ジンバル装置
【課題】本発明は内部にカメラを搭載するジンバル装置に関し、簡単な構成でたわみ振動の影響を排除して高い空間安定性を確保することを課題とする。
【解決手段】カメラが搭載されると共にトルクモータ240で駆動させるジンバル部200と、視軸鉛直方向軸回りの角速度u[1]とカメラの視軸背面方向軸回りの角速度u[2]と視軸俯角軸方向回りの角速度を検出する角速度検出部210と、この角速度検出部210の検出結果に基づきトルクモータ240の駆動制御を行う制御手段とを有する。また、制御手段は、視軸鉛直方向軸回りの角速度u[1]を用いてたわみを補正する視軸俯仰軸方向の角速度u[3]を求める第1視軸演算器110A、カメラの視軸背面方向軸回りの角速度u[2]を用いてたわみを補正するAZ軸回りの角速度u[4]を求める第2視軸演算器110Bと、視軸の俯角(θEl)に基づき視軸俯仰軸方向の角速度u[3]又はAZ軸回りの角速度u[4]のいずれを出力するかを決定する切換え処理器160とを有する。
【解決手段】カメラが搭載されると共にトルクモータ240で駆動させるジンバル部200と、視軸鉛直方向軸回りの角速度u[1]とカメラの視軸背面方向軸回りの角速度u[2]と視軸俯角軸方向回りの角速度を検出する角速度検出部210と、この角速度検出部210の検出結果に基づきトルクモータ240の駆動制御を行う制御手段とを有する。また、制御手段は、視軸鉛直方向軸回りの角速度u[1]を用いてたわみを補正する視軸俯仰軸方向の角速度u[3]を求める第1視軸演算器110A、カメラの視軸背面方向軸回りの角速度u[2]を用いてたわみを補正するAZ軸回りの角速度u[4]を求める第2視軸演算器110Bと、視軸の俯角(θEl)に基づき視軸俯仰軸方向の角速度u[3]又はAZ軸回りの角速度u[4]のいずれを出力するかを決定する切換え処理器160とを有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はジンバル装置に係り、特に内部にカメラを搭載するジンバル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機にカメラを搭載する場合、機体の振動等により生ずるカメラ画像のぶれを防止するために、カメラをジンバル装置(空間安定装置)内に設置する手法が一般的に取られている。ジンバル装置内にとって最も重要な要件は高空間安定性であるが、近年では、複数個のカメラや側距離装置等を航空機に搭載する要望があり、小型軽量化・低消費電力化が強く求められようになっている。
【0003】
ジンバル装置が空間安定性を確保する上で問題となるのは、機体から伝わる振動とこれに起因するジンバル装置自身のたわみである。これらの問題を解決するために、防振マウントを利用する手法やジンバルの剛性を高める手法を取ることも考えられるが、いずれも装置の重量の増加を招き、前述した要望を満たすことができなくなる。
【0004】
そこで、従来より、ジンバル装置のカメラ設置部分に角速度センサを取付け、この角速度センサが検出した信号に基づいて振動補正制御を行う技術が利用されており、このような技術は、例えば、特許文献1において開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−252461号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、係る角速度センサを用いた制御装置では、ジンバル装置のたわみの影響により、制御のための駆動電力が飽和して制御偏差が増大し、カメラ画像に画像ぶれが発生することがあった。
【0007】
ジンバル装置は、構造上の理由から左右方向にたわみやすく、カメラ部に取り付けられた角速度センサは、カメラの視軸が垂直方向に近づくにつれてたわみの影響を大きく受けるようになる。たわみが大きくなり、角速度センサの検出値が一定の大きさを超えると、制御装置においてたわみの影響を減衰できなくなり、制御偏差が悪化して画像ぶれが発生してしまう。
【0008】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、簡単な構成でたわみ振動の影響を排除して高い空間安定性を確保することができるジンバル装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一の観点からは、
移動体に搭載され、駆動部により駆動されることにより内設されたカメラの視軸を前記移動体に対して移動させるジンバル部と、
前記カメラの視軸の鉛直方向軸回りの第1角速度と、該前記カメラの視軸の鉛直方向軸回りと異なる向きの第2軸回りの第2角速度と、視軸俯角軸方向回りの第3角速度を検出する角速度検出部と、
前記加速度検出部に基づき前記駆動部の駆動制御を行う制御手段とを有し、
前記制御手段は、
前記第1角速度を用いてたわみを補正する第1補正角速度を求める第1の視軸演算器と、
前記第2角速度を用いてたわみを補正する第2補正角速度を求める第2の視軸演算器と、
前記第1及び第2の視軸演算器と接続され、視軸の俯角軸方向の角度に基づき、前記第1補正角速度又は前記第2補正角速度のいずれを出力するかを決定する切換え処理器と、
前記切換え処理器で決定された前記第1又は前記第2補正角速度に基づき、前記駆動部の駆動を制御する補償器とを有するジンバル装置が提供される。
【発明の効果】
【0010】
開示のジンバル装置は、構成の簡単化を図れると共に、たわみ振動の影響を排除して高い空間安定性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、ジンバル装置の概形を示す斜視図である。
【図2】図2(A)はカメラが水平方向を向いている場合のたわみの影響を説明するための説明図であり、図2(B)はカメラが水平方向を向いている場合のカメラ画像を示す図である。
【図3】図3(A)はカメラが垂直方向を向いている場合のたわみの影響を説明するための説明図であり、図3(B)はカメラが垂直方向を向いている場合のカメラ画像を示す図である。
【図4】図4は、たわみの発生と検出の仕組みを説明するための図である。
【図5】図5は、プラットフォーム振動条件の一例を示す図である。
【図6】図6は、ジンバル機構伝達特性の一例を示す図である。
【図7】図7は本実施形態の一例であるジンバル装置を示しており、図7(A)は正面図、図7(B)は側面図である。
【図8】本実施形態例に係る角速度制御装置の構成を示す機能ブロック図である。
【図9】本実施形態に係る角速度制御装置の切換え処理を示すブロック図である。
【図10】本実施形態に係る角速度制御装置の参考例である角速度制御装置の構成を示す機能ブロック図である。
【図11】図11は、視軸の俯角軸方向の角度と補償器で反映される補正角速度との関係を示す図である。
【図12】図12は、視軸の俯角軸方向の角度と第1及び第2補正角速度の反映割合を説明するための図である(その1)。
【図13】図13は、視軸の俯角軸方向の角度と第1及び第2補正角速度の反映割合を説明するための図である(その2)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の実施の形態について図面と共に説明する。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態であるジンバル装置1を示している。本実施形態では、航空機に搭載されるジンバル装置を例に挙げて説明する。しかしながら、本発明の適用は航空機に限定されるものではなく、船舶等の他の移送機器に対しても適用が可能なものである。
【0014】
ジンバル装置1は、航空機のプラットフォームに取り付けられる機体取付け面2と、機体取付け面2に対してAZ(アジマス)軸回りに回転可能とされたAZ旋回部3と、AZ旋回部3に対してEL(エレベーション)軸回りに回転可能とされると共に内部にカメラが搭載されたカメラ搭載部4とを有している。
【0015】
AZ軸とEL軸には駆動用のトルクモータが配置され、各トルクモータが駆動することによりAZ旋回部3は0〜360度水平方向を指向し、カメラ搭載部4は水平〜垂直方向を指向する。カメラは、前記のようにEL軸回りに回転するカメラ搭載部4に収められる。また、角速度検出部210となる角速度センサもこのカメラ搭載部4内に取り付けられ、カメラの視軸のぶれの大きさを角速度として検出する仕組みとなっている。
【0016】
ところで、ジンバル装置1は、構造が一番弱い方向である視軸左右方向にたわみやすい。図2(A)は、カメラが水平方向を向いている場合のたわみの影響を説明するための説明図である。同図に示すように、カメラ視軸が水平方向を向いている場合、カメラ視軸は、機体取付け面2の中央位置を中心とした円弧上を左右に小さく移動することになる。
【0017】
図2(B)は、カメラが水平方向を向いている場合のカメラ画像のサンプル図である。同図に示すようにカメラが水平方向を向いている場合、カメラ画像はたわみの影響をわずかに受けてロール方向に小さく回転しているように映る。
【0018】
視軸上に角速度センサ210が取り付けられている場合、角速度センサ210は回転角速度を検出するので、たわみの影響を全く受けない。撮像画面で見た場合、上記のたわみは画像の回転振動となって現れるが、変位角度成分が小さいことにより画像の回転振動は認識できない程度のレベルとなり問題となるようなことはない。
【0019】
これに対し、視軸の俯仰角度θEL(EL角度)が大きくなるにつれてロール方向回転成分として検出されるようになる。即ち、ジンバル装置1のたわみの影響は、カメラ視軸が垂直に近づくほど大きくなる。図3(A)は、カメラが垂直方向を向いている場合のたわみの影響を説明するための説明図である。同図に示すように、カメラ視軸が垂直方向を向いている場合、カメラ視軸は、弧の外側を向いた状態で左右に大きく往復運動する。
【0020】
図3(B)は、カメラが垂直方向を向いている場合のカメラ画像のサンプル図である。同図に示すように、カメラが垂直方向を向いている場合、カメラ画像は、たわみの影響を受けて左右方向に大きく振動しているように映る。視軸上に角速度センサ210が取り付けられている場合、この角速度センサ210は、この大きな左右方向の振動をたわみ振動成分として検出することになる。
【0021】
カメラ視軸上に角速度センサ210が取り付けられている場合、角速度センサ210が検出する角速度信号には、上記のロール方向回転成分とたわみ振動成分以外に、AZ軸回転成分が含まれる。これは、機体取付け部分の強度の不足やトルクモータの出力不足等に起因するものである。
【0022】
ここで、たわみの発生と検出の仕組みについて説明しておく。図4は、たわみの発生と検出の仕組みを説明するための説明図である。ジンバル装置に伝わる振動の強さは加速度(G)として表わされ、この加速度(G)はプラットフォーム(航空機の機体取付け面)の振動条件10とジンバル機構の伝達関数20とにより求められる。
【0023】
プラットフォーム振動条件10は、プラットフォーム(航空機の機体取付け面)の周波数毎の振動の強さを表わす。図5は、プラットフォーム振動条件10の一例を示すサンプル図である。同図は、F1〜F2の範囲の周波数で一定の強さの大きさのランダム波があり、更に、F3の周波数で特異的に強いサイン波があることを示している。このようなサイン波は、例えば、エンジンの特性などに起因するものである。
【0024】
ジンバル機構伝達関数20は、ジンバル装置の周波数毎の振動の伝わりやすさを表わす。図6は、ジンバル機構伝達関数20の一例を示すサンプル図である。同図は、F0の周波数近辺で共振により振動が増幅されることを示している。
【0025】
ジンバル装置に伝わる振動の強さは加速度(G)は、乗算器35により構造剛性により決定される1Gあたりのたわみ角度T[rad/G]が乗算され、これによりたわみ(変位角)[rad]が発生する。次に、たわみ(変位角)とsin(θEL)40を乗算し、視軸回りのたわみ角度[rad]に変換する。この視軸回りのたわみ角度[rad]は微分器50により微分され、この微分されたたわみの角速度成分[rad/s]を角速度センサ210が検出する。
【0026】
次に、本実施形態の前提となるジンバル装置の角速度制御について説明する。図10は、ジンバル装置を駆動するための角速度制御を説明するためのブロック図である。同図に示すように、ジンバル装置はジンバル部201と、制御器101とを有している。また、ジンバル部201はAZ軸回りに回転するAZ旋回部3と、EL軸回りに回転するカメラ搭載部4とを有している(図1参照)。
【0027】
AZ旋回部3は、アンプ230と、トルクモータ240とを有する。アンプ230は、空間安定性を確保するために、制御器101からの制御信号に基づいてトルクモータを駆動させる電力を増幅させる増幅装置である。トルクモータ240は、ジンバル部201の駆動部を駆動させ、空間安定性を実現させる。
【0028】
カメラ搭載部4は、カメラが搭載されると共に角速度検出部210が搭載されている。角速度検出部210は角速度を検出する角速度センサであり、常にカメラの視軸方向を向くように取り付けられる。
【0029】
制御器101は、角速度検出部210の検出した信号を基にして、ジンバル部201に設置されたカメラの画像ぶれがなくなるようにフィードバック制御する制御装置である。この制御器101は、ノイズ除去フィルタ141と、AZ軸演算器151と、補償器181とを有する。
【0030】
ノイズ除去フィルタ141は、角速度検出部210の検出した信号から、ノイズ成分を除去する演算器である。また、AZ軸演算器151は、角速度検出部210の検出した視軸回りの角速度成分をAZ軸回りの角速度成分に変換する演算器である。補償部181は、角速度指令0[rad/s]を実現するために必要な制御量を算出し、ジンバル部201のアンプ230へ伝達する演算器である。
【0031】
AZ軸演算器151が角速度を変換するのは、ジンバル部201での振動補正制御がAZ軸回りの方向で行われるためであり、この変換はカメラの視軸の俯仰角度をθELとすると、1/cos(θEL)を角速度信号に乗算することにより行われていた。このため、カメラの視軸が垂直方向に近づくほど信号が大きく増幅され、俯仰角度θELが85度になると11倍にも増幅されていた。
【0032】
既に図2,3を用いて説明したとおり、カメラの視軸が垂直方向に近づくほど、角速度検出部210が検出する角速度信号におけるたわみ振動成分が増大する。そして、AZ軸演算器151の変換によってこれが更に大きく増幅されることとなる。このため、図10に示す本実施形態の前提となる角速度制御では、カメラの視軸が垂直方向に近づくと、指令角速度に対する偏差が大きくなり、アンプ230への駆動指令が飽和してしまい、空間安定化ができない状態が発生していた。
【0033】
実際のジンバル装置の運用においては、角速度検出部210からの信号に振動等のノイズが相乗する。このため従来の制御器101では、俯仰角度θELに制限(例えば、−75°〜+75°)を設け、角速度検出部210からの信号がこの制限を越えた場合には制御器101を停止することが行われていた。
【0034】
また、他の角速度制御として、カメラ搭載部4に第1の角速度検出部を搭載すると共に、AZ旋回部3に第2の角速度検出部を搭載し、この2台の角速度検出部の信号に基づきジンバル装置の角速度制御を行う方式がある。この方式では、第1の角速度検出部により検出される信号から第2の角速度検出部により検出される信号を減算することにより、第1の角速度検出部により検出される信号に含まれるAZ軸回転成分を予め除去し角速度制御の精度向上を図っている。更に、カメラの俯仰角度θELが所定の角度よりも大きくなった場合には、AZ軸回転成分のみからなる角速度信号が出力されるよう二つの角速度検出部を切換えている。
【0035】
しかしながら、この方式では二つの角速度検出部が必要となるため、この角速度検出部の実装スペースがAZ旋回部及びカメラ搭載部にそれぞれ必要となり、またコストも高くなる等の問題点がある。
【0036】
次に、本実施形態に係るジンバル装置1に適用している角速度制御について説明する。
【0037】
図7は、本実施形態に係るジンバル装置1で使用する角速度検出部210(角速度センサ)の配設位置を示している。角速度検出部210はカメラ搭載部4内に搭載されており、その配置位置はカメラ6の近傍位置とされている。この角速度検出部210は、カメラの視軸回りの空間角速度を検出するものである。具体的には、本実施形態で用いる角速度検出部210は、視軸鉛直方向軸回りの角速度u[1]と、カメラの視軸背面方向軸回りの角速度u[2]と、視軸俯仰軸方向の角速度u[EL]との、全3軸回りの加速度を検出することが可能なものである。
【0038】
図8は本実施形態に係るジンバル装置1の角速度制御方式を説明するためのブロック図であり、図9は図8に示す切換え処理器160の演算内容を説明するためのブロック図である。尚、図9及び図8において、本実施形態の前提となる角速度制御方式の説明に用いた図10に示した構成と対応する構成については、同一符号を付して説明するものとする。
【0039】
図8に示すように、ジンバル装置は制御器100とジンバル部200とを有している。また、ジンバル部200はAZ軸回りに回転するAZ旋回部3と、EL軸回りに回転するカメラ搭載部4とを有している(図7参照)。
【0040】
AZ旋回部3は、アンプ230と、トルクモータ240とを有する。アンプ230は、空間安定性を確保するために、制御器100からの制御信号に基づいてトルクモータを駆動させる電力を増幅させる増幅装置である。トルクモータ240は、ジンバル部200の駆動部を駆動させ、空間安定性を実現させる。
【0041】
カメラ搭載部4は、カメラ及び角速度検出部210が搭載されている。角速度検出部210は角速度を検出する角速度センサであり、常にカメラの視軸方向を向くように取り付けられる。また、角速度検出部210としては、前記した角加速度u[1],u[2],u[EL]の3軸回りの加速度を検出できるものが選定されている。
【0042】
制御器100は、角速度検出部210の検出した信号を基にして、ジンバル部200に設置されたカメラの画像ぶれがなくなるようにフィードバック制御する制御装置である。この制御器100は、第1視軸演算器110A、第2視軸演算器110B、切換え処理器160、EL視軸角度130、第1入力範囲制限器120A、第2入力範囲制限器120B、及び補償器180等を備えている。
【0043】
角速度検出部210が検出した視軸鉛直方向軸回りの角速度u[1]は、第1視軸演算器110Aに入力される。また、角速度検出部210が検出したカメラの視軸背面方向軸回りの角速度u[2]は、第2視軸演算器110Bに入力される。
【0044】
第1視軸演算器110Aは、入力された視軸鉛直方向軸回りの角速度信号u[1]をAZ軸回りの角速度u[3]に変換する処理器である。具体的には、第1視軸演算器110Aでは、u[3]=u[1]÷cos(θEL)の演算を行う。
【0045】
この第1視軸演算器110Aは、第1入力範囲制限器120Aの演算許可を得た場合にのみ上記の演算処理を行う。この第1入力範囲制限器120Aは、cos(θEL)除算結果が∞(NAN)となるのを防止する条件判定フラグ生成器である。
【0046】
そして、第1入力範囲制限器120AはEL視軸角度130(視軸の俯仰角度θELを演算する)を参照し、除算結果が∞(NAN)となる時に「u[8]=0」を、そうでない時は「u[8]=1」を出力する。そして、第1視軸演算器110Aは、第1入力範囲制限器120Aで判定された出力u[8]を参照し、u[8]が「1」の時のみ視軸変換の演算を行う。
【0047】
一方、第2視軸演算器110Bは、入力された視軸鉛直方向軸回りの角速度信号u[2]をAZ軸回りの角速度u[4]に変換する処理器である。具体的には、第2視軸演算器110Bでは、u[4]=u[2]÷sin(θEL)の演算を行う。
【0048】
この第2視軸演算器110Bは、第2入力範囲制限器120Bの演算許可を得た場合にのみ上記の演算処理を行う。この第2入力範囲制限器120Bは、sin(θEL)除算結果が∞(NAN)となるのを防止する条件判定フラグ生成器である。
【0049】
そして、第2入力範囲制限器120BはEL視軸角度130を参照し、除算結果が∞(NAN)となる時に「u[9]=0」を、そうでない時は「u[9]=1」を出力する。そして、第2視軸演算器110Bは、第2入力範囲制限器120Bで判定された出力u[9]を参照し、u[9]が「1」の時のみ視軸変換の演算を行う。
【0050】
上記のようにして第1及び第2視軸演算器110A,110Bで演算されたAZ軸回りの角速度u[3],u[4]は、切換え処理器160に送られる。また、EL視軸角度130で求められる視軸の俯仰角度θELも切換え処理器160に送られる。
【0051】
切換え処理器160は、視軸の俯仰方向の角度u[5](u[5]=θEL)に基づき、第1視軸演算器110Aから送られてくるAZ軸回りの角速度u[3]と、第2視軸演算器110Bから送られてくるAZ軸回りの角速度u[4]との混合比を変化させ、補償器180の処理に反映させる。補償器180は角速度指令0[rad/s]を実現するために必要な制御量を算出し、ジンバル部200のアンプ230へ伝達する演算器である。
【0052】
ここで、切換え処理器160で実施される処理について詳述する。図9は、切換え処理器160の切換え処理を示すブロック図である。第1視軸演算器110Aからの視軸俯仰軸方向の角速度u[3]は、切換え処理器160において第1視軸演算器110Aの反映割合u[6]が乗算される。また、第2視軸演算器110BからのAZ軸回りの角速度u[4]は、切換え処理器160において第2視軸演算器110Bの反映割合u[7]が乗算される。
【0053】
そして、視軸俯仰軸方向の角速度u[3]に第1視軸演算器110Aの反映割合u[6]が乗算された演算値と、AZ軸回りの角速度u[4]に第2視軸演算器110Bの反映割合u[7]が乗算された演算値は、加算器190で加算される。そして、このようにして得られた演算結果u[8](以下、反映角速度u[8]という)は、切換え処理器160から補償器180に向けフィードバック信号として出力される。
【0054】
ここで、第1視軸演算器110Aの反映割合u[6]及び第2視軸演算器110Bの反映割合u[7]は、予め切換え処理器160に格納されている反映割合マップ140に基づき決定される。反映割合マップ140は、EL視軸角度130から入力される視軸の俯仰方向の角度u[5]に基づき、第1視軸演算器110Aの反映割合u[6]及び第2視軸演算器110Bの反映割合u[7]を決定する二元マップである。
【0055】
図示されるように、反映割合マップ140は横軸に視軸の俯仰方向の角度u[5](θEL)を取ると共に縦軸に反映割合[%]を取ったマップである。同図に示すように第1視軸演算器110Aの反映割合u[6]は、視軸の俯仰方向の角度u[5]が−180°〜−140°、−40°〜+40°、+140°〜+180である場合には100%となっている。これに対し、視軸の俯仰方向の角度u[5]が−130°〜−50°、+50°〜+130°である場合には第1視軸演算器110Aの反映割合u[6]は0%となっている。
【0056】
一方、第2視軸演算器110Bの反映割合u[7]は、視軸の俯仰方向の角度u[5]が−130°〜−50°、+50°〜+130°である場合には100%となっている。これに対し、視軸の俯仰方向の角度u[5]が−180°〜−140°、−40°〜+40°、+140°〜+180°である場合には、第2視軸演算器110Bの反映割合u[7]は0%となっている。
【0057】
更に、視軸の俯仰方向の角度u[5]が−140°〜−130°(第1ミキシング領域M1という)、−50°〜−40°(第2ミキシング領域M2という)、+40°〜+50°(第3ミキシング領域M3という)、+130°〜+140°(第4ミキシング領域M4という)の範囲は、第1視軸演算器110Aの反映割合u[6]及び第2視軸演算器110Bの反映割合u[7]は漸次変化するよう設定されている。
【0058】
具体的には、第1ミキシング領域M1及び第3ミキシング領域M3では、第1視軸演算器110Aの反映割合u[6]は100%から0%に漸次減少し、逆に第2視軸演算器110Bの反映割合u[7]は0%から100%に漸次増大する。また、第2ミキシング領域M2及び第4ミキシング領域M4では、第1視軸演算器110Aの反映割合u[6]は0%から100%に漸次増大し、逆に第2視軸演算器110Bの反映割合u[7]は100%から0%に漸次減少する。従って、各ミキシング領域M1〜M4では、第1視軸演算器110Aの反映割合u[6]と第2視軸演算器110Bの反映割合u[7]はスムーズに切換えられる。
【0059】
図11は、視軸の俯仰方向の角度u[5]と反映角速度の倍率u[8]との関係を示す図である。同図に示すように、視軸の俯仰方向の角度u[5]が−180°〜−140°、−40°〜+40°、+140°〜+180°の範囲では、反映角速度u[8]として視軸俯仰軸方向の角速度u[3]が出力されている。また、視軸の俯仰方向の角度u[5]が−130°〜−50°、+50°〜+130°の範囲では、反映角速度u[8]としてAZ軸回りの角速度u[4]が出力されている。また、第1ミキシング領域M1〜第4ミキシング領域M4の各領域内では、反映割合マップ140に示す各反映割合u[6],u[7]に対応した割合で各角速度u[3],u[4]が混合された値が反映角速度u[8]として出力される。
【0060】
次に、図12及び図13を用いて、視軸の俯仰方向の角度u[5]と、角速度検出部210により検出される3軸回りの加速度(視軸鉛直方向軸回りの角速度u[1],カメラの視軸背面方向軸回りの角速度u[2],視軸俯仰軸方向の角速度u[EL])との関係について説明する。
【0061】
図12(A)は、視軸の俯仰方向の角度u[5]が+90°である状態を示している。この時、視軸は真上方向を向いており、視軸鉛直方向軸回りの角速度u[1]は水平方向を向いており、またカメラの視軸背面方向軸回りの角速度u[2]は鉛直下方を向いている。
【0062】
ここで、反映角速度u[8]の演算に視軸鉛直方向軸回りの角速度u[1]を用いることを想定すると、第1視軸演算器110Aにおいて視軸鉛直方向軸回りの角速度u[1]をcos(θEL)で除算する際、視軸俯仰軸方向の角速度u[3]は無限大に近づき、指令値とフィードバック値との偏差が大きくなり、トルクモータ240の制御が不可能となるおそれがある。このため本実施形態では、視軸の俯仰方向の角度u[5]が+90°である場合、カメラの視軸背面方向軸回りの角速度u[2]のみを反映角速度u[8]の演算に用いている。
【0063】
図12(B)は、視軸の俯仰方向の角度u[5]が+45°である状態を示している。この時、視軸は水平方向に対して斜め上方に45°傾いており、視軸鉛直方向軸回りの角速度u[1]及びカメラの視軸背面方向軸回りの角速度u[2]は垂直下方を中心として±45°傾いた状態となっている。
【0064】
ここで、図9に示す反映割合マップ140を参照すると、u[5]が+45°の時の第1視軸演算器110Aの反映割合u[6]及び第2視軸演算器110Bの反映割合u[7]は共に50%である。よって視軸の俯仰方向の角度u[5]が+45°である場合、反映角速度u[8]を求めるのに視軸鉛直方向軸回りの角速度u[1]及びカメラの視軸背面方向軸回りの角速度u[2]の双方を用い、それぞれを50%の反映割合で加算(ミキシング)することにより反映角速度u[8]を求めている。
【0065】
図12(C)は、視軸の俯仰方向の角度u[5]が±0°である状態を示している。この時、視軸は水平方向を向いており、視軸鉛直方向軸回りの角速度u[1]は鉛直下方を向いており、またカメラの視軸背面方向軸回りの角速度u[2]は水平方向を向いている。
【0066】
前記と同様の理由で、反映角速度u[8]の演算に視軸鉛直方向軸回りの角速度u[2]を用いた場合にはAZ軸回りの角速度u[4]は無限大に近づき、指令値とフィードバック値との偏差が大きくなり、トルクモータ240の制御が不可能となるおそれがある。このため本実施形態では、視軸の俯仰方向の角度u[5]が±0°である場合、視軸鉛直方向軸回りの角速度u[1]のみを反映角速度u[8]の演算に用いている。
【0067】
図13(A)は、視軸の俯仰方向の角度u[5]が−45°である状態を示している。この時、視軸は水平方向に対して斜め下方に45°傾いており、視軸鉛直方向軸回りの角速度u[1]及びカメラの視軸背面方向軸回りの角速度u[2]は水平方向を中心として±45°傾いた状態となっている。
【0068】
ここで、図9に示す反映割合マップ140を参照すると、u[5]が−45°の時の第1視軸演算器110Aの反映割合u[6]及び第2視軸演算器110Bの反映割合u[7]は共に50%である。よって視軸の俯仰方向の角度u[5]が−45°である場合、反映角速度u[8]を求めるのに視軸鉛直方向軸回りの角速度u[1]及びカメラの視軸背面方向軸回りの角速度u[2]の双方を用い、それぞれを50%の反映割合で加算(ミキシング)することにより反映角速度u[8]を求めている。
【0069】
図13(B)は、視軸の俯仰方向の角度u[5]が−90°である状態を示している。この時、視軸は鉛直下方を向いており、視軸鉛直方向軸回りの角速度u[1]は水平方向を向いており、またカメラの視軸背面方向軸回りの角速度u[2]は真上方向を向いている。
【0070】
前記と同様の理由で、反映角速度u[8]の演算に視軸鉛直方向軸回りの角速度u[1]を用いた場合には視軸俯仰軸方向の角速度u[3]は無限大に近づき、指令値とフィードバック値との偏差が大きくなり、トルクモータ240の制御が不可能となるおそれがある。このため本実施形態では、視軸の俯仰方向の角度u[5]が−90°である場合、カメラの視軸背面方向軸回りの角速度u[2]のみを反映角速度u[8]の演算に用いている。
【0071】
更に図13(C)は、視軸の俯仰方向の角度u[5]が−135°である状態を示している。この時、視軸は水平方向に対して斜め下方に45°傾いており、視軸鉛直方向軸回りの角速度u[1]及びカメラの視軸背面方向軸回りの角速度u[2]は真上方向を中心として±45°傾いた状態となっている。
【0072】
ここで、図9に示す反映割合マップ140を参照すると、u[5]=−135°の時の第1視軸演算器110Aの反映割合u[6]及び第2視軸演算器110Bの反映割合u[7]は共に50%である。よって視軸の俯仰方向の角度u[5]が−135°である場合、反映角速度u[8]を求めるのに視軸鉛直方向軸回りの角速度u[1]及びカメラの視軸背面方向軸回りの角速度u[2]の双方を用い、それぞれを50%の反映割合で加算(ミキシング)することにより反映角速度u[8]を求めている。
【0073】
上記したように、切換え処理器160は視軸俯仰軸方向の角速度u[3]とAZ軸回りの角速度u[4]を、反映割合マップ140に基づき視軸の俯仰方向の角度u[5]を参照して切り替えることにより、たわみの増幅を45°毎程度の増幅に抑えることができる。このため、本実施形態に係る加速度制御方式によれば、たわみ外乱の影響を従来の加速度制御方式に比べて約1/6(θEL-80度)抑圧できると共に、全視軸方向に対し空間安定を図ることが可能となる。
【0074】
また、このように本実施形態で用いている角速度制御方式は、たわみ振動の影響を受けにくいため、従来の角速度制御方式よりも制御ループの安定度を確保でき、トルクモータ240の低消費電力化を図ることができる。また、使用する角速度検出部210は1個でよいため、ジンバル装置1の小形化を図ることができる。
【0075】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は上記した特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能なものである。
【0076】
例えば、本実施形態では各ミキシング領域M1〜M4の範囲を10°に設定したが、このミキシング領域M1〜M4の範囲もこれに限定されるものではなく、適宜設定が可能なものである。
【0077】
以上の実施形態に関し、更に以下の付記を開示する。
(付記1)
移動体に搭載され、駆動部により駆動されることにより内設されたカメラの視軸を前記移動体に対して移動させるジンバル部と、
前記カメラの視軸の鉛直方向軸回りの第1角速度と、該前記カメラの視軸の鉛直方向軸回りと異なる向きの第2軸回りの第2角速度と、視軸俯角軸方向回りの第3角速度を検出する角速度検出部と、
前記加速度検出部に基づき前記駆動部の駆動制御を行う制御手段とを有し、
前記制御手段は、
前記第1角速度を用いてたわみを補正する第1補正角速度を求める第1の視軸演算器と、
前記第2角速度を用いてたわみを補正する第2補正角速度を求める第2の視軸演算器と、
前記第1及び第2の視軸演算器と接続され、視軸の俯角軸方向の角度に基づき、前記第1補正角速度又は前記第2補正角速度のいずれを出力するかを決定する切換え処理器と、
前記切換え処理器で決定された前記第1又は前記第2補正角速度に基づき、前記駆動部の駆動を制御する補償器とを有するジンバル装置。
(付記2)
前記第2の角速度は、視軸に対する背面方向軸回りの角速度である付記1記載のジンバル装置。
(付記3)
前記切換え処理器は、出力される補正角速度に反映される前記第1補正角速度と前記第2補正角速度との割合を、前記視軸の俯角軸方向の角度に基づき漸次変化させる付記1又は2記載のジンバル装置。
(付記4)
前記第1の視軸演算器は、前記視軸の俯角に基づき前記第1補正角速度する構成とされ、
前記視軸の俯角の値が、前記第1の視軸演算器が演算する前記第1補正角速度を無限大とする値である場合、当該視軸の俯角の値を前記第1の視軸演算器に入力されるのを禁止する第1の入力制御器を設けた付記1乃至3のいずれか一項に記載のジンバル装置。
(付記5)
前記第2の視軸演算器は、前記視軸の俯角に基づき前記第2補正角速度する構成とされ、
前記視軸の俯角の値が、前記第2の視軸演算器が演算する前記第2補正角速度を無限大とする値である場合、当該視軸の俯角の値を前記第2の視軸演算器に入力されるのを禁止する第2の入力制御器を設けた付記1乃至4のいずれか一項に記載のジンバル装置。
【符号の説明】
【0078】
1 ジンバル装置
2 機体取付け面
3 AZ旋回部
4 カメラ搭載部
100 制御器
110A 第1視軸演算器
110B 第2視軸演算器
120A 第1入力範囲制限器
120B 第2入力範囲制限器
130 EL視軸角度
140 反映割合マップ
160 切換え処理器
180 補償器
200 ジンバル部
210 角速度検出部
240 トルクモータ
u[1] 視軸鉛直方向軸回りの角速度
u[2] カメラの視軸背面方向軸回りの角速度
u[3] 視軸俯仰軸方向の角速度
u[4] AZ軸回りの角速度
u[5] 視軸の俯仰方向の角度
u[6] 第1視軸演算器110Aの反映割合
u[7] 第2視軸演算器110Bの反映割合
u[8] 反映角速度
【技術分野】
【0001】
本発明はジンバル装置に係り、特に内部にカメラを搭載するジンバル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機にカメラを搭載する場合、機体の振動等により生ずるカメラ画像のぶれを防止するために、カメラをジンバル装置(空間安定装置)内に設置する手法が一般的に取られている。ジンバル装置内にとって最も重要な要件は高空間安定性であるが、近年では、複数個のカメラや側距離装置等を航空機に搭載する要望があり、小型軽量化・低消費電力化が強く求められようになっている。
【0003】
ジンバル装置が空間安定性を確保する上で問題となるのは、機体から伝わる振動とこれに起因するジンバル装置自身のたわみである。これらの問題を解決するために、防振マウントを利用する手法やジンバルの剛性を高める手法を取ることも考えられるが、いずれも装置の重量の増加を招き、前述した要望を満たすことができなくなる。
【0004】
そこで、従来より、ジンバル装置のカメラ設置部分に角速度センサを取付け、この角速度センサが検出した信号に基づいて振動補正制御を行う技術が利用されており、このような技術は、例えば、特許文献1において開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−252461号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、係る角速度センサを用いた制御装置では、ジンバル装置のたわみの影響により、制御のための駆動電力が飽和して制御偏差が増大し、カメラ画像に画像ぶれが発生することがあった。
【0007】
ジンバル装置は、構造上の理由から左右方向にたわみやすく、カメラ部に取り付けられた角速度センサは、カメラの視軸が垂直方向に近づくにつれてたわみの影響を大きく受けるようになる。たわみが大きくなり、角速度センサの検出値が一定の大きさを超えると、制御装置においてたわみの影響を減衰できなくなり、制御偏差が悪化して画像ぶれが発生してしまう。
【0008】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、簡単な構成でたわみ振動の影響を排除して高い空間安定性を確保することができるジンバル装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一の観点からは、
移動体に搭載され、駆動部により駆動されることにより内設されたカメラの視軸を前記移動体に対して移動させるジンバル部と、
前記カメラの視軸の鉛直方向軸回りの第1角速度と、該前記カメラの視軸の鉛直方向軸回りと異なる向きの第2軸回りの第2角速度と、視軸俯角軸方向回りの第3角速度を検出する角速度検出部と、
前記加速度検出部に基づき前記駆動部の駆動制御を行う制御手段とを有し、
前記制御手段は、
前記第1角速度を用いてたわみを補正する第1補正角速度を求める第1の視軸演算器と、
前記第2角速度を用いてたわみを補正する第2補正角速度を求める第2の視軸演算器と、
前記第1及び第2の視軸演算器と接続され、視軸の俯角軸方向の角度に基づき、前記第1補正角速度又は前記第2補正角速度のいずれを出力するかを決定する切換え処理器と、
前記切換え処理器で決定された前記第1又は前記第2補正角速度に基づき、前記駆動部の駆動を制御する補償器とを有するジンバル装置が提供される。
【発明の効果】
【0010】
開示のジンバル装置は、構成の簡単化を図れると共に、たわみ振動の影響を排除して高い空間安定性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、ジンバル装置の概形を示す斜視図である。
【図2】図2(A)はカメラが水平方向を向いている場合のたわみの影響を説明するための説明図であり、図2(B)はカメラが水平方向を向いている場合のカメラ画像を示す図である。
【図3】図3(A)はカメラが垂直方向を向いている場合のたわみの影響を説明するための説明図であり、図3(B)はカメラが垂直方向を向いている場合のカメラ画像を示す図である。
【図4】図4は、たわみの発生と検出の仕組みを説明するための図である。
【図5】図5は、プラットフォーム振動条件の一例を示す図である。
【図6】図6は、ジンバル機構伝達特性の一例を示す図である。
【図7】図7は本実施形態の一例であるジンバル装置を示しており、図7(A)は正面図、図7(B)は側面図である。
【図8】本実施形態例に係る角速度制御装置の構成を示す機能ブロック図である。
【図9】本実施形態に係る角速度制御装置の切換え処理を示すブロック図である。
【図10】本実施形態に係る角速度制御装置の参考例である角速度制御装置の構成を示す機能ブロック図である。
【図11】図11は、視軸の俯角軸方向の角度と補償器で反映される補正角速度との関係を示す図である。
【図12】図12は、視軸の俯角軸方向の角度と第1及び第2補正角速度の反映割合を説明するための図である(その1)。
【図13】図13は、視軸の俯角軸方向の角度と第1及び第2補正角速度の反映割合を説明するための図である(その2)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の実施の形態について図面と共に説明する。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態であるジンバル装置1を示している。本実施形態では、航空機に搭載されるジンバル装置を例に挙げて説明する。しかしながら、本発明の適用は航空機に限定されるものではなく、船舶等の他の移送機器に対しても適用が可能なものである。
【0014】
ジンバル装置1は、航空機のプラットフォームに取り付けられる機体取付け面2と、機体取付け面2に対してAZ(アジマス)軸回りに回転可能とされたAZ旋回部3と、AZ旋回部3に対してEL(エレベーション)軸回りに回転可能とされると共に内部にカメラが搭載されたカメラ搭載部4とを有している。
【0015】
AZ軸とEL軸には駆動用のトルクモータが配置され、各トルクモータが駆動することによりAZ旋回部3は0〜360度水平方向を指向し、カメラ搭載部4は水平〜垂直方向を指向する。カメラは、前記のようにEL軸回りに回転するカメラ搭載部4に収められる。また、角速度検出部210となる角速度センサもこのカメラ搭載部4内に取り付けられ、カメラの視軸のぶれの大きさを角速度として検出する仕組みとなっている。
【0016】
ところで、ジンバル装置1は、構造が一番弱い方向である視軸左右方向にたわみやすい。図2(A)は、カメラが水平方向を向いている場合のたわみの影響を説明するための説明図である。同図に示すように、カメラ視軸が水平方向を向いている場合、カメラ視軸は、機体取付け面2の中央位置を中心とした円弧上を左右に小さく移動することになる。
【0017】
図2(B)は、カメラが水平方向を向いている場合のカメラ画像のサンプル図である。同図に示すようにカメラが水平方向を向いている場合、カメラ画像はたわみの影響をわずかに受けてロール方向に小さく回転しているように映る。
【0018】
視軸上に角速度センサ210が取り付けられている場合、角速度センサ210は回転角速度を検出するので、たわみの影響を全く受けない。撮像画面で見た場合、上記のたわみは画像の回転振動となって現れるが、変位角度成分が小さいことにより画像の回転振動は認識できない程度のレベルとなり問題となるようなことはない。
【0019】
これに対し、視軸の俯仰角度θEL(EL角度)が大きくなるにつれてロール方向回転成分として検出されるようになる。即ち、ジンバル装置1のたわみの影響は、カメラ視軸が垂直に近づくほど大きくなる。図3(A)は、カメラが垂直方向を向いている場合のたわみの影響を説明するための説明図である。同図に示すように、カメラ視軸が垂直方向を向いている場合、カメラ視軸は、弧の外側を向いた状態で左右に大きく往復運動する。
【0020】
図3(B)は、カメラが垂直方向を向いている場合のカメラ画像のサンプル図である。同図に示すように、カメラが垂直方向を向いている場合、カメラ画像は、たわみの影響を受けて左右方向に大きく振動しているように映る。視軸上に角速度センサ210が取り付けられている場合、この角速度センサ210は、この大きな左右方向の振動をたわみ振動成分として検出することになる。
【0021】
カメラ視軸上に角速度センサ210が取り付けられている場合、角速度センサ210が検出する角速度信号には、上記のロール方向回転成分とたわみ振動成分以外に、AZ軸回転成分が含まれる。これは、機体取付け部分の強度の不足やトルクモータの出力不足等に起因するものである。
【0022】
ここで、たわみの発生と検出の仕組みについて説明しておく。図4は、たわみの発生と検出の仕組みを説明するための説明図である。ジンバル装置に伝わる振動の強さは加速度(G)として表わされ、この加速度(G)はプラットフォーム(航空機の機体取付け面)の振動条件10とジンバル機構の伝達関数20とにより求められる。
【0023】
プラットフォーム振動条件10は、プラットフォーム(航空機の機体取付け面)の周波数毎の振動の強さを表わす。図5は、プラットフォーム振動条件10の一例を示すサンプル図である。同図は、F1〜F2の範囲の周波数で一定の強さの大きさのランダム波があり、更に、F3の周波数で特異的に強いサイン波があることを示している。このようなサイン波は、例えば、エンジンの特性などに起因するものである。
【0024】
ジンバル機構伝達関数20は、ジンバル装置の周波数毎の振動の伝わりやすさを表わす。図6は、ジンバル機構伝達関数20の一例を示すサンプル図である。同図は、F0の周波数近辺で共振により振動が増幅されることを示している。
【0025】
ジンバル装置に伝わる振動の強さは加速度(G)は、乗算器35により構造剛性により決定される1Gあたりのたわみ角度T[rad/G]が乗算され、これによりたわみ(変位角)[rad]が発生する。次に、たわみ(変位角)とsin(θEL)40を乗算し、視軸回りのたわみ角度[rad]に変換する。この視軸回りのたわみ角度[rad]は微分器50により微分され、この微分されたたわみの角速度成分[rad/s]を角速度センサ210が検出する。
【0026】
次に、本実施形態の前提となるジンバル装置の角速度制御について説明する。図10は、ジンバル装置を駆動するための角速度制御を説明するためのブロック図である。同図に示すように、ジンバル装置はジンバル部201と、制御器101とを有している。また、ジンバル部201はAZ軸回りに回転するAZ旋回部3と、EL軸回りに回転するカメラ搭載部4とを有している(図1参照)。
【0027】
AZ旋回部3は、アンプ230と、トルクモータ240とを有する。アンプ230は、空間安定性を確保するために、制御器101からの制御信号に基づいてトルクモータを駆動させる電力を増幅させる増幅装置である。トルクモータ240は、ジンバル部201の駆動部を駆動させ、空間安定性を実現させる。
【0028】
カメラ搭載部4は、カメラが搭載されると共に角速度検出部210が搭載されている。角速度検出部210は角速度を検出する角速度センサであり、常にカメラの視軸方向を向くように取り付けられる。
【0029】
制御器101は、角速度検出部210の検出した信号を基にして、ジンバル部201に設置されたカメラの画像ぶれがなくなるようにフィードバック制御する制御装置である。この制御器101は、ノイズ除去フィルタ141と、AZ軸演算器151と、補償器181とを有する。
【0030】
ノイズ除去フィルタ141は、角速度検出部210の検出した信号から、ノイズ成分を除去する演算器である。また、AZ軸演算器151は、角速度検出部210の検出した視軸回りの角速度成分をAZ軸回りの角速度成分に変換する演算器である。補償部181は、角速度指令0[rad/s]を実現するために必要な制御量を算出し、ジンバル部201のアンプ230へ伝達する演算器である。
【0031】
AZ軸演算器151が角速度を変換するのは、ジンバル部201での振動補正制御がAZ軸回りの方向で行われるためであり、この変換はカメラの視軸の俯仰角度をθELとすると、1/cos(θEL)を角速度信号に乗算することにより行われていた。このため、カメラの視軸が垂直方向に近づくほど信号が大きく増幅され、俯仰角度θELが85度になると11倍にも増幅されていた。
【0032】
既に図2,3を用いて説明したとおり、カメラの視軸が垂直方向に近づくほど、角速度検出部210が検出する角速度信号におけるたわみ振動成分が増大する。そして、AZ軸演算器151の変換によってこれが更に大きく増幅されることとなる。このため、図10に示す本実施形態の前提となる角速度制御では、カメラの視軸が垂直方向に近づくと、指令角速度に対する偏差が大きくなり、アンプ230への駆動指令が飽和してしまい、空間安定化ができない状態が発生していた。
【0033】
実際のジンバル装置の運用においては、角速度検出部210からの信号に振動等のノイズが相乗する。このため従来の制御器101では、俯仰角度θELに制限(例えば、−75°〜+75°)を設け、角速度検出部210からの信号がこの制限を越えた場合には制御器101を停止することが行われていた。
【0034】
また、他の角速度制御として、カメラ搭載部4に第1の角速度検出部を搭載すると共に、AZ旋回部3に第2の角速度検出部を搭載し、この2台の角速度検出部の信号に基づきジンバル装置の角速度制御を行う方式がある。この方式では、第1の角速度検出部により検出される信号から第2の角速度検出部により検出される信号を減算することにより、第1の角速度検出部により検出される信号に含まれるAZ軸回転成分を予め除去し角速度制御の精度向上を図っている。更に、カメラの俯仰角度θELが所定の角度よりも大きくなった場合には、AZ軸回転成分のみからなる角速度信号が出力されるよう二つの角速度検出部を切換えている。
【0035】
しかしながら、この方式では二つの角速度検出部が必要となるため、この角速度検出部の実装スペースがAZ旋回部及びカメラ搭載部にそれぞれ必要となり、またコストも高くなる等の問題点がある。
【0036】
次に、本実施形態に係るジンバル装置1に適用している角速度制御について説明する。
【0037】
図7は、本実施形態に係るジンバル装置1で使用する角速度検出部210(角速度センサ)の配設位置を示している。角速度検出部210はカメラ搭載部4内に搭載されており、その配置位置はカメラ6の近傍位置とされている。この角速度検出部210は、カメラの視軸回りの空間角速度を検出するものである。具体的には、本実施形態で用いる角速度検出部210は、視軸鉛直方向軸回りの角速度u[1]と、カメラの視軸背面方向軸回りの角速度u[2]と、視軸俯仰軸方向の角速度u[EL]との、全3軸回りの加速度を検出することが可能なものである。
【0038】
図8は本実施形態に係るジンバル装置1の角速度制御方式を説明するためのブロック図であり、図9は図8に示す切換え処理器160の演算内容を説明するためのブロック図である。尚、図9及び図8において、本実施形態の前提となる角速度制御方式の説明に用いた図10に示した構成と対応する構成については、同一符号を付して説明するものとする。
【0039】
図8に示すように、ジンバル装置は制御器100とジンバル部200とを有している。また、ジンバル部200はAZ軸回りに回転するAZ旋回部3と、EL軸回りに回転するカメラ搭載部4とを有している(図7参照)。
【0040】
AZ旋回部3は、アンプ230と、トルクモータ240とを有する。アンプ230は、空間安定性を確保するために、制御器100からの制御信号に基づいてトルクモータを駆動させる電力を増幅させる増幅装置である。トルクモータ240は、ジンバル部200の駆動部を駆動させ、空間安定性を実現させる。
【0041】
カメラ搭載部4は、カメラ及び角速度検出部210が搭載されている。角速度検出部210は角速度を検出する角速度センサであり、常にカメラの視軸方向を向くように取り付けられる。また、角速度検出部210としては、前記した角加速度u[1],u[2],u[EL]の3軸回りの加速度を検出できるものが選定されている。
【0042】
制御器100は、角速度検出部210の検出した信号を基にして、ジンバル部200に設置されたカメラの画像ぶれがなくなるようにフィードバック制御する制御装置である。この制御器100は、第1視軸演算器110A、第2視軸演算器110B、切換え処理器160、EL視軸角度130、第1入力範囲制限器120A、第2入力範囲制限器120B、及び補償器180等を備えている。
【0043】
角速度検出部210が検出した視軸鉛直方向軸回りの角速度u[1]は、第1視軸演算器110Aに入力される。また、角速度検出部210が検出したカメラの視軸背面方向軸回りの角速度u[2]は、第2視軸演算器110Bに入力される。
【0044】
第1視軸演算器110Aは、入力された視軸鉛直方向軸回りの角速度信号u[1]をAZ軸回りの角速度u[3]に変換する処理器である。具体的には、第1視軸演算器110Aでは、u[3]=u[1]÷cos(θEL)の演算を行う。
【0045】
この第1視軸演算器110Aは、第1入力範囲制限器120Aの演算許可を得た場合にのみ上記の演算処理を行う。この第1入力範囲制限器120Aは、cos(θEL)除算結果が∞(NAN)となるのを防止する条件判定フラグ生成器である。
【0046】
そして、第1入力範囲制限器120AはEL視軸角度130(視軸の俯仰角度θELを演算する)を参照し、除算結果が∞(NAN)となる時に「u[8]=0」を、そうでない時は「u[8]=1」を出力する。そして、第1視軸演算器110Aは、第1入力範囲制限器120Aで判定された出力u[8]を参照し、u[8]が「1」の時のみ視軸変換の演算を行う。
【0047】
一方、第2視軸演算器110Bは、入力された視軸鉛直方向軸回りの角速度信号u[2]をAZ軸回りの角速度u[4]に変換する処理器である。具体的には、第2視軸演算器110Bでは、u[4]=u[2]÷sin(θEL)の演算を行う。
【0048】
この第2視軸演算器110Bは、第2入力範囲制限器120Bの演算許可を得た場合にのみ上記の演算処理を行う。この第2入力範囲制限器120Bは、sin(θEL)除算結果が∞(NAN)となるのを防止する条件判定フラグ生成器である。
【0049】
そして、第2入力範囲制限器120BはEL視軸角度130を参照し、除算結果が∞(NAN)となる時に「u[9]=0」を、そうでない時は「u[9]=1」を出力する。そして、第2視軸演算器110Bは、第2入力範囲制限器120Bで判定された出力u[9]を参照し、u[9]が「1」の時のみ視軸変換の演算を行う。
【0050】
上記のようにして第1及び第2視軸演算器110A,110Bで演算されたAZ軸回りの角速度u[3],u[4]は、切換え処理器160に送られる。また、EL視軸角度130で求められる視軸の俯仰角度θELも切換え処理器160に送られる。
【0051】
切換え処理器160は、視軸の俯仰方向の角度u[5](u[5]=θEL)に基づき、第1視軸演算器110Aから送られてくるAZ軸回りの角速度u[3]と、第2視軸演算器110Bから送られてくるAZ軸回りの角速度u[4]との混合比を変化させ、補償器180の処理に反映させる。補償器180は角速度指令0[rad/s]を実現するために必要な制御量を算出し、ジンバル部200のアンプ230へ伝達する演算器である。
【0052】
ここで、切換え処理器160で実施される処理について詳述する。図9は、切換え処理器160の切換え処理を示すブロック図である。第1視軸演算器110Aからの視軸俯仰軸方向の角速度u[3]は、切換え処理器160において第1視軸演算器110Aの反映割合u[6]が乗算される。また、第2視軸演算器110BからのAZ軸回りの角速度u[4]は、切換え処理器160において第2視軸演算器110Bの反映割合u[7]が乗算される。
【0053】
そして、視軸俯仰軸方向の角速度u[3]に第1視軸演算器110Aの反映割合u[6]が乗算された演算値と、AZ軸回りの角速度u[4]に第2視軸演算器110Bの反映割合u[7]が乗算された演算値は、加算器190で加算される。そして、このようにして得られた演算結果u[8](以下、反映角速度u[8]という)は、切換え処理器160から補償器180に向けフィードバック信号として出力される。
【0054】
ここで、第1視軸演算器110Aの反映割合u[6]及び第2視軸演算器110Bの反映割合u[7]は、予め切換え処理器160に格納されている反映割合マップ140に基づき決定される。反映割合マップ140は、EL視軸角度130から入力される視軸の俯仰方向の角度u[5]に基づき、第1視軸演算器110Aの反映割合u[6]及び第2視軸演算器110Bの反映割合u[7]を決定する二元マップである。
【0055】
図示されるように、反映割合マップ140は横軸に視軸の俯仰方向の角度u[5](θEL)を取ると共に縦軸に反映割合[%]を取ったマップである。同図に示すように第1視軸演算器110Aの反映割合u[6]は、視軸の俯仰方向の角度u[5]が−180°〜−140°、−40°〜+40°、+140°〜+180である場合には100%となっている。これに対し、視軸の俯仰方向の角度u[5]が−130°〜−50°、+50°〜+130°である場合には第1視軸演算器110Aの反映割合u[6]は0%となっている。
【0056】
一方、第2視軸演算器110Bの反映割合u[7]は、視軸の俯仰方向の角度u[5]が−130°〜−50°、+50°〜+130°である場合には100%となっている。これに対し、視軸の俯仰方向の角度u[5]が−180°〜−140°、−40°〜+40°、+140°〜+180°である場合には、第2視軸演算器110Bの反映割合u[7]は0%となっている。
【0057】
更に、視軸の俯仰方向の角度u[5]が−140°〜−130°(第1ミキシング領域M1という)、−50°〜−40°(第2ミキシング領域M2という)、+40°〜+50°(第3ミキシング領域M3という)、+130°〜+140°(第4ミキシング領域M4という)の範囲は、第1視軸演算器110Aの反映割合u[6]及び第2視軸演算器110Bの反映割合u[7]は漸次変化するよう設定されている。
【0058】
具体的には、第1ミキシング領域M1及び第3ミキシング領域M3では、第1視軸演算器110Aの反映割合u[6]は100%から0%に漸次減少し、逆に第2視軸演算器110Bの反映割合u[7]は0%から100%に漸次増大する。また、第2ミキシング領域M2及び第4ミキシング領域M4では、第1視軸演算器110Aの反映割合u[6]は0%から100%に漸次増大し、逆に第2視軸演算器110Bの反映割合u[7]は100%から0%に漸次減少する。従って、各ミキシング領域M1〜M4では、第1視軸演算器110Aの反映割合u[6]と第2視軸演算器110Bの反映割合u[7]はスムーズに切換えられる。
【0059】
図11は、視軸の俯仰方向の角度u[5]と反映角速度の倍率u[8]との関係を示す図である。同図に示すように、視軸の俯仰方向の角度u[5]が−180°〜−140°、−40°〜+40°、+140°〜+180°の範囲では、反映角速度u[8]として視軸俯仰軸方向の角速度u[3]が出力されている。また、視軸の俯仰方向の角度u[5]が−130°〜−50°、+50°〜+130°の範囲では、反映角速度u[8]としてAZ軸回りの角速度u[4]が出力されている。また、第1ミキシング領域M1〜第4ミキシング領域M4の各領域内では、反映割合マップ140に示す各反映割合u[6],u[7]に対応した割合で各角速度u[3],u[4]が混合された値が反映角速度u[8]として出力される。
【0060】
次に、図12及び図13を用いて、視軸の俯仰方向の角度u[5]と、角速度検出部210により検出される3軸回りの加速度(視軸鉛直方向軸回りの角速度u[1],カメラの視軸背面方向軸回りの角速度u[2],視軸俯仰軸方向の角速度u[EL])との関係について説明する。
【0061】
図12(A)は、視軸の俯仰方向の角度u[5]が+90°である状態を示している。この時、視軸は真上方向を向いており、視軸鉛直方向軸回りの角速度u[1]は水平方向を向いており、またカメラの視軸背面方向軸回りの角速度u[2]は鉛直下方を向いている。
【0062】
ここで、反映角速度u[8]の演算に視軸鉛直方向軸回りの角速度u[1]を用いることを想定すると、第1視軸演算器110Aにおいて視軸鉛直方向軸回りの角速度u[1]をcos(θEL)で除算する際、視軸俯仰軸方向の角速度u[3]は無限大に近づき、指令値とフィードバック値との偏差が大きくなり、トルクモータ240の制御が不可能となるおそれがある。このため本実施形態では、視軸の俯仰方向の角度u[5]が+90°である場合、カメラの視軸背面方向軸回りの角速度u[2]のみを反映角速度u[8]の演算に用いている。
【0063】
図12(B)は、視軸の俯仰方向の角度u[5]が+45°である状態を示している。この時、視軸は水平方向に対して斜め上方に45°傾いており、視軸鉛直方向軸回りの角速度u[1]及びカメラの視軸背面方向軸回りの角速度u[2]は垂直下方を中心として±45°傾いた状態となっている。
【0064】
ここで、図9に示す反映割合マップ140を参照すると、u[5]が+45°の時の第1視軸演算器110Aの反映割合u[6]及び第2視軸演算器110Bの反映割合u[7]は共に50%である。よって視軸の俯仰方向の角度u[5]が+45°である場合、反映角速度u[8]を求めるのに視軸鉛直方向軸回りの角速度u[1]及びカメラの視軸背面方向軸回りの角速度u[2]の双方を用い、それぞれを50%の反映割合で加算(ミキシング)することにより反映角速度u[8]を求めている。
【0065】
図12(C)は、視軸の俯仰方向の角度u[5]が±0°である状態を示している。この時、視軸は水平方向を向いており、視軸鉛直方向軸回りの角速度u[1]は鉛直下方を向いており、またカメラの視軸背面方向軸回りの角速度u[2]は水平方向を向いている。
【0066】
前記と同様の理由で、反映角速度u[8]の演算に視軸鉛直方向軸回りの角速度u[2]を用いた場合にはAZ軸回りの角速度u[4]は無限大に近づき、指令値とフィードバック値との偏差が大きくなり、トルクモータ240の制御が不可能となるおそれがある。このため本実施形態では、視軸の俯仰方向の角度u[5]が±0°である場合、視軸鉛直方向軸回りの角速度u[1]のみを反映角速度u[8]の演算に用いている。
【0067】
図13(A)は、視軸の俯仰方向の角度u[5]が−45°である状態を示している。この時、視軸は水平方向に対して斜め下方に45°傾いており、視軸鉛直方向軸回りの角速度u[1]及びカメラの視軸背面方向軸回りの角速度u[2]は水平方向を中心として±45°傾いた状態となっている。
【0068】
ここで、図9に示す反映割合マップ140を参照すると、u[5]が−45°の時の第1視軸演算器110Aの反映割合u[6]及び第2視軸演算器110Bの反映割合u[7]は共に50%である。よって視軸の俯仰方向の角度u[5]が−45°である場合、反映角速度u[8]を求めるのに視軸鉛直方向軸回りの角速度u[1]及びカメラの視軸背面方向軸回りの角速度u[2]の双方を用い、それぞれを50%の反映割合で加算(ミキシング)することにより反映角速度u[8]を求めている。
【0069】
図13(B)は、視軸の俯仰方向の角度u[5]が−90°である状態を示している。この時、視軸は鉛直下方を向いており、視軸鉛直方向軸回りの角速度u[1]は水平方向を向いており、またカメラの視軸背面方向軸回りの角速度u[2]は真上方向を向いている。
【0070】
前記と同様の理由で、反映角速度u[8]の演算に視軸鉛直方向軸回りの角速度u[1]を用いた場合には視軸俯仰軸方向の角速度u[3]は無限大に近づき、指令値とフィードバック値との偏差が大きくなり、トルクモータ240の制御が不可能となるおそれがある。このため本実施形態では、視軸の俯仰方向の角度u[5]が−90°である場合、カメラの視軸背面方向軸回りの角速度u[2]のみを反映角速度u[8]の演算に用いている。
【0071】
更に図13(C)は、視軸の俯仰方向の角度u[5]が−135°である状態を示している。この時、視軸は水平方向に対して斜め下方に45°傾いており、視軸鉛直方向軸回りの角速度u[1]及びカメラの視軸背面方向軸回りの角速度u[2]は真上方向を中心として±45°傾いた状態となっている。
【0072】
ここで、図9に示す反映割合マップ140を参照すると、u[5]=−135°の時の第1視軸演算器110Aの反映割合u[6]及び第2視軸演算器110Bの反映割合u[7]は共に50%である。よって視軸の俯仰方向の角度u[5]が−135°である場合、反映角速度u[8]を求めるのに視軸鉛直方向軸回りの角速度u[1]及びカメラの視軸背面方向軸回りの角速度u[2]の双方を用い、それぞれを50%の反映割合で加算(ミキシング)することにより反映角速度u[8]を求めている。
【0073】
上記したように、切換え処理器160は視軸俯仰軸方向の角速度u[3]とAZ軸回りの角速度u[4]を、反映割合マップ140に基づき視軸の俯仰方向の角度u[5]を参照して切り替えることにより、たわみの増幅を45°毎程度の増幅に抑えることができる。このため、本実施形態に係る加速度制御方式によれば、たわみ外乱の影響を従来の加速度制御方式に比べて約1/6(θEL-80度)抑圧できると共に、全視軸方向に対し空間安定を図ることが可能となる。
【0074】
また、このように本実施形態で用いている角速度制御方式は、たわみ振動の影響を受けにくいため、従来の角速度制御方式よりも制御ループの安定度を確保でき、トルクモータ240の低消費電力化を図ることができる。また、使用する角速度検出部210は1個でよいため、ジンバル装置1の小形化を図ることができる。
【0075】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は上記した特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能なものである。
【0076】
例えば、本実施形態では各ミキシング領域M1〜M4の範囲を10°に設定したが、このミキシング領域M1〜M4の範囲もこれに限定されるものではなく、適宜設定が可能なものである。
【0077】
以上の実施形態に関し、更に以下の付記を開示する。
(付記1)
移動体に搭載され、駆動部により駆動されることにより内設されたカメラの視軸を前記移動体に対して移動させるジンバル部と、
前記カメラの視軸の鉛直方向軸回りの第1角速度と、該前記カメラの視軸の鉛直方向軸回りと異なる向きの第2軸回りの第2角速度と、視軸俯角軸方向回りの第3角速度を検出する角速度検出部と、
前記加速度検出部に基づき前記駆動部の駆動制御を行う制御手段とを有し、
前記制御手段は、
前記第1角速度を用いてたわみを補正する第1補正角速度を求める第1の視軸演算器と、
前記第2角速度を用いてたわみを補正する第2補正角速度を求める第2の視軸演算器と、
前記第1及び第2の視軸演算器と接続され、視軸の俯角軸方向の角度に基づき、前記第1補正角速度又は前記第2補正角速度のいずれを出力するかを決定する切換え処理器と、
前記切換え処理器で決定された前記第1又は前記第2補正角速度に基づき、前記駆動部の駆動を制御する補償器とを有するジンバル装置。
(付記2)
前記第2の角速度は、視軸に対する背面方向軸回りの角速度である付記1記載のジンバル装置。
(付記3)
前記切換え処理器は、出力される補正角速度に反映される前記第1補正角速度と前記第2補正角速度との割合を、前記視軸の俯角軸方向の角度に基づき漸次変化させる付記1又は2記載のジンバル装置。
(付記4)
前記第1の視軸演算器は、前記視軸の俯角に基づき前記第1補正角速度する構成とされ、
前記視軸の俯角の値が、前記第1の視軸演算器が演算する前記第1補正角速度を無限大とする値である場合、当該視軸の俯角の値を前記第1の視軸演算器に入力されるのを禁止する第1の入力制御器を設けた付記1乃至3のいずれか一項に記載のジンバル装置。
(付記5)
前記第2の視軸演算器は、前記視軸の俯角に基づき前記第2補正角速度する構成とされ、
前記視軸の俯角の値が、前記第2の視軸演算器が演算する前記第2補正角速度を無限大とする値である場合、当該視軸の俯角の値を前記第2の視軸演算器に入力されるのを禁止する第2の入力制御器を設けた付記1乃至4のいずれか一項に記載のジンバル装置。
【符号の説明】
【0078】
1 ジンバル装置
2 機体取付け面
3 AZ旋回部
4 カメラ搭載部
100 制御器
110A 第1視軸演算器
110B 第2視軸演算器
120A 第1入力範囲制限器
120B 第2入力範囲制限器
130 EL視軸角度
140 反映割合マップ
160 切換え処理器
180 補償器
200 ジンバル部
210 角速度検出部
240 トルクモータ
u[1] 視軸鉛直方向軸回りの角速度
u[2] カメラの視軸背面方向軸回りの角速度
u[3] 視軸俯仰軸方向の角速度
u[4] AZ軸回りの角速度
u[5] 視軸の俯仰方向の角度
u[6] 第1視軸演算器110Aの反映割合
u[7] 第2視軸演算器110Bの反映割合
u[8] 反映角速度
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体に搭載され、駆動部により駆動されることにより内設されたカメラの視軸を前記移動体に対して移動させるジンバル部と、
前記カメラの視軸の鉛直方向軸回りの第1角速度と、該前記カメラの視軸の鉛直方向軸回りと異なる向きの第2軸回りの第2角速度と、視軸俯角軸方向回りの第3角速度を検出する角速度検出部と、
前記加速度検出部に基づき前記駆動部の駆動制御を行う制御手段とを有し、
前記制御手段は、
前記第1角速度を用いてたわみを補正する第1補正角速度を求める第1の視軸演算器と、
前記第2角速度を用いてたわみを補正する第2補正角速度を求める第2の視軸演算器と、
前記第1及び第2の視軸演算器と接続され、視軸の俯角軸方向の角度に基づき、前記第1補正角速度又は前記第2補正角速度のいずれを出力するかを決定する切換え処理器と、
前記切換え処理器で決定された前記第1又は前記第2補正角速度に基づき、前記駆動部の駆動を制御する補償器とを有するジンバル装置。
【請求項2】
前記第2の角速度は、視軸に対する背面方向軸回りの角速度である請求項1記載のジンバル装置。
【請求項3】
前記切換え処理器は、出力される補正角速度に反映される前記第1補正角速度と前記第2補正角速度との割合を、前記視軸の俯角軸方向の角度に基づき漸次変化させる請求項1又は2記載のジンバル装置。
【請求項1】
移動体に搭載され、駆動部により駆動されることにより内設されたカメラの視軸を前記移動体に対して移動させるジンバル部と、
前記カメラの視軸の鉛直方向軸回りの第1角速度と、該前記カメラの視軸の鉛直方向軸回りと異なる向きの第2軸回りの第2角速度と、視軸俯角軸方向回りの第3角速度を検出する角速度検出部と、
前記加速度検出部に基づき前記駆動部の駆動制御を行う制御手段とを有し、
前記制御手段は、
前記第1角速度を用いてたわみを補正する第1補正角速度を求める第1の視軸演算器と、
前記第2角速度を用いてたわみを補正する第2補正角速度を求める第2の視軸演算器と、
前記第1及び第2の視軸演算器と接続され、視軸の俯角軸方向の角度に基づき、前記第1補正角速度又は前記第2補正角速度のいずれを出力するかを決定する切換え処理器と、
前記切換え処理器で決定された前記第1又は前記第2補正角速度に基づき、前記駆動部の駆動を制御する補償器とを有するジンバル装置。
【請求項2】
前記第2の角速度は、視軸に対する背面方向軸回りの角速度である請求項1記載のジンバル装置。
【請求項3】
前記切換え処理器は、出力される補正角速度に反映される前記第1補正角速度と前記第2補正角速度との割合を、前記視軸の俯角軸方向の角度に基づき漸次変化させる請求項1又は2記載のジンバル装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−4208(P2011−4208A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−146067(P2009−146067)
【出願日】平成21年6月19日(2009.6.19)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月19日(2009.6.19)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
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