スクライブ方法
【課題】 スクライブ時における「カケ」「ソゲ」「交点飛び」などの不具合を抑制する脆性材料基板のスクライブ方法を提供する。
【解決手段】 基板Wにカッターホイール6で縦方向のスクライブライン並びに横方向のスクライブラインを形成するスクライブ方法であって、基板Wを縦方向にスクライブすることによって、2本の縦方向のスクライブラインS1、S2によって形成された縦方向単位製品列を、端材となる縦の狭間D1をあけて複数形成し、次いで、縦方向単位製品列の片側辺を形成する縦方向のスクライブラインS1から、他方側辺を形成する縦方向スクライブラインS2まで横方向にスクライブすることによって、単位製品W1を区分けする横方向のスクライブラインS3を順次加工する。
【解決手段】 基板Wにカッターホイール6で縦方向のスクライブライン並びに横方向のスクライブラインを形成するスクライブ方法であって、基板Wを縦方向にスクライブすることによって、2本の縦方向のスクライブラインS1、S2によって形成された縦方向単位製品列を、端材となる縦の狭間D1をあけて複数形成し、次いで、縦方向単位製品列の片側辺を形成する縦方向のスクライブラインS1から、他方側辺を形成する縦方向スクライブラインS2まで横方向にスクライブすることによって、単位製品W1を区分けする横方向のスクライブラインS3を順次加工する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基板等の脆性材料基板のスクライブ方法に関し、さらに詳細には、基板上に分割予定ラインに沿って縦、横のスクライブライン(切溝)を形成するスクライブ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図11に示すように、大面積のマザー基板Wにカッターホイールを押しつけながら転動させることにより、互いに交差する縦、横の複数条のスクライブラインSa、Sbを形成し、このスクライブラインに沿って基板Wをブレイクすることにより、単位製品ごとに分割して単位製品W1を取り出す方法が知られている(例えば特許文献1、特許文献2等)。
【0003】
ところで、このような互いに交差する縦方向のスクライブラインSa並びに横方向のスクライブラインSbをカッターホイールCでクロススクライブするときに、スクライブラインSa、Sbの交点で「カケ」や「ソゲ」と呼ばれる加工不良が発生することがあった。
【0004】
「カケ」とは、図12に示すように、最初に縦方向のスクライブラインSaを形成したあと、カッターホイールCを圧接転動して横方向のスクライブラインSbを形成するときに、カッターホイールの圧接力(押圧力)が負荷されている側の基板(図の左側の基板)が負荷されていない側の基板(図の右側の基板)よりも矢印に示すように沈み込み、既設のスクライブラインSaを越えるところで、右側の基板に乗り上がるときに発生する微細なカケ(図中αで示す)をいう。
【0005】
また、「ソゲ」とは、図13に示すように、最初に縦方向のスクライブラインSaを形成したあと、横方向のスクライブラインSbを形成するときに、カッターホイールが既設のスクライブラインSaを越えるところで、スクライブラインSaの垂直方向のクラックKが基板の裏面近傍で斜め方向に形成されることをいう。この「ソゲ」を図中βで示す。
【0006】
このような「カケ」や「ソゲ」は、当然ながら分断後の製品の品質を損なうものであり、製造歩留まりを低下させる大きな原因となっていた。
【0007】
そこで、脆性材料基板をクロススクライブするときに、スクライブラインの交点近傍でカッターホイールのスクライブ圧を一時的に下げるように押圧力を制御して、「カケ」や「ソゲ」の発生を防ぐようにした方法が特許文献3で開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−328833号公報
【特許文献2】特開2004−359502号公報
【特許文献3】特開2009−132614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、スクライブラインの交点近傍でカッターホイールのスクライブ圧を一時的に下げるように押圧力を制御する特許文献3に記載の方法では、押圧力を複雑に変化させる専用の制御プログラムや機械的な動作システムが必要となって手間とコストがかかることになる。また、厚みのある基板や材料組成によってはスクライブ圧をあまり下げることができないものがあり、「カケ」や「ソゲ」を完全に防ぐことができなかった。
また、スクライブラインの交点近傍でカッターホイールのスクライブ圧を下げると「交点飛び」と呼ばれる不都合な現象が発生するおそれがある。この現象は、最初に形成されたスクライブラインと、これと交差する第2のスクライブラインをカッターホイールにより形成するときに、あとから形成されるべきスクライブラインが交点付近で形成されないことをいう。これは、最初に形成されたスクライブラインの溝両側に応力が残存し、この応力の残存している箇所をカッターホイールが横切るときに、カッターホイールの押圧力が削がれてしまうことが原因であると考えられている。このような「交点飛び」の現象が発生すると、当然ながらスクライブラインから基板を分断したときにきれいな分断面を得ることができず、高品質の製品を作ることができない。
【0010】
そこで本発明は、上記した「カケ」「ソゲ」「交点飛び」などの従来課題を解決した新規な脆性材料基板のスクライブ方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために本発明では次のような技術的手段を講じた。すなわち、本発明のスクライブ方法では、基板にカッターホイールで縦方向のスクライブライン並びに横方向のスクライブラインを形成するスクライブ方法であって、まず、前記基板を縦方向にスクライブすることによって、左辺および右辺となる2本の縦方向のスクライブラインによって形成された縦方向単位製品列を、端材となる縦の狭間をあけて複数形成する。次いで、前記縦方向単位製品列の片側辺である左辺または右辺を形成する縦方向のスクライブラインから他方側辺である右辺または左辺を形成する縦方向スクライブラインまで横方向にスクライブすることによって、単位製品を区分けする横方向のスクライブラインを順次加工する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のスクライブ方法によれば、スクライブのときにカッターホイールがスクライブラインを交差しないように、横方向のスクライブラインが、単位製品列の左辺(または右辺)を形成する縦方向のスクライブラインから右辺(または左辺)を形成する縦方向スクライブラインの間で形成されているので、縦方向のスクライブラインを乗り越えて形成される交点が存在しなくなる。これにより、上述した交点での「カケ」や「ソゲ」の発生を著しく減少することができるとともに、「交点飛び」の現象もなくすことができ、分断面のきれいな高品質の単位製品を得ることができる、といった効果がある。
【0013】
本発明において、形成すべき縦方向単位製品列の数と同じ数のカッターホイールを使用し、まず、縦方向単位製品列のそれぞれの片側辺である左辺または右辺を形成する縦方向のスクライブラインを加工し、次いで、縦方向単位製品列のそれぞれの他方側辺である右辺または左辺を形成する縦方向のスクライブラインを加工し、次いで、各縦方向単位製品列における単位製品を区分けする横方向のスクライブラインを横列同時に加工するようにするのが好ましい。
これにより、2回のスクライブで、複数の縦方向単位製品列を端材となる狭間をあけて形成することができるとともに、各縦方向単位製品列における単位製品を区分けする横方向のスクライブラインも横列同時に形成することができる。
【0014】
また本発明では、前記縦方向単位製品列における単位製品の間に、端材となる横の狭間が形成されるように前記横方向のスクライブラインを加工するようにしてもよい。
これにより、隣り合う単位製品の縦、横の間に狭間が形成されるので、分断時にこの狭間部分を端材として破棄することによりさらに高品質の単位製品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のスクライブ方法を実施するためのスクライブ装置の一例を示す図。
【図2】本発明のスクライブ方法の第1工程を示す説明図。
【図3】本発明のスクライブ方法の第2工程を示す説明図。
【図4】本発明のスクライブ方法の第3工程を示す説明図。
【図5】本発明のスクライブ方法の第4工程を示す説明図。
【図6】本発明のスクライブ方法によりスクライブされたマザー基板を示す平面図。
【図7】本発明の第2実施例によりスクライブされたマザー基板を示す平面図。
【図8】本発明の第2実施例におけるスクライブ方法の第1工程を示す説明図。
【図9】本発明の第2実施例におけるスクライブ方法の第2工程を示す説明図。
【図10】本発明のスクライブ方法の別実施例を示す説明図。
【図11】格子状にスクライブされた従来のマザー基板を示す平面図。
【図12】従来のクロススクライブ時に生じる「カケ」の現象を説明する図。
【図13】従来のクロススクライブ時に生じる「ソゲ」の現象を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係るスクライブ方法の詳細を、図1〜図6に基づいて詳細に説明する。図1は本発明のスクライブ方法を実施するためのスクライブ装置の一例を示す斜視図である。本実施例では1枚のマザー基板Wから12個の同形の単位製品W1を取り出すための加工が行われる。
【0017】
スクライブ装置1は、左右一対の支柱2、2と、これら支柱2、2に橋架された横梁(ビームともいう)3とを備え、横梁3はX方向に沿って配置されている。横梁3には複数の、本実施例では3個のスクライブヘッド4がガイド5に沿ってX方向に移動可能に設けられている。スクライブヘッド4の下端には、マザー基板Wに縦、横のスクライブラインを加工するためのカッターホイール6が取り付けられている。カッターホイール6は、スクライブヘッド4に設けられた周知の切替機構(不図示)により、その転動方向がX方向、並びにX方向と平面上で直交するY方向の両方に切り替えることができるようにしてある。
【0018】
スクライブヘッド4の下方にはマザー基板Wを載置するテーブル7が配置されており、該テーブル7の表面には、マザー基板Wを吸着保持するためのエア吸引孔(不図示)が設けられている。また、テーブル7はY方向に延設されたレール8に沿ってボールネジ9により往復移動できるように形成されている。
【0019】
次に、上記スクライブ装置1を使用した本発明のスクライブ方法について説明する。
まず、図2に示すように、スクライブ装置1の3つのスクライブヘッド4を所定の間隔(後述するピッチPと端材の幅である縦の狭間D1との和)をあけて配置する。次いで、テーブル7にマザー基板Wを載置保持させ、スクライブヘッド4のカッターホイール6をマザー基板Wに押しつけながらテーブル7をY方向に移動させることにより、縦長に形成される単位製品列のそれぞれの左辺となる縦方向のスクライブラインS1を加工する。
【0020】
次いで、図3に示すように、3つのスクライブヘッド4をX方向にピッチPだけ移動配置する。このピッチPは、形成される縦方向単位製品列の横幅に相当する。この状態でスクライブラインS1と同様に、スクライブヘッド4のカッターホイール6をマザー基板Wに押しつけながらテーブル7をY方向に移動させることにより、縦長に形成される単位製品列のそれぞれの右辺となる縦方向のスクライブラインS2を加工する。
これにより、左右のスクライブラインS1、S2によって区分けされた縦方向単位製品列が縦の狭間D1を隔てて3列形成される。なお、縦の狭間D1は端材となる部分であってブレイク処理ができさえすればよいので、あまり端材の面積が大きくならない方が好ましく、例えば10mm以下にするのが好ましい。
【0021】
次いで、図4に示すように、カッターホイール6の転動方向をX方向に切り替えたあと、スクライブラインS1の上にくるまで移動する。またテーブル7をY方向に送って、横方向のスクライブラインを形成しようとする位置の上に停止させる。このあと、縦方向単位製品列の実質的な左辺を形成する縦方向のスクライブラインS1から右辺を形成するスクライブラインS2まで、カッターホイール6をマザー基板Wに押しつけながらガイド5に沿って移動させることによって、縦方向単位製品列における単位製品を実質的に区分けする横方向のスクライブラインS3を横列同時に加工する。このようにして、順次横方向のスクライブラインS3を図5に示すように加工していく。これにより、図6に示すような縦、横のスクライブラインS1、S2、S3によって単位製品W1となる領域が格子状に形成される。
なお、スクライブラインS3は、スクライブラインS2からスクライブラインS1まで逆方向に移動させてもよい。この場合はスクライブラインS2の上からスクライブラインS1に沿って移動されることになる。
【0022】
このあと、スクライブラインが形成されたマザー基板Wはブレイク装置に送られて、縦、横のスクライブラインに沿ってブレイク処理がなされて分断され、単位製品W1が取り出される。
【0023】
上記のスクライブ方法によれば、横方向のスクライブラインS3が、縦方向単位製品列の実質的な左辺を形成する縦方向のスクライブラインS1から右辺を形成する縦方向スクライブラインS2の間で形成されているので、縦方向のスクライブラインS1、S2を乗り越えて形成される交点が存在しなくなる。これにより、上述した交点での「カケ」や「ソゲ」の発生を著しく抑制できるとともに、「交点飛び」の現象もなくすことができ、分断面のきれいな高品質の単位製品を得ることができる。
【0024】
また、スクライブ時において、横方向のスクライブラインS3の終端で縦方向のスクライブラインS2に到達したときに、縦の狭間D1部分に万一微少な「カケ」が生じたとしても、縦の狭間D1部分は分断後に端材として破棄されるので、取り出される単位製品W1には全く影響がない。
【0025】
本発明において、図7に示すように、縦方向単位製品列における単位製品W1の間に横の狭間D2が形成されるように、横方向のスクライブラインS3を加工するようにしてもよい。この場合、図8並びに図9に示すように、テーブル7のY方向への送りピッチを、単位製品のY方向の幅と狭間とを考慮してあらかじめ設定しておき、先の実施例と同様に、スクライブヘッド4に取り付けた複数のカッターホイール6で横方向にスクライブして、スクライブラインS3を順次加工することにより行うことができる。
この実施例では、隣り合う単位製品W1の縦、横の間に狭間D1、D2が形成されているので、分断時にこの狭間部分を端材として破棄することによりさらに高品質の単位製品W1を得ることができる。
【0026】
本発明において、取り出される単位製品W1の数が同じである場合、縦方向単位製品列を多くして、その単位製品列の数だけスクライブヘッドの数を増やして加工すれば、より作業の高速化を図ることができる。
例えば、取り出される単位製品W1が12個とした場合、先の実施例では縦方向単位製品列が3列であったので、縦方向のスクライブS1、S2を加工するのに3個のスクライブヘッド4を用いてY方向に2回スクライブし、横方向のスクライブラインS3を加工するのにスクライブラインS3の数だけ、すなわち、図7の実施例では8回スクライブする必要がある。これに対し、同じ図7に示したマザー基板Wを加工するのに、図10に示すように、マザー基板Wを横にして、縦方向単位製品列が横方向に4列並んだ状態にして、4個のスクライブヘッド4で加工する場合、縦方向のスクライブS1、S2を加工するのにY方向に2回スクライブし、横方向のスクライブラインS3を加工するのに6回のスクライブで形成できる。すなわち、横方向のスクライブは前者の8回に比べて6回で済み、それだけスクライブ作業の高速化を図ることが可能となる。
【0027】
上記実施例において、テーブル7をY方向に移動させて縦方向のスクライブS1、S2を加工したが、反対にスクライブヘッド4を支持する横梁3や支柱2を移動できるようにしてスクライブするようにしてもよい。また、横方向のスクライブラインS3についても、テーブル7をX方向に移動できるようにして行うことが可能である。
【0028】
以上本発明の代表的な実施例について説明したが、本発明は必ずしも上記の実施形態に特定されるものではない。例えば、縦方向のスクライブ加工において、左辺と右辺とを逆順に加工してもよいし、横方向のスクライブ加工において、右辺から左辺に向けて加工してもよい。その他、本発明の目的を達成し、請求の範囲を逸脱しない範囲内で適宜修正、変更することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の分断方法は、ガラス基板等の脆性材料からなる基板に、ブレイク予定ラインに沿って縦、横のスクライブラインを形成するスクライブ方法に利用される。
【符号の説明】
【0030】
1 スクライブ装置
4 スクライブヘッド
6 カッターホイール
7 テーブル
D1、D2 狭間
S1、S2 縦方向のスクライブライン
S3 横方向のスクライブライン
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基板等の脆性材料基板のスクライブ方法に関し、さらに詳細には、基板上に分割予定ラインに沿って縦、横のスクライブライン(切溝)を形成するスクライブ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図11に示すように、大面積のマザー基板Wにカッターホイールを押しつけながら転動させることにより、互いに交差する縦、横の複数条のスクライブラインSa、Sbを形成し、このスクライブラインに沿って基板Wをブレイクすることにより、単位製品ごとに分割して単位製品W1を取り出す方法が知られている(例えば特許文献1、特許文献2等)。
【0003】
ところで、このような互いに交差する縦方向のスクライブラインSa並びに横方向のスクライブラインSbをカッターホイールCでクロススクライブするときに、スクライブラインSa、Sbの交点で「カケ」や「ソゲ」と呼ばれる加工不良が発生することがあった。
【0004】
「カケ」とは、図12に示すように、最初に縦方向のスクライブラインSaを形成したあと、カッターホイールCを圧接転動して横方向のスクライブラインSbを形成するときに、カッターホイールの圧接力(押圧力)が負荷されている側の基板(図の左側の基板)が負荷されていない側の基板(図の右側の基板)よりも矢印に示すように沈み込み、既設のスクライブラインSaを越えるところで、右側の基板に乗り上がるときに発生する微細なカケ(図中αで示す)をいう。
【0005】
また、「ソゲ」とは、図13に示すように、最初に縦方向のスクライブラインSaを形成したあと、横方向のスクライブラインSbを形成するときに、カッターホイールが既設のスクライブラインSaを越えるところで、スクライブラインSaの垂直方向のクラックKが基板の裏面近傍で斜め方向に形成されることをいう。この「ソゲ」を図中βで示す。
【0006】
このような「カケ」や「ソゲ」は、当然ながら分断後の製品の品質を損なうものであり、製造歩留まりを低下させる大きな原因となっていた。
【0007】
そこで、脆性材料基板をクロススクライブするときに、スクライブラインの交点近傍でカッターホイールのスクライブ圧を一時的に下げるように押圧力を制御して、「カケ」や「ソゲ」の発生を防ぐようにした方法が特許文献3で開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−328833号公報
【特許文献2】特開2004−359502号公報
【特許文献3】特開2009−132614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、スクライブラインの交点近傍でカッターホイールのスクライブ圧を一時的に下げるように押圧力を制御する特許文献3に記載の方法では、押圧力を複雑に変化させる専用の制御プログラムや機械的な動作システムが必要となって手間とコストがかかることになる。また、厚みのある基板や材料組成によってはスクライブ圧をあまり下げることができないものがあり、「カケ」や「ソゲ」を完全に防ぐことができなかった。
また、スクライブラインの交点近傍でカッターホイールのスクライブ圧を下げると「交点飛び」と呼ばれる不都合な現象が発生するおそれがある。この現象は、最初に形成されたスクライブラインと、これと交差する第2のスクライブラインをカッターホイールにより形成するときに、あとから形成されるべきスクライブラインが交点付近で形成されないことをいう。これは、最初に形成されたスクライブラインの溝両側に応力が残存し、この応力の残存している箇所をカッターホイールが横切るときに、カッターホイールの押圧力が削がれてしまうことが原因であると考えられている。このような「交点飛び」の現象が発生すると、当然ながらスクライブラインから基板を分断したときにきれいな分断面を得ることができず、高品質の製品を作ることができない。
【0010】
そこで本発明は、上記した「カケ」「ソゲ」「交点飛び」などの従来課題を解決した新規な脆性材料基板のスクライブ方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために本発明では次のような技術的手段を講じた。すなわち、本発明のスクライブ方法では、基板にカッターホイールで縦方向のスクライブライン並びに横方向のスクライブラインを形成するスクライブ方法であって、まず、前記基板を縦方向にスクライブすることによって、左辺および右辺となる2本の縦方向のスクライブラインによって形成された縦方向単位製品列を、端材となる縦の狭間をあけて複数形成する。次いで、前記縦方向単位製品列の片側辺である左辺または右辺を形成する縦方向のスクライブラインから他方側辺である右辺または左辺を形成する縦方向スクライブラインまで横方向にスクライブすることによって、単位製品を区分けする横方向のスクライブラインを順次加工する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のスクライブ方法によれば、スクライブのときにカッターホイールがスクライブラインを交差しないように、横方向のスクライブラインが、単位製品列の左辺(または右辺)を形成する縦方向のスクライブラインから右辺(または左辺)を形成する縦方向スクライブラインの間で形成されているので、縦方向のスクライブラインを乗り越えて形成される交点が存在しなくなる。これにより、上述した交点での「カケ」や「ソゲ」の発生を著しく減少することができるとともに、「交点飛び」の現象もなくすことができ、分断面のきれいな高品質の単位製品を得ることができる、といった効果がある。
【0013】
本発明において、形成すべき縦方向単位製品列の数と同じ数のカッターホイールを使用し、まず、縦方向単位製品列のそれぞれの片側辺である左辺または右辺を形成する縦方向のスクライブラインを加工し、次いで、縦方向単位製品列のそれぞれの他方側辺である右辺または左辺を形成する縦方向のスクライブラインを加工し、次いで、各縦方向単位製品列における単位製品を区分けする横方向のスクライブラインを横列同時に加工するようにするのが好ましい。
これにより、2回のスクライブで、複数の縦方向単位製品列を端材となる狭間をあけて形成することができるとともに、各縦方向単位製品列における単位製品を区分けする横方向のスクライブラインも横列同時に形成することができる。
【0014】
また本発明では、前記縦方向単位製品列における単位製品の間に、端材となる横の狭間が形成されるように前記横方向のスクライブラインを加工するようにしてもよい。
これにより、隣り合う単位製品の縦、横の間に狭間が形成されるので、分断時にこの狭間部分を端材として破棄することによりさらに高品質の単位製品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のスクライブ方法を実施するためのスクライブ装置の一例を示す図。
【図2】本発明のスクライブ方法の第1工程を示す説明図。
【図3】本発明のスクライブ方法の第2工程を示す説明図。
【図4】本発明のスクライブ方法の第3工程を示す説明図。
【図5】本発明のスクライブ方法の第4工程を示す説明図。
【図6】本発明のスクライブ方法によりスクライブされたマザー基板を示す平面図。
【図7】本発明の第2実施例によりスクライブされたマザー基板を示す平面図。
【図8】本発明の第2実施例におけるスクライブ方法の第1工程を示す説明図。
【図9】本発明の第2実施例におけるスクライブ方法の第2工程を示す説明図。
【図10】本発明のスクライブ方法の別実施例を示す説明図。
【図11】格子状にスクライブされた従来のマザー基板を示す平面図。
【図12】従来のクロススクライブ時に生じる「カケ」の現象を説明する図。
【図13】従来のクロススクライブ時に生じる「ソゲ」の現象を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係るスクライブ方法の詳細を、図1〜図6に基づいて詳細に説明する。図1は本発明のスクライブ方法を実施するためのスクライブ装置の一例を示す斜視図である。本実施例では1枚のマザー基板Wから12個の同形の単位製品W1を取り出すための加工が行われる。
【0017】
スクライブ装置1は、左右一対の支柱2、2と、これら支柱2、2に橋架された横梁(ビームともいう)3とを備え、横梁3はX方向に沿って配置されている。横梁3には複数の、本実施例では3個のスクライブヘッド4がガイド5に沿ってX方向に移動可能に設けられている。スクライブヘッド4の下端には、マザー基板Wに縦、横のスクライブラインを加工するためのカッターホイール6が取り付けられている。カッターホイール6は、スクライブヘッド4に設けられた周知の切替機構(不図示)により、その転動方向がX方向、並びにX方向と平面上で直交するY方向の両方に切り替えることができるようにしてある。
【0018】
スクライブヘッド4の下方にはマザー基板Wを載置するテーブル7が配置されており、該テーブル7の表面には、マザー基板Wを吸着保持するためのエア吸引孔(不図示)が設けられている。また、テーブル7はY方向に延設されたレール8に沿ってボールネジ9により往復移動できるように形成されている。
【0019】
次に、上記スクライブ装置1を使用した本発明のスクライブ方法について説明する。
まず、図2に示すように、スクライブ装置1の3つのスクライブヘッド4を所定の間隔(後述するピッチPと端材の幅である縦の狭間D1との和)をあけて配置する。次いで、テーブル7にマザー基板Wを載置保持させ、スクライブヘッド4のカッターホイール6をマザー基板Wに押しつけながらテーブル7をY方向に移動させることにより、縦長に形成される単位製品列のそれぞれの左辺となる縦方向のスクライブラインS1を加工する。
【0020】
次いで、図3に示すように、3つのスクライブヘッド4をX方向にピッチPだけ移動配置する。このピッチPは、形成される縦方向単位製品列の横幅に相当する。この状態でスクライブラインS1と同様に、スクライブヘッド4のカッターホイール6をマザー基板Wに押しつけながらテーブル7をY方向に移動させることにより、縦長に形成される単位製品列のそれぞれの右辺となる縦方向のスクライブラインS2を加工する。
これにより、左右のスクライブラインS1、S2によって区分けされた縦方向単位製品列が縦の狭間D1を隔てて3列形成される。なお、縦の狭間D1は端材となる部分であってブレイク処理ができさえすればよいので、あまり端材の面積が大きくならない方が好ましく、例えば10mm以下にするのが好ましい。
【0021】
次いで、図4に示すように、カッターホイール6の転動方向をX方向に切り替えたあと、スクライブラインS1の上にくるまで移動する。またテーブル7をY方向に送って、横方向のスクライブラインを形成しようとする位置の上に停止させる。このあと、縦方向単位製品列の実質的な左辺を形成する縦方向のスクライブラインS1から右辺を形成するスクライブラインS2まで、カッターホイール6をマザー基板Wに押しつけながらガイド5に沿って移動させることによって、縦方向単位製品列における単位製品を実質的に区分けする横方向のスクライブラインS3を横列同時に加工する。このようにして、順次横方向のスクライブラインS3を図5に示すように加工していく。これにより、図6に示すような縦、横のスクライブラインS1、S2、S3によって単位製品W1となる領域が格子状に形成される。
なお、スクライブラインS3は、スクライブラインS2からスクライブラインS1まで逆方向に移動させてもよい。この場合はスクライブラインS2の上からスクライブラインS1に沿って移動されることになる。
【0022】
このあと、スクライブラインが形成されたマザー基板Wはブレイク装置に送られて、縦、横のスクライブラインに沿ってブレイク処理がなされて分断され、単位製品W1が取り出される。
【0023】
上記のスクライブ方法によれば、横方向のスクライブラインS3が、縦方向単位製品列の実質的な左辺を形成する縦方向のスクライブラインS1から右辺を形成する縦方向スクライブラインS2の間で形成されているので、縦方向のスクライブラインS1、S2を乗り越えて形成される交点が存在しなくなる。これにより、上述した交点での「カケ」や「ソゲ」の発生を著しく抑制できるとともに、「交点飛び」の現象もなくすことができ、分断面のきれいな高品質の単位製品を得ることができる。
【0024】
また、スクライブ時において、横方向のスクライブラインS3の終端で縦方向のスクライブラインS2に到達したときに、縦の狭間D1部分に万一微少な「カケ」が生じたとしても、縦の狭間D1部分は分断後に端材として破棄されるので、取り出される単位製品W1には全く影響がない。
【0025】
本発明において、図7に示すように、縦方向単位製品列における単位製品W1の間に横の狭間D2が形成されるように、横方向のスクライブラインS3を加工するようにしてもよい。この場合、図8並びに図9に示すように、テーブル7のY方向への送りピッチを、単位製品のY方向の幅と狭間とを考慮してあらかじめ設定しておき、先の実施例と同様に、スクライブヘッド4に取り付けた複数のカッターホイール6で横方向にスクライブして、スクライブラインS3を順次加工することにより行うことができる。
この実施例では、隣り合う単位製品W1の縦、横の間に狭間D1、D2が形成されているので、分断時にこの狭間部分を端材として破棄することによりさらに高品質の単位製品W1を得ることができる。
【0026】
本発明において、取り出される単位製品W1の数が同じである場合、縦方向単位製品列を多くして、その単位製品列の数だけスクライブヘッドの数を増やして加工すれば、より作業の高速化を図ることができる。
例えば、取り出される単位製品W1が12個とした場合、先の実施例では縦方向単位製品列が3列であったので、縦方向のスクライブS1、S2を加工するのに3個のスクライブヘッド4を用いてY方向に2回スクライブし、横方向のスクライブラインS3を加工するのにスクライブラインS3の数だけ、すなわち、図7の実施例では8回スクライブする必要がある。これに対し、同じ図7に示したマザー基板Wを加工するのに、図10に示すように、マザー基板Wを横にして、縦方向単位製品列が横方向に4列並んだ状態にして、4個のスクライブヘッド4で加工する場合、縦方向のスクライブS1、S2を加工するのにY方向に2回スクライブし、横方向のスクライブラインS3を加工するのに6回のスクライブで形成できる。すなわち、横方向のスクライブは前者の8回に比べて6回で済み、それだけスクライブ作業の高速化を図ることが可能となる。
【0027】
上記実施例において、テーブル7をY方向に移動させて縦方向のスクライブS1、S2を加工したが、反対にスクライブヘッド4を支持する横梁3や支柱2を移動できるようにしてスクライブするようにしてもよい。また、横方向のスクライブラインS3についても、テーブル7をX方向に移動できるようにして行うことが可能である。
【0028】
以上本発明の代表的な実施例について説明したが、本発明は必ずしも上記の実施形態に特定されるものではない。例えば、縦方向のスクライブ加工において、左辺と右辺とを逆順に加工してもよいし、横方向のスクライブ加工において、右辺から左辺に向けて加工してもよい。その他、本発明の目的を達成し、請求の範囲を逸脱しない範囲内で適宜修正、変更することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の分断方法は、ガラス基板等の脆性材料からなる基板に、ブレイク予定ラインに沿って縦、横のスクライブラインを形成するスクライブ方法に利用される。
【符号の説明】
【0030】
1 スクライブ装置
4 スクライブヘッド
6 カッターホイール
7 テーブル
D1、D2 狭間
S1、S2 縦方向のスクライブライン
S3 横方向のスクライブライン
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板にカッターホイールで縦方向のスクライブライン並びに横方向のスクライブラインを形成するスクライブ方法であって、
前記基板を縦方向にスクライブすることによって、左辺および右辺となる2本の縦方向のスクライブラインによって形成された縦方向単位製品列を、端材となる縦の狭間をあけて複数形成し、
次いで、前記縦方向単位製品列の左辺または右辺を形成する縦方向のスクライブラインから、右辺または左辺を形成する縦方向スクライブラインまで横方向にスクライブすることによって、単位製品を区分けする横方向のスクライブラインを順次加工するようにしたことを特徴とするスクライブ方法。
【請求項2】
形成すべき縦方向単位製品列の数と同じ数のカッターホイールを使用し、
まず、縦方向単位製品列のそれぞれの左辺または右辺を形成する縦方向のスクライブラインを加工し、
次いで、縦方向単位製品列のそれぞれの右辺または左辺を形成する縦方向のスクライブラインを加工し、
次いで、各縦方向単位製品列における単位製品を区分けする横方向のスクライブラインを横列同時に加工するようにした請求項1に記載のスクライブ方法。
【請求項3】
前記縦方向単位製品列における単位製品の間に、端材となる横の狭間が形成されるように前記横方向のスクライブラインを加工するようにした請求項1または請求項2に記載のスクライブ方法。
【請求項1】
基板にカッターホイールで縦方向のスクライブライン並びに横方向のスクライブラインを形成するスクライブ方法であって、
前記基板を縦方向にスクライブすることによって、左辺および右辺となる2本の縦方向のスクライブラインによって形成された縦方向単位製品列を、端材となる縦の狭間をあけて複数形成し、
次いで、前記縦方向単位製品列の左辺または右辺を形成する縦方向のスクライブラインから、右辺または左辺を形成する縦方向スクライブラインまで横方向にスクライブすることによって、単位製品を区分けする横方向のスクライブラインを順次加工するようにしたことを特徴とするスクライブ方法。
【請求項2】
形成すべき縦方向単位製品列の数と同じ数のカッターホイールを使用し、
まず、縦方向単位製品列のそれぞれの左辺または右辺を形成する縦方向のスクライブラインを加工し、
次いで、縦方向単位製品列のそれぞれの右辺または左辺を形成する縦方向のスクライブラインを加工し、
次いで、各縦方向単位製品列における単位製品を区分けする横方向のスクライブラインを横列同時に加工するようにした請求項1に記載のスクライブ方法。
【請求項3】
前記縦方向単位製品列における単位製品の間に、端材となる横の狭間が形成されるように前記横方向のスクライブラインを加工するようにした請求項1または請求項2に記載のスクライブ方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2013−79170(P2013−79170A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−220373(P2011−220373)
【出願日】平成23年10月4日(2011.10.4)
【出願人】(390000608)三星ダイヤモンド工業株式会社 (383)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月4日(2011.10.4)
【出願人】(390000608)三星ダイヤモンド工業株式会社 (383)
【Fターム(参考)】
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