説明

シールド線の端末処理構造

【課題】シールド線の端末処理構造において、加締め作業とボルト締め作業を不要として作業性を向上させる。
【解決手段】金属製の環状シェル20は軸線方向の一端側に周方向に間隔をあけて切欠21を設けると共に金属製の環状ブラケット30との係止部24、26を備え、ブラケット30には外周面に雄ネジ31を形成すると共にシェル20と連動するが共回転不可に連結する被係止部33、35を備え、車体側金属材50の環状穴51にはブラケット30の雄ネジ31と螺着する雌ネジ56を形成し、シールド線12の端末露出部分にシェル20を外嵌し、シェル20の切欠21にシールド線12の網目を引っ掛けて先端を折り返してシールド線12をシェル20に接触させ、該シェル20に外嵌係止したブラケット30を金属材50の環状穴54にねじ込んでシールド線12を金属材50と導通させている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車に配索されるハーネスのシールド線の端末処理構造に関し、金属糸編組チューブからなるシールド線を簡単に接地できる構造としているものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等に配索されるハーネスとして、1本または複数のコア線を金属糸編組チューブからなるシールド線内に挿通したものや、該シールド線の外周を外皮で被覆したものが用いられている。
【0003】
前記ハーネスのシールド線の接地方法として、特開2004−178913号公報では、シールド線の端末を露出させ、該露出部の外周に環状の接続部材を加締め、該接続部材を外部の導体に導通させる方法が提案されている。
詳細には、図5(A)(B)に示すように、複数の電線1を内部に挿通したシールド部材2の端末を、その前端からシールドシェル3(接続部材)の筒部3aの外周に被せ、その外周に加締めリング4を外嵌めして加締めつけている。これにより、シールド部材2が前記筒部3aと加締めリング4との間で挟みつけられた状態で固定されると共に、シールド部材2とシールドシェル3とが導通接触する。さらに、図5(A)(C)に示すように、シールドシェル3に設けたボルト穴3bをシールドケース5のネジ穴(図示せず)に対応させ、該ボルト穴3bとネジ穴にボルト(図示せず)をねじ込んで締め付け固定することにより、シールド部材2はシールドシェル3を介してシールドケース5に導通させている。
【0004】
しかしながら、接続部材をシールド線に加締めつける作業は、加締め用設備と金型が必要であり、その形状も車種によって異なる。また、設備や金型の製作には条件設定などが必要でかなりの工数を要するうえ、費用がかかる点にも問題があった。
また、前記接地方法は、接続部材と外部導体とをボルト締めにより導通接触させているが、ボルト締め作業は工具を要し手間がかかるうえ、ボルトやナット等部品数が多くなる点でも作業性に問題があった。
【0005】
【特許文献1】特開2004−178913号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は前記問題に鑑みてなされたもので、シールド線の端末処理構造において、加締め作業およびボルト締め作業をなくして作業性向上および設備コスト削減を図ることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明は、ハーネスのシールド線の端末処理構造であって、
金属製の環状のシェルと、該シェルに外嵌係止する金属製の環状のブラケットを備え、前記シェルは軸線方向の一端側に周方向に間隔をあけてシールド線係止用の切欠を設けていると共に前記ブラケットとの係止部を備え、
前記ブラケットは、外周面に雄ネジを形成していると共に、前記シェルと連動すると共に回転不可に連結する被係止部を備え、かつ、
前記シェルとブラケットとの組み合わせ体を挿入する環状穴の内面に前記雄ネジと螺着する雌ネジを形成した車体側の金属材を備え、
1本または複数本のコア線を囲む金属糸編組チューブからなるシールド線の端末を備え、前記シールド線に金属製の環状のシェルを外嵌し、前記シールド線の先端を折り返して前記シェルの前記切欠に折り返したシールド線の網目を引っ掛けて保持すると共にシールド線をシェルに接触させ、
前記シェルとブラケットとの組み合わせ体を前記金属材の環状穴にねじ込んで装着して、前記シールド線を前記金属材と導通させていることを特徴とするシールド線の端末処理構造を提供している。
【0008】
前記構造によれば、シールド線と前記シェルとは、該シェルの前記切欠にシールド線の網目を引っ掛けることにより導通接触させることができるため、加締め作業を必要としない。従って、従来要した加締め用設備も金型も不要となり、種々の条件設定も必要なくなるため、工数とコストの削減が可能となる。
【0009】
また、前記シールド線または前記シェルと車体側金属材は、該シェルに外嵌係止されるブラケットを前記金属材にねじ込むことにより、直接接触し、あるいはブラケットを介して導通させることができる。しかも、前記シェルとブラケットとは、軸線方向へは連動するが共回転不可に連結されるため、ブラケットを金属材の環状穴にねじ込んでもシェルは回転せず、該シェルに係止されているシールド線は捩れることなく金属材の環状穴に固定され、コア線も捩れることなく環状穴を貫通することができる。
【0010】
このように、外周に雄ネジを形成したブラケットを、内周に雌ネジを形成した環状穴にねじ込んで金属材に固定し導通させることにより、ボルト締め作業が不要となり、すべての作業を工具を用いずに、作業員が手作業で行うことができるうえ、ボルトやナット等の部品も不要となるため、作業性を向上させることができる。
【0011】
前記車体側の金属材は、車体に固定したシールドケースまたは車体パネルからなる。
前記車体側の金属剤にはネジ穴を設ける必要があるため、車両に搭載される金属製機器に設けることが好ましく、該金属製機器を前記シールドケースと総称している。
【0012】
前記環状のシェルは、前記係止部として、前記切欠を設けた先端側と対向する基端側の外周面より突出するフランジの先端に折り返し突起を第1係止部として設けていると共に、軸線方向の中間位置の外周面より切り起こし部を第2係止部として設けている一方、
前記環状のブラケットは、前記被係止部として、前記シェルの折り返し突起に対して回転自在に嵌合する環状溝を第1被係止部として基端側の端面に設け、かつ、軸線方向の中間部の内周に前記シェルの切り起こし部を内嵌する凹部を第2被係止部として設け、
前記ブラケットの移動時に、前記切り起こし部の先端に凹部の基端側面が当接してシェルを連動させる構成としている。
これにより、シェルにブラケットを連動可能かつ共回転不可に装着する作業をワンタッチで行うことができ、作業性を一層高めることができる。
【発明の効果】
【0013】
上述したように、本発明によれば、シールド線の網目をシェル先端に設けた切欠に引っ掛けて折り返すことによって該シェルをシールド線に取り付け、互いに導通接触させることができるため、シールド線にシェルを加締める作業は不要となる。従って、加締め用の設備や金型が不要となるため、工数およびコストを削減することができる。
【0014】
また、シールド線またはシェルと車体側金属材とは、シェルに対して連動するが共回転不可に連結されたブラケットを金属材の環状穴にねじ込むことにより、直接接触する、あるいはブラケットを介して導通させることができる。従って、工具を要するボルト締め作業が不要となり、全作業を手作業で行うことができるうえ、ボルトやナット等の部品も不要となるため、これらの点からも作業性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1乃至図4に、本発明の第一実施形態に係るハーネスのシールド線の端末処理構造を示す。
ハーネス10は、図1(A)に示すように、複数本のコア線11を束ねた外周を金属糸編組チューブからなるシールド線12で囲み、該シールド線12の外周を絶縁樹脂層からなる外皮13で被覆している。
または、図1(B)に示すように、コア線11の外周をシールド線12で囲み、シース13を備えていないものからなる。
該ハーネス10は、コア線11を車体に搭載された電気機器(図示せず)に接続すると共に、シールド線12を自動車に搭載する金属製機器のケースからなるシールドケース50に導通して接地している。
【0016】
前記ハーネス10の端末部は外皮13を剥離してシールド線12を露出させ、該露出したシールド線12に金属製の環状のシェル20を外嵌している。
【0017】
前記シェル20は、図1および図3に示すように、軸線方向の先端側の全周に周方向に間隔をあけて複数の切欠21を設け、隣接する切欠21間に六角形状や三角形状等の両側に先端側が幅広で基部側に引っ掛け用の窪みを有する係止片22を拡径方向に突出させている。該シェル20は、図2に示すように、シールド線12の露出部分に外嵌し、該露出部分の網目を図3に示すように切欠21に引っ掛けて先端側をシェル20の外側に折り返すことにより、シールド線12に接触させて装着している。
【0018】
前記シェル20の前記先端側の反対側の基端側には、図2に示すように、外周面よりフランジ部23を突出させ、該フランジ部23の外周端を前記先端側へ屈曲させて折り返して突起24(第一係止部)を設けている。
シェル20の外周面25の軸線方向の中間位置には、図1にも示すように、周方向に間隔をあけて複数の切り起こし部26(第二係止部)を設けている。該切り起こし部26は、軸線方向先端側を支点26aとして基端側を切り起こして外方に突出させている。
【0019】
前記シェル20には金属製の環状のブラケット30を外嵌係止している。
該ブラケット30は、図1および図2に示すように、外周面に雄ネジ31を形成していると共に、該外周面の軸線方向基端側より、後述のシールドケース50より突設したシールド線接続部51の端面52に当接するフランジ部32を突設している。
該ブラケット30の、フランジ部32の基端側端面には、前記シェル20の折り返し突起24に回転自在に嵌合する環状溝33(第一被係止部)設けている。
【0020】
前記ブラケット30の内周側には、シェル20の先端部の拡径スペースとして、軸線方向先端側に環状凹部(先端環状凹部)34を凹設し、該環状凹部34を前記先端側に開口させている。また、軸線方向中間位置には、前記シェル20の切り起こし部26を回転自在に内嵌する中間環状状凹部35(第二被係止部)を設けている。
【0021】
シールド線12に装着した前記シェル20を、その先端側からブラケット30内に挿入すると、図4(A)に示すように、切り起こし部26はブラケット30の内周面に押圧されて縮径方向に弾性変形した後さらに挿入されることにより、図4(B)に示すように、ブラケット30の中間環状凹部35のところで弾性復元し、該中間環状凹部35に回転自在に内嵌し、ブラケット30に対する反挿入方向へのシェル20の位置ずれを規制する。同時に、シェル20の前記折り返し突起24がブラケット30の前記環状溝33に回転自在に嵌合し、ブラケット30に対する挿入方向への位置ずれを規制する。これにより、ブラケット30とシェル20は、回転方向には連動しないが挿入方向には連動し、かつ、抜け規制された状態で連結される。
【0022】
このように互いに連結されたブラケット30とシェル20の組み合わせ体40は、図4(B)(C)に示すように前記シールドケース50に取り付けられる。
シールドケース50の外面にはシールド線接続部51を突設し、該シールド線接続部51の中央部にコア線挿通穴53を貫通させていると共に、シールド線接続部51の端面52からは、コア線挿通穴53の外側に該コア線挿通孔53と同心の環状穴54を挿通方向に深く凹設している。該環状穴54の外側内周壁55には、ブラケット30の前記雄ネジ31と螺着する雌ネジ56を形成し、内側内周壁57には、奥端に向かって前記外側内周壁55への近接方向に傾斜するテーパー部58を設けている。
【0023】
シールド線12に装着したシェル20に外嵌係止したブラケット30をシールドケース50の前記環状穴54にねじ込むと、図4(B)(C)に示すように、シェル20の切り起こし部26の基端側端部26bにブラケット30の中間環状凹部35の基端側面35aが当接し、シェル20を回転させないで環状穴54内に押し込むことができる。これにより、シールド線12と導通接触したシェル20がブラケット30と接触し、該ブラケット30がシールドケース50と導通接触することにより、シールド線12をシールドケース50に導通させることができる。
【0024】
さらに、シェル20の先端側には、環状穴54内の前記テーパー部58が内側から拡径方向に圧接するため、該シェル20とシールドケース50とを直接接触させることができるうえ、該シェル20とテーパー部58との間にシールド線12を挟みつけて該シールド線12とシールドケース50とを直接的に導通接触させることも可能となる。
【0025】
このように、本発明では、シェル20に切欠21を設け、シールド線12の編組の特徴を利用してその網目を該切欠21に引っ掛けることによってシールド線12にシェル20を装着するため、従来の加締め作業が不要となる。従って、加締め用設備や金型、およびその設定が不要となるため、コストおよび工数を大幅に削減できる。
【0026】
また、前記切欠21間に設けた係止片22が両側に引っ掛け用の窪みを有する形状であるため、図3に示すように、シールド線12の網目を切欠21に差し込むときには差込口がテーパー状に開いているため差し込みやすく、一旦、切欠21に引っ掛けられた網目は、係止片22の窪みに入り込んで抜けにくい構造となっている。さらに、係止片22は拡径方向に突出しているうえ、環状穴54に挿入されたときに前記テーパー部58によってさらに押し広げられるため、シールド線12の網目が切欠21から抜け外れることを確実に防止できる。
【0027】
さらに、シェル20に外嵌係止したブラケット30に雄ネジ31を設け、シールドケース50の環状穴54内に該雄ネジ31と螺着する雌ネジ56を形成しているため、ブラケット30を環状穴54に手作業でねじ込むことができ、このねじ込み作業のみでブラケット30および該ブラケット30と連結したシェル20、さらに該シェル20に係止されたシールド線12をまとめてシールドケース50に固定することができる。従って、従来のボルト締め作業が不要となるうえ、ボルトやナット等の部品も不要となるため、作業性を向上させることができる。
【0028】
また、シェル20に切り起こし部26を設けているため、該シェル20とブラケット30とを連動可能かつ共回転不可に連結する作業を前記のとおり単純なワンタッチ作業で完了させることができる。
【0029】
なお、本発明は前記実施形態に限定されず、前記ブラケットと螺着するネジ穴を設けておき、シールド線12を車体パネルと導通させて接地させてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第一実施形態に係るシールド線の端末処理構造を示す分解斜視図である。
【図2】シールド線にシェルを装着した状態を示す要部断面図である。
【図3】シールド線を引っ掛けたシェル先端部を示す要部拡大平面図である。
【図4】(A)〜(C)は、シェルとブラケットとの組み合わせ体をシールドケースに取り付ける工程を示す要部断面図である。
【図5】(A)〜(C)は従来例を示す図である。
【符号の説明】
【0031】
10 ハーネス
11 コア線
12 シールド線
13 外被
20 シェル
21 切欠
24 折り返し突起(第一係止部)
26 切り起こし部(第二係止部)
30 ブラケット
31 雄ネジ
33 環状溝(第一被係止部)
35 中間環状凹部(第二被係止部)
50 シールドケース(金属材)
54 環状穴
56 雌ネジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハーネスのシールド線の端末処理構造であって、
金属製の環状のシェルと、該シェルに外嵌係止する金属製の環状のブラケットを備え、前記シェルは軸線方向の一端側に周方向に間隔をあけてシールド線係止用の切欠を設けていると共に前記ブラケットとの係止部を備え、
前記ブラケットは、外周面に雄ネジを形成していると共に、前記シェルと連動すると共に回転不可に連結する被係止部を備え、かつ、
前記シェルとブラケットとの組み合わせ体を挿入する環状穴の内面に前記雄ネジと螺着する雌ネジを形成した車体側の金属材を備え、
1本または複数本のコア線を囲む金属糸編組チューブからなるシールド線の端末を備え、前記シールド線に金属製の環状のシェルを外嵌し、前記シールド線の先端を折り返して前記シェルの前記切欠に折り返したシールド線の網目を引っ掛けて保持すると共にシールド線をシェルに接触させ、
前記シェルとブラケットとの組み合わせ体を前記金属材の環状穴にねじ込んで装着して、前記シールド線を前記金属材と導通させていることを特徴とするシールド線の端末処理構造。
【請求項2】
前記車体側の金属材は、車体に固定したシールドケースまたは車体パネルからなる請求項1に記載のシールド線の端末処理構造。
【請求項3】
前記環状のシェルは、前記係止部として、前記切欠を設けた先端側と対向する基端側の外周面より突出するフランジの先端に折り返し突起を第1係止部として設けていると共に、軸線方向の中間位置の外周面より切り起こし部を第2係止部として設けている一方、
前記環状のブラケットは、前記被係止部として、前記シェルの折り返し突起に対して回転自在に嵌合する環状溝を第1被係止部として基端側の端面に設け、かつ、軸線方向の中間部の内周に前記シェルの切り起こし部を内嵌する凹部を第2被係止部として設け、
前記ブラケットの移動時に、前記切り起こし部の先端に凹部の基端側面が当接してシェルを連動させる構成としている請求項1または請求項2に記載のシールド線の端末処理構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−153280(P2009−153280A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−327978(P2007−327978)
【出願日】平成19年12月19日(2007.12.19)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【Fターム(参考)】