説明

スクロール圧縮機

【課題】旋回スクロールの重心を鏡板中心に一致させるために設けられたバランス穴部において変形が大きく、スクロール圧縮機の体積効率を低下させ、高効率な圧縮機の実現に課題があった。また、従来のバランス穴を小さくできる構造では、圧縮室と背圧室もしくは吸込室とのシール性が低下して漏れが増大し、高効率な圧縮機の実現に課題があった。
【解決手段】台板に立設する渦巻き状のラップを有する旋回スクロールと、この旋回スクロールのラップと互いに噛合いラップの内側と外側に圧縮室および吸込室を形成する固定スクロールを有するスクロール圧縮機において、前記台板の重心から前記旋回スクロールのラップの重心方向にあって、前記台板の反ラップ側に円弧状の溝を設けたことを特徴とするスクロール圧縮機。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクロール圧縮機に係り、特に旋回スクロールの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
スクロール圧縮機は、旋回スクロールが自転をせずにクランク軸中心から一定の偏心距離で公転運動を行う。そのため、クランク軸の旋回軸部には旋回スクロールの質量,重心位置,偏心距離,回転数に応じた遠心力が生じ、この遠心力はクランク軸上部を遠心力方向(軸直角方向)にたわませる。クランク軸のたわみは、旋回スクロールを揺動させ、旋回スクロールと固定スクロールのラップ側面の当たりが必要以上に大きくなることや、クランク軸と軸受との接触圧力に偏りが生じることなどにより、圧縮機の効率低下,騒音の増大,摩耗増大による寿命信頼性の低下など、圧縮機の性能に悪影響を及ぼす。
【0003】
そこで、上記の遠心力を小さくする手段の一つとして、旋回スクロールの重心を旋回鏡板の中心に一致させることが従来から行われている。例えばインボリュート曲線などによって構成される螺旋状のラップ形状では、通常重心は鏡板中心に一致しない。
【0004】
重心の位置を鏡板中心へ近付ける方法としては、たとえば特許文献1のように、ラップの渦巻中心を、鏡板中心から見た重心方向と逆に平行移動させる方法がある。一方、ラップ自体は変えずに重心を鏡板中心に合わせる方法として、旋回スクロール鏡板の重心と逆側を切削することでバランスをとる方法がある。しかし、後者の方法には、鏡板を切削することでその強度が低下するという問題がある。
【0005】
圧縮機運転時において、旋回スクロールには各圧縮室や背圧室などから冷媒圧力による荷重が加わることで、圧力に応じた変形が生じる。旋回スクロールの変形は、ラップ歯先や側面の隙間形状に影響を及ぼし、隙間の不均一性によってそこからの冷媒漏れが増大して圧縮機の体積効率を低下させる。そのため、旋回スクロールの変形量の低減は、体積効率向上による圧縮機の効率改善につながる。
【0006】
上記問題点を改善するためには、鏡板の切削量を低減する必要がある。切削部が鏡板外周側にあるほど切削量は少なくて済むことから、ラップ最外周よりもさらに外側を切削するような構造が望ましい。それに近い構造例としては、特許文献2がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−133806号公報
【特許文献2】特開平08−028460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
旋回スクロールの重心を鏡板中心へと一致させる方法としては、ラップの位置を平行移動させる方法や、鏡板を切削してバランスをとる方法がある。
【0009】
しかし、前者の方法は従来の旋回スクロールの加工設備では対応できない場合があり、そのときは新たに大規模な設備の導入などが必要となって、必ずしも容易に実行することはできないという問題がある。そのため、後者の鏡板の加工による方法を前提とし、以下ではその方法について述べる。
【0010】
従来の旋回スクロールでは、鏡板に本願図2のようなバランス穴を設けて重心合わせが行われていた。しかし、このように穴の底面積が広く、圧縮室の背面にまでかかるほど鏡板に大きく設けられた構造では、バランス穴部において強度が低下して変形量が増大するばかりでなく、クランク角によって変形量自体が変動することで、圧縮室からの冷媒漏れが増大する方向に作用し、変形が大きくなるという課題があった。
【0011】
また、重心合わせの意味では鏡板のラップ側面にバランス穴を切削することも考えられるが、ラップ側鏡板面は圧縮室と背圧室及び吸込室との間の冷媒漏れをシールする役割を果たしており、ラップ側鏡盤面の切削は冷媒のシール面である旋回スクロールと固定スクロールの接触面積を減少させ、圧縮室内の冷媒漏れを増大させる恐れがある。例えば、特許文献2ではそのことが触れられていないが、実際、鏡板の大きさは軽量化やコスト低減を目的として、シール性が十分確保できる最小の大きさとなるように設計されるものであり、その鏡板ラップ側を削る構造は確保したシール性を低下させるという意味で、実用上採用することは困難である。これらの点を改善することができれば、効率を向上させることができる。
【0012】
本発明の目的は、高効率なスクロール圧縮機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の目的は、
台板に立設する渦巻き状のラップを有する旋回スクロールと、
この旋回スクロールのラップと互いに噛合いラップの内側と外側に圧縮室および吸込室を形成する固定スクロールを有するスクロール圧縮機において、
前記台板の重心から前記旋回スクロールのラップの重心方向にあって、前記台板の反ラップ側に円弧状の溝を設けたことを特徴とするスクロール圧縮機
によって達成される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高効率なスクロール圧縮機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】スクロール圧縮機の構造。
【図2】従来の旋回スクロールの背面図。
【図3】本発明における第1実施形態の旋回スクロール構造。
【図4】本発明における第1実施形態の旋回スクロール構造(斜視図)。
【図5】旋回スクロールの重心軌道。
【図6】重心ずれによる遠心力への影響。
【図7】旋回スクロール鏡板ラップ側の弦−外周間切削例。
【図8】旋回スクロール鏡板ラップ側の円弧状切削例。
【図9】固定スクロールの旋回スクロール鏡板接触面。
【図10】固定スクロールと旋回スクロールの鉛直断面図。
【図11】圧縮機効率の歯先隙間依存性。
【図12】旋回スクロールの鏡板背面側の応力分布。
【図13】バランス穴形状による旋回スクロールの変形量の比較。
【図14】旋回スクロールのサンドイッチ構造。
【図15】本発明における第2実施形態(旋回スクロール)。
【図16】本発明における第3実施形態(旋回スクロール)。
【図17】本発明における第4実施形態(旋回スクロール)。
【図18】従来におけるフレームの構造。
【図19】本発明における第5実施形態(フレーム)。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を用いて本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0017】
本発明の第1の実施形態を図1から図13までを用いて以下詳細に説明する。
【0018】
本発明のスクロール圧縮機の基本構成について図1を用いて説明する。スクロール圧縮機1は、渦巻状のラップ6aと5cを立設した旋回スクロール6及び固定スクロール5からなる圧縮機構部3と、この圧縮機構部3を駆動する電動機4と、この圧縮機構部3と電動機4を収納する密閉容器2を備えている。密閉容器2内の上部には圧縮機構部3が、下部には電動機4が配置されている。そして、密閉容器2の底部には潤滑油13が貯留されている。
【0019】
密閉容器2は、円筒状のケース2aに蓋チャンバ2bと底チャンバ2cが上下に溶接されて構成されている。蓋チャンバ2bには吸込パイプ2dが設けられ、ケース2a側面には吐出パイプ2eが設けられている。密閉容器2の内部は吐出圧室2fとなる。
【0020】
圧縮機構部3は、鏡板5d上に渦巻状のラップ5cを有する固定スクロール5と、同じく鏡板6b上に渦巻状のラップ6aを有する旋回スクロール6と、固定スクロール5にボルト8で一体化されて旋回スクロール6を支持するフレーム9とを備えて構成されている。
【0021】
フレーム9には、クランク軸7を回転自在に支持する主軸受9aを備えている。旋回スクロール6の下面側に、クランク軸7の偏心部7bが連結されている。
【0022】
旋回スクロール6の下面側とフレーム9の間には、オルダムリング12が配置されており、オルダムリング12は旋回スクロール6の下面側に形成された溝とフレーム9に形成された溝に装着されている。このオルダムリング12は、旋回スクロール6を自転することなく、クランク軸7の偏心部7bの偏心回転を受けて公転運動をさせる働きをする。
【0023】
電動機4は、固定子4aおよび回転子4bを備えている。固定子4aは密閉容器2に圧入および溶接などにより締結されている。回転子4bは固定子4a内に回転可能に配置されている。回転子4bにはクランク軸7が固定されている。
【0024】
クランク軸7は、主軸7aと偏心部7bとを備えて構成されており、フレーム9に設けた主軸受9aと下軸受17とで支持されている。偏心部7bはクランク軸7の主軸7aに対して偏心して一体に形成されており、旋回スクロール6の背面に設けた旋回軸受6cに嵌合されている。クランク軸7は電動機4によって駆動され、偏心部7bは主軸7aに対して偏心回転運動し、旋回スクロール6を旋回運動させるようになっている。また、クランク軸7は、主軸受9a,下軸受17および旋回軸受6cへ潤滑油13を導く給油通路7cが設けられている。
【0025】
冷媒ガスは、電動機4で駆動されるクランク軸7を介して旋回スクロール6が旋回運動すると、吸込パイプ2dから旋回スクロール6および固定スクロール5により形成される圧縮室11に導かれ、ここで冷媒ガスは、スクロールの中心方向に移動するに従い容積を縮小し圧縮される。圧縮された冷媒ガスは固定スクロール5の鏡板5dの略中央に設けられた吐出口5eから密閉容器2内の吐出圧室2fへ吐出され、吐出パイプ2eから外部へと流出していく。
【0026】
図2に従来の旋回スクロールを背面側(反ラップ側)から見た図を示す。ラップ6aはインボリュート曲線を基本として構成されており、ラップのみの重心の位置は鏡板中心よりも螺旋外側の巻き終わり側に位置することになる。よって、バランス穴が存在しない場合、旋回スクロール全体の重心もラップ巻き終わりの方向に位置する。
【0027】
上記従来例に対して、図3,図4には、本実施例における旋回スクロール6の形状を示す。この形状では、図2で示されている鏡板背面の2つの円形バランス穴は廃止され、代わりに背面最外周部を外周に沿って円弧状に切削したバランス穴6dとしている。切削は鏡板面を貫通させずに背面側から行い、鏡板側面の溝の下面位置までをその深さとしている。また、特徴としては鏡板反対側に形成されているラップよりも内側は削らず、その外側から最外周までの間を削っていることである。削る円弧の長さや位置の詳細については、旋回スクロールの重心バランスによって決定されることになる。以下では、本実施例の構造を用いたときの効果とその理由について説明する。
【0028】
まず、重心が鏡板中心からずれた場合の圧縮機への影響について説明する。図5は、上図が旋回スクロール6の歯先方向から見たときのクランク軸7中心を基準とする旋回スクロール重心の回転運動を示したものであり、下図は旋回スクロールの鉛直断面で見たときの重心の回転軸を示したものである。破線と実線の円はそれぞれ重心が鏡板中心からずれている場合とそうでない場合に対応している。
【0029】
実際の構造に近い値の一例として、重心ずれの距離は旋回スクロールのクランク軸中心からの偏心量の1/3であるとしている。旋回スクロールの中心は、実線で示された円軌道上を回転する一方、旋回スクロール自体は自転しないため、実線円からの重心ずれは常に同方向,等距離であり、ずれた重心は破線円のような円軌道上を運動する。
【0030】
旋回スクロールの運動を重心に位置する質点として考えると、旋回スクロールに作用する遠心力はクランク軸中心からの距離に比例することから、遠心力のクランク軸回転角依存性は図6に示すようなグラフになる。ここでは、重心ずれ無しの遠心力を1としたときの遠心力の比を縦軸としている。重心ずれがない場合、遠心力は一定となるが、重心ずれがある場合は、破線のように遠心力は周期的に変動する。
【0031】
遠心力が一定か否かは次の意味でその影響が本質的に異なる。遠心力が一定であれば、図1のバランスウェイト23を設けることにより、全体としての遠心力を相殺することができる。しかし、図6破線のように重心ずれによって遠心力が変動すると、バランスウェイト23では遠心力を相殺することができない。従ってクランク軸への負荷も周期変動してたわみ、旋回スクロールは回転中に揺動して振動,騒音の発生や、固定スクロール5と旋回スクロール6のラップ間隙間の増大による体積効率低下として圧縮機に悪影響を与える。従って、重心を中心へと補正することは、圧縮機の性能や、騒音の低減など品質向上のために重要であり、従来では図2で示すような円形のバランス穴6dを設けて、重心合わせを行っていた。
【0032】
図2で示したバランス穴6d以外にも、例えば鏡板6bのラップ側を削って重心合わせを行う方法が考えられる。図7,図8はそれぞれ旋回スクロール鏡板ラップ側の弦と外周で囲った部分を切削した場合と、円弧状に切除した場合の重心合わせに必要な切削形状を示している。ここで、図のらせん状の一点鎖線は固定スクロール内線で形成される包絡線の一部を示しており、圧縮室はこの鎖線の最外周よりも内側に形成される。よって、この一点鎖線内まで切削することはできず、図7,図8のような形状をとることはできない。特に、本実施例で示すように固定スクロールと旋回スクロールのラップ巻き終わり位置が同じになる非対称ラップにおいては、巻き終わりとなる吸込部で圧縮室形成領域は外側へ広がっており、また重心も巻き終わり側に位置することから、十分な削り代を確保することは、より困難となる。
【0033】
図9は固定スクロール5であって斜線部は旋回スクロール6との接触面を示している。図7,図8の旋回スクロール6の一点鎖線最外周より外側の鏡板6bは固定スクロールの斜線部と接触することで圧縮室と背圧室(吸込室)とをシールする役割を果たしており、例え一点鎖線の外側であっても鏡板を削ることで冷媒漏れが増大してしまう。一方、旋回スクロールの鏡板は、軽量化,低コスト化,低摩擦化などの観点からシール性を確保できる範囲でより小さくすることが望ましく、削り代確保のために鏡板全体の径を大きくすることは様々な難点を伴うといえる。以上のことから、旋回スクロール鏡板6bの背面側を削る構造とする。
【0034】
次に、旋回スクロール6の変形とラップ隙間への影響、及び隙間からの冷媒漏れの圧縮機効率への影響について説明する。図10は、固定スクロール5と旋回スクロール6のラップの噛合いを、鉛直断面によって示した図である。冷媒の圧縮は、2つのスクロールラップが噛合って形成される圧縮室で行われる。そのとき、ラップ歯先歯底間や側面間には油膜で覆われたミクロンオーダーの隙間が形成され、冷媒を封入している。ここで、旋回スクロール鏡板が変形したとすると、歯先隙間は狭まるところと広がるところが生じる。歯先隙間の距離は適正値が存在し、大きすぎれば冷媒漏れが増大して体積効率が低下し、小さすぎれば摩擦力が増大してエネルギーロスが増大する。さらに、変形が回転角によって変動する場合、隙間幅も変動して平均的には冷媒漏れが多くなり、体積効率の低下につながる。
【0035】
図11は、歯先隙間を変えたときの圧縮機の効率をシミュレーションしたもので、ケース1に対してケース2では歯先隙間が一様に狭まった条件としている。この結果からも、隙間の減少は体積効率を向上させ、圧縮機の効率を向上させるといえる。
【0036】
次に、旋回スクロールの重心を中心に一致させながら、変形量をより小さくするための構造について説明する。図2のようにバランス穴6dを設けた旋回スクロールが変形しやすいのは、バランス穴部6dにおいて鏡板6bの肉厚が薄くなり、そこで大きく変形するためであるといえる。よって、変形量を低減するためには、切削量が少ないことが望ましい。切削の目的は重心バランスを取ることであるから、中心から遠い場所を削ることで、より少ない切削量で重心を中心に合わせることが可能となる。実際、前述の従来例と以下に示す本実施例の形状で切削量を比較すると、本実施例では体積比で約66%と少なくなっている。
【0037】
一方、図12には、バランス穴6dを全く備えない旋回スクロールの変形時において、図12の破線Aで示された旋回スクロール6背面側表面に沿った線上での応力分布の計算結果を示している。応力は、鏡板6b中心側から外周側に向かうにつれて減少し、外側ほど応力のかかり方が弱くなっている。ここでの場合、外周部での応力は中心側の半分以下となっており、たとえ同じ形状で切削すると考えても、削る位置は外周側とする方が変形量を抑えることができるといえる。さらに、前述したとおり旋回スクロールのラップ側鏡板面は圧縮室内の冷媒をシールする役割を果たしているため、切削は鏡板の背面側に行うことが望ましい。
【0038】
以上を整理すると、切削を行う領域は鏡板背面側で、かつ外周側に近い部分を貫通させない構造が、重心,変形,冷媒シール性を改善する構造としてより相応しいといえる。その構造が、本実施例として図3,図4に示したものである。
【0039】
図13には、数値変形解析を用いたバランス穴6dの有無や形状差による旋回スクロール6の歯先方向変形量の比較グラフを示している。ここでは、図2で示された従来の円形バランス穴が2つ設けられた構造を従来例としてその変形量を100%とし、そのバランス穴を廃止した重心合わせを行わない構造における変形量を0%として、重心合わせのための切削加工による変形量の増分を評価した。その評価法によれば、図3,図4で示された本実施例における構造では従来に比べて変形量が約8割減少し、従来比で23%まで変形が低減されるという結果が得られた。このように重心合わせのための切削部における変形量が低減された結果、一つの回転角における変形量が低減されただけでなく、回転角が変化するときの変形量の変動も抑制され、重心合わせによる回転中の遠心力の均一化とともに、回転中の旋回スクロールの変形においても均一化され、より重心バランスの良い旋回スクロールが実現される。その結果、圧縮室と背圧室及び吸込室との冷媒シール性が改善して体積効率が向上し、高効率なスクロール圧縮機が実現できる。
【実施例2】
【0040】
本発明の第2の実施形態について図14,図15を用いて説明する。
【0041】
スクロール圧縮機1の起動前では、旋回スクロール6は固定スクロール5からわずかに離れており、鏡板6bがフレーム9に乗っている状態にある。圧縮機が起動して背圧室の圧力が上昇すると、旋回スクロール6は背圧によって浮上して固定スクロール5と接するようになる。図には圧縮機構部3の一部断面図を示している。旋回スクロール6の上下方向の動きは、図14のBで示すように、固定スクロール5とフレーム9に挟み込まれることで抑制される。
【0042】
実施形態1では、変形量低減を目的として旋回鏡板背面側外周部を円弧状に切削する形状を示した。切削部では旋回鏡板を挟み込むことができないため、旋回スクロール6は残りの外周部で挟み込まれることになる。図14のB部で示すように固定スクロール5とフレーム9で挟み込むときの隙間は非常に小さいため、たとえば旋回スクロール6が固定スクロール5から完全に外れて大きく傾くようなことは起こらない。しかし、旋回スクロール6を挟み込む部分が偏っていると、微小なガタつきなどが発生する可能性も考えられる。第2の実施形態は、その点を改善するための形状である。
【0043】
図15には、本実施形態における旋回スクロール背面側の形状を示している。ここでは、第1の実施形態で設けられていた円弧状の溝6dを2分割した形状を示している。これにより、切削部の一つの弧の長さが短くなり、中間の非切削部において旋回鏡板が挟み込まれ、旋回鏡板の切削部での上下方向の移動をより抑制することができる。同様にして、3分割以上する構造も考えることができる。
【0044】
以上により、運転時の旋回スクロールの傾きをより低減することが可能となって体積効率が向上し、より高効率なスクロール圧縮機が実現できる。
【実施例3】
【0045】
以下、第3の実施形態について図16を用いて説明する。
【0046】
図2に示した通り、従来ではバランス穴6dは円形として形成される構造が用いられていた。その大きさはラップ最外周よりも内側にまで広がるような、浅く広い構造であった。しかし、旋回スクロール6の小変形化を考慮すると、切削量を小さくでき、またより応力の小さい鏡板外周側(図10)にバランス穴を設ける構造がより望ましい。一方、バランス穴を円形とすることは、従来のバランス穴の加工設備の大規模な変更が不要となり、円形以外の形状とするよりも容易に製造を行うことが可能となる。
【0047】
以上の2点より、第3の実施形態における旋回スクロールの構造を図16に示す。バランス穴は円形とし、ラップ最外周よりも外側かつ可能な限り外側に位置するよう、径を小さくし、数をここでは5つに増やしている。これにより、円形バランス穴という従来の方式を取りながら、重心バランスを補正するための切削量は減少し、またより応力の小さい位置での切削となるため、旋回スクロールの変形量は低減し、体積効率が向上することで、より高効率なスクロール圧縮機が実現できる。
【実施例4】
【0048】
以下、第4の実施形態について図17〜図19を用いて説明する。
【0049】
上述したとおり、旋回スクロール6の変形を低減するには、旋回スクロールの切削量を減らすことが重要となる。一方、旋回スクロールには、回転時に油を圧縮することを防ぐため、背面側外周部の放射状の溝6eや、鏡板の側面の溝が設けられている。これらは、油が圧縮されないよう逃げ道を作る目的で設けられているので、同様の経路が形成できれば、旋回スクロールに溝を設ける必然性はない。よって、これらの溝を廃止する代わりに、フレーム側に同様の溝を設けた構造が考えられる。これを第4の実施形態とし、図17に旋回スクロール6を、図18,図19に従来例および本実施形態におけるフレーム9をそれぞれ示す。図18で示す従来の構造に比べて、図19で示す本実施形態におけるフレームには、放射溝9bと円周溝9cが追加されている。これらの溝は鏡板中心に関して点対象に設けられているため、これらを廃止することによる重心バランスの変化は起こらない。従って、第1から第3の形態の形状に対して、上述の溝6e,6fを廃止する代わりにその溝付近のフレーム側に同様の溝を設ければ、旋回スクロール6の切削量を減らすことでより変形を小さくでき、旋回スクロール6と固定スクロール5の隙間短縮による体積効率の向上が可能となる。従って、より高効率なスクロール圧縮機が実現できる。
【0050】
以上の各実施例のとおり、旋回スクロールに対して、重心を中心に合わせながらも小変形となる形状の切削部を鏡板の外周かつ反ラップ側に設けることで、圧縮室における冷媒漏れのシール性向上によって体積効率を向上させることができる。従って、高効率なスクロール圧縮機を実現することができる。
【符号の説明】
【0051】
1 スクロール圧縮機
2 密閉容器
2a ケース
2b 蓋チャンバ
2c 底チャンバ
2d 吸込パイプ
2e 吐出パイプ
2f 吐出圧室
2g 端面
3 圧縮機構部
4 電動機
4a 固定子
4b 回転子
5 固定スクロール
5c,6a ラップ
5d,6b 鏡板
5e 吐出口
6 旋回スクロール
6c 旋回軸受
6d バランス穴
6e,9b 放射溝
6f 外周溝
7 クランク軸
7a 主軸
7b 偏心部
7c 給油通路
8 ボルト
9 フレーム
9a 主軸受
9c 円周溝
11 圧縮室
12 オルダムリング
13 潤滑油
17 下軸受
19 スプリング
22 弁体
23 バランスウェイト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
台板に立設する渦巻き状のラップを有する旋回スクロールと、
この旋回スクロールのラップと互いに噛合いラップの内側と外側に圧縮室および吸込室を形成する固定スクロールを有するスクロール圧縮機において、
前記台板の重心から前記旋回スクロールのラップの重心方向にあって、前記台板の反ラップ側に円弧状の溝を設けたことを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項2】
請求項1において、前記溝が前記旋回スクロールのラップより外側に形成されたことを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項3】
台板に立設する渦巻き状のラップを有する旋回スクロールと、
この旋回スクロールのラップと互いに噛合いラップの内側と外側に圧縮室および吸込室を形成する固定スクロールと、
前記固定スクロールに固定されるフレームと、
前記フレームに設けられた段差部と、
前記段差部と前記固定スクロールとで前記旋回スクロールを挟み込むスクロール圧縮機において、
前記台板の重心から前記旋回スクロールのラップの重心方向にあって、前記台板の反ラップ側に溝を設け、前記溝内に前記段差部と相対向する平面部を設けたことを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項4】
請求項3において、前記平面部を複数設けたことを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項5】
台板に立設する渦巻き状のラップを有する旋回スクロールと、
この旋回スクロールのラップと互いに噛合いラップの内側と外側に圧縮室および吸込室を形成する固定スクロールを有するスクロール圧縮機において、
前記台板の重心から前記旋回スクロールのラップの重心方向にあって、前記台板の反ラップ側に円形の溝を設けたことを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項6】
請求項5において、前記円形の溝を複数設けたことを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項7】
請求項5乃至6において、前記円形の溝が前記旋回スクロールのラップより外側に形成されたことを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項8】
台板に立設する渦巻き状のラップを有する旋回スクロールと、
この旋回スクロールのラップと互いに噛合いラップの内側と外側に圧縮室および吸込室を形成する固定スクロールと、
前記固定スクロールに固定されるフレームと、
前記フレームに設けられた段差部と、
前記段差部と前記固定スクロールとで前記旋回スクロールを挟み込むスクロール圧縮機において、
前記台板の重心から前記旋回スクロールのラップの重心方向にあって、前記台板の反ラップ側に溝を設け、前記段差部に油排出通路を設けたことを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項9】
請求項8において、前記油排出用通路を複数設けたことを特徴とするスクロール圧縮機。
【請求項10】
請求項1乃至9において、前記旋回スクロールおよび固定スクロールのラップの巻角が互いに約180度ずれた非対称ラップであることを特徴とするスクロール圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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