説明

ジイソブチレンプロセス

この発明はイソブチレンからジイソブチレンを製造する方法である。本方法は、スルホン酸型イオン交換樹脂を使用して先ずイソブチレンをジイソブチレンにオリゴマー化することを含む。オリゴマー化工程に続いて、オリゴマー化中に生成した硫黄不純物を除去するためジイソブチレン生成物を吸着剤と接触させる。吸着剤はゼオライトXおよびゼオライトYなどの細孔の大きなゼオライトである。精製されたジイソブチレンは、オプションで水素化触媒を使用してイソオクタンに水素化できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はイソブチレンからジイソブチレンを製造する方法に関する。本方法はスルホン酸型イオン交換樹脂を使用して先ずイソブチレンをジイソブチレンにオリゴマー化することを含む。オリゴマー化工程に続いて、オリゴマー化中に生成した硫黄不純物を除去するため、ジイソブチレン生成物を吸着剤と接触させる。吸着剤はゼオライトXまたはゼオライトYなどの細孔の大きなゼオライトである。精製されたジイソブチレン生成物は、オプションで水素化触媒を使用してイソオクタンに水素化できる。
【背景技術】
【0002】
スルホン酸型イオン交換樹脂触媒を使用するイソブチレンなどのオレフィンのオリゴマー化は技術上周知である。たとえば米国特許第4,100,220号は、スルホン酸樹脂触媒およびt−ブタノール選択性向上調節剤を使用するイソブチレンのオリゴマー化について記載している。さらに米国特許第4,447,668号はメチルt−ブチルエーテルを溶媒としてスルホン酸樹脂触媒A−15を使用するイソブチレンのオリゴマー化を開示している。さらに、米国特許第5,877,372号は、スルホン酸樹脂触媒、t−ブタノール選択性向上調節剤およびイソオクタン稀釈剤を使用するイソブチレンの選択的オリゴマー化について説明している。最後に、米国特許第6,376,731号は、オリゴマー化の選択性を向上させるためのC3〜C4アルカン稀釈剤、およびジイソブチレンへの選択性を増進するためのt−ブタノールの存在下でイソブチレンのオリゴマー化を開示している。
【0003】
ジイソブチレン生成物は、米国特許第5,877,372号および第6,376,731号に記載のように、それ自体で使用することができるし、あるいは水素化してイソオクタンにしてもよい。ジイソブチレンとイソオクタンは有力な燃料配合組成物である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
驚いたことに、発明者はオリゴマー化工程中にスルホン酸型のイオン交換樹脂触媒を使用するとジイソブチレン生成物中に硫黄不純物を生じることを見出した。あいにく、そのような硫黄不純物の存在はジイソブチレン生成物の用途に問題を提起する。イソオクタンを生成させるジイソブチレンの水素化の場合、ジイソブチレン中に硫黄不純物が存在すると水素化触媒の失活を引き起す。燃料の流れに直接加えられたジイソブチレン生成物にとってこれらの不純物を含む燃料の燃焼は、有害で腐蝕性のある酸化硫黄を放出し、したがって深刻な公害問題をもたらすので、硫黄不純物の存在は望ましくない。米国環境保護局(U.S.Environmental Protection Agency)は、この問題を軽減するため、燃料中の硫黄の量を減らすためのますます厳格な必要事項を課している。硫黄不純物量の減少したジイソブチレンを製造する簡潔な方法を開発することが望まれる。
【0005】
要約して云えば、スルホン酸型イオン交換樹脂触媒によるイソブチレンのオリゴマー化によってジイソブチレンを製造する新規な方法が必要である。特に必要なのは硫黄不純物の含量が少くなる方法である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明はジイソブチレンを製造するための方法である。本方法はスルホン酸型イオン交換樹脂上でイソブチレンをオリゴマー化してジイソブチレンを製造する予備的工程を含む。次いで硫黄不純物を除去するためジイソブチレンを細孔の大きなゼオライトと接触させる。オプションにより水素化触媒の存在下で精製したジイソブチレン生成物を水素化してイソオクタンにすることもできる。発明者は吸着剤を使用するとジイソブチレン生成物中の硫黄不純物含量が少なくなることを発見した。さらに、水素化の前に吸着剤を使用するとオプションの水素化工程の触媒寿命が延びるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の方法はスルホン酸型イオン交換樹脂触媒によってイソブチレンをオリゴマー化してジイソブチレンを製造することを含む。スルホン酸樹脂触媒はよく知られている。スルホン酸樹脂触媒の商業的な例はAmberlyst A−15、Purolite 275、Dowex 50などを含む。スルホン酸樹脂触媒を使用するイソブチレンのオリゴマー化は技術上よく知られており、米国特許第4,100,220、 4,447,668、 5,877,372および6,376,731に説明されている。
【0008】
イソブチレンのオリゴマー化は、通常、二量体への極めて高い反応選択性が達成されるオリゴマー化反応条件で、イソブチレンのフィードをRohm & HaasのAmberlyst A−15のようなスルホン酸樹脂触媒と接触させることによって行われる。一般に該オリゴマー化反応では少量の三量体も生成する。通常、転化したイソブチレンの10%未満がトリイソブチレン共生成物に転化する。一般に、既知のオリゴマー化条件がオリゴマー化工程で使用できる。好適な条件として温度は広く0℃〜200℃の範囲、好ましくは10℃〜100℃の範囲で、圧力は液相を保つのに十分な圧力、例として50psig超、たとえば50〜500psigの使用が含まれる。
【0009】
イソブチレンのフィードは、米国特許第5,625,109、 3,510,538、 4,165,343、および4,155,945に記載されているように、t−ブタノールの脱水からのラフィネート流れやイソブチレンを含む任意のイソブチレンソースを含むことができる。オキシラン法によるt−ブチルアルコールの製造は周知であり、工業的規模で広く実施されている。たとえば米国特許第3,351,635を参照されたい。
【0010】
オリゴマー化工程中、イソブチレンはそのまままたはある種の稀釈剤の存在下でオリゴマー化反応器に供給することができる。稀釈剤の存在が好ましい。選択性向上調節剤としてt−ブタノールを使用するのが好ましい。t−ブタノールの使用については米国特許第4,100,220号、5,877,372号および6,376,731号に教示されている。さらに、イソブチレンフィードの濃度を減らすことによって反応選択性をさらに向上させるためと反応熱の除去を促進するため、C3〜C10アルカン稀釈剤の使用が好ましい。アルカン稀釈剤の使用に関しては米国特許第5,877,372号および6,376,731号に教示されている。
【0011】
オリゴマー化生成物はジイソブチレンならびに若干の未反応イソブチレンとトリイソブチレン共生成物を含んでいる。慣用の方法を用いてイソブチレンからジイソブチレンを分離することが必要であろう。イソブチレンがジイソブチレン生成物から分離される場合は、このイソブチレンをオリゴマー化反応器にリサイクルして戻すことができる。
【0012】
発明者らはオリゴマー化したジイソブチレン生成物がスルホン酸樹脂触媒からの微量の硫黄不純物を含むことを見出した。これらの硫黄不純物は、ジイソブチレン生成物を燃料添加物として使用する場合は望ましくない。さらに、ジイソブチレンをイソオクタンに水素化する場合、触媒を繰返し使用するかまたは連続方法で使用すると硫黄不純物が水素化触媒の性能を徐々に劣化させる傾向がある。それ故硫黄不純物の除去は本発明方法の重要な局面をなす。
【0013】
この発明はオリゴマー化したジイソブチレン生成物から硫黄不純物の除去を含む。吸着剤を使用して固−液抽出方法による精製は技術上周知である。通常の抽出では、ジイソブチレンを液相中で1つ以上の固体吸着剤と接触させる。本発明に有用な吸着剤はゼオライトXまたはゼオライトYのような細孔の大きなゼオライトを含む。
【0014】
本発明の細孔の大きなゼオライトはジイソブチレンオリゴマー化生成物中に含まれる硫黄不純物の除去に有効である。本発明に使用される細孔の大きなゼオライトは約6オングストロンを超える細孔サイズを有する結晶性アルミノシリケート(aluminosilicate)であり、好ましくは約6〜約15オングストロンの平均細孔サイズを有する。特に好ましいのはゼオライトXおよびゼオライトYである。効果的な不純物除去を提供するため、細孔の大きなゼオライトは酸型よりはアルカリ金属(たとえばナトリウム)型の方が好ましい。細孔の大きなゼオライトは技術上よく知られている。
【0015】
吸着性の接触は、温度が決定的要因ではないけれども、中くらいの温度で都合よく実施される。好適な温度は約0℃〜150℃、好ましくは20℃〜60℃の範囲にある。約0.2〜10容積のジイソブチレン/単位容積の吸着剤/単位時間の流速、好ましくは1〜5が望ましい。
【0016】
細孔の大きなゼオライトは吸着した硫黄不純物を保留して硫黄不純物の少ないジイソブチレンをもたらす。当初は、硫黄不純物を実質上完全に除去することができ、回収したジイソブチレンは特にすぐれた純度である。時間が経つにつれてこの接触固体はこれらの成分の除去に対して徐々に効果が少くなる。好ましくは、抽出工程はオリゴマー化したジイソブチレン生成物から50%以上の硫黄分を除去する。より好ましくは、硫黄分の約70%超が抽出中に除去される。抽出後、燃料の流れを分離し、既知の方法を使用して回収する。
【0017】
本発明にしたがって、分離効率が望ましい点以下に低下する予定した時間に、200℃以上の温度の窒素または空気などの加熱ガス流と接触させるか、またはメタノール、アセトンあるいは水などの溶媒で洗うことによって細孔の大きなゼオライトが効果的に再生される。一方のゾーンが再生されている間にフレッシュなまたは再生された接触物質を含むゾーンをフィードが通過し、その結果最適な不純物除去が達成できるように複数の平行する接触ゾーンを使用することが有利である。
【0018】
硫黄不純物の抽出、および硫黄不純物の量が減少したジイソブチレンの分離と回収に続いて、このジイソブチレンはオプションでイソオクタンに水素化される。水素化工程は慣用方法を使用して実施できる。たとえば、ジイソブチレンを適度な温度および圧力で液相中水素と接触させることができる。好適な反応温度は0℃〜500℃と変るが、好ましくは25℃〜200℃である。反応は好ましくは大気圧以上で行われる。厳密な圧力は重要ではない。通常の圧力は1気圧〜100気圧の範囲で変化する。ラネーニッケルおよび担持ニッケル、パラジウムおよびプラチナ触媒を含むがこれらに限定されない任意の適当な水素化触媒を使用できる。ニッケル、パラジウムおよびプラチナの好適な担体としては炭素、シリカ、アルミナ、硅藻土などが含まれる。水素化は溶媒の存在下または溶媒なしで実施できる。水素化に続いて、イソオクタン分離のため水素化触媒や溶媒(存在する場合)を慣用方法で除去することによりイソオクタン生成物を回収できる。
【0019】
水素化反応は、水素化方法に対する技術上既知の任意慣用の反応器構造を使用して実施できる。連続でも回分操作でも使用できる。たとえば、触媒は固定床またはスラリーの形態で配置することができる。
【0020】
以下の実施例は単に本発明を説明するものである。当業者なら本発明の真意および特許請求の範囲内にある多くの変形を認めるものと思われる。
【実施例1】
【0021】
ジイソブチレンから硫黄不純物の抽出
米国特許第5,877,372号にしたがって190°Fの温度でイソブチレンを二量化してイソオクタン中ジイソブチレン(DIB)49.2重量%およびトリイソブチレン(TIB)1.5重量%の流れを製造する。生成物のジイソブチレン流れは700ppbの硫黄を含む。
【0022】
二量化工程に続いて、ゼオライト13X(Grace Davison)、Ni/SiO2(Engelhard 3298E、使用前にH2中で還元)、MgO(Martin Marietta)、およびアルミナ(AlcoaのSelexsorb COSおよびSelexsorb CL)を含む各種の吸着剤をジイソブチレン生成物が通過する。
【0023】
典型的な実験では、100ccの吸着剤を管(内径0.81インチ)中に充填し、DIBフィードの流れを150cc/hの速度で上向きに通過させる。Houston−Atlas硫黄分析器を使用するS分析用にサンプルの流れを収集する。
【0024】
結果を表1に示す。驚いたことに、細孔の大きなゼオライト(ゼオライト13X)のみがジイソブチレンフィード流れから硫黄を除去する能力を示し、水素化触媒の性能を向上させる唯一の物質であった。
【実施例2】
【0025】
ジイソブチレンの水素化
イソオクタン中ジイソブチレン(DIB)49.2%、トリイソブチレン(TIB)1.5%を含むフィード流れの水素化をNi/SiO2触媒(Engelhard 3298E(使用前にH2中で還元)30cc、LHSV=5/時、リサイクル/フレッシュ=1、400psig、80℃)を使用してピストン流反応器中で行った。フィードの流れはHouston−Atlas硫黄分析器を使用して分析して700ppbの硫黄を含む。運転の最初の900時間の間に、DIB転化率は99.9%から98.7%に低下し、TIB転化率は100から68%に減退した。900時間後、13Xモレキュラーシーブを使用(100cc)して硫黄吸着床を取りつけた。吸着剤出口のフィード流れの分析により硫黄濃度が50ppb以下に減少することが明らかになった。硫黄が減少する結果として、DIB転化率が99.3%に増加して安定し、一方TIB転化率は80%に増加して同様に安定する。性能の劣化は300時間の運転後にしか観測されず、この時点で吸着剤出口の硫黄濃度は>300ppbとなる。吸着剤は空気中500℃に24時間か焼することにより再生可能である。
【0026】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)スルホン酸樹脂触媒の存在下にイソブチレンをオリゴマー化して少量の硫黄不純物を含むジイソブチレンの流れを生成させること;次いで
(b)該ジイソブチレンの流れを細孔の大きなゼオライトと接触させて硫黄不純物の量が減少したジイソブチレン生成物を生成させること;を含む方法。
【請求項2】
前記細孔の大きなゼオライトが約6〜約15オングストロンの平均細孔サイズを有する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記細孔の大きなゼオライトがゼオライトXである、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記細孔の大きなゼオライトがゼオライトYである、請求項1記載の方法。
【請求項5】
細孔の大きなゼオライトがナトリウム形態にある、請求項1記載の方法。
【請求項6】
硫黄不純物の量が減少したジイソブチレン生成物を水素化触媒の存在下に水素化してイソオクタンを形成させる追加の工程(c)を含む請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記水素化触媒が担持ニッケル触媒である、請求項6記載の方法。
【請求項8】
(a)スルホン酸樹脂触媒の存在下にイソブチレンをオリゴマー化して少量の硫黄不純物を含むジイソブチレンの流れを生成させること;
(b)前記ジイソブチレンの流れを、ゼオライトXおよびゼオライトYからなる群から選ばれる細孔の大きなゼオライトと接触させて硫黄不純物の量が減少したジイソブチレン生成物を生成させること;および
(c)硫黄不純物の量が減少したジイソブチレン生成物を水素化触媒の存在下で水素化してイソオクタンを生成させること;を含む方法。
【請求項9】
前記水素化触媒が担持ニッケル触媒である、請求項8記載の方法。

【公表番号】特表2007−508302(P2007−508302A)
【公表日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−533963(P2006−533963)
【出願日】平成16年9月22日(2004.9.22)
【国際出願番号】PCT/US2004/031051
【国際公開番号】WO2005/037739
【国際公開日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(505341095)ライオンデル ケミカル テクノロジー、 エル.ピー. (61)
【氏名又は名称原語表記】LYONDELL CHEMICAL TECHNOLOGY, L.P.
【Fターム(参考)】