説明

スクリーニング方法

本発明は、Trabid活性を調節することを含む、Wntシグナル伝達を調節する方法を提供する。好ましくは、Trabid活性を調節することは、Trabid活性を阻害することを含む。本発明はまた、Trabid活性を低減することを含む、TCF転写を低減する方法を提供する。Trabidの調節因子を同定するための方法であって、ユビキチンによりタグ部分にカップリングした検出可能な部分を含む、Trabid基質を用意すること、前記基質の第1及び第2の部分を固定化すること、前記第1の部分に調節因子候補を添加すること、第1及び第2の部分をTrabidと接触させること、インキュベートしてTrabidを作用させること、検出可能な部分からタグを分離することによりユビキチンの切断をアッセイすることを含み、第1の部分から分離された検出可能な部分の量が、第2の部分から分離された検出可能な部分の量と異なるときに、前記候補を、Trabidの調節因子として同定する方法も提供される。本発明は、医薬品としてのTrabid及びTrabid阻害剤の使用を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Wntシグナル伝達経路及びその経路の欠損に関連する障害に関する。特に、本発明は、大腸腺腫性ポリポーシスタンパク質(APC,adenomatous polyposis coli)シグナル伝達及び結腸直腸癌などの障害の治療におけるそのエフェクターの改善又は低減に関する。
【背景技術】
【0002】
Wntシグナル伝達は、癌において重要であることが示された。実際に、Wntシグナル伝達は、この経路の多数のレベル又は段階での遺伝的欠損による腫瘍の促進及び癌に関連づけられている。この話題は、Polakis(2000 Genes and Development vol 14 pages 1837-1851)により詳細に解説されている。
【0003】
大腸腺腫性ポリポーシスタンパク質(APC)は、Wntシグナル伝達経路において中心的な役割を果たす。APCは、大多数の散発性結腸直腸癌及び遺伝性結腸直腸癌では機能が失われている重要な腫瘍抑制因子である。その最も理解されている機能は、Wntシグナル伝達経路の主要なエフェクターであるβ−カテニンのダウンレギュレーションである。さらに、APCタンパク質はまた、カドヘリン介在性細胞接着の維持に別個の機能を有すると思われ、この機能の喪失は、腫瘍から浸潤性悪性腫瘍への移行を加速するおそれがある。
【0004】
APC遺伝子は、全ての結腸直腸癌の80%超で不活性化されている。APC遺伝子は、結腸大腸腫瘍の素因のある優性遺伝病である家族性大腸ポリポーシス(FAP,familial adenomatous polyposis)において欠損している。APC遺伝子の不活性化は、大部分の散発性腫瘍にもみられ、腫瘍形成における初期の、そして可能性のあることには開始となる事象である。
【0005】
APCは、Wntシグナル伝達経路の負の調節因子である。APCは、この経路の主要なエフェクターであるβ−カテニンに結合し、そのダウンレギュレーションを促進する。この経路が不活性な細胞では、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3βも含有するAxin分解複合体によりもたらされる、β−カテニンのN末端におけるリン酸化の結果として、β−カテニンは急速に分解する。Wntシグナル伝達の状態では、β−カテニンは安定化され、核に移行し、そこでβ−カテニンはTCF/LEF因子に結合し、Wnt標的遺伝子の転写を活性化する。転写におけるこれらの変化は腫瘍形成の基礎であると考えられる。したがって、Wnt標的遺伝子の転写を制御すること、又はその発現を弱めることが問題である。
【0006】
目下の証拠は、APCが、β−カテニンのように細胞接着に別個の機能も有しうることを示唆している。この証拠は、ショウジョウバエ(Drosophila)での研究から生じたが、ショウジョウバエでは、APC近縁のE−APCが上皮におけるアドヘレンスジャンクションに関連し、細胞接着に影響すると思われる。これがヒト細胞にもあてはまるという証拠が明らかになってきており、APC腫瘍抑制因子は、様々な極性化哺乳動物細胞において接着性側膜に関連し、アドヘレンスジャンクションでのβ−カテニンの交換及び結腸直腸癌細胞の細胞接着に関連づけられている。カドヘリン介在性接着の喪失が良性腫瘍から浸潤癌への移行をしばしば伴うことから、これらの結果は、腫瘍の進行に潜在的に関係する。したがって、カドヘリン介在性接着などの細胞接着を促進又は維持することが問題である。
【0007】
APCタンパク質の最も保存されているドメインは、そのN末端アルマジロリピートドメイン(ARD,Armadillo Repeat Domain)であり、これは推定上のタンパク質相互作用ドメインである。このドメインの最も近縁はβ−カテニン及びα−インポーチンに見出され、これらのARDの機能及び構造は、これらと機能的に関連するリガンドの多くとのこれらの正確な分子相互作用を含めて十分に公知である。対照的に、APCタンパク質のARDの分子的機能はあまり理解されておらず、推定上のリガンドの報告はあったが、APCに関するそれらのリガンドの機能的関連性はまだ明らかになっておらず未知であることが当技術分野における問題である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Polakis, 2000 Genes and Development vol 14 pages 1837-1851
【発明の概要】
【0009】
本発明は、従来技術に関連する問題を克服しようとするものである。
【0010】
本発明者らは、生物学的に意味ある方法でAPCタンパク質と相互作用する新しいタンパク質を発見した。このタンパク質は、それがARDリピートの特異的突然変異体APCタンパク質とではなく、野生型タンパク質と相互作用する能力に基づき単離された。同定されたタンパク質はTrabidである。Trabidタンパク質は、従来技術で開示された生物学的機能を全く有さない。したがって、全く新しく、生物学的に重要なシグナル伝達の役割が、本研究によってこのタンパク質によるものとされた。
【0011】
さらにTrabidは、生化学的に特徴づけされた。Trabidは、新しいデユビキチラーゼ酵素として同定された。ユビキチン結合ドメインが確定され、実験的に実証された。Trabidは、K63結合のユビキチンに結合特異性を有し、このことは確定され、実験的に実証された。この活性は、結腸直腸癌又はWntを刺激された細胞におけるWnt経路活性に必要とされる。デユビキチラーゼ活性が確定され、実験的に実証された。さらに、Trabidの操作(特に阻害及び/又は枯渇)及びTrabid阻害剤の使用の効果は、Wntシグナル伝達が活性化したヒト細胞系及び結腸直腸細胞系における生物学的に重要なWntエフェクターの調節を包含することが示された。したがって、TrabidとWntシグナル伝達/TCF介在性転写との間の機能的結びつきが、最初に確立された。
【0012】
本発明は、これらの顕著な成果に基づく。
【0013】
したがって、本発明は、Trabid活性を調節することを含む、Wntシグナル伝達を調節する方法を提供する。好ましくは、Trabid活性を調節することは、Trabid活性を阻害することを含む。
【0014】
別の態様では、本発明は、Trabid活性を低減することを含む、TCFの転写を低減する方法を提供する。好ましくは、Trabid活性は、Trabidに対するsiRNAを用いて、又はドミナントネガティブTrabidを用いて低減される。ドミナントネガティブTrabidを用いる場合には、Trabid活性を低減することが望まれるシステムに、例えばドミナントネガティブTrabidポリペプチドの供給により、又はそれをコードする核酸からの発現により(すなわち当技術分野で公知の任意の適切な手段により前記核酸を前記システムに導入することにより)導入される。好ましくは、前記TCFの発現は、β−カテニン−Lef融合体に刺激された転写ではない。好ましくは、前記TCFの転写は、Dvlに刺激される、Wnt3Aに刺激される、LiClに刺激される、又はmβ−TrCp−ΔFに刺激されるTCFの転写である。好ましくは、前記TCFの転写は、Dvlに刺激されるTCFの転写である。好ましくは、前記TCF活性は、APCの突然変異若しくは喪失により、及び/又はβ−カテニンの活性化により刺激されるTCF活性である。これらの特定の適用は、例えば共にTrabid活性に依存するAPC突然変異体癌細胞系SW480及びβ−カテニン突然変異体癌細胞系HCT116(図に示す)に関連して、実施例の項に実証されている。
【0015】
別の態様では、本発明は、Trabidの阻害又はダウンレギュレーションを含むTCRの転写の阻害方法に関する。
【0016】
別の態様では、本発明は、対象におけるTrabidシグナル伝達を調節することを含む、前記対象における家族性大腸ポリポーシを治療する方法を提供する。
【0017】
別の態様では、本発明は、対象におけるTrabidシグナル伝達を調節することを含む、前記対象における結腸直腸癌を治療する方法を提供する。結腸直腸癌への言及には、適切には結腸癌が含まれる。
【0018】
好ましくは、Trabidの調節はTrabidの阻害である。
【0019】
別の態様では、本発明は、脱ユビキチン化におけるTrabidの使用、好ましくはポリペプチドからユビキチン部分を除去するためのTrabidの使用、好ましくはポリペプチドの脱ユビキチン化におけるTrabidの使用を提供する。
【0020】
脱ユビキチン化は、1つ又は複数のユビキチンユニットを含むポリペプチドからそれを除去することを意味する。除去のための切断がどこで行われるかに応じて、放出されるユニットは、完全なユビキチンユニット、ポリユビキチン鎖、又はユビキチンの断片に対応することがある。好ましくは、完全なユビキチンユニットが放出される。好ましくは、脱ユビキチン化は、ポリペプチドからのユビキチンの完全な除去を意味し、好ましくは前記ポリペプチドから全てのユビキチン基を除去することを意味する。
【0021】
好ましくは脱ユビキチン化は、K63結合のユビキチンの切断を含む。好ましくは、Trabidは、少なくともC末端卵巣腫瘍(OTU,ovarian tumour)ドメインを含む。好ましくは、Trabidは、N末端NZFフィンガーモチーフを含む。(ジンクフィンガーモチーフは、いくつかの異なる種類に分類される。Trabidは、「RanBP型フィンガー」及び「ZnF_RBZフィンガー」としても公知であるNZF型フィンガーを有し、これらの用語は、本明細書において相互交換可能に使用される。)好ましくはTrabidは、完全長ヒトTrabidポリペプチドを含む。
【0022】
別の態様では、本発明は、医薬品として使用するためのTrabid阻害剤を提供する。
【0023】
別の態様では、本発明は、結腸直腸癌のための医薬品を製造するためのTrabid阻害剤の使用を提供する。
【0024】
別の態様では、本発明は、家族性大腸ポリポーシスのための医薬品を製造するためのTrabid阻害剤の使用を提供する。
【0025】
別の態様では、本発明は、結腸直腸癌の治療に使用するためのTrabid阻害剤を提供する。
【0026】
別の態様では、本発明は、家族性大腸ポリポーシスの治療に使用するためのTrabid阻害剤を提供する。
【0027】
好ましくは、前記Trabid阻害剤は、Trabidに対するsiRNAであるか、又はTrabid C443SなどのドミナントネガティブTrabidである。適切には、Trabid阻害剤は、ユビキチンアルデヒドなどのデユビキチナーゼ活性の阻害剤でありうる。適切には、Trabid阻害剤は、K63結合のユビキチンの結合活性の阻害剤でありうる。
【0028】
別の態様では、本発明は、K63結合のユビキチンなどのユビキチンを含むポリペプチドの沈殿へのTrabidの使用を提供する。これは、試薬がTrabidに結合する能力のおかげで、例えば免疫沈降又は固定化APC(又は他の構成要素)の調製に有用な試薬である。
【0029】
別の態様では、本発明は、β−カテニンの調節へのTrabidの使用を提供する。特に、本発明は、Trabidによるβ−カテニンの転写活性の調節へのTrabidの使用を提供する。好ましくは、前記使用は、β−カテニンの単なる安定化よりもむしろβ−カテニンの転写活性の調節に作用する。別の態様では、本発明は、細胞接着の調節へのTrabidの使用を提供する。好ましくは、前記細胞接着の調節は、カドヘリンによって調節される細胞接着である。
【0030】
別の態様では、本発明は、TCFの転写の維持又は刺激へのTrabidの使用を提供する。
【0031】
別の態様では、本発明は、Trabid活性を低減することにより核のTCF3及び/又はTCF4を減少させる方法を提供する。
【0032】
別の態様では、本発明は、Trabidの調節因子を同定するための方法であって、ユビキチンによりタグ部分にカップリングした検出可能な部分を含む、Trabid基質を提供すること、前記基質の第1及び第2の部分を固定化すること、前記第1の部分に調節因子候補を添加すること、前記第1及び第2の部分をTrabidと接触させること、インキュベートしてTrabidを作用させること、並びに検出可能な部分からタグを分離することによりユビキチンの切断をアッセイすることを含み、前記第2の部分から分離された検出可能な部分の量と異なる量の検出可能な部分が、前記第1の部分から分離されることにより、前記候補はTrabidの調節因子として同定される方法を提供する。
【0033】
Trabidは、Trabidポリペプチド又はそれをコードする核酸を意味する。好ましくは、Trabidは、ポリペプチドを表す。好ましくは、Trabidポリペプチドは、Trabidデユビキチラーゼ活性ドメインを含む。これを下にさらに詳細に説明する。
【0034】
Trabidがデユビキチラーゼ活性を有すること、及びWntシグナル伝達に関与することが初めて開示された。したがって広い態様では、本発明は、Wntシグナル伝達の調節因子の同定のための方法であって、調節因子候補の存在下及び不在下でのTrabidデユビキチラーゼ活性をアッセイすることを含み、調節因子候補の存在下と不在下との間でのデユビキチラーゼ活性の差により、その候補はWntシグナル伝達の調節因子として同定される方法に関する。別の態様では、本発明は、Trabidの調節因子を同定するための方法であって、調節因子候補の存在下及び不在下でTrabidデユビキチラーゼ活性をアッセイすることを含み、調節因子候補の存在下と不在下との間でのデユビキチラーゼ活性の差により、その候補はTrabidの調節因子として同定される方法を提供する。好ましくは、前記調節因子候補は、阻害剤の候補であり、前記阻害剤の候補の存在下でのTrabid活性の低減により、その候補は、Wntシグナル伝達及び/又はTrabidの阻害剤として同定される。
【0035】
調節因子候補は、化学的実体、生物学的高分子、又は他のそのような物質などの任意の実体でありうる。
【0036】
好ましくは、前記調節因子を同定する方法は、有効量の前記調節因子を製造するステップをさらに含む。
【0037】
好ましくは、前記調節因子を同定する方法は、対象に投与するために前記調節因子を製剤するステップをさらに含む。
【0038】
好ましくは、前記調節因子を同定する方法は、前記調節因子を含む医薬品を製造するステップをさらに含む。
【0039】
好ましくは、検出可能な部分からのタグの分離は、上清への検出可能な部分の放出についてアッセイすることにより測定される。このように、上清は、好都合には読出し信号を有する。別の実施形態では、好ましくは、検出可能な部分からのタグの分離は、固定化された物質における検出可能な部分の保持についてアッセイすることにより測定される。このように、洗浄され、固定化された容器を読出しのためにスキャンすることができる。
【0040】
好ましくは、前記基質の前記第1及び第2の部分は、タグ部分を介して固定化される。
【0041】
タグ部分及び検出可能な部分は、所望であればそれぞれ「タグ」でありうる。キーポイントは、それらを好ましくは区別できることである。この特徴は、典型的にはタグ部分及び検出可能な部分が異なることを意味するものであり、それは、これらが同じであれば、アッセイを読出し又は制御することが潜在的に困難と思われるからである。タグ部分及び検出可能な部分が同じであれば、アッセイの読出しは、アッセイ容器から上清を分離して別々の取り扱いに供することに頼るものであり、これは、アッセイ作業に労力を追加するおそれがある。
【0042】
好ましくは、タグ部分及び検出可能な部分は異なる。この実施形態では、タグ部分は、好都合には固定化に適し(それ故に検出可能である必要はない)、潜在的にアッセイ物質の幅広い選択肢を与え、かつ/又はそのコストを低減する任意のもののことがある。
【0043】
好ましくは、各処理におけるTrabidの量は同じである。
【0044】
好ましくは、前記第2の部分よりも低い量の検出可能な部分が前記第1の部分から分離されることにより、前記調節因子候補は、Trabidの阻害剤として同定される。より低い量の放出は、より低いTrabid活性が原因と思われることから、阻害が行われたことを示す。
【0045】
別の実施形態では、好ましくは、前記第2の部分よりも高い量の検出可能な部分が前記第1の部分の分離されることにより、前記調節因子候補は、Trabidの活性化因子として同定される。次に、調節因子候補が、与えられた反応時間(インキュベーション時間)の間にTrabidを活性化すると、より多量の基質が消化され、より大きな読出しを与えるものである。
【0046】
好ましくは、前記Trabid基質は、GST−ユビキチン−ユビキチン−S融合タンパク質を含み、前記検出可能な部分はSを含み、前記タグ部分はGSTを含む。
【0047】
好ましくは、基質の前記第1及び第2の部分は、マイクロタイタープレートの別個のウェルに固定化される。これは、好都合には高処理スクリーニング用の便利なプラットフォームである。
【0048】
好ましくは、固定化は、マイクロタイタープレートのウェルの内表面に予めコーティングされた抗GST抗体に付着させることによる。
【0049】
別の態様では、本発明は、APCをTrabidと接触させることを含む、前記APCのArmadilloリピートドメイン(ARD)を調節する方法を提供する。好ましくは、前記調節は、Trabidの結合により、例えばARDドメインへの他のタンパク質の結合を遮断することによりもたらされる立体障害による。
【0050】
別の態様では、本発明は、突然変異体APCに結合する突然変異体Trabidを同定する方法であって、突然変異体Trabidポリペプチドの候補を用意すること、前記突然変異体Trabidポリペプチドの候補を前記突然変異体APCポリペプチドと接触させること、及び前記突然変異体Trabidポリペプチドの候補と前記突然変異体APCポリペプチドとの間の会合をモニターすることを含み、前記ポリペプチド間の会合が、突然変異体Trabidポリペプチドの候補が前記突然変異体APCと結合することを示す方法を提供する。好ましくは、前記突然変異体APCは、N507K APC又はN175K E−APCである。
【0051】
広い態様では、本発明はAPCポリペプチドに関し、前記ポリペプチドは、N175又はN507突然変異を含む。一実施形態では、好ましくは、前記APCはヒトAPCであり、前記突然変異はN507突然変異を含み、好ましくは、前記N507突然変異はN507Kである。別の実施形態では、好ましくは、前記APCはE−APCであり、前記突然変異はN175突然変異を含み、好ましくは前記N175突然変異はN175Kである。好ましくは上記のAPCポリペプチドは、野生型APCポリペプチドよりもTrabidと結合する能力の低減を示す。好ましくは、本発明は、Wntシグナル伝達の調節におけるこのAPCポリペプチドの使用に関する。
【0052】
突然変異体Trabidポリペプチドの候補は、複数の突然変異体Trabidポリペプチドの候補のライブラリーでありうる。好ましくは、前記ライブラリーは、前記突然変異体Trabidポリペプチドの候補をコードする核酸からそれらの候補を産生する発現ライブラリーである。
【0053】
別の態様では、本発明は、Trabid又はその断片を提供し、前記TrabidはC443突然変異を含む。好ましくは、前記Trabidは、受託番号CAB 64449のアミノ酸配列を含むヒトTrabidであり、前記C443突然変異はC443Sである。別の態様では、本発明は、上記のTrabid又はその断片をコードする核酸を提供する。
【0054】
別の態様では、本発明は、医薬品として使用するためのTrabidを提供する。別の態様では、本発明は、結腸直腸癌のための医薬品を製造するためのTrabidの使用を提供する。別の態様では、本発明は、家族性大腸ポリポーシスのための医薬品を製造するためのTrabidの使用を提供する。別の態様では、本発明は、結腸直腸癌の治療に使用するためのTrabidを提供する。別の態様では、本発明は、家族性大腸ポリポーシスの治療に使用するためのTrabidを提供する。別の態様では、本発明は、幹細胞区画の維持及び/又は幹細胞活性の刺激に使用するためのTrabidを提供する。別の態様では、本発明は、E3ユビキチンリガーゼとして組換え又は精製Trabidを使用することを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】マイクロプレートアッセイの概略図である。
【図2】競合阻害曲線を示す図である。
【図3−1】3つの棒グラフ及び2つの写真である。
【図3−2】3つの棒グラフ及び2つの写真である。
【図4】図、配列、及び写真である。
【図5】写真である。
【図6−1】棒グラフ及び写真である。
【図6−2】棒グラフ及び写真である。
【図7】写真である。
【図8】TrabidがK63結合のユビキチンを優先するDUBであることを示す図である。(A)ヒトTrabidのドメイン並びにヒトOTUファミリーの3メンバーの不変のシステイン及びヒスチジン(黒の影付き)のアライメント(触媒として作用しないC443S置換を示す)。大部分のOTUタンパク質に見られるが、Trabidファミリーのメンバーではアラニンに置換されている活性部位アスパラギン酸(四角で囲む)に留意。(B)WT Trabid、及び表示したようにトランスフェクトされた293T細胞から免疫沈降した突然変異体HAタグ付きTrabidをK48又はK63結合のユビキチン(UB2−7)とインキュベートしたものを用いたDUBアッセイ。星印は触媒として作用しないC443Sと共に免疫共沈したユビキチン化タンパク質を示す。(C)細菌に発現したTrabidのWT又は突然変異体のGSTタグ付きのC端末又はN末端断片を(左、図9Bも参照)、K63結合のユビキチン(UB2〜7、右)と共にインキュベートしたもののインビトロDUBアッセイ。Ub−Alはユビキチンアルデヒド。
【図9】TrabidからK63結合のユビキチンへの、TrabidのNZFモチーフを介した優先的結合を示す図である。(A)トランスフェクトされた293細胞から免疫沈降し、K48又はK63結合のユビキチン(UB2〜7)と共にインビトロでインキュベートしたWT及び突然変異HA−Trabidを用いたユビキチン結合アッセイ。星印は、WT及びC443Sと共に免疫共沈したユビキチン化タンパク質を示す(図8Bも参照)。(B)細菌に発現させ(左)、K48又はK63結合のユビキチンと共にインキュベートしたTrabidのGSTタグ付きN末端断片を用いたプルダウンアッセイ(図8Cも参照)。K63結合の鎖への強い結合優先性に留意(レーン5及び6)。
【図10−1】RNAi介在性Trabid枯渇がTCF依存性転写の喪失を引き起こすことを示す図である。(A)対照及びTrabid特異的siRNA(内部対照、α−TLE)をトランスフェクトされた293細胞における内因性Trabidタンパク質の枯渇を示すウエスタンブロット。(B、C)(A)と同様に293細胞にsiRNAをトランスフェクト後に、表示したように対照馴化培地(L−CM)又はWnt3A馴化培地(W3a−CM)で細胞を処理後に、Trabidの転写の枯渇(左)及びWnt標的遺伝子であるAXIN2、BCL9、及びc−MYCの転写レベルをモニターするリアルタイム定量RT−PCRアッセイ。(D)表示したようにWT及び突然変異体HAタグ付き△siRNA Trabidレスキュー構築物の再発現の存在下又は不在下で、SW480細胞にsiRNAをトランスフェクト後のTOPFLASHルシフェラーゼアッセイ。突然変異体TCF結合部位を含有する対照ルシフェラーゼレポーターからのFOPFLASH値も示す。相対ルシフェラーゼ値は、誘導倍率(y軸)として表現する。(下図)代表的な一実験からのHA−Trabidの発現を示すウエスタンブロット(α−チューブリンは負荷対照)。(D)(A)と同様にsiRNAをトランスフェクトされ、表示した発現ベクターを共トランスフェクトされた293T細胞におけるNF−κB依存的ルシフェラーゼレポーターアッセイ。(下図は発現レベルを示すウエスタンブロット)。この図及び次の図のエラーバーは、2〜3回の独立した実験(2回の繰り返しで行う)からの平均からの標準偏差である。
【図10−2】RNAi介在性Trabid枯渇がTCF依存性転写の喪失を引き起こすことを示す図である。(A)対照及びTrabid特異的siRNA(内部対照、α−TLE)をトランスフェクトされた293細胞における内因性Trabidタンパク質の枯渇を示すウエスタンブロット。(B、C)(A)と同様に293細胞にsiRNAをトランスフェクト後に、表示したように対照馴化培地(L−CM)又はWnt3A馴化培地(W3a−CM)で細胞を処理後に、Trabidの転写の枯渇(左)及びWnt標的遺伝子であるAXIN2、BCL9、及びc−MYCの転写レベルをモニターするリアルタイム定量RT−PCRアッセイ。(D)表示したようにWT及び突然変異体HAタグ付き△siRNA Trabidレスキュー構築物の再発現の存在下又は不在下で、SW480細胞にsiRNAをトランスフェクト後のTOPFLASHルシフェラーゼアッセイ。突然変異体TCF結合部位を含有する対照ルシフェラーゼレポーターからのFOPFLASH値も示す。相対ルシフェラーゼ値は、誘導倍率(y軸)として表現する。(下図)代表的な一実験からのHA−Trabidの発現を示すウエスタンブロット(α−チューブリンは負荷対照)。(D)(A)と同様にsiRNAをトランスフェクトされ、表示した発現ベクターを共トランスフェクトされた293T細胞におけるNF−κB依存的ルシフェラーゼレポーターアッセイ。(下図は発現レベルを示すウエスタンブロット)。この図及び次の図のエラーバーは、2〜3回の独立した実験(2回の繰り返しで行う)からの平均からの標準偏差である。
【図11】Trabidの核機能を示すエピスタシス実験を示す図である。図10BにおけるようにsiRNAをトランスフェクトされ、(A)HA−Wnt3A、(B)ドミナントネガティブFLAG−β−TrCP(ΔF)、又は(C)安定化FLAG−β−カテニン(Δ45S)を共トランスフェクトされた293T細胞におけるTOPFLASHアッセイ。(下図)内因性β−カテニン(A)又は過剰発現したタンパク質(B、C)の発現レベルを示す代表的な実験からのウエスタンブロット。
【図12】Trabidの枯渇がTCF4及びTCF3レベル低減に付随することを示す図である。(A)図10BのようにsiRNAをトランスフェクトされ、トランスフェクションの24時間後にDMSO(対照)、10μM MG132、又は20mM LiClを用いて4時間処理され、右に示す抗体で連続的に探索された293T細胞の細胞質画分及び核画分のウエスタンブロット。(B)(A)と同様に調製及びsiRNAを用いて処理された293細胞の核画分のウエスタンブロット(連続的に探索)。(C)(A)と同様に調製された293細胞(10μg)由来の核画分からの免疫共沈。IPは抗TCF4抗体;ウエスタンブロットは抗β−カテニン抗体。
【図13】図10BのようにsiRNAをトランスフェクトされ、表示したように1〜100ngの空のベクター又はLEF1キメラを共トランスフェクトされた293T細胞(キメラの発現レベルは、匹敵するレベルのトランス活性化を生じるように較正した)において、TrabidがLEF1−TADキメラTOPFLASHアッセイによるトランス活性化に必要ないことを示す図である。(下図)抗β−カテニン抗体を用いて探索した、catC−LEF1Δ56の発現レベルを示す代表的な実験からのウエスタンブロット(約10分の1活性のcatC−LEF1Δ56に一致するように使用された低発現レベルでVP16−LEF1Δ□が検出不可能であったことに留意)。
【図14】dTrabidが異所性Winglessシグナル伝達に対する応答の正の調節因子であることを示す図である。(A)GAL4又は(B〜D)Wingless、(E、F)Armadillo又は(G、H)EGF受容体のArgos阻害剤を発現しているy wハエの眼。(A、B、E、G)+/+、(C、F、H)dTrabid/+、(D)dTCF/+。dTrabidのヘテロ接合性は、異所性Argos(H)又はRhomboidのいずれかが原因の表現型ではなく、異所性Wingless又はArmadillo(C、F)が原因のラフアイ表現型を抑制する。
【図15】Trabidの第3のNZFモチーフがそのDUB活性に必要とされることを示す図である。(A)WT及びC155A突然変異体HA−Trabidをトランスフェクトされた293T細胞の溶解液を抗HA抗体を用いて免疫沈降後のウエスタンブロット。(B)(A)からの免疫沈降物をK48又はK63結合のユビキチン(UB2〜7)と共にインキュベートしたものを用いたDUBアッセイ、セファロースビーズ20μlをユビキチン鎖と共に30℃で1時間インキュベートした。
【図16】異なるタンパク質からのNZFモチーフのアライメントを示す図である。ヒトTrabid由来の3つのNZFモチーフをヒトTAB2及びTAB3由来NZFモチーフ、並びにラットNpl4(このモチーフの創始者メンバー)と整列させる。不変のシステインに黒の影を付け、他の不変残基に灰色の影を付ける。3×Zn突然変異体では最初のシステイン(下線部)をアラニンに突然変異させた。
【図17】Trabidが細胞質タンパク質及び核タンパク質の両方であることを示す図である。(A)図10Bのように、siRNAをトランスフェクトされた293細胞を対照馴化培地(L−CM)又はWnt3A馴化培地(W3a−CM)で処理後の293細胞の細胞質及び核画分を、表示した抗体で探索したウエスタンブロット。(B〜D)HA−Trabidをトランスフェクトされ、固定され、(核をラベルするために)抗HA抗体及びDAPIで染色された、表示した通りの種々のヒト細胞系。細胞をPBS(+)で洗浄し、PBS(−)中での4%パラホルムアルデヒドを予熱したもの1mlに入れて室温で20分間固定した。続いて、細胞をPBS(−)中の0.5%トリトンX−100で10分間透過化し、5%正常ヤギ血清で20分間ブロッキングし、その後抗HA抗体(1%ヤギ血清を含有するPBS(+)に希釈)と共に2時間インキュベートした。細胞をPBS(+)で2回洗浄し(1回につき10分間)、続いてAlexa488−抗ラット二次ヤギ抗体(Molecular Probes社製)と共に40分間インキュベートし、PBS(+)で3回洗浄した。DAPIを有するVectashield(Vector Laboratories社製)を使用してカバースリップをガラススライドに据え付けた。MRC1024共焦点顕微鏡を用いて蛍光を視覚化し、画像を倍率600でスキャンした。SW480細胞におけるHA−Trabidの核蓄積に留意されたい。
【図18】TrabidのRNAi介在性枯渇の特異性を示す図である。(A)半定量RT−PCR分析。図10DのようにsiRNAをトランスフェクトされた293T細胞における内因性Trabid転写体のレベルを示す。(B)図10DのようにsiRNAをトランスフェクトされ、HAタグ付きCezanne及びTrabidを共トランスフェクトされた293T細胞からの溶解物を、抗HA抗体を用いて探索したウエスタンブロット。(C)図10AのようにsiRNAをトランスフェクトされ、Trabid siRNAを用いた枯渇に細胞を不応性にするサイレント突然変異を有するHAタグ付きTrabid(ΔsiRNA)を共トランスフェクトされた293T細胞からの溶解物のウエスタンブロット。
【図19】TrabidのRNAi介在性枯渇がWnt3Aで刺激された293T細胞におけるTCF依存性転写の喪失を引き起こすことを示す図である。表示するように、図10DのようにsiRNAと、WT及び突然変異体ΔsiRNA Trabidレスキュー構築物とを293T細胞に共トランスフェクション後に、Wnt3A刺激の存在下又は不在下で行ったTOPFLASHアッセイ。(下図)内因性β−カテニン及びHAタグ付きTrabidレスキュー構築物のレベルを示すウエスタンブロット。
【図20】TrabidがDishevelled及びGSK3βの下で作用することを示す図である。(A)Trabidに対する2つの異なるsiRNA又は図10DのようにCezanneに対するsiRNAをトランスフェクトされ、空のベクター又はFLAG−Dvl2を共トランスフェクトされた293T細胞のTOPFLASHアッセイ。(B)図10BのようにsiRNAをトランスフェクトされ、空のベクター、FLAG−Dvl2若しくはHA−Wnt3Aを共トランスフェクトされたか、又は10mM LiClで4時間処理された293T細胞におけるTOPFLASHアッセイ(レーン4及び8)。
【図21】Trabidが結腸直腸癌細胞におけるTCF介在性転写に必要とされることを示す図である。対照siRNA、又はTrabid若しくはCezanneに対するsiRNA(Trabidについては2つの異なるsiRNA)及び比較としてβ−カテニンに対するsiRNAをトランスフェクション後のSW480又はHCT−116結腸直腸癌細胞のTOPFLASHアッセイ。
【発明を実施するための形態】
【0056】
本発明は、APCのARDドメインと相互作用するタンパク質、例えばTrabidの機能を研究し、その理解を高めること、並びにAPCの調節因子若しくはエフェクターとしての推定上の役割及び/又はWntシグナル伝達と細胞接着とに及ぼすそれらの効果を調べることに関する。したがって、本発明は、APC腫瘍抑制因子の、及びWntシグナル伝達だけではなく細胞接着に果たすその機能のよりよい理解を可能にする。さらに、本発明は、結腸直腸癌細胞におけるWntシグナル伝達活性を減弱又は遮断する分子及びメカニズムの同定を可能にする。
【0057】
Trabid
Trabidは、A20及びCezanneも含有する哺乳動物OTU(卵巣腫瘍)ドメインタンパク質の小ファミリーに属する。OTUドメインは古典的なシステインプロテアーゼシグネチャーを有し、A20及びCezanneは、脱ユビキチン化(DUB)活性を見せることが示された。A20は、NFκBシグナル伝達及び炎症の負の調節因子であり、Cezanneも、NFκB介在性転写をダウンレギュレーションすることができる、Trabidの機能は、本明細書において最初に開示される。
【0058】
重要なことに、本発明者らは、Trabidの機能喪失がWnt経路の活性を低減する結果、本発明により、Trabidの(例えばその脱ユビキチン化活性の)任意の枯渇又は阻害は、結腸直腸癌及び/又は他のWnt関連障害若しくは疾患の治療に有益であることを示す。
【0059】
Wnt経路活性が、(例えば腸における、及び造血系などの他の細胞における)幹細胞区画の維持に必要であることに留意すべきである。したがって、Wnt経路のアゴニスト(Trabid又はTrabidの活性化因子/誘導因子など)は、幹細胞活性の刺激に適用を見出すことがある。明らかに、経路を過剰活性化する有益効果と任意の負の発癌効果との間でバランスをとるように、本発明の実施形態を実施する際には留意する必要があろう。
【0060】
Trabidの2つの顕著な特徴は、そのOTUドメインの推定上の活性部位における保存されたD→A置換及びそのN末端における複数のジンンクフィンガーであり、これらのジンクフィンガーは、A20にもCezanneも見出されない。これらのジンクフィンガーはNZF型であり、ユビキチン結合モチーフである。特に、ショウジョウバエは、このOTUタンパク質ファミリーのメンバーを1つだけを含有し、このメンバーはこれらの特徴の両方を見せることから、哺乳動物Trabidのオルソログである。さらに、いくつかの構造的に異なる種類のユビキチン結合ドメインがあることに留意すべきであり、ジンクフィンガー型ドメインは、やっと最近記載された。これらのドメインは、広範囲のタンパク質に存在し、ユビキチナーゼ活性もデユビキチラーゼ活性も実証されていないタンパク質に存在する。
【0061】
TrabidがDUB活性を有すると実証されたことが注目すべきであるのは、Trabidがその推定上の触媒性トリアド(triad)にD→A置換を有するからである。この置換は普通でなく、Trabidがデユビキチラーゼ活性を有さないことを示していると受け止められるおそれもあろう。しかし、本発明者らは、この置換がDUB活性と両立できることを示す。理論に縛られることを望むわけではないが、このことは、好都合には他のOTUドメインの活性部位には影響を及ぼすことができない阻害剤に選択的に感受性な特異的形状の活性部位につながりうるものであり、本発明による阻害剤にさらに高い選択性/特異性を可能にする。
【0062】
本発明者らは、さらなるTrabid活性、すなわちE3ユビキチンリガーゼ活性も開示する。この証拠は実施例12に示される(Trabidの枯渇後にβ−カテニンのユビキチン化が減少し、タンパク質全体のユビキチン化が減少していることに留意)。したがって、本発明者らは、TrabidがE3ユビキチンリガーゼ活性を有すること、及びこの活性の阻害がWnt経路の活性低減に関連することを初めて実証する。このTrabid活性は、E3ユビキチンリガーゼ活性を仲介するか、又はその一因となるユビキチン結合モチーフをおそらく介してそのNZFフィンガー領域によりおそらく仲介される。Trabid近縁のA20がDUB活性とE3ユビキチンリガーゼ活性との両方を有し、両活性はその機能に重要であることに注目することは興味深い。したがって、本発明は、E3ユビキチンリガーゼとしての組換え又は精製Trabidの使用に関する。本発明は、さらにTrabidのE3ユビキチンリガーゼ活性の操作によるWntシグナル伝達の操作に関し、好ましくは本発明は、Trabid E3ユビキチンリガーゼ活性の低減によるWntシグナル伝達の低減に関する。
【0063】
ショウジョウバエTrabid(dTrabid)の配列は、受託番号NP_649931(又はAAF54429)に見出すことができる。用語「Trabid」は、タンパク質又はそのホモログを表す。好ましくは、本発明のTrabidは哺乳動物Trabidであり、好ましくは、マウスTrabid(受託番号CAD67576(又はNP_997185))であり、最も好ましくはヒトTrabid(受託番号CAB64449(又はNP_060050))である。本明細書におけるTrabidの言及は、状況により別のものが示されない限り、好ましくはヒト配列、好ましくはヒトアミノ酸配列に関する。ヒト配列は、家族性大腸ポリポーシス(FAP)、結腸直腸癌、及び関連する態様などの本発明の治療的態様に最も臨床的に関連する。同じことは、本明細書に参照されるTrabidについてのヌクレオチド配列に適用される。公的に入手可能なTrabidヌクレオチド配列は、上に提供されるアミノ酸配列についての受託番号を用いて確認することができる。
【0064】
Trabidには、Trabidの断片が含まれる。断片は任意のサイズであってもよく、C末端若しくはN末端からの欠失、又は1つ若しくは複数の内部欠失などの欠失、又は欠失の組み合わせなどを含んでもよい。Trabidには、アミノ酸置換、例えばC443S突然変異などの突然変異体も含まれることがある。Trabidは、例えばエピトープタグ若しくは他のマーカー、ヒスチジンタグ、GSTタグ、又は精製を助けるための他のそのような部分の付加突然変異体などの突然変異体も含まれることがあるし、他の所望の配列を対象とするTrabid配列に付加してもよい。
【0065】
欠失突然変異体並びに/又は置換及び/若しくは付加突然変異体、又はその組み合わせなどのTrabid変異体が、対象とする関連する生物学的機能を保持することが重要である。例えば、ユビキチンに結合するTrabidを研究又はアッセイする場合に、ジンクフィンガーモチーフが存在することが重要である。同様に、Trabidのデユビキチラーゼ活性を研究する場合に、触媒性トリアドが保存されていることが重要である。明らかに、機能を別々に研究する場合に、Trabid分子のうち別々の機能を提供する部分を分離することが許容されよう。例えば、TrabidのN末端ドメインはユビキチンの結合に関与するが、C末端ドメインはデユビキチラーゼ活性に関与する。当然、Trabid分子はその生物学的設定で全体として機能するため、好ましくは、全体の(完全長)Trabidが本明細書に記載される方法及び技法に使用される。TrabidポリペプチドがTrabid断片としてみなされるためにはその機能を保持することが重要であるが、その機能が突然変異により故意に破壊又は損傷されうる本発明の実施形態があることにも留意しなければならない。このようなTrabid突然変異体の一例はC443S Trabidである。C443は触媒性トリアドの一つである。したがって、C443S突然変異体は、本発明に有用な、触媒不活性のTrabidである。したがって一態様では、本発明は、Trabid又はその断片に関し、前記Trabid又は断片は、C443突然変異、好ましくはC443S突然変異を含む。
【0066】
Trabidの断片も、本発明に適用を見出すことがある。好ましくは、断片は、ヒト野生型Trabidについての連続した少なくとも10アミノ酸長、好ましくは連続した少なくとも20アミノ酸長、好ましくは連続した少なくとも30アミノ酸長、好ましくは連続した少なくとも50アミノ酸長、好ましくは連続した少なくとも100アミノ酸長、好ましくは連続した少なくとも150アミノ酸長、好ましくは連続した少なくとも200アミノ酸長、好ましくは連続した少なくとも250アミノ酸長、好ましくは連続した少なくとも300アミノ酸長、好ましくは連続した少なくとも350アミノ酸長、好ましくは連続した少なくとも400アミノ酸長、好ましくは連続した少なくとも450アミノ酸長、好ましくは連続した少なくとも500アミノ酸長、好ましくは連続した少なくとも550アミノ酸長、好ましくは連続した少なくとも600アミノ酸長、好ましくは連続した少なくとも650アミノ酸長、好ましくは連続した少なくとも700アミノ酸長、好ましくは連続した少なくとも707アミノ酸長、最も好ましくは完全長である。
【0067】
本発明の好ましいTrabidは、アミノ酸355〜708を含むTrabid断片である。これは、Trabidデユビキチラーゼ活性の評定に特定の適用を見出す。本発明の好ましいTrabidは、アミノ酸1〜354を含むTrabid断片である。これは、ユビキチンの結合の評定に特定の適用を見出す。
【0068】
Trabidポリペプチドとみなされるために、対象とするポリペプチドは、上に論じたヒトTrabidのホモログでなければならない。これに関して、好ましくはそのTrabidはヒトTrabidと配列同一性を示し、好ましくはそのTrabid(又はその断片)はヒトTrabidと少なくとも30%の同一性、好ましくはヒトTrabidと少なくとも40%の同一性、好ましくはヒトTrabidと少なくとも45%の同一性、好ましくはヒトTrabidと少なくとも50%の同一性、好ましくはヒトTrabidと少なくとも55%の同一性、好ましくはヒトTrabidと少なくとも60%の同一性、好ましくはヒトTrabidと少なくとも65%の同一性、好ましくはヒトTrabidと少なくとも70%の同一性、好ましくはヒトTrabidと少なくとも75%の同一性、好ましくはヒトTrabidと少なくとも80%の同一性、好ましくはヒトTrabidと少なくとも85%の同一性、好ましくはヒトTrabidと少なくとも90%の同一性、好ましくはヒトTrabidと少なくとも95%の同一性、好ましくはヒトTrabidと少なくとも98%の同一性、好ましくはヒトTrabidと少なくとも99%の、又はさらにそれを超える同一性を表す。遺伝コードの縮重を考慮した変動も考慮しなければならない場合に、Trabidをコードするヌクレオチド配列に同じことが適用される。同一性は、好ましくは対象とするTrabid(又はその断片)の長さに沿って判定される。
【0069】
Trabidのデユビキチラーゼ活性を研究又はアッセイする場合に、Trabidのデユビキチラーゼ触媒ドメインを含むTrabidポリペプチドを使用することが重要である。この触媒ドメインは、Trabidの卵巣腫瘍ドメイン(OTUドメイン)に関連する。この触媒ドメインは、好ましくはTrabidのC末端であり、好ましくはマウス又はヒトTrabidのアミノ酸355〜708である。好ましくはhTrabCT355−708 Trabidポリペプチドが使用される。
【0070】
好ましくは、Trabidは組換え又は精製Trabidである。好ましくは、Trabidは組換えTrabidである。
【0071】
Trabidは、好ましくは組換え手段により調整される。典型的には、対象とするTrabidポリペプチドは、大腸菌(E. coli)のプラスミド上で運ばれる適切なヌクレオチド配列から発現され、結果として生じるポリペプチドは、当業者に公知の標準的な手順を使用してそれから精製される。
【0072】
「Trabid活性の調節」は、当技術分野においてその通常の意味を有し、すなわちTrabid活性を上下させることによりTrabid活性を操作することである。これは、例えば阻害剤、ドミナントネガティブTrabid構築物、又は他の適切な手段を使用して、Trabid自体の活性を操作することにより達成することができるし、例えばその発現を(例えば転写又は翻訳レベルで)上下させること、その分解を上下させること、隔離、又はTrabidを除去若しくは喪失させる他の手段により、Trabidのレベルを操作することにより達成することができる。好ましくは、調節は阻害を意味する。好ましくは、Trabid活性の阻害は、阻害剤若しくはドミナントネガティブTrabidを使用して、又はTrabidのレベルを低減することにより達成される。好ましくは、Trabid活性の阻害又は低減は、Trabidの発現を低減する、Trabidに対するsiRNAを使用して、又はシグナル伝達活性などのTrabid活性を低減するドミナントネガティブTrabidを使用して達成される。
【0073】
本発明は、Trabid阻害剤、及びTrabidとの対抗若しくはTrabidに反対する効果発揮へのその阻害剤の使用にも関することに留意することが重要である。例えば、Trabidは、TCF/LEFの転写を誘導又は持続又は増加させるために使用することができるため、Trabid阻害剤は、TCF/LEFの転写を除去、阻害、又は低減するために使用することができ、Trabidは、タンパク質の脱ユビキチン化に使用することができるため、Trabid阻害剤は、タンパク質上のユビキチンの脱ユビキチン化阻害又は維持に使用することができ、同じことが本明細書に開示されるTrabidの他の適用に、及びTrabid阻害剤を使用して好都合にもたらすことのできる反対の効果にあてはまる。
【0074】
Trabid阻害剤は、Trabidの機能の阻害剤を意味する。これは、好都合にはTrabid分子とは別の分子、例えばTrabidに結合して阻害をもたらす分子でありうる。或いは、Trabid阻害剤は、Trabidのレベルを低減する実体、例えばTrabidの発現を低減するsiRNAでありうる。或いは、Trabid阻害剤は、本明細書に開示される触媒不活性のC443S Trabid又は阻害性Trabid断片などのドミナントネガティブTrabidでありうる。ドミナントネガティブTrabidは、Trabidのaa1〜350などのTrabidのN末端のこともあるし、Trabid351〜708などのTrabidのC末端のこともあるし、Trabid C443突然変異体(例えばTrabid C443S)又はその断片などの触媒不活性のTrabid突然変異体のこともある。好ましくはドミナントネガティブTrabidは、触媒不活性のTrabid又はその断片、好ましくはTrabid351〜708 C443Sを含む。
【0075】
好ましくは、Trabid阻害剤は、Trabidに対するsiRNA又はTrabid C443SなどのドミナントネガティブTrabidである。
【0076】
ユビキチン
多数の細胞シグナル伝達過程は、ユビキチンの付加又は除去によるタンパク質の翻訳後修飾により触媒又は制御される。ユビキチンは、76アミノ酸残基の保存されたタンパク質である。この基本ユビキチンユニットは、ポリユビキチン鎖に重合することがある。これらの鎖の中の個別のユビキチンブロックは、一つのユビキチンの特異的リシン残基と次のユビキチンの残基G76のカルボキシル基とを架橋するイソペプチド結合により接続される。このイソペプチド結合には少なくとも2つの様式、すなわちK48及びK63型がある。K48結合から構築されたポリユビキチン鎖は、これが結合しているタンパク質のプロテアソーム分解をシグナル伝達する傾向にある。K63結合を介して構築された鎖は、典型的にはタンパク質分解しない結末をシグナル伝達する。さらに、この鎖の化学構造及び長さもシグナル伝達事象に影響することがある。好ましくは、本発明のポリユビキチン鎖はK63鎖である。
【0077】
ユビキチンのインビトロ化学的性質は、当技術分野において十分に特徴づけられている。例えば、Pickart and Raasi(2005 Methods in Enzymology Volume 399 pages 21-36)は、かなり詳細にポリユビキチン鎖の制御合成について記載している。
【0078】
ユビキチン基は、脱ユビキチン化酵素(デユビキチラーゼ、脱ユビキチン化酵素、又は「DUB」)により除去される。脱ユビキチン化酵素の作用を研究するために、脱ユビキチン化作用後に視覚化可能な産物を生じる基質を含有するユビキチンが使用される。これらの酵素に高感度な基質として有用ないくつかの蛍光ユビキチン誘導体が、Tirat et al(2005 Analytical Biochemistry Volume 343 pages 244-255)に開示されている。
【0079】
脱ユビキチン化酵素のファミリーには、いくつかのサブグループがある。otubainは、卵巣腫瘍(OTU)スーパーファミリーのタンパク質に属する最近同定されたファミリーの脱ユビキチン化酵素である。Nanao et al (2004 EMBO Volume 5 page 783-788)は、ヒトotubainの結晶構造を開示している。活性部位が記載され、otubain−ユビキチンの結合モデルが提案されている。otubainファミリーの脱ユビキチン化酵素の概要は、Balakirev et al(2003 EMBO Volume 4 pages 517-522)に見いだすことができる。これらのプロテアーゼにより使用される(正確にユビキチン−ポリペプチドの接合部での)切断部位の詳細が発表され、このファミリーに属する新しいペプチダーゼが記載されている。抗ユビキチン抗体などの様々な試薬他が、これらの刊行物に記載されている。
【0080】
K63結合のユビキチン
本発明者らは、K63結合のユビキチン鎖に対するTrabidの結合特異性を観察した。さらに、この結合特異性はTrabidのZnフィンガーにより仲介される。言い換えると、本発明者らは、Trabidがそのジンクフィンガーを介してK63結合のユビキチンに対する結合特異性を有することを開示する。K63の選択性は著しい。これは、本発明のさらなる使用及び適用を可能にする。
【0081】
したがって、本発明は、K63結合のユビキチン鎖にタンパク質などの部分をターゲティングするための試薬としての、1つ若しくは複数のTrabid Znクフィンガー、又はそれ由来のZnフィンガー配列を含むポリペプチドに、及びその使用に関する。特に、本発明はNFkB経路に適用を見出し、この経路には、この種の機能的に関連する事象の確固とした例がある。
【0082】
本発明の有用性/工業的適用の例証として、TrabidのDUB及び/又はUb結合活性、特にK63結合のユビキチン結合活性が、SW480結腸直腸癌細胞又はWntを刺激された細胞においてTrabidが機能するために必要とされることに留意すべきである(実施例及び図10D参照、図19も参照)。
【0083】
したがって、本発明は、
(i)Trabidのアミノ酸4〜32、Trabidのアミノ酸84〜112、及びTrabidのアミノ酸149〜177からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列、又は
(ii)(i)の完全長アミノ酸配列と少なくとも25%の同一性を有する少なくとも1つのアミノ酸配列であって、(i)の前記アミノ酸配列の構造的ジンクフィンガーコア残基が保持されている配列
を含むポリペプチドであって、前記ポリペプチドは、少なくとも2つのジンクフィンガードメインを含み、前記ポリペプチドが完全長野生型Trabidを含む場合、前記ポリペプチドがそれに加えて少なくとも1つのさらなるアミノ酸を含むポリペプチドを提供する。
【0084】
別の態様では、本発明は、(ii)の少なくとも1つのアミノ酸配列が、(i)の完全長アミノ酸配列と少なくとも33%の同一性を有し、(i)の前記アミノ酸配列の構造的ジンクフィンガーコア残基が保持され、疎水性界面におけるユビキチン結合残基が保持される、上に論じるポリペプチドを提供する。
【0085】
別の態様では、本発明は、K63結合のユビキチンに結合する、上に論じるポリペプチドを提供する。
【0086】
別の態様では、本発明は、
(i)対象とするアミノ酸配列、及び
(ii)上に論じるポリペプチド
を含むポリペプチドを提供する。
【0087】
別の態様では、本発明は、
(i)所望のアミノ酸配列、及び
(ii)K63結合のユビキチンに結合するTrabidポリペプチド
を含むポリペプチドであって、(ii)の前記Trabidポリペプチドが、少なくとも2つのジンクフィンガードメインを含み、前記ジンクフィンガードメインが、Trabidの少なくとも1つのNZFジンクフィンガー由来の少なくとも1つのジンクフィンガーシグネチャー配列を含むポリペプチドを提供する。別の態様では、本発明は、そのように定義されたTrabidポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む核酸を提供する。
【0088】
別の態様では、本発明は、K63結合のユビキチンへの対象とする部分のターゲティングにおける、上に論じるポリペプチドの使用又は上に論じるTrabidポリペプチドの使用を提供する。
【0089】
適切には、所望の前記部分はプロテアーゼである。
【0090】
適切には、所望の前記部分はラベルである。
【0091】
別の態様では、本発明は、上に論じるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む核酸を提供する。
【0092】
好ましいK63結合のユビキチン選択的Trabidポリペプチドは、Trabid、好ましくはヒトTrabidのアミノ酸xからyまでを含み、xは1〜4から選択され、yは177〜354から選択され、適切にはxは1又は4であり、yは177、350、又は354である。
【0093】
K63結合のユビキチンに特異的に結合する適切なK63結合のユビキチン選択的Trabidポリペプチドは、Trabid NT(TrabidのN末端)1〜354である。
【0094】
K63結合のユビキチンに選択的な、適切な短鎖のTrabidポリペプチドは、3つのNZFフィンガーすべてにわたる領域、すなわちTrabid4〜177を含む。
【0095】
TrabidのZnフィンガー
Trabidの個別のZnフィンガーはNZF型ジンクフィンガーである。
【0096】
これらのZnフィンガーのそれぞれは、中程度の親和性(100〜400μMのKd、Alam et al 2004(Embo J. vol 23, pp1411-1421、参照により本明細書に組み込まれている)を参照)でモノユビキチンに結合することができるが、それは、Npl4のNZF−ユビキチン複合体の構造に基づきAlam et al 2004(同書)により決定されたユビキチン結合NZFのシグネチャーにそれぞれが等しく十分に適合するからである。したがって、Trabidの個別のNZFは、一部の適用について同等であり、すなわち相互交換可能でさえあると思われる。
【0097】
しかし、Npl4のNZFが個別のユビキチンモノマーのよく認識される「I44」表面に結合することから、個別のNZFが、それだけでは(すなわち単一のZnフィンガーのみを含むポリペプチドとして)K63結合鎖に特異性を表さないおそれがあることに留意しなければならない。したがって、好ましくは本発明によるK63選択的Trabidポリペプチドは、TrabidのNZFなどの少なくとも2つのZnFを含む。
【0098】
「TrabidのNZF」は、TrabidのZnフィンガーの配列に対応するか、又はそれに由来するアミノ酸配列である。このアミノ酸配列がTrabid Znフィンガーの配列に「由来する」場合に、これは、少なくとも1つのTrabid Znフィンガー配列にある程度のアミノ酸配列同一性を有し、かつAlam et al 2004(同書)により決定されたユビキチン結合性NZFのコアシグネチャーを有することを意味する。配列同一性の程度は、上に論じる通りであり、好ましくは、コアNZFシグネチャー配列を含めた配列に関係する。これらの実施形態では、好ましくは配列同一性は、TrabidのNZFに対応する完全配列の全域、典型的には28アミノ酸のZnFドメイン自体の全域で判定される。
【0099】
Trabid上の3つの個別のZnフィンガー(NZF)の位置は、NZF1が4〜32、NZF2が84〜112、NZF3が149〜177である。
【0100】
Znフィンガーは、単一のポリペプチド上で組み合わせることができる。任意の2つのNZFの組み合わせ(重複、例えば2つの同一フィンガーの繰り返しを含む)は、単一のNZFよりも高い親和性でユビキチンに結合することができ、特異性を示すことがある。適切には、2つのフィンガーを使用する場合に、それらはTrabidアミノ酸4〜112又は84〜177により含まれるフィンガーである。Trabidの全部で3つのNZFの組み合わせは、ユビキチンにさらに高い親和性で結合し、K63ユビキチンに高い特異性を示す見込みがある。3つを超えるZnFなどのより多数のZnFは、K63ユビキチンに対する高い結合及び/又は高い特異性を提供することがある。好ましくは、3つのNZFが複数で使用される(例えばTrabidアミノ酸4〜177の重複)。
【0101】
本発明による単一のポリペプチド上での個別のNZFの出現順序は、結合/特異性に有意に影響する見込みがない。熟練の技術者は、そのような順序を容易に最適化することができる。好ましくは、天然の順序が保持される。
【0102】
スペーシング
スペーサー配列(すなわち個別のZnFの間に出現する配列)は、直接的に結合/特異性の一因となる見込みがない。好ましくは、天然のTrabidのスペーシング及び/又はスペーサー配列が使用される。
【0103】
NZF1〜NZF2のスペーシングは51アミノ酸であり、NZF2〜NZF3のスペーシングは36アミノ酸であり、NZF1〜NZF3のスペーシングは116アミノ酸である。
【0104】
正確なスペーシングは変更できてもよく、操作者がこれを選択してもよい。例えば、スペーシングは、異なる種において異なるTrabidオルソログの間で21〜85アミノ酸(NZF1〜NZF2)又は26〜113アミノ酸(NZF2〜NZF3)の間で変動する。これにもかかわらず、各Trabidオルソログは、21〜53アミノ酸という少なくとも1つの短い間隔を(典型的にはNZF1とNZF2との間に)有すると思われるため、ZnF間で21〜53アミノ酸という短い間隔が少なくとも1つあることが好ましい。好ましくは、スペーシングのアミノ酸配列は、個別のZnFの間で21〜113アミノ酸長である。
【0105】
NZFの推定上の構造コア残基(Npl4の構造に基づく、Wang et al 2003, JBC vol 278, pp20225-20234、参照により本明細書に組み込まれている)は、
W7、C10、C13、N17、C24、C27(NZF1)
W88、C90、C93、N97、C104、C107(NZF2)
W153、C155、C158、N162、C169、C172(NZF3)
を含む。これらの任意のものにおける(例えばアラニンへの)点突然変異は、コア構造を破壊することがあり、ユビキチンの結合及び/又はK63の特異性を低減又は除去することがある。したがって、好ましくは本発明のポリペプチドは、対応するZnF配列にこれらの残基のそれぞれを保持する。
【0106】
疎水性界面における推定上のユビキチン結合残基(Npl4 NZF−ユビキチン複合体に基づく、Alam et al, 2004)は、
(C13)T14、Y15、M26(C27)(NZF1)
(C93)T94、Y95、Q106(C107)(NZF2)
(C158)T159、Y160、V171(C172)(NZF3)
を含む。ユビキチン結合シグネチャーは、ジンクに配位したC2及びC4に隣接する上記位置における「T、Y/F、脂肪族」であり、hTrabidではこれらの(第2及び第4のジンク配位性Cに隣接する)位置における残基はT、Y、M(ZnF1)、T、Y、Q(ZnF2)、及びT、Y、V(ZnF3)である。これらのうち任意のものにおける点突然変異(例えばT L、Y V)は、ユビキチンの結合(及び/又はK63の特異性)を低減又は除去しうるが、その構造を破壊する見込みはない。したがって、好ましくは本発明のポリペプチドは、対応するZnF配列にユビキチン結合シグネチャーを保持し、好ましくは本発明のポリペプチドは、対応するZnF配列にこれらの残基のそれぞれを保持する。
【0107】
所望の部分
タグ及び/又は標的配列などの所望の部分は、任意の適切な方法で本発明のポリペプチドに結合されることがある。適切には、それらは、本発明のポリペプチドに所望の要素を組み込んだポリペプチド(いわゆる「融合タンパク質」)の組換え産生により結合されることがある。この実施形態では、適切には、結合はC末端又はN末端に対し、好ましくはC末端に対する。
【0108】
K63選択性又はK63特異性
K63特異性についてのアッセイを、実施例の項に提示する(特に図9Aを参照し、その図における方法の項に説明)。
【0109】
K63結合のユビキチン鎖に関するKdは、モノユビキチンに関する親和性(これは、モノユビキチンに関して約100〜400μMと予想される、上記参照)よりも高いと予想される。
【0110】
K48結合に比べてK63結合のユビキチン鎖に関する優先性は、10〜100×と推定される。
【0111】
さらなる適用
K63結合の試薬は、医学的使用及び/又は工業的使用においてK63結合のユビキチンに部分をターゲティングするために有用である。
【0112】
例えば、本発明は、K63ユビキチン鎖の細胞ホメオスタシスにおける変化を強制することに適用を見出す。K63鎖依存性細胞生理に影響を及ぼすために、K63結合特異性を採用して、K63ユビキチン鎖の近傍にエフェクター実体をターゲティングすることができる。エフェクター実体は、例えばユビキチン鎖及び/若しくは基質タンパク質を切断若しくは分解するためのプロテアーゼドメイン、ユビキチン鎖及び/若しくは基質タンパク質を分解するためのE3ユビキチンリガーゼ、又はK63ユビキチン鎖にターゲティングするために望ましい任意の他の部分を含むことがある。
【0113】
タグ化/ラベル化の実施形態について、本発明は、例えば以下の研究における遊離形態の、又は基質タンパク質に結合したK63ユビキチン鎖の検出に適用することができる。
− K63ユビキチン鎖(及び/又は基質タンパク質)の細胞内検出
− K63ユビキチン鎖(及び/又は基質タンパク質)の生化学的濃縮。
【0114】
タグ/ラベルは、エピトープマーカー若しくはフルオル(fluor)若しくは酵素活性若しくは同位体、又は例えば化学ラベル(例えば、標準的な化学カップリングを用いたラベルの共有結合)、遺伝子ラベル(例えば、融合タンパク質又はタンパク質スプライス産物)を含む任意の他の適切な検出可能部分などの、当技術分野において公知の任意の適切なタグ又はラベルでありうる。
【0115】
さらなる機能的部分には、親和性ハンドル(affinity handle)(例えば単一又は複数の抗体タグ、タンデムタグなどのタンパク質親和性タグ、ストレプトアビジンタグ)、蛍光タグ(例えばFIAsHタグ、FITC又はPEなどの標準的な蛍光ラベル、量子ドット、GFP又は他の蛍光タンパク質)、酵素タグ(例えばHRP)、K63鎖関連タンパク質をターゲティングすることにより細胞生理を変化させるタグ(例えばK63ユビキチン鎖の基質タンパク質を分解する可能性を有するプロテアーゼ又はE3ユビキチンリガーゼ)などのタグ又はラベルが挙げられる。
【0116】
TrabidのK63結合領域の突然変異を作製することができる。このような突然変異には、1つ若しくは複数のZnフィンガーの突然変異、又はC155A突然変異体、又はK63結合活性に影響する他の突然変異が挙げられる。
【0117】
Wnt/APC
用語「Wnt経路活性」及び「TCF転写活性」は、本明細書において相互交換可能に使用される。
【0118】
本発明が基づく研究は、強いショウジョウバエAPC突然変異に関係し、この突然変異は、そのWntシグナル伝達及び接着機能の両方を妨害する。このミスセンス突然変異は、従来技術ではAPCにおける機能があまり理解されていない推定上のタンパク質相互作用ドメインである、APCの最も保存されたドメイン(アルマジロリピートドメイン(ARD)と呼ばれる)に影響を及ぼす。本発明者らは、生物学的機能が以前に知られていなかった保存されたタンパク質(Trabid)を同定した。本発明者らは、このタンパク質が突然変異ARDではなく野生型ARDに結合することを開示した。Trabidは、脱ユビキチン化活性を有する核−細胞質タンパク質である。本発明者らの証拠は、Trabidが結腸直腸癌細胞におけるWntシグナル伝達活性の一因であることを示している。
【0119】
本発明者らは、哺乳動物細胞及びショウジョウバエにおけるTrabidの機能を開示し、それがAPCの調節因子又はエフェクターとして作用するかどうかを検討する。Wntシグナル伝達及び/又は細胞接着に果たすTrabidの役割を調べることができ、並びに本発明により結腸直腸癌細胞においてそれらの機能的関連性が試験される。これは、好都合にはAPCの分子機能及び結腸直腸癌とのそれらの関連性の理解を高め、このよくみられる疾患の診断、治療、及び/又は予防のための新しい達成方法を提供する。
【0120】
したがって本発明は、結腸直腸癌細胞を含む様々なヒト細胞系においてRNA干渉によるTrabid枯渇の結果としてのユビキチン化された候補タンパク質の出現を調べることによって、Wntシグナル伝達経路の中のTrabidの分子標的を同定することに関する。
【0121】
別の態様では、本発明は、Wnt標的遺伝子の発現及び結腸直腸癌細胞の増殖へのTrabidの必要性を試験するための機能喪失アプローチの使用、並びにショウジョウバエ及びアフリカツメガエル(Xenopus)を含む様々なモデル系を開発するときにそれがWntシグナル伝達に果たす役割の調査に関する。
【0122】
本発明は、好都合にはWnt標的遺伝子、特に図10B、Cに示される遺伝子に適用される。
【0123】
アッセイ
本発明によるアッセイは、本明細書の特に実施例及び添付の図面に記載される
【0124】
本発明のアッセイの変形は、例えばβ−カテニンとBCL9との間の結合についてのプレートベースアッセイの開発を参照して容易に作ることができる(図1参照)。
【0125】
好ましくは本発明のアッセイは、Trabidの阻害剤を同定するためのアッセイである。
【0126】
医薬組成物
本発明は、治療有効量のTrabid又は本発明のTrabid阻害剤、及び薬学的に許容される担体、希釈剤、又は賦形剤(その組み合わせを含む)を含む医薬組成物も提供する。
【0127】
医薬組成物は、ヒト医学及び獣医学においてヒト又は動物に使用するためであってもよく、典型的には任意の1つ又は複数の薬学的に許容される希釈剤、担体、又は賦形剤を含むものである。治療に使用するための許容される担体又は希釈剤は、薬学の技術分野において十分に公知であり、例えばRemington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Co.(A. R. Gennaro edit. 1985)に記載されている。薬学的担体、賦形剤、又は希釈剤の選択は、意図される投与経路及び標準的な薬学的常法を考慮して選択することができる。医薬組成物は、担体、賦形剤、若しくは希釈剤として、又はそれに加えて、任意の適切な結合剤、滑沢剤、懸濁化剤、コーティング剤、可溶化剤を含むことがある。
【0128】
保存料、安定化剤、色素、及び着香料でさえも、医薬組成物に提供することができる。保存料の例には、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸、及びp−ヒドロキシ安息香酸エステルが挙げられる。抗酸化剤及び懸濁化剤も使用することができる。
【0129】
異なる送達系に応じて、異なる組成物/製剤の必要条件がありうる。例として、本発明の医薬組成物は、ミニポンプを使用して、又は粘膜経路により、例えば点鼻スプレー若しくは吸入用エーロゾルとして、又は経口摂取可能な液剤として、又は非経口的(例えば静脈内、筋肉内、若しくは皮下経路により送達するための注射用剤形に組成物が製剤される)に投与するために製剤することができる。あるいは、この製剤をいくつかの経路により投与するように設計することができる。
【0130】
薬剤を消化管粘膜を介して粘膜投与しようとする場合に、この製剤は、消化管を通過するときに安定を維持することができるべきであり、例えば、この製剤は、タンパク質分解に抵抗性で、酸性pHで安定で、かつ胆汁の界面活性効果に抵抗性であるべきである。
【0131】
適切な場合には、医薬組成物は、吸入により、坐剤又はペッサリーの形態で、ローション、液剤、クリーム剤、軟膏、若しくは散布剤の形態で局所的に、皮膚用パッチの使用により、デンプン若しくはラクトースなどの賦形剤を含有する錠剤又は単独若しくは賦形剤と混合したカプセル剤若しくは卵形剤(ovule)の形態で、或いは着香料若しくは着色料を含有するエリキシル剤、液剤、若しくは懸濁剤の形態で投与することができるし、それらは、例えば静脈内、筋肉内、又は皮下に非経口的に注射することができる。非経口投与のために、この組成物は、他の物質、例えば溶液を血液と等張にするために十分な塩又は単糖を含有しうる滅菌水溶液の形態で最良に使用することができる。口腔又は舌下投与のために、この組成物は従来方法で製剤することができる錠剤又はトローチ剤の形態で投与することができる。
【0132】
いくつかの実施形態について、本発明のTrabid又はTrabid阻害剤は、シグロデキストリンと組み合わせても使用することができる。シクロデキストリンは、薬物分子と包接複合体及び非包接複合体を形成することが知られている。薬物−シクロデキストリン複合体の形成は、薬物分子の溶解度、解離速度、バイオアベイラビリティー、及び/又は安定性という性質を改変することがある。薬物−シクロデキストリン複合体は、全般的に大部分の剤形及び投与経路に有用である。薬物との直接的複合体形成の代替として、シクロデキストリンは、補助添加剤、例えば担体、希釈剤、又は可溶化剤として使用することができる。α−、β−、及びγ−シクロデキストリンは通常使用され、適切な例は、国際公開第91/11172号パンフレット、第94/02518号パンフレット、及び第98/55148号パンフレットに記載されている。
【0133】
Trabidを使用する場合又はTrabid阻害剤がタンパク質を含む場合には、前記タンパク質は、治療される対象のインサイチュ(in situ)調整することができる。これに関して、前記タンパク質をコードするヌクレオチド配列は、前記タンパク質が前記ヌクレオチド配列から発現される非ウイルス技法(例えばリポソームの使用により)及び/又はウイルス技法の使用により(例えばレトロウイルスベクターの使用により)送達することができる。
【0134】
好ましい実施形態では、本発明の医薬は、局所投与される。したがって、好ましくはこの医薬は局所送達に適する形態である。
【0135】
投与
用語「投与される」には、ウイルス技法又は非ウイルス技法による送達が含まれる。ウイルス送達メカニズムには、非限定的に、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV,adeno-associated viral)ベクター、ヘルペスウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、及びバキュロウイルスベクターが挙げられる。非ウイルス送達メカニズムには、脂質介在性トランスフェクション、リポソーム、イムノリポソーム、リポフェクチン、カチオン表面両親媒性物質(CFA,cationic facial amphiphile)、及びその組み合わせが含まれる。
【0136】
本発明の構成要素は、単独で投与できるが、例えば構成要素が、意図される投与経路及び標準的な薬学的常法を考慮して選択される適切な薬学的賦形剤、希釈剤、又は担体と混合されている場合に、広くは医薬組成物として投与される。
【0137】
例えば、構成要素は、錠剤、カプセル剤、卵形剤、エリキシル剤、液剤、又は懸濁剤の形態で(例えば経口又は局所的に)投与することができ、この形態は、即時、遅延、改変、持続、パルス、又は制御放出への適用のために着香料又は着色料を含有することがある。
【0138】
医薬が錠剤ならば、この錠剤は微結晶セルロース、ラクトース、クエン酸ナトリウム、炭酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、及びグリシンなどの賦形剤、デンプン(好ましくはトウモロコシデンプン、バレイショデンプン、又はタピオカデンプン)、デンプングリコール酸ナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、及びある種の複合ケイ酸塩などの崩壊剤、並びにポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC,hydroxypropylmethylcellulose)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC,hydroxypropylcellulose)、スクロース、ゼラチン、及びアラビアゴムなどの造粒結合剤を含有することがある。追加的に、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、ベヘン酸グリセリル、及びタルクなどの滑沢剤f含まれることがある。
【0139】
類似の種類の固体組成物は、ゼラチンカプセル中の増量剤としても採用することができる。これに関連する好ましい賦形剤には、ラクトース、デンプン、セルロース、乳糖、又は高分子量ポリエチレングリコールが挙げられる。水性懸濁剤及び/又はエリキシル剤については、この薬剤は、様々な甘味料、着香料、着色料又は色素と、乳化剤及び/又は懸濁化剤と、並びに水、エタノール、プロピレングリコール、及びグリセリン、並びにその組み合わせなどの希釈剤と組み合わせることができる。
【0140】
投与(送達)経路には、非限定的に以下のうち1つ又は複数が挙げられる。経口(例えば錠剤、カプセル剤、又は経口摂取可能な液剤として)、局所、粘膜(例えば点鼻スプレー又は吸入用エーロゾルとして)、経鼻、非経口(例えば注射用剤形により)、消化管、脊髄内、腹腔内、筋肉内、静脈内、子宮内、眼内、皮内、頭蓋内、気管内、膣内、脳室内、脳内、皮下、眼(硝子体内又は前房内を含む)、経皮、直腸、口腔、膣、硬膜外、舌下。
【0141】
好ましい態様では、医薬組成物は局所送達される。
【0142】
医薬の全構成要素を必ずしも同経路で投与する必要はないことを了解されたい。同様に、組成物が1つを超える活性構成要素を含む場合、それらの構成要素を異なる経路で投与してもよい。
【0143】
本発明の構成要素が非経口投与される場合、そのような投与の例には、構成要素を静脈内、動脈内、腹腔内、髄腔内、心室内、尿道内、胸骨内、頭蓋内、筋肉内、若しくは皮下投与すること、及び/又は点滴技法を使用することによるもののうち一つ又は複数が挙げられる。
【0144】
非経口投与のために、この構成要素は、滅菌水性液剤の形態で最良に使用され、これは、他の物質、例えばその液剤を血液と等張にするために十分な塩類又はグルコースを含有しうる。この水性液剤は、必要に応じて適切に(好ましくは3〜9のpHに)緩衝化すべきである。滅菌条件での適切な非経口製剤の調製は、当業者に十分に公知の標準的な薬学的技法により容易に達成される。
【0145】
表示したように、本発明の構成要素は、鼻腔内に、又は吸入により投与することができ、乾燥粉末インヘラーの形態で、又は加圧した容器、ポンプ、スプレー若しくはネブライザーからのエーロゾルスプレー提示の形態で好都合に送達され、このとき、適切な噴射剤、例えばジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、ヒドロフルオロアルカン(1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HFA 134A(商標))又は1,1,1,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロパン(HFA 227EA(商標))など)、二酸化炭素、又は他の適切な気体を用いる。加圧エーロゾルの場合に、投薬単位は、定量を送達するバルブを備えることにより決定することができる。加圧容器、ポンプ、スプレー、又はネブライザーは、例えばエタノールと噴射剤との混合物を溶媒として使用した、活性化合物の溶液又は懸濁液を中に含むことがあり、その溶媒は、追加的に滑沢剤、例えばトリオレイン酸ソルビタンを含有することがある。インヘラー又は吹入器に使用するためのカプセル及びカートリッジ(例えばゼラチン製)は、薬剤の粉末混合物と、ラクトース又はデンプンなどの適切な粉末基剤とを中に含むように製剤することができる。
【0146】
好ましくは、本発明の構成要素は、坐剤又はペッサリーの形態で投与することもできるし、ゲル、ヒドロゲル、ローション剤、液剤、クリーム剤、軟膏、又は散布剤の形態で局所適用することもできる。本発明の構成要素は、例えば皮膚パッチの使用により皮膚投与又は経皮投与することもできる。これらは、肺経路又は直腸経路によっても投与することができる。これらは、眼経路によっても投与することができる。眼科使用のために、この化合物は、等張で、pHを調整した滅菌食塩水中の微粒子化懸濁剤として、又は好ましくは等張で、pHを調整した滅菌食塩水中の液剤として、所望により塩化ベンジルアルコニウム(benzylalkonium chloride)などの保存料と組み合わせて製剤することができる。あるいは、これらは、ワセリンなどの軟膏に入れて製剤することができる。
【0147】
皮膚に局所適用するために、本発明の構成要素は、例えば以下、すなわち鉱物油、流動ワセリン、白色ワセリン、プロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン化合物、乳化ろう、及び水のうち1つ又は複数との混合物中に懸濁又は溶解した活性化合物を含有する適切な軟膏として製剤することができる。あるいは、これは、例えば以下、すなわち鉱物油、モノステアリン酸ソルビタン、ポリエチレングリコール、流動パラフィン、ポリソルベート60、セチルエステルワックス、セテアリルアルコール、2−オクチルドデカノール、ベンジルアルコール、及び水のうち1つ又は複数の混合物に懸濁又は溶解した適切なローション剤又はクリーム剤として製剤することができる。
【0148】
医薬配合剤
本発明のTrabid又はTrabid阻害剤は、1つ又は複数の他の医薬活性物質と共に投与することができる。例として、本発明は、本発明による薬剤と、1つ又は複数のステロイド、鎮痛薬、抗ウイルス剤、又は他の医薬活性物質とを用いた同時又は連続治療を包含する。
【0149】
これらの治療様式には、物質を連続して、同時に、又は一緒に投与することが含まれることが了解されている。
【0150】
用量レベル
典型的には、医師は、個別の対象に最も適する実際の投薬を決定するものである。任意の特定の患者についての特異的用量レベル及び投薬回数は変動することがあり、採用した特定の化合物の活性、その化合物の代謝安定性及び作用時間、年齢、体重、全身の健康状態、性別、食事、投与様式及び投与時間、排泄速度、薬物の配合、特定の状態の重症度、並びに個別に受けている治療を含む様々な要因に依存するものである。
【0151】
必要性に応じて、この薬剤は、0.01〜30mg/kg体重、0.1〜10mg/kgなど、さらに好ましくは0.1〜1mg/kg体重などの用量で投与することができる。
【0152】
製剤
本発明の化合物は、当技術分野に公知の技法を使用して1つ又は複数の適切な担体、希釈剤、又は賦形剤と混合することなどによって医薬組成物に製剤することができる。
【0153】
治療
本明細書における治療についての全ての参照には、治癒的治療、緩和的治療、及び予防的治療のうち1つ又は複数が含まれることを認識されたい。好ましくは、治療という用語には、少なくとも治癒的治療及び/又は予防的治療が含まれる。治療は、本明細書に言及される1つ若しくは複数の障害又は関連する病訴の治療でありうる。
【0154】
さらなる適用
本発明は、Wntシグナル伝達経路の欠損に関連する癌に適用を見出す。
【0155】
本発明は、肝細胞癌(HCC,hepatocellular carcinoma)、ウィルムス腫よう(WT,Wilm's Tumour)、デスモイド、髄芽腫、及び未分化甲状腺癌などの甲状腺癌に適用を見出すことがある。
【0156】
本発明は、子宮内膜卵巣腫瘍、デニス−ドラッシュ症候群、黒色腫、及び前立腺癌に適用を見出すことがある。
【0157】
好ましくは、本発明は、TCF/LEF転写亢進に関連した任意の障害に適用を見出す。
【0158】
好ましくは、本発明は、β−カテニンの安定化及び/又は活性化に関連する任意の障害に用途を見出す。
【0159】
好ましくは、医学的適応は、Trabid阻害剤及び/又はTrabid活性の低減のための適応である。アッセイの実施形態の状況でのTrabid活性の低減は、典型的にはそのアッセイの他の構成要素、例えば阻害剤の候補により低減したTrabidポリペプチドの生化学活性を表す。しかし、細胞又は生物の操作の状況でのTrabidの活性低減は、加えてTrabidの発現低減、Trabidの分解増加、Trabidの除去若しくは隔離の増加、又はTrabidの存在若しくは量/濃度を低減することによりTrabid活性を低減する他の手段などの、Trabidレベルの低減に関係することがある。
【0160】
当技術分野において、Wnt経路におけるユビキチン化の唯一公知の役割は、タンパク質のターンオーバーに結びついたユビキチン化、特にβ−カテニンのユビキチン化であった。本明細書において、哺乳動物細胞のWnt応答が、K63結合のユビキチンを優先するユビキチン結合及び脱ユビキチン化酵素であるTrabidに依存しているという本発明者らの発見に基づき、本発明者らは、この経路におけるユビキチンの第2の別個の経路を報告する。本発明者らは、Trabidのこれらの活性がWntを刺激されたヒト細胞系における効率的なTCF依存的転写に必要とされることを示すために、RNAi介在性枯渇を使用した。さらに、ショウジョウバエtrabidをターゲティングした欠失は、異所性Winglessに対応したTrabidの役割を明らかにしたが、これは、TrabidがWnt経路の保存された正の調節因子であることを示唆している。最終的に、本発明者らは、哺乳動物細胞におけるNF−κBシグナル伝達並びにショウジョウバエにおけるEGF受容体及びNotchシグナル伝達を含む他のシグナル伝達経路も調べたが、これらにTrabid喪失の効果は見出されず、これは、Trabidがシグナル伝達に広範囲には影響しないことを示唆している。
【0161】
本発明者らは、Trabidが、インビトロ及びインビボでK63結合のユビキチンを切断することができる真のDUBであることを示す。この活性はそのOTUドメインにあり、このドメインは内因性DUB活性を有する。Trabidオルソログは、別の状況では不変なアスパラギン酸が保存的にアミノ酸置換されているため、Trabidオルソログのこの変異体OTUドメインが触媒活性であることは驚くべきである。本発明者らは、OTUドメインにCys443及びHis628を含む触媒性ダイアド(dyad)がTrabidのDUB活性に重要であることを開示する。
【0162】
TrabidのインビボDUB活性は、TrabidのN末端NZFモチーフにより付与される、K63結合のユビキチンへの結合性に追加的に依存することは興味深い。これらのモチーフは、K48結合に比べてK63結合のユビキチンへの結合に前例のない程度の優先性を表す。本発明者らは、これらのNZFモチーフが、TCF介在性転写に果たすTrabidの機能に必要であるが、そのインビトロ内因性DUB活性には必要ないため、これらのモチーフはインビボで補助的機能を有するおそれがあることを示す。TrabidのNZFモチーフは、結合したOTUドメインのDUB活性に関する基質として効率的にユビキチン化タンパク質に結合し、このタンパク質を動員するように働くことができる。
【0163】
Trabidは、TCF標的遺伝子のWnt介在性転写の正の調節因子である。Trabidは、Wntを刺激された細胞におけるTCF依存性転写に必要とされるが、β−カテニンの安定化には必要ない。これを支持するように、HCT−116結腸直腸癌細胞(β−カテニンの活性化突然変異を有する)のTCF介在性転写はTrabidに依存する。β−カテニンは、ユビキチン修飾されたWntエフェクターであることが唯一明確に確立されているが、明らかに、β−カテニンは、TrabidのDUB活性に関する直接的な標的ではない。これは、TrabidがK48結合よりもK63結合のユビキチンを優先することに完全に一致し、このことは、プロテアソーム分解にTrabidが直接機能することに異論を唱えるものである。
【0164】
本発明者らは、Trabidが、TAD(ウイルスタンパク質VP16由来のTAD又はβ−カテニンのC末端のいずれか)に直接融合したLEF1構築物の転写活性に不要であり、様々な転写補因子を動員することを示す。したがって、Trabidは、Wntシグナル伝達の際にTCF標的遺伝子でのTCF−β−カテニン複合体への共活性化因子の動員を制御する。
【0165】
Trabid枯渇細胞で観察されたβ−カテニン、TCF3、及びTCF4の核レベルの小さいが一貫した低減は、これらのタンパク質の核保持にTrabidが果たす役割を反映しているおそれがある。しかし、TCF4及びβ−カテニンを再発現させても、これらの細胞のTrabid要求性は克服されない。
【0166】
本発明者らは、Wnt経路活性がAPCの突然変異性不活性化又はβ−カテニンの活性化が原因で活性亢進している結腸直腸癌細胞における効率的なTCF介在性転写にもTrabidが必要とされることを示した。これは、活性化β−カテニンの下にTrabidの機能を置く本発明者らのエピスタシス分析と完全に一致する。興味深いことに、本発明者らは、過剰発現したTrabidがSW480細胞の核に蓄積したことを見出したが、これは、その核での存在の高まりと、転写に果たすその機能との間の結びつきを示唆している。
【0167】
本発明者らの結果は、結腸直腸癌細胞における阻害薬に関する分子標的としてTrabidを関係づけている。長所には、第1に、TrabidがWnt経路に作用するが、他のシグナル伝達経路及び転写に広い効果を及ぼさないことが挙げられる。第2に、TrabidのDUB活性は、TrabidがTCF介在性転写に果たす機能に重要であり、プロテアーゼは、特異的阻害剤についての魅力的な標的である。第3に、Trabidがシステインプロテアーゼに通常見出される触媒性Asp Cys Hisトリアドに保存されたD→A置換を有すると仮定すると、Trabidは独特の触媒ポケットを有すると思われるため、他の経路で機能する他のOTUドメインを含む他のプロテアーゼのポケットよりもこのポケットへの結合を優先する特異的阻害剤が潜在的に存在する。
【0168】
本発明者らは、Trabidの枯渇がヒト胎児腎臓細胞におけるTCF3及びTCF4レベルの低減を伴うことを見出した。顕著には、TCF3は、Wntシグナル伝達の不在下でさえも皮膚幹細胞を未分化状態に維持することに役割を果たし、TCF4は、腸上皮における幹細胞区画の維持に必要とされる。これらの区画に高レベルのTrabidがあり、転写におけるTCF−β−カテニン複合体の活性促進にTrabidが役割を果たしていると仮定すると、Trabidは幹細胞の再生及び/又は分化に適用を有しうる。
[実施例]
【実施例1】
【0169】
Wntシグナル伝達及び細胞接着にAPCのARDが果たす機能を仲介するタンパク質の同定
E−APCのARDは、アドヘレンスジャンクションとの関連及びWntシグナル伝達に果たすその機能に、特にインビボでそれがアキシンと複合体を形成する能力に重要である(とはいえ、APCタンパク質のアキシン結合モチーフがARDの外側であることに留意)。実際に、これらの機能は、単一のミスセンス突然変異N175→K(APCにおけるN507に対応)により打ち消され、この突然変異は、構造的考察に基づきARDからそのリガンドへの結合に影響を及ぼすと予想される。
【0170】
Wntシグナル伝達及び細胞接着に果たすAPCのARDの機能を仲介するタンパク質を同定するために、ベイトとしてAPCの野生型ARDドメインを用いてマウス胚ライブラリーの酵母2ハイブリッドスクリーニングを行い、N507→K突然変異体ドメインを有する単離物をカウンタースクリーニングした。これは、Trabidと呼ばれるタンパク質の同定につながった。
【0171】
続いて、突然変異体に比べた野生型ARDに対するTrabidの結合特異性を免疫共沈によりインビボで確認した。
【実施例2】
【0172】
Wntシグナル伝達に果たすTrabidの機能
Trabidが脱ユビキチン化酵素(「DUB」酵素)であることを実証する。Trabidが哺乳動物細胞におけるWntシグナル伝達を促進することをさらに示す。
【0173】
RNAiによる枯渇に基づく機能喪失分析から、(Cezanneではなく)TrabidがAPC又はβ−アクテニン(actenin)に関する結腸直腸癌突然変異体での効率的なTCF介在性転写に必要とされることが明らかとなった。
【0174】
同じアプローチに基づくエピスタシス分析は、Trabidを活性化β−カテニンの下に置いた。重要なことには、Trabidの枯渇はNFκB介在性転写に影響しないため、TCF介在性転写に及ぼすTrabidの効果は特異的であると思われる。
【0175】
TrabidのOTUドメインは、インビボ及びインビトロでDUB活性を有し、TrabidのNZF領域は、K63結合の鎖を優先してユビキチン鎖に結合する。まとめると、この証拠から、脱ユビキチン化ステップが効率的なTCF介在性転写に重要であると示唆される。TCF標的遺伝子でのユビキチンのターンオーバーは、Wntシグナル伝達の際のそれらの遺伝子の転写持続に必要でありうる。さらに、Trabidを阻害薬の標的としても同定し、これを達成するための方法を提供する(下記実施例参照)。
【実施例3】
【0176】
生化学的及び生物学的特徴づけ
Trabidを本発明により生化学的に特徴づけた。これにより、上に注記したTrabidの機能の要素が確認され、アッセイのさらなる開発及び本発明の適用が可能になった。
【0177】
図3に、Trabidの機能を確立する一連の生化学的結果を示す。特に、図3(a)及び(b)は、Trabidにより仲介される転写効果を示す。さらに、Trabidの阻害がTCF介在性転写を減少させることを示す。
【0178】
具体的には、Trabidの枯渇は、異なるTrabid阻害剤により仲介される。この実施例では、使用される2つのTrabid阻害剤は、Trabidに対するsiRNAである。この2つのsiRNA配列は、AGA GGT GTC TCA ACA AGC A(番号1)及びAGA GGC TTC TTC AAT AAT A(番号2)である。
【0179】
これらの阻害剤は、それぞれ293T細胞(図3a)において、並びに結腸直腸癌細胞系HCT−116及びSW−480(図3b)においてDvlに刺激されるTCF転写を低減する。
【0180】
293T細胞におけるエピスタシス実験は、転写調節に果たすTrabidに関する機能を明らかにする。
【0181】
3つのNZFフィンガーを含有するTrabidのN末端が、GST−プルダウンアッセイにおいてK63ユビキチンに優先的に結合することを実証する(図3d)。
【0182】
さらに、Trabidのデユビキチラーゼ活性を実験的に実証し、この活性がTrabidのC末端に関連することをさらに実証する。したがって、C末端は、OTU脱ユビキチン化ドメインをもち、Trabidのこの活性は、インビトロでK63ユビキチン鎖を優先的に切断する(図3e参照)。
【0183】
したがって、Trabidがヒト細胞におけるWntシグナル伝達に影響しているデユビキチラーゼであり、本発明の主要な疾患徴候(すなわち結腸直腸癌)由来の細胞系においてもそうであることが示される。
【実施例4】
【0184】
Wntシグナル伝達におけるTrabidの分子標的
Trabid及びWntシグナル伝達と結腸直腸癌との間の機能的関係のさらなる証拠が生まれる。
【0185】
本発明により、Wntシグナル伝達の際に生理学的に関連するTrabid基質であるタンパク質を同定できるようになる。本発明者らの目下の証拠は、これらが活性化β−カテニン(とはいえ活性化β−カテニンはリン酸化されているため、もはやユビキチン化についての基質ではないことに留意)、Pygopus若しくはLgs/BCL9、又はβ−カテニンにより動員される任意の他の共活性化因子などの核タンパク質であることを示す。Trabidはまた、β−カテニンの転写活性にあまり直接的にではなく、例えばβ−カテニンの核搬出を促進することが最近示されたRanBP3を阻害することによって影響するおそれがある。
【0186】
これらのタンパク質に対する抗体(Sierra, J., Yoshida, T., Joazeiro, C. A. & Jones, K. A. Genes Dev 20, 586-600 (2006); Hendriksen, J. et al. J Cell Biol 171, 785-97 (2005))及びウエスタンブロットを使用して、樹立したヒト結腸直腸癌細胞系において(例えばSW480細胞及びHCT116細胞において)又はWntを刺激された293T細胞においてRNAiが介在するTrabid枯渇後のTrabid依存性ユビキチン化形態の出現をチェックする。
【0187】
ユビキチン化は、ユビキチンに対する(又は過剰発現したタグ付きユビキチンに対する)抗体を用いた同時ブロッティングにより確認する。Trabidの枯渇後に出現すると予想される短寿命ユビキチン化種を検出する機会を最大にするために、細胞をプロテアソーム阻害剤(例えばMG132)で処理後に、これらの実験を好都合に実施する。
【0188】
これらの実験は、TCF介在性転写の際のDUBステップの性質に見通しを与え、それがWntシグナル伝達に影響を与えるメカニズムのさらなる詳細を明らかにすることができる。
【実施例5】
【0189】
Trabidの機能分析
この実施例において、本発明者らは、TrabidのRNAi介在性枯渇後に(前の実施例参照)、SW480及びHCT116結腸直腸癌細胞(それぞれAPC又はβ−カテニンについての突然変異体)において、又はWntを刺激された293T細胞においてアップレギュレーション(例えばc−myc、CD44)又はダウンレギュレーション(例えばHath1)される内因性Wnt標的遺伝子の発現を調べることによって、Trabidの機能喪失に本発明者らの研究を広げる。
【0190】
特に、これらの条件での細胞の増殖速度を調べる。これらの実験から信頼できる結果を得るために、誘導可能なヘアピン構築物を有する安定系を作製することが有益でありうる(van de Wetering, M. et al. EMBO Rep 4, 609-15 (2003))。
【0191】
相同組換えによりショウジョウバエTrabidの欠失を作製した。これは、このタンパク質がショウジョウバエの発生時のTCF介在性転写に影響するかどうかを調べるために有用である。このTrabid突然変異体の分析は、核Wntシグナル伝達構成要素であるPygopus及びLegless/BCL9について記載されたように行い、これらの機能は、発生時の、及び結腸直腸癌細胞におけるArmadillo/β−カテニンの転写活性に必要とされる(Thompson B, Townsley FM, Rosin-Arbesfeld R, Musisi H & Bienz M. Nat Cell Biol 4, 367-373 (2002); Kramps, T. et al. Cell 109, 47-60. (2002)参照)。
【0192】
モルフォリノ技法によるアフリカツメガエルTrabidの枯渇がWnt様表現型を引き起こすかどうか、及びこれが胚発生時の任意のTCF介在性転写事象に影響を及ぼすかどうかを調べる(Liu, F., van den Broek, O., Destree, O. & Hoppler, S. Development 132, 5375-85 (2005))。
【0193】
理論に縛られることを望むわけではないが、これらの実験は、発生時のWntシグナル伝達に果たすTrabidの役割を示すことができる。腸上皮におけるマウスTrabidの条件付きノックアウトを作製して正常な発生時のこの組織及び腸腫瘍に果たすTrabidの機能を調べることによって、このことをさらに解明することができる(Sansom, O. J. et al. Genes Dev 18, 1385-90 (2004))。この組織におけるTrabidの喪失は、Tcf−4の喪失に類似した陰窩幹細胞区画の枯渇を生じると予想されるおそれがあり、腸腫瘍発生を促進する他の遺伝子と同様に、Min突然変異体マウスにおける腸腫瘍の発生率及びサイズを抑制するおそれがある。
【実施例6】
【0194】
Trabidのアッセイ
図3に記載するデユビキチラーゼアッセイの条件は次の通りである。
Trabid及びTrabid変異体をそれぞれ1.0μgで用意する。
それらを緩衝液20μl(150mM KCl、50mM Hepes(pH7.4)、10mM DTT、5%グリセロール、0.01%トリトンX−100)中でオリゴユビキチン鎖混合物(Affiniti社製)1.0μgと共に30℃で60分間インキュベートする。
2×SDS試料緩衝液(20%グリセロール、125mM TrisHCL(pH6.8)、4%SDS、0.01mg/mlブロモフェノールブルー、10mM DTT)で反応を終了させる。
【0195】
試料をSDS−PAGEにより分割し、視覚化する。
【0196】
結果を図3に示す。
【0197】
したがって、本発明によりTrabid活性をアッセイする。
【実施例7】
【0198】
Trabidの阻害剤についての高処理量スクリーニング
この実施例では、Trabidの阻害剤を同定するための方法を実証する。デユビキチラーゼとしてのTrabidの生物学的活性を最初に開示する。この実施例では、Trabidのデユビキチラーゼ活性の阻害剤を同定する方法を実証する。
【0199】
最初に、組換えTrabidのインビトロ脱ユビキチン化活性を特徴づける(上記実施例参照)。今回、小分子阻害剤などのこの活性の阻害剤についてスクリーニングすることに有用なマイクロプレートに基づくアッセイを実証する。
【0200】
上記実施例では、TCF介在性転写に果たすTrabidの機能を研究した。ここでは、Trabidのデユビキチラーゼ(「DUB」)活性についての高処理量マイクロプレートアッセイを開発する。
【0201】
最初に、組換えTrabidのインビトロDUB活性を考慮すべきである。例えば、その活性を好都合に最適化し、その基質優先性を精査し、かつ/又はアッセイ条件を作業者の必要性に応じて選択することができる。
【0202】
例えばTrabidの活性を高めるために、アッセイに使用されるTrabidにNZFドメインが含まれていてもよい。
【0203】
本発明のアッセイのための基礎の概観を図1に用意する。図1に、下記のようにTrabidのDUB活性をアッセイするために改造したマイクロプレートアッセイの概略設計が示される。したがって、図1には、本明細書に記載するマイクロプレートアッセイの略図を示される。構成要素となるタンパク質はARD(青)、HD2(赤)、及びキモトリプシン(緑)であり、概略図の下の記号表にもこれらに名称を示す。ARD及びHD2は、抗体相互作用を介してプレートに固定化されたGST−ARDと、Sタグ付きHD2との間の結合を共に阻害することができるが、キモトリプシンはそうできない(概略図の右側で反応容器(マイクロタイターウェル)外側に示す個別のブロックにより表示。上2つは阻害についての記号を示す(−−−|)。GST−ARDドメイン構築物を大腸菌で組換え産生し、次にマイクロタイターウェルの内表面に予めコーティングした抗GST抗体に結合させることによって、これをマイクロタイターウェルの内部に付着させる。図2に競合阻害曲線を示すが、この曲線は、タグなしARD又はTxタグ付きHD2のいずれかを使用してGST−ARDとHD2との間の相互作用の飽和可能な阻害を実証する。キモトリプシンは、20μM濃度でもこの相互作用を阻害することができない。
【0204】
Trabidをアッセイするための方法に目を向けると、概観してこれは以下のように行われる。二重タグ付きユビキチン基質(例えばGST−ub−ub−S)を合成し、固定化し、細菌に発現させたTrabidを添加することによって切断後のSタグの放出をモニターする。マイクロタイタープレートの個別のウェルは、個別のアッセイ条件についての能力、例えば異なるTrabid活性阻害剤の候補についての能力を提供する。特定条件でのSタグの放出は、活性Trabidの存在を示す。放出の欠如、又は適切な阻害されていないTrabid対照に比べて低レベルでの放出は、Trabid活性の阻害を示す。
【0205】
アッセイの形式は、好都合には作業者に必要なものに応じて変動することがあるが、本実施例は、K63ユビキチン鎖をインビトロで切断する、細菌に発現させたGST−Trabid−OTUドメイン構築物(Trabidアミノ酸355〜708)に基づく好ましいアッセイを記載し、K63ユビキチン鎖の切断活性は、OTUドメインの推定上の触媒トリアド(C443A)における突然変異によって消滅させることができる(Nanao, M. H. et al. EMBO Rep 5, 783-8 (2004))。
【0206】
第1のステップでは、二重タグ付きポリユビキチン基質を、当技術分野で公知の方法及び試薬を使用して作製する(Pickart, C. M. & Raasi, S. Methods Enzymol 399, 21-36 (2005))。この基質を、タグの1つ、好ましくはN末端GSTタグによりマイクロタイタープレートに固定化する。このアッセイを、二重タグ付きポリユビキチン基質を使用して好都合に簡略化する。この基質を1つのタグによりマイクロタイターウェルに直接付着させて、好都合には(抗GST抗体)−(GST−基質)−(検出可能なタグ)又は固定化用の他のこのような配置の必要を回避することができる。好都合には(少しでもあるとすれば)Trabidの切断後の放出検出に、第2のタグを使用する。
【0207】
次に、阻害剤の候補及び/又は媒体及び/又は公知の阻害剤を、適切な試験ウェル及び対照ウェルにそれぞれ適用する。
【0208】
必要であれば、(少しでも可能であれば)Trabid活性を可能にするように緩衝液を調整する。好ましくは緩衝液は実施例6の通りである。
【0209】
次に、Trabidを添加する。
【0210】
次に、プレートをインキュベートして、任意のTrabid作用が起こるようにする。好ましくは、プレートを実施例6のようにインキュベートする。
【0211】
次に、Trabidの不活性化及び/又は全てのウェルへの公知の阻害剤の添加により反応を停止させてもよい。あるいは、実施例6のようにSDS試料緩衝液を使用して反応を停止させることができる。
【0212】
次に、プレートを読み出す。
【0213】
アッセイの読出しは、Trabidによる切断後の上清へのタグ(好ましくはC末端タグ)の放出の検出により、これをTrabidが阻害された(又は対照ウェルで不活性/不在の)場合の放出低減(又はまさに放出の欠如)と比べることによる。
【0214】
代替の実施形態では、当技術分野で公知のものなどの蛍光ユビキチン誘導体を基質として使用することができよう(例えばTirat, A. et al. Anal Biochem 343, 244-55 (2005)参照)。これらの実施形態では、アッセイの読出しは、ユビキチナーゼの作用(又は前記作用の欠如)後のフルオルの放出(又は放出の欠如)をモニターすることによるであろう。
【0215】
不活性C443A Trabid突然変異体は、このアッセイに有用な陰性対照として働く。特に、このアッセイを較正するために、触媒不活性なC443A Trabid突然変異体の存在下での検出可能な部分の放出レベルをベースラインとして採用することができる。(任意の阻害剤も阻害剤の候補も有さない)触媒活性Trabid調製物の存在下での放出レベルは、陽性対照として採用することができる。次に、結果の解釈及びTrabid機能の阻害剤の同定を助けるために、阻害剤候補の存在下での被験試料を陽性及び陰性(ベースライン)対照と比較することができる。
【0216】
このアッセイは、TrabidのDUB活性の阻害剤について小分子ライブラリーをスクリーニングできるようにする。OTUドメインの公知の構造(Nanao, M. H. et al. EMBO Rep 5, 783-8 (2004))及びこのドメインの特異的阻害剤の存在(Balakirev MY, Tcherniuk SO, Jaquinod M & Chroboczek J. EMBO Rep 4, 517-22 (2003)、好ましくはスクリーニングされる化合物はこの文献に記載される阻害剤に基づく)を仮定すると、Trabidは、小分子阻害剤についての有望な生化学的標的である。
【0217】
さらに、触媒性トリアドにおける保存されたD→A置換(Makarova, K. S., Aravind, L. & Koonin, E. V. Trends Biochem Sci 25, 50-2 (2000))が、Trabidの活性部位の正確な構築に影響を及ぼす見込みがあることから、本発明は、好都合にはTrabidタンパク質のOTUドメインの独特の形状を特異的に認識する阻害剤を同定できるようにする。
【0218】
これらのスクリーニングにより同定される阻害剤は、好都合には上記アッセイにおいてインビトロ及びインビボでさらに試験及び検証することができる。
【0219】
したがって、本実施例は、Trabid及びそのDUB活性の小分子阻害剤のさらなる生化学的特徴づけを記載する。さらに、Trabid活性の阻害剤についてのアッセイを実証する。
【実施例8】
【0220】
TrabidはWntシグナル伝達に関与する脱ユビキチン化酵素である
概要:
哺乳動物細胞におけるWntシグナル伝達の負の調節は、リン酸化(APC、アキシン、及びGSK−3βを含むタンパク質複合体による)及びユビキチン化(E3ユビキチンリガーゼ(β−TrCP)による)のためにβ−カテニンを構成的にターゲティングすることによって維持される。ユビキチン化されたβ−カテニンは、プロテアソームにより最終的に分解される。Wnt経路の活性化の結果として、β−カテニンリン酸化複合体のDishevelled誘導性不活性化が生じる。非リン酸化β−カテニンは、分解に不応性であることから急速に蓄積し、核に移行する。核β−カテニンはTCF/Lef転写因子に結合し、それを共活性化し、Wnt標的遺伝子の発現を推進する。
【0221】
結果
ベイトとして負のWntシグナル伝達構成要素APCを用いた酵母2ハイブリッドスクリーニングで、以前は未知の生物学的機能を有するTrabidと呼ばれるマウスタンパク質を同定した。Trabidは、OTU(卵巣腫瘍)ファミリーの脱ユビキチン化酵素に属し、このファミリーには、A20及びCezanneが含まれる。Trabidが脱ユビキチン化活性を有すること、及びそれがまた、K63結合のユビキチン鎖にインビトロで優先的に結合することを示す。RNAiによるHEK−293TからのTrabidの枯渇の結果として、様々な正のWnt構成要素に対するこれらの細胞の有意な応答欠如が生じた。重要なことに、Trabidの枯渇は、CMV又はNF−κBなどの対照プロモーターからの転写に影響を及ぼさなかった。エピスタシス実験から、核Wntシグナル伝達におけるTrabidについての機能が示唆される。Trabid枯渇細胞におけるTCF転写因子のレベル低減を見出したが、これは、Wntシグナル伝達への293T細胞などの哺乳動物細胞の応答性低減にTrabidが有用であることを実証する。
【実施例9】
【0222】
Trabid脱ユビキチン化酵素である
図4に、Trabidのデユビキチラーゼ活性を実証する証拠を示す。
【0223】
図4(A)に、hTrabidのドメイン組成並びにOTUファミリーの3メンバーの保存されたCYS及びHISボックスのアライメントを示す。
【0224】
触媒性Cys443をセリンに置換することにより、タンパク質分解不活性なTrabid突然変異体(図4C、レーン3)を作製した。
【0225】
図4(B)に、NZF(RanBP2型ジンクフィンガー)を含有するTrabidのN末端が、GSTプルダウンアッセイにおいてK63ユビキチン鎖に優先的に結合することを示す(レーン6)。
【0226】
図4(C)に、OTU脱ユビキチン化ドメインを有するTrabidのC末端が、インビトロでK63ユビキチン鎖を優先的に切断することを示す。記号:Ub−Al=ユビキチンアルデヒド(デユビキチラーゼ阻害剤)
【実施例10】
【0227】
TrabidはWntシグナル伝達の正の構成要素である
図5に、293T細胞におけるRNAi実験の結果を示し、この実験は、TrabidがWntシグナル伝達の正の構成要素であることを実証する。
【0228】
図5(A)に、siRNAの特異性及び効率を示す。これらは、異所性発現したHAタグ付きTrabid及びCezanneのウエスタンブロットにより、並びに内因性Trabid mRNAの枯渇レベルを標定するためのRT−PCRにより測定した。
【0229】
図5(B)に、2つの異なるsiRNA(Trab1及びTrab2)に仲介されるTrabidの枯渇が、Dvlに刺激されるTCF転写を有意に低減することを示す(TOPFLASH)。FOPFLASH=陰性対照
【実施例11】
【0230】
転写調節におけるTrabidの機能
図6に、293T細胞でのエピスタシス実験を示し、この実験は、転写調節に果たすTrabidの機能を実証する。
【0231】
図6(A)に、Trabid枯渇細胞においてTCF転写のWnt−3A、Dvl2、及びLiCl刺激が全て減弱したことを示すが、これは、ドミナントネガティブβ−TrCP(ΔF)によるTCF転写活性化(図6B)又は安定化β−カテニン突然変異体(Δ45S)(図6C)でも同様であった。
【0232】
図4(D)に、対照的にTrabidの枯渇が、NF−κB転写のTNFR誘導性刺激に効果を及ぼさなかったことを示す。CMVプロモーターに推進される転写についても同じことがいえる。
【0233】
この証拠は、Wntシグナル伝達に果たすTrabidの特異的役割を実証する。
【実施例12】
【0234】
Wnt経路に及ぼすTrabid枯渇の効果
図7に、Trabid枯渇が哺乳動物細胞(本実施例では293T細胞)におけるWnt経路構成要素及びWnt標的遺伝子の細胞レベルに及ぼす効果を示す。
【0235】
図7(A)に、Trabid枯渇細胞の核画分に(Lef1ではなく)TCF転写因子3及び4のレベルの有意な低減が観察されたことを示す。
【0236】
TrabidがE3ユビキチンリガーゼ活性を有することをさらに実証する。この証拠を図7に提示する。特に、図7AにおけるTrabid枯渇後のβ−カテニンのユビキチン化低下及びタンパク質全体のユビキチン化低下は、この活性の証拠である。この活性の阻害又は低減は、Wnt経路活性の低減に有用である。この活性は、TrabidのNZFフィンガー領域に仲介される見込みがある。
【0237】
顕著にユビキチン化されたβ−カテニン種はプロテアソーム阻害時に検出できる(MG132、レーン3及び7)が、Trabid枯渇細胞ではあまり顕著ではない(レーン4及び8)。ユビキチン化タンパク質全体の低減が観察される(抗ユビキチン抗体)。図7(B)に、TCF標的遺伝子であるc−MYCの発現がTrabid枯渇細胞でダウンレギュレーションされることを示す。したがって、本発明は、Trabid活性の低減によるc−MYCのダウンレギュレーションに関する。
【0238】
概要
Trabidを脱ユビキチン化酵素(及びE3ユビキチンリガーゼ)として同定したが、Trabidは、哺乳動物細胞におけるWnt経路の刺激に対する完全な応答及びTCF依存性転写に必要である。この証拠は、Trabidにとっての核での役割、例えばTCF−3/4発現の調節因子としての役割を指し示す。Trabid枯渇細胞におけるTCF−3/4のレベル低減は律速要因であるおそれがあり、これにより、安定化形態のβ−カテニンを使用した場合にさえもWnt経路の活性化が抑制されることを説明することができよう(図6C)。Trabidは、β−カテニンの効率的なユビキチン化にも必要とされることがある(図7A)。したがって、核β−カテニンのターンオーバー調節は、連続的なTCF転写に重要でありうる。脱ユビキチン化酵素活性はTCF転写に重要である。Wnt経路特異的タンパク質のレベルを調節することができ、それによってTCF依存性転写に直接影響する酵素としてTrabidを同定した。TCF依存性転写/Wntシグナル伝達の調節におけるTrabidの調節を実証する。
【実施例13】
【0239】
CezanneのOTUドメインは、ベイトとしてAPCのArmadilloリピートドメインを用いた酵母2ハイブリッドスクリーニングにおける2つの単離体のうちの1つであり、これらの単離体は、野生型(WT)ドメインに特異的であったが、その突然変異体版には結合しなかった。このWT特異的会合を、哺乳動物細胞及びショウジョウバエ細胞における比較用タンパク質断片の免疫共沈により確認した。それに続くRNA干渉(RNAi)実験から、CezanneではなくTrabidの枯渇が哺乳動物細胞におけるTCF介在性転写に影響したことが明らかとなった(下記参照)。したがって、Trabidに関する本発明者らのさらなる分析に焦点を当てた。
【0240】
Trabidはインビトロで優先的にK63結合のユビキチンを切断する
Trabidは708アミノ酸残基長であり、そのC末端にOTUドメイン及びそのN末端に3つのNZF型ジンクフィンガーを含有する(図8A)。後者はTrabidオルソログの決定的な特徴であり、Trabidオルソログは、OTUドメインの推定上の触媒ポケットにおけるTrabidオルソログの保存されたD→A置換により他のOTUファミリーのメンバーと区別することもできる(図8A、四角内)。実際に、置換されたアスパラギン酸残基はシステインプロテアーゼの活性部位に通常見出される触媒性Asp Cys Hisトリアド(図8A)の一部分あり、Trabidオルソログの機能に重要である。これは、Trabidオルソログの変異体OTUドメインが実際にDUB活性を有するかどうかの疑問を提起する。
【0241】
ユビキチン切断アッセイ
これを試験するために、トランスフェクトされた293T細胞からヘマグルチニン(HA)タグ付きTrabidを免疫沈降させ、ユビキチンのK48又はK63を介して結合した合成ポリユビキチン(2〜7個のユビキチンモノマーからなる鎖;Ub2〜Ub7)と共にこれをインビトロでインキュベートした。実際に、HA−Trabidは、K63結合のユビキチンを切断することができたが、その活性は、大部分は混合物中の長鎖に対して向けられた(Ub6、Ub7;図8B、レーン8)。対照的に、K48結合のユビキチン鎖に対するHA−TrabidのDUB活性は検出可能でなかった(図8B、レーン2〜5)。予想通り、OTUドメインの触媒性システイン443からセリンへの置換(C443S)は、HA−TrabidのDUB活性を遮断した(図8B、レーン10)。関心を引くことに、3つのNZFフィンガー(3×ZnF)のそれぞれにおける、又は第3のフィンガーのみにおける1番目の不変システインのアラニン置換(C155A)も、この活性を遮断した(図8B、レーン9;図15)。これは、これらの突然変異体の発現レベルの低減が原因ではなかった(図8B、下図;図15)。これにより、TrabidのOTUドメインだけでなくそのNZFモチーフも、TrabidのインビボDUB活性に関係づけられる(下記参照)。
【0242】
観察されたDUB活性がHA−Trabidと共に共沈する他のタンパク質が原因であったという可能性を排除するために、Trabidのグルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)タグ付きC末端(GST−Trabid CT、アミノ酸355〜708)を細菌に発現させたものを用いたインビトロDUBアッセイを行った(図8C、左欄)。実際に、GST−Trabid CTのC443S突然変異体版ではなくWTは、免疫沈降したHA−Trabidと同様に、K63結合のユビキチン鎖にDUB活性を表した(図8C、レーン3、4)(図8B)。さらに、WT GST−Trabid CTと、DUB酵素の特異的阻害剤であるユビキチンアルデヒドとの予備インキュベーションは、そのDUB活性を遮断した(図8B、レーン5)。見たところ、TrabidのNZFフィンガーは、細菌に発現させたタンパク質のインビトロDUB活性に必要なく、これは、ことによるとこのアッセイが比較的高いタンパク質濃度を必要とするからであろう。実際、TrabidのNZFフィンガー自体はDUB活性をもたない。それは、TrabidのN末端に及ぶタンパク質断片を細菌に発現させたもの(GST−Trabid NT、アミノ酸1〜354)が、DUBアッセイにおいて不活性であったからである(図8B、レーン6)。TrabidのOTUドメインはK63結合のユビキチンに優先的なDUB活性を有すると結論する。
【0243】
TrabidはインビトロでK63結合のユビキチン鎖に選択的に結合する
TrabidのN末端ジンクフィンガーは、TAK1キナーゼ複合体のTAB2及びTAB3アダプタータンパク質に見出されるユビキチン結合性NZFモチーフに明らかに関係する(Kanayama et al., 2004)(図16)。Trabidがユビキチンに結合するかどうかを試験するために、トランスフェクトされた293T細胞から免疫沈降したWT又は突然変異体HA−Trabidと共に合成ユビキチン鎖をインキュベートすることによって、インビトロプルダウンアッセイを行った。これにより、WT HA−Trabidが、K48結合ではなくK63結合のUb4〜Ub6に特異的に結合したことが明らかとなった(図9A、矢印;Ub4、Ub5、及びUb6は投入に比べて沈殿が大いに豊富であったことに留意;図9A、レーン2及び6)。3×ZnF及びC155A突然変異体を用いたときに有意に少ない結合を観察した(図9A、レーン8、12)。対照的に、C443S突然変異体は、K63結合のユビキチンへの結合がWTと少なくとも同じ大きさを示した(図9A、レーン10)。したがって、TrabidのNZFフィンガーは、K63結合のユビキチンに強い優先性を示すユビキチン結合モチーフであるが、OTUドメインはこの結合に必要とされない。
【0244】
これを支持して、NZF突然変異体のどれでもなくC443Sが、293T細胞溶解液から豊富な内因性ユビキチン化タンパク質と共沈したが(図9A、レーン9及び10、星印;図8B、レーン5及び10も参照)、この共沈は、程度が低いがWT沈殿でも検出可能である(図9A、レーン5及び6)。これらは、WT HA−TrabidのNZFフィンガーに結合したユビキチン化基質及びC443S突然変異体の触媒不活性OTUドメインにトラップされたユビキチン化基質を表すと思われる。
【0245】
最終的に、インビトロGSTプルダウンアッセイを使用し、GST−Trabid NTがK48結合に比べてK63結合のユビキチンへの結合に強い優先性を有することを示したが(図9B)、これは、この断片がK63結合のユビキチンに結合するドメインを、最も確からしくはNZFモチーフを含有することを示している。このことに基づき、そしてNZF突然変異体にDUB活性の喪失が観察されたことに基づき(図8B、図15B)、K63結合のユビキチンへのTrabidのNZF介在性結合がTrabidの効率的なインビボDUB活性に必要であると結論する。
【0246】
TrabidはTCF依存性転写に必要とされる
異なるヒト細胞系にRNAiを使用し、Wntシグナル伝達に果たす内因性Trabid及びCezanneの役割を調べた。TrabidのN末端に対する抗血清を作製し、Trabidが293細胞の細胞質画分及び核画分の両方に発現することを確立した(図17A)。これに一致して、外因性HA−Trabidも、これらの細胞及び293T細胞の細胞質及び核の両方から見出される(図17B、C)。実際に、結腸直腸癌細胞系SW480(この細胞のWnt経路は、APCの突然変異性不活性化が原因で活性である)では、核に大規模に過剰発現したHA−Trabidを観察した(図17D)。
【0247】
次に、2つの異なるsiRNAの特異性を試験するために、及びそれらの枯渇効率を最適化するために、HA−Trabid又はHA−Cezanneをトランスフェクトされた293T細胞を使用した(図18)。Cezanne特異的siRNAではなくTrabid特異的siRNAがこれらの細胞における内因性Trabid転写体のレベルを事実上検出不可能なレベルに(半定量RT−PCRで判定、図18A)、及び内因性Trabidタンパク質のレベルを<50%に(図10A)低減したことをさらに確認した(図10A)。
【0248】
Trabidが、Wntを刺激された細胞における内因性TCF標的遺伝子の転写に必要とされるかどうかを知るために、Wntシグナル伝達の2つの十分に確立された転写標的であるc−MYC及びAXIN2の発現レベルを、定量RT−PCRを使用することによって測定した。対照siRNAをトランスフェクトされた293細胞において、Wnt3Aに曝露後にc−MYC及びAXIN2の転写レベルが2倍を超えて誘導されたことを最初に確認した(図10B、C)。最近発見されたWntシグナル伝達因子BCL9のレベルが、これらの条件で2倍を超えて誘導されたことも見出した(図10B)。しかし、3つのWnt標的遺伝子全てのWnt誘導性刺激は、Trabid枯渇293細胞で完全に遮断された(図10B、C;Trabid転写体の効率的枯渇にも留意)。Trabidの枯渇はまた、未刺激293細胞においてこれらのWnt標的遺伝子の発現を約50%に低減した(図10B、C)が、これは、これらの細胞におけるWnt経路活性の構成的レベルが低いことをおそらく反映している。したがって、Trabidは、Wntの刺激に応答した内因性TCF標的遺伝子の転写に必要とされる。そのうえ、Trabid活性の低減がヒト細胞におけるWntシグナル伝達を低減することを実証する。
【0249】
次に、SW480結腸直腸癌細胞中のTrabidを枯渇させ、TOPFLASHアッセイを使用することにより、この効果をWnt経路活性の特異的定量的読出しとしてモニターした(複数のTCF結合部位に連結したルシフェラーゼレポーターに基づく)(Korinek et al., 1997 Science Vol. 275 pp 1784-1787)。SW480細胞に、対照siRNA又はCezanne若しくはTrabid特異的siRNAをトランスフェクトし、続いてTOPFLASHレポーター及び内部対照(CMV−ウミシイタケ(renilla))をトランスフェクトした。Trabidの枯渇がTOPFLASH活性をSW480細胞の正常レベルの約40%まで低減したが、Cezanneの枯渇は効果を有さなかったことを見出した(図10D)。突然変異TCF結合部位を含有するルシフェラーゼレポーターの活性(FOPFLASH)は影響を受けなかった(図10D)。Trabidの過剰発現がTCF介在性転写に影響を及ぼすかどうかも問うた。WT HA−Trabidを共トランスフェクトされた対照siRNA細胞(図10D、レーン1及び7)でTOPFLASH活性の中程度であるが有意な増加が観察されたが、C155A及びC443Sのどちらを共トランスフェクトされた細胞でも観察されなかった(図10D、レーン8及び9)。まとめると、これらの結果は、これらの結腸直腸癌細胞においてCezanneではなくTrabidがTCF介在性転写の正の調節因子であることを示している。
【0250】
NF−κBシグナル伝達
NF−κBシグナル伝達に関するTrabidの強い機能的結びつきを仮定して、NF−κB依存性転写がTrabidの枯渇に感受性であるかどうかも試験した。複数のNF−κB結合部位を含有するルシフェラーゼレポーターを293T細胞にトランスフェクトし、TNF受容体II(TMFR−II)の共トランスフェクションによりこれらの細胞を刺激した結果として、ベクター対照に比べてNF−κB依存性転写の約7倍の増加が生じた(図10E、レーン1及び4)。この活性は、Trabid枯渇細胞では影響を受けなかった(図10E、レーン4及び10)。この実験のさらなる対照には、ドミナントネガティブIκB(IκB−DN)タンパク質(TNFR−II誘導を効率的に遮断した)及びWnt3A(このNF−κBレポーターアッセイに影響しなかった)を共トランスフェクトすることが含まれた(図10E)。したがって、Trabidは、NF−κB介在性転写に必要とされず、これは、Trabidの過剰発現に基づいた以前の結論と一致する。
【0251】
Trabidのユビキチン結合及びDUB活性はTrabidがTCF依存性転写に果たす機能に重要である
Trabid siRNAのオフターゲットの効果を除外するために、再発現したTrabidを用いたレスキュー実験を行った。WT及び突然変異体HA−Trabidレスキュー構築物に沈黙突然変異を導入し、この沈黙突然変異はこれらの構築物をRNAi介在性枯渇に不応性にした(図18C)。次に、Trabidを枯渇したSW480細胞におけるこれらの構築物のレスキュー活性についてこれらの構築物を試験し、WT HA−Trabid構築物が対照のトランスフェクトされた細胞の約70%のレベルまでTOPFLASH活性を回復させたことを見出した。(図10D、レーン1、3、及び10)。重要なことには、WTに同様なレベル発現しているにもかかわらず(図10D、下欄)、C443SもC155AもTrabid枯渇細胞におけるTOPFLASH転写を回復することができなかった(図10D、レーン3、11、及び12)。Wnt3Aで刺激した293細胞でも同様の結果が観察された(図19)。まとめると、これらの結果は、Trabidのユビキチン結合及びDUB活性が、Wnt経路活性が高まったヒト細胞におけるTCF介在性転写の際にTrabidの機能に必要とされることを示している。
【0252】
エピスタシス分析は、Trabidがβ−カテニンの安定化の下で作用することを示す
Trabidを枯渇した293細胞におけるTOPFLASHアッセイに基づきエピスタシス実験を行い、Trabidが作用するWntシグナル伝達カスケード内のレベルを同定した。最初に、Wnt3Aをコードするプラスミドをトランスフェクトされた細胞を調べたところ、このプラスミドは、ベクター対照に比べてTOPFLASH活性を約6倍刺激する(図18A;これらの条件でβ−カテニンが蓄積することに留意(図18A、下欄、レーン1及び2)。Trabid siRNAをトランスフェクトされた細胞では、Wnt3Aに誘導されるβ−カテニン安定化は影響を受けず、TOPFLASH活性が対照細胞でのレベルの約30%まで低減した(図18A、レーン2及び4)。これは、Trabidがβ−カテニン安定化の下で、Wnt経路の下流で作用することを示唆している。
【0253】
ユビキチンのコンジュゲーションに果たすβ−TrCPの役割を仮定して、β−TrCPの活性がTrabidの枯渇に影響されうるかどうかも問うた。β−カテニンに結合するが、SCF複合体には結合しないドミナントネガティブ形態のマウスβ−TrCP(β−TrCPΔF)を使用し、これを293T細胞に発現させたところ、これは、用量依存的に高レベルのWnt経路活性を引き起こし、構築物200及び400ngがトランスフェクトされたときのTOPFLASH活性は、ベクター対照に比べてそれぞれ約6倍及び10倍刺激された(図18B、レーン1〜3)。しかし、Trabid枯渇細胞では、同じ量のβ−TrCPΔFがトランスフェクトされたときのTOPFLASHの刺激は有意に低減した(対照の約40〜50%まで;図18B、レーン5及び6)が、β−TrCPΔFのレベルは影響を受けなかった(図18B、下欄)。Dishevelledの過剰発現又はLiClによるGSK3β阻害の結果としてのβ−カテニン安定化がTrabid枯渇により影響されなかった一方で、これらの刺激が原因のTOPFLASH転写が<50%まで低減したことも見出した(図20)。Trabidはβ−カテニンの安定化よりもむしろその転写活性を制御するように作用すると結論する。
【0254】
これを直接実証するために、活性化形態のβ−カテニンであるβ−カテニンΔ45S(Δ45S)を293T細胞にトランスフェクトした(Morin et al., 1997 Science Vol 275 pp 1787-1790)が、Δ45Sは、リン酸化に不応性であることからTOPFLASH活性の強力な刺激因子である(ベクター対照に比べて約35倍;図11C、レーン1及び2)。しかし、Trabid枯渇細胞ではTOPFLASH刺激は約40%まで低減した(図11C、レーン2及び4)。これに一致して、HCT−116結腸直腸癌細胞(同じΔ45S突然変異を有する(Morin et al., 1997、同書))におけるTrabid枯渇が対照細胞に比べてこの細胞のTOPFLASH活性に約50%の低減を結果として生じたことを見出した(図21)。これは、Trabidがβ−カテニンの転写活性に必要とされるという本発明者らの結論の確証となる。
【0255】
Trabidは、核β−カテニン、TCF−4、及びTCF−3のレベルに影響を及ぼす
次いで、Trabidの枯渇がWnt経路における潜在的核標的の安定性又はユビキチン化状態に影響を及ぼしたかどうかを問うた。したがって、LiCl処理によりWnt経路を刺激した293T細胞におけるTrabidを枯渇させ、これらの細胞質画分及び核画分を調製し、核タンパク質に特異的に及ぼすTrabid枯渇の効果を評価した。
【0256】
最初にβ−カテニンレベルを調べたが、見出された唯一の一貫した変化は、Trabid枯渇細胞、特にLiClで刺激された細胞における核β−カテニンレベルのわずかな減少であった(図12A、C、レーン11及び12)が、細胞質β−カテニンレベルは、どちらかといえばこれらの細胞でわずかに増加したように見えた(図12A、図11Aも参照)。Trabid枯渇293細胞から調製された核抽出物にも同様の効果が見られた(図12B)。Trabid枯渇細胞におけるβ−カテニンのユビキチン化を調べるために、プロテアソーム阻害剤MG132で293T細胞を処理したが、この阻害剤は、ユビキチン化形態のβ−カテニンに対応した高分子量種の出現を生じる。(図12A、C、カッコ内)。しかし、Trabid枯渇後のMG132処理細胞にユビキチン化β−カテニンの増加はなかった(図12A、C)が、どちらかといえばユビキチン化β−カテニンのわずかな減少がTrabid枯渇細胞質画分から検出できた(図12A、レーン3及び4)。したがって、Trabidは、β−カテニンの核保持に幾分影響を及ぼすおそれがあるが、これはβ−カテニンのユビキチン化に必要とされず、このことは、Trabidがβ−カテニンの分解に影響を及ぼさないという本発明者らの結論に一致する。
【0257】
Trabid枯渇細胞におけるTCF因子のレベルも調べた。これにより、Trabidを枯渇した293T細胞におけるTCF3及びTCF4の核レベルのわずかであるが一貫した低減を明らかになった(図12A、レーン7及び8)が、これはLiCl及びMG132処理後にも見ることができる(図12A、レーン9〜12)。核TCF4レベルの同様の低減もTrabid枯渇293細胞から検出可能であった(図12B)。対照的に、これらの細胞に低レベル発現するTCFファミリーのメンバーであるLEF1の核レベル(図12A、B)も、β−カテニン結合タンパク質であるパラフィブロミンのレベル(図12A、B)も、Trabidの枯渇に感受性ではなかった。これらの転写因子のどれもMG132に応答した改変を全く示さず、これは、これらがユビキチン化されていないことを示している。したがって、Trabid枯渇の主な効果は、これらのヒト胎児腎臓細胞系における主なTCF因子であるTCF3及びTCF4のタンパク質レベルの穏やかであるが選択的な減少であった。
【0258】
Trabidの枯渇がTCFとβ−カテニンとの間の相互作用に影響するおそれがあるかどうかも調べた。したがって、293T細胞の核抽出物からTCF4を免疫沈降させ、対照細胞及びTrabid枯渇細胞由来の溶解液中のβ−カテニンの免疫共沈をウエスタンブロット分析により検出した。しかし、TCF4及びβ−カテニンのレベルは、Trabidの枯渇後に低減した(上記参照)ものの、TCF4に会合したβ−カテニンのレベルに検出可能な変化はなかった(図12C、レーン7〜12)。Trabidは、これらの細胞におけるβ−カテニンとTCF4との会合に不可欠ではないと結論する。
【0259】
VP16又はβ−カテニンからLEF1へのトランス活性化ドメインの直接結合はTrabidの必要を回避する
Trabid枯渇細胞に核β−カテニン及びTCFレベルの低減が観察されたことから、TCF介在性転写がこれらの条件でなぜ低減するかを説明できよう。しかし、これはありそうもなく、というのは、活性化β−カテニン又はTCF因子を過剰発現させてもTrabid枯渇細胞に正常レベルのTOPFLASH活性が回復しないからであり、これらのタンパク質のレベルは、過剰発現後に検出可能な程度には低減せず(図11C)、Trabidがβ−カテニン及びTCFのレベルよりもむしろ転写に果たすこれらのタンパク質の機能を主に調節することを立証している。
【0260】
1つの可能性は、Trabidが、TCFに会合したβ−カテニンのC末端(それ自体強力なトランス活性化ドメイン(TAD,transactivation domain)である)への共活性化因子の動員に影響を及ぼすというものである。そうならば、TADからTCFへの結合により、TCF介在性転写におけるTrabidの必要を回避できよう。したがって、N末端の56残基(β−カテニンの結合に必要とされる)を欠如したLEF1に、β−カテニンのC末端が直接融合したキメラ(catC−LEF1Δ56、(Hsu et al., 1998 Mol.Cell.Biol.vol. 18 pp 4807-4818))を試験したが、このキメラは、トランスフェクトされた293細胞にTOPFLASHの強い用量依存的トランス活性化を仲介する(図13、レーン1〜3)。ウイルスタンパク質VP16由来TADと、N末端を有さないLEF1との間の同様に活性なキメラも試験した(VP16−LEF1ΔN(Ishitani et al., 2005 Nat.Cell.Biol.Vol.7 pp 1106-1112))(図13、レーン4及び5)。関心を引くことに、catC−LEF1Δ56は、トランス活性化をごくわずかしかTrabidに依存せず(図13、レーン7及び8)、Δ45Sよりも依存性が有意に低かった(図11C)。その上、VP16−LEF1ΔNはTrabidに全く依存せず、Trabidが枯渇しているにかかわらず本質的に同じTOPFLASHの用量依存的トランス活性化を示す(図13、レーン9及び10)。これは、TrabidがTCF−β−カテニン複合体への共活性化因子の動員を制御するように作用することを立証している。
【0261】
ショウジョウバエTrabidはWingless応答の正の調節因子である
序説に指摘したように、ショウジョウバエは典型的なTrabidシグネチャーを有する単一のTrabidオルソログ(dTrabid)を有する(図8A;図16)。相同組換えによりdTrabidを欠失させることにより、dTrabidの喪失がショウジョウバエにおけるWntシグナル伝達にも影響を及ぼすかどうかを問うた。驚くことに、dTrabidヌル突然変異体は、生存可能及び繁殖可能であったが、これは、dTrabidが別の遺伝子と冗長性に機能しうることを示唆している。
【0262】
したがって、(dTrabidヘテロ接合体における)Trabidの用量を半分に下げることが、眼成虫原基におけるWinglessの発現によって起こるラフアイ表現型(rough eye phenotype)に影響を及ぼすかどうかを問うことによって、さらに感度の高いアッセイでdTrabidの機能を試験した(図14A、B)。これは実際にその通りであり、dTrabidヘテロ接合性はこの表現型を抑制し(図14C、Bと比較)、これはdTCFヘテロ接合性と同様であった(図14D)。その上、dTrabidヘテロ接合性は、Armadillo(ショウジョウバエのβ−カテニン)の過剰発現が原因のラフアイ表現型もある程度抑制した(図14F、Eと比較)。対照的に、dTrabidと、ハエの眼発生における分化を制御する経路であるEGF受容体シグナル伝達の構成要素との間の遺伝的相互作用は観察されなかった。例えば、この経路の阻害剤であるArgosの過剰発現が原因のラフアイ表現型は、dTrabidヘテロ接合体で不変のままであり(図14G、H)、これは、この経路の活性化因子であるRhomboidの過剰発現が原因の表現型と同様であった。同様に、Notch経路の撹乱(Notchヘテロ接合性又はDeltaの過剰発現)が原因のラフアイ表現型もdTrabidヘテロ接合性では影響を受けなかった。これらの結果は、ショウジョウバエにおけるWingless応答の正の調節因子としてdTrabidを意味づけ、これは、ヒト細胞系における本発明者らの結果と一致する。さらに、これらの結果は、dTrabidが他のシグナル伝達経路に広範囲の効果を及ぼさないことを示唆している。したがって、Trabid改変の副作用は少ししかないことが本発明の長所である。
【0263】
実施例13に関する方法:
プラスミド及び抗体
pHM6-HA-Trabid及びpHM6-HA-Cezanne(Evans et al., 2003; Evans et al., 2001)は、Paul Evans博士から親切に提供いただき、点突然変異体は、QuickChange(Stratagene社製)を使用して創出し、DNA配列決定により確認した。GST−Trabid構築物について、細菌発現ベクターpGEX-6P-1のEcoRIとXhoIとの間に、PCR増幅したTrabid cDNA断片をクローニングした。使用した抗体は、以下の通り、すなわち抗TCF4抗体、抗TCF3/4抗体、及び抗ユビキチン抗体(Upstate社製)、抗β−カテニン抗体、及び抗FLAG M2抗体(Sigma社製)、抗パラフィブロミン抗体(Bethyl Laboratories社製)、抗HA 3F10抗体(Roche社製)、抗LEF1抗体及び抗TLE抗体(Santa Cruz社製)、抗α−チューブリン抗体(Abcam社製)であった。Trabidに対するポリクローナル抗体は、TrabidのN末端(アミノ酸1〜354)をラットに免疫し、GSTと融合させ、細菌から精製することにより作製した(Eurogentec社製)。ウエスタンブロットのために粗抗ラットTrabid抗血清を1:100希釈して使用した。
【0264】
細胞、トランスフェクション、及び処理
HEK293、HEK293T、SW480、及びHCT−116細胞は、10%ウシ胎仔血清を補充したダルベッコ変法イーグル培地中で維持した。Trabid及びCezanne mRNAをターゲティングするために使用した小分子干渉RNA(siRNA,small interfering RNA)(Dharmacon社製)二本鎖は以下の通りである(センス鎖のみを示す):Trabid#1、AGA GGC UUC UUC AAU AAU AdTdT;Trabid#2、AGA GGU GUC UCA ACA AGC AdTdT;Cezanne#1、GAA UCU AUC UGC CUU UGG AdTdT;Cezanne#2、AGA CUU CCG CAG CUU CAU AdTdT。陰性対照siRNAはAmbion社から購入した(カタログ番号AM4611)。siRNA二本鎖及びプラスミドDNAのトランスフェクションは、リポフェクタミン2000(Invitrogen Life Technologies社製)を使用して行った。
【0265】
TOPFLASH及びNF−κBレポーターアッセイ
細胞を12ウェルプレートに0.8×10細胞/mlの密度で蒔き、皿の表面に12〜16時間付着させてからトランスフェクションを行った。RNAi実験について、細胞に最初siRNA(終濃度100nM)をトランスフェクトし、別に規定しない限り、24時間後に250ngのpTOPFLASH又はpFOPFLASH、20ngのpRL-CMV(ウミシイタケルシフェラーゼ内部対照)、及び1.0μgのエフェクタープラスミドDNAを再トランスフェクトした。NF−κBアッセイについて、4×NF−κB結合部位を含有するルシフェラーゼレポーター(Clontech社製)と、示した場合にはpEAK12-HA-TNFRII及びpEAK12-IκB□DN(S32A、S36A)とを細胞にトランスフェクトした。トランスフェクション1回あたりのDNAの合計量は、空のベクターと等しくした。さらに24時間後に、細胞を回収し、受動的溶解緩衝液(Dual Luciferase Reporter Assay System、Promega社製)中で溶解させた。タンパク質濃度は、クマシー系試薬(Pierce社製)で測定し、10μgの合計タンパク質を1試料につき使用した(TOPFLASHアッセイ又はウエスタンブロット用)。各転写アッセイについて、対照細胞からの相対ルシフェラーゼ活性を任意に1に設定し、実験的アッセイからの値を対照に対する誘導倍率として表現した。
【0266】
免疫沈降及びGSTプルダウンアッセイ
接着細胞をPBSで2回洗浄し、NP40溶解緩衝液(50mM Tris−HCl(pH7.4)、120mM NaCl、1%NP−40、1mM EDTA、5mM NaVO、5mM NaF、0.5μg/mlアプロチニン、1μg/mlロイペプチン)に入れて氷上で10分間インキュベートした。細胞を掻き取ることによって収集し、14000rpmで10分間(4℃)遠心分離した。免疫沈降は、プロテインG−セファロースビーズ(100μL、Zymed社製)の50%溶液を用いて予備清澄化した細胞抽出物500〜700μgを使用して免疫沈降を行い、その後表示した抗体4μgと共に4℃で2時間インキュベートした。50%プロテインGビーズ100μLを用いて4℃で1時間抗体−抗原複合体を捕捉した。グルタチオン−セファロース4Bビーズ(50μL、Amersham社製)の50%溶液にカップリングした、細菌に発現させた1μgのGST又はGST−Trabidを用いてGSTプルダウンアッセイを行い、上記のように500〜700μgの細胞抽出物又はK48若しくはK63結合のユビキチン鎖(Ub2〜7、Affiniti社製)と共にインキュベートした。沈降したタンパク質はSDS−PAGEにより分割し、ウエスタンブロットにより分析した。核画分及び細胞質画分は、記載されたように調製した(Caruccio and Banerjee, 1999)。
【0267】
DUBアッセイ
アッセイは、記載されたものを改変して行った(Wang et al., 2004)。上記のようにGST−Trabid構築物(1μg)を緩衝液(150mM KCl、50mM Hepes(pH7.4)、10mM DTT、5%グリセロール、0.01%トリトンX−100)20μl中で37℃で60分間、合成ユビキチン鎖0.5μgと共にインキュベートした。2×SDS−PAGE試料緩衝液で反応を終了させ、SDS−PAGEにより分割し、ウエスタンブロットにより分析した。グルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)及びGST−Trabidタンパク質を大腸菌BL21(DE3)に発現させ、供給業者の説明書通りにグルタチオン−セファロースビーズ(Amersham社製)を使用して精製した。ユビキチンアルデヒドをCalbiochem社から購入した。
【0268】
リアルタイム定量RT−PCR
293細胞を12ウェルプレートに生育させ、siRNAをトランスフェクトし、24時間後にWnt3A馴化培地(Wnt3Aを安定発現するマウスL細胞由来)又は対照培地(マウスL細胞由来)と共にさらに6時間インキュベートした。細胞を氷冷PBSに回収し、説明通りにSuperscript IIIキット(Invitrogen社製)を用いたcDNA合成に直接使用した。2回繰り返しのcDNA試料をTaqMan Universal PCR Master Mix及び遺伝子特異的TaqMan TAMRAプローブを用いてABI Prism 7900HT機(Applied Biosystems社製)で増幅させた。標準曲線は、発現がW3a−CM処理に影響を受けないハウスキーピング遺伝子HPRTに基づいた。結果をHPRT値に対する割合として表現する。
【0269】
ショウジョウバエの交雑
相同組換えによりdTrabid(CG9448)の欠失を作製した(Gong and Golic, 2003;Rong and Golic, 2001)。dTrabid/TM3又はy w対照ハエをsev−wg(Brunner et al., 1997)、GMR.GAL4>UAS.Armadillo(Freeman and Bienz, 2001;Greaves et al., 1999)と交雑させ、25℃で生育させた。結果として生じたヘテロ接合後代の眼を記載されたように評点した(Freeman and Bienz, 2001)。強いdTCFアレルを使用した(van de Wetering et al., 1997)。
【0270】
上記明細書に言及した全ての刊行物は、参照により本明細書に組み込まれている。記載された本発明の方法及び組成物の様々な改変及び変形は、本発明の範囲から逸脱せずに当業者に明らかであろう。本発明を特定の好ましい実施形態に関連して記載したが、請求された本発明が、このような特定の実施形態に不当に限定されてはならないことを了解すべきである。実際に、生化学及びバイオテクノロジー又は関係する分野の技術者に明らかな、本発明を実施するための記載された様式の様々な改変は、添付の特許請求の範囲内に入ることが意図される。
【0271】
略式の配列表
Trabidに対するsiRNA(番号1)
AGA GGT GTC TCA ACA AGC A
Trabidに対するsiRNA(番号2)
AGA GGC TTC TTC AAT AAT A
siRNA Trabid#1、AGA GGC UUC UUC AAU AAU AdTdT;
siRNA Trabid#2、AGA GGU GUC UCA ACA AGC AdTdT;
siRNA Cezanne#1、GAA UCU AUC UGC CUU UGG AdTdT;
siRNA Cezanne#2、AGA CUU CCG CAG CUU CAU AdTdT

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Trabid活性を調節することを含む、Wntシグナル伝達を調節する方法。
【請求項2】
Trabid活性を調節することが、Trabid活性を阻害することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
Trabid活性を低減することを含む、TCFの転写を低減する方法。
【請求項4】
Trabid活性が、Trabidに対するsiRNAを用いて低減される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
Trabid活性が、ドミナントネガティブTrabidを用いて低減される、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
TCF転写が、Dvlに刺激される、Wnt3Aに刺激される、LiClに刺激される、APCの喪失若しくは突然変異に刺激される、β−カテニンの活性化若しくは突然変異に刺激される、又はmβ−TrCp−ΔFに刺激されるTCFの転写である、請求項3〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
TCFの転写が、Dvlに刺激されるTCFの転写である、請求項3〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
対象におけるTrabidシグナル伝達を調節することを含む、前記対象における家族性大腸ポリポーシスを治療する方法。
【請求項9】
対象におけるTrabidシグナル伝達を調節することを含む、前記対象における結腸直腸癌を治療する方法。
【請求項10】
Trabidが阻害される、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
ポリペプチドの脱ユビキチン化におけるTrabidの使用。
【請求項12】
脱ユビキチン化がK63ユビキチンの切断を含む、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
Trabidが少なくともC末端卵巣腫瘍(OTU)ドメインを含む、請求項11に記載の使用。
【請求項14】
TrabidがN末端NZFフィンガーモチーフを含む、請求項11に記載の使用。
【請求項15】
Trabidが完全長ヒトTrabidポリペプチドを含む、請求項11に記載の使用。
【請求項16】
医薬品として使用するためのTrabid阻害剤。
【請求項17】
結腸直腸癌のための医薬品の製造におけるTrabid阻害剤の使用。
【請求項18】
家族性大腸ポリポーシスのための医薬品の製造におけるTrabid阻害剤の使用。
【請求項19】
結腸直腸癌の治療に使用するためのTrabid阻害剤。
【請求項20】
家族性大腸ポリポーシスの治療に使用するためのTrabid阻害剤。
【請求項21】
Trabid阻害剤が、Trabidに対するsiRNAであるか、又はTrabid C443Sである、請求項26、19、若しくは20のいずれかに記載のTrabid阻害剤又は請求項17若しくは18に記載の使用。
【請求項22】
ユビキチンを含むポリペプチドの沈殿におけるTrabidの使用。
【請求項23】
β−カテニンの調節におけるTrabidの使用。
【請求項24】
細胞接着の調節におけるTrabidの使用。
【請求項25】
細胞接着の調節が、カドヘリンによって調節される細胞接着である、請求項24に記載の使用。
【請求項26】
TCFの転写の維持又は刺激におけるTrabidの使用。
【請求項27】
Trabidの調節因子を同定する方法であって、
(i)ユビキチンによりタグ部分にカップリングした検出可能な部分を含む、Trabid基質を用意すること、
(ii)前記基質の第1及び第2の部分を固定化すること、
(iii)前記第1の部分に調節因子候補を添加すること、
(iv)前記第1及び第2の部分をTrabidと接触させること、
(v)インキュベートしてTrabidを作用させること、並びに
(vi)前記検出可能な部分から前記タグを分離することにより前記ユビキチンの切断をアッセイすること
を含み、第1の部分から分離された検出可能な部分の量が、第2の部分から分離された検出可能な部分の量と異なるときに、前記候補を、Trabidの調節因子として同定する方法。
【請求項28】
検出可能な部分からのタグの分離が、前記検出可能な部分の上清への放出をアッセイすることにより測定される、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
検出可能な部分からのタグの分離が、固定化された物質における前記検出可能な部分の保持をアッセイすることにより測定される、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
基質の第1及び第2の部分がタグ部分を介して固定化される、請求項27〜29のいずれかに記載の方法。
【請求項31】
第1の部分から分離された検出可能な部分の量が、第2の部分から分離された検出可能な部分の量よりも少ないときに、前記調節因子候補を、Trabidの阻害剤として同定する、請求項27〜30のいずれかに記載の方法。
【請求項32】
第1の部分から分離された検出可能な部分の量が、第2の部分から分離された検出可能な部分の量よりも多いときに、前記調節因子候補を、Trabidの活性化因子として同定する、請求項27〜30のいずれかに記載の方法。
【請求項33】
Trabid基質が、GST−ユビキチン−ユビキチン−S融合タンパク質を含む、請求項27〜32のいずれかに記載の方法。
【請求項34】
検出可能な部分がSを含み、タグ部分がGSTを含む、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
基質の第1及び第2の部分が、マイクロタイタープレートの別個のウェルに固定化される、請求項27〜34のいずれかに記載の方法。
【請求項36】
固定化が、マイクロタイタープレートのウェルの内表面に予めコーティングされた抗GST抗体に付着させることによる、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
APCをTrabidと接触させることを含む、前記APCのアルマジロリピートドメイン(ARD)を調節する方法。
【請求項38】
突然変異体APCに結合する突然変異体Trabidを同定する方法であって、
(i)突然変異体Trabidポリペプチドの候補を用意すること、
(ii)前記突然変異体Trabidポリペプチドの候補を前記突然変異体APCポリペプチドと接触させること、及び
(iii)前記突然変異体Trabidポリペプチドの候補と前記突然変異体APCポリペプチドとの間の会合をモニターすること
を含み、前記ポリペプチドの間の会合が、前記突然変異体Trabidポリペプチドの候補が前記突然変異体APCと結合することを示し、前記突然変異体APCが、N507K APC又はN175K E−APCである方法。
【請求項39】
C443突然変異を含むTrabid又はその断片。
【請求項40】
Trabidが、受託番号CAB64449のアミノ酸配列を含むヒトTrabidであって、C443突然変異がC443Sである、請求項39に記載のTrabid。
【請求項41】
請求項40又は41に記載のTrabid又はその断片をコードする核酸。
【請求項42】
(i)Trabidのアミノ酸4〜32、Trabidのアミノ酸84〜112、及びTrabidのアミノ酸149〜177からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸配列、又は
(ii)(i)の完全長アミノ酸配列と少なくとも25%の同一性を有する少なくとも1つのアミノ酸配列であって、(i)の前記アミノ酸配列の構造的ジンクフィンガーコア残基が保持されている配列
を含むポリペプチドであって、前記ポリペプチドが少なくとも2つのジンクフィンガードメインを含み、かつ前記ポリペプチドが完全長野生型Trabidを含む場合に、前記ポリペプチドがそれに加えて少なくとも1つのさらなるアミノ酸を含むポリペプチド。
【請求項43】
(ii)の少なくとも1つのアミノ酸配列が、(i)の完全長アミノ酸配列と少なくとも33%の同一性を有し、(i)のアミノ酸配列の構造的ジンクフィンガーコア残基が保持され、かつ疎水性界面におけるユビキチン結合残基が保持される、請求項42に記載のポリペプチド。
【請求項44】
K63結合のユビキチンに結合する、請求項42又は43に記載のポリペプチド。
【請求項45】
(i)所望のアミノ酸配列、及び
(ii)請求項42〜44のいずれかに記載のポリペプチド
を含むポリペプチド。
【請求項46】
(i)所望のアミノ酸配列、及び
(ii)K63結合のユビキチンに結合するTrabidポリペプチド
を含むポリペプチドであって、(ii)の前記Trabidポリペプチドが、少なくとも2つのジンクフィンガードメインを含み、前記ジンクフィンガードメインが、Trabidの少なくとも1つのNZFジンクフィンガーからの少なくとも1つのジンクフィンガーシグネチャー配列を含むポリペプチド。
【請求項47】
K63結合のユビキチンへの所望の部分のターゲティングにおける、請求項42〜46のいずれかに記載のポリペプチドの使用、又は請求項46に記載のTrabidポリペプチドの使用。
【請求項48】
所望の部分がプロテアーゼである、請求項42〜46のいずれかに記載のポリペプチド又は請求項47に記載の使用。
【請求項49】
所望の部分がラベルである、請求項42〜46のいずれかに記載のポリペプチド、又は請求項47に記載の使用。
【請求項50】
請求項46に記載のTrabidポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む核酸。
【請求項51】
請求項42〜46のいずれかに記載のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む核酸。

【図1】
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【図2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図4】
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【図5】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10−1】
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【図10−2】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公表番号】特表2009−538124(P2009−538124A)
【公表日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−511567(P2009−511567)
【出願日】平成19年5月21日(2007.5.21)
【国際出願番号】PCT/GB2007/001839
【国際公開番号】WO2007/138253
【国際公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【出願人】(504171433)メディカル リサーチ カウンシル (16)
【Fターム(参考)】