説明

スクライビングホイール

【課題】安価に製造可能でかつ長寿命化が図られたスクライビングホイールを提供する。
【解決手段】スクライビングホイールが、超硬合金からなり、円板状の平板部とその一方主面から突出する突出部とを有し、かつ、突出部から平板部の他方主面へと貫通し、スクライビングホイールを回転自在に保持するピンを挿入する挿入孔が設けられた基部と、単結晶ダイヤモンドからなり、円板状をなすとともに外周部分が断面視三角形状の刃先をなしている刃先部と、超硬合金からなり、円板状をなすキャップ部と、を備え、突出部が刃先部とキャップ部のそれぞれに設けられた貫通孔に挿通されてなるとともに、刃先部が平板部とキャップ部とに挟み込まれた状態で、刃先が平板部およびキャップ部の外周部分よりも突出してなるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脆性材料基板などのスクライブ対象物に対し圧接転動させることによってスクライブ対象物にスクライブラインを形成するスクライビングホイールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ガラス基板やセラミック基板などの脆性材料基板上にスクライブラインを形成するために使用されるツールとして、スクライビングホイール(カッタホイール)が、広く知られ、用いられている。
【0003】
スクライビングホイールとしては、例えば、焼結ダイヤモンド(ダイヤモンド含有焼結体)、多結晶ダイヤモンド、単結晶ダイヤモンド、あるいは超硬合金などからなる円板であって、削り込みによって円周部に断面視V字型の刃(刃部)が設けたものが広く知られている。係るスクライビングホイールは、その主面中央に貫通孔を有してなり、該貫通孔に所定のピンを挿通した状態で、ホルダに軸着される。
【0004】
また、スクライブ性能を高めるために、円周部に設けられた刃部に微小な溝(切り欠き)を離散的に形成してなるスクライビングホイールも、既に公知である(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
あるいは、焼結ダイヤモンド製の円板を両側から超硬合金で挟み込み、円周部に焼結ダイヤモンドと超硬合金との3層構造からなる断面視V字型の刃部が設けられたスクライビングホイールも公知である(例えば、特許文献2および特許文献3参照)。さらには、2つのカッターベースで刃部をなすダイヤモンド薄膜を挟み込んだスクライビングホイールも公知である(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3074143号公報
【特許文献2】特開平3−287396号公報
【特許文献3】特公平8−29546号公報
【特許文献4】特開平11−199259号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
単結晶ダイヤモンドからなるスクライビングホイールは、高硬度で耐摩耗性が高いという利点がある一方で、素材原価が高く、また高硬度のため被加工性が低くなり製造時の加工精度の確保が難しいという問題がある。
【0008】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、安価に製造可能で長寿命化が図られたスクライビングホイールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、スクライブ対象物に対し圧接転動させることによってスクライブ対象物にスクライブラインを形成するスクライビングホイールであって、超硬合金からなり、円板状の平板部と前記平板部の一方主面から突出する突出部とを有し、かつ、前記突出部から前記平板部の他方主面へと貫通し、前記スクライビングホイールを圧接転動させる際に前記スクライビングホイールを回転自在に保持するピンを挿入するための挿入孔が設けられた基部と、単結晶もしくは多結晶ダイヤモンドからなり、円板状をなすとともに外周部分が断面視三角形状の刃先をなしている刃先部と、超硬合金からなり、円板状をなすキャップ部と、を備え、前記基部の前記突出部が前記刃先部と前記キャップ部のそれぞれに設けられた貫通孔に挿通されてなるとともに、前記刃先部が前記基部の前記平板部と前記キャップ部とに挟み込まれた状態で、前記基部と前記刃先部と前記キャップ部とが接合材にて一体化されてなり、前記刃先が前記平板部および前記キャップ部の外周部分よりも突出してなる、ことを特徴とする。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1に記載のスクライビングホイールであって、前記刃先部が単結晶ダイヤモンドからなることを特徴とする。
【0011】
請求項3の発明は、請求項1または請求項2に記載のスクライビングホイールであって、前記刃先の一方斜面と前記平板部の外周部分とが連続する斜面をなしており、前記刃先の他方斜面と前記キャップ部の外周部分とが連続する斜面をなしている、ことを特徴とする。
【0012】
請求項4の発明は、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のスクライビングホイールであって、前記接合材がロウ材であり、前記基部と前記刃先部と前記キャップ部とがロウ材にて一体化されてなる、ことを特徴とする。
【0013】
請求項5の発明は、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のスクライビングホイールであって、前記挿入孔がダイヤモンドライクカーボンによってコーティングされてなる、ことを特徴とする。
【0014】
請求項6の発明は、請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のスクライビングホイールであって、前記スクライビングホイールの対向する主面をなす、前記基部の前記他方主面と前記キャップ部の前記刃先部と接しない主面とが、ダイヤモンドライクカーボンによってコーティングされてなる、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1ないし請求項6の発明によれば、刃先を単結晶または多結晶ダイヤモンドで構成しつつもホルダと接する主面及び回転軸となるピンの挿入孔は超硬合金のみで構成されるようにすることで、素材原価の抑制を図ることができ、さらには、主面やピンの挿入孔などの加工を精度良く行うことができるとともに耐久性の向上およびかつ長寿命化が図られたスクライビングホイールが実現される。
【0016】
特に、請求項2の発明によれば、刃先を単結晶ダイヤモンドで構成しつつも回転軸となるピンの挿入孔は超硬合金のみで構成されるようにすることで、高硬度で耐摩耗性が高いという単結晶ダイヤモンドからなる刃先のメリットを享受しつつも素材原価の抑制を図ることができ、さらには、耐久性の向上およびかつ長寿命化が図られたスクライビングホイールが実現される。
【0017】
特に、請求項5の発明によれば、挿入孔とピンとの間の回転摺動抵抗が低減されるので、さらに長寿命化が図られたスクライビングホイールが実現される。
【0018】
特に、請求項6の発明によれば、スクライビングホイールとホルダとの間の回転摺動抵抗が低減されるので、さらに長寿命化が図られたスクライビングホイールが実現される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】スクライビングホイール1の構造を示す図である。
【図2】スクライビングホイール1がホルダ31に取り付けられた状態を模式的に示す側面図である。
【図3】スクライビングホイール1の第1の製法における処理の流れを示す図である。
【図4】貫通孔3hの径が突出部2Bの外径よりも大きい場合を例示する図である。
【図5】スクライビングホイール1の第2の製法を説明するための図である。
【図6】スクライビングホイール1の第2の製法を説明するための図である。
【図7】スクライビングホイール1の第2の製法を説明するための図である。
【図8】スクライビングホイール1の第2の製法を説明するための図である。
【図9】スクライビングホイール1の第2の製法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<スクライビングホイールの構成>
図1は、本実施の形態に係るスクライビングホイール1の構造を示す図である。具体的には、図1(a)はスクライビングホイール1全体の断面図であり、図1(b)はスクライビングホイール1の分解断面図である。図2は、スクライビングホイール1がホルダ31に取り付けられた状態を模式的に示す側面図である。
【0021】
スクライビングホイール1は、ガラス基板やセラミック基板などの脆性材料基板上にスクライブラインを形成するために使用されるツールである。本実施の形態に係るスクライビングホイール1は、概略、対向する2つの面(以下、主面)F1、F2が平行な円板状をなしている。ただし、スクライビングホイール1の円周部分は、2つの斜面(図1(a)では斜辺)S1、S2が所定の角度(鈍角)をなすことにより断面視V字型となっている。また、スクライビングホイール1の主面F1、F2の中央の位置には、両主面F1、F2の間を貫通させる態様にて、スクライビングホイール1の主軸AX1を中心軸とし、両主面F1、F2に垂直な、断面が円形の挿入孔1hが設けられてなる。挿入孔1hには、スクライビングホイール1を保持するためのピン30が挿入される。
【0022】
より具体的には、スクライビングホイール1は、基部2と刃先部3とキャップ部4とから構成される。
【0023】
基部2は、超硬合金からなり、図1(b)に示すように、円板状の平板部2Aと、平板部2Aの一方主面側の中央に設けられて平板部2Aから垂直に突出する突出部2Bとを備える。また、平板部2Aから突出部2Bにかけては、上述の挿入孔1hとして機能する、主軸AX1に垂直な断面が円形の貫通孔2hが設けられている。なお、図1および以降の図面においては、突出部2Bの外形が上面視で円状になっているが、これは必須の態様ではなく、貫通孔2hが円形断面を有するようにさえ設けられていれば、外形は他の形状、例えば矩形であってもよい。
【0024】
刃先部3は、天然または合成された単結晶ダイヤモンドからなり、外周部分が断面視三角形状、好ましくは二等辺三角形状をなす刃先3eとなっているとともに、主面の中央部に貫通孔3hが設けられた平板状の部材である。
【0025】
刃先部3は、その貫通孔3hに基部2の突出部2Bが挿通されることで(あるいは、突出部2Bと貫通孔3hとが嵌め合わされることで)、平板部2Aと当接する位置に配置され、当該位置においてロウ付けにより基部2およびキャップ部4に接合固定されてなる。
【0026】
キャップ部4は、超硬合金からなり、外周部分が断面視三角形状をなすとともに中央部に貫通孔4hが設けられた平板状もしくはリング状の部材である。図1には、キャップ部4が平板状である場合を例示している。
【0027】
キャップ部4は、上述のように刃先部3に突出部2Bが挿通されてなる状態において、その貫通孔4hに突出部2Bが挿通されることで(あるいは、突出部2Bと貫通孔4hとが嵌め合わされることで)刃先部3と当接する位置に配置され、当該位置においてロウ付けにより基部2および刃先部3に接合固定されてなる。
【0028】
このように、刃先部3とキャップ部4とが、基部2の突出部2Bが挿通された状態で基部2にロウ付け固定(接合)されてなることにより、本実施の形態に係るスクライビングホイール1は、基部2と刃先部3とキャップ部4とが一体のものとなっているとともに、突出部2Bの外側において単結晶ダイヤモンドからなる刃先部3をそれぞれが超硬合金からなる基部2(平板部2A)とキャップ部4とで挟み込んだ構成を有するものとなっている。そして、基部2とキャップ部4との間からは、斜面S1、S2の一部をなす態様にて刃先部3の刃先3eが突出してなる。なお、ロウ付けによる接合は、公知の手法で行うことが出来る。接合材たるロウ材としては、例えば活性化銀ロウなどを用いることができる。また、活性化銀ロウにチタンなどの添加物を含むことにより、ダイヤモンドとの接合をより強固にすることができる。
【0029】
図1に示すスクライビングホイール1の外周部分においては、刃先3eの一方斜面と平板部2Aの外周部分とが連続する態様にて斜面S1が形成され、かつ、刃先3eの他方斜面とキャップ部4の外周部分とが連続する態様にて斜面S2が形成されてなる構成を例示しているが、これは必須の態様ではない。基部2とキャップ部4とによって挟み込まれた状態において、刃先部3の先端の刃先3eがスクライビングに支障のない程度で平板部2Aとキャップ部4との間から突出してなる構成であれば、平板部2Aとキャップ部4の外周部分は他の形状をなしていてもよい。
【0030】
ただし、スクライブ対象物への接触等の可能性を鑑みると、スクライビングホイール1全体の外周部分の形状としては、図1に示すものが好ましい。あるいは、後述するように、スクライビングホイール1を作製するにあたって採用される製法によっては、結果的に図1に示す形状となる場合もある。
【0031】
また、図1においては、突出部2Bの先端が、キャップ部4の刃先部3と当接していない側の主面と同一平面状に位置する例を示しているが、これは必須の態様ではない。例えば、突出部2Bがキャップ部4の主面でもある主面F2に対して突出する態様であってもよい。
【0032】
以上のような構成を有するスクライビングホイール1は、図2に示すように、挿入孔1hにピン30を挿通した状態でホルダ31の本体部32に軸着されて使用される。すなわち、スクライビングホイール1はピン30の長手方向に延在する中心軸AX2を軸中心として回転自在な状態で使用される。なお、係る場合において、スクライビングホイール1の主軸AX1とピン30の中心軸AX2とは一致する。
【0033】
具体的には、まず、スクライビングホイール1をホルダ31に軸着させた後、ホルダ31の取付部33を図示しないホルダ移動機構に固定する。そして、ホルダ31に軸着されたスクライビングホイール1を図2に示すようにスクライブ対象物Wに圧接させた状態を保ちつつ、ホルダ移動機構によってホルダ31を動かすと、スクライビングホイール1がピン30を中心に回転することによって転動し、スクライブ対象物Wにはスクライビングホイール1の移動方向に沿ってスクライブラインSLが形成される。スクライブ対象物Wとは、例えば、ガラス基板やセラミック基板などの脆性材料基板や該脆性材料基板と他の部材との積層体などである。スクライブ対象物Wがガラス基板である場合であれば、図2に示すように、形成されたスクライブラインSLからさらにスクライブ対象物Wの内部へとクラックKが進展する。
【0034】
スクライビングホイール1各部のサイズ(仕上げサイズ)については、外径(つまりは刃先部3の外径)が1mm〜6mm、厚み(挿入孔1hの長さでもある)が0.4mm〜1.5mm、挿入孔1h(貫通孔2h)の内径が0.5mm〜2mmであるのが好ましい。また、刃先部3の厚みは0.1mm〜0.5mmであるのが好ましい。なお、平板部2A、突出部2B、およびキャップ部4の肉厚は、他の部位のサイズに応じて定まればよいが、0.15mm〜0.5mmの範囲内であるのが好ましい。
【0035】
本実施の形態に係るスクライビングホイール1の場合、素材原価の高い単結晶ダイヤモンドを用いて構成されるのは刃先部3だけであり、基部2とキャップ部4とは超硬合金を用いて構成されるので、刃先部3を単結晶ダイヤモンドにて構成することによって得られる高硬度で耐摩耗性が高いというメリットを享受しつつ、全体を単結晶ダイヤモンドにて構成する場合に比して、素材コストが充分に抑制されるという利点がある。
【0036】
また、一般に、図2に示す態様と同様に、挿入孔にピンを挿入してホルダに取り付けるタイプのスクライビングホイールの場合、スクライビングホイールはピンを回転軸として回転するので、挿入孔はスクライビングホイールの回転性能ひいてはスクライブ性能を左右する重要な部位であり、高い加工精度での形成が求められる。加えて、図2においては図示の都合上、スクライビングホイール1とホルダ32との間隔を比較的大きく取っているが、通常、スクライビングホイールのそれぞれの主面とこれに対向するホルダの内壁との間隔は非常に狭く設定される。それゆえ、スクライビングホイールの厚み出しにおいても高い加工精度が要求される。以上のことから、挿入孔や主面において十分な加工精度が得られない場合、回転に際してピンとスクライビングホイールの間及びホルダとスクライビングホイールの間にがたつきや摩擦が生じ、スクライブラインを精度よく形成できないことになる。
【0037】
これに対して、本実施の形態に係るスクライビングホイール1の場合、もともとは別部材である基部2と刃先部3とキャップ部4とをロウ付けにて一体化してなる構成を有しつつも、挿入孔1h(貫通孔2h)は超硬合金製の基部2のみに設けられる。それゆえ、全体を単結晶ダイヤモンドにて構成するスクライビングホイールのように単結晶ダイヤモンドの円板に貫通孔を設ける構成に比して、挿入孔1hを高い加工精度で加工することが容易である。同様に、ホルダ32と近接する主面F1、F2も超硬合金製の基部2及びキャップ部4に設けられているため、基部2とキャップ部4の厚さを調整することによりスクライビングホイール1の設計厚みを高い加工精度のもとで実現することができる。結果として、本実施のスクライビングホイール1は、回転に際してピン30と挿入孔1hとの間及びホルダ32と主面F1、F2との間にがたつきが生じにくいものとなっている。
【0038】
また、ピン30と接触する挿入孔1hが超硬合金からなる基部2に形成されるので、本実施の形態に係るスクライビングホイール1は、スクライブ時に作用するせん断力に強いという利点もある。
【0039】
さらに、回転に際してがたつきが生じにくく、かつせん断力に強いということは、挿入孔1hを形成する超硬合金が破損しにくいということを意味している。それゆえ、本実施の形態に係るスクライビングホイール1の場合、使用によって刃先部分が摩耗したとしても、回転に問題がない状態であれば、刃先を再研磨することによって更なる使用が可能であるという利点もある。
【0040】
以上のことから、本実施の形態に係るスクライビングホイール1の構造は、スクライビングホイール1自体の耐久性の向上および長寿命化にも資するものといえる。
【0041】
なお、挿入孔1hの表面(ピン30との接触面)またはスクライビングホイール1の主面F1、F2の少なくとも一方にDLC(ダイヤモンドライクカーボン)などによってコーティングを施すようにしてもよい。これにより、挿入孔1hとピン30との間、主面F1、F2とホルダ32の間の回転摺動抵抗が低減されるので、結果として、スクライビングホイール1がさらに長寿命化される。
【0042】
以上、説明したように、本実施の形態によれば、刃先を単結晶ダイヤモンドで構成しつつも回転軸となるピンの挿入孔は超硬合金のみで構成されるようにすることで、高硬度で耐摩耗性が高いという単結晶ダイヤモンドからなる刃先のメリットを享受しつつも素材原価の抑制を図ることができ、さらには、耐久性の向上およびかつ長寿命化が図られたスクライビングホイールが実現される。
【0043】
<スクライビングホイールの第1の製法>
次に、上述した構成を有するスクライビングホイール1の製法について説明する。図3は、スクライビングホイール1の第1の製法における処理の流れを示す図である。
【0044】
まず、図3(a)に示すように、基部用部材2αと、刃先部用部材3αと、キャップ部用部材4αとをそれぞれ用意する。基部用部材2αおよびキャップ部用部材4αは、例えば超硬合金粉末を用いた粉末冶金の手法により作製される。刃先部用部材3αは、単結晶ダイヤモンドを研削することにより作製される。
【0045】
概略的にいえば、基部用部材2αと、刃先部用部材3αと、キャップ部用部材4αとは、外周部分に斜面S1、S2となる部分が形成されていない以外は、それぞれ、基部2、刃先部3、およびキャップ部4と同様の構造を有する部材である。すなわち、基部用部材2αは、平板部2Aと突出部2Bと貫通孔2hとを備えており、刃先部用部材3αおよびキャップ部用部材4αはそれぞれ貫通孔3h、4hを備えている。ただし、基部用部材2αの平板部2Aと、刃先部用部材3αと、キャップ部用部材4αとは、必ずしも円板状である必要はなく、矩形状であってもよい。不要部分は後段の研削処理によって除去される。
【0046】
平板部2Aと、刃先部用部材3αと、キャップ部用部材4αのサイズは、後段に行われる研削処理での除去を考慮して定められる。例えば、円板状のものを用いる場合であれば、それぞれの外径寸法はスクライビングホイール1の完成品における外形寸法(仕上げ寸法)より大きくなるように定められる。また、貫通孔2hについては、表面平滑性を高めるための研磨を行うことを考慮し、その径を仕上げ寸法よりもわずかに小さく定めるようにしてもよい。
【0047】
基部用部材2α、刃先部用部材3α、およびキャップ部用部材4αが用意されると、図3(b)に示すように、基部用部材2αの平板部2Aのうち突出部2Bが備わる側の面にロウ材5を塗布した上で、突出部2Bを刃先部用部材3αの貫通孔3hに挿通し、刃先部用部材3αの一方主面と平板部2Aとをロウ材5によって接着する。
【0048】
さらには、刃先部用部材3αの他方主面にロウ材5を塗布したうえで、突出部2Bをキャップ部用部材4αの貫通孔4hに挿通し、刃先部用部材3αの他方主面とキャップ部用部材4αとをロウ材5によって接着する。
【0049】
以上により、図3(c)に示すように、基部用部材2αと、刃先部用部材3αと、キャップ部用部材4αとが積層された積層体1αが得られる。次いで、得られた積層体1αを所定の熱処理条件で加熱することによってロウ材5による接合を進行させ、基部用部材2αと、刃先部用部材3αと、キャップ部用部材4αとを一体化させる。
【0050】
係る加熱による一体化の後、積層体1αの2つのエッジ部分1eに対して研削を行う。これにより、図3(d)あるいは図1(a)に示すような、円板状であり、かつ外周部分に刃先3eを含む斜面S1、S2を備えたスクライビングホイール1が形成される。研削は、公知の手段を用いて行うことができる。なお、研削処理の効率化を図ることを目的として、ロウ付けを行う前の基部用部材2αおよびキャップ部用部材4αにあらかじめ、ある程度の研削を行っておくこともよい。また、得られたスクライビングホイール1の挿入孔1hの表面または主面F1、F2の少なくとも一方に、DLCなどによってコーティングを施すようにしてもよい。
【0051】
なお、図1および図3では、貫通孔3hの径が基部2の突出部2Bの外径と略同一として図示をしている。なお、ここで、略同一とは、嵌め合い公差を考慮しなければ同じ値であるということを意味している。この場合には、基部2の突出部2Bと貫通孔3hの間に隙間がほとんど生じないため、使用する接合剤の量を少なくしたり、ロウ付けと比較して接合強度の劣る接合剤を使用したりすることができる。しかしながら、これは必須の態様ではなく、貫通孔3hの径は、一定の条件のもとにおいて突出部2Bの外径よりも大きくてもよい。図4は、これを説明するための図である。
【0052】
例えば、貫通孔3hの径でもある刃先部用部材3αの内径Diが、突出部2Bの外径dよりも大きい場合、刃先部用部材3αは図4(a)に示すように主軸AX1から偏心して固定され得る。しかしながら、刃先部用部材3αの外径Dsとスクライビングホイール1の仕上げの外径Doとを用いて、
d≦Di<Ds ・・・・・・(式1)
かつ
o−Di+d>Ds ・・・・・・(式2)
をみたす限りにおいては、スクライビングホイール1は問題なく作製される。なお、図4(a)においては、スクライビングホイールの仕上げの外径位置を破線L1にて示している。
【0053】
図4(b)は、図4(a)に示した偏心状態にて刃先部用部材3αが固定された積層体1αを研削することによって作製したスクライビングホイール1を示す上面図である。ただし、キャップ部4は省略している。図4(b)に示すスクライビングホイール1の外径線L2がなす円は、図4(a)の破線L1がなす円と同一である。図4(b)においては、貫通孔3hは主軸AX1に対して偏心しているものの、外径線L2およびこれに沿って形成される刃先3eは主軸AX1に対して等方的である。これは、研削処理を好適に行うことで実現される。
【0054】
これは、式1および式2が満たされる場合であれば、刃先部用部材3αの貫通孔3hの内径Diは突出部2Bの外径dよりも大きくなってもよいことを意味している。むしろ、両者の差異が小さいときの嵌め合わせの困難さを考えれば、貫通孔3hの内径Diを突出部2Bの外径dよりもわずかに大きくする方が好ましいともいえる。また、図4(b)は、スクライビングホイール1においては、刃先部3の貫通孔3hが厳密に刃先部3の中央に位置していない場合が許容される、ということを示しているともいえる。
【0055】
以上のことは、本実施の形態の場合、刃先部3に貫通孔3hを設けるための加工を、必ずしもピンの挿入孔1hを形成するための加工と同等の精度で行う必要がないことを意味している。すなわち、加工の結果として、単結晶ダイヤモンドの円板に突出部2Bの外径よりも大きな外径を有する貫通孔3hが形成されたとしても、式1および式2が満たされるのであれば、問題なく刃先部用部材3αとして用いることが出来る。このことは、結果として、本実施の形態に係るスクライビングホイールの製造コストの抑制にも資するものである。
【0056】
<スクライビングホイールの第2の製法>
上述した第1の製法は、1つ1つのスクライビングホイール1について個別に、基部用部材2α、刃先部用部材3α、およびキャップ部用部材4αを用意し、ロウ付けと研削とを行っているが、スクライビングホイール1の製法はこれに限られるものではない。図5ないし図9は、スクライビングホイール1の第2の製法を説明するための図である。
【0057】
まず初めに、図5に示す基部用母材2βが用意される。図5(a)は基部用母材2βの上面図であり、図5(b)は複数の突出部2β2を通る基部用母材2βの断面図である。
【0058】
基部用母材2βは、上面視矩形状の平板部2β1と、平板部2β1の一方主面側に設けられて平板部2β1から垂直に突出する複数の突出部2β2とを備える。係る構成を有する基部用母材2βは、例えば超硬合金粉末を用いた粉末冶金の手法により作製される。
【0059】
複数の突出部2β2はそれぞれ、最終的にスクライビングホイール1の突出部2Bとなる部位である。図5(a)に示すように、突出部2β2は、基部用母材2βにおいて、上面視で正方格子状に2次元的に配置されてなる。また、図5(b)に示すように、それぞれの突出部2β2から平板部2β1の他方主面側にかけては、突出部2β2の突出方向に垂直な断面が円形の貫通孔2β3が設けられている。なお、図5および以降の図においては、基部用母材2βに9つの突出部2β2を設けた場合が例示されているが、突出部2β2の個数はこれに限られるものではない。概略的にいえば、基部用母材2βは、複数の基部用部材2αが2次元的に配列され一体化された構成を有してなる。
【0060】
なお、この時点で貫通孔2β3の表面や平板部2β1の突出部2β2が設けられない側の面にDLCなどによってコーティングを施すようにしてもよい。
【0061】
基部用母材2βが用意されると、次に、それぞれの突出部2β2の周囲にロウ材5が塗布され、続いて、ロウ材5を塗布した箇所にそれぞれ、突出部2β2を挿通させる態様にて、単結晶ダイヤモンド板3βが積層配置される。図6には、ロウ材5を塗布した後、単結晶ダイヤモンド板3βを配置する途中の様子を示している。図6(a)は単結晶ダイヤモンド板3βの配置途中の様子を示す上面図であり、図6(b)は複数の突出部2β2を通る、単結晶ダイヤモンド板3βと基部用母材2βとの積層体の断面図である。
【0062】
単結晶ダイヤモンド板3βは、上述した刃先部用部材3αと同一の部材である。すなわち、単結晶ダイヤモンド板3βは、貫通孔3hを備える円板状の部材である。ただし、刃先部用部材3αは必ずしも円板状である必要はなく、矩形状であってもよい。
【0063】
係る単結晶ダイヤモンド板3βの積層配置に際しては、第1の製法における刃先部用部材3αの配置と同様に、式1および式2をみたす限りにおいて、偏心が生じてもよい。
【0064】
それぞれの突出部2β2に対して単結晶ダイヤモンド板3βが配置されると、続いて、キャップ部用母材4βが積層配置される。
【0065】
図7は、キャップ部用母材4βを示す図である。図7(a)はキャップ部用母材4βの上面図であり、図7(b)はキャップ部用母材4βの平面図である。図8は、キャップ部用母材4βが積層されることによって形成された積層体1βを示す図である。図8(a)は積層体1βの上面図であり、図8(b)は積層体1βの平面図である。
【0066】
キャップ部用母材4βは、概略、上面視矩形状をなす平板であるが、キャップ部用母材4βには、複数の貫通孔4β1が、上面視で正方格子状に2次元的に配置されてなる。キャップ部用母材4βにおける複数の貫通孔4β1の配置位置および配置間隔は、基部用母材2βにおける突出部2β2の配置位置および配置間隔と同じである。キャップ部用母材4βは、例えば超硬合金粉末を用いた粉末冶金の手法により作製される。
【0067】
複数の貫通孔4β1はそれぞれ、最終的にスクライビングホイール1の貫通孔4hとなる部位である。
【0068】
それぞれの突出部2β2に対して単結晶ダイヤモンド板3βが配置された状態で、それぞれの単結晶ダイヤモンド板3βの表面(ロウ材と接触していない側の主面)にロウ材5が塗布され、さらに、キャップ部用母材4βが、それぞれの貫通孔4β1に基部用母材2βの対応する突出部2β2に挿通させる態様にて配置されることで、積層体1βが得られる。なお、これに先立つ適宜のタイミングで、キャップ部用母材4βの単結晶ダイヤモンド板3βと接合されない側の面にDLCなどによるコーティングを行っておくようにしてもよい。
【0069】
次いで、得られた積層体1βを所定の熱処理条件で加熱することによってロウ材5による接合を進行させ、基部用母材2βと、単結晶ダイヤモンド板3βと、キャップ部用母材4βとを一体化させる。
【0070】
係る加熱による一体化の後、図8(a)に破線L3にて示す切断位置で、積層体1βを切断する。これにより、積層体1βは、複数の単位積層体1γに分断される。図9は、単位積層体1γの上面図である。
【0071】
単位積層体1γが得られると、第1の製法と同様に周囲から研削を行う。これにより、最終的に、図1(a)に示すような、円板状でかつ外周部分に刃先3eを有するスクライビングホイール1が形成される。第1の製法と同様、研削は、公知の手段を用いて行うことができる。この後、必要であれば、挿入孔1hの表面(ピン30との接触面)または主面F1、F2の少なくとも一方に、DLCなどによってコーティングを施すようにしてもよい。
【0072】
第2の製法の場合、複数の基部用部材2αの集合体ともいえる基部用母材2βと複数のキャップ部用部材4αの集合体ともいえるキャップ部用母材4βをそれぞれ超硬合金にて一体成型するとともに、積層体1βを形成したうえで切断を行うようにしているので、第1の製法に比べて、処理が効率化される。
【0073】
なお、単結晶ダイヤモンド板3βについても一体成型のものを用いる態様であってもよいが、研削によって削り落とされる部分が生じることから、コスト的なメリットは弱まる。
【0074】
<変形例>
上述の実施の形態では、刃先部3を単結晶ダイヤモンドにて構成するスクライビングホイール1およびその製法について説明したが、上述の実施の形態に係るスクライビングホイールの構成及び製法は、刃先部を天然または合成された多結晶ダイヤモンドにて構成するスクライビングホイールにも適用可能である。係る場合、上述の実施の形態に係るスクライビングホイールが奏する効果のうち、耐久性の向上や長寿命化といった効果については、同様に得ることが出来る。
【0075】
また、上述の実施の形態では、刃先3eは円周方向について一様であったが、例えば特許文献1に開示されているような態様にて、刃先に微小な溝(切り欠き)を離散的に形成するようにしてもよい。
【0076】
また、上述の実施の形態に示した第2の製法では、突出部2β2および貫通孔4β1を正方格子状に配置する態様のみを説明しているが、これらは、三角格子状に配置されてもよい。係る場合の方が、正方格子状に配置する場合に比して、単位面積当たりの配置数が多くなる。係る場合、単位積層体も上面視三角形状とする必要があり、切断回数は多くなる。どちらを採用するかは、コストメリットなどを勘案して決定すればよい。
【0077】
また、第2の製法において、ロウ付けを行うにあたっては、積層体1βを上下反転させ、さらには基部用母材2βの上にウェイト(重し)を配置するようにしてもよい。係る場合、突出部2β2と単結晶ダイヤモンド板3βおよびキャップ部用母材4βとの隙間にロウ材5が入り込みやすくなり、接合性がより高まるとともに余剰のロウ材5は下方へ垂れ落ちる。係る場合において、下にセラミックシートなどを配置しておくと、余剰のロウ材5の除去が容易となる。
【符号の説明】
【0078】
1 スクライビングホイール
1α、1β 積層体
1γ 単位積層体
1h (スクライビングホイールの)挿入孔
2 (スクライビングホイールの)基部
2A (基部の)平板部
2B (基部の)突出部
2h (基部の)貫通孔
2α 基部用部材
2β 基部用母材
2β1 (基部用母材の)平板部
2β2 (基部用母材の)突出部
2β3 (基部用母材の)貫通孔
3 刃先部
3e 刃先
3h (刃先部の)貫通孔
3α 刃先部用部材
3β 単結晶ダイヤモンド板
4 キャップ部
4h (キャップ部の)貫通孔
4α キャップ部用部材
4β キャップ部用母材
4β1 (キャップ部用母材の)貫通孔
30 ピン
31 ホルダ
5 ロウ材
AX1 (スクライビングホイールの)主軸
AX2 (ピンの)中心軸
F1、F2 主面
K クラック
SL スクライブライン
W スクライブ対象物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクライブ対象物に対し圧接転動させることによってスクライブ対象物にスクライブラインを形成するスクライビングホイールであって、
超硬合金からなり、円板状の平板部と前記平板部の一方主面から突出する突出部とを有し、かつ、前記突出部から前記平板部の他方主面へと貫通し、前記スクライビングホイールを圧接転動させる際に前記スクライビングホイールを回転自在に保持するピンを挿入するための挿入孔が設けられた基部と、
単結晶もしくは多結晶ダイヤモンドからなり、円板状をなすとともに外周部分が断面視三角形状の刃先をなしている刃先部と、
超硬合金からなり、円板状をなすキャップ部と、
を備え、
前記基部の前記突出部が前記刃先部と前記キャップ部のそれぞれに設けられた貫通孔に挿通されてなるとともに、前記刃先部が前記基部の前記平板部と前記キャップ部とに挟み込まれた状態で、前記基部と前記刃先部と前記キャップ部とが接合材にて一体化されてなり、前記刃先が前記平板部および前記キャップ部の外周部分よりも突出してなる、
ことを特徴とするスクライビングホイール。
【請求項2】
請求項1に記載のスクライビングホイールであって、
前記刃先部が単結晶ダイヤモンドからなることを特徴とするスクライビングホイール。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のスクライビングホイールであって、
前記刃先の一方斜面と前記平板部の外周部分とが連続する斜面をなしており、前記刃先の他方斜面と前記キャップ部の外周部分とが連続する斜面をなしている、
ことを特徴とするスクライビングホイール。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のスクライビングホイールであって、
前記接合材がロウ材であり、前記基部と前記刃先部と前記キャップ部とがロウ材にて一体化されてなる、
ことを特徴とするスクライビングホイール。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のスクライビングホイールであって、
前記挿入孔がダイヤモンドライクカーボンによってコーティングされてなる、
ことを特徴とするスクライビングホイール。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のスクライビングホイールであって、
前記スクライビングホイールの対向する主面をなす、前記基部の前記他方主面と前記キャップ部の前記刃先部と接しない主面とが、ダイヤモンドライクカーボンによってコーティングされてなる、
ことを特徴とするスクライビングホイール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−111963(P2013−111963A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−263362(P2011−263362)
【出願日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【出願人】(390000608)三星ダイヤモンド工業株式会社 (383)
【Fターム(参考)】