説明

シールド管、シールドケーブル、シールド管の製造方法

【課題】 ポリオレフィン製管体やポリブチレンテレフタレート製管体等に対しても適用可能であり、また、優れた電磁シールド性を有するシールド管およびこの製造方法を提供する。
【解決手段】 樹脂管体である樹脂管11としては、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリブチレンテレフタレートなどの汎用エンジニアリングプラスチックを用いることができる。樹脂管11の外表面の全面には溶射Zn層13aが形成される。溶射Zn層13aは、2本のZn(またはZn−Al合金などのZn合金)ワイヤーに直流の電気を流しアーク放電させて溶解し、これをエア又は他のガスにてアトマイズして母材に付着させることで形成される。溶射Zn層13aの外表面全面には必要に応じてストライクめっき層13bが形成される。ストライクめっき層13bの外表面には電解めっき層13cが形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可撓性を有するとともに優れた電磁波シールド性を有し、特に電線などの電磁波シールド用などとして好適なシールド管およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な電子制御機器(以下、電子機器と略称する)が産業用や民生用などとして普及してきている。これに伴い、該機器から漏洩する電磁波が、各種電子機器の誤動作をもたらすことが多くなり、社会的な問題となってきている。特に、コンピュータや事務処理機器などから放射される電磁波がテレビや音響機器などに与える障害は著しいものとなっている。したがって、このような電磁波による障害の発生を防ぐために、電磁波の影響を受ける電子機器のみならず、電磁波の発生源となる電子機器においても、EMC(Electro−Magnetic Compatibility;電磁環境適合性)対応を施したハウジングに収容することが一般的となってきている。
【0003】
また、このような電子機器のみならず、電線のEMC対応も要求され始めている。特に、従来、あまりEMCとは関係のなかった自動車分野においても、自動車の電子化やハイブリッド電気自動車の普及に伴い、自動車内配線のEMC対応も必要とされてきている。また、このような電線のEMC対応として、例えば電線一つ一つにシールド材を巻く方法や、電線を束ねてシールド材を巻く方法などが提案されているが、これらの方法は、作業性、コスト面などから充分に満足しうる方法とはいえない。
【0004】
一方、電線の作業性の良い一般的な施工方法として、チューブやパイプの中に電線を這わす方法が多用されている。したがって、効率的な電線のEMC対応として、このチューブやパイプをめっきして、電線全体をシールドする方法が考えられる。
【0005】
しかしながら、該チューブやパイプは、一般に、成形性,強度,可撓性,価格などの面から、ポリオレフィンが使用されている場合が多い。ポリオレフィンは無極性であるため、ポリオレフィン製チューブやパイプをめっきすることは困難である。また、特にハイブリッド電気自動車での使用においては、耐熱性の要求からポリブチレンテレフタレート等の汎用エンジニアリングプラスチックの使用が好ましいが、一般的にこのような樹脂はポリオレフィン以上にめっきが困難である。
【0006】
ポリオレフィン製樹脂管にめっき処理を施した電磁シールド樹脂管としては、例えば、ポリプロピレン系樹脂に炭酸カルシウムを適量添加することによりめっき性を向上させた電磁波シールド用コルゲートチューブがある(特許文献1)。
【0007】
また、ポリオレフィン系樹脂に酸可溶性無機粉体及びカチオン系界面活性剤を適量添加することによりめっき性を向上させた樹脂管がある(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−173386号公報
【特許文献2】特開平10−185015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1、特許文献2のように、添加剤を樹脂に加えることは、めっき性を向上させる一方で難燃性や強度、耐熱性、剛性といった特性を損なうことになる。また、種々の添加剤を加えるためにはマスターバッチの作製が必要となり、コスト増の要因ともなる。
【0010】
また、上記の特許文献にはポリオレフィン製樹脂管へのめっき性を向上させる手段は開示されているが、ポリブチレンテレフタレート等の汎用エンジニアリングプラスチックについては、何ら開示されていない。さらに上記の特許文献では、プラスチックのめっき処理として無電解銅めっきが用いられているが、無電解めっきには有害な重クロム酸を用いたエッチング工程や、高価なパラジウム触媒を担持させる工程が必要とされ、環境や資源の面から必ずしも好ましい方法とは言えない。
【0011】
したがって、極力添加剤を加えないポリオレフィン製またはポリブチレンテレフタレート製の可撓性を有する樹脂管を作製し、それがもつ本来の特性を損なうことなく、また、無電解めっきを用いることなく金属皮膜が形成される電磁シールド樹脂パイプおよびその製造方法が望まれている。
【0012】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、ポリオレフィン製管体やポリブチレンテレフタレート製管体等に対しても適用可能であり、また、優れた電磁シールド性を有するシールド管およびこの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前述した目的を達成するため、第1の発明は、可撓性を有する樹脂管体と、前記樹脂管体の外周に形成されるシールド層と、を具備し、前記シールド層は、前記樹脂管体の外表面に溶射によって形成される溶射Zn層と、前記溶射Zn層の外周に形成される電解めっき層とを少なくとも具備することを特徴とするシールド管である。
【0014】
前記溶射Zn層の外表面であって前記電解めっき層の下地には、Cuストライクめっき層が形成されることが望ましい。なお、Cuストライクめっき層も電解めっき層の一種であり、電解めっき層の下地としてCuストライクめっき層を形成した場合であっても、溶射Zn層と電解めっき層とが接触していると称するものとして以下説明する。
【0015】
前記樹脂管体は、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリブチレンテレフタレートのいずれかであってもよい。
【0016】
前記溶射Zn層は10〜100μm厚であり、前記電解めっき層は5〜40μmであることが望ましい。
【0017】
前記電解めっき層は下層がCu層であり、上層がNiまたはCr層であってもよい。
【0018】
第1の発明によれば、樹脂管体の外表面に溶射Zn層が形成されるため、溶射Zn層が電解めっきの下地として機能する。このため、無電解めっきを施す必要がない。したがって、ポリオレフィンやポリスチレン、汎用エンジニアリング樹脂など樹脂管体の材質によらず、確実にシールド層を形成することができる。また、通常、吸水性を有するため、無電解めっきを行うことが困難であるナイロン等に対しても適用することができる。
【0019】
ここで、溶射Zn層とは、溶射によって形成されたZn層を指し、Zn層とは、純ZnのみならずZn合金(たとえば、Zn−Al合金など)による金属層をも含むものである。
【0020】
また、溶射Zn層が導電性を有するため、溶射Zn層もシールド特性にも寄与する。また、電解めっき層としてCuを用いた場合であっても、Cuが直接樹脂管体と接触しないため、Cuによる樹脂の銅害を確実に防止することができる。したがって、樹脂に対して通常添加される銅害防止剤が不要である。
【0021】
また、溶射Zn層を10〜100μm厚とし、電解めっき層を5〜40μmとすれば、シールド層と樹脂管体との密着性に優れ、優れたシールド特性を得ることができる。
【0022】
また、電解めっき層を複数層で構成し、Cuを下層として上層をNiまたはCrとすることで、外観にも優れ、耐食性にも優れるシールド管を得ることができる。
【0023】
なお、樹脂管体としては、波付管であっても直管であっても適用可能であるが、波付管とすることで、より高い可撓性を得ることができる。また、波付管に対しても、確実に溶射Zn層を形成することが可能である。
【0024】
第2の発明は、第1の発明にかかるシールド管を用い、前記シールド管の内部に電線が挿通され、前記シールド管の両端には前記電線と接続される端子部が設けられることを特徴とするシールドケーブルである。
【0025】
第3の発明は、可撓性を有する樹脂管体外表面に溶射によって溶射Zn層を形成し、前記溶射Zn層の外表面にCuストライクめっき層を形成し、前記Cuストライクめっき層の外表面にCu電解めっき層を形成することを特徴とするシールド管の製造方法である。前記Zn溶射層を形成する前に、前記樹脂管体の外表面に、サンドブラスト処理および洗浄による下地処理を行ってもよい。
【0026】
第2、第3の発明によれば、容易にシールド特性に優れるシールド管を製造することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、ポリオレフィン製管体やポリブチレンテレフタレート製管体等に対しても適用可能であり、また、優れた電磁シールド性を有するシールド管およびこの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】シールドケーブル1を示す図。
【図2】シールド管3を示す図で、(a)は斜視図、(b)は(a)のA部拡大断面図。
【図3】図2(b)のB部拡大図。
【図4】シールド管3の製造工程を示す図。
【図5】溶射機の概念図。
【図6】シールド管3のシールド特性の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態にかかるシールドケーブル1について説明する。図1は、シールドケーブル1を示す図である。シールドケーブル1は、主にシールド管3、端子7、電線9等から構成される。
【0030】
樹脂製の波付管から構成されるシールド管3内部には、電線9が挿通される。電線9の両端部は、電気的に端子7と接続される。端子7は、例えば自動車等のバッテリーとモータ等にそれぞれ設けられる端子部と接続可能である。なお、端子形状は、接続対象に応じて適宜設定される。
【0031】
図2は、シールド管3を示す図であり、図2(a)は斜視図、図2(b)は図2(a)のA部の断面拡大図である。シールド管3は、樹脂管11上にシールド層13が形成されて構成される。
【0032】
樹脂管体である樹脂管11としては、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリブチレンテレフタレートなどの汎用エンジニアリングプラスチックを用いることができる。また、吸水性の大きなナイロンのような樹脂であっても適用可能である。なお、本発明の電磁シールドパイプに用いる樹脂管11としては、図示したような波付管に限られず、剛性を有する管、可撓性を有する管、例えばスパイラルチューブやパイプ、各種異形チューブやパイプ、コルゲートチューブやパイプ、フレキシブル螺旋管などいずれの形状のものに対しても適用可能である。
【0033】
シールド層13は、樹脂管11の少なくとも外表面全面に対して形成される。図3は、図2(b)のB部拡大図である。シールド層13は、下層(波付管)側から順に、溶射Zn層13a、ストライクめっき層13b、電解めっき層13cから構成される。
【0034】
樹脂管11の外表面の全面には溶射Zn層13aが形成される。溶射Zn層13aは、2本のZn(またはZn−Al合金などのZn合金)ワイヤーに直流の電気を流しアーク放電させて溶解し、これをエア又は他のガスにてアトマイズして母材に付着させることで形成される。
【0035】
溶射Zn層13aの外表面全面には必要に応じてストライクめっき層13bが形成される。ストライクめっき層13bは、電解めっき層を形成する際の電解液によって、溶射Zn層が溶解することを防止するために形成されるものである。ストライクめっき層13bとしては、たとえばシアン化銅電解液を用いてストライクCuめっきとすればよい。ストライクめっき層は、例えば1〜5μm程度であればよい。薄すぎると、上述するストライクめっき層が不均一となり、上述する効果を十分に確保できない。また、ストライクめっき層が5μm程度であれば上記効果は十分に確保できるとともに、それ以上のメッキ厚さとするには時間を要し、後述する電解めっき層でめっき層を形成することが望ましいためである。
【0036】
ストライクめっき層13bの外表面には電解めっき層13cが形成される。電解めっき層13cとしては、硫酸塩溶液を電解液として、Cu、Ni、Crめっき等適宜選択することができる。なお、電解めっき層13cをさらに複数層で構成しても良い。たとえば、下層にCu電解めっきを行い、上層にNiまたはCr電解めっきを行っても良い。Cu上にNiをめっきすることで、高周波におけるシールド性向上に加え、Cuめっき表面の耐食性をより高めることができる。
【0037】
溶射Zn層13aの厚み(図中C)としては、10μm以上100μm以下であることが望ましい。溶射Zn層13aが薄すぎると、樹脂管11の全周に均一に皮膜を付けることができなくなる。また、溶射Zn層13aが厚すぎると、皮膜厚さのばらつきが大きくなると同時に、樹脂管11を曲げた際に皮膜が割れやすくなる。また、溶射Zn層13aの表面凹凸が大きくなり、後のストライクめっき工程で溶射Zn層13aを完全にCuでカバーすることができなくなる。このため、電解めっき中にZnがめっき液中に溶け出してしまう。また、溶射Zn層13aが薄すぎると、その後の電解めっきにムラが生じる恐れがある。なお、さらに望ましくは、20〜60μmである。
【0038】
なお、溶射材料としては、純亜鉛の他に6%〜15%程度のアルミニウムを添加したZn−Al合金を用いても良い。
【0039】
電解めっき層13cの厚み(図中D)は5μm以上40μm以下であることが望ましい。電解めっき層13cが薄すぎると、十分なシールド性を確保することができず、また、電解めっき層13cが厚すぎると、シールド管の曲げ時にめっき部に割れ等が生じる恐れがある。
【0040】
次に、シールド管3の製造方法について説明する。まず、例えば押出成形法などの公知の成形方法により、樹脂管11を成形する。次いで、樹脂管11の外表面に必要に応じて下地処理を行う。下地処理としては、サンドブラスト処理後に、クリーナー液による洗浄を行う。また、必要に応じてさらに、UVオゾン処理やプラズマ処理を適宜組み合わせて行っても良い。
【0041】
次に、樹脂管11の外周面に溶射を行う。図4は溶射工程の概念図であり、図5は溶射機15の構成を示す概念図である。図4に示すように、樹脂管11の全周にわたって溶射機15を用いてZnを溶射する。溶射機15は、樹脂管11表面(径方向)に対してやや角度をつけた状態で、樹脂管11の長手方向に相対的に移動する。なお、樹脂管11は所定速度で回転させる。
【0042】
すなわち、波付管11の全周にできるだけ均一な厚みの溶射Zn層13aが得られるように、波付管11の波型の形状に合わせて、溶射機15を波付管11の軸芯の垂直方向から45度程度まで適宜傾けて溶射を行う。
【0043】
図5に示すように、溶射機15の内部では、陽極側線材17aと陰極側線材17bとが一定の速度で先端方向に送られる。陽極側線材17aと陰極側線材17bとは、溶射機15の先端近傍で近接しアークによって溶融する。溶射機15の後方からは所定圧力のエア等が送られる。この際、アークによって溶融した溶融金属19が微粉化して吹き飛ばされる。吹き飛ばされた溶融金属19は被溶射物に付着して凝固し、金属層を形成することができる。
【0044】
なお、通常、このような溶射は金属表面に行うことが普通であり、樹脂表面に行うことは無いが、本発明者らは、樹脂表面に対しても溶射によって金属層を形成可能であることを見出だし、これをシールド管の電解めっき層の下層として利用したものである。
【0045】
このように溶射機15を樹脂管11に対して相対的に移動させながら、樹脂管11の全表面に溶射を行う。なお、樹脂管11が波付管であったとしても、溶射機15の角度を反転させて往復させることで、樹脂管11の全面に溶射Zn層を形成することができる。片側にそれぞれ樹脂管に対して所定角度で、複数の溶射機構15を設けるなどしても形成することができる。
【0046】
以上、本実施の形態によれば、溶射Zn層13aを形成することで、従来電解めっき層の下地として必要であった無電解めっきが不要である。したがって、生産性にも優れ、吸水性を有する樹脂をはじめ、無電解めっきが困難であった汎用樹脂を使用することができる。このため、ポリオレフィンやポリブチレンテレフタレートが有する加工性やフレキシブル性などの本来の特性を生かすことが可能である。
【0047】
また、溶射Zn層13aによって、電解めっき層13cにCuを用いても、Cuが直接樹脂と接触することが無い。このため、銅害の恐れが無い。ここで、金属がプラスチックに及ぼす元素別の影響度(樹脂の劣化など)は、
Co>Mn>Cu>Fe>V≫Ni>Ti≒Ca≒Ag≒Zn>Al>Mg
であることが知られている。すなわち、樹脂に対して影響の小さいZnやZn−Al合金を樹脂管11とCu層との間に入れることにより、Cuによる影響(銅害)を防止することができる。
【0048】
また、溶射Zn層13aと電解めっき層13cとの間にストライクめっき層13bを設けることで、たとえば硫酸銅溶液を電解液として電解めっき層13cを形成する場合であっても、電解液によって溶射Zn層が溶解することが無い。
【実施例】
【0049】
次に、各種条件の被検体を用い、シールド性およびシールド層(めっき層)の密着性を評価した。まず、樹脂管体のそれぞれの材質の樹脂を押出機により成形して、肉厚0.8mm、外径27mmの波付管を製造した。この波付管の表面を、それぞれの条件で下地処理を行った。その後それぞれの条件でシールド層を形成して、シールド層の密着性とシールド特性を評価した。結果を表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
表中の樹脂管体の材質の「PP」はポリプロピレン、「PBT」はポリブチルテレフタレート、「PA」は66ナイロンを示す。また、下地処理の「SB」はサンドブラストを示し、アルミナ粒子(フジランダムWA♯20)を用いた。また、下地処理の「クリーナー」は、荏原ユージライトSK−144を用いた。また、溶射層は、アーク溶射装置(Eutectic Model 8830MHU型)を用いてZnを溶射した。溶射時の電圧は20V、電流値は60〜100A、圧縮空気圧は60〜80psiで調整し、Zn膜厚が、コルゲートの谷の部分で10〜100μmになるようにした。
【0052】
また、ストライクめっきは、シアン化銅溶液中で数分間処理を行った。電解めっきは、硫酸銅、硫酸ニッケルまたは硫酸クロム溶液中で20〜60分間の電解めっき処理を行い、防錆液に浸してから乾燥させた。シールド性の評価は、吸収クランプ法で測定した。
【0053】
なお、比較例1は、樹脂管体の表面を、無水クロム酸−硫酸混液でプレエッチングした後、水酸化ナトリウム溶液にてエッチング処理を行った。次に、エッチング処理されたチューブ表面に、触媒として、塩化第一スズ・塩化パラジウムのコロイド粒子を吸着させ、アクセレーターとして硫酸処理によりSn成分を除去して金属パラジウムを析出させた。次に、無電解銅めっき処理を施すことにより、チューブ表面に均一に銅を析出させた。更に、銅表面の酸活性化と硫酸による酸化膜除去を行い、硫酸銅溶液中で20〜60分間の電解めっき処理を施し、防錆液に浸してから乾燥させた。
【0054】
また、比較例2は、樹脂管体の面を、クリーナー液(荏原ユージライトSK−144)で脱脂後、エッチング処理を行った。エッチャントには、TNエッチャント(奥野製薬工業)と塩酸の混合液を用いた。次に、エッチング処理されたチューブ表面に、触媒として、塩化第一スズ・塩化パラジウムのコロイド粒子を吸着させ、アクセレーターとして硫酸処理によりSn成分を除去して金属パラジウムを析出させた。次に比較例1と同様に、無電解銅めっき処理、電解銅めっき処理を施し、防錆液に浸してから乾燥させた。
【0055】
曲げ密着性は、R100mmで100回の折り曲げ試験を行い、めっきの剥離を目視で評価した。なお、曲げ試験において剥がれが生じなかったものを「○」とし、剥がれが生じたものを「×」とした。
【0056】
実施例1〜12は、いずれも、曲げ試験においても剥離が確認されず密着性に優れることが分かる。また、いずれも100kHz〜1GHzの電磁界に対して、共に60dB以上で満足しうる値であった。図6は、一例として実施例1のシールド特性の評価結果を示す。
【0057】
すなわち、本発明によれば、シールド層の高いシールド性と密着性を両立することが分かる。なお、実施例1〜10は、120℃のオーブン中に500時間曝露したが、銅による樹脂劣化は認められなかった。また、同様に、実施例11〜12は、160℃のオーブン中に500時間曝露したが、銅による樹脂劣化は認められなかった。
【0058】
一方、比較例1は40回の折り曲げでめっき膜の剥離が生じた。また、比較例2は80回の折り曲げでコルゲートチューブに割れが発生した。
【0059】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0060】
1………シールドケーブル
3………シールド管
7………端子
9………電線
11………樹脂管
13………シールド層
13a………溶射Zn層
13b………ストライクめっき層
13c………電解めっき層
15………溶射機
17a………陽極側線材
17b………陰側線材層
19………溶融金属

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有する樹脂管体と、
前記樹脂管体の外周に形成されるシールド層と、
を具備し、
前記シールド層は、前記樹脂管体の外表面に溶射によって形成される溶射Zn層と、前記溶射Zn層の外周に、Zn溶射層に接するように形成される少なくともCuを含む電解めっき層を具備することを特徴とするシールド管。
【請求項2】
前記溶射Zn層は10〜100μm厚であり、前記電解めっき層は5〜40μmであることを特徴とする請求項1記載のシールド管。
【請求項3】
前記電解めっき層は下層であるCu層と、上層であるNiまたはCr層である複層であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のシールド管。
【請求項4】
前記溶射Zn層の外表面であって前記電解めっき層の下地としてCuストライクめっき層が形成されることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のシールド管。
【請求項5】
前記樹脂管体は、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリブチレンテレフタレートのいずれかであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のシールド管。
【請求項6】
前記樹脂管体は、波付管であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載のシールド管。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載のシールド管を用い、前記シールド管の内部に電線が挿通され、前記シールド管の両端には前記電線と接続される端子部が設けられることを特徴とするシールドケーブル。
【請求項8】
可撓性を有する樹脂管体外表面に溶射によって溶射Zn層を形成し、
前記溶射Zn層の外表面にCuストライクめっき層を形成し、
前記Cuストライクめっき層の外表面にCu電解めっき層を形成することを特徴とするシールド管の製造方法。
【請求項9】
前記Zn溶射層を形成する前に、前記樹脂管体の外表面に、サンドブラスト処理および洗浄による下地処理を行うことを特徴とする請求項8記載のシールド管の製造方法。
【請求項10】
前記溶射Zn層は10〜100μm厚であり、前記電解めっき層は5〜40μmであることを特徴とする請求項8または請求項9記載のシールド管の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−151416(P2012−151416A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−10836(P2011−10836)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】