説明

シール性艶消二軸延伸積層ポリエステルフィルム及びその製造方法

【課題】シール性に優れ、耐紫外線性を付与でき、製造が容易であり、巻取特性および加工特性に優れ、更に片面が艶消性である透明性に優れるシール性艶消二軸延伸積層ポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】ベース層Bと、シール性外層Aと、ベース層Bを基準にして外層Aの反対側に位置する他の艶消性外層Cとから成るシール性艶消二軸延伸積層ポリエステルフィルムであって、a)シール性外層Aが、シール性外層Aの重量を基準として0.01重量%以下の量の粒子を含有し、b)艶消性外層Cが、6〜30モル%のイソフタル酸単位を含有する共重合ポリエステルから成り、且つ、平均粒径d50が2〜10μmでSPAN98法で表される粒径分布が1.2〜2である粒子を、艶消性外層Cの重量を基準として1.0〜7.0重量%含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシール性艶消二軸延伸積層ポリエステルフィルムに関し、詳しくは、本発明は、シール性に優れ、温室や屋根などの屋外物品用にも好適に使用でき、金属表面にヒートシールすることにより金属表面の保護フィルムとして好適に使用でき、艶消性を有するため魅力的な外観を有する(特に金属表面に使用した場合)シール性艶消二軸延伸積層ポリエステルフィルムに関する。本発明は、更に、上記フィルムの製造方法およびその使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
片面がシール性を有し、他の片面が艶消性を有する二軸延伸ポリエステルフィルムはよく知られている。例えば、片側にシール性外層、他の片側に艶消層を有するシール性共押出積層ポリエステルフィルムが知られている(例えば、特許文献1参照)。このフィルムのシール性外層は、イソフタル酸単位とテレフフタル酸単位とを含有し、その表面形状も規定されている。反対側の艶消性外層は、不活性粒子を高い濃度(好ましくは1〜18重量%)で含有しており、ポリエチレンテレフタレート及び共重合ポリエステルから構成されている。そして、当該共重合ポリエステルは、イソフタル酸、脂肪族ジカルボン酸およびスルホモノマーの各単位を含有する。このフィルムは透明性に優れるが、製造コストが高い。すなわち、ポリエチレンテレフタレート又はその混合物中に高濃度の不活性粒子を含有させるため、高濃度で架橋されたポリマーの様になり、不活性粒子を含有しないポリマーと比較して、大きな延伸力を必要とする。従って、フィルムの製造工程において、フィルムの破断回数が増加する。また、この種のフィルムの比較として、シール性外層が粒子を含有しないフィルムの場合、フィルムの取扱性および加工性が悪く、実用的ではない。
【0003】
また、少なくとも1つのベース層Bと少なくとも1つの艶消性外層Aから成る片面艶消性共押出積層ポリエステルフィルムが知られている(例えば、特許文献2参照)。艶消性外層AはSPAN98で規定される粒径分布が2.0以下で平均粒径d50が2〜10μmである粒子を含有する。艶消性外層Aを構成するポリエステルは、ポリエステル中のジガルボン酸単位を基準にして4〜30モル%のイソフタル酸単位を有し、上記粒子の含有量は1.0〜7.0重量%である。この種のフィルムは製造が容易であるものの、シール性が不十分である。
【0004】
また、フィルムに紫外線吸収剤の様な耐紫外線化合物を含有させない場合、屋外で使用すると、短期間で太陽光線による光酸化分解が起こり、フィルムが黄変したり、機械的性質が低下したりする。そのため、耐紫外線性シール性二軸延伸ポリエステルフィルムが研究されている。
【0005】
例えば、耐紫外線性を有し、ベース層B、シール性外層A及び非シール性外層Cの3層から成るシール性二軸延伸ポリエステルフィルムが知られている(例えば、特許文献1参照)。この種のフィルムのシール性外層Aの最低シール温度は、通常110℃前後で、シールシーム強度は1.3N/15mm(フィルム幅15mm)以上である。更に、この種のフィルムにおいて、外層A及びC表面の表面形状が規定されており、有効量の紫外線吸収剤が含有されている。この種のフィルムと比較されるシール性外層Aに粒子を含有しないが、この場合、フィルムの取扱い性や加工特性が劣り、更に、片面に艶消性を付与した例が無い。
【0006】
また、1層以上のベース層とシール性外層と非シール性外層とから成るシール性共押出積層ポリエステルフィルムも知られている(例えば、特許文献2参照)。シール性外層はイソフタル酸単位とテレフフタル酸単位とを含有する共重合ポリエステルから成る。ベース層は、更に、紫外線吸収剤を0.1〜10重量%含有し、また、公知の耐ブロッキング剤を含有する。この種のフィルムは良好なシール性を有するが、加工特性が悪く、更に光学的特性にも欠点がある。この種のフィルムは、艶消性を有するもののヘーズは75%未満と高く、透明性が悪い。
【0007】
更に、片面がシール性を有し、他の片面が艶消性を有し、紫外線吸収剤を含有する二軸延伸ポリエステルフィルムも知られている(例えば、特許文献3参照)。このフィルムのシール性外層は、イソフタル酸単位とテレフフタル酸単位とを含有し、その表面形状も規定されている。反対側の艶消性外層は、不活性粒子を高い濃度(好ましくは1〜18重量%)で含有しており、ポリエチレンテレフタレート及び共重合ポリエステルから構成されている。そして、当該共重合ポリエステルは、イソフタル酸、脂肪族ジカルボン酸およびスルホモノマーの各単位を含有する。このフィルムは透明性に優れるが、製造コストが高い。すなわち、ポリエチレンテレフタレート又はその混合物中に高濃度の不活性粒子を含有させるため、高濃度で架橋されたポリマーの様になり、不活性粒子を含有しないポリマーと比較して、大きな延伸力を必要とする。従って、フィルムの製造工程において、フィルムの破断回数が増加する。また、このフィルムは2つの外層のみに紫外線安定剤を含有させているため、耐紫外線性が不十分である。また、この種のフィルムの比較として、シール性外層が粒子を含有しないフィルムの場合、フィルムの取扱性および加工性が悪く、実用的ではない。
【0008】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1219413号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第1442875号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第1125732号明細書
【特許文献4】欧州特許第0920381号明細書
【特許文献5】欧州特許出願公開第1274579号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、片面がシール性を有し、他の片面が艶消性を有し、好ましくは耐紫外線性を有し、上記の様な従来技術の問題点を解決した二軸延伸ポリエステルフィルムを提供することである。特に、当該二軸延伸ポリエステルフィルムは、(1)シール性表面同士のシール性の向上だけでなく、APET(非晶ポリエチレンテレフタレート)、CPET(結晶性ポリエチレンテレフタレート)、A/CPET(APETが内側面を、CPETが外側面を構成する2層積層体(例えば食品トレー))、金属面などとも良好なシール性を有すること、(2)耐紫外線性を有すること、(3)製造(特に延伸性)が容易であること、(4)巻取特性および加工特性に優れること、及び(5)光学的特性の改良(特にヘーズや艶消性)を目的とする。
【0010】
具体的に、優れたシール性とは、シール性外層Aのフィンシーリング(シール性外層A同士でのシール)における最低シール温度が、好ましくは110℃未満、更に好ましくは108℃未満、特に好ましくは106℃未満であり、シールシーム強度(シール温度:130℃)で測定したが、好ましくは1.5N/15mm以上、更に好ましくは1.6N/15mm以上、特に好ましくは1.7N/15mm以上であること;シール性外層AとAPET(非晶ポリエチレンテレフタレート)とのシールにおける最低シール温度が、好ましくは140℃以下、更に好ましくは139℃以下、特に好ましくは138℃以下であり、シールシーム強度(シール温度:140℃)が、好ましくは1.5N/15mm以上、更に好ましくは1.6N/15mm以上、特に好ましくは1.7N/15mm以上であることを意味する。更に、金属(アルミニウム、スチール、被覆スチール、クロムメッキスチール、亜鉛メッキスチール(トタン)、ブリキ)等の基材に対しても優れたシール性を有する。
【0011】
巻取特性や加工特性に優れる1例として、高速機械においても対応できることである。また、再生原料(例えば、製造工程において発生するフィルム端材など)をフィルムの重量に対して、通常60重量%以下の割合で押出工程に配合でき、それにより、本発明のフィルムの物性(物理的特性、光学的特性など)に悪影響を与えることはないことが好ましい。
【0012】
また、フィルムが屋外および/または屋内との境界部で使用される場合、優れた耐紫外線性が要求される。優れた耐紫外線性とは、太陽光照射または紫外線照射によりフィルムの劣化が極めてわずか、または実質的に起こらないことである。特に、数年間屋外物品として使用する場合に、着色、黄変、脆化、表面クラック、機械的性質の劣化などが起きないことが好ましい。更に、優れた耐紫外線性とは、フィルムが紫外線を吸収し、可視光領域までの紫外線領域の光を透過させないことである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために本発明者らは鋭意検討した結果、ベース層B、特定の構成を有するシール性外層A及び特定の構成を有する艶消性外層Cから成るシール性艶消二軸延伸積層ポリエステルフィルムにより上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち本発明の第1の要旨は、少なくとも1層のベース層Bと、シール性外層Aと、ベース層Bを基準にして外層Aの反対側に位置する他の艶消性外層Cとから成るシール性艶消二軸延伸積層ポリエステルフィルムであって、a)シール性外層Aが、シール性外層Aの重量を基準として0.01重量%以下の量の粒子を含有し、b)艶消性外層Cが、6〜30モル%のイソフタル酸単位を含有する共重合ポリエステルから成り、且つ、平均粒径d50が2〜10μmでSPAN98法で表される粒径分布が1.2〜2である粒子を、艶消性外層Cの重量を基準として1.0〜7.0重量%含有することを特徴とするシール性艶消二軸延伸積層ポリエステルフィルムに存する。
【0015】
本発明の第2の要旨は、第1の要旨に記載のシール性艶消二軸延伸積層ポリエステルフィルムの製造方法であって、当該製造方法は、共押出法によりシール性外層A、ベース層B及び艶消性外層Cから成る積層シートを得る工程と、得られた積層シートを二軸延伸して二軸延伸フィルムを得る工程と、得られた二軸延伸フィルムを熱固定する工程とから成ることを特徴とするシール性艶消二軸延伸積層ポリエステルフィルムの製造方法に存する。
【発明の効果】
【0016】
本発明のシール性艶消二軸延伸積層ポリエステルフィルムは、シール性(シール層同士だけでなく、APET、CPET、A/CPET及び金属基材などに対しても)に優れ、耐紫外線性を付与でき、製造が容易であり、巻取特性および加工特性に優れ、更に片面が艶消性である透明性に優れるフィルムであり、屋内だけでなく屋外の種々の用途に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明のフィルムは、ベース層B、シール性外層A及び艶消性(非シール性)外層Cの少なくとも3層から成る。好ましくは紫外線安定剤を含有する。
【0018】
ベース層B:
ベース層Bは90重量%以上の熱可塑性ポリエステルから成る。ベース層Bを構成する熱可塑性ポリエステルとしては、エチレングリコールとテレフタル酸から製造されるポリエチレンテレフタレート(PET)、エチレングリコールとナフタレン−2,6−ジカルボン酸から製造されるポリエチレン−2,6−ナフタレート(PEN)、1,4−ビスヒドロキシメチルシクロヘキサンとテレフタル酸から製造されるポリ(1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレート)(PCDT)、エチレングリコールとナフタレン−2,6−ジカルボン酸とビフェニル−4,4’−ジカルボン酸から製造されるポリ(エチレン2,6−ナフタレートビベンゾエート)(PENBB)が好ましい。特にエチレングリコールとテレフタル酸から成る単位またはエチレングリコールとナフタレン−2,6−ジカルボン酸から成る単位が90%以上、好ましくは95%以上のポリエステルが好ましい。
【0019】
上記のモノマー以外の残余のモノマー単位は、他のジオール及び/又はジカルボン酸から誘導されたモノマーである。
【0020】
共重合ジオールとしては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、HO−(CH−OHの式で示される脂肪族グリコール(nは3〜6の整数を表す、具体的には、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオールが挙げられる)、炭素数6までの分岐型脂肪族グリコール、HO−C−X−C−OHで示される芳香族ジオール(式中Xは−CH−、−C(CH−、−C(CF−、−O−、−S−、−SO−を表す)、式:HO−C−C−OHで表されるビスフェノールが好ましい。
【0021】
共重合ジカルボン酸としては、芳香族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸が好ましい。
【0022】
脂肪族ジカルボン酸の好ましい例としては、ベンゼンジカルボン酸、ナフタレン−1,4−又は−1,6−ジカルボン酸などのナフタレンジカルボン酸、ビフェニル−4,4’−ジカルボン酸などのビフェニル−x,x’−ジカルボン酸、ジフェニルアセチレン−4,4’−ジカルボン酸などのジフェニルアセチレン−x,x−ジカルボン酸、スチルベン−x,x−ジカルボン酸などが挙げられる。
【0023】
脂環式ジカルボン酸の好ましい例としては、シクロヘキサン−1,4−ジカルボン酸などのシクロヘキサンジカルボン酸が挙げられる。脂肪族ジカルボン酸の好ましい例としては、C−C19のアルカンジカルボン酸が挙げられ、当該アルカンは直鎖状であっても分岐状であってもよい。
【0024】
上記のポリエステルは、エステル交換反応により製造される。その出発原料は、ジカルボン酸エステルとジオール及び亜鉛塩、カルシウム塩、リチウム塩、マグネシウム、マンガン塩などの公知のエステル交換反応用触媒である。生成した中間体は、更に、三酸化アンチモンやチタニウム塩などの重縮合触媒の存在下で重縮合に供される。また、ポリエステルの製造は、出発原料のジカルボン酸とジオールに重縮合触媒を存在させて直接または連続的にエステル化反応を行う方法であってもよい。上記のポリエステルは、市販品を使用することも出来る。
【0025】
本発明のフィルムのベース層Bには、安定剤や粒子(耐ブロッキング剤、充填剤など)などの公知の添加剤を添加してもよい。安定剤としては、例えば、リン酸化合物やリン酸エステル等が挙げられる。
【0026】
上記の粒子(耐ブロッキング剤、充填剤など)としては、無機および/または有機粒子が挙げられ、具体的には、炭酸カルシウム、非晶シリカ、タルク、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、リン酸リチウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、アルミナ、LiF、ジカルボン酸のカルシウム、バリウム、亜鉛またはマンガン塩、カーボンブラック、二酸化チタン、カオリン、架橋ポリスチレン粒子、架橋アクリレート粒子などが例示される。
【0027】
なお、フィルムの低いヘーズを達成するという点から、ベース層Bは粒子を実質的に含有しないか、含有しても再生原料に由来する粒子のみを含有することが好ましい。
【0028】
シール性外層A:
シール性外層Aは共押出し法によりベース層B上に積層される。外層Aは、イソフタル酸、テレフタル酸およびエチレングリコールに由来する各単位を有する共重合ポリエステルから成る。上記のモノマー以外の残余のモノマー単位は、ベース層Bの項でも説明した脂肪族、脂環式、芳香族のジオール及びジカルボン酸である。良好なシール性を付与する共重合ポリエステルはエチレンテレフタレート単位およびエチレンイソフタレート単位から成る。各単位の割合は、通常60〜95モル%のエチレンテレフタレート単位および40〜5モル%のエチレンイソフタレート単位、好ましくは65〜90モル%のエチレンテレフタレート単位および35〜10モル%のエチレンイソフタレート単位、特に好ましくは70〜85モル%のエチレンテレフタレート単位および30〜15モル%のエチレンイソフタレート単位である。
【0029】
シール性外層Aは好ましくは0.01重量%以下の粒子を含有し、更に好ましくは実質的に粒子を含有しない。これにより、特に上記の構成成分から成るシール性外層Aにおいて、良好なシール性を付与することが出来る。即ち、粒子が存在しないことにより、シール性外層Aの表面付近に気泡が存在せず、シール性外層A表面の全面に渡ってシールを行うことが出来る。換言すれば、粒子が存在すると、粒子の角部が存在するために空洞部分が形成され、フィルムを積層してシールした際に不完全なシールとなり、更に光学的にも欠陥が生じる。シール性外層Aに粒子を含有させる場合、その粒子の具体例としては、ベース層Bで説明したものを採用できる。
【0030】
シール性外層Aのシール特性は共重合ポリエステルの化学組成、シール性外層Aの厚さ、表面形状などによって決定される。
【0031】
シール性外層Aのフィンシーリング(シール性外層A同士でのシール)における最低シール温度は、好ましくは110℃以下、更に好ましくは108℃以下、特に好ましくは106℃以下であり、シールシーム強度(シール温度:130℃)は、好ましくは1.5N/15mm以上、更に好ましくは1.6N/15mm以上、特に好ましくは1.7N/15mm以上である。また、シール性外層AとAPET(非晶ポリエチレンテレフタレート)とのシールにおける最低シール温度は、好ましくは140℃以下、更に好ましくは139℃以下、特に好ましくは138℃以下であり、シールシーム強度(シール温度:140℃)は、好ましくは1.5N/15mm以上、更に好ましくは1.6N/15mm以上、特に好ましくは1.7N/15mm以上である。通常、シール性外層Aを構成する共重合ポリエステルに無機また有機粒子を含有しない方が、シール特性を良好にすることができる。この場合、与えられた共重合ポリエステルとシール性外層Aの厚さの条件下で、最も低い最低シール温度および最も大きいシールシーム強度を達成することが出来る。なお、極めて少量の粒子を含有させることにより、シール性外層Aのブロッキングを防止することが出来る。粒子としては、ベース層Bで説明した耐ブロッキング剤粒子を使用することが出来る。
【0032】
艶消性外層C:
本発明に於て、艶消性外層Cは以下の様な特性を有する。すなわち、艶消性外層Cは、6〜30モル%のイソフタル酸単位を含有するポリエステルから成り、且つ、平均粒径d50が2〜10μmでSPAN98法で表される粒径分布が1.2〜2である粒子を、艶消性外層Cの重量を基準として1.0〜7.0重量%含有する。
【0033】
艶消性外層Cは、好ましくは6〜30モル%、更に好ましくは8〜28、特に好ましくは10〜26モル%のイソフタル酸単位を含有するポリエステルから成る。イソフタル酸単位以外の構成単位は、ベース層Bの項で説明した脂肪族、脂環式、芳香族のジオール及びジカルボン酸から成る単位である。上記範囲のイソフタル酸単位とベース層Bで使用するポリエステルから成るポリエステルが特に好ましい。なお、ここで、上記範囲のイソフタル酸単位を有するとは、上記範囲のイソフタル酸単位とベース層Bで使用するポリエステルとの共重合ポリエステルであっても、イソフタル酸単位が上記範囲となるようなイソフタル酸単位を有するポリエステルとベース層Bで使用するポリエステルとの混合物であってもよい。したがって、その調製方法としては、上記範囲のイソフタル酸単位を有する共重合ポリエステルを直接使用しても、種々のポリエステルをマスターバッチ使用して混合し、イソフタル酸単位を上記範囲となるように調節してもよい。
【0034】
艶消性外層Cを構成する好ましいポリエステルとしては、テレフタル酸単位とイソフタル酸単位とエチレングリコール単位とから成る共重合ポリエステルであり、その構成比は、ジカルボン酸成分として、テレフタル酸単位が70〜94モル%、好ましくは74〜92モル%、更に好ましくは76〜90モル%で、イソフタル酸単位が28〜6モル%、好ましくは26〜8モル%、更に好ましくは24〜10モル%であることが好ましい。
【0035】
艶消性外層Cを構成するポリエステルで、更に残余部分が有る場合、ベース層Bを構成するポリエステルの構成単位から成ることが好ましい。
【0036】
艶消性外層Cを構成するポリエステルとして上記のような原料ポリエステルを使用することにより、得られるフィルムのヘーズを大幅に低くすることが出来、また、フィルムを安定して製造することが出来る。艶消性外層Cに本発明と同じ程度の量の粒子を含有する同種類の公知のフィルムと比較して、フィルム製造工程におけるフィルム破断回数を大幅に減少させることが出来る。なお、図1からも明らかなように、イソフタル酸単位の含有量を適宜選択することにより、延伸応力を大幅に低くすることが出来る。
【0037】
艶消性外層Cに上記の粒子を上記範囲内で含有させることにより、所望の艶消性を達成することが出来る。艶消性外層Cに含有させる粒子の平均粒径d50は、2〜10μm、好ましくは2.2〜9μm、更に好ましくは2.4〜8μm、特に好ましくは2.6〜7μmである。粒子の平均粒径d50が2μmより小さい場合、粒子濃度と比較してヘーズが高くなる。粒子の平均粒径d50が10μmを超える場合、異物除去のためのフィルターに問題が生じる。
【0038】
艶消性外層Cに含有させる粒子のSPAN98法で表される粒径分布は、1.2以上、2以下、好ましくは1.9以下、更に好ましくは1.8以下である。粒子のSPAN98法で表される粒径分布が2.0を超える場合、艶消性外層Cのグロスが大きくなり、艶消性が達成できなくなる。粒子のSPAN98法で表される粒径分布が1.2未満の場合、フィルムの巻取性が悪化し、フィルムのブロッキングが起こりやすくなる。
【0039】
艶消性外層Cに含有させる粒子の含有量は艶消性外層Cの重量を基準として1.0〜7.0重量%、好ましくは、2.0〜6.5重量%、更に好ましくは3.0〜6.0重量%である。艶消性外層Cに含有させる粒子の含有量が1,0重量%未満の場合、艶消性が十分ではなく、7.0重量%を超える場合、ヘーズが高くなる。
【0040】
艶消性外層Cに好ましい艶消性を付与する上記の粒子としては、無機および/または有機粒子が挙げられ、具体的には、炭酸カルシウム、非晶シリカ、タルク、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、リン酸リチウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、酸化アルミニウム、フッ化リチウム、ジカルボン酸のカルシウム、バリウム、亜鉛またはマンガン塩、カーボンブラック、二酸化チタン、カオリン、架橋ポリスチレン粒子、架橋アクリレート粒子などが例示される。
【0041】
艶消性外層Cには、上記の粒子に加えて、他の粒子を添加してもよい。ただし、他の添加粒子は、上記に規定する艶消性を付与する粒子に対し、平均粒径d50が小さいことが好ましい。上記に規定する艶消性を付与する粒子の平均粒径d50及び/又はSPAN98法で表される粒径分布が上記の規定範囲内ではない場合、および、上記の規定範囲内の粒子が存在しない場合、上述の問題が生じる。
【0042】
艶消性を付与する上記の粒子としては、合成シリカ粒子(コロイド状)が好ましい。コロイド状非晶シリカ粒子はポリマーマトリックス中に良好に分散し、気泡が出来にくい利点がある。気泡は通常二軸延伸の際に生じ、ヘーズを高くするため本発明に於ては好ましくない。
【0043】
合成シリカ粒子(シリカゲルを含む)は、通常、反応条件を制御しながら、硫酸とナトリウムシリケートを混合することによってハイドロゾルの形態で得ることができる。最終的に、硬く透明で塊状のハイドロゲルとなる。複生成物の硫酸ナトリウムを水洗にて除去し、乾燥した後加工する。得られたシリカゲルの重要な物性値としては、孔体積、孔径および表面積であり、これらは水洗に於けるpHや乾燥条件によって調製される。本発明で規定される平均粒径d50及びSPAN98法で表される粒径分布を有する合成シリカ粒子を得るためには、シリカゲルを機械的または流体力学的に粉砕して調製することが好ましい。なお、合成シリカ粒子は、Grace社(米国)、Fuji社(日本)、Degussa社(ドイツ)およびIneos社(英国)より入手することが出来る。
【0044】
本発明に於て、艶消性外層Cの表面粗度Raは、好ましくは150nm以上1000nm、更に好ましくは175nm以上950nm、特に好ましくは200nm以上900nmである。艶消性外層Cの表面粗度Raが150nm未満の場合は、艶消性が十分でない場合があり、1000nmを超える場合はフィルムの光学特性が悪化することがある。
【0045】
艶消性外層Cの摩擦係数(C側表面/C側表面)は、好ましくは0.45未満、更に好ましくは0.40未満、特に好ましくは0.35未満である。
【0046】
紫外線安定剤:
本発明の積層ポリエステルフィルムは、紫外線安定剤を含有することが好ましい。紫外線安定剤としては、ポリエステルに加えるための有機または無機の紫外線安定剤から選択することが出来る。好ましい紫外線安定剤の詳細については、国際特許出願WO98/06575号公開公報、欧州特許第0006686号公開公報、欧州特許第0031202号公開公報、欧州特許第0031203号公開公報および欧州特許第0076582号公開公報に記載されている。
【0047】
本発明で使用する紫外線安定剤は、光安定剤であって、通常化学的化合物であり、紫外線を吸収することにより、物理的または化学的光分解プロセスを抑制する。カーボンブラック、酸化チタン、酸化亜鉛(例えば欧州特許第1368405号参照)およびその他の顔料は、幾分、光保護効果を有する。しかしながら、これらは顔料であるため、フィルムの色が変化してしまい、透明フィルムに使用することはできない。したがって、透明フィルムで使用する紫外線安定剤は、有機化合物または有機金属化合物であって、添加による色の変化がほとんど無く、熱可塑性樹脂に可溶である安定な化合物であることが好ましい。
【0048】
上記の目的で使用される紫外線安定剤は、好ましくは波長180〜380nm、より好ましくは波長280〜360nmの紫外線を、好ましくは70%以上、更に好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上吸収する化合物であることが好ましい。さらに、260〜300℃の温度範囲で、熱的に安定で、分解等が起こらず、ガスの発生が無い化合物であることが好ましい。
【0049】
紫外線安定剤の具体例としては、2−ヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシベンゾトリアゾール類、有機ニッケル化合物、サリチルエステル類、シンナムエステル誘導体、レゾルシノールモノベンゾエート類、オキサニリド類、ヒドロキシ安息香酸エステル類、ヒンダードアミン類およびトリアジン類が挙げられ、中でも2−ヒドロキシベンゾトリアゾール類およびトリアジン類が好ましい。
【0050】
紫外線安定剤の含有量は、配合する各層のポリエステルの重量を基準として、通常0.01〜5.0重量%、好ましくは0.1〜4.0重量%、更に好ましくは1.5〜2.5重量%である。
【0051】
好ましい実施態様としては、紫外線安定剤として、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−ヘキシロキシフェノール又は2,2’−メチレンビス(6−(2Hベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール)を、各層のポリエステルの重量を基準として、0.01〜5.0重量%含有するのが好ましい。上記の紫外線安定剤は2種以上を組合せて使用してもよく、その場合の紫外線安定剤の総含有量は、各層における熱可塑性ポリエステルの重量を基準として、好ましくは0.01〜5.0重量%である。
【0052】
紫外線安定剤は、好ましくは少なくともベース層Bおよび(非シール性)艶消性外層Cに配合する。必要であれば、シール性外層Aに配合してもよい。紫外線安定剤の含有量はそれの含有されている層を基準とする。
【0053】
上記の3層フィルムの場合、ベース層Bおよび艶消性外層Cに紫外線安定剤を含有させることで、Atlas Ci 65 Weather−Ometerを使用し、ISO 4892に準じて測定した耐候性テストにおいて、公知のフィルムと比較して十分な耐紫外線改良効果が認められる。
【0054】
本発明のフィルムは、屋外で5〜7年フィルムを曝したのと同じ耐候性テストにおいて、黄変が認められず、フィルムの脆化も起こらず、表面グロス値の低下も起きず、表面のクラックも生じず、機械的性質の劣化も認められない。紫外線安定剤は、熱可塑性ポリマーの製造時またはフィルム製造時の押出機に添加される。
【0055】
紫外線安定剤はマスターバッチ法により添加されることが特に好ましい。先ず、紫外線安定剤を固体キャリアーに分散させる。キャリアー材としては、ポリエチレンテレフタレート等の熱可塑性樹脂それ自身でもよく、またはこれらと十分に相溶性がよい他のポリマーを使用してもよい。フィルム製造のための熱可塑性樹脂に紫外線安定剤を添加した後、押出中にマスターバッチの構成成分が融解し、熱可塑性樹脂に紫外線安定剤が溶解する。
【0056】
紫外線安定剤を含有するマスターバッチにおける紫外線安定剤の含有量は、マスターバッチの総重量を100重量%として、2.0〜50.0重量%、好ましくは5.0〜30.0重量%である。
【0057】
マスターバッチ法においては、マスターバッチ内の粒子の粒径や嵩密度と、熱可塑性樹脂の粒子の粒径や嵩密度とが同様であることが好ましい。これにより、紫外線安定剤の均一分散が達成され、均一な耐紫外線性が達成できる。
【0058】
本発明の積層フィルムの艶消性外層C側のグロス(入射光60°)は、好ましくは70未満、更に好ましくは60未満、特に好ましくは50未満である。このようなフィルム表面は、宣伝的な用途に使用するフィルムとして極めて優れており、特にスチール板に外側面を形成するように積層した場合に極めて効果的である。
【0059】
本発明の積層フィルムのヘーズは、好ましくは45%未満、更に好ましくは40%未満、特に好ましくは30%未満である。本発明の積層フィルムの透明度は、好ましくは80%より大きく、更に好ましくは84%より大きく、特に好ましくは88%より大きい。本発明のフィルムは、後述する比較例に示す様な公知の単層艶消フィルムと比較して、ヘーズが低く透明性が高い。そのため、逆印刷によって極めて容易に認識できる印刷を行うことが出来る。
【0060】
シール性外層Aの厚さは、通常0.4μmを超え、好ましくは0.5〜10.0μm、より好ましくは0.8〜9.0μm、更に好ましくは1.0〜8.0μmである。
【0061】
艶消性外層Cの厚さは、通常0.4μmを超え、好ましくは0.5〜10.0μm、より好ましくは0.8〜9.0μm、更に好ましくは1.0〜8.0μmである。外層A及びCの厚さは同一でも異なっていてもよい。
【0062】
本発明のポリエステルフィルムの厚さは、広い範囲をとることができ、通常5〜100μm、好ましくは6〜90μm、より好ましくは7〜80μmである。ベース層Bの厚さがフィルム全体の厚さの5〜90%を占めることが好ましい。
【0063】
本発明のフィルムは、紫外線安定剤を添加することにより優れた耐紫外線性を示し、低いヘーズにもかかわらず、艶消性外層C側表面はグロスが低く、透明性が高い。さらに、巻取特性や加工特性にも優れる。
【0064】
フィルムの製造方法:
次いで本発明のフィルムの製造方法について説明する。本発明のフィルムは公知の共押出法によって製造でき、共押出法によりシール性外層A、ベース層B及び艶消性外層Cから成る積層シートを得る工程と、得られた積層シートを二軸延伸して二軸延伸フィルムを得る工程と、得られた二軸延伸フィルムを熱固定する工程とから成る。具体的には、ベース層B、シール性外層A及び外層C用の原料ポリマーをそれぞれ別々の押出機に供給し、各層をフラットフィルムダイを介して共押出することにより溶融シートを得、冷却ロール及び必要であれば他のロールを使用して溶融シートを引取り、固化して積層シートを得、得られた積層シートを長手方向および横方向に二軸延伸して二軸延伸フィルムを得、得られた二軸延伸フィルムを熱固定する各工程から成る。必要であれば、フィルムの表面にコロナ処理または火炎処理を施してもよい。
【0065】
具体的には、先ず、個々の層の溶融ポリマー又はポリマー混合物を各層の押出機に供給し、圧縮−可塑化を行い、必要であれば各添加剤を添加してこの段階でポリマーに混合する。フラット−フィルムダイを介して各溶融ポリマーを同時に共押出し、1つ又は複数の冷却ロール及び引取りロールを使用して押出積層体を引取り、冷却、固化して積層アモルファスシートを得る。
【0066】
通常、二軸延伸は連続的に行われる。この場合、初めに長手方向(機械方向)に延伸し、次いで横方向(機械方向に対して垂直方向)に延伸するのが好ましい。これにより分子鎖が配向する。通常、長手方向の延伸は、延伸比に対応する異なる回転速度を有する2つ以上のロールを使用して行われ、横手方向の延伸はテンターフレームを使用し、フィルムの端部を挟み、より高い温度にて応力をかけて行われる。
【0067】
延伸時の温度は、所望とするフィルムの物性によって決定され、広い範囲で選択できる。通常、長手方向の延伸は80〜130℃の温度で、横方向の延伸は90〜150℃温度で行われる。長手方向の延伸比は、通常2.5:1〜6.0:1、好ましくは3.0:1〜5.5:1である。横方向の延伸比は、通常3.0:1〜5.0:1、好ましくは3.5:1〜4.5:1である。
【0068】
次いでフィルムの熱固定を行う。熱固定は150〜250℃の温度において0.1〜10秒間行われる。フィルムは公知の方法で巻取られる。
【0069】
熱固定した2軸延伸ポリエステルフィルムの艶消性(非シール性)外層C側表面にコロナ処理または火炎処理を施してもよい。これらの処理は、フィルムの表面張力が、通常50mN/mを超える強度となる様に行われる。
【0070】
フィルムに他の所望の物性を付与するため、フィルム表面に塗布層を形成してもよい。代表的な塗布層としては、接着促進層、帯電防止層、易滑層、離型層などが挙げられる。この様な塗布層は、横延伸を行う前に水分散剤を使用したインラインコーティングによって好適に形成される。
【0071】
本発明のフィルムは、片面がシール性を有し、他の片面が艶消性を有し、シール性にすぐれ、紫外線安定剤を添加することにより、優れた耐紫外線性および耐候性を示し、製造が容易であり、加工特性に優れ、光学的特性にも優れている等の多くの利点を有する。シール性外層Aは、シール性外層Aそれ自身とのシール性に優れているだけでなく、艶消性外層Cとのシール性にも優れており、更に、APET(非晶ポリエチレンテレフタレート)、A/CPET(結晶ポリエチレンテレフタレート)、CPET、金属(アルミニウム、スチール、被覆スチール、クロムメッキスチール、亜鉛メッキスチール(トタン)、ブリキ)等の基材に対しても優れたシール性を有する。そのため、本発明のフィルムは、種々のセクター(仕切り板)に使用することが出来る。
【0072】
本発明のフィルムは、上述の様に種々の特性を合わせ持っているため、種々の分野への応用が可能である。例えば、インテリア被覆材、展示用スタンド材、展示用必需品、ディスプレイ、プラカード、機械や自動車などの保護カバー、光仕切り板、店舗における必需品、広告用品、上記の材料に使用される積層材などへ好適に応用できる。
【0073】
本発明のフィルムに耐紫外線性を付与した場合は、屋外で使用される分野への応用も可能である。例えば、温室、広告塔部材、屋根、屋外で使用される物品の被覆材、物品のカバー、鉄板などの金属面の保護材、建築用仕切り材、広告照明部材などへ好適に応用できる。
【0074】
本発明のフィルムは、非反射性(非光沢性)である艶消層C側表面を有し、且つ、透明性が高いフィルムである。更に、本発明のフィルムは、再生原料(例えば、製造工程において発生するフィルム端材など)をフィルムの重量に対して、通常60重量%以下の割合で押出工程に配合させることができる。再生原料の添加によって、本発明のフィルムの物性に悪影響を与えることはない。
【0075】
更に、本発明のフィルムは、その優れた性質、特に優れたシール性、加工性を十分に発揮した可撓性包装フィルムに特に好適に使用できる。特に、高速包装機に好適に使用できる。
【0076】
本発明のフィルムの特性を下記表1に纏めて示す。
【0077】
【表1】

【実施例】
【0078】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。以下の実施例に於て使用した測定方法を以下に記す。
【0079】
(1)平均粒径d50
平均粒径d50はMalvern Master Sizer(Malvern Instruments社製、英国)を使用したレーザーによる一般的な方法で測定した(Horiba LA 500(堀場製作所社製)又はHelos(Sympathec GmbH社製、ドイツ)装置でも基本的に同一の測定である)。水を入れたセルにサンプルを入れ、試験装置にセットする。試験は自動的に行われ、粒径d50の数学的な計算も一緒に行われる。
【0080】
粒径d50の値は、累積粒径分布曲線から決定する。図2に累積粒径分布曲線を示す。50%におけるd50の値を求めた。
【0081】
(2)SPAN98の測定:
粒径分布を示すSPAN98は、上記の平均粒径d50の測定で使用した装置を使用して測定した。SPAN98は以下の式で表される。
【0082】
SPAN98=(d98−d10)/d50
【0083】
98及びd10は、それぞれ、図3に示した累積粒径分布曲線の98%および10%における粒径である。図3にd98及びd10の該当箇所を示す。
【0084】
(3)APETに対するシールシーム強度:
図4に示す様な方法で測定した。100mm(長さ)×15mm(幅)のフィルムと既成食品用トレーのAPET側とを重ね合わせてシール温度140℃、シール時間0.5秒、シール圧3barでシールした(使用装置:HSG/ET(Brugger社製、ドイツ、シールジョーは相互に行った)。次いで、図4に示す様に、フィルム(1)のシールされていない端部およびAPET/CPETトレー(2)の端部を応力測定器(例えばC−FR1.0TH.D09 Universal test machine、Zwick社製、ドイツ)の治具(3)に固定し、矢印方向に23℃で200mm/分の速度で、シール部分に対して180°方向に応力をかけ、シール部分が剥離する際の応力を測定する。シールシーム強度の標記は、応力(N)/フィルムの幅(15mm)で表す。
【0085】
(4)APETに対する最低シール温度の決定:
Brugger HSG/ETシール装置を使用して熱シールした試料(シール合わせ目=15mm×100mm)を作成した。シールは、異なる温度で、2つの加熱したシール挟みを使用し、3barのシール圧で、シール時間0.5秒で行った。シール部分に対して上記の応力測定器を使用して180°方向に応力をかけ、シール部分が剥離する際の応力を測定する。シールシーム強度が0.5N/15mmに達した際の温度を最低シール温度とした。
【0086】
(5)シール性外層A同士のシールシーム強度(フィンシーリング):
100mm(長さ)×15mm(幅)のフィルムを2つ重ね合わせてシール温度130℃、シール時間0.5秒、シール圧2barでシールした(使用装置:HSG/ET(Brugger社製、ドイツ、シールジョーは片側のみ加熱)。シールシーム強度は、23℃で200mm/分の速度(2・90°)で、T型剥離試験により測定した。
【0087】
(6)APETに対する最低シール温度の決定:
Brugger HSG/ETシール装置を使用して熱シールした試料(シール合わせ目=20mm×100mm)を作成した。シールは、異なる温度で、2つの加熱したシール挟みを使用し、2barのシール圧で、シール時間0.5秒で行った。シールした試料を15mm幅に切断した後、上記と同じ条件でT型剥離試験によりシールシーム強度を測定した。シールシーム強度が0.5N/15mmに達した際の温度を最低シール温度とした。
【0088】
(7)ヘーズ:
フィルムのヘーズは、ASTM−D 1003−52に準じて測定した。
【0089】
(8)グロス値:
グロス値はDIN 67530に準じて測定した。反射率を、フィルム表面の光学的特性として測定した。ASTM−D 523−78及びISO 2813を基準とし、入射角を20°(光沢面)または60°(艶消面)とした。
【0090】
(9)標準粘度SV:
ポリエステルの標準粘度SV(DCA)はジクロロ酢酸中25℃でDIN 53726に従って測定した。ポリエステルの固有粘度IVは、標準粘度SV値を使用して以下の式より算出した。
【0091】
IV=[η]=6.907・10−4SV(DCA)+0.063096[dl/g]
【0092】
(10)摩擦係数:
摩擦係数は、製造後14日後に、DIN53375に準じて測定した。
【0093】
(11)耐候性(両表面)、耐紫外線性:
耐紫外線性は以下の表2に示す条件で、ISO 4892に示される方法によりテストを行った。
【0094】
【表2】

【0095】
(12)色差:
上記の耐候性の試験を行ったフィルムに対し、DIN 5033に従い、分光計を使用して色差を測定した。基準からの偏差が大きいほど、色差が大きくなる。色差値が0.3以下の場合、目立った色差が無いことを示す。
【0096】
(13)黄変指数:
黄変指数(YID)は黄色方向への色の偏差をDIN 6167に従って測定した。黄変指数が5未満の場合は目視により黄変が認められない。
【0097】
(14)加工特性の評価:
フィルムの加工特性は、スチール板上にフィルムを積層し、以下の基準で評価した。
【0098】
【表3】

【0099】
(15)製造工程におけるフィルム破断:
フィルム製造工程において、単位時間当たりのフィルムの破断回数を、公知フィルムの製造におけるフィルムの破断回数と比較し、%で示した。
【0100】
実施例1:
以下の表4に示すポリエチレンテレフタレートチップを含有水分量が100ppm未満となるように150℃で乾燥し、ベース層B用の押出機に投入した。更に、以下の表4に示すポリエチレンテレフタレート及びシリカ粒子を含有する共重合ポリエステルを、同様に乾燥し、艶消性外層C用の押出機に投入した。
【0101】
これとは別に、シール性外層A用ポリエステルとして、マンガンをエステル交換反応の触媒として使用し(マンガン濃度:100ppm)、エチレンテレフタレート単位78モル%とエチレンイソフタレート単位22モル%とから成る直鎖上共重合ポリエステルをエステル交換反応にて得た。得られた共重合ポリエステルを100℃で乾燥し、含有水分量を200ppm未満にした後、シール性外層A用の押出機に供給した。
【0102】
共押出した後、以下の表5に示す条件で長手方向、横方向の延伸を行い、更に熱固定を行って総厚み25μmのABC型3層透明積層フィルムを得た。各層の構成を以下の表4に示す。
【0103】
【表4】

【0104】
フィルムの製造条件を以下の表5に示す。
【0105】
【表5】

【0106】
得られたフィルムは、目的とする低いグロス、低いヘーズおよび優れたシール性を有していた。また、フィルムの破断回数を増加させることなく、容易にフィルムを製造することが出来た。フィルムは目的とする操作特性および加工特性を有していた。フィルムの構成および評価結果を表7に示す。
【0107】
更に、フィルム(以下の実施例および比較例についても)の耐候性(両表面)、耐紫外線性について、上記に記載のISО 4892法に従い、Atlas Ci 65 Weather−Ometerを使用して、1000時間耐候性試験を行った。得られたフィルムについて機械的性質、着色、表面欠陥、ヘーズ及びグロスを再度測定した。得られた結果から、耐候性試験前の性能をほぼ維持していることが確認された。
【0108】
実施例2:
シール性外層Aの厚さを1.5μmから2.0μmに、ベース層の厚さを22.0μmから21.5μmに変更した以外は実施例1と同様の操作でフィルムを作成した。得られたフィルムは、シール性が改良されていた。特にシールシーム強度が大きく向上した。フィルムの構成および評価結果を表7に示す。
【0109】
実施例3:
シール性外層Aの厚さを2.5μmに、ベース層Bの厚さを20.5μmに、艶消性外層Cの厚さを2.0μmに変更した以外は実施例1と同様の操作でフィルムを作成した。得られたフィルムは、得られたフィルムは、シール性が改良されていた。また、艶消性も若干改良が認められた。フィルムの構成および評価結果を表7に示す。
【0110】
実施例4:
艶消性外層Cの構成を以下の表に示す様に変更し、ベース層Bの厚さを21.5μmに、艶消性外層Cの厚さを2.0μmに変更した以外は実施例1と同様の操作でフィルムを作成した。フィルムの構成および評価結果を表7に示す。
【0111】
【表6】

【0112】
【表7】

【0113】
実施例5:
以下の表8に示すポリエチレンテレフタレートチップ及び紫外線安定剤を含有するポリエチレンテレフタレートを含有水分量が100ppm未満となるように150℃で乾燥し、ベース層B用の押出機に投入した。更に、以下の表8に示すポリエチレンテレフタレート、紫外線安定剤を含有するポリエチレンテレフタレート及びシリカ粒子を含有する共重合ポリエステルを、同様に乾燥し、艶消性外層C用の押出機に投入した。
【0114】
これとは別に、シール性外層A用ポリエステルとして、マンガンをエステル交換反応の触媒として使用し(マンガン濃度:100ppm)、エチレンテレフタレート単位78モル%とエチレンイソフタレート単位22モル%とから成る直鎖上共重合ポリエステルをエステル交換反応にて得た。得られた共重合ポリエステルを100℃で乾燥し、含有水分量を200ppm未満にした後、シール性外層A用の押出機に供給した。
【0115】
上記で使用した紫外線安定剤としては、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−(ヘキシル)オキシフェノール(Tinuvin(登録商標)1577)をマスターバッチの形式で添加した。マスターバッチは20重量%のTinuvin 1577と80重量%のポリエチレンテレフタレートから成っていた。マスターバッチの配合量は以下の表8に示す。
【0116】
共押出した後、実施例1〜4と同じ条件で長手方向、横方向の延伸を行い、更に熱固定を行って総厚み25μmのABC型3層透明積層フィルムを得た。各層の構成を以下の表8に示す。
【0117】
【表8】

【0118】
得られたフィルムは、目的とする低いグロス、低いヘーズおよび優れたシール性を有していた。また、フィルムの破断回数を増加させることなく、容易にフィルムを製造することが出来た。フィルムは目的とする操作特性および加工特性を有していた。フィルムの構成および評価結果を表11に示す。
【0119】
更に、フィルム(以下の実施例および比較例についても)の耐候性(両表面)、耐紫外線性について、上記に記載のISО 4892法に従い、Atlas Ci 65 Weather−Ometerを使用して、1000時間耐候性試験を行った結果、得られたフィルムについて機械的性質、着色、表面欠陥、ヘーズ及びグロスを再度測定した。得られた結果から、耐候性試験前の性能をほぼ維持していることが確認された。
【0120】
実施例6:
シール性外層Aの厚さを1.5μmから2.0μmに、ベース層の厚さを22.0μmから21.5μmに変更した以外は実施例5と同様の操作でフィルムを作成した。得られたフィルムは、シール性が改良されていた。特にシールシーム強度が大きく向上した。フィルムの構成および評価結果を表11に示す。
【0121】
実施例7:
シール性外層Aの厚さを2.5μmに、ベース層Bの厚さを20.5μmに、艶消性外層Cの厚さを2.0μmに変更した以外は実施例5と同様の操作でフィルムを作成した。得られたフィルムは、得られたフィルムは、シール性が改良されていた。また、艶消性も若干改良が認められた。フィルムの構成および評価結果を表11に示す。
【0122】
実施例8:
艶消性外層Cの構成を以下の表に示す様に変更し、ベース層Bの厚さを21.5μmに、艶消性外層Cの厚さを2.0μmに変更した以外は実施例5と同様の操作でフィルムを作成した。フィルムの構成および評価結果を表11に示す。
【0123】
【表9】

【0124】
比較例1:
実施例5において、シール性外層Aの構成を以下の表に示す様に変更した以外は実施例1と同様の操作でフィルムを作成した。このフィルムは巻取性や加工特性が若干向上したものの、シール性および光学的特性が大きく悪化した。フィルムの構成および評価結果を表12に示す。
【0125】
【表10】

【0126】
比較例2:
欧州特許公開第0035835号の実施例1を追試した。得られたフィルムは、シール性、光学的特性フィルム破断特性に於て本発明の実施例と比較して大きく劣っていた。また、フィルムのヘーズが高かった。フィルムの構成および評価結果を表12に示す。
【0127】
比較例3:
欧州特許公開第1219413号の実施例1を追試した。得られたフィルムは、シール性、光学的特性フィルム破断特性に於て本発明の実施例と比較して大きく劣っていた。また、フィルムのヘーズが高かった。フィルムの構成および評価結果を表12に示す。
【0128】
【表11】

【0129】
【表12】

【図面の簡単な説明】
【0130】
【図1】ポリエステル中のイソフタル酸単位の含有量と延伸応力の関係を示す図
【図2】粒子の累積粒径分布曲線のd50を示した図
【図3】粒子の累積粒径分布曲線のd98及びd10を示した図
【図4】180°剥離法によるシールシーム強度の測定を示す模式図
【符号の説明】
【0131】
1:フィルム
2:APET/CPETトレー
3:治具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース層Bと、シール性外層Aと、ベース層Bを基準にして外層Aの反対側に位置する他の艶消性外層Cとから成るシール性艶消二軸延伸積層ポリエステルフィルムであって、a)シール性外層Aが、シール性外層Aの重量を基準として0.01重量%以下の量の粒子を含有し、b)艶消性外層Cが、6〜30モル%のイソフタル酸単位を含有する共重合ポリエステルから成り、且つ、平均粒径d50が2〜10μmでSPAN98法で表される粒径分布が1.2〜2である粒子を、艶消性外層Cの重量を基準として1.0〜7.0重量%含有することを特徴とするシール性艶消二軸延伸積層ポリエステルフィルム。
【請求項2】
フィルムのヘーズが45%未満である請求項1に記載のポリエステルフィルム。
【請求項3】
ベース層Bが熱可塑性ポリエステルから成る請求項1又は2に記載のポリエステルフィルム。
【請求項4】
ベース層Bを構成するポリエステルの90モル%以上がエチレンテレフタレート単位又はエチレン−2,6−ナフタレート単位から成る請求項1〜3の何れかに記載のポリエステルフィルム。
【請求項5】
ベース層Bを構成するポリエステルがエチレンテレフタレートである請求項1〜4の何れかに記載のポリエステルフィルム。
【請求項6】
シール性外層Aが、エチレンテレフタレート単位とエチレンイソフタレート単位とから成る共重合ポリエステルから成る請求項1〜5の何れかに記載のポリエステルフィルム。
【請求項7】
シール性外層Aを構成する共重合ポリエステルが、60〜95モル%のエチレンテレフタレート単位と40〜5モル%のエチレンイソフタレート単位とから成る共重合ポリエステルである請求項6に記載のポリエステルフィルム。
【請求項8】
艶消性外層Cに含有される粒子がSiО粒子である請求項1〜7の何れかに記載のポリエステルフィルム。
【請求項9】
シール性外層Aが実質的に粒子を含有しない請求項1〜8の何れかに記載のポリエステルフィルム。
【請求項10】
シール性外層Aの厚さが0.5〜10μmである請求項1〜9の何れかに記載のポリエステルフィルム。
【請求項11】
APET基材に対するシール性外層Aの最低ヒートシール温度が140℃以下である請求項1〜10の何れかに記載のポリエステルフィルム。
【請求項12】
シール性外層A側表面の入射角20°におけるグロス値が130を超える請求項1〜11の何れかに記載のポリエステルフィルム。
【請求項13】
更に、ベース層B及び艶消性外層Cに紫外線安定剤を含有する請求項1〜12の何れかに記載のポリエステルフィルム。
【請求項14】
請求項1〜13の何れかに記載のシール性艶消二軸延伸積層ポリエステルフィルムの製造方法であって、当該製造方法は、共押出法によりシール性外層A、ベース層B及び艶消性外層Cから成る積層シートを得る工程と、得られた積層シートを二軸延伸して二軸延伸フィルムを得る工程と、得られた二軸延伸フィルムを熱固定する工程とから成ることを特徴とするシール性艶消二軸延伸積層ポリエステルフィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−160933(P2007−160933A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−331891(P2006−331891)
【出願日】平成18年12月8日(2006.12.8)
【出願人】(596099734)ミツビシ ポリエステル フィルム ジーエムビーエイチ (29)
【Fターム(参考)】