値を3次合成波WC1の電圧値又は電流値で除した値を求めることによって、海苔束による位相遅延ΔΦの正接tan(ΔΦ)が求められる。正接tan(ΔΦ)の変化は正弦や余弦に比べて位相に対して急峻に変化するとともに、位相に対して単調に変化するため、精度よく海苔束の枚数nを求めることができる。
【0024】
本発明に係る海苔の枚数検査装置の第3の構成は、前記第2の構成において、前記第1のミクサの後段に設けられ、前記2次合成波の位相を自在に遅延させることが可能な移相器と、
前記移相器により前記2次合成波の位相遅延量を変化させることにより、前記3次合成波WC1及び前記3次合成波WC2の電圧値又は電流値を測定することによりリサージュ曲線を測定し、当該リサージュ曲線の中心点を算出することにより前記3次合成波WC1及び前記3次合成波WC2の電圧値又は電流値のオフセット値をそれぞれ算出する較正器と、を備え、
前記位相遅延検出手段は、前記3次合成波WC2の電圧値又は電流値から前記オフセット値を引いた値を前記3次合成波WC1の電圧値又は電流値から前記オフセット値を引いた値で除した値に基づいて、前記検査対象のシート状物の束を透過した際の電磁波の位相遅延量を検出することを特徴とする。
【0025】
このように、移相器によって3次合成波WC1,WC2に含まれるオフセット成分を除去することによって、位相遅延量をより精度よく検出することができる。また、移相器によって3次合成波WC1,WC2の位相シフト量を自由に調整することができるので、移相器の位相シフト量を適宜設定することで、測定精度を向上させることが可能となる。
【0026】
本発明に係る海苔の枚数検査装置の第4の構成は、前記第1乃至3の何れか一の構成において、対向する前記入射手段と前記受信手段との間に、前記シート状物の束を配置する配置手段を備え、前記配置手段は、前記入射手段の電磁波の照射軸方向に垂直な面に対して、前記シート状物の束の表面が傾斜した状態に、前記シート状物の束を配置することを特徴とする。
【0027】
この構成により、入射手段と受信手段との間で生じる電磁波の多重反射の影響を低減し、シート状物の束の枚数の検出精度を向上させることができる。
【0028】
ここで、「入射手段の電磁波の照射軸方向」とは、入射手段が電磁波を照射した際の電磁波の進行方向をいう。尚、照射電磁波の放射パターンが平面波的ではない場合には、最も大きい強度の電磁波が伝搬する方向(メインローブの中心軸方向)を「入射手段の電磁波の照射軸方向」とする。
【発明の効果】
【0029】
以上のように、本発明によれば、電磁波をシート状物の束に透過させ、その透過波に対して入射した電磁波の周波数成分をキャンセルすることで、シート状物の束を通過する際に生じる位相遅れを電圧値又は電流値として取り出し、その電圧値又は電流値からシート状物の枚数を判定することで、積層されたシート状物の枚数を精度よく測定することが可能なシート状物の枚数検査装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係る海苔の枚数検査装置の構成を表す図である。
【図2】(a)は、図1のミクサ10,14,15の内部構成の一例を示した図、(b)は図2(a)の各ダイオードの電圧−電流特性を表した図である。
【図3】出力IC1,IC2を測定することにより得られる位相遅延量ΔΦの変化を表した図である。
【図4】位相遅延量ΔΦの変化に対する正接tan(ΔΦ)の変化を表す図である。
【図5】実際にシート状物の束を用いて出力I’C1,I’C2を測定した結果を表すリサージュ図である。
【図6】シート状物の束の枚数を変化させたときの位相遅延量ΔΦの変化を測定した結果である。
【図7】シート状物1枚あたりの位相遅延量ΔΦの測定結果である。
【図8】水分を含んだ海苔束(a)及び水分を含んだ紙(b)を用いて出力I’C1,I’C2を測定した結果を表すリサージュ図である。
【図9】実施例2の枚数検査装置の照射アンテナ5及び受信アンテナ6並びに配置手段23の部分の構成を表す図である。
【図10】照射アンテナ5及び受信アンテナ6とシート状物束Sの配置に対する透過波及び反射波を表す模式図である。
【図11】オフセット項を0として、式(8a),(8b)により描かれるリサージュ図形である。
【図12】(a)は電界ベクトルEが入射面内にある場合の伝搬ベクトルF、電界ベクトルE、法線ベクトルnの位置関係を表す図、(b)はそのときのフィルタ20,21の出力のリサージュ図形の実測値例である。
【図13】(a)は電界ベクトルEが入射面に垂直な場合の伝搬ベクトルF、電界ベクトルE、法線ベクトルnの位置関係を表す図、(b)はそのときのフィルタ20,21の出力のリサージュ図形の実測値例である。
【図14】(a)は位相差ΔΦに対する偏差δφの測定値、(b)は補正前の位相差ΔΦと補正後の位相差ΔΦ’の実測結果である。
【図15】特許文献2に記載の積層状物体計数装置の構成図である。
【図16】特許文献2に記載の積層状物体からの反射波による出力波形の観測例(a)、並びに、積層状物体からの透過波及び積層状物体に入射する前の電磁波(参照波)による出力電圧波形の観測例(b)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0032】
本実施例では、シート状物の一例として、シート状の海苔の積層枚数を検査する枚数検査装置について説明する。尚、本実施例の枚数検査装置は、シート状物として「海苔」以外のものにも適用することも勿論可能である。
【0033】
図1は、本発明に係る海苔の枚数検査装置の構成を表す図である。枚数検査装置1は、マイクロ波発振器2、方向性結合器3、アップコンバータ4、照射アンテナ5、受信アンテナ6、移相器7、中間周波数発振器8、パワーデバイダ9、ミクサ10、アンプ11、パワーデバイダ12、パワーデバイダ13、ミクサ14,15、A/D変換ボード16、枚数判定器17、出力装置18、フィルタ19,20,21、及び較正器22を備えている。
【0034】
マイクロ波発振器2は、枚数を検査する対象である海苔束Sに照射するマイクロ波を発振する。マイクロ波発振器2の発信周波数をω、位相揺らぎを±δとする。ここで、マイクロ波とは、一般的には、波長100μm〜1mの電磁波を称するが、ここでは、1枚の海苔の厚さ程度の波長のものが使用される。具体的には、100μm〜4000μmの波長の電磁波が用いられる。
【0035】
方向性結合器3は、マイクロ波発振器2が出力するマイクロ波を、照射波WS1と参照波WS2の二方向に分配する。
【0036】
中間周波数発振器8は、マイクロ波発振器2が出力するマイクロ波よりも低い周波数の電磁波である局部波WLOを発振する。ここで、局部波WLOの角周波数をωif、位相揺らぎを±δとする。局部波WLOの周波数としては、100MHz〜10GHzが使用される。
【0037】
パワーデバイダ9は、中間周波数発振器8が出力する局部波WLOを同位相で二方向(WLO1,WLO2)に分配し、それぞれ、アップコンバータ4とパワーデバイダ13に入力する。アップコンバータ4は、方向性結合器3から入力される照射波WS1とパワーデバイダ9から入力される局部波WLO1とを合波し、両者の周波数の和の周波数の変調照射波WSMを生成する。この変調照射波WSMは角周波数ωの波と角周波数ωifの波とが混合した電磁波であり、揺らぎの大きさは±δ±δとなる。フィルタ19は、ハイパスフィルタであり、変調照射波WSMに含まれる基本周波数成分及び下側波成分を除去する。照射アンテナ5は、フィルタ19でフィルタリングされた変調照射波WSMを、前記海苔束Sの一側面に対して入射する。受信アンテナ6は、変調照射波WSMが海苔束Sを透過して生成された透過波Wを受信する。変調照射波WSMは誘電体である海苔束Sを透過する際に、ΔΦの位相ずれが生じる。
【0038】
ミクサ10は、方向性結合器3から入力される参照波WS2と、透過波Wとを合波し、両者の周波数の差の周波数の2次合成波WTCを生成する。ここで、ミクサ10のLO端子には参照波WS2が入力され、RF端子には透過波Wが入力される。ミクサ10のIF端子からは、2次合成波WTCが出力される。アンプ11は、ミクサ10から出力される2次合成波WTCを増幅する。移相器7は、透過波2次合成波WTCの移相を行う。この移相器7は、後で詳述する直流成分の除去のためのキャリブレーションに使用される。パワーデバイダ12は、移相器7から出力される2次合成波W’TCを、同位相で2方向(WTC1,WTC2)に分配する。
【0039】
パワーデバイダ13は、パワーデバイダ9から出力される局部波WLO2を、局部波WLO3と90°位相が進んだ局部波WLO4とに分配する。
【0040】
ミクサ15は、パワーデバイダ12から出力される2次合成波WTC2と、パワーデバイダ13から出力される90°位相が進んだ局部波WLO4とを合波して、両者の周波数の差の周波数の3次合成波WC2を生成する。ミクサ14は、パワーデバイダ12から出力される2次合成波WTC1と、パワーデバイダ13から出力される同相の局部波WLO3とを合波して、両者の周波数の差の周波数の3次合成波WC1を生成する。フィルタ20,21は、ローパスフィルタであり、それぞれ、2次合成波WTC1,WTC2に含まれる高周波及び高調波成分を除去する。
【0041】
A/D変換ボード16は、ミクサ14,15から出力されフィルタ20,21を通過した3次合成波W’C1,W’C2をAD変換して、枚数判定器17へ出力する。枚数判定器17は、A/D変換ボード16から出力されるデジタル化された3次合成波WC1q,WC2qの値に基づいて、海苔束Sの枚数を判定する。出力装置18は、ディスプレイや外部記憶装置により構成され、枚数判定器17により出力される海苔束Sの枚数を出力する。ここで、A/D変換ボード16と枚数判定器17が協働して、3次合成波WC1q,WC2の電圧値又は電流値をAD変換することにより位相遅延量を検出する位相遅延検出手段が実現されている。
【0042】
較正器22は、移相器7と協働して3次合成波W’C1,W’C2の較正を行うための装置である。
【0043】
図2(a)は、図1のミクサ10,14,15の内部構成の一例を示した図、図2(b)は図2(a)の各ダイオードの電圧−電流特性を表した図である。尚、ミクサについては、既に多くの種類のものが周知であり、図1のミクサ10,14,15は、特にこの構成に限られるものではない。
【0044】
図2(a)において、ミクサ10,14,15は、2つのトランス30,31と1つのブリッジダイオード32を備えている。トランス30の1次側コイルの一端はLO端子とされ、他端は接地されている。また、2次側コイルは、両端がブリッジダイオード32のプラス(+)端子及びマイナス(−)端子に接続されており、2次側コイルの中間タップは接地されている。また、トランス31の1次側コイルの一端はRF端子とされ、他端は接地されている。また、2次側コイルは、両端がブリッジダイオード32の各中間(〜)端子に接続されており、2次側コイルの中間タップはIF端子とされている。
【0045】
以上のように構成された本実施例の海苔の枚数検査装置1について、以下その動作を説明する。
【0046】
まず、マイクロ波発振器2によりマイクロ波Wが発振される。このマイクロ波WをAcos(ωt±δ)とする。ここで、Aはマイクロ波Wの振幅である。マイクロ波Wは、方向性結合器3において、照射波WS1と参照波WS2とに分配される。ここで、参照波WS2の振幅をAとする。
【0047】
一方、中間周波数発振器8は、局部波WLOを発振する。この局部波WLOをBcos(ωift±δ2)とする。Bは局部波WLOの振幅である。局部波WLOは、パワーデバイダ9において、2方向の局部波WLO1,WLO2に分配される。この際、分配された局部波WLO1,WLO2は、同相である。局部波WLO1,WLO2の振幅を、それぞれB,Bとする。
【0048】
次に、アップコンバータ4において、照射波WS1と局部波WLO1とが合波され、両者の周波数の和の周波数の変調照射波WSMが生成される。従って、変調照射波WSMは、Acos(ωt+ωift±δ1±δ2)となる。Aは変調照射波WSMの振幅である。アップコンバータ4から出力される変調照射波WSMは、フィルタ19において基本周波数成分及び下側波成分が除去された後、照射アンテナ5に送られて、検査対象である海苔束Sの一側面に対して照射される。変調照射波WSMの一部は海苔束Sを透過して、透過波Wが受信アンテナ6で受信される。尚、本実施例においては、照射アンテナ5及び受信アンテナ6にはホーンアンテナが使用されているが、電磁波の照射アンテナ5及び受信アンテナ6としては、それ以外のもの(例えば、リフレクタアンテナ、レンズアンテナ、スロット・アンテナなど)を使用してもよい。
【0049】
海苔束Sを変調照射波WSMが透過する際に、海苔の誘電率が空気の誘電率よりも大きいことによって、透過波の位相が変化する。海苔束Sを透過した透過波Wの位相の遅延量(以下「位相遅延量」という。)をΔΦとする。透過波Wは、Acos(ωt+ωift+ΔΦ±δ1±δ2)となる。Aは透過波Wの振幅である。
【0050】
位相遅延量ΔΦは、透過した海苔束Sの厚さLに比例する。いま、一枚の海苔シートの厚さをlとし、海苔束Sの海苔シートの枚数をnとすれば、ΔΦ∝L=nlとなる。すなわち、位相遅延量ΔΦは海苔束Sに含まれる海苔シートの枚数nに比例する。
【0051】
受信アンテナ6で受信された透過波Wは、2つの角周波数成分ω,ωifを含む電磁波である。この透過波Wは、ミクサ10のRF端子に入力される。また、ミクサ10のLO端子には、方向性結合器3が出力する参照波WS2が入力される。ミクサ10は、透過波Wと参照波WS2とを合波し、両者の周波数の差の周波数の2次合成波WTCを生成する。この2次合成波WTCはアンプ11で増幅され、移相器7を通過した後に、パワーデバイダ12に入力される。なお、通常は移相器7の移相角度は固定されており、ここでは簡単のため移相器7の移相角度は0°とする。ここで、2次合成波WTCは、高周波の位相成分ωt±δ1がキャンセルされるため、低周波の信号Acos(ωift+ΔΦ±δ2)となる。Aは移相器7を通過した後の2次合成波W’TCの振幅である。
【0052】
パワーデバイダ12は、2次合成波W’TCを、同相の2つの2次合成波WTC1,WTC2に分配する。一方、パワーデバイダ9から出力される局部波WLO2はパワーデバイダ13に入力され、パワーデバイダ13は、この局部波WLO2を、局部波WLO3と、90°位相が進んだ局部波WLO4とに分配する。
【0053】
パワーデバイダ12が出力する2次合成波WTC1は、ミクサ14のRF端子に入力され、パワーデバイダ13が出力する局部波WLO3は、ミクサ14のLO端子に入力される。ミクサ14は、これらを合波して、両者の周波数の差の周波数の3次合成波WC1を生成する。ここで、3次合成波WC1は、局部波WLO3の位相成分ωift±δ2がキャンセルされるため、位相差を表す信号cos(ΔΦ)を含む。3次合成波WC1は、A/D変換ボード16に入力される。
【0054】
一方、パワーデバイダ12が出力する2次合成波WTC2は、ミクサ15のRF端子に入力され、パワーデバイダ13が出力する局部波WLO4は、ミクサ15のLO端子に入力される。ミクサ15は、これらを合波して、両者の周波数の差の周波数の3次合成波WC2を生成する。ここで、3次合成波WC2は、局部波WLO3の位相成分ωift±δ2がキャンセルされるため、位相差を表す信号cos(ΔΦ-π/2)=sin(ΔΦ)を含む。3次合成波WC2は、A/D変換ボード16に入力される。
【0055】
A/D変換ボード16は、ミクサ14,15から出力される3次合成波WC1,WC2の電流値を抵抗により電圧値に変換した後にAD変換して、枚数判定器17へ出力する。
【0056】
尚、ここでミクサ14,15の動作について補足説明しておく。図2(a)のブリッジダイオード32を構成する4個のダイオードは、それぞれ、よく知られているように図2(b)に示すような非線形の電圧−電流特性を有している。この特性は、I(V)=I(eαV−1)のように表される。従って、テイラー展開すると、I(V)は次式のように表される。
【0057】
【数1】

【0058】
上式の右辺第3項を積極的に利用することにより、ミクサとしての機能が発揮される。
【0059】
ミクサ14のLO端子に入力される局部波WLO3をB3 cos(ωift±δ2)とし、ミクサ14のRF端子に入力される2次合成波WTC1をA5 cos(ωift+ΔΦ±δ2)とする。ミクサ14の出力は、式(1)の右辺第3項(電圧の2乗の項)となるので、出力IC1は次式のように表される。
【0060】
【数2】

【0061】
ここで、ミクサ14から出力される高周波成分及び高調波成分はフィルタ20によって除去されるので、結局、フィルタ20を通過したミクサ14の出力I’C1は次式のように表される。
【0062】
【数3】

【0063】
同様に、ミクサ15のLO端子に入力される局部波WLO4をB3 cos(ωift+π/2±δ2)とし、ミクサ15のRF端子に入力される2次合成波WTC2をA5 cos(ωift+ΔΦ±δ2)とすると、フィルタ21を通過したミクサ15の出力I’C2は次式のように表される。
【0064】
【数4】

【0065】
ここで、式(3),(4)の右辺第1項はオフセットであり、cos(ΔΦ),sin(ΔΦ)を抽出するにはこのオフセット項を求める必要がある。ところが、振幅値A/2+B/2は既知ではない。そこで、このオフセット項を求めるために移相器7が使用される。
【0066】
図3は、出力IC1,IC2を測定することにより得られる位相遅延量ΔΦの変化を表した図である。尚、実際の測定では、出力IC1,IC2は、線形抵抗に通すことにより電圧値として測定される。図3において、横軸は出力I’C1、縦軸は出力I’C2を表す。位相遅延量ΔΦが変化すると、出力I’C1,I’C2は、(I’C1,I’C2)平面上で中心点((A+B)/2,A+B)/2)を中心とする円周上に沿って変化する。そこで、この中心点を求めるため、較正器22は、移相器7により位相を変化させ、リサージュ曲線を描かせる。原理的には、移相器7により位相を0°から360°まで変化させると、(I’C1,I’C2)平面上で図3に点線で示した円が描かれる。従って、較正器22は、移相器7により位相を0°から360°まで変化させて、A/D変換ボード16の出力値からこの円を測定し、円の中心点(IC1(0),IC2(0))を求める。求めた中心点(IC1(0),IC2(0))を、位相遅延量ΔΦによる位相回転の中心点とする。式(3),(4)より、原理的には、IC1(0)=IC2(0)であるが、実際には種々の要因により、IC1(0)とIC2(0)は必ずしも正確には等しくならない。
【0067】
枚数判定器17は、A/D変換ボード16から出力されるデジタル化された3次合成波WC1,WC2の電圧値及び較正器22から出力される中心点(IC1(0),IC2(0))の値に基づいて、位相遅延量ΔΦの正接tan(ΔΦ)=sin(ΔΦ)/cos(ΔΦ)を算出する。すなわち、A/D変換ボード16から出力されるデジタル化された3次合成波WC1,WC2の電流値(電圧値に変換した値で測定)をI’C1,I’C2とすると、正接tan(ΔΦ)は次式により求められる。
【0068】
【数5】

【0069】
この正接tan(Δφ)の値から位相遅延量Δφを算出し、位相遅延量Δφに基づいて海苔束Sの枚数を判定する。
【0070】
最後に、出力装置18は、枚数判定器17により出力される海苔束Sの枚数nを出力する。
【0071】
尚、本実施例では枚数判定器17が位相遅延量Δφに基づいて、海苔束Sの枚数を判定したが、正接tan(Δφ)の値から、予め用意した閾値テーブルを用いて判定するようにしてもよい。閾値テーブルは、海苔束Sの枚数nに対するtan(ΔΦ)の値が格納されたテーブルである。
【0072】
以上のように、本発明では、ミリ波の連続波を用いた干渉法を用いることで、テラヘルツ波に比べてシート状物(海苔束)の水分による減衰が抑えられ、ノイズの影響を受けにくくなる。また、受信アンテナ6で受信された透過波Wを、その直後に設けられたミクサ10によって、低周波の2次合成波WTCに変換することによって、高周波回路の部分が少なくなり、装置コストを下げることができる。また、特許文献2のように、入力パルスの応答を時間領域で測定する方法に比べると、本発明では、連続マイクロ波を使用するため、発振器や測定器を安価に構成できるのみならず、時間的に平均化されるためノイズの影響も抑えられ、枚数の誤検出率を低減させることができる。
【0073】
さらに、位相遅延量ΔΦを正接tan(ΔΦ)として検出する場合、ΔΦの変化に対して正接tan(ΔΦ)は図4のように大きく変化するため、枚数判定器17において閾値判定により枚数の判定を行う際の誤判定を低減することができる。
【0074】
尚、正接tan(ΔΦ)による枚数判定を行う場合、tan(ΔΦ)の周期性により、位相遅延量ΔΦは(0,π)の区間内にある必要がある。また、測定量の連続性を考慮すれば、好ましくは、ΔΦが(0,π/2)の区間内にあるほうがよい。そこで、測定するシート状物(海苔束)による位相遅延量ΔΦが大きい場合、移相器7を用いて一定量だけ位相シフトさせることができる。すなわち、移相器7による位相シフト量を−Ψとすれば、枚数判定機17で観測される正接値はtan(ΔΦ−Ψ)となる。従って、ΔΦが区間(0,π)又は区間(0,π/2)の中にあるように位相シフト量−Ψを調整すればよい。
【0075】
図5は、実際にシート状物の束を用いて出力I’C1,I’C2を測定した結果を表すリサージュ図である。尚、出力I’C1,I’C2の測定においては、出力IC1,IC2を線形抵抗に通すことにより電圧値として測定した。図5の横軸が出力I’C1、縦軸が出力I’C2を表す。図5において「×」で示された点は、照射アンテナ5と受信アンテナ6の間にシート状物の束を挟んで測定した値である。測定には、シート状物としてポリプロピレンシートを使用し、0枚から20枚まで1枚ずつ積層枚数を変化させて測定した。シート状物の枚数が増加するに従って、位相遅延量ΔΦが変化する様子がわかる。また、図5においてAで示された曲線は移相器7により位相を変化させたときのリサージュ曲線である。リサージュ曲線Aの中心点と、測定点「×」を繋いで得られるリサージュ曲線Bとの中心点はよく一致していることがわかる。したがって、リサージュ曲線Aの中心点をオフセット点として、較正器22による較正を行えば、正確な枚数測定を行うことができることがわかる。
【0076】
図6は、シート状物の束の枚数を変化させたときの位相遅延量ΔΦの変化を測定した結果、図7は、シート状物1枚あたりの位相遅延量ΔΦの測定結果である。シート状物には、図5の場合と同様、ポリプロピレンシートを使用した。尚、図6,図7の横軸は測定されるシート状物の枚数、図6の縦軸は位相遅延量ΔΦ、図7の縦軸はシート状物が1枚増加することにより生じる位相遅延量ΔΦの変化量(変分)である。シート状物1枚あたりの位相遅延量Δφの平均値をΔφの標準偏差値で割った値をS/N比と定義すれば、図7より、S/N比=6.82である。また、Δφの平均値をΔφの最大値と最小値の差で割った値を最悪S/N比と定義すれば、最悪S/N比=2.26である。従って、十分な精度で枚数判定を行うことが可能であることがわかる。尚、図7において、重畳枚数の変化に伴って、シート状物1枚あたりの位相遅延量ΔΦに周期的な変動が見られるが、この現象については実施例2において説明する。
【0077】
図8は、水分を含んだ海苔束(a)及び水分を含んだ紙(b)を用いて出力I’C1,I’C2を測定した結果を表すリサージュ図である。尚、出力I’C1,I’C2の測定においては、出力IC1,IC2を線形抵抗に通すことにより電圧値として測定した。図8(a),(b)の横軸が出力I’C1、縦軸が出力I’C2を表す。図8(a)はシート状物として水分を含んだ海苔を測定した結果であり、図8(a)はシート状物として水分を含んだ紙を測定した結果である。図8(a)では、シート状の海苔を1枚ずつ増加させながら重畳枚数が0〜50枚の間で測定した。また、図8(b)では、シート状の紙を2枚ずつ増加させながら重畳枚数が0〜100枚の間で測定した。シート状物が水分を含んでいる場合、シート状物による電磁波の吸収が大きくなるため、枚数が増えるほど透過電磁波の減衰が大きくなり、図8(a),(b)のように、リサージュ図は螺旋状となる。しかしながら、枚数判定においては、式(5)に示したように、(I’C2−IC2(0))と(I’C1−IC1(0))との比から位相遅延量ΔΦを求めるため、電磁波の吸収による減衰項の影響は打ち消されて小さくなるため、精度のよい重畳枚数の検出が可能となる。
【実施例2】
【0078】
本実施例では、実施例1の枚数検査装置を改良し、さらに枚数検出精度を向上させた枚数検査装置について説明する。尚、本実施例の枚数検査装置の基本構成は、照射アンテナ5及び受信アンテナ6の部分を除き、図1と同様であるとする。
【0079】
前述したように、実施例1の図7において、シート状物の重畳枚数の変化に伴って、シート状物1枚あたりの位相遅延量ΔΦが周期的な変動する現象がみられる。この周期的変動分に対してシート状物の厚みが十分に大きい場合には、周期的変動分の影響は無視することができる。しかしながら、シート状物の厚みが薄くなると、この周期的変動分の影響が大きくなり、枚数の判定エラーの原因にもなる。そこで、本実施例ではこの周期的変動分の影響を除去する方法について説明する。
【0080】
図9は、実施例2の枚数検査装置の照射アンテナ5及び受信アンテナ6並びに配置手段23の部分の構成を表す図である。照射アンテナ5及び受信アンテナ6には、実施例1と同様にホーンアンテナを使用している。また、照射アンテナ5と受信アンテナ6とは対向して配置されており、照射アンテナ5の中心軸(照射軸)Lは、受信アンテナ6の中心軸と一致している。また、照射アンテナ5と受信アンテナ6との間にシート状物の束Sを配置する配置手段23としては、ベルトコンベヤが使用されている。本実施例の枚数検査装置を実際の検査ラインに適用する場合、配置手段23としてベルトコンベヤが適当であるが、シート状物の束Sを照射アンテナ5と受信アンテナ6との間に固定配置できるものであれば、配置手段23としてベルトコンベヤ以外のものを使用することもできる。
【0081】
ここで、配置手段(ベルトコンベヤ)23は、シート状物の束Sを載置するベルト面Tが照射アンテナ5の中心軸(照射軸)Lに垂直な面Pに対して、傾斜するように配置されている。これにより、ベルト面T上に載置されるシート状物の束Sは、その表面が面Pに対して傾斜した状態に配置される。
【0082】
尚、面Pとベルト面Tとの傾斜角度θは、後述の多重反射の影響を低減させる観点から40°〜60°とすることが好ましく、より好適には、45°±5°とするのがよい。
【0083】
次に、上述のような配置手段23を設けたことによる作用について説明する。実施例1では、照射アンテナ5から検査対象のシート状物束Sの一側面に対して電磁波が垂直に照射される。この様子を、図10(a)に模式的に示す。図10(a)に示すように、照射アンテナ5からシート状物束Sに照射された電磁波の大部分は受信アンテナ6で受信され吸収されるが、一部は受信アンテナ6で反射される。また、シート状物束Sと空気との境界面においても反射が生じる。図10(a)の(1)〜(5)は、代表的な反射波の光路を示したものである。これらの反射波はさらに照射アンテナ5で反射されて受信アンテナ6に戻される。このように、多重反射が生じると、受信アンテナ6において受信される受信波は次式(6)のようになる。
【0084】
【数6】

【0085】
ここで、Aは透過波の振幅、R〜Rは光路(1)〜(5)の反射及び吸収による電磁波の減衰率、ωirr(=ω+ωif)は照射波の角振動数、Δφはシート状物束Sにより生じる位相差、Δは照射アンテナ5と受信アンテナ6との間の光路長による初期位相、Δ〜Δは光路(1)〜(5)の反射波の光路長による初期位相である。また、式(6)において、電磁波のゆらぎ成分±δ,±δ(実施例1参照)については省略した。
【0086】
また、シート状物束Sの誘電率をε、シート状物束Sの厚さをd、シート状物束Sの表面が照射軸Lの垂直面に対して成す角をθ(図10(b)参照。図10(a)ではθ=0)、光速をc、照射波の周波数をfirrとすると、Δφは次式のように表される。
【0087】
【数7】

【0088】
式(6)において、第1項が反射波を含まない透過波成分、第2項〜第6項が、それぞれ光路(1)〜(5)の反射波成分である。式(6)の第2項の反射波成分(光路(1)の反射成分)まで考慮すると、最終的にミクサ14,15から出力されフィルタ20,21を通過した3次合成波W’C1,W’C2は次式のようになる。
【0089】
【数8】

ここで、A,Aは透過波成分の振幅、R,Rは透過波成分に対する2次反射波成分の割合、δ,δは透過波成分の初期位相、δ,δは2次反射波成分の初期位相である。尚、式(8a),(8b)においてオフセット項(式(3),(4)の第1項参照)は省略した。理想的な条件ではA=A=A,R=R=R,δ=δ,δ=δであるが、現実には、ミクサ14,15での減衰率の誤差やその他諸々の誤差により、これらの等式は正確には成り立たない。
【0090】
オフセット項を0として、式(8a),(8b)によりリサージュ図形を描くと、図11のようになる。透過波成分はほぼ円形のリサージュ図形となる。光路(1)の反射波成分もほぼ円形のリサージュ図形となるが、その中心点は透過波成分のリサージュ図形の線上を左回りに回転する。光路(1)の反射波成分のリサージュ図形の位相は、その中心点が透過波成分のリサージュ図形の線上を1周したとき(360°回転したとき)に、1080°回転する。従って、原点Oからみると、透過波成分のリサージュ図形の位相が360°回転したときに、光路(1)の反射波成分のリサージュ図形の位相は720°回転することとなり、位相差に2周期分の振動を与える。そして、測定される値のリサージュ図形は、図11の実線で示したような楕円状の図形となる。これは、実際に観測されるリサージュ図形(図5参照)と比較すると、定性的によく一致していることがわかる。従って、図7において、重畳枚数の変化に伴って、位相遅延量ΔΦの変化量に周期的な変動が見られる原因は、受信アンテナ6と照射アンテナ5との間で生じる多重反射に起因すると推定される。
【0091】
そこで、本実施例の枚数検査装置では、図9に示したように、配置手段(ベルトコンベヤ)23が、照射アンテナ5の電磁波の照射軸Lに垂直な面Pに対して、シート状物束Sの表面Tが傾斜した状態となるように、シート状物束Sを配置するような構成とした。図10(b)に、電磁波の照射軸Lに垂直な面Pに対してシート状物束Sの表面Tを傾斜させた状態に於ける、透過波と反射波を示す。この場合、照射電磁波はシート状物束Sの表面Tに対して斜め方向に入射するため、電磁波がシート状物束Sを透過する際に屈折する。また、シート状物束Sの表面Tで反射された電磁波は、図10(b)に示したように、入射光路からずれて横方向に拡散される。この表面Tでの反射による拡散効果によって、最終的に受信アンテナ6に入力される各光路(1)〜(5)の反射波の強度は大幅に弱められ、位相遅延量ΔΦの変化量の周期的な変動が抑制される。
【0092】
さらに重畳枚数の検出精度を向上させたい場合、配置手段26は、照射アンテナ5から照射される照射電磁波の電界ベクトルEが、当該照射電磁波の伝搬ベクトルFとシート状物束Sの表面の法線ベクトルnとを含む面(以下、これを「入射面」という。)内となるようにシート状物束Sを配置するようにすればよい。図12(a)にその配置状態を示す。この場合、入射角を0°から全反射をする臨界角まで変えていくと、反射係数は正の値から始まり単調減少して-1となる。つまり、反射係数が0をまたぐことになり、入射角を変える事で、反射波の影響を小さくすることが出来ると考えられる(反射率は反射係数の自乗であり、反射係数が0の時、反射率が0となるため)。そのため、シート状物束Sの重畳枚数を変化させて得られるフィルタ20,21の出力のリサージュ図形は、図12(b)に示したように滑らかな円形状のものとなる。従って、重畳枚数の検出精度を向上させることができる。
【0093】
一方、図13(a)のように、照射電磁波の電界ベクトルEが、入射面に対して垂直となるようにシート状物束Sを配置すると、入射角を0°から臨界角まで変化させた場合、反射係数は負の値から始まり単調減少して-1となる。つまり、反射係数は0をまたがず、反射波の影響は入射角0°の設置条件より小さくならないと考えられる。そのため、シート状物束Sの重畳枚数を変化させて得られるフィルタ20,21の出力のリサージュ図形は、図13(b)に示したように、複雑なものとなる。従って、重畳枚数の検出精度が低下する。
【0094】
また、さらに枚数検出精度を向上させるために、照射アンテナ5と受信アンテナ6との間の多重反射による周期的な変動を、測定するシート状物のサンプルを用いて予め測定し、較正器22に記憶させておき、実際の枚数検査の際に、較正器22により多重反射による周期的な変動分を差し引くことにより、フィルタ20,21の出力値の補正を行うように構成してもよい。
【0095】
具体的には、以下のようにして補正を行う。まず、シート状物のサンプルの重畳枚数を0枚からN枚まで変化させながら測定し、図5のような(cosΔΦ,sinΔΦ)の組のデータを得る(i=0,1,…,N)。このデータに対して、実施例1で説明したオフセット項の補正を行った後、sinΔΦ/cosΔΦの値からΔΦを算出する。このとき得られるデータは図6のようになる。さらに、シート状物の厚さと誘電率からシート状物の1枚増加あたりの理想的な位相差ΔΦを計算し、図6の各点での理想的な位相差からの偏差δφを計算する。
【0096】
【数9】

【0097】
図14(a)に位相差ΔΦに対する偏差δφの測定値を示す。これにより得られた(ΔΦ,δφ)の組を、補正用のデータとして較正器22に記憶させておく。ここで、δφはΔΦの関数となる。
【0098】
次に、実際の枚数検査を行うシート状物束Sに対して、同様に測定して位相差ΔΦを算出する。較正器22は、予め記憶された偏差のデータ{δφ}から偏差δφ(ΔΦ)を求め、得られた位相差ΔΦから偏差δφ(ΔΦ)を差し引くことによって補正した位相差ΔΦ’=ΔΦ−δφ(ΔΦ)を出力する。枚数判定機17は補正された位相差ΔΦ’に基づき、重畳枚数の判定を行う。
【0099】
図14(b)に補正前の位相差ΔΦと補正後の位相差ΔΦ’の実測結果を示す。図14(b)の横軸はシート状物束Sの重畳枚数、縦軸は位相差ΔΦの実測値の理想値からのずれ量である。図14(b)から明らかなように、補正を行うことにより位相差ΔΦの誤差を抑えることができ、重畳枚数の判定精度を向上させることが可能となる。
【符号の説明】
【0100】
1 枚数検査装置
2 マイクロ波発振器
3 方向性結合器
4 アップコンバータ
5 照射アンテナ
6 受信アンテナ
7 移相器
8 中間周波数発振器
9 パワーデバイダ
10 ミクサ
11 アンプ
12 パワーデバイダ
13 パワーデバイダ
14 ミクサ
15 ミクサ
16 A/D変換ボード
17 枚数判定器
18 出力装置
19,20,21 フィルタ
22 較正器
23 配置手段
S 海苔束(シート状物束)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚積層された状態にあるシート状の物体(以下「シート状物」という。)の枚数を検査するシート状物の枚数検査装置であって、
電磁波を発振するマイクロ波発振器と、
前記マイクロ波発振器が発振する電磁波を、照射波と参照波の二方向に分配する方向性結合器と、
前記マイクロ波発振器が出力する電磁波よりも低い周波数の電磁波である局部波を発振する中間周波数発振器と、
前記中間周波数発振器が発振する局部波を、同相の第1の局部波及び第2の局部波の二方向に分配するパワーデバイダと、
前記照射波と、前記第1の局部波とを合波し、両者の周波数の和の周波数の変調照射波を生成するアップコンバータと、
前記変調照射波を、前記シート状物の束の一側面に対して入射する入射手段と、
前記入射手段に対向して配設され、前記変調照射波が前記シート状物の束を透過して生成された透過波を受信する受信手段と、
前記透過波と前記参照波とを合波し、両者の周波数の差の周波数の2次合成波を生成する第1のミクサと、
前記2次合成波と、前記第2の局部波とを合波し、両者の周波数の差の周波数の3次合成波を生成する第2のミクサと、
前記3次合成波の電圧値又は電流値をAD変換し位相遅延量又は位相遅延量に対応する値を算出する位相遅延検出手段と、
前記位相遅延検出手段により算出される位相遅延量又は位相遅延量に対応する値に基づいて前記検査対象のシート状物の束の重畳枚数を判定する重畳枚数判定手段と、
を備えたことを特徴とするシート状物の枚数検査装置。
【請求項2】
前記第2の局部波を、位相遅延のない第3の局部波と、π/2radだけ位相が遅延した第4の局部波とに分離する第2のパワーデバイダと、
前記第1のミクサが出力する2次合成波を、同相の第1の2次合成波及び第2の2次合成波の二方向に分配する第3のパワーデバイダと、
前記第1の2次合成波と前記第2のパワーデバイダが出力する位相遅延のない第3の局部波とを合波し、両者の周波数の差の周波数の3次合成波WC1を生成する前記第2のミクサと、
前記第2の2次合成波と、前記第2のパワーデバイダが出力するπ/2radだけ位相が遅延した第4の局部波とを合波し、両者の周波数の差の周波数の3次合成波WC2を生成する前記第3のミクサとを備え、
前記位相遅延検出手段は、前記3次合成波WC2の電圧値又は電流値を前記3次合成波WC1の電圧値又は電流値で除した値に基づいて、前記検査対象のシート状物の束を透過した際の電磁波の位相遅延量を検出することを特徴とする請求項1記載のシート状物の枚数検査装置。
【請求項3】
前記第1のミクサの後段に設けられ、前記2次合成波の位相を自在に遅延させることが可能な移相器と、
前記移相器により前記2次合成波の位相遅延量を変化させることにより、前記3次合成波WC1及び前記3次合成波WC2の電圧値又は電流値を測定することによりリサージュ曲線を測定し、当該リサージュ曲線の中心点を算出することにより前記3次合成波WC1及び前記3次合成波WC2の電圧値又は電流値のオフセット値をそれぞれ算出する較正器と、を備え、
前記位相遅延検出手段は、前記3次合成波WC2の電圧値又は電流値から前記オフセット値を引いた値を前記3次合成波WC1の電圧値又は電流値から前記オフセット値を引いた値で除した値に基づいて、前記検査対象のシート状物の束を透過した際の電磁波の位相遅延量を検出することを特徴とする請求項2記載のシート状物の枚数検査装置。
【請求項4】
対向する前記入射手段と前記受信手段との間に、前記シート状物の束を配置する配置手段を備え、
前記配置手段は、前記入射手段の電磁波の照射軸方向に垂直な面に対して、前記シート状物の束の表面が傾斜した状態に、前記シート状物の束を配置することを特徴とする請求項1乃至3の何れか一に記載のシート状物の枚数検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−117778(P2011−117778A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−273904(P2009−273904)
【出願日】平成21年12月1日(2009.12.1)
【出願人】(593179808)八光オートメーション株式会社 (2)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】