説明

シームレスベルトの製造方法及び製造装置

【課題】熱可塑性樹脂を主成分とする、高品位なシームレスベルトを低コストで製造することのできる製造方法を提供する。
【解決手段】第1の円筒と第2の円筒とを、第1の円筒及び第2の円筒の互いに対向する端部が間隙を有するように配置し、間隙に環状ダイから熔融体を押し出す工程と、間隙に押し出された熔融体を、第1及び第2の円筒の互いに対向する端部で挟持して、第1の円筒と第2の円筒との間での円筒内の気体の連通を遮断する工程と、熔融体を挟持した状態で第1及び第2の円筒と、環状ダイとを軸方向に相対移動させて第1の円筒または第2の円筒の内壁に熔融体を塗布して熔融体の筒状の層を形成する工程と筒状の層と、第2または第1の円筒の内壁とで少なくとも構成される空間に気体を充填し、気体の圧力で筒状の層を第1の円筒4または第2の円筒7の内壁に密着させる工程と、筒状の層を固化させる工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シームレスベルトの製造方法及びその製造装置に関する。特に、電子写真画像形成装置(レーザービームプリンター、複写機等)において、中間転写ベルト、転写搬送ベルト、感光ベルト、定着ベルト等に用いられるシームレスベルトの製造方法及びその製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザービームプリンターや複写機等の電子写真画像形成装置において中間転写ベルトや転写搬送ベルト等に用いられるシームレスベルトの製造方法が、特許文献1に開示されている。特許文献1に開示された製造方法では、筒状金型に内接している押出筒金型から熱硬化性樹脂の樹脂溶液を筒状金型内壁の下部から順に上部まで押し出して筒状の樹脂溶液の層を形成する。このとき、樹脂溶液の層の内部に気体を注入して膨張させ、その後、樹脂溶液の層を硬化させることによってシームレスベルトが得られる。この製造方法によれば、筒状金型の内壁に短時間に樹脂溶液を塗布し、且つ塗布スジ、うねり、樹脂溶液残りの発生を抑えることが可能である旨が特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−237695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、電子写真画像装置は高画質かつ低価格化が進んでおり、シームレスベルトの品質および価格に対する要求が益々高まっている。そこで、本発明者らは、特許文献1に記載の製造方法を、硬化反応プロセスが不要で、熱硬化性樹脂よりも安価な熱可塑性樹脂を主成分とするシームレスベルトの製造に適用することについて検討した。その結果、次のような課題を見出すに至った。すなわち、特許文献1に記載の製造方法では、樹脂溶液を筒状金型の底面に流下させて樹脂溶液の層を形成している。このとき、筒状金型の温度が熱可塑性樹脂の融点よりも低いと、熱可塑性樹脂を含む樹脂熔融体は、筒状金型の内壁に触れた時点で固化し始める。そのため、樹脂熔融体と筒状金型の底面との密着性が不十分となることがあった。そのため、筒状金型の底面に設けられた注入口より気体が注入されたとき、筒状金型の底面と樹脂熔融体の層との隙間から気体が入り込むことがある。この場合、樹脂熔融体の層の筒状金型の内壁への密着が妨げられ、筒状金型の内壁の表面粗さを樹脂熔融体の層の外面に確実に転写できなくなることがあった。そこで、本発明は、熱可塑性樹脂を主成分とする、高品位なシームレスベルトを低コストで製造することのできるシームレスベルトの製造方法および製造装置を提供することを対象とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るシームレスベルトの製造方法の一態様は、第1の円筒と、
該第1の円筒と同一の内径を有し、該第1の円筒と同軸を維持しつつ該第1の円筒に対して軸方向に相対的に移動可能な第2の円筒と、
該第1の円筒及び該第2の円筒と同軸に配置され、該第1の円筒及び該第2の円筒の少なくとも一方の内壁に近接して該第1の円筒及び該第2の円筒に対して軸方向に相対的に移動可能であり、かつ、熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物の熔融体を放射方向に吐出可能な環状ダイと、を具備しているシームレスベルトの製造装置を用いてシームレスベルトを製造する方法であって、
(1)該第1の円筒と該第2の円筒とを、該第1の円筒及び該第2の円筒の互いに対向する端部が間隙を有するように配置し、該間隙に該環状ダイから該熔融体を押し出す工程と、
(2)該間隙に押し出された該熔融体を、該第1及び第2の円筒の互いに対向する端部で挟持して、該第1の円筒と該第2の円筒との間での円筒内の気体の連通を遮断する工程と、
(3)該熔融体を挟持した状態で該第1及び該第2の円筒と、該環状ダイとを軸方向に相対移動させて該第1の円筒または該第2の円筒の内壁に該熔融体を塗布して該熔融体の筒状の層を形成する工程と、
(4)該筒状の層と、該第2または該第1の円筒の内壁とで少なくとも構成される空間に気体を充填し、該気体の圧力で該筒状の層を該第1の円筒または該第2の円筒の内壁に密着させる工程と、
(5)該筒状の層を固化させる工程と、を有することを特徴とする。
【0006】
また、本発明に係るシームレスベルトの製造装置の一態様は、
第1の円筒と、該第1の円筒と同一の内径を有し、該第1の円筒と同軸を維持しつつ該第1の円筒に対して軸方向に相対的に移動可能な第2の円筒と、該第1の円筒及び該第2の円筒と同軸に配置され、該第1の円筒及び該第2の円筒の少なくとも一方の内壁に近接して該第1の円筒及び該第2の円筒に対して軸方向に相対的に移動可能であり、かつ、熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物の熔融体を放射方向に吐出可能な環状ダイと、を具備していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
出願によれば、表面性に優れた、熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物からなるシームレスベルトを低コストで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明のシームレスベルトの製造装置の一実施形態を示す断面図である。
【図2】各製造工程における製造装置の状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、本発明のシームレスベルトの製造装置の一実施形態を示す断面図である。シームレスベルトの製造装置100は、図1に示すように、筒状金型4(第1の円筒)と、把持部材7(第2の円筒)と、環状ダイ2とを有している。筒状金型4は、上端部が開口し、下端はステージ6に支持されている。ステージ6は、鉛直方向に延びるガイド5に支持されている。ステージ6はガイド5に沿って移動し、それによって、筒状金型4は昇降可能である。筒状金型4の上方には、把持部材7がガイド5に支持された状態で配置されており、筒状金型4の上端開口と対向している。把持部材7は、ガイド5に沿って昇降可能にされている。なお、把持部材7の上底部には注入口8が設けられている。注入口8は、不図示の気体注入手段に連結されており、気体が注入口8を通じて把持部材7の内部に注入可能となっている。
【0010】
筒状金型4の内部には、環状ダイ2が断熱ベース9に支持された状態で配置されている。環状ダイ2は、熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物の熔融体を放射方向に吐出可能な環状スリットを有する。環状ダイ2は、熱可塑性樹脂組成物からなるペレットの投入口2cが設けられている。また、投入口2cから投入されたペレットは、環状ダイ2内の環状の流路2a内にて熔融され、吐出口2bから放射方向に吐出される。環状ダイ2の流路2aには、環状ダイ2の流路2aに嵌合する環状の押圧面3aを備えたピストン3が嵌合されている。ピストン3は、環状ダイ2の流路2a内の熔融体を吐出口2bから放射方向に押し出されるように加圧する。環状ダイ2の流路2aに分岐点および合流点がなく、ピストン3が環状の押圧面3aを具備しているので、流路2aの各々における圧力および流速分布が均一になる。これにより、吐出口2bから熔融体が筒状金型4の内壁の全周に均一に吐出されるので、筒状の層1を形成する際に流れの不連続により発生する線、いわゆるウェルドラインの発生を避けることが可能となる。したがって、強度と厚みが均一なシームレスベルトの製造が可能になる。なお、熔融体の吐出方向は、水平方向であることが望ましいが、仰角方向または俯角方向であってもよい。
【0011】
次に、本願発明に係るシームレスベルトの製造方法について説明する。本発明に係るシームレスベルトの製造方法は、第1の円筒と、第2の円筒と、環状ダイと、を具備している製造装置を用いる。第2の円筒は、第1の円筒と同一の内径を有し、第1の円筒と同軸を維持しつつ第1の円筒に対して軸方向に相対的に移動可能である。環状ダイは、第1及び第2の円筒と同軸に配置され、第1及び第2の円筒の少なくとも一方の内壁に近接して第1及び第2の円筒に対して軸方向に相対的に移動可能であり、かつ、熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物の熔融体を放射方向に吐出可能である。そして、本発明に係るシームレスベルトの製造方法は、下記(1)〜(5)の工程を有するものである。
【0012】
工程(1)は、第1の円筒と第2の円筒とを、第1の円筒及び第2の円筒の互いに対向する端部が間隙を有するように配置し、該間隙に環状ダイから熔融体を押し出す工程である。
【0013】
工程(2)は、間隙に押し出された熔融体を、第1及び第2の円筒の互いに対向する端部で挟持して、第1の円筒と第2の円筒との間での円筒内の気体の連通を遮断する工程である。
【0014】
工程(3)は、熔融体を挟持した状態で第1及び第2の円筒と、環状ダイとを軸方向に相対移動させて第1の円筒または第2の円筒の内壁に熔融体を塗布して熔融体の筒状の層を形成する工程である。
【0015】
工程(4)は、筒状の層と、第2または第1の円筒の内壁とで少なくとも構成される空間に気体を充填し、気体の圧力で筒状の層を第1の円筒または第2の円筒の内壁に密着させる工程である。
【0016】
工程(5)は、筒状の層を固化させる工程である。
【0017】
図2(a)〜(c)は、後述する工程(1)、(2)及び(3)〜(5)の各工程における製造装置100の状態を示す断面図である。
【0018】
工程(1)では、筒状金型4の上端開口と把持部材7との間に設けられた間隙20(図2(a)参照)に、環状ダイ2から熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物の熔融体が吐出される。筒状金型4および把持部材7は、図2(a)に示すように、環状ダイ2の吐出口2bと間隙20とが同等の高さになる位置に配置されている。また、ピストン3は、熱可塑性樹脂組成物のペレットを投入する空間を確保できる高さまで押し上げられている。工程(1)では、まず、環状ダイ2の投入口2cより常温のペレット(樹脂材料)を投入する。投入されたペレットは、環状ダイ2の流路2aで熔融され、熔融体となる。次に、ピストン3を押し下げることにより、熔融体が吐出口2bより間隙20に向かって連続して放射状に吐出される。なお、環状ダイ2で樹脂組成物を熔融する構成以外に樹脂組成物の熔融体を環状ダイ2に投入する構成であってもよい。
【0019】
次に、工程(2)においては、把持部材7を下降させて間隙20に吐出された熔融体30を筒状金型4と把持部材7とで挟持する。これにより、筒状金型4の内部空間と把持部材7の内部空間との間での気体の連通を遮断する(図2(b)参照)。本工程では、熔融体30を筒状金型4と把持部材7で挟持する際には、筒状金型4を上昇させてもよい。または、筒状金型4を上昇させ、把持部材7を下降させてもよい。すなわち、筒状金型4及び把持部材7から選ばれる少なくとも一方を互いに近づく方向に移動させて熔融体30を筒状金型4と把持部材7とで挟持する。
【0020】
次に、工程(3)では、筒状金型4と把持部材7とで熔融体の一端を挟持した状態、すなわち、筒状金型4の内部空間と把持部材7の内部空間との間での気体の連通を遮断した状態を維持する。その状態からさらに、ピストン3を所望の速度で押し下げて環状ダイ2から熔融体を半径方向に放射状に連続して吐出させつつ、環状ダイ2に対して、筒状金型4及び把持部材7を上昇させる。これによって、熔融体を筒状金型4の内壁に塗布していく。これにより、筒状の層1を筒状金型4の内壁に形成する(図2(c)参照)。工程(3)では、筒状金型4の温度は、不図示の温度センサ及びその検出結果に基づいて制御可能な不図示のヒータおよび冷却器によって樹脂組成物のガラス転移点以上、樹脂組成物の融点以下の温度範囲に調整することが好ましい。これは、筒状金型4の温度がガラス転移点以上、融点以下であることで、筒状の層1は筒状金型4の内壁に近接して徐々に冷却されるため結晶化度が高くなり強度を高めることができるためである。
【0021】
また、工程(3)では、ピストン3を押し下げる速度は吐出口2bからの熔融体の流出速度に対応しており、この流出速度と筒状金型4の上昇速度を制御することによって、筒状の層1の厚みを制御することができる。さらに、工程(3)では、筒状の層1を形成する際、筒状金型4および把持部材7に対して、環状ダイ2を下降させてもよい。または、筒状金型4および把持部材7を上昇させるとともに、環状ダイ2を下降させてもよい。すなわち、工程(3)では、環状ダイ2を筒状金型4及び把持部材7に対して軸方向に相対移動させることによって、筒状の層1を筒状金型4の内壁に形成すればよい。
【0022】
次に、工程(4)において筒状の層1を筒状金型4の内壁に密着させ、工程(5)において筒状の層1を固化させる(図2(c)参照)。具体的には、上記の工程(3)に引き続いて、または工程(3)と並行して、不図示の気体注入手段から注入口8より気体を注入させる(図2(c)参照)。すると、把持部材7の内部空間と筒状金型4の内部空間とは、これらの端部が熔融体30を挟持しているため気体の連通が遮断されているため、把持部材7と筒状の層1と環状ダイ2とで仕切られる内部空間50が加圧される。その結果、筒状の層1は、筒状金型4の内壁に密着させられることとなる。筒状の層1が筒状金型4の内壁に密着することで熔融体の筒状の層1は筒状金型4に熱を奪われ、冷却される。また、このとき、筒状金型4の温度を樹脂組成物の融点以下に調整することで、筒状の層1は固化し始める。一般的に、熱可塑性樹脂を含む熔融体が固化する際は収縮が起こるため、筒状の層1は筒状金型内壁から剥がれやすくなる。しかし、本実施形態では、工程(2)において筒状金型4の内部空間が密封され、工程(3)において筒状の層1は熔融体30の先端部から連続している。さらに、工程(4)において上述した内部空間50のみが加圧される。そのため、工程(4)では、筒状金型4の内壁と筒状の層1との隙間に気体が入り込まない。よって、注入口8から注入された気体で内部空間50を加圧することによって、筒状の層1を筒状金型4の内壁に密着させたまま固化させることが可能となる。その結果、筒状金型4の内壁の表面が、筒状の層1の外面に確実に転写される。さらに、筒状金型4の内壁に形成されることとなる、熔融樹脂の筒状の層の固化物の外径精度を筒状金型4の内径と同じレベルに安定させることが可能となる。
【0023】
なお、注入口8から注入される気体は、空気あるいは窒素ガスに代表される不活性ガスが望ましい。
【0024】
次に、筒状金型4の内壁に形成された樹脂組成物からなる筒状体を内壁から取り出す。具体的には、熔融体の筒状の層1が十分に固化した後、注入口8からの気体の注入を停止する。続いて、把持部材7を筒状金型4に対して上昇させ、把持部材7と筒状金型4とを離間させる。その後、不図示の取り出し手段を用いて筒状体を筒状金型4から取り出す。その後、筒状体からシームレスベルトを切り出す。
【0025】
上述した製造工程により得られたシームレスベルトの表面形状には、筒状金型4の内壁の表面が正確に転写されるため、表面形状が均一でムラが少ないシームレスベルトを低コストで製造できる。
【0026】
上述した方法において、筒状金型4を積極的に樹脂組成物のガラス転移温度以上、融点以下に温度制御せず、一般的な室温(25℃)程度の状態で行なうことも可能である。この場合、熔融体は、筒状金型4に付着して直ぐに固化し始める。筒状金型4が常温であったことで熔融体が急速に冷却され、結晶化が進行することなく固化するため、柔軟性が高く、屈曲疲労強度の高いシームレスベルトを得られる。
【0027】
本発明では、熱可塑性樹脂を主成分とする樹脂組成物は、シームレスベルトの用途に応じて慣用されているものを適宜選択すればよい。電子写真装置の中間転写ベルトや転写搬送ベルトに用いるシームレスベルトの場合に用いられる熱可塑性樹脂の具体例を以下に示す。例えば、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンサルファイド、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリエチレンテレフタレートが該当する。また、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリビスアミドトリアゾール、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン等も該当する。
【0028】
また、シームレスベルトの用途が電子写真装置の場合、その用途に応じて様々な添加材を分散させて機能を付与することがある。例えば、転写搬送ベルトや中間転写ベルトなどに使用する場合には、特に抵抗率制御を目的として無機添加材を分散させてもよい。無機添加材としては、カーボンブラック、黒鉛、金属、金属酸化物の微粉末が考えられる。この金属には、銅、スズ、アルミニウム、インジウム等が含まれる。また、金属酸化物の微粉末には、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化インジウム、酸化アンチモン、酸化ビスマス、アンチモンをドープした酸化スズ、スズをドープした酸化インジウム等が含まれる。無機添加材としては、カーボンブラックが特に望ましい。このカーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラックが含まれる。また、滑り性の付与を目的とした二硫化モリブデン等の潤滑性粒子や硬度向上等を目的とした二酸化ケイ素、酸化チタン等も用いることができる。
【実施例】
【0029】
(実施例1)
図1に示した構成を有するシームレスベルトの製造装置を用い、工程(1)〜(5)に沿って電子写真用シームレスベルトを製造した。
【0030】
前準備としてポリエーテルエーテルケトン(商品名:VICTREX PEEK;ビクトレックス(Victrex)社製)にアセチレンブラック(電気化学工業社製)を混合し、2軸成形機にて均一に混練して、樹脂ペレットを製造した。この樹脂ペレットの体積抵抗率は1×1010〜5×1010Ωcmである。この樹脂組成物のガラス転移点は約150℃、融点は約340℃であった。
【0031】
筒状金型4は、内径が290mm、軸方向の長さが420mmである。また、内壁の表面には、シームレスベルトの表面が、所定の表面粗さ[十点平均粗さ(Rzjis、JIS K0601−2001)=0.4μm]を有するように、当該表面粗さに対応した表面粗さを有するように表面処理した。また、不図示の温調手段により200℃に制御してある。把持手段7は、内径が290mm、軸方向の長さが250mmである。環状ダイ2のサイズは、最外径282mm、流路2aの幅10mm、吐出口2bの幅(スリット幅)1mmである。環状ダイ2の上方に貫通した穴(不図示)と投入口2cとが、ピストン3が上昇端に達した際に開通するようにしてある。また、環状ダイ2は不図示の温調手段により380℃に制御してある。
【0032】
まず、図2(a)に示すように、ピストン3を上昇端まで上昇させ流路2aに空間を確保し、環状ダイ2の投入口2cより流路2aに常温のペレットを適量投入してペレットを熔融させ、熔融体30とした。つぎに、筒状金型4および把持部材7を、両端部の間に10mmの間隙20があるように配置すると共に、当該間隙の位置と、環状ダイ2の吐出口の位置とが概略一致するように高さを調整した。
【0033】
次いで図2(b)に示すように、ピストン3を押し下げることにより、熔融体30を吐出口2bより間隙20に向かって連続して放射状に吐出した(工程(1))。その後、把持部材7を下降させて、間隙20に吐出された熔融体30を筒状金型4と把持部材7とで挟持した(工程(2))。
【0034】
次いで図2(c)に示すように、熔融体30を筒状金型4と把持部材7とで挟持した状態で、ピストン3を0.2mm/秒で下降させつつ、筒状金型4および把持部材7を15mm/秒で上昇させた(工程(3))。それと同時に把持部材7の注入口8から、把持部材7の内壁と、該熔融樹脂と、環状ダイ2とで構成された内部空間50に、圧縮空気を注入した(工程(4))。これにより筒状金型4の内壁に熔融体30の層を形成し、且つ、該層を筒状金型4の内壁に密着させた。このとき、筒状金型4は樹脂組成物の融点以下である200℃に温調されていたため、該層は筒状金型4の内壁に形成された際に徐々に熱を奪われ、固化して筒状の層1となった(工程(5))。
【0035】
400mmほど該層を形成した後、ピストン3の下降を停止し、該層を形成した筒状金型4および把持部材7をさらに上昇させて吐出口2bから連続していた該層を切断した。次いで、圧縮空気の注入を止め、把持部材7を筒状金型から離間させ、筒状金型4の内壁に形成された樹脂組成物からなる筒状体を取り出した。最後に、取り出した該層の両端を切断し、シームレスベルトを得た。
【0036】
上述した手順にて得られたシームレスベルトは、2本の平行ローラで張架しても歪みが見られず、肉厚100μmの安定した形状をしていた。また、流路に分岐および合流点がないことでウェルドラインの発生がなく、ベルト内の全面において均一な強度を示した。体積抵抗率としても面内の斑がなく成形できた。更に、筒状金型4をガラス転移点以上、融点以下に温度制御していたことで、結晶化度20%以上のシームレスベルトが得られ、引張り強度が高く、表面硬度の高いシームレスベルトが得られた。
【0037】
(実施例2)
本実施例では、筒状金型4の温度を120℃に制御し、その他の手順は実施例1に準じて電子写真用シームレスベルトを製造した。
【0038】
このようにして得られたシームレスベルトは、2本の平行ローラで張架しても歪が見られず、肉厚100μmの安定した形状が得られた。また、流路に分岐および合流点がないことでウェルドラインの発生がなく、ベルト内の全面において均一な強度を示した。体積抵抗率としても面内の斑がなく成形できた。更に、筒状金型4をガラス転移点以下に温度制御していたことで結晶化度10%以下のシームレスベルトが得られ、弾性が高く、屈曲耐久性に優れたシームレスベルトが得られた。
【符号の説明】
【0039】
1 筒状の層
2 環状ダイ
4 筒状金型
7 把持部材
20 間隙
30 熔融体
50 内部空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の円筒と、
該第1の円筒と同一の内径を有し、該第1の円筒と同軸を維持しつつ該第1の円筒に対して軸方向に相対的に移動可能な第2の円筒と、
該第1の円筒及び該第2の円筒と同軸に配置され、該第1の円筒及び該第2の円筒の少なくとも一方の内壁に近接して該第1の円筒及び該第2の円筒に対して軸方向に相対的に移動可能であり、かつ、熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物の熔融体を放射方向に吐出可能な環状ダイと、を具備しているシームレスベルトの製造装置を用いてシームレスベルトを製造する方法であって、
(1)該第1の円筒と該第2の円筒とを、該第1の円筒及び該第2の円筒の互いに対向する端部が間隙を有するように配置し、該間隙に該環状ダイから該熔融体を押し出す工程と、
(2)該間隙に押し出された該熔融体を、該第1及び第2の円筒の互いに対向する端部で挟持して、該第1の円筒と該第2の円筒との間での円筒内の気体の連通を遮断する工程と、
(3)該熔融体を挟持した状態で該第1及び該第2の円筒と、該環状ダイとを軸方向に相対移動させて該第1の円筒または該第2の円筒の内壁に該熔融体を塗布して該熔融体の筒状の層を形成する工程と、
(4)該筒状の層と、該第2または該第1の円筒の内壁とで少なくとも構成される空間に気体を充填し、該気体の圧力で該筒状の層を該第1の円筒または該第2の円筒の内壁に密着させる工程と、
(5)該筒状の層を固化させる工程と、を有することを特徴とするシームレスベルトの製造方法。
【請求項2】
第1の円筒と、
該第1の円筒と同一の内径を有し、該第1の円筒と同軸を維持しつつ該第1の円筒に対して軸方向に相対的に移動可能な第2の円筒と、
該第1の円筒及び該第2の円筒と同軸に配置され、該第1の円筒及び該第2の円筒の少なくとも一方の内壁に近接して該第1の円筒及び該第2の円筒に対して軸方向に相対的に移動可能であり、かつ、熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物の熔融体を放射方向に吐出可能な環状ダイと、を具備していることを特徴とするシームレスベルトの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−51307(P2011−51307A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−204664(P2009−204664)
【出願日】平成21年9月4日(2009.9.4)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】