説明

スクロール型圧縮機

【課題】軽量化するのに好適なスクロール型圧縮機を提供する。
【解決手段】ケーシング3内部に固定された固定スクロール23と、固定スクロール23に噛合する可動スクロール25と、可動スクロール25を支承する支持固定部材21と、駆動軸15とを備え、ケーシング3内部の高圧部15Gからの油を固定スクロール23及び可動スクロール25の間に吐出させる連通路52を、可動スクロール25に有し、駆動軸15の外周面の、支持固定部材21の下方に取付けた上部バランサ16と、駆動軸15の外周面の、モータ13の下方に取付けた下部バランサ18とを有し、可動スクロール25と固定スクロール23との間に形成された空間を圧縮させるスクロール型圧縮機において、可動スクロール25にスクロール軸25Cを偏心状態に設け、駆動軸15にスクロール軸25Cを回転自在に支持する偏心軸受部15Aを設け、この偏心軸受部15Aを支持固定部材21で保持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクロール型圧縮機に係り、特に軽量化を図るのに好適なスクロール型圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、冷凍サイクルで冷媒を圧縮する圧縮機の一例として、例えばスクロール型圧縮機が知られている(例えば、特許文献1参照)。
図8に示すように、このスクロール型圧縮機100は、上下方向に沿って延びる円筒状に形成された圧縮容器110を備え、この圧縮容器110内の上側には冷媒を圧縮する圧縮要素114が配置され、下側にはこの圧縮要素114を駆動する電動要素115が配置されている。
【0003】
圧縮機構114には、固定スクロール119と揺動スクロール120とを備え、これら固定スクロール119および揺動スクロール120の各ラップ132,139を相互に噛み合わせて内部に複数の圧縮空間121を形成している。
【0004】
固定スクロール119は、ケーシングに固定された支持固定部材に取付けられる。一方、固定スクロール119に下側から噛合する可動スクロール120は、下面に設けた軸受部122に駆動軸123の偏心軸部123Aが嵌入されることで、駆動軸123と一体に連結されている。そして、モータ127の駆動力で回転駆動される可動スクロール120が、固定スクロール119に対して自転することなく公転のみを行うことで、両ラップ132,139間に形成される圧縮空間121の容積を減少させてその内部で冷媒を圧縮する。
【0005】
本構成のスクロール型圧縮機100では、冷媒吸込管117は圧縮要素114の吸込ポート111に直接接続されており、圧縮容器110内は、この圧縮要素114で圧縮された高圧冷媒が充填される高圧側空間113となっている。また、圧縮容器110の底部は、圧縮要素114等を潤滑する潤滑油が貯留される油溜まり116となり、この圧縮容器110の側面には、上記圧縮要素114に冷媒を導入する冷媒吸込管117と、圧縮要素114にて圧縮された冷媒を機外に吐出する冷媒吐出管118と、が設けられている。
【0006】
さらに、このスクロール型圧縮機には、圧縮要素114および回転軸123の軸受128,141,149等に潤滑油を供給するため、回転軸123の内部には潤滑油が通過する油路144が形成されている。この油路144は、回転軸123の下端に形成された潤滑油の吸込口145と、この吸込口145の上部に形成されたパドル146とを備え、回転軸123の軸方向に沿って形成されている。また、この油路144は各軸受に相当する位置に潤滑油を給油する給油口147を備える。
【0007】
回転軸123が回転すると、油溜まり116に溜まった潤滑油は、回転軸123の吸込口145から油路144に入り、この油路144のパドル146に沿って上方に汲み上げられる。そして、この汲み上げられた潤滑油は、各給油口147を通じて各軸受128、141、149を潤滑する。また、ボス収容部142まで汲み上げられた潤滑油は、メインフレームに形成された返送管(不図示)を通じて当該メインフレームの外周部に導かれ、この外周部に形成された排出口(不図示)から排出されることにより、再び油溜まり116に戻される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−50986号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、このような構成のスクロール型圧縮機にあっては、各種用途への適用に対応させるべく、所定の機能は確保したまま小型・軽量化を図りたいといった要求が強い。
【0010】
そこで、本発明は、上記した事情に鑑み、軽量化を図ることが可能なスクロール型圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、
(1)本発明のスクロール型圧縮機は、
ケーシング内部に固定された固定スクロールと、この固定スクロールに噛合する可動スクロールと、前記ケーシング内部に固定され前記可動スクロールを公転自在に支承する支持固定部材と、モータの駆動力で回転することによって前記可動スクロールを公転動作させる駆動軸とを備え、
前記ケーシング内部の高圧部からの油を固定スクロール及び可動スクロールの各鏡板の表面である鏡面間に吐出させる連通路を、前記可動スクロールに有し、
前記駆動軸の外周面の、前記モータの下方に取付けた下部バランサを有する
スクロール型圧縮機において、
前記可動スクロールにスクロール軸を設け、
前記駆動軸に前記スクロール軸を公転自在に支持する偏心軸受けを設け、
前記偏心軸受けを、支持固定部材で回転自在に保持する、ことを特徴とする。
(2)上記(1)のスクロール型圧縮機において、
前記駆動軸は、前記上部バランサの補助を行うサブバランサを構成し、
前記上部バランサは、前記サブバランサのバランスウエイトに相当する分だけ、駆動軸の重心から前記下部バランサまでの長さを、前記サブバランサを設けていない構成のものに比べて短尺化させた形状を有する、ことを特徴とする。
(3)また、本発明のスクロール型圧縮機は、
前記軸受けは頂部に凹部を有する形状の油室を有し、
前記ケーシング内部の底部の油を、前記駆動軸内部に設けた給油路を介して前記凹部に設けた油室へ一時的に貯油させるように構成した、ことを特徴とする。
(4)上記(3)のスクロール型圧縮機において、
前記駆動軸には、この駆動軸の頂部に凹状に設けた前記油室の底面から駆動軸内部の軸方向に沿って下方中間部まで還流孔を設けるとともに、
前記駆動軸に取付けたモータの回転動作に伴い、前記ケーシング内部の底部へ還流させるための螺旋状の還流溝を、前記還流孔と連通させるようにして、前記モータのロータを設置する領域内に周設させた、ことを特徴とする。
(5)上記(1)〜(4)のスクロール型圧縮機のいずれかにおいて、
前記可動スクロール内部に設けた前記連通路の一端部と連通するように、スクロール軸の内部に縦設した下部連通孔を、前記駆動軸内部に設けた前記給油路の直上に、スクロール軸の中心に位置するように貫通して設けた、ことを特徴とする。
(6)上記(1)〜(5)のスクロール型圧縮機のいずれかにおいて、
インバータでの運転制御を行う、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
上記(1)のスクロール型圧縮機によれば、駆動軸は、支持固定部材に公転自在に支持する偏心軸受けが上部バランサを補助するサブバランサを構成しているので、従来の専用の大きな上部バランサを使用する場合に比べて、サブバランサの質量分だけ、上部バランサの軽量化を図ることができる、という利点がある。
【0013】
上記(2)のスクロール型圧縮機によれば、サブバランサが形成するモーメントの分だけ下部バランサ側のモーメントを削減可能となるので、例えば下部バランサの質量を同一のもので構成してあれば、駆動軸の重心から下部バランサまでの長さを短尺化できる、といった効果も得られる。
【0014】
上記(3)のスクロール型圧縮機によれば、凹部の空間部分を利用して油室が形成されてあるので、従来に比べて形状的に漏れる虞がなく、信頼度の向上を図ることができる、という利点がある。
【0015】
上記(4)のスクロール型圧縮機によれば、螺旋状の還流溝を流れる油に作用する遠心力を利用することにより、油室の油を効果的に吸引・吸収させることができ、高速回転での運転などの際に過剰な油が供給されるのを回避できるようになる、といった効果も得られる。
【0016】
上記(5)のスクロール型圧縮機によれば、連通路側の油室に臨む開口位置が公転する可動スクロール軸の中心に位置するので、自転する駆動軸の回転角によらず安定して圧縮室に給油できるようになる。またケーシングの内底部に貯留されている油を、差圧で連通路へ効率的に汲み上げることができるようになる。
【0017】
上記(6)のスクロール型圧縮機によれば、冷媒回路での負荷の変動に対して、円滑な対応動作が行えるので、エネルギーの無駄な消費等も抑えることが可能となり、節電効果なども得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係るスクロール型圧縮機を示す縦断面図である。
【図2】図1のスクロール型圧縮機におけるII-II線矢視断面図である。
【図3】図1のIII−III線矢視断面図である。
【図4】図1のIV-IV線矢視断面図である。
【図5】本発明の一実施形態に係るスクロール型圧縮機の固定スクロールのオイル溝と可動スクロールの連通路との連通状態を示す説明図である。
【図6】本発明の一実施形態に係るスクロール型圧縮機の駆動軸での過剰な潤滑油の回収経路を示す説明図である。
【図7】(A)は図1に示すスクロール型圧縮機での公転動作を行う際のバランス状態を示す説明図、(B)はサブバランサを設けていない従来のコンプレッサでのバランス状態を示す説明図である。
【図8】従来のスクロール型圧縮機を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る内部高圧となるスクロール型圧縮機1を示すものであり、この圧縮機1は、冷媒が循環して冷凍サイクル運転動作を行う図示外の冷媒回路に接続されており、インバータ制御によって冷媒を圧縮するようになっている。
【0020】
この圧縮機1は、縦長円筒状の密閉ドーム型のケーシング3を有する。このケーシング3は、上下方向に延びる軸線を有する円筒状の胴部であるケーシング本体5と、その上端部に気密状に溶接されて一体接合され、上方に突出した凸面を有する椀状の上キャップ7と、ケーシング本体5の下端部に気密状に溶接されて一体接合され、下方に突出した凸面を有する椀状の下キャップ9と、で圧力容器が構成されており、その内部は空洞とされている。
【0021】
ケーシング3の内部には、冷媒を圧縮するスクロール圧縮機構11と、このスクロール圧縮機構11の下方に配置される駆動モータ13と、が収容されている。スクロール圧縮機構11と駆動モータ13とは、ケーシング3内を上下方向に延びるように配置される駆動軸15によって連結されている。また、スクロール圧縮機構11と駆動モータ13との間には間隙空間である高圧空間17が形成されている。
【0022】
スクロール圧縮機構11は、上側に開放された略有底円筒状の収納部材である支持固定部材21と、該支持固定部材21の上面に密着して配置される固定スクロール23と、これら固定スクロール23及び支持固定部材21間に配置され、固定スクロール23に噛合する可動スクロール25と、を備えている。
【0023】
支持固定部材21は、その外周面においてケーシング本体5に固定される。また、ケーシング3内が支持固定部材21の下方の高圧空間17と、支持固定部材21の上方の吐出空間29と、に区画されており、各空間17,29は、支持固定部材21及び固定スクロール23の外周に縦に延びて形成された縦溝71を介して連通されている。
【0024】
駆動モータ13は、ケーシング3の内壁面に固定された環状のステータ13Aと、このステータ13Aの内側に回転自在に構成されたロータ13Bとを備えている。該モータ13はインバータ制御方式の直流モータで構成されており、ロータ13Bには、駆動軸15を介してスクロール圧縮機構11の可動スクロール25が駆動連結されている。
【0025】
駆動モータ13の下方の下部空間91は高圧に保たれており、その下端部に相当する下キャップ9の内底部には潤滑油が貯留されている。
【0026】
駆動軸15の内部中心部には、図6に示すように、高圧油供給手段の一部としての第1給油路15Bが軸芯方向に沿って形成されているとともに、この上部には、第1給油路15Bに連通する状態で、駆動軸15の内部の中心部から若干外周方向にシフトした部位に第2給油路15Cが軸芯方向に沿って直上に向けて真直ぐな形状で形成されている。
【0027】
この駆動軸15内部の第2給油路15Cは、可動スクロール25の背面の油室15Gに連通している。特に、この第2給油路15Cは、油室15Gの底面において、スクロール軸25Cの内部に縦設した下部連通孔51の直下に開口位置どうしが位置的に重複するように、開口位置を調整して貫通して設けられている。また、可動スクロールの下部連通孔51はスクロール軸の中心に設けられている。これは駆動軸の自転により、偏心した油室15内部の油が遠心力の影響で偏心側に押付けられている状態でも、偏心軸中心に連通孔51を設けることで安定して圧縮室に給油できるようにするためである。
【0028】
駆動軸15の下端にはピックアップ15Hが連結され、このピックアップ15Hが、下キャップ9の内底部である下部空間91に貯留した油を掻き上げる。この掻き上げた油は、駆動軸15の第2給油路15Cを通り、可動スクロール25側の背面に位置する、偏心軸受部15Aの頂部に形成した油室15Gに供給される。そして、この油室15Gから可動スクロール25に設けられた、後述する下部連通孔51及び連通路52を通り(図5参照)、固定スクロール23側のオイル溝23Dへ送り込まれ、このオイル溝23Dからスクロール圧縮機構11の各摺動部分及び圧縮室27へ供給される(図3参照)。
【0029】
また、この駆動軸15には、特に駆動軸15の高速回転時のような差圧が大きくなることによって油室15Gに供給されてきた油量が過剰となったときに、強制的に下キャップ9の内底部である下部空間91まで回収させるために、図6に示す還流孔15D及び還流溝15Eが形成されている。
【0030】
還流孔15Dは、駆動軸15の頂部に凹状に設けた油室15Gの底面から駆動軸15内部の軸線方向に沿って下方中間部まで真直ぐストレートな状態で設けられている。特に、この還流孔15Dは、図4に示すように、油室15Gの底面の第2給油路15Cの開口部位から離れた部位に開口されている。例えば本実施形態では、駆動軸15の中心線より還流孔15Dの中心が反偏心側に位置するように開口されている。これは油室15G内部が油で満たされたとき、可動スクロールの下部連通孔51にも吸入されなかった過剰な油を効率よく還流させるためである。
【0031】
また、この駆動軸15には、これにロータ13B(図1参照)が取付けられたモータ13の回転動作に伴い、ケーシング3内部の底部である下キャップ9へ還流させるためのらせん状の還流溝15Eを、水平連通孔15Fを介して還流孔15Dと連通させるようにして、モータ13のロータ13Bを設置する領域内に周設させてある。この還流溝15Eは、ロータ13Bを設置する領域内に合わせて駆動軸15に周設させることで、ロータ13Bの巻き線に発生するジュール熱の冷却作用を促す効果も付与している。
【0032】
なお、本発明の駆動軸15は、支持固定部材21のラジアル軸受部21Bに嵌入する偏心軸受部15AがサブバランサW(図7(A)参照)を構成しているとともに、偏心軸受部15Aより下側の駆動軸15に上部バランサWを構成する上部カウンタウェイト部16が設けられている。また、駆動軸15には、駆動モータ13の直ぐ下側に下部バランサWが設けられている。このように、偏心軸受部15Aで、上部バランサの一部となるサブバランサWを兼用させることにより、従来の専用の大きな上部バランサ (W´;図7(B)参照)を使用する場合に比べてサブバランサWの質量分だけ、上部カウンタウェイト部16の軽量化が図られている。
【0033】
なお、これらのサブバランサW、上部バランサW、及び下部バランサWは、ウェイトWを構成する可動スクロール25と動的バランスを取るためのものである。
【0034】
サブバランサW及び上部バランサWにより重さのバランスを取りながら駆動軸15が回転することで、ウェイトWである可動スクロール25を自転することなく公転させるようになっている。そして、この可動スクロール25の公転に伴い、圧縮室27である両ラップ23B,25B間の容積が、中心に向かって収縮することで、吸入管31より吸入された冷媒を圧縮する。
【0035】
支持固定部材21には、可動スクロール25を回動可能に支承する支持体部21Aと、この支持体部21Aの下面中央から下方に延び、駆動軸15の偏心軸受部15Aを回動可能に支持するラジアル軸受部21Bと、が形成されている。支持固定部材21のラジアル軸受部21Bには、支持体部21Aを貫通する、後述のラジアル軸受孔21Cが設けられており、このラジアル軸受孔21Cに、駆動軸15の上端部である偏心軸受部15Aが回転可能に嵌入支持される。
【0036】
ケーシング3の上キャップ7には冷媒回路の冷媒をスクロール圧縮機構11に導く吸入管31が、またケーシング本体5にはケーシング3内の冷媒をケーシング3外に吐出させる吐出管33が、それぞれ気密状に貫通固定されている。吸入管31は、吐出空間29を上下方向に延び、その内端部はスクロール圧縮機構11の固定スクロール23を貫通して圧縮室27に連通し、この吸入管31により圧縮室27内に冷媒が吸入される。
【0037】
固定スクロール23は、図2に示すように、鏡板23Aと、この鏡板23Aの下面に形成された渦巻き状(インボリュート状)のラップ23Bと、で構成されている。また、可動スクロール25の上面である鏡面250に対面する、固定スクロール23の鏡面230でもある、特に冷媒入口側のラップ23Bの下面には、この下面に沿って刻設した細幅形状のオイル溝23D(図2参照)と、を有している。
【0038】
一方、可動スクロール25は、図3に示すように、鏡板25Aと、この鏡板25Aの上面に形成された渦巻き状(インボリュート状)のラップ25Bとで構成されている。そして、固定スクロール23のラップ23Bと、可動スクロール25のラップ25Bとは互いに噛合しており、これにより固定スクロール23と可動スクロール25との間において、両ラップ23B,25Bで複数の圧縮室27が形成される(図1参照)。
【0039】
可動スクロール25には、図5に示すように、後述する連通路52に流量制限部材(ピン部材)55を挿入している。このピン部材55は、連通路52の奥側の下孔52A内に嵌る第1ピン55Aと、この第1ピン55Aに当接して、連通路51の手前側の挿入孔52B内に嵌る第2ピン55Bとにより構成される。第2ピン55B及び第1ピン55Aを奥端側に一体に押し付けるように、めねじ孔52Cに図示外の六角穴付きのねじ部材が螺合され、ねじ部材が挿入孔52Bの一端(図5では左端)を閉塞している。
【0040】
可動スクロール25は、オルダムリング61(図1参照)を介して固定スクロール23に支持され、鏡板25Aの下面の中心部には有底円筒状のスクロール軸25Cが突設されている。
【0041】
また、可動スクロール25には、図5に示すように、鏡板25Aに、一端が外部に開口し、内部に直線状に延びた連通路52が形成されている。連通路52は、一端が外部に開口する連通路の下孔52Aを形成している。下孔52Aには、所定深さ位置まで、一端からリーマ加工を施して、所定深さの挿入孔52Bを形成している。また、挿入孔52Bの入り口には、めねじ孔52Cが螺設されている。連通路52の他端(高圧開口)に連通する、スクロール軸25Cに貫通して設けた下部連通孔51は、上述した可動スクロール25の背面の油室(密閉容器内の高圧部)15G(図1参照)に連通している。また、連通路52の入り口側の内周面には、真円形状を呈する連通孔53が連設されている。
【0042】
この連通孔53は、圧縮室の低圧部27Aに臨む入口近傍の可動スクロール25の鏡板25A部分に、固定スクロール23の厚さ方向に貫通して鏡面に達するように開口されている。また、この連通孔53は、図5に示すように、固定スクロール23のオイル溝23Dを介して、両スクロール23,25の両ラップ23B,25B間に形成された外側の圧縮室27(低圧部27A)に連通している。
【0043】
固定スクロール23の中央部には吐出孔23C(図2参照)が設けられており、この吐出孔23Cから吐出されたガス冷媒は、図1に示すように、吐出弁22を通って吐出空間29に吐出されるようになっている。そして、この吐出するガス冷媒は、支持固定部材21及び固定スクロール23の各外周に設けた縦溝71を介し、支持固定部材21下方の高圧空間17内の、オイルコレクタ24の外側の空間へ流出するようになっている。この高圧冷媒は、最終的には、ケーシング本体5に設けた吐出管33を介してケーシング3外に吐出されるわけである。
【0044】
このスクロール型圧縮機1の運転動作について説明する。
駆動モータ13を駆動すると、ステータ13Aに対してロータ13Bが回転し、それによって駆動軸15が回転する。駆動軸15が回転すると、スクロール圧縮機構11の可動スクロール25が固定スクロール23に対して姿勢を一定に保持したまま、自転せずに公転のみ行う。これにより、低圧の冷媒が、吸入管31を通して圧縮室27の周縁側から高圧な中心側の圧縮室27に吸引されてゆき、圧縮室27の容積変化に伴って圧縮される。
【0045】
圧縮された冷媒は、高圧となって圧縮室27から吐出弁22を通って吐出空間29に吐出され、支持固定部材21及び固定スクロール23の各外周に設けた縦溝71を介して、ケーシング本体5に設けた吐出管33からケーシング3外部の冷媒回路に吐出される。ケーシング3外部の冷媒回路に吐出された冷媒は、図示を省略した冷媒回路を循環した後、再度吸入管31を通して圧縮機1に吸入されて圧縮され、冷媒の循環が繰り返される。
【0046】
次に、潤滑油の流れを説明する。
ケーシング3における下キャップ9の内底部に貯留された潤滑油は、図1に示す駆動軸15の下端に設けたピックアップ15Hにより掻き上げられ、駆動軸15の第1給油路15B及び第2給油路15Cを通じ、可動スクロール25背面の高圧状態の油室15Gに供給される。また、この潤滑油は、図6に示す油室15Gから、可動スクロール25に設けられた下部連通孔51、連通路52、連通孔53を介して、これと常時連通する固定スクロール23側の低圧状態の圧縮室27を構成する両スクロールの間の鏡面230に開口されたオイル溝23D(図2参照)へと、差圧を利用して送り出され、スクロール圧縮機構11の各摺動部分及び圧縮室27へ供給される。
【0047】
また、圧縮室27へ供給された油は、高圧の圧縮室である両スクロール中央部へ移動すると、ここで圧縮された高圧状態の冷媒の流れに伴って、吐出弁22を通って吐出空間29に吐出される。このようにして、高圧状態の冷媒とともに吐出弁22を通って吐出空間29に吐出された潤滑油は、支持固定部材21及び固定スクロール23の各外周に設けた縦溝71を介して、支持固定部材21の下方の高圧空間17に送出される。そして、この油がステータ13外周に複数設けられた切欠きとステータ13外周に取付けられた円筒状のリング(不指示)の間にできた空間、あるいはリング外周に設けられた切欠きとケーシング3の間にできた空間を通って、下部空間91の下端部に相当する下キャップ9の内底部に貯留される。
【0048】
ところで、本実施形態では、このような潤滑油の主要な流れの他に、バイパス的な回収路も形成されている。即ち、インバータ制御で駆動するモータ13の回転動作に伴い、例えば冷媒回路が高負荷の状態になると、駆動軸15が高速回転する。その結果、下部空間91の下端部に相当する下キャップ9の内底部の圧力に対して、支持固定部材21の下方の、ケーシング3内部の高圧空間17が昇圧されてより高圧状態となる。
【0049】
従って、これにより発生する大きな差圧のため、下キャップ9の内底部の貯留された油は、大きな差圧で油室15Gへ吸引されるので、油室15Gには低回転状態の場合に比べて多量な油の汲み取りが起こる。その結果、油室15Gからは圧縮室27のある両スクロールヘ向けて多量の油が送り込まれるおそれがある。ところが、本発明では、前述のように、駆動軸15にはバイパス的な回収路として、油室15Gと連通する還流孔15D及び還流溝15Eが形成されており、過剰な潤滑油の回収路を構成している。
【0050】
従って、例えば駆動軸15が所定方向に回転すると、油自身に作用する重力とともに、還流孔15D中の油の遠心力によって潤滑油を下方の下キャップ9の内底部へ向けて降下させることで、油の回収を行うことができる。また、この油の降下する時の作用を利用してその上部側の油も下方へ誘導させて吸引させることができるので、さらに効果的な油回収作用が発生する。
【0051】
特に、この油回収作用については、下キャップ9の内底部に貯留する油の上方への吸引効果の増大に伴い、油室15Gへ過剰な油が吸い上げられる場合に、上述のように、駆動軸15が回転することによって、同時に油が下方へ吸引される力(油の吸引作用)も発生する。即ち、これは、駆動軸15の外周面の螺旋状の還流溝15Eでの遠心力Fなどによるもので、この場合の遠心力Fについては、一般に、次式
F=mrω
但し、m;油の質量
r;半径(駆動軸中心から還流溝までの距離)
ω;油の移動時の角速度(rad)
で示すことができるものであるが、この遠心力Fは、駆動軸15の公転に伴い発生する角速度ωの2乗に比例するので、高速回転時にはその大きさが大幅に増大するため、一層効果的な油回収作用が発生する。これにより、高速回転時に潤滑油が両スクロール間へ過剰に供給される現象を回避できる。
【0052】
従って、本実施形態によれば、図6に示す駆動軸15の第1、第2給油路15B、15Cを通じ、可動スクロール25背面の高圧状態の油室15Gに供給される潤滑油は、油室15Gから可動スクロール25に設けられた連通路52、連通孔53を介して、可動スクロール25の連通孔53と連通する固定スクロール23側の図2に示すオイル溝23Dへ、差圧を利用して送り出される。
【0053】
ここで、例えば冷媒回路が高負荷となり、駆動モータ13が高回転で運転されて、油室15Gへの潤滑油の汲み上げが過剰に生じる場合には、上述したように、駆動軸15の外周面のらせん状の還流溝15Eでの遠心力による油の吸引作用も大幅に増大するので、潤滑油が過剰に両スクロール間へ供給される現象を回避できる。その結果、過剰な潤滑油が冷媒に混在して冷媒回路内へ同時に送り込まれ、各種の不都合をもたらす不都合も回避される。これにより、モータ13が高速回転運転を行う場合であっても、潤滑油の過剰供給が起こらず、安定した良好な圧縮作用を発揮することができるようになるわけである。
【0054】
また、本発明では、前述したように、特に、駆動軸15は、支持固定部材21のラジアル軸受部21Bに嵌入する偏心軸受部15AがサブバランサWを構成している。このように、偏心軸受部15AでサブバランサWを兼用させているので、上部バランサを構成する、従来の専用の大きな上部カウンタウェイト部(W´;図7(B)参照)を使用する場合に比べて、サブバランサWの質量分だけ、上部カウンタウェイト部16の軽量化を図ることができる。
【0055】
しかも、図7(A)において、サブバランサWが形成するモーメントの分、つまりW×Lの分だけ下部バランサ(W)を構成する下部カウンタウェイト部18のモーメントを削減可能となる。従って、下部バランサの質量を同一のもので構成してあれば、駆動軸15の重心Gから下部カウンタウェイト部18までの長さLを短尺化させることができる。
【0056】
さらに、本実施形態によれば、駆動軸15の外周面にモータ13のロータ13Bの取付部位に合わせて還流溝15Eを設けており、ロータ13Bに設けた巻線からのジュール熱を、この巻線に接触状態で流す潤滑油を利用して効果的な冷却することも可能となる。
【0057】
しかも、本実施形態によれば、駆動軸15は、支持固定部材21に公転自在に支持する偏心軸受部15Aが上部バランサWを補助するサブバランサWを構成しているので、従来の専用の大きな上部バランサW´を使用する場合に比べて、サブバランサWの質量分だけ、上部バランサWの軽量化を図ることができる、という利点がある。
【0058】
また、本実施形態によれば、サブバランサWが形成するモーメントの分、つまりW×Lの分だけ下部バランサ(W)を構成する下部カウンタウェイト部18のモーメントを削減可能となる。従って、下部バランサの質量を同一のもので構成してあれば、駆動軸15の重心Gから下部カウンタウェイト部18までの長さを短尺化させることができる、といった効果も得られる。
【0059】
さらに、本実施形態によれば、スクロール型圧縮機の駆動動作をインバータ制御によって行う構成であるので、冷媒回路での負荷の変動に対して、円滑な対応動作が行えるので、エネルギーの無駄な消費等も抑えることが可能となり、節電効果なども得られる。
【0060】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の要旨を逸脱しない範囲で各種の変形実施が可能である。
【0061】
また、本実施形態のスクロール型圧縮機は、インバータ制御で動作するように構成されているが、サーモスタット式等での運転制御などであっても構わない。
【符号の説明】
【0062】
1 スクロール型圧縮機
11 スクロール圧縮機構
13 駆動モータ
13A ステータ
13B ロータ
15 駆動軸
15A 偏心軸受部 (偏心軸受け;サブバランサ)
15B 第1給油路
15C 第2給油路(給油路)
15D 還流孔
15E 還流溝
15G 油室(密閉容器内の高圧部)
16 上部カウンタウェイト部(上部バランサ)
17 高圧空間
18 下部カウンタウェイト部(下部バランサ)
21 支持固定部材
21A 支持体部
21B ラジアル軸受部
21C ラジアル軸受孔
22 吐出弁
23 固定スクロール
23A 鏡板
23B ラップ
23C 吐出孔
23D オイル溝
230、250 鏡面
231 受油穴
24 オイルコレクタ
25 可動スクロール
25A 鏡板
25C スクロール軸
27 圧縮室
27A 低圧部
29 吐出空間
3 ケーシング
31 吸入管
33 吐出管
5 ケーシング本体
51 下部連通孔
52 連通路
53 連通孔
61 オルダムリング
7 上キャップ
71 縦溝
9 下キャップ
91 下部空間
ウェイト
サブバランサ
上部バランサ
下部バランサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシング内部に固定された固定スクロールと、この固定スクロールに噛合する可動スクロールと、前記ケーシング内部に固定され前記可動スクロールを公転自在に支承する支持固定部材と、モータの駆動力で回転することによって前記可動スクロールを公転動作させる駆動軸とを備え、
前記ケーシング内部の高圧部からの油を固定スクロール及び可動スクロールの各鏡板の表面である鏡面間に吐出させる連通路を、前記可動スクロールに有し、
前記駆動軸の外周面の、前記モータの下方に取付けた下部バランサを有する
スクロール型圧縮機において、
前記可動スクロールにスクロール軸を設け、
前記駆動軸に前記スクロール軸を公転自在に支持する偏心軸受けを設け、
前記偏心軸受けを、支持固定部材で回転自在に保持する、
ことを特徴とするスクロール型圧縮機。
【請求項2】
前記駆動軸は、前記上部バランサの補助を行うサブバランサを構成し、
前記上部バランサは、前記サブバランサのバランスウエイトに相当する分だけ、駆動軸の重心から前記下部バランサまでの長さを、前記サブバランサを設けていない構成のものに比べて短尺化させた形状を有する、
ことを特徴とする請求項1に記載のスクロール型圧縮機。
【請求項3】
前記軸受けは頂部に凹部を有する形状の油室を有し、
前記ケーシング内部の底部の油を、前記駆動軸内部に設けた給油路を介して前記凹部に設けた油室へ一時的に貯油させるように構成した、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のスクロール型圧縮機。
【請求項4】
前記駆動軸には、この駆動軸の頂部に凹状に設けた前記油室の底面から駆動軸内部の軸方向に沿って下方中間部まで還流孔を設けるとともに、
前記駆動軸に取付けたモータの回転動作に伴い、前記ケーシング内部の底部へ還流させるための螺旋状の還流溝を、前記還流孔と連通させるようにして、前記モータのロータを設置する領域内に周設させた、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のスクロール型圧縮機。
【請求項5】
前記可動スクロール内部に設けた前記連通路の一端部と連通するように、スクロール軸の内部に縦設した下部連通孔を、前記駆動軸内部に設けた前記給油路の直上に、スクロール軸の中心に位置するように貫通して設けた、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のスクロール型圧縮機。
【請求項6】
インバータでの運転制御を行う、
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のスクロール型圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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