説明

スエード様の外観を有する人工皮革製造用多層中間製品及びその製造方法

【課題】機械抵抗性が向上した、柔軟な合成皮革の中間製品の製造方法。
【解決手段】a.ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアクリロニトリル、ポリアミドから選択される1つ以上のポリマーのミクロフィブリルからなるミクロフィブリル不織布中間製品を製造する工程と、 b.接着剤を用いて行う結合により、上述の不織布ミクロフィブリル中間製品の少なくとも1つの層と、補強織物製品の少なくとも1つの層とを含む中間多層製品を製造する工程と、 c.1つ以上のポリウレタン溶液を、工程(b)で製造した多層中間製品に含浸させ、ポリウレタンを含浸させた多層中間製品を得る工程とを含む方法。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
本発明は、高品質の人工皮革製造に有用な、ポリウレタンを含浸させた多層中間製品であって、スエード様の外観を呈し、柔軟で、成形性が高く、且つ機械抵抗性が向上していることを特徴とする多層中間製品に関する。
【0002】
本発明はまた、上述の多層中間製品を得るための方法及び前記中間製品から得られたスエード様皮革最終製品に関する。
【0003】
前記人工皮革の典型的な使用は、詰物品及び車の内装や座席の被覆である。
【0004】
スエード様の外観を有する合成人工皮革は、当該技術分野において既知であり、高密度のミクロフィブリルを有する表面、及びこのミクロフィブリル構造を結合可能とするマトリックスに特徴を有している。
【0005】
このタイプの材料を形成するミクロフィブリルは、通常ポリエステル及び/又はポリアミドをベースとし、結合マトリックスはポリウレタンタイプのものである。
【0006】
使用するバインダーは、不織布を形成するミクロフィブリルを保持することに加え、通常、複合構造のより高い機械的特性及び引裂き抵抗性の付与に寄与する。しかしながら、同時に、このバインダーによって柔軟性や成形性という特徴が低下する。このため、高品質の人工皮革で通常使用するバインダーの量は、上述の特徴を過度に低下させない範囲内である。
【0007】
スエード様の外観を有する高品質の人工皮革を製造するために本出願人が使用する方法(欧州特許0584511号、米国特許3531368号及び米国特許3716614号を参照)は、以下のように体系化される方法である:
【0008】
1.「海島」型の二成分繊維を紡糸する。「島」はポリエステル及び/又はポリアミドからなり、「海」は島成分と不混和性のポリマーからなり、かつ有機又は無機タイプの好適な溶媒に溶解可能なものである。海成分の溶解後に得られるミクロフィブリルの番手は、典型的には0.5デニール未満である。
【0009】
2.項目1で得られたミクロフィブリル同士を連結することができる機械的なニードルプロセスによって、明確な密度及び単位重量値によって特徴ずけられたフェルトを製造する。
【0010】
3.続く「海」成分の除去段階中に、「島」を保持することができるバインダーをフェルトに含浸させる。このバインダーは、フェルトを十分に補強して、「海」の除去に使用する溶媒が浸漬し得る機能も有し、異なる2つのタイプのバインダーであり得る。
【0011】
第1のタイプは、典型的にはポリビニルアルコールをベースとし、本方法の後続の段階で除去されるものである。
【0012】
第2のタイプは、典型的にはポリウレタンをベースとし、本方法の後続の段階の後でも、最終複合物中に、部分的に又は全体的に残存する。
【0013】
この段階で得られた中間製品は、「SR」と呼ばれる。
【0014】
4.好適な有機溶媒(通常は、トリクロロエチレン)又は無機溶媒(酸性、塩基性の水性溶液又は単に熱水)中に「海」成分を溶解し、ミクロフィブリル材料を得る(「D」と呼ばれる中間製品)。
【0015】
5.有機溶媒(ジメチルホルムアミド(DMF))にポリウレタン(PU)を溶解したものを上述のミクロフィブリル材料に含浸させる。別の方法として、この含浸は、エマルジョン又は水性分散液にポリウレタンを溶解したもので行うことができる。
【0016】
6.(PUではない場合)項目3で使用したバインダーを除去する(「IE」と呼ばれる中間製品)。
【0017】
7.表面に対して長手方向平行に切断した二成分ラミネート(「島」成分+PU)を2つの均等なパーツに分割する。
【0018】
8.研磨紙を用いた好適な処理によって表面を研磨し、特徴的なスエード様の外観を有する構造を得る。
【0019】
9.製品を最終的に染色する。
【0020】
人工スエード様皮革の適用範囲を広げるのにしばしば使用する手段の1つは、より高い機械抵抗性及び/又は成形性、ボディーなどの異なる特徴が必要とされる用途に材料を適合させることができる種々の支持体と、この人工スエード様皮革とを組み合わせることである。
【0021】
ミクロフィブリル基材と異なる支持体とを組み合わせるための最も単純かつ最も広範に使用される方法は、染色プロセス後に好適な接着剤を使用して、それらを織物支持体と結合することである。通常、様々な支持体と結合する前に染色を行う理由は、スエード様タイプの人工皮革を染色するのに使用する厳しいプロセス条件に耐えることができ、同時に製品に十分な柔軟性を維持させ得る接着剤を見つけるのが困難だからである。
【0022】
このような限定の結果として、同じ染色プロセスで両面を染色することで両面の外観が幾分か顕著に類似することが特徴である最終製品を得ることができなくなる。
【0023】
また、これらの差異は、スエード様表面の構造と著しく異なる構造を有する材料を支持体として一般に使用することにも起因する。通常、実際には、異なる用途に必要な物理機械的特徴を有する製品を得るべく、支持体は、不織布構造を有するミクロフィブリル表面と極めて異なる視覚的外観を有する様々なタイプの織物構造である。
【0024】
ミクロフィブリル基材と、使用される異なる支持体とを効果的に組み合わせ、上述の致命的な点を克服するのに用いられる別の方法は、引用された接着剤を利用せずに、染色プロセスの「上流」の作業段階において、様々な層を「結合する」ことである。このタイプの具体的な技術は、米国特許4,368,227号及び5,112,421号に開示されている。両特許は、ミクロフィブリル不織布と、従来の布帛又は編地との組み合わせからなる「多層」構造の使用を想定している。
【0025】
これらの特許において、複合製品の様々な層間の連結は、同じ層を形成する繊維をインターレースすることによって担保され、好適なニードリング技術によって得られる。
【0026】
米国特許4,368,227号で提案される溶液の制限は、主に大量のポリウレタンバインダーの使用を余儀なくされることによるものであり、この使用の結果として、非常に短い繊維(10mm以下)がウォーターニードリングによってインターレースされる。ウォーターニードリングは、実際には、その後に続く含浸段階において少量のポリウレタンバインダーの使用を可能とするようなインターレース度合いを担保するものではない。
【0027】
一方、提案されている溶液を用いると、機械的ニードリング(ミクロフィブリル間及び層間のインターレースを確実に高めることができる)を採ることができない。その理由として、これは、複合材料の様々な層を形成する繊維の破損に起因する過度の構造弱化を引き起こすからである。より長い繊維(20mmを超える)を使用するために、同繊維を保持するのに必要なバインダーがより少量ですむ特許特許5,112,421号の制限は、補強した層となる布帛を製造するために、高撚糸を使用せざるを得ないことにある。これは、提案された溶液が、単層(ミクロフィブリル及び非ミクロフィブリル)を重ね合わせ、次いでニードリング作業を実施し、結果として、好適な厚さ及び密度の値を特徴とする中間製品を製造することを想定しているからである。
【0028】
高撚糸の使用は、これらの複合物の構造を過度に弱化させないという目的を有するが、一方では、完成品の視覚的外観に影響を及ぼす。高いニードリング密度を必要とすると、実際には、従来のデニールを有する膨大な数の繊維束によって表面(即ち、最終製品の「可視」表面)が微小孔性に移行するようになり、これは高品質のスエード様人工皮革特有の均質な外観を失わせる。
【0029】
上述の移行現象は単繊維に限定されるため、撚糸を用いていない織物構造を使用できる場合は、視覚的及び触覚的影響は前記の繊維束の存在に起因する影響よりも確実に低い。
【発明の概要】
【0030】
ここで、本出願人はスエード様の外観を呈する高品質の合成皮革を製造させる方法であって、上述の致命的な局面及び制限なく、機械抵抗性、柔軟性、成形性を向上させることを特徴とする方法を発見した。
【0031】
この新規な方法は、染色プロセスの上流段階における複合体形成層の結合を特徴とし、この結合は、既述のニードリングによる繊維のインターレースシステムに代わる方法を用いて行われる。
【0032】
ポリウレタンを含浸させた多層中間製品の製造を包含するこの方法を使用して、本出願人はまた、可視面と同様の視覚的外観及び触覚的特徴を備えた裏面(製品の最終用途において見えない)を有する人工皮革を製造した。
【0033】
これによれば、本発明は、機械抵抗性が向上した、柔軟な合成層の製造に有用な、ポリウレタン含浸多層中間製品の製造方法に関し、この方法は、
a.ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアクリロニトリル、ポリアミドから選択される1つ以上のポリマーのミクロフィブリルからなるミクロフィブリル不織布中間製品を製造する工程と、
b.接着剤を用いて行う結合により、上述の不織布ミクロフィブリル中間製品の少なくとも1つの層と、補強織物製品の少なくとも1つの層とを含む中間多層製品を製造する工程と、
c.1種以上のポリウレタン溶液を用いて、前記工程(b)において製造した多層中間製品の含浸を行い、ポリウレタンを含浸させた多層中間製品を得る工程とを含む。
【0034】
不織布ミクロフィブリル中間製品に関する限り、これはポリエチレンテレフタレートからなるのが好ましい。
【0035】
不織布ミクロフィブリル中間製品は従来技術に記載した方法に従って製造することができる。
【0036】
好ましい実施態様によれば、前記不織布ミクロフィブリル中間製品は以下のスキームに従って製造可能である。
【0037】
A)二成分繊維を紡糸する。前記成分の少なくとも1つはミクロフィブリルである。
【0038】
B)機械的又はウォーターニードリングプロセス、好ましくは機械的ニードリングプロセスにより半完成フェルト製品を製造する。中間フェルトのデニール値は、通常、0.150÷0.220g/cmの範囲内であり、その単位重量は550÷650g/mの範囲内である。
【0039】
従来の番手を有する繊維(天然、人工又は合成)を、単独で、又は項目Aで得られた繊維と混合して、フェルト製造に使用することができる。
【0040】
C)項目3で説明した既知のミクロフィブリル不織布繊維(「SR」と呼ばれる中間製品)の製造方法に従ってフェルトの含浸を行う。
【0041】
D)既知のミクロフィブリル不織布(「D」と呼ばれる中間製品)の製造方法に関する項目4に従って、二成分繊維の「海」成分を溶解する。
【0042】
工程(b)の前に、上述の不織布ミクロフィブリル中間製品(D)を、表面に対して長手方向平行に切断する(「分割物D」と呼ばれる中間製品)。
【0043】
結合工程(b)で使用する接着剤に関する限り、これらは熱可塑性接着剤であるのが好ましく、顆粒、粉末、ベール、網目構造、連続シート及び製版シートの形状であり得る。結合条件としては、結合すべき成分間にホットラミネートされるベール又は網目構造を有する薄層形状の接着剤を使用することが挙げられるが、これらに限定されるものではない。好ましい実施態様では、前述の熱可塑性接着剤の溶融温度は、60℃〜150℃、好ましくは80℃〜120℃の範囲である。
【0044】
第2実施態様によれば、顆粒形状の接着剤を使用することができ、結合すべき表面の少なくとも1つに、刻印されたローラによりこの接着剤を溶融して拡散させる。この作業の後に多層中間製品のカレンダー加工を行う。これはホットメルト技術の一例である。
【0045】
また、適用後に重合する接着剤又は溶媒接着剤に基づく技術を工程(b)において使用することも可能である。
【0046】
工程(b)の補強織物製品に関する限り、これは、合成及び/又は人工及び/又は天然繊維から作製された直交布帛若しくは編地、又は不織布である。
【0047】
補強材料は、スエード様皮革の最終用途又は使用する製造方法に従って選択される。例えば、スエード様皮革において幾つかの機械的特性が担保されなければならない場合、補強構造は、所望の特徴をスエード様皮革に付与することができるものから選択される。更に、製造方法は、作業工程の1つの間に、補強構造を長手方向に切断する工程を含み、上述の構造は長手方向の切断に耐え得る三次元構造から選択されるので、やはり十分な機械抵抗性が担保された構造を有する2つの層が製造される。
【0048】
工程(b)は、ラミネート「D」のうちの1つのみと、積層布帛又は編地とを結合し、2つの層のみを有する構造を提供することによって行うことができる。別の実施態様によれば、2つのラミネート「D」と、2つ以上の織物ラミネートとを結合することができる。この場合、外側表面は、いずれの場合も中間製品「D」によって形成される。
【0049】
工程(b)の接着剤が保証する剥離抵抗性は必ずしも明確なタイプでなくてもよいことが指摘されよう。実際、接着剤は、その後に続く工程(c)において、結合ポリウレタンマトリックスを含浸させるまで十分な接着作用を発揮するという目的を有するのみである。実際、このポリウレタンバインダーは、様々な層同士を確実に密着させる。
【0050】
本発明の方法の工程(c)は、1つ以上のポリウレタン溶液を、工程(b)で製造した多層中間製品に含浸させることである。用語「ポリウレタン」は、可撓性セグメント(柔軟なセグメント)と、剛性セグメント(硬質セグメント)からなるポリマーを意味する。
【0051】
可撓性セグメントは、以下をベースとするポリマー部分であってよい。
【0052】
・ポリエーテル類、例えば、ポリテトラメチレングリコールジオール(PTMG)、ポリエチレングリコールジオール(PEG)、ポリプロピレングリコールジオール(PPG)の誘導体、
・ポリエステル類、例えば、アジピン酸のエステル(ポリへキサメチレンアジペートジオール(PHA)、ポリ(3−メチルペンタメチレン)アジペートジオール(PMPA)又はポリネオペンチルアジペートジオール(PNA))、他のポリエステル類は、カプロラクトンなどの環状分子の開環により調製できる(それにより、ポリカプロラクトンジオール(PCL)が得られる)、
・ポリカーボネート類、例えば、ポリヘキサメチルカーボネートジオール(PHC)、ポリペンタメチレンカーボネートジオール(PPMC)、ポリ−(3−メチル−ペンタメチレンカーボネート)ジオール(PMPC)、ポリテトラメチレンカーボネートジオール(PTMC)並びにこれらの混合物及び共重合体。
【0053】
ポリエステル及びポリカーボネートの共重合によって得られるポリエステル−コ−ポリカーボネートだけでなく、前述のポリエーテル及びポリエステルの共重合によって形成されるポリエステルも可撓性要素として使用できる。
【0054】
実施例のポリウレタン合成に使用するポリオールの数平均分子量は、通常、1,000〜3,000、好ましくは1,750〜2,250の範囲である。
【0055】
剛性セグメントとは、有機ジイソシアネート、例えば、メチレン−ビス−(4−フェニルイソシアネート)(MDI)又はトルエンジイソシアネート(TDI)と、アミン又はグリコール鎖との反応によって形成されるポリマー鎖の一部分を指す。実際、ダイヤモンドを用いてポリウレタン合成を行うことによりポリウレタンウレアを得るか、又はグリコールを用いてポリウレタン合成を行うことにより、この場合には真の意味でのポリウレタンを得ることが可能であることは周知である。
【0056】
ポリウレタンウレアを調製する際に鎖延長剤として使用可能な脂肪族ジアミン類は、エチレンジアミン(EDA)、1,3−シクロヘキサンジアミン(1,3−CHDA)、1,4シクロヘキサンジアミン(1,4−CHDA)、イソフォロンジアミン(IPDA)、1,3−プロピレンジアミン(1,3−PDA)、2−メチルペンタメチレンジアミン(MPDM)、1,2−プロピレンジアミン(PDA)、及びこれらの混合物である。鎖延長剤として使用すべき芳香族ジアミンの典型的な例は、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、メチレン−ビス(4−フェニルアミン)(MPA)、2,4−ジアミノ−3,5−ジエチルトルエン、2,4−ジアミノ−3,5−ジ(メチルチオ)トルエンである。上述の脂肪族及び/又は芳香族ジアミンを、そのまま添加するか、又は対応するイソシアネートと水との反応によりin situで展開することができる。また、真の意味でのポリウレタン中の鎖延長剤は、エチレングリコールなどのジオール類及びこれらの混合物を用いて得ることができる。最終的に、マロン酸、コハク酸及びアジピン酸などのジカルボン酸類を用いて鎖延長を行うことができる。ポリウレタン及びポリウレタンウレアを調製するのに用いる反応は、通常、非プロトン性不活性溶媒、例えばジメチルアセタミド(DMAc)、ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチルピロリドン(NMP)中で行うことができる。上述の調製は当業者にとっては周知の事項である。
【0057】
ポリウレタンは、工程(c)においては好適な非プロトン性不活性溶媒中で溶液の形態にて用いられ、好ましくは、ジメチルアセタミド(DMAc)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチルピロリドン(NMP)、更に好ましくは、N,N−ジメチルホルムアミドから選択される。
【0058】
別の方法として、工程(c)は、ポリウレタンのエマルジョン又は水性分散液を用いて実施することができる。
【0059】
本発明の方法により、多層中間製品を製造することができ、これらの層のうち少なくとも1つは最終製品の前面として機能し、他層の少なくとも1つは複合材料を機械的に補強するという機能を有する。
【0060】
多層中間生成物が2つより多い層からなる場合、本方法は、現在使用している方法で行うのと同様、表面に対して平行に行われる1つ以上の長手方向切断段階を想定し得るものである。
【0061】
本発明で考えられる何れの場合も、不織布層は、異なる染色性を有するミクロフィブリルからなり、最終的なスエード様皮革における「メランジ」タイプの効果を付与するべく構成可能である。
【0062】
本発明の方法の第1の利点は、撚りの数が多い撚糸を使用することから生じる今までの制限を克服できるというところにあり、これは上述の最新技術に特徴的なものである。
【0063】
第2の利点は、支持層からミクロフィブリル表面までの繊維の移送現象が排除されることにあり、それに関連して最終製品の外観が向上する。
【0064】
工程(c)の終了時に得られる製品を、最終製品形成までの間(即ち、先に記載し、かつ実験部分の実施例を用いて例証する工程6〜9)、従来技術に記載した通常の操作に供する。
【0065】
完成品に関する限り、技術水準に対して区別し得る特徴の1つは、製品を形成する各層には、他の層に属する又はそれらに由来する繊維が実質的に存在しないという事実である。
【0066】
また、最終製品は、そのすべての成分がポリウレタンバインダーで含浸されていることも特徴であり、このポリウレタンバインダーは、1つの層から別の層への溶液が透過しない構造を有している。
【0067】
本発明の方法に従って織布構造又は編地構造を挿入することにより、更なる結合を行うことなく、一連の用途での使用を保証するような機械的特性を有するスエード様の人工皮革が得られる。
【0068】
本発明を構成する方法全体の好ましくはあるが限定的ではない変形は、以下の工程のもと提供される。
【0069】
A)二成分繊維を紡糸する。前記成分の少なくとも1つはミクロフィブリルである。
【0070】
B)機械的又はウォーターニードリングプロセス、好ましくは機械的ニードリングプロセスにより半完成フェルト製品を製造する。中間フェルトの典型的なデニール値は、0.150÷0.200g/cmの範囲内であり、その単位重量は580÷630g/mの範囲内である。
【0071】
フェルト製造の際、従来のデニールを有する繊維(天然、人工又は合成)を、単独で、又は項目Aで得られた繊維と混合して使用することができる。
【0072】
C)既知のミクロフィブリル不織布(「SR」と呼ばれる中間製品)の製造方法に関する項目3での説明に従ってフェルトの含浸を行う。
【0073】
D)既知のミクロフィブリル不織布(「D」と呼ばれる中間製品)の製造方法に関する項目4に従って、多層製品に存在する二成分繊維の「海」成分を溶解する。
【0074】
E)表面に対して長手方向平行に中間製品(D)を切断する(「分割物D」と呼ばれる中間製品)。
【0075】
F)好適な接着剤及び技術を用いた結合により、3つ以上の層を製造する。2つの外側ラミネートは、中間生成物「D」を切断することにより得られる。
【0076】
本方法の変形では、ラミネート「D」のうち1つのみと、織布ラミネート又は織地ラミネートとの組み合わせを達成することにより、2層のみの構造を得ることができる。
【0077】
第2の変形では、2つのラミネート「D」と、2つ以上の織物ラミネートとを組み合わせることができる。この場合、外側表面は中間生成物「D」から形成される。
【0078】
G)項目Fで得られた中間生成物「多層D」の加工は、通常、既知のミクロフィブリル不織布繊維の製造方法に従って行う。項目5−6−7−8−9を参照。
【0079】
唯一の例外として、2層のみからなる構造の構成に基づく変形を用いる場合には、項目7に記載した切断段階を行わない可能性がある。
【0080】
両表面を均一に染色した製品が得られるものである場合、結合すべき様々な層を形成する繊維の化学的性質を好適に選択しなければならないことが指摘される。以下の実施例は、本発明をよりよく理解するために提示されるものである。
【実施例】
【0081】
以下の表は、原料を識別するために実施例で用いられる略語一覧を示している。
【0082】
【表1】

実施例1(分割物「D」からの3層+編地ベルベット(カレンダー加工+D−PUにより結合))
【0083】
PS海成分中にPETミクロフィブリル(0.13÷0.15デニール)を含むステープル二成分繊維を調製する。この繊維は以下の特徴を有する。
1.デニール:3.8デニール
2.長さ:51mm
3.捲縮:約4〜5cm
【0084】
特に、繊維は、57重量部のPETと、43重量部のPSからなる。繊維の断面を観察すると、PS海成分中にエングローブされた16個のPETミクロフィブリルの存在が確認される。
【0085】
二成分繊維を用いて機械的ニードリングによりフェルトを製造する。このフェルトの密度は0.150g/cm〜0.200g/cmであり、単位重量は580g/m〜630g/mの範囲である。
【0086】
20重量%のポリビニルアルコールを含んだ水溶液にニードル加工フェルトを浸漬させ、次いで乾燥させる。この処理後、繊維のポリスチレン海成分が完全に溶解するまで、ニードル加工フェルトをトリクロロエチレンに浸漬させる。その後、形成した不織布を乾燥させて、「半完成品D」を呼ばれる中間製品を得る。
【0087】
次いで、半完成品Dを長手方向に切断し、2つの同じラミネートを得る。2つのラミネートを重ね合わせ、同じ2.0mmの厚さを有し、かつ撚糸を含まないPET糸から作成された編地(未切断)(繊度22のラッシェル織機を使用して製造)をラミネートの間に挿入し、3層構造を構成する。
【0088】
補強要素として使用するベルベットの引っ張り強度は150N/cmであり、長手方向の破断伸度は55%である。
【0089】
コ−ポリアミドをベースとするベール熱可塑性接着剤を用いてこれら3層をカレンダー結合プロセスにより結合する。この接着剤は、110℃〜120℃の融点範囲を特徴とする。「半完成多層製品D」が得られる。
【0090】
ポリウレタンエラストマーをDMF溶液の形態で別個に調製する。第1工程(前重合)において、PHC及びPNA(いずれの分子量も2,000)とMDIとを、イソシアネート/ジオールモル比2.9/lにて65℃の温度で攪拌下反応させる。反応開始から3時間後、このようにして得られたプレポリマーを45℃の温度まで冷却し、DMFで希釈し(水分量は0.03%)、その結果、遊離NCO基の含有量が1.46%である25%プレポリマー溶液が得られる。
【0091】
次いで、DMFに溶解したDBA及び水をゆっくりと5分間かけて添加し、温度を45℃に維持し、分子量が43,000のポリウレタンポリウレアを得る。反応器の温度を65℃まで上昇させた後、更に8時間攪拌下で維持し、最終的に、経時的に安定であり、かつ20℃で24,000mPa・sの粘度を有するポリウレタンポリウレア溶液を得る。次いで、このように調製したエラストマー溶液を、Tinuvin(登録商標)622及びTinuvin(登録商標)326を含有するDMFで希釈し、14重量%の溶液を形成する。溶液として得られたポリマーは、水中で凝結すると、高多孔性構造を生成することができる。
【0092】
上述のように調製した「半完成多層製品D」をポリウレタンエラストマー溶液に浸漬させ、一対のロールの間に通して圧縮し、その後、40℃に維持した水槽に1時間浸漬させると、凝結した多層製品が得られる。この製品を80℃まで加熱した水槽内に通し、残留溶媒とポリビニルアルコールとを抽出する。乾燥後、2つのミクロフィブリルの外側層と、中央のベルベットとからなる複合材料が得られる。この複合材料を中央で長手方向に切断して2つのラミネートとする。各ラミネートは2つの層(切断したベルベット+ミクロフィブリル層)からなる。このようにして得られたラミネートの、主にミクロフィブリル表面を研磨し、ミクロフィブリルを抽出し、毛羽を形成する。結果として得られるのは、2層を有する複合材料であり、このうち一方は「クルード(crude)」と呼ばれるミクロフィブリル合成不織布であり、平均厚さが1.10mmのものである。
【0093】
次いで、既知のスエード様皮革のために使用される伝統的な技術に従って複合材料をジェット染色する。
【0094】
このようにして得られた人工皮革の外観は、ミクロフィブリル層中の補強ベルベットに属する繊維が全く存在していないために、既知の高品質な人工皮革の外観と完全に類似している。しかしながら、この人工皮革は、その高い物理機械的特性(補強材として使用するベルベットが複合材料に付与する)に起因して異なり、これらの高い物理機械的特性ゆえに、染色プロセス後に更なる結合を必要とすることなく、車内用製品の分野における詰物材料の被覆を行うことができる。また、この特定の特徴により、同じ色相を特徴とする2つの外側表面を有する複合材料が得られる。複合材料の引っ張り強度は130N/cmであり、長手方向の破断伸度は50%である。
【0095】
実施例2(分割物「D」からの2層+「コロラド」布(カレンダー加工+D−PUにより結合))
PS海成分中にPETミクロフィブリル(0.13÷0.15デニール)を含むステープル二成分繊維を調製する。この二成分繊維は以下の特徴を有する。
1.デニール:3.8デニール
2.長さ:51mm
3.カーリング:約4〜5cm。
【0096】
特に、繊維は、57重量部のPETと、43重量部のPSとからなる。繊維の断面を観察すると、PS海成分中に包み込まれた16個のPETミクロフィブリルの存在が確認される。
【0097】
二成分繊維を用いて「クルード」フェルトを調製し、この繊維をニードリングに供し、密度が0.150g/cm〜0.200g/cmであり、単位重量が580g/m〜630g/mのニードル加工フェルトを形成する。
【0098】
20重量%のポリビニルアルコールを含んだ水溶液にニードル加工フェルトを浸漬させ、次いで乾燥させる。この処理後、繊維のポリスチレン海成分が完全に溶解するまで、ニードル加工フェルトをトリクロロエチレンに浸漬させる。その後、形成した不織布を乾燥させて、「半完成品D」と呼ばれる中間製品を得る。
【0099】
次いで、半完成製品Dを長手方向に切断し、2つの同じラミネートを得る。2つのラミネートのうち一方を、PET糸から作成した厚さ0.35mmの円形編地上に重ね合わせ、2層構造を形成する。
【0100】
編地の引き裂き強度は20N/cmであり、負荷100N下での伸度は60%である。
【0101】
コ−ポリアミドをベースとするベール熱可塑性接着剤を用いてこれら2層をカレンダー結合プロセスにより結合する。この接着剤は、110℃〜120℃の融点範囲を特徴とする。「半完成多層製品D」が得られる。
【0102】
ポリウレタンエラストマーをDMF溶液の形態で別個に調製する。第1工程(前重合)において、PHC及びPNA(いずれも分子量2,000)とMDIとを、イソシアネート/ジオールモル比2.9/lにて65℃の温度で攪拌下反応させる。反応開始から3時間後、このようにして得られたプレポリマーを45℃の温度まで冷却し、DMFで希釈し(水分量は0.03%)、その結果、遊離NCO基の含有量が1.46%である25%プレポリマー溶液が得られる。
【0103】
次いで、DMFに溶解したDBA及び水をゆっくりと5分間にわたって添加し、温度を45℃に維持し、分子量が43,000のポリウレタンポリウレアを得る。反応器の温度を65℃まで上昇させた後、更に8時間攪拌下で維持し、最終的に、経時的に安定であり、かつ20℃で24,000mPa・sの粘度を有するポリウレタンポリウレア溶液を得る。次いで、このように調製したエラストマー溶液を、Tinuvin(登録商標)622及びTinuvin(登録商標)326を含有するDMFで希釈し、14重量%の溶液を形成する。溶液として得られたポリマーは、水中で凝結すると、高多孔性構造を生成することができる。
【0104】
上述のように調製した「半完成多層製品D」をポリウレタンエラストマー溶液に浸漬させ、一対のロールの間に通して圧縮し、その後、40℃に維持した水槽に1時間浸漬させると、凝結した多層製品が得られる。この製品を80℃まで加熱した水槽内に通し、残留溶媒とポリビニルアルコールとを抽出する。乾燥後、ミクロフィブリル層と、編地からなる複合材料が得られる。半完成品の、主にミクロフィブリル表面を研磨し、ミクロフィブリルを抽出し、毛羽を形成する。結果として得られるのは、2層を有する複合材料であり、このうち一方は「クルード」と呼ばれるミクロフィブリル合成不織布であり、平均厚さが1.10mmのものである。
【0105】
次いで、既知のスエード様皮革のために使用される伝統的な技術に従って複合材料をジェット染色する。
【0106】
このようにして得られた人工皮革の外観は、ミクロフィブリル層中の補強編地材料に属する繊維が全く存在していないために、既知の高品質な人工皮革の外観と完全に類似している。しかしながら、この人工皮革はその高い物理機械的特性(補強材として使用する編地材料が複合材料に付与する)に起因して異なり、これらの高い物理機械的特性ゆえに、染色プロセス後に更なる結合を必要とすることなく、車内用製品の分野における詰物材料の被覆を行うことができる。また、この特定の特徴により、同じ色相を特徴とする2つの外側表面を有する複合材料を製造することができる。複合材料の引っ張り強度は140N/cmであり、長手方向の破断伸度は60%である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械抵抗性が向上した、柔軟な合成皮革を製造するのに有用な、ポリウレタンを含浸させた多層中間製品の製造方法であって、
a.ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアクリロニトリル、ポリアミドから選択される1つ以上のポリマーのミクロフィブリルからなるミクロフィブリル不織布中間製品を製造する工程と、
b.接着剤を用いて行う結合により、前記不織布ミクロフィブリル中間製品の少なくとも1つの層と、補強織物製品の少なくとも1つの層とを含む中間多層製品を製造する工程と、
c.1つ以上のポリウレタン溶液を、工程(b)で製造した多層中間製品に含浸させることにより、ポリウレタンを含浸させた多層中間製品を得る工程とを含む、方法。
【請求項2】
前記不織布ミクロフィブリル中間製品は、ポリエチレンテレフタレート(PET)のミクロフィブリルを用いて製造される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記補強織物製品は、合成及び/又は人工及び/又は天然タイプの繊維から作製された直交織布製品若しくは編地製品、又は不織布である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記補強織物製品は、直交若しくは編地、又は不織布タイプの二次元及び三次元織物である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記工程(b)で使用する接着剤は、融点範囲が60℃〜150℃である熱可塑性接着剤から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記熱可塑性接着剤は、コ−ポリエステル又はコ−ポリアミドをベースとし、かつ融点範囲が80℃〜120℃である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記工程(b)の結合はホットメルト技術に従って行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記工程(b)の結合はカレンダー積層により行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記工程(b)で製造した多層中間製品は、不織布材料からなる2つの外側層と、補強織物製品からなる内側層とを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記工程(b)で製造した多層中間製品は、不織布層と、補強織物からなる層とを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記工程(c)の含浸は、1つ以上のポリウレタンの溶液に前記多層中間製品を浸漬させ、次いで凝結させることにより行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記工程(c)の含浸は、ポリウレタンのエマルジョン又は水分散液に前記多層中間製品を浸漬させ、次いで凝結させることにより行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記工程(a)で製造した不織布ミクロフィブリル中間生成物は、1デニール未満の番手を有する繊維からなる、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
工程(a)で製造した前記不織布ミクロフィブリル中間生成物は、染色性が異なる繊維からなり、「メランジ」効果を付与するように構成されている、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
請求項1に記載の多層中間製品を出発材料として得られる、機械抵抗性が向上した柔軟な合成皮革であって、各層中には、他の層に特徴的であるか、又は他の層に由来する繊維が存在しない、機械抵抗性が向上した柔軟な合成皮革。
【請求項16】
2つの外側表面は1つ以上の不織布成分からなる、請求項15に記載の機械抵抗性が向上した柔軟な合成皮革。
【請求項17】
ポリウレタンバインダーは、複合材料を形成する層間で溶液の透過がみられない、化学的及び物理的構造である、請求項16に記載の機械抵抗性が向上した柔軟な合成皮革。

【公開番号】特開2007−63743(P2007−63743A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−235777(P2006−235777)
【出願日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【出願人】(503134594)アルカンタラ、ソシエタ、ペル、アチオニ (3)
【氏名又は名称原語表記】ALCANTARA S.P.A.
【Fターム(参考)】